(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る有機ケイ素化合物は、式(1)で表される。なお、式(1)および後述の式(4)において、各繰り返し単位の順序は任意である。
【0012】
ここで、R
1は、互いに独立して、非置換もしくは置換の炭素数1〜10のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素数6〜10のアリール基を表し、R
2は、互いに独立して、非置換もしくは置換の炭素数1〜10のアルキル基、または非置換もしくは置換の炭素数6〜10のアリール基を表し、R
3は、互いに独立して、水素原子またはメチル基を表し、A
1は、単結合、O、S、NHまたはヘテロ原子を含む2価の連結基を表し、A
2は、単結合、またはヘテロ原子を含んでいてもよい、非置換もしくは置換の炭素数1〜20の二価炭化水素基を表し、aおよびcは、互いに独立して、0より大きい数であり、b、d、eおよびfは、互いに独立して0以上の数であり、mは、1〜3の整数を表す。なお、「単結合」とは、その両側の基が直接結合する形態を意味し、A
2が単結合の場合は、A
1とSiとが直接結合する形態となる。
【0013】
炭素数1〜10のアルキル基としては、直鎖状、環状、分枝状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デシル等の直鎖または分岐状アルキル基、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基等のシクロアルキル基が挙げられる。
炭素数6〜10のアリール基の具体例としては、フェニル、α−ナフチル、β−ナフチル基等が挙げられる。
また、これら各基の水素原子の一部または全部は、炭素数1〜10のアルキル基、F、Cl、Br等のハロゲン原子、シアノ基等で置換されていてもよく、そのような基の具体例としては、3−クロロプロピル、3,3,3−トリフルオロプロピル、2−シアノエチル、トリル、キシリル基等を例示することができる。
【0014】
これらの中でも、R
1としては、加水分解性の観点から、炭素数1〜5の直鎖のアルキル基が好ましく、メチル、エチル基がより好ましく、エチル基がより一層好ましい。
一方、R
2としては、直鎖のアルキル基が好ましく、メチル、エチル基がより好ましく、メチル基がより一層好ましい。
また、mは、1〜3の整数であるが、加水分解性の観点から、2〜3が好ましく、3がより好ましい。
【0015】
上記R
3は、その全てが水素原子であっても、その全てがメチル基であってもよく、また、任意の比率で水素原子およびメチル基をともに含んでいてもよい。
【0016】
上記A
1のヘテロ原子を含有する二価の連結基の具体例としては、スルホニル結合(−S(=O)
2−)、ホスフィニル結合(−P(=O)OH−)、オキソ結合(−C(=O)−)、チオオキソ結合(−C(=S)−)、エステル結合(−C(=O)O−)、チオエステル結合(−C(=O)S−)、チオノエステル結合(−C(=S)O−)、ジチオエステル結合(−C(=S)S−)、炭酸エステル結合(−OC(=O)O−)、チオ炭酸エステル結合(−OC(=S)O−)、アミド結合(−C(=O)NH−)、チオアミド結合(−C(=S)NH−)、ウレタン結合(−OC(=O)NH−)、チオウレタン結合(−SC(=O)NH−)、チオノウレタン結合(−OC(=S)NH−)、ジチオウレタン結合(−SC(=S)NH−)、尿素結合(−NHC(=O)NH−)、チオ尿素結合(−NHC(=S)NH−)等が挙げられる。
A
1としては、O(エーテル結合)またはウレタン結合(−OC(=O)NH−)が好ましい。
【0017】
一方、A
2のヘテロ原子を有していてもよい、炭素数1〜20の二価炭化水素基の具体例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、プロピレン、イソプロピレン、テトラメチレン、イソブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、ヘプタメチレン、オクタメチレン、ノナメチレン、デカメチレン、ウンデカメチレン、ドデカメチレン、トリデカメチレン、テトラデカメチレン、ペンタデカメチレン、ヘキサデカメチレン、へプタデカメチレン、オクタデカメチレン、ノナデカメチレン、エイコサデシレン基等のアルキレン基;シクロペンチレン、シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基;フェニレン、α−,β−ナフチレン基等のアリーレン基などが挙げられる。
また、これらの基は、その分子鎖中にO、S、NH等のヘテロ原子を含んでいてもよく、また、上記二価の連結基を含んでいてもよく、さらに、その水素原子の一部または全部が、炭素数1〜10のアルキル基、F、Cl、Br等のハロゲン原子、シアノ基等で置換されていてもよい。そのような基の具体例としては、トリレン、キシリレン基等が挙げられる。
これらの中でも、トリメチレン、オクタメチレン基が好ましく、トリメチレン基がより好ましい。
【0018】
したがって、−A
1−A
2−基としては、式(2)で表されるウレタン結合(−OC(=O)NH−)を有するトリメチレン基、式(3)で表されるエーテル結合(−O−)を有するトリメチレン基が好適である。
【0020】
また、上記式(1)で表される有機ケイ素化合物の重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、当該化合物を含む組成物の粘度等を適切な範囲として作業性を向上させるとともに、得られる硬化物に、十分な疎水性、耐熱性および耐クラック性を付与することを考慮すると、重量平均分子量1,000〜10万が好ましく、5,000〜7万が好ましく、1〜5万がより一層好ましい。なお、本発明における重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算値である。
