【文献】
塩川祥子、外2名,弾性表面波の伝搬パターンの光学的観測 -FTH法について-,応用物理,1977年,第46巻、第7号,第719頁−第725頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、入力電極に電気信号を入力した際、その電気信号のエネルギーの一部は、空間中に電磁波として出力され、出力電極は、空間中の電磁波を受信して電気信号に変換することがあり、出力電極で生じる電気信号を基に、被検体の物理量を検出する特許文献1、2に記載の方法は、安定的な検出を行えないという課題がある。
本発明は、かかる事情に鑑みてなされるもので、圧電体に生じる弾性表面波を利用して、被検体の物理量を安定的に計測するセンシング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的に沿う本発明に係るセンシング装置は、圧電体に弾性表面波を発生させて、該圧電体に接触させた被検体の物理量を求めるセンシング装置において、前記被検体の接触位置を通過する前記弾性表面波を、前記圧電体に発生させる入力電極と、前記圧電体を進む前記弾性表面波の進行路の前記接触位置より下流側に
設けられた光反射片と、前記光反射片に光を照射する照射手段と、
前記圧電体に前記被検体が接触している状態で、前記
光反射片で前記光が反射して生じるr次回折光及びs次回折光の各強度を計測する光検出手段と、計測された前記r次回折光及び前記s次回折光の各強度を基に前記弾性表面波の振幅を算出し、前記被検体の物理量を求める演算機とを備える。
【0007】
本発明に係るセンシング装置において、前記光反射片は、平行配置された複数の金属線部を備えるのが好ましい。
【0008】
本発明に係るセンシング装置において、前記演算機は、前記接触位置に前記被検体が接触した状態で計測された前記r次回折光及び前記s次回折光の各強度を基に算出した前記弾性表面波の振幅と、前記圧電体に前記被検体が非接触な状態で計測された前記r次回折光及び前記s次回折光の各強度を基に算出した前記弾性表面波の振幅との差異から、前記被検体の物理量を求めるのが好ましい。
【0009】
本発明に係るセンシング装置において、前記r次回折光は0次回折光であり、前記s次回折光は1次回折光であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るセンシング装置は、圧電体の弾性表面波の進行路の接触位置より下流側で光が反射して生じるr次回折光及びs次回折光の各強度を計測する光検出手段と、計測されたr次回折光及びs次回折光の各強度を基に弾性表面波の振幅を算出し、被検体の物理量を求める演算機とを備えるので、被検体の物理量の導出に、空間中の電磁波を受信して生成され得る電気信号を用いる必要がなく、被検体の物理量を安定的に計測することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1、
図2に示すように、本発明の一実施の形態に係るセンシング装置10は、圧電体11に弾性表面波Wを発生させて、圧電体11に接触させた被検体Tの物理量を求める装置である。以下、これらについて詳細に説明する。
【0013】
センシング装置10は、
図1に示すように、表面に被検体Tが載せられる圧電体11、圧電体11に弾性表面波Wを発生させる入力電極12、圧電体11の表面に向かって光を照射する照射手段13、光の強度を計測する光検出手段14、及び、被検体Tの物理量を求める演算機15を備えている。
圧電体11は、
図1、
図2に示すように、外部から電界を与えられて歪が生じる素材を用いて、矩形の板状に形成されている。本実施の形態の圧電体11の素材は、ニオブ酸リチウムであるが、これに限定されず、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛やタングステン酸ナトリウムであってもよい。
【0014】
