特許第6600487号(P6600487)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6600487
(24)【登録日】2019年10月11日
(45)【発行日】2019年10月30日
(54)【発明の名称】防食用電池の選択方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 13/20 20060101AFI20191021BHJP
   C23F 13/02 20060101ALI20191021BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20191021BHJP
【FI】
   C23F13/20 Z
   C23F13/02 L
   C23F13/02 B
   G01N27/26 351H
【請求項の数】3
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-106566(P2015-106566)
(22)【出願日】2015年5月26日
(65)【公開番号】特開2016-216806(P2016-216806A)
(43)【公開日】2016年12月22日
【審査請求日】2018年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000107044
【氏名又は名称】ショーボンド建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074332
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100114432
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 寛昭
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 篤志
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 一彰
(72)【発明者】
【氏名】大久保 謙治
(72)【発明者】
【氏名】二木 有一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴保
【審査官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06346188(US,B1)
【文献】 特開2014−162963(JP,A)
【文献】 特開2002−030472(JP,A)
【文献】 特開昭60−009887(JP,A)
【文献】 特開平07−090643(JP,A)
【文献】 特開平05−195588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 13/00−13/22
G01N 27/26−27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物中の鋼材に対してコンクリート構造物に設置された陽極材から電流を供給して鋼材の電気防食を行う際に電源として用いられる電池の選択を行う防食用電池の選択方法であって、
鋼材の電気防食に必要な必要分極量V1と、鋼材の分極抵抗Rと、鋼材のバイアス電位V2とから下記(1)式を用いて鋼材の単位表面積あたりの電流密度Xを算出する電流密度算出工程と、該電流密度に鋼材の表面積を乗ずることで鋼材の電気防食に必要な必要電流を算出する鋼材必要電流算出工程と、該必要電流にコンクリート構造物の電気抵抗を乗ずることで鋼材の電気防食に必要な必要電圧を算出する必要電圧算出工程と、前記必要電流を単位時間あたりの消費電流として該消費電流に電気防食を継続する時間と電池の実効値とを乗ずることで電池容量を算出する電池容量算出工程と、前記必要電圧及び前記電池容量に基づいて防食用電池を選択する電池選択工程とを備えることを特徴とする防食用電池の選択方法。

X=(V1−V2)÷R・・・(1)
【請求項2】
コンクリート構造物中の鋼材に対してコンクリート構造物に設置された陽極材から電流を供給して鋼材の電気防食を行う際に電源として用いられる防食用電池の選択を行う防食用電池の選択方法であって、
