特許第6597911号(P6597911)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6597911表面処理スピネル粒子、その製造方法、樹脂組成物及び成形物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6597911
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】表面処理スピネル粒子、その製造方法、樹脂組成物及び成形物
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/16 20060101AFI20191021BHJP
   C01G 39/00 20060101ALI20191021BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20191021BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20191021BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20191021BHJP
   C07F 7/18 20060101ALN20191021BHJP
【FI】
   C01F7/16
   C01G39/00 Z
   C08L101/00
   C08K3/22
   C08K3/01
   !C07F7/18 S
   !C07F7/18 M
【請求項の数】8
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2018-540289(P2018-540289)
(86)(22)【出願日】2017年9月21日
(86)【国際出願番号】JP2017034064
(87)【国際公開番号】WO2018056349
(87)【国際公開日】20180329
【審査請求日】2019年3月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-183635(P2016-183635)
(32)【優先日】2016年9月21日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2017-94659(P2017-94659)
(32)【優先日】2017年5月11日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】糸谷 一男
(72)【発明者】
【氏名】押尾 篤
(72)【発明者】
【氏名】沖 裕延
(72)【発明者】
【氏名】飯田 正紀
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰代
(72)【発明者】
【氏名】林 正道
(72)【発明者】
【氏名】兼松 孝之
(72)【発明者】
【氏名】前川 文彦
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
(72)【発明者】
【氏名】木下 宏司
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5995130(JP,B1)
【文献】 特許第6061173(JP,B1)
【文献】 国際公開第2005/033216(WO,A1)
【文献】 特開2008−074683(JP,A)
【文献】 特開2012−224798(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00−17/00
C01G 1/00−47/00;49/10−99/00
C08L 101/00
C08K 3/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム原子、アルミニウム原子、および酸素原子を含むスピネル粒子(A)表面の少なくとも一部に、表面処理層を有する表面処理スピネル粒子(B)であって、前記表面処理層が、有機シラン化合物、有機チタン化合物及び有機燐酸化合物からなる群から選択される少なくとも一種である有機化合物を含む表面処理剤及びまたはその硬化物を含有するものであって、前記スピネル粒子(A)が、更にモリブデンを含み、[111]面の結晶子径が220nm以上であることを特徴とする、表面処理スピネル粒子(B)。
【請求項2】
前記スピネル粒子(A)の[311]面の結晶子径が100nm以上である、請求項1に記載の表面処理スピネル粒子(B)。
【請求項3】
前記スピネル粒子(A)が、[311]面の結晶ピーク強度に対する[111]面の結晶ピーク強度の比([111]面/[311]面)が0.3以上である、請求項2に記載の表面処理スピネル粒子(B)。
【請求項4】
前記スピネル粒子(A)の平均粒径が0.1〜1000μmである、請求項1から3のい ずれか一項記載の表面処理スピネル粒子(B)。
【請求項5】
マグネシウム原子、アルミニウム原子、および酸素原子と、モリブデンとを含み、[111]面の結晶子径が220nm以上であるスピネル粒子(A)と、有機シラン化合物、有機チタン化合物およびまたは有機燐酸化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種の有機化合物を含有する表面処理剤とを接触させ、スピネル粒子(A)の表面の少なくとも一部に当該表面処理剤を付着させることを特徴とする、表面処理スピネル粒子(B)の製造方法。
【請求項6】
表面処理スピネル粒子(B)の製造方法において、スピネル粒子(A)と表面処理剤とを接触させる工程が、湿式法である、請求項に記載の表面処理スピネル粒子(B)の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項記載の表面処理スピネル粒子(B)と、有機高分子化合物(C)とを含有してなる樹脂組成物。
【請求項8】
請求項の樹脂組成物を成形する成形物の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理スピネル粒子、その製造方法、樹脂組成物及び成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
無機化合物は、例えば、耐熱性、耐水性、耐薬品性、耐光性など有機化合物には到底及ばない優れた性質を有している。この様な無機化合物の優れた特徴を生かし、それを有機高分子化合物に分散させることで、有機高分子化合物単体では達成し得ない、優れた性質を付与する試みが、種々の技術分野において行われている。
【0003】
上記した様な目的で、金属酸化物、複合酸化物、窒化物等の無機化合物が用いられている。この様な無機化合物としては、具体的には、アルミナ(酸化アルミニウム)、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。これら無機化合物は、ある特性の面においては優れているが、別の特性の面においては劣るといった一長一短の性質を有していることから、用途に応じて適切な無機化合物を選択して用いているのが実情である。
【0004】
これら無機化合物の中で、スピネルは、一般に、MgAlの化学組成で表される鉱物であり、宝石類として使用される他、その多孔構造や修飾容易性の観点から、電極保護膜、蛍光発光体、触媒担体、吸着剤、光触媒、耐熱絶縁材料等の用途に適用されている(特許文献1等参照。)。
【0005】
上記した様に、スピネルを有機高分子化合物に分散させて、スピネルと有機高分子化合物を複合化させようとした場合、スピネルは無機化合物であり、それらの親和性が不十分であることから、有機高分子化合物にそれを安定的に分散させることが難しいことが多かった。その結果、安定分散できた場合に予想される様な、優れた特性が結果的には発現されない、という問題点が残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−121049公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、有機高分子化合物への分散性や分散安定性に優れ、より優れた特性を発揮し得るスピネル粒子を提供することにある。また、本発明の課題は、スピネル粒子と有機高分子化合物を含む、より優れた熱伝導性を有する成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討した結果、スピネル粒子として、特定の未処理スピネル粒子を選択し、かつ、その粒子表面の少なくとも一部に有機化合物を含む表面処理層を付着させたことで、得られた表面処理スピネル粒子は、有機高分子化合物への分散性や分散安定性に優れ、例えば優れた熱伝導性を発揮することを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明は、マグネシウム原子、アルミニウム原子、および酸素原子を含むスピネル粒子(A)表面の少なくとも一部に、表面処理層を有する表面処理スピネル粒子(B)であって、前記表面処理層が、有機化合物を含む表面処理剤及びまたはその硬化物を含有するものであって、前記スピネル粒子(A)が、更にモリブデンを含み、[111]面の結晶子径が220nm以上であることを特徴とする、表面処理スピネル粒子(B)、を提供するものである。
【0010】
また本発明は、上記表面処理スピネル粒子の製造方法、熱伝導性に優れた樹脂組成物及び成形物を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表面処理スピネル粒子は、未処理スピネル粒子に比べて、有機高分子化合物への分散性や分散安定性に優れ、より優れた特性を発揮し得る。具体的には、高い熱伝導性を有する為、樹脂組成物や成形物に好適に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例3で得た表面処理スピネル粒子(F−3)のSEM−EDS測定画像である。
【0013】
図2】実施例3で得た表面処理スピネル粒子(F−3)の上記SEM−EDS測定画像に対応した、珪素原子マッピング画像である。
【0014】
図3】実施例3で得た表面処理スピネル粒子(F−3)の、図1とは別の角度からの、表面処理スピネル粒子のSEM−EDS測定画像である。
【0015】
図4】実施例3で得た表面処理スピネル粒子(F−3)の、図1とは別の角度からのSEM−EDS測定画像に対応した、珪素原子マッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の表面処理スピネル粒子は、マグネシウム原子、アルミニウム原子、および酸素原子を含むスピネル粒子(A)表面の少なくとも一部に、表面処理層を有する表面処理スピネル粒子(B)であって、前記表面処理層が、有機化合物を含む表面処理剤及びまたはその硬化物を含有し、前記スピネル粒子(A)が、更にモリブデン、を含み、[111]面の結晶子径が、220nm以上である、ことを特徴とする表面処理スピネル粒子(B)である。
【0017】
<スピネル粒子>
本発明の表面処理スピネル粒子(B)は、表面処理されていないスピネル粒子(A)と表面処理層とから構成され、前記スピネル粒子(A)の表面の少なくとも一部に前記表面処理層が付着した構造を有する。尚、スピネルは、一般的に、マグネシウム原子、アルミニウム原子、および酸素原子と、を含んだ、MgAlの化学組成で表される複合酸化物である。
【0018】
このスピネル粒子としては、種々の結晶子径や平均粒径のものが知られており、これらは公知慣用の種々の製造方法にて製造されている。目的に応じて適切な表面処理剤を用いて、スピネル粒子の表面の少なくとも一部をその硬化物で被覆するという表面処理手法の活用で、未処理のスピネル粒子に無い優れた特性を付与することができるとされているが、表面処理に用いる未処理スピネル粒子によっては、表面処理をしても、結果的に期待した水準までの特性向上が認められない場合が多いのが実情である。本発明者らは、数ある公知の未処理のスピネル粒子の中から、特定の特性を有するスピネル粒子(A)を厳選して用い表面処理を行うことで、得られた表面処理スピネル粒子(B)が、期待した水準を超える優れた特性を有することを見い出した。
【0019】
この様な本発明の表面処理スピネル粒子(B)の調製に適したスピネル粒子(A)は、具体的には、マグネシウム原子、アルミニウム原子、および酸素原子を含有するだけでなく、更にモリブデンをも含むスピネル粒子である。またスピネル粒子は、幾つかの結晶面を有しており、それぞれの面についてそれぞれ結晶子径を有している。本発明者らの知見から、この結晶子径の大小が、スピネル結晶の各種特性の支配要因となっていることがわかった。スピネル粒子の平均粒径と左記個々の面における結晶子径とは、全く別々の指標であり、この結晶子径が大きいことは、粒子の緻密性及び結晶性がより高いことを意味し、その他の指標が同一での対比では、それ自体で、絶対値として、例えば、耐熱性、耐水性、耐薬品性、耐光性等の諸特性がより高いことが予想することができる。
【0020】
また、本発明者らは、この様な原料たるスピネル粒子(A)の特定面における結晶子径の大きさが、後述する様な表面処理による機能向上の程度を大きく左右し、なかでも、それは熱伝導性の大小と密接な相関関係があることを見い出した。
【0021】
本発明において表面処理に適する、多数の中から厳選されたスピネル粒子(A)は、マグネシウム原子、アルミニウム原子、および酸素原子と、モリブデンと、を含み、その[111]面の結晶子径が、220nm以上であるスピネル粒子である。
