(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
オーステナイト系ステンレスにより形成される第1層と、前記第1層に積層される、銅材により形成される第2層と、前記第2層の、前記第1層とは反対側に積層される、オーステナイト系ステンレスにより形成される第3層とが、圧延接合されたクラッド材であって、
前記銅材が、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量0.1〜2.0ppm、銅の含有量99.96mass%以上である組成を有し、前記銅材表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上10.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度の平均値が0.3以上15.0未満であり、
前記銅材の平均結晶粒径が150μm以上600μm以下であるクラッド材。
圧延方向に対して0°方向の伸びに対する、圧延方向に対して45°方向の伸びの比率が0.8以上1.6以下であり、圧延方向に対して90°方向の伸びの比率が0.8以上1.6以下である請求項1または2に記載のクラッド材。
【背景技術】
【0002】
携帯機器(例えば、スマートフォン)等の高性能な小型電子機器や、輸送機器(例えば、自動車)等に用いられている筐体、放熱補強板(シャーシ)、シールドケース等の部材には、機械的強度や耐食性の点から、例えば、オーステナイト系ステンレス等が用いられている。近年、上記機器の高性能化に伴う消費電力の増大などに起因して、上記機器に搭載されている電子部品の発熱量が増大している。従って、筐体、放熱補強板、シールドケース等の部材には、十分な放熱性能を有しつつ、小型化のために機械的特性の向上が要求されている。
【0003】
そこで、例えば、オーステナイト系ステンレスにより形成される第1層と、CuまたはCu合金により形成され、前記第1層に積層される第2層と、オーステナイト系ステンレスにより形成され、前記第2層の前記第1層とは反対側に積層される第3層とが圧延接合されたクラッド材からなり、前記第2層の厚みは、前記クラッド材の厚みの15%以上であるシャーシが提案されている(特許文献1)。特許文献1では、優れた耐食性を有するオーステナイト系ステンレスと、良好な熱伝導性を有するCuまたはCu合金とを、板厚を特定割合に設定して組み合わせたクラッド材とすることにより、良好な放熱性能と高い機械的強度とを有するシャーシを得るものである。
【0004】
しかし、特許文献1では、CuまたはCu合金の具体的な特性については特段の記載はなく、シャーシの製造プロセスにおいて、高温(約1000℃)条件下での熱処理を行うことから、CuまたはCu合金の結晶粒径が粗大化してしまう。また、特許文献1では、CuまたはCu合金の結晶方位制御も行われていないので、伸びの向上や伸び異方性の低減といった特性が十分ではなく、加工性に問題があった。
【0005】
また、クラッド材の加工性を向上させる方法として、例えば、接合熱処理におけるCu層の結晶粒の成長を抑制し、結晶粒度を0.150mm以下とすることでクラッド材の伸びの低下を抑制し、クラッド材の加工性の低下を抑制する方法が提案されている(特許文献2)。しかし、特許文献2でも、CuまたはCu合金の具体的な特性については特段の記載はなく、CuまたはCu合金の結晶方位制御も行われていない。また、特許文献2では、最終工程として800〜1050℃の拡散熱処理を行っており、特許文献2におけるCu(無酸素銅、りん脱酸銅、タフピッチ銅など)は再結晶が生じやすく(非特許文献1)、結晶粒が微細すぎると一次再結晶の集合組織の影響が強く残ると考えられる。そのため、単純に結晶粒径を微細にするだけでは、集合組織の発達により、伸びの向上や伸び異方性の低減といった特性が十分ではなくなり、加工性に改善の余地があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記事情に鑑み、本発明の目的は、銅板の結晶粒が微細化され、伸びに優れ、伸び異方性が低減された、加工性に優れたクラッド材及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)オーステナイト系ステンレスにより形成される第1層と、前記第1層に積層される、銅材により形成される第2層と、前記第2層の、前記第1層とは反対側に積層される、オーステナイト系ステンレスにより形成される第3層とが、圧延接合されたクラッド材であって、