前記鋼材へ電流が供給されていない状態で照合電極を基準に鋼材の自然電位を測定する自然電位測定工程と、コンクリート構造物の陽極材が設置される陽極設置領域における電流密度に対する鋼材のインスタントオフ電位を照合電極を基準に測定するインスタントオフ電位測定工程と、前記自然電位と前記インスタントオフ電位との差である分極量として鋼材の電気防食に必要な必要分極量が得られるときの前記電流密度に前記陽極設置領域の面積とを乗ずることで鋼材の電気防食に必要な必要電流を算出する構造物必要電流算出工程と、前記必要電流を単位時間あたりの消費電流として該消費電流に電気防食を継続する時間と電池の実効値とを乗ずることで電池容量を算出する電池容量算出工程と、前記必要分極量が得られるときのインスタントオフ電位を必要電圧として該必要電圧及び前記電池容量に基づいて防食用電池を選択する電池選択工程とを備えることを特徴とする防食用電池の選択方法。
【請求項3】
コンクリート構造物中の鋼材に対してコンクリート構造物に設置された陽極材から電流を供給して鋼材の電気防食を行う際に電源として用いられる防食用電池の選択を行う防食用電池の選択方法であって、
前記鋼材へ電流が供給されていない状態で照合電極を基準に鋼材の自然電位を測定する自然電位測定工程と、鋼材の単位表面積あたりの電流密度に対する鋼材のインスタントオフ電位を照合電極を基準に測定するインスタントオフ電位測定工程と、前記自然電位と前記インスタントオフ電位との差である分極量として鋼材の電気防食に必要な必要分極量が得られるときの前記電流密度に、前記鋼材の表面積とコンクリート構造物の陽極材が設置される陽極設置領域の面積に対する鋼材の表面積の割合を乗ずることで鋼材の電気防食に必要な必要電流を算出する構造物必要電流算出工程と、前記必要電流を単位時間あたりの消費電流として該消費電流に電気防食を継続する時間と電池の実効値とを乗ずることで電池容量を算出する電池容量算出工程と、前記必要分極量が得られるときのインスタントオフ電位を必要電圧として該必要電圧及び前記電池容量に基づいて防食用電池を選択する電池選択工程とを備えることを特徴とする防食用電池の選択方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材に対して陽極材から電流を供給することにより鋼材の電気防食を行う電気防食方法において、鋼材へ電流を供給するための電池を選択する際の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中、土壌中、またはコンクリート構造物中などに配設されている鋼材(鉄製の配管や鉄筋など)は、表面に不動態皮膜が形成されることによって、本来、腐食から保護されている。ところが、沿岸地域や凍結防止剤が頻繁に使用される地域などのように、塩素成分が多量に存在する環境下では、鋼材に塩素成分が接触して不動態皮膜が部分的に破壊される場合がある。そして、不動態皮膜が破壊された部分からは、鋼材中の鉄イオンが溶出して、鋼材の腐食(酸化)を促進させる。このような鋼材の腐食は、鋼材自体の強度を低下させると共に、コンクリート構造物中においては腐食部分の体積の膨張によってコンクリート構造物に亀裂、如いてはコンクリートの剥落を生じさせる虞がある。
【0003】
上記のように、鋼材に部分的に腐食が生じることによって、鋼材の腐食した領域(アノード部)と腐食していない領域(カソード部)との間には電位差が生じることとなる。これにより、アノード部からカソード部へ電子が流れることで腐食電流が発生し、アノード部からの鉄イオンの溶出が更に進行する。
【0004】
このような腐食の進行を防止する方法としては、例えばチタンなどの素材を用いて形成された陽極材からコンクリートを介してコンクリート構造物中の鋼材に電流(防食電流)を供給する電気防食方法が知られている。該電気防食方法は、鋼材に対して防食電流を供給することで、アノード部とカソード部との間に生じる電位差を解消し、腐食電流が発生するのを防止する方法である。
【0005】
上記のような電気防食方法において効果的な防食を行うためには、鋼材の分極量が所定値(例えば、100mV程度)となるように鋼材に電流を供給することが要求される。鋼材に電流を供給する手段(以下、外部電源とも記す)としては、太陽電池や電池(バッテリー)を用いることが可能である(特許文献1〜3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−115085号公報
【特許文献2】特開2002−206182号公報
