(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6602334
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】規定濃度水の供給方法及び装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20191028BHJP
【FI】
H01L21/304 648G
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-68091(P2017-68091)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-170450(P2018-170450A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2017年9月6日
【審判番号】不服2018-11541(P2018-11541/J1)
【審判請求日】2018年8月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】飯野 秀章
【合議体】
【審判長】
豊永 茂弘
【審判官】
金 公彦
【審判官】
後藤 政博
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−211096(JP,A)
【文献】
特開2014−236079(JP,A)
【文献】
特開2000−208471(JP,A)
【文献】
特開2004−275917(JP,A)
【文献】
特開2003−334433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 3/,15/
B01J 4/
H01L21/
B08B 3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水に、酸又はアルカリの水溶液よりなる導電性の第1液と、H2,H2O2又はO3の溶解水よりなる非導電性の第2液との少なくとも2種類の液を添加して規定濃度の第1液成分及び第2液成分を含んだ規定濃度水を製造する工程と、
製造された規定濃度水を半導体洗浄工程の洗浄機に送水する工程とを有する規定濃度水の供給方法において、
該第1液と第2液とを予め規定混合比で混合した混合液を調製しておき、
該混合液を超純水に、添加後の超純水の導電率又は比抵抗が規定値となるように添加することを特徴とする規定濃度水の供給方法。
【請求項2】
請求項1において、前記第1液はアルカリの水溶液であり、第2液はH2O2の溶解水であることを特徴とする規定濃度水の供給方法。
【請求項3】
導電性の酸又はアルカリの水溶液よりなる第1液と、H2,H2O2又はO3の溶解水よりなる非導電性の第2液との少なくとも2種類の液が規定混合比で混合された混合液の貯留槽と、
該貯留槽内の混合液を超純水に薬注するための混合液送液手段と、
混合液が薬注された超純水の導電率又は比抵抗を計測する導電率計又は比抵抗計と、
混合液が薬注された超純水の瞬時流量を計測する瞬時流量計と、
該導電率計又は比抵抗計の検出値が規定となるように前記混合液送液手段を制御する制御手段と
を備えてなり、該混合液が添加された、規定濃度の第1液成分及び第2液成分を含んだ規定濃度水を製造する手段と、
製造された規定濃度水を半導体洗浄工程の洗浄機に送水する手段とを有する規定濃度水の供給装置。
【請求項4】
請求項3において、前記第1液はアルカリの水溶液であり、第2液はH2O2の溶解水であることを特徴とする規定濃度水の供給装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、規定濃度の水を供給するための方法及び装置に係り、特に導電性の第1液と、非導電性の第2液とを混合して超純水に添加して規定濃度の水を調製し、供給する規定濃度水の供給方法及び装置に関する。
【0002】
さらに詳しくは、本発明は、半導体用ウェハの洗浄・リンス工程で有効な、アルカリ・酸化剤等のごく低濃度の溶質を含む洗浄水を供給するのに好適な方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0003】
半導体用シリコンウェハなどの洗浄およびリンス工程で、pHや酸化還元電位の制御に有効な溶質をごく低濃度溶解した水(ここでは希薄洗浄水と呼ぶ)が使われることがある。超純水を基本材料として、洗浄やリンス等の工程の目的に合致したpHや酸化還元電位などの液特性を持たせるために、必要最小限の酸・アルカリ、酸化剤・還元剤が添加される。H
