特許第6598458号(P6598458)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6598458シランカップリング剤組成物、その製造方法、エポキシ樹脂組成物、半導体封止用材料および半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598458
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】シランカップリング剤組成物、その製造方法、エポキシ樹脂組成物、半導体封止用材料および半導体装置
(51)【国際特許分類】
   C07F 7/18 20060101AFI20191021BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20191021BHJP
   C08K 5/5465 20060101ALI20191021BHJP
   C08K 5/544 20060101ALI20191021BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20191021BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   C07F7/18 P
   C08L63/00 C
   C08K5/5465
   C08K5/544
   C07F7/18 U
   H01L23/30 R
【請求項の数】5
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2014-259544(P2014-259544)
(22)【出願日】2014年12月23日
(65)【公開番号】特開2016-117696(P2016-117696A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年12月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】横山 たか
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 保志
【審査官】 山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−092488(JP,A)
【文献】 特開平09−078461(JP,A)
【文献】 特開平09−136893(JP,A)
【文献】 特表2007−516264(JP,A)
【文献】 チェコ国特許発明第00187932(CZ,B6)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C08
C07B
C07C
CAplus/REGISTRY/CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(C)アルコール系有機溶媒に、(A)成分である塩基性物質を添加する工程、およびその後、
当該塩基性物質を含有する(C)アルコール系有機溶媒中で、
(A)一般式:
【化9】
(式中、Rはアルキレン基、アリーレン基またはアリーレンアルキレン基であり、R1は一価炭化水素基であり、R2はアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、aは0ないし正の整数であり、bは0、1、または2である。)で表される有機ケイ素化合物と
(B)一般式:
【化10】
(式中、X、Y、およびZはそれぞれハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基の塩型基、スルホン酸基の塩型基、ジアルキルアミノ基、およびジ(ハロアルキル)アミノ基からなる群から選択される官能性基または水素原子である)で表される芳香族アルデヒドとを脱水縮合反応させる工程を有することを特徴とする、
(A)成分と(B)成分とを脱水縮合反応させることにより得られる、
(D1)一般式(I):
【化8】
{式中、X、Y、Z、R、R、およびRは前記と同じであり、aは0ないし正の整数であり、bは0、1、または2である。}で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有するシランカップリング剤、および(C)アルコール系有機溶媒を含み、
ガスクロマトグラフィー(GC)分析(内標法、島津製作所製GC−2010、内標:トルエン)を用いて組成物中の(B)成分に由来する芳香族アセタール量を測定した場合、その含有量が前記のGC分析の検出限界以下であり、
前記の(A)成分を(B)成分1モルに対し、0.95〜1.05モル当量の範囲内で反応させるものであり、
予め前記の(C)成分中に、(A)成分の反応量の0.01〜30質量%と、(B)成分を溶解させて、塩基性を示す溶媒混合物を得る工程、および
当該溶媒混合物中に、残余の(A)成分を滴下することにより脱水縮合反応させる工程を含むことを特徴とする、シランカップリング剤組成物の製造方法。
【請求項2】
前記の(B)成分に由来する芳香族含有アセタールが、下記一般式(II)で示されるアセタール化合物である、請求項1に記載のシランカップリング剤組成物の製造方法。
一般式(II)
【化2】
(II)
(式中、X、Y、およびZは前記と同じである。R´は炭素原子数1〜3のアルキル基またはアルコキシアルキル基である)
【請求項3】
シランカップリング剤が、
a=0の場合には、(D1)下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有するものであり、
a が 1以上の場合には、さらに、前記の(D1)および/または(D2)下記一般式(III)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有するものである、請求項1または請求項2に記載のシランカップリング剤組成物の製造方法。
一般式(I):
【化3】
一般式(III):
【化4】
(式中、X、Y、Z、R、R、およびRは前記と同じであり、一般式(I)においてaは0ないし正の整数であり、一般式(III)においてaは1以上の整数であり、一般式(I)および一般式(III)においてbは0、1、または2である。)
【請求項4】
シランカップリング剤が、(D1−1)下記一般式(I’)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物と(D2−1)下記一般式(III’)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有し、前記成分(D1−1)と前記成分(D2−1)の混合比が、0.1:9.9〜9.9:0.1の範囲(総量は10.0質量部である)の範囲である、請求項1〜3のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物の製造方法。
一般式(I’):
【化5】
一般式(III’):
【化6】
(式中、X、Y、Z、R、R、およびRは前記と同じであり、bは0、1、または2である。)
【請求項5】
前記の一般式(I), (I’),(III),(III’)において、X,Y,およびZが水素原子であり、bが0であり、R2が炭素原子数1〜3のアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、前記の(B)成分に由来する芳香族含有アセタールが、下記一般式(II)で示されるアセタール化合物である、請求項1〜4のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物の製造方法。
