特許第6597740号(P6597740)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597740
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】成膜方法及び成膜装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 16/52 20060101AFI20191021BHJP
   C23C 16/18 20060101ALI20191021BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20191021BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   C23C16/52
   C23C16/18
   C23C16/34
   H01L21/205
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-165844(P2017-165844)
(22)【出願日】2017年8月30日
(65)【公開番号】特開2019-44214(P2019-44214A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2018年4月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】特許業務法人弥生特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100091513
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133776
【弁理士】
【氏名又は名称】三井田 友昭
(72)【発明者】
【氏名】我妻 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】金子 都
(72)【発明者】
【氏名】野呂 尚孝
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2005/098922(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/105389(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/074678(WO,A1)
【文献】 特開2014−185363(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/52
C23C 16/18
C23C 16/34
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板が搬入されていない状態の処理容器内にシリコンを含む第1のガスを供給し、前記基板を載置するための載置台を含む前記処理容器内の部材の表面をシリコンにより構成される膜で被覆するプリコート工程と
次いで、前記シリコンにより構成される膜にその裏面が接するように前記基板を前記載置台に載置する載置工程と、
続いて有機金属化合物を含む第2のガスを前記処理容器内に供給して、前記有機金属化合物を構成する金属からなる膜を前記基板に成膜する成膜工程と、
を備え
前記プリコート工程は、
前記有機金属化合物とは異なる化合物であり、且つ当該有機金属化合物と共通の金属を含むプリコート用のガスを前記処理容器内に供給し、前記処理容器内の部材に当該金属を含む下層膜を形成する第1のプリコート工程と、
次いで、前記第1のガスを前記処理容器内に供給し、前記下層膜に積層されるように前記シリコンにより構成される膜を形成する第2のプリコート工程と、
を含むことを特徴とする成膜方法。
【請求項2】
前記成膜工程は、前記第1のガスを前記処理容器内に供給し、前記金属とシリコンとを含む膜を前記基板に成膜する工程であることを特徴とする請求項1記載の成膜方法。
【請求項3】
前記成膜工程は、窒素を含む化合物である第3のガスを供給し、前記金属と前記シリコンと前記窒素とからなる膜を前記基板に成膜する工程であることを特徴とする請求項2記載の成膜方法。
【請求項4】
前記第1のプリコート工程は、前記処理容器内の温度を第1の温度にした状態で行われ、
前記第2のプリコート工程は、前記処理容器内の温度を前記第1の温度よりも低い第2の温度にした状態で行われることを特徴とする請求項記載の成膜方法。
【請求項5】
前記第1の温度は400℃以上であり、前記第2の温度は300℃以下であることを特徴とする請求項記載の成膜方法。
【請求項6】
前記プリコート用のガスは前記金属の塩化物により構成され、前記第2のガスは塩素を構成成分として含まないことを特徴とする請求項1ないしのいずれか一つに記載の成膜方法。
【請求項7】
前記金属はチタンであることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一つに記載の成膜方法。
【請求項8】
前記シリコンからなる膜は、アモルファスシリコン膜であることを特徴とする請求項1ないしのいずれか一つに記載の成膜方法。
【請求項9】
処理容器内に設けられた基板を載置する載置台と、
シリコンを含む第1のガスを前記処理容器内に供給する第1のガス供給部と、
有機金属化合物を含む第2のガスを前記処理容器内に供給する第2のガス供給部と、
前記有機金属化合物とは異なる化合物であり、且つ当該有機金属化合物と共通の金属を含むプリコート用のガスを前記処理容器内に供給するプリコート用のガス供給部と、
前記第1のガスを前記基板が搬入されていない状態の前記処理容器内に供給し、前記載置台を含む当該処理容器内の部材の表面をシリコンにより構成される膜で被覆するプリコートステップと、次いで、前記シリコンにより構成される膜にその裏面が接するように前記載置台に載置された基板に対して前記第2のガスを前記処理容器内に供給して、前記有機金属化合物を構成する金属からなる膜を前記基板に成膜する成膜ステップと、が実行されるように制御信号を出力する制御部と、
を備え、
