(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記壁材は、前記断熱材の上面を覆う上壁部と、前記断熱材の底面を覆う底壁部と、前記断熱材の外周面を覆う外側側壁部とをさらに有する、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の熱遮蔽部材。
チャンバーと、前記チャンバー内で前記融液を支持するルツボと、前記融液を加熱するヒーターと、前記ルツボを回転及び昇降させるルツボ駆動機構と、前記融液から前記単結晶を引き上げる単結晶引き上げ機構と、前記融液の上方に設置され、前記融液から引き上げられた前記単結晶を包囲して前記ヒーターからの輻射熱を遮蔽する請求項1乃至6のいずれか一項に記載の熱遮蔽部材とを備えることを特徴とする単結晶引き上げ装置。
ルツボ内の融液から単結晶を引き上げるチョクラルスキー法による単結晶の製造方法であって、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の熱遮蔽部材を用いて融液から引き上げられた単結晶を包囲することを特徴とする単結晶の製造方法。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板材料となるシリコン単結晶の多くはCZ法により製造されている。CZ法では石英ルツボ内に収容されたシリコン融液に種結晶を浸漬し、種結晶及び石英ルツボを回転させながら種結晶を徐々に引き上げることにより、種結晶の下端に大きな単結晶を成長させる。CZ法によれば、高品質のシリコン単結晶インゴットを高い歩留まりで製造することが可能である。
【0003】
CZ法により育成されるシリコン単結晶に含まれる欠陥の種類や分布は、結晶引き上げ速度Vと結晶引き上げ方向の結晶内温度勾配Gとの比V/Gに依存することが知られている。
【0004】
図11は、V/Gと結晶欠陥の種類及び分布との一般的な関係を示す図である。図示に示すように、V/Gが大きい場合には空孔が過剰となり、その凝集体であるボイドが発生する。ボイドは一般的にCOP(Crystal Originated Particle)と称される結晶欠陥である。一方、V/Gが小さい場合には格子間シリコン原子が過剰となり、その凝集体である転位クラスターが発生する。COPや転位クラスターなどのGrown-in欠陥を含まないシリコン単結晶を育成するためには、V/Gの厳密な制御が必要である。
【0005】
COP及び転位クラスターを含まないシリコン単結晶であっても、その結晶品質は必ずしも同じでなく、熱処理された場合の挙動が異なる複数の領域を含んでいる。具体的には、COPが発生する領域と転位クラスターが発生する領域との間には、V/Gが大きいほうから順に、OSF領域、Pv領域、Pi領域の三つの領域が存在する。
【0006】
OSF領域とは、As-grown状態(単結晶成長後に何の熱処理も行っていない状態)で板状酸素析出物(OSF核)を含んでおり、高温(一般的には1000〜1200℃)で熱処理した場合にOSF(Oxidation induced Stacking Fault)が発生する領域である。Pv領域とは、As-grown状態で酸素析出核を含んでおり、低温及び高温(例えば800℃と1000℃)の2段階の熱処理を施した場合に酸素析出物が発生しやすい領域である。Pi領域とは、As-grown状態で酸素析出核をほとんど含んでおらず、熱処理を施しても酸素析出物が発生しにくい領域である。こうしたPv領域とPi領域とを作り分けた高品質なシリコン単結晶を育成するためには、V/Gのさらに厳密な制御が必要である。
【0007】
単結晶の結晶引き上げ方向のV/Gは、単結晶の引き上げ速度Vに大きく依存する。したがって、結晶引き上げ方向のV/Gの制御は、結晶引き上げ速度Vを調整することにより行われる。一方、結晶引き上げ速度Vは、結晶引き上げ方向と直交する単結晶の径方向のどの位置でも同じであるため、単結晶の径方向のV/Gを制御するためには、単結晶の径方向の温度勾配Gを調整する必要があり、単結晶の中心部における温度勾配Gと外周部における温度勾配Gの差が所定の範囲内に収まるようにチャンバー内に適切な高温領域(ホットゾーン)を構築する必要がある。単結晶の径方向の温度勾配Gは、シリコン融液の上方に設けられた熱遮蔽部材によって制御され、これにより固液界面付近に適切なホットゾーンを構築することができる。
