特許第6601710号(P6601710)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6601710
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】発振装置
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20191028BHJP
   H03B 5/02 20060101ALI20191028BHJP
   H03K 3/023 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
   H03B5/32 Z
   H03B5/02 D
   H03K3/023 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-69198(P2015-69198)
(22)【出願日】2015年3月30日
(65)【公開番号】特開2016-189564(P2016-189564A)
(43)【公開日】2016年11月4日
【審査請求日】2018年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】新日本無線株式会社
(72)【発明者】
【氏名】坂田 大輔
【審査官】 竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭63−245112(JP,A)
【文献】 特開2001−320285(JP,A)
【文献】 特開平09−312520(JP,A)
【文献】 特開2008−099247(JP,A)
【文献】 特開平09−008549(JP,A)
【文献】 特開2003−332842(JP,A)
【文献】 特開2006−140749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B 5/00−5/42
H03K 3/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振回路用増幅器と電気機械振動子から成る発振回路と、前記発振回路の出力信号を矩形波信号に変換して出力する矩形波変換部から構成される発振装置であって、
前記発振回路はクラップ型発振回路で構成し、
前記クラップ型発振回路は、一方の端子を接地された電気機械振動子と、前記電気機械振動子の他方の端子に直列に接続されたクラップ容量とを含み、
前記電気機械振動子の他方の端子から発振信号を取り出して前記矩形波変換部に直接入力すると共に、前記矩形波変換部は1段の増幅器で矩形波変換することを特徴とする発振装置。
【請求項2】
請求項1に記載の発振装置において、
前記クラップ容量は、可変容量であることを特徴とする発振装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2のいずれかに記載の発振装置において、
矩形波変換部の増幅器をCMOSインバータ増幅器で構成したことを特徴とする発振装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発振装置において、
矩形波変換部の後段に電力増幅部を設けたことを特徴とする発振装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の発振装置において、
矩形波変換部で外部よりバイアス電圧を設定するよう構成したことを特徴とする発振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水晶振動子などの電気機械振動子を用いた発振回路から得られた発振信号を、デジタル回路の基準クロック信号等として使用可能な矩形波信号に変換する発振装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタル回路の安定動作の観点から、動作の基準となる電気信号(基準クロック信号)を作成するクロック用発振装置には、位相雑音の少ない高品質な基準クロック信号を出力することが望まれる。基準クロック信号を生成するために、LCによる正帰還発振回路であるコルピッツ型発振回路が用いられているが、より位相雑音特性に優れるとして知られるクラップ型発振回路を用いているものもある。
【0003】
図6は直流バイアス回路を省略したLC回路によるクラップ型発振回路である。図6に示すように、発振回路用増幅器1であるトランジスタのベース−エミッタ間に帰還容量9が接続されると共に、トランジスタのコレクタ−エミッタ間に別の帰還容量10が接続されている。また、トランジスタのベース−コレクタ間には、共振用のクラップ容量8とインダクタ14の直列回路が接続されている。この種の発振回路では、トランジスタの帰還電圧は2つの帰還容量9,10による分圧器から決まるが、図6に示すクラップ型発振回路では、発振周波数はクラップ容量8と帰還容量9,10とインダクタ14で決まるため、クラップ容量を可変容量に置き換え、発振周波数の調整が可能な電圧制御型水晶発振器(VCXO)の用途でよく使用されている。また、クラップ容量8とインダクタ14の位置を入れ替えてもクラップ型発振回路としての動作は変わらない。
【0004】