前記プリコートステップは、
前記プリコート用のガスを前記処理容器内に供給し、前記プリコート用ガスに含まれる金属を含む下層膜を当該処理容器内の部材に形成する第1のプリコートステップと、次いで、前記第1のガスを前記処理容器内に供給し、前記下層膜に積層されるように前記シリコンにより構成される膜を形成する第2のプリコートステップと、を含むことを特徴とする成膜装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理容器内に薄膜を形成した後に基板に成膜を行う技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程においては、基板である半導体ウエハ(以下、ウエハと記載する)に例えばALD(Atomic Layer Deposition)により、TiN(窒化チタン)膜などの金属膜が形成される。そのようにウエハに成膜を行う前には、ウエハが載置される載置台や処理容器内にガスを供給するシャワーヘッドなどの処理容器内に設けられる各部材の表面に薄膜を形成するプリコートが行われる。このプリコートによって、処理容器内の各部材の表面に付着しているパーティクルがウエハに飛散することを防ぐことができる。
【0003】
ウエハに成膜される金属膜を構成する金属以外の種類の金属がウエハに付着することを防ぐために、このプリコートは例えばウエハに形成する膜と同じ種類の膜を処理容器内に成膜するように行われていた。例えば、特許文献1及び特許文献2には、プリカーサー(前駆体)としてTiCl(四塩化チタン)ガスと、このTiClガスと反応する反応ガスとを用いたALDを行うことで、処理容器内にTiN膜をプリコートした後、ウエハにTiN膜を形成する技術について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−68559号公報
【特許文献2】特開2010−65309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
以降は説明の便宜上、プリコートによって処理容器内の部材に形成される膜をプリコート膜、ウエハに形成される膜を被処理膜として夫々記載する場合が有る。上記の被処理膜であるTiN膜としてはSi(シリコン)が含有されるように成膜される場合が有る。ところで、被処理膜に塩素が不純物として含まれないようにする要請が有り、当該塩素を構成成分としない有機金属化合物をプリカーサーとして用いることが検討されている。そのために被処理膜としてTiN膜を形成する場合には、上記のTiClの代わりに例えばTDMAT(テトラキスジメチルアミノチタン)をプリカーサーとして用いることが検討されている。しかし、後述の評価試験でも述べるように、このTDMATを用いてTiN膜であるプリコート膜を形成すると、ウエハの裏面に付着するTi(チタン)の量が比較的多くなってしまうことが確認された。
【0006】
そこでプリコート膜であるTiN膜はTiCl、被処理膜であるTiN膜はTDMATにより夫々形成することが考えられる。しかし、そのように互いに異なるプリカーサーを用いて成膜処理した場合においても、ウエハの裏面に付着するTiの量は比較的多くなってしまうことが確認された。その理由は発明の実施の形態の項目で詳しく述べるが、プリコート膜の形成後、被処理膜形成前に行う処理容器内の降温によって、プリコート膜が割れることによるものと考えられる。このような事情でウエハの金属汚染を防ぐことができる技術が求められている。さらに、被処理膜の形成に用いられない種類のガスについては、使用する数を抑えることで成膜装置の構成を簡素にしたいという要請が有る。
【0007】
本発明はこのような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、有機金属化合物からなるガスを用いて基板に成膜を行うにあたり、基板の裏面の金属汚染を防ぐことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の成膜方法は、基板が搬入されていない状態の処理容器内にシリコンを含む第1のガスを供給し、前記基板を載置するための載置台を含む前記処理容器内の部材の表面をシリコンにより構成される膜で被覆するプリコート工程と
次いで、前記シリコンにより構成される膜にその裏面が接するように前記基板を前記載置台に載置する載置工程と、
続いて有機金属化合物を含む第2のガスを前記処理容器内に供給して、前記有機金属化合物を構成する金属からなる膜を前記基板に成膜する成膜工程と、
を備え
前記プリコート工程は、
前記有機金属化合物とは異なる化合物であり、且つ当該有機金属化合物と共通の金属を含むプリコート用のガスを前記処理容器内に供給し、前記処理容器内の部材に当該金属を含む下層膜を形成する第1のプリコート工程と、
次いで、前記第1のガスを前記処理容器内に供給し、前記下層膜に積層されるように前記シリコンにより構成される膜を形成する第2のプリコート工程と、
を含むことを特徴とする成膜方法。
【0009】
本発明の成膜装置は、処理容器内に設けられた基板を載置する載置台と、
シリコンを含む第1のガスを前記処理容器内に供給する第1のガス供給部と、
有機金属化合物を含む第2のガスを前記処理容器内に供給する第2のガス供給部と、
前記有機金属化合物とは異なる化合物であり、且つ当該有機金属化合物と共通の金属を含むプリコート用のガスを前記処理容器内に供給するプリコート用のガス供給部と、
前記第1のガスを前記基板が搬入されていない状態の前記処理容器内に供給し、前記載置台を含む当該処理容器内の部材の表面をシリコンにより構成される膜で被覆するプリコートステップと、次いで、前記シリコンにより構成される膜にその裏面が接するように前記載置台に載置された基板に対して前記第2のガスを前記処理容器内に供給して、前記有機金属化合物を構成する金属からなる膜を前記基板に成膜する成膜ステップと、が実行されるように制御信号を出力する制御部と、
を備え、
前記プリコートステップは、
