(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0011】
また、本明細書における置換基としては、例えばアルキル基(例えば、メチル、エチル、以後いずれも直鎖状もしくは分枝鎖状の、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、エイコシル、ヘンエイコシル、ドコシル、トリコシル、又はテトラコシル);アルケニル基(例えば、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル);シクロアルキル基(例えば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル);芳香族環基(例えば、フェニル、ナフチル、ビフェニル、フェナントリル、アントラセニル)、複素環基(窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子から選ばれる少なくとも1個のヘテロ原子を含む複素環の残基であるのが好ましく、例えば、ピリジル、ピリミジル、トリアジニル、チエニル、フリル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、オキサゾリル、チアジアリル、オキサジアゾリル、キノリル、イソキノリル);又はそれらの組み合わせからなる基を表す。これらの置換基は、可能な場合はさらに1以上の置換基を有してもよく、置換基の例には、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、エ−テル基、アルキルカルボニル基、シアノ基、チオエ−テル基、スルホキシド基、スルホニル基、アミド基などが挙げられる。
【0012】
(グリース組成物)
本発明は、複合エステルA、基油及び増ちょう剤を含むグリース組成物に関する。複合エステルAは、3価以上の多価アルコールa1と、炭素数が5以上の多価カルボン酸a2と、炭素数が6以上のモノオールa3とが、少なくとも縮合したエステルを含む。
【0013】
本発明のグリース組成物は、特定のエステルを含む複合エステルAを、基油及び増ちょう剤に混合して得られるものである。このため、本発明のグリース組成物は、様々な温度、荷重領域において摩擦係数が小さく、かつ摩耗量が抑制されている。すなわち、本発明のグリース組成物は、良好な潤滑性能を有するものであり、かつ耐摩耗性に優れている。
【0014】
複合エステルAの含有量はグリース組成物の全質量に対して、0.1〜15質量%であることが好ましく、0.1〜12質量%であることがより好ましく、0.1〜6質量%であることがさらに好ましく、0.1〜5質量%であることがよりさらに好ましく、0.5〜3質量%であることが特に好ましい。複合エステルAの含有量を上記範囲内とすることにより、グリース組成物の潤滑性能及び耐摩耗性をより効果的に高めることができる。また、本発明のグリース組成物は、複合エステルAの含有量が少量であっても、優れた潤滑性能及び耐摩耗性を発揮し得る。
【0015】
本発明のグリース組成物のJIS K 2220.7法にて測定した混和ちょう度は85〜475が好ましく、130〜430がより好ましく、175〜385が特に好ましい。グリース組成物の混和ちょう度を上記範囲内とすることにより、グリース組成物の潤滑性能及び耐摩耗性をより効果的に高めることができる。
【0016】
(複合エステルA)
複合エステルAは、3価以上の多価アルコールa1と、炭素数が5以上の多価カルボン酸a2と、炭素数が6以上のモノオールa3とが、少なくとも縮合したエステルを含む。
【0017】
<3価以上の多価アルコールa1>
3価以上の多価アルコールa1としてはアルコール性水酸基及び/又はフェノール性水酸基を分子内に3つ以上含有する化合物を挙げることができる。中でも、3価以上の多価アルコールa1はアルコール性水酸基を3つ以上含有する化合物であることが好ましく、アルコール性水酸基を3〜6個有する化合物であることがより好ましい。
3価以上の多価アルコールは下記一般式(a1−1a)で表されるアルコールであることが好ましい。
【0019】
一般式(a1−1a)中、Zはm1価の連結基を表し、m1は3以上の整数を表す。
【0020】
一般式(a1−1a)で表されるアルコールは、m1価のアルコールである。
一般式(a1−1a)中、Zはm1価の連結基であり、Zは言い換えるとm1価のアルコールからm1個のヒドロキシル基を取り去ることで形成される多価アルコール母核を意味する。
【0021】
Zは、少なくとも1つの3価以上の連結基を含むm1価の連結基である。3価以上の連結基としては特に制限はないが、例えば三級炭素原子を含む3価の連結基や、四級炭素原子などを好ましく挙げることができる。
三級炭素原子を含む3価の連結基としては、以下の構造が好ましく、下記構造中のR
cは水素原子または置換基を表す。また、*は、連結鎖との結合部位を表す。
【0025】
Zは、アルキレン基、アリーレン基およびこれらの複数が単結合した構造や、アルキレン基、アリーレン基およびこれらの複数が2価の連結基(好ましくは−O−、−C(=)O−、−OC(=)O−、−S−、−SO
2−、−C(=O)−、−C(=O)NR
b−(R
bは水素原子、アルキル基、アリール基))または3価以上の連結基で結合した構造を有することが好ましく、かつ、少なくとも1つの3価以上の連結基を含むm1価の連結基である。なお、Zは他の置換基を有していてもよい。
中でもZは、後述する3価以上の多価アルコールの好ましい例から水酸基を除いた残基であることが好ましい。
【0026】
m1は3以上の整数であればよく、好ましくは3〜6であり、より好ましくは3または4である。
【0027】
3価以上の多価アルコールとしては、具体的には、グリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,3−ペンタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、2−メチル−1,2,3−プロパントリオール、2−メチル−2,3,4−ブタントリオール、2−エチル−1,2,3−ブタントリオール、2,3,4−ペンタントリオール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、2,4−ジメチル−2,3,4−ペンタントリオール、2,3,4−ヘキサントリオール、4−プロピル−3,4,5−ヘプタントリオール、1,3,5−シクロヘキサントリオール、ペンタメチルグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンなどの3価のアルコール;