また、そのエポキシ当量は、有機樹脂との反応点が増加させて有機樹脂との結合力をより高めることを考慮すると、100〜10,000g/molが好ましく、300〜5,000g/molがより好ましく、400〜3,500g/molがより一層好ましく、500〜3,000g/molがさらに好ましい。
【0021】
式(1)で表される有機ケイ素化合物のうち、A
1がウレタン結合のものは、式(4)で表される1分子中にエポキシ基および水酸基を有する化合物と、式(5)で表されるイソシアネート基およびアルコキシシリル基を有する化合物(以下、イソシアネートシランという)とを反応させて得ることができる。
より具体的には、式(4)で表される化合物の水酸基と、イソシアネートシランのイソシアネート基との間でウレタン結合を形成する反応を行う。
【0022】
【化9】
(式中、R
1、R
2、R
3、A
2、a〜f、およびmは、前記と同じ意味を表す。)
【0023】
1分子中にエポキシ基と水酸基とを有する式(4)で表される化合物において、エポキシ基と水酸基のmol比率(エポキシ基のmol数/水酸基のmol数)は1〜100が好ましく、2〜50がより好ましく、3〜20がより一層好ましい。
また、そのエポキシ当量は、製造の容易性および得られる有機ケイ素化合物の特性等を考慮すると、80〜10,000g/molが好ましく、200〜5,000g/molがより好ましく、400〜3,500g/molがより一層好ましい。
【0024】
式(4)で表される化合物としては、市販品を用いてもよく、例えば、(株)クラレ製L−207(末端エポキシ化水添ブタジエン−イソプレン共重合ポリマー、クレイトンポリマージャパン社製KRATON LIQUID(商標)Polymers(KLP)L−207に同じ)等を用いることができる。
【0025】
一方、イソシアネートシランの具体例としては、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルジメチルメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルメチルジエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルジメチルエトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、加水分解性の観点から、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランが好ましく、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシランがより好ましい。
【0026】
式(4)で表される1分子中にエポキシ基と水酸基とを有する化合物と、イソシアネートシランとの反応割合は、ウレタン化反応時の副生物を抑制するとともに、得られる有機ケイ素化合物の保存安定性や特性を高めることを考慮すると、式(4)で表される化合物中の水酸基1molに対し、イソシアネートシランのイソシアネート基が0.01〜1.2molとなる割合が好ましく、0.1〜1.1molとなる割合がより好ましく、0.5〜1molとなる割合がより一層好ましい。
【0027】
また、上記ウレタン化反応には、反応速度向上のため触媒を使用してもよい。
触媒としては、一般的にウレタン化反応で使用されているものから適宜選択すればよく、その具体例としては、ジブチルスズオキシド、ジオクチルスズオキシド、スズ(II)ビス(2−エチルヘキサノエート)、ジブチルスズジラウレート、ジオクチルスズジラウレート等が挙げられる。
触媒の使用量は触媒量であればよいが、通常、式(4)で表される化合物とイソシアネートシランの合計に対して0.001〜1質量%である。
【0028】
さらに、上記ウレタン化反応には、用いる原料と反応しない溶媒を用いることができる。
その具体例としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコール−1−モノメチルエーテル−2−アセタート等のエステル系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒などが挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0029】
ウレタン化反応時の反応温度は、特に限定されるものではないが、反応速度を適切にしつつ、アロファネート化等の副反応を抑制することを考慮すると、25〜90℃が好ましく、40〜80℃がより好ましい。
反応時間は特に制限されないが、通常10分〜24時間である。
【0030】
また、式(1)で表される有機ケイ素化合物のうち、A
1がエーテル結合のものは、第1段階として、上記式(4)で表される1分子中にエポキシ基および水酸基を有する化合物と、この水酸基と反応し得る官能基とアルケニル基とを有する化合物とを反応させてアルケニル化合物とした後、第2段階において、第1段階で得たアルケニル化合物と、式(6)で表されるシラン化合物とを反応させて得ることができる。
より、具体的には、第1段階では、水酸基と反応し得る官能基と水酸基とを反応させ、式(4)で表される化合物とアルケニル基を有する化合物とをエーテル結合にてカップリングし、第2段階では、第1段階で得たアルケニル化合物と、式(6)で表されるシラン化合物とを白金化合物含有触媒の存在下でヒドロシリル化し、アルケニル基にヒドロシリル基を付加させて炭素−ケイ素結合を形成する。
