(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの多層反射膜と吸収層との間に多層反射膜の保護層がさらに形成されており、該多層反射膜の保護層まで形成された段階で前記第1の欠陥分布記憶工程を実施する、請求項1に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの検査方法。
EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの吸収層上に、マスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層がさらに形成されており、該低反射層まで形成された段階で前記第2の欠陥分布記憶工程を実施する、請求項1または2に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの検査方法。
前記多層反射膜上に該多層反射膜の保護層を形成する工程をさらに有し、該保護層を形成する工程の実施後に、前記第1の欠陥分布記憶工程を実施する、請求項4に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの吸収層上に、マスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層を形成する工程をさらに有し、該低反射層を形成する工程の実施後に前記第2の欠陥分布記憶工程を実施する、請求項4または5に記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
前記吸収層における、波長150〜600nmの範囲に属する、検査光線波長における光線反射率が20%以上である、請求項4〜7のいずれかに記載のEUVリソグラフィ用反射型マスクブランクの製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体産業において、Siウェハーなどの基板に微細なパターンからなる集積回路を形成する上で必要な微細パターンの転写技術として、可視光や紫外光を用いたフォトリソグラフィ法が用いられてきた。フォトリソグラフィ法とは、フォトマスク上に形成された集積回路パターンが、露光機の投影光学系を介してウェハー上のレジストに縮小投影され、ウェハー上のレジストに集積回路パターンが形成される手法である。半導体デバイスのパターン微細化により、フォトマスク上の集積回路パターンをウェハー上レジストに転写する際に用いる露光機の光源光は、波長193nmのArFエキシマレーザから、短波長のEUV光に代わることが将来有望視されている。EUV光とは、軟X線領域または真空紫外線領域の波長の光線をさし、具体的には波長5〜20nm、特に13.5nm±0.3nmの光線を指す。
【0003】
EUV光は、あらゆる物質に対して吸収されやすく、かつ屈折率が1に近いため、従来の可視光または紫外光を用いたフォトリソグラフィのような屈折光学系を使用することができない。このため、EUV光リソグラフィでは、反射光学系、すなわち反射型フォトマスクとミラーとが用いられる。
【0004】
マスクブランクは、フォトマスクを製造するために用いられるパターニング前の積層体である。EUVマスクブランクの場合、ガラス製等の基板上にEUV光を反射する反射層と、EUV光を吸収する吸収層とがこの順で形成された構造を有している。反射層としては、高屈折層と低屈折層とを交互に積層した多層反射膜が一般的に使用される。多層反射膜においては、高屈折層と低屈折層の界面が複数存在するが、各界面から生じる微弱な反射光の位相が同一となるように高屈折層と低屈折層の膜厚を調整することにより、高い反射率を得るものである。このため、多層反射膜を構成する高屈折層と低屈折層は所定の膜厚からなる規則的な周期構造を有することが求められる。また多層反射膜の最表面には吸収層をパターニングする際のエッチングに対して耐性のある保護膜が形成されている場合もある。本発明では、多層反射膜上に保護膜が形成されている場合は、多層反射膜に保護層を含めたものを多層反射膜と言う。吸収層には、EUV光に対する吸収係数の高い材料、具体的にはたとえば、CrやTaを主成分とする材料が用いられる。吸収層の最表面にはパターニング後の検査でパターン形状を検出しやすくするためにパターニング後の検査で用いられる検査光波長の光の反射率の低い低反射層が形成されている場合もある。
【0005】
EUVマスクブランクにおいて、問題となる欠陥として、位相欠陥(Phase Defect)と振幅欠陥(Amplitude Defect)が存在する。基板表面に存在するピット、スクラッチや異物などの局所的な凹凸や多層反射膜に混入した異物は、これらの上部に堆積された多層反射膜の層の周期構造に乱れを生じさせ、露光機にセットされたフォトマスクから反射されるEUV光の位相を局所的に変化させる。位相欠陥を有するEUVマスクブランクを用いたフォトマスクをEUV露光機にセットし、フォトマスク上のパターンをウェハーに転写する場合、ウェハーに転写されたパターンは所望のパターンと異なる不完全なものとなり、問題である。このため、所定のサイズ以上の位相欠陥を0個にする必要がある。一方、多層反射膜の表面付近の異物及び吸収層中に混入する異物は、EUV光を吸収し多層反射膜からのEUV反射光の強度を低下させる悪影響がある。振幅欠陥を有するEUVマスクブランクを用いたフォトマスクをEUV露光機にセットし、フォトマスク上のパターンをウェハーに転写する場合も、ウェハーに転写されたパターンは所望のパターンと異なる不完全なものとなり、問題である。このため、所定のサイズ以上の振幅欠陥も0個にする必要がある。
【0006】
EUVマスクブランクの位相欠陥および振幅欠陥の検出方法としては、EUV光を用いた暗視野検査方法と、DUV(Deep Ultra Violet:深紫外)光(波長150〜380nm)または可視光(波長380〜600nm)を用いた明視野検査方法(Bright Field Inspection)もしくは暗視野検査方法(Dark Field Inspection)を挙げることができる。明視野検査方法では、検査対象に検査光を照射して得られる反射光の強度を測定する。ここで欠陥が存在する部位からの反射光強度と欠陥が存在しない正常な部位からの反射光強度は互いに異なり、かつこの差異は欠陥のサイズと相関があることから、この差異を利用して欠陥の存在位置及び欠陥のサイズを特定する。一方、暗視野検査方法では、検査対象に検査光を照射して得られる散乱光の強度を測定する。ここで欠陥が存在する部位からの散乱光強度と欠陥が存在しない部位からの散乱光強度は互いに異なり、かつこの差異は欠陥の大きさと相関があることから、この差異を利用して欠陥の存在位置及び欠陥のサイズを特定する。
