(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
[発明の実施形態の概要]
本発明の実施形態としての光ファイバケーブル10について
図1〜
図4に基づいて説明する。
図1は、光ファイバケーブル10のケーブル長手方向(以下、ケーブル長手方向という)に対して垂直な断面(以下、ケーブル断面という)を示す断面図である。
【0014】
光ファイバケーブル10は、スロットを用いないスロットレス型のケーブルである。この光ファイバケーブル10は、複数の光ファイバ心線21と、当該複数の光ファイバ心線21の外周に巻き付けられた押さえ部材30と、複数の光ファイバ心線21と押さえ部材30からなるケーブルコアを被覆する外被40と、外被40の内部に設けられた二本のテンションメンバ51と、外被40の内部に設けられた二本の引き裂き紐52とを備えている。
【0015】
[光ファイバ心線]
光ファイバ心線21は、光ファイバの周囲に一又は複数の被覆層を有する一般的な光ファイバ素線である。複数の光ファイバ心線21は、各々が単心の状態でケーブルコアを構成してもよいが、ここでは、複数の光ファイバ心線21が束状に連結された連結体としての光ファイバテープ心線20がさらに複数束ねられた状態でケーブルコアを構成する場合を例示する。
【0016】
各光ファイバテープ心線20は、
図2に示すように、複数(ここでは8心を例示)の光ファイバ心線21を並列に配置して、隣り合う二本の光ファイバ心線21を接着剤により連結する連結部23がケーブル長手方向について間欠的に設けられている(8心間欠テープ心線)。各光ファイバテープ心線20は、上記連結構造を採ることにより、ケーブル長手方向から見た光ファイバ心線21の連結形状の変形が容易である。したがって、複数の光ファイバテープ心線20を必要に応じてバンドル等で束ねてユニット化し、このようにユニット化した複数の光ファイバユニット22の全体を押さえ部材30で巻いてケーブルコアを構成する場合に、各々の光ファイバテープ心線20が適度に変形して、全体的に略円形にすることができる。なお、本実施形態では光ファイバテープ心線を例に説明したが、テープ化されていない光ファイバ心線を束ねてユニット化してもよい。また、バンドル等で束ねなくとも、一定の集合体として折りたたまれた1本の光ファイバテープ心線を光ファイバユニット22とみなすこともできる。
【0017】
[押さえ部材]
一又は複数の光ファイバテープ心線20は必要に応じて束ねられ、光ファイバユニット22となる。そのように用意された複数の光ファイバユニット22の全体の外周には、押さえ部材30が設けられる。押さえ部材30は、縦添え巻きによって複数の光ファイバユニット22の束を一括して覆うように設けられている。即ち、押さえ部材30の長手方向がケーブル長手方向に平行となり、押さえ部材30の幅方向が光ファイバケーブル10の周方向に沿うように複数の光ファイバユニット22の束の外周に縦添え巻きされる。
【0018】
押さえ部材30の内側面には、吸水性材料の塗布により吸水層が形成されている。この吸水性材料は、吸水により膨張する水膨張性の材料であり、例えば、ポリアクリル酸塩系パウダー、カルボキシメチルセルロース系パウダー等が好適である。押さえ部材としては、ポリエステル不織布などが用いられる。
【0019】
[外被]
外被40は、複数の光ファイバユニット22の束と押さえ部材30からなるケーブルコアを被覆して保護する機能を有する。外被40は、ケーブル断面の形状が円形であり、同様に円形のケーブルコアをその中心に配置している。外被40は、光ファイバケーブル10をコンクリート、土中、水中に布設可能とするために耐アルカリ性と耐水性を有することが望ましい。そのため、外被40の材質としては、ポリエチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂やこれ材料を含んだエラストマー系樹脂が望ましい。
【0020】
[テンションメンバ]
