(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記予測手段が、前記採血対象者の採血前の平均血圧と採血中の平均血圧との間の平均血圧の変動率を前記閾値と比較することを特徴とする、請求項1に記載のVVR発生予測システム。
前記予測手段が、前記採血対象者の採血前の平均血圧と採血中の平均血圧との間の平均血圧の変動率が前記閾値以上になった場合、血管迷走神経反応が発生すると予測することを特徴とする、請求項1又は2に記載のVVR発生予測システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された血圧監視装置では、血圧の変化を監視することができるに過ぎず、VVRの発生を抑制することができなかった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、VVRの発生を抑制することの可能なVVR発生予測システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題に直面して発明者が鋭意研究を重ねた結果、発明者は、VVRの発生が、採血時の交感神経調節異常による静脈血還流減少に起因する、という知見を得た。すなわち、発明者は、採血時の血圧が、例えば採血前の安静時の血圧と比較してある程度低下すると、VVRが発生する場合があることを見出した。
【0009】
上述した観点に基づき、本発明は、採血対象者の血圧に関する情報を経時的に取得する取得手段と、採血前と採血中との間の前記採血対象者の血圧の変動に関する閾値を設定する設定手段と、採血中の前記採血対象者の血圧の変動と前記閾値との比較に基づいて、血管迷走神経反応(VVR)が発生すると予測する予測手段と、を備えることを特徴とする、VVR発生予測システムを提供する(発明1)。
【0010】
かかる発明(発明1)によれば、採血中の採血対象者の血圧の変動と閾値との比較に基づいて、VVRが発生すると予測することができるので、例えば、VVRの発生を予測した場合には、下肢や腹部の運動により静脈還流を促進したり、採血速度を低減し、または、採血を停止もしくは中止する等の処置をとることによって、VVRの発生を抑制することができる。
【0011】
上記発明(発明1)においては、前記設定手段は、採血前と採血中との間の前記採血対象者の平均血圧の変動に関する第1閾値を設定し、前記予測手段は、採血中の前記採血対象者の平均血圧の変動と前記第1閾値との比較に基づいて、VVRが発生すると予測してもよい(発明2)。
【0012】
かかる発明(発明2)によれば、採血前と採血中との間における採血対象者の平均血圧の変化の度合いに基づいて、例えば下肢や腹部の運動により静脈還流を促進したり、採血速度を低減し、または、採血を停止もしくは中止する等の処置をとることによって、VVRの発生を抑制することができる。
【0013】
上記発明(発明1〜2)においては、前記設定手段は、採血前と採血中との間の前記採血対象者の拡張期血圧の変動に関する第2閾値を設定し、前記予測手段は、採血中の前記採血対象者の拡張期血圧の変動と前記第2閾値との比較に基づいて、VVRが発生すると予測してもよい(発明3)。
【0014】
かかる発明(発明3)によれば、採血前と採血中との間における採血対象者の拡張期血圧の変化の度合いに基づいて、例えば下肢や腹部の運動により静脈還流を促進したり、採血速度を低減し、または、採血を停止もしくは中止する等の処置をとることによって、VVRの発生を抑制することができる。
【0015】
上記発明(発明1〜3)においては、前記設定手段は、採血前と採血中との間の前記採血対象者の収縮期血圧の変動に関する第3閾値を設定し、前記予測手段は、採血中の前記採血対象者の収縮期血圧の変動と前記第3閾値との比較に基づいて、VVRが発生すると予測してもよい(発明4)。
【0016】
かかる発明(発明4)によれば、採血前と採血中との間における採血対象者の収縮期血圧の変化の度合いに基づいて、例えば下肢や腹部の運動により静脈還流を促進したり、採血速度を低減し、または、採血を停止もしくは中止する等の処置をとることによって、VVRの発生を抑制することができる。
【0017】
上記発明(発明1〜4)においては、前記予測手段がVVRの発生を予測した場合に、所定の情報を提示する提示手段を備えてもよい(発明5)。
【0018】
