特許第6602502号(P6602502)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友化学株式会社の特許一覧

特許6602502ガス分離膜エレメント、ガス分離膜モジュール、及びガス分離装置
<>
  • 特許6602502-ガス分離膜エレメント、ガス分離膜モジュール、及びガス分離装置 図000004
  • 特許6602502-ガス分離膜エレメント、ガス分離膜モジュール、及びガス分離装置 図000005
  • 特許6602502-ガス分離膜エレメント、ガス分離膜モジュール、及びガス分離装置 図000006
  • 特許6602502-ガス分離膜エレメント、ガス分離膜モジュール、及びガス分離装置 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6602502
(24)【登録日】2019年10月18日
(45)【発行日】2019年11月6日
(54)【発明の名称】ガス分離膜エレメント、ガス分離膜モジュール、及びガス分離装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20191028BHJP
   B01D 63/10 20060101ALI20191028BHJP
   B01D 63/00 20060101ALI20191028BHJP
   B01D 69/00 20060101ALI20191028BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20191028BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20191028BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20191028BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20191028BHJP
【FI】
   B01D53/22
   B01D63/10
   B01D63/00 500
   B01D63/00 510
   B01D69/00 500
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D71/26
   B01D71/34
【請求項の数】11
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2019-506030(P2019-506030)
(86)(22)【出願日】2018年3月13日
(86)【国際出願番号】JP2018009633
(87)【国際公開番号】WO2018168820
(87)【国際公開日】20180920
【審査請求日】2019年2月15日
(31)【優先権主張番号】特願2017-52939(P2017-52939)
(32)【優先日】2017年3月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田▲崎▼ 努
(72)【発明者】
【氏名】古川 信一
【審査官】 関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2016/194833(WO,A1)
【文献】 特表2013−542074(JP,A)
【文献】 特開平10−000341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定のガスを含む原料ガスから前記特定のガスを分離するガス分離膜エレメントであって、
前記ガス分離膜エレメントは、
ガス分離膜と、
前記ガス分離膜を透過した前記特定のガスと前記原料ガスとの混合を防止するための封止部と、
前記原料ガスが流れる供給側流路部材と、
前記ガス分離膜を透過した前記特定のガスが流れる透過側流路部材と、
前記透過側流路部材を流れる前記特定のガスを収集する中心管と、を有するスパイラル型ガス分離膜エレメントであり、
前記ガス分離膜は、
多孔膜を含む第1多孔層と、
前記原料ガスに含まれる前記特定のガスを選択的に透過させる親水性樹脂組成物層と、を含み、
前記親水性樹脂組成物層は、前記第1多孔層上に設けられ、
前記封止部は、前記透過側流路部材及び前記第1多孔層に封止材料の硬化物が浸透した領域における前記透過側流路部材、前記第1多孔層及び前記硬化物を少なくとも含み、
前記ガス分離膜エレメントの前記中心管の軸方向に平行な方向の両端部における端面には、前記親水性樹脂組成物層が存在しており、
前記封止部の熱膨張係数Aと、前記第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bとは、下記式(I)の関係にあり、
前記熱膨張係数Aは、前記封止部をサイズ10mm×5mmに切り出した測定用サンプルについて測定した温度25〜35℃における平均線膨張係数であり、
前記熱膨張係数Bは、前記第1多孔層をガラス転移温度以上に加熱してシート化し、これをサイズ10mm×5mmに切り出したシート状サンプルについて測定した温度25〜35℃における平均線膨張係数である、ガス分離膜エレメント。
0.35≦A/B≦1.0 (I)
【請求項2】
前記熱膨張係数Aと前記熱膨張係数Bとは、下記式(i)の関係にある、請求項1に記載のガス分離膜エレメント。
0.35≦A/B<1.0 (i)
【請求項3】
前記封止材料は、
エポキシ系樹脂である、
請求項1又は2に記載のガス分離膜エレメント。
【請求項4】
前記第1多孔層をなす前記材料は、
ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、フッ素含有樹脂、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガス分離膜エレメント。
【請求項5】
前記封止部は、
少なくとも、前記中心管の軸に平行な方向における前記ガス分離膜の両端に位置する端部に設けられ、
前記封止材料の硬化物は、
ショア硬度が60以上である、
請求項に記載のガス分離膜エレメント。
【請求項6】
前記親水性樹脂組成物層は、
親水性樹脂と、
前記原料ガス中の前記特定のガスと可逆的に反応するキャリアと、を含む、
請求項1〜のいずれか1項に記載のガス分離膜エレメント。
【請求項7】
前記特定のガスは、
酸性ガスである、
請求項1〜のいずれか1項に記載のガス分離膜エレメント。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載のガス分離膜エレメントのうちの少なくとも1つをハウジング内に備える、ガス分離膜モジュール。
【請求項9】
請求項に記載のガス分離膜モジュールを少なくとも1つ備える、ガス分離装置。
【請求項10】
特定のガスを含む原料ガスから前記特定のガスを分離するガス分離膜エレメントの製造方法であって、
多孔膜を含む第1多孔層と、前記原料ガスに含まれる前記特定のガスを選択的に透過させる親水性樹脂組成物層とを有し、前記親水性樹脂組成物層が前記第1多孔層上に設けられたガス分離膜を準備する工程と、
少なくとも前記第1多孔層に封止材料を浸透させて硬化させることにより、前記ガス分離膜を透過した前記特定のガスと前記原料ガスとの混合を防止するための封止部を形成する工程と、を含み、
前記ガス分離膜エレメントは、前記ガス分離膜と、前記封止部と、前記原料ガスが流れる供給側流路部材と、前記ガス分離膜を透過した前記特定のガスが流れる透過側流路部材と、前記透過側流路部材を流れる前記特定のガスを収集する中心管と、を有するスパイラル型ガス分離膜エレメントであり、
前記封止部は、前記透過側流路部材及び前記第1多孔層に封止材料の硬化物が浸透した領域における前記透過側流路部材、前記第1多孔層及び前記硬化物を少なくとも含み、
前記ガス分離膜エレメントの前記中心管の軸方向に平行な方向の両端部における端面には、前記親水性樹脂組成物層が存在しており、
前記封止部の熱膨張係数Aと、前記第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bとは、下記式(I)の関係にあり、
前記熱膨張係数Aは、前記封止部をサイズ10mm×5mmに切り出した測定用サンプルについて測定した温度25〜35℃における平均線膨張係数であり、
前記熱膨張係数Bは、前記第1多孔層をガラス転移温度以上に加熱してシート化し、これをサイズ10mm×5mmに切り出したシート状サンプルについて測定した温度25〜35℃における平均線膨張係数である、ガス分離膜エレメントの製造方法。
0.35≦A/B≦1.0 (I)
【請求項11】
前記熱膨張係数Aと前記熱膨張係数Bとは、下記式(i)の関係にある、請求項10に記載のガス分離膜エレメントの製造方法。
0.35≦A/B<1.0 (i)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス分離膜エレメント、ガス分離膜モジュール、ガス分離装置、及びガス分離膜エレメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素や尿素等を製造するプラントで合成される合成ガス、天然ガス、排ガス等から二酸化炭素等の酸性ガスを分離するプロセスとして、省エネルギー化を実現することができることから、酸性ガス膜分離プロセスが近年注目されている。
【0003】
ガス分離膜を用いたガス分離膜エレメントとしては、中空型、チューブ型、プレート&フレーム型、スパイラル型等の形式が知られている。例えば、スパイラル型のガス分離膜エレメントは、複数の孔を有する中心管に、ガス分離膜と供給側流路材と透過側流路材とが積層状態で巻回された巻回体が備えられている。また、スパイラル型のガス分離膜エレメントでは、原料ガスと原料ガスから分離した透過ガスとの混合を避けるために、ガス分離膜の周辺部に封止材料が浸透した封止部が形成される。原料ガスから酸性ガスを分離するガス分離膜では、支持層等となる多孔膜を含む多孔層上に酸性ガスを分離するための分離機能層を備えているため、このような構造のガス分離膜をスパイラル型のガス分離膜エレメントに用いる場合、ガス分離膜の多孔層の周辺部(通常三辺)に封止材料が浸透した封止部が形成される。
【0004】
半透膜に用いられる端部密封固定材について開示する特許文献1には、この端部密封固定材としてイミダゾール系硬化エポキシ樹脂を用いることが記載されている。また、分離用の渦巻き型膜要素を開示する特許文献2には、分離用の渦巻き型膜要素の組立てに際して用いる接着剤として高温エポキシが挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−166902号公報
