(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
化学変性が、セルロース繊維をN−オキシル化合物と共酸化剤とを用いて酸化すること、セルロース繊維をカルボキシメチル化すること、セルロース繊維にカチオン性の基を導入すること、セルロース繊維をカルボキシル基を有する化合物の酸無水物で処理すること、セルロース繊維をリン酸基を有する化合物で処理すること、セルロース繊維をオゾンで処理すること、及びセルロース繊維を酵素で処理すること、から選択される1つ以上を含む、請求項1または2に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のセルロースナノファイバーの分散体の製造方法は、化学変性したセルロース繊維を用意する工程と、解繊工程と、乾燥工程と、熱水処理工程と、再分散工程とを含む。
【0019】
<セルロース繊維>
セルロース繊維は、目的に応じて適宜選択することができ、特に制限されない。例えば、針葉樹または広葉樹のクラフトパルプ、サルファイトパルプ、サーモメカニカルパルプ、再生パルプ等の木材系パルプ、コットンリンターやコットンリントのような綿系パルプ、麦わら、バガス、竹、麻、ジュート、ケナフ等に由来する非木材系パルプ、バクテリアセルロースのような微生物由来セルロース、ホヤから単離されるセルロースのような動物由来セルロース、海草から単離されるセルロースのような藻類由来セルロースなどを用いることができる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。好ましくは、木材、綿、非木材植物等の植物由来のパルプである。前記セルロース繊維は、叩解等の表面積を高める処理を施したものであってもよい。
【0020】
<化学変性したセルロース繊維を用意する工程>
化学変性したセルロース繊維とは、この後の解繊工程において、ナノファイバーの単位にまで解繊できるように化学的に処理されたセルロース繊維をいう。本発明では、このような化学的処理済みの市販のセルロース繊維をこの後の解繊工程に供してもよいし、また、セルロース繊維に化学的処理を施すことにより化学変性したセルロース繊維を用意してもよい。セルロース繊維の解繊(ナノファイバー化)を促進する化学的処理の例としては、セルロース繊維をN−オキシル化合物と共酸化剤とを用いて酸化すること、セルロース繊維をカルボキシメチル化すること、セルロース繊維にカチオン性の基を導入すること、セルロース繊維をカルボキシル基を有する化合物の酸無水物で処理すること、セルロース繊維をリン酸基を有する化合物で処理すること、セルロース繊維をオゾンで処理すること、及びセルロース繊維を酵素で処理すること、が挙げられるが、これらに限定されない。以下に、上記の処理の具体例を挙げるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
(1)N−オキシル化合物と共酸化剤とを用いて酸化されたセルロース繊維
N−オキシル化合物及び共酸化剤を含む反応液中でセルロース原料を酸化することにより酸化セルロース繊維を得ることができる。この処理により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(−COOH)またはカルボキシレート基(−COO
−)とを有する酸化セルロース繊維を得ることができる。セルロース繊維の表面にカルボキシル基またはカルボキシレート基を導入することによって、セルロース繊維同士を電気的に反発させることができ、これにより、ナノオーダーの繊維幅へと容易に解繊(ナノ分散)することができるようになる。
【0022】
N−オキシル化合物は、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物であり、目的の酸化反応を促進する化合物であれば特に制限なく使用することができる。例えば、「「Cellulose」Vol.10、2003年、第335ページから341ページにおけるI. Shibata及びA. Isogaiによる「TEMPO誘導体を用いたセルロースの触媒酸化:酸化生成物のHPSEC及びNMR分析」と題する記事」に記載されている化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0023】
前記N−オキシル化合物の具体例としては、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−N−オキシル(以下、「TEMPO」と称することがある)とその誘導体、例えば、4−ヒドロキシTEMPO、4−アセトアミドTEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−ホスホノオキシ−TEMPO、4−スルホキシTEMPOなど、また、特開2009−161613号公報に記載されるアザアダマンタン型ニトロキシラジカルなどが挙げられる。
【0024】
N−オキシル化合物の使用量は、セルロース繊維を酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.01〜10mmolが好ましく、0.01〜1mmolがより好ましく、0.05〜0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1〜4mmol/程度がよい。
【0025】
前記共酸化剤は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸、又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化水素や過有機酸などの過酸化物が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記共酸化剤の具体例としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウムなどが挙げられ、次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。