【0008】
無欠陥のシリコン単結晶を得るため、例えば特許文献1には、シリコン単結晶棒を包囲してヒーターからの輻射熱を遮る筒部と、筒部の下部に設けられた膨出部と、膨出部の内部に設けられたリング状の蓄熱部材とを備えた熱遮蔽部材が記載されている。
【0009】
また特許文献2には、熱遮蔽部材の下部に形成されたコーン状の放熱制御部と、放熱制御部上に配置された複数の熱輻射板とを備え、複数の熱輻射板の外周部が熱遮蔽部材にそれぞれ枢支され、複数の熱輻射板をそれぞれ回転させることでその角度を変更することができ、シリコン単結晶棒の肩部の形成時には複数の熱輻射板を起立させ、シリコン単結晶棒の直胴部の形成時には熱輻射板を倒伏させることが記載されている。
【0010】
また特許文献3には、シリコン単結晶棒を包囲する円筒部と、円筒部の下端部に設けられた膨出部と、円筒部内に挿入された状態で単結晶棒の外周面を包囲するリング状の断熱カバーと、膨出部の上方において断熱カバーを支持する支持部材とを備え、断熱カバーを上下方向に移動させることにより温度勾配の径方向分布を変更可能に構成された熱遮蔽部材が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、結晶引き上げ速度Vを精密に制御することによりV/Gを制御することができ、これにより無欠陥のシリコン単結晶を製造することが可能である。しかしながら、結晶引き上げ速度Vの精密な制御には限界があるため、無欠陥のシリコン単結晶を引き上げることができる結晶引き上げ速度の許容範囲(引き上げ速度マージン)を拡大することが求められている。
【0013】
シリコン単結晶3の直径制御は主に結晶引き上げ速度Vを調整することにより行われ、直径変動を抑えるために結晶引き上げ速度Vを適宜変化させており、結晶引き上げ工程中は0.015mm/min程度の速度変動が生じている。すなわち、結晶引き上げ速度Vの変動を完全になくすことはできないため、0.015mm/min程度の速度変動が生じても無欠陥結晶を引き上げられることが望ましい。
【0014】
したがって、本発明の目的は、無欠陥結晶が得られる引き上げ速度マージンを拡大することが可能な熱遮蔽部材及びこれを用いた単結晶引き上げ装置及び単結晶の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明者は、引き上げ速度マージンを拡大することが可能な熱遮蔽部材の構造について鋭意研究を重ねた結果、熱遮蔽部材の開口径を変更せずに内部の断熱材の開口径だけを大きくして膨出部の先端部の内部に空洞部を設けると共に、熱遮蔽部材の膨出部の内周面に凹部を設けて下向きの傾斜面を形成することにより、単結晶の径方向の温度勾配を理想温度勾配に近づけることができ、これにより引き上げ速度マージンを拡大できることを見出した。
【0016】
本発明はこのような技術的知見に基づくものであり、本発明による熱遮蔽部材は、チョクラルスキー法による単結晶の引き上げ装置に用いるものであって、融液から引き上げられた単結晶を包囲する円筒状の筒部と、前記筒部の下端部から径方向の内側に張り出した環状の膨出部とを備え、前記膨出部は、環状の断熱材と、前記断熱材を取り囲む壁材とを有し、前記壁材は、前記断熱材の内周面を覆う内側側壁部を有し、前記内側側壁部と前記断熱材の前記内周面との間には空洞部が設けられており、前記単結晶の外周面と向かい合う前記内側側壁部の外面には凹部が形成されており、前記内側側壁部の前記外面は下向きの傾斜面を有することを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、単結晶の径方向の温度勾配を理想温度勾配に近づけて結晶欠陥の径方向分布の平坦化を図ることができる。したがって、無欠陥結晶が得られる引き上げ速度マージンを拡大して無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができる。
【0018】
本発明において、前記内側側壁部の前記外面は、前記下向きの傾斜面の下方に配置された上向きの傾斜面をさらに有することが好ましい。この構成によれば、結晶内温度勾配を理想高温度勾配に近づけて結晶欠陥の径方向分布をさらに平坦化することができる。
【0019】
