特許第6597645号(P6597645)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597645
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】液晶配向剤
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20191021BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   G02F1/1337 525
   C08G73/10
【請求項の数】10
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-574771(P2016-574771)
(86)(22)【出願日】2016年2月4日
(86)【国際出願番号】JP2016053416
(87)【国際公開番号】WO2016129506
(87)【国際公開日】20160818
【審査請求日】2019年1月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-25606(P2015-25606)
(32)【優先日】2015年2月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(72)【発明者】
【氏名】山極 大輝
(72)【発明者】
【氏名】堀 隆夫
【審査官】 廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−325332(JP,A)
【文献】 特開2002−338685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/14
C08L 79/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体と、溶剤とを含有する液晶配向剤であって、前記溶剤が、(A)γ-バレロラクトンと、(B)γ-ブチロラクトンと、(C)下記式(c)で表される化合物と、を含有することを特徴とする液晶配向剤。
【化1】
(式中、R、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、Rは、炭素数2又は3のアルカンジイル基であり、nは1又は2である。)
【請求項2】
(A)の含有量が溶剤全体の20〜75質量%である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
溶剤全体に対して、(A)の含有量が20〜75質量%、(B)の含有量が20〜75質量%、(C)の含有量が5〜60質量%である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
溶剤が、更にN−メチル−2−ピロリドンを含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
溶剤全体に対して、(A)の含有量が20〜70質量%、(B)の含有量が20〜70質量%、(C)の含有量が5〜55質量%、N−メチル−2−ピロリドンの含有量が3〜55質量%である、請求項4に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
重合体の含有量が、1〜5質量%である請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
インクジェット法により基板へ塗布されるための請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の液晶配向剤から得られる液晶配向膜。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の液晶配向剤をインクジェット法により塗布する液晶配向膜の製造方法。
【請求項10】
請求項8に記載の液晶配向膜を備えた液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液晶配向膜を得るための液晶配向剤に関し、特にインクジェット法による塗布に適した液晶配向剤、液晶配向膜、及び液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子などに用いられる液晶配向膜としては、ポリイミド系の樹脂膜が広く使用されている。このポリイミド系の液晶配向膜は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミドなどの重合体と溶剤とを主成分とする液晶配向剤を基板に塗布することで作製されている。
従来、液晶配向剤の塗布方法としてはフレキソ印刷法が主流であったが、近年では、コストメリットなどの観点からインクジェット法の採用が次第に増えてきている。しかし、インクジェット法で塗布して得られる液晶配向膜は、塗布面内の膜厚均一性と塗布端部の形状制御とがトレードオフの関係にあった。
【0003】
例えば、塗膜面内の均一性が高い液晶配向剤をインクジェット法で塗布すると、塗膜端部の形状が乱れて直線にならなかったり設定した寸法以上に濡れ広がって不要な部分にまで液晶配向膜が覆ってしまったりする。逆に塗膜端部が直線となるような液晶配向剤や濡れ広がりが少ない液晶配向剤を使用すると面内均一性が不足するなどの課題があった。
【0004】
このような課題に対して、構造物によって液晶配向剤を所定の範囲に閉じ込める方法が提案されている(特許文献1、特許文献2、および特許文献3参照)。また、液晶配向剤の組成で解決する手段としては、塗膜面内の均一性と塗膜端部の直線性を同時に改善するものとして溶媒にアルキルセロソルブアセテートを使用する方法(特許文献4参照)や、塗膜面内の均一性と塗膜の寸法安定性を同時に改善するものとして溶媒にアルキルセロソルブアセテートとジプロピレングリコールモノメチルエーテルとを併用する方法(特許文献5参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】日本特開2004−361623号公報
【特許文献2】日本特開2008−145461号公報
【特許文献3】日本特開2010−281925号公報
【特許文献4】国際公開公報WO2012/133826号パンフレット
【特許文献5】国際公開公報WO2014/024885号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した従来法のうち、構造物を用いる方法は、液晶パネルの製造工程が増加するという欠点がある。また、溶媒にアルキルセロソルブアセテートを使用する方法やアルキルセロソルブアセテートとジプロピレングリコールモノメチルエーテルを併用する方法は、それぞれ優れた効果が得られるが、課題の達成上なお十分な特性が達成されていない。
