【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有機ケイ素機能性化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、アリル化合物のヒドロシリル化に有効な触媒を見出し、シリル化合物を効率良く製造することができるシリル化合物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、イリジウム錯体及び/又はイリジウム塩の存在下でアリル化合物のヒドロシリル化反応が進行し、シリル化合物が効率良く生成することを見出し、本発明を完成させた。
さらに、種々のイリジウム前駆体をアリル化合物で処理することにより、室温でアリル化合物のヒドロシリル化にきわめて活性な触媒を調製することに成功した。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
<1> イリジウム錯体及び/又はイリジウム塩の存在下、下記式(A)で表されるアリル化合物と下記式(B)で表されるヒドロシラン化合物を反応させて下記式(C)で表されるシリル化合物を生成する反応工程を含むことを特徴とする、シリル化合物の製造方法。
【化1】
(式(A)〜(C)中、Xは塩素原子、臭素原子、若しくはヨウ素原子、又は酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数
2〜10のアシルオキシ基を、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子、又は酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を、R
4はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ケイ素原子数1〜20の(ポリ)シロキシ基、又は酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
<2> 前記イリジウム錯体及び/又はイリジウム塩が、下記式(1)〜(3)の何れかで表される化合物である、<1>に記載のシリル化合物の製造方法。
【化2】
(式(2)及び(3)中、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)<3> 下記式(2)〜(3)の何れかで表される化合物と下記式(A)で表されるアリル化合物を反応させて前記イリジウム錯体及び/又はイリジウム塩を生成する前処理工程を含む、<1>に記載のシリル化合物の製造方法。
【化3】
(式(2)及び(3)中、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【化4】
(式(A)中、Xは塩素原子、臭素原子、若しくはヨウ素原子、又は酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数
2〜10のアシルオキシ基を、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子、又は酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
<4> 下記式(2)〜(3)の何れかで表される化合物と下記式(A)で表されるアリル化合物を反応させてなるヒドロシリル化触媒用組成物。
【化5】
(式(2)及び(3)中、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【化6】
(式(A)中、Xは塩素原子、臭素原子、若しくはヨウ素原子、又は酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数
2〜10のアシルオキシ基を、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子、又は酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、シリル化合物を効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の詳細を説明するに当たり、具体例を挙げて説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り以下の内容に限定されるものではなく、適宜変更して実施することができる。
【0010】
<シリル化合物の製造方法>
本発明の一態様であるシリル化合物の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略す場合がある。)は、イリジウム錯体及び/又はイリジウム塩の存在下、下記式(A)で表されるアリル化合物と下記式(B)で表されるヒドロシラン化合物を反応させて下記式(C)で表されるシリル化合物を生成する反応工程(以下、「反応工程」と略す場合がある。)を含むことを特徴とする。