【0027】
共酸化剤の使用量は、セルロース繊維を酸化できる量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.5〜500mmolが好ましく、0.05〜50mmolがより好ましく、1〜25mmolがさらに好ましく、3〜10mmolが最も好ましい。また、例えば、N−オキシル化合物1molに対して1〜40molが好ましい。
【0028】
酸化反応における反応系には、上述したセルロース繊維、N−オキシル化合物、及び共酸化剤に加えて、臭化物、ヨウ化物、又はこれらの混合物等の添加物を加えてもよい。
【0029】
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例としては、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が挙げられる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例としては、ヨウ化アルカリ金属が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
臭化物またはヨウ化物の使用量は、特に制限されず、酸化反応を促進できる範囲で選択すればよい。例えば、絶乾1gのセルロース原料に対して、0.1〜100mmolが好ましく、0.1〜10mmolがより好ましく、0.5〜5mmolがさらに好ましい。
【0031】
酸化反応の反応系における分散媒としては、酸化反応が進行するものであればよく、特に制限されない。取扱いの容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水は好ましい。
【0032】
反応温度は特に制限されない。4〜40℃程度、また15〜30℃程度の室温であっても効率よく反応を進行させることができる。
【0033】
反応時の反応系のpHは特に制限されないが、酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を用いて、反応系のpHを8〜12、または10〜11程度に維持することが好ましい。
【0034】
反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5〜6時間、例えば、0.5〜4時間程度である。
【0035】
前記酸化反応により得られる酸化セルロース繊維は、カルボキシル基量が0.6〜2.2mmol/g、好ましくは0.8〜2.0mmol/g、さらに好ましくは1.0〜2.9mmol/g程度であり、アルデヒド基量が0.8mmol/g以下である。酸化セルロース繊維のカルボキシル基及びアルデヒド基の量は、上記した共酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件を制御することにより調整することができる。
【0036】
前記酸化セルロース繊維中のカルボキシル基量とアルデヒド基量は、「T.Saito及びA.Isogai、「TEMPO−mediated oxidation of native cellulose. The effect of oxidation conditions on chemical and crystal structures of the water−insoluble fractions」、Biomacromolecules、Vol.5、1983〜1989ページ、2004年」に記載されている方法に従い、亜塩素酸ナトリウムによる追酸化処理と電導度滴定によって測定することができる。
【0037】
前記酸化反応に続いて、任意に、追酸化反応を行ってもよい。追酸化反応は、前記酸化反応で得られた酸化セルロース繊維を亜塩素酸ナトリウムにより更に酸化する工程である。
【0038】
追酸化反応の条件としては、特に制限はなく、例えば、「T.Saito及びA.Isogai、「TEMPO−mediated oxidation of native cellulose. The effect of oxidation conditions on chemical and crystal structures of the water−insoluble fractions」、Biomacromolecules、Vol.5、1983〜1989ページ、2004年」に記載されている条件を適宜選択することができる。
【0039】
追酸化反応により、C6位に微量生成したアルデヒド基をカルボキシル基へと酸化することができる。
【0040】
前記酸化反応または追酸化反応後の酸化セルロース繊維は、後述する解繊工程へと送る前に、洗浄を行っても良い。洗浄には水を用いることが好ましい。例えば、水を用いて吸引ろ過等することにより洗浄することができる。また、洗浄には水以外の溶媒は用いないことが好ましい。洗浄の回数は、1回であってもよいし、複数回であってもよい。前記洗浄により、未反応の共酸化剤や各種副生成物を除去することができる。
【0041】
(2)カルボキシメチル化されたセルロース繊維
溶媒として3〜20質量倍の水及び/又は低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N−ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、又は2種以上の混合媒体を使用し、マーセル化剤としてセルロース繊維の無水グルコース残基当たり0.5〜20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用し、セルロース繊維と溶媒及びマーセル化剤とを混合して、反応温度0〜70℃、好ましくは10〜60℃、かつ反応時間15分〜8時間、好ましくは30分〜7時間、マーセル化処理を行う。なお、溶媒に低級アルコールを混合する場合の低級アルコールの混合割合は、60〜95質量%である。