【0031】
【化10】
(式中、R
1、R
2およびmは、上記と同じ意味を表す。)
【0032】
第1段階で用いる水酸基と反応し得る官能基とアルケニル基とを有する化合物が有する上記官能基としては、エポキシ基と反応せず、水酸基と選択的に反応する官能基であれば特に限定されるものではなく、ハロゲン原子、メタンスルホネート基、トリフルオロメタンスルホネート基、p−トルエンスルホネート基等が挙げられるが、ハロゲン原子が好ましく、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子がより好ましい。
【0033】
ハロゲン原子とアルケニル基とを有する化合物(以下、ハロゲン化アルケニル化合物という)の具体例としては、塩化アリル、塩化メタリル、塩化ブテニル、塩化ペンテニル、塩化ヘキセニル、塩化ヘプテニル、塩化オクテニル、塩化ノネニル等の塩化アルケニル化合物;臭化アリル、臭化メタリル、臭化ブテニル、臭化ペンテニル、臭化ヘキセニル、臭化ヘプテニル、臭化オクテニル、臭化ノネニル等の臭化アルケニル化合物;ヨウ化アリル、ヨウ化メタリル、ヨウ化ブテニル、ヨウ化ペンテニル、ヨウ化ヘキセニル、ヨウ化ヘプテニル、ヨウ化オクテニル、ヨウ化ノネニル等のヨウ化アルケニル化合物などが挙げられる。
これらの中でも、反応性および入手容易性の観点から、塩化アリル、塩化ヘキセニル、塩化オクテニル、臭化アリル、ヨウ化アリルが好ましく、塩化アリル、塩化オクテニル、臭化アリルがより好ましく、臭化アリルがより一層好ましい。
【0034】
第1段階の反応は、従来公知の一般的な方法で行うことができ、例えば、塩基性化合物の存在下、水酸基とハロゲン化アルケニル化合物等との求核置換反応による非対称エーテルの合成法(ウィリアムソン合成、ウィリアムソンエーテル合成)などを採用できる。
【0035】
この場合、式(4)で表される化合物とハロゲン化アルケニル化合物との反応割合としては、特に限定されるものではないが、未反応の原料をより少なくし、得られる有機ケイ素化合物の保存安定性や諸特性を高めることを考慮すると、式(4)で表される化合物の水酸基1molに対し、ハロゲン化アルケニル化合物のハロゲン原子1〜20molとなる割合が好ましく、1〜10molとなる割合がより好ましく、2〜5molとなる割合がより一層好ましい。
【0036】
また、上記塩基性化合物としては、通常、ウィリアムソン合成法に用いられている各種の塩基性化合物を使用でき、式(4)で表される化合物が有するエポキシ基と反応しないものであればいずれを使用してもよい。
具体的には、金属ナトリウム、金属リチウム等のアルカリ金属;金属カルシウム等のアルカリ土類金属;水素化ナトリウム、水素化リチウム、水素化カリウム、水素化セシウム等のアルカリ金属水素化物;水素化カルシウム等のアルカリ土類金属水素化物;水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム等のアルカリ金属水酸化物およびその水溶液、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物およびその水溶液;カリウムターシャリーブトキシド、ナトリウムターシャリーブトキシド等のアルカリ金属およびアルカリ土類金属アルコキシド;炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム等のアルカリ金属およびアルカリ土類金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属およびアルカリ土類金属炭酸水素塩;トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N−ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ピリジン、N,N−ジメチル−4−アミノピリジン等の3級アミンなどが挙げられる。
これらの中でも、反応効率の観点から、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物またはこれらの水溶液が好ましく、水酸化ナトリウムの水溶液がより好ましい。
【0037】
塩基性化合物の使用量は特に限定されるものではないが、エーテル化反応を十分進行させて原料の残存を防止するとともに、塩基性化合物の過剰な残存を防止して得られる有機ケイ素化合物の保存安定性や諸特性を高めることを考慮すると、得られる式(4)で表される化合物の水酸基1molに対し、塩基性化合物0.5〜20molが好ましく、1〜10molがより好ましく、2〜8molがより一層好ましい。
【0038】
上記エーテル化反応では、用いる原料と反応しない溶媒を用いることができる。
その具体例としては、水;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒;ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドン等のアミド系溶媒;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒などが挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、反応効率の観点から、水、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフランが好ましく、水とトルエン混合溶媒、水とキシレンの混合溶媒がより好ましい。
【0039】