【化7】
(式(A)〜(C)中、Xは塩素原子、臭素原子、若しくはヨウ素原子、又は酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数
2〜10のアシルオキシ基を、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子、又は酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を、R
4はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、ケイ素原子数1〜20の(ポリ)シロキシ基、又は酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
ヒドロシリル化反応に利用される従来の白金触媒では、アリル化合物を選択的にヒドロシリル化することは困難であったが、本発明者らは、イリジウム錯体及び/又はイリジウム塩の存在下でアリル化合物のヒドロシリル化反応が進行し、シリル化合物が効率良く生成することを見出したものである。本発明の製造方法は、比較的温和な条件で、効率良くかつ選択的にシリル化合物を製造することができ、経済性・実用性に優れる方法であると言える。
以下、「式(A)で表されるアリル化合物」、「式(B)で表されるヒドロシラン化合物」等について詳細に説明する。
【0011】
(式(A)で表されるアリル化合物)
反応工程は、イリジウム錯体及び/又はイリジウム塩の存在下、式(A)で表されるアリル化合物と式(B)で表されるヒドロシラン化合物を反応させて式(C)で表されるシリル化合物を生成する工程であるが、式(A)で表されるアリル化合物の具体的種類は、特に限定されず、目的とするシリル化合物に応じて適宜選択されるべきである。
【化8】
Xは
・塩素原子
・臭素原子、若しくは
・ヨウ素原子、又は
・酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数
2〜10のアシルオキシ基
を表しているが、「酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい」とは、炭化水素基の水素原子がヒドロキシル基(−OH)
、フルオロ基(−F)等の酸素原子、ハロゲン原子を含む1価の官能基で置換されていてもよいほか、炭化水素基の炭素骨格内部の炭素原子がエーテル基(−O−)等の酸素原子、ハロゲン原子を含む2価以上の官能基(連結基)で置換されていてもよいことを意味する。そして、酸素原子を含んでいてもよいとは、アシルオキシ基(R−COO−)を構成する酸素原子以外の酸素原子を含んでいてもよいことを意味する。
Xがアシルオキシ基である場合の炭素原子数は、好ましくは8以下、より好ましくは6以下、さらに好ましくは4以下、特に好ましくは2以下である。
Xとしては、下記式で表されるように、塩素原子、アセチルオキシ基、トリフルオロアセチルオキシ基、t−ブタノイルオキシ基等が好ましい。
【化9】
【0012】
R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して
・水素原子、又は
・酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基
を表しているが、「酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでもよい」とは、炭化水素基の水素原子がヒドロキシル基(−OH)、アミノ基(−NH
2)、ジメチルボリル基(−B(CH
3)
2)、トリメチルシリル基(−Si(CH
3)
3)、フルオロ基(−F)等の酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、ケイ素原子を含む1価の官能基で置換されていてもよいほか、炭化水素基の炭素骨格内部の炭素原子がエーテル基(−O−)等の酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、ケイ素原子を含む2価以上の官能基(連結基)で置換されていてもよいことを意味する。また、「炭化水素基」は、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよく、飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基等の何れであってもよいものとする。
R
1、R
2、R
3が炭化水素基である場合の炭素原子数は、好ましくは16以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下であり、R
1、R
2、R
3が芳香族炭化水素基である場合の炭素原子数は、通常6以上である。
R
1、R
2、R
3としては、水素原子、メチル基(−CH
3,−Me)、エチル基(−C
2H
5,−Et)、n−プロピル基(−
nC
3H
7,−