【0042】
マーセル化処理の後、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05〜10.0倍モル添加し、反応温度30〜90℃、好ましくは40〜80℃、かつ反応時間30分〜10時間、好ましくは1時間〜4時間、エーテル化反応を行う。これにより、カルボキシメチル化されたセルロース繊維を得ることができる。セルロース繊維をカルボキシメチル化することによって、セルロース繊維同士を電気的に反発させることができるようになり、これにより、ナノオーダーの繊維幅へと容易に解繊(ナノ分散)することができるようになる。
【0043】
なお、「カルボキシメチル化されたセルロース繊維」とは、水に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものをいう。したがって、水に完全に溶解するカルボキシメチルセルロースとは区別される。「カルボキシメチル化されたセルロース繊維」の水分散液を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができる。一方、水溶性のカルボキシメチルセルロースの場合は、繊維状の物質は観察されない。また、「カルボキシメチル化されたセルロース繊維」はX線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるが、水溶性のカルボキシメチルセルロースではセルロースI型結晶はみられない。このような「カルボキシメチル化されたセルロース繊維」は、セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシメチル基置換度が0.01〜0.50程度である。
【0044】
上記カルボキシメチル基置換度は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシメチル化セルロース繊維(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。硝酸メタノール1000mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチルセルロース塩を水素型カルボキシメチル化セルロースに変換する。水素型カルボキシメチル化セルロース(絶乾)を1.5〜2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80%メタノール15mLで水素型カルボキシメチル化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH
2SO
4で過剰のNaOHを逆滴定する。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’−(0.1NのH
2SO
4)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1−0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F’:0.1NのH
2SO
4のファクター
F:0.1NのNaOHのファクター。
【0045】
(3)カチオン性の基が導入されたセルロース繊維
水及び/又は炭素数1〜4のアルコールの存在下で、セルロース繊維に、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリアルキルアンモニウムハライドなどのカチオン化剤と、触媒である水酸化アルカリ金属(水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど)を反応させることによって、カチオン性の基が導入されたセルロース繊維(以下、「カチオン変性セルロース繊維」ともよぶ。)を得ることができる。なお、この方法において、反応させるカチオン化剤の添加量や、水及び/又は炭素数1〜4のアルコールの組成比率をコントロールすることによって、カチオン変性セルロース繊維のグルコース単位当たりのカチオン置換度を調整することができる。
【0046】
カチオン変性セルロース繊維におけるグルコース単位当たりのカチオン置換度は、0.02〜0.50であることが好ましい。セルロース繊維にカチオン置換基を導入することで、セルロース繊維同士を電気的に反発させることができ、これにより、ナノオーダーの繊維幅へと容易に解繊(ナノ分散)することができるようになる。グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.02より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのカチオン置換度が0.50より大きいと、セルロース繊維が溶媒中で膨潤または溶解し、「繊維」の形態にならない場合がある。
【0047】
カチオン変性セルロース繊維のグルコース単位当たりのカチオン置換度は、以下の方法によって測定することができる:
試料(カチオン変性セルロース繊維)を乾燥させた後に、全窒素分析計TN−10(三菱化学)で窒素含有量を測定し、次式により算出する。なお、ここでいう置換度とは、無水グルコース単位1モル当たりのカチオン性置換基のモル数の平均値を表している:
カチオン置換度=(162×N)/(1−151.6×N)
N:窒素含有量。
【0048】
(4)カルボキシル基を有する化合物の酸無水物で処理されたセルロース繊維
