特許第6598672号(P6598672)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6598672
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】電力合成・分配器
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/12 20060101AFI20191021BHJP
   H01P 5/02 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   H01P5/12 B
   H01P5/02 605D
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-252233(P2015-252233)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-118344(P2017-118344A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098372
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 保人
(72)【発明者】
【氏名】梅原 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】南谷 康次郎
【審査官】 佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0293274(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/02
H01P 5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力を合成又は分配する電力合成・分配器であって、
単一の第1同軸線路と、
この第1同軸線路に同軸上に接続されたテーパー形状の同軸線路と、
このテーパー形状同軸線路に同軸上に接続された第2同軸線路と、
この第2同軸線路に接続され、該第2同軸線路の軸に垂直な方向に配置された複数の分岐線路と、からなる電力合成・分配器。
【請求項2】
電力を合成又は分配する電力合成・分配器であって、
単一の第1同軸線路と、
この第1同軸線路に同軸上に接続されたテーパー形状の同軸線路と、
このテーパー形状同軸線路から折り返して該テーパー形状同軸線路の外側に配置された第2同軸線路と、
上記テーパー形状同軸線路から第2同軸線路への折返し部分又は上記第2同軸線路に接続された複数の分岐線路と、からなる電力合成・分配器。
【請求項3】
上記分岐線路として同軸線路を用い、
上記第2同軸線路の特性インピーダンスをZ1 、上記分岐同軸線路の特性インピーダンスをZ2 、分岐数をnとすると、
上記特性インピーダンスZ1 を、Z2 /nで求められる値に近い値に設定したことを特徴とする請求項1又は2記載の電力合成・分配器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力合成・分配器、特にマイクロ波電力を複数に分岐し又は複数の電力を合成する電力合成・分配器の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から各種の電力合成器、電力分配器が実用化されており、それぞれ異なった特徴を持ち、その特徴に応じて使い分けられている。
この電力合成・分配器として、マイクロストリップ線路を用いたウイルキンソン型の合成・分配器が知られているが、これは入力線路のインピーダンスの√2倍のインピーダンスを持つ4分の1波長の線路を用いたものである。マイクロストリップ線路は、誘電体基板の誘電率による波長短縮効果があり、小型化が可能で小電力を扱う回路として使用される。しかし一方、誘電体基板の誘電損失等の影響によって、線路のロスが大きく、大きな電力を扱うことが困難であるという欠点を持っている。
【0003】
また、図3に示されるラジアル線路を用いた電力合成・分配器(下記特許文献1と同様のもの)も実用化されている。図3において、51は入出力の中央同軸線路、52は分岐の同軸線路、53はコニカル線路、54ラジアル線路、55はドアノブ型変換回路である。この例では、中央同軸端子51と4つの分岐同軸端子52がコニカル線路53及びラジアル線路54により結合され、合成と分岐が可能となる。なお、上記ラジアル線路54は先端短絡線路となる。
【0004】