一般式(II)
【化7】
(II)
(式中、X、Y、およびZは水素原子である。R´は炭素原子数1〜3のアルキル基またはアルコキシアルキル基である)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なシランカップリング剤組成物、その製造方法、該シランカップリング剤組成物または該シランカップリング剤自体を含むエポキシ樹脂組成物、該エポキシ樹脂組成物からなる半導体封止用材料、および、該エポキシ樹脂組成物を硬化させてなる部材を有する半導体装置に関する。詳しくは、芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物であるシランカップリング剤とアルコール系有機溶媒を含むシランカップリング剤組成物、少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物と芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アルデヒドとを、アルコール系有機溶媒中で脱水縮合反応させることによるその製造方法、該シランカップリング剤組成物または該シランカップリング剤自体を含むエポキシ樹脂組成物、該エポキシ樹脂組成物からなる半導体封止用材料および該エポキシ樹脂組成物を硬化させてなる部材を有する半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
官能性基置換のベンジリデンイミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有するシランカップリング剤とその製造方法は、例えば特許文献1(特開平9−136893号公報)に開示されている。
【0003】
特許文献1には、官能性基置換のベンジリデンイミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有するシランカップリング剤として、
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【0004】
【化8】
【化9】
【0005】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【0006】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【化22】
【化23】
【化24】
が例示されている。
【0007】
該シランカップリング剤の製造方法として、(A)一般式:
【化25】
(式中、R1は一価炭化水素基であり、R2はアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、aは0または1であり、bは1以上の整数であり、cは0、1、または2である。)で表される有機ケイ素化合物と(B)一般式:
【化26】
(式中、X、Y、およびZはそれぞれハロゲン原子、アリール基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基、カルボキシル基の塩型基、スルホン酸基、スルホン酸基の塩型基、ジアルキルアミノ基、およびジ(ハロアルキル)アミノ基からなる群から選択される官能性基または水素原子であり、ただし、X、Y、およびZの少なくとも一つは前記の官能性基である)で表される官能性基置換ベンズアルデヒドとの脱水縮合反応による製造方法が開示されている。この反応により副生成した水を系内から除去するため有機溶媒と共沸させる方法が挙げられ、有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶剤などが例示されている。その実施例には、反応容器にp−メトキシベンズアルデヒドまたはo−クロロベンズアルデヒドを仕込み、室温において窒素雰囲気下撹拌しつつ、3−アミノプロピルトリエトキシシランを30分かけて滴下して、滴下終了後に40℃で2時間攪拌して反応を完結させることにより、N−p−メトキシベンジリデン−3−トリエトキシシリルプロピルアミンまたはN−o−クロロベンジリデン−3−トリエトキシシリルプロピルアミンを製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−136893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、メチルアルコールなどの溶媒を使用せずにこの反応を行うと、副生する水の影響でアルコキシシリル基の加水分解およびそれに伴って進行する縮合反応により、一部ゲル化した生成物や反応液の高粘度化により、収率の低下が予測される。アルコール系有機溶媒を用いることにより、副生する水の局在化を防止し、均一系で各原料を反応させることが可能になり、得られた有機ケイ素化合物およびその加水分解物が、アルコール系有機溶媒中均一に分散しており、かつ、分子量分布が安定したシランカップリング剤を得ることができる。これにより、シランカップリング剤組成物の品質安定性および取扱作業性を改善しうる。一方、アルコール系有機溶媒を使用する製造方法では、脱水縮合反応中に芳香族アルデヒドがアセタール化して相当量の芳香族アセタールが副生するという問題があることに本発明者らは気付いた。それに伴い、相当する量の原料である有機ケイ素化合物(A)、すなわち、アミノアルキルトリアルコキシシランが未反応で残留する。このアミノアルキルトリアルコキシシランを含有する官能性基置換のベンジリデンイミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有するシランカップリング剤自体、あるいは、未反応で残留するアミノアルキルトリアルコキシシランを含有する官能性基置換のベンジリデンイミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有するシランカップリング剤で処理された無機質充填剤をエポキシ樹脂組成物、特にはエポキシ樹脂モールディングコンパウンドに配合すると、加熱成形時に流動性、特にはスパイラルフローが低下して、生産性が低下するという問題があることに本発明者らは気付いた。
【0010】
そこで、本発明者らは、アルコール系溶媒中で脱水縮合反応中に芳香族アルデヒドがアセタール化せず、副生アセタールを含有しないベンジリデンイミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有するシランカップリングの製造方法を創出すべく鋭意研究した結果、脱水縮合反応中に芳香族アルデヒドが殆どアセタール化せず、副生物である芳香族アセタールを実質的に含有せず、その結果、未反応で残留するアミノアルキルトリアルコキシシランの量が大幅に削減されたベンジリデンイミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有するシランカップリング剤組成物を製造する方法を発明することに成功した。
【0011】