前記銅材が、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量0.1〜2.0ppm、銅の含有量99.96mass%以上である組成を有し、前記銅材表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上10.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度の平均値が0.3以上15.0未満であり、
前記銅材の平均結晶粒径が150μm以上600μm以下であるクラッド材。
(2)前記第1層及び前記第3層が、SUS304及び/またはSUS301が主成分である(1)に記載のクラッド材。
(3)圧延方向に対して0°方向の伸びに対する、圧延方向に対して45°方向の伸びの比率が0.8以上1.6以下であり、圧延方向に対して90°方向の伸びの比率が0.8以上1.6以下である(1)または(2)に記載のクラッド材。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載のクラッド材の製造方法であって、
Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量0.1〜2.0ppm、銅の含有量99.96mass%以上である組成を有する銅材に、到達温度250℃以上500℃以下、保持時間10秒以上300秒以下にて、熱処理を行う第1熱処理を行う工程と、
前記第1熱処理を行った前記銅材の第1の面に前記第1層となるオーステナイト系ステンレスを配置し、前記銅材の第2の面に前記第3層となるオーステナイト系ステンレスを配置する積層体形成工程と、
前記積層体形成工程後に、前記銅材の加工率が50%以上80%以下の冷間圧延を行う第1冷間圧延工程と、
前記第1冷間圧延工程後に、到達温度300℃以上500℃以下、保持時間10秒以上300秒以下にて、熱処理を行う第2熱処理工程と、
前記第2熱処理工程後に、前記銅材の加工率が10%以上40%以下の冷間圧延を行う第2冷間圧延工程と、
前記第2冷間圧延工程後に、昇温速度10℃/秒以上200℃/秒以下、到達温度400℃以上600℃以下、保持時間5秒以上300秒以下にて、熱処理を行う第1接合熱処理工程と、
前記第1接合熱処理工程後に連続して行う、昇温速度10℃/秒以上200℃/秒以下、到達温度850℃以上1050℃以下、保持時間5秒以上7200秒以下にて、熱処理を行う第2接合熱処理工程と、を含む、クラッド材の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の態様によれば、前記銅材が、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量0.1〜2.0ppm、銅の含有量99.96mass%以上である組成を有し、前記銅材表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上10.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度の平均値が0.3以上15.0未満であり、前記銅材の平均結晶粒径が150μm以上600μm以下であることにより、銅板の結晶粒が所定の範囲に微細化され、伸びに優れ、伸び異方性が低減された、加工性に優れたクラッド材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明のクラッド材の詳細及び実施形態例について説明する。本発明のクラッド材は、オーステナイト系ステンレスにより形成される第1層と、前記第1層に積層される、銅材により形成される第2層と、前記第2層の、前記第1層とは反対側に積層される、オーステナイト系ステンレスにより形成される第3層とが、圧延接合されたクラッド材であって、前記銅材が、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量0.1〜2.0ppm、銅の含有量99.96mass%以上である組成を有し、前記銅材表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上10.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度の平均値が0.3以上15.0未満であり、前記銅材の平均結晶粒径が150μm以上600μm以下である。
【0013】
