(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記B)工程の有機物からなる層が、α、α、α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼンのみからなる層又はポリ(メチルメタクリレート)のみからなる層である請求項1に記載のカーボンナノチューブアレイの製造方法。
【背景技術】
【0003】
カーボンナノチューブ、特に半導体型カーボンナノチューブ(以下、「s−CNT」と略記する場合がある)は、その際立つ電子特性、光学特性、機械特性及び熱的特性などから、次世代ナノデバイスへの応用が期待されている。
s−CNTを選択的に製造する方法が模索されているが、このs−CNTのみを選択的に製造する方法は未だ確立されていない。
【0004】
s−CNTのみを選択的に製造する方法に代わって、s−CNT及び金属型カーボンナノチューブ(以下、「m−CNT」と略記する場合がある)を有するカーボンナノチューブアレイから、m−CNTのみを選択的に除去して、s−CNTのみからなるカーボンナノチューブアレイを製造する方法が、現在、実用性の面から模索されている。
【0005】
非特許文献1は、「電気的ブレイクダウン」という方法を開示する。この方法は、s−CNT及びm−CNTを有するカーボンナノチューブアレイの各カーボンナノチューブの長軸方向に電圧を印加し、m−CNTのみに電流が流れるようにする方法である。電流が流れたm−CNTは、自己ジュール発熱により局所的に焼き切ることができる。しかしながら、この方法は、除去できるm−CNTの長さがせいぜい100nmである。そのため、各カーボンナノチューブ長が長いカーボンナノチューブアレイには適用できない、という問題があった。また、各カーボンナノチューブ長が長いカーボンナノチューブアレイに適用した場合、m−CNTが切断されても、切断後のm−CNTが残存する、という問題があった。
【0006】
非特許文献2は、ナノスケールの熱キャピラリ流(thermocapillary flow)を用いる方法を開示する。この方法は、s−CNT及びm−CNTを有するカーボンナノチューブアレイ上にα、α、α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼンのみからなる薄膜を設ける。そしてその後、カーボンナノチューブアレイの各カーボンナノチューブの長軸方向に電圧を印加し、m−CNTのみに電流が流れるようにする。m−CNTが自己ジュール発熱することにより、その近傍の薄膜が熱キャピラリ流により引き裂かれるか及び/又は破断する。その結果、m−CNTが曝露される。一方で、s−CNTは薄膜下に存在する。そして、曝露されたm−CNTを反応性イオンエッチング(RIE、O
2/CF
4)により除去する。最後に薄膜を除去することにより、s−CNTのみからなるカーボンナノチューブアレイを得る。
【0007】
非特許文献2の方法は、熱キャピラリ流を生じる工程後に、反応性イオンエッチングなどのm−CNTを除去する工程を設ける必要があり、工程が煩雑である、という問題がある。
非特許文献2の方法は、熱キャピラリ流(thermocapillary flow)を用いる関係上、カーボンナノチューブアレイ中のs−CNTの密度が小さくなる(1本/3μm)。そのため、カーボンナノチューブアレイを有して形成される電子材料に求められる特性を得ることができない、という問題もある。
さらに、非特許文献2の方法は、熱キャピラリ流を生じる材料が、α、α、α’-トリス(4-ヒドロキシフェニル)-1-エチル-4-イソプロピルベンゼンなどに限定される、という問題もある。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイ及びその製造方法を提供する。また、本発明は、金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイを有して形成される材料及び電子機器を提供する。
本発明において、「金属型カーボンナノチューブフリー」とは、金属型カーボンナノチューブの特性を有しないことを意味する。具体的には「金属型カーボンナノチューブフリーのA」とは、「A」の電気伝導性が金属特性を示さないこと、より具体的には半導体特性を示すことをいう。
以下、金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイの製造方法、次いでそのカーボンナノチューブアレイの順で説明する。
【0018】
<カーボンナノチューブアレイの製造方法>