前記プリコート用のガスを前記処理容器内に供給し、前記プリコート用ガスに含まれる金属を含む下層膜を当該処理容器内の部材に形成する第1のプリコートステップと、次いで、前記第1のガスを前記処理容器内に供給し、前記下層膜に積層されるように前記シリコンにより構成される膜を形成する第2のプリコートステップと、を含むことを特徴とする。

【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、有機金属化合物を含むガスを処理容器内に供給して、当該ガスに含まれる金属からなる膜を基板に成膜する前に、基板が搬入されていない状態の処理容器内にシリコンを含むガスを供給して、載置台を含む処理容器内の部材の表面をシリコンにより構成される膜で被覆し、その膜に裏面が接するように基板が載置台に載置される。そのように成膜を行うことで、基板の裏面が金属汚染されることを抑制することができる。また、シリコンを含むように基板に金属膜を形成する場合は、このようなシリコンからなる膜によるプリコートを行うための設備を別途設ける必要が無いため、成膜装置の構成が複雑化することが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1の実施形態に係る成膜装置の縦断側面図である。
図2】前記成膜装置におけるプリコート処理を示すための説明図である。
図3】前記成膜装置におけるプリコート処理を示すための説明図である。
図4】前記成膜装置におけるプリコート処理を示すための説明図である。
図5】前記成膜装置におけるプリコート処理を示すための説明図である。
図6】前記成膜装置におけるプリコート処理を示すための説明図である。
図7】前記成膜装置におけるプリコート処理を示すための説明図である。
図8】前記成膜装置におけるウエハへの成膜処理を示すための説明図である。
図9】前記成膜装置におけるウエハへの成膜処理を示すための説明図である。
図10】前記成膜装置におけるウエハへの成膜処理を示すための説明図である。
図11】前記成膜装置におけるウエハへの成膜処理を示すための説明図である。
図12】前記成膜装置におけるウエハへの成膜処理を示すための説明図である。
図13】前記成膜装置を構成する処理容器へ各ガスを供給するタイミングを示すタイミングチャートである。
図14】前記成膜装置における処理のフローを示すチャート図である。
図15】前記成膜装置を構成する載置台の状態を示す模式図である。
図16】前記成膜装置を構成する載置台の状態を示す模式図である。
図17】前記成膜装置を構成する載置台の状態を示す模式図である。
図18】本発明の第2の実施形態に係る成膜装置の縦断側面図である。
図19】前記成膜装置により形成されるプリコート膜を示す説明図である。
図20】前記成膜装置によりウエハに形成される膜を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る成膜装置1について、図1の縦断側面図を参照して説明する。この成膜装置1は、ウエハWを格納して処理を行う真空容器である処理容器11を備えており、ALDによって当該ウエハWに被処理膜としてSiを含有するTiN膜(以下、TiSiN膜と記載する)を成膜する。また、このウエハWが処理容器11内に搬入される前にプリコートが行われ、処理容器11内に設けられる各部材の表面にプリコート膜が形成される。このプリコート膜としては、下層膜であるTiN膜と上層膜であるアモルファスシリコン(a-Si)膜とからなる積層膜であり、これらTiN膜及びa-Si膜はALDによって処理容器11内に成膜される。このプリコート膜を構成するTiN膜はTiClガス、即ち無機金属化合物を含有するプリカーサーを用いることで形成され、上記の被処理膜であるTiSiN膜はTDMATガス、即ち有機金属化合物を含有するプリカーサーを用いることで形成される。つまり、プリコート膜の成膜と被処理膜の成膜とで、共通にTi(チタン)を含むが互いに種類が異なる化合物が用いられる。
【0013】
上記の処理容器11は概ね扁平な円形に構成されている。その側壁には、プリコート膜及び被処理膜の形成時において、処理容器内が所望の温度になるように加熱する図示しないヒーターが埋設されている。処理容器11の下部側の側壁12は上部側の側壁13に比べて、平面で見た処理容器11内の中心部へ向けて突出するように形成されている。そのように突出した部位の上面はリング状の水平面14として構成されている。図中15は、下部側の側壁12に設けられるウエハWの搬入出口であり、図中16は、搬入出口15を開閉するゲートバルブである。
【0014】
処理容器11の上部側の側壁13には排気口17が開口しており、当該排気口17には、排気管18の一端が接続されている。排気管18の他端はバルブなどにより構成される圧力調整機構19を介して、真空ポンプにより構成される排気機構21に接続されている。圧力調整機構19は、後述の制御部10から出力される制御信号に基づき処理容器11内の圧力を調整する。
【0015】
下部側の側壁12に囲まれ、その側面が当該下部側の側壁12と近接するように円形の載置台31が設けられており、当該載置台31の上面にウエハWが水平に載置される。この載置台31には、処理容器11内を所望の温度にするためのヒーター32が埋設されている。そして、載置台31の下面側には処理容器11の底部を貫通し、上下方向に伸びる支持部材33の上端が接続されており、この支持部材33の下端は、昇降自在な昇降台34上に支持されている。このような構成により、載置台31は処理位置(図中に実線で示す位置)と、当該処理位置の下方側の受け渡し位置(図中に鎖線で示す位置)との間で昇降する。上記のプリコート膜の形成及び被処理膜の形成を行うときに載置台31は処理位置に位置する。この処理位置において載置台31の上面は、上記の処理容器11の下部側の側壁12における水平面14と略同じ高さに位置する。また、搬入出口15から処理容器11内に進入するウエハWの搬送機構との間で当該ウエハWの受け渡しを行うときにおいては、載置台31は受け渡し位置に位置する。
【0016】