本発明のクラッド材は、例えば、銅材により形成される第2層が、オーステナイト系ステンレスにより形成される第1層と第3層の間に配置された3層構造となっている。第1層と第2層、第2層と第3層は、それぞれ直接接しており、相互に圧延接合された層構造となっている。なお、必要に応じて、第1層と第2層の間、第2層と第3層の間に、さらに、他の層を形成してもよい。
【0014】
クラッド材の厚みに対する第2層の厚みは、特に限定されないが、例えば、優れた放熱特性を得る点から、クラッド材の厚みの50%以上が好ましく、55%以上が特に好ましい。また、クラッド材の厚みに対する第2層の厚みは、例えば、機械的強度の低下を確実に防止する点から、クラッド材の厚みの70%以下が好ましく、65%以下が特に好ましい。また、第2層の厚みは、特に限定されないが、0.050mm〜2.0mmが好ましく、0.075mm〜1.0mmが特に好ましい。第1層の厚さと第3層の厚さは、同じでもよく、異なっていてもよい。クラッド材の形状は、特に限定されず、用途や設置場所等に応じて適宜選択可能であるが、例えば、板状を挙げることができる。
【0015】
次に、本発明のクラッド材の第2層で用いられる銅材について説明する。
【0016】
[銅材の成分組成]
本発明のクラッド材の第2層で用いられる銅材は、銅の含有量が99.96mass%以上であり、好ましくは99.99mass%以上である。銅の含有量が99.96mass%未満であると、熱伝導率が低下し、所望の放熱特性が得られない。また、上記銅材は、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量が0.1ppm〜2.0ppmである。これらの金属成分の合計含有量の下限値は、特に限定されないが、不可避的に含まれることを考慮し、0.1ppmとした。一方で、これらの金属成分の合計含有量が2.0ppmを超えると、所望の方位密度が得られない。上記銅材には、銅、並びに、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分以外に、残部として不可避的不純物が含まれていてもよい。不可避的不純物は、製造工程上、不可避的に含まれうる含有レベルの不純物を意味する。
【0017】
なお、銅以外の上記金属成分の定量分析には、例えば、GDMS法を用いることができる。GDMS法とは、Glow Discharge Mass Spectrometryの略であり、固体試料を陰極としグロー放電を用いて試料表面をスパッタし、放出された中性粒子をプラズマ内のArや電子と衝突させることによってイオン化させ、質量分析器でイオン数を計測することで、金属に含まれる極微量元素の割合を解析する技術のことである。
【0018】
[圧延集合組織]
本発明のクラッド材の第2層で用いられる銅材は、圧延集合組織を有し、この圧延集合組織は、EBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数(ODF:crystal orientation distribution function)をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上10.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度の平均値が0.3以上15.0未満である。圧延方向をRD方向、RD方向に対して直交する方向(クラッド材が板状であれば、板幅方向)をTD方向、圧延面(RD面)に対して垂直な方向をND方向としたとき、RD方向を軸とした方位回転がΦ、ND方向を軸とした方位回転がφ1、TD方向を軸とした方位回転がφ2として表される。方位密度は、集合組織における結晶方位の存在比率及び分散状態を定量的に解析する際に用いられるパラメータであり、EBSD及びX線回折を行い、(100)、(110)、(112)等の3種類以上の正極点図の測定データに基づいて、級数展開法による結晶方位分布解析法により算出される。EBSDによる集合組織解析から得られる、φ2を所定の角度で固定した断面図において、RD面内での方位密度の分布が示される。
【0019】
図1は、本発明のクラッド材の第2層で用いられる銅材の圧延集合組織をEBSDで解析した結果を示す図であり、φ2を0°〜90°まで、5°毎に固定した断面図である。結晶方位分布がランダムな状態を、方位密度が1であるとし、それに対して何倍の集積となっているかが等高線で表されている。
図1では、白い部分は方位密度が高く、黒い部分は方位密度が低いことを示し、それ以外の部分は白に近いほど方位密度が高いことを示している。また、