【0007】
本発明の目的は、塗膜面内の膜厚の均一性、塗膜端部の直線性、及び塗膜の寸法安定性に優れた、インクジェット法に適した新たな液晶配向剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、上記課題を達成しうる本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の要旨を有するものである。
1.ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体と、溶剤とを含有する液晶配向剤であって、前記溶剤は、(A)γ-バレロラクトンと、(B)γ-ブチロラクトンと、(C)下記式(c)で表される化合物と、を含有することを特徴とする液晶配向剤。
【化1】
(式中、R、Rはそれぞれ独立して水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はアセチル基であり、Rは、炭素数2又は3のアルカンジイル基であり、nは1又は2である。)
【0009】
2.(A)の含有量が溶剤全体の20〜75質量%である、上記1に記載の液晶配向剤。
3.溶剤全体に対して、(A)の含有量が20〜75質量%、(B)の含有量が20〜75質量%、(C)の含有量が5〜60質量%である、上記1に記載の液晶配向剤。
4.溶剤が、更にN−メチル−2−ピロリドンを含有する上記1に記載の液晶配向剤。
【0010】
5.溶剤全体に対して、(A)の含有量が20〜70質量%、(B)の含有量が20〜70質量%、(C)の含有量が5〜55質量%、N−メチル−2−ピロリドンの含有量が3〜55質量%である上記4に記載の液晶配向剤。
6.重合体の含有量が、1〜5質量%である上記1〜5のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
7.インクジェット法により基板へ塗布されるための上記1〜6のいずれか1項に記載の液晶配向剤。
8.上記1〜7のいずれか1項に記載の液晶配向剤から得られる液晶配向膜。
9.上記1〜6のいずれか1項に記載の液晶配向剤をインクジェット法により塗布する液晶配向膜の製造方法。
10.上記8に記載の液晶配向膜を備えた液晶表示素子。
【発明の効果】
【0011】
本発明の液晶配向剤によれば、特に、インクジェット法による場合も、基板上に膜面内の膜厚の均一性や、膜周辺部の直線性及び寸法安定性に優れる液晶配向膜が得られる。これにより、表示ムラ等の不具合が抑制された信頼性の高い液晶表示素子が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<重合体>
本発明の液晶配向剤は、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、及びポリイミドよりなる群から選ばれる少なくとも一種の重合体を含有する。これら重合体の構造は、液晶配向膜として使用できるものであれば特に限定されない。また、これらの重合体は、本発明の液晶配向剤中に1種類であってもよく、複数種が混合されていてもよい。
【0013】
本発明における好ましいポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、及びポリイミドとして、下記式(1)に示される繰り返し単位を有する重合体を挙げることができる。また、好ましいポリイミドとして、式(1)に示される繰り返し単位を有する重合体において、ORとAの脱離を伴う分子内縮合でイミド環を形成させた構造の重合体を挙げることができる。
【化2】
【0014】
上記式(1)において、Xは4価の有機基を表し、2個のRはそれぞれ水素原子または1価の有機基を表し、Yは2価の有機基を表し、2個のAはそれぞれ水素原子または1価の有機基を表す。また、X、Y、R、Aは、重合体中でそれぞれ複数の構造が混在していてもよい。
なお、上記式(1)の2個のRが共に水素原子である繰り返し単位からなる重合体はポリアミック酸であり、このポリアミック酸中のRの少なくとも一部が1価の有機基である重合体はポリアミック酸エステルである。また、ORの少なくとも一部とこのORに対応するAが脱離し分子内縮合してイミド環を形成している重合体はポリイミドである。
【0015】
前記式(1)におけるXの構造は特に限定されないが、具体例を示すならば以下のX−1〜X−46を挙げることができる。
【化3】
【0016】
【化4】
【0017】
【化5】
【0018】
【化6】
【0019】
上記の中でもX−1、X−2、X−3、X−4、X−5、X−6、X−8、X−16、X−19、X−21、X−25、X−26、X−27、X−28又はX−32が好ましい。これらの好ましいXは、重合体中のX全体の2〜100モル%が好ましく、より好ましくは40〜100モル%である。
【0020】
前記式(1)におけるYの構造は特に限定されないが、具体例を示すならば以下のY−1〜Y−103を挙げることができる。
【0021】
【化7】
【0022】
【化8】
【0023】
【化9】
【0024】
【化10】
【0025】
【化11】
【0026】
【化12】
【0027】
【化13】
【0028】
【化14】
【0029】
【化15】
【0030】
【化16】
【0031】
【化17】
【0032】
【化18】
【0033】
【化19】
【0034】
上記の中でも、良好な液晶配向性が得られることから、Y−7、Y−8、Y−10、Y−11、Y−12、Y−13、Y−20、Y−21、Y−22、Y−23、Y−25、Y−26、Y−27、Y−28、Y−29、Y−30、Y−41、Y−42、Y−43、Y−44、Y−45、Y−46、Y−48、Y−61、Y−63、Y−64、Y−71、Y−72、Y−73、Y−74、Y−75、又はY−98が好ましい。これら好ましいYの含有量は、重合体中のY全体の1〜100モル%が好ましく、より好ましくは50〜100モル%である。
【0035】
また、液晶配向膜の体積抵抗率を低くすることで直流電圧の蓄積による残像を低減できることから、重合体にヘテロ原子を有する構造、多環芳香族構造、又はビフェニル構造を用いることは好ましい。かかるYとしては、Y−19、Y−23、Y−25、Y−26、Y−27、Y−30、Y−31、Y−32、Y−33、Y−34、Y−35、Y−36、Y−40、Y−41、Y−42、Y−44、Y−45、Y−49、Y−50、Y−51、又はY−61がより好ましく、Y−31、又はY−40が特に好ましい。かかるYの含有量は、重合体に含まれるY全体の1〜100モル%が好ましく、より好ましくは50〜100モル%である。
【0036】