二本のテンションメンバ51は、光ファイバケーブル10に平行かつ全長に渡って外被40に埋設されている。そして、各テンションメンバ51は、ケーブル断面において、ケーブルコアの両側で、光ファイバケーブル10の直径方向の両端部近傍となる位置に個別に配置されている。これらのテンションメンバ51は、光ファイバケーブル10の引張強度を高めて複数の光ファイバ心線21を保護するために設けられている。このため、各テンションメンバ51は、外被40に密着した状態で埋設され、鋼線、FRP(Fiber Reinforced Plastics)、高分子モノフィラメント等の抗張力材料のものが使用されている。
【0021】
[引き裂き紐]
二本の引き裂き紐52は、光ファイバケーブル10に平行かつ全長に渡って外被40に埋設されている。各引き裂き紐52は、ケーブル断面において、ケーブルコアの両側であって二本のテンションメンバ51に直交する配置で、光ファイバケーブル10の直径方向の両側に個別に配置されている。各引き裂き紐52は、ケーブルコアの押さえ部材30の外周面のすぐ近くに配置され、光ファイバケーブル10の端部から延びた各引き裂き紐52を光ファイバケーブル10の直径方向外側に引っ張ることで、外被40を引き裂いて、ケーブルコアの取り出しを容易とする。なお、引き裂き紐52は外被40を引き裂くことが可能な程度の引張強度があれば良く、例えば、ポリエステル撚り紐からなる。
【0022】
[押さえ部材の吸水性とその寸法との関係]
前述した押さえ部材30は、その内径をd[mm]、押さえ部材30の内側(複数の光ファイバテープ心線20の束)の空隙率をS[%]、押さえ部材30の吸水性材料による10分間の吸水後の厚さ増加量をh[mm]としたとき、以下の関係式(1)が成り立つようになっている。
d
2−(d−2h)
2 > d
2×S/100 …(1)
【0023】
上式(1)の意義を
図3に基づいて説明する。
図3は押さえ部材30をケーブル長手方向から見た説明図である。
図3において、円C1は押さえ部材30の吸水性材料が吸水していない乾燥状態における内周を示しており、円C2は押さえ部材30の吸水性材料が10分間吸水して厚さがh[mm]増加した状態における内周を示している。なお、吸水性材料が吸水を行うのに十分な時間として10分後の厚さを測定しているものである。
【0024】
円C1の面積と円C2の面積の差は、押さえ部材30の吸水性材料が10分間吸水して膨らんだ場合の面積増加量gを示しており、当該面積増加量gは次式(2)となる。
g=πd
2/4−π(d−2h)
2/4 …(2)
【0025】
一方、押さえ部材30の内側の空隙率S[%]とは、押さえ部材30の内側の面積に対する押さえ部材30が巻かれた複数の光ファイバテープ心線20の束の隙間面積の割合である。押さえ部材30の内側の面積は、押さえ部材30の吸水性材料が吸水していない乾燥状態における内周である円C1の面積(=πd
2/4)である。円C1の面積に空隙率Sを乗じた値は、複数の光ファイバテープ心線20の束の全ての光ファイバ心線21を隙間なく最大限に圧縮したときの収縮面積に相当する。この収縮面積ΔSは次式(3)となる。
ΔS=πd
2/4×S/100 …(3)
【0026】
関係式(1)の左辺にπ/4を乗じると式(2)の面積増加量gと一致し、関係式(1)の右辺にπ/4を乗じると式(3)の収縮面積ΔSに一致する。したがって、関係式(1)は、押さえ部材30の吸水性材料が10分間に吸水して膨らんだ場合の面積増加量gが、複数の光ファイバテープ心線20の束を最大限に圧縮したときの収縮面積ΔSよりも大きくなることを示している。
【0027】
つまり、光ファイバケーブル10が浸水した場合に、吸水した押さえ部材30の吸水性材料が、複数の光ファイバテープ心線20の束の全ての光ファイバ心線21の隙間を埋め尽くす以上の断面積増加を生じるキャパシティを持っていることを示している。したがって、これにより、光ファイバケーブル10の浸水時に、押さえ部材30の吸水性材料が隙間を埋めて、浸水箇所より遠方への走水を効果的に抑えることができる。
【0028】