EUV光を用いた暗視野検査方法は、多層反射膜形成後の位相欠陥検出方法として有用である。非特許文献1には、EUV光を用いた多層反射膜形成後の暗視野検査方法は、半値幅36nm、高さ1nmの凸状位相欠陥を検出できることが示されている。この凸状欠陥がガウス関数形状であると仮定すれば、この欠陥の球相当直径(欠陥の体積を球に換算した時の直径、Sphere Equivalent Volume Diameter(以下SEVD))を非特許文献4に従い算出すると、14nmとなり、非常に小さなサイズの位相欠陥を検出することができる。しかしながら、EUV光を用いた暗視野検査方法の場合、多層反射膜の表面付近の異物に起因する振幅欠陥の検出感度は、基板表面に存在する局所的な凹凸や多層反射膜に混入した異物に起因する位相欠陥の検出感度と比べて、低いことが知られている。具体的には、非特許文献2にて、EUV光を用いた暗視野検査方法で安定して検出できる最小振幅欠陥サイズは100nmと報告されており、前述の位相欠陥と比べて振幅欠陥の検出下限サイズは7倍大きく、振幅欠陥の検出感度が不足する問題がある。
一方、DUV光または可視光を用いた明視野検査方法もしくは暗視野検査方法は、位相欠陥および振幅欠陥を同程度の検出感度で検出できることが知られている。具体的に、非特許文献3には、波長266nmを用いた暗視野検査方法で安定して検出できる最小位相欠陥サイズは、半値幅85nm、高さ2.7nmの凸状欠陥と報告されている。非特許文献4に記載された方法に従って、この欠陥のSEVDを求めると35nmである。一方、波長266nmを用いた暗視野検査方法で安定して検出できる最小振幅欠陥サイズは、非特許文献3によれば、多層反射膜表面に散布したシリカ粒子を用いて評価した結果、SEVD45nmと報告されている。従って、波長266nmを用いた暗視野検査方法は、EUV光を用いた暗視野検査方法と比べて、位相欠陥の検出感度は劣るものの、振幅欠陥の検出感度が大きく優れる。
【0007】
従って、EUV光を用いた暗視野検査方法は、位相欠陥の検出性に優れるものの振幅欠陥の検出性に劣り、一方、DUV光または可視光を用いた明視野検査方法もしくは暗視野検査方法は、振幅欠陥と位相欠陥に対する検出性は同程度であるものの、位相欠陥の検出性がEUV光を用いた暗視野検査方法と比べて劣り、位相欠陥と振幅欠陥の両者を安定して検出できる方法が存在なかった。この問題を解決するため、特許文献1にて、EUV光源とDUV光源の両光源を備えたEUVマスク検査装置により、EUVマスクまたはEUVマスクブランクに対して、EUV光を用いた暗視野検査方法と、DUV光を用いた暗視野検査と、を両方実施することで、位相欠陥と振幅欠陥を検出する方法が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
位相欠陥及び振幅欠陥の原因となる基板表面に存在する異物や各種膜中に混入する異物は、EUVマスクブランクを製造する工程での製造装置、製造過程で使用される部材や雰囲気に由来し、化学的成分には様々なものがある。具体的に、位相欠陥となる基板表面に存在する凸状異物や多層反射膜に混入した異物、及び振幅欠陥となる多層反射膜の表面付近の異物は、ステンレスなど金属系異物、ガラスなどの無機系異物、カーボンなどの有機物系の異物など複数の種類の成分が考えられる。基板表面に存在する凸状異物や多層反射膜に混入した異物からなる位相欠陥の場合、異物は多層膜にて覆われており、その欠陥を検出する段階において、表面の化学的成分は、欠陥が有る部位と欠陥が無い正常な部位は同一である。このため、位相欠陥を検出する場合、その検出性は位相欠陥を構成する異物の化学的成分に依らず、異物のサイズによって一義的に決まる。しかしながら、多層反射膜付基板に対してDUV光を用いた明視野検査もしくは暗視野検査方法を用いて振幅欠陥を検出する場合、欠陥が検査対象の表面に露出しているため、たとえ同じサイズの異物であっても異物の成分によって振幅欠陥に伴う散乱光、反射光や透過光の強度変化量が異なるため、振幅欠陥の位置を検出することはできるものの、そのサイズを必ずしも正確に求めることができない問題があった。すなわち、一般的に、金属などの無機系異物と比べて、有機系の異物はDUV光における吸収率・屈折率が比較的大きく、有機系異物の方が、無機系異物と比べて、散乱光、反射光や透過光への影響が小さく、有機系異物に因る散乱光、反射光や透過光の変化量は、無機系異物のそれらと比べて小さく、たとえ同じ物理サイズの欠陥であったとしても、有機系異物の方が無機系異物と比べて、実際のサイズより小さなサイズの異物として検出されてしまい、欠陥のサイズが過小評価されてしまう問題があった。具体例として、多層反射膜表面に直径が既知のシリカ球とポリスチレンラテックス樹脂球を付着させ、波長488nmの可視光を用いた暗視野検査装置(レーザテック社製M1350)にて検査を行い、多層反射膜表面の球に因る散乱光強度変化量と球直径(SEVD)の関係を
図4に示す。同じ散乱光強度変化量にて検出されたシリカ球とポリスチレンラテックス樹脂球の直径を比較すると、前者の方が後者に比べて大きく、両者が異なることが判る。従い、多層反射膜付基板に対して振幅欠陥検査を行う場合、振幅欠陥の正確なサイズを見積もることが難しく、許容できない振幅欠陥を有するブランクがフォトマスク製造工程に流出するリスクがあった。
【0011】
上記した従来技術の問題点を解決するため、本発明は、位相欠陥と振幅欠陥を効率的に検出でき、かつ、振幅欠陥のサイズを正確に見積もることができ、許容できない振幅欠陥の流出を防ぐことができるEUVマスクブランクの検査方法、該検査方法を用いたEUVマスクブランクの製造方法、およびEUVマスクブランクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の目的を達成するため、基板上に、EUV光を反射する多層反射膜と、EUV光を吸収する吸収層と、がこの順に形成されたEUVマスクブランクの検査方法であって、
前記基板上に前記多層反射膜が形成された段階で、該多層反射膜の表面にEUV光を照射することによって、該多層反射膜における欠陥の面内分布を検出し、検出した第1の欠陥面内分布データを記憶する第1の欠陥分布記憶工程と、
前記多層反射膜上に前記吸収層が形成された段階で、該吸収層の表面に波長150〜600nmの光を照射することによって、前記吸収層からの欠陥の面内分布を検出し、検出した第2の欠陥面内分布データを記憶する第2の欠陥分布記憶工程と、
第1の欠陥面内分布データと第2の欠陥面内分布データとの比較により、EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクにおける位相欠陥と振幅欠陥とを識別する欠陥識別工程と、
を含む、EUVマスクブランクの検査方法を提供する。
【0013】
本発明のEUVマスクブランクの検査方法において、EUVマスクブランクの多層反射膜と吸収層との間に多層反射膜の保護層がさらに形成されており、該多層反射膜の保護層まで形成された段階で前記第1の欠陥分布記憶工程を実施する。
【0014】
本発明のEUVマスクブランクの検査方法において、EUVマスクブランクの吸収層上に、マスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層がさらに形成されており、該低反射層まで形成された段階で前記第2の欠陥分布記憶工程を実施する。