エーテル化反応時の反応温度は、特に限定されるものではないが、反応速度を適切にしつつ、ハロゲン化アルケニル化合物の揮散を抑制することを考慮すると、25〜90℃が好ましく、40〜80℃が好ましく、50〜70℃がより一層好ましい。
また、エーテル化反応は、通常、大気圧下で行うが、上記ハロゲン化アルケニル化合物の揮散抑制、反応速度向上等の目的で、加圧下で行ってもよい。
反応時間は特に制限されないが、通常10分〜24時間である。
【0040】
なお、上記エーテル化反応では、反応速度向上のため触媒を使用してもよい。
触媒としては、一般的にウィリアムソン合成法に用いられているものから、式(4)で表される化合物のエポキシ基と反応しないものを適宜選択すればよい。
その具体例としては、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、ジベンゾ−18−クラウン−6等のクラウンエーテル;テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩等の4級アンモニウム塩;ヨウ化カリウム、ヨウ化ナトリウム等のアルカリ金属ハロゲン化物などが挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、反応性および入手容易性の観点から、18−クラウン−6、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、ヨウ化カリウムが好ましく、テトラブチルアンモニウムヨージド、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、ヨウ化カリウムがより好ましく、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩がより一層好ましい。
上記触媒は、相間移動触媒として作用、またはハロゲン化アルケニル化合物を活性化し、反応速度を向上させることができる。
【0041】
上記触媒の使用量は触媒量であればよいが、式(4)で表される化合物とハロゲン化アルケニル化合物の合計に対して、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜1質量%がより好ましい。
【0042】
第2段階において、第1段階で得られたアルケニル化合物との反応に用いられる式(6)で表されるシラン化合物の具体例としては、トリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン等が挙げられるが、加水分解性の観点から、トリメトキシシラン、トリエトキシシランが好ましく、トリメトキシシランがより好ましい。
【0043】
第2段階のヒドロシリル化で用いられる白金化合物含有触媒は特に限定されるものではなく、その具体例としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエンまたはキシレン溶液、テトラキストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビスアセトニトリル白金、ジクロロビスベンゾニトリル白金、ジクロロシクロオクタジエン白金、白金−炭素、白金−アルミナ、白金−シリカ等の担持触媒等が挙げられる。
これらの中でも、選択性の面から、0価の白金錯体が好ましく、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエンまたはキシレン溶液がより好ましい。
【0044】
白金化合物含有触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応性、生産性の点から、式(6)で示されるシラン化合物1molに対し、含有される白金原子が1×10
-7〜1×10
-2molとなる量が好ましく、1×10
-7〜1×10
-3molとなる量がより好ましい。
【0045】
また、ヒドロシリル化の反応性向上のため助触媒を使用してもよい。この助触媒としては、一般的にヒドロシリル化に用いられている助触媒を使用できるが、本発明では、無機酸のアンモニウム塩、酸アミド化合物、カルボン酸が好ましい。
無機酸のアンモニウム塩の具体例としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、アミド硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、リン酸二水素一アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ジ亜リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫化アンモニウム、ホウ酸アンモニウム、ホウフッ化アンモニウム等が挙げられるが、中でも、pKaが2以上の無機酸のアンモニウム塩が好ましく、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウムがより好ましい。
【0046】
酸アミド化合物の具体例としては、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、プロピオンアミド、アクリルアミド、マロンアミド、スクシンアミド、マレアミド、フマルアミド、ベンズアミド、フタルアミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられる。
【0047】
カルボン酸の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、メトキシ酢酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、乳酸、グリコール酸等が挙げられ、これらの中でも、ギ酸、酢酸、乳酸が好ましく、酢酸がより好ましい。