本発明の目的は、アルコール系溶媒で脱水縮合反応中に、芳香族アルデヒドが殆どアセタール化せず、副生アセタールを実質的に含有せず、かつ未反応で残留するアミノアルキルアルコキシシランの量が大幅に削減された芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物であるシランカップリング組成物を製造する方法、副生アセタールを実質的に含有せず、かつ未反応で残留するアミノアルキルアルコキシシランの量が大幅に削減された芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物であるシランカップリングの組成物を提供することにある。さらには、上記した芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物であるシランカップリング剤の組成物または該シランカップリング剤自体を含有するエポキシ樹脂組成物、該エポキシ樹脂組成物からなる半導体封止用材料および該エポキシ樹脂組成物を硬化させてなる部材を有する半導体装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的は、(A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基とを有する有機ケイ素化合物と(B)芳香族環上に置換基を有してもよい芳香族アルデヒドとを脱水縮合反応させることにより得られるシランカップリング剤、および(C)アルコール系有機溶媒を含み、前記の(B)成分に由来する芳香族アセタールを実質的に含有しないシランカップリング剤組成物、その製造方法および当該組成物を含有するエポキシ樹脂組成物およびその半導体封止用材料としての使用により達成される。
すなわち、上記課題は、下記[1]〜[13]により達成される。
[1] (A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基とを有する有機ケイ素化合物と(B)芳香族環上に置換基を有してもよい芳香族アルデヒドとを脱水縮合反応させることにより得られるシランカップリング剤、および
(C)アルコール系有機溶媒を含み、前記の(B)成分に由来する芳香族アセタールを実質的に含有しないシランカップリング剤組成物。
[1−1]上記シランカップリング剤は、芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物であってよい。
[2] 前記のシランカップリング剤が、
一般式(I):
【化27】
{式中、Rはアルキレン基、アリーレン基またはアリーレンアルキレン基であり、R1は一価炭化水素基であり、R2はアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、X、Y、およびZはそれぞれハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基の塩型基、スルホン酸基の塩型基、ジアルキルアミノ基、およびジ(ハロアルキル)アミノ基からなる群から選択される官能性基または水素原子であり、aは0ないし正の整数、bは0、1、または2である。}で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有し、前記の(B)成分に由来する芳香族含有アセタールが、下記一般式(II)で示されるアセタール化合物である、[1]のシランカップリング剤組成物
一般式(II)
【化28】
(II)
(式中、X、Y、およびZは前記と同じである。R´は炭素原子数1〜3のアルキル基またはアルコキシアルキル基である)
[3] シランカップリング剤が、
a=0の場合には、(D1)下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有するものであり、
a が 1以上の場合には、さらに、前記の(D1)および/または(D2)下記一般式(III)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有する、[1]または[2]のシランカップリング剤組成物。
一般式(I):
【化29】
一般式(III):
【化30】
(式中、X、Y、Z、R、R、およびRは前記と同じであり、一般式(I)においてaは0ないし正の整数であり、一般式(III)においてaは1以上の整数であり、一般式(I)および一般式(III)においてbは0、1、または2である。)
[4] シランカップリング剤が、(D1−1)下記一般式(I’)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物と(D2−1)下記一般式(III’)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有し、前記成分(D1−1)と前記成分(D2−1)の混合比が、0.1:9.9〜9.9:0.1の範囲(総量は10.0質量部である)の範囲である、[1]〜[3]のいずれかのシランカップリング剤組成物。
一般式(I’):
【化31】
一般式(III’):
【化32】
(式中、X、Y、Z、R、R、およびRは前記と同じであり、bは0、1、または2である。)
[5] 前記の一般式(I), (I’),(III),(III’)において、X,Y,およびZが水素原子であり、bが0であり、R2が炭素原子数1〜3のアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、前記の(B)成分に由来する芳香族含有アセタールが、下記一般式(II)で示されるアセタール化合物である、[2]〜[4]のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物。
一般式(II)
【化33】
(II)
(式中、X、Y、およびZは水素原子である。R´は炭素原子数1〜3のアルキル基またはアルコキシアルキル基である)
【0013】
[6] (C)アルコール系有機溶媒に、塩基性物質を添加する工程、およびその後、
塩基性物質を含有する(C)アルコール系有機溶媒中で、前記の(A)成分と(B)成分とを脱水縮合反応させる工程を有することを特徴とする、[1]〜[5]のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物の製造方法。
[7] 前記の塩基性物質が、前記の(A)成分である、[6]に記載のシランカップリング剤組成物の製造方法。
[8] [6]または[7]に記載のシランカップリング剤組成物の製造方法であって、
前記の有機ケイ素化合物(A)を前記の芳香族アルデヒド(B)1モルに対し、0.95〜1.05モル当量の範囲内で反応させるものであり、予め前記のアルコール系有機溶媒(C)中に、前記の有機ケイ素化合物(A)の反応量(全仕込み量)の0.01〜30質量%を含有せしめ、このアルコール系有機溶媒溶液に前記の芳香族アルデヒド(B)を溶解させ塩基性を示す反応混合物を調製し、ついで、当該溶液中に、混合・撹拌しつつ残余の前記の有機ケイ素化合物(A)を滴下することにより脱水縮合反応させることを特徴とする、[6]に記載のシランカップリング剤組成物の製造方法。
[9] 前記のシランカップリング剤が、(D1)一般式(I):
【化34】
{式中、Rはアルキレン基、アリーレン基またはアリーレンアルキレン基であり、R1は一価炭化水素基であり、R2はアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、X、Y、およびZはそれぞれハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基の塩型基、スルホン酸基の塩型基、ジアルキルアミノ基、およびジ(ハロアルキル)アミノ基からなる群から選択される置換基または水素原子であり、aは0ないし正の整数であり、bは0、1、または2である。}で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有し、