図7は電気機械振動子の一つである水晶振動子の等価回路図である。水晶振動子には直列共振周波数f1と並列共振周波数f2という位相がゼロになる2つの周波数がある。f1は等価直列インダクタ15と等価直列容量16で決まる共振周波数で、f2は等価直列インダクタ15と等価直列容量16と並列容量18で決まる共振周波数であり、f1<f<f2という狭い周波数範囲で安定した発振周波数fを得ることができる。この周波数範囲では、水晶振動子はインダクタとして働くため、図6のインダクタ14を水晶振動子に置き換えると、安定した発振周波数が得られるクラップ型発振回路となる。
【0005】
従来のデジタル回路用のクロック用発振装置では、図8に示すようにクラップ型発振回路4で構成し、発振回路用増幅器1の入力端子から発振信号を取り出し、後段の負荷によって発振信号が減衰するのを防ぐためのバッファ回路7を経由して、矩形波変換部3に伝送して基準クロック信号用の矩形波を生成している。図8に示すように発振回路用増幅器1の入力端子から発振信号を取り出している発振回路の構成として特許文献1がある。
【0006】
一方、デジタル回路用の基準クロック信号の重要な特性である位相雑音特性を向上させるための手段としては、発振回路の出力信号振幅(S)を大きくしてS/N比を改善するという方法が一般的である。また、特許文献2に開示されているように、発振回路のQを高くする方法や、特許文献3や特許文献4に開示されているように発振用増幅素子と接続されていない側の端子から発振回路の出力信号を取り出す、といった方法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許2651920号公報
【特許文献2】特開2000−323928号公報
【特許文献3】特開2002−100929号公報
【特許文献4】特開2006−140749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図8に示すように発振回路用増幅器1の入力端子から発振信号を取り出すと、増幅器が非線形に動作しているために取り出した信号には歪が多く含まれることになる。これにより基準クロック信号のDutyずれが発生すること、また矩形波変換にともなう非線形動作で発振回路用増幅器1の1/f雑音が発振周波数を対称軸として折り返されて発振信号に重畳されることにより基準クロック信号の位相雑音特性が悪化するという問題点があった。さらに、クラップ型発振回路4と矩形波変換部3の間にバッファ回路7を入れることにより、バッファ回路7の1/f雑音が発振信号に重畳すると共に発振周波数を対称軸として折り返されて重畳されるため、基準クロック信号の位相雑音特性が悪化するという問題点があった。本発明は上記問題点を解消し、矩形波信号を出力する発振装置の位相雑音特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、請求項1にかかる発明は、発振回路用増幅器と電気機械振動子から成る発振回路と、前記発振回路の出力信号を矩形波信号に変換して出力する矩形波変換部から構成される発振装置であって、前記発振回路はクラップ型発振回路で構成し、前記クラップ型発振回路は、一方の端子を接地された電気機械振動子と、前記電気機械振動子の他方の端子に直列に接続されたクラップ容量とを含み、前記電気機械振動子の他方の端子から発振信号を取り出して前記矩形波変換部に直接入力すると共に、前記矩形波変換部は1段の増幅器で矩形波変換することを特徴とする。
請求項2にかかる発明は、請求項1に記載の発振装置において、クラップ容量は可変容量であることを特徴とする。
請求項3にかかる発明は、請求項1または請求項2のいずれかに記載の発振装置において、矩形波変換部の増幅器をCMOSインバータ増幅器で構成したことを特徴とする。
請求項4にかかる発明は、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の発振装置において、矩形波変換部の後段に電力増幅部を設けたことを特徴とする。
請求項5にかかる発明は、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のクロック用発振装置において、矩形波変換部で外部よりバイアス電圧を設定するよう構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、発振回路をクラップ型発振回路4で構成し、クラップ型発振回路4の電気機械振動子2とクラップ容量8との接続点から発振信号を取り出したことで発振信号の振幅が大きく取れると共に、発振回路用増幅器1と直接接続されずに比較的小さな容量で分離されているため、発振回路の出力波形の歪が小さく、発振を維持するための発振回路用増幅器1の雑音の影響、特に低周波域の雑音の影響も受けにくくなる。その結果、基準クロック信号として用いた場合、Dutyのずれや位相雑音特性を改善することができる。
【0011】
また、クラップ容量8を可変容量とした場合、従来の回路構成では、可変容量の非線形性や内部抵抗による共振回路のQの低下により位相雑音特性が悪化するが、本発明の構成とすることで、発振周波数の調整を容易に行うことができる電圧制御型水晶発振器(VCXO)の位相雑音特性を改善することができる。
【0012】
そして、取り出した振幅の大きな発振信号を、バッファ回路を経由せずに、1段の増幅器で矩形波に変換することにより、発振信号以外の雑音を極力重畳させずに矩形波に変換できるため、基準クロック信号のDutyのずれや位相雑音特性を改善することができる。なお、矩形波に変換する増幅器は、大きな電圧利得を得ることができるCMOSインバータ増幅器とするのが最適である。