図中36は3本(図では2本のみ表示している)の支持ピンであり、図中37は支持ピン36を昇降させる昇降機構である。載置台31が受け渡し位置に位置したときに、載置台31に設けられる貫通孔22を介して支持ピン36が昇降して、載置台31の上面を突没する。それにより、載置台31と上記の搬送機構との間でウエハWの受け渡しが行われる。図中38は上下に伸縮自在なベローズであり、支持部材33の下部側を囲む。このベローズ38において、その上端は処理容器11の底部に、その下端は昇降台34に夫々接続されることで、処理容器11内の気密性が担保されている。
【0017】
既述の上部側の側壁13の上方には、平面で見て当該側壁13に沿ったリング状に形成される支持部材23を介して、処理容器11を上側から塞ぐように水平板41が設けられている。水平板41の下面側の中央部には、載置台31と対向する円形のガス供給部4が設けられている。ガス供給部4の下面の周縁部は、下方に突出する環状突起42を形成しており、載置台31が処理位置に位置するとき、当該環状突起42は載置台31の周縁部に近接する。載置台31が処理位置に位置するときにおいて、平面で見て環状突起42の内側におけるガス供給部4の下面と載置台31の上面とに挟まれる空間は、扁平な円形である処理空間40をなし、ウエハWはこの処理空間40に収容されて成膜処理を受ける。また、上記の水平面14の上側は、この処理空間40の側方を囲む環状の排気領域20として構成されており、上記の排気口17により排気される。そのように排気領域20が排気されることで、載置台31と環状突起42との間の隙間を介して処理空間40がその側方から全周に亘って排気される。
【0018】
環状突起42に囲まれるガス供給部4の下面には、各々上下方向に形成された多数のガス吐出口43が分散して開口しており、ウエハWにシャワー状にガスを吐出する。従って、この環状突起42に囲まれるガス供給部4の下面部は、ガスシャワーヘッド44として構成されている。ガス供給部4は、上記のガス吐出口43の上端が接続される扁平な円形の拡散空間45を備えている。拡散空間45を形成する天井には、円形に構成された複数のガス拡散部46が分散して設けられている。ガス拡散部46の側面にはその周方向に沿って間隔をおいて多数のガス供給口47が、水平方向に開口している。また、ガス供給部4の上部側には扁平なガス導入路48が形成されている。このガス導入路48から下方へ向けて、ガス拡散部46毎に形成された細長の分岐路49が伸び、当該ガス拡散部46に接続されている。このような構成により、ガス導入路48に供給されたガスは、各ガス拡散部46から拡散空間45に水平方向に吐出され、当該拡散空間45を拡散し、ガスシャワーヘッド44から処理空間40全体に吐出される。
【0019】
上記の水平板41の上方には、当該水平板41に設けられる流路を介してガス導入路48にガスを供給するガス供給路51が接続されている。ガス供給路51の上流側は4つに分岐して分岐流路56をなし、4つの分岐流路56の上流側は各々2つに分岐して流路52A〜52Hが形成されている。流路52Aと52Bとが対をなし、52Cと52Dとが対をなし、52Eと52Fとが対をなし、52Gと52Hとが対をなす。対をなす流路のうちの一方は、他方の流路に供給されるガスに対するキャリアガスとなるN(窒素)ガスの流路である。
【0020】
流路52Aの上流側は、バルブV1、タンク53A、マスフローコントローラ(MFC)54Aをこの順に介して、TiClガス供給源55Aに接続されている。タンク53Aについては、TiClガスを処理容器11に供給する前に一旦貯留する。より具体的に述べると、バルブV1が閉鎖されているときにTiClガス供給源55Aからタンク53AにTiClガスが供給されてタンク53A内が昇圧する。そのように昇圧した状態でバルブV1が開かれ、比較的大きな流量でTiClガスが処理容器11に供給される。後述する他のタンクについても、このタンク53Aと同様に、下流側に設けられたバルブが閉じられた状態で、上流側から供給されるガスを貯留し、比較的大きな流量で貯留されたガスを処理容器11に供給する役割を有する。流路52Bの上流側は、バルブV2、MFC54Bをこの順に介して、Nガス供給源55Bに接続されている。
【0021】
流路52Cの上流側は、バルブV3、タンク53C、MFC54Cをこの順に介して、TDMATガス供給源55Cに接続されている。第2のガス供給部をなすTDMATガス供給源55Cは、液体状のTDMATを貯留すると共に加熱する原料容器と、当該原料容器内にキャリアガスとしてNガスを供給するNガス供給源とを含み、キャリアガスの供給により気化されたTDMAT(TDMATガス)が、当該キャリアガスと共に流路52Cに供給される。つまり、TDMATガス供給源55Cの下流側に供給されるガスはTDMATガスとNガスとの混合ガスであるが、説明の便宜上、当該混合ガスをTDMATガスとして述べる。なお、上記のTiClガス供給源55Aは、キャリアガスによらずに液体状のTiClを加熱することで気化させてTiClガスを生成させるように構成され、生じたTiClガスは、当該TiClガス自体の蒸気圧によって流路52Aに供給される。また、流路52Dの上流側は、バルブV4、MFC54Dをこの順に介して、N(窒素)ガス供給源55Dに接続されている。
【0022】
流路52Eの上流側は、バルブV5、タンク53E、MFC54Eをこの順に介して、第1のガス供給部であるSiH(モノシラン)ガス供給源55Eに接続されている。流路52Fの上流側は、バルブV6、MFC54Fをこの順に介して、N(窒素)ガス供給源55Fに接続されている。流路52Gの上流側は、バルブV7、タンク53G、MFC54Gをこの順に介して、NH(アンモニア)ガス供給源55Gに接続されている。流路52Hの上流側は、バルブV8、MFC54Hをこの順に介して、Nガス供給源55Hに接続されている。なお、以上のN2ガス供給源55B、55D、55F、55Hから各々供給されるN2ガスは上記のようにキャリアガスであるが、このN2ガスは成膜処理中において常時処理容器11に供給されることで、処理容器11内に残留するガスをパージするパージガスとしても作用する。
【0023】