1,2,3,4−ブタンテトラオール、ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ソルビタン、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、ジトリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパンなどの4価アルコール;
アラビトール、キシリトール、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、アロース、グロース、イドース、タロースなどの5価アルコール;
ジペンタエリスリトール、ソルビトール、ガラクチトール、マンニトール、アリトール、イジトール、タリトール、イノシトール、クエルシトールなどの6価アルコール;
トリペンタエリスリトールなどの8価のアルコールを挙げることができる。
これらの中でもトリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールがより好ましく、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ジトリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが特に好ましい。
【0028】
3価以上の多価アルコールa1としては上述の3価以上の多価アルコールが有するヒドロキシル基の少なくとも1つにアルキレンオキサイドが付加してなる化合物(アルキレンオキシ構造を有する化合物)も好ましく用いることができる。付加しているアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイドおよびこれらの複数の組合せが好ましく、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイドがより好ましい。この場合、3価以上の多価アルコールa1は、3価以上の多価アルコールが有するヒドロキシル基の全てにそれぞれ独立なアルキレンオキサイドが付加してなる化合物であることが好ましい。
3価以上の多価アルコールa1が含むアルキレンオキサイド(オキシアルキレン構造)の数は、平均で1〜200が好ましく、1〜100であることがより好ましい。より好ましいアルキレンオキサイドの付加数は、3価以上の多価アルコールa1の水酸基の数に対して平均で1〜20倍の数であり、更に好ましくは2〜10倍の数であり、特に好ましくは3〜7倍の数である。
【0029】
オキシアルキレン構造を有する3価以上の多価アルコールa1は、下記一般式(a1−1b)で表される化合物であることが好ましい。
【0031】
一般式(a1−1b)中、Zはm1価の連結基を表し、m1は3以上の整数を表し、R
11はアルキレン基を表し、n1は1〜100の整数を表す。
【0032】
一般式(a1−1b)中におけるZ及びm1は、それぞれ一般式a1−1a中におけるZ、m1と同義である。好ましいZは上述した3価以上の多価アルコールの好ましい例から水酸基を除いた残基である。
【0033】
R
11はアルキレン基であり、好ましくはエチレン基、プロピレン基、ブチレン基であり、より好ましくはエチレン基、プロピレン基である。複数存在するR
11は同一でも異なっていてもよい。
n1は1〜100の整数であることが好ましく、より好ましくは1〜20、さらに好ましくは2〜10、特に好ましくは3〜7である。複数存在するn1は同一でも異なっていてもよい。
【0034】
下記に本発明で用いることができる3価以上の多価アルコールa1の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
上記化合物a1−eは、数平均分子量(Mn)は450であり、y
11+y
12+y
13の平均値は7の化合物である。
上記化合物a1−fは、数平均分子量(Mn)は797であり、y
31+y
32+y
33+y
34の平均値は15の化合物である。
【0037】
<炭素数が5以上の多価カルボン酸a2>
多価カルボン酸a2は、炭素数が5以上の多価カルボン酸である。本明細書において、多価カルボン酸a2には、カルボン酸前駆体も含まれる。すなわち、多価カルボン酸a2は、カルボキシル基またはカルボン酸前駆体構造を2個以上有する化合物であり、好ましくはカルボキシル基またはカルボン酸前駆体構造を2〜4個、より好ましくは2又は3個、更に好ましくは2個有する化合物である。ここでカルボン酸前駆体構造とは、3価以上の多価アルコールa1、あるいは、モノオールa3のアルコールと反応してエステル結合を形成できる構造を表し、カルボン酸前駆体としては、カルボン酸ハライド、カルボン酸エステル(好ましくはメチルエステル、エチルエステル)、カルボン酸無水物、カルボン酸と他の酸(好ましくはメタンスルホン酸、トルエンスルホン酸などのスルホン酸、トリフロロ酢酸などの置換カルボン酸)の混合無水物を好ましく例示できる。以下、多価カルボン酸a2の詳細な説明においてはカルボン酸前駆体も含めることとする。
【0038】
炭素数が5以上の多価カルボン酸a2の分子中のカルボキシル基は、鎖状もしくは環状の2価以上の脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素で連結されている。脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素連結基の炭素原子の互いに隣接しない1以上の炭素原子は酸素原子に置換されていてもよい。また、脂肪族炭化水素又は芳香族炭化水素連結基は、置換基を有していてもよく、この場合、置換基はハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましい。多価カルボン酸a2は、分岐アルキル基を有することが、潤滑性能の観点から特に好ましい。
【0039】
多価カルボン酸a2の炭素数は、5以上であればよく、8以上であることが好ましく、12以上であることがより好ましく、22以上であることがさらに好ましく、26以上であることが特に好ましく、36以上であることがより特に好ましい。また、多価カルボン酸a2の炭素数は、70以下であることが好ましく、66以下であることがより好ましく、59以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、多価カルボン酸a2の炭素数とは、カルボキシル基を構成する炭素原子も含めた炭素数を表すものとする。このように多価カルボン酸a2の炭素数を上記範囲内とすることにより、グリース組成物の潤滑性能と耐摩耗性をより高めることができる。
【0040】