図1中、(a)図の点線で囲った部分が、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲、(b)図の点線で囲った部分が、φ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲に対応する。
【0020】
本発明では、第2層で用いられる銅材の、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上10.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度の平均値が0.3以上15.0未満であることにより、上記銅材は、伸びに優れ、伸び異方性が低減された特性を発揮する。φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が0.1未満では、高温(例えば、850℃以上)での熱処理において、結晶方位制御が十分ではないため、伸びに異方性が生じる。φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が10.0以上では、高温(例えば、850℃以上)での熱処理において、結晶方位制御が十分ではないため、伸びに異方性が生じる。φ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度の平均値が0.3未満では、高温(例えば、850℃以上)での熱処理において結晶粒が粗大化して加工性が低下するうえ、結晶方位制御が十分ではないため、良好な伸びも得られない。φ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度の平均値が15.0以上では、結晶粒が過度に微細化してしまう。なお、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度及びφ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度は全体としては平準化されている傾向にあるので、平均値として規定した。
【0021】
なお、EBSD法とは、Electron BackScatter Diffractionの略であり、走査電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子を利用した結晶方位解析技術のことである。EBSDによる解析の際、測定面積及びスキャンステップは、試料の結晶粒の大きさに応じて決定すればよい。測定後の結晶粒の解析には、例えば、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いることができる。EBSDによる結晶粒の解析において得られる情報は、電子線が試料に侵入する数10nmの深さまでの情報を含んでいる。板厚方向の測定箇所は、試料表面から板厚の1/8倍〜1/2倍の位置付近とすることが好ましい。
【0022】
[平均結晶粒径]
本発明のクラッド材の第2層で用いられる銅材は、平均結晶粒径が150μm以上600μm以下である。平均結晶粒径が150μm未満であると、十分な結晶方位制御ができず、銅材の伸び異方性が大きくなり、結果、クラッド材の伸び異方性も大きくなって加工性が低下する場合がある。一方、平均結晶粒径が600μmを超えると、銅材に十分な伸びが得られず、結果、クラッド材に十分な伸びが得られずに加工性が低下する場合がある。なお、結晶粒径は、銅板材のRD面におけるEBSD解析により測定することができる。銅材の平均結晶粒径は、150μm以上600μm以下であれば、特に限定されないが、200μm以上400μm以下が好ましい。
【0023】
[銅材の製造方法]
次に、本発明のクラッド材の第2層で用いられる銅材の製造方法の一例を説明する。第2層で用いられる銅材は、溶解・鋳造工程にて、銅の含有量が99.96mass%以上であり、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量が0.1ppm〜2.0ppmである組成を有する鋳塊を作製後、冷間圧延することにより、製造することができる。なお、上記した圧延集合組織と平均結晶粒径は、後述するクラッド材の製造方法を実施することにより実現することができる。
【0024】
本発明のクラッド材の第2層で用いられる銅材は、上記組成を有する銅材であれば、その製造方法は、特に限定されないが、例えば、溶解・鋳造工程[工程1]、均質化熱処理工程[工程2]、熱間圧延工程[工程3]、冷却工程[工程4]、面削工程[工程5]、第1冷間圧延工程[工程6]、第1焼鈍工程[工程7]、第2冷間圧延工程[工程8]、第2焼鈍工程[工程9]、仕上げ圧延工程[工程10](必要に応じて、さらに最終焼鈍工程[工程11]と表面酸化膜除去工程[工程12])から構成される処理が順次行われる方法が挙げられる。