【0015】
また、本発明は、基板上に、EUV光を反射する多層反射膜、該多層反射膜の保護層、および、EUV光を吸収する吸収層、がこの順に形成されたEUVマスクブランクの検査方法であって、
前記基板上に前記多層反射膜および該多層反射膜の保護層が形成された段階で、該多層反射膜の保護層の表面にEUV光を照射することによって、前記多層反射膜および該多層反射膜の保護層における欠陥の面内分布を検出し、検出した第1の欠陥面内分布データを記憶する第1の欠陥分布記憶工程と、
前記多層反射膜の保護層上に前記吸収層が形成された段階で、該吸収層の表面に波長150〜600nmの光を照射することによって、前記吸収層からの欠陥の面内分布を検出し、検出した第2の欠陥面内分布データを記憶する第2の欠陥分布記憶工程と、
第1の欠陥面内分布データと第2の欠陥面内分布データとの比較により、EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクにおける位相欠陥と振幅欠陥とを識別する欠陥識別工程と、
を含む、EUVマスクブランクの検査方法を提供する。
【0016】
また、本発明は、基板上に、EUV光を反射する多層反射膜、該多層反射膜の保護層、EUV光を吸収する吸収層、および、マスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層がこの順に形成されたEUVマスクブランクの検査方法であって、
前記基板上に前記多層反射膜および該多層反射膜の保護層が形成された段階で、該多層反射膜の保護層の表面にEUV光を照射することによって、前記多層反射膜および該多層反射膜の保護層における欠陥の面内分布を検出し、検出した第1の欠陥面内分布データを記憶する第1の欠陥分布記憶工程と、
前記多層反射膜の保護層上に前記吸収層および前記低反射層が形成された段階で、該低反射層の表面に波長150〜600nmの光を照射することによって、前記吸収層および前記低反射層からの欠陥の面内分布を検出し、検出した第2の欠陥面内分布データを記憶する第2の欠陥分布記憶工程と、
第1の欠陥面内分布データと第2の欠陥面内分布データとの比較により、EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクにおける位相欠陥と振幅欠陥とを識別する、欠陥識別工程と、
を含む、EUVマスクブランクの検査方法を提供する。
【0017】
また、本発明は、基板上に、EUV光を反射する多層反射膜を形成する工程と、
前記多層反射膜の表面にEUV光を照射することによって、該多層反射膜における欠陥の面内分布を検出し、検出した第1の欠陥面内分布データを記憶する第1の欠陥分布記憶工程と、
前記多層反射膜上にEUV光を吸収する吸収層を形成する工程と、
前記吸収層の表面に波長150〜600nmの光を照射することによって、前記吸収層からの欠陥の面内分布を検出し、検出した第2の欠陥面内分布データを記憶する第2の欠陥分布記憶工程と、
第1の欠陥面内分布データと第2の欠陥面内分布データとの比較により、EUVリソグラフィ用反射型マスクブランクにおける位相欠陥と振幅欠陥とを識別する、振幅欠陥識別工程と、
を含む、EUVマスクブランクの製造方法を提供する。
【0018】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法は、前記多層反射膜上に該多層反射膜の保護層を形成する工程をさらに有してもよい。この場合、該保護層を形成する工程の実施後に、前記第1の欠陥分布記憶工程を実施する。
【0019】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法において、EUVマスクブランクの吸収層上に、マスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層を形成する工程をさらに有してもよい。この場合、該低反射層を形成する工程の実施後に前記第2の欠陥分布記憶工程を実施する。
【0020】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法において、前記吸収層を形成する工程における圧力が3.0×10
-2[Pa]以上、1.5×10[Pa]以下であることが好ましい。
【0021】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法において、前記吸収層における、波長150〜600nmの範囲に属する、検査光線波長における光線反射率が20%以上であることが好ましい。
【0022】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法において、前記吸収層における欠陥の成長角度が0[deg]以上であることが好ましい。
【0023】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法において、前記多層反射膜表面の二乗平均粗さ(Root Mean Square Roughness)Rqが0.30[nm]以下であり、かつ、前記吸収層表面の二乗平均粗さRqが0.50[nm]以下であることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、基板上に、EUV光を反射する多層反射膜と、EUV光を吸収する吸収層と、がこの順に形成されたEUVマスクブランクであって、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズに対する、同振幅欠陥に起因する吸収層表面の局所的な凹凸のサイズの比率、すなわち下地欠陥サイズ増幅率が1以上2以下であるEUVマスクブランクを提供する。
【0025】
本発明のEUVマスクブランクは、前記下地欠陥サイズ増幅率が1以上1.5以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明のEUVマスクブランクの検査方法では、基板上に多層反射膜が形成された段階でEUV光を用いた暗視野検査を実施し、多層反射膜上に前記吸収層が形成された段階でDUV光または可視光を用いた明視野検査もしくは暗視野検査を実施することにより、高い精度で位相欠陥と振幅欠陥を識別でき、かつ、許容サイズ以上の振幅欠陥を漏れなく検出できる。本発明の検査方法で検出された振幅欠陥は、フォトマスク製造工程において、収束イオンビームや電子線、原子間力顕微鏡などの公知の方法を用いて修正することができるため、本発明により、修正することができない許容サイズ以上の振幅欠陥を含まないEUVマスクブランクを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明のEUVマスクブランクの検査方法、および、EUVマスクブランクの製造方法について説明する。
図1は、本発明の方法により、検査される、または、製造されるEUVマスクブランクの一実施形態を示す概略断面図である。