【特許文献2】特開平06−154564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ガス分離膜の適用が想定される水素や尿素等を製造するプラントでは、通常、ガス膜分離プロセスは高温条件下で行われる。そのため、ガス膜分離プロセスの運転・停止の繰返しに伴い、ガス分離膜エレメントは高温及び常温の条件下に繰返し曝される。
【0007】
本発明者らは、多孔層上に分離機能層としての親水性樹脂組成物層を有するガス分離膜を用いたガス分離膜エレメントでは、ガス膜分離プロセスの運転・停止に伴って生じる上記のような温度変化により、ガス分離の効率が低下することを見出した。
【0008】
本発明は、ガス膜分離プロセスの運転・停止の繰返し等により温度変化が繰り返される条件下で使用される場合にも、ガス分離の効率の低下を抑制することができる、ガス分離膜エレメント、ガス分離膜モジュール、ガス分離装置、及びガス分離膜エレメントの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下のガス分離膜エレメント、ガス分離膜モジュール、ガス分離装置、及びガス分離膜エレメントの製造方法を提供する。
〔1〕 特定のガスを含む原料ガスから前記特定のガスを分離するガス分離膜エレメントであって、
前記ガス分離膜エレメントは、
ガス分離膜と、
前記ガス分離膜を透過した前記特定のガスと前記原料ガスとの混合を防止するための封止部と、を含み、
前記ガス分離膜は、
多孔膜を含む第1多孔層と、
前記原料ガスに含まれる前記特定のガスを選択的に透過させる親水性樹脂組成物層と、を含み、
前記親水性樹脂組成物層は、
前記第1多孔層上に設けられ、
前記封止部は、
少なくとも前記第1多孔層に封止材料の硬化物が浸透した領域であり、
前記封止部の熱膨張係数Aと、前記第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bとは、下記式(I)の関係にある、ガス分離膜エレメント。
0.35≦A/B≦1.0 (I)
〔2〕 前記熱膨張係数Aと前記熱膨張係数Bとは、下記式(i)の関係にある、〔1〕に記載のガス分離膜エレメント。
0.35≦A/B<1.0 (i)
〔3〕 前記封止材料は、エポキシ系樹脂である、〔1〕又は〔2〕に記載のガス分離膜エレメント。
〔4〕 前記第1多孔層をなす前記材料は、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、フッ素含有樹脂、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)及びポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなる群より選ばれる1種以上の樹脂を含む、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のガス分離膜エレメント。
〔5〕 前記ガス分離膜エレメントは、
前記原料ガスが流れる供給側流路部材と、
前記ガス分離膜を透過した前記特定のガスが流れる透過側流路部材と、
前記透過側流路部材を流れる前記特定のガスを収集する中心管と、をさらに有するスパイラル型ガス分離膜エレメントであり、
前記封止部は、
少なくとも前記透過側流路部材及び前記第1多孔層に前記封止材料の前記硬化物が浸透した領域である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のガス分離膜エレメント。
〔6〕 前記封止部は、
少なくとも、前記中心管の軸に平行な方向における前記ガス分離膜の両端に位置する端部に設けられ、
前記封止材料の硬化物は、
ショア硬度が60以上である、〔5〕に記載のガス分離膜エレメント。
〔7〕 前記親水性樹脂組成物層は、
親水性樹脂と、
前記原料ガス中の前記特定のガスと可逆的に反応するキャリアと、を含む、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載のガス分離膜エレメント。
〔8〕 前記特定のガスは、酸性ガスである、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載のガス分離膜エレメント。
〔9〕 上記〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載のガス分離膜エレメントのうちの少なくとも1つをハウジング内に備える、ガス分離膜モジュール。
〔10〕 上記〔9〕に記載のガス分離膜モジュールを少なくとも1つ備える、ガス分離装置。
〔11〕 特定のガスを含む原料ガスから前記特定のガスを分離するガス分離膜エレメントの製造方法であって、
多孔膜を含む第1多孔層と、前記原料ガスに含まれる前記特定のガスを選択的に透過させる親水性樹脂組成物層とを有し、前記親水性樹脂組成物層が前記第1多孔層上に設けられたガス分離膜を準備する工程と、
少なくとも前記第1多孔層に封止材料を浸透させて硬化させることにより、前記ガス分離膜を透過した前記特定のガスと前記原料ガスとの混合を防止するための封止部を形成する工程と、を含み、
前記封止部の熱膨張係数Aと、前記第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bとは、下記式(I)の関係にある、ガス分離膜エレメントの製造方法。
0.35≦A/B≦1.0 (I)
〔12〕 前記熱膨張係数Aと前記熱膨張係数Bとは、下記式(i)の関係にある、〔11〕に記載のガス分離膜エレメントの製造方法。
0.35≦A/B<1.0 (i)
【発明の効果】
【0010】
本発明のガス分離膜エレメント、分離膜モジュール、ガス分離装置、及びガス分離膜エレメントの製造方法は、ガス膜分離プロセスの運転・停止の繰返し等により温度変化が繰り返される条件下で使用される場合にも、ガス分離の効率の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明に係るガス分離膜エレメントの一例を展開して示す、一部切欠き部分を設けた概略の斜視図である。
図2】本発明に係るガス分離膜エレメントの一例を示す、一部展開部分を設けた概略の斜視図である。
図3】本発明に係るガス分離膜エレメントの巻回体がなす積層体の一部を例示的に示す概略の断面図である。
図4】本発明に係るガス分離膜エレメントの一例を展開して示す、(a)は概略の断面図であり、(b)は概略の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、記述した範囲内で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0013】
〔ガス分離膜エレメント〕
本発明に係るガス分離膜エレメントは、
特定のガスを含む原料ガスから前記特定のガスを分離するガス分離膜エレメントであって、
ガス分離膜エレメントは、
ガス分離膜と、
ガス分離膜を透過した特定のガスと原料ガスとの混合を防止するための封止部と、を含み、
ガス分離膜は、
多孔膜を含む第1多孔層と、
原料ガスに含まれる特定のガスを選択的に透過させる親水性樹脂組成物層と、を含み、
親水性樹脂組成物層は、第1多孔層上に設けられ、
封止部は、少なくとも第1多孔層に封止材料の硬化物が浸透した領域であり、
封止部の熱膨張係数Aと、第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bとは、下記式(I)の関係にある。
0.35≦A/B≦1.0 (I)
【0014】
ガス分離膜エレメントは、例えば、スパイラル型、中空糸型、チューブ型、プレート&フレーム型等の形式を挙げることができる。ガス分離膜エレメントは、例えば複数種のガスを含む原料ガスから、特定ガスを透過して分離するものであれば特に限定されない。特定ガスとしては、水素、窒素、メタン、酸性ガス等を挙げることができる。酸性ガスとは、二酸化炭素(CO)、硫化水素(HS)、硫化カルボニル、硫黄酸化物(SO)、窒素酸化物(NO)、塩化水素等のハロゲン化水素等の酸性を示すガスをいう。
【0015】
また、原料ガスとは、ガス分離膜エレメントに供給されるガスをいう。原料ガスには、少なくとも特定のガスが含まれる。透過ガスとは、ガス分離膜エレメントのガス分離膜を透過した特定のガスを含むガスをいう。なお、透過ガスがガス分離膜エレメントに再供給される場合には、この透過ガスは、ガス分離膜エレメントに供給される原料ガスの一部となり得る。
【0016】
以下、ガス分離膜エレメントとして、スパイラル型ガス分離膜エレメントを用い、ガス分離膜を透過する特定のガスが酸性ガスである場合の本発明の一実施形態について説明する。
【0017】
スパイラル型酸性ガス分離膜エレメント(以下、単に「ガス分離膜エレメント」ということがある。)は、
酸性ガスを含む原料ガスが流れる供給側流路部材、
多孔膜を含む第1多孔層と、この第1多孔層上に設けられ、供給側流路部材を流れる原料ガスに含まれる酸性ガスを分離して透過させる親水性樹脂組成物層とを有する酸性ガス分離膜、
酸性ガス分離膜を透過した透過ガスが流れる透過側流路部材、
原料ガスと透過ガスとの混合を防止するための封止部、及び、
透過側流路部材を流れる透過ガスを収集する中心管、を有し、
供給側流路部材と、酸性ガス分離膜と、透過側流路部材とを積層した積層体が、中心管に巻回されている構造を有する。
【0018】
図1に、スパイラル型ガス分離膜エレメント1を展開し、一部切欠き部分を設けた概略の斜視図を示す。図2に、スパイラル型ガス分離膜エレメント1の一部を展開した概略の斜視図を示す。図3に、スパイラル型ガス分離膜エレメント1の巻回体がなす積層体の一部を示す断面図を示す。なお、図1〜3に示されるスパイラル型ガス分離膜エレメント、巻回体の層構成は例示であり、本発明はこれらの例示に限定されるものではない。
【0019】
ガス分離膜エレメント1は、図1及び図2に示すように、酸性ガス分離膜2、供給側流路部材3及び透過側流路部材4をそれぞれ1以上含むとともに、これらを積層した積層体7が中心管5に巻回された巻回体を備えることができる。巻回体は、円筒状、角筒状等の任意の形状であってもよいが、円筒状のハウジング(容器)に収納されることから円筒状であることが好ましい。
【0020】
ガス分離膜エレメント1は、さらに、巻回体の巻戻しや巻崩れを防止するために、外周テープやテレスコープ防止板(ATD)等の固定部材(図示せず)を備えていてもよく、ガス分離膜エレメント1にかかる内圧及び外圧による負荷に対する強度を確保するために、巻回体の最外周にアウターラップ(補強層)を有していてもよい。外周テープは、巻回体の外周に巻き付けられることにより、巻回体の巻戻しを抑制することができる。テレスコープ防止板は、巻回体の両端部に取付けられ、ガス分離膜エレメント1の使用中に、巻回体に巻崩れ(テレスコープ)現象が発生することを抑制することができる。アウターラップ(補強層)は、例えばガラスファイバーにエポキシ樹脂を含浸した繊維強化樹脂等の補強材を用いることができ、巻回体の最外周に補強材を巻き付けた後にエポキシ樹脂を硬化させることが好ましい。