また、液晶のプレチルト角を高くできることから、重合体の側鎖は長鎖アルキル基、芳香族環、脂肪族環、ステロイド骨格、又はこれらを組み合わせた構造を有することが好ましい。かかるYとしては、Y−76、Y−77、Y−78、Y−79、Y−80、Y−81、Y−82、Y−83、Y−84、Y−85、Y−86、Y−87、Y−88、Y−89、Y−90、Y−91、Y−92、Y−93、Y−94、Y−95、Y−96、又はY−97がより好ましい。かかるYの含有量は、重合体に含まれるY全体の10〜90モル%が好ましく、より好ましくは10〜40モル%である。
【0037】
前記式(1)における2個のRは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基を表す。1価の有機基である場合に、アリール基や、炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。具体例を示すならば水素原子、メチル基、エチル基などを挙げることができる。なお、式(1)に示される繰り返し単位を有する重合体を、ポリイミド前駆体として用いる目的の場合には、分子内縮合の起こり易さの観点から、Rは水素原子又はメチル基が好ましい。
【0038】
前記式(1)における2個のAは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基を表す。1価の有機基である場合、炭素数1〜10の、アルキル基、アルケニル基若しくはアルキニル基が好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ビシクロヘキシル基などが挙げられる。アルケニル基としては、上記のアルキル基に存在する1つ以上のCH−CH構造を、CH=CH構造に置き換えたものが挙げられ、より具体的には、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、2−ブテニル基、1,3−ブタジエニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、シクロプロペニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基などが挙げられる。アルキニル基としては、前記のアルキル基に存在する1つ以上のCH−CH構造をC≡C構造に置き換えたものが挙げられ、より具体的には、エチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基などが挙げられる。
【0039】
<ポリアミック酸の製造方法>
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとの反応によって得ることができる。例えば、前記式(1)の2個のRが共に水素原子である繰り返し単位からなるポリアミック酸は、下記式(2)で表されるテトラカルボン酸二無水物と式(3)で表されるジアミンとの反応によって得ることができる。式(2)のX、および式(3)のYとAは、それぞれ前記式(1)中の定義と同じである。
【0040】
【化20】
【0041】
具体的には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶媒の存在下で−20℃〜150℃、好ましくは0℃〜50℃において、30分〜24時間、好ましくは1〜12時間反応させることによって合成できる。
上記の反応に用いる有機溶媒は、モノマー及びポリマーの溶解性からN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、又はγ−ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。反応系におけるポリマーの濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0042】
得られたポリアミック酸は、反応溶液をよく撹拌させながらポリマー難溶性溶媒(以下、貧溶媒ともいう)に注入することで、ポリマーを析出させて回収することができる。また、析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥することで精製されたポリアミック酸の粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。ポリアミック酸の重量平均分子量は、好ましくは10,000〜305,000であり、より好ましくは、20,000〜210,000である。また、数平均分子量は、好ましくは、5,000〜152,500であり、より好ましくは、10,000〜105,000である。
【0043】
<ポリアミック酸エステルの製造方法>
(1)ポリアミック酸から合成する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸二無水物とジアミンから得られるポリアミック酸をエステル化することによって合成することができる。
具体的には、ポリアミック酸とエステル化剤を有機溶媒の存在下で−20℃〜150℃、好ましくは0℃〜50℃において、30分〜24時間、好ましくは1〜4時間反応させることによって合成することができる。
エステル化剤としては、精製によって容易に除去できるものが好ましく、N,N−ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジプロピルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジネオペンチルブチルアセタール、N,N−ジメチルホルムアミドジ−t−ブチルアセタール、1−メチル−3−p−トリルトリアゼン、1−エチル−3−p−トリルトリアゼン、1−プロピル−3−p−トリルトリアゼン、4−(4,6−ジメトキシ−1,3,5−トリアジンー2−イル)−4−メチルモルホリニウムクロリドなどが挙げられる。エステル化剤の添加量は、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対して、2〜6モル当量が好ましい。
【0044】
上記の反応に用いる溶媒は、ポリマーの溶解性からN,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、又はγ−ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。反応系におけるポリマーの濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。
【0045】