図1に示すEUVマスクブランク1は、基板11上にEUV光を反射する多層反射膜12と、EUV光を吸収する吸収層14とがこの順に形成されている。多層反射膜12は、高いEUV反射率が得るため、EUV光に対して低屈折率となる低屈折率膜と、EUV光に対して高屈折率となる高屈折率膜とを交互に複数回積層させている。多層反射膜12と吸収層14との間には、吸収層14へのパターン形成時に多層反射膜12を保護するための保護層13が形成されている。
なお、本発明のEUVマスクブランクにおいて、
図1に示す構成中、基板11、多層反射膜12、および、吸収層14のみが必須であり、保護層13は任意の構成要素である。 以下、マスクブランク1の個々の構成要素について説明する。
【0029】
基板11は、EUVマスクブランク用の基板としての特性を満たすことが要求される。 そのため、基板11は、低熱膨張係数(0±1.0×10
-7/℃が好ましく、より好ましくは0±0.3×10
-7/℃、さらに好ましくは0±0.2×10
-7/℃、さらに好ましくは0±0.1×10
-7/℃、特に好ましくは0±0.05×10
-7/℃)を有し、平滑性、平坦度、およびマスクブランクまたはパターン形成後のフォトマスクの洗浄等に用いる洗浄液への耐性に優れたものが好ましい。基板11としては、具体的には低熱膨張係数を有するガラス、例えばSiO
2−TiO
2系ガラス等を用いるが、これに限定されず、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスや石英ガラスやシリコンや金属などの基板も使用できる。また、基板11上に応力補正膜のような膜を形成してもよい。
基板11は、0.15nm以下の平滑な表面を有していることが、後述する第1の欠陥分布記憶工程において必要な小さいサイズの位相欠陥を検出することができるため、好ましい。また基板11は、100nm以下の平坦度を有していることがパターン形成後のフォトマスクにおいて優れたパターン転写精度が得られるために好ましい。
基板11の大きさや厚さなどはマスクの設計値等により適宜決定される。後で示す実施例では、外形6インチ(152.4mm)角で、厚さ0.25インチ(6.3mm)のSiO
2−TiO
2系ガラスを用いる。
【0030】
EUVマスクブランクの多層反射膜12に特に要求される特性は、高いEUV反射率が得られることである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を多層反射膜12表面に入射角度6度で照射した際の、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値は、60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、64%以上がさらに好ましい。また、多層反射膜12の上に保護層13を設けた場合であっても、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値は、60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、64%以上がさらに好ましい。
上記の特性を満たす多層反射膜12としては、Mo膜とSi膜とを交互に積層させたMo/Si多層反射膜が最も一般的である。但し、多層反射膜はこれに限定されず、Be膜とMo膜とを交互に積層させたBe/Mo多層反射膜、Si化合物膜とMo化合物膜とを交互に積層させたSi化合物/Mo化合物多層反射膜、Si膜、Mo膜およびRu膜をこの順番に積層させたSi/Mo/Ru多層反射膜、Si膜、Ru膜、Mo膜およびRu膜をこの順番に積層させたSi/Ru/Mo/Ru多層反射膜も使用できる。
【0031】
多層反射膜12を構成する各層の膜厚および層の繰り返し単位の数は、使用する膜材料および反射層に要求されるEUV光の反射率に応じて適宜選択できる。Mo/Si多層反射膜を例にとると、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値が60%以上にするには、膜厚2.3±0.1nmのMo膜と、膜厚4.5±0.1nmのSi膜とを繰り返し単位数が30〜60になるように積層させればよい。
【0032】
高EUV反射率及び後述する第1の欠陥分布記憶工程において必要な位相欠陥検出性を達成するため、多層反射膜12はその表面が平滑であることが好ましい。具体的には、多層反射膜12表面の二乗平均粗さRqが0.30nm以下であることが好ましく、0.25nm以下であることがより好ましく、0.20nm以下であることがさらに好ましい。
多層反射膜12の上に保護層13を設けた場合、保護層13表面の二乗平均粗さRqが上記範囲を満たすことが好ましい。
【0033】
本発明のEUVマスクブランクの製造方法では基板11の成膜面上に多層反射膜12を形成する。基板11の成膜面に多層反射膜12を形成する手順は、イオンビームスパッタリング法やマグネトロンスパッタリング法を用いて多層反射膜を形成する際に通常実施される手順であってよい。
例えば、イオンビームスパッタリング法を用いてMo/Si多層反射膜を形成する場合、ターゲットとしてMoターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧:1.3×10
-2Pa〜2.7×10
-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ2.3nmとなるようにMo膜を成膜し、次に、ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタガスとしてArガス(ガス圧:1.3×10
-2Pa〜2.7×10
-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ4.5nmとなるようにSi膜を成膜することが好ましい。これを1周期として、Mo膜およびSi膜を40〜50周期積層させることによりMo/Si多層反射膜が形成される。多層反射膜12を形成する際、均一な成膜を得るために、回転体を用いて基板11を回転させながら成膜することが好ましい。
【0034】
保護層13は、エッチングプロセス、通常はドライエッチングプロセスにより吸収層14にパターン形成する際に、多層反射膜12がエッチングプロセスによるダメージを受けないよう、多層反射膜12を保護する目的で設けられる。したがって保護層の材質としては、多層反射膜12のエッチングプロセスによる影響を受けにくい、つまりこのエッチングレートが吸収層14よりも遅く、しかもこのエッチングプロセスによるダメージを受けにくい物質が選択される。保護層は、RuまたはRu化合物(RuN、RuB、RuSi、RuNb等)を構成材料とすることが好ましい。
【0035】
本発明のEUVマスクブランク1が、多層反射膜12と吸収層14との間に保護層13を有する構成の場合、多層反射膜12上に保護層13を形成してから、後述する第1の欠陥分布記憶工程を実施する。