本発明で用いることができる多価カルボン酸a2としては、例えば、テレフタル酸、フタル酸、グルタル酸、アルキル置換コハク酸、アルケニル置換コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、トリメリット酸、ダイマー酸(炭素数18の不飽和カルボン酸の二量体)、及びダイマー酸の水添体、トリマー酸(炭素数18の不飽和カルボン酸の三量体)、炭素数22の不飽和カルボン酸の二量体(例えばエルカ酸ダイマー)等を挙げることができる。中でも、ダイマー酸、及びダイマー酸の水添体、トリマー酸、エルカ酸ダイマーを用いることが基油への溶解性の観点から好ましい。
【0041】
ここで、ダイマー酸とは、不飽和脂肪酸(通常は、炭素数18)が重合またはDiels−Alder反応等によって二量化して生じる脂肪族または脂環族ジカルボン酸を主成分として含むものをいう。また、主成分が三量体のものをトリマー酸と定義する。ここで、主成分とは、75質量%以上含まれている成分をいう。例えば、ダイマー酸においては、主成分の2量体の他、三量体、モノマー等を数モル%含有するものが多い。
ダイマー酸の具体例としては、築野食品工業株式会社製 ツノダイム(登録商標)205、216、228、395が挙げられ、トリマー酸の具体例としては、ツノダイム345などが挙げられる。ダイマー酸又はトリマー酸としては、他にコグニス社、ユニケマ社の製品が挙げられる。
【0042】
下記に本発明で用いることができる炭素数が5以上の多価カルボン酸a2の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0044】
<炭素数が6以上のモノオールa3>
炭素数が6以上のモノオールa3はR−OHで表され、Rは炭素数が6以上の1価の脂肪族、脂環式又は芳香族環基である。また、R中の炭素原子の互いに隣接しない1以上の炭素原子が酸素原子に置換されていてもよい。Rの炭素数は6以上であればよく、8以上であることがさらに好ましい。モノオールa3の炭素数を上記範囲内とすることにより、複合エステルAの基油への溶解性が向上し、潤滑性能を良化させることができる。さらにモノオールa3の炭素数を上記範囲内とすることにより、複合エステルAの縮合反応時にモノオールa3が揮散することを抑制することができる。
【0045】
炭素数が6以上のモノオールa3は、炭素数が6以上の脂肪族基を有するモノオールa3であることが好ましい。脂肪族基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基等を挙げることができる。中でも、モノオールa3は、炭素数が6以上のアルキル基を有するモノオールa3であることがより好ましい。さらに、炭素数が6以上のモノオールa3は、分岐アルキル基を有することが好ましい。ここで、分岐アルキル基は分岐鎖を有するアルキル基のことである。
さらに、モノオールa3は、オキシアルキレン構造を有することが好ましい。モノオールa3がこのような構造を有することにより、グリース組成物の潤滑性能及び耐摩耗性を良化させることができる。中でも、モノオールa3は、炭素数が6以上の分岐アルキル基を有し、かつオキシアルキレン構造を有することが好ましい。
【0046】
炭素数が6以上のモノオールa3としては、例えば、2−エチルヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ヘキサデカノール、オクタデカノール、2−ヘプチルウンデカノール、エイコサデカノール、フィトステロール、イソステアリルアルコール、ステアロール、セトール、ベヘノール、あるいはこれらモノオールのアルキレンオキサイド付加物(オキシアルキレン構造を有する化合物)等が挙げられる。
【0047】
本発明で用いるモノオールa3は、オキシアルキレン構造を有することが好ましく、オキシアルキレン構造を有するモノオールa3は、下記一般式(3)で表されるものであることがより好ましい。
【化7】
【0048】
ここで、一般式(3)中、R
aは置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいシクロアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアリール基又は置換基を有してもよいヘテロアリール基であり、X
a1及びX
a2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表す。また、na1は2〜4の整数を表し、na2は1〜20の整数を表す。なお、複数個のX
a1は同じであっても異なっていてもよく、複数個のX
a2は同じであっても異なっていてもよい。また、na2が2以上の場合、複数個の−O(CX
a1X
a2)
na1−は同じであっても異なっていてもよい。
【0049】
R
aで表される置換基を有してもよいアルキル基のアルキル基部分の炭素数は、1〜32であることが好ましく、4〜32であることがより好ましく、6〜20であることがさらに好ましい。R
aが表すアルキル基は直鎖であっても分岐であってもよいが、分岐であることが潤滑性能の観点から好ましく、また、基油への溶解性の観点からも好ましい。また、R
aは置換基を有してもよいシクロアルキル基であってもよい。
【0050】
R
aで表される置換基を有してもよいアルケニル基のアルケニル基部分の炭素数は、2〜32であることが好ましく、4〜32であることがより好ましく、6〜20であることがさらに好ましい。R
aが表すアルキル基は直鎖であっても分岐であっても環状であってもよい。
【0051】
R
aで表される置換基を有してもよいアリール基またはヘテロアリール基のアリール基部分の炭素数は、6〜32であることが好ましく、6〜24であることがより好ましい。R
aが表すアリール基としては、フェニル基、ナフチル基などを挙げることができ、その中でもフェニル基が特に好ましい。また、R
aが表すヘテロアリール基としては、例えば、イミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、チエニル基、ベンズオキサゾリル基、インドリル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズチアゾリル基、カルバゾリル基、アゼピニル基を例示することができる。ヘテロアリール基に含まれるヘテロ原子は、酸素原子、硫黄原子、窒素原子であることが好ましく、中でも、酸素原子であることが好ましい。
【0052】
上述した中でも、一般式(3)において、R
aは置換基を有してもよいアルキル基であることがより好ましい。ここで、アルキル基は、分岐アルキル基であることが好ましい。
【0053】
一般式(3)において、X
a1及びX
a2はそれぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基を表し、水素原子又はアルキル基であることがより好ましい。
【0054】
