【実施例】
【0016】
図2にモールド凹部容積の均一化を実現するため、一例として、2つのマスクを使用する2段容積均一化モールドの原理を示す。デバイスパターンをモールドに成形する際に、
図5を用いて後述するように、モールド面を面積S
cの矩形(要素セルと呼ぶ)により格子状に分割し、そのとき、ある要素セルC
ijに含まれる元パターンをP
ijとする。
なお、
図2は、要素セルC
ij内でのP
ijのパターン密度A
ijが、最小値A
min=0.25となる(a)から、最大値A
max=1となる(f)のモデルケースを示している。
P
ijを形成するマスクを第1マスクとし、P
ijに対し、一部重複する部分集合をなすQ
ijのパターンを形成するマスクを第2マスクとする。モールド加工では第1マスクによりP
ijの元パターンをモールドに彫り込んだ後、第2マスクにより、補助パターンQ
ijがP
ijの所定の部分に重畳するように配置され、追加的な彫り込み加工が行われる。
第1マスクを利用した元パターンP
ijの加工深さをd
Aとし、第2マスクを利用した補助パターンによる加工深さをd
Bとすると、補助パターンQ
ijはパターンP
ijに重畳しているため、補助パターンQ
ijの最終的な深さd
Bfは、パターンP
ijの初めの加工深さd
Aと補助パターンQ
ijによる追加の加工深さd
Bの和となる。
【0017】
ここで、追加工後の要素セルC
ijのパターン部分の容積V
ijを考える。
元パターンP
ijの密度をA
ij、補助パターンQ
ijの密度をB
ijとするとV
ijは、次の式1で表すことができる。
V
ij=S
c×A
ij×d
A+S
c×B
ij×d
B・・・・・(式1)
ここで、d
Bとd
Aの比をRとおき、d
B=R×d
Aを代入すると、V
ijは次の式2で表される。
V
ij=S
c×A
ij×d
A+S
c×B
ij×(R×d
A)
=S
c×(A
ij+B
ij×R)×d
A・・・・・(式2)
また、B
ijは、元パターンP
ijの部分をなす補助パターンQ
ijのパターン密度であるので、必ず、0≦B
ij≦A
ijである。
【0018】
ここで、B
ij=t×A
ij(ただし、0≦t≦1)と表すと、V
ijは、次の式3に変形できる。ここで、tはQ
ijのP
ijに対する占有率である。
V
ij=S
c×(A
ij+(t×A
ij)×R)×d
A
=S
c×A
ij×(1+t×R)×d
A・・・・・(式3)
A
minなる要素セルC
ijでは、Q
ij=P
ijとして追加工を行い、A
maxなる要素セルC
ijではQ
ij=φ(空集合)として全く追加工を行わないことを考えると、A
minなるC
ijの容積V
min、A
maxなるC
ijの容積V
maxは、それぞれt=1およびt=0の場合に相当し、V
minおよびV
maxはそれぞれ次の式4、式5で表される。
V
min=S
c×A
min×(1+1×R)×d
A・・・・・(式4)
V
max=S
c×A
max×(1+0×R)×d
A・・・・・(式5)
このとき容積が均一になるためには、V
min=V
maxとおき、次の式6によって決定されるRを採用することが必要である。
R=(A
max/A
min)−1・・・・・(式6)
【0019】
このときの容積V(V=V
max)は次の式7で表される。
V=S
c×A
max×d
A・・・・・(式7)
任意の要素セルC
ijの容積V
ijは、式3に基づいて次の式8で表される。
V
ij=S
c×A
ij×(1+t×((A
max/A
min)−1)×d
A・・・・・(式8)
これがVに一致するtを求めるには、次の式9のようにV=V
ijとおき、
S
c×A
max×d
A=S
c×A
ij×(1+t×((A
max/A
min)−1)×d
A・・・(式9)
式9をtについて解けば良く、V
ij=A
max×d
Aとなるtは,次の式10により、決定することができる。
t=(A
min/A
ij)(A
max−A
ij)/(A
max−A
min)・・・・・(式10)
【0020】
ここで、A
ij=A
minのときt=1、A
ij=A
maxのときt=0であり、またA
ijに対してtは単調減少であるため、A
min<A
ij<A
maxなるA
ijに対して、0<t<1は明らかである。
すなわち、
図2において、A
min(t=1)となる(a)ではQ
ijとしてP
ijを、A
max(t=0)となる(f)では、Q
ijとしてφ(空集合)を、A
ij(0<t<1)となる(b)から(e)では、Q
ijとしてP
ijの一部をパターンとすることで、容積均一化が実現できることが分かる。
より具体的には、(a)A
min=0.25、(f)A
max=1の場合、式6よりR=3であり、(a)から(f)のパターン密度A
ijがそれぞれ、0.25、0.33、0.5、0.66、0.75、1に対して、式10よりtが1、0.66、0.33、0.16、0.11、0となり、補助パターンの密度B
ijはその積の0.25、0.22、0.17、0.11、0.08、0.00となる。
【0021】
補助パターンQ
ijは元パターンP
ijの一部分であるから、要素セルC
ijに対して適当な図形(重畳パターン)W