【0022】
上記した通りこのスピネル粒子(A)は、マグネシウム原子、アルミニウム原子、および酸素原子を含むことから、通常、MgAlの化学組成で表される。しかも、本発明のスピネル粒子(A)は、モリブデンを含む。モリブデンの含有形態は特に制限されないが、モリブデンがスピネル粒子表面に付着、被覆、結合、その他これに類する形態で配置される形態、モリブデンがスピネルに組み込まれる形態、これらの組み合わせが挙げられる。この際、「モリブデンがスピネルに組み込まれる形態」としては、スピネル粒子を構成する原子の少なくとも一部がモリブデンに置換する形態、スピネル粒子の結晶内部に存在しうる空間(結晶構造の欠陥により生じる空間等を含む)にモリブデンが配置される形態等が挙げられる。なお、前記置換する形態において、置換されるスピネル粒子を構成する原子としては、特に制限されず、マグネシウム原子、アルミニウム原子、酸素原子、他の原子のいずれであってもよい。
【0023】
これらのうち、モリブデンは少なくともスピネルに組み込まれる形態で含有されることが好ましい。なお、モリブデンがスピネルに組み込まれている場合、例えば、洗浄による除去がされにくい傾向がある。
【0024】
スピネル粒子の(A)の[111]面の結晶子径は、220nm以上である。ここで、[111]面はスピネル粒子の主要な結晶ドメインの1つであり、当該[111]面の結晶ドメインの大きさが[111]面の結晶子径に相当する。当該結晶子径が大きいほど粒子の緻密性および結晶性が高く、フォノンの散乱が起こる乱れ部分がないことを意味するため、熱伝導性が高いということができる。なかでもスピネル粒子(A)の[111]面の結晶子径は、260nm以上であるのが最適である。なお、スピネル粒子の[111]面の結晶子径は、後述する製造方法の条件を適宜設定することで制御することができる。また、本明細書において「[111]面の結晶子径」の値は、実施例で記載された方法で測定された値を採用するものとする。
【0025】
また、本発明の一実施形態において、スピネル粒子(A)の[311]面の結晶子径は、100nm以上であることが好ましい。ここで、[311]面についてもスピネル粒子の主要な結晶ドメインの1つであり、当該[311]面の結晶ドメインの大きさが[311]面の結晶子径に相当する。当該結晶子径が大きいほど粒子の緻密性および結晶性が高く、フォノンの散乱が起こる乱れ部分がないことを意味するため、熱伝導性が高いということができる。なお、スピネル粒子(A)の[311]面の結晶子径は、後述する製造方法の条件を適宜設定することで制御することができる。また、本明細書において「[311]面の結晶子径」の値は、実施例で記載された方法で測定された値を採用するものとする。
【0026】
なかでも[111]面の結晶子径が220nm以上であり、かつ[311]面の結晶子径が100nm以上である、左記両方の条件を兼備するスピネル粒子(A)は、より熱伝導性が高くなる。
【0027】
スピネル粒子(A)の[311]面の結晶ピーク強度に対する[111]面の結晶ピーク強度の比([111]/[311])は、0.30以上であることが好ましく、0.33以上であることがより好ましく、0.36以上であることがさらに好ましい。一般に、スピネル粒子を焼成により結晶成長させようとすると、スピネル結晶の各結晶面は選択性なく成長する傾向がある。しかし、[111]面についてはエネルギー的に結晶成長しにくいことから、[311]面の結晶ピーク強度に対する[111]面の結晶ピーク強度の比([111]面/[311]面)の値は小さくなりうる(通常、0.30未満)。しかしながら、本発明の一実施形態によれば、結晶成長の制御を行うことにより、スピネル粒子の[111]面/[311]面のピーク強度の比を大きくすることができる。本形態に係るスピネル粒子の[111]面の結晶子径は220nm以上であり、スピネル粒子の[111]面/[311]面のピーク強度の比が0.30以上であると、より高い熱伝導性が得られうる。また、[111]面は、自形面であり、当該自形面で囲まれた八面体の形成に寄与するため、スピネル粒子(A)の[111]面/[311]面のピーク強度の比が0.30以上であると、スピネル粒子(A)が樹脂への分散に好適な多面体の形状を形成しやすくなる。
【0028】
上記した様に、[111]面の結晶子径が220nm以上であり、かつ[311]面の結晶子径が100nm以上のスピネル粒子(A)は、更に[311]面の結晶ピーク強度に対する[111]面の結晶ピーク強度の比([111]/[311])が、0.30以上である、左記三条件を兼備するスピネル粒子(A)は、最も熱伝導性が高く、その多面体形状に基づき、例えば樹脂への分散がより優れたものになりやすいので、樹脂組成物の調製には最適である。
【0029】
なお、前記ピーク強度比([111]/[311])の値は、後述する製造方法を適宜調整することで制御することができる。また、本明細書において、「スピネル粒子の[311]面の結晶ピーク強度および[111]面の結晶ピーク強度」および「スピネル粒子の[311]面の結晶ピーク強度に対する[111]面の結晶ピーク強度の比([111]/[311])」の値は、実施例に記載の方法により測定された値を採用するものとする。
【0030】
スピネル粒子(A)の平均粒径は、特に制限されるものではないが、例えば、0.1〜1000μmであることが好ましい。スピネル粒子(A)の平均粒径が0.1μm以上であると、樹脂と混合して得られる組成物の粘度が過度に大きくならないことから好ましい。一方、スピネル粒子(A)の平均粒径が1000μm以下であると、樹脂と混合して得られた組成物を成形した場合、得られる成形物の表面が平滑になりうる、成形物の機械物性が優れている等の観点から好ましい。
【0031】
上記した[111]面の結晶子径、[311]面の結晶子径及び[311]面の結晶ピーク強度に対する[111]面の結晶ピーク強度の比([111]/[311])は、スピネル粒子(A)の結晶子に関する特性であるが、これらの特性だけでなく、上記した平均粒径をも兼備したスピネル粒子を用いることで、低粘度過ぎずしかも高粘度過ぎない、所望の形状としやすく、取扱いが容易な樹脂組成物を調製でき、しかも、そこから得られた樹脂組成物の成形物も、表面平滑性や機械物性に優れたものにすることができる。
【0032】
なお、本明細書において、「粒径」とは、粒子の輪郭線上の2点間の距離のうち、最大の長さを意味し、「平均粒径」の値は実施例に記載の方法により測定、算出された値を意味する。
【0033】
スピネル粒子(A)の形状は、特に制限されるものではないが、例えば、多面体状、球状、楕円状、円柱状、多角柱状、針状、棒状、板状、円板状、薄片状、鱗片状等が挙げられる。これらのうち、樹脂に分散しやすいことから多面体状、球状、楕円状、板状であることが好ましく、なかでも樹脂組成物への高い充填性が求められる用途への適用を考慮すると、多面体状、球状であることがより好ましい。なお、本明細書において、「多面体」とは、通常、6面体以上、好ましくは8面体以上、より好ましくは10〜30面体であることを意味する。その他、不可避不純物、他の原子等が含まれていてもよい。
【0034】
(モリブデン)
モリブデンは、後述する製造方法に起因して含有されうる。当該モリブデンは、スピネル粒子中にスピネル粒子表面に付着、被覆、結合、その他これに類する形態で配置される形態、モリブデンがスピネルに組み込まれる形態、これらの組み合わせにより含有されうる。なお、前記モリブデンには、モリブデン原子および後述するモリブデン化合物中のモリブデンを含む。
【0035】
モリブデンの含有量は、特に制限されないが、本発明におけるスピネル粒子(B)の高熱伝導性の観点から、スピネル粒子(A)に対して、酸化モリブデン換算で10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、スピネル粒子が高い緻密性を示す観点から、1質量%以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、スピネル粒子中のモリブデンの含有量の値は実施例に記載の方法により測定された値を採用するものとする。
【0036】
<スピネル粒子(A)の製造方法>
スピネル粒子(A)の製造方法は、特に制限されるものではないが、1−A)マグネシウム化合物およびアルミニウム化合物を、モリブデン存在下で、固溶化および晶出により前記スピネル粒子に結晶成長させてスピネル粒子(A)を得る焼成工程、または、1−B)モリブデン化合物およびマグネシウム化合物を焼成してモリブデン酸マグネシウムを得る焼成工程、そこで得られたモリブデン酸マグネシウムとアルミニウム化合物とを焼成してスピネル粒子(A)を得る焼成工程と、2)前記焼成工程で結晶成長したスピネル粒子(A)を冷却する冷却工程と、を含む製造方法である。以下、まず1−A)の焼成工程を経て2)の冷却工程を経るスピネル粒子(A)の製造方法につき、詳述する。
【0037】
<スピネル粒子の製造方法>
スピネル粒子の製造方法は、特に制限されるものではないが、モリブデン化合物およびマグネシウム化合物を含む第1の混合物(a−1)又はモリブデン化合物、マグネシウム化合物およびアルミニウム化合物を含む第1の混合物(a−2)を焼成して中間体を調製する工程(1)を含む。
【0038】
[中間体の調製工程]
(第1の混合物)
第1の混合物は、モリブデン化合物およびマグネシウム化合物を必須成分として含む。本発明の製造方法における第1の混合物としては、大別すると、スピネルの原料の元素源としてモリブデン化合物およびマグネシウム化合物のみを含む第1の混合物(a−1)、又はモリブデン化合物、マグネシウム化合物およびアルミニウム化合物を含む第1の混合物(a−2)を用いることが出来る。
【0039】
モリブデン化合物
モリブデン化合物としては、特に制限されないが、金属モリブデン、酸化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アンモニウム、HPMo1240、HSiMo1240等のモリブデン化合物が挙げられる。この際、前記モリブデン化合物は、異性体を含む。例えば、酸化モリブデンは、二酸化モリブデン(IV)(MoO)であっても、三酸化モリブデン(VI)(MoO)であってもよい。これらのうち、三酸化モリブデン、二酸化モリブデン、モリブデン酸アンモニウムであることが好ましく、三酸化モリブデンであることがより好ましい。
【0040】
なお、上述のモリブデン化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
マグネシウム化合物
マグネシウム化合物としては、特に制限されないが、金属マグネシウム;酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、過酸化マグネシウム、フッ化マグネシウム、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、水素化マグネシウム、二ホウ化マグネシウム、窒化マグネシウム、硫化マグネシウム等のマグネシウム誘導体;炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムマグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、亜硫酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム等、過マンガン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム等のマグネシウムオキソ酸塩;酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム、グルタミン酸マグネシウム、安息香酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ナフテン酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、乳酸マグネシウム、モノペルオキシフタル酸マグネシウム等のマグネシウム有機塩;結晶性が低いスピネル、アルミン酸マグネシウム、ハイドロタルサイト、マグネシウムアルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウム−マグネシウム含有化合物;およびこれらの水和物等が挙げられる。
本発明において、アルミニウム−マグネシウム含有化合物およびこれらの水和物は、便宜上、マグネシウム化合物に分類する。
【0042】
これらのうち、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウムであることが好ましく、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウムであることがより好ましい。
【0043】
なお、上述のマグネシウム化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。マグネシウム化合物は市販品を使用しても、自ら調製してもよい。
【0044】
モリブデン元素/マグネシウム元素のモル比