(2)テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとの反応により合成する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンからも合成することができる。例えば、前記式(1)の2個のRが共に1価の有機基であるポリアミック酸エステルは、下記式(4)で表されるテトラカルボン酸ジエステルジクロリドと、前記式(3)で表されるジアミンとの反応によって得ることができる。式(4)のRは前記式(1)中の定義と同じである。
【化21】
【0046】
具体的には、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとを塩基と有機溶媒の存在下で−20℃〜150℃、好ましくは0℃〜50℃において、30分〜24時間、好ましくは1〜4時間反応させることによって合成することができる。
前記塩基には、ピリジン、トリエチルアミン、4−ジメチルアミノピリジンなどが使用できるが、反応が穏和に進行するためにピリジンが好ましい。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという観点から、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドに対して、2〜4倍モルであることが好ましい。
【0047】
上記の反応に用いる溶媒は、モノマー及びポリマーの溶解性からN−メチル−2−ピロリドン、又はγ−ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。反応系におけるポリマー濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1〜30質量%が好ましく、5〜20質量%がより好ましい。また、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドの加水分解を防ぐため、ポリアミック酸エステルの合成に用いる溶媒はできるだけ脱水されていることが好ましく、窒素雰囲気中で、外気の混入を防ぐのが好ましい。
【0048】
(3)テトラカルボン酸ジエステルとジアミンからポリアミック酸を合成する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを重縮合することによっても合成することができる。例えば、式(1)の2個のRが共に1価の有機基であるポリアミック酸エステルは、下記式(5)で表されるテトラカルボン酸ジエステルと、前記式(3)で表されるジアミンとの反応によって得ることができる。なお、式(5)のRは前記式(1)中の定義と同じである。
【0049】
【化22】
【0050】
具体的には、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを縮合剤、塩基、及び有機溶媒の存在下で0℃〜150℃、好ましくは0℃〜100℃において、30分〜24時間、好ましくは3〜15時間反応させることによって合成することができる。
前記縮合剤には、トリフェニルホスファイト、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’−カルボニルジイミダゾール、ジメトキシ−1,3,5−トリアジニルメチルモルホリニウム、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウム テトラフルオロボラート、O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、(2,3−ジヒドロ−2−チオキソ−3−ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルなどが使用できる。縮合剤の添加量は、テトラカルボン酸ジエステルに対して2〜3倍モルであることが好ましい。
【0051】
前記塩基には、ピリジン、トリエチルアミンなどの3級アミンが使用できる。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという観点から、ジアミン成分に対して2〜4倍モルが好ましい。
また、上記反応において、ルイス酸を添加剤として加えることで反応が効率的に進行する。ルイス酸としては、塩化リチウム、臭化リチウムなどのハロゲン化リチウムが好ましい。ルイス酸の添加量はジアミン成分に対して0〜1.0倍モルが好ましい。
【0052】
上記3つのポリアミック酸エステルの合成方法の中でも、高分子量のポリアミック酸エステルが得られるため、上記(1)又は上記(2)の合成法が特に好ましい。
得られるポリアミック酸エステルの溶液は、よく撹拌させながらポリマー難溶性溶媒(貧溶媒)に注入することで、ポリマーを析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して精製されたポリアミック酸エステルの粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
ポリアミック酸エステルの重量平均分子量は、好ましくは5,000〜300,000であり、より好ましくは、10,000〜200,000である。また、数平均分子量は、好ましくは、2,500〜150,000であり、より好ましくは、5,000〜100,000である。
【0053】
<ポリイミドの製造方法>
ポリイミドは、上記のポリアミック酸又はポリアミック酸エステルをイミド化することによって得られる。かかるイミド化の方法としては、加熱による熱イミド化、又は触媒を使用する触媒イミド化が一般的である。比較的低温でイミド化反応が進行する触媒イミド化の方が、得られるポリイミドの分子量低下が起こりにくいので好ましい。
触媒イミド化は、有機溶媒中において、ポリアミック酸を塩基性触媒と酸無水物の存在下で攪拌するか、又はポリアミック酸エステルを塩基性触媒の存在下で攪拌することにより行うことができる。このときの反応温度は―20〜250℃、好ましくは0〜180℃である。ポリアミック酸の触媒イミド化においては、反応温度が高い方がイミド化は速く進行するが、高すぎるとポリイミドの分子量が低下する場合がある。塩基性触媒の量はポリアミック酸またはポリアミック酸エステルの繰り返し単位1モルに対して、1〜60モル倍、好ましくは2〜40モル倍である。ポリアミック酸を触媒イミド化するための酸無水物の量は、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対して2〜100モル倍、好ましくは6〜60モル倍である。塩基性触媒や酸無水物の量が少ないと反応が十分に進行せず、また多すぎると反応終了後に完全に除去することが困難となる。
【0054】