本発明において、前記下向きの傾斜面の高さは、前記上向きの傾斜面の高さよりも大きいことが好ましい。これによれば、引き上げ速度マージンをさらに拡大して無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができる。
【0020】
本発明において、前記凹部の断面形状は略V字状であり、前記下向きの傾斜面及び前記上向きの傾斜面は平坦面であることが好ましい。また、前記凹部の断面形状は略C字状であってもよく、前記下向きの傾斜面及び前記上向きの傾斜面は湾曲面であることもまた好ましい。いずれの場合も結晶内温度勾配を理想高温度勾配に近づけて結晶欠陥の径方向分布をさらに平坦化することができる。
【0021】
本発明において、前記壁材は、前記断熱材の上面を覆う上壁部と、前記断熱材の底面を覆う底壁部と、前記断熱材の外周面を覆う外側側壁部とをさらに有することが好ましい。このように、断熱材の周囲を壁材で取り囲んだ構造において、前記内側側壁部と前記断熱材の前記内周面との間に空洞部を設けることにより、前記内側側壁部の外面に下向きの傾斜面を設けることによる引き上げ速度マージンの改善効果を高めることができる。
【0022】
また、本発明による単結晶引き上げ装置は、チャンバーと、前記チャンバー内で前記融液を支持するルツボと、前記融液を加熱するヒーターと、前記ルツボを回転及び昇降させるルツボ駆動機構と、前記融液から前記単結晶を引き上げる単結晶引き上げ機構と、前記融液の上方に設置され、前記融液から引き上げられた前記単結晶を包囲して前記ヒーターからの輻射熱を遮蔽する上述した本発明による熱遮蔽部材とを備えることを特徴とする。本発明によれば、結晶内温度勾配を理想温度勾配に近づけることができ、これにより無欠陥結晶が得られる引き上げ速度マージンを拡大して無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができる。
【0023】
さらにまた、本発明による単結晶の製造方法は、ルツボ内の融液から単結晶を引き上げるチョクラルスキー法による単結晶の製造方法であって、上述した本発明による熱遮蔽部材を用いて融液から引き上げられた単結晶を包囲することを特徴とする。本発明によれば、結晶内温度勾配を理想温度勾配に近づけることができ、これにより無欠陥結晶が得られる引き上げ速度マージンを拡大して無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、無欠陥結晶が得られる引き上げ速度マージンを拡大することが可能な熱遮蔽部材及びこれを用いた単結晶引き上げ装置及び単結晶の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態による単結晶引き上げ装置の構成を示す略側面断面図である。
【0028】
図1に示すように、単結晶引き上げ装置1は、水冷式のチャンバー10と、チャンバー10内においてシリコン融液2を保持する石英ルツボ11と、石英ルツボ11を保持する黒鉛ルツボ12と、黒鉛ルツボ12を支持する回転シャフト13と、回転シャフト13を回転及び昇降駆動するシャフト駆動機構14と、黒鉛ルツボ12の周囲に配置されたヒーター15と、ヒーター15の外側であってチャンバー10の内面に沿って配置された断熱材16と、石英ルツボ11の上方に配置された熱遮蔽部材20と、石英ルツボ11の上方であって回転シャフト13と同軸上に配置された単結晶引き上げ用のワイヤー18と、チャンバー10の上方に配置されたワイヤー巻き取り機構19とを備えている。
【0029】
チャンバー10は、メインチャンバー10aと、メインチャンバー10aの上部開口に連結された細長い円筒状のプルチャンバー10bとで構成されており、石英ルツボ11、黒鉛ルツボ12、ヒーター15及び熱遮蔽部材20はメインチャンバー10a内に設けられている。プルチャンバー10bにはチャンバー10内にアルゴンガス等の不活性ガス(パージガス)やドーパントガスを導入するためのガス導入口10cが設けられており、メインチャンバー10aの下部にはチャンバー10内の雰囲気ガスを排出するためのガス排出口10dが設けられている。また、メインチャンバー10aの上部には覗き窓10eが設けられており、シリコン単結晶3の育成状況を覗き窓10eから観察可能である。
【0030】