本発明は、金属型カーボンナノチューブ及び半導体型カーボンナノチューブが配向配置されるカーボンナノチューブアレイから、金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイを製造する。
この方法は、次の工程を有する。
即ち、本発明のカーボンナノチューブアレイの製造方法は、A)金属型カーボンナノチューブ及び半導体型カーボンナノチューブが水平に配向配置されるカーボンナノチューブアレイを準備する工程と;B)カーボンナノチューブアレイ上に有機物からなる層を形成する工程と;C)水平配向配置されるカーボンナノチューブアレイに、該カーボンナノチューブアレイを構成するカーボンナノチューブの長軸方向に沿って、電圧を空気中で印加する工程と;D)有機物からなる層を除去する工程;とを有する。このC)工程終了時には、金属型カーボンナノチューブフリーとなる。
【0019】
<<工程A)>>
工程A)は、金属型カーボンナノチューブ及び半導体型カーボンナノチューブが水平に配向配置されるカーボンナノチューブアレイを準備する工程である。
金属型カーボンナノチューブ及び半導体型カーボンナノチューブが水平に配向配置されるカーボンナノチューブアレイは、従来公知の方法により製造することができる。以下の方法に限定されるものではないが、例えば、本発明の発明者と一部が一致するWO2011/108545号記載のRカット面を有する単結晶基板を用いる手法、STカット面を有するSiO
2単結晶基板を用いる手法、Rカット面を有するサファイヤ基板を用いる手法、ステップを有する単結晶基板を用いる手法などを挙げることができる。
【0020】
工程A)で準備するカーボンナノチューブアレイは、金属型カーボンナノチューブ及び半導体型カーボンナノチューブを有する。このカーボンナノチューブアレイは、その他の性状を有するカーボンナノチューブ、例えば金属型カーボンナノチューブではあるが欠陥を有するために半導体様となっているものなどを有してもよい。ただし、これらのその他の性状を有するカーボンナノチューブの含有量は、電子材料等に用いる場合は極力抑えるのが好ましい。
【0021】
後述の工程B)〜D)において、カーボンナノチューブアレイ中の各半導体型カーボンナノチューブの長さは変動しない。したがって、工程A)のカーボンナノチューブアレイ中の各半導体型カーボンナノチューブの長さは、10μm以上、好ましくは100μm以上、より好ましくは1000μm以上であるのがよい。工程A)において、各半導体型カーボンナノチューブの長さを当該長さに設定しておくことで、当該長さを有するカーボンナノチューブアレイを容易に製造することができる。またこのカーボンナノチューブアレイを有する材料を容易に大量生産することができる。さらに、このカーボンナノチューブアレイを用いることで、アレイの軸方向にも多数のFETを配置した集積回路を作製することができる。
【0022】
後述の工程B)〜D)、特に工程C)において、カーボンナノチューブアレイ中の金属型カーボンナノチューブが除去される一方、半導体型カーボンナノチューブの密度は変動しない。したがって、工程A)のカーボンナノチューブアレイ中の半導体型カーボンナノチューブの密度は、1本/μm以上、好ましくは3本/μm以上、より好ましくは10本/μm以上、最も好ましくは30本/μm以上であるのがよい。
【0023】
工程A)〜工程D)において、カーボンナノチューブアレイ下に基板があってもなくてもよい。ただし、工程A)〜工程D)のハンドリングの良さ、工程D)後に得られるカーボンナノチューブアレイを容易に材料に転用する容易さなどから、カーボンナノチューブアレイ下に基板を有するのがよい。
この基板は、金属型カーボンナノチューブ及び半導体型カーボンナノチューブが水平に配向配置されるカーボンナノチューブアレイを得るために用いた基板(第1基板)であっても、第1基板とは異なる他の基板(第2基板)であってもよい。即ち、第2基板を用いる場合、カーボンナノチューブアレイを得るために用いた第1基板から該アレイを第2基板上に移したものを用いてもよい。なお、アレイを第1基板から第2基板へ移す手法は、L. Jiao, B. Fan, X. Xian, Z. Wu, J. Zhang, and Z. Liu, J. Am. Chem. Soc. 130, 12612 (2008)及びP. Zhao, B. Hou, X. Chen, S. Kim, S. Chiashi, E. Einarsson, S. Maruyama, "Investigation of Non-Segregation Graphene Growth on Ni via Isotope-Labeled Alcohol Catalytic Chemical Vapor Deposition", Nanoscale, (2013), 5, 6530-653などに記載される手法を用いることができる。なお、これらに限定されるものではない。