【0025】
まず、溶解・鋳造工程[工程1]では、銅素材を溶解し、鋳造することによって鋳塊を得る。銅素材は、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量が0.1〜2.0ppm、銅の含有量が99.96mass%以上である組成を有する。均質化熱処理工程[工程2]では、得られた鋳塊に対して、例えば、保持温度700〜1000℃、保持時間10分〜20時間の均質化熱処理を行う。熱間圧延工程[工程3]では、例えば、総加工率が10〜90%となるように熱間圧延を行う。冷却工程[工程4]では、例えば、10℃/sec以上の冷却速度で急冷を行う。面削工程[工程5]では、例えば、冷却された材料の両面を、それぞれ、約1.0mmずつ面削する。これにより、板材表面の酸化膜が除去される。
【0026】
第1冷間圧延工程[工程6]では、例えば、加工率が75%以上となるよう冷間圧延を、複数回、行う。
【0027】
第1焼鈍工程[工程7]では、例えば、昇温速度が1〜100℃/sec、到達温度が100〜500℃、保持時間が1〜900sec、かつ、冷却速度が1〜50℃/secである条件で熱処理を施す。
【0028】
第2冷間圧延工程[工程8]では、例えば、加工率が60〜95%となるように冷間圧延を行う。
【0029】
第2焼鈍工程[工程9]では、例えば、昇温速度が10〜100℃/sec、到達温度が200〜550℃、保持時間が10〜3600sec、かつ、冷却速度が10〜100℃/secである条件で熱処理を施す。
【0030】
仕上げ圧延工程[工程10]では、例えば、加工率が10〜60%となるように冷間圧延を行う。最終焼鈍工程[工程11]では、例えば、到達温度が125〜400℃である条件で熱処理を施す。表面酸化膜除去工程[工程12]では、板材表面の酸化膜除去と洗浄を目的として、酸洗及び研磨を行う。なお、本明細書において、圧延工程における「加工率R(%)」は、下記式で定義される。
R=(t0−t)/t0×100
式中、t0は圧延前の厚さであり、tは圧延後の厚さである。
【0031】
次に、本発明のクラッド材の第1層及び第3層で用いられるオーステナイト系ステンレスについて説明する。
【0032】
[オーステナイト系ステンレス]
本発明のクラッド材は、銅材により形成される第2層が、オーステナイト系ステンレスにより形成される層(第1層及び第3層)と接合された積層体となっている。本発明のクラッド材の第1層及び第3層で用いられるオーステナイト系ステンレスは、オーステナイト系ステンレスであれば、特に限定されないが、例えば、主成分として、SUS304、SUS301が含まれるオーステナイト系ステンレスが好ましい。第1層と第3層は、同種のオーステナイト系ステンレスでも、異種のオーステナイト系ステンレスでもよい。第1層の厚さは、特に限定されないが、0.020mm〜0.9mmが好ましく、第3層の厚さは、特に限定されないが、0.020mm〜0.9mmが好ましい。
【0033】
[クラッド材の特性]
クラッド材の圧延方向に対して0°、45°、90°の方向における伸びは、0°の方向では6%以上14%以下が好ましく、45°、90°の方向では、いずれも、6%以上20%以下が好ましい。0°、45°、90°の方向における伸びが6%未満では、加工性が低下し、0°の方向では伸びが14%超、45°、90°の方向では伸びが20%超でも、やはり加工性が低下する。圧延方向に対して0°方向の伸びに対する、圧延方向に対して45°方向の伸びの比率は、0.6以上1.6以下が好ましく、0.8以上1.6以下が特に好ましい。圧延方向に対して0°方向の伸びに対する、圧延方向に対して90°方向の伸びの比率は、0.6以上1.6以下が好ましく、0.8以上1.6以下が特に好ましい。上記伸びの比率により、クラッド材の伸びの異方性が低減されて、加工性が向上する。
【0034】
次に、本発明のクラッド材の製造方法の一例を説明する。
【0035】
[クラッド材の製造方法]
本発明のクラッド材の製造方法では、第1熱処理工程、積層体形成工程、第1冷間圧延工程、第2熱処理工程、第2冷間圧延工程、第1接合熱処理工程、第2接合熱処理工程から構成される処理が、上記順序にて行われることで、第2層に第1層と第3層が接合された本発明のクラッド材を得ることができる。
【0036】