【0021】
〔巻回体〕
ガス分離膜エレメント1をなす巻回体は、図3に示すように、中心管5側から巻回体の外周方向に向けて、透過側流路部材4、酸性ガス分離膜2、供給側流路部材3、酸性ガス分離膜2がこの順に繰返し積層された積層体7と、原料ガスと透過ガスとの混合を防止するための封止部25とを有することができる。酸性ガス分離膜2は、後述するように、少なくとも酸性ガスを選択的に透過する親水性樹脂組成物層20と、第1多孔層21とを含む。第1多孔層21は、酸性ガス分離膜2を用いた原料ガスからの酸性ガスの分離に際し、親水性樹脂組成物層20を支持するために設けられ、親水性樹脂組成物層20に隣接して設けられる。図3に示す酸性ガス分離膜2では、第1多孔層21が親水性樹脂組成物層20を支持し、透過側流路部材4側に第1多孔層21が配置され、供給側流路部材3側に親水性樹脂組成物層20が配置される例を示している。以下では、特に断りのない限り、第1多孔層21が、親水性樹脂組成物層20を支持するために設けられた場合を例に挙げて説明する。
【0022】
酸性ガス分離膜2は、親水性樹脂組成物層20の第1多孔層21が設けられた面とは反対側の面に多孔膜を含む第2多孔層(多孔性の保護層)を有していてもよい。また、酸性ガス分離膜2は、酸性ガス分離膜2の第1多孔層21の親水性樹脂組成物層20が設けられた面と反対側の面に多孔膜を含む第3多孔層(多孔性の補強支持層)を有していてもよい。例えば、図3に示す酸性ガス分離膜2では、第2多孔層は、親水性樹脂組成物層20と供給側流路部材3との間に配置され、第3多孔層は、第1多孔層21と透過側流路部材4との間に配置される。
【0023】
〔封止部25〕
封止部25は、原料ガスと透過ガスとの混合を防止するために設けられ、図1に示すスパイラル型ガス分離膜エレメント1では、少なくとも透過側流路部材4及び第1多孔層21に封止材料の硬化物が浸透した領域であり、封止材料の硬化物を含むことができる。封止部25は、原料ガスと透過ガスとの混合を防止できる位置に設けられていればその位置は特に限定されない。例えば、透過側流路部材4及び第1多孔層21において、巻回体の中心管5の軸に平行な方向における酸性ガス分離膜2の両端の位置に対応する端部、及び、中心管5の軸に直交する方向における酸性ガス分離膜2の両端の位置に対応する端部のうち、巻回体において外周側に位置する端部に対応する端部に、封止部が形成されたいわゆるエンベロープ状とすることができる。封止材料は、後述するように樹脂材料を含み、封止部25は、この封止材料(樹脂材料)が透過側流路部材4及び第1多孔層21に浸透し、浸透した封止材料が硬化することによって形成される。これにより、供給側流路部材3から酸性ガス分離膜2の親水性樹脂組成物層20を透過して透過側流路部材4に供給された透過ガスを中心管5に収集することができる。
【0024】
封止部25は、図3に示すように、透過側流路部材4に封止材料が浸透して形成された第1封止部25aと、酸性ガス分離膜2の第1多孔層21に封止材料が浸透して形成された第2封止部25bとを有することができる。透過側流路部材4の両面に酸性ガス分離膜2が設けられている積層構造部分では、1つの第1封止部25aと2つの第2封止部25bとによって封止部25が形成される。なお、積層体7が、酸性ガス分離膜2の第1多孔層21と透過側流路部材4との間に多孔性の第3多孔層を有する場合には、封止部25には、第3多孔層に封止材料が浸透して形成された第3封止部も含まれる。
【0025】
封止部25の熱膨張係数Aと、第1多孔層21をなす材料の熱膨張係数Bとは、下記式(I)の関係にあり、下記式(i)の関係にあることが好ましい。
0.35≦A/B≦1.0 (I)
0.35≦A/B<1.0 (i)
比A/Bは、0.35以上であり、0.36以上であることが好ましく、0.38以上であることがより好ましく、また、0.99以下であることが好ましく、0.98以下であることがより好ましく、0.96以下であることがさらに好ましい。ガス分離膜エレメント1の適用が想定される水素や尿素等を製造するプラントでのガス膜分離プロセスの運転・停止により、ガス分離膜エレメント1は高温及び常温の条件下に曝される。比A/Bが上記の範囲内であることにより、上記酸性ガス分離膜2が上記のような温度変化を伴う条件下に曝された場合にも、ガス分離膜エレメント1による酸性ガスの分離効率の低下を抑制することができる。また、ガス分離膜エレメント1は、高温・高湿の条件下に曝されることもあるが、酸性ガス分離膜2が高温・高湿の条件下に曝される場合には、比A/Bは、式(i)の関係にあることが好ましい。比A/Bが式(i)の関係にあることにより、高温・高湿の条件下における封止部25の強度を向上することができる。
【0026】
封止部25の熱膨張係数Aは、ガス分離膜エレメント1をなす積層体7から、第2封止部25b/第1封止部25a/第2封止部25bを含むように切り出されたサイズ10mm×5mmの測定用サンプルについて、TMA(Thermal Mechanical Analysis)測定装置を用いて温度25〜35℃における平均線膨張係数を測定した値である。なお、封止部25から切り出された測定用サンプルは、一方又は両方の第2封止部25b上に親水性樹脂組成物層20を含んでいてもよい。親水性樹脂組成物層20は、通常、封止部25に対して薄く柔軟な材料であるため、親水性樹脂組成物層20に熱膨張・熱収縮が生じても、封止部25に対してほとんど影響を及ぼさないと考えられる。封止部25の熱膨張係数Aは、25×10−6−1以上であることが好ましく、30×10−6−1以上であることがより好ましく、35×10−6−1以上であることがさらに好ましく、また、250×10−6−1以下であることが好ましく、200×10−6−1以下であることがより好ましく、150×10−6−1以下であることがさらに好ましい。
【0027】
なお、封止部25に第3封止部が含まれる場合、封止部25の熱膨張係数Aは、第3封止部を含めた封止部25の熱膨張係数Aを測定すればよい。すなわち、第2封止部25b/第3封止部/第1封止部25a/第3封止部/第2封止部25bを含むように、封止部25から切り出されたサイズ10mm×5mmの測定用サンプルについて、TMA(Thermal Mechanical Analysis)測定装置を用いて温度25〜35℃における平均線膨張係数を測定した値とすればよい。なお、封止部25から切り出された測定用サンプルは、一方又は両方の第2封止部25b上に親水性樹脂組成物層20を含んでいてもよい。
【0028】
第1多孔層21をなす材料の熱膨張係数Bは、第1多孔層21を加熱しシート化し、これをサイズ10mm×5mmに切り出したシート状サンプルについて、TMA(Thermal Mechanical Analysis)測定装置を用いて温度25〜35℃における平均線膨張係数を測定した値である。シート状サンプルは、後述する実施例に記載の手順によって作製される。第1多孔層21をなす材料の熱膨張係数Bは、15×10−6−1以上であることが好ましく、30×10−6−1以上であることがより好ましく、40×10−6−1以上であることがさらに好ましく、また、300×10−6−1以下であることが好ましく、250×10−6−1以下であることがより好ましく、200×10−6−1以下であることがさらに好ましい。熱膨張係数Bが上記の範囲外である場合には、封止部25に相対的に近い領域のみならず、封止部25から相対的に離れた位置にある領域においても、第1多孔層21上に設けられた親水性樹脂組成物層20が、第1多孔層21の熱膨張や熱収縮に追従することが難しくなる傾向にある。そのため、後述するように、親水性樹脂組成物層20全体にピンホールやクラック等の損傷を引き起こしやすくなるおそれがある。
【0029】
上記式(I)の関係とすることにより、ガス分離膜エレメント1における酸性ガスの分離効率の低下を抑制できる理由について、本発明者らは次のように推測している。すなわち、ガス分離膜エレメント1が高温及び常温の条件下に曝されると、この温度変化により、第1多孔層21における第2封止部25bに生じる熱膨張及び熱収縮の大きさと、第1多孔層21の第2封止部25bが設けられていない部分に生じる熱膨張及び熱収縮の大きさとの違いにより、酸性ガス分離膜2に歪みが生じると考えられる。酸性ガス分離膜2に生じた歪みは、第1多孔層21上の親水性樹脂組成物層20にピンホールやクラック等の損傷を引き起こし、その結果、ガス分離膜エレメント1による酸性ガスの分離効率の低下が生じると推測される。本発明者らは、封止部25の熱膨張係数Aと第1多孔層21をなす材料の熱膨張係数Bとを上記式(I)で規定する関係とすることにより、温度変化による酸性ガス分離膜2の歪みを生じにくくし、親水性樹脂組成物層20のピンホールやクラック等の損傷を抑制して、ガス分離膜エレメント1における酸性ガスの分離効率の低下を抑制することができると推測している。
【0030】
〔封止材料〕
封止部25を形成するために用いられる封止材料は、透過側流路部材4及び第1多孔層21に浸透して第1封止部25a及び第2封止部25bを形成することができる材料であれば特に限定されない。封止材料は、透過側流路部材4と第1多孔層21とを固着できる材料であることが好ましい。第1封止部25a及び第2封止部25bを形成するための封止材料は、同一であっても異なっていてもよいが、第1封止部25aと第2封止部25bとの固着性を良好なものとするために同一であることが好ましい。封止材料としては、具体的には、一般に接着剤として用いられる材料を挙げることができ、酸性ガス分離膜2の使用温度条件等に応じた耐熱性及び耐湿性を兼ね備えた材料であることが好ましい。
【0031】