【特許文献3】特開2014−162963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、効果的な電気防食を行うためには、鋼材の分極量が所定値(以下、必要分極量とも記す)となるように鋼材に電流を供給することが必要となるため、外部電源の構成を適切に選択することが要求される。具体的には、外部電源として電池(バッテリー)を用いる場合には、電気防食を施すコンクリート構造物に対して陽極材を取り付けて通電試験を行い、必要分極量が得られる電圧(以下、必要電圧とも記す)及び電流(以下、必要電流とも記す)を把握した上で、必要電圧及び必要電流が得られるように電池の構成(例えば、複数の電池の接続状態)が選択される。
【0008】
しかしながら、必要電圧や必要電流に関する情報がないままで上記のような通電試験を行うことは、種々の電圧や電流で試験を行う必要があるため、必要電圧や必要電流の値を得るまでの作業が繁雑になる。このため、電池の構成を選択する作業を効率的に行うことができない。
【0009】
そこで、本発明は、コンクリート構造物の電気防食を行う際の外部電源として電池を用いる場合に、電池の構成を効率的に選択することができる電気防食用の電池の選択方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る防食用電池の選択方法は、コンクリート構造物中の鋼材に対してコンクリート構造物に設置された陽極材から電流を供給して鋼材の電気防食を行う際に電源として用いられる電池の選択を行う防食用電池の選択方法であって、鋼材の電気防食に必要な必要分極量V1と、鋼材の分極抵抗Rと、鋼材のバイアス電位V2とから下記(1)式を用いて鋼材の単位表面積あたりの電流密度Xを算出する電流密度算出工程と、該電流密度に鋼材の表面積を乗ずることで鋼材の電気防食に必要な必要電流を算出する鋼材必要電流算出工程と、該必要電流にコンクリート構造物の電気抵抗を乗ずることで鋼材の電気防食に必要な必要電圧を算出する必要電圧算出工程と、前記必要電流を単位時間あたりの消費電流として該消費電流に電気防食を継続する時間と電池の実効値とを乗ずることで電池容量を算出する電池容量算出工程と、前記必要電圧及び前記電池容量に基づいて防食用電池を選択する電池選択工程とを備えることを特徴とする。

X=(V1−V2)÷R・・・(1)
【0011】
本発明に係る防食用電池の選択方法は、コンクリート構造物中の鋼材に対してコンクリート構造物に設置された陽極材から電流を供給して鋼材の電気防食を行う際に電源として用いられる防食用電池の選択を行う防食用電池の選択方法であって、前記鋼材へ電流が供給されていない状態で照合電極を基準に鋼材の自然電位を測定する自然電位測定工程と、コンクリート構造物の陽極材が設置される陽極設置領域における電流密度に対する鋼材のインスタントオフ電位を照合電極を基準に測定するインスタントオフ電位測定工程と、前記自然電位と前記インスタントオフ電位との差である分極量として鋼材の電気防食に必要な必要分極量が得られるときの前記電流密度に前記陽極設置領域の面積とを乗ずることで鋼材の電気防食に必要な必要電流を算出する構造物必要電流算出工程と、前記必要電流を単位時間あたりの消費電流として該消費電流に電気防食を継続する時間と電池の実効値とを乗ずることで電池容量を算出する電池容量算出工程と、前記必要分極量が得られるときのインスタントオフ電位を必要電圧として該必要電圧及び前記電池容量に基づいて防食用電池を選択する電池選択工程とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明に係る防食用電池の選択方法は、コンクリート構造物中の鋼材に対してコンクリート構造物に設置された陽極材から電流を供給して鋼材の電気防食を行う際に電源として用いられる防食用電池の選択を行う防食用電池の選択方法であって、前記鋼材へ電流が供給されていない状態で照合電極を基準に鋼材の自然電位を測定する自然電位測定工程と、鋼材の単位表面積あたりの電流密度に対する鋼材のインスタントオフ電位を照合電極を基準に測定するインスタントオフ電位測定工程と、前記自然電位と前記インスタントオフ電位との差である分極量として鋼材の電気防食に必要な必要分極量が得られるときの前記電流密度に、前記鋼材の表面積とコンクリート構造物の陽極材が設置される陽極設置領域の面積に対する鋼材の表面積の割合を乗ずることで鋼材の電気防食に必要な必要電流を算出する構造物必要電流算出工程と、前記必要電流を単位時間あたりの消費電流として該消費電流に電気防食を継続する時間と電池の実効値とを乗ずることで電池容量を算出する電池容量算出工程と、前記必要分極量が得られるときのインスタントオフ電位を必要電圧として該必要電圧及び前記電池容量に基づいて防食用電池を選択する電池選択工程とを備えることを特徴とする。