かかる発明(発明5)によれば、VVRの発生が予測されると所定の情報が提示されることから、VVRが発生し得ることを事前に知ることができ、例えば下肢や腹部の運動により静脈還流を促進したり、採血速度を低減し、または、採血を停止もしくは中止する等の処置を行うように例えば医師や看護師等に早期に促すことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のVVR発生予測システムによれば、VVRの発生を抑制することができる。また、本発明のVVR発生予測システムは、採血だけではなく、例えば、心臓外科、整形外科、産婦人科等における外科手術等にも好適に利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係るVVR発生予測システムについて添付図面を参照して詳細に説明する。ただし、この実施形態は例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
(1)VVR発生予測システムの基本構成
図1は、本発明の一実施形態に係るVVR発生予測システムの基本構成を概略的に示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係るVVR発生予測システムは、血圧計10と、血圧計10で計測された血圧に基づいてVVRの発生を予測する予測装置20と、を備えている。血圧計10は、例えば無線LAN(例えばWi−Fi(登録商標))、Bluetooth(登録商標)、USB(Universal Serial Bus)、IEEE(The Institute of Electrical and Electronics Engineers, Inc.)1394等の無線または有線通信方式を用いて、予測装置20と通信可能に接続されている。
【0023】
血圧計10は、採血前および採血中の採血対象者の血圧を連続的または間欠的に計測する装置である。血圧計10は、周知のものであってもよく、例えば、聴診法(コロトコフ音法)、オシロメトリック法、圧脈波法、脈波伝搬速度法またはこれらを応用した方法を用いた非侵襲式の血圧計であってもよい。また、血圧計10は、例えば、リストバンド型、腕帯型、指式等のように着衣のまま使用できるものであってもよい。さらに、血圧計10は、計測した血圧に関する情報と、採血を開始したことを表す情報(例えば所定長のビットデータ等)と、を予測装置20に送信可能に構成されていてもよい。
【0024】
なお、本実施形態では、血圧計10は、圧脈派法を用いて採血対象者の指尖血圧を連続的または間欠的に計測し、計測した指尖血圧から変換した上腕の血圧波形データ(血圧に関する情報)を連続的または間欠的に予測装置20に送信するように構成されている。なお、指尖血圧を上腕の血圧に変換する方法は、例えば現在市販されている血圧計等で採用されている方法が用いられてもよい。
【0025】
(2)予測装置の構成
図2を参照して予測装置20について説明する。
図2は、予測装置20の内部構成を示すブロック図である。
図2に示すように、予測装置20は、CPU(Central Processing Unit)21と、ROM(Read Only Memory)22と、RAM(Random Access Memory)23と、HDD(Hard Disk Drive)24と、表示処理部25と、表示部26と、入力部27と、通信インタフェース部28とを備えており、各部間の制御信号またはデータ信号を伝送するためのバス29が設けられている。予測装置20は、例えば、汎用のパーソナルコンピュータであってよい。
【0026】
CPU21は、電源が予測装置20に投入されると、ROM22またはHDD24に記憶された各種のプログラムをRAM23にロードして実行する。本実施形態では、CPU21は、ROM22またはHDD24に記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、後述する取得手段31、設定手段32、予測手段33および提示手段34(
図3に示す)の機能を実現する。
【0027】
HDD24は不揮発性記憶装置であり、オペレーティングシステム(OS)やOS上で実行されるプログラムを記憶する。また、HDD24には、血圧計10から取得した血圧データが記憶されてもよい。
【0028】