本発明の製造方法において、中間体を調製する工程(1)では、モリブデン化合物およびマグネシウム化合物のみを含む第1の混合物(a−1)、又はモリブデン化合物、マグネシウム化合物およびアルミニウム化合物を含む第1の混合物(a−2)から選択される、モリブデン化合物およびマグネシウム化合物を必須成分として含む第一の混合物が焼成される。混合物(a−1)にせよ、混合物(a−2)にせよ、第1の混合物は、工程(1)での焼成を行うことで、中間体であるモリブデン酸マグネシウムを必須成分として含有したものとなる。
【0045】
本発明の製造方法において、前記マグネシウム化合物のマグネシウム元素に対する前記モリブデン化合物のモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/マグネシウム元素)は、1.0〜2.0である。
【0046】
また、第1の混合物は、その他の化合物を含有させても良い。その他の化合物としては、亜鉛化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物、鉄化合物、マンガン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、ナトリウム化合物、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、イットリウム化合物、ケイ素化合物、ホウ素化合物等が挙げられる。
【0047】
第1の混合物の焼成
マグネシウム化合物およびモリブデン化合物を必須成分として含む第1の混合物を焼成することで、モリブデン酸マグネシウムを含む中間体を得ることができる。
【0048】
第1の混合物がアルミニウム化合物を含まない場合すなわち混合物(a−1)を用いる場合は、モリブデン酸アルミニウムが生成しないため、特に焼成温度の上限はないが、工業的な実施のし易さから400〜2000℃であることが好ましく、600〜1000℃以下であることがさらに好ましい。1000℃以下では焼成物が硬くならないため、後のアルミニウム化合物との混合が容易となるので好ましい。
【0049】
一方、第1の混合物がアルミニウム化合物を含む場合すなわち混合物(a−2)を用いる場合、焼成温度は、400〜1000℃であることが好ましく、この温度範囲では、モリブデン化合物は、アルミニウム化合物よりも優先してマグネシウム化合物と反応し、モリブデン酸アルミニウムの生成を抑制することができる。さらに好ましくは、600〜800℃であり、この温度範囲であれば未反応のモリブデン量とモリブデン酸アルミニウムの生成量をさらに減らすことが可能である。
【0050】
また、焼成温度は前記の温度範囲内であれば、一定温度で所定の時間保持しても良いし、徐々に昇温したり降温したりしても良い。
【0051】
400〜1000℃で焼成する時間は、昇温時間、降温時間および保持時間を含めて、4〜100時間であることが好ましく、実施の容易さから4〜20時間であることがさらに好ましい。4時間以上では、モリブデン化合物とマグネシウム化合物の反応が良好である為、好ましい。
【0052】
工程(1)における焼成後は、いったん冷却してモリブデン酸マグネシウムを単離してもよいし、アルミニウム化合物を既に含んでいる場合には、そのまま後述する工程(2)を行ってもよい。
【0053】
中間体
第1の混合物を焼成して得られる中間体は、モリブデン酸マグネシウムを必須成分として含むものであり、第1の混合物が混合物(a−1)である場合は、実質的にモリブデン酸マグネシウムを主成分として含有するものとなり、第1の混合物が混合物(a−2)である場合は、実質的にモリブデン酸マグネシウムとモリブデン酸アルミニウムとを主成分として含有するものとなる。
【0054】
モリブデン酸マグネシウム
モリブデン酸マグネシウムは、後述する焼成工程において、モリブデンの蒸気の発生源となるとともに、アルミニウム化合物のアルミニウム原子と結晶を形成するマグネシウム原子を提供する機能を有する。
【0055】
モリブデン酸マグネシウムは、マグネシウム原子、モリブデン原子、および酸素原子を含み、一般的には、MgMoで表される。本発明の製造方法によって生成するモリブデン酸マグネシウムの構造は主に、MgMoO、MgMo11、MgMoと、これらのマグネシウム化合物、またはモリブデン化合物との固溶体である。
【0056】
モリブデン酸アルミニウム
モリブデン酸アルミニウムは、アルミニウム原子、モリブデン原子、および酸素原子を含み、一般的には、Al(MoOで表される。ここで、xとyは共に1以上の整数または少数である。モリブデン酸アルミニウムは分解により、α化度の高いアルミナを形成し得る。
【0057】
本発明の製造方法は、さらに、前記中間体およびアルミニウム化合物を含む第2の混合物を焼成してスピネル粒子を製造する工程(2)を含む。工程(1)において混合物(a−2)を用いた場合は、前記中間体を含む第2の混合物が、工程(1)において混合物(a−1)を用いた場合は、前記中間体とアルミニウム化合物とを含む第2の混合物が、この工程(2)においてそれぞれ用いられる。この工程(2)は、工程(1)で選択した温度より高温で第2の混合物の焼成を行うことでスピネル粒子(A)を得る工程である。
【0058】
スピネル焼成工程
金属成分を複数有するスピネルでは、焼成過程において、欠陥構造等が生じ易いため、結晶構造を精密に制御することが困難である。しかしながら、モリブデン酸マグネシウムおよびアルミニウム化合物を焼成することにより、酸化モリブデンがフラックス剤として機能しつつ、マグネシウム、アルミニウムと酸素からなるスピネル結晶構造を精密に制御することができる。
【0059】
また、スピネル粒子(A)の平均粒径は、主にフラックス剤であるモリブデンの添加量、具体的には、上述のマグネシウム元素に対するモリブデン元素のモル比(モリブデン元素/マグネシウム元素)により制御することができる。この理由は、モリブデン化合物がフラックスとして機能し、原料であるマグネシウム化合物および/またはアルミニウム化合物を溶解させることで、MgAl24の結晶化が進行するためである。
【0060】
第2の混合物
第2の混合物は、前記中間体およびアルミニウム化合物を含む。ここで、スピネル化反応に必要な量のアルミニウム化合物が、第1の混合物に既に含まれている場合は、後述のその他の化合物を添加する場合を除いて、第2の混合物は前記中間体と同一のものである。
【0061】
上記工程(1)において、混合物(a−2)を用いた場合は、この第2の混合物として、前記中間体を含む第2の混合物を、上記工程(1)において、混合物(a−1)を用いた場合は、この第2の混合物として、前記中間体とアルミニウム化合物とを含む第2の混合物、がそれぞれ用いられる。
【0062】
アルミニウム化合物
アルミニウム化合物としては、特に制限されないが、金属アルミニウム、酸化アルミニウム(α−アルミナやγ−アルミナ、θ−アルミナ、δ−アルミナ等の遷移アルミナ)、ベーマイト、水酸化アルミニウム、硫化アルミニウム、窒化アルミニウム、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム等のアルミニウム誘導体;硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウムアルミニウム、硫酸カリウムアルミニウム、硫酸アンモニウムアルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、アルミン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、リン酸アルミニウム等のアルミニウムオキソ酸塩;酢酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、ラウリン酸アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム等のアルミニウム有機塩;アルミニウムプロポキシド、アルミニウムブトキシド等のアルコキシアルミニウム;およびこれらの水和物等が挙げられる。これらのうち、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、およびこれらの水和物を用いることが好ましく、γ−アルミナ、θ−アルミナ、δ−アルミナ等の遷移アルミナ、ベーマイト、水酸化アルミニウムを用いることがより好ましい。
【0063】
なお、上述のアルミニウム化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
前記アルミニウム化合物のアルミニウム元素に対するモリブデン酸マグネシウムのマグネシウム元素のモル比(アルミニウム元素/マグネシウム元素)は、2.8〜1.6の範囲であることが好ましく、2.2〜1.8の範囲であることがより好ましい。前記モル比が2.2〜1.8の範囲であると、スピネル結晶中でアルミニウム元素とマグネシウム元素の置換が少なく、緻密性の高い高熱伝導性のスピネル粒子合成できることから好ましい。
【0065】
第2の混合物は、モリブデン酸マグネシウムおよびアルミニウム化合物以外に、その他の化合物を含有していても良い。その他の化合物としては、亜鉛化合物、コバルト化合物、ニッケル化合物、鉄化合物、マンガン化合物、チタン化合物、ジルコニウム化合物、ナトリウム化合物、カルシウム化合物、ストロンチウム化合物、イットリウム化合物、ケイ素化合物、ホウ素化合物等が挙げられる。
【0066】
これらの化合物は、第1の混合物を焼成した中間体に含まれていても良く、アルミニウム化合物の主成分もしくは不純物として含まれていても良く、さらに、第2の混合物の調製段階で添加されても良い。
【0067】
第2の混合物の焼成
中間体とアルミニウム化合物とを含む第2の混合物を、工程(1)で選択した温度より高温で焼成することで、スピネル粒子(A)を得ることができる。
【0068】
焼成温度は、所望のスピネル粒子(A)を得ることができれば特に制限されないが、短時間で結晶性の高いスピネル粒子(A)を得ることができ、かつ、スピネルの粒径制御が容易となることから、1000〜2000℃であることが好ましく、1200〜1600℃であることがより好ましく、1300〜1500℃であることが最も好ましい。
【0069】
焼成時間は、特に制限されないが、結晶性の高いスピネル粒子(A)を得ることができ、かつ、生産性が高くエネルギー消費も抑制できることから0.1〜1000時間であることが好ましく、3〜100時間であることがより好ましい。
【0070】
焼成雰囲気は、空気雰囲気であっても、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガス雰囲気であっても、酸素雰囲気であっても、アンモニアガス雰囲気であっても、二酸化炭素雰囲気であってもよい。この際、製造コストの観点からは空気雰囲気であることが好ましい。また、スピネル粒子(A)の表面改質等を同時に行う場合には、アンモニアガス雰囲気であることが好ましい。
【0071】
焼成時の圧力についても特に制限されず、常圧下であっても、加圧下であっても、減圧下であってもよいが、製造コストの観点から常圧下で行う事が好ましい。
【0072】
加熱手段としては、特に制限されないが、焼成炉を用いることが好ましい。この際使用されうる焼成炉としては、トンネル炉、ローラーハース炉、ロータリーキルン、マッフル炉等が挙げられる。
[固溶化および晶出による焼成工程]
本発明の一実施形態によれば、マグネシウム化合物およびアルミニウム化合物の第3の混合物をモリブデン原子の存在下で焼成して、固溶化および晶出によりスピネル粒子(A)を製造することができる。
【0073】
ここでアルミニウム源およびモリブデン化合物を含む第3の混合物を焼成することで、中間化合物であるモリブデン酸アルミニウムを経由し、前記モリブデン酸アルミニウムが分解し、モリブデン化合物が蒸発することで、モリブデンを含むアルミニウム化合物が生成する。この際、前記モリブデン化合物の蒸発がモリブデンを含むアルミニウム化合物の結晶成長の駆動力となる。
【0074】
前記固溶化および晶出は、通常、いわゆる固相法により行われる。具体的には、マグネシウム化合物およびアルミニウム化合物が界面において反応して核を形成し、マグネシウム原子および/またはアルミニウム原子が、前記核を介して固相拡散し、アルミニウム化合物および/またはマグネシウム化合物と反応する。これにより、緻密な結晶体、すなわちスピネル粒子を得ることができる。この際、前記固相拡散において、マグネシウム原子のアルミニウム化合物への拡散速度は、アルミニウム原子の金属化合物への拡散速度よりも相対的に高いため、アルミニウム化合物の形状が反映されたスピネル粒子が得られる傾向がある。このため、アルミニウム化合物の形状や平均粒径を適宜変更することで、スピネル粒子(A)の形状および平均粒径を制御することが可能となりうる。
【0075】
ここで、上述の固相反応は、モリブデン存在下で行われる。金属成分を複数有するスピネル粒子では、焼成過程において、欠陥構造等が生じやすいため、結晶構造を精密に制御することが困難であるが、モリブデンを用いることにより、スピネル結晶の結晶構造を制御することができる。これにより、[111]面の結晶子径は大きくなり、熱伝導性に優れるスピネル型複合酸化物粒子が得られうる。なお、固相反応は、モリブデン存在下で行われるため、得られるスピネル粒子(A)には、モリブデンが含まれうる。
【0076】