(A)一般式:
【化35】
(式中、R1、R2、R、a、およびbは前記と同じである。)で表される有機ケイ素化合物と(B)一般式:
【化36】
(式中、X、Y、およびZは前記と同じである。)で表される芳香族アルデヒド
とを、(C)アルコール系有機溶媒中で、脱水縮合反応させることにより得られるものであることを特徴とする、[6]〜[8]のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物の製造方法。
[10] 前記のアルコール系有機溶媒(C)が炭素原子数1〜3のアルコールであり、前記の(B)成分に由来する芳香族アセタールが、下記一般式(II)で示されるアセタール化合物である、[5]〜[8]のいずれかに記載のシランカップリング剤の製造方法。
一般式(II)
【化37】
(II)
(式中、X、Y、およびZは前記と同じである。R´は炭素原子数1〜3のアルキル基またはアルコキシアルキル基である)
【0014】
[11] [1]〜[5]のいずれかに記載のシランカップリング剤組成物を含むエポキシ樹脂組成物。
[12] [11]に記載のエポキシ樹脂組成物からなる、半導体封止用材料。
[13] [11]に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる部材を有する、半導体装置。
【発明の効果】
【0015】
本発明のシランカップリング剤組成物は、アルコール系有機溶媒と、(A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基とを有する有機ケイ素化合物と(B)芳香族環上に置換基を有してもよい芳香族アルデヒドとを脱水縮合反応させることにより得られるシランカップリング剤、具体的には、芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物およびその縮合反応物であるシランカップリング剤とを含み、芳香族アルデヒドである(B)成分に由来する芳香族アセタールを実質的に含有しないという特徴がある。加えて、本発明のシランカップリング剤組成物は、アルコール系有機溶媒を含むので、シランカップリング剤の品質安定性と取り扱い作業性に優れ、かつ、未反応で残留する少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物(A)量が大幅に削減されているという利点を有する。また、本発明のシランカップリング剤組成物の製造方法は、このような新規なシランカップリング剤組成物を簡易に収率よく製造することができるという特徴がある。さらに、本発明のシランカップリング剤組成物は、芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物およびその縮合反応物であるシランカップリング剤を含有するので、表面処理剤、接着促進剤、有機樹脂、特にはエポキシ樹脂の改質剤、ゴムの改質剤などとして有用であるという特徴がある。
【発明を実施するための形態】
【0016】
はじめに、本発明のシランカップリング剤組成物を詳細に説明する。
本発明のシランカップリング剤組成物は、少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物(A)と芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アルデヒド(B)とを脱水縮合反応させることにより得られる有機ケイ素化合物およびその縮合反応物であるシランカップリング剤とアルコール系有機溶媒を含む組成物であって、芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アルデヒド(B)のアセタール化反応に由来する芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アセタールを実質的に含有しない。具体的には芳香族アセタールの含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)分析により検出限界以下の含有量である。また、上記の結果、未反応で残留する少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物(A)量が大幅に削減されたシランカップリング剤組成物である。
【0017】
本発明のシランカップリング剤組成物中のシランカップリング剤は、好ましくは、
(D1)一般式(I):
【化38】
{式中、Rはアルキレン基、アリーレン基またはアリーレンアルキレン基であり、R1は一価炭化水素基であり、R2はアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、X、Y、およびZはそれぞれハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基の塩型基、スルホン酸基の塩型基、ジアルキルアミノ基、およびジ(ハロアルキル)アミノ基からなる群から選択される官能性もしくは非官能性置換基または水素原子であり、aは0ないし正の整数であり、bは0、1または2である。}で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含むものである。前記の有機ケイ素化合物は、系中に均一に存在する水により、加水分解縮合反応を生じるため、本発明に係るシランカップリング剤は、当該有機ケイ素化合物、その縮合反応物であり、シロキサンオリゴマーおよびシロキサンレジンの混合物であってよく、少なくとも上記一般式(I)で示す有機ケイ素化合物を含むものであればよい。
【0018】
上式中のRはアルキレン基、アリーレン基またはアリーレンアルキレン基であり、その炭素原子数が1〜10の整数であるアルキレン基,炭素原子数が6〜20であるアリーレン基または炭素数7〜20のアリーレンアルキレン基であることが好ましい。例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基等のアルキレン基;フェニレン基,ナフチレン基等のアリーレン基;ベンジレン基,フェニレンエチレン基、フェニレンプロピレン基、ナフチレンメチレン基、ナフチレンエチレン基等の炭素数7〜20のアリーレンアルキレン基である。なお、炭素原子上の水素原子の一部がフッ素、塩素等のハロゲン原子等で置換されていてもよい。好適には、Rは炭素原子数3〜6のアルキレン基またはフェニレン基であり、アルキレン基は通常直鎖状あるが、分岐鎖状や環状でもよい。R1は一価炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;ビニル基、アリル基、ブテニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基等のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフロロプロピル基等のハロゲン化アルキル基が挙げられる。アルキル基とハロゲン化アルキル基の炭素原子数は1〜10の整数が好ましく、アルキレン基の炭素原子数は、1〜10の整数が好ましく、3〜10の整数がより好ましく、3〜6の整数が最も好ましい。アルケニル基の炭素原子数は2〜10が好ましく、2と3がより好ましく、アリール基とアラルキル基の炭素原子数は6〜12が好ましい。
合成の容易さから、一価炭化水素基はメチル基であり、アルキレン基はエチレン基、プロピレン基またはブチレン基であることが好ましい。