ポリアミック酸の触媒イミド化に用いる塩基性触媒としては、ピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミンなどを挙げることができ、中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。ポリアミック酸エステルの触媒イミド化に用いる塩基性触媒としては、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミンなどを挙げることができ、中でもトリエチルアミンは反応が速いことから特に好ましい。
【0055】
また、ポリアミック酸の触媒イミド化に用いる酸無水物としては無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などを挙げることができる。中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。有機溶媒としては、ポリアミック酸またはポリアミック酸エステルが溶解するものであれば限定されない。その具体例を挙げるならば、N,N’−ジメチルホルムアミド、N,N’−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタム、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ジメチルスルホン、ヘキサメチルスルホキシド、γ−ブチロラクトン、γ-バレロラクトンなどを挙げることができる。触媒イミド化によるイミド化率は、触媒量と反応温度、反応時間を調節することにより制御することができる。
【0056】
生成したポリイミドは、上記反応溶液をポリマー難溶性溶媒(貧溶媒ともいう)に投入して生成した沈殿を回収することで得られる。その際、用いる貧溶媒は特に限定されない。例えば、メタノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセロソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン、水などを挙げることができる。貧溶媒に投入して沈殿させたポリイミドは、濾過した後、常圧あるいは減圧下で、常温あるいは加熱乾燥して粉末とすることができる。そのポリイミド粉末を、更に有機溶媒に溶解して、再沈殿する操作を2〜10回繰り返すと、ポリイミドを精製することもできる。一度の沈殿回収操作では不純物が除ききれないときは、この精製工程を行うことが好ましい。ポリイミドの分子量は特に制限されないが、取り扱いのしやすさと、膜形成した際の特性の安定性の観点から重量平均分子量で2,000〜200,000が好ましく、より好ましくは4,000〜50,000である。
【0057】
<ポリイミドまたはポリアミック酸、ポリアミック酸エステルの末端修飾>
本発明で用いられるポリイミドまたはポリアミック酸またはポリアミック酸エステルの末端は修飾されていてもよい。末端修飾した重合体を用いることにより、溶解性や塗布性などを改善することができる。末端修飾は、ポリアミック酸またはポリアミック酸エステルを合成する際に、酸無水物、モノアミン化合物、酸クロリド化合物、モノイソシアネート化合物などを添加することで合成することができる。
【0058】
<溶剤>
本発明の液晶配向剤に含まれる溶剤は、(A)γ-バレロラクトンと、(B)γ-ブチロラクトンと、(C)下記式(c)で表される化合物、とを含有する。
【0059】
【化23】
上記式(c)中、R、Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数が1〜4、好ましくは1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基、又はアセチル基である。また、Rは、炭素数2又は3のアルカンジイル基である。nは1又は2である。
【0060】
上記式(c)中のR、Rの好ましい具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基等が挙げられる。R具体例としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられる。
【0061】
上記式(c)で表される化合物の具体例としては、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、エチレングリコール、1−メトキシ−2−プロパノール、1−エトキシ−2−プロパノール、1−ブトキシ−2−プロパノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、ブチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールジアセテート、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセテート、プロピレングリコール−1−モノエチルエーテル−2−アセテート、ジプロピレングリコール、2−(2−エトキシプロポキシ)プロパノール、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルなどが挙げられる。なかでも、ブチルセロソルブ、ブチルセロソルブアセテート、又は1−ブトキシ−2−プロパノールが好ましい。
【0062】
本発明の液晶配向剤に含まれる溶剤中の上記(A)、(B)、及び(C)の含有量については、(A)のγ-バレロラクトンは、塗膜端部の直線性や寸法安定性に寄与するので、溶剤全体の20〜75質量%が好ましく、20〜70質量%がより好ましい。(B)のγ-ブチロラクトンは、寸法安定性に寄与するので、溶剤全体の20〜80質量%が好ましく、20〜70質量%がより好ましい。(C)の化合物は、溶剤全体の5〜50質量%が好ましく、より好ましくは5〜40質量%が好ましく、更に好ましくは10〜40質量%である。
(A)、(B)、及び(C)の具体的な好ましい含有量は、全体が100重量%になるように、A)が20〜75質量%、より好ましくは20〜70質量%であり、(B)が20〜75質量%、より好ましくは20〜70質量%であり、(C)が5〜60質量%、より好ましくは5〜55質量%から選ばれる。
【0063】