【0024】
<<工程B)>>
工程B)は、上記工程A)で準備したカーボンナノチューブアレイ上に有機物からなる層を形成する工程である。
有機物からなる層は、後述の工程C)において、金属型カーボンナノチューブの燃焼反応を維持する作用を奏する。有機層の方が、カーボンナノチューブより燃焼しやすいため、有機層が燃焼を補助することができる。各金属型カーボンナノチューブの燃焼反応は、有機層の燃焼により補助されながら、以下の手順に従って生じると考えられる。まずカーボンナノチューブが端部の燃焼熱を軸方向へ輸送する。輸送された燃焼熱により、有機層が加熱される。加熱された部分の有機層は、燃焼熱を加えられることにより燃焼を開始する。燃焼を開始した有機層は、再度前記カーボンナノチューブに熱を与え、当該カーボンナノチューブの熱を与えられた部分が燃焼を開始する。この手順を繰り返すことにより、各金属型カーボンナノチューブの燃焼反応が維持される。
【0025】
有機物からなる層は、上記作用を奏する層であって、有機物からなれば、この有機物は特に限定されない。有機物は、1種のみからなっても、2種以上からなってもよい。
有機物からなる層は、上記作用を奏すれば、カーボンナノチューブアレイ上にどのように形成されていてもよい。有機物からなる層は、このカーボンナノチューブアレイ全体が覆われるように形成されるのが好ましい。
有機物からなる層は、上記作用を奏すれば、その厚さは特に限定されない。例えば、3〜1000nm、好ましくは10〜100nm、より好ましくは20〜60nmとすることができる。
【0026】
有機物は、その熱拡散係数が2×10
−7m
2/s以下、好ましくは1×10
−7m
2/s以下、より好ましくは0.2×10
−7m
2/s以下であるのがよい。
有機物は、上記作用を奏するために、その保温性がよいのが好ましい。
有機物からなる層は、特に、α、α、α’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンのみからなる層又はポリ(メチルメタクリレート)のみからなる層であるのがよい。
【0027】
有機物からなる層は、用いる有機物、その分子量などに依存するが、従来公知の手法により、カーボンナノチューブアレイ全体が覆われるように、用いる有機物の溶液を塗布することができる。従来公知の手法として、以下に限定されるものではないが、例えばスピンコーティング、熱抵抗蒸着などを挙げることができる。
【0028】
<<工程C)>>
工程C)は、上記工程B)で得られた、有機物からなる層を備えた、水平配向配置されるカーボンナノチューブアレイに、このカーボンナノチューブアレイを構成するカーボンナノチューブの長軸方向に沿って、電圧を空気中で印加する工程である。この工程C)終了時には、金属型カーボンナノチューブフリーとなる。
工程C)は、金属型カーボンナノチューブ及び半導体型カーボンナノチューブが水平に配向配置されるカーボンナノチューブアレイに電圧を印加する。この電圧の印加方向は、カーボンナノチューブアレイを構成するカーボンナノチューブの長軸方向に沿った方向であり、その方向の正逆は問わない。電圧を印加するため、電極を適宜設けるのがよい。
【0029】
電圧は、カーボンナノチューブアレイのうち、金属型カーボンナノチューブのみに電流が流れるように設定する。これにより、金属型カーボンナノチューブは自己ジュール熱で発熱する一方、半導体型カーボンナノチューブはそのような発熱が生じない。
上述の非特許文献1では、金属型カーボンナノチューブは自己ジュール熱で破断し、それ以上の燃焼反応が進まないため、破断後の金属型カーボンナノチューブが残存する。しかしながら、本発明の工程C)では、有機物からなる層の存在により、金属型カーボンナノチューブの燃焼反応を維持する作用を奏する。この作用により、全長に亘り金属型カーボンナノチューブが燃焼し、金属型カーボンナノチューブフリーとなるものと考えられる。
【0030】
工程C)の電圧印加は、「熱キャピラリ流」を用いる非特許文献2での“真空中又は窒素などの不活性ガス中”とは対照的に、空気中で行う。金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイの収率を高めるためには、結露しない範囲で可能な限り高い水蒸気圧を有する空気中で、工程C)を行うことが好ましい。
工程C)の電圧印加は、電圧印加時の電流をモニターすることにより、終了させることができる。工程C)では、金属型カーボンナノチューブのみに電流を流すため、金属型カーボンナノチューブが全て燃焼すると、電流がゼロとなるため、該電流がゼロとなった時点で、又はその数分後に、電圧印加を終了、即ち工程C)を終了させることができる。