また成膜装置1は制御部10を備えている。この制御部10はコンピュータにより構成されており、プログラム、メモリ、CPUを備えている。プログラムには、成膜装置1における後述の一連の動作を実施することができるようにステップ群が組み込まれており、当該プログラムによって制御部10は成膜装置1の各部に制御信号を出力し、当該各部の動作が制御される。具体的には、各バルブV1〜V8の開閉、MFC54A〜54Hによるガスの流量の調整、圧力調整機構19による処理容器11内の圧力の調整、ヒーター32及び処理容器11に設けられるヒーターによる処理容器11内の温度の調整、載置台31の昇降、及び昇降ピン36の昇降などの各動作が、制御信号によって制御される。上記のプログラムは、例えばコンパクトディスク、ハードディスク、光磁気ディスク、DVDなどの記憶媒体に格納されて、制御部10にインストールされる。
【0024】
続いて、成膜装置1におけるプリコート及び被処理膜の形成工程を図2図12を用いて説明する。これらの図2図12では、処理容器11内におけるガスの流れを矢印で示し、また、閉じているバルブVにはハッチングを付すことで、開いているバルブVと区別して表示している。また、各ガス流路についてガスが下流側へ流通している部位を、流通していない部位に比べて太く示すことでガスの流れを示している。なお、上記のようにTiClガス、TDMATガス、SiHガス及びNHガスについては、ガス供給源からタンクに供給されて一旦貯留されてから処理容器11に供給されるが、このタンクに貯留される際のガス供給源から当該タンクに向かうガスの流れについては、そのように太い流路として表示することを省略している。また、第4のガスであるTiClガス、第2のガスであるTDMATガス、第1のガスであるSiHガス、第3のガスであるNHガスを各々処理容器11内へ供給する期間を示すタイミングチャートである図13も適宜参照する。このタイミングチャートには、後述する各ステップが行われる期間も示している。また図14は、この成膜装置1で行われる一連の処理の手順を示すフローチャートであり、この図14も適宜参照する。このフローチャート中の各ステップを示すカラムについては、図13のタイミングチャートに示しているステップS1〜S14と区別するために、R1〜R5の符号を付して示している。
【0025】
先ず、バルブV1〜V8が閉じられ、プリコート膜が形成されておらず、且つ載置台31にウエハWが載置されていない状態で当該載置台31が処理位置に位置し、処理空間40が形成される。処理容器11内が排気されて、所定の圧力の真空雰囲気になり、バルブV2、V4、V6、V8が開かれて、ガスシャワーヘッド44から処理空間40にNガスが供給されると共に、ヒーター32及び処理容器11の側壁に設けられるヒーターにより処理容器11内の温度が上昇し、例えば400℃以上、700℃以下、より具体的には例えば460℃とされる(タイミングチャート中、時刻t1)。
【0026】
その後バルブV1が開かれ、ガスシャワーヘッド44から処理空間40にTiClガスが供給される(時刻t2)。このTiClガスが処理空間40を形成するガスシャワーヘッド44の表面及び載置台31の上面に吸着される(図2、ステップS1)。続いて、バルブV1が閉じられ(時刻t3)、ガスシャワーヘッド44からのTiClガスの供給が停止し、処理容器11内に残留するTiClガスはNガスによりパージされて除去される(図3、ステップS2)。その後、バルブV7が開かれ(時刻t4)、ガスシャワーヘッド44から処理空間40にNHガスが供給される。このNHガスが、処理空間40を形成するガスシャワーヘッド44の表面及び載置台31の上面に吸着されているTiClと反応し、プリコート膜の下層膜であるTiN膜61が形成される(図4、ステップS3)。続いて、バルブV7が閉じられて(時刻t5)、ガスシャワーヘッド44からのNHガスの供給が停止し、処理容器11内に残留するNHガスは、Nガスによりパージされて除去される(図5、ステップS4)。
【0027】
その後バルブV1が開かれ(時刻t6)、処理空間40にTiClガスが供給される。つまり上記のステップS1が再度行われる。このステップS1が行われた後は上記のステップS2〜S4が行われ、その後は、さらにステップS1〜S4が行われる。つまりステップS1〜S4を第1のサイクルとすると、この第1のサイクルが繰り返し行われ、TiN膜61の膜厚が上昇する。
【0028】
TiN膜61が所望の膜厚となるように第1のサイクルが所定の回数、例えば12000回行われた後、バルブV1〜V8のうちV2、V4、V6、V8が開かれ、処理空間40にNガスのみが供給される状態となる。以上のTiN膜61の形成ステップを、フローチャート中にステップR1として示している。そして、処理容器11内の温度が低下して例えば150℃以上、300℃以下の温度、より具体的には例えば200℃となる(時刻t7、ステップR2)。その後、バルブV5が開かれ、ガスシャワーヘッド44から処理空間40にSiHガスが供給される(時刻t8)。このSiHガスがTiN膜61の表面に吸着される。上記のように処理容器11内の温度は比較的低いが、TiNが触媒となることでそのような温度でもTiN膜61に吸着されたSiHは分解し、プリコート膜であるa-Si膜62が形成される(図6、ステップS5)。つまり、TiN膜61に積層されるように上層膜であるa-Si膜62が成膜される。時刻t8から例えば0.05秒経過すると、バルブV5が閉じられ(時刻t9)、ガスシャワーヘッド44からのSiHガスの供給が停止し、処理容器11内に残留するSiHガスはNガスによりパージされて除去される(図7、ステップS6)。
【0029】
時刻t9から例えば0.2秒経過すると、バルブV5が開かれ(時刻t10)、処理空間40にSiHガスが供給される。つまり上記のステップS5が再度行われる。このステップS5が行われた後は上記のステップS6が行われ、その後は、さらにステップS5、S6が行われる。つまりステップS5、S6を第2のサイクルとすると、この第2のサイクルが繰り返し行われ、a-Si膜62の膜厚が上昇する。当該第2のサイクルが所定の回数、例えば10〜200回繰り返し行われると、例えばバルブV1〜V8が閉じられてプリコートが終了する。以上のa-Si膜62の形成ステップを、フローチャート中にステップR3として示している。
【0030】