圧電体11の表面には、長手方向両側に、それぞれ入力電極12及び光反射片16が取り付けられ、入力電極12と光を反射する光反射片16の間に、被検体Tが配置される。以下、圧電体11の表面において、被検体Tが接触する位置を接触位置Pとする。なお、本実施の形態においては、被検体Tに液体を用いているが、被検体Tは、固体やゲルであってもよく、固体やゲルの場合も、被検体Tを圧電体11に接触させることに変わりはない。
【0015】
入力電極12は、対となる金属製の櫛歯部材17、18を有し、櫛歯部材17、18は、平行配置された複数の金属線部19及び同じく平行配置された複数の金属線部20をそれぞれ具備している。櫛歯部材17、18は、金属線部19、20が、圧電体11の長手方向に沿って、交互に配されるように設けられ、櫛歯部材17、18に、電気信号を出力する信号生成器21が接続されている。
信号生成器21は、演算機15に信号接続され、演算機15から送信される指令信号に応じて、電気信号を出力する。演算機15は、信号生成器21の動作の制御も担う電子コンピュータによって構成されている。
【0016】
信号生成器21から櫛歯部材17、18に電気信号を出力することで、櫛歯部材17、18間を中心に電界が発生して、圧電体11に歪が生じ、圧電体11の表面には、入力電極12から接触位置Pを通過して光反射片16に向かう弾性表面波Wが発生する。即ち、入力電極12は、電気信号を与えられて、接触位置Pを通過する弾性表面波Wを圧電体11に生じさせる。
弾性表面波Wは、接触位置Pを通過の際に、接触位置Pに設けられた被検体Tにエネルギーの一部が吸収され、振幅が小さくなる。
【0017】
光反射片16は、
図2に示すように、入力電極12と同様に、対となる金属製の櫛歯部材22、23を有し、櫛歯部材22、23は、平行配置された複数の金属線部24及び平行配置された複数の金属線部25をそれぞれ具備し、金属線部24、25は、圧電体11の長手方向に沿って、交互に配されている。櫛歯部材22、23には、
図1に示すように、弾性表面波Wの波形を検知する波形測定器26が接続されている。光反射片16に圧電体11を伝わる弾性表面波Wが達することによって、光反射片16において電気信号が発生する。波形測定器26は、光反射片16で発生する電気信号を計測することによって光反射片16に到達した弾性表面波Wの発生を検出することができる。
【0018】
照射手段13は、圧電体11から離れた位置から圧電体11の表面に対して斜め方向に光(本実施の形態では、レーザー光)を照射するように配置されている。照射手段13には、演算機15から与えられる指令信号に応じて照射手段13を制御する制御機27、及び、照射手段13に電気エネルギーを供給する電源28が接続されている。
照射手段13は、図示しない支持部材によって支持されて、レーザー光が光反射片16に照射されるように、照射方向が調整されている。従って、照射手段13は、圧電体11上を伝わる弾性表面波Wの進行路の接触位置Pより下流側にレーザー光を照射することになる。
【0019】
光反射片16は、レーザー光の径より大きく、櫛歯部材22、23に到達したレーザー光を全反射する。圧電体11は、透光性を有するため、櫛歯部材22、23の間(例えば、隣り合う金属線部24、25の間)の圧電体11の表面に到達したレーザー光は、一部が反射され、残りが圧電体11内に進入する。
櫛歯部材22、23及び圧電体11表面のレーザー光が当たる領域においては、弾性表面波Wによって周期的な歪が発生するため、当該領域でレーザー光が反射することで、光の回折が生じる。以下、光の回折と弾性表面波の関係について説明する。
【0020】
レーザー光を、
図3に示すように、圧電体の表面の0≦x≦Lの範囲に、入射角φ(歪が生じていない圧電体の表面に対する角度)で進む複数の光線として扱うと、弾性表面波により歪が発生している圧電体表面に対しては、各光線の反射光に、
図4(A)、(B)にそれぞれ示すように、圧電体表面の変位による光路差△l
1と圧電体表面の傾きによる光路差△l
2が生じる。