ijとパターンP
ijとのブーリアン積で補助パターンQ
ijを表現することができる。このとき、補助パターンQ
ijのパターン密度B
ijが所望の値となるような補助パターンQ
ijを実現するように重畳パターンW
ijを用意する必要がある。
所望のパターン密度B
ijは上述に従い一意に決定できるが、補助パターンQ
ijや重畳パターンW
ijは無数に存在する。
【0022】
そこで、補助パターンQ
ijや重畳パターンW
ijを決定するための本発明の実施例を図面を用いて以下に説明する。
図3と
図4は、それぞれ第2マスクパターンの設計方法において、前処理工程と補正用重畳パターンおよび補助パターンの発生工程をそれぞれ示すフローチャートである。
また、
図5は所望デバイスチップI(a)を矩形要素セル(C
ij)に分割した状態(b)を示している。
【0023】
[ステップS1]
図3のステップ1では、まず、
図5(a)に示す所望デバイスチップIの表面を、例えば、
図5(b)のように分割する。この例では、例えば、GDSII形式で表された描画データ上の元パターンである1段目パターンを16の矩形要素セル(C
ij)に分割し、各C
ijに含まれるパターン群をP
ijとする。
続いて、要素セル面積S
Cの上限S
lim、R(1段目パターンと2段目補助パターンの加工深さの比;d
B/d
A)、実効的なパターン密度の許容誤差Eを、例えば、以下のように設定する。
すなわち、要素セル面積S
Cの上限S
limを成形の際の樹脂の変形挙動(流動距離等)に基づいて設定する。例えば、東洋合成社製のナノインプリント用樹脂(PAK−01)を用いる場合、S
limは1mm
2以下とする。
セル内に存在する溝のアスペクト比が高く、第2マスクを利用した加工深さd
Bが非常に大きい場合は、エッチング中にレジストが失われてしまうため、実質的に加工が不可能であり、補助パターンの加工深さ制限を示す指標として、1段目パターンと2段目補助パターンの加工深さの比R=(d
B/d
A)に基づいて、例えば、R≦4など上限値を設定する。
また、実効的なパターン密度の誤差に対し、許容誤差±E(例えば、±0.01)を設定する。
【0024】
[ステップS2]
次に、すべてのセルC
ijについて、パターン密度A
ijを算出し、その最大値(A
max)と最小値(A
min)を検出する。
図5(b)の例では、パターン密度A
ijは、上から1段目、左から1列目のセルから、上から4段目、左から4列目のセルまで順番に選定される対象セルにおけるパターン密度で、この場合、16個のセルのパターン密度を求めてメモリに記録し、その中から最大値(A
max)と最小値(A
min)を抽出する。
なお、
図5の例では、デバイスチップIの全体形状が矩形であるが、チップの外縁や、パターンが存在しない領域の外縁がパターンが形成された領域内に任意の形状で点在するような場合は、手動あるいは自動解析により解析範囲を設定する。
【0025】
[ステップS3]
無図形セルがない場合(任意のセルC
ijでA
ij≠0)、ステップS3に進み、A
max/A
min≦1+R(式6参照)が満たされているかを判断することによって、補助パターン加工深さd
Bが加工可能範囲内であるかを確認する。
A
max/A
min≦1+Rの条件が満たされている場合、ステップS4に進み、満たされていない場合、つまり、加工可能範囲外と判断された場合には、ステップS1に戻り、セルを拡大し(例えば、セルの幅を2倍とする等)、ステップS3の条件をクリアするまで、工程を繰り返す。
【0026】
[ステップS4]
ステップS4では、分割された矩形の面積S
Cが上限値S
limに対し、S
C≦S
limを満たしているかを確認する。満たされている場合、容積均一化が可能であるということで、
図4のステップS6に進み、満たされていない場合、つまり、要素セルの面積が制限値を超えた場合、容積均一化が不適当であるため、そのまま終了する。
【0027】
[ステップS5]
一方、ステップS2において、無図形セルが存在する場合(あるセルC
ijでA
ij=0)、S5に進み、A
ij=0なるセルの存在の許容可否を判断する。ここで、A
ij=0となるセルの存在を許容しない場合、S1に戻り、A
ij=0なるセルが存在しないように、例えば、セルの幅を2倍とする等、セルを拡大する処理を行う。
一方、A
ij=0なるセルを許容する場合、A
ij≠0なる最小のA
ijをA
minとし、A
ij=0なるC
ijを除外し、後述する
図8のステップS11により別途処理する。
【0028】
[ステップS6]
あるセルC
ijにおいて、A
ij≠A
minの場合、ステップS7に進み、A
ij=A
minの場合には重畳パターン(W
ij)はC
ijと同一の矩形とする。
【0029】
[ステップS7]
あるセルC
ijにおいて、A
ij≠A
maxの場合、ステップS8に進み、A
ij=A
maxの場合、W
ijは面積0の矩形になる。
【0030】
[ステップS8]
ステップS8では、ブーリアン処理のための、初期値となる補正用重畳パターンW
ijを発生させる。補正用重畳パターンW
ijの生成例を
図7に示す。
例えば、