表示処理部25は、CPU21から与えられる表示用データを、表示部26に表示する。表示部26は、例えば、マトリクス状に画素単位で配置された薄膜トランジスタを含むLCD(Liquid Cristal Display)モニタであり、表示用データに基づいて薄膜トランジスタを駆動することで、表示されるデータを表示画面に表示する。
【0029】
入力部27は、例えばマウスやキーボード等の情報入力デバイスである。ここで、採血を開始したことを表す情報は、入力部27を用いて入力されてもよい。通信インタフェース部28は、血圧計10と通信を行うためのインタフェース回路を含む。
【0030】
(3)VVR発生予測システムにおける各機能の概要
本実施形態のVVR発生予測システムで実現される機能について、
図3を参照して説明する。
図3は、本実施形態のVVR発生予測システムで主要な役割を果たす機能を説明するための機能ブロック図である。
図3の機能ブロック図では、取得手段31、設定手段32および予測手段33が本発明の主要な構成に対応している。なお、提示手段34は必須の構成ではないが、本発明をさらに好ましくするための構成要素である。
【0031】
取得手段31は、採血対象者の血圧に関する情報を経時的に取得する機能を備える。取得手段31の機能は、例えば以下のように実現される。
【0032】
予測装置20のCPU21は、例えば、血圧計10が採血対象者の血圧の計測を開始すると、血圧計10から連続的または間欠的に送信された血圧波形データ(血圧に関する情報)を、通信インタフェース部29を介して受信(取得)する。また、CPU21は、受信した血圧波形データを例えばRAM23に記憶する。
【0033】
設定手段32は、採血前と採血中との間の採血対象者の血圧の変動に関する閾値を設定する機能を備える。ここで、設定手段32は、採血前と採血中との間の採血対象者の平均血圧の変動に関する第1閾値を設定する機能を備えてもよい。
【0034】
設定手段32の機能は、例えば以下のように実現される。なお、ここでは、採血前と採血中との間の採血対象者の平均血圧の変動率に関する閾値が設定される場合を一例として説明する。予測装置20のCPU21は、先ず、採血前の採血対象者の血圧波形データを用いて、採血前の採血対象者の平均血圧を一拍毎に算出する。ここで、一拍毎の平均血圧は、圧脈波の平均値を用いる方法によって算出されてもよいし、拡張期血圧および収縮期血圧を用いる方法によって算出されてもよい。
【0035】
圧脈波の平均値を用いる方法によって一拍毎の平均血圧を算出する場合には、一拍毎の平均血圧MP1
(x)は、以下の式(1)を用いて算出され得る。
【数1】
式(1)中、T
xは一拍毎の間隔であり、FP(x,i)は圧脈波であり、xは1以上N(N:血圧計測期間における総脈拍数)以下の整数である。
【0036】
また、拡張期血圧および収縮期血圧を用いる方法によって一拍毎の平均血圧を算出する場合には、一拍毎の平均血圧MP2
(x)は、以下の式(2)を用いて算出され得る。
【数2】
式(2)中、HP(x)は収縮期血圧であり、LP(x)は拡張期血圧である。
【0037】
CPU21は、採血を開始したことを表す情報を血圧計10から受信する、または、当該情報が入力部27を用いて入力されると、採血前の血圧計測期間における所定数の脈拍の平均血圧(つまり、MP1
(x)またはMP2
(x)の平均値)を算出する。ここで、所定数とは、例えば、採血前の血圧計測期間の総脈拍数であってもよいし、任意の脈拍数(例えば120)であってもよい。そして、CPU21は、算出した平均血圧に関する所定の割合(変動率)を閾値(第1閾値)として設定し、設定した閾値を例えばRAM23に記憶する。なお、この所定の割合は、例えば0%以上100%以下の範囲内で任意に設定され得る。
【0038】
予測手段33は、採血中の採血対象者の血圧の変動と前記閾値との比較に基づいて、血管迷走神経反応(VVR)が発生すると予測する機能を備える。ここで、予測手段33は、採血中の採血対象者の平均血圧の変動と第1閾値との比較に基づいて、VVRが発生すると予測する機能を備えてもよい。この場合、採血前と採血中との間における採血対象者の平均血圧の変化の度合いに基づいて、例えば下肢や腹部の運動により静脈還流を促進したり、採血速度を低減し、または、採血を停止もしくは中止する等の処置をとることによって、VVRの発生を抑制することができる。
【0039】
ここで、
図4を参照して、VVR発症者(VVRの発症経験を有する者)の血圧(