このような電力合成・分配器は、金属壁で覆われた空間をマイクロ波が伝搬するため、線路のロスは金属壁面の抵抗損失と反射損失のみであり、低損失であるという特徴があり、また比較的大きな電力を取り扱うことが可能であるという長所もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−175712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、大電力を扱うことのできるラジアル線路を用いた合成・分配器を、他の合成・分配器と多段に接続する場合、分岐間隔の寸法的な制約のため、分岐から同軸ケーブル等を介して両者を接続する必要がある。この接続のための同軸ケーブルは、その損失により、電力減衰の原因となり、また同軸ケーブルの位相特性を合わせることも困難で、電力合成する場合の位相ズレによる損失の原因ともなっていた。
【0007】
電力合成・分配器を多段接続する場合で、同軸ケーブルの使用を可能な限り減らすためには、電力合成・分配器を小型化し、多段接続構成の全体をコンパクトにする方法があり、これによれば、位相特性を合わせ易くなり、それらによって低損失な電力合成・分配器が実現可能となる。
また、単独で使用する場合でも、小型化は種々の利点を生むことになる。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、機器の小型化を図り、多段接続する場合は、同軸ケーブルの使用を削減し、低損失で大電力を取り扱うことが可能となる電力合成・分配器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、電力を合成又は分配する電力合成・分配器であって、単一の第1同軸線路と、この第1同軸線路に同軸上に接続(結合)されたテーパー形状の同軸線路と、このテーパー形状同軸線路に同軸上に接続(結合)された第2同軸線路(先端短絡線路)と、この第2同軸線路に接続(結合)され、該第2同軸線路の軸に垂直な方向に配置された複数の分岐線路と、からなることを特徴とする。
請求項2の発明は、電力を合成又は分配する電力合成・分配器であって、単一の第1同軸線路と、この第1同軸線路に同軸上に接続されたテーパー形状の同軸線路と、このテーパー形状同軸線路から折り返して該テーパー形状同軸線路の外側に配置された第2同軸線路と、上記テーパー形状同軸線路から第2同軸線路への折返し部分又は上記第2同軸線路に接続された複数の分岐線路と、からなることを特徴とする。
請求項の発明は、上記分岐線路として同軸線路を用い、上記第2同軸線路の特性インピーダンスをZ1 、上記分岐同軸線路の特性インピーダンスをZ2 、分岐数をnとすると、上記特性インピーダンスZ1 を、Z2 /nで求められる値に近い値に設定したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、半径方向に拡がるラジアル線路(先端短絡線路)が設けられていた従来例に対し、このラジアル線路を用いずに、先端短絡線路として第2同軸線路を用いたので、装置の径方向の寸法が小さくなり、小型化が可能となる。即ち、従来では、各分岐線路での結合を良好にするために、各線路から見て略4分の1波長の長さを持つ先端短絡線路或いは略4分の1波長の長さを持つドアノブ形状の変換器等を必要とするが、本発明では、先端短絡線路を同軸線路にすることで、電力合成・分配器の寸法を小さくできるようにしている。従って、多段接続する場合は、同軸ケーブルの使用を削減し、損失を小さくすることが可能となる。
しかも、本発明は、誘電体基板等を用いることなく、金属で覆われた空間で電力の合成又は分配を行う構成であるから、低損失となり、大電力を扱うことも容易となる。
【0011】
また、第2同軸線路の特性インピーダンスZ1 を分岐数nの分岐同軸線路の特性インピーダンスZ2 のn分の1とすることで、インピーダンス整合が取れた結合が実現できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の第1実施例の電力合成・分配器の構成を示し、図(A)は図(B)のA−A断面図、図(B)は図(A)の中心部の断面図である。
図2】第2実施例の電力合成・分配器の構成を示し、図(A)は上面図、図(B)は図(A)の中心部の断面図である。
図3】従来例の電力合成・分配器の構成を示し、図(A)は上面図、図(B)は図(A)の中心部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1に、第1実施例の電力合成・分配器の構成が示されており、この図1は、従来の図3よりも拡大した状態で表している。図1において、1は入出力端子につながる単一(中央)の第1同軸線路(1a:内導体、1b:外導体)、2は内導体2aの外径(外形)及び外導体2bの内径(内形)のいずれもテーパー形状(円錐)となるテーパー形状同軸線路であり、このテーパー形状としては、円錐だけでなく、角錐、半球状等とすることができる。3は第2同軸線路(3a:内導体、3b:外導体)で、先端短絡線路となり、4は分岐の同軸線路で、本実施例は4つの分岐同軸線路4を第2同軸線路3の円周上に90度間隔(等間隔)で接続した7.2GHz帯の4分岐電力合成・分配器となっている。