このようにa-Si膜62をTiN膜61に積層するように形成する理由を、載置台31の模式図である図15図17を参照して説明する。上記の図2図5で説明したステップS1〜S4(第1のサイクル)においてTiClとNHとを反応させてTiN膜61を形成するためには、処理容器11内を既述した比較的高い温度にする必要が有る。しかし、その後ウエハWにTiSiN膜を形成するにあたり、プリカーサーとしてはTiClを用いず、塩素を構成成分として含まないTDMATを用いる。これは発明が解決しようとする課題の項目で述べたように、塩素が不純物としてウエハWに形成される被処理膜に混入することを防ぐためである。なお、塩素を構成成分として含まないとは、不可避的に不純物として混入し得る塩素まで含まないとするものでは無い。
【0031】
有機金属化合物は分解温度が比較的低く、従って上記のTDMATについても同様に分解温度が比較的低い。そこで、ウエハWに吸着される前にTDMATが分解することを防ぐために、上記のようにTiN膜61を形成した後は、処理容器11内の温度を低下させている。図15はTiN膜61の成膜終了直後、処理容器11内の温度を低下させる前の載置台31を示しており、図16はそのように処理容器11内の温度を低下させた後の載置台31を示している。後述の評価試験の結果から、この温度の低下によりTiN膜61に割れが生じ、TiN、窒化されていないTi及びTiの酸化物であるTiOなどのTiにより構成される原子あるいは分子からなるパーティクルPが、図16に示すように発生すると考えられる。
【0032】
そのようにパーティクルPが発生した状態で、成膜を行うためにウエハWが載置台31に載置されると、当該パーティクルPはウエハWの裏面に付着し、当該ウエハWの裏面が汚染されてしまう。そこで、図6図7で説明したステップS5、S6(第2のサイクル)を実施し、TiN膜61の触媒効果により比較的低い温度で成膜可能なa-Si膜62を、TiN膜61を被覆するように形成することにより、パーティクルPのTiN膜61からの飛散及びウエハWへの接触を防止して、ウエハWの裏面が汚染されることを防ぐようにしている。図17はそのようにa-Si膜62が形成された載置台31を示している。
【0033】
続いて、上記のプリコート終了後に行われるウエハWへの成膜処理について説明する。例えば処理容器11内が上記のa-Si膜62の形成時の温度とされた状態のまま、既述のようにTiN膜61及びa-Si膜62が形成された載置台31が受け渡し位置へ下降する。そして、ゲートバルブ16が開かれ、搬送機構によりウエハWが処理容器11内に搬送され、当該載置台31に載置される(ステップR4)。従って、ウエハWはその裏面が載置台31に形成されたa-Si膜62に接するように載置される。搬送機構が処理容器11から退避してゲートバルブ16が閉じられると、載置台31が処理位置へ上昇し、処理空間40が形成されると共に、処理容器11内が所定の圧力の真空雰囲気となる一方で、ウエハWは処理容器11内と同じ温度になるように加熱される。従って、例えば150℃〜300℃となるようにウエハWが加熱される。
【0034】
続いて、バルブV2、V4、V6、V8が開かれ、ガスシャワーヘッド44から処理空間40にNガスが供給される。その後バルブV3が開かれて、ガスシャワーヘッド44から処理空間40にTDMATガスが供給され(時刻t11)、当該TDMATガスがウエハWに吸着される(図8、ステップS7)。続いて、バルブV3が閉じられて(時刻t12)、ガスシャワーヘッド44からのTDMATガスの吐出が停止し、処理容器11内に残留するTDMATガスはNガスによりパージされて除去される(図9、ステップS8)。その後、バルブV7が開かれ(時刻t13)、ガスシャワーヘッド44から処理空間40にNHガスが供給される。このNHガスが、ウエハWの表面に吸着されたTDMATガスと反応し、TiN膜の薄層が形成される(図10、ステップS9)。ただし、この薄層の図示は省略している。続いて、バルブV7が閉じられて(時刻t14)、ガスシャワーヘッド44からのNHガスの供給が停止し、処理容器11内に残留するNHガスは、Nガスによりパージされて除去される(図9、ステップS10)。
【0035】
その後、バルブV3が開かれ(時刻t15)、ウエハWにTDMATガスが供給される。つまり上記のステップS7が再度行われる。このステップS7が行われた後は上記のステップS8〜S10が行われ、その後は、さらにステップS7〜S10が行われる。つまりステップS7〜S10を第3のサイクルとすると、この第3のサイクルが繰り返し行われる。
【0036】
その後、バルブV5が開かれて、ガスシャワーヘッド44から処理空間40にSiH4ガスが供給され(時刻t16)、当該SiH4ガスがウエハWの表面のTiN膜上に吸着されて分解し、a-Si膜の薄層が形成される(図11、ステップS11)。なお、この薄層及び後述のSiNの薄層についての図示も省略している。続いて、バルブV5が閉じられて(時刻t17)、ガスシャワーヘッド44からのSiH4ガスの吐出が停止し、処理容器11内に残留するSiH4ガスはNガスによりパージされて除去される(図9、ステップS12)。その後、バルブV7が開かれ(時刻t18)、処理空間40にガスシャワーヘッド44からNHガスが供給される。このNHガスが、ウエハWに形成されたa-Si膜と反応しSiN(窒化シリコン)膜の薄層が形成される(図10、ステップS13)。
【0037】
続いて、バルブV7が閉じられて(時刻t19)、ガスシャワーヘッド44からのNHガスの供給が停止し、処理容器11内に残留するNHガスは、Nガスによりパージされて除去される(図9、ステップS14)。このステップS11〜S14を第4のサイクルとすると、当該第4のサイクルも、既述の各第1〜第3のサイクルと同様に繰り返し行われる。そして、この第4のサイクルが繰り返し行われた後は、再度第3のサイクル(ステップS7〜S10)が所定の回数、繰り返し行われ、その後、第4のサイクルが再度繰り返し行われる。このように第3のサイクルの繰り返しと第4のサイクルの繰り返しとが交互に行われることで、TiN膜の薄層とSiN膜の薄層とが交互にウエハWに堆積することで被処理膜であるTiSiN膜63が形成される。
【0038】