また、上述のアルミニウム化合物はモリブデンを含むことが好ましい。この際、前記モリブデンを含むアルミニウム化合物のモリブデン含有形態は、特に制限されないが、スピネル粒子と同様に、モリブデンがアルミニウム化合物表面に付着、被覆、結合、その他これに類する形態で配置される形態、モリブデンがアルミニウム化合物に組み込まれる形態、これらの組み合わせが挙げられる。この際、「モリブデンがアルミニウム化合物に組み込まれる形態」としては、アルミニウム化合物を構成する原子の少なくとも一部がモリブデンに置換する形態、アルミニウム化合物の結晶内部に存在しうる空間(結晶構造の欠陥により生じる空間等を含む)にモリブデンが配置される形態等が挙げられる。なお、前記置換する形態において、置換されるアルミニウム化合物を構成する原子としては、特に制限されず、アルミニウム原子、酸素原子、他の原子のいずれであってもよい。
上述のアルミニウム化合物のうち、モリブデンを含むアルミニウム化合物を用いることが好ましく、モリブデンが組み込まれたアルミニウム化合物を用いることがより好ましい。
上述のモリブデンを含むアルミニウム化合物は、前記フラックス法により調製することができる。
【0077】
[冷却工程]
冷却工程は、焼成工程において結晶成長したスピネル粒子(A)を冷却する工程である。冷却速度についても特に制限されないが、1〜1000℃/時間であることが好ましい。冷却速度が1℃/時間以上であると、製造時間が短縮されうることから好ましい。一方、冷却速度が1000℃/時間以下であると、焼成容器がヒートショックで割れることが少なく、長く使用できることから好ましい。冷却方法は特に制限されず、自然放冷であっても、冷却装置を使用してもよい。
【0078】
以上、1−A)の焼成工程を経て2)の冷却工程を経るスピネル粒子(A)の製造方法につき、詳述してきたが、1−A)の焼成工程に代えて、1−B)モリブデン化合物およびマグネシウム化合物とアルミニウム化合物とを焼成してスピネル粒子(A)を得る焼成工程を適用することができる。
【0079】
1−B)の焼成工程を経てスピネル粒子(A)を得る製造方法は、モリブデン化合物がフラックス剤としてより効果的に作用しスピネル粒子(A)の結晶成長が精密に制御されることで結晶子サイズが大きいスピネル粒子(A)を製造できるという別の長所を有している。1−B)の製造方法によれば、1−A)の製造方法に比べて、より熱伝導性に優れたスピネル粒子(A)が得られる。
【0080】
例えば、上記の様にして得られたスピネル粒子(A)は、スピネル粒子(A)表面の少なくとも一部に表面処理層を付着させることで、本発明の表面処理スピネル粒子(B)を製造することができる。具体的には、上記スピネル粒子(A)と、有機化合物を含む表面処理剤とを混合し、スピネル粒子(A)の表面の少なくとも一部に当該表面処理剤を付着させることで表面処理層を形成することができる。この時、表面処理層は表面処理剤を付着させるだけでも良いし、表面処理剤を付着させたのち、乾燥及びまたは硬化を行っても構わない。表面処理剤自体が反応性を有しないが吸着性を有する有機化合物であったり、表面処理剤が液媒体に溶解又は分散した様な溶液又は分散液である場合は、吸着を促進したり液媒体を除去する目的で乾燥を行えば良いし、表面処理剤が反応性を有する有機化合物である場合は、当該化合物の反応性基に基づく硬化を行うことで、前記した表面処理層を形成させることができる。なお、スピネル粒子(A)の表面全体に当該表面処理剤を付着させた場合は、表面処理層でスピネル粒子(A)は被覆されることになる。
【0081】
スピネル粒子(A)の表面の少なくとも一部に、表面処理層が付着されている状態とすることで、樹脂組成物に含まれる有機高分子化合物(C)との濡れ性が向上し、表面処理スピネル粒子(B)との密着性が向上することから、スピネル粒子表面に生じやすい空隙(ボイド)の生成が抑えられるため、熱伝導率のロスが低くなることから、例えば、樹脂組成物の成形物の熱伝導性を改善することができる。この様な技術的効果は、スピネル粒子(A)の表面の一部に、有機化合物に基づく表面処理剤またはその硬化物に基づく表面処理層が付着していることで発現するものであり、例えば、表面処理後に焼成を行う等して、表面処理層を当該表面処理スピネル粒子(B)から除去した場合には、発現させることはできない。
【0082】
<表面処理剤>
本発明で用いるのは、有機化合物を含む表面処理剤である。有機化合物としては、無機化合物であるスピネル粒子(A)に吸着または反応する部位を有する有機化合物が選択される。具体的には有機シラン化合物、有機チタン化合物及び有機燐酸化合物などである。この様な有機化合物としては、例えば、以下の様なものを挙げることができる。
【0083】
有機シラン化合物としてはシランカップリング剤が好ましい。シランカップリング剤としては、特に限定されないが、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、γ−グリシリメトキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0084】
有機チタン化合物としてはチタンカップリング剤が挙げられる。チタンカップリング剤の具体例としては、ジイソプロポキシチタンビス(トリエタノールアミネート)、ジヒドロキシチタンビスラクテート、ジヒドロキシビス(アンモニウムラクテート)チタニウム、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、トリ−n−ブトキシチタンモノステアレート、テトラ−n−ブチルチタネート、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネート等が挙げられる。なかでも、イソプロピルトリ(N−アミドエチル・アミノエチル)チタネートが好ましい。
【0085】
チタンカップリング剤の市販品としては、味の素ファインテクノ株式会社製のプレンアクト(登録商標)が挙げられる。
【0086】
有機リン酸化合物としてはリン酸エステル、アルキルホスホン酸、アラルキルホスホン酸などが挙げられる。リン酸エステルとしては、例えば、オルトリン酸とオレイルアルコール、ステアリルアルコール等のモノ又はジエステル又は両者の混合物など公知のリン酸エステルが挙げられる。
【0087】
アルキルホスホン酸としては、炭素原子数1〜20のアルキル基を有するホスホン酸が挙げられる。非置換の炭素原子数1〜20のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−アミル、1,2−ジメチルプロピル、n−ヘキシル、シクロヘキシル、1,3−ジメチルブチル、1−イソプロピルプロピル、1,2−ジメチルブチル、n−ヘプチル、2−ヘプチル、1,4−ジメチルペンチル、tert−ヘプチル、2−メチル−1−イソプロピルプロピル、1−エチル−3−メチルブチル、n−オクチル、tert−オクチル、2−エチルヘキシル、2−メチルヘキシル、2−プロピルヘキシル、n−ノニル、イソノニル、n−デシル、イソデシル、n−ウンデシル、イソウンデシル、n−ドデシル、イソドデシル、n−トリデシル、イソトリデシル、n−テトラデシル、イソテトラデシル、n−ペンタデシル、イソペンタデシル、n−ヘキサデシル、イソヘキサデシル、n−ヘプタデシル、イソヘプタデシル、n−オクタデシル、イソオクタデシル、n−ノナデシル、イソノナデシル、n−イコシル、イソイコシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロオクチル、シクロドデシル、4−メチルシクロヘキシル等が挙げられる。また、これらのアルキル基が有する置換基は、不活性の基であることが好ましい。好ましい置換基としては、例えばアルコキシ基、ハロゲン原子、ホルミル基、アシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、スルホン基等が挙げられる。
【0088】
アラルキルホスホン酸としては、炭素原子数7〜20のアラルキル基(アリール基で置換されたアルキル基)を有するホスホン酸が挙げられる。炭素原子数7〜20の非置換のアラルキル基の例としては、ベンジル、フェネチル、2−フェニルプロパン−2−イル、スチリル、シンナミル、ジフェニルメチル、トリフェニルメチル等が挙げられる。
【0089】
表面処理剤の処理方法としては、公知慣用の方法で行えばよく、例えば、流体ノズルを用いた噴霧方式、せん断力のある攪拌、ボールミル、ミキサー等の乾式法、水系または有機溶剤系等の湿式法を採用することができる。せん断力を利用した表面処理は、フィラーの破壊が起こらない程度にして行うことが望ましい。
表面処理方法としては、表面処理量が多く被覆の均一性に優れることから、湿式法での処理が好ましい。
【0090】
また表面処理剤の乾式法における系内温度ないしは湿式法における処理後の乾燥または硬化の温度は、表面処理剤の種類に応じ熱分解しない領域で適宜決定される。例えば80〜230℃の温度で加熱することが望ましい。
【0091】
また、表面処理剤の処理方法としては、凝集が少なく粒子全周に亘る表面処理層の膜厚均一性や表面処理層の単位表面積当たりの付着量均一性に優れるスピネル粒子を得られることから、化学気相成長法(CVD法)で表面処理を行うことが好ましい。
【0092】
CVD法での化学反応は熱、プラズマ、光などのエネルギーで誘起する方法が知られているが、中でも、熱エネルギーを用いた熱CVD法は、通常のCVD法の様な高真空状態を形成維持することが可能な特殊かつ高価な設備を必要とせず、比較的安価な設備でかつ生産性高く、スピネル粒子表面の微細な凹凸構造へ、追従性高くかつ効率良く表面処理剤を付着被覆させて表面処理層を形成させることができ、さらに、表面処理層の厚みや、表面処理剤が反応性を有する有機化合物である場合には、当該化合物の反応性基に基づく硬化を制御できるため、好ましい。
【0093】
熱CVD法は、気体又は液体の原料を加熱して気化し、その蒸気の気相中、或いはスピネル粒子表面における化学反応により薄膜を形成する方法である。気相中での処理であるため、液相中あるいは固相中での処理と比べて、凝集が少なく表面処理層の膜厚及び付着量の均一性に優れた表面処理スピネル粒子を、より容易に得ることができる。CVD法は、液相中での処理に比べて、凝集が少なく粒子全周に亘る表面処理層の膜厚均一性や表面処理層の単位表面積当たりの付着量均一性を、達成することがより容易である。
【0094】
熱CVD法によるスピネル粒子(A)の表面処理方法としては、例えば、密閉した高圧反応容器中に表面処理剤とスピネル粒子(A)を直接接触しない状態で加え、反応容器全体を加熱することにより、表面処理スピネル粒子(B)を得ることができる。なお、加熱手段としては、電気炉、燃焼炉、熱交換又は赤外線加熱を利用することができる。
【0095】
ここで、加熱された反応容器内の温度は、表面処理剤の沸点より低い温度とすることが好ましい。具体的な温度は、用いる表面処理剤の種類に応じて適宜選択すれば良いが、例えば、表面処理剤として有機シラン化合物、有機チタン化合物及び有機燐酸化合物などの表面処理剤を用い、熱CVD法でスピネル粒子(A)の表面処理を行う場合の温度範囲は、50〜400℃程度が好ましく、100〜300℃程度で処理すると表面処理層の均一性が優れるのでより好ましい。
【0096】
なお、表面処理スピネル粒子(B)表面に表面処理剤の表面処理層が均一に付着しているかどうかは、表面処理スピネル粒子(B)のSEM−EDS測定により確認できる。スピネルの結晶構造は、平坦な自形面を有する八面体構造であるため、例えば、これらできだけ多くの面が視野に入る様に、或いは個々の面につきそれぞれSEM−EDS測定に基づく写真を撮影し画像処理すれば、平坦な自形面上の表面処理層の均一性は、容易に確認することができる。具体的には、表面処理剤として有機シラン化合物を含有する剤を用いた場合には、有機シラン化合物に由来する珪素原子の分布状態を測定することで(一般的には、測定後に画像処理することにより、原子が斑点として表示されその濃淡で原子の存在位置の偏りを観察できるので)、表面処理層が均一に付着しているかを確認することができる。
【0097】
前記表面処理スピネル粒子(B)の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は0.0001〜0.1gである。熱伝導性と接着性の兼備の点から、より好ましくは0.001〜0.05gであり、特に好ましくは0.005〜0.03gである。
ここで、表面処理スピネル粒子(B)の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、表面処理スピネル粒子(B)の熱重量分析計(TGA)で室温25℃から500℃まで大気雰囲気で10℃/分で昇温した際に得られる200℃から500℃での加熱質量減少率から求められる表面処理スピネル粒子(B)1gあたりの重量減少量(a)を、BET比表面積で測定される表面処理スピネル粒子(B)1gあたりの表面積(b)で割って求めた値(a/b)である。
【0098】
未知のスピネル粒子が、本発明の表面処理スピネル粒子(B)に相当するかどうかは、例えば、当該未知のスピネル粒子を、表面処理剤の不揮発分または硬化物を溶解する溶媒に浸漬したり煮沸する等して抽出した抽出液やそのスピネル粒子表面自体に、指標である、表面処理剤自体やその硬化物に対応する化学構造や、珪素原子、チタン原子或いは燐原子の存在が、赤外線吸収分析(IR)や原子吸光分析(AA)にて観察できるか否かで、確認することができる。
【0099】