【0013】
さらに、矩形波変換後に出力負荷のために電力増幅することで、位相雑音特性を悪化させずに必要な負荷能力を備えることができる。
なお、クラップ型発振回路4と矩形波変換部3を結合容量11を介して接続し、矩形波変換部3の入力部でバイアス電圧を外部から設定することで、位相雑音特性を悪化させずに回路動作に適切な直流バイアス設定を適宜行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1の構成例の発振装置の説明図である。
図2】本発明の第1の構成例の発振装置の位相雑音特性を示すグラフである。
図3】CMOSインバータ増幅器の説明図である。
図4】本発明の第2の構成例の発振装置の説明図である。
図5】本発明の第3の構成例の発振装置の説明図である。
図6】一般的なクラップ型発振回路図の説明図である。
図7】水晶振動子の等価回路図である。
図8】従来のクラップ型発振回路の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の発振装置は、発振回路をクラップ型発振回路で構成し、電気機械振動子と直列に接続されたクラップ容量との接続点から発振信号を取り出し、矩形波変換部に直接入力すると共に、この矩形波変換部は1段の増幅器で矩形波変換するように構成している。以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の第1の構成例であり、クラップ型発振回路4と矩形波変換部3から成る発振装置の説明図である。発振回路から出力される発振信号を、電気機械振動子2とクラップ容量8との接続端子から取り出し、その発振信号を1段の増幅器で矩形波変換する構成となっている。クラップ型発振回路4は、発振回路用増幅器1と帰還容量9,10とクラップ容量8と電気機械振動子2で構成されている。図1に示すように、発振回路用増幅器1の入力−出力間に帰還容量9が接続されると共に、発振回路用増幅器1の出力−接地間に別の帰還容量10が接続されており、発振回路用増幅器1の帰還電圧は2つの帰還容量9,10による分圧器から決まる。また、発振回路用増幅器1の入力−接地間には共振用のクラップ容量8とインダクタ14の直列回路が接続されており、クラップ型発振回路4の発振周波数は、クラップ容量8と帰還容量9,10とインダクタ14で決まる。矩形波変換部3は、増幅器を複数段設けると増幅器の雑音が累積するため、1段で矩形波に変換できる電圧利得を備えたCMOSインバータ増幅器(図3)で構成されている。CMOSインバータ増幅器とすることで大きな電圧利得を得ることができるが、バイポーラトランジスタから成る増幅器とすることも可能である。1段で矩形波に変換できる電圧利得は、クラップ発振回路4から取り出した発振信号の振幅にもよるが、発振周波数における小信号の電圧利得が20dB以上であれば十分である。なお、図中では増幅器の直流バイアス等は省略して図示している。
【0017】
図1のような構成とすることで、発振回路用増幅器1の入力端子から発振信号を取り出した従来のものと比べて位相雑音特性が改善する。図2図1に示す発振装置の位相雑音特性を示すグラフであり、図8で説明した従来の発振装置に比べ、位相雑音特性が6〜7dB程度改善していることがわかる。
【実施例2】
【0018】
図4は本発明による第2の構成例の発振装置の説明図であり、発振信号を矩形波に変換した後に電力増幅部5を設けた構成となっている。このように構成することで、位相雑音特性を悪化させずに必要な負荷能力を備えることができる。
【実施例3】
【0019】
図5は、本発明による第3の構成例の発振装置の説明図であり、図1および図4の矩形波変換部3の入力バイアス電圧を外部から設定する場合の構成例である。クラップ型発振回路4と矩形波変換部3を結合容量11を介して接続し、矩形波変換部3の入力部でバイアス電源13と抵抗12により外部からバイアス電圧を設定しており、回路動作に適切な直流バイアス設定を適宜行うことができる。このように構成することで、位相雑音特性を悪化させずに適切な直流バイアス設定を行うことができる。
【0020】
また、図1図4および図5の電気機械振動子2とクラップ容量8の位置を入れ替えても位相雑音特性を改善する効果が得られるため、電気機械振動子2とクラップ容量8の位置を入れ替えた構成としてもよい。またクラップ容量8を可変容量(バラクタ)に置き換えた電圧制御型水晶発振器(VCXO)では、通常は可変容量(バラクタ)の非線形性や内部抵抗による共振回路のQの低下により位相雑音特性が悪化するが、本発明の構成とすることで電圧制御型水晶発振器(VCXO)の位相雑音特性を改善することができる。さらに、電気機械振動子2として、水晶振動子の他、圧電振動子、SAWデバイス、MEMS振動子も使用することができる。
【符号の説明】
【0021】
1:発振回路用増幅器
2:電気機械振動子を含む共振回路
3:矩形波変換部
4:クラップ型発振回路
5:電力増幅部
6:CMOSインバータ増幅器
7:バッファ回路
8:クラップ容量
9,10:帰還容量
11:結合容量
12:抵抗
13:バイアス電源
14:インダクタ
15:等価直列インダクタ
16:等価直列容量
17:等価直列抵抗
18:並列容量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8