なお、押さえ部材30の内側の空隙率S[%]は、具体的には、次の計算で求めることができる。
S={1−(全ての光ファイバ心線21及び全ての連結部23等の断面積)/(押さえ部材30内周の断面積(=円C1の面積))}×100
【0029】
[押さえ部材の吸水性材料による吸水後の厚さ増加量の測定方法]
押さえ部材30の吸水性材料による吸水後の厚さ増加量hの測定方法の一例を
図4に示す。押さえ部材30と同じ材質の試料Tを用意して、測定装置200を用いて押さえ部材30の吸水性材料による10分間の吸水後の厚さ増加量hを測定する。試料Tは、シート状であり、片面に厚さ均一の吸水性材料の層が形成されている。
【0030】
(1)まず、φ79[mm]の円形に試料Tを切り、φ80[mm]の円形に切られた二枚のティッシュPの間に挟む。
(2)そして、二枚のティッシュPに挟まれた試料Tを吸水性材料の層が上になるようにして測定装置200の下型210の円形の凹部内に入れる。さらに、上下に貫通する複数の小孔221が空いた上蓋220を二枚のティッシュPに挟まれた試料Tの上に載せる。上蓋220は、直径1.5[mm]×60個の小孔221が試料側の平坦面全体に規則的に分布している。上蓋220の質量は97[g]である。
(3)さらに、上蓋220の上面に上から測定子231が当接するようにダイヤルゲージ230をセットし、ダイヤルゲージ230の本体232を固定する。
(4)次に、ダイヤルゲージ230のゼロ調整を行ってから、人工海水50~60[ml]を上蓋220の上から下型210の円形の凹部内に注ぐ。人工海水は下記のものを使用する。
人工海水:NaCl 24.5[g]、MgCl
2 11.1[g]、H
2O 1000[ml]
水温 :23[℃]
(5)人工海水を加えてから10分後の上蓋220の高さ増加量を、押さえ部材30の吸水性材料による吸水後の厚さ増加量として、ダイヤルゲージ230により測定する。
【0031】
なお、上記測定方法において、測定装置200の各部の寸法及び重量、試料Tの寸法、形状、ティッシュPの使用の有無等は一例であって、適宜、変更可能である。また、上記測定方法では、試料Tを人工海水に浸しているが、これに限定されず、光ファイバケーブル10の使用環境に応じて変更可能である。例えば、光ファイバケーブル10の使用環境により、海水の浸水が想定される場合には人工海水(天然海水でもよい)で測定を行い、真水の浸水が想定される場合には真水で測定することが望ましい。また、水温も一例であり、光ファイバケーブル10の使用環境の温度に合わせることが望ましい。
【0032】
[発明の実施形態の技術的効果]
以上のように、光ファイバケーブル10では、押さえ部材30の内径dと押さえ部材30の内側の空隙率Sと押さえ部材30の吸水性材料による10分間の吸水後の厚さ増加量hとが、前述した関係式(1)が成り立つように構成されている。このため、光ファイバケーブル10に浸水が生じた場合に、押さえ部材30の吸水性材料は、ケーブルコアの各光ファイバ心線の隙間を十分に埋めることができる程度に断面積増加を生じるので、浸水箇所からの走水を効果的に抑制し、防水性の向上を図ることが可能である。
【0033】
さらに、押さえ部材30が複数の光ファイバ心線21の外側に巻かれているので、押さえ部材30のみを容易に切断して光ファイバ心線21を取り出すことができ、取り扱い性の高い光ファイバケーブル10を提供することが可能である。
【0034】
また、押さえ部材30が複数の光ファイバ心線21の外側に巻かれているので、光ファイバ心線21に吸水性材料からなるヤーンや紐状体を撚り合わせる場合に比べて、ケーブルコアの小径化を図ることが可能となる。
【0035】
また、光ファイバケーブル10は、外被40の内部に設けられたテンションメンバ51を備えているので、光ファイバケーブル10の引張強度を高めることができ、光ファイバ心線21の保護を図ることが可能となる。
【0036】
また、光ファイバケーブル10は、外被40の内側に設けられた引き裂き紐52を備えているので、光ファイバ心線21の取り出しの際に、外被40を容易にひき裂くことができ、取り扱い性の向上を図ることが可能となる。