【0013】
斯かる構成によれば、鋼材必要電流算出工程や構造物必要電流算出工程によって必要電流の目安値を把握することができ、必要電圧算出工程やインスタントオフ電位から必要電圧の目安値を把握することができるため、これらの目安値に基づいて、実際の通電試験を行うことで、実際の必要電圧及び必要電流を効率的に測定することができる。また、電池選択工程によって必要分極量を得るために必要な防食用電池の構成の目安を把握することができるため、上述の実際の必要電流及び必要電圧に加えて防食用電池の構成の目安に基づいて実際に必要な防食用電池の構成を効率的に選択することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、コンクリート構造物の電気防食を行う際の外部電源として電池を用いる場合に、電池の構成を効率的に選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】第二実施形態における電流密度とインスタントオフ電位の関係を示したグラフ。
図2】第二実施形態における電流密度と分極量の関係を示したグラフ。
図3】第二実施形態における電圧と分極量の関係を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、本発明の第一実施形態について説明する。
【0017】
本実施形態に係る防食用の電池の選択方法は、コンクリート構造物中に埋設された鋼材(鉄筋等)に対して陽極材から電流を供給して電気防食を行うに際し、電流を供給する手段として電池を用いる場合に使用されるものである。また、本実施形態に係る防食用の電池の選択方法は、構造物状態確認工程と、電流密度算出工程と、鋼材必要電流算出工程と、必要電圧算出工程と、電池容量算出工程と、電池選択工程とから構成される。更に、通電試験工程と、真電池容量算出工程と、電池選択工程とを備える。
【0018】
<構造物状態確認工程>
鋼材の腐食状態の異なるコンクリート構造物(以下、目安構造物とも記す)に対して、目視による外観調査や自然電位の測定を行うことで、目安構造物の状態(鋼材の腐食状態)を確認する。具体的には、目視による外観調査としては、例えば、浮き・剥落・豆板等の欠陥、ひび割れ(形状、幅、長さ)、錆汁(位置、大きさ)、露出した金属(位置、大きさ)、鋼材の腐食状況等を確認することで行われる。自然電位の測定は、鋼材へ電流が供給されていない状態の鋼材電位を照合電極を基準に測定することで行われる。
【0019】
照合電極は、鋼材の電位を測定する際の基準となるものである。具体的には、照合電極と鋼材との間の電位差が鋼材の電位として測定される。照合電極としては、一般的に用いられるものを使用することができ、例えば飽和銀塩化銀照合電極、銅硫酸銅照合電極、鉛照合電極、または二酸化マンガン照合電極等を用いることができる。
【0020】
そして、目視による外観調査や自然電位の測定の結果に基づいて、目安構造物の状態のランク分けを行う。例えば、目安構造物が新規に形成されたものである場合には「新設期」、外観上の変化が見られず、鋼材の自然電位が−0.2V(vs CSE)よりも貴な値を示す場合には「潜伏期」、外観上の変化が見られず、鋼材の自然電位が−0.35<E≦−0.2(vs CSE)の範囲にある場合には「進展期」としてランク分けを行う。なお、「新設期」「潜伏期」「進展期」に加え、外観上の腐食ひび割れが多数発生し且つ錆汁が見られ且つ部分的な剥離や剥落が見られると共に、鉄筋の自然電位が−0.35 V(vs CSE)よりも卑な値を示す場合には「加速期」、外観上の腐食ひび割れが多数発生し且つ錆汁が見られ且つ部分的な剥離や剥落が見られ且つ変形や比較的大きい撓みが見られると共に、鉄筋の自然電位が−0.35 V(vs CSE)よりも卑な値を示す場合には「劣化期」としてランク分けを行うこともできる。なお、CSEは、飽和硫酸銅電極基準を意味する。
【0021】