【0019】
上式中のR2はアルキル基またはアルコキシアルキル基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基;メトキシエチル基、メトキシプロピル基等のアルコキシアルキル基が挙げられる。その反応性が良好であることから、R2の炭素原子数は1〜4が好ましく、特にはメチル基、エチル基、メトキシエチル基であることが好ましい。
【0020】
上式中のX、Y、およびZはハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アルキルチオ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基の塩型基、スルホン酸の塩型基、ジアルキルアミノ基、およびジ(ハロアルキル)アミノ基からなる群から選択される官能性基または水素原子である。
アリール基の炭素原子数は6〜12が好ましく、アリール基以外の炭素原子含有基は炭素原子数1〜10が好ましい。
合成の容易さから、X、Y、およびZのすべてが水素原子であるもの、X、Y、およびZの2つが水素原子であり1つが上記官能性置換基または非官能性置換基であるものが好ましい。
【0021】
このハロゲン原子として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が例示される。また、このアルキル基として、メチル基、エチル基、i−プロピル基、n−プロピル基、t−ブチル基、i−ブチル基、n−ブチル基が例示される。また、このアリール基として、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基が例示される。また、このアルコキシ基として、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、メトキシエトキシ基が例示される。また、このアルキルチオ基としては、メチルチオ基、エチルチオ基が例示される。また、このアルコキシカルボニル基として、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基が例示される。また、このカルボキシ基の塩型基として、カルボキシ基のナトリウム塩型基、カルボキシ基のカリウム塩型基が例示される。また、このスルホン酸基の塩型基として、スルホン酸のナトリウム塩型基、スルホン酸のカリウム塩型基が挙げられる。また、このジアルキルアミノ基として、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基が例示される。また、このジ(ハロアルキル)アミノ基として、ジ(クロロメチル)アミノ基、ジ(クロロエチル)アミノ基、ジ(クロロプロピル)アミノ基が例示される。アリール基の炭素原子数は6〜12が好ましく、アリール基以外の炭素原子含有基は炭素原子数1〜10が好ましい。
【0022】
上式中のaは0ないし正の整数であり、合成の容易さから0または1であることが好ましい。上式中のbは0、1、または2であり、反応性が良好であることから0と1が好ましく、0であることがより好ましい。
【0023】
このような一般式(I)で表される有機ケイ素化合物であるシランカップリング剤として、例えば、
【化39】
【化40】
【化41】
【化42】
【化43】
【化44】
【化45】
【0024】
【化46】
【化47】
【化48】
【化49】
【化50】
【化51】
【化52】
【0025】
【化53】
【化54】
【化55】
【化56】
【化57】
【化58】
【化59】
【化60】
【化61】
【化62】
【化63】
およびこれらの有機ケイ素化合物の縮合反応物が挙げられる。また、メトキシの代わりにエトキシであるものが挙げられる。なお、上記の有機ケイ素化合物の例示において、メトキシ基またはエトキシ基の一部又は全部が、プロポキシ基またはメトキシエトキシ基等であってもよい。さらに、上では、芳香族イミノ基がベンジリデンイミノ基である有機ケイ素化合物のみを例示したが、芳香族イミノ基として、その他にナフチリデンイミノ基などがある。
【0026】
本発明のシランカップリング剤組成物中のシランカップリング剤は、好ましくは、
(D1)一般式(I):
【化64】
で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含み、かつ、ベンゼン環に1種以上の置換基を有してもよいアセタールを実質的に含有せず、具体的にはその含有量がガスクロマトグラフィー(GC)分析により検出下限以下の量である。ベンゼン環に1種以上の置換基を有してもよいアセタールは、炭素原子数1〜3の低級アルコール存在下で、脱水縮合反応してシランカップリング剤を製造した場合は、下記一般式で示される。
【化65】
(式中、X、Y、およびZは前記と同じである。R´は炭素原子数1〜3のアルキル基である)
【0027】
本発明のシランカップリング剤組成物中のシランカップリング剤は好適には、上記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物、ベンゼン環に1種以上の置換基を有してもよいベンジリデンイミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有しているので、表面処理剤、接着促進剤、有機樹脂の改質剤、ゴムの改質剤などとして有用である。
【0028】
さらに、本発明のシランカップリング剤組成物中のシランカップリング剤は、上記(D1)成分である、上記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含むものであるが、aが1以上である場合、一般式(I)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物において、芳香族環と結合した-C=NCH2CH2NH-部分は熱的に安定な環化した異性体を生成しやすく、下記(D1)下記一般式(I)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物と(D2)下記一般式(III)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有するものであってもよい
一般式(I):
【化66】
一般式(III):
【化67】
【0029】
特に、一般式(I)において、a=1の場合、前記の一般式(I)で示される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物は、分子内において-C=NCH2CH2NH-部分で環化していてもよく、環化構造は化学エネルギー的に安定化される。具体的には、一般式(I)においてaが1である場合、当該シランカップリング剤は、(D1−1)下記一般式(I’)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物と(D2−1)下記一般式(III’)で表される有機ケイ素化合物およびその縮合反応物の混合物であってもよい。その混合比は、特に制限されるものではないが、(D1−1)成分0.1〜9.9質量部、(D2−1)9.9〜0.1質量部(合計10.0質量部)の範囲であり、(D1−1)成分1〜9質量部、(D2−1)9〜1質量部(合計10.0質量部)の範囲であってよく、(D1−1)成分1.0〜6.0質量部、(D2−1)9.0〜4.0質量部(合計10.0質量部)の範囲であってよい。
【化68】
【化69】