封止材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、塩化ビニル共重合体系樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体系樹脂、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体系樹脂、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルブチラール系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体系樹脂、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール系樹脂、尿素系樹脂、メラミン系樹脂、フェノキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、尿素ホルムアミド系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ系樹脂(エポキシ系接着剤用樹脂)が好ましい。エポキシ系樹脂は、アミン類や酸無水物等で硬化するエポキシ基を含有する化合物であればよく、硬化方式の観点からは、一液硬化型であっても二液混合型であってもよく、硬化温度の観点からは、加熱硬化型であっても常温硬化型であってもよい。封止材料は、使用時の粘度調整や硬化後の強度向上の目的で、無機あるいは有機の充填剤を含んでいてもよく、必要に応じて硬化触媒を含んでいてもよい。
【0032】
封止部25が中心管5の軸に平行な方向における酸性ガス分離膜2の両端に位置する端部に設けられる場合、この封止部25をなす封止材料の硬化物は、ショア硬度が60以上であることが好ましく、65以上であることがより好ましい。ガス分離膜エレメント1は、巻回体に巻崩れ(テレスコープ)現象が発生することを抑制するために、上記したようにテレスコープ防止板を含んでいてもよい。巻回体にテレスコープ防止板を取付ける際には、巻回体の軸に平行な方向の両端に位置する底面を平坦にするために、巻回体の両端を切断する処理が行われる。巻回体の両端を刃で切断する際に、刃の押し付けにより巻回体が変形することで、巻回体に含まれる酸性ガス分離膜2の親水性樹脂組成物層20に損傷等が生じると、ガス分離膜エレメント1による酸性ガスの分離効率を低下させる原因となるおそれがある。そのため、少なくとも中心管5の軸に平行な方向における酸性ガス分離膜2の両端に位置する端部に設ける封止部25においては、上記のように硬化物のショア硬度が60以上である封止材料を用いて形成することが好ましい。これにより、巻回体の両端に形成される封止部25に強度を付与し、巻回体の端部を刃で切断するときに親水性樹脂組成物層20が損傷することを抑制することができる。なお、ガス分離膜エレメント1に設けるすべての封止部25を、ショア硬度が60以上である封止材料で形成してもよい。
【0033】
〔酸性ガス分離膜2〕
酸性ガス分離膜2は、供給側流路部材3を流れる原料ガスに含まれる酸性ガスを分離して透過させるために、少なくとも酸性ガスを選択的に透過するガス選択透過性を有する。酸性ガス分離膜2では、ガス分子の膜への溶解性と膜中での拡散性との差を利用した溶解・拡散機構に加えて、酸性ガスと可逆的に反応する酸性ガスキャリアを用い、酸性ガスと酸性ガスキャリアとの反応生成物を形成して特定の酸性ガスの透過を促進する促進輸送機構により、特定の酸性ガスの高い選択透過性を実現することができる。
【0034】
下記反応式(1)は、酸性ガスがCOであり、酸性ガスキャリア(COキャリア)として炭酸セシウム(CsCO)を使用した場合における、COとCOキャリアとの反応を示している。なお、反応式(1)中の記号「⇔」は、この反応が可逆反応であることを示している。
【0035】
CO+CsCO+HO⇔2CsHCO (1)
上記反応式(1)に示すように、COとCOキャリアとの可逆反応には水が必要であるため、親水性樹脂組成物層20は酸性ガスキャリアと水分とを保持する媒体を含み、その親水性樹脂組成物層20を支持する第1多孔層21を酸性ガス分離膜2に有することができる(図3)。
【0036】
〔親水性樹脂組成物層20〕
親水性樹脂組成物層20は、酸性ガス分離膜2において少なくとも酸性ガスを選択的に透過させるガス選択透過性を有する。親水性樹脂組成物層20は、原料ガス中の酸性ガスと可逆的に反応する酸性ガスキャリアと、酸性ガスキャリア及び水分を保持する親水性樹脂と、を含む親水性樹脂組成物を含むゲル状の薄膜であることが好ましい。親水性樹脂組成物層20の厚さは、酸性ガス分離膜2に必要な分離性能によって適宜選択すればよいが、通常、0.1μm〜600μmの範囲であることが好ましく、0.5μm〜400μmの範囲であることがより好ましく、1μm〜200μmの範囲であることが特に好ましい。
【0037】
〔親水性樹脂組成物〕
親水性樹脂組成物層20に含まれる親水性樹脂組成物は、少なくとも、親水性樹脂及び酸性ガスキャリアを含み、必要に応じて親水性樹脂及び酸性ガスキャリア以外の添加剤を含んでいてもよい。
【0038】
〔親水性樹脂〕
例えば上記反応式(1)に示すように、酸性ガスと酸性ガスキャリアとの可逆反応には水が必要となる。そのため、親水性樹脂組成物層20には、水酸基やイオン交換基等の親水性基を有する親水性樹脂を含むことが好ましい。親水性樹脂の分子鎖同士が架橋により網目構造を有することで高い保水性を示す架橋型親水性樹脂を含むことがより好ましい。酸性ガス分離膜2には、酸性ガスが酸性ガス分離膜2を透過するための推進力として圧力差が印加されるため、酸性ガス分離膜2に要求される耐圧強度の観点からも、架橋型親水性樹脂を含む親水性樹脂を用いることが好ましい。
【0039】
親水性樹脂を形成する重合体は、例えば、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステル、脂肪酸のビニルエステル、又はそれらの誘導体に由来する構造単位を有していることが好ましい。このような親水性を示す重合体としては、アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、メタクリル酸、酢酸ビニル等の単量体を重合してなる重合体が挙げられ、具体的には、イオン交換基としてカルボキシル基を有するポリアクリル酸系樹脂、ポリイタコン酸系樹脂、ポリクロトン酸系樹脂、ポリメタクリル酸系樹脂等、水酸基を有するポリビニルアルコール系樹脂等、それらの共重合体であるアクリル酸−ビニルアルコール共重合体系樹脂、アクリル酸−メタクリル酸共重合体系樹脂、アクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体系樹脂、メタクリル酸−メタクリル酸メチル共重合体系樹脂等が挙げられる。この中でも、アクリル酸の重合体であるポリアクリル酸系樹脂、メタクリル酸の重合体であるポリメタクリル酸系樹脂、酢酸ビニルの重合体を加水分解したポリビニルアルコール系樹脂、アクリル酸メチルと酢酸ビニルとの共重合体を鹸化したアクリル酸塩−ビニルアルコール共重合体系樹脂、アクリル酸とメタクリル酸との共重合体であるアクリル酸−メタクリル酸共重合体系樹脂がより好ましく、ポリアクリル酸、アクリル酸塩−ビニルアルコール共重合体系樹脂がさらに好ましい。
【0040】
架橋型親水性樹脂は、親水性を示す重合体を架橋剤と反応させて調製してもよいし、親水性を示す重合体の原料となる単量体と架橋性単量体とを共重合させて調製してもよい。架橋剤又は架橋性単量体としては特に限定されず、従来公知の架橋剤又は架橋性単量体を使用することができる。
【0041】
架橋剤としては、例えば、エポキシ架橋剤、多価グリシジルエーテル、多価アルコール、多価イソシアネート、多価アジリジン、ハロエポキシ化合物、多価アルデヒド、多価アミン、有機金属系架橋剤、金属系架橋剤等の、従来公知の架橋剤が挙げられる。架橋性単量体としては、例えば、ジビニルベンゼン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、トリメチロールプロパントリアリルエーテル、ペンタエリスリトールテトラアリルエーテル等の、従来公知の架橋性単量体が挙げられる。架橋方法としては、例えば、熱架橋、紫外線架橋、電子線架橋、放射線架橋、光架橋等の方法や、特開2003−268009号公報、特開平7−88171号公報に記載されている方法等、従来公知の手法を使用することができる。
【0042】
〔酸性ガスキャリア〕
酸性ガスキャリアは、親水性樹脂を含む親水性樹脂組成物層20内に存在し、親水性樹脂組成物層20内に存在する水に溶解した酸性ガスと可逆的に反応することにより、酸性ガスを選択的に透過させる。親水性樹脂組成物層20内には、酸性ガスキャリアとして、酸性ガスと可逆的に反応する化合物が少なくとも一つ含まれている。酸性ガスキャリアの具体例としては、酸性ガスが二酸化炭素の場合、アルカリ金属炭酸塩やアルカリ金属重炭酸塩、アルカノールアミン(例えば、特許第2086581号公報等に記載)、及びアルカリ金属水酸化物(例えば、国際公開公報2016/024523号等に記載)等が、酸性ガスが硫黄酸化物の場合、硫黄含有化合物や、アルカリ金属のクエン酸塩、及び遷移金属錯体(例えば、特許第2879057号公報等に記載)等が、酸性ガスが窒素酸化物の場合、アルカリ金属亜硝酸塩や、遷移金属錯体(例えば、特許第2879057号公報等に記載)等が、それぞれ挙げられる。
【0043】
〔添加剤〕
親水性樹脂組成物層20をなす親水性樹脂組成物には、親水性樹脂、酸性ガスキャリアの他に、例えば酸性ガスの水和反応触媒や後述する界面活性剤等が添加剤として含まれていてもよい。酸性ガスの水和反応触媒は、酸性ガスとキャリアとの反応速度を向上させることができる。酸性ガスの水和反応触媒としては、オキソ酸化合物を含むことが好ましく、14族元素、15族元素、及び16族元素からなる群より選択される少なくとも1つの元素のオキソ酸化合物を含むことがより好ましく、亜テルル酸化合物、亜セレン酸化合物、亜ヒ酸化合物、及びオルトケイ酸化合物からなる群より選択される少なくとも1つを含むことがさらに好ましい。
【0044】
〔第1多孔層21〕
酸性ガス分離膜2は、図3に示すように多孔膜を含む第1多孔層21を含む。第1多孔層21は、親水性樹脂組成物層20を透過したガス成分の拡散抵抗とならないように、ガス透過性の高い多孔性を有する。第1多孔層21は、1層構造でもよく2層以上の積層構造であってもよい。第1多孔層21は、酸性ガス分離膜2の適用が想定される水素や尿素等を製造するプラントでのプロセス条件に応じた耐熱性を有することが好ましい。本明細書において「耐熱性」とは、第1多孔層21等の部材をプロセス条件以上の温度条件下に2時間保存した後においてもこの部材の保存前の形態が維持され、熱収縮或いは熱溶融による、目視で確認し得るカールが生じないことを意味する。
【0045】
第1多孔層21は、樹脂材料で形成されることが好ましい。多孔膜をなす樹脂材料としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の含フッ素樹脂;ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、高分子量ポリエステル、耐熱性ポリアミド、アラミド、ポリカーボネート等の樹脂材料等が挙げられる。これらの中でも、撥水性及び耐熱性の点、並びに上記した式(I)を充足する点から、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、フッ素含有樹脂、ポリスチレン(PS)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリスルホン(PSF)からなる群より選ばれる1種以上の樹脂であることが好ましく、フッ素含有樹脂、PPがより好ましい。
