【文献】
COSCO Donato et al, Liposomes as multicompartmental carriers for multidrug delivery in anticancer chemotherapy, Drug Delivery and Translational Research, 2011, Vol.1, 66-75
【文献】
LIBOIRON D. Barry et al, Nanoscale delivery systems for combination chemotherapy, Drug Delivery in Oncology, 2012, Vol.2, 1013-1050
【文献】
VON HOFF D. Daniel et al, Increased Survival in Pancreatic Cancer with nab-Paclitaxel plus Gemcitabine, N Engl J Med., 2013, Vol.369(18), 1691-1703
【文献】
上野秀樹ら, 切除不能膵癌(転移性,局所進行)に対する化学療法, 医学のあゆみ, Vol.252(8), 2015.02.21, 887-892
【文献】
COSCO Donato et al, In vivo activity of gemcitabine-loaded PEGylated small unilamellar liposomes against pancreatic cancer, Cancer Chemother Pharmacol, 2009, Vol.64, 1009-1020
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
リポソームにゲムシタビンまたはその塩を内包したリポソーム組成物とナブパクリタキセルとを組み合わせてなる腫瘍治療剤であって、リポソームを構成する脂質の合計量に対するコレステロール類の含有率が10mol%〜35mol%であり、リポソームの内水相の浸透圧がリポソームの外水相の浸透圧に対して2倍〜8倍であり、リポソームを構成する脂質が水素添加大豆ホスファチジルコリンを含む、腫瘍治療剤。
血漿中におけるリポソーム組成物からのゲムシタビンまたはその塩の放出速度が10質量%/24hr〜70質量%/24hrである、請求項1又は2に記載の腫瘍治療剤。
リポソームにゲムシタビンまたはその塩を内包したリポソーム組成物およびナブパクリタキセルを含むキットであって、リポソームを構成する脂質の合計量に対するコレステロール類の含有率が10mol%〜35mol%であり、リポソームの内水相の浸透圧がリポソームの外水相の浸透圧に対して2倍〜8倍であり、リポソームを構成する脂質が水素添加大豆ホスファチジルコリンを含む、キット。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書において「〜」を用いて示された数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本発明において、特にことわらない限り、%は、質量百分率を意味する。
本明細書において組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0017】
「放出」とは、リポソームに内包された薬物が、リポソームを構成する脂質膜を通過して、リポソームの外部へ出ることを意味する。
「放出速度」とは、単位時間あたりに、リポソームに内包された薬物が、リポソームを構成する脂質膜を通過して、リポソームの外部へ出る量を意味する。
「血中滞留性」とは、リポソーム組成物を投与した対象において、リポソームに内包された状態の薬物が血液中に存在する性質を意味する。
「リポソームの平均粒子径」とは、リポソーム組成物中に存在するリポソームの体積平