△l
1及び△l
2は、aを弾性表面波の振幅、ω
1を弾性表面波の角周波数、θを圧電体11表面の傾きによる反射光の反射角の変位、λを光の波長、kをk=2πcosφ/λの値として、それぞれ以下の式1、式2で表わされる。
【0023】
従って、反射光の振幅A(θ)は、j
nをn次のベッセル関数、Kを弾性表面波の波数、Λを弾性表面波の波長、K=2π/Λ、ω=(4πa/λ)cosφとして、以下の式3で表わされる。
【0025】
そして、β
nを以下の式4で定義した値とすると、A(θ)は、以下の式5で表わされる。
【0028】
また、反射光によるn次回折光(n次回折波)の強度I
n(θ)は、以下の式6で表わされ、n=0の0次回折光(0次回折波)は、θ=0で強度が最大となり、n=1の1次回折光(1次回折波)は、θ=±K/kで強度が最大となる。
【0030】
0次回折光の強度の最大値に対する1次回折光の強度の最大値の関係は、以下の式7で表わされるから、レーザー光の入射角、レーザー光の波長、0次回折光の強度及び1次回折光の強度を基にして、弾性表面波の振幅を算出可能であることが解る。
【0032】
本実施の形態では、
図1に示すように、光検出手段14が、光反射片16(即ち、圧電体11の弾性表面波Wの進行路上で、接触位置Pの下流側に設けられている光反射片16)でレーザー光が反射して生じる0次回折光及び1次回折光を検出する受光部29、及び、受光部29で検出された0次回折光及び1次回折光の各強度を計測する測定部30を備えている。測定部30は、デジタルマルチメータ31を介して接続された演算機15に対し、0次回折光及び1次回折光の各強度の計測値を送る。なお、受光部29は、1つである必要がなく、例えば、2つであってもよい。
【0033】
ここで、入力電極12に与える電気信号の大きさを基にして、圧電体11の材質や形状等から、被検体Tが非接触な状態の圧電体11に生じる弾性表面波Wの振幅の大きさを算出することは、理論上、可能である。そして、圧電体11を伝わる弾性表面波Wが被検体Tに吸収されるエネルギー量は、被検体Tの物理量(例えば、濃度、粘度、分子量)に応じて決まり、被検体Tにエネルギーを吸収されたことによる弾性表面波Wの振幅の変化量は、被検体Tによって吸収されたエネルギー量の大きさに応じて決まる。
従って、被検体Tのエネルギーの吸収によって小さくなった弾性表面波Wの振幅の変化量が導出できれば、被検体Tの物理量を検知可能である。
【0034】
演算機15は、記憶していたレーザー光の入射角及びレーザー光の波長と、光検出手段14によって計測された0次回折光及び1次回折光の各強度を基に、式7を用いて、被検体Tにエネルギーを吸収された(即ち、被検体Tが接触位置Pに接触した状態の)弾性表面波Wの振幅を算出し、エネルギーを吸収されていない(即ち、被検体Tが非接触な状態の)弾性表面波Wの振幅と被検体Tにエネルギーを吸収された弾性表面波Wの振幅の差異から被検体Tの物理量を求める。
この被検体Tの物理量の算出には、弾性表面波を出力電極によって電気信号に変換した値が用いられていないため、出力電極が空間中の電磁波を受信する点について影響を受けることはない。
【0035】
また、本実施の形態では、入力電極12に与える電気信号の大きさを基に、被検体Tが非接触な状態の圧電体11に生じる弾性表面波Wの振幅の大きさを算出する代わりに、圧電体11に被検体Tが非接触な状態で、0次回折光の強度及び1次回折光の強度を計測して、被検体Tが非接触な状態の圧電体11に生じる弾性表面波Wの振幅の大きさを求めるようにしている。そのようにすることで、被検体Tが非接触な状態の圧電体11に生じる弾性表面波Wの振幅の大きさについて、入力電極12に与える電気信号の大きさから算出した値と実際の値の間に生じ得る差異を検討する必要がなくなる。
【0036】
以下、本実施の形態における被検体Tの物理量を求める手順について説明する。