なお、上記のランク分けは、鋼材の状態に基づいて行うこともできる。例えば、鋼材の表面に黒皮又は錆(全体的に薄い緻密な錆)が認められ、コンクリート表面に錆が付着していない場合には「潜伏期」、鋼材の表面に部分的に浮き錆があるが、比較的小面積の斑点状である場合には「進展期」、鋼材に断面欠損が認められないが、鉄筋の全周又は全長に渡って浮き錆が生じている場合には「加速期」、鋼材に断面欠損が生じている場合には「劣化期」としてランク分けを行うこともできる。
【0022】
そして、各ランクの目安構造物における鋼材の分極抵抗及び鋼材のバイアス電位を求める。具体的には、各ランクの目安構造物に対して電気防食を行った際に所定の分極量(効率的な防食が可能な分極量)を得ることができる電流密度(鋼材表面積あたりの電流密度)が所定値以下である範囲(以下、モデル1の範囲とも記す)と所定値を超える範囲(以下、モデル2とも記す)とに分け、それぞれの範囲(以下、有効電流密度範囲とも記す)において分極抵抗及びバイアス電位を求める。分極抵抗およびバイアス電位を求める方法としては、直流電流を用いた直線分極抵抗法を用いることができる。
【0023】
ここで、分極量とは、鋼材に電流を供給した際の鋼材電位の変化量を意味する。具体的には、分極量とは、鋼材へ電流が供給されていない状態(電流供給前、または、供給電流を遮断して鋼材の電位が安定した後)の鋼材電位(以下、鋼材の自然電位とも記す)から電位がどれだけ卑側へ変化したかの変化量である。鋼材の分極量が所定の範囲(具体的には、50〜250mV、好ましくは100mV程度)となることで、鋼材に生じる腐食電流を効果的に消失させることができる。
【0024】
<電流密度算出工程>
電気防食の対象となるコンクリート構造物において必要な必要分極量(具体的には、効率的な防食が可能な分極量)V1を任意に設定し、電気防食の対象となるコンクリート構造物に相当する上記のランクの目安構造物における鋼材の分極抵抗Rと、該目安構造物における鋼材のバイアス電位V2と、上記の必要分極量V1とから下記(1)式を用いて鋼材の単位表面積あたりの電流密度(以下、目安電流密度とも記す)Xを算出する。

X=(V1−V2)÷R・・・(1)
【0025】
具体的には、目安構造物のモデル1の範囲における鋼材の分極抵抗Rと鋼材のバイアス電位V2と必要分極量V1とから上記(1)式を用いて目安電流密度Xを算出する。そして、該目安電流密度Xが目安構造物のモデル1の範囲内であれば、該目安電流密度Xを採用する。又は、目安電流密度Xが目安構造物のモデル1の範囲外であれば、目安構造物のモデル2の範囲における鋼材の分極抵抗Rと鋼材のバイアス電位V2と必要分極量V1とから上記(1)式を用いて目安電流密度Xを算出し、該目安電流密度Xを採用する。
【0026】
<鋼材必要電流算出工程>
電流密度算出工程で算出された目安電流密度に目安構造物における鋼材の表面積(電気防食の対象となる領域における鋼材表面積)を乗ずることで鋼材の電気防食に必要な必要電流(以下、目安必要電流とも記す)を算出する。
【0027】
<必要電圧算出工程>
前記目安必要電流に目安構造物における電気抵抗を乗ずることで鋼材の電気防食に必要な必要電圧(以下、目安必要電圧とも記す)を算出する。目安構造物の電気抵抗としては、例えば、目安構造物が桟橋である場合は10Ω、目安構造物が橋梁である場合は30Ωが挙げられる。
【0028】
<電池容量算出工程>
前記目安必要電流を単位時間あたりの消費電流として該消費電流に電気防食を継続する時間と電池の実効値とを乗ずることで電池容量(以下、目安電池容量とも記す)を算出する。
【0029】
<電池選択工程>
前記目安必要電圧及び目安電池容量に基づいて防食用の電池を選択する。具体的には、既存の電池を直列及び/又は並列に連結することで、目安必要電圧及び目安電池容量が得られるように複数の電池を選択する。
【0030】
<通電試験工程>
電気防食の対象となるコンクリート構造物に対して陽極材を取り付け、前記目安必要電流及び目安必要電圧に基づいて通電試験を行うことで、鋼材の分極量が効果的に防食を行うことができる必要分極量となる際の必要電圧(以下、真必要電圧とも記す)と必要電流(以下、真必要電流とも記す)を求める。具体的には、目安必要電流及び目安必要電圧の近傍の電流及び電圧で通電試験を行って分極量を求める作業を繰り返すことで真必要電流及び真必要電圧を求める。
【0031】
<真電池容量算出工程>
前記真必要電流を単位時間あたりの消費電流として該消費電流に電気防食を継続する時間と電池の実効値とを乗ずることで電池容量(以下、真電池容量とも記す)を算出する。
【0032】
<電池選択工程>