【0048】
助触媒の使用量は特に限定されるものではないが、反応性、選択性、コスト等の観点から式(6)で示されるシラン化合物1molに対して1×10
-5〜1×10
-1molが好ましく、1×10
-4〜5×10
-1molがより好ましい。
【0049】
なお、上記ヒドロシリル化反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。
使用可能な溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒などが挙げられ、これらの溶媒は、1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
上記ヒドロシリル化反応における反応温度は特に限定されるものではなく、0℃から加熱下で行うことができるが、0〜200℃が好ましい。
適度な反応速度を得るためには加熱下で反応させることが好ましく、このような観点から、反応温度は40〜110℃がより好ましく、40〜90℃がより一層好ましい。
また、反応時間も特に限定されるものではなく、通常、1〜60時間程度であるが、1〜30時間が好ましく、1〜20時間がより好ましい。
【0051】
本発明のコーティング剤組成物および接着剤組成物(以下、まとめて組成物という場合もある)は、式(1)で表される有機ケイ素化合物を含むものである。
本発明の式(1)で表される有機ケイ素化合物は、これを含有する組成物を用いて被覆処理や接着処理してなる硬化物品に疎水性を付与し、また、接着剤組成物の場合はその接着促進剤として作用するとともに、当該有機ケイ素化合物の構造に由来し、従来の有機ケイ素化合物に比べ、硬化物の耐熱性、耐黄変性および耐クラック性を向上させる。
【0052】
本発明の組成物は、これを効率的に硬化させるための硬化触媒を含んでいてもよい。
硬化触媒としては、一般的な湿気縮合硬化型組成物の硬化に用いられる硬化触媒であれば特に限定されない。その具体例としては、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジオクトエート、ジオクチル錫ジオクトエート等のアルキル錫エステル化合物;テトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキソキシ)チタン、ジプロポキシビス(アセチルアセトナト)チタン、チタニウムイソプロポキシオクチレングリコール等のチタン酸エステル、およびチタンキレート化合物並びにそれらの部分加水分解物;ナフテン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、亜鉛−2−エチルオクトエート、鉄−2−エチルヘキソエート、コバルト−2−エチルヘキソエート、マンガン−2−エチルヘキソエート、ナフテン酸コバルト、三水酸化アルミニウム、アルミニウムアルコラート、アルミニウムアシレート、アルミニウムアシレートの塩、アルミノシロキシ化合物、アルミニウムキレート化合物等の有機金属化合物;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノアルキル基置換アルコキシシラン;ヘキシルアミン、リン酸ドデシルアミン等のアミン化合物およびその塩;ベンジルトリエチルアンモニウムアセテート等の第4級アンモニウム塩;酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、シュウ酸リチウム等のアルカリ金属の低級脂肪酸塩;ジメチルヒドロキシルアミン、ジエチルヒドロキシルアミン等のジアルキルヒドロキシルアミン;テトラメチルグアニジルプロピルトリメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルメチルジメトキシシラン、テトラメチルグアニジルプロピルトリス(トリメチルシロキシ)シラン等のグアニジル基を含有するシランおよびシロキサン;N,N,N’,N’,N'',N''−ヘキサメチル−N'''−[3−(トリメトキシシリル)プロピル]−ホスホリミディックトリアミド等のホスファゼン塩基を含有するシランおよびシロキサン等が挙げられ、これらは単独で用いても、2種以上の組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、より反応性に優れるテトライソプロポキシチタン、テトラn−ブトキシチタンおよびそれらの部分加水分解物が好ましく、テトラn−ブトキシチタンがより好ましい。
【0053】
硬化触媒の添加量は、特に限定されるものではないが、硬化速度を適切な範囲に調整して作業性を向上させることを考慮すると、式(1)で表される有機ケイ素化合物100質量部に対して、0.01〜15質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。
【0054】
さらに、本発明の組成物は、溶剤を含んでいてもよい。
溶剤としては、主成分である式(1)で表される有機ケイ素化合物の溶解能を有していれば特に限定されるものではないが、溶解性および揮発性等の観点から、トルエン、キシレン等の芳香族系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤が好ましく、中でも、トルエン、テトラヒドロフランがより好ましい。
溶剤の添加量は、式(1)で表される有機ケイ素化合物100質量部に対して、10〜20,000質量部が好ましく、100〜10,000質量部がより好ましい。
【0055】