第3のサイクルの繰り返しと第4のサイクルの繰り返しとが各々所定の回数行われると、バルブV1〜V8が閉じられて成膜処理が終了する(図12)。以上のTiSiN膜63の形成ステップを、フローチャート中にステップR5として示している。その後、ウエハWは処理容器11への搬入時とは逆の動作で当該処理容器11から搬出される。なお、上記の処理例で第3のサイクルが繰り返し複数回行われた後に第4のサイクルが行われるものとして説明したが、第3のサイクルを1回だけ行った後、第4のサイクルを行ってもよい。同様に第4のサイクルについても繰り返し複数回行われず、1回だけ行われた後に第3のサイクルが行われるようにしてもよい。
【0039】
この成膜装置1によれば、TiClガスとNHガスとによりプリコート膜の下層膜としてTiN膜61を成膜し、処理容器11内の温度を低下させた後、SiHガスによりプリコート膜の上層膜としてTiN膜61上にa-Si膜62を形成している。そして、載置台31に形成されたa−Si膜62上にウエハWを載置し、TDMATガス、SiHガス及びNHガスを用いてTiSiN膜63をウエハWに形成している。a−Si膜62は非金属であることから、そのようにウエハWが載置されることでウエハWの裏面が金属汚染されることが無い。また、処理容器11内を降温させることでTiN膜61から生じたパーティクルについては、当該a−Si膜62がTiN膜61を被覆することにより、載置台31から脱離してウエハWに付着することが抑制されている。従って、ウエハWが当該TiNのパーティクルにより金属汚染されることが抑制される。さらに、上記のa-Si膜62については、ウエハWに成膜する被処理膜であるTiSiN膜63を形成するために用いるSiHガスを用いて成膜する。つまり、ウエハWに成膜を行うためのSiHガス供給源55E、MFC54E、流路52E及びバルブV5を利用してプリコートを行うため、プリコートを行うために成膜装置1の構成が複雑化することを避けることができる。
【0040】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係る成膜装置7について図18に示している。この成膜装置7における成膜装置1との差異点としては、ガス供給路51の上流側には分岐流路56が3つのみ設けられており、流路52A、52B及び当該流路52A、52Bが接続される分岐流路56については設けられていないことが挙げられる。従って、流路52A、52Bに接続されるTiClガス供給源55A、Nガス供給源55Bも設けられていない。このような差異点を除き、成膜装置7は成膜装置1と同様に構成されている。
【0041】
成膜装置7におけるプリコート及びウエハWへの被処理膜の形成について、成膜装置1おける処理との差異点を中心に説明する。先ず、ウエハWが載置台31に載置されていない状態で、上記の第2のサイクル(ステップS5、S6)を繰り返し行い、a-Si膜62からなるプリコートを行う。このプリコート時においては第1の実施形態と異なりTiN膜61が形成されていないため、SiHガスが分解してa-Siが生成するように、処理容器11内の温度は第1の実施形態におけるステップS5、S6を行うときの温度よりも高く、例えば500℃〜650℃とされる。図19はこのプリコートが終了し、a−Si膜62が形成されたときの処理空間40を示している。
【0042】
その後は、TDMATガスを用いて成膜が行えるように処理容器11内の温度が、第1の実施形態と同様に例えば150℃〜300℃となるように低下する。そして第1の実施形態と同様に処理容器11内にウエハWが搬入されて、その裏面が載置台31に形成されたa-Si膜62上に載置される。そして、図8図11で説明したように第3のサイクル(ステップS7〜S10)が1回以上、第4のサイクル(ステップS11〜S14)が1回以上、交互に繰り返し行われTiSiN膜63がウエハWに形成される。図20は、そのようにTiSiN膜63が形成されたときの処理空間40を示している。
【0043】
この成膜装置7によれば、TiN膜61が形成されないため当該TiN膜61からパーティクルが生成しない。従って、ウエハWの裏面がTiに汚染されることを、より確実に抑制することができる。また第1の実施形態と同様に、この第2の実施形態におけるプリコート膜であるa-Si膜62は、TiSiN膜63の成膜に用いるSiHガスを用いて成膜されるので、成膜装置7の構成が複雑化することを防ぐことができる。そして、載置台31に載置されるウエハWの裏面に接する膜が非金属であるa-Si膜62であることによっても、ウエハWの金属汚染が抑制される。
【0044】
ところで、プリコート膜であるSi(シリコン)により構成される膜としては、a-Si膜62であることに限られない。例えば、載置台31にウエハWが載置されていない状態で上記の第4のサイクル(ステップS11〜S14)を繰り返し行い、SiN膜を形成してプリコート膜としてもよい。つまり、第1の実施形態においてはTiN膜61上にa-Si膜62の代わりにSiN膜を積層してもよいし、第2の実施形態においてa-Si膜62の代わりにSiN膜を形成してもよい。このようにSiN膜をプリコート膜とする場合においても、当該SiN膜の形成にはウエハWに成膜するTiSiN膜63の形成に用いるガスが用いられるため、成膜装置の構成が複雑化することを防ぐことができる。また、各実施形態において、SiHガスを供給する際の温度を既述の温度より高い温度とすることで、a-Si膜62の代わりにポリシリコン膜を形成してもよい。また、SiH4ガスを比較的長い時間連続して処理容器11に供給することでa-Si膜62を形成してもよい。つまりCVDによってa−Si膜62を形成してもよい。さらにa−Si膜62及びTiSiN膜63を形成するためのガスとしては、SiH4ガスに限られず、Siガスなどであってもよい。なお、ウエハWに形成する被処理膜としては、Siを含有しないTiN膜であってもよい。つまり第3のサイクル(ステップS7〜S10)を繰り返し行い、TDMATガスとNHガスとからSiを含まないTiN膜を被処理膜としてウエハWに形成してもよい。
【0045】