石英ルツボ11は、円筒状の側壁部と湾曲した底部とを有する石英ガラス製の容器である。黒鉛ルツボ12は、加熱によって軟化した石英ルツボ11の形状を維持するため、石英ルツボ11の外表面に密着して石英ルツボ11を包むように保持する。石英ルツボ11及び黒鉛ルツボ12はチャンバー10内においてシリコン融液を支持する二重構造のルツボを構成している。
【0031】
黒鉛ルツボ12は回転シャフト13の上端部に固定されており、回転シャフト13の下端部はチャンバー10の底部を貫通してチャンバー10の外側に設けられたシャフト駆動機構14に接続されている。黒鉛ルツボ12、回転シャフト13及びシャフト駆動機構14は石英ルツボ11の回転機構及び昇降機構を構成している。
【0032】
ヒーター15は、石英ルツボ11内に充填されたシリコン原料を融解してシリコン融液2を生成すると共に、シリコン融液2の溶融状態を維持するために用いられる。ヒーター15はカーボン製の抵抗加熱式ヒーターであり、黒鉛ルツボ12内の石英ルツボ11を取り囲むように設けられている。ヒーター15の外側には断熱材16がヒーター15を取り囲むように設けられており、これによりチャンバー10内の保温性が高められている。
【0033】
熱遮蔽部材20は、シリコン融液2の温度変動を抑制して結晶成長界面近傍に適切なホットゾーンを形成するとともに、ヒーター15及び石英ルツボ11からの輻射熱によるシリコン単結晶3の加熱を防止するために設けられている。熱遮蔽部材20は略円筒状の黒鉛製の部材であり、シリコン単結晶3の引き上げ経路を除いたシリコン融液2の上方の領域を覆うように設けられている。
【0034】
熱遮蔽部材20の下端の開口20aの直径はシリコン単結晶3の直径よりも大きく、これによりシリコン単結晶3の引き上げ経路が確保されている。また熱遮蔽部材20の下端部の外径は石英ルツボ11の口径よりも小さく、熱遮蔽部材20の下端部は石英ルツボ11の内側に位置するので、石英ルツボ11のリム上端を熱遮蔽部材20の下端よりも上方まで上昇させても熱遮蔽部材20が石英ルツボ11と干渉することはない。
【0035】
シリコン単結晶3の成長と共に石英ルツボ11内の融液量は減少するが、融液面と熱遮蔽部材20との間のギャップが一定になるように石英ルツボ11を上昇させることにより、シリコン融液2の温度変動を抑制すると共に、融液面近傍を流れるガスの流速を一定にしてシリコン融液2からのドーパントの蒸発量を制御することができる。したがって、シリコン単結晶3の引き上げ軸方向の結晶欠陥分布、酸素濃度分布、抵抗率分布等の安定性を向上させることができる。
【0036】
石英ルツボ11の上方には、シリコン単結晶3の引き上げ軸であるワイヤー18と、ワイヤー18を巻き取るワイヤー巻き取り機構19が設けられている。ワイヤー巻き取り機構19はワイヤー18と共にシリコン単結晶3を回転させる機能を有している。ワイヤー巻き取り機構19はプルチャンバー10bの上方に配置されており、ワイヤー18はワイヤー巻き取り機構19からプルチャンバー10b内を通って下方に延びており、ワイヤー18の先端部はメインチャンバー10aの内部空間まで達している。
図1には、育成途中のシリコン単結晶3がワイヤー18に吊設された状態が示されている。シリコン単結晶3の引き上げ時には石英ルツボ11とシリコン単結晶3とをそれぞれ回転させながらワイヤー18を徐々に引き上げることによりシリコン単結晶3を成長させる。
【0037】
図2は、本実施形態によるシリコン単結晶の製造工程を示すフローチャートである。また、
図3は、シリコン単結晶インゴットの形状を示す略断面図である。
【0038】
図2に示すように、本実施形態によるシリコン単結晶3の製造工程は、石英ルツボ11内のシリコン原料をヒーター15で加熱することによりシリコン融液2を生成する原料融解工程S11と、ワイヤー18の先端部に取り付けられた種結晶を降下させてシリコン融液2に着液させる着液工程S12と、シリコン融液2との接触状態を維持しながら種結晶を徐々に引き上げて単結晶を育成する結晶育成工程(S13〜S16)を有している。
【0039】
結晶育成工程では、無転位化のために結晶直径が細く絞られたネック部3aを形成するネッキング工程S13と、結晶成長と共に結晶直径が徐々に増加したショルダー部3bを形成するショルダー部育成工程S14と、450mm以上の規定の結晶直径に維持されたボディ部3cを形成するボディ部育成工程S15と、結晶成長と共に結晶直径が徐々に減少したテール部3dを形成するテール部育成工程S16とが順に実施される。