保護層13は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など周知の成膜方法を用いて形成する。マグネトロンスパッタリング法によりRu膜を成膜する場合、ターゲットとしてRuターゲットを用い、スパッタリングガスとしてArガス(ガス圧1.0×10
-2Pa〜10×10
-1Pa)を使用して投入電圧30V〜1500V、成膜速度0.02〜1.0nm/secで厚さ2〜5nmとなるように成膜することが好ましい。
【0036】
本発明では、基板上に多層反射膜が形成された時点で第1の欠陥分布記憶工程を実施する。第1の欠陥分布記憶工程では、多層反射膜の表面にEUV光を照射することによって、該多層反射膜における位相欠陥の面内分布を検出し、検出した第1の欠陥面内分布データを記憶する。
第1の欠陥分布記憶工程において、多層反射膜の表面にEUV光を照射して、該多層反射膜における位相欠陥の面内分布を検出する手順は、EUV光を用いた暗視野検査方法において通常実施される手順を採用することができる。EUV光を用いた暗視野検査方法では、多層反射膜表面(多層反射膜上に保護層が形成されている場合は保護層表面)に対し、EUV光を垂直方向、または、斜め方向から照射する。多層反射膜(多層反射膜上に保護層が形成されている場合は保護層)に位相欠陥が存在すると、EUV光の散乱光強度が、位相欠陥が無い正常な部位からの散乱光強度と異なるため、散乱光強度の変化を利用して位相欠陥の水平方向の存在位置を取得することができる。さらに、散乱光強度変化量は位相欠陥のサイズと相関があるため、欠陥の相対的なサイズ情報も得ることができる。従って、第1の欠陥分布記憶工程では、位相欠陥を検出し、検出した位相欠陥の面内分布、すなわち位相欠陥が存在する座標と相対的なサイズ情報を記憶する。
EUV光を用いた暗視野検査方法については、特許文献1、特開2013−24772号公報、特開2013−19793号公報に開示されており、これらに記載の手順を参考にすることができる。
【0037】
本発明では、第1の欠陥分布記憶工程の実施後、多層反射膜12上(多層反射膜12上に保護層13が形成されている場合は該保護層13上)に吸収層14を形成する。
EUVマスクブランクの吸収層14に特に要求される特性は、EUV光線反射率が極めて低いことである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を吸収層3表面に照射した際の、波長13.5nm付近の最大光線反射率は、0.5%以下が好ましく、0.1%以下がより好ましい。
上記の特性を達成するため、吸収層14は、EUV光の吸収係数が高い材料で構成される。EUV光の吸収係数が高い材料としては、タンタル(Ta)を主成分とする材料を用いることが好ましい。本明細書において、タンタル(Ta)を主成分とする材料は、当該材料中Taを40at%以上含有する材料を意味する。吸収層3は、50at%以上Taを含有していれば好ましく、55at%以上含有していればより好ましい。
【0038】
吸収層14に用いるTaを主成分とする材料は、Ta以外にハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ジルコニウム(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、パラジウム(Pd)、水素(H)および窒素(N)のうち少なくとも1成分を含有することが好ましい。Ta以外の上記の元素を含有する材料の具体例としては、例えば、TaN、TaNH、TaHf、TaHfN、TaBSi、TaBSiN、TaB、TaBN、TaSi、TaSiN、TaGe、TaGeN、TaZr、TaZrN、TaPd、TaPdNなどが挙げられる。
【0039】
また、吸収層14の厚さは、20〜100nmの範囲が好ましい。
【0040】
吸収層14の表面粗さが大きいと、後述する第2の欠陥分布記憶工程における欠陥の面内分布を検出する感度が低下する。また吸収層14に形成されるパターンのエッジラフネスが大きくなり、パターンの寸法精度が悪くなる。これらの理由により、吸収層14表面は平滑であることが好ましい。具体的には、吸収層14表面の二乗平均粗さRqが0.50nm以下であることが好ましく、0.40nm以下であることがより好ましく、0.30nm以下であることがさらに好ましい。
【0041】
[吸収層成膜の形成条件]
吸収層14は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など周知の成膜方法を用いて形成する。いずれの成膜方法を用いる場合も、吸収層14の形成は減圧環境下で実施されるが、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥が第2の欠陥分布記憶工程にて安定して検出するために、所定の圧力にて実施することが好ましい。具体的には、圧力が3.0×10
-2Pa以上、1.5×10Pa以下の減圧環境下で実施することが好ましい。圧力が3.0×10
-2Pa以上の減圧環境下で吸収層14を形成すると、吸収層14における下地欠陥サイズ増幅率が1以上と大きくなるため好ましい。ここで、下地欠陥サイズ増幅率とは、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のSEVDサイズに対する、同振幅欠陥に起因する吸収層表面の局所的な凹凸のSEVDサイズの比率である。この理由は、圧力が3.0×10
-2Pa以上の減圧環境下では、ターゲットからスパッタされた成膜粒子がプロセスガス粒子と衝突することによって成膜粒子が基板に水平な方向の運動エネルギーを持ち、斜め方向から基板へ入射する成膜粒子が増えるため、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥上に膜が等方的に堆積するからである。但し、圧力が1.5×10Paを超える減圧環境下で吸収層14を形成すると、成膜粒子がプロセスガスと衝突した後、ターゲット表面へ戻ってきて付着し発塵源となり得るため好ましくない。吸収層14の形成は、圧力が1.0×10
-1Pa以上、8.0×10
-1Pa以下の減圧環境下で実施することにより、下地欠陥サイズ増幅率を1以上2以下とすることができ好ましく、2.0×10
-1Pa以上、4.0×10
-1Pa以下の減圧環境下で実施することにより、下地欠陥サイズ増幅率を1以上1.5以下とすることができ、さらに好ましい。また下地欠陥サイズ増幅率を調整する成膜パラメーターとして、圧力以外にRFパワーを挙げることができる。RFパワーは低ければ、圧力を高めたときと同様の現象を期待することができ、下地欠陥サイズ増幅率が大きくなる。好ましいRFパワーは500〜3000Wであり、特に500〜1500Wが好ましい。
マグネトロンスパッタリング法を用いて、吸収層14としてTaN層を成膜する場合、ターゲットとしてTaターゲットを用い、スパッタリングガスとしてN
2ガス(ガス圧:1.8×10
-2Pa〜2.7×10
-2Pa)を使用して、RFパワー1000W、成膜速度0.01〜0.1nm/secで厚さ40〜100nmとなるように成膜することが好ましい。