本発明の表面処理スピネル粒子(B)は、特定平均粒径の表面処理スピネル粒子(B)を単独で用いることもできるし、異なる特定平均粒径の異なる粒径分布をもった二種以上の表面処理スピネル粒子(B)を併用することもできる。例えば、より高い熱伝導性が要求される用途の樹脂組成物では、有機高分子化合物(C)に含有させる表面処理スピネル粒子(B)をより多くすることが好ましいが、大粒子、中粒子及び小粒子といった、異なる特定平均粒径の異なる粒径分布をもった三種の表面処理スピネル粒子(B)を併用することで、大粒子の隙間を中粒子や小粒子が埋めパッキング構造を容易に形成させることができる。こうして、有機高分子化合物(C)に含有させる表面処理スピネル粒子(B)をより増加させることができ、熱伝導パスの増加でより優れた熱伝導性を達成することが可能となる。
【0100】
異なる特定平均粒径の異なる粒径分布をもった三種の表面処理スピネル粒子(B)としては、具体的には、50%累積粒径が10〜100μmで、球状又は多面体形状のスピネル粒子(B1)と、50%累積粒径が1〜30μmかつスピネル粒子(B1)の50%累積粒径に対して1/10以上1/2以下であって、球状又は多面体形状のスピネル粒子(B2)と、50%累積粒径が5μm以下でありかつスピネル粒子(B2)の50%累積粒径に対して1/100以上1/2以下であって、球状又は多面体形状のスピネル粒子(B3)の3種類のスピネル粒子(B)を挙げることができる。
【0101】
本発明の樹脂組成物において、表面処理スピネル粒子(B)の量は、有機高分子化合物(C)と表面処理スピネル粒子(B)とを含有する固形分量中において、例えば、15〜95質量%である。15質量%以上であれば、熱伝導性に優れた成形物となり、95質量%までであれば、十分な接着性や流動性が得られる。熱伝導性と接着性や流動性の兼備の点から、より好ましくは20〜95質量%であり、特に好ましくは30〜94質量%である。
【0102】
<組成物>
本発明の一形態によれば、表面処理スピネル粒子(B)と、有機高分子化合物(C)とを含む、樹脂組成物が提供される。この際、前記組成物は、必要に応じて、硬化剤、硬化触媒、粘度調節剤、可塑剤等をさらに含んでいてもよい。
【0103】
スピネル粒子としては、上述した表面処理スピネル粒子(B)が用いられうる。スピネル粒子の含有量は、組成物の質量に対して、10〜95質量%であることが好ましく、30〜90質量%であることがより好ましい。スピネル粒子の含有量が10質量%以上であると、スピネル粒子の高熱伝導性を効率的に発揮できることから好ましい。一方、スピネル粒子の含有量が95質量%以下であると、成形性に優れた樹脂組成物を得ることができることから好ましい。
【0104】
<その他の無機フィラー>
本発明の樹脂組成物の調製に当たっては、本発明の効果を損なわない範囲において、表面処理スピネル粒子(B)以外にも、未処理のスピネル粒子や、その他の表面処理された或いは表面処理されていない無機フィラーを含有させてもかまわない。無機フィラーとしては、公知慣用のものを使用すればよく、例えば、金、白金、銀、銅、ニッケル、パラジウム、鉄、アルミニウム、ステンレス、グラファイト(黒鉛)等の導電性の粉体、酸化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、窒化硼素、硼酸アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、ダイヤモンド等の非導電性の粉体などが挙げられる。また、これらの無機充填剤は1種類又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0105】
上記した無機フィラーの中でも表面処理された或いは表面処理されていない酸化アルミニウム粒子や表面処理されていないスピネル粒子は、表面処理スピネル粒子(B)と併用した際に、より優れた熱伝導性と絶縁性を両立できるので好ましい。表面処理の有無にかかわらず、上記スピネル粒子の場合と同様に、大粒子、中粒子及び小粒子のものを準備して、スピネル粒子と酸化アルミニウム粒子にて各大粒子同士を組み合わせて用いたり、大粒子のスピネル粒子に、中粒子や小粒子の各酸化アルミニウム粒子を組み合わせて用いたりすることもできる。
【0106】
(有機高分子化合物)
有機高分子化合物(C)としては、特に制限されず、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂が挙げられる。
【0107】
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限されず、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂が用いられうる。具体的には、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリアリルスルホン樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、熱可塑性ウレタン樹脂、ポリアミノビスマレイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ビスマレイミドトリアジン樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、フッ化樹脂、液晶ポリマー、オレフィン−ビニルアルコール共重合体、アイオノマー樹脂、ポリアリレート樹脂、アクリロニトリル−エチレン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体などが挙げられる。
【0108】
前記熱硬化性樹脂としては、加熱または放射線や触媒などの手段によって硬化される際に実質的に不溶かつ不融性に変化し得る特性を持った樹脂であり、一般的には、成形材料等に使用される公知慣用の樹脂が用いられうる。具体的には、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等のノボラック型フェノール樹脂;未変性のレゾールフェノール樹脂、桐油、アマニ油、クルミ油等で変性した油変性レゾールフェノール樹脂等のレゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂;ビスフェノールAエポキシ樹脂、ビスフェノールFエポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;脂肪鎖変性
ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラックエポキシ樹脂、クレゾールノボラックエポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ポリアルキレングルコール型エポキシ樹脂等のエポキシ樹脂;ユリア(尿素)樹脂、メラミン樹脂等のトリアジン環を有する樹脂;(メタ)アクリル樹脂やビニルエステル樹脂等のビニル樹脂:不飽和ポリエステル樹脂、ビスマレイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ベンゾオキサジン環を有する樹脂、シアネートエステル樹脂等が挙げられる。
【0109】
上述の樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この際、熱可塑性樹脂を2種以上使用してもよいし、熱硬化性樹脂を2種以上使用してもよいし、熱可塑性樹脂を1種以上および熱硬化性樹脂を1種以上使用してもよい。
【0110】
有機高分子化合物(C)の含有量は、組成物の質量に対して、5〜90質量%であることが好ましく、10〜70質量%であることがより好ましい。有機高分子化合物(C)の含有量が5質量%以上であると、樹脂組成物に優れた成形性を付与できることから好ましい。一方、樹脂の含有量が90質量%以下であると、成形してコンパウンドとして高熱伝導性を得ることができることから好ましい。
【0111】
(硬化剤)
硬化剤としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。具体的には、アミン系化合物、アミド系化合物、酸無水物系化合物、フェノ−ル系化合物などが挙げられる。
【0112】
前記アミン系化合物としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、イソホロンジアミン、イミダゾ−ル、BF3−アミン錯体、グアニジン誘導体等が挙げられる。
前記アミド系化合物としては、ジシアンジアミド、リノレン酸の2量体とエチレンジアミンとより合成されるポリアミド樹脂等が挙げられる。
前記酸無水物系化合物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
前記フェノール系化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、レゾルシンノボラック樹脂に代表される多価ヒドロキシ化合物とホルムアルデヒドから合成される多価フェノールノボラック樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール−フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール−クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核およびアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。上述硬化剤は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0113】
(硬化促進剤)
硬化促進剤は、組成物を硬化する際に硬化を促進させる機能を有する。前記硬化促進剤としては、特に制限されないが、リン系化合物、第3級アミン、イミダゾール、有機酸金属塩、ルイス酸、アミン錯塩等が挙げられる。上述の硬化促進剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0114】
(硬化触媒)
硬化触媒は、前記硬化剤の代わりに、エポキシ基を有する化合物の硬化反応を進行させる機能を有する。硬化触媒としては、特に制限されず、公知慣用の熱重合開始剤や活性エネルギー線重合開始剤が用いられうる。なお、硬化触媒は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0115】
(溶剤)
本発明の樹脂組成物は、使用用途に応じて溶剤を配合してもかまわない。溶剤としては有機溶剤が挙げられ、例えばメチルエチルケトン、アセトン、酢酸エチル、トルエン、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられ、その選択や適正な使用量は用途によって適宜選択し得る。
【0116】
(粘度調節剤)
粘度調節剤は、組成物の粘度を調整する機能を有する。粘度調節剤としては、特に制限されず、有機ポリマー、ポリマー粒子、無機粒子等が用いられうる。なお、粘度調節剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0117】
(可塑剤)
可塑剤は、熱可塑性合成樹脂の加工性、柔軟性、耐候性を向上させる機能を有する。可塑剤としては、特に制限されず、フタル酸エステル、アジピン酸エステル、リン酸エステル、トリメリット酸エステル、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリシロキサンが用いられうる。なお、上述の可塑剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0118】
(用途)
本発明の一実施形態によれば、本形態に係る組成物は、熱伝導性材料に使用することができる。
【0119】
熱伝導性材料としては、コストの観点からアルミナがよく使用されており、その他、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム等が使用されていた。これに対し、スピネル粒子は、熱伝導性がアルミナよりも劣ることが知られていたため、あえてアルミナに代えてスピネル粒子を用いるという思想はなかった。
【0120】
これに対し、本形態に係る未処理スピネル粒子は、[111]面の結晶子径が大きいため熱伝導性能に優れている。特に、スピネル粒子の熱伝導率は、アルミナの熱伝導率よりも高い。この様な未処理スピネル粒子から得た表面処理スピネル粒子(B)は、際立って優れた諸特性を発現する。したがって、本形態に係る組成物は、例えば、熱伝導性材料に好適に使用される。
【0121】
また、一実施形態によれば、上記製造方法によって得られる表面処理スピネル粒子(B)はミクロンオーダーの粒径(1000μm以下)かつ結晶子径が大きい場合には、有機高分子化合物(C)である樹脂中への分散性に優れるため、組成物としていっそう優れた熱伝導性を発揮しうる。
【0122】
さらに別の実施形態によれば、上記製造方法によって得られるスピネル粒子は、自形を持つ多面体状粒子であり、無定形の粒子を粉砕して得たものではないことから、平滑性に優れ、樹脂中への分散性に優れる。このため、組成物として、非常に高い熱伝導性を有しうる。
【0123】
その他、表面処理スピネル粒子(B)は、例えば、触媒担体、吸着剤、光触媒、光学材料、耐熱絶縁材料、基板、センサー等の用途にも使用することができる。
【0124】
<成形物>
本発明の一形態によれば、上述の組成物を成形してなる成形物が提供される。成形物に含有される表面処理スピネル粒子(B)は熱伝導性に優れることから、当該成形物は、好ましくは絶縁放熱部材として使用される。これにより、機器の放熱機能を向上させることができ、機器の小型軽量化、高性能化に寄与することができる。