【0046】
第1多孔層21の厚さは特に限定されないが、機械的強度の観点からは、通常、10μm〜3000μmの範囲が好ましく、10μm〜500μmの範囲がより好ましく、15μm〜150μmの範囲がさらに好ましい。第1多孔層21の細孔の平均孔径は特に限定されないが、10μm以下が好ましく、0.005μm〜1.0μmの範囲がより好ましい。第1多孔層21の空孔率は、5%〜99%の範囲が好ましく、30%〜90%の範囲がより好ましい。平均孔径や空孔率が上記の範囲にある第1多孔層21では、上記式(I)の関係を満たすことにより、温度変化を伴う条件下で酸性ガス分離膜2が使用された場合にも、酸性ガスの分離効率の低下を抑制することができる。
【0047】
第1多孔層21には、上記した封止部25をなす封止材料の浸透性を向上するために、封止材料の塗布に先立って、封止材料を浸透させる領域に親水化処理を施してもよい。親水化処理は、例えば、後述する塗工液に添加する界面活性剤と同様の界面活性剤を塗布する処理によって行うことができる。
【0048】
〔酸性ガス分離膜2の製造方法〕
酸性ガス分離膜2の製造は、第1工程(塗工液作製工程)、第2工程(塗布工程)、及び第3工程(乾燥工程)の3工程からなる。第2工程及び第3工程は、多孔膜を連続的に搬送しながら行うロール・トゥ・ロール(Roll-to-Roll)方式の塗工機や乾燥機を用いることが好ましい。
【0049】
第1工程(塗工液作製工程)では、少なくとも親水性樹脂及び酸性ガスキャリアを含む親水性樹脂組成物と媒質とを混合することによって塗工液を調製する。
【0050】
媒質としては、例えば、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコール等のプロトン性極性溶媒;トルエン、キシレン、ヘキサン等の無極性溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;等が挙げられる。媒質は、1種類を単独で用いてもよく、相溶する範囲で2種類以上を併用してもよい。これらの中でも、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール等のアルコールからなる群から選択される少なくとも1つが含まれる媒質が好ましく、水が含まれる媒質がより好ましい。
【0051】
塗工液には、必要に応じて界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤を塗工液に添加することにより、塗工液を多孔膜に塗布したときに、塗工液によって形成される親水性樹脂組成物層20と多孔膜との界面に界面活性剤が偏在し、多孔膜との濡れ性が向上して膜厚のムラ等を改善することができる。界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等の従来公知の界面活性剤を使用することができる。界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。塗工液は上記した酸性ガスの水和反応触媒を含んでいてもよい。
【0052】
第2工程(塗布工程)では、第1工程で調整した塗工液を多孔膜の一方の側の面に塗布し、塗膜を形成する。第2工程における塗工液の温度は、組成や濃度に応じて適宜決定すればよいが、温度が高すぎると塗工液から媒質が多量に蒸発して組成や濃度が変化したり、塗膜に蒸発痕が残ったりするおそれがあるので、15℃以上であることが好ましく、室温(20℃)以上であることがより好ましく、かつ、使用している媒質の沸点よりも5℃以下の温度範囲が好ましい。例えば、媒質として水を用いた場合には、第2工程における塗工液の温度は、15℃〜95℃の温度範囲が好ましい。
【0053】
塗工液を多孔膜に塗布する方法は、特に限定されず、例えばスピンコート法、バー塗布、ダイコート塗布、ブレード塗布、エアナイフ塗布、グラビアコート、ロールコーティング塗布、スプレー塗布、ディップ塗布、コンマロール法、キスコート法、スクリーン印刷、インクジェット印刷等を挙げることができる。塗工液の塗布量は、目付け量(単位面積当たりの固形分量)が1g/m〜1000g/mの範囲であることが好ましく、5g/m〜750g/mの範囲であることがより好ましく、10g/m〜500g/mの範囲であることがさらに好ましい。目付け量の調節は、塗膜の形成速度(例えば、多孔膜の搬送速度)や塗工液の濃度、塗工液の吐出量等で制御することができる。また、塗工液の多孔膜への塗布は、ストライプ状やドット状になるようにしてもよい。
【0054】
塗工液が塗布される多孔膜は、上記した酸性ガス分離膜2の第1多孔層21に相当する部材であってもよいし、第2多孔層に相当する部材であってもよい。酸性ガス分離膜2を製造する際、第2多孔層に相当する多孔膜に塗工液を塗布する場合には、親水性樹脂組成物層20の第2多孔層とは反対側の面に、第1多孔層21に相当する多孔膜を積層する工程を含んでもよいし、第1多孔層21に相当する多孔膜に塗工液を塗布する場合には、親水性樹脂組成物層20の第1多孔層21とは反対側の面に第2多孔層に相当する多孔膜を積層する工程を含んでもよい。
【0055】
また、塗工液を塗布する多孔膜は、親水性樹脂組成物層20を形成するための仮塗工部材であってもよい。塗工液を仮塗工部材に塗布する場合、後述する第3工程(乾燥工程)の後、形成した親水性樹脂組成物層20を仮塗工部材から剥離する工程と、第1多孔層21又は第2多孔層に剥離した親水性樹脂組成物層20を積層する工程とを含む。そのため、仮塗工部材は、該仮塗工部材上に形成した親水性樹脂組成物層20を損傷なく剥離できる多孔体であればよい。酸性ガス分離膜2を製造する際、剥離した親水性樹脂組成物層20を第1多孔層21に積層する場合には、親水性樹脂組成物層20の第1多孔層21とは反対側の面に、第2多孔層に相当する多孔膜を積層する工程を含んでもよいし、剥離した親水性樹脂組成物層20を第2多孔層に積層する場合には、親水性樹脂組成物層20の第2多孔層とは反対側の面に、第1多孔層21に相当する多孔膜を積層する工程を含んでもよい。
【0056】
第3工程(乾燥工程)では、形成した塗膜から媒質を除去する。媒質の除去方法には、特に制限はないが、加熱された空気等を通風させることによって媒質を蒸発除去させ、塗膜を乾燥させる方法が好ましい。具体的には、例えば、所定温度及び所定湿度に調節された通風乾燥炉に塗布物(塗膜を形成した第1多孔層21)を搬入して、塗膜から媒質を蒸発除去すればよい。塗膜の乾燥温度は、塗工液の媒質と第1多孔層21の種類とに応じて適宜決定すればよい。通常、媒質の凝固点よりも高く、かつ、第1多孔層21をなす材料の融点よりも低い温度とするのが好ましく、一般に80℃〜200℃の範囲が好適である。
【0057】
第3工程での乾燥工程を経て親水性樹脂組成物層20が形成される。親水性樹脂組成物層20における露出面(多孔膜と接する側とは反対側の面)に対して、上記第2工程及び上記第3工程を1回以上繰り返すことにより、親水性樹脂組成物層20を積層してもよい。これにより、塗工液を塗布するときの塗膜のムラ等に起因して親水性樹脂組成物層20にピンホールが発生することを抑制することができる。第2工程及び第3工程を繰り返すときの、塗工液の組成や塗布量等の塗工条件及び乾燥条件は、それぞれの親水性樹脂組成物層20の積層において、互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。上記第1工程、第2工程及び第3工程を行うことにより、ガス分離膜エレメント1が有する酸性ガス分離膜2を製造することができる。
【0058】
〔供給側流路部材3〕
供給側流路部材3は、酸性ガスを含む原料ガスが供給される流路空間を形成するものであり、この流路空間によって原料ガスを巻回体の内部に導く。供給側流路部材3は、原料ガスの流路空間を形成する流路材としての機能と、原料ガスに乱流を生じさせて酸性ガス分離膜2の供給側流路部材3側の面の表面更新を促進させつつ、供給される原料ガスの圧力損失をできるだけ小さくする機能とを備えていることが好ましい。この観点から、供給側流路部材3は網目形状(ネット状、メッシュ状等)を有することが好ましい。網目形状によって原料ガスの流路が変わることから、供給側流路部材3における網目の単位格子の形状は、目的に応じて、例えば、正方形、長方形、菱形、平行四辺形等の形状から選択すればよい。供給側流路部材3の材質は、特に限定されないが、酸性ガス分離膜2が使用される温度条件に応じた耐熱性を有する材料が好ましく、例えば、第1多孔層21の材質として挙げた樹脂材料と同様の樹脂材料の他、金属、ガラス、セラミックス等の無機材料を好適に用いることができる。具体的には、PTFE、PP、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PCT)、PES、PSF、PEEK、PI、金属が好ましく、さらには、PTFE、PP、PCT、PPS、PEEK、金属がより好ましい。供給側流路部材3は、1層構造でもよく2層以上の積層構造であってもよい。
【0059】
〔透過側流路部材4〕
透過側流路部材4は、酸性ガス分離膜2を透過した透過ガスが流れる流路空間を形成するものであり、この流路空間によって透過ガスを中心管5に導く。透過側流路部材4は、透過ガスの流路空間を形成する流路材としての機能と、透過ガスに乱流を生じさせて酸性ガス分離膜2の透過側流路部材4側の面の表面更新を促進する機能と、を備えていることが好ましい。この観点から、透過側流路部材4は網目形状(ネット状、メッシュ状等)を有することが好ましい。網目形状によって透過ガスの流路が変わることから、透過側流路部材4における網目の単位格子の形状は、目的に応じて、例えば、正方形、長方形、菱形、平行四辺形等の形状から選択すればよい。透過側流路部材4の材質は、特に限定されないが、酸性ガス分離膜2が使用される温度条件に応じた耐熱性を有する材料が好ましく、例えば、第1多孔層21の材質として挙げた樹脂材料と同様の樹脂材料の他、金属、ガラス、セラミックス等の無機材料を好適に用いることができる。具体的には、PTFE、PP、PCT、PES、PSF、PEEK、PI、金属が好ましく、さらには、PTFE、PP、PCT、PPS、PEEK、金属がより好ましい。透過側流路部材4は、1層構造でもよく2層以上の積層構造であってもよい。
【0060】
〔中心管5〕