本発明のコーティング剤組成物を、固体基材の表面に塗布し、硬化させて被覆層を形成することで、硬化物品である被覆固体基材が得られ、また、本発明の接着剤組成物を固体基材の表面に塗布し、さらにその上に他の固体基材を積層した後、組成物を硬化させて接着層を形成することで、硬化物品である接着積層体が得られる。
【0056】
固体基材の具体例としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリカーボネート類およびポリカーボネートブレンド等のポリカーボネート樹脂、ポリ(メタクリル酸メチル)等のアクリル系樹脂、ポリ(エチレンテレフタレート)やポリ(ブチレンテレフタレート)等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体樹脂、スチレン−アクリロニトリル−ブタジエン共重合体樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリスチレンとポリフェニレンエーテルのブレンド、セルロースアセテートブチレート、ポリエチレン樹脂等の有機樹脂基材;金属基材;塗料塗布面;ガラス;セラミック;コンクリート;スレート板;テキスタイル;(中空)シリカ、チタニア、ジルコニア、アルミナ等の無機フィラー;ガラス繊維をはじめとしたガラスクロス、ガラステープ、ガラスマット、ガラスペーパー等のガラス繊維製品などが挙げられ、基材の材質および形状については特に限定されるものではない。
【0057】
本発明の組成物は、雰囲気中の水分と触れることで、式(1)で表される有機ケイ素化合物の加水分解縮合反応が進行する。雰囲気中の水分の指標としては10〜100%RHの任意の湿度でよく、一般に、湿度が高い程速く加水分解が進行するため、所望により雰囲気中に水分を加えてもよい。
硬化反応温度および時間は、使用する基材、水分濃度、触媒濃度、および加水分解性基の種類等の因子に応じて適宜変更し得る。通常、使用する基材の耐熱温度を超えない範囲で5分から1週間程度であるが、基材の耐熱温度を超えない範囲内に加熱して10分〜2時間硬化させることが好ましく、具体的には30〜180℃で30分〜2時間の条件で硬化させることがより好ましい。
【実施例】
【0058】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、下記において、粘度は、B型回転粘度計による25℃における測定値であり、分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフ)測定により求めたポリスチレン換算の重量平均分子量である。また、エポキシ当量は、単位がg/molで表され、エポキシ基1molを有するエポキシ化合物の質量を示す。
【0059】
[1]有機ケイ素化合物の合成
[実施例1−1]
有機ケイ素化合物1の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた300mLセパラブルフラスコに、エポキシ当量869g/molの末端エポキシ化水添ブタジエン−イソプレン共重合ポリマー(L−207、(株)クラレ製)200g、およびジオクチルスズジラウレート0.11gを仕込み、80℃に加熱した。その中に、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン11.8gを滴下投入し、80℃にて2時間加熱撹拌した。その後、IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失し、代わりにウレタン結合由来の吸収ピークが生成したことを確認し、反応終了とした。
得られた反応生成物は、淡黄色透明液体であり、重量平均分子量13,750、粘度23万mPa・s、エポキシ当量1,400g/molであった。
【0060】
[実施例1−2]
有機ケイ素化合物2の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた300mLセパラブルフラスコに、エポキシ当量869g/molの末端エポキシ化水添ブタジエン−イソプレン共重合ポリマー(L−207、(株)クラレ製)200g、およびジオクチルスズジラウレート0.11gを仕込み、80℃に加熱した。その中に、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン14.2gを滴下投入し、80℃にて2時間加熱撹拌した。その後、IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失し、代わりにウレタン結合由来の吸収ピークが生成したことを確認し、反応終了とした。
得られた反応生成物は、淡黄色透明液体であり、重量平均分子量13,000、粘度20万mPa・s、エポキシ当量1,420g/molであった。
【0061】
[実施例1−3]
有機ケイ素化合物3の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた300mLセパラブルフラスコに、エポキシ当量869g/molの末端エポキシ化水添ブタジエン−イソプレン共重合ポリマー(L−207、(株)クラレ製)200g、およびジオクチルスズオキシド0.11gを仕込み、80℃に加熱した。その中に、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン11.8gを滴下投入し、80℃にて2時間加熱撹拌した。その後、IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失し、代わりにウレタン結合由来の吸収ピークが生成したことを確認し、反応終了とした。
得られた反応生成物は、淡黄色透明液体であり、重量平均分子量14,200、粘度25万mPa・s、エポキシ当量1,380g/molであった。