一般的(3)において、na1は2〜4の整数を表し、2又は3の整数であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。また、na2は、1〜20の整数を表し、1〜15の整数であることがより好ましく、1〜10の整数であることがさらに好ましく、1〜5の整数であることが特に好ましい。
【0055】
下記に本発明で用いることができるモノオールa3の具体例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0058】
上記化合物MA−43において、y
1は1〜12の整数であることが好ましく、化合物MA−43は、y
1の平均値が2〜7の化合物であることが好ましい。
上記化合物MA−44において、y
2は1〜12の整数であることが好ましく、化合物MA−44は、y
2の平均値が2〜7の化合物であることが好ましい。
上記化合物MA−42において、y
3は1〜12の整数であることが好ましく、化合物MA−42は、y
3の平均値が2〜7の化合物であることが好ましい。
【0059】
<その他の成分>
複合エステルAは、上述したa1〜a3成分以外にさらにその他の成分が縮合したものであってもよい。その他の成分としては、2価アルコール(好ましくは炭素数2〜50の脂肪族2価アルコール)、カルボン酸と縮合してアミド結合を形成可能な1価または多価アミン類、1価カルボン酸が挙げられる。
【0060】
(複合エステルAの製造方法)
複合エステルAは3価以上の多価アルコールa1と、炭素数が5以上の多価カルボン酸a2と、炭素数が6以上のモノオールa3を少なくとも縮合させることによって得られる。
【0061】
縮合反応を行う際の仕込み比としては、多価アルコールa1、多価カルボン酸a2及びモノオールa3を、全カルボン酸および全アルコールのカルボキシル基/水酸基のmol比で2/1〜1/2とすることが好ましく、1.5/1〜1/1.5とすることがより好ましく、1/1〜1/1.3とすることがさらに好ましく、1/1〜1/1.2とすることが特に好ましい。仕込み比を上記範囲内とすることにより縮合物の酸価を低くすることができ、グリース組成物を適用した部材へのダメージを抑制できる。
【0062】
上記のようにして仕込んだ混合物を、触媒または縮合剤存在下もしくは無触媒で、縮合反応をすることで、複合エステルAが得られる。
縮合の際は、加熱するか、水または低分子アルコールと共沸する溶媒を適量存在させることが望ましい。これにより生成物が着色することなく、反応もスムーズに進行する。この溶媒は沸点100〜200℃の炭化水素系溶媒が好ましく、100〜170℃の炭化水素系溶媒がさらに好ましく、110〜160℃の炭化水素系溶媒が最も好ましい。これらの溶媒として、例えばトルエン、キシレン、メシチレンなどがあげられる。添加量は、原料全量に対し、1〜25質量%が好ましく、2〜20質量%がさらに好ましく、3〜15質量%が特に好ましく、5〜12質量%も好ましい。添加量を上記範囲内とすることにより縮合反応をよりスムーズに進行させやすくなる。
【0063】
触媒を用いることで、反応が加速されるが、触媒除去の後処理が煩雑であり、生成物の着色の原因となることから、用いないことも望ましい。しかし、用いる場合は、通常の触媒で通常の条件と操作が使用される。これに関しては、特表2001−501989号公報、特表2001−500549号公報、特表2001−507334号公報、及び特表2002−509563号公報中の参考文献を参照することができる。
【0064】
仕込み終了後、液温120〜250℃、好ましくは130〜230℃、さらに好ましくは150〜230℃、特に好ましくは170〜230℃で反応させる。これにより水または低分子アルコールを含む溶媒が共沸され、冷却部位で冷却され、液体となることで分離される。この水は除去されればよい。低温で反応した後に更に高温で反応させてもよい。
【0065】
反応時間は、仕込みのモル数より理論発生水量が計算されるので、この水量が得られる時点まで反応を行うことが好ましいが、完全に反応を完結させることは困難である。理論水発生量が60〜90%の時点で反応を終了しても、得られた複合エステルAを含有するグリース組成物の潤滑性能及び耐摩耗性は良好である。反応時間は1〜24時間であり、好ましくは3〜18時間、さらに好ましくは5〜18時間、最も好ましくは6〜15時間である。
【0066】
反応及び反応後の処理が終了した後、ろ過を行い、ゴミなどを除去することが好ましい。なお、複合エステルAが固体となった場合は、溶融してとりだすか、あるいは再沈殿により粉体として取り出すこともできる。
【0067】
(複合エステルAの物性等)
複合エステルAは、少なくとも、3価以上の多価アルコールa1と、炭素数が5以上の多価カルボン酸a2と、炭素数が6以上のモノオールa3がランダムに縮合した生成物であり、複合エステルAはa1、a2およびa3成分が少なくとも縮合したエステルを含有する。
【0068】
複合エステルA中には未反応のa3成分が含まれていてもよい。複合エステルA全量に対する未反応のa3成分の含量は10%以下が好ましく、6%以下が更に好ましく、4%以下が特に好ましい。未反応のa3成分の含有量はGPC測定において、a3に該当する分子量ピークの面積比を用いて算出することができる。なおGPCの測定条件は後述する条件を採用することができる。
【0069】
複合エステルAの40℃における動粘度は、50〜2000mm
2/sであることが好ましい。複合エステルAの40℃における動粘度は、50mm
2/s以上であることが好ましく、70mm
2/s以上であることがより好ましく、100mm
2/s以上であることがさらに好ましい。また、複合エステルAの40℃における動粘度は、2000mm
2/s以下であることが好ましく、1500mm
2/s以下であることがより好ましく、1000mm
2/s以下であることがさらに好ましい。複合エステルAの動粘度を上記範囲内とすることにより、グリース組成物の摩擦係数を低く抑えることができ、これにより潤滑性能を高めることができる。本明細書中、複合エステルAの40℃における動粘度は具体的には、ウベローデ粘度計を用い、40.0℃の恒温水槽中で測定した値を採用する。
【0070】
複合エステルAの分子量はゲルパミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いた標準ポリスチレン換算の重量平均分子量で1000〜100000が好ましく、2000〜20000がより好ましく、3000〜10000が更に好ましい。分子量を上記範囲とすることで、グリース組成物の潤滑性能を良化させることができる。本明細書における、複合エステルAのポリスチレン換算の重量平均分子量は、以下の条件で測定した値を採用する。
装置は「HLC−8220GPC(東ソー(株)社製)」を用いる。カラムは「TSKgel、SuperHZM−H(東ソー(株)社製、4.6mmID×15cm)」、「TSKgel、SuperHZ4000(東ソー(株)社製、4.6mmID×15cm)」、TSKgel、SuperHZ2000(東ソー(株)社製、4.6mmID×15cm)」を3本用いる。