まず、第1熱処理工程では、上記のようにして得られた銅板材を、到達温度250℃以上500℃以下、保持時間10秒以上300秒以下にて、熱処理を行う。この熱処理を行わない場合、最終的なφ1=75°から90°、Φ=20°から40°、φ2=35°の範囲の方位密度の平均値が著しく高くなる傾向にある(比較例4参照)。
【0037】
積層体形成工程では、上記のように熱処理した銅板材を、第1層となる板状のオーステナイト系ステンレスと第3層となる板状のオーステナイト系ステンレスとの間に配置させて3層の積層体を得る。
【0038】
第1冷間圧延工程では、得られた積層体に対し、第2層(銅板材)の厚さの加工率が50%以上80%以下の冷間圧延を行う。第1冷間圧延工程において、加工率が低すぎると、φ1=0°、Φ=0°から90°、φ2=0°の範囲の方位密度の平均値が著しく高くなる傾向にある(比較例1、3参照)。また、上記範囲から外れると、銅板材に上記した所定の圧延集合組織を付与できない。
【0039】
第2熱処理工程では、到達温度300℃以上500℃以下、保持時間10秒以上300秒以下にて、熱処理を行う。第2熱処理工程が上記範囲外では、銅板材に上記した所定の圧延集合組織を付与できず、平均結晶粒径も得られない。
【0040】
第2冷間圧延工程では、第2層(銅板材)の厚さの加工率が10%〜40%の冷間圧延を行う。第2冷間圧延工程が上記範囲外では、銅板材に上記した所定の圧延集合組織を付与できない。第1冷間圧延とは逆に第2冷間圧延工程の加工率が高すぎると、φ1=0°、Φ=0°から90°、φ2=0°の範囲の方位密度の平均値が著しく高くなる傾向にある(比較例1参照)。
【0041】
第1接合熱処理工程では、昇温速度10℃/秒以上200℃/秒以下、到達温度400℃以上600℃以下、保持時間5秒以上300秒以下にて、熱処理を行う。第1接合熱処理工程が上記範囲外では、銅板材に上記した所定の圧延集合組織を付与できず、平均結晶粒径も得られない。接合熱処理1の昇温速度が高すぎると、微量に含まれる金属成分の析出量に影響するため、集合組織の発達傾向が変更し、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°、φ2=35°の範囲の方位密度の平均値が著しく低くなる傾向にある(比較例10参照)。
【0042】
第2接合熱処理工程は、第1接合熱処理工程後に連続して行う。第2接合熱処理工程は、第1接合熱処理工程後にクラッド材を冷却せずにそのまま連続して行うことが好ましい。第2接合熱処理工程では、昇温速度10℃/秒以上200℃/秒以下、到達温度850℃以上1050℃以下、保持時間5秒以上7200秒以下にて、熱処理を行う。昇温速度10℃/秒未満では所定の圧延集合組織を付与できず、200℃/秒超では結晶粒が著しく成長してしまう。到達温度850℃未満では銅板材にステンレスが十分に接合せず、1050℃超では銅の融点に近くなり不適である。また、保持時間5秒未満では銅板材にステンレスが十分に接合せず、7200秒超ではクラッド材の生産性が低下してしまう。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
【0044】
実施例1〜9、比較例1〜15
先ず、所定の成分組成を有する銅素材を溶解し、鋳造して鋳塊を得た。得られた鋳塊に対して、保持温度700℃以上、保持時間5時間の均質化熱処理(均質化熱処理工程)を行った後、総加工率が80%となるように熱間圧延(熱間圧延工程)を行い、10℃/sec以上の冷却速度で急冷(冷却工程)を行った。冷却された材料の両面をそれぞれ約1.0mmずつ面削(面削工程)した後、加工率が75%以上となるよう冷間圧延(第1冷間圧延工程)を、複数回、行った。次に、到達温度が400℃、保持時間が30secの熱処理(第1焼鈍工程)を行った後、加工率が60%となるように冷間圧延(第2冷間圧延工程)を行った。次に、到達温度が400℃、保持時間が30secの熱処理(第2焼鈍工程)を行った後、加工率が15%となるように冷間圧延(仕上げ圧延工程)を行い、銅板材を作製した。
【0045】
第1層のオーステナイト系ステンレス、第3層のオーステナイト系ステンレスとして、下記表1の板材を用意した。なお、銅板材の厚さがクラッド材の板厚の60%、第1層のオーステナイト系ステンレスと第3層のオーステナイト系ステンレスの厚さの合計が、クラッド材の板厚の40%となるようにした。
【0046】