図4の例では一拍毎の平均血圧)の経時的変化とVVRの発生予測との関係を説明する。
図4に示すように、一拍毎の平均血圧は、採血の開始タイミング(
図4の例では時間t0)の前後において経時的に変化している。VVR発症者の一拍毎の平均血圧は、採血の開始タイミングから次第に低下し、時間t1において、基準血圧(採血前の平均血圧(
図4において点線で示す)に対する採血中の平均血圧の変動率が閾値以上となる血圧)以下となる。そして、時間t1後の時間t2において、VVRが発生する。
【0040】
予測手段33の機能は、例えば以下のように実現される。なお、ここでは、予測手段33が、採血中に平均血圧の変動率が閾値以上になった場合に、VVRが発生すると予測する場合を一例として説明する。予測装置20のCPU21は、採血を開始したことを表す情報を血圧計10から受信し、または、当該情報が入力部27を用いて入力された後に、取得手段31の機能に基づいて一拍分の血圧波形データを血圧計10から連続的または間欠的に受信する毎に、採血中の採血対象者の平均血圧を一拍毎に算出する。ここで、一拍毎の平均血圧は、上述した方法を用いて算出されてもよい。
【0041】
次に、CPU21は、採血中の採血対象者の一拍毎の平均血圧を算出すると、採血前の平均血圧と算出した平均血圧との間の平均血圧の変動率と、閾値との比較を行う。そして、CPU21は、平均血圧の変動率が閾値(第1閾値)以上になった場合に、VVRが発生すると判別(予測)する。
【0042】
提示手段34は、予測手段33がVVRの発生を予測した場合に、所定の情報を提示する機能を備える。この場合、VVRの発生が予測されると所定の情報が提示されることから、VVRが発生し得ることを事前に知ることができ、例えば下肢や腹部の運動により静脈還流を促進したり、採血速度を低減し、または、採血を停止もしくは中止する等の処置を行うように例えば医師や看護師等に早期に促すことができる。
【0043】
提示手段34の機能は、例えば以下のように実現される。予測装置20のCPU21は、予測手段33の機能に基づいてVVRの発生を予測すると、例えばVVRが発生することを通知するためのメッセージ等を表示部26に表示させるために、当該メッセージを表示処理部25に送信する。
【0044】
また、CPU21は、予測手段33の機能に基づいてVVRの発生を予測すると、例えばVVRが発生することを通知するための音声データ等を例えばブザーやスピーカ等の音声出力部(図示省略)から出力させてもよい。
【0045】
(4)本実施形態のVVR発生予測システムの主要な処理のフロー
次に、本実施形態のVVR発生予測システムにより行われる主要な処理のフローの一例について、
図5および
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0046】
先ず、
図5を参照して、採血前のVVR発生予測システムの処理の一例について説明する。予測装置20のCPU21は、例えば、血圧計10が採血対象者の血圧の計測を開始すると、血圧計10から連続的または間欠的に送信された血圧波形データ(血圧に関する情報)を、通信インタフェース部29を介して受信(取得)する(ステップS100)。また、CPU21は、受信した血圧波形データを例えばRAM23に記憶する。
【0047】
次いで、CPU21は、採血前と採血中との間の採血対象者の血圧の変動に関する閾値を設定する(ステップS102)。具体的に説明すると、CPU21は、先ず、採血前の採血対象者の血圧波形データを用いて、採血前の採血対象者の平均血圧を一拍毎に算出する。そして、CPU21は、採血を開始したことを表す情報を血圧計10から受信する、または、当該情報が入力部27を用いて入力されると、採血前の血圧計測期間における所定数の脈拍の平均血圧を算出する。また、CPU21は、算出した平均血圧に関する所定の割合(変動率)を閾値として設定し、設定した閾値を例えばRAM23に記憶する。
【0048】
次に、
図6を参照して、採血中のVVR発生予測システムの処理の一例について説明する。予測装置20のCPU21は、採血を開始したことを表す情報を血圧計10から受信し、または、当該情報が入力部27を用いて入力された後に、一拍分の血圧波形データを血圧計10から受信すると(ステップS110)、採血中の採血対象者の一拍毎の平均血圧を算出する。そして、CPU21は、採血中の採血対象者の一拍毎の平均血圧を算出すると、採血前の平均血圧と算出した平均血圧との間の平均血圧の変動率と、閾値との比較を行い、平均血圧の変動率が閾値以上になった場合(ステップS112:YES)に、VVRが発生すると判別(予測)する。なお、CPU21は、平均血圧の変動率が閾値未満の場合(ステップS112:NO)、ステップS110の処理に移行する。