【0071】
GPCの条件としては、下記の条件を採用する。
・溶離液 THF(テトラヒドロフラン)
・流速 0.35ml/min
・測定温度 40℃(カラム、インレット、RI(Refractive Index))
・分析時間 20分
・試料濃度 0.1%
・サンプル注入量 10μl
【0072】
本発明では、複合エステルAには未反応のCOOH基が残存していてもよく、また、OH基が存在していてもよいが、OH基及びCOOH基が残存すると、水酸基価と酸価が上がり、用途によっては好ましくない場合もある。このような場合、別途アシル化、及び/又はエステル化処理により、OH基及びCOOH基を消失させ、水酸基価と酸価を低減することもできる。
【0073】
複合エステルAの未反応のOH基の割合は、
13C−NMR(Nuclear Magnetic Resonance)を測定することで判明する。複合エステルAのOH基の残存率は0〜40%であることが好ましく、0〜35%であることがより好ましく、0〜30%であることがさらに好ましい。
【0074】
また、複合エステルAの酸価(サンプル1gを中和するのに要するKOHのmg数)は、0〜50mg KOHであることが好ましく、0〜30mg KOHであることがより好ましく、0〜20mg KOHであることがさらに好ましい。本明細書における、複合エステルAの酸価(サンプル1gを中和するのに要するKOHのmg数)は具体的には、JIS K 2501法に従い測定した値を用いることができる。
【0075】
(基油)
本発明のグリース組成物は基油を含む。
基油としては、鉱油、油脂化合物、ポリオレフィン油(例えば、ポリ−α−オレフィン油)、シリコーン油、エーテル油(例えばパーフルオロポリエーテル油、ジフェニルエーテル誘導体)、及びエステル油(例えば芳香族エステル油、1価脂肪酸エステル、2価脂肪酸ジエステル、ポリオールエステル潤滑油)を挙げることができる。中でも、基油は、鉱油、ポリオレフィン油及びエステル油から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、鉱油及びポリ−α−オレフィン油から選ばれる少なくとも1種を含有することが特に好ましい。
【0076】
本発明において、鉱油の種類は特に規定されるものではないが、好ましくは原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分に対して、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの一種もしくは二種以上の精製手段を適宜組み合わせて適用して得られるパラフィン系又はナフテン系などの鉱油を挙げることができる。
ポリ−α−オレフィン油としてはポリブテン、ポリヘキセン、ポリオクテン、ポリデセンなどが好ましく挙げられる。
エステル油としては、セバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)、トリメチロールプロパントリ脂肪酸エステルなどが好ましく挙げられる。
【0077】
基油の40℃における動粘度は、1〜500mm
2/sが好ましく、10〜200mm
2/sがより好ましく、20〜100mm
2/sがさらに好ましい。基油の40℃における動粘度を上記範囲内とすることにより、潤滑性能及び耐摩耗性がより向上する。
【0078】
基油の粘度指数は90以上であることが好ましく、105以上であることがより好ましく、110以上であることがさらに好ましい。また、基油の粘度指数は160以下であることが好ましい。粘度指数を上記範囲内とすることにより、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、揮発防止性が良化し、耐摩耗性がより向上する。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K 2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0079】
基油の含有量はグリース組成物の全質量に対して、60〜95質量%であることが好ましく、70〜90質量%であることがより好ましい。基油の含有量を上記範囲内とすることにより、潤滑性能及び耐摩耗性をより良化させることができる。
【0080】
(増ちょう剤)
本発明のグリース組成物は増ちょう剤を含む。
増ちょう剤としては、石鹸系増ちょう剤、ウレア系増ちょう剤、有機系増ちょう剤、ベントナイト、シリカゲルなどが挙げられる。中でも、石鹸系増ちょう剤、ウレア系増ちょう剤を用いることが好ましく、増ちょう剤は金属石鹸、金属複合石鹸及びウレア化合物から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0081】
<石鹸系増ちょう剤>
石鹸系増ちょう剤としては、脂肪酸とアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属の鹸化反応によって得られる金属石鹸及び金属複合石鹸が挙げられる。脂肪酸としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エイコサン酸などが好ましい。アルカリ金属水酸化物中のアルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられ、また、アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウムなどが挙げられる。中でも、リチウム石鹸増ちょう剤は好ましく用いられる。
なお、金属石鹸は脂肪酸部分が単一種であり、金属複合石鹸は脂肪酸部分が2種以上であるものをいう。
【0082】
石鹸系増ちょう剤としては複合石鹸系増ちょう剤も好ましく用いられる。複合石鹸は、異種の脂肪酸を組み合わせて鹸化した石鹸である。複合石鹸は、上述した金属石鹸と、第二の脂肪酸の金属塩を複合的に含んだ金属複合石鹸であることが好ましい。
複合石鹸系増ちょう剤としては、リチウム複合石鹸増ちょう剤が好ましく用いられる。ここでリチウム複合石鹸は、脂肪酸のリチウム塩の他に第二の酸の金属塩を含むものである。具体的には、12−ヒドロキシステアリン酸リチウムとアゼライン酸リチウムを配合したものなどが挙げられる。その他の複合石鹸系増ちょう剤としては、アルミニウム複合石鹸増ちょう剤を用いることも好ましく、アルミニウム複合石鹸としては、例えば、アルミニウムステアレートベンゾエートなどが挙げられる。
【0083】
<ウレア系増ちょう剤>