【0125】
また、本発明の別の一実施形態によれば、前記成形物は、低誘電部材等にも使用することができる。スピネル粒子が低誘電率であることにより、高周波回路において通信機能の高機能化に寄与することができる。
【実施例】
【0126】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳述するが、本記述は本発明を限定するものではない。実施例中、特に言及のない場合は質量換算である。
【0127】
<合成例1>スピネル粒子(A−1)の合成
アルミナるつぼに酸化マグネシウム(神島化学製高純度酸化マグネシウムHP−30A)7.7質量部(マグネシウム元素:0.19mol)、および三酸化モリブデン(和光純薬工業株式会社製)41.0質量部(モリブデン元素:0.28mol)を仕込み、空気雰囲気下、昇温速度600℃/時間で700℃まで昇温した。次いで、700℃で3時間加熱し、自然放冷により常温まで冷却することで、モリブデン酸マグネシウムを含む中間体を得た。得られた中間体23.4質量部と水酸化アルミニウム(日本軽金属製細粒水酸化アルミニウムBF013)14.3質量部(アルミニウム元素:0.18mol)との混合物を調製した。該混合物をアルミナるつぼに仕込み、昇温速度200℃/時間で1500℃まで昇温した。次いで、1500℃で12時間加熱し、自然放冷により常温まで冷却することで、焼成塊を得た。得られた焼成塊をボールミルで12時間粉砕し、熱水で洗浄した後、目開き75μmのメッシュで篩って、篩下をスピネル粒子(A−1)として得た。得られたスピネル粒子の平均粒径は45μmであり、モリブデン含有量は三酸化モリブデン換算で0.30質量%であり、[111]面の結晶子径は290nmであった。
【0128】
平均粒径、モリブデン含有量、結晶子径、および、結晶ピーク強度比は以下の方法で評価した(以下の合成例においても同様である。)。
【0129】
<平均粒径>
製造したスピネル粒子(A)について、走査型電子顕微鏡観察(SEM)により平均粒径を測定した。具体的には、表面観察装置であるVE−9800(株式会社キーエンス製)を用いて、平均粒径を測定した。
【0130】
<モリブデン含有量>
製造したスピネル粒子(A)について、蛍光X線測定(XRF)によりモリブデン含有量を測定した。具体的には、蛍光X線分析装置であるZSX100e(株式会社リガク製)を用いて測定を行った。この際、測定方法はFP(ファンクションポイント)法を用いた。また、測定条件として、EZスキャンを用い、測定範囲はB〜Uであり、測定径は10mmであり、試料重量は50mgである。なお、粉末のまま測定を行い、この際、飛散防止のためポリプロピレン(PP)フィルムを使用した。
【0131】
<結晶子径>
製造したスピネル粒子(A)について、[111]面および[311]面の結晶子径を測定した。具体的には、X線回折装置であるSmartLab(株式会社リガク製)を用い、検出器として高強度・高分解能結晶アナライザ(CALSA)(株式会社リガク製)を用いて測定を行った。また、解析ソフトはPDXLを用いて解析を行った。この際、測定方法は粉末X線回折法であり、解析はPDXLのCALSA関数を用いて、[111]面の結晶子径については、2θ=19度付近に出現するピークの半値幅からシェラー式を用いて算出し、[311]面の結晶子径については、2θ=37度付近に出現するピークの半値幅からシェラー式を用いて算出した。なお、測定条件として、2θ/θ法、管電圧45kV、管電流200mAであり、スキャンスピードは0.05度/分であり、スキャン範囲は10〜70度であり、ステップは0.002度であり、βs=20rpmである。装置標準幅は米国立標準技術研究所が作製している標準シリコン粉末(NIST、640d)を用いて算出した0.026度を使用した。
【0132】
<合成例2>スピネル粒子(A−2)の合成
アルミナるつぼに酸化アルミニウム(和光純薬工業株式会社製)1.00質量部(アルミニウム元素:19.6mmol)、酸化マグネシウム(和光純薬工業株式会社製)0.40質量部(マグネシウム元素:9.8mmol)、および三酸化モリブデン(和光純薬工業株式会社製)2.22質量部(モリブデン元素:15.5mmol)を仕込み、空気雰囲気下、昇温速度10℃/分で1500℃まで昇温した。次いで、1500℃で12時間加熱し、自然放冷により常温まで冷却することで、焼成塊を得た。得られた焼成塊をボールミルで12時間粉砕し、熱水で洗浄した後、目開き75μmのメッシュで篩って、篩下をスピネル粒子(A−2)として得た。
得られたスピネル粒子(A−2)の平均粒径は45μmであり、モリブデン含有量は三酸化モリブデン換算で0.30質量%であり、[111]面の結晶子径は280nmであった。
【0133】
<合成例3>スピネル粒子(A−3)の合成
酸化アルミニウム1.00質量部に代えて、水酸化アルミニウム(和光純薬工業株式会社製)1.53質量部(アルミニウム元素:9.8mmol)を用いたことを除いては、合成例2と同様の方法でスピネル粒子(A−3)を製造した。得られたスピネル粒子の平均粒径は6μmであり、モリブデン含有量は三酸化モリブデン換算で0.15質量%であり、[111]面の結晶子径は270nmであった。
【0134】
上記合成例1〜3で得られた未処理スピネル粒子は、いずれも、モリブデンを含み、[111]面の結晶子径が、220nm以上であり、かつ平均粒径が、0.1〜1000μmであり、それ自体で表面処理に最適な未処理スピネル粒子であった。
【0135】
<比較合成例1>比較未処理スピネル粒子(HA−1)の合成
特開2016―121049公報の実施例1の記載に従って、未処理スピネル粒子の合成を行い、平均粒径45μmの公知慣用のスピネル粉末(HA−1)を得た。
【0136】
<比較合成例2>スピネル粒子(HA−2)の合成 平均粒径5μmの酸化アルミニウム粉末 DAW−07(デンカ(株))100質量部と、酸化マグネシウム(神島化学工業株式会社製「スターマグU」)40質量部と、塩化ナトリウム0.1質量部とを混合した。得られた混合物を焼成サヤに投入し、1150℃雰囲気下で6時間にわたって大気圧下で焼成を行い、平均粒径6μmの公知慣用のスピネル粉末(HA−2)を得た。
【0137】
上記比較合成例1および2で得られた未処理スピネル粒子は、モリブデンを含まず、それ自体で表面処理に適さない未処理スピネル粒子であった。外観上の凝集も見られ、有機高分子化合物への分散性及び分散安定性は到底満足できないことが予想された。
【0138】
合成したスピネル粒子について表1に示す。
【0139】
【表1】
【0140】
<実施例1>表面処理スピネル(B)(F−1)の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、合成例1で合成したスピネル粒子(A−1)100質量部、水0.005質量部、およびメチルエチルケトン100質量部を加え、攪拌した。このスラリー中にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、80℃まで昇温してさらに10時間攪拌したのち、ろ別し、メチルエチルケトンで洗浄し、得られたろ過ケーキを200℃で2時間乾燥して、前記シラン化合物の硬化物がスピネル粒子の表面の少なくとも一部に付着した表面処理スピネル粒子(B)(F−1)を得た。得られた表面処理スピネル粒子(B)の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.03gであった。
表面積1m2あたりの表面処理層の付着量、および、表面処理層の付着状態は以下の方法で評価した(以下の実施例においても同様である。)。
【0141】
<表面積1mあたりの表面処理層の付着量>
表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、表面処理スピネル粒子(B)の熱重量分析計(TGA)で室温25℃から500℃まで大気雰囲気で10℃/分で昇温した際に得られる200℃から500℃での加熱質量減少率から求められる表面処理スピネル粒子1gあたりの重量減少量(a)を、BET比表面積で測定される表面処理スピネル粒子1gあたりの表面積(b)で割って求めた値(a/b)である。
【0142】
<実施例2>表面処理スピネル(B)(F−2)の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、合成例1で合成したスピネル粒子(A−1)100質量部、水0.005質量部、およびメチルエチルケトン100質量部を加え、攪拌した。このスラリー中にN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、80℃まで昇温してさらに10時間攪拌したのち、ろ別し、メチルエチルケトンで洗浄し、得られたろ過ケーキを200℃で2時間乾燥して、前記シラン化合物の硬化物がスピネル粒子の表面の少なくとも一部に付着した表面処理スピネル粒子(B)(F−2)を得た。得られた表面処理スピネル粒子(B)の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.023gであった。
【0143】
<実施例3>表面処理スピネル(B)(F−3)の合成
100mlポリテトラフルオロエチレン容器中に、合成例1で合成したスピネル粒子(A−1)40質量部と、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2質量部を入れた5mlガラス容器を、スピネル粒子(A−1)とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが直接接触しない状態で入れ、ポリテトラフルオロエチレン容器に蓋をした後、ステンレス製高圧反応容器に入れ、150℃の乾燥機中に16時間加熱することで、前記シラン化合物の硬化物を含む表面処理層が均一に付着した表面処理スピネル粒子(F−3)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.01gであった。
【0144】
<表面処理層の付着状態>
表面処理スピネル粒子(B)(F−3)を白金蒸着し、任意の表面処理スピネル粒子一粒子を対象に、角度を変えて、複数の自形面が視野に入るように、それを日本電子製走査型電子顕微鏡(SEM、JSM7800F)とOxford製エネルギー分散型X線分析(EDS、X−MAX 80mm)にて、2回、SEM−EDS測定を行ったところ、一粒子中の異なる自形面において、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランに由来する珪素がスピネル粒子の表面に均一に存在しており、表面処理層の均一性が優れていることを確認した。
図1および図3は、実施例3で得られた表面処理スピネル粒子(F−3)を対象に、角度を変えて、複数の自形面が視野に入るように、SEM−EDS測定を行った際のそれぞれのSEM画像である。表面処理層が設けられた後であっても、表面処理前の自形面がほとんど保持された状態で、その上に薄層の表面処理層が形成されているものと理解でき、それぞれの面の平坦性に優れていることがわかる。一方、図2および図4は、それぞれ、図1および図3に対応する珪素原子のマッピング画像である。黄色の点が珪素原子を意味しており、その点に濃淡はほとんど無くいずれの自形面においても均一である。
【0145】
なお、表面処理前のスピネル粒子(A−1)は、熱重量分析計(TGA)で室温25℃から500℃まで大気雰囲気で10℃/分で昇温した際に得られる200℃から500℃での加熱質量減少は確認されず、また、SEM−EDS測定でも珪素は確認されず、有機化合物等の付着は確認されなかった。スピネル粒子(A−2およびA−3)についても、同様であった。
【0146】
また、上記実施例で得られた表面処理スピネル粒子(B)は、モリブデンの存否、[111]面の結晶子径は、いずれも表面処理前とほとんど変化が無かった。外観上の凝集も少なく、有機高分子化合物への高い分散性及び高い分散安定性が認められた。
【0147】
<実施例4>表面処理スピネル(B)(F−4)の合成
100mlポリテトラフルオロエチレン容器中に、合成例1で合成したスピネル粒子(B−1)40質量部と、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン2質量部を入れた5mlガラス容器を、スピネル粒子(A−1)とN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが直接接触しない状態で入れ、ポリテトラフルオロエチレン容器に蓋をした後、ステンレス製高圧反応容器に入れ、150℃の乾燥機中に16時間加熱することで、前記シラン化合物の硬化物を含む表面処理層が均一に付着した表面処理スピネル粒子(B)(F−4)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.005gであった。
【0148】