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物によって、セルロース繊維の水酸基の一部をカルボキシル基に化学修飾することにより、セルロース繊維同士を電気的に反発させ、セルロース繊維の解繊(ナノファイバー化)を促進することができる。
【0049】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記無水物のうち、工業的に利用しやすく、また、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸および無水コハク酸が好ましい。
【0050】
セルロース繊維の固形分に対するカルボキシル基を有する化合物の酸無水物の質量割合は、特に制限されないが、セルロース繊維の固形分100質量部に対して酸無水物が0.1〜500質量部であることが好ましく、1〜300質量部であることがより好ましく、25〜75質量部であることがさらに好ましい。前記酸無水物の質量割合が前記範囲内であれば、解繊工程でのセルロースナノファイバーの収率がより高くなる。
【0051】
前記酸無水物による処理の際には、加熱を行うことが好ましい。加熱の温度は特に制限されないが、セルロース繊維の熱分解温度を考慮すると、100〜250℃であることが好ましい。
【0052】
前記酸無水物による処理を行った後に、アルカリ溶液で処理することが好ましい。その方法は特に限定されないが、例えば、酸無水物による処理後のセルロース繊維をアルカリ溶液に浸漬させることが挙げられる。アルカリ溶液に用いるアルカリ化合物は、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。無機アルカリ化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。有機アルカリ化合物としては、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン等が挙げられる。アルカリ溶液の溶媒は水または有機溶媒のいずれであってもよいが、極性有機溶媒が好ましく、特に、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
【0053】
なお、取扱い性を向上させるために、アルカリ溶液での処理後、解繊工程の前に、水または有機溶媒を用いて洗浄することが好ましい。特に、水を用いることが好ましい。
【0054】
(5)リン酸基を有する化合物で処理されたセルロース繊維
リン酸基を有する化合物によってセルロース繊維の水酸基の一部をリン酸基に修飾することにより、セルロース繊維同士を電気的に反発させ、セルロース繊維の解繊(ナノファイバー化)を促進することができる。
【0055】
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらは1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。上記化合物のうち、工業的に利用しやすい点から、リン酸二水素ナトリウムおよびリン酸水素二ナトリウムが好ましい。
【0056】
セルロース繊維の固形分に対するリン酸基を有する化合物の質量割合は、特に制限されないが、セルロース繊維の固形分100質量部に対してリン元素に換算した添加量が0.1〜500質量部であることが好ましく、0.5〜250質量部であることがより好ましく、1〜100質量部であることがさらに好ましい。前記化合物の質量割合が前記範囲内であれば、解繊工程でのセルロースナノファイバーの収率がより高くなる。
【0057】
前記化合物による処理の際には、加熱を行うことが好ましい。加熱の温度は特に制限されないが、セルロース繊維の熱分解温度を考慮すると、100〜250℃であることが好ましい。
【0058】
(6)オゾンで処理されたセルロース繊維
セルロース繊維をオゾンで処理することにより、セルロース繊維の水酸基をカルボニル基やカルボキシル基に変換する。これにより、セルロース繊維同士を電気的に反発させ、セルロース繊維の解繊(ナノファイバー化)を促進することができる。
【0059】
オゾンによる処理は、オゾンが存在する閉じた空間/雰囲気中にセルロース繊維を曝すことで行うことができる。この際のオゾンの濃度は、250g/m
2以上であると爆発するおそれがあるため、250g/m2未満とする必要がある。50〜215g/m
2程度が好ましい。オゾン濃度が前記範囲内であれば、オゾンの取り扱いが容易であり、また、解繊工程でのセルロースナノファイバーの収率が高くなる。
【0060】
なお、オゾンは、空気、酸素ガス、酸素添加空気等の酸素含有気体を、公知のオゾン発生装置に供給することにより、発生させることができる。
【0061】
セルロース繊維の固形分に対するオゾンの添加量は、特に制限されないが、セルロース繊維の固形分100質量部に対してオゾンが0.1〜8質量部であることが好ましい。オゾンの添加量が前記範囲内であれば、解繊工程でのセルロースナノファイバーの収率がより高くなる。
【0062】
オゾン処理時の温度は特に制限されず、0〜50℃程度の範囲で適宜調整される。また、オゾン処理時も特に制限されず、1〜180分間程度の範囲で適宜調整される。
【0063】
なお、オゾン処理後に、さらに追酸化処理を施してもよい。追酸化処理に用いる酸化剤としては、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物が挙げられる。
【0064】
(7)酵素で処理されたセルロース繊維、
酵素処理によりセルロース繊維の解繊(ナノファイバー化)が促進される理由は定かではないが、酵素によりセルロースの結晶部分が攻撃されて、結合が緩むことにより、解繊性が向上するものと考えられる。
【0065】