ウレア系増ちょう剤は尿素結合を含む増ちょう剤であり、ウレア化合物であることが好ましい。ウレア化合物は、尿素結合の数が1つのモノウレア化合物であってもよく、複数の尿素結合を有するポリウレア化合物であってもよい。ウレア化合物としては、ポリウレア化合物を用いることが好ましく、中でも尿素結合が2つのジウレア化合物を用いることが好ましい。
【0084】
ウレア化合物は、例えば、イソシアネートとアミンの反応によって得ることができる。例えば、モノウレア化合物はモノイソシアネートとモノアミンの反応により得ることができる。ジウレア化合物はジイソシアネートとモノアミンの反応により得ることができる。尿素結合を3個以上有するポリウレア化合物はジイソシアネートとジアミンとモノアミンの反応により得ることができる。
【0085】
ジイソシアネートとしては、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ビトリレンジイソシアネート、メタ(m)−キシレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネートなど芳香族基を有するジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネートが挙げられる。
モノアミンとしては、アニリン、パラ(p)−クロロアニリン、ベンジルアミン、メタ(m)−キシリジン、パラ(p)−トルイジン、オルト(o)−トルイジン、などの芳香族アミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、シクロヘキシルアミン、フルフリルアミンなどの脂肪族アミンが挙げられる。
【0086】
<有機系増ちょう剤>
有機系増ちょう剤としては、テレフタラメート金属塩を挙げることができる。テレフタラメート金属塩としては、ナトリウムテレフタラメート、リチウムテレフタラメートなどが挙げられ、好ましくはナトリウムテレフタラメートが用いられる。
【0087】
増ちょう剤としては、上述した増ちょう剤の中から2種以上を組み合わせて用いてもよい。増ちょう剤の全含有量は、グリース組成物の全質量に対して1〜30質量%であることが好ましく、3〜25質量%であることがより好ましく、5〜20質量%であることがさらに好ましい。
【0088】
(その他の添加剤)
本発明のグリース組成物は、亜鉛、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも一種を有する化合物をさらに含むことが好ましい。中でも、グリース組成物は、亜鉛及びモリブデンから選ばれる少なくとも一種を有する化合物を含むことがより好ましい。このような化合物は、摩擦調整剤、摩耗防止剤、酸化防止剤などの機能を有する。亜鉛、モリブデン及びリンのうち少なくとも1種を構成元素として含む化合物とは、化合物中に亜鉛、モリブデン、およびリンをいかなる状態で含んでもよい化合物を意味する。具体的には亜鉛、モリブデン、およびリンが、単体(酸化数0)、イオン、錯体などとして含まれる化合物を挙げることができる。このような化合物としては、有機モリブデン化合物、無機モリブデン化合物、有機亜鉛化合物、(亜)リン酸誘導体などが挙げられる。その中でも有機モリブデン化合物及び有機亜鉛化合物が好ましい。
【0089】
亜鉛、モリブデン及びリンから選ばれる少なくとも1種を構成元素として含む化合物は、1種のみが本発明のグリース組成物に添加されてもよく、2種以上が本発明のグリース組成物に添加されてもよい。亜鉛、モリブデン、およびリンから選ばれる少なくとも1種を構成元素として含む化合物を2種以上組み合わせて用いる場合は、有機モリブデン化合物、無機モリブデン化合物、有機亜鉛化合物及び(亜)リン酸誘導体のうち2種以上を組み合わせることが好ましく、有機モリブデン化合物及び有機亜鉛化合物を組み合わせることがより好ましい。
【0090】
以下、有機モリブデン化合物、無機モリブデン化合物、有機亜鉛化合物及び(亜)リン酸誘導体の好ましい態様についてそれぞれ説明する。
【0091】
グリース組成物に添加剤として用いられる有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート(MoDTPと言われることもある)等のリンを含有する有機モリブデン化合物を挙げることができる。別の有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオカーバメート(MoDTCと言われることもある)等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物を挙げることができる。硫黄を含有する有機モリブデン化合物としては、例えば、硫化オキシモリブデン−N,N−ジ−オクチルジチオカルバメート(C
8−Mo(DTC))、硫化オキシモリブデン−N,N−ジ−トリデシルジチオカルバメート(C
16−Mo(DTC))などが好ましい。
【0092】
その他の硫黄を含有する有機モリブデン化合物としては、無機モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物との錯体を挙げることができる。無機モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物との錯体である有機モリブデン化合物に用いられる無機モリブデン化合物としては、例えば、二酸化モリブデン、三酸化モリブデン等の酸化モリブデン、オルトモリブデン酸、パラモリブデン酸、(ポリ)硫化モリブデン酸等のモリブデン酸、これらモリブデン酸の金属塩、アンモニウム塩等のモリブデン酸塩、二硫化モリブデン、三硫化モリブデン、五硫化モリブデン、ポリ硫化モリブデン等の硫化モリブデン、硫化モリブデン酸、硫化モリブデン酸の金属塩またはアミン塩、塩化モリブデン等のハロゲン化モリブデン等を挙げることができる。また、無機モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物との錯体である有機モリブデン化合物に用いられる硫黄含有有機化合物としては、例えば、アルキル(チオ)キサンテート、チアジアゾール、メルカプトチアジアゾール、チオカーボネート、テトラハイドロカルビルチウラムジスルフィド、ビス(ジ(チオ)ハイドロカルビルジチオホスホネート)ジスルフィド、有機(ポリ)サルファイド、硫化エステル等を挙げることができる。
その他の硫黄を含有する有機モリブデン化合物としては、硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。
【0093】
有機モリブデン化合物としては、構成元素としてリンや硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることができる。構成元素としてリンや硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0094】