<実施例5>表面処理スピネル(B)(F−5)の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、合成例2で合成したスピネル粒子(A−2)100質量部、水0.005質量部、およびメチルエチルケトン100質量部を加え、攪拌した。このスラリー中にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、80℃まで昇温してさらに10時間攪拌したのち、ろ別し、メチルエチルケトンで洗浄し、得られたろ過ケーキを200℃で2時間乾燥して、前記シラン化合物の硬化物がスピネル粒子の表面の少なくとも一部に付着した表面処理スピネル粒子(B)(F−5)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.03gであった。
【0149】
<実施例6>表面処理スピネル(B)(F−6)の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、合成例2で合成したスピネル粒子(A−2)100質量部、水0.005質量部、およびメチルエチルケトン100質量部を加え、攪拌した。このスラリー中にN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、80℃まで昇温してさらに10時間攪拌したのち、ろ別し、メチルエチルケトンで洗浄し、得られたろ過ケーキを200℃で2時間乾燥して、前記シラン化合物の硬化物がスピネル粒子の表面の少なくとも一部に付着した表面処理スピネル粒子(B)(F−6)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.025gであった。
【0150】
<実施例7>表面処理スピネル(B)(F−7)の合成
100mlポリテトラフルオロエチレン容器中に、合成例1で合成したスピネル粒子(A−2)40質量部と、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2質量部を入れた5mlガラス容器を、スピネル粒子(A−2)とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが直接接触しない状態で入れ、ポリテトラフルオロエチレン容器に蓋をした後、ステンレス製高圧反応容器に入れ、150℃の乾燥機中に16時間加熱することで、前記シラン化合物の硬化物を含む表面処理層が均一に付着した表面処理スピネル粒子(B)(F−7)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.015gであった。
【0151】
<実施例8>表面処理スピネル(B)(F−8)の合成
100mlポリテトラフルオロエチレン容器中に、合成例1で合成したスピネル粒子(A−2)40質量部と、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン2質量部を入れた5mlガラス容器を、スピネル粒子(A−2)とN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが直接接触しない状態で入れ、ポリテトラフルオロエチレン容器に蓋をした後、ステンレス製高圧反応容器に入れ、150℃の乾燥機中に16時間加熱することで、前記シラン化合物の硬化物を含む表面処理層が均一に付着した表面処理スピネル粒子(B)(F−8)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.008gであった。
【0152】
<実施例9>表面処理スピネル(F−9)の合成
100mlポリテトラフルオロエチレン容器中に、合成例1で合成したスピネル粒子(A−1)40質量部と、フェニルトリメトキシシラン2質量部を入れた5mlガラス容器を、スピネル粒子(A−1)とフェニルトリメトキシシランが直接接触しない状態で入れ、ポリテトラフルオロエチレン容器に蓋をした後、ステンレス製高圧反応容器に入れ、150℃の乾燥機中に16時間加熱することで、前記シラン化合物の硬化物を含む表面処理層が均一に付着した表面処理スピネル粒子(F−9)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.013gであった。
【0153】
<実施例10>表面処理スピネル(F−10)の合成
100mlポリテトラフルオロエチレン容器中に、合成例1で合成したスピネル粒子(A−1)40質量部と、ビニルトリメトキシシラン2質量部を入れた5mlガラス容器を、スピネル粒子(A−1)とビニルトリメトキシシランが直接接触しない状態で入れ、ポリテトラフルオロエチレン容器に蓋をした後、ステンレス製高圧反応容器に入れ、100℃の乾燥機中に16時間加熱することで、前記シラン化合物の硬化物を含む表面処理層が均一に付着した表面処理スピネル粒子(F−10)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.02gであった。
【0154】
<実施例11>表面処理スピネル(F−11)の合成
スピネル粒子(A−1)をスピネル粒子(A−2)に変更したことを除いては、実施例9と同様の方法で表面処理スピネル粒子(F−23)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.02gであった。
【0155】
<実施例12>表面処理スピネル(F−12)の合成
スピネル粒子(A−1)をスピネル粒子(A−3)に変更したことを除いては、実施例3と同様の方法で表面処理スピネル粒子(F−12)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.01gであった。
【0156】
<実施例13>表面処理スピネル(F−13)の合成
スピネル粒子(A−1)をスピネル粒子(A−3)に変更したことを除いては、実施例4と同様の方法で表面処理スピネル粒子(F−13)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.006gであった。
【0157】
<実施例14>表面処理スピネル(F−14)の合成
スピネル粒子(A−1)をスピネル粒子(A−3)に変更したことを除いては、実施例9と同様の方法で表面処理スピネル粒子(F−14)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.016gであった。
【0158】
<実施例15>表面処理スピネル(F−15)の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、合成例2で合成したスピネル粒子(A−2)100質量部、水0.005質量部、およびオクタノール100質量部を加え、攪拌した。このスラリー中にオクタデシルプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、100℃まで昇温してさらに10時間攪拌したのち、ろ別し、トルエンで洗浄し、得られたろ過ケーキを200℃で2時間乾燥して、前記シラン化合物の硬化物がスピネル粒子の表面の少なくとも一部に付着した表面処理スピネル粒子(F−15)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.015gであった。
【0159】
<実施例16>表面処理スピネル(F−16)の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、合成例2で合成したスピネル粒子(A−2)100質量部、水0.005質量部、およびオクタノール100質量部を加え、攪拌した。このスラリー中にイソプロピルトリイソステアロイルチタネート0.5質量部を加え、100℃まで昇温してさらに10時間攪拌したのち、ろ別し、トルエンで洗浄し、得られたろ過ケーキを100℃で2時間乾燥して、前記チタン化合物の硬化物がスピネル粒子の表面の少なくとも一部に付着した表面処理スピネル粒子(F−16)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.013gであった。
【0160】
<実施例17>表面処理スピネル(F−17)の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、合成例2で合成したスピネル粒子(A−2)100質量部、水0.005質量部、およびテトラヒドロフラン100質量部を加え、攪拌した。このスラリー中にオクタデシルホスホン酸0.5質量部を加え、60℃まで昇温してさらに10時間攪拌したのち、ろ別し、テトラヒドロフランで洗浄し、得られたろ過ケーキを100℃で2時間乾燥して、前記燐酸化合物がスピネル粒子の表面の少なくとも一部に吸着により付着した表面処理スピネル粒子(F−17)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.012gであった。
【0161】
<実施例18>表面処理スピネル(F−18)の合成
スピネル粒子(A−2)をスピネル粒子(A−3)に変更したことを除いては、実施例15と同様の方法で表面処理スピネル粒子(F−18)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.027gであった。
【0162】
<実施例19>表面処理スピネル(F−19)の合成
スピネル粒子(A−2)をスピネル粒子(A−3)に変更したことを除いては、合成例8実施例16と同様の方法で表面処理スピネル粒子(F−19)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.023gであった。
【0163】
<実施例20>表面処理スピネル(F−20)の合成
スピネル粒子(A−2)をスピネル粒子(A−3)に変更したことを除いては、実施例17と同様の方法で表面処理スピネル粒子(F−20)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.02gであった。
【0164】
なお、上記合成例で得られた各表面処理スピネル粒子(B)は、モリブデンの存否、[111]面の結晶子径が、いずれも表面処理前のそれらと、いずれもほとんど変化が無かった。また、実施例4、7、8および9〜14の各表面処理スピネル粒子(B)は、SEM−EDS測定を行った際のそれぞれのSEM画像及び珪素原子のマッピング画像が、視野に存在する自形面の数にこそ違いはあれ、いずれも、実施例3で測定したそれぞれの画像と、目視においては略同様の、どの面でも、平坦かつ珪素分布に偏りが無い画像が得られたことから、表面処理層の膜厚均一性に優れている、と判断できた。
【0165】
外観上の凝集も少なく、有機高分子化合物への高い分散性及び高い分散安定性が認められた。実施例3、4、7、8および9〜14で得られた表面処理スピネル粒子は、原料の未処理スピネル粒子の段階において既に[111]面の結晶子径が、その他の合成例のそれらの原料スピネル粒子に比べ、より大きく、その性質を引き継ぎ、表面処理後においても、それ自体の熱伝導性に優れていることが予想された。
【0166】
<比較例1>比較表面処理スピネル(HF−1)の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、比較合成例1で合成した比較未処理スピネル粒子(HA−1)100質量部、水0.005質量部、およびメチルエチルケトン100質量部を加え、攪拌した。このスラリー中にγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、80℃まで昇温してさらに10時間攪拌したのち、ろ別し、メチルエチルケトンで洗浄し、得られたろ過ケーキを200℃で2時間乾燥して、前記シラン化合物の硬化物がスピネル粒子の表面の少なくとも一部に付着した比較表面処理スピネル粒子(HF−1)を得た。得られた比較表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.04gであった。
【0167】
<比較例2>比較表面処理スピネル(HF−2)の合成
温度計、撹拌機、還流冷却器を取り付けた500mLセパラブルフラスコに、窒素ガスパージを施しながら、比較合成例1で合成した比較未処理スピネル粒子(HA−1)100質量部、水0.005質量部、およびメチルエチルケトン100質量部を加え、攪拌した。このスラリー中にN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン0.5質量部を加え、80℃まで昇温してさらに10時間攪拌したのち、ろ別し、メチルエチルケトンで洗浄し、得られたろ過ケーキを200℃で2時間乾燥して、前記シラン化合物の硬化物がスピネル粒子の表面の少なくとも一部に付着した比較表面処理スピネル粒子(HF−2)を得た。得られた比較表面処理スピネル粒子(HF−2)の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.03gであった。
【0168】
<比較例3>比較表面処理スピネル(HF−3)の合成
100mlポリテトラフルオロエチレン容器中に、比較合成例1で合成した比較未処理スピネル粒子(HA−1)40質量部と、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン2質量部を入れた5mlガラス容器を、比較未処理スピネル粒子(HA−1)とγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが直接接触しない状態で入れ、ポリテトラフルオロエチレン容器に蓋をした後、ステンレス製高圧反応容器に入れ、150℃の乾燥機中に16時間加熱することで、前記シラン化合物の硬化物を含む表面処理層が均一に付着した比較表面処理スピネル粒子(HF−3)を得た。得られた比較表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.02gであった。