本発明の液晶配向剤に、上記(A)、(B)、(C)以外の溶媒(以下、その他の溶媒ともいう)が含まれていても構わない。その他の溶媒の具体例としては、N−メチル−2−ピロリドン、N−エチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルカプロラクタム、2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、1,3−ジメチル−イミダゾリジノン、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、などを挙げることができ、これらは複数種を併用していてもよい。中でもN−メチル−2−ピロリドンを追加することにより、重合体の溶解性、塗膜面内のムラの抑制や塗膜端部の直線性などが更に向上するので好ましい。この場合のN−メチル−2−ピロリドンの含有量としては、溶剤全体に対して3〜55質量%が好ましく、3〜50質量%がより好ましい。具体的な好ましい含油量は、全体が100重量%になるように、(A)の含有量が20〜70質量%、(B)の含有量が20〜70質量%、(C)の含有量が5〜55質量%、N−メチル−2−ピロリドンの含有量が3〜55質量%が好ましい。
【0064】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、上記の重合体および溶剤を含有する組成物であり、重合体の含有量(濃度)は、形成させようとする液晶配向膜の厚みの設定によっても適宜変更することができるが、均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点から、好ましくは1〜5質量%であり、特に好ましくは2%〜4質量%である。本発明の液晶配向剤の粘度はインクジェット塗布の点から、好ましくは、5〜20mPa・sであり、特に好ましくは5〜15mPa・sである。
液晶配向剤における溶媒の含有量は、上記の粘度を考慮して選択され、好ましくは95〜99質量%であり、特に好ましくは96〜98質量%である。この場合、予め、重合体の濃厚溶液を作製し、かかる濃厚溶液から液晶配向剤とする場合に希釈してもよい。溶媒の含有量が99質量%より高い場合、液晶配向膜の膜厚が小さくなり過ぎ良好な液晶配向膜を得ることができず、溶媒の含有量が95質量%より低い場合、インクジェットの際、ヘッドからの吐出性が悪くなる。
【0065】
本発明の液晶配向剤は、シランカップリング剤や架橋剤などの各種添加剤を含有してもよい。シランカップリング剤は、液晶配向剤が塗布される基板と、そこに形成される液晶配向膜との密着性を向上させる目的で添加される。シランカップリング剤は既存のものが添加される。このシランカップリング剤の添加量は、多すぎると未反応のものが液晶配向性に悪影響を及ぼすことがあり、少なすぎると密着性への効果が現れないため、重合体の固形分に対して0.01〜5.0重量%が好ましく、0.1〜1.0重量%がより好ましい。
また、液晶配向剤には、塗膜を焼成する際にポリアミック酸、ポリアミック酸エステルのイミド化を効率よく進行させるために、イミド化促進剤を添加してもよい。イミド化促進剤としては既存のものが使用される。
【0066】
<液晶配向膜>
本発明の液晶配向剤を基板に塗布し、乾燥、焼成することで液晶配向膜を得ることができる。本発明の液晶配向剤を塗布する基板としては透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板、アクリル基板、ポリカーボネート基板等のプラスチック基板等を用いることができる。なかでも、液晶駆動のためのITO電極等が形成された基板を用いることがプロセスの簡素化の観点から好ましい。反射型の液晶表示素子では片側の基板のみにならばシリコンウエハー等の不透明な物でも使用でき、この場合の電極はアルミニウム等の光を反射する材料も使用できる。
【0067】
本発明の液晶配向剤の塗布方法としては、スピンコート法、印刷法なども使用できるが、インクジェット法が特に好ましい。本発明の液晶配向剤をインクジェット法により塗布して塗布膜を形成する場合、塗布面内の膜厚の均一性や、塗布周辺部の直線性、及び塗布時における設定寸法からの拡大幅を抑制することができ、寸法安定性に優れる塗布膜が得られる。本発明では、既存のインクジェット装置が使用でき、また、塗布も既存の条件が使用できる。例えば、国際公開WO2014−024885などに開示される装置や条件が使用される。
液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択することができるが、通常は、含有される有機溶媒を十分に除去するために40℃〜120℃で1分〜10分乾燥させ、その後150℃〜300℃で5分〜120分焼成される。焼成後の塗膜の厚みは、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので5〜300nmが好ましく、より好ましくは10〜200nmである。
【0068】
<液晶表示素子>
得られた液晶配向膜は、ラビング処理や光配向処理などで配向処理をして、又は垂直配向用途などでは配向処理無しで、液晶表示素子に用いることができる。液晶表示素子は、液晶配向膜付き基板を用い、公知の方法で液晶セルを作製し、素子化したものである。
液晶セルの製造方法は特に限定されないが、一例を挙げるならば、液晶配向膜が形成された1対の基板を、液晶配向膜面を内側にして、厚みが好ましくは1〜30μm、より好ましくは2〜10μmのスペーサーを挟んで設置した後、周囲をシール剤で固定し、液晶を注入して封止する方法が一般的である。液晶封入の方法については特に制限されず、作製した液晶セル内を減圧にした後液晶を注入する真空法、液晶を滴下した後封止を行う滴下法などが例示できる。
【実施例】
【0069】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以後で使用する略号、及び各特性の測定方法は、次のとおりである。
<モノマー>
1,3DMCBDE−Cl:ジメチル1,3−ビス(クロロカルボニル)−1,3−ジメチルシクロブタンー2,4−ジカルボキシレート
BDA:1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、
PMDA:ピロメリット酸無水物
DADPA:4,4’−ジアミノジフェニルアミン
Me−DADPA:N,N−ビス(アミノフェニル)−メチルアミン
DBA:3,5−ジアミノ安息香酸
p−PDA:p−フェニレンジアミン
TDA:4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフランー3−イル)−1,2,3,4、−テトラヒドロナフタレン−1,2,−ジカルボン酸無水物
【0070】
【化24】
【0071】
<溶剤>
NMP:N−メチル−2−ピロリドン、 BCS:ブチルセロソルブ
BCA:ブチルセロソルブアセテート、 GBL:γ−ブチロラクトン
GVL:γ−バレロラクトン、 DPM:ジプロピレングリコールモノメチルエーテル
NEP:N−エチル−2−ピロリドン、 PB:1−ブトキシ−2−プロパノール
【0072】
<粘度>
重合体溶液の粘度は、E型粘度計TVE−22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE−1(1°34’、R24)、温度25℃で測定した。