nPr)、i−プロピル基(−
iC
3H
7,−
iPr)、n−ブチル基(−
nC
4H
9,−
nBu)、t−ブチル基(−
tC
4H
9,−
tBu)、n−ペンチル基(−
nC
5H
11)、n−ヘキシル基(−
nC
6H
13,−
nHex)、シクロヘキシル基(−
cC
6H
11,−Cy)、フェニル基(−C
6H
5,−Ph)等が挙げられる。この中でも、水素原子が特に好ましい。
【0013】
式(A)で表されるアリル化合物としては、下記式で表されるものが挙げられる。
【化10】
【0014】
(式(B)で表されるヒドロシラン化合物)
反応工程は、イリジウム錯体及び/又はイリジウム塩の存在下、式(A)で表されるアリル化合物と式(B)で表されるヒドロシラン化合物を反応させて式(C)で表されるシリル化合物を生成する工程であるが、式(B)で表されるヒドロシラン化合物の具体的種類は、特に限定されず、目的とするシリル化合物に応じて適宜選択されるべきである。
【化11】
R
4はそれぞれ独立して
・水素原子、
・ハロゲン原子、
・ケイ素原子数1〜20の(ポリ)シロキシ基、又は
・酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基
を表しているが、前述のように「酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい」は、炭化水素基の水素原子がヒドロキシル基(−OH)、フルオロ基(−F)等の酸素原子、ハロゲン原子を含む1価の官能基で置換されていてもよいほか、炭化水素基の炭素骨格内部の炭素原子がエーテル基(−O−)等の酸素原子、ハロゲン原子を含む2価以上の官能基(連結基)で置換されていてもよいことを意味し、「炭化水素基」は、分岐構造、環状構造のそれぞれを有していてもよく、飽和炭化水素基、芳香族炭化水素基等の何れであってもよいものとする。従って、「酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基」としては、例えば−CH
2−CH
2−OHのようなヒドロキシル基を含む炭素原子数2の炭化水素基、−CH
2−O−CH
3のようなエーテル基を炭素骨格の内部に含む炭素原子数2の炭化水素基、及び−O−CH
2−CH
3のようなエーテル基を炭素骨格の末端に含む炭素原子数2の炭化水素基(アルコキシ基(エトキシ基))等が含まれる。また、「ケイ素原子数1〜20の(ポリ)シロキシ基」は、ケイ素原子数1のシロキシ基とケイ素原子数2以上のポリ(オリゴ)シロキシ基を含むことを意味する。
R
4が炭化水素基である場合の炭素原子数は、好ましくは16以下、より好ましくは12以下、さらに好ましくは8以下であり、R
4が芳香族炭化水素基である場合の炭素原子数は、通常6以上である。
R
4としては、水素原子、メチル基(−CH
3,−Me)、エチル基(−C
2H
5,−Et)、n−プロピル基(−
nC
3H
7,−
nPr)、i−プロピル基(−
iC
3H
7,−
iPr)、n−ブチル基(−
nC
4H
9,−
nBu)、t−ブチル基(−
tC
4H
9,−
tBu)、n−ペンチル基(−
nC
5H
11)、n−ヘキシル基(−
nC
6H
13,−
nHex)、シクロヘキシル基(−
cC
6H
11,−Cy)、フェニル基(−C
6H
5,−Ph)、メトキシ基(−OCH
3,−OMe)、エトキシ基(−OC
2H
5,−OEt)、n−プロポキシ基(−O
nC
3H
7,−O
nPr)、フェノキシ基(−OC
6H
5,−OPh)、トリメチルシロキシ基(−OSiMe
3)等が挙げられる。この中でも、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基が特に好ましい。
【0015】
式(B)で表されるヒドロシラン化合物としては、下記式で表されるものが挙げられる。
【化12】
【0016】
式(B)で表されるヒドロシラン化合物の使用量(仕込量)は、式(A)で表されるアリル化合物に対して物質量換算で、通常0.1倍以上、好ましくは0.5倍以上、より好ましくは1倍以上であり、通常10倍以下、好ましくは5倍以下、より好ましくは2倍以下である。上記範囲内であると、より効率良くシリル化合物を製造することができる。
【0017】
反応工程は、イリジウム錯体及び/又はイリジウム塩(以下、「イリジウム錯体等」と略す場合がある。)の存在下で行われる工程であるが、イリジウム錯体等におけるイリジウムの酸化数、配位子若しくは対イオンの具体的種類等は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。
イリジウムの酸化数は、通常0、+1、+2、+3、+4、+5、+6であるが、+1であることが好ましい。
配位子若しくは対イオン、又はこれらになり得る化合物としては、シクロオクテン、シクロオクタジエン、水素化物アニオン(H
−)、トリメチルシリルアニオン(Me
3Si
−)、トリエチルシリルアニオン(Et
3Si