【0031】
<<工程D)>>
工程D)は、有機物からなる層を除去する工程である。
この工程D)は、有機物からなる層に用いられる有機物に依存する。例えば、有機物を溶解させる溶媒を用いて、有機物を溶解して除去するのがよい。例えば、有機物からなる層にα、α、α’−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンのみからなる層を用いた場合、この層の良溶媒として、例えばアセトン等を用いることが好ましい。有機物からなる層にポリ(メチルメタクリレート)のみからなる層を用いた場合、この層の良溶媒として、例えばアセトン等を用いることが好ましい。
【0032】
工程A)〜工程D)を有する、本発明のカーボンナノチューブアレイの製造方法は、この工程A)〜工程D)以外のその他の工程を有してもよい。その他の工程としては、例えば、電子顕微鏡(SEM)による観察工程、ラマン分光法による観察工程などを挙げる。
【0033】
本発明のカーボンナノチューブアレイの製造方法は、工程A)〜工程D)を行うことにより、金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイを得ることができる。以下、金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイについて詳述する。
【0034】
<金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイ>
本発明のカーボンナノチューブアレイは、金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイである。このカーボンナノチューブアレイを構成する半導体型カーボンナノチューブは、その密度が1本/μm以上で水平配向配置される。またこの密度は、3本/μm以上であることが好ましく、10本/μm以上であることがより好ましく、30本/μm以上であることがさらに好ましい。
これに対し、半導体型カーボンナノチューブの密度は、1000本/μm以下で水平配向されることが好ましく、500本/μm以下で水平配向されることがより好ましく、250本/μm以下で水平配向されることがさらに好ましい。
半導体型カーボンナノチューブの密度をこの範囲内とすることで、金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイで電界効果トランジスタ(FET)を構成する場合に、半導体型カーボンナノチューブへの電解集中がし易くなる。
【0035】
非特許文献1では、破断した金属型カーボンナノチューブが残存したが、本発明のカーボンナノチューブアレイでは、そのような残存がない。即ち、金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイを提供することができる。ここで、「残存がない」ことは、後述する「SEM像及びラマン分光法」で分析し、金属型カーボンナノチューブが検出されないことで確認できる。 非特許文献2では、「熱キャピラリ流」を用いる関係上、半導体型カーボンナノチューブの密度を1本/3μm程度としかできなかった。これに対し、本発明のカーボンナノチューブアレイは、半導体型カーボンナノチューブの高密度化を図ることができる。
【0036】
カーボンナノチューブアレイの各半導体型カーボンナノチューブの長さは、10μm以上、好ましくは100μm以上、より好ましくは1000μm以上とすることができる。
非特許文献1では、金属型カーボンナノチューブフリーのカーボンナノチューブアレイの各半導体型カーボンナノチューブの長さは、せいぜい100nmである。そのため、本発明のカーボンナノチューブアレイのような長さのカーボンナノチューブを有することができなかった。
カーボンナノチューブアレイの各半導体型カーボンナノチューブの長さを上述のようにすることにより、このカーボンナノチューブアレイを有する材料を容易に大量生産することができる。さらに、このカーボンナノチューブアレイを用いることで、アレイの軸方向にも多数のFETを配置した集積回路を作製することができる。
【0037】
本発明のカーボンナノチューブアレイは、金属型カーボンナノチューブフリーである。そのため、このカーボンナノチューブアレイを電界効果トランジスタ(FET)に構成した場合、FETのON/OFF比が1万以上、好ましくは10万以上、より好ましくは100万以上とすることができる。
【0038】
<カーボンナノチューブアレイを有する材料、電子機器>