【0073】
<分子量>
重合体の分子量はGPC(常温ゲル浸透クロマトグラフィー)装置によって測定し、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド換算値として数平均分子量(以下、Mnとも言う。)と重量平均分子量(以下、Mwとも言う。)を算出した。
GPC装置:Shodex社製(GPC−101)
カラム:Shodex社製(KD803、KD805の直列)、カラム温度:50℃
溶離液:N,N−ジメチルホルムアミド(添加剤として、臭化リチウム−水和物(LiBr・HO)が30mmol/L、リン酸・無水結晶(o−リン酸)が30mmol/L、テトラヒドロフラン(THF)が10ml/L)、流速:1.0ml/分
検量線作成用標準サンプル:東ソー社製、TSK 標準ポリエチレンオキサイド(重量平均分子量(Mw) 約900,000、150,000、100,000、30,000)、及び、ポリマーラボラトリー社製 ポリエチレングリコール(ピークトップ分子量(Mp)約12,000、4,000、1,000)。測定は、ピークが重なるのを避けるため、900,000、100,000、12,000、1,000の4種類を混合したサンプル、及び150,000、30,000、4,000の3種類を混合したサンプルの2サンプルを別々に測定。
【0074】
<イミド化率>
ポリイミド粉末20mgをNMRサンプル管に入れ、重水素化ジメチルスルホキシド(DMSO−d6及び0.05質量%TMS(テトラメチルシラン)混合品)0.53mLを添加し、完全に溶解させた。この溶液を日本電子データム社製のNMR測定器(JNM−ECA500)にて500MHzのプロトンNMRを測定した。
イミド化率は、イミド化前後で変化しない構造に由来するプロトンピークを基準ピークとして用い、次式によって求めた。
イミド化率(%)=(1−α・x/y)×100
上記式中、xはポリアミック酸のNH基由来のプロトンピーク積算値、yは基準プロトンピーク積算値、αはポリアミック酸(イミド化率が0%)の場合におけるポリアミック酸のNH基プロトン一個に対する基準プロトンの個数割合である。
【0075】
(合成例1)
撹拌装置及び窒素導入管付きの10L(リットル)のセパラブルフラスコに、p−フェニレンジアミンを114.59g(1.06mol)及びDA−Aを44.68g(0.12mol)計り取り、NMPを2972g及びピリジン210.1g(2.66mol)加えて溶解させた。次に、この溶液を撹拌しながら1,3DMCBDE−Clを359.85、(1.11mol)を添加し、水冷下で4時間反応させた。得られたポリアミド酸溶液に500gのGBLを入れ希釈した。この溶液を19103mlのイソプロパノールに撹拌しながら投入し、析出した白色沈殿をろ取し、続いて9551mlのイソプロパノールを5回に分けて使って洗浄し、乾燥することで白色のポリアミド酸エステル樹脂粉末(PWD−1)を得た。このポリアミド酸エステルの分子量はMn=5,182であり、Mw=30,115であった。
上記で得られたポリアミド酸エステル樹脂粉末(PWD−1)をGBLに溶解させ、固形分濃度10質量%のポリアミド酸エステル溶液(PAE−1)を得た。
【0076】
(合成例2)
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mLの四つ口フラスコに、p−フェニレンジアミンを1.30g(12.0mmol)及びDA−Bを3.01g(7.99mmol)計り取り、NMPを36.72g、GBLを29.38g加えて、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらTDAを5.70g(19.0mmol)添加し、更に固形分濃度が12重量%になるようにNMPを加え、室温で24時間撹拌してポリアミック酸溶液(PAA−1)を得た。このポリアミック酸溶液の温度25℃における粘度は285mPa・sであった。また、このポリアミック酸の分子量はMn=8,042、Mw=18,958であった。
【0077】
(合成例3)
撹拌装置及び窒素導入管付きの100mlの四つ口フラスコに得られたポリアミック酸溶液(PAA−1)を50g取り、NMPを16.67g加え、30分撹拌した。次いで、無水酢酸を3.86g、ピリジンを1.0g加えて、60℃で3時間加熱し、化学イミド化を行った。得られた反応液を321mlのメタノールに撹拌しながら投入し、析出した沈殿物をろ取し、続いて321mlのメタノールを3回に分けて使って洗浄した。得られた樹脂粉末を60℃で12時間乾燥することで、ポリイミド樹脂粉末を得た。このポリイミド樹脂粉末のイミド化率は86%、分子量はMn=6,920、Mw=12,721であった。
上記で得られたポリイミド樹脂粉末をGBLに溶解させ、固形分濃度10質量%のポリイミド溶液(SPI−1)を得た。
【0078】
(合成例4)
撹拌装置及び窒素導入管付きの200mLの四つ口フラスコに、DBAを1.10g(7.2mmol)及びMe−DADPAを6.14g(28.8mmol)計り取り、NMPを15.0g,GBLを42.0g加えて、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらBDAを6.42g(32.4mmol),PMDAを0.62g(2.8mmol)添加し、更にGBLを18.0g加え、室温で24時間撹拌して、固形分濃度16質量%、NMP/GBL=2/8のポリアミック酸溶液(PAA−2)を得た。このポリアミック酸溶液の温度25℃における粘度は380.5mPa・sであった。また、得られたポリアミック酸の分子量はMn=7,048、Mw=16,664であった。
【0079】
(実施例1)
撹拌子を入れた200mlのサンプル管に、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(PAE−1)を10.4g及び合成例4で得られたポリアミック酸溶液(PAA−2)を9.8g計り取り、NMPを3.2g、及びGBLを47.4g、GVLを19.5g、及びBCAを9.7g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(A−1)を得た。
【0080】
(実施例2)
撹拌子を入れた200mlのサンプル管に、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(PAE−1)を10.4g、及び合成例4で得られたポリアミック酸溶液(PAA−2)を9.8g計り取り、NMPを3.2g、GBLを27.0g、GVLを40.0g、及びBCAを9.7g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(A−2)を得た。