2、NH
3、O
3といった還元性、アルカリ性、酸性のガスを超純水に溶解させる方法があるが、薬液を微量添加(薬注)する方法も簡便であり、活用されている。
【0004】
薬注の方法としては、ポンプを用いる方法、密閉容器とN
2などの不活性ガスによる加圧を用いる方法があり、それぞれ実用化されている。
【0005】
希薄洗浄水の供給においては、溶質濃度が所望範囲に収まるよう、濃度モニターの信号を受けてのPID制御、超純水流量に対する比例制御など、様々な手法による溶解コントロールが行われている。半導体の洗浄工程で用いられることの多い薬液の一つとしてH
2O
2があげられ、洗浄機で使用される流量が変動する場合にも常に厳密な濃度コントロールが求められる。ただしH
2O
2単体で洗浄に用いることはなく、酸、アルカリなどの薬液と混合して用いることが多い。
【0006】
H
2O
2の濃度を測定する方法としては、比色滴定を用いた方法が主流であり、オンラインでモニタリングする方法としては、平沼産業(株)より「プロセスタイトレータAHP310」が販売されている。またAero Laser GmbHより同じく吸光光度を用いた「AL2021」が販売されている。しかしこれらの方法では、測定のために所定の試薬を用いる必要があり、試薬管理および調整が煩雑になってしまう。
【0007】
特開2012−63303号公報には、水中の過酸化水素を分解させ、溶存酸素の濃度を測定することにより、試薬を用いずにH
2O
2濃度を定量することが記載されているが、脱気装置が必要で装置が煩雑になることと、DO計の感度に依存してしまうため、低濃度域を正確に計測できないという問題があった。
【0008】
このように、従来の方法では、洗浄機で使用される流量が変動する場合、常に厳密な濃度コントロールをすることはできない。また、ppbレベルでのPID制御が十分に行われず、微量濃度域のコントロールができない。その結果、ウェハに注がれる洗浄水・リンス水の液質は、理想の値とは程遠い広い範囲での制御に留まっていた。
【0009】
液質安定化を優先し、あらかじめ希薄洗浄水を一定の条件で製造し、貯蔵し、貯蔵タンクから供給し続ける単純な方法もあるが、この場合、大掛かりな貯水タンクをウェハを製造するクリーンルーム内の洗浄機近くに設置する必要があり、現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012−63303号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、導電性の第1液と、非導電性の第2液とを超純水に規定濃度にて添加して規定濃度水を効率よく製造し、供給することができる規定濃度水の供給方法及び装置を提供することを目的とする。本発明は、その一態様において、H
2O
2を規定濃度にて含む稀薄洗浄水を効率よく製造し、供給することができる規定濃度水の供給方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の規定濃度水の供給方法は、超純水に、導電性の第1液と、非導電性の第2液との少なくとも2種類の液を添加して規定濃度の第1液成分及び第2液成分を含んだ規定濃度水を製造する工程を有する規定濃度水の供給方法において、該第1液と第2液とを予め規定混合比で混合した混合液を調製しておき、該混合液を超純水に、添加後の超純水の導電率又は比抵抗が規定値となるように添加することを特徴とするものである。
【0013】
本発明の規定濃度水の供給装置は、導電性の第1液と非導電性の第2液との少なくとも2種類の液が規定混合比で混合された混合液の貯留槽と、該貯留槽内の混合液を超純水に薬注するための混合液送液手段と、混合液が薬注された超純水の導電率又は比抵抗を計測する導電率計又は比抵抗計と、混合液が薬注された超純水の瞬時流量を計測する瞬時流量計と、該導電率計又は比抵抗計の検出値が規定となるように前記混合液送液手段を制御する制御手段とを備えてなるものである。
【0014】
本発明の一態様では、第1液は酸又はアルカリの水溶液であり、第2液はH
2,H
2O
2又はO
3の溶解水である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、導電性の第1液と、非導電性の第2液とを予め規定混合比で混合した混合液を超純水に、添加後の該超純水の導電率又は比抵抗が規定値となるように添加するので、第1液及び第2液がそれぞれ超純水に規定濃度にて添加された規定濃度水を効率よく製造することができる。
【0016】
希薄洗浄水の溶解成分には、NH