具体例として、マグネトロンスパッタリング法を用いて、吸収層14としてTaN層を、ターゲットにTaターゲットを用い、スパッタリングガスとしてN
2ガス(ガス圧:2.3×10
-2Pa)を使用して、RFパワー1000W、成膜速度0.1nm/secで厚さ70nmとなるように成膜した場合、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズ(SEVD)と、同振幅欠陥に起因する吸収層表面の局所的な凹凸のサイズ(SEVDA)をそれぞれ原子間力顕微鏡を用いて測定し、それらを比較して示した図を
図3に示す。多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズと比べて、同振幅欠陥に起因する吸収層表面の局所的な凹凸のサイズは大きく、下地欠陥サイズ増幅率は1.36である。また下地欠陥サイズ増幅率は、吸収層成膜前後において多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズを原子間力顕微鏡で測定する以外に、吸収層成膜後に検出された振幅欠陥の断面をSEM観察し、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズと、同振幅欠陥に起因する吸収層表面の局所的な凹凸のサイズを求め、それらの比率にて算出することもできる。
スパッタリング法を用いて、吸収層14を形成する際、均一な膜を得るために、回転体を用いて基板11を回転させながら成膜することが好ましい。
【0042】
本発明では、多層反射膜上に吸収層が形成された時点で第2の欠陥分布記憶工程を実施する。第2の欠陥分布記憶工程では、吸収層の表面に波長150〜600nm光を照射することによって、多層反射膜の表面付近の異物、吸収層内部に存在する異物に起因する振幅欠陥に加えて、第1の欠陥分布記憶工程で検出される位相欠陥の一部を検出し、検出した第2の欠陥面内分布データを記憶する。
【0043】
第2の欠陥分布記憶工程において、吸収層の表面に波長150〜600nm光を照射して、振幅欠陥の面内分布を検出する手順は、DUV光または可視光を用いた明視野検査方法若しくは暗視野検査方法において通常実施される手順を採用することができる。DUV光または可視光を用いた明視野検査方法では、吸収層表面に波長150〜600nm光を照射して、その正反射光の強度を測定する。多層反射膜の位相欠陥や多層反射膜表面付近の異物による振幅欠陥、および吸収層の膜中や表面に異物が存在すると、吸収層の表面に局所的な凹凸が生じる。このような局所的な凹凸が存在する部位からの正反射光の強度は、局所的な段差が存在しない正常な部位と比べて異なるため、正反射光の強度変化を検出することにより、欠陥の存在位置を検出することができる。ここで欠陥がある部位からの正反射光強度と欠陥が無い正常な部位からの正反射光強度の差異は、欠陥の大きさと相関があるため、正反射光強度の変化量により、欠陥の相対的なサイズを求めることもできる。またDUV光または可視光を用いた暗視野検査方法では、吸収層表面に波長150〜600nm光を垂直方向、または、斜め方向から照射して、その散乱光の強度を測定する。明視野検査方法と同様、多層反射膜の位相欠陥や多層反射膜表面付近の振幅欠陥および吸収層の膜中や表面に異物が存在すると、吸収層の表面に局所的な凹凸が生じ、局所的な凹凸が存在する部位からの散乱光強度は、そうした段差が存在しない正常な部位からの散乱光強度と比べて異なるため、この散乱光強度の変化を利用して欠陥の存在位置を検出することができる。また欠陥が存在する部位からの散乱光強度と欠陥が存在しない正常な部位からの散乱光強度の差異は、欠陥の大きさと相関があるため、散乱光強度の変化量を測定することにより、欠陥の相対的なサイズも求めることができる。
DUV光または可視光を用いた暗視野検査方法については、特許文献1に開示されており、これらに記載の手順を参考にすることができる。
【0044】
第2の欠陥分布記憶工程では、吸収層の表面に波長150〜600nm光を照射して、その正反射光の変位により、該吸収層からの欠陥の面内分布を検出するため、吸収層14は、波長150〜600nmの範囲に属する、検査光線波長における光線反射率が高いことが好ましい。具体的には、波長150〜600nmの範囲に属する、検査光線波長における光線反射率が20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。但し、150〜600nmの波長域全体について、光線反射率が20%以上であることは必ずしも必要ではなく、第2の欠陥分布記憶工程で使用する、検査光線の波長における光線反射率が20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。
【0045】
第2の欠陥分布記憶工程は、吸収層形成後に、吸収層の表面に存在する異物を除去する工程を実施した後に、実施することが好ましい。吸収層の表面に存在する異物を除去する方法としては、酸性やアルカリ性などの各種薬液を用いた湿式洗浄や、CO2スノーやArスノーなどを用いた乾式洗浄(例えば、Eco−Snow Systems社製Eco−Snowなど)原子間力顕微鏡を用いた方法(例えば、Rave社製MeRiTなど)を挙げることができる。
【0046】
本発明では、欠陥識別工程を実施する。欠陥識別工程では、第1の欠陥分布記憶工程で得られた第1の欠陥面内分布データと、第2の欠陥分布記憶工程で得られた第2の欠陥面内分布データと、の比較により、EUVマスクブランクにおける振幅欠陥を得る。すなわち、第1の欠陥分布記憶工程で得られる欠陥には位相欠陥のみが含まれている一方、第2の欠陥分布記憶工程で得られる欠陥には、振幅欠陥に加えて、第1の欠陥分布記憶工程で得られた位相欠陥が吸収層表面に凹凸状の局所的な段差を生じさせるために、第1の欠陥分布記憶工程で検出される位相欠陥も含まれている。このため、第2の欠陥面内分布記憶工程で得られた欠陥から、第1の欠陥分布記憶工程で得られた欠陥を取り除くことにより、振幅欠陥のみの欠陥面内分布データ、すなわち振幅欠陥が存在する座標とその相対的なサイズ情報を得ることができる。
【0047】
特許文献1に記載のEUVマスクの検査方法のように、多層反射膜を形成した段階でDUV光を用いた明視野検査もしくは暗視野検査を実施し、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥を検出する場合、該検査で利用する正反射光強度や散乱光強度の振幅欠陥の存在に依る変化量が、振幅欠陥のサイズだけでなく振幅欠陥の化学的成分にも依存するため、振幅欠陥のサイズを安定して正確に検出できない問題がある。