本発明の材料は、上述のカーボンナノチューブアレイを有する。この材料として、以下に限定されるものではないが、例えば電子材料、光学材料、電気化学材料などを挙げることができる。
本発明の電子機器は、上述のカーボンナノチューブアレイを有する。 この電子機器として、以下に限定されるものではないが、例えば電界効果トランジスタ(FET)、太陽電池、化学センサー、光センサー、光学素子、テラヘルツセンサなどを挙げることができる。
以下、実施例に基づいて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
(実施例1)
<a.s−CNT及びm−CNTを有する水平配向カーボンナノチューブアレイ>
WO2011/108545、S. Chiashi, H. Okabe, T. Inoue, J. Shiomi, T. Sato, S. Kono,M. Terasawa, S. Maruyama*, "Growth of Horizontally Aligned Single-Walled Carbon Nanotubes on the Singular R-Plane (10-11) of Quartz", J. Phys. Chem. C, (2012), 116, 6805-6808及びT. Inoue, D. Hasegawa, S. Badar, S. Aikawa, S. Chiashi, S. Maruyama, "Effect of Gas Pressure on the Density of Horizontally Aligned Single-Walled Carbon Nanotubes Grown on Quartz Substrates", J. Phys. Chem. C, (2013), 117, (22), 11804-11810に記載される方法にしたがって、s−CNT及びm−CNTを有する水平配向カーボンナノチューブアレイを調製した。
具体的には、rカット面を有する水晶基板(Hoffman Materials社製)を用い、該基板にフォトリソグラフィーによりレジストパターンを作製した。真空蒸着によってレジストを備える基板全体に触媒を堆積させた後に、レジストを除去し、基板上に触媒(Fe金属)のパターンを形成した。
【0040】
触媒(Fe金属)のパターンを有する基板を用いて、アルコールCVD法により、s−CNT及びm−CNTを有する水平配向カーボンナノチューブアレイを得た。
具体的に以下に説明する。まず、触媒(Fe金属)のパターンを有する基板をチャンバーに設置し、真空にした。その後、Arガスを流速300sccmで5分間流した。次いで、Ar/H
2混合ガスを流速300sccmで流し、チャンバー内の圧力を40kPaとした。さらに、チャンバー内を30分かけて800℃まで昇温させて、10分間維持した。そして温度を維持したまま再度真空にした。その後、炭素源としてエタノールを流量50sccm、流速調整のためのAr/H
2混合ガスを流速500sccmで流し、圧力1.4kPaとし、15分間経過させ、水平配向カーボンナノチューブアレイを合成した。
得られた水平配向カーボンナノチューブアレイは、共に水平配向したs−CNT及びm−CNTを有する。水平配向カーボンナノチューブアレイの各カーボンナノチューブの長さは、電子顕微鏡(SEM)で確認したところ、平均で30μmであった。また、水平配向s−CNTは、その密度が1〜4本/μmであった。
【0041】
<b.p型Si基板への水平配向カーボンナノチューブアレイの転写>
上記の、rカット面を有する水晶基板上に形成された水平配向カーボンナノチューブアレイを、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)を介して、p型Si基板へと転写した。
具体的には、rカット面を有する水晶基板上に形成された水平配向カーボンナノチューブアレイ上に、PMMAのアニソール溶液(10wt%)をスピンコートし、水平配向カーボンナノチューブアレイ上にPMMA膜を形成した。次いで、PMMA膜を備えた、水平配向カーボンナノチューブアレイを有する水晶基板を、1M水酸化カリウム水溶液に浸漬した。そして浸漬状態をしばらく経過させた後に、この水溶液中で、PMMA膜を剥離させた。その結果、このPMMA膜上に水平配向カーボンナノチューブアレイが転写された。そして、得られたPMMA膜を、水平配向カーボンナノチューブアレイを有する側をp型Si基板に接触させるように、p型Si基板に貼付した。その後、アセトンでPMMA膜を除去した。さらに、350℃、真空中で、3時間、アニールすることにより、p型Si基板上に水平配向カーボンナノチューブアレイを転写した。
【0042】