酵素としては、セルラーゼ系酵素やヘミセルラーゼ系酵素が好ましい。 セルラーゼ系酵素としては、トリコデルマ(Trichoderma、糸状菌)属、アクレモニウム(Acremonium、糸状菌)属、アスペルギルス(Aspergillus、糸状菌)属、ファネロケエテ(Phanerochaete、担子菌)属、トラメテス(Trametes、担子菌)属、フーミコラ(Humicola、糸状菌)属、バチルス(Bacillus、細菌)属、スエヒロタケ(Schizophyllum、担子菌)属、ストレプトミセス(Streptomyces、細菌)属、シュードモナス(Pseudomonas、細菌)属等が産生するセルラーゼ系酵素が挙げられる。これらのうち、糸状菌セルラーゼ系酵素が好ましく、特に、トリコデルマ菌(Trichoderma reeseiまたはHyporea jerorina、糸状菌の一種である子嚢菌)が生産するセルラーゼ系酵素は種類が豊富であり、生産性も高いため、好ましい。
【0066】
ヘミセルラーゼ系酵素としては、キシランを分解する酵素であるキシラナーゼ(xylanase)、マンナンを分解する酵素であるマンナーゼ(mannase)、アラバンを分解する酵素であるアラバナーゼ(arabanase)、ペクチンを分解する酵素であるペクチナーゼ(pectinase)が挙げられる。これらのうち、広葉樹由来のセルロース繊維に対してはキシラーゼが、針葉樹由来のセルロース繊維に対してはマンナーゼが好ましい。
【0067】
セルロース繊維に対する酵素の添加量は特に制約されるものではなく、酵素の種類、木材の種類(針葉樹または広葉樹)等によって適宜調整して添加する。
【0068】
セルラーゼ系酵素処理時のセルロース繊維の懸濁液のpHは、酵素反応の反応性の点から、弱酸性領域(pH3.0〜6.9)であることが好ましい。一方、ヘミセルラーゼ系酵素処理時のセルロース繊維の懸濁液のpHは、弱アルカリ性領域(pH7.1〜10.0)であることが好ましい。
【0069】
酵素処理時の温度は特に制約されないが、30〜70℃が好ましく、35〜65℃がより好ましく、40〜60℃がさらに好ましい。酵素処理時の温度が前記下限値以上であれば、酵素活性が低下しにくく、処理時間の長期化を防止でき、前記上限値以下であれば、酵素の失活を防止できる。
【0070】
酵素処理時間は0.5〜24時間が好ましい。処理時間が前記下限値以上であれば、酵素処理の効果を充分に発揮させることができる。一方、前記上限値以下であれば、セルロース繊維の分解による繊維長の短小化を抑制することができる。酵素処理時間は、酵素の種類、温度、pH等によって調整することができる。
【0071】
酵素処理後には酵素を失活させることが好ましい。酵素の失活により、収率低下を防止でき、また、繊維長の短小化を抑制できる。酵素を失活させる方法としては、アルカリ水溶液(好ましくはpH10以上、より好ましくはpH11以上)を添加する方法、80〜100℃の熱水を添加する方法が挙げられる。
【0072】
<解繊工程>
前記工程で用意した化学変性したセルロース繊維(以下、「化学変性セルロース繊維」と称することもある。)を、次に、解繊工程において、溶媒中で機械的なせん断力を用いて解繊しながらナノ分散させて、セルロースナノファイバー分散体とする。
【0073】
解繊工程で用いる分散媒としては、特に制限されず、水、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリンなど)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトンなど)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイドなどを挙げることができるが、中でも、水が最も好ましい。分散媒中の化学変性セルロース繊維の量は、特に限定されないが、0.1〜5質量%程度が好ましく、1〜3質量%程度がより好ましい。分散媒中の化学変性セルロース繊維の量が5質量%を超えると、解繊/分散時に粘度が顕著に向上し、解繊/分散処理が継続できなくなる場合がある。
【0074】
解繊工程で用いる装置(以下、「解繊/分散装置」と称することもある)は、化学変性セルロース繊維に対してせん断力を付与できるものであればよく、特に制限されない。例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、二重円筒型ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、水流対向衝突型分散機、ビーター、ディスク型リファイナー、コニカル型リファイナー、ダブルディスク型リファイナー、グラインダー、二軸混練機などが挙げられる。中でも、効率よく解繊するには、50MPa以上の圧力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。圧力はより好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。高圧ホモジナイザーでの解繊/分散処理に先立って、高速ミキサーなどによる予備分散を行ってもよい。
【0075】
前記解繊工程により、化学変性セルロース繊維がナノファイバー単位にまで解繊されて分散された(すなわち、「ナノ分散された」)セルロースナノファイバー分散体を得ることができる。ここで、ナノファイバー単位に解繊とは、繊維径が2〜1000nm程度、好ましくは2〜5nm程度に解繊することをいう。セルロースナノファイバーの繊維長は、0.2〜5μm程度が好ましい。分散体の分散媒は、上述の通り、水が最も好ましい。
【0076】
セルロースナノファイバーの繊維径及び繊維長は、例えば、電解放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、観察することにより測定することができる。なお、本明細書で繊維径または繊維の幅、ならびに繊維長というときには、ランダムに選んだ200本程度の繊維の平均繊維径及び平均繊維長を言うものとする。