図7(a)、(b)で示すように、チップを要素セルに分解し、
図7(c)で示すように、あるセルC
ijについて、初期値となる重畳パターンW
ijを発生させ、
図7(d)で示すように、W
ijとパターン群P
ijとのブーリアン積となる補助パターン群Q
ijを発生させる。
例えば、初期補正用重畳パターンの図形は、セルと同じ中心点を有する矩形にする。また、初期補正用重畳パターンの図形における一片の長さは、例えば、セルの1/2にする。
【0031】
[ステップS9]
ステップS9では、セルの容積が均一化するか否かを判断する。
ここでは、あるセルC
ijについて、パターン群Q
ijのパターン密度B
ijを計算した後、容積均一化補正後の実効的なパターン密度(A
ij+R・B
ij)を計算する。ここで得られた、重畳パターンの密度が、S1で決めた実効的なパターン密度の許容誤差±E(例えば、±0.01)内であるか確認する。
A
max−E<(A
ij+R・B
ij)<A
max+Eが成立している場合には、ステップS10に移動する。
容積均一化が成立していないと判断されたセル領域内については、
図7(f)で示すように、補正用重畳パターンサイズを増加(Over補正)あるいは減少(Under補正)しながら、
図7(c)から
図7(e)で示すような、図形の重ね合わせによるブーリアン演算を繰り返す。
例えば、A
max−E<(A
ij+R・B
ij)の条件が成立していない場合、S8に戻り、W
ijを大きくし、上述の工程を繰り返し、(A
ij+R・B
ij)<A
max+Eの条件が満たされない場合には、S8に戻り、W
ijを小さくし、上述の工程を繰り返す。
【0032】
[ステップS10]
ステップS10では、あるセルC
ijについての補正用重畳パターンW
ij、補助パターン群Q
ijを例えばGDSIIファイル形式で出力する。
【0033】
[ステップS11]
以上までは、特許文献2で提案したように、第1マスク、第2マスクにより、エッチングを行い、パターンと第2段補正パターンを形成する例を前提としていた。
この方式では、第1マスクパターニングのマスクとして採用するCr等を除去せず、第2マスクを用いて、追加的にドライエッチングを行うことで溝の深さを変化させている。
このように、既に形成されているCr膜マスクパターンを再利用し、既に形成した溝部分を追加的にエッチングするセルフアライメントプロセスとなっているため、高精度の描画位置制御は必要ない。しかし、プロセスの特徴上、第1マスクパターニングの際に、パターンがない領域については、Cr膜の存在のため、第2パターニングの際にはエッチングができない。
【0034】
一方、高精度の位置精度を必要としないパターニングにおいて、上記の方式ではなく、レーザ加工等のマスクレス加工手法を用いる場合、元パターンが存在しない領域についてもパターニングできるため、ダミーパターン形成が可能となる。ナノインプリント技術において、作製された素子の機能に影響しないように適切にダミーパターンを追加する手法は、モールド面内のパターン密度の均一性を一定にする手法の一つとして一般的に知られており、パターンの無い領域が広いモールドの設計においては、残膜の均一化、充填時間の短縮、欠陥の減少等の面において有用である。また、その他に、離型工程において、モールドと樹脂との離型速度の制御による欠陥減少やアライメント用パターン形成等のためにも用いられる。
【0035】
図8は、
図3のステップS5の工程で、A
ij=0なるC
ij(パターンが存在しないセル)の後での別途処理を選択した場合、そのセル領域内に、自動でダミーパターンを形成するか、手動でダミーパターンや自動生成による任意パターンを追加するか、加工せずにそのまま終了するかを、
図8のステップS11で決定する。例えば、パターン密度均一化のためのダミーパターン形成の場合には、ステップS12に移動し、対象としたセルC
ijについて、ダミーパターンを自動生成する。
一方、離型工程制御やアライメントパターン形成等の場合には、ステップS13に移動し、任意パターンの追加を手動で行う。
【0036】
[ステップS12]
A
ij=0なるC
ij領域内に、モールド面内のパターン密度均一化を目的にダミーパターンを形成する場合、加工プロセスのサイクルや費用の面において、ダミーパターンの加工深さ(d
C)はパターンが存在する領域においての補助パターンQ
ijの加工深さ(d
B)と同じにすることが望ましい。また、ダミーパターンの密度D
ijは、密度分布が異なる他パターン領域とモールド凹み部の容積を均一化することにより、求められる。例えば、
図9で示すように、図中のダミーパターン(X
ij)により、
図2の任意パターン領域と、容積を均一化させた場合、D
ijは0.33となる。なお、図中、A
ijは元パターン密度、d
Aは加工深さ、X
ijはダミーパターン、d
C(= d
B)は加工深さ、h
iは初期膜厚、h
rは残膜厚である。
最終的に、補助パターンの図面を例えばGDSII形式で出力する。
【0037】
[ステップS13]
ステップS13では、A
ij=0なるC
ij領域内に、手動で任意パターンを入力し、最終的に第2マスクパターンを例えばGDSII形式で出力する。