−)、塩化物アニオン(Cl
−)、臭化物アニオン(Br
−)、アセトキシアニオン等が挙げられる。
イリジウム錯体等としては、下記式(1)〜(3)の何れかで表される化合物、クロロビス(シクロオクテン)イリジウム(I)ダイマー([Ir(coe)
2Cl]
2)、クロロ(シクロオクタジエン)イリジウム(I)ダイマー等が挙げられる。上記範囲内であると、より効率良くシリル化合物を製造することができる。
【化13】
(式(2)及び(3)中、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0018】
イリジウム錯体等の使用量(仕込量)は、式(A)で表されるアリル化合物に対して物質量換算で、通常1.0×10
−6倍以上、好ましくは1.0×10
−5倍以上、より好ましくは1.0×10
−3倍以上であり、通常5倍以下、好ましくは1倍以下、より好ましくは0.5倍以下である。上記範囲内であると、より効率良くシリル化合物を製造することができる。
【0019】
反応工程は、溶媒を使用してもよい。また、溶媒の種類は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、具体的にはヘキサン、ベンゼン、トルエン等の炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系溶媒等が挙げられる。この中でもトルエン、塩化メチレン、ベンゼン等が特に好ましい。
上記範囲内であると、より効率良くシリル化合物を製造することができる。
【0020】
反応工程の反応温度は、通常−20℃以上、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上であり、通常100℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは40℃以下である。
反応工程の反応時間は、通常5秒以上、好ましくは30秒以上、より好ましくは1分以上であり、通常50時間以下、好ましくは30時間以下、より好ましくは20時間以下である。
反応工程は、通常窒素、アルゴン等の不活性雰囲気下で行う。
上記範囲内であると、より効率良くシリル化合物を製造することができる。
【0021】
本発明の製造方法は、前述の反応工程を含むものであれば、その他については特に限定されないが、反応工程を行う前に、式(2)〜(3)の何れかで表される化合物と式(A)で表されるアリル化合物を混合しておくと、これらが反応して新たなイリジウム錯体等が生成し、これがヒドロシリル化反応に対して非常に活性な触媒となることを本発明者らは明らかにしている。
従って、本発明の製造方法は、下記式(2)〜(3)の何れかで表される化合物と下記式(A)で表されるアリル化合物を反応させてイリジウム錯体等を生成する前処理工程(以下、「前処理工程」と略す場合がある。)を含むことが好ましい。
【化14】
(式(2)及び(3)中、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【化15】
(式(A)中、Xは塩素原子、臭素原子、若しくはヨウ素原子、又は酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数
2〜10のアシルオキシ基を、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子、又は酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0022】
前処理工程における式(A)で表されるアリル化合物の使用量(仕込量)は、式(2)〜(3)の何れかで表される化合物に対して物質量換算で、通常0.1倍以上、好ましくは1倍以上、より好ましくは3倍以上であり、通常10倍以下である。
前処理工程の反応温度は、通常−20℃以上、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上であり、通常100℃以下、好ましくは70℃以下、より好ましくは40℃以下である。
前処理工程の反応時間は、通常1分以上、好ましくは30分以上、より好ましくは1時間以上であり、通常48時間以下、好ましくは36時間以下、より好ましくは24時間以下である。
【0023】
<ヒドロシリル化触媒用組成物>
式(2)〜(3)の何れかで表される化合物と式(A)で表されるアリル化合物を混合しておくと、これらが反応して新たなイリジウム錯体等が生成し、これがヒドロシリル化反応に対して非常に活性な触媒となることを前述したが、下記式(2)〜(3)の何れかで表される化合物と下記式(A)で表されるアリル化合物を反応させてなるヒドロシリル化触媒用組成物(以下、「本発明の組成物」と略す場合がある。)も本発明の一態様である。
【化16】
(式(2)及び(3)中、Rはそれぞれ独立して炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【化17】