【0077】
<乾燥工程>
乾燥工程は、前記解繊工程により得られたセルロースナノファイバー分散体の分散媒を蒸発させて、セルロースナノファイバーの乾燥固形物を得る工程である。
【0078】
乾燥の方法は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、噴霧乾燥、圧搾、風乾、熱風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、真空乾燥などが挙げられる。乾燥装置も特に制限されず、連続式のトンネル乾燥装置、バンド乾燥装置、縦型乾燥装置、垂直ターボ乾燥装置、多重段円板乾燥装置、通気乾燥装置、回転乾燥装置、気流乾燥装置、噴霧乾燥装置、円筒乾燥装置、ドラム乾燥装置、ベルト乾燥装置、スクリューコンベア乾燥装置、加熱管付回転乾燥装置、振動輸送乾燥装置、回分式の箱型乾燥装置、真空箱型乾燥装置、及び撹拌乾燥装置等を単独で又は2つ以上組み合わせて用いることができる。
【0079】
本発明において、乾燥固形物とは、水分量が20質量%以下になるように乾燥させた状態をいう。水分量は0〜20質量%であることが好ましく、輸送にかかる費用を低減させるという観点からは0〜12質量%であることがさらに好ましい。乾燥時には、水分量0%(絶乾)まで乾燥させてもよい。例えば、105℃で3時間の乾燥により、絶乾させることができる。
【0080】
本発明の乾燥固形物は、前記解繊工程によりセルロース繊維が一旦ナノファイバー単位にまで解繊されているため、電解放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)を用いてその表面を観察すると、ナノファイバーの状態のセルロース繊維(セルロースナノファイバー)を観測することができる。セルロースナノファイバーの繊維径は、上述の通り、2〜1000nm、好ましくは2〜5nmである。一方、解繊工程を経ていない乾燥固形物は、本発明の乾燥固形物に比べて、観測される繊維径が有意に大きくなる。
【0081】
<熱水処理工程>
セルロースナノファイバーの乾燥固形物は、通常は、過酷な条件で分散処理を行ってもナノ分散することができないことが知られている。本発明は、乾燥固形物の分散処理の前に、熱水で処理することにより、驚くべきことに、ナノ分散が可能となることを見出したものである。本発明の方法は、非常に簡便であり、また、環境負荷が少ないという利点がある。
【0082】
熱水処理の態様としては、特に制限はなく、適宜選択することができる。例えば、セルロースナノファイバーの乾燥固形物を熱水と混合すること、または、乾燥固形物を水中に浸した後に加熱することが挙げられる。
【0083】
熱水の温度としては、70℃以上が好ましく、75℃以上がより好ましく、80℃〜100℃が特に好ましい。熱水の温度が70℃未満であると、乾燥固形物の再分散(ナノ分散)が難しくなることがある。一方、上記範囲内であれば、セルロースナノファイバーの乾燥固形物を、ナノ分散させることができるようになる。
【0084】
熱水処理の時間は、特に制限されないが、15分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、1〜4時間が特に好ましい。15分未満であると、乾燥固形物の再分散(ナノ分散)が難しくなることがある。一方、上記範囲内であれば、セルロースナノファイバーの乾燥固形物を、ナノ分散させることができるようになる。
【0085】
熱水中の乾燥固形物の固形分濃度は、特に制限されない。例えば、0.01〜5質量%程度である。
【0086】
熱水処理は、撹拌しながら行うことが好ましい。撹拌の手段としては特に制限されず、目的に応じて、公知の手段を適宜選択することができる。撹拌の条件も特に制限されず、適宜選択することができ、例えば、マグネチックスターラーにより撹拌する場合には、300〜400rpm程度の穏やかな撹拌とすることが挙げられる。
【0087】
熱水処理後は、冷却を行ってもよい。冷却の速度は、特に制限されず、急冷でも徐冷でもよい。冷却後の温度は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、室温でもよい。
【0088】
上記の熱水処理により、セルロースナノファイバーの乾燥固形物を、乾燥前の分散体と同様に溶媒にナノ分散させることができるようになる。例えば、乾燥固形物として、105℃で3時間乾燥させて得た絶乾状態のものを用いた場合であっても、熱水処理工程を経ることにより、固形分濃度0.01〜5質量%程度で水に再分散させてセルロースナノファイバー分散体とすることが可能となる。これにより、乾燥固形物の形態で輸送および保存をし、使用時に熱水処理してから溶媒にナノ分散(再分散)をさせることが可能となり、輸送に係る費用を低減させ、また、乾燥状態での優れた保存性を得ることができる。
【0089】
<再分散工程>
上記熱水処理工程を行ったセルロースナノファイバーを、溶媒に再分散(ナノ分散)させることによって、セルロースナノファイバー分散体とすることができる。溶媒に再分散(ナノ分散)させる方法は、上述の解繊工程に記載した方法と同様である。分散媒は最も好ましくは水であり、分散媒中の固形分濃度は、特に限定されないが、0.1〜5質量%程度が好ましく、1〜3質量%程度がより好ましい。
【0090】
本発明により得られる再分散後のセルロースナノファイバー分散体(セルロースナノファイバーの再分散体)は、一度、解繊工程によりセルロースナノファイバー分散体とした後に乾燥固形物としたものを再分散することにより得られるので、解繊工程を経ていないセルロース繊維の乾燥固形物を水に再分散させたものに比べて、セルロース繊維径が微細であり、また、より均一であるという特徴がある。また、再分散後に、未解繊の状態のセルロース繊維が残りにくいという特徴がある。