中心管5は、酸性ガス分離膜2を透過した透過ガスを収集して、ガス分離膜エレメント1から排出するための導管である。中心管5の材質は、特に限定されないが、酸性ガス分離膜2が使用される温度条件に応じた耐熱性を有する材料が好ましい。また、酸性ガス分離膜2等が外周に複数回巻き付けられることによって巻回体が形成されることから、機械的強度を有する材料であることが好ましい。中心管5の材質としては、例えば、PSFやステンレス等が好適に用いられる。中心管5の直径や長さ、肉厚は、ガス分離膜エレメント1の大きさ、積層体7中の膜リーフ6の数、透過ガスの量、中心管5に要求される機械的強度等に応じて適宜設定すればよい。
【0061】
中心管5は、巻回体が円筒状である場合には円管であることが好ましく、巻回体が角筒状である場合には角管であることが好ましい。
【0062】
中心管5は、図2に示すように、中心管5の外周面に、透過側流路部材4の透過ガスの流路空間と中心管5内部の中空空間とを連通させる複数の孔30を有している。中心管5に設けられる孔30の数や孔30の大きさは、透過側流路部材4から供給される透過ガスの量や中心管5に要求される機械的強度を考慮して決定すればよい。例えば、中心管5に設けられる孔の大きさを大きくすることができない場合には、中心管5に設ける孔の数を増やし、透過ガスの流路を確保するようにしてもよい。中心管5に設けられる孔30は、中心管5の軸に平行な方向に亘って均一な間隔で形成されていてもよく、中心管5のいずれか一方の端部側に偏在していてもよい。
【0063】
〔第2多孔層〕
第2多孔層(保護層)は、酸性ガス分離膜2に設けられていてもよい多孔膜を含む層である。第2多孔層は、酸性ガス分離膜2の親水性樹脂組成物層20の第1多孔層21が設けられた面とは反対側の面に設けられていてもよい。ガス分離膜エレメント1では、第2多孔層は、親水性樹脂組成物層20と供給側流路部材3との間に設けることができる。ガス分離膜エレメント1の製造時に巻回体が締め付けられると、親水性樹脂組成物層20と供給側流路部材3とが擦れ合うことがあるが、第2多孔層を設けることにより、親水性樹脂組成物層20を保護し、上記擦れ合いにより損傷が生じることを抑制することができる。
【0064】
第2多孔層は、供給側流路部材3との摩擦が少なく、ガス透過性が良好な材質であれば特に限定されないが、酸性ガス分離膜2が使用される温度条件に応じた耐熱性を有する材料が好ましく、例えば第1多孔層21の材質として挙げた樹脂材料と同様の樹脂材料の他、金属、ガラス、セラミックス等の無機材料を好適に用いることができる。第2多孔層をなす多孔膜としては、例えば、平均孔径が0.001μm以上、10μm以下である多孔膜を用いることができ、例えば、不織布、織布、ネット等の形態のものを用いることもできる。第2多孔層は、1層構造でもよく2層以上の積層構造であってもよい。第2多孔層の厚さや、平均孔径、空孔率も、第1多孔層21と同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0065】
〔第3多孔層〕
第3多孔層(補強支持層)は、酸性ガス分離膜2に設けられていてもよい多孔膜を含む層であり、酸性ガス分離膜2の第1多孔層21の親水性樹脂組成物層20が設けられた面とは反対側の面に設けられていてもよい。ガス分離膜エレメント1では、第3多孔層は、第1多孔層21と透過側流路部材4との間に設けることができる。第3多孔層を設けることにより、上記の酸性ガス分離膜2の製造に際し、第1多孔層21に親水性樹脂組成物層20を形成する工程において第1多孔層21にかかる張力負荷に耐え得る強度を追加的に付与することができるとともに、原料ガスから透過ガスを分離するときに酸性ガス分離膜2にかかる圧力負荷等に耐え得る強度を追加的に付与することができる。第3多孔層は、耐圧強度と耐延伸性とを有し、ガス透過性を有する構造及び材質であれば特に限定されないが、酸性ガス分離膜2が使用される温度条件に応じた耐熱性を有する材料が好ましく、例えば、第1多孔層21の材質として挙げた樹脂材料と同様の樹脂材料の他、金属、ガラス、セラミックス等の無機材料を好適に用いることができる。第3多孔層をなす多孔膜としては、例えば、平均孔径が0.001μm以上、10μm以下である多孔膜を用いることができ、例えば、不織布、織布、ネット等の形態のものを用いることもできる。第3多孔層は、1層構造でもよく2層以上の積層構造であってもよい。
【0066】
第3多孔層には、封止材料の浸透性を向上させるために、封止材料の塗布に先立って封止材料を浸透させる領域に親水化処理を施してもよい。親水化処理は、例えば、上記の塗工液に添加する界面活性剤と同様の界面活性剤を塗布する処理によって行うことができる。
【0067】
〔ガス分離膜エレメント1の製造方法〕
ガス分離膜エレメント1は、次のようにして製造することができる。図4(a)、(b)に示すように、巻回体を形成したときに、中心管5の軸に直交する方向の両端に位置する透過側流路部材4の端部のうち中心管5に近い側の端部(巻回体において内周側に位置する端部)を、粘着テープや接着剤等を用いて中心管5の外周面に固定する。また、酸性ガス分離膜2の第1多孔層側が外側となるように二つ折りにした酸性ガス分離膜2に、供給側流路部材3を挟み込んだ膜リーフ6を複数作製する。
【0068】
次に、中心管5に固定した透過側流路部材4に1つの膜リーフ6を積層する。膜リーフ6の一方の面に封止材料を塗布し、この塗布面が透過側流路部材4と対向するように、透過側流路部材4上に膜リーフ6を積層する。膜リーフ6に塗布された封止材料が、膜リーフ6の第1多孔層21と透過側流路部材4とを固着するとともに、封止部25を形成するものである場合には、封止部25が形成されるように膜リーフ6上に封止材料を塗布することが好ましい。具体的には、封止部25がエンベロープ状に形成される場合、膜リーフ6の中心管5の軸に平行な方向の両端部、及び、中心管5の軸に対して直交する方向の両端に位置する端部のうち中心管5から遠い側の端部(巻回体において外周側に位置する端部)に沿って帯状に封止材料を塗布すればよい。
【0069】
なお、上記のように膜リーフ6に封止材料を塗布し、この封止材料を第1多孔層21及び透過側流路部材4に浸透させてもよいが、膜リーフ6に塗布した封止材料で第1多孔層21に第2封止部25bを形成し、透過側流路部材4に塗布した封止材料で第1封止部25aを形成した後、膜リーフ6と透過側流路部材4とを貼り合わせてもよい。また、あらかじめ第2封止部25bを形成した第1多孔層21を有する膜リーフ6と、あらかじめ第1封止部25aを形成した透過側流路部材4とを接着剤等で貼り合わせて互いに固着するようにしてもよい。
【0070】
透過側流路部材4に膜リーフ6を積層する際には、膜リーフ6における二つ折りにした折り目部分を中心管5側に向けると共に、この折り目部分が、中心管5の外周面から離間する位置に配置されるように膜リーフ6を積層する。
【0071】
続いて、透過側流路部材4に積層された膜リーフ6の露出面(膜リーフ6の透過側流路部材4と対向する側とは反対側の面)に封止材料を塗布する。封止材料は、上記したように、巻回体において封止部25が形成されるように塗布すればよい。封止材料が塗布された膜リーフ6の露出面に、さらに透過側流路部材4及び膜リーフ6(以下、「次の透過側流路部材4」及び「次の膜リーフ6」ということがある。)をこの順に貼り合せて積層する。このとき、次の透過側流路部材4及び次の膜リーフ6の面積は、先に積層した透過側流路部材4及び膜リーフ6の面積と等しいか小さいことが好ましい。また、次の透過側流路部材4は、中心管5の軸に対して直交する方向の両端に位置する端部のうち中心管5に近い側が、先に積層した膜リーフ6の長さ方向の端部のうち中心管5に近い側の端部に一致するように積層される。あるいは、次の透過側流路部材4は、中心管5の軸に対して直交する方向の両端に位置する端部のうち中心管5に近い側が、先に積層した透過側流路部材4の露出面に積層され、残りの部分が先に積層した膜リーフ6上に積層されてもよい。次の膜リーフ6は、次の透過側流路部材4よりも、中心管5の外周面から離間する位置に配置されるように積層する。これにより、第2封止部25b、第1封止部25a及び第2封止部25bを含む封止部25が形成される。
【0072】
上記の操作を繰り返して、透過側流路部材4及び膜リーフ6を積層すると、透過側流路部材4及び膜リーフ6の、中心管5の軸に対して直交する方向の両端に位置する端部のうち中心管5に近い側が、中心管5から順に離間するように透過側流路部材4及び膜リーフ6が積層された積層体7が形成される。その後、最後に積層した膜リーフ6の露出面にも、上記と同様に封止材料を塗布し、中心管5の孔30を、透過側流路部材4で覆うように中心管5の周囲に積層体7を巻き付けて巻回体を形成する。上記のように、中心管5から次第に所定の間隔で離間するように透過側流路部材4及び膜リーフ6を積層することにより、中心管5に積層体7を巻回したときに、透過側流路部材4と膜リーフ6との中心管5側の端部が所定の間隔で中心管5の円周方向に並ぶように巻回体を形成することができるため、効率よく透過側流路部材4を流れる透過ガスを中心管5に収集することができる。
【0073】
積層体7は、張力を掛けながら中心管5の周囲に巻き付けることが好ましい。また、中心管5に積層体7を巻き付け始める際、膜リーフ6が積層されていない透過側流路部材4の中心管5の軸に平行な方向の両端部に、あらかじめ接着剤を塗布しておくことが好ましい。
【0074】
積層体7を中心管5に巻き付けて巻回体を得た後、巻回体の外周面に外周テープを巻き付けて固定し、巻回体の巻戻しを抑制することができる。また、ガス分離膜エレメント1の使用中に巻回体の巻崩れ(テレスコープ)現象が発生することを抑制するために、巻回体の両端部にテレスコープ防止板を取付けることができる。外周テープを巻き付け、テレスコープ防止板を取付けた巻回体の外周にアウターラップ(補強層)として補強材をさらに巻き付けてもよい。これにより、スパイラル型ガス分離膜エレメント1を製造することができる。
【0075】
なお、ガス分離膜エレメント1が第2多孔層を有する場合は、酸性ガス分離膜2の親水性樹脂組成物層20の第1多孔層21が設けられた面とは反対側の面上に第2多孔層を積層し、この第2多孔層付き酸性ガス分離膜の第2多孔層側が内側となるように二つ折りにして、上記したように供給側流路部材3を挟み込んだ膜リーフ6を形成すればよい。
【0076】
上記では、酸性ガス分離膜2の親水性樹脂組成物層20上に、第2多孔層を積層し、第2多孔層側が内側になるように二つ折りにした例について説明したが、これに限定されない。すなわち、上記したように、親水性樹脂組成物層20を形成する際に用いた多孔膜を、第2多孔層とする場合、この多孔膜の一方面に形成された親水性樹脂組成物層20が露出した面上に第1多孔層21を積層し、第2多孔層付き酸性ガス分離膜の第2多孔層側が内側となるように二つ折りにして、膜リーフ6を形成すればよい。