【0030】
本発明のシランカップリング剤組成物は、前記の芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物およびその縮合反応物であるシランカップリング剤および(C)アルコール系有機溶媒;好適には、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール系溶剤を含むことを特徴とする。後述するように、アルコール系有機溶媒の存在下で前記のシランカップリング剤を合成する反応を行う場合、芳香族アルデヒド(B)に由来する芳香族含有アセタールを副生する反応が起こるが、本発明のシランカップリング剤組成物は、そのような副生成物を実質的に含有しない、すなわち、該芳香族含有アセタール含有量がガスクロマトグラフィー(GC)分析により検出下限以下の高純度品である。
【0031】
続いて、本発明のシランカップリング剤組成物の製造方法を詳細に説明する。
本発明のシランカップリング剤組成物は、(A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物と(B)芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アルデヒドとを、特定条件下で脱水縮合反応させることにより製造することができる。
【0032】
具体的には、上記の製造方法は、(C)アルコール系有機溶媒に、塩基性物質を添加する工程、およびその後、塩基性を示す(C)アルコール系有機溶媒中で、前記の(A)成分と(B)成分とを脱水縮合反応させる工程を有することを特徴とする。予め塩基性物質を含有する(C)アルコール系有機溶媒中で、(A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基とを有する有機ケイ素化合物と(B)芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アルデヒドとを脱水縮合反応させることにより、芳香族アルデヒド(B)に由来する芳香族含有アセタールを実質的に含有しない本発明のシランカップリング剤組成物を得ることができる。塩基性物質として(C)アルコール系有機溶媒に可溶性のアルキルアミン、アミノアルキルアルコキシシランが例示される。
好ましくは、(C)アルコール系有機溶媒中で、
ステップ(1):脱水縮合反応に供する(A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物の一部を含む前記のアルコール系有機溶媒溶液を撹拌しつつ、(B)ベンゼン環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アルデヒドまたはその溶液を投入し、ついで
ステップ(2):撹拌しつつ残りの(A)少なくとも1級アミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物またはその溶液を徐々に滴下し、
ステップ(3):滴下終了後も撹拌を継続して脱水縮合反応を完結させることにより、
芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物であるシランカップリング剤およびアルコール系有機溶媒を含有するシランカップリング剤組成物を製造することができる。
【0033】
上記(C)アルコール系有機溶媒として、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等の低級アルコール系溶剤が例示され、その炭素原子数は1〜3が好ましい。また、本発明の技術的効果を損なわない限り、他の溶媒との混合溶媒を用いることができ、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;エチルメチルケトン等の脂肪族ケトン;シクロヘキサン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶剤;クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系溶剤との二種以上の混合物が例示される。
【0034】
その際、前記の(A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物を(B)芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アルデヒド1モル当たり、0.95〜1.05モル当量の範囲内で脱水縮合反応させることが好ましい。
【0035】
芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アセタールの生成を抑制するため、脱水縮合反応において、まず(A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物の一部を加えた塩基性を示すアルコール系有機溶媒溶液を調製する。その投入量は、(B)成分投入し混合液が塩基性を示す限りにおいて特段制約するものではないが、(A)アミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物の全体量の0.01〜30質量%が好ましく、0.05〜10質量%がより好ましい。ついで、該アルコール系有機溶媒溶液に(B)芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アルデヒドを投入し、混合液が塩基性を示すことを確認し、混合または撹拌しつつ残りの(A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物を滴下して脱水縮合反応を完了させる。
【0036】
前記脱水縮合反応は常温で行ってもよいが、反応速度を高めるために、常温より高く150℃以下であり、使用するアルコール系有機溶媒の沸点より低い温度で行うことが好ましい。使用するアルコール系有機溶媒がメタノールの場合は、ステップ(2)の当初は50℃前後とし、反応熱により昇温するので50℃前後に保持することが好ましい。そのためには、残りの(A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物またはその溶液の滴下速度を調整することが好ましい。ステップ(3)は反応を完結させることを目的に、溶媒の沸点近傍ないし溶媒のリフラックス温度程度に保持することが好ましい。
【0037】
(A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物と(B)芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アルデヒドとの脱水縮合反応は、該芳香族アルデヒドの酸化を防止するために、アルゴンガス、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。この脱水縮合反応は逐次反応であっても、一括反応であっても良い。
【0038】
(A)少なくともアミノ基とアルコキシシリル基を有する有機ケイ素化合物と(B)芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アルデヒドとが脱水縮合反応すると、水が副生するが、
アルコール系有機溶剤、特には、メタノール、エタノールなどの低級アルコールに溶けてしまう。ここで、副生した水により、加水分解縮合反応が起こり、形成後の有機ケイ素化合物の一部は、縮合反応物を形成する。本発明では、アルコール系有機溶媒を用いるため、均一な反応系が形成され、生成した縮合反応物を含む組成物が全体として均一に相溶しており、縮合反応物の分離が不要で取り扱い作業性に優れるという利点を有する。