【0040】
その後、シリコン単結晶3を融液面から切り離して冷却する冷却工程S17が実施される。以上により、
図3に示すようなネック部3a、ショルダー部3b、ボディ部3c及びテール部3dを有するシリコン単結晶インゴット3が完成する。
【0041】
図11に示したように、シリコン単結晶3に含まれる結晶欠陥の種類や分布は、結晶引き上げ速度Vと結晶内温度勾配Gとの比V/Gに依存する。V/Gが大きい場合には空孔が過剰となり、空孔の凝集体であるボイド(COP)が発生する。一方、V/Gが小さい場合には格子間シリコン原子が過剰となり、格子間シリコンの凝集体である転位クラスターが発生する。さらに、COPが発生する領域と転位クラスターが発生する領域との間には、V/Gが大きいほうから順に、OSF領域、Pv領域、Pi領域の三つの領域が存在する。シリコン単結晶3が無欠陥結晶であると言うためには、COPや転位クラスターなどのGrown-in欠陥を含まず、且つ、評価熱処理後にOSFリングが発生しないことが必要であり、単結晶の断面内の全面が無欠陥結晶であることが必要である。
【0042】
結晶引き上げ速度Vを制御して無欠陥結晶を高い歩留まりで育成するためには、引き上げ速度マージンができるだけ広いことが好ましい。引き上げ速度マージンは具体的には
図11で示されるVmgnであり、シリコン単結晶3中の任意の領域をPv領域又はPi領域とすることができる結晶引き上げ速度Vの許容幅のことを言う。通常、引き上げ速度マージンVmgnはPv−OSF境界からPi−転位クラスター境界までのV/Gの幅の広さに相関する。すなわち、Pv−OSF境界(下限)からPi−転位クラスター境界(上限)までのV/Gの幅が大きくなるほど、引き上げ速度マージンVmgnは大きくなり、逆にPv−OSF境界(下限)からPi−転位クラスター境界(上限)までのV/Gの幅が小さいなるほど、引き上げ速度マージンVmgnは小さくなる。
【0043】
無欠陥結晶が得られる引き上げ速度マージンVmgnは、結晶欠陥の径方向分布を平坦化することによって拡大することができる。この結晶欠陥の径方向分布の平坦化を実現する臨界(V/G)
criは、空孔の濃度と格子間シリコンの濃度が等しくなる条件から理論的に求めることができ、以下の式(1)で与えられる。
(V/G)
cri=6.68×10
−4σ
mean+0.159 ・・・(1)
【0044】
ここで、σ
meanは、結晶内の任意の位置の応力である。上記式(1)から明らかなように、格子間シリコン濃度と空孔濃度とが等しくなる(V/G)
criは、結晶内の応力に依存する。上記(V/G)
criは、伝熱計算等により結晶内の応力分布から求めることができる。また、引き上げ速度Vは径方向で一定であるため、結晶欠陥の径方向分布の平坦化を実現する理想温度勾配G
idealは上記(1)式から、以下の式(2)として求めることができる。
G
ideal=V/(6.68×10
−4σ
mean+0.159) ・・・(2)
【0045】
図4は、理想温度勾配G
idealの一例を示すグラフであって、横軸は単結晶の半径方向の位置(相対値)、縦軸は温度勾配(℃/mm)を示している。図示のように、理想温度勾配G
idealは単結晶の中心において最も高く、最外周に向かって緩やかに減少する。このような理想温度勾配G
idealを実現することができれば、引き上げ速度マージンを最大化することが可能である。
【0046】
温度勾配Gを理想温度勾配G
idealに近づけて引き上げ速度マージンを拡大するため、本実施形態による単結晶引き上げ装置1では以下に示す熱遮蔽部材20が用いられる。
【0047】
図5は、熱遮蔽部材20の構成を詳細に示す略断面図である。
【0048】
図5に示すように、熱遮蔽部材20は、黒鉛製の壁材21により構成された筐体の内部に断熱材Hが収容された構造体であって、シリコン融液2から引き上げられた円柱状のシリコン単結晶3の外周面を包囲する円筒状の筒部22と、筒部22の下端部から径方向の内側に張り出した環状の膨出部23とを備えている。筒部22は、内壁部22aと外壁部22bとを有し、これらの壁材21の間に断熱材Hが設けられている。また膨出部23は、上壁部23aと、底壁部23bと、内側側壁部23cと、外側側壁部23dとを有しており、これらの壁材21に取り囲まれた空間内に断熱材Hが設けられている。