(式(A)中、Xは塩素原子、臭素原子、若しくはヨウ素原子、又は酸素原子及びハロゲン原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでいてもよい炭素原子数
2〜10のアシルオキシ基を、R
1、R
2、及びR
3はそれぞれ独立して水素原子、又は酸素原子、窒素原子、ホウ素原子、及びケイ素原子からなる群より選択される少なくとも1種の原子を含んでもよい炭素原子数1〜20の炭化水素基を表す。)
【0024】
本発明の組成物における式(A)で表されるアリル化合物の使用量(仕込量)は、式(2)〜(3)の何れかで表される化合物に対して物質量換算で、通常0.1倍以上、好ましくは1倍以上、より好ましくは3倍以上であり、通常10倍以下である。
【実施例】
【0025】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0026】
<実施例1〜2>
Reiner et al.Inorg.Chem.2015,54,4600.の記載に基づいて、下記式(1)で表されるイリジウム錯体を合成した。
【化18】
次に、酢酸アリル(1mmol)及び表1に記載のヒドロシラン化合物(1mmol)を反応容器に量り取り、これに式(1)で表されるイリジウム錯体のトルエン溶液(0.00047mmol,0.028M,17μL)を加えて、反応溶液を室温で放置し、
1H NMRで反応を追跡した。
1H NMRの結果から、表1に記載のシリル化合物が得られていることを確認した。なお、生成物の収率は、内標準物質としてメシチレンを用いて
1H NMRにより算出した。
【0027】
【表1】
【0028】
<実施例3〜4>
[IrCl(coe)
2]
2(coe=cyclooctene)(100.0mg,0.223mmol)とEt
3SiH(72μL,0.45mmol)との反応により下記式(2)で表されるイリジウム錯体を合成した(参考文献:Sehoon Park,ACS Catal.2012,2,307.)。
【化19】
次に、表2に記載のアリル化合物(1.1mmol)及びジメトキシメチルシラン(1mmol)を反応容器に量り取り、これに式(2)で表されるイリジウム錯体のトルエン溶液(0.0001mmol,0.001M,100μL)を加えて、反応溶液を室温で放置し、
1H NMRで反応を追跡した。
1H NMRの結果から、表2に記載のシリル化合物が得られていることを確認した。なお、生成物の収率は、内標準物質としてメシチレンを用いて
1H NMRにより算出した。
【0029】
【表2】
【0030】
<実施例5〜6>
Sehoon Park,ACS Catal.2012,2,307.の記載に基づいて、下記式(3)で表されるイリジウム錯体を合成した。
【化20】
次に、表3に記載のアリル化合物(1.1mmol)及びジメトキシメチルシラン(1mmol)を反応容器に量り取り、これに式(3)で表されるイリジウム錯体のトルエン溶液(0.0001mmol,0.001M,100μL)を加えて、反応溶液を室温で放置し、
1H NMRで反応を追跡した。
1H NMRの結果から、表3に記載のシリル化合物が得られていることを確認した。なお、生成物の収率は、内標準物質としてメシチレンを用いて
1H NMRにより算出した。
【0031】
【表3】
【0032】
<実施例7〜9>
[IrCl(coe)
2]
2(coe=cyclooctene)(100.0mg,0.223mmol)とEt
3SiH(72μL,0.45mmol)との反応により下記式(2)で表されるイリジウム錯体を合成した(参考文献:Sehoon Park,ACS Catal.2012,2,307.)。
【化21】
式(2)で表されるイリジウム錯体(55mg,0.13mmol)のベンゼン溶液に、塩化アリル(63μL,0.77mmol)を加えて室温で一晩撹拌した。溶媒留去後、ヘキサンで洗浄し、乾燥することで薄茶色の固体が得られた。本固体をNMRで分析したところ式(2)で表されるイリジウム錯体は消失し、他の化合物等に変化していることが確認された。本薄茶色の固体を5mg量り取り、塩化メチレン1mLに溶解させて標準溶液とした。
次に、表4に記載のアリル化合物(1mmol)及びヒドロシラン化合物(1mmol)を反応容器に量り取り、先に調製した標準溶液100μLを室温で加えて、
1H NMRで反応を追跡した。
1H NMRの結果から、表4に記載のシリル化合物が得られていることを確認した。なお、生成物の収率は、内標準物質としてメシチレンを用いて
1H NMRにより算出した。
【0033】
【表4】
【0034】
<実施例10〜11>
表5に記載のアリル化合物(2mmol)及びジメトキシメチルシラン(1mmol)を反応容器に量り取り、これに式(2)で表されるイリジウム錯体のトルエン溶液(0.0001mmol,0.001M,100μL)を加えて、反応溶液を室温で放置し、
1H NMRで反応を追跡した。