まず、銅板材に下記表2に示す到達温度及び保持時間にて第1熱処理を実施した。次に、第1層となるオーステナイト系ステンレスの板材と第3層となるオーステナイト系ステンレスの板材との間に、上記のようにして熱処理した第2層となる銅板材を配置させて、3層の板材からなる積層体を形成した。得られた積層体に対して、表2に示す銅板材の厚さの加工率にて積層体に対し第1冷間圧延を行った後、表2に示す到達温度及び保持時間にて第2熱処理を行った。次に、表2に示す銅板材の厚さの加工率にて第2冷間圧延を行った後、表2に示す昇温速度、到達温度及び保持時間にて第1接合熱処理を行った。第1接合熱処理後、そのまま連続して冷却を介さずに、表2に示す昇温速度、到達温度及び保持時間にて第2接合熱処理を行って、サンプルとなるクラッド材を作製した。
【0047】
[銅板材の定量分析]
作製した各銅板材の定量分析には、GDMS法を用いた。GDMS法とは、Glow Discharge Mass Spectrometryの略で、固体試料を陰極としグロー放電を用いて試料表面をスパッタし、放出された中性粒子をプラズマ内のArや電子との衝突によってイオン化させ、質量分析器でイオン数を計測することで、金属中の極微量元素含有率を解析する技術のことである。実施例、比較例ではV.G.Scientific社製 VG-9000を用いて解析を行った。各銅板材に含まれるAl、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrの含有量(ppm)並びにCuの含有量(mass%)を表1に示す。なお、各銅板材には、不可避的不純物が含まれている場合がある。なお、表1における空欄部は、該当する金属成分が0ppmであったことを意味する。また、GDMS法による測定値が0.1ppm未満であったものは0ppmとした。
【0048】
[銅板材の方位密度]
サンプルである各クラッド材の各銅板材の圧延集合組織の方位密度解析には、EBSD法を用いた。EBSD法とは、Electron BackScatter Diffractionの略で、走査電子顕微鏡(SEM)内で試料に電子線を照射したときに生じる反射電子菊池線回折を利用した結晶方位解析技術のことである。実施例、比較例のEBSD測定では、結晶粒を200個以上含む、試料測定面に対し、0.1μmステップでスキャンし、測定した。前記測定面積及びスキャンステップは、サンプルの結晶粒の大きさに応じて決定すればよい。測定後の結晶粒の解析には、TSL社製の解析ソフトOIMAnalysis(商品名)を用いた。EBSD法による結晶粒の解析において得られる情報は、電子線がサンプルに侵入する数10nmの深さまでの情報を含んでいる。また、板厚方向の測定箇所は、クラッド材表面から板厚tの1/8倍〜1/2倍の位置付近とした。
【0049】
[銅板材の平均結晶粒径]
サンプルである各クラッド材の各銅板材の平均結晶粒径は、圧延面におけるEBSD測定にて、結晶粒を200個以上含む測定試料面に対し、スキャンステップ0.1μmの条件で測定を行った。測定結果の解析において、測定範囲中の全結晶粒から、平均結晶粒径を算出した。結晶粒径の解析には、TSL社製の解析ソフトOIM Analysis(商品名)を用いた。EBSDによる結晶粒の解析において得られる情報は、電子線がサンプルに侵入する数10nmの深さまでの情報を含んでいる。また、板厚方向の測定箇所は、クラッド材表面から板厚tの1/8倍〜1/2倍の位置付近とした。
【0050】
[伸び]
クラッド材に対し、JIS Z2241に準じて引張試験を行い破断までの伸びを測定した。クラッド材の圧延方向に対して0°、45°、90°の方向に対してそれぞれの伸びを求め、0°と45°方向の伸びの比率及び0°と90°方向の伸びの比率を求め、それぞれの比率が0.6以上1.6以下を良好、0.6未満または1.6超を不良と判断した。また、伸びの比率が良好であっても、0°、45°、90°の方向における伸びが6%未満のものは不良とし、0°の方向では伸び14%超は不良とし、45°と90°の方向では、いずれも、伸び20%超は不良とした。
【0051】
表3に、銅板材の方位密度の平均値、平均結晶粒径、伸びの測定結果を示す。
【0052】
【表1】
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
表1及び表3に示すように、実施例1〜9では、銅材が、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量0.1〜2.0ppm、銅の含有量99.96mass%以上である組成を有し、銅材表面のEBSD法による集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上10.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度の平均値が0.3以上15.0未満であることから、圧延方向に対して0°方向、45°方向、90°方向のいずれも、伸びに優れた、銅材を備えたクラッド材を得ることができた。