このため、芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物およびその加水分解による縮合反応物であるシランカップリング剤およびアルコール系有機溶剤からなるシランカップリング剤組成物が得られる。
【0039】
本発明のシランカップリング剤組成物中のシランカップリング剤の代表例である一般式(I’)

【化70】
で表されるベンゼン環に1種以上の置換基を有してもよいベンジリデンイミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物であるシランカップリング剤またはその環化物を含む混合物は、
(A)一般式:
【化71】
(式中、R、R1、R2、aおよびbは前記と同じである。)で表される有機ケイ素化合物と(B)一般式:
【化72】
(式中、X、Y、およびZは前記と同じである。)で表されるベンゼン環に1種以上の置換基を有してもよいベンズアルデヒドとを上記した特定条件下で脱水縮合反応させることにより製造することができる。
【0040】
上記一般式中のR、R1、R2、a、およびbは前記と同じである。このような有機ケイ素化合物(A)として、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリ(メトキシエトキシ)シラン、4−アミノブチルトリメトキシシラン、5−アミノペンチルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリ(メトキシエトキシ)シラン、N−(2−アミノエチル)−4−アミノブチルトリメトキシシラン、アミノフェニルトリメトキシシラン等が挙げられ、工業上入手可能である。特に、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシランが好ましい。
【0041】
(B)ベンゼン環に1種以上の置換基を有してもよいベンズアルデヒドを表す、上記一般式中のX、Y、およびZは前記と同じである。このようなベンゼン環に1種以上の置換基を有してもよいベンズアルデヒドとして、例えば、ベンズアルデヒド、クロロベンズアルデヒド、ジクロロベンズアルデヒド、メチルベンズアルデヒド、フェニルベンズアルデヒド、メトキシベンズアルデヒド、ジメトキシベンズアルデヒド、トリメトキシベンズアルデヒド、シアノベンズアルデヒド、ニトロベンズアルデヒド、メチルチオベンズアルデヒド、メトキシカルボニルベンズアルデヒド、アセトキシベンズアルデヒド、スルフォベンズアルデヒドのナトリウム塩、ジメチルベンズアルデヒド、ジ(クロロエチル)ベンズアルデヒドが挙げられ、工業上入手可能である。特に、ベンズアルデヒド、クロロベンズアルデヒド、メトキシベンズアルデヒドが好ましい。
【0042】
本発明の製造方法では、工業上入手可能な原料から芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有するシランカップリング剤であって、前記の(B)芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アルデヒドに由来する、芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アセタールを実質的に含有しないシランカップリング剤組成物を収率よく製造することができる。この製造方法においては、特殊な触媒や、特殊な反応装置を使用することなく、既存の反応装置で十分であるという利点がある。
【0043】
次に、本発明のシランカップリング剤組成物の使用態様を詳細に説明する。このシランカップリング剤組成物は、従来のシランカップリング剤またはそれを含む組成物と同様に使用することができる。この使用方法としては、例えば、このシランカップリング剤組成物を基材に直接塗布する方法、このシランカップリング剤組成物を基材に直接スプレーする方法、このシランカップリング剤組成物を有機溶剤により希釈した処理液を基材にスプレーする方法、このシランカップリング剤組成物を水−有機溶剤により希釈した処理液をスプレーする方法、このシランカップリング剤組成物を有機溶剤により希釈した処理液に基材を浸漬する方法、このシランカップリング剤組成物を水−有機溶剤により希釈した処理液に基材を浸漬する方法が挙げられる。このシランカップリング剤組成物を水−有機溶剤により希釈して処理液を調製する際には、この有機溶剤としては、メタノール、エタノール等の水溶性のアルコール系有機溶剤を用いることが好ましい。
このシランカップリング剤組成物からアルコール系有機溶剤を除去してから基材の処理に供してもよい。
【0044】
本発明のシランカップリング剤組成物により処理される基材として、例えば、ヒュームドシリカ、湿式シリカ、焼成シリカ、ヒュームド二酸化チタン、粉砕石英、ケイ藻土、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、アルミノケイ酸塩、酸化鉄、酸化亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、マイカ、炭酸マグネシウム等の無機質微粒子;ガラス繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、炭素繊維等の繊維自体、これらの繊維からなる糸、織物、編み物、不織布;ガラス板、セラミック板、鋼板、鉄板、ステンレススチール板、アルミニウム板等の金属板、熱硬化性樹脂板、熱硬化性樹脂成形物、ゴム板、ゴム成形物が挙げられる。また、このシランカップリング剤組成物による処理を完全にするために、このシランカップリング剤組成物が付着した基材をさらに加熱処理することが好ましい。
【0045】
本発明のシランカップリング剤組成物、このシランカップリング剤組成物からアルコール系有機溶を除去してなるシランカップリング剤の配合対象として、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、ゴム、接着剤、粘着剤、シーリング剤、塗料、コーティング剤、プライマーが挙げられる。
【0046】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アセタールを実質的に含有せず,芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有するシランカップリング剤を含むエポキシ樹脂組成物である。代表例として、
(I)エポキシ樹脂、
(II)エポキシ樹脂用硬化剤、
(III)芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族アセタールを実質的に含有せず,芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有する有機ケイ素化合物およびその縮合反応物を含有するシランカップリング剤の組成物またはシランカップリング剤自体{シランカップリング剤自体(I)成分と(II)成分の合計100重量部に対して0.1〜5重量部}、および
(IV)無機充填剤(本組成物中、少なくとも20重量%)から少なくともなるエポキシ樹脂組成物が例示される。
【0047】
本発明の半導体封止用材料は、前記(III)成分を含むエポキシ樹脂組成物、好ましくは前記(I)成分〜(IV)成分からなるエポキシ樹脂組成物からなる。