p型Si基板上に水平配向カーボンナノチューブアレイを、SEMで確認したところ、転写前と同様な性状を有した。また、SEMで確認したところ、転写前と同様に、各カーボンナノチューブの平均長が同じ値であり、水平配向s−CNTの密度も同じ値であった。
【0043】
<c.電極の設置と電界効果トランジスタ(FET)のON/OFF比の測定>
上記で得られた、p型Si基板上に有する水平配向カーボンナノチューブアレイに電極を設置した。この電極は以下のために用いられる。一つは、電界効果トランジスタ(FET)の電極(ソース電極及びドレイン電極)として用いられる。m−CNTを除去する場合は、このm−CNTを除去する際の電圧印加に用いる電極としても用いられる。
【0044】
電極は、p型Si基板の水平配向カーボンナノチューブアレイを有する側に、水平配向カーボンナノチューブアレイの各カーボンナノチューブの長軸方向に直交するように設けた。このように配置した電極は、FETではそれぞれソース電極及びドレイン電極として機能する。
より具体的には、電極金属としてTi/Pd(5/50nm)を用い、フォトリソグラフィーによりレジストを電極の所望形状にパターニングした。このレジストを有する基板を成膜室に入れ、条件:0.2Pa、Arガス流量10sccm、出力100Wでプラズマを発生させ、基板に電極を設けた。また、p型Si基板の水平配向カーボンナノチューブアレイを有しない側にも、FETではゲート電極として機能する電極を設けた。
【0045】
<<c−1.m−CNT及びs−CNTを有するカーボンナノチューブアレイを用いて電界効果トランジスタ(FET)を構成した場合のON/OFF比の測定>>
上記の、電極を設けたm−CNT及びs−CNTを有するカーボンナノチューブアレイをFETとして構成した場合のON/OFF比を測定した。その結果を
図1の「Before」に示す。
図1の「Before」から、ON/OFF比が1桁であることがわかる。このことから、カーボンナノチューブアレイは、m−CNTを含み、これによる短絡が生じていることがわかる。
【0046】
<d.α、α、α−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンからなる層の形成>
上記c.で得られた、電極を設けたm−CNT及びs−CNTを有するカーボンナノチューブアレイ上に、α、α、α−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼン(下記式(I)で表される)からなる層を真空蒸着により形成した。
具体的には、上記c.で得られた基板をステージに設置した。電極間をつなぐタングステンボート上にα、α、α−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンの試料をのせた。ステージやボートはチャンバーに覆われており、そのチャンバーをロータリーポンプと油拡散ポンプによって2.0×10
−3Paまで真空とした。そして、電極間に電圧を印加し、ボートに20A程度の電流を流し、試料を蒸発させ、基板へ堆積させた。チャンバー内に設置された水晶振動子によって膜厚が60nm(0.06μm)であること確認した。
【0047】
【化1】
【0048】
<e.電圧印加>
上記d.で得られた、電極を設けたm−CNT及びs−CNTを有するカーボンナノチューブアレイに電圧を、空気中で印加した。
具体的には、
図2に示すように、m−CNT及びs−CNTを有するカーボンナノチューブアレイに設けた電極の一方をソース電極、他方をドレイン電極とし、ソース電極をグランドとし、ドレイン電極からソース電極へと電流が流れるようにドレイン電圧を印加した。また、ゲート電圧は、ゲート電極からソース電極へと流れる方向を正として、+10Vを印加した。ドレイン電極とソース電極との距離は16.4μmであった。
ドレイン電圧は、0.67V/minという電圧上昇率で印加し、電圧印加に伴う電流を測定し、電流値がほぼゼロとなった時点から約1分後に電圧印加を終了した。終了時の電圧は、約40Vであった。
【0049】
<f.α、α、α−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンからなる層の除去>
上記e.で得られた基板のα、α、α−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンからなる層をアセトンで除去した。
具体的には、上記e.で得られた基板をアセトン中に数分間浸漬し、イソプロパノールと蒸留水ですすいだ。その後、乾燥させることにより、α、α、α-トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンからなる層を除去した。