【0062】
[実施例1−4]
有機ケイ素化合物4の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた300mLセパラブルフラスコに、エポキシ当量869g/molの末端エポキシ化水添ブタジエン−イソプレン共重合ポリマー(L−207、(株)クラレ製)200gを仕込み、80℃に加熱した。その中に、3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン11.8gを滴下投入し、80℃にて6時間加熱撹拌した。その後、IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失し、代わりにウレタン結合由来の吸収ピークが生成したことを確認し、反応終了とした。
得られた反応生成物は、淡黄色透明液体であり、重量平均分子量15,700、粘度27万mPa・s、エポキシ当量1,000g/molであった。
【0063】
[実施例1−5]
有機ケイ素化合物5の合成
[第1段階]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた200mLセパラブルフラスコに、エポキシ当量869g/molの末端エポキシ化水添ブタジエン−イソプレン共重合ポリマー(L−207、(株)クラレ製)50g、トルエン50g、テトラブチルアンモニウム硫酸水素塩0.67g、および30%水酸化ナトリウム水溶液37.6gを仕込み、60℃に加熱した。その中に、臭化アリル17.1gを滴下投入し、60℃にて6時間加熱撹拌した。その後、静置して二層分離した水層を分液し、中性となるまで有機層を水洗し、さらに、有機層を減圧濃縮(80℃、5mmHg)して揮発成分を除去し、濾過することで対応するアルケニル化合物を得た。
【0064】
[第2段階]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた300mLセパラブルフラスコに、上記第1段階で得られたアルケニル化合物100g、トルエン100g、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.19g(トリメトキシシラン1molに対し白金原子として5.0×10
-4mol)、および酢酸0.003g(トリメトキシシラン1molに対し5.0×10
-2mol)を納め、トリメトキシシラン1.17gを内温75〜85℃で投入した後、80℃で1時間撹拌した。撹拌終了後、減圧濃縮(80℃、5mmHg)および濾過することで、粘度15万mPa・sの淡黄色透明液体を得た。また、得られた反応物は、重量平均分子量10,870、エポキシ当量1,380g/molであった。
【0065】
[実施例1−6]
有機ケイ素化合物6の合成
[第1段階]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた200mLセパラブルフラスコに、エポキシ当量869g/molの末端エポキシ化水添ブタジエン−イソプレン共重合ポリマー(L−207、(株)クラレ製)50g、トルエン50g、テトラブチルアンモニウムヨージド0.61g、および30%水酸化ナトリウム水溶液37.6gを仕込み、60℃に加熱した。その中に、塩化アリル10.8gを滴下投入し、60℃にて6時間加熱撹拌した。その後、静置して二層分離した水層を分液し、中性となるまで有機層を水洗し、さらに、有機層を減圧濃縮(80℃、5mmHg)して揮発成分を除去し、濾過することで対応するアルケニル化合物を得た。
【0066】
[第2段階]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた300mLセパラブルフラスコに、上記第1段階で得られたアルケニル化合物100g、トルエン100g、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.19g(トリエトキシシラン1molに対し白金原子として5.0×10
-4mol)、および酢酸0.003g(トリエトキシシラン1molに対し5.0×10
-2mol)を納め、トリエトキシシラン1.57gを内温75〜85℃で投入した後、80℃で1時間撹拌した。撹拌終了後、減圧濃縮(80℃、5mmHg)および濾過することで、粘度16万mPa・sの淡黄色透明液体を得た。また、得られた反応物は、重量平均分子量11,000、エポキシ当量1,400g/molであった。
【0067】
[実施例1−7]
有機ケイ素化合物7の合成
[第1段階]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた200mLセパラブルフラスコに、エポキシ当量869g/molの末端エポキシ化水添ブタジエン−イソプレン共重合ポリマー(L−207、(株)クラレ製)50g、トルエン50g、ヨウ化カリウム0.57g、および30%水酸化ナトリウム水溶液37.6gを仕込み、60℃に加熱した。その中に、塩化オクテニル6.9gを滴下投入し、80℃にて6時間加熱撹拌した。その後、静置して二層分離した水層を分液し、中性となるまで有機層を水洗し、さらに有機層を減圧濃縮(80℃、5mmHg)して揮発成分を除去し、濾過することで対応するアルケニル化合物を得た。
【0068】
[第2段階]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた300mLセパラブルフラスコに、上記第1段階で得られたアルケニル化合物100g、トルエン100g、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液0.18g(トリメトキシシラン1molに対し白金原子として5.0×10