【0048】
本発明の半導体装置は、前記(III)成分を含むエポキシ樹脂組成物、好ましくは前記(I)成分〜(IV)成分からなるエポキシ樹脂組成物を硬化させてなる部材を有する。
【実施例】
【0049】
本発明のシランカップリング剤組成物とその製造方法を実施例と比較例により詳細に説明する。
【0050】
[実施例1]温度計、攪拌機、冷却器を備えた4つ口100 mlフラスコに窒素ガス雰囲気下、メタノール(5.0 g, 0.16 mol), N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(4.5 g, 0.020 mol)を仕込み均一に混合し、ついで、ベンズアルデヒド(23.7 g, 0.22 mol)を仕込み均一に混合した。溶媒混合物は市販されているpH試験紙に対して塩基性を示した。溶媒混合物を撹拌しつつメタノールリフラックス下においてN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(45.5 g, 0.20 mol)を滴下し、さらに5時間攪拌した。結果、淡黄色透明液体得た。この淡黄色透明液体をガスクロマトグラフィー(GC)分析(内標法、島津製作所製GC−2010、内標:トルエン)を用いて組成物中のアセタール量、残存N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン量を測定した。

さらに、当該淡黄色透明液体を13C, 29Si-NMR(機器名:JEOL ECA500)およびGPC(機器名:Waters 2695)を用いて分析することにより、下記左側の構造式のN−ベンジリデン−3−トリメトキシシリルプロピルアミノエチルアミンと、右側の環状部分を有する構造式を有するオルガノトリメトキシシランとその加水分解縮合物との混合物であることを確認した。またその生成物は、N−ベンジリデン−3−トリメトキシシリルプロピルアミノエチルアミン官能基:右側の環状部分を有する構造式を有するオルガノトリメトキシシラン官能基がモル比で3.7:6.3であった。
【化73】
【0051】
[比較例1]
温度計、攪拌機、冷却器を備えた4つ口の100 mlフラスコに窒素ガス雰囲気下、メタノール(5.0g, 0.16mol),ベンズアルデヒド(関東化学 特級 23.7g, 0.22mol)を仕込み、撹拌しつつメタノールリフラックス下においてN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(50.0 g, 0.22mol)を滴下し、さらに5時間攪拌した。結果、淡黄色透明液体を得た。分析に関しては、実施例1と同様に行った。
【0052】
[比較例2]
温度計、攪拌機、冷却器を備えた4つ口の100 mlフラスコに窒素ガス雰囲気下、ベンズアルデヒドを仕込み、蒸留精製を行い、ベンズアルデヒド純度99.9 %の蒸留精製品(ベンズアルデヒドP)を得た。ベンズアルデヒドPを用いて、比較例1と同様に合成反応と分析をおこなった。
【0053】
実施例1、比較例1および比較例2について、得られたシランカップリング剤組成物中に存在するアセタールおよび未反応のN−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン(「アミノシラン」)の、メタノールを除いたシランカップリング剤(有効成分:シランおよびその加水分解物)に対する質量%を表1に示す。

【表1】
*1:ベンズアルデヒドジメチルアセタール
*2:N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン
表1に示すとおり、実施例1においては、アセタールを実質的に含まない(GCの検出下限以下)シランカップリング剤組成物を得ることができたが、メタノールへのアミノシランの添加を行わず、溶媒混合物を塩基性にしなかった比較例においては、たとえ蒸留精製品(ベンズアルデヒドP)を用いた比較例2においても、アセタールの副生を十分に抑制することはできなかった。
一方、アミノシランの仕込み量は実施例/比較例ともに同じであるにも拘わらず、実施例においては、比較例に比べて残存する原料アミノシラン量の低下を併せて実現することができた。残存する原料アミノシランは、該シランカップリング剤組成物で処理された無機質充填剤をエポキシ樹脂組成物、特にはエポキシ樹脂モールディングコンパウンドに配合した際に、流動性低下を導く原因となりうるので、本願実施例の組成物は、流動性がさらに改善されていることが期待される。
【0054】
[参考例]
得られたアルコール系有機溶剤を含むシランカップリング剤組成物の物性については、下記のような方法で評価することができる。
【0055】
ビフェニル・アラルキル型エポキシ樹脂(日本化薬社製のNC3000;エポキシ当量=275、軟化点=56℃)51重量部、ビフェニル・アラルキル型フェノール樹脂(明和化成社製のMEH7851M;フェノール性水酸基当量=207、軟化点=80℃)39.0重量部、実施例1で調製したシランカップリング剤組成物からメタノールを留去して得るN−ベンジリデン−3−トリメトキシシリルプロピルアミノエチルアミン3重量部、平均粒子径14μmの球状非晶性シリカ(電気化学工業株式会社製のFB−48X)510重量部、トリフェニルホスフィン1.0重量部、およびカルナバワックス1.0重量部を熱2本ロールにより均一に溶融混合して硬化性エポキシ樹脂組成物を調製する。
硬化性エポキシ樹脂組成物およびその硬化物の特性は次の方法により測定する。なお、硬化性エポキシ樹脂組成物は、175℃、2分間、70kgf/cm2の条件下でトランスファープレス成形した後、180℃、5時間の条件でポストキュアして硬化させる。
【0056】
[成型性]
・スパイラルフロー:175℃、70kgf/cm2の条件で、EMMI規格に準じた方法により測定する。
・金型汚れ評価:直径50mm、厚さ2mmの円盤を5ショット連続で成型した後、金型のクロムメッキ表面の曇りを観察し、金型汚れがない場合を「○」、金型表面に薄く曇りがある場合を「△」、金型表面に汚れがある場合を「×」、として評価する。
[機械的特性]
・曲げ弾性率:JIS K 6911に準拠して測定する。
・曲げ強さ:JIS K 6911に準拠して測定する。
【0057】
硬化性エポキシ樹脂組成物は、スパイラルフローが大きく成型性良好であり、金型汚れがなく、その硬化物は機械的特性良好でありうる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のシランカップリング剤組成物は、アルコール系有機溶媒と芳香族環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有している有機ケイ素化合物であるシランカップリング剤を含み、芳香族アセタールを実質的に含有しないので、その品質安定性および取扱作業性に優れ、表面処理剤、接着促進剤、有機樹脂の改質剤、ゴムの改質剤などとして有用である。本発明のシランカップリング剤組成物の製造方法は、アルコール系有機溶媒を用いて、芳香族アセタールを実質的に含有せず,ベンゼン環に1種以上の置換基を有してもよい芳香族イミノ基およびケイ素原子結合アルコキシ基を有している有機ケイ素化合物であるシランカップリング剤の組成物を製造するのに有用である。
本発明のエポキシ樹脂組成物は、半導体封止材料として有用であり、本発明の半導体封止材料は、半導体装置の材料として有用であり、本発明の半導体装置は、電子装置の主要部品として有用である。