ところでTiN膜63を形成するにあたり、Tiを含む有機金属化合物としてはTDMATの代わりに例えばテトラキスエチルメチルアミノチタン、テトラキスジエチルアミノチタンなどを用いてもよい。ところで、プリコート膜及び被処理膜として形成される金属化合物としてはTi(チタン)化合物には限られない。例えば、第1の実施形態において、下層側のプリコート膜としてはTaClガスとNHガスとによるALDによって、TiN膜61の代わりにTaN(窒化タンタル)膜を形成し、被処理膜として例えばTa(タンタル)を含む有機金属化合物であるTBTDET(ターシャリーブチルイミド−トリ−ジエチルアミドタンタル)、PET(ペンタエトキシタンタル)などのガスと、NH3ガスとのALDによりTiN膜63の代わりにTaN膜を形成してもよい。同様に第2の実施形態においても上記のTa(タンタル)を含む有機金属化合物であるガスとNHガスとを用いてALDを行うことにより、TiN膜63の代わりにTaN膜を形成してもよい。その他にトリメチルアルミニウムなどのアルミニウムを含む有機金属化合物のガスとNHガスとによりAlN(窒化アルミニウム)を成膜するようにしてもよい。つまり本発明は、Tiにより構成される金属膜をウエハWに形成する場合に限定されるものでは無い。
【0046】
また、第1の実施形態において、窒素を含むガスであるNHガスの代わりに例えばO(酸素)ガスやオゾンガスなどを供給して酸化を行うことで金属酸化膜を形成してもよい。具体的に述べると、TiClガスとO2ガスとを用いることで、TiN膜61の代わりにTiO(酸化チタン)膜をプリコート膜として形成してもよい。また、ウエハWに形成される被処理膜についてもTDMATガスとOガスとを用いて、TiO膜を形成するようにしてもよい。つまり、本発明はウエハWに金属窒化膜を形成する場合に限定されるものでは無い。また、有機金属化合物であるガスをウエハW表面の熱により分解させることで、ウエハWに金属膜が成膜されるような場合にも本発明を適用することができる。さらに、第1の実施形態におけるプリコート膜の下層膜であるTiN膜については、第3のサイクル(ステップS7〜S10)を繰り返し行う、つまりTiClガスの代わりにTDMATガスを用いることでTiN膜を形成してもよい。その場合にはTDMATが分解しないように、プリコート膜の形成開始から被処理膜の形成終了まで、処理容器11内を150℃〜300℃とする。なお、本発明は既述した実施形態に限定されるものでは無く、各実施形態は適宜変更したり、互いに組み合わせたりすることが可能である。
【0047】
(評価試験)
以下、本発明に関連して行われた評価試験について説明する。この評価試験においては、処理容器11内にプリコート膜を形成した後、200℃に加熱された処理容器11内にウエハWを搬送して、載置台31にウエハWを載置する。その後、処理容器11から搬出されたウエハWの裏面についてサンプルとして、全反射蛍光X線分析装置を使用することにより、1cmあたりの原子数を測定した。処理容器11内に形成されるプリコート膜の種類については、測定を行う度に変更し、測定される原子数の違いを調べた。
【0048】
具体的に、処理容器11内の温度を200℃として既述の第3のサイクル(ステップS7〜S10)を繰り返し行った。つまりTDMATにより形成したTiN膜をプリコート膜とした。このプリコート膜が形成されたときに処理容器11に搬入されたウエハWをサンプル1とする。また、処理容器11内の温度を460℃として既述の第1のサイクル(ステップS1〜S4)を繰り返し行った。つまりTiClにより形成したTiN膜をプリコート膜とし、200℃に処理容器11内の温度を低下させた後に、当該処理容器11内にウエハWを搬入した。このウエハWをサンプル2とする。
【0049】
また、サンプル2のウエハWの搬入時のプリコート膜と同じく処理容器11内の温度を460℃とし、TiCl4ガスにより当該プリコート膜としてTiN膜を形成した後、処理容器11内を200℃に低下させ、第2のサイクル(ステップS5、S6)を10サイクル行った。つまり、既述の第1の実施形態と同様にTiN膜61及びa-Si膜62からなるプリコート膜を形成して、処理容器11内にウエハWを搬入した。このウエハWをサンプル3とする。そして、サンプル3のウエハWを搬入したときのプリコート膜と同様にTiN膜61及びa-Si膜62からなるプリコート膜を形成したが、第2のサイクルは200サイクル行い、サンプル3のウエハWの搬入時よりもa-Si膜62の膜厚が大きくなるようにした。このプリコート膜が形成されたときに処理容器11内に搬入されたウエハWをサンプル4とする。
【0050】
サンプル1〜4におけるTi原子に関する測定結果としては、サンプル1が276121.5×1010atms/cm、サンプル2が472.658×1010atms/cm、サンプル3が52.728×1010atms/cm、サンプル4が10.891×1010atms/cmであった。このようにサンプル1〜4のうち、サンプル1については付着したTi原子の数が最も多い。これはTDMATにより形成されるTiNのプリコート膜は載置台31との接着性が低く、載置台31から剥離しやすいことによるものと考えられる。また、サンプル2においても付着したTi原子の数が比較的多い。これは図15図16で説明したように処理容器11内の降温により、TiN膜61の割れが生じたことによるものと考えられる。
【0051】
しかし、本発明の第1の実施形態でプリコートするサンプル3、4ではサンプル1、2に比べて付着しているTi原子の数が、大きく抑制されている。従って、この評価試験から本発明の効果が確認された。また、サンプル3、4ではa-Si膜62の厚さが大きいサンプル4の方がサンプル3よりも付着しているTi原子の数が少ない。従って、適切な大きさの膜厚を有するようにa-Si膜を形成することで、ウエハWへのTi原子の付着をより確実に抑制することができることが分かる。
【符号の説明】
【0052】
W ウエハ
1 成膜装置
10 制御部
11 処理容器
31 載置台
32 ヒーター
40 処理空間
55A TiClガス供給源
55C TDMATガス供給源
55E SiHガス供給源
55G NHガス供給源
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20