これに対し、本願発明の第2の欠陥分布記憶工程では、多層反射膜上に吸収層が形成された時点でDUV光もしくは可視光を用いて明視野検査もしくは暗視野検査を行い、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥を検出する。この場合、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥は、多層反射膜上への吸収層形成を経て吸収層表面の該当部位に局所的な凹凸を生じさせ、上述のようにその局所的な凹凸による正反射光強度や散乱光強度の変化を利用して明視野検査もしくは暗視野検査にて振幅欠陥の存在位置や相対サイズを得る。ここで多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥は吸収層にて覆われるため、該検査で利用する正反射光強度や散乱光強度の振幅欠陥の存在に因る変化量は、振幅欠陥のサイズにのみ依存し、振幅欠陥の化学的成分に依存しないため、振幅欠陥のサイズを安定して正確検出できる。
【0048】
加えて、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズと比べて、吸収層表面に生じる該当部位の局所的な凹凸のサイズは、吸収層成膜の形成条件によって、小さくしたり大きくしたり調整することができる。吸収層の下地となる多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズに対する、吸収層成膜後に吸収層表面に生じる該当部位の局所的な凹凸のサイズの比率を下地欠陥サイズ増幅率と定義し、同比が1より大きいと、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズと比べて、吸収層成膜後に吸収層表面に生じる該当部位の局所的な凹凸のサイズの方が大きい。また逆に同比が1より小さいと、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズと比べて、吸収層成膜後に吸収層表面に生じる該当部位の局所的な凹凸のサイズの方が小さい。
【0049】
ところで、振幅欠陥は、所定のサイズ以下であれば、フォトマスク製造工程において、収束イオンビーム、電子線や原子間力顕微鏡と利用した各種欠陥修復装置、具体的には日立ハイテクサイエンス社製MR8000、CarlZeiss社製MeRiTやRave社製Merlinなどの装置を用いて除去、修正し、問題無くフォトマスクとして利用することが可能である。あるいは、振幅欠陥の位置に合せてフォトマスクのパターン形成位置を調整する、すなわち振幅欠陥をフォトマスクの吸収層が存在するエリア内に位置させることにより、振幅欠陥が例え存在しても問題無くフォトマスクを使用することができる。ここで除去・修正できるサイズは、吸収層表面の局所的な凹凸のサイズではなく、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズや吸収層中に存在する異物のサイズによって決まる。このため、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズと比べて、吸収層表面に生じる該当部位の局所的な凹凸のサイズは、相対的に大きくなるように、すなわち下地欠陥サイズ増幅率が1以上2以下となるように、さらには1以上1.5以下となるように、吸収層成膜の形成条件を適切に選択することが好ましい。下地欠陥サイズ増幅率を前記好ましい範囲とすることで、所定のサイズ以上の振幅欠陥を確実に第2の欠陥分布記憶工程にて検出することができる。また下地欠陥サイズ増幅率を前記好ましい範囲とするための吸収層成膜の形成条件は、前記[吸収層成膜の形成条件]に示した。
【0050】
本発明において、フォトマスク製造工程にて修正することにより得られたフォトマスクを問題無く使用することができるようにするために、欠陥識別工程で識別された振幅欠陥は、所定のサイズ、個数以下とする必要がある。具体的には、フォトマスクに形成される回路パターンのサイズをP(nm)とすると、欠陥の吸収層表面での球相当直径(欠陥の吸収層表面での体積を球に換算した時の直径、Sphere Equivalent Volume Diameter on Absorber film(以下SEVDA))が下式(1)を満足する必要がある。例えばフォトマスクに形成される回路パターンの幅Pが60nmかつ下地欠陥サイズ増幅率が1.2の場合、本発明の欠陥識別工程で識別された振幅欠陥サイズは、SEVDA≦50nmとする必要がある。ここでPは、例えば、International Technology Roadmap for Semiconductorsの2012年版表LITH6におけるMask minimum primary feature size(nm)の数値を参照すればよい。例えば、2016年の同数値は55nmである。
SEVDA(nm)≦Px下地欠陥サイズ増幅率 ・・・ 式(1)
また本発明において、欠陥識別工程で識別され、かつ式(1)を満たすSEVDAのサイズを有する振幅欠陥は、その個数を10個以下、好ましくは7個以下、さらに好ましくは5個以下とする必要がある。これより多いと、フォトマスク製造工程における修正に多くの時間がかかり、また修正に失敗し得られたフォトマスクが使用できない問題が生じる。
【0051】
なお、本発明の方法により、検査される、または、製造されるEUVマスクブランクは、
図1に示した構成(すなわち、基板11、多層反射膜12、保護層13および吸収層14)以外の構成要素を有していてもよい。
図2は、本発明の方法により、検査される、または、製造されるEUVマスクブランクの別の実施形態を示す概略断面図である。
図2に示すEUVマスクブランク1´では、吸収層14上にマスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層15が形成されている。
【0052】
本発明の方法により、検査される、または、製造されるEUVマスクブランクからEUVマスクを作製する際、吸収層にパターンを形成した後、このパターンが設計どおりに形成されているかどうか検査する。このマスクパターンの検査では、通常、マスクパターン検査光として通常257nm程度のマスクパターン検査光を使用した検査機が使用される。つまり、この257nm程度の光線の反射率の差、具体的には、吸収層14がパターン形成により除去されて露出した面と、パターン形成により除去されずに残った吸収層14表面と、の反射率の差によって検査される。ここで、前者は保護層13表面であり、多層反射膜12上に保護層13を形成しない場合は多層反射膜12表面である。
したがって、257nm程度のマスクパターン検査光の波長に対する保護層13表面(または反射層12表面)と吸収層14表面との反射率の差が小さすぎると検査時のコントラストが悪くなり、正確な検査ができない場合がある。
【0053】
上記した構成の吸収層14は、EUV反射率が極めて低く、EUVマスクブランクの吸収層として優れた特性を有しているが、マスクパターン検査光の波長について見た場合、光線反射率が必ずしも十分低いとは言えない。この結果、検査光の波長での吸収層14表面の反射率と保護層13表面の反射率との差が小さくなり、検査時のコントラストが十分得られないおそれがある。検査時のコントラストが十分得られないと、マスク検査時の保護層13表面(または多層反射膜12表面)においてパターンの欠陥を十分判別できず、正確な欠陥検査を行えないことになる。