【0056】
また、実施例1〜9では、圧延方向に対して0°方向の伸びに対する、圧延方向に対して45°方向の伸びの比率が0.8以上1.6以下、圧延方向に対して90°方向の伸びの比率が0.8以上1.6以下であることから、伸びの異方性が低減された、銅材を備えたクラッド材を得ることができた。
【0057】
また、実施例1〜9では、銅板材の平均結晶粒径を150μm〜600μmに制御できたので、より確実に結晶方位を制御でき、また、より確実に優れた伸びと伸び異方性の低減を得ることができた。
【0058】
一方で、比較例1では、第1冷間圧延工程の加工率が低く、第2冷間圧延工程の加工率が高く、平均結晶粒径が過剰に微細化され、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が10以上となり、圧延方向に対して45°方向の伸びが大きくなりすぎ、加工性が低下した。
【0059】
比較例2、3では、いずれも、第1冷間圧延工程と第1接合熱処理工程の条件が範囲外であり、それぞれ、適した平均結晶粒径、適したφ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が得られず、伸び異方性の低減が得られなかった。
【0060】
比較例4では、第1熱処理工程が実施されず、適した平均結晶粒径、適したφ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度は得られず、伸びと伸び異方性の低減とも得られなかった。
【0061】
比較例5では、第2熱処理工程の条件が範囲外であり、適した平均結晶粒径が得られず、伸びと伸び異方性の低減とも得られなかった。
【0062】
比較例6では、第2接合熱処理工程の条件が範囲外であり、接合されたクラッド材が得られなかった。
【0063】
比較例7では、第2熱処理工程の条件が範囲外であり、適した平均結晶粒径が得られず、伸びが得られなかった。
【0064】
比較例8では、第2熱処理工程と第2冷間圧延工程の条件が範囲外であり、適したφ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度は得られず、伸び異方性の低減が得られなかった。
【0065】
比較例9では、第2冷間圧延工程が実施されず、適したφ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値と、適した平均結晶粒径が得られず、伸び異方性の低減が得られなかった。
【0066】
比較例10〜12、14、15では、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量が2.0ppmを超えており、適したφ1=75°から90°、Φ=20°から40°、φ2=35°の範囲における方位密度は得られず、平均結晶粒径が600μm超に粗大化し、伸びが得られなかった。すなわち、金属成分の合計含有量が多すぎると、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°、φ2=35°の範囲の方位密度の平均値が低くなりすぎる傾向にあった。
【0067】
比較例13では、銅の含有量99.90mass%であり、平均結晶粒径が1000μm超に粗大化し、伸びが得られなかった。
【0068】
以上から、本発明のクラッド材は、伸びに優れ、さらに、伸びの異方性が低減された、銅材を備えたクラッド材を得ることができる。
オーステナイト系ステンレスにより形成される第1層と、前記第1層に積層される、銅材により形成される第2層と、前記第2層の、前記第1層とは反対側に積層される、オーステナイト系ステンレスにより形成される第3層とが、圧延接合されたクラッド材であって、前記銅材が、Al、Be、Cd、Mg、Pb、Ni、P、Sn及びCrから選択される金属成分の合計含有量0.1〜2.0ppm、銅の含有量99.96mass%以上である組成を有し、前記銅材表面のEBSDによる集合組織解析から得られた結晶方位分布関数をオイラー角(φ1、Φ、φ2)で表したとき、φ2=0°、φ1=0°、Φ=0°から90°の範囲における方位密度の平均値が0.1以上10.0未満であり、かつ、φ2=35°、φ1=75°から90°、Φ=20°から40°の範囲における方位密度の平均値が0.3以上15.0未満であり、前記銅材の平均結晶粒径が150μm以上600μm以下であるクラッド材。