【0091】
再分散工程によりセルロースナノファイバー分散体が得られているか否か(すなわち、ナノ分散がされたか否か)は、電解放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)等を用いて幅2〜1000nm、好ましくは2〜5nm程度のナノサイズのセルロースが観察できるか否かにより確認することができる。また、例えば、固形分濃度0.1質量%になるように水で希釈した分散液を直交偏光板の間に置き、複屈折を示すか否かを観察し、複屈折を示す場合には、ナノ分散されたと判断することができる。また、後述する実施例に記載される方法で未分散状態の粒が見られるか否かにより確認することができる。
【0092】
<セルロースナノファイバーの再分散体の用途>
本発明により得られる再分散後のセルロースナノファイバー分散体におけるセルロースナノファイバーは、未乾燥のセルロースナノファイバー分散体中のセルロースナノファイバーと同様の高アスペクト比、大比表面積、高強度、高いチキソトロピー性、水中での高いナノ分散性、高い透明性などの優れた特徴を有しており、これらの特徴を利用するような用途に好ましく用いることができる。
【0093】
例えば、必要に応じて、分散媒を適度に除去することにより、一般的に添加剤が用いられる様々な分野、例えば、飲食品、化粧品、医薬品、各種化学用品、製紙、土木、塗料、建築、農薬、自動車、防疫薬剤、電子材料、電池、難燃剤、断熱材、洗浄剤、水処理、ドリル液、中性の機能性物質、シェールガス及びオイルの流出制御及び/又は回収における添加剤として使用することが出来る。具体的には、増粘剤、ゲル化剤、糊剤、安定剤、分散剤、食品添加剤、錠剤用崩壊剤、賦形剤、薬剤放出制御剤、ゴム・プラスチック用補強材、塗料用添加剤、接着剤用添加剤、製紙用添加剤、サイジング剤、成分分離抑制剤、成分沈降抑制剤、強度改善剤、沈殿剤、凝集剤、柔軟性改善剤、ガスバリア性改善剤、研磨剤、吸水材、防臭剤、防錆剤、保水剤、保湿剤、保冷剤、保形剤、泥水調整剤、ろ過助剤、及び溢泥防止剤などとして使用することができ、それらを構成成分として含むゴム・プラスチック材料、塗料、接着剤、コート紙用塗剤、コート紙、バインダー、化粧品、潤滑用組成物、研磨用組成物、衣料用しわ低減剤、アイロンがけ用滑り剤などに応用できる。
【0094】
また、セルロースナノファイバー分散体を所定形状に保持しつつ分散媒を除去することにより、所定形状の成形体とすることができる。例えば、ガラス板などの基板上に、セルロースナノファイバー分散体を流延塗布した後、自然乾燥、送風乾燥、真空乾燥などの乾燥法により分散媒を除去することで膜を形成させることができ、膜を基板から剥がすことにより、フィルム状の成形体を得ることができる。
【0095】
また、紙、板紙、プラスチック、金属、これらの複合体などの成形物の上にセルロースナノファイバー分散体を、塗布または噴霧することにより、または成形物をセルロースナノファイバー分散体に浸漬することにより、表面にセルロースナノファイバー層を有する成形体を形成してもよい。成形体の形状等は、特に制限はなく、例えば、所望の形状及び大きさを有するフィルム、シート、織布、不織布などの箔状物、所望の形状及び大きさの箱、ボトルなどの立体容器とすることができる。セルロースナノファイバーの層は、一層であってもよいし、多層であってもよい。
【0096】
また、膜状に形成したセルロースナノファイバー成形体を、前記成形物の表面に貼り合わせてもよい。貼り合わせる方法は、特に制限されず、接着剤を用いる方法、熱融着法などが挙げられる。
【0097】
さらに、セルロースナノファイバー分散体と、所望の複合化材料を含む液体とを混合することにより、セルロースナノファイバーを含む複合体を製造することができる。
【0098】
複合化材料は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリビニルアルコール、ナイロン(登録商標)、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル等の合成高分子などが挙げられる。
【0099】
前記合成高分子は、有機溶媒に溶解させて紡糸(溶液紡糸)したり、フィルムに成形したりすることができる。したがって、セルロースナノファイバー分散体と、前記合成高分子を含む液体とを混合してなる分散液を用いることで、セルロースナノファイバーを含む複合体である繊維状成形物やフィルム状成形物を得ることができる。
【0100】
また、有機溶媒中で、モノマーと、前記微細セルロース繊維分散体とを混合させ、前記モノマーを重合させて高分子を合成することにより、微細セルロース繊維と、合成高分子との複合体を形成することもできる。
【実施例】
【0101】
以下に実施例等を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例等に何ら限定されるものではない。
【0102】
−化学変性セルロース繊維の用意−
(1)N−オキシル化合物と共酸化剤とを用いて酸化されたセルロース繊維(以下、「酸化セルロース繊維」とも呼ぶ。)の用意
針葉樹漂白クラフトパルプ(乾燥質量で4g相当分)、62.4mgのTEMPO、及び0.4gの臭化ナトリウムを蒸留水400mLに分散させた後、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が5mmolとなるように加えて反応を開始した。反応中は、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10に保ち、室温(20℃〜25℃)で撹拌しながら反応を行った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了とみなし、反応物をガラスフィルターにてろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を5回繰り返し、固形分含量が9.3質量%である酸化セルロース繊維を得た(収率>90%)。