-4mol)、および酢酸0.003g(トリメトキシシラン1molに対し5.0×10
-2mol)を納め、トリメトキシシラン1.16gを内温75〜85℃で投入した後、80℃で1時間撹拌した。撹拌終了後、減圧濃縮(80℃、5mmHg)および濾過することで、粘度18万mPa・sの淡黄色透明液体を得た。また、得られた反応物は、重量平均分子量10,970、エポキシ当量1,450g/molであった。
【0069】
[比較例1−1]
有機ケイ素化合物8の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、エポキシ当量172g/molのポリグリセリンポリグリシジルエーテル(デナコールEX−1610、ナガセケムテックス(株)製)100gを仕込み、80℃に加熱した。その中に、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン49.9gを滴下投入し、80℃にて4時間加熱撹拌した。その後、IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失し、代わりにウレタン結合由来の吸収ピークが生成したことを確認し、反応終了とした。得られた反応生成物は、淡黄色透明液体であり、重量平均分子量3,800、粘度1,421mPa・s、エポキシ当量261g/molであった。
【0070】
[比較例1−2]
有機ケイ素化合物9の合成
撹拌機、還流冷却器、滴下ロートおよび温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、エポキシ当量220g/molのソルビトール系ポリグリシジルエーテル(デナコールEX−610U、ナガセケムテックス(株)製)100gを仕込み、80℃に加熱した。その中に、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン39.8gを滴下投入し、80℃にて4時間加熱撹拌した。その後、IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失し、代わりにウレタン結合由来の吸収ピークが生成したことを確認し、反応終了とした。得られた反応生成物は、淡黄濁色液体であり、重量平均分子量3,600、粘度1,114mPa・s、エポキシ当量315g/molであった。
【0071】
〔耐熱性〕
上記実施例1−1〜1−7および比較例1−1,1−2で得られた有機ケイ素化合物について、それぞれ加熱による重量の減少を測定した。
測定条件としては、差動型示差熱天秤(TG8120、(株)リガク製)を使用し、測定温度25〜500℃、昇温速度10.0℃/分、測定雰囲気空気、通気量100mL/分とした。評価方法としては、試料重量全体の5%が減少した時点の温度を「T
5」、試料重量全体の10%が減少した時点の温度を「T
10」として評価した。結果を下記表1,2に示す。
【0072】
[2]コーティング剤組成物および硬化被膜の作製
[実施例2−1]
上記実施例1−1で得られた有機ケイ素化合物1 100質量部と、硬化触媒であるテトラn−ブトキシチタン1質量部と、溶媒であるテトラヒドロフラン100質量部とを撹拌機を用いて均一に混合し、コーティング剤組成物を調製した。
得られたコーティング剤組成物を、25℃、50%RHの空気下でバーコーターNo.14を用いてガラス板に塗布し、25℃、50%RHの空気下で4日間乾燥・硬化させた後、105℃で2時間乾燥・硬化させ、さらに150℃で2時間乾燥・硬化させ、硬化被膜を作製した。
【0073】
[実施例2−2〜2−7、および比較例2−1〜2−4]
実施例2−1で得られた有機ケイ素化合物1を、実施例1−2〜1−7および比較例1−1〜1−2で得られた有機ケイ素化合物2〜9にそれぞれ変更した以外は、実施例2−1と同様にしてコーティング剤組成物および硬化被膜を作製した。
また、有機ケイ素化合物1を、比較例1−3としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM−403、信越化学工業(株)製)、比較例1−4としてグリシドキシオクチルトリメトキシシラン(KBM−4803、信越化学工業(株)製)にそれぞれ変更した以外は、実施例2−1と同様にしてコーティング剤組成物および硬化被膜を作製した。
【0074】
上記実施例2−1〜2−7および比較例2−1〜2−4で作製した硬化膜について下記評価を実施した。それらの結果を表1,2に併せて示す。
〔水接触角〕
作製した硬化被膜の水接触角を5点平均で測定した。
〔耐黄変性〕
作製した硬化被膜の黄変度合を目視で確認した。
黄変が観測されなかった場合には、耐黄変性に優れるものとして「○」と評価した。顕著な黄変が観測された場合には「×」と評価した。
〔耐クラック性〕
作製した硬化被膜のクラック(ひび割れ)の有無を確認した。
クラックが全く観測されなかった場合には、耐クラック性に優れるものとして「○」と評価した。クラックが1本観測された場合には「×」と評価した。クラックが2本以上観測された場合には「××」と評価した。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1,2に示されるように、実施例1−1〜1−7で得られた有機ケイ素化合物は、比較例1−1,1−2で得られた有機ケイ素化合物に比べ、耐熱性に優れていることがわかる。
また、各実施例で得られた有機ケイ素化合物1〜7を用いた実施例2−1〜2−7で作製した硬化被膜は、比較例2−1〜2−4で作製した硬化被膜に比べ、疎水性、耐黄変性および耐クラック性に優れていることがわかる。