【0049】
膨出部23内の環状の断熱材Hの開口径(開口半径r
h)は、熱遮蔽部材20の開口径(開口半径r
s)よりも十分に大きく、これにより熱遮蔽部材20の内側側壁部23cと断熱材Hとの間には空洞部Vが設けられている。膨出部23の先端内部に空洞部Vを設けることにより、シリコン単結晶3の径方向の結晶内温度勾配Gを理想温度勾配G
idealに近づけて引き上げ速度マージンを拡大することができる。また、熱遮蔽部材20の開口半径r
sを断熱材Hの開口半径r
hよりも小さくすることにより、シリコン単結晶3と熱遮蔽部材20との間の隙間17aを狭めてこの隙間17aに流れる不活性ガスの流速を維持することができ、これにより結晶のくねり等の変形を抑制することができる。
【0050】
なお、内側側壁部23cの外周面が断熱材Hの内周面に沿う面形状でない場合、すなわち、内側側壁部23cの外周面形状と断熱材Hの内周面形状が異なる場合には、空洞部Vが設けられていると認めることができる。また、内側側壁部23cの外周面が断熱材Hの内周面に沿う面形状である場合、すなわち、内側側壁部23cの外周面形状と断熱材Hの内周面形状が同じであって、これら面が一定の距離(例えば5mm以上)を隔てて平行に配置されている場合も、寸法公差の関係で生じた隙間でなく、空洞部Vが設けられていると認めることができる。
【0051】
熱遮蔽部材20の開口半径r
sとは、結晶引き上げ軸3zと一致する熱遮蔽部材20の中心軸から内側側壁部23cの外面までの最短距離である。また、断熱材Hの開口半径r
hとは、熱遮蔽部材20の中心軸から断熱材Hの内側側面までの最短距離である。熱遮蔽部材20の開口半径r
sと断熱材Hの開口半径r
hとの差は少なくとも15mmであり、引き上げ速度マージンの拡大の観点から25mm以上であることが好ましく、70mm以上であることが特に好ましい。また石英ルツボ11に対する熱負荷の増加や単結晶3の有転位化を防止する観点から、熱遮蔽部材20の開口半径r
sと断熱材Hの開口半径r
hとの差は200mm以下であることが好ましく、150mm以下であることが特に好ましい。
【0052】
従来の熱遮蔽部材20において、断熱材Hを覆う壁材21は、断熱材Hの落下を防ぐための単なる外壁材であり、熱遮蔽部材20の開口半径r
sを変更せずに断熱材Hの開口半径r
hだけを大きくするという発想はこれまで存在しなかった。しかし、本実施形態のように断熱材Hの開口径を大きくして膨出部23の先端内部に空洞部Vを設けることにより、径方向の結晶内温度勾配Gを理想温度勾配G
idealに近づけて引き上げ速度マージンを拡大することができる。
【0053】
本実施形態において、熱遮蔽部材20の膨出部23の内周面である内側側壁部23cの外面には、断面視で略V字状の凹部30が形成されている。これにより、内側側壁部23cの外面は、内側側壁部23cの上部に設けられた下向きの傾斜面30aと、内側側壁部23cの下部に設けられた上向きの傾斜面30bを有している。ここで、下向きの傾斜面とは、シリコン単結晶3の方向への法線の向きが下向きである傾斜面のことを言う。また、上向きの傾斜面とは、シリコン単結晶3の方向への法線の向きが上向きである傾斜面のことを言う。
【0054】
上記のように、膨出部23の先端部を空洞化した場合には当該先端部が高温化しやすく、さらに、熱遮蔽部材20の膨出部23の内周面に凹部30を形成して下向きの傾斜面30aを設けた場合には、単結晶3の中心部から見える内側側壁部23cの領域が増えるので、シリコン単結晶3への入熱量を増やすことができ、シリコン単結晶3の径方向の結晶内温度勾配Gを理想温度勾配G
idealに近づけることができる。したがって、結晶欠陥の径方向分布を平坦化することができ、結晶引き上げ速度マージンを拡大することができる。
【0055】
熱遮蔽部材20の膨出部23の内周面に設けられる凹部30の深さdは10mm〜30mmであることが好ましい。凹部30の深さが10mmよりも浅い場合には凹部30を設けることによる効果が得られず、凹部30の深さが30mmよりも深い場合にも凹部30を設けることによる効果が弱くなるからである。
【0056】
本実施形態において、下向きの傾斜面30aの高さh
1は、上向きの傾斜面30bの高さh
2よりも大きいことが好ましい。このように下向きの傾斜面30aを相対的に広くすることでシリコン単結晶3の径方向の結晶内温度勾配Gを理想温度勾配G