【0081】
(実施例3)
撹拌子を入れた200mlのサンプル管に、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(PAE−1)を10.4g、及び合成例4で得られたポリアミック酸溶液(PAA−2)を9.8g計り取り、NMPを2.3g、GBLを7.5g、GVLを60.4g、及びBCAを9.7g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(A−3)を得た。
【0082】
(実施例4)
撹拌子を入れた200mlのサンプル管に、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(PAE−1)を10.4g、及び合成例4で得られたポリアミック酸溶液(PAA−2)を9.8g計り取り、NMPを2.3g、GBLを32.8g、GVLを19.5g、及びBCSを25.3g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(A−4)を得た。
【0083】
(実施例5)
撹拌子を入れた200mlのサンプル管に、合成例3で得られたポリイミド溶液(SPI−1)を26.0g、NMPを4.9g、及びGBLを39.9g、GVLを19.5g、及びBCAを9.7g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(A−5)を得た。
【0084】
(実施例6)
撹拌子を入れた200mlのサンプル管に、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(PAE−1)を26.0g取り、GBLを44.8g、GVLを19.5g、及びBCAを9.7g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(A−6)を得た。
【0085】
(実施例7)
撹拌子を入れた200mlサンプル管に、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(PAE−1)を10.4g、合成例4で得られたポリアミック酸溶液(PAA−2)を9.8g計り取り、NMPを1.6g、NEPを1.6g、GBLを47.4g、GVLを19.5g、BCAを9.7g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(A−7)を得た。
【0086】
(実施例8)
撹拌子を入れた200mlサンプル管に、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(PAE−1)を10.4g、合成例4で得られたポリアミック酸溶液(PAA−2)を9.8g計り取り、NMPを3.2g、GBLを47.4g、GVLを19.5g、BCAを4.9g、PBを4.9g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(A−8)を得た。
【0087】
(比較例1)
撹拌子を入れた200mlのサンプル管に、合成例1で得られたポリアミド酸エステル樹脂粉末(PWD−1)を2.6g計り取り、GVLを87.7g及びBCSを9.7g加え、マグネチックスターラーで撹拌することで溶解させて液晶配向剤(B−1)を得た。
【0088】
(比較例2)
撹拌子を入れた200mlのサンプル管に、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(PAE−1)を10.4g、及び合成例4で得られたポリアミック酸溶液(PAA−2)を9.8g計り取り、NMPを3.2g、GBLを66.9g、及びBCSを9.7g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(B−2)を得た。
【0089】
(比較例3)
撹拌子を入れた200mlのサンプル管に、合成例1で得られたポリアミド酸エステル溶液(PAE−1)を10.4g、及び合成例4で得られたポリアミック酸溶液(PAA−2)を9.8g及び取り、NMPを3.2g、GBLを71.5g、及びDPMを4.9g加えてマグネチックスターラーで30分間撹拌し液晶配向剤(B−3)を得た。
【0090】
[塗膜の形成と評価の方法]
液晶配向剤を孔径が1.0μmのメンブランフィルターでろ過した後、下記する装置及び条件でインクジェット法により基板への塗布し、次いで、下記する予備乾燥及び本焼成を行って塗膜を形成した。
インクジェット塗布装置:HIS−200−1H(日立プラントテクノロジー社製)
塗布条件:分解能15μm、ステージ速度40mm/sec、周波数2000Hz、パルス幅9.6μsec、液滴量42pl、ピッチ幅80μm、ピッチ長141μm、印加電圧:15V、ノズルギャップ0.5mm
基板:サイズが縦100mm×横100mmの板状で、片側全面にITO電極付きのガラス基板
塗布面積:基板のITO電極面に設定寸法が縦72mm×横80mmの長方形の面積に塗布
塗布終了から予備乾燥までの放置時間:60秒
予備乾燥:45℃/2分(ホットプレート)
本焼成:230℃/30分(IRオーブン)
【0091】
<寸法安定性の評価方法>
上記で得られた塗膜の縦幅と横幅をノギスで計測し、設定寸法である縦100mm×横72×80mmからの差を求め、その平均値を「拡大幅」として算出した。
【0092】
<面内均一性の評価方法>
上記で得られた塗膜の面内を目視および光学顕微鏡により観察し、ユズ肌状のムラ、線状のムラ、膜厚ムラなどが無く面内が均一であったものを「A」、顕微鏡観察または目視観察により前記のようなムラが視認できるものを「B」とした。
【0093】
<端部直線性の評価方法>
上記で得られた塗膜の端部を光学顕微鏡で観察し、塗膜端部の形状が直線状のものを「A」、塗膜端部の形状が蛇行しているものを「B」とした。
【0094】
[評価結果]
以下の表1に、実施例1〜6及び比較例1〜4で得られた液晶配向剤の評価結果を示す。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の液晶配向剤は、表示ムラ等の不具合が抑制された信頼性の高い液晶表示素子が提供できるので、TN、STN、IPS、FFS、VA(MVA(Multi domain Vertical Alignment)、光垂直配向、PSA(Polymer Sustained Alignment)等の方式を含む)等の駆動モードを有する広範囲の液晶表示素子の製造に利用される。
なお、2015年2月12日に出願された日本特許出願2015−025606号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。