【0169】
<比較例4>比較表面処理スピネル(HF−4)の合成
100mlポリテトラフルオロエチレン容器中に、比較合成例1で合成した比較未処理スピネル粒子(HA−1)40質量部と、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン2質量部を入れた5mlガラス容器を、比較未処理スピネル粒子(HA−1)とN−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランが直接接触しない状態で入れ、ポリテトラフルオロエチレン容器に蓋をした後、ステンレス製高圧反応容器に入れ、150℃の乾燥機中に16時間加熱することで、前記シラン化合物の硬化物を含む表面処理層が均一に付着した比較表面処理スピネル粒子(HF−4)を得た。得られた比較表面処理スピネル粒子(HF−4)の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.015gであった。
【0170】
<比較例5>表面処理スピネル(HF−5)の合成
スピネル粒子(HA−1)をスピネル粒子(HA−2)に変更したことを除いては、比較例3と同様の方法で表面処理スピネル粒子(HF−5)を得た。得られた表面処理スピネル粒子の表面積1mあたりの表面処理層の付着量は、0.02gであった。
【0171】
得られた表面処理スピネル粒子(B)について表2−1〜表2−4に示した。
【0172】
【表2】
【0173】
【表3】
【0174】
【表4】
【0175】
【表5】
【0176】
(実施例21)
熱可塑性樹脂としてDIC−PPS LR100G(Y−1、DIC株式会社製ポリフェニレンスルフィド樹脂、密度1.35g/cm3)の27.3質量部、表面処理スピネル(F−1)の72.7質量部を均一にドライブレンドした後、樹脂溶融混練装置ラボプラストミルにより混練温度300℃、回転数80rpmの条件で溶融混練処理し、熱伝導性フィラーの充填率が50容量%のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。樹脂組成物中のフィラー含有量(容量%)は、熱可塑性樹脂の密度と熱伝導性フィラーの密度より計算した。
【0177】
(熱可塑性樹脂組成物の熱伝導率の測定方法)
得られた樹脂組成物を金型に入れ加工温度300℃で熱プレス成形を行うことで、0.5mm厚のプレス成形体を作製した。作製したプレス成形体から10mmX10mmのサンプルを切り出し、熱伝導率測定装置(LFA467 HyperFlash、NETZSCH社製)を用いて、25℃における熱伝導率の測定を行った。
【0178】
〈実施例22〜28、および、比較例6〜12〉
実施例21と同様にして、下記表3−1〜3−4の配合率にて熱可塑性樹脂組成物を作成し、熱伝導率の測定を行った。
【0179】
【表6】
【0180】
【表7】
【0181】
【表8】
【0182】
【表9】
【0183】
(実施例29)
熱可塑性樹脂としてユーピロンS3000F(Y−2、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製ポリカーボネート樹脂、密度1.20g/cm)の25.0質量部、表面処理スピネル(F−3)の75.0質量部を均一にドライブレンドした後、樹脂溶融混練装置ラボプラストミルにより混練温度250℃、回転数80rpmの条件で溶融混練処理し、熱伝導性フィラーの充填率が50容量%のポリカーボネート樹脂組成物を得た。樹脂組成物中のフィラー含有量(容量%)は、熱可塑性樹脂の密度と熱伝導性フィラーの密度より計算した。
【0184】
〈比較例13〉
実施例29と同様にして、下記表4の配合率にて熱可塑性樹脂組成物を作成し、熱伝導率の測定を行った。
【0185】
【表10】
【0186】
〈調製例1〉熱硬化性樹脂混合物(X−1)
エポキシ樹脂としてエピクロン850S(ビスフェノールA型エポキシ樹脂、DIC(株)製、エポキシ当量188g/eq)を60質量部と、EX−201(レゾルシノールジグルシジルエーテル ナガセケムテックス(株)製、エポキシ当量115g/eq)を40質量部、2P4MHZ−PW(2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、四国化成工業(株)製)を5質量部を混合し、樹脂混合物(X−1)を得た。
【0187】
(実施例30)
調製例1で得られた熱硬化性樹脂混合物(X−1)の18.2質量部、表面処理スピネル(F−1)の81.8質量部を配合した後、自転−公転型混練装置で混練したものを、常温下、0.1MPaの減圧下で5分、減圧器を用いて脱泡することによって、熱伝導性フィラーの充填率が60容量%の熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0188】
(熱硬化性樹脂組成物の熱伝導率の測定方法)
得られた熱伝導性樹脂組成物を用いて、加熱プレス成形により樹脂硬化物1(50×50×約0.8mm)を作成した(硬化条件170℃×20分)。その樹脂硬化物1を乾燥器内で170℃×2時間、200℃×2時間で更に硬化させた。得られた硬化物から10×10mmのサンプルを切り出し、熱伝導率測定装置(LFA467 HyperFlash、NETZSCH社製)を用いて、25℃における熱伝導率の測定を行った。
【0189】
〈実施例31〜43、および、比較例14〜20〉
実施例30と同様にして、下記表5-1〜5-5の配合率にて熱硬化性樹脂組成物を作成し、樹脂硬化物の熱伝導率の測定を行った。
【0190】
【表11】
【0191】
【表12】
【0192】
【表13】
【0193】
【表14】
【0194】
【表15】
【0195】
〈調製例2〉樹脂混合物(X−2)
2,2’,7,7’−テトラグリシジルオキシ−1,1’−ビナフタレン(エポキシ樹脂、エポキシ当量144g/eq)60質量部、EX−201(レゾルシノールジグリシジルエーテル、ナガセケムテックス(株)製、エポキシ当量115g/eq)10質量部、および、下記フェノキシ樹脂溶液100質量部を混合することによって、固形分量59質量%の樹脂混合物(X−2)を調製した。
【0196】
<フェノキシ樹脂溶液>
温度計、冷却管、攪拌器を取り付けたフラスコにビスフェノールAを114g、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(DIC(株)製EPCLON−850S)を191.6g(エポキシ当量188g/eq)、シクロヘキサノンを130.9g(不揮発分:70%)仕込み、系内を窒素置換し、窒素をゆっくりフローし、攪拌しながら80℃まで昇温し、2E4MZ(2−エチルー4−イミダゾール、四国工業化成(株)製)120mg(理論樹脂固型分に対して400ppm)を加え、さらに150℃まで昇温した。その後、150℃で20時間攪拌し、不揮発分(N.V.)が30%(MEK:シクロヘキサノン=1:1)となるようにMEK、シクロヘキサノンを加えて調整した。得られたフェノキシ樹脂溶液の粘度は5200mPa・s、不揮発分のエポキシ当量は12500g/eqであった。
【0197】
〈実施例44〉
調製例2で得られた樹脂混合物(X−2)を170質量部、表面処理スピネル(F−3)を1231質量部、および、平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム粉末 AA−04(住友化学(株))を339質量部を配合した後、自転−公転型混練装置で混練し、2P4MHZ−PW(2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、四国化成工業(株)製)2.5質量部、AH−154(ジシアンジアミド系硬化剤、味の素ファインテクノ(株)製)3.1質量部、および、メチルエチルケトン(MEK)130質量部を配合し、自転−公転型混練装置で混練したものを、常温下、0.1MPaの減圧下で5分、減圧器を用いて脱泡することによって、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0198】
次に、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面がシリコーン化合物で剥離処理された離型フィルムの表面に、前記熱硬化性樹脂組成物を、棒状の金属アプリケータを用いて、乾燥後の厚さが100μmになるように塗工した。
【0199】
次に、前記塗工物を50℃の乾燥器に2分間投入した後、85℃の乾燥器に3分間投入し乾燥した後、その塗工面に、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面がシリコーン化合物で剥離処理された離型フィルムを貼付した。
【0200】
次に、前記貼付物の表面への圧力が0.2MPaとなるように、前記貼付物を、90℃に熱した熱ロールと、樹脂ロールとの間に、分速1.5mでとおすことによって、厚さ100μmの熱伝導性接着シートが前記2種の離型フィルムによって挟持された熱伝導性接着シートを得た。
【0201】
(熱伝導性接着シートの熱伝導率の測定方法)
前記離型フィルムを除去して得た熱伝導性接着シートを200℃環境下に90分静置し熱硬化させた。得られた硬化物を10mm角に裁断したものを試験サンプルとし、熱伝導率測定装置(LFA467nanoflash、NETZSCH社製)を用いて、25℃における熱伝導率の測定を行った。
【0202】
(熱伝導性接着シートの密度比)
前記硬化物から切り出した試験片を、アルキメデス法により密度測定を行い、計測した密度値を組成物比から算出した理論密度値で除した値を密度比とした。
【0203】
(接着強度の測定方法)
前記離型フィルムを除去して得た熱伝導性接着シートをアルミ片同士の片側(25mm×100mm×1.6mm)の一端部(25mm×12.5mm)に載せ、もう一枚同型の金属片を貼り合わせたうえ、170℃×2時間、次いで200℃×1.5時間で硬化させ、積層体を作成した。
【0204】
接着強度測定装置「ストログラフ APII(東洋精機製作所)」を使用し、引っ張りせん断接着強さの試験方法(JISK6850)により、測定した。得られた積層体の接着面に対し、平行に引っ張り、破断した際の最大荷重を接着(せん断)面積で割り、接着強度を求めた。
【0205】
〈実施例45〜50、および、比較例21~22〉
下記表6−1〜6−3に記載の原料を実施例44と同様の処方により、熱硬化性樹脂組成物および熱伝導性接着シートを作成し、熱伝導率および接着強度の測定を行った。
【0206】
〈実施例51〉
調製例2で得られた樹脂混合物(X−2)を170質量部、表面処理スピネル(F−7)を923質量部、表面処理スピネル(F−12)を308質量部、および、平均粒径0.4μmの酸化アルミニウム粉末 AA−04(住友化学(株))を339質量部を配合した後、自転−公転型混練装置で混練し、2P4MHZ−PW(2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、四国化成工業(株)製)2.5質量部、AH−154(ジシアンジアミド系硬化剤、味の素ファインテクノ(株)製)3.1質量部、および、メチルエチルケトン(MEK)130質量部を配合し、自転−公転型混練装置で混練したものを、常温下、0.1MPaの減圧下で5分、減圧器を用いて脱泡することによって、熱硬化性樹脂組成物を得た。
【0207】
次に、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面がシリコーン化合物で剥離処理された離型フィルムの表面に、前記熱硬化性樹脂組成物を、棒状の金属アプリケータを用いて、乾燥後の厚さが100μmになるように塗工した。
【0208】
次に、前記塗工物を50℃の乾燥器に2分間投入した後、85℃の乾燥器に3分間投入し乾燥した後、その塗工面に、厚さ38μmのポリエチレンテレフタレートフィルムの片面がシリコーン化合物で剥離処理された離型フィルムを貼付した。
【0209】
次に、前記貼付物の表面への圧力が0.2MPaとなるように、前記貼付物を、90℃に熱した熱ロールと、樹脂ロールとの間に、分速1.5mでとおすことによって、厚さ100μmの熱伝導性接着シートが前記2種の離型フィルムによって挟持された熱伝導性接着シートを得た。
【0210】
〈実施例52,53、および、比較例23〉
下記表6−2、6−3に記載の原料を実施例51と同様の処方により、熱硬化性樹脂組成物および熱伝導性接着シートを作成し、熱伝導率および接着強度の測定を行った。
【0211】
【表16】
【0212】
【表17】
【0213】
【表18】
【産業上の利用可能性】
【0214】
本発明の表面処理スピネル粒子(B)は、有機高分子化合物(C)への分散性や分散安定性に優れ、より優れた特性を発揮し得る。よって、当該表面処理スピネル粒子(B)と有機高分子化合物(C)を含む成形体は、より優れた熱伝導性を有したものとなる。本発明の表面処理スピネル粒子(B)と有機高分子化合物(C)とを含有する樹脂組成物は、回路や基板、モジュールを結合させる接着剤、接着シート、あるいは、樹脂成形体として好適に用いることが可能であり、本発明の樹脂組成物を成形してなる成形物は、放熱性が高く、電子、電気、OA機器等の電子電気部品、自動車用部品に好適に使用可能である。
図1
図2
図3
図4