前記真必要電圧及び真電池容量に基づいて防食用の電池を選択する。具体的には、既存の電池を直列及び/又は並列に連結することで、真必要電圧及び真電池容量が得られるように複数の電池を選択する。
【実施例1】
【0033】
以下、実施例および比較例を用いて本実施形態を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
1.構造物状態確認工程
鋼材の腐食状態の異なるコンクリート構造物に対して、自然電位の測定を行い、コンクリート構造物の状態をランク分けした。また、各ランクのコンクリート構造物における鋼材の分極抵抗、鋼材のバイアス電位、及び、鋼材の平衡電位を有効電流密度範囲毎に求めた。コンクリート構造物のランク、自然電位、鋼材の分極抵抗、鋼材のバイアス電位、及び、鋼材の平衡電位は、下記表1に示す。なお、自然電位、平衡電位、及び、バイアス電位は、照合電極(飽和硫酸銅電極)を基準に測定されたものである。
なお、有効電流密度範囲は、直流電流を用いた直線分極抵抗法で得られた分極曲線を用いて定めた。具体的には、分極曲線を二直線近似することで二つの分極直線を算出する。その際、定量的に曲線を直線近似するために、各直線における相関係数Rの二乗値の和が最大となるように近似直線を決定する。その二直線近似が交わる電流密度を有効範囲の閾値として決定する。そして、得られた閾値以下の電流密度をモデル1の有効電流密度範囲とし、得られた閾値を超える電流密度をモデル2の有効電流密度範囲とした。
【0035】
【表1】
【0036】
2.電流密度算出工程
目安構造物を潜伏期の橋梁とし、モデル1における必要分極量V1を100mVとしたときの目安電流密度Xを上記(1)式を用いて算出すると、0.60mA/m2であった。
【0037】
3.鋼材必要電流算出工程
電流密度算出工程で算出された目安電流密度(0.60mA/m2)に目安構造物における鋼材の表面積250m2を乗ずることで目安必要電流を算出すると、150mAであった。
【0038】
4.必要電圧算出工程
目安必要電流(150mA)に目安構造物である橋梁の電気抵抗(30Ω)を乗ずることで目安必要電圧を算出すると、4.5Vであった。
【0039】
5.電池容量算出工程
目安必要電流(150mA)を単位時間あたりの消費電流(0.15Ah)として該消費電流に電気防食を継続する時間(7日間、即ち168時間)と電池の実効値(80%)とを乗ずることで目安電池容量を算出すると、31.5Ahであった。
【0040】
6.電池選択工程
目安必要電圧(4.5V)及び目安電池容量(31.5Ah)に基づいて防食用の電池を選択する。具体的には、電圧2Vで且つ電流25Ahの電池を3つ直列接続したセットを2つ並列接続することで、目安必要電圧及び目安電池容量を満たすことができる。
【0041】
7.通電試験工程
電気防食の対象となるコンクリート構造物に対して陽極材を取り付け、前記目安必要電流(150mA)及び目安必要電圧(4.5V)に基づいて通電試験を行うことで、真必要電圧及び真必要電流を求めると、真必要電圧が3Vであり、真必要電流が120mAであった。
【0042】
8.真電池容量算出工程
前記真必要電流(120mA)を単位時間あたりの消費電流(0.12Ah)として該消費電流に電気防食を継続する時間(7日間、即ち168時間)と電池の実効値(80%)とを乗ずることで真電池容量を算出すると、25.2Ahであった。
【0043】
9.電池選択工程
前記真必要電圧(3V)及び真電池容量(25.2Ah)に基づいて防食用の電池を選択する。具体的には、電圧2Vで且つ電流12Ahの電池を2つ直列接続したセットを3つ並列接続することで、真必要電圧及び真電池容量が得られた。
【0044】
<第二実施形態>
以下、本発明の第二実施形態について、図1,2を参照しつつ説明する。
【0045】
本実施形態に係る防食用の電池の選択方法は、第一実施形態と同様に、コンクリート構造物中に埋設された鋼材に対して陽極材から電流を供給して電気防食を行うに際し、電流を供給する手段として電池を用いる場合に使用されるものである。具体的には、電気防食の対象となるコンクリート構造物に対して分極試験を行い、その結果に基づいて防食用の電池の選択を行う方法である。また、本実施形態に係る防食用の電池の選択方法は、自然電位測定工程と、インスタントオフ電位測定工程と、構造物必要電流算出工程と、電池容量算出工程と、電池選択工程とから構成される。更に、通電試験工程と、真電池容量算出工程と、電池選択工程とを備える。