【0103】
前記酸化セルロース繊維のカルボキシル基量は1.43mmol/gであり、アルデヒド基量は0.04mmol/gであった。前記酸化セルロース1gあたりのカルボキシル基量及びアルデヒド基量は、「T.Saito及びA.Isogai、「TEMPO−mediated oxidation of native cellulose. The effect of oxidation conditions on chemical and crystal structures of the water−insoluble fractions」、Biomacromolecules、Vol.5、1983〜1989ページ、2004年」に記載されている方法に従い、亜塩素酸ナトリウムによる追酸化処理と電導度滴定によって測定した。
【0104】
(2)カルボキシメチル化されたセルロース繊維(以下、「カルボキシメチル化セルロース繊維」または「CM化セルロース繊維」とも呼ぶ。)の用意
撹拌機に、パルプ(NBKP(針葉樹晒クラフトパルプ)、日本製紙製)を乾燥質量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥質量で111g加え、パルプ固形分が20%(w/v)になるように水を加えた。その後、30℃で30分攪拌した後にモノクロロ酢酸ナトリウムを216g(有効成分換算)添加した。30分撹拌した後に、70℃まで昇温し1時間撹拌した。その後、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.25のカルボキシルメチル化セルロース繊維を得た。
【0105】
−解繊−
(1)前記酸化セルロース繊維を水に懸濁して、固形分含量が1質量%のスラリーを調製した。得られたスラリーをホモミキサーを用いて6000rpmで10分間撹拌し、固形分含量が1質量%の酸化セルロースナノファイバー分散体(参考例1)を得た。
【0106】
(2)前記カルボキシメチル化セルロース繊維を水に懸濁して、固形分含量が1質量%のスラリーを調製した。得られたスラリーを高圧ホモジナイザーにより20℃、150MPaの圧力で5回処理することにより解繊し、固形分含量が1質量%のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー分散体(参考例2)を得た。
【0107】
−乾燥−
前記解繊工程で得られた酸化セルロースナノファイバー分散体(参考例1)及びカルボキシメチル化セルロースナノファイバー分散体(参考例2)を、105℃の恒温乾燥機中で3〜4時間乾燥させ、それぞれのセルロースナノファイバーの乾燥固形物(絶乾)を得た。
【0108】
−熱水処理−
前記乾燥工程で得られた乾燥固形物0.4gと蒸留水40mLを100mL容のナスフラスコに入れ、密栓せずに80℃で30分間撹拌した。撹拌にはマグネチックスターラーを用い、撹拌子は直径7mm、長さ20mmのものを用いた。撹拌の強さはおよそ300〜400rpm程度の穏やかな撹拌とした。
【0109】
熱水処理後の液を氷水中で急冷した。その後、揮発した水を補充し、固形分含量1質量%のスラリーとした。
【0110】
−再分散−
前記熱水処理で得られた固形分含量1質量%のスラリーを、ホモミキサーを用いて6000rpmで10分間撹拌し、固形分含量が1質量%の再分散後のセルロースナノファイバー分散体を得た(実施例1及び2)。
【0111】
比較例として、上記と同様の方法で化学変性、解繊、及び乾燥を行った後、熱水処理の代わりに常温の水で1時間撹拌した後、上記と同様の方法で再分散を行ったもの(比較例1及び2)を用意した。
【0112】
以上により得られた再分散後のセルロースナノファイバー分散体(実施例1及び2)、セルロースナノファイバー乾燥固形物の水懸濁液(比較例1及び2)、ならびに乾燥工程を行う前のセルロースナノファイバー分散体(参考例1及び2)について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
【0113】
−分散性の評価−
実施例、比較例、及び参考例の分散体/懸濁液のそれぞれを、0.1質量%に薄めてスライドガラスに乗せ、スライドガラスを傾けた時に未分散状態のゲル状の粒が見られるかどうかで分散性を評価した。粒が見られないものが3、粒が浮き出てみられるものが2、ほとんど分散せず粒と水が分離するものを1と評価した。
【0114】
−光透過度の評価−
実施例、比較例、及び参考例の分散体/懸濁液のそれぞれ(固形分含量1質量%)について、波長600nmにおける光透過度を測定した。
【0115】
−チキソトロピー性の評価−
実施例、比較例、及び参考例の分散体/懸濁液のそれぞれ(固形分含量1質量%)について、分散/懸濁直後のB型粘度(25℃、30rpm、3分間)と、一昼夜静置した後のB型粘度(25℃、30rpm、3分間)を測定した。
【0116】
【表1】
【0117】
表1の比較例の結果より、熱水処理を行わずに乾燥させたセルロースナノファイバーの乾燥固形物は、分散性が非常に低いことがわかる。比較例1及び2では、再分散工程において固形物と分散媒(水)との分離がみられたため、粘度が正しく測定できなかった。特に比較例2は、固形物と水とが完全に分離しており、透過度の測定もできなかった。一方、乾燥後に熱水処理を行うと、ナノ分散させることができるようになり、得られた分散体(実施例)は、未乾燥のセルロースナノファイバー分散体(参考例)と同等の分散性と光透過度を有することがわかる。また、実施例の分散体は、参考例の分散体と同様に、静置により粘度が向上するチキソトロピー性を有することがわかる。