【0014】
上記の第1同軸線路1、テーパー形状同軸線路2及び第2同軸線路3は、同軸上、軸方向に連結・接続(結合)されており、第2同軸線路2の軸に垂直な方向に、上記4つの分岐同軸線路4が接続(結合)される。
例えば、第1同軸線路1は、内導体の半径a1 =2mm、外導体の内部半径b1 =4.6mmであり、その特性インピーダンスZ11は、計算式のZ=138×log(b/a)から求められ、Z11=50Ωである。一方、第2同軸線路3は、内導体の半径a3 が5.9mm、外導体の内部半径b3 が7.3mmで、特性インピーダンスZ1 は12.7Ωとなる。
【0015】
また、4つの分岐同軸線路4は、その内導体の半径a4 が1mm、外導体の内部半径b4 が2.3mmであり、特性インピーダンスZ2 は50Ωである。実施例では、4つの分岐同軸線路4のそれぞれが第2同軸線路3に並列に接続されるため、上述のように、第2同軸線路3の特性インピーダンスZ1 を分岐同軸線路4の特性インピーダンスZ2 の約1/4となる12.7Ωに設定することで、良好なマッチングが得られるようにしている。
【0016】
即ち、第2同軸線路3のインピーダンスZ1 は、配置される分岐同軸線路4の数をnとすると、
Z1 =Z2 /n (Z2 :分岐同軸線路のインピーダンス)
の式で設定される値に近い値にすることで、分岐数に応じて(4つ以外の分岐数とした場合でも)インピーダンスマッチングを良好に取ることができる。
【0017】
以上のように、第2同軸線路3をテーパー形状同軸線路2に対し同軸上、軸線方向に設け、かつ先端短絡線路とすることで、従来よりも小型化を図ることが可能となる。図3に示されるラジアル線路を用いた電力合成・分配器はその直径が6cm程度であったが、第1実施例の電力合成・分配器では直径3cm程度まで小型となった。
【0018】
図2に、第2実施例の構成が示されており(図3よりも拡大した状態で表す)、この第2実施例は、第2同軸線路をテーパー形状同軸線路から折り返してその外側へ配置したものである。
図2において、11は単一(中央)の第1同軸線路(11a:内導体、11b:外導体)、12は内導体12aの外径(外形)及び外導体12bの内径(内形)のいずれも円錐形とされたテーパー形状同軸線路で、13は第2同軸線路(13a:内導体、13b:外導体)、14は分岐同軸線路である。
【0019】
上記第2同軸線路13は、テーパー形状同軸線路12から折り返して該同軸線路12の外側に同軸上に配置されており(テーパー形状同軸線路12の外導体12bが第2同軸線路13の内導体13aとなる)、このテーパー形状同軸線路12から第2同軸線路への折返し部分に、4つの分岐同軸線路14が設けられ、この分岐同軸線路14は、上記折返し部分の円周上に等間隔(90度間隔)で配置される。この第2実施例も、7.2GHz帯の4分岐電力合成・分配器である。
【0020】
上記の第1同軸線路11と分岐同軸線路14は、第1実施例と同一寸法で、第1同軸線路11の特性インピーダンスZ11及び分岐同軸線路14の特性インピーダンスZ2 は50Ωに設定される。第2同軸線路13は、内導体13aの半径a13が12.3mm、外導体の内部半径b13が14.6mmで、特性インピーダンスZ1 は、10.3Ωとされ、分岐同軸線路14の特性インピーダンスZ2 の1/4に近い値とされ、これにより良好なインピーダンス整合が図られている。
【0021】
このような第2実施例においても、第2同軸線路13をテーパー形状同軸線路12の外側に折り返して同軸上に設け、かつ先端短絡線路とすることで、その寸法が直径3.5cm程度となり、従来の合成・分配器の約6cmよりも小型化することが可能となった。
【0022】
実施例の電力合成・分配器は、以上の構成となり、マイクロ波が金属で覆われた空間内を伝搬するので、その電力損失は金属表面での抵抗損によるものと、回路のマッチング不足による反射損失のみである。しかも、小型化されることにより、マイクロ波が通過する金属表面の面積が従来のラジアル線路を用いた電力合成・分配器よりも小さくなり、抵抗損失も従来品よりも小さく設計できるという利点がある。
【0023】
なお、この第2実施例では、分岐同軸線路14をテーパー形状同軸線路12から第2同軸線路13への折返し部に設けたが、この分岐同軸線路14は、第2同軸線路13の外導体13bの側面に第2同軸線路13の軸に垂直な方向(図の水平方向)へ向けて配置してもよい。
【符号の説明】
【0024】
1,11…第1同軸線路、 2,12…テーパー形状同軸線路、
3,13…第2同軸線路、 4,14…分岐同軸線路、
1a,2a,3a,11a,12a,13a…内導体、
1b,2b,3b,11b,12b,13b…外導体。
図1
図2
図3