グリース組成物に添加剤として用いられる無機モリブデン化合物としては、無機モリブデン化合物と硫黄含有有機化合物との錯体である有機モリブデン化合物に用いられる無機モリブデン化合物として挙げたものと同様のものを例示することができる。
【0095】
グリース組成物に添加剤として用いられる有機亜鉛化合物としては、下記式で表わされるジンクジチオホスフェート(ZDTP)ジンクジホスフェート(ZDP)が好ましい。
【0097】
上記式中、Q
1、Q
2、Q
3及びQ
4は各々同じでも異なっていてもよく、それぞれ独立にイソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、ミスチル基、パルミチル基、ステアリル基等の炭素数8〜20のアルキル基を表す。
【0098】
上記式で表わされるジンクジチオホスフェート(ZDTP)としては、具体的にはn−ブチル−n−ペンチルジチオリン酸亜鉛(C
4/C
5 ZnDTP)、ジ−2−エチルヘキシルジチオリン酸亜鉛(C
8 ZnDTP)又はイソプロピル−1−エチルブチルジチオリン酸亜鉛(C
3/C
6 ZnDTP)であることが好ましい。
【0099】
本発明のグリース組成物において、有機モリブデン化合物を用いる場合、有機モリブデン化合物は、グリース組成物の全質量に対して、モリブデン含量として10〜5000mg/L含まれていることが好ましく、50〜2000mg/L含まれていることがより好ましく、100〜1000mg/L含まれていることがさらに好ましい。
また、有機亜鉛化合物を用いる場合、グリース組成物全質量に対して、有機亜鉛化合物は、亜鉛含量として50〜10000mg/L含まれていることが好ましく、100〜5000mg/L含まれていることがより好ましく、200〜1500mg/L含まれていることがさらに好ましい。
グリース組成物中の有機モリブデン化合物や有機亜鉛化合物などの有機金属化合物の含有量を上記範囲内とすることにより、グリース組成物の安定性を高めることができる。また、高温および/または高圧といった過酷条件での潤滑特性を改善でき、さらに耐摩耗性を発揮することができる。
【0100】
(亜)リン酸誘導体としては、前述のジンクジチオホスフェート(ZDTP)、ジンクジホスフェート(ZDP)の他に亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、リン酸トリクレジルなどの芳香族リン酸エステル、リン酸トリアルキルなどの脂肪族リン酸エステルを好ましい例として例示することができる。中でも、リン酸トリクレジルなどの芳香族リン酸エステル、リン酸トリアルキルなどの脂肪族リン酸エステルなどがより好ましい。
【0101】
本発明のグリース組成物は上記成分の他に各種添加剤を含有していてもよい。
本発明のグリース組成物は、例えば、有機硫黄化合物(ポリスルフィド類が好ましく、ジアルキルポリスルフィドがより好ましい)、粘度指数向上剤(好ましくはポリアルキル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート−極性基を有する(メタ)アクリレート共重合体、ブタジエン、オレフィン又はアルキル化スチレンのポリマー及びコポリマー)、酸化防止剤(好ましくはヒンダードフェノール化合物、硫化アルキルフェノール化合物、芳香族アミン化合物、低硫黄過酸化物分解剤、油溶性銅化合物)、清浄剤(スルフェート、フェネート、カルボキシレート、ホスフェート及びサリシレートのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、(ホウ酸変性)コハク酸イミド、コハク酸エステル)、分散剤(好ましくはフェネート、スルホネート、硫化フェネート、サリシレート、ナフテネート、ステアレート、カルバメート、チオカルバメート、燐誘導体、コハク酸誘導体(例えば長鎖置換アルケニルコハク酸誘導体、コハク酸イミド誘導体、ヒドロカルビル置換コハク酸化合物、コハク酸エステル、コハク酸エステルアミド)、マンニッヒ塩基)、流動点降下剤(好ましくはポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアリールアミド、ハロパラフィンワックスと芳香族化合物の縮合製品、ビニルカルボキシレートポリマーならびにジアルキルフマレート、脂肪酸のビニルエステル及びアリルビニルエーテルのターポリマー)、腐食防止剤(好ましくはチアジアゾール)、シール適合剤(好ましくは有機ホスフェート、芳香族エステル、芳香族炭化水素、エステル(例えば、ブチルベンジルフタレート)、ポリブテニル無水コハク酸)、消泡剤(好ましくはポリジメチルシリコーン)、錆防止剤、摩擦調整剤、及び摩耗防止剤から選択される1種又は2種以上を挙げることができる。
このような添加剤を添加することにより、耐摩耗性等の機能を高めることができる。本発明において用いることができる添加剤については、特開2011−89106号公報の段落0098〜0165の記載を参照することができる。
【0102】
グリース組成物は、添加剤として固体潤滑剤を含むこともできる。固体潤滑剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素、フラーレン、黒鉛、フッ化黒鉛、メラミンシアヌレート、二硫化モリブデン、硫化アンチモン、アルカリ(土類)金属ほう酸塩等が挙げられる。
【0103】
また、グリース組成物は、添加剤としてワックスを含むこともできる。ワックスとしては、例えば、天然ワックス、鉱油系又は合成系の各種ワックスを例示することができる。具体的にはモンタンワックス、カルナウバワックス、高級脂肪酸のアミド化合物、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、ポリエチレンワックス、ポリオレフィンワックス、エステルワックス等が挙げられる。
【0104】
その他の添加剤としては、金属不活性化剤が挙げられる。金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、チアジアゾールなどが挙げられる。
【0105】
(グリース組成物の製造方法)
本発明のグリース組成物は基油、または基油と各種添加剤を含有する液状潤滑油組成物中で、増ちょう剤を合成し、グリース組成物を製造することが好ましい。複合エステルAは液状潤滑油組成物中に含まれていてもよいし、先に基油中で増ちょう剤を合成しグリース状とした後に混合してもよいが、先に基油中で増ちょう剤を合成しグリース状とした後に混合することが好ましい。
本発明のグリース組成物は更に脱水、加熱、冷却、ミリング及び脱泡から選ばれる工程を経て製造されることが好ましい。
【0106】
(用途)