idealにより一層近づけることができる。
【0057】
本実施形態において、凹部30の断面形状は略V字状であり、下向きの傾斜面30a及び上向きの傾斜面30bは共に平坦面であるが、凹部30の断面形状は略C字状であってもよい。また、本実施形態において内側側壁部23cの厚さはほぼ一定であるが、内側側壁部23cの厚さが高さ方向に沿って変化していてもよい。
【0058】
図6(a)〜(e)は、熱遮蔽部材20の膨出部23の形状のバリエーションを示す略断面図である。
【0059】
図6(a)及び(b)に示す熱遮蔽部材20は、膨出部23の内周面に形成された凹部30の断面形状が略V字状であり、下向きの傾斜面30a及び上向きの傾斜面30bは平坦面を構成している。
【0060】
このうち、
図6(a)の熱遮蔽部材20は
図5(a)と同一であって、下向きの傾斜面30aの高さh
1が上向きの傾斜面30bの高さh
2よりも大きい場合である。そのため、垂直面に対する下向きの傾斜面30aの傾斜角度θ
1は、下向きの傾斜面30bの傾斜角度θ
2よりも小さい。
【0061】
図6(b)の熱遮蔽部材20は、下向きの傾斜面30aの高さh
1が上向きの傾斜面30bの高さh
2よりも小さい場合である。そのため、垂直面に対する下向きの傾斜面30aの傾斜角度θ
1は、下向きの傾斜面30bの傾斜角度θ
2よりも大きい。
【0062】
図示しないが、下向きの傾斜面30aの高さh
1と上向きの傾斜面30bの高さh
2は同じでもよい。この場合、垂直面に対する下向きの傾斜面30aの傾斜角度θ
1は、下向きの傾斜面30bの傾斜角度θ
2と同じになる。
【0063】
図6(c)及び(d)に示す熱遮蔽部材20は、膨出部23の内周面に形成された凹部30の断面形状が略C字状であり、下向きの傾斜面30a及び上向きの傾斜面30bは湾曲面を構成している。
【0064】
このうち、
図6(c)の熱遮蔽部材20は、下向きの傾斜面30aの高さh
1が上向きの傾斜面30bの高さh
2よりも大きい場合である。また
図6(d)の熱遮蔽部材20は、下向きの傾斜面30aの高さh
1が上向きの傾斜面30bの高さh
2よりも小さい場合である。図示しないが、下向きの傾斜面30aの高さh
1と上向きの傾斜面30bの高さh
2は同じでもよい。
【0065】
図6(e)に示す熱遮蔽部材20は、膨出部23の内周面を構成する内側側壁部23cの厚さが一定ではなく、内側側壁部23cの外面に凹部30が設けられているのに対し、内側側壁部23cの内面が平坦面(垂直面)となっている点にある。この場合も内側側壁部23cの内面は断熱材Hと接触しておらず、これにより内側側壁部23cと断熱材Hとの間には空洞部Vが設けられている。
【0066】
図7(a)〜(d)は、本実施形態による熱遮蔽部材20を用いた場合に得られる引き上げ速度マージンを従来の熱遮蔽部材と比較するための図であって、(a)は従来の熱遮蔽部材の構造、(b)は従来の結晶欠陥分布、(c)は本実施形態による熱遮蔽部材の構造、(d)は本実施形態による結晶欠陥分布をそれぞれ示している。
【0067】
図7(a)に示す従来の熱遮蔽部材を用いた場合には、
図7(b)に示すように結晶欠陥の径方向分布は面内で大きく変動するので、引き上げ速度マージンVmgnは狭くなる。しかし、
図7(c)に示す本実施形態による熱遮蔽部材を用いた場合には、
図7(d)に示すように結晶欠陥の径方向分布が平坦化されるので、その拡大幅は僅かではあるが、従来よりも引き上げ速度マージンVmgnを広くすることができる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態による単結晶引き上げ装置1は、シリコン融液2から引き上げられたシリコン単結晶3を包囲する熱遮蔽部材20を備え、熱遮蔽部材20の膨出部23の先端部の内部に空洞部Vを設けると共に、当該膨出部23の内周面に下向きの傾斜面30aを含む凹部30を形成しているので、単結晶の径方向の温度勾配を最適温度勾配分布に近づけることができる。したがって、引き上げ速度マージンVmgnを広げて無欠陥結晶の製造歩留まりを高めることができる。
【0069】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0070】