まず、光検出手段14が、圧電体11に被検体Tが非接触な状態で、0次回折光の強度及び1次回折光の強度を計測し、演算機15が、計測された0次回折光の強度及び1次回折光の強度を基に、式7を用いて、弾性表面波Wの振幅(以下、「第1の振幅」とも言う)を算出する。次に、光検出手段14が、圧電体11の接触位置Pに被検体Tが接触した状態で、0次回折光の強度及び1次回折光の強度を計測し、演算機15が、計測された0次回折光の強度及び1次回折光の強度を基に、式7を用いて、弾性表面波Wの振幅(以下、「第2の振幅」とも言う)を算出する。そして、演算機15は、第1の振幅と第2の振幅の差異から、被検体Tの物理量を求める。
【0037】
なお、弾性表面波の振幅は、0次回折光の強度及び1次回折光の強度以外の回折光の組み合わせによっても算出できることから、演算機15は、r次回折光及びs次回折光の各強度を基に、被検体Tの物理量を求めることが可能である。但し、r、sは、0もしくは自然数で、r≠sである。
n次回折光は、nの値が大きくなると、強度が弱まる傾向があることから、0次回折光及び1次回折光の各強度を採用することは、被検体Tの物理量を安定的に求める点において、好適である。
【0038】
また、照射手段13によるレーザー光の照射は、
図5に示すように、圧電体11を進む弾性表面波Wの進行路の接触位置Pより下流側に対してなされればよく、光反射片16に対してなされる必要はない。これは、圧電体11表面にレーザー光を照射した際にも、r次回折光及びs次回折光が生じるためである。従って、弾性表面波の振幅を基に被検体の物理量を算出する点において、光反射片16は必ずしも必要ではない。
【0039】
ここまで、被検体が液体、固体及びゲルの場合について説明したが、被検体は気体であってもよい。
被検体として気体を採用する場合は、圧電体11に被検体である気体が触れていない状態で、0次回折光及び1次回折光の各強度を基に算出した弾性表面波Wの振幅と、被検体である気体の雰囲気内に圧電体11の接触位置Pを配した状態(即ち、圧電体11の接触位置Pに被検体が接触した状態)で、0次回折光及び1次回折光の各強度を基に算出した弾性表面波Wの振幅とから、被検体の物理量が求められる。
なお、液体が被検体であるセンシング装置として、例えば、バイオセンサーが挙げられ、気体が被検体であるセンシング装置として、例えば、ガスセンサーが挙げられる。また、固体の被検体の一例として、半導体が考えられる。
【実施例】
【0040】
次に、本発明の作用効果を確認するために行った実験について説明する。
本実験においては、試料を載せた圧電体に、入力電極に与える電気信号の大きさを変えて弾性表面波を発生させ、1次回折光の強度を計測した。
試料は、濃度が7.3wt%、19.3wt%、28.9wt%のグルコースであり、試料ごとに1次回折光の強度を計測した結果を
図6のグラフに示す。
【0041】
図6のグラフにおいて、縦軸は、1次回折光の強度を示している。同グラフの横軸は、入力電極に与えた電気信号の大きさを意味するが、これは、弾性表面波の振幅に換算できるため、「表面波振幅」として記載している。
実験結果より、1次回折光の強度が、試料の濃度(物理量の一つ)に依存していること(即ち、異なる弾性表面波の振幅において、各試料の1次回折光の強度の関係が一様であること)が解り、回折光の強度から、試料の濃度が求められることが明らかとなった。
【0042】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記した形態に限定されるものでなく、要旨を逸脱しない条件の変更等は全て本発明の適用範囲である。
例えば、圧電体は、矩形の板状である必要はない。
また、光反射片を用いる場合、光反射片は、複数の金属線部を備えたものである必要はなく、例えば、光反射片に金属製のシートを採用してもよい。
更に、圧電体に照射する光はレーダー光でなくてもよく、例えは、アーク放電を利用した高輝度放電ランプを用いてもよい。但し、レーザー光を用いた場合、センシング装置のコンパクト化及び設計の簡素化を図ることが可能である。