【0049】
次いで、CPU21は、VVRの発生を予測すると、所定の情報を提示する(ステップS114)。具体的には、CPU21は、例えばVVRが発生することを通知するためのメッセージ等を表示部26に表示させるために、当該メッセージを表示処理部25に送信する。
【0050】
上述したように、本実施形態のVVR発生予測システムによれば、採血中の採血対象者の血圧の変動と閾値との比較に基づいて、VVRが発生すると予測することができるので、例えば、VVRの発生を予測した場合には、下肢や腹部の運動により静脈還流を促進したり、採血速度を低減し、または、採血を停止もしくは中止する等の処置をとることによって、VVRの発生を抑制することができる。
【0051】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記各実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。
【0052】
以下、上述した実施形態の変形例について説明する。
(変形例1)
上記実施形態では、採血対象者の平均血圧を指標としてVVRの発生を予測する場合を一例として説明したが、採血対象者の拡張期血圧を指標としてVVRの発生を予測してもよい。
【0053】
この場合、本変形例における設定手段32は、採血前と採血中との間の採血対象者の拡張期血圧の変動に関する第2閾値を設定してもよい。また、本変形例における予測手段33は、採血中の採血対象者の拡張期血圧の変動と前記第2閾値との比較に基づいて、VVRが発生すると予測してもよい。本変形に係るVVR発生予測システムによれば、採血前と採血中との間における採血対象者の拡張期血圧の変化の度合いに基づいて、例えば下肢や腹部の運動により静脈還流を促進したり、採血速度を低減し、または、採血を停止もしくは中止する等の処置をとることによって、VVRの発生を抑制することができる。
【0054】
本変形例における設定手段32の機能は、例えば以下のように実現される。なお、ここでは、採血前と採血中との間の採血対象者の拡張期血圧の変動率に関する閾値が設定される場合を一例として説明する。予測装置20のCPU21は、先ず、採血前の採血対象者の血圧波形データを用いて、採血前の採血対象者の一拍毎の最低血圧(拡張期血圧)をもとめる。そして、CPU21は、一拍毎の拡張期血圧のうち最も低い拡張期血圧に関する所定の割合(変動率)を閾値(第2閾値)として設定し、設定した閾値を例えばRAM23に記憶する。
【0055】
また、本変形例における予測手段33の機能は、例えば以下のように実現される。なお、ここでは、予測手段33が、採血中に拡張期血圧の変動率が閾値以上になった場合に、VVRが発生すると予測する場合を一例として説明する。予測装置20のCPU21は、例えば、採血を開始したことを表す情報を血圧計10から受信し、または、当該情報が入力部27を用いて入力された後に、取得手段31の機能に基づいて一拍分の血圧波形データを血圧計10から受信する毎に、採血中の採血対象者の一拍毎の拡張期血圧をもとめる。次に、CPU21は、採血前の拡張期血圧と一拍毎の拡張期血圧との間の拡張期血圧の変動率と、閾値(第2閾値)との比較を行い、拡張期血圧の変動率が閾値以上になった場合に、VVRが発生すると判別(予測)する。
【0056】
このように、本変形例にかかるVVR発生予測システムによれば、上述した実施形態と同様の作用効果を発揮することが可能である。
【0057】
(変形例2)
上記実施形態では、採血対象者の平均血圧を指標としてVVRの発生を予測する場合を一例として説明したが、採血対象者の収縮期血圧を指標としてVVRの発生を予測してもよい。
【0058】
この場合、本変形例における設定手段32は、採血前と採血中との間の採血対象者の収縮期血圧の変動に関する第3閾値を設定してもよい。また、本変形例における予測手段33は、採血中の採血対象者の収縮期血圧の変動と前記第3閾値との比較に基づいて、VVRが発生すると予測してもよい。本変形に係るVVR発生予測システムによれば、採血前と採血中との間における採血対象者の収縮期血圧の変化の度合いに基づいて、例えば下肢や腹部の運動により静脈還流を促進したり、採血速度を低減し、または、採血を停止もしくは中止する等の処置をとることによって、VVRの発生を抑制することができる。