例えば、上記実施形態においては、シリコン単結晶の引き上げに用いる熱輻射部材を例に挙げたが、本発明による熱輻射部材の用途はシリコン単結晶の引き上げに限定されるものではなく、種々の単結晶の引き上げに用いることができる。
【実施例】
【0071】
熱遮蔽部材の膨出部の形状が引き上げ速度マージンに与える影響について検討した。まず膨出部の内周面が垂直面からなり、膨出部の内部に空洞部を形成しない比較例による熱遮蔽部材を用いたときの引き上げ速度マージンを点欠陥シミュレーションにより評価した。そして、比較例の引き上げ速度マージンを基準値("1")とした。
【0072】
【表1】
【0073】
次に、膨出部の先端部の内部に空洞部を設けると共に、膨出部の内周面に略V字状の凹部を形成した点以外は比較例と同一構造の実施例1による熱遮蔽部材を用いたときの引き上げ速度マージンを点欠陥シミュレーションにより評価した。その結果、表1に示すように、略V字状の凹部を形成した実施例1の引き上げ速度マージンは比較例の1.33倍となり、比較例よりも良好な結果となった。
【0074】
次に、膨出部の先端部の内部に空洞部を設けると共に、膨出部の内周面に略C字状の凹部を形成した点以外は比較例と同一構造の実施例2による熱遮蔽部材を用いたときの引き上げ速度マージンを点欠陥シミュレーションにより評価した。その結果、表1に示すように、略C字状の凹部を形成した実施例2の引き上げ速度マージンは1.25倍となり、比較例よりも良好な結果となった。
【0075】
熱遮蔽部材の膨出部の内周面に形成された略V字状の凹部の形状の違いが単結晶の温度に与える影響について検討した。詳細には、熱遮蔽部材の膨出部の内周面に下向きの傾斜面と下向きの傾斜面をそれぞれ形成するための傾斜の頂点(C点)の座標を変えたときに単結晶が受ける輻射熱の分布を評価した。なおC点の座標の原点(O点)は、熱遮蔽部材の膨出部の下端としている。
【0076】
図8は、実施例3〜6による熱遮蔽部材の膨出部の凹部の形状を示す図であって、特に凹部の傾斜の頂点(C点)の位置の違いを示す図である。
【0077】
図8に示すように、実施例3は、下向きの傾斜面の高さh
1よりも上向きの傾斜面の高さh
2のほうが大きい場合、実施例4は、実施例3よりも凹部の深さdがさらに15mmほど深い場合、実施例5は、下向きの傾斜面の高さh
1よりも上向きの傾斜面の高さh
2のほうが小さい場合、実施例6は、実施例5よりも凹部の深さdがさらに15mmほど深い場合である。
【0078】
図9は、実施例3〜6の伝熱計算(点欠陥シミュレーション)の結果を示すグラフであり、縦軸は融液面から150mm上方における結晶外周面が受ける輻射熱量であり、比較例(Ref.)の入熱量を1とした場合の相対値をとったものである。
【0079】
図9に示すように、熱遮蔽部材の膨出部の内周面に略V字状の凹部を設けた場合には、凹部を設けない比較例(Ref.)に比べて輻射熱量が増加した。特に、実施例6>実施例4、実施例5>実施例3であり、下向きの傾斜面の高さを上向きの傾斜面の高さよりも大きくすることにより輻射熱量が増加することがわかる。このように、熱遮蔽部材の膨出部の内周面の形状を変更することにより、単結晶への入熱量を増やすことができることが分かった。
【0080】
次に、伝熱計算の結果から実施例3〜6の引き上げ速度マージンを計算したところ、
図10に示すように、比較例(Ref.)よりも引き上げ速度マージンが改善する結果となった。特に、実施例6>実施例4、実施例5>実施例3であり、下向きの傾斜面の高さを上向きの傾斜面の高さよりも大きくすることにより引き上げ速度マージンが増加することがわかる。
【課題】チョクラルスキー法による単結晶の引き上げにおいて、無欠陥結晶が得られる単結晶の引き上げ速度マージンを拡大することが可能な熱遮蔽部材及びこれを用いた単結晶引き上げ装置並びにシリコン単結晶の製造方法を提供する。
【解決手段】熱遮蔽部材20は、融液から引き上げられた単結晶3を包囲する円筒状の筒部と22、筒部の下端部から径方向の内側に張り出した環状の膨出部23とを備え、膨出部23は、環状の断熱材Hと、断熱材Hを取り囲む壁材21とを有する。壁材21は、断熱材Hの内周面を覆う内側側壁部23cを有し、内側側壁部23cと断熱材Hの内周面との間には空洞部Vが設けられており、単結晶3の外周面と向かい合う内側側壁部23cの外面には凹部30が形成されており、内側側壁部23cの外面は下向きの傾斜面30aを有する。