本発明のグリース組成物は、機械、軸受、歯車等に使用することができる。具体的には自動車用軸受、家電、OA(Office Automation)機器、工業機械などの汎用モーターに用いられる転がり軸受、鉄鋼、工業機械設備における軸受、種々の公知の玉軸受やころ軸受、工作機械のボールねじやリニアガイド、建設機械の各種摺動部、歯車などのあらゆるグリース潤滑箇所に好適に使用することができる。これら使用箇所におけるグリース組成物の封入量は、使用箇所の形式や寸法等に応じて適宜変更することができる。
【実施例】
【0107】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0108】
(ベースグリースの調製)
以下に示す方法でベースグリースを調製した。
【0109】
<ベースグリースG1>
鉱油(40℃動粘度:68mm
2/s)中で、12−ヒドロキシステアリン酸のリチウム石けん(増ちょう剤)を10質量%となるように合成し、ベースグリースG1を調製した。
【0110】
<ベースグリースG2>
ポリ−α−オレフィン油(40℃粘度:46mm
2/s)中で、アゼライン酸と12−ヒドロキシステアリン酸とのリチウム複合石けん(増ちょう剤)を15質量%となるように合成し、ベースグリースG2を調製した。
【0111】
<ベースグリースG3>
ポリ−α−オレフィン油(40℃粘度:46mm
2/s)中で、ジフェニルメタンジイソシアネートとオクチルアミンを反応させ、ジウレア増ちょう剤を15質量%となるように合成し、ベースグリースG3を調製した。
【0112】
<ベースグリースG4>
エステル油(40℃粘度:32mm
2/s)中で、ジフェニルメタンジイソシアネートとp−トルイジンを反応させ、ジウレア増ちょう剤を15質量%となるように合成し、ベースグリースG4を調製した。
【0113】
(複合エステルの合成)
以下に示す方法で複合エステルA−1〜A−5を合成した。
【0114】
<複合エステルA−1の合成>
多価アルコールa1としてトリメチロールプロパン(和光純薬社製)、多価カルボン酸a2としてセバシン酸、モノオールa3として2−エチルヘキサノール(和光純薬社製)をmol比が1/2.56/3となるようにディーンスターク脱水装置がついた反応容器に仕込んだ。この混合物を0.3L/minの窒素気流下190℃で5時間、更に220℃で4時間反応させた。反応中に発生した水は除去した。反応物を室温まで放冷し、黄色透明の液状物の複合エステルA−1を得た。
【0115】
<複合エステルA−2〜A−5の合成>
表1に示すa1〜a3成分を用いることとした以外は、複合エステルA−1の合成と同じ手法を用いて本発明の複合エステルA−2〜A−5を得た。
【0116】
【表1】
【0117】
表1における各成分は以下の通りである。
TMP:トリメチロールプロパン(和光純薬社製)
EO−TMP:エチレンオキシド変性トリメチロールプロパン 数平均分子量(Mn)450(Aldrich社製)
SA:セバシン酸(和光純薬社製)
DA:ダイマー酸(築野食品社製ツノダイム395、C36ジカルボン酸含率95%)
ED:エルカ酸ダイマー(クローダ社製、プリポール1004)
DDSA:ドデセニルコハク酸無水物(新日本理化社製DDSA)
EH:2−エチルヘキサノール(和光純薬社製)
EHO:2−(2−エチルヘキシルオキシ)エタノール(和光純薬社製)
EHO2:2−(2−エチルヘキシルオキシ)エトキシエタノール(和光純薬社製)
【0118】
<比較用複合エステルX−1〜X−3の合成>
表2に示す成分を用い、かつ仕込み比を表2の通りに変更した以外は、複合エステルA−1の合成と同じ手法を用いて本発明の複合エステルX−1〜X−3を得た。
【0119】
【表2】
【0120】
表2における各成分は以下の通りである。
PE:ペンタエリスリトール(和光純薬社製)
SU:無水コハク酸
TEGE:トリエチレングリコールモノエチルエーテル
BU:1−ブタノール
【0121】
また、比較用エステルX−4として、セバシン酸ビス(2−エチルヘキシル)(和光純薬社製)を準備した。
【0122】
(グリース組成物の調製)
表3〜7に示す配合となるように、ベースグリースに複合エステル等を添加し、実施例及び比較例のグリース組成物を調製した。
【0123】
(評価方法)
<摩擦係数>
各実施例および比較例のグリース組成物について、振動型摩擦摩耗試験機(Optimol Instruments Prueftechnik GmbH社製、SRV 4)を用いて摩擦係数を測定した。測定条件は下記(条件1)及び(条件2)で1時間摩擦摩耗試験を行い、30分経過時点における摩擦係数を測定した。
(条件1)温度80℃、振動数50Hz、荷重200N
(条件2)温度120℃、振動数50Hz、荷重400N
摩擦摩耗試験の上部試験片には直径10mmのSUJ−2ボール、下部試験片には直径24mmのSUJ−2ディスクを用いた。観測した摩擦係数を以下の基準にしたがって評価した。
表3では比較例1の条件2の摩擦係数を100%として他の評価結果を規格化し、以下のように評価した。また、表4〜7では、各表に掲載した比較例の条件2の摩擦係数を100%として他の評価結果を規格化し、以下のように評価した。
値が小さいほど摩擦係数が小さく、良好な潤滑特性を有することを意味する。下記評価基準のa,b,cは摩擦係数が大きく低下しており、潤滑特性が良好であると判断した。なお、条件1及び2の試験では、c以上の評価を合格評価とした。
a:40%未満
b:40%以上60%未満
c:60%以上80%未満
d:80%以上90%未満
e:100%以上
【0124】
<耐摩耗性>
各実施例および比較例のグリース組成物について、ASTM D4172法の四球試験方法を用い、摩耗痕直径を測定した。測定条件は下記(条件1)及び(条件2)で1時間試験を行い、下部の3個の試験球の摩耗痕直径の平均を摩耗痕直径とした。
(条件1)温度75℃、回転数1200rpm、荷重392N
(条件2)温度120℃、回転数1200rpm、荷重500N
表3では比較例1の条件2の摩耗痕直径を100%として他の評価結果を規格化し、以下のように評価した。また、表4〜7では、各表に掲載した比較例の条件2の摩擦係数を100%として他の評価結果を規格化し、以下のように評価した。
値が小さいほど、摩耗が少なく、良好な耐摩耗性を有することを意味する。下記評価基準のa,b,cは摩耗痕直径が大きく低下しており、耐摩耗性が良好であると判断した。なお、条件1及び2の試験では、c以上の評価を合格評価とした。
a:40%未満
b:40%以上60%未満
c:60%以上80%未満
d:80%以上90%未満
e:100%以上
【0125】
【表3】
【0126】
【表4】
【0127】
【表5】
【0128】
【表6】
【0129】
【表7】
【0130】
比較例に比べて実施例では、摩擦係数が小さくなっており潤滑特性が良好であり、かつ耐摩耗性が良好であることがわかる。表3〜7からわかるように、本発明では、特定の複合エステルAを含有することにより、潤滑性能及び耐摩耗性が良化している。