【0059】
本変形例における設定手段32の機能は、例えば以下のように実現される。なお、ここでは、採血前と採血中との間の採血対象者の収縮期血圧の変動率に関する閾値が設定される場合を一例として説明する。予測装置20のCPU21は、先ず、採血前の採血対象者の血圧波形データを用いて、採血前の採血対象者の一拍毎の最高血圧(収縮期血圧)をもとめる。そして、CPU21は、一拍毎の収縮期血圧のうち最も高い収縮期血圧に関する所定の割合(変動率)を閾値(第3閾値)として設定し、設定した閾値を例えばRAM23に記憶する。
【0060】
また、本変形例における予測手段33の機能は、例えば以下のように実現される。なお、ここでは、予測手段33が、採血中に収縮期血圧の変動率が閾値以上になった場合に、VVRが発生すると予測する場合を一例として説明する。予測装置20のCPU21は、採血を開始したことを表す情報を血圧計10から受信し、または、当該情報が入力部27を用いて入力された後に、取得手段31の機能に基づいて一拍分の血圧波形データを血圧計10から受信する毎に、採血中の採血対象者の一拍毎の収縮期血圧をもとめる。次に、CPU21は、採血前の収縮期血圧と一拍毎の収縮期血圧との間の収縮期血圧の変動率と、閾値(第3閾値)との比較を行い、収縮期血圧の変動率が閾値以上になった場合に、VVRが発生すると判別(予測)する。
【0061】
このように、本変形例にかかるVVR発生予測システムによれば、上述した実施形態と同様の作用効果を発揮することが可能である。
【0062】
(その他)
上記実施形態では、血圧計10と予測装置20とが別々に設けられている場合を一例として説明したが、この場合に限られない。例えば、予測装置20が、血圧計10内に一体に組み込まれた構成としてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、採血対象者の平均血圧を指標としてVVRの発生を予測する場合を一例として説明しているが、例えば、平均血圧、拡張期血圧および収縮期血圧の3つの指標を用いてVVRの発生を予測してもよい。この場合、平均血圧、拡張期血圧および収縮期血圧の3つの指標の全てにおいてVVRの発生を予測したときにVVRが発生すると予測してもよいし、3つの指標のうち少なくとも1つの指標においてVVRの発生を予測したときにVVRが発生すると予測してもよい。
【0064】
また、上記実施形態では、設定手段32が、採血前と採血中との間の採血対象者の血圧の変動率に関する閾値を設定し、予測手段33が、採血中の採血対象者の血圧の変動率が閾値以上になった場合に、VVRが発生すると予測する場合を一例として説明したが、この場合に限られない。
【0065】
例えば、設定手段32は、採血前の採血対象者の血圧の所定の割合を閾値(例えば、上記実施形態における基準血圧)として設定し、予測手段33は、採血中の採血対象者の血圧が当該閾値以下になった場合に、VVRが発生すると予測してもよい。この場合においても、上述した実施形態と同様の作用効果を発揮することが可能である。
【0066】
また、設定手段32は、採血前の採血対象者の平均血圧の所定の割合(例えば70%)を第1閾値として設定し、予測手段33は、採血中の採血対象者の平均血圧が第1閾値以下になった場合に、VVRが発生すると予測してもよい。
【0067】
さらに、設定手段32は、採血前の採血対象者の拡張期血圧の所定の割合(例えば75%)を第2閾値として設定し、予測手段33は、採血中の採血対象者の拡張期血圧が第2閾値以下になった場合に、VVRが発生すると予測してもよい。
【0068】
さらにまた、設定手段32は、採血前の採血対象者の収縮期血圧の所定の割合(例えば70%)を第3閾値として設定し、予測手段33は、採血中の採血対象者の収縮期血圧が第3閾値以下になった場合に、VVRが発生すると予測してもよい。
【0069】
なお、本発明のVVR発生予測システムをコンピュータで実現させるためのプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されていてもよい。このプログラムを記録した記憶媒体は、