【0046】
<自然電位測定工程>
電気防食の対象となるコンクリート構造物(以下、対象構造物とも記す)に対して、鋼材へ電流が供給されていない状態で照合電極を基準に鋼材の自然電位を測定する。
【0047】
<インスタントオフ電位測定工程>
鋼材へ電流を供給し、対象構造物おける陽極材が設置される領域(以下、陽極材設置領域とも記す)における電流密度(陽極材設置領域の単位面積あたりの電流密度)に対する鋼材のインスタントオフ電位を照合電極を基準に測定する。インスタントオフ電位は、電流を供給して鋼材の電位を安定させた後、電流を遮断した直後に照合電極を基準に鋼材の電位を測定すること求めることができる。インスタントオフ電位の測定は、複数の電流密度において行われる。なお、該電流密度に対するインスタントオフ電位の測定は、土木学会「電気化学的防食工法設計施工指針(案)」の「4.10 初期通電調整」に記載の方法で行うことができる。
【0048】
そして、各電流密度に対するインスタントオフ電位の値をグラフにプロットすることで、図1に示すような電流密度に対するインスタントオフ電位のグラフを作成する。又は、測定された各インスタントオフ電位と自然電位との差から分極量を算出し、図2に示すような分極量に対する電流密度のグラフ、及び、分極量に対するインスタントオフ電位(電圧)のグラフを作成する。
【0049】
<構造物必要電流算出工程>
前記自然電位と前記インスタントオフ電位との差である分極量として鋼材の電気防食に必要な必要分極量(100mV程度)が得られるときの前記電流密度に、対象構造物の陽極設置領域の面積を乗ずることで鋼材の電気防食に必要な必要電流(以下、目安必要電流とも記す)を算出する。具体的には、図1に示すグラフにおける電流密度が0mA/m2であるときのインスタントオフ電位が前記自然電位に相当するものであるため、斯かるインスタントオフ電位と任意のインスタントオフ電位との差が分極量となる。そして、斯かる分極量が必要分極量となる位置の電流密度を読み取り、該電流密度に対象構造物の陽極設置領域の面積を乗ずることで目安必要電流を算出する。又は、図2に示すグラフにおける必要分極量となる位置の電流密度を読み取り、該電流密度に対象構造物の陽極設置領域の面積を乗ずることで目安必要電流を算出する。
【0050】
<電池容量算出工程>
前記目安必要電流を単位時間あたりの消費電流として該消費電流に電気防食を継続する時間と電池の実効値とを乗ずることで電池容量(以下、目安電池容量とも記す)を算出する。
【0051】
<電池選択工程>
前記必要分極量が得られるときのインスタントオフ電位を目安必要電圧とする。具体的には、図1,2のグラフにおける必要分極量の位置のインスタントオフ電位を目安必要電圧とする。そして、該目安必要電圧及び前記目安電池容量に基づいて防食用電池を選択する。具体的には、既存の電池を直列及び/又は並列に連結することで、目安必要電圧及び目安電池容量が得られるように複数の電池を選択する。
【0052】
<通電試験工程>
電気防食の対象となるコンクリート構造物に対して陽極材を取り付け、前記目安必要電流及び目安必要電圧に基づいて通電試験を行うことで、鋼材の分極量が効果的に防食を行うことができる必要分極量となる際の必要電圧(以下、真必要電圧とも記す)と必要電流(以下、真必要電流とも記す)を求める。具体的には、目安必要電流及び目安必要電圧の近傍の電流及び電圧で通電試験を行って分極量を求める作業を繰り返すことで真必要電流及び真必要電圧を求める。
【0053】
<真電池容量算出工程>
前記真必要電流を単位時間あたりの消費電流として該消費電流に電気防食を継続する時間と電池の実効値とを乗ずることで電池容量(以下、真電池容量とも記す)を算出する。
【0054】
<電池選択工程>
前記真必要電圧及び真電池容量に基づいて防食用の電池を選択する。具体的には、既存の電池を直列及び/又は並列に連結することで、真必要電圧及び真電池容量が得られるように複数の電池を選択する。
【実施例2】
【0055】
以下、実施例および比較例を用いて本実施形態を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
1.分極試験
対象構造物を潜伏期の橋梁とし、該対象構造物に対して自然電位測定工程及びインスタントオフ電位測定工程を行うことで、図2,3に示すグラフを作成した。
【0057】
2.構造物必要電流算出工程