3などのアルカリ、HCl、H
2SO
4、HFなどの酸、H
2O
2などの酸化剤といった、一般的にELグレードの薬液添加で供給されるものや、O
3、H
2、CO
2といったガス溶解で供給されるものがある。これらはいずれもせいぜいppm〜ppbオーダーでの添加で、液質を整えている。ppmオーダーでの添加をオンラインモニタリングする場合、導電率計が応答性がよく、かつ構造が簡便で消耗材がないため適しているが、H
2O
2は導電率計では検出されにくい。一方、NH
3やHCl、CO
2などはppmオーダーであれば導電率計で感度良く検出することが可能である。また、ppbオーダーでの添加をモニタリングする場合、導電率計の代わりに比抵抗計を用いればよい。この比抵抗計は応答性がよく、かつ構造が簡便で消耗材がないため好適である。
【0017】
本発明によると、添加量を導電率計でモニタリングできる導電性の第1液と、導電率計でモニタリングしにくい非導電性の第2液を事前に規定比率にて混合しておき、混合液の薬注後に導電率計又は比抵抗計でモニタリングして混合液の添加量を制御することにより、第1液及び第2液中の各成分を高精度にて規定濃度にて含有した規定濃度水を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】第1の実施の形態に係る規定濃度水の供給方法及び装置の説明図である。
【
図2】第2の実施の形態に係る規定濃度水の供給方法及び装置の説明図である。
【
図3】第3の実施の形態に係る規定濃度水の供給方法及び装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面1〜3を参照して実施の形態について説明する。
【0020】
図1では、導電性の第1液が配管1,3を介して貯留槽6に導入され、非導電性の第2液が配管2,3を介して貯留槽6に導入される。
【0021】
第1液及び第2液の貯留槽6への供給量は、積算流量計4,5でそれぞれ検出されており、貯留槽6には第1液と第2液とが規定の比率で混合された混合液Mが貯留されている。貯留槽6には水位センサ7が設けられている。
【0022】
この貯留槽6内の混合液Mは、ポンプ8及び配管9を介して、配管10を流れる超純水に対し薬注点10aにて薬注(添加)される。薬注された超純水は、導電率計11によって導電率が計測されると共に、瞬時流量計12によって流量が計測される。
【0023】
導電率計11及び瞬時流量計12の検出値は、ポンプ制御装置(図示略)に入力され、ポンプ制御装置は、導電率計11の検出値が規定値となるようにポンプ8を制御する。
【0024】
混合液Mは、第1液と第2液とが規定比率にて混合されたものであり、この混合液中の成分のうち導電率計11の検出値に影響するのは実質的に第1液のみである。そのため、導電率計11の検出値が規定値となるように混合液Mの薬注が行われると、薬注後の超純水中の第1液成分は規定濃度となる。また、混合液M中の第1液と第2液との比率は、予め規定比率(目的とする規定濃度水中の第1液成分と第2液成分との比率)となっているので、薬注後の超純水中の第2液成分濃度も規定濃度となる。このようにして、第1液成分及び第2液成分を規定濃度だけ含んだ規定濃度水が製造され、この規定濃度水は半導体製造工程の洗浄機等に送水される。
【0025】
導電率計11及び瞬時流量計12の精度及び応答性は極めて高いので、規定濃度水中の各成分濃度の目的値からの誤差は極めて小さい。
【0026】
上記の第1液としては、アンモニア、テトラアルキルアンモニウムヒドロキシド、アミンなどのアルカリ水溶液、HCl,H
2SO
4,HF,CO
2などの酸水溶液などが例示される。第2液としては、H
2O
2,H
2,O
3等のガス溶解水などが例示される。第1液の導電率は通常0.05〜5mS/m程度である。第2液の導電率は通常0.02mS/m以下である。ただし、第2液の導電率は第1液の1/5以下とする。混合液Mが添加された超純水中の第1液成分濃度がppmオーダーであっても、その濃度は導電率計によって高精度にて計測される。
【0027】
図1では、積算流量計4,5を用いることにより、貯留槽6内の混合液M中の第1液と第2液との混合比を規定比としているが、
図2では、貯留槽6に重量センサ20を設置し、該貯留槽6に所定量aの第1液を導入した後(又はその前に)、貯留槽6に所定量bの第2液を導入することにより、第1液と第2液との混合比a/bが規定値となっている混合液Mを貯留槽6に貯留させるよう構成されている。その他の構成は
図1と同じである。
【0028】
図1,2ではポンプ8によって薬注を行っているが、