【0077】
また、ガス分離膜エレメント1が第3多孔層を有する場合は、酸性ガス分離膜2の製造時に、第1多孔層21の親水性樹脂組成物層20を形成する側の面とは反対側の面に第3多孔層を積層すればよい。第3多孔層が設けられた酸性ガス分離膜2を用いる場合には、透過側流路部材4、第3多孔層、第1多孔層21に封止部25が形成される。補強層に形成される封止部は、上記のように膜リーフ6上に封止材料を塗布することによって形成してもよく、あらかじめ第3多孔層に形成しておいてもよい。
【0078】
〔酸性ガス分離膜モジュール〕
酸性ガス分離膜モジュールは、例えばステンレス製等のハウジング(容器)内に、少なくとも1つのガス分離膜エレメント1を備えてなるものである。酸性ガス分離膜モジュールは、ガス分離膜エレメント1を少なくとも1つハウジング内に収納し、ハウジングに原料ガス用の入口、透過ガス用の出口、及び、酸性ガス分離膜2を透過しなかった原料ガス(非透過ガス)の出口を取り付けることにより製造することができる。
【0079】
ガス分離膜エレメント1の配列及び個数は、要求される酸性ガスの回収率に応じて選択することができる。ここで酸性ガスの回収率とは、下記式:
酸性ガスの回収率=(透過ガス中の酸性ガスの流量/原料ガス中の酸性ガスの流量)×100
で算出される値である。
【0080】
ハウジング内に2以上のガス分離膜エレメント1を配置する場合には、ハウジング内に、2以上のガス分離膜エレメント1を並列又は直列に配列すればよい。ここで、並列に配列するとは、少なくとも原料ガスを分配して複数のガス分離膜エレメント1の供給側端部31(図2)に導入することをいい、直列に配列するとは、少なくとも前段のガス分離膜エレメント1において排出口32又は排出側端部33(図2)から排出された酸性ガス分離膜2を透過しなかった原料ガス(非透過ガス)を、後段のガス分離膜エレメント1の供給側端部31に導入することをいう。
【0081】
例えば、ハウジング内に2つのガス分離膜エレメント1を並列に配列する場合には、ハウジング内に見かけ上、ガス分離膜エレメント1を直列に配置し、ハウジングに設けた入口から原料ガスを2つのガス分離膜エレメント1に並列に供給し、各ガス分離膜エレメント1の酸性ガス分離膜2を透過しなかった非透過ガスを、ハウジングに設けた2つの出口からそれぞれ排出すればよい。この場合、ハウジングに設ける原料ガスの入口と非透過ガスの出口とは、ガス分離膜エレメント1毎にそれぞれ設けてもよく、2つのガス分離膜エレメント1で共有するようにしてもよい。あるいは、原料ガスが供給される入口を1つとし、非透過ガスの出口をガス分離膜エレメント1毎に設けて、出口を2つとしてもよく、これとは反対に、原料ガスが供給される入口をガス分離膜エレメント1毎に設けて、入口を2つとし、非透過ガスの出口を1つとしてもよい。
【0082】
〔酸性ガス分離装置〕
酸性ガス分離装置は、酸性ガス分離膜モジュールを少なくとも1つ備える。酸性ガス分離装置に備えられる酸性ガス分離膜モジュールの配列及び個数は、要求される処理量、酸性ガスの回収率、酸性ガス分離装置を設置する場所の大きさ等に応じて選択することができる。
【0083】
〔酸性ガス分離方法〕
酸性ガス分離膜モジュールの供給口から少なくとも酸性ガスを含む原料ガスをハウジング内に導入し、ハウジング内のガス分離膜エレメント1の供給側端部31から原料ガスが連続的に供給側流路部材3に供給され(図2の矢印a)、供給側流路部材3を流れる原料ガスに含まれる酸性ガスが酸性ガス分離膜2を透過する。酸性ガス分離膜2を透過した透過ガスは、透過側流路部材4内を流れて孔30から中心管5に供給され、中心管5の排出口32から連続的に収集された後(図2の矢印b)、中心管5の内部と連通する酸性ガス分離膜モジュールの透過ガス排出口から排出される。一方、酸性ガス分離膜2を透過しなかった非透過ガスは、ガス分離膜エレメント1の排出側端部33から連続的に排出された後(図2の矢印c)、排出側端部33と連通する酸性ガス分離膜モジュールの非透過ガス排出口から排出される。このようにして、少なくとも酸性ガスを含む原料ガスから、酸性ガスを分離することができる。
【0084】
上記の説明においては、特に、ガス分離膜エレメントとして、スパイラル型ガス分離膜エレメントを用い、ガス分離膜を透過する特定のガスが酸性ガスである場合を例に挙げて説明したが、スパイラル型以外の中空糸型、チューブ型、プレート&フレーム型等の形式においても、上記の説明が適用され得る。例えば、ガス分離膜(第1多孔層、親水性樹脂組成物層)、親水性樹脂組成物(親水性樹脂、キャリア)、第2多孔層、第3多孔層、封止部、封止材料、熱膨張係数A,B等についての説明は、スパイラル型ガス分離膜エレメントに限らず、上記した他の形式のガス分離膜エレメントにも同様に適用することができる。なお、スパイラル型ガス分離膜エレメントの膜リーフは、二つ折りしたガス分離膜に供給側流路部材を挟み込むが、例えばプレート&フレーム型ガス分離膜エレメントに用いられる膜リーフは、二つ折りしたガス分離膜に透過側流路部材を挟み込んでもよい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。
【0086】
[封止部の熱膨張係数Aの測定]
各実施例及び各比較例で作製したガス分離膜エレメントを解体し、この解体したガス分離膜エレメントから、第2封止部25b/第1封止部25a/第2封止部25bと、この2つの第2封止部25b上の親水性樹脂組成物層とを含むように、サイズ:10mm×5mmに切り出したものを測定用サンプルとした。この測定用サンプルについて、下記の測定装置及び測定条件で測定して得られた平均線膨張係数を、封止部の熱膨張係数Aとした。
【0087】
[封止部の熱膨張係数Aの測定装置及び測定条件]
・測定装置:
TMA402 F1 Hyperion(NETZSCH社製)
・測定条件:
測定モード 引張
測定温度範囲 25℃〜35℃
測定サンプルサイズ 10mm×5mm
昇温速度 10℃/min
測定荷重 0.05N(室温でサンプルに撓み・変形等がみられない荷重)
測定雰囲気 ヘリウム(流量50mL/min)
【0088】
[第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bの測定]
各実施例及び各比較例で用いた第1多孔層を形成するために用いた多孔膜を用い、次のようにして第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bを測定した。すなわち、多孔膜をガラス転移温度(Tg)以上に加熱して十分に熱収縮させた後、10mm×5mmの大きさにシート化したシート状サンプルを用意した。このシート状サンプルについて、下記の測定装置及び測定条件で測定して得られた平均線膨張係数を、第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bとした。
【0089】
[第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bの測定装置及び測定条件]
・測定装置:
TMA4030SE(NETZSCH JAPAN社製)
・測定条件:
測定モード 引張
測定温度範囲 25℃〜35℃
測定サンプルサイズ 10mm×5mm
昇温速度 10℃/min
測定荷重 0.02N(室温でサンプルに撓み・変形等がみられない荷重)
測定雰囲気 ヘリウム(流量50mL/min)
【0090】
[気密試験]
各実施例及び各比較例で用いた第1多孔層を形成するために用いた多孔膜、塗工液I、界面活性剤、封止材料を用い、次のようにして気密試験用サンプルを作製し、気密試験を行った。すなわち、多孔膜一方の面に、乾燥後の膜厚が50μmとなるように、親水性樹脂組成物の塗工液を塗布し、温度120℃で5分間乾燥させて塗膜付き多孔膜を得た。得られた塗膜付き多孔膜を直径50mmの円形状に切り出し、塗膜が形成されていない側の面の中央に、直径13mmの大きさとなるように円状に界面活性剤を塗布した後、直径20mmの大きさの円状領域で厚さ方向に浸透するように封止材料を塗布し硬化させて、気密試験用サンプルを得た。
【0091】
得られた気密試験用サンプルを密閉された容器に入れ、20℃(室温)で60分間保持した後、表1に示すガス膜分離プロセス想定温度(表1中の「想定温度」の欄)で60分間保持するサイクルを1サイクルとして、4サイクル繰り返した。その後、気密試験用サンプルを気密試験用セルにセットし、温度20℃、供給側圧力1.5MPa、透過側圧力を大気圧として、窒素ガスの透過度を測定した。測定の結果、窒素ガスの透過度(パーミアンス)が1×10−9mol/(m・s・kPa)未満であるものを最良と判断し、窒素ガスの透過度(パーミアンス)が1×10−9mol/(m・s・kPa)以上5×10−9mol/(m・s・kPa)未満であるものを良好と判断し、窒素ガスの透過度(パーミアンス)が5×10−9mol/(m・s・kPa)以上であるものを不良と判断した。
【0092】
[引張り試験]
実施例で用いた第1多孔層を形成するために用いた多孔膜、塗工液I、界面活性剤、封止材料をそれぞれ用い、次のようにして引張り試験用サンプルを作製して、引張り試験を行った。多孔膜の一方の面に、親水性樹脂組成物の塗工液を塗布し、温度120℃で5分間乾燥させて、膜厚50μmの塗膜が形成された塗膜付き多孔膜を得た。得られた塗膜付き多孔膜を長さ50mm×幅25mmに切り出してサンプル部材とし、このサンプル部材を2枚用意した。各サンプル部材において、長さ方向の端部から長さ10mmのところまでの領域を封止材料の塗布領域とし、各サンプル部材の接着領域に界面活性剤を塗布した後、サンプル部材の厚さ方向に浸透するように封止材料を塗布した。封止材料が塗布された2枚のサンプル部材を、塗膜が形成されていない面が向き合うようにして、上記した塗布領域を重ねた後、封止材料を硬化させて接着領域を形成することにより、長さ90mm×幅25mmの引張り試験用サンプルを得た。
【0093】
得られた引張り試験用サンプルを、温度150℃、相対湿度90%RHの恒温・恒湿槽の中に80時間静置した後、引張試験用サンプルの長さ方向の両端をそれぞれクリップで留めた。クリップで留めた両端が互いに反対方向に引張られるように引張り張力を付与し、この引張り張力を徐々に増加させて引張り試験用サンプルを破断させて、破断箇所を確認した。引張り試験用サンプルの破断箇所が接着領域であれば、高温・高湿の条件下におけるガス分離膜エレメントの封止部の強度が低いと判断し、引張り試験用サンプルの破断箇所が接着領域以外であれば、高温・高湿の条件下におけるガス分離膜エレメントの封止部の強度が高く、高温・高湿の条件下の使用に好適であると判断した。