【0037】
また、光ファイバケーブル10は、複数の光ファイバ心線21が束状に連結された光ファイバテープ心線20を有するので、複数の光ファイバテープ心線20を揃えやすく、ケーブルコアを容易に形成することが可能となる。
【0038】
また、光ファイバケーブル10は、複数の光ファイバ心線21が長手方向に間欠的に連結されたテープ状の光ファイバテープ心線20を有するので、複数の光ファイバテープ心線20を束ねてケーブルコアとする場合に光ファイバ心線21同士の隙間を低減することができる。従って、光ファイバ心線21は、押さえ部材30の吸水性材料と共に効果的に走水を抑え、防水特性の向上を図ることが可能となる。
【0039】
[実施例]
図1とほぼ同じ構造の光ファイバケーブルであって、関係式(1)の条件を満たすものと満たさないものからなる複数の試験体1〜11について、防水特性の比較試験を行った。なお、試験体は、四本の光ファイバ心線を並列に配置してケーブル長手方向について間欠的に連結した光ファイバテープ心線を複数束ねて押さえ部材を縦添え巻きしたケーブルコアを備え、外径1.8[mm]の鋼線をテンションメンバとする光ファイバケーブルを使用している。また、各試験体は、光ファイバテープ心線の使用本数を変更することで、押さえ部材の内径d、空隙率Sの調整を行っている。
【0040】
図5は比較試験に使用した試験装置300を示す。この試験装置300は円筒状の中空容器であり、上端が開口し、下端には光ファイバケーブルの一端部を挿入する取り付け口301が設けられている。両端部の端面を露出させた試験体としての光ファイバケーブルを水平に向けて、その一端部を取り付け口301に挿入し、当該取り付け口301の周囲には図示しないシール加工を施し、試験装置300の内部には液体を注水した。液体は、前述した人工海水と同じものを使用した。また、光ファイバケーブルの中心から試験装置300内の人工海水の液面までの高さである水頭長は1[m]とした。なお、光ファイバケーブルとしての試験体は、いずれも生じ得る走水長よりも十分に長いものを使用した(例えば、100[m])。
【0041】
図6は比較試験に使用した光ファイバケーブル10Aのそれぞれの試験体の押さえ部材の内径d、押さえ部材の内側の空隙率S、押さえ部材の吸水性材料による10分間の吸水後の厚さ増加量hの実測値と、関係式(1)の左辺と右辺のそれぞれの値と、上記試験で浸水した人工海水の到達距離である走水長と、防水特性の良否とを示している。防水特性は、走水長が30[m]未満を〇と、30[m]以上を×とした。
【0042】
関係式(1)の左辺と右辺の数値の大小から分かるように、試験体1,3,4,6,7,9,11は関係式(1)の条件を満たしている。そして、良否判定では、関係式(1)の条件を満たす試験体1,3,4,6,7,9,11がいずれも走水長が30[m]未満となり、関係式(1)の条件を満たさない試験体2,5,8,10は走水長が30[m]以上となった。したがって、関係式(1)の条件を満たす光ファイバケーブルが、防水特性が向上するという結果が得られた。
【0043】
[その他]
上記実施形態では、発明を実施するために技術的に好ましい種々の限定が付されている場合を例示したが、本発明の範囲を上記実施形態及び図示の例に限定するものではない。例えば、押さえ部材30は、片面に吸水性材料を塗布したものを例示したが、吸水性材料の層を形成することができれば塗布以外の方法を利用しても良い。また、粉体の吸収性材料を押さえ部材30の片面に吹き付けて層を形成してもよい。
【0044】
また、前述したが複数の光ファイバ心線21は、連結されていない単心状態でケーブルコアを構成してもよい。また、光ファイバ心線21を連結した連結体として光ファイバテープ心線20を例示したが、連結体はテープ状でなくともよい。また、光ファイバテープ心線20は、各光ファイバ心線21がケーブル長手方向に間欠的に連結されている構造を例示したが、このような連結構造でなくともよい。