【0050】
<g.上記f.で得られたカーボンナノチューブアレイと、それを用いてFETを構成した場合のON/OFF比の測定>
上記f.で得られたカーボンナノチューブアレイを有する基板は、ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極を備える。このカーボンナノチューブアレイを有するFETのON/OFF比を測定した。その結果を
図1の「After」に示す。
図1の「After」から、ON/OFF比が10
4の桁であることがわかる。このことから、カーボンナノチューブアレイは、m−CNTフリーであり、s−CNTのみからなることがわかる。
また、上記f.で得られたカーボンナノチューブアレイと、上記e.電圧印加前のカーボンナノチューブアレイとを比較した。比較に際して、SEM像、ラマン分光法を用いた。その結果をそれぞれ、
図3及び
図4に示す。
【0051】
<<SEM像>>
図3は、上記f.で得られたカーボンナノチューブアレイ(「After」で示す)と、上記e.電圧印加前のカーボンナノチューブアレイ(「Before」で示す)とを比較した、SEM像である。このSEM像から、s−CNT同士の間隔が1μm以内に存在したm−CNTが除去されていることがわかる。このことから、上記f.で得られたカーボンナノチューブアレイのs−CNTの密度は、1本/μmであることがわかる。
【0052】
<<SEM像及びラマン分光法>>
図4は、右にSEM像、即ち上記f.で得られたカーボンナノチューブアレイ(「After」で示す)と、上記e.電圧印加前のカーボンナノチューブアレイ(「Before」で示す)とのSEM像を、左にSEM像で示したスポットをラマン分光法によりラマン散乱を測定した結果(「After」及び「Before」は、上記と同じ)を示す。
図4のラマン分光法の測定結果から、上記f.で得られたカーボンナノチューブアレイ(「After」で示す)では、1500〜1650cm
−1のピークが消失していることがわかる。また、SEM像からは、該当箇所において、CNTが存在していないことがわかる。これらのことから、上記f.で得られたカーボンナノチューブアレイ(「After」で示す)は、m−CNTフリーとなっていることがわかる。
【0053】
上記g.のFETでのON/OFF比、SEM像、及びラマン分光法の結果から、上記f.で得られたカーボンナノチューブアレイは、m−CNTフリーであることがわかる。上記f.は単にα、α、α−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンからなる層の除去を行っただけである.そのため、上記e.電圧印加の終了時には、カーボンナノチューブアレイは、m−CNTフリーであったことがわかる。
上記f.で得られたカーボンナノチューブアレイは、FETでのON/OFF比の結果から、FETとして有用であることがわかる。
【0054】
(実施例2)
実施例1の<d.α、α、α−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンからなる層の形成>の代わりに<d’.PMMAからなる層の形成>を用い、<f.α、α、α−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1−エチル−4−イソプロピルベンゼンからなる層の除去>の代わりに<f’.PMMAからなる層の除去>を用いた以外、実施例1のa.〜g.を行った。
【0055】
<d’.PMMAからなる層の形成>
PMMAの1wt%アニソール溶液を準備した。該溶液をm−CNT及びs−CNTを有するカーボンナノチューブアレイ上にスピンコーティングした後、120℃で溶媒を除去して、PMMAからなる層をm−CNT及びs−CNTを有するカーボンナノチューブアレイ上に形成した。触針式表面形状測定器(DektakXT、ULVAC社製)を用いて層の厚さを測定し、20〜50nmであることを確認した。
【0056】
<f’.PMMAからなる層の除去>
上記e.で得られた基板のPMMAからなる層をアセトンで除去した。
具体的には、上記e.で得られた基板をアセトン中に数分間浸漬し、イソプロパノールと蒸留水ですすぎ、その後、乾燥させることにより、PMMAからなる層を除去した。
【0057】
実施例2で得られたカーボンナノチューブアレイを、実施例1と同様に、FETでのON/OFF比測定(10,000)、SEM像観察、及びAFM測定の結果(いずれも図示しない)から、m−CNTフリーであることがわかった。また、実施例2で得られたカーボンナノチューブアレイは、FETでのON/OFF比の結果から、FETとして有用であることがわかった。