【0054】
図2に示すEUVマスクブランク1´のように、吸収層14上に低反射層15を形成することにより、検査時のコントラストが良好となる、別の言い方をすると、マスクパターン検査光の波長での光線反射率が極めて低くなる。このような目的で形成する低反射層15は、マスクパターン検査光を照射した際の、該検査光の波長の最大光線反射率が、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
低反射層15における、マスクパターン検査光の波長の光線反射率が15%以下であれば、該検査時のコントラストが良好である。
【0055】
本明細書において、コントラストは下記式(2)を用いて求めることができる。
コントラスト(%)=((R
2−R
1)/(R
2+R
1))×100 ・・・式(2)
ここで、マスクパターン検査光の波長におけるR
2は保護層13表面(または多層反射膜12表面)での反射率であり、R
1は低反射層15表面での反射率である。なお、上記R
1およびR
2は、
図2に示すEUVマスクブランク1´の吸収層14および低反射層15にパターンを形成した状態で測定する。上記R
2は、パターン形成によって吸収層14および低反射層15が除去され、外部に露出した保護層13表面(または多層反射膜12表面)で測定した値であり、R
1はパターン形成によって除去されずに残った低反射層15表面で測定した値である。
本発明において、上記式で表されるコントラストは、45%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましく、80%以上が特に好ましい。
【0056】
低反射層15は、上記の特性を達成するため、検査光の波長の屈折率が吸収層14よりも低い材料で構成され、その結晶状態はアモルファスが好ましい。
このような低反射層15の具体例としては、Taおよび酸素を主成分とする層が好ましく、特に、TaO、TaON、TaBOやTaBONを主成分とする層が例示される。他の例としては、TaBSiOやTaBSiONを主成分とする層が例示される。
【0057】
低反射層(TaON、TaO、TaBON、TaBO、TaBSiO、TaBSiON)は、上記の構成により、その結晶状態はアモルファスであり、その表面が平滑性に優れている。具体的には、低反射層表面の二乗平均粗さRqが0.5nm以下であればよい。
上記したように、第2の欠陥分布記憶工程における欠陥の面内分布を検出する感度を確保するため、またエッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度の悪化を防止するため、吸収層14表面は平滑であることが要求される。低反射層15は、吸収層14上に形成されるため、同様の理由から、その表面は平滑であることが要求される。
低反射層15表面の二乗平均粗さRqが0.5nm以下であれば、低反射層15表面が十分平滑であるため、エッジラフネスの影響によってパターンの寸法精度が悪化するおそれがない。低反射層15表面の二乗平均粗さRqは0.4nm以下がより好ましく、0.3nm以下がさらに好ましい。
【0058】
吸収層14上に低反射層15を形成する場合、吸収層14と低反射層15との合計厚さは、51〜130nmが好ましい。また、低反射層15の厚さが吸収層14の厚さよりも大きいと、吸収層14でのEUV光吸収特性が低下するおそれがあるので、低反射層15の厚さは吸収層14の厚さよりも薄いことが好ましい。このため、低反射層15の厚さは1〜30nmが好ましく、2〜20nmがより好ましい。
【0059】
低反射層(TaO、TaON、TaBO、TaBON、TaBSiO、TaBSiON)は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法のようなスパッタリング法などの成膜方法を用いて形成できる。
【0060】
本発明の方法により、検査される、または、製造されるEUVマスクブランクが、
図2に示すマスクブランク1´の場合、低反射層15まで形成された段階で、第2の欠陥分布記憶工程を実施する。したがって、第2の欠陥分布記憶工程では、低反射層15の表面に波長150〜600nmの光を照射することによって、該低反射層15からの欠陥の面内分布を検出し、検出した第2の欠陥面内分布データを記憶する。第2の欠陥分布記憶工程で検出される欠陥には、多層反射膜周期構造の乱れによる位相欠陥、および、多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥が低反射層表面に位相欠陥あるいは振幅欠陥として表出したもの、および、吸収層内部あるいは低反射内部に存在する異物、または低反射層表面に存在する異物に起因する振幅欠陥が含まれる。
図2に示すマスクブランク1´の場合、低反射層15が、波長150〜600nmの範囲に属する、検査光線波長における光線反射率が高いことが好ましい。具体的には、波長150〜600nmの範囲に属する、検査光線波長における光線反射率が20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、40%以上であることがさらに好ましい。
なお、
図2に示すEUVマスクブランク1´のように、吸収層14上に低反射層15を形成する構成が好ましいのは、マスクパターン検査光の波長とEUV光の波長とが異なるからである。したがって、マスクパターン検査光としてEUV光(13.5nm付近)を使用する場合、吸収層14上に低反射層15を形成する必要はないと考えられる。マスクパターン検査光の波長は、パターン寸法が小さくなるに伴い短波長側にシフトする傾向があり、将来的には193nm、さらには13.5nmにシフトすることも考えられる。また、検査光の波長が193nmである場合、吸収層14上に低反射層15を形成する必要はない場合がある。さらに、マスクパターン検査光の波長が13.5nmである場合、吸収層14上に低反射層15を形成する必要はないと考えられる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
[参考例]
多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥のサイズを原子間力顕微鏡で測定し、次いで、マグネトロンスパッタリング法を用いて、ターゲットにTaターゲットを、スパッタリングガスとしてN
2ガスをそれぞれ用いて、RFパワー1000Wで、吸収層14としてTaN層を、複数の異なるガス圧にて厚さ70nmとなるように成膜する。吸収層を成膜する前にサイズ測定した多層反射膜の表面付近に存在する振幅欠陥に起因する吸収層の表面の局所的な凹凸を再度原子間力顕微鏡にて測定し、吸収層成膜前後のサイズを比較することによって、下地欠陥サイズ増幅率を求める。この下地欠陥サイズ増幅率のガス圧依存性を
図5に示す。ガス圧を適当な範囲に調整することにより、下地欠陥サイズ増幅率を所望の範囲に調整することが可能である。