図2に示すグラフにおける必要分極量(100mV)となる位置の電流密度(陽極材設置領域の単位面積あたりの電流密度)を読み取り、該電流密度(8.0mA/m2)に対象構造物の陽極設置領域の面積(150m2)を乗ずることで目安必要電流を算出すると、1200mAであった。また、図3に示すグラフにおける必要分極量(100V)となる位置の電圧(インスタントオフ電位)を読み取り、該電圧(1.9V)を目安必要電圧とした。
【0058】
3.電池容量算出工程
目安必要電流(1200mA)を単位時間あたりの消費電流(1.2Ah)として該消費電流に電気防食を継続する時間(7日間、即ち168時間)と電池の実効値(80%)とを乗ずることで目安電池容量を算出すると、201.6Ahであった。
【0059】
4.電池選択工程
目安必要電圧(1.9V)及び目安電池容量(201.6Ah)に基づいて防食用の電池を選択する。具体的には、電圧2Vで且つ電流25Ahの電池を9つ並列接続することで、目安必要電圧及び目安電池容量が得られた。
【0060】
5.通電試験工程
前記目安必要電流(1200mA)及び目安必要電圧(1.9V)に基づいて、電気防食の対象となるコンクリート構造物に対して通電試験を行うことで、真必要電圧及び真必要電流を求めると、真必要電圧が1.8Vであり、真必要電流が1000mAであった。
【0061】
6.真電池容量算出工程
前記真必要電流(1000mA)を単位時間あたりの消費電流(1.0Ah)として該消費電流に電気防食を継続する時間(7日間、即ち168時間)と電池の実効値(80%)とを乗ずることで真電池容量を算出すると、210Ahであった。
【0062】
7.電池選択工程
前記真必要電圧(1.8V)及び真電池容量(210Ah)に基づいて防食用の電池を選択する。具体的には、電圧2Vで且つ電流25Ahの電池を9つ並列接続することで、真必要電圧及び真電池容量が得られた。
【0063】
以上のように、本発明に係る防食用電池の選択方法は、コンクリート構造物の電気防食を行う際の外部電源として電池を用いる場合に、電池の構成を効率的に選択することができる。
【0064】
即ち、鋼材必要電流算出工程や構造物必要電流算出工程によって必要電流の目安値を把握することができ、必要電圧算出工程やインスタントオフ電位から必要電圧の目安値を把握することができるため、これらの目安値に基づいて、実際の通電試験を行うことで、実際の必要電圧及び必要電流を効率的に測定することができる。また、電池選択工程によって必要分極量を得るために必要な防食用電池の構成の目安を把握することができるため、上述の実際の必要電流及び必要電圧に加えて防食用電池の構成の目安に基づいて実際に必要な防食用電池の構成を効率的に選択することができる。
【0065】
なお、本発明に係る防食用の電池の選択方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0066】
例えば、上記第一実施形態では、鋼材表面積あたりの目安電流密度を算出しているが、これに限定されるものではなく、斯かる目安電流密度をコンクリート構造物の陽極設置領域の面積に対する鋼材の表面積の割合(鋼材表面積比)で除することで、陽極設置領域の単位面積あたりの電流密度を算出してもよい。
【0067】
また、上記第二実施形態では、土木学会「電気化学的防食工法設計施工指針(案)」の「4.10 初期通電調整」に記載の方法で分極試験を行っているが、これに限定されるものではなく、例えば、特開2013−181778号に記載の方法で分極試験を行ってもよい。斯かる場合には、分極量に対する電流密度(鋼材表面積あたりの電流密度)のグラフを得ることができる。このため、必要分極量の位置における電流密度を目安電流密度(鋼材表面積あたりの電流密度)とすることができる。又は、斯かる目安電流密度(鋼材表面積あたりの電流密度)に(鋼材表面積比)を乗じてコンクリート構造物の陽極設置領域の単位面積あたりの電流密度を目安電流密度として算出してもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、目安必要電圧及び真必要電圧をそのまま用いているが、これに限定されるものではなく、各必要電圧を整数値(偶数値)となるように切り上げた数値を各必要電圧(補正後の各必要電圧とも記す)としてもよい。また、補正後の各必要電圧に対する補正前の各必要電圧の割合を目安電池容量及び真電池容量に乗じて各電池容量を補正してもよい。
図1
図2
図3