図3のように不活性ガス(例えば窒素、ヘリウムなど)を貯留槽6に供給し、不活性ガス圧によって貯留槽6内の混合液Mを超純水に薬注し、ポンプ8を省略するようにしてもよい。
図3のその他の構成は
図1と同じである。
図3は
図1のシステムにおいて不活性ガス圧を利用する構成としているが、
図2のシステムも同様に構成することができる。
【0029】
本発明では、従来の薬注機構をそのまま利用することができる。即ち、本発明装置は、異なる2種類の薬液の比率を常に所定の値にするための積算流量計4,5と、混合液の水位を監視するための水位センサ7と、混合液を貯留するための貯留槽6と、貯留槽6から薬注点10aまで送液するための送液ポンプ8又は不活性ガス圧送手段と、超純水と混合後の導電率をモニタリングするための導電率計11と、送水量を監視するための瞬時流量センサ12等を備えるが、これらの機器は、従来の薬注機構のもので足りる。なお、規定濃度水の送水ラインの途中に不純物除去のためのフィルター等のユニットが設置されてもよい。
【0030】
積算流量計4,5と水位センサ7を組み合わせることで、貯留槽6に2種類の薬液を自動的に供給することができる。混合液Mは、2種類の液の混合液に限定されるものではなく、3種類以上の複数薬液の混合液であってもよい。
【0031】
送液ポンプ8と導電率計11と瞬時流量センサ12を組み合わせ、PID制御もしくは比例制御をすることで、流量が変動する場合でも常に厳密な濃度コントロールが可能となる。薬液の粘度、比重によって制御性が損なわれることはない。なお、以上、導電率計11を用いた場合について説明してきたが、ppbオーダーの場合には、導電率計11の代わりに比抵抗計を用いればよい。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
図1のシステムにおいて、次の条件で超純水に薬注を行った。結果を表1に示す。
【0033】
超純水送水量:12〜20L/min
第1液:NH
4OH 10ppm水溶液
第2液:H
2O
2 1ppm溶解水
ポンプ8の制御方式:PID
試験時間:20分
【0034】
[実施例2]
図2のように積算流量計4,5の代わりに重量センサ20を用いたこと以外は実施例1と同じ条件で薬注を行った。結果を表1に示す。
【0035】
[実施例3]
ポンプ8を省略し、
図3の不活性ガス圧送方式のシステムを用いたこと以外は、実施例1と同じ条件で薬注を行った。結果を表1に示す。
【0036】
[実施例4]
実施例3において、
図2のように積算流量計4,5の代わりに重量センサ20を用いたこと以外は同一条件で薬注を行った。結果を表1に示す。
【0037】
[比較例1]
図4に示すように、貯留槽6には第1液のみを供給し、別途設けられた第2貯留槽6Aに第2液のみを供給し、第1液をポンプ8を介して薬注点10aで薬注し、第2液については第2ポンプ8Aを介して第2薬注点10bで薬注するようにしたシステムを用いた。非導電性である第2液の濃度計測はオンラインH
2O
2モニター13を用いて行った。その際の瞬時流量は瞬時流量計14を用いて計測した。その他は実施例1と同じ条件で薬注を行った。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1の通り、実施例1〜4は第2貯留槽6,6Aを併設する従来方式と同等の薬注性能を有する。
【0040】
以上の実施例1〜4、比較例1より明らかな通り、導電率計で計測した値をPID制御に用いることで、計測の困難な非導電性のH
2O
2と、導電性の薬液を洗浄・リンス工程で極めて重要な液質を所望の値に精度よく安定に供給が実現できる。また比例制御の場合も、導電率計の測定結果を反映して薬注量を調節することで安定に供給することができる。
【0041】
[実験例1]
貯留タンクにおける下記の濃厚薬液(混合液)中の各成分の自己分解性について以下の条件で計測した。結果を
図5に示す。
【0042】
タンク容量:10L
NH
4OH濃度:25wt%
H
2O
2濃度:30wt%
外気温:25℃
保管期間:1か月
検出方法:比色滴定
図5の通り、濃厚薬液を混合した状態でも、5日間は濃度一定であることが分かった。これより、タンク貯留量は5日以下になるよう設計することで、薬液毎にタンクおよび薬注点を設けなくてもよいことが明らかとなった。またタンク貯留量が所定の値より低くなった場合は、積算式流量計もしくは重量メーターを用いて各薬液を補充することで解消できることが認められた。
【符号の説明】
【0043】
4,5 積算流量計
6,6A 貯留槽
11 導電率計
13 H
2O
2モニター
12,14 瞬時流量計