1H NMRの結果から、表5に記載のシリル化合物が得られていることを確認した。なお、生成物の収率は、内標準物質としてメシチレンを用いて
1H NMRにより算出した。
実施例10〜11では、アリル化合物をヒドロシラン化合物の2倍当量加えているが、式(2)で表されるイリジウム錯体と塩化アリルを予め反応させている実施例7、9の方が、収率及び反応効率が高いことが明らかである。これは、式(2)で表されるイリジウム錯体と塩化アリルの反応によって、新たなイリジウム錯体が生成し、これがヒドロシリル化反応を触媒しているものと言える。
【0035】
【表5】
【0036】
<実施例12〜13>
[IrCl(coe)
2]
2(coe=cyclooctene)(100.0mg,0.223mmol)とEt
3SiH(72μL,0.45mmol)との反応により下記式(2)で表されるイリジウム錯体を合成した(参考文献:Sehoon Park,ACS Catal.2012,2,307.)。
【化22】
式(2)で表されるイリジウム錯体(55mg,0.13mmol)のベンゼン溶液に、酢酸アリル(83μL,0.77mmol)を加えて室温で一晩撹拌した。溶媒留去後、ヘキサンで洗浄し、乾燥することで薄茶色の固体が得られた。本固体をNMRで分析したところ式(2)で表されるイリジウム錯体は消失し、他の化合物等に変化していることが確認された。本薄茶色の固体を5mg量り取り、塩化メチレン1mLに溶解させて標準溶液とした。
次に、表6に記載のアリル化合物(1mmol)及びヒドロシラン化合物(1mmol)を反応容器に量り取り、先に調製した標準溶液100μLを室温で加えて、
1H NMRで反応を追跡した。
1H NMRの結果から、表6に記載のシリル化合物が得られていることを確認した。なお、生成物の収率は、内標準物質としてメシチレンを用いて
1H NMRにより算出した。
【0037】
【表6】
【0038】
<実施例14〜15>
Sehoon Park,ACS Catal.2012,2,307.の記載に基づいて、下記式(3)で表されるイリジウム錯体を合成した。
【化23】
式(3)で表されるイリジウム錯体(38mg,0.049mmol)のベンゼン溶液に、塩化アリル(24μL,0.29mmol)を加えて室温で1時間放置した。溶媒留去後、得られた薄茶色の固体を5mg量り取り、塩化メチレン1mLに溶解させて標準溶液とした。なお、得られた薄茶色の固体をNMRで分析したところ式(3)で表されるイリジウム錯体は消失し、他の化合物等に変化していることが確認された。
次に、表7に記載のアリル化合物(1mmol)及びシラン化合物(1mmol)を反応容器に量り取り、先に調製した標準溶液100μLを室温で加えて、
1H NMRで反応を追跡した。
1H NMRの結果から、表7に記載のシリル化合物が得られていることを確認した。なお、生成物の収率は、内標準物質としてメシチレンを用いて
1H NMRにより算出した。
【0039】
【表7】
【0040】
<実施例16〜17>
(アリル化合物をシラン化合物の2倍当量加えたとき)
表8に記載のアリル化合物(2mmol)及びジメトキシメチルシラン(1mmol)を反応容器に量り取り、これに式(3)で表されるイリジウム錯体のトルエン溶液(0.0001mmol,0.001M,100μL)を加えて、反応溶液を室温で放置し、
1H NMRで反応を追跡した。
1H NMRの結果から、表8に記載のシリル化合物が得られていることを確認した。なお、生成物の収率は、内標準物質としてメシチレンを用いて
1H NMRにより算出した。
実施例16〜17では、アリル化合物をヒドロシラン化合物の2倍当量加えているが、式(3)で表されるイリジウム錯体と塩化アリルを予め反応させている実施例14〜15の方が、収率及び反応効率が高いことが明らかである。これは、式(3)で表されるイリジウム錯体と塩化アリルの反応によって、新たなイリジウム錯体が生成し、これがヒドロシリル化反応を触媒しているものと言える。
【0041】
【表8】
【0042】
<実施例18>
(前処理工程後、逐次的にヒドロシリル化反応を行う)
式(2)で表されるイリジウム錯体(0.21mg,0.0005mmol)のベンゼン溶液に、酢酸アリル(32μL,0.003mmol)を加えて室温で24時間放置した。
次に、酢酸アリル(1mmol)及びシラン化合物(1mmol)を反応容器に室温で加えて、
1H NMRで反応を追跡した。
1H NMRの結果から、シリル化合物が収率99%以上で生成していることを確認した。なお、生成物の収率は、内標準物質としてメシチレンを用いて
1H NMRにより算出した。
実施例18では、イリジウム錯体(2)と酢酸アリルを反応させる前処理工程後、逐次的にヒドロシリル化反応を行うことにより高い収率及び反応効率を得ることができた。また、実施例12のヒドロシリル化触媒用組成物をあらかじめ調製してからヒドロシリル化反応を行った場合と比べても、実施例18ではヒドロシリル化触媒組成物が同等の高い収率と反応効率を示した。
【化24】