図2に示されたHDD24であってもよい。また、例えばCD−ROMドライブ等のプログラム読取装置に挿入されることで読み取り可能なCD−ROM等であってもよい。さらに、記憶媒体は、磁気テープ、カセットテープ、フレキシブルディスク、MO/MD/DVD等であってもよいし、半導体メモリであってもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0071】
(1)採血対象者の選定
2012年12月〜2014年7月の間に岩手県赤十字血液センター盛岡大通り献血ルームを訪れた献血希望者のうち、文書にて同意を得た若年(16〜29歳)献血者46名(VVR発症者6名、非発症者(VVR発症経験のない者)40名)を採血対象者として選定した。
【0072】
(2)血圧測定方法
採血前検査を合格した採血対象者を採血用ベッド上で半座位の状態で安静にさせた後、前腕中心部を消毒して17ゲージ針にて正中静脈を穿刺して静脈を確保し、200mlまたは400mlの採血を1分間に約50ccの速度で5〜10分かけて行った。そして、抜針後に、採血対象者に対して約5分間の休息をとらせた。この採血前の安静期から採血終了後5分経過までの約10〜15分間の間、採血する側の腕の反対側の腕の中指第二関節に計測用のカフを巻き付けて、非侵襲かつ持続的な血圧計測を行い、この計測結果を記録した。この血圧計測には、Finometer Model−2(Finapres Medical Systems;FMS,Netherland)を用いた。
【0073】
(3)試験例1
解析ソフトBeatScope Easy(FMS,Netherland)を用いて計測結果を解析することにより得られた平均血圧を指標として、VVRの発生予測試験を行った。ここで、採血前の平均血圧に対する採血中の平均血圧の変動率を0%〜100%まで変化させて閾値を設定し、それぞれの閾値毎に、VVR検出率(VVR発症者がVVRを発生することを検出した確率)と、誤診断率(非発症者がVVRを発生すると誤って検出した確率)と、VVR発生までの時間(VVRの発生を検出したときから実際にVVRが発生するまでの時間)と、をもとめた。なお、VVR発生までの時間は、VVR発症者間の平均時間である。
【0074】
図7に試験例1の試験結果を示す。
図7に示すように、変動率30%以下を閾値とした場合には、VVR検出率が100%であった。また、変動率30%を閾値とした場合には、誤診断率が0%となり、良好な結果が得られた。さらに、変動率が小さくなるほど、VVR発生までの時間が長くなる(つまり、VVRの発生を早期に検出可能である)ことがわかった。
【0075】
(4)試験例2
解析ソフトBeatScope Easyを用いて計測結果を解析することにより得られた拡張期血圧を指標として、VVRの発生予測試験を行った。ここで、採血前の拡張期血圧に対する採血中の拡張期血圧の変動率を0%〜100%まで変化させて閾値を設定し、それぞれの閾値毎に、VVR検出率と、誤診断率と、VVR発生までの時間と、をもとめた。
【0076】
図8に試験例2の試験結果を示す。
図8に示すように、変動率25%以下を閾値とした場合には、VVR検出率が100%であった。一方、変動率25%を閾値とした場合には、誤診断率が12.5%であった。さらに、試験例1と同様に、変動率が小さくなるほど、VVR発生までの時間が長くなることがわかった。
【0077】
(5)試験例3
解析ソフトBeatScope Easyを用いて計測結果を解析することにより得られた収縮期血圧を指標として、VVRの発生予測試験を行った。ここで、採血前の収縮期血圧に対する採血中の収縮期血圧の変動率を0%〜100%まで変化させて閾値を設定し、それぞれの閾値毎に、VVR検出率と、誤診断率と、VVR発生までの時間と、をもとめた。
【0078】
図9に試験例3の試験結果を示す。
図9に示すように、変動率30%以下を閾値とした場合には、VVR検出率が100%であった。一方、変動率30%を閾値とした場合には、誤診断率が2.5%であった。さらに、試験例1および試験例2と同様に、変動率が小さくなるほど、VVR発生までの時間が長くなることがわかった。
【0079】
試験例1〜3の結果から分かるように、採血中の採血対象者の血圧の変動率が閾値以上になった場合にVVRが発生すると予測することによって、VVRの発生を事前に検出することができ、ひいてはVVRの発生を抑制することができる。