【0094】
[ガス分離膜エレメントの作製に用いた材料]
実施例1〜5及び比較例1、2において、ガス分離膜エレメントの作製に用いた部材の詳細は以下のとおりである。
・供給側流路部材:
PPSネット(50×50mesh)(ダイオ化成(株)製;商品名:50−150PPS)
・透過側流路部材:
PPSネット3層(50×50mesh/60×40mesh/50×50mesh)(ダイオ化成(株)製;商品名:50−150PPS及び60(40)−150PPS)・中心管:
外径1インチのステンレス製、直径3mmの孔が中心管の外壁に合計20個形成されたもの。孔は、中心管の軸に平行な方向に2列形成されており、積層体が巻回される中心管の軸に平行な方向の範囲に亘って均一な間隔となるように25.4mmのピッチで、1列あたり10個の孔が形成されている。2つの列は、中心管の軸を挟んで対向する位置に設けられている。
・封止材料(1):
二液混合型エポキシ系接着剤(アレムコ・プロダクツ社製「2310」)
・封止材料(2):
二液混合型エポキシ系接着剤(ヘンケル社製「E−60HP」)
・封止材料(3):
一液型エポキシ系接着剤(スリーエム社製「EW2045」)
・封止材料(4):
二液混合型エポキシ系接着剤(ヘンケル社製「TB−2151」)
・封止材料(5):
一液型シリコーン系接着剤(信越化学工業社製「KE−1850」)
【0095】
〔実施例1〕
(酸性ガス分離膜の作製)
容器に、媒質としての水を161.38gと、親水性樹脂としての架橋ポリアクリル酸(住友精化社製「アクペックHV−501」)を4g及び非架橋ポリアクリル酸(住友精化社製「アクパーナAP−40F」、40%Na鹸化)0.8gとを仕込み、親水性樹脂を水に分散させた分散液を得た。この分散液に、50%水酸化セシウム水溶液を38.09g添加し混合した後、添加剤として10%亜テルル酸ナトリウム水溶液を12.71g加えて混合し、さらに10%界面活性剤(AGCセイミケミカル社製「サーフロンS−242」)水溶液を1.2g加えて混合して塗工液Iを得た。得られた塗工液Iを、第1多孔層としてのPTFE多孔膜(住友電工ファインポリマー社製「ポアフロンHP−010−50」、膜厚50μm、細孔径0.1μm)の一方の面上に塗布した後、第2多孔層として、上記第1多孔層に用いたものと同じPTFE多孔膜を被せ、温度120℃程度で15分間程度乾燥させた。これにより、第1多孔層21上に親水性樹脂組成物層20及び第2多孔層をこの順に備える第2多孔層付き酸性ガス分離膜を作製した。
【0096】
(ガス分離膜エレメントの作製)
ガス分離膜エレメントを次のようにして作製した。すなわち、酸性ガス分離膜の作製で得た第2多孔層付き酸性ガス分離膜を用い、第2多孔層側を内側にして二つ折りにした第2多孔層付き酸性ガス分離膜に供給側流路部材3を挟み込み、二液混合型エポキシ系接着剤(アレムコ・プロダクツ社製「2310」)を用いて親水性樹脂組成物層20と供給側流路部材3とを接着して膜リーフ6を得た。
【0097】
二液混合型エポキシ系接着剤(アレムコ・プロダクツ社製「2310」)を用い、図4(a),(b)に示すように、中心管5に1層目の透過側流路部材4の一端を固定した。上記にて得た膜リーフ6を1層目の膜リーフ6として用い、この膜リーフ6の一方の面において、中心管5の軸に平行な方向の両端部、及び、中心管5の軸に対して直交する方向の両端に位置する端部のうち中心管5から遠い側の端部に沿って帯状に封止材料(1)を塗布し、この塗布面が透過側流路部材4と対向するように、上記1層目の透過側流路部材4に、1層目の膜リーフ6を積層した。膜リーフ6は、図4(a)に示すように、中心管5から離間するように積層した。また、膜リーフ6に塗布された封止材料(1)は、膜リーフ6の第1多孔層21及び透過側流路部材4に浸透させ、封止部25が形成されるようにした。続いて、1層目の膜リーフ6の露出面に上記と同様に帯状に封止材料(1)を塗布した後、2層目の透過側流路部材4を積層して、封止部25を形成した。
【0098】
2層目の膜リーフ6についても、1層目の膜リーフ6と同様にして2層目の透過側流路部材4に積層し、同様に、3層目の透過側流路部材を積層した。このとき、図4(a)に示すように、2層目の膜リーフ6の積層位置は、2層目の透過側流路部材4よりも中心管5から離間した位置となるようにした。
【0099】
その後、膜リーフ6が積層されていない透過側流路部材4及び最上面の膜リーフ6の、中心管5の軸に平行な方向の両端部に、二液混合型エポキシ系接着剤(アレムコ・プロダクツ社製「2310」)を塗布し、中心管5に積層体7を巻き付けて巻回体とし、外周テープとして耐熱テープを巻回体の外周に巻き付けた。その後、巻回体の軸に平行な方向の巻回体の両端部を切断し、その両端部の切断面に接するようにテレスコープ防止板を取り付け、巻回体の最外周にガラスファイバーにエポキシ樹脂を含浸した繊維強化樹脂でアウターラップ(補強層)を形成して、ガス分離膜エレメント1を得た。
【0100】
また、実施例1で作製したガス分離膜エレメントの封止部の熱膨張係数Aの測定、実施例1で用いた第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bの測定、及び、実施例1で用いた各材料を用いて作製した気密試験用サンプルの気密試験を行った。その結果を表1に示す。
【0101】
〔実施例2〕
封止材料として、封止材料(2)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてガス分離膜エレメントを得た。実施例2で作製したガス分離膜エレメントの封止部の熱膨張係数Aの測定、実施例2で用いた第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bの測定、及び、実施例2で用いた各材料を用いて作製した気密試験用サンプルの気密試験を行った。その結果を表1に示す。
【0102】
〔比較例1〕
封止材料として、封止材料(3)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてガス分離膜エレメントを得た。比較例1で作製したガス分離膜エレメントの封止部の熱膨張係数Aの測定、比較例1で用いた第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bの測定、及び、比較例1で用いた各材料を用いて作製した気密試験用サンプルの気密試験を行った。その結果を表1に示す。
【0103】
〔比較例2〕
封止材料として、封止材料(4)を用いたこと以外は、実施例1と同様にしてガス分離膜エレメントを得た。比較例2で作製したガス分離膜エレメントの封止部の熱膨張係数Aの測定、比較例2で用いた第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bの測定、及び、比較例2で用いた各材料を用いて作製した気密試験用サンプルの気密試験を行った。その結果を表1に示す。
【0104】
〔実施例3〕
第1多孔層として、PP多孔膜(スリーエム社製「3Mマイクロポーラスフィルム」、膜厚38μm、細孔径0.3μm以下)を用い、酸性ガス分離膜の作製における乾燥条件を温度100℃程度で15分間程度としたこと以外は、実施例1と同様にしてガス分離膜エレメントを得た。実施例3で作製したガス分離膜エレメントの封止部の熱膨張係数Aの測定、実施例3で用いた第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bの測定、実施例3で用いた各材料を用いて作製した気密試験用サンプルの気密試験、及び、実施例3で用いた各材料を用いて作製した引張試験用サンプルの引張り試験を行った。その結果を表1及び表2に示す。
【0105】
〔実施例4〕
封止材料として、封止材料(2)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてガス分離膜エレメントを得た。実施例4で作製したガス分離膜エレメントの封止部の熱膨張係数Aの測定、実施例4で用いた第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bの測定、及び、実施例4で用いた各材料を用いて作製した気密試験用サンプルの気密試験を行った。その結果を表1に示す。
【0106】
〔実施例5〕
封止材料として、封止材料(4)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてガス分離膜エレメントを得た。実施例5で作製したガス分離膜エレメントの封止部の熱膨張係数Aの測定、実施例5で用いた第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bの測定、及び、実施例5で用いた各材料を用いて作製した気密試験用サンプルの気密試験を行った。その結果を表1に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
表1から、比A/Bが0.35以上1.0以下の範囲にある実施例1〜5では、気密試験において良好な結果が得られることがわかる。これに対し、比A/Bが0.35以上1.0以下の範囲にない比較例1及び2では、気密試験において良好な結果は得られないことがわかる。
【0109】
〔実施例6〕
封止材料として、封止材料(5)を用いたこと以外は、実施例3と同様にしてガス分離膜エレメントを得た。実施例6で作製したガス分離膜エレメントの封止部の熱膨張係数Aの測定、実施例6で用いた第1多孔層をなす材料の熱膨張係数Bの測定、実施例6で用いた各材料を用いて作製した気密試験用サンプルの気密試験、及び、実施例で用いた各材料を用いて作製した引張試験用サンプルの引張り試験を行った。その結果を表2に示す。
【0110】
【表2】
【0111】
表1及び表2から、比A/Bが0.35以上1.0未満の範囲にあると、気密試験において良好な結果が得られるとともに、引張り試験においても良好な結果が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0112】
水素や尿素等を製造するプラントで合成される合成ガス、天然ガス、排ガス等から二酸化炭素等の酸性ガスを分離するプロセスにおいて利用することができる。
【符号の説明】
【0113】
1 スパイラル型ガス分離膜エレメント(ガス分離膜エレメント)、2 酸性ガス分離膜(ガス分離膜)、3 供給側流路部材、4 透過側流路部材、5 中心管、6 膜リーフ、7 積層体、20 親水性樹脂組成物層、21 第1多孔層、25 封止部、25a 第1封止部、25b 第2封止部、30 孔、31 供給側端部、32 排出口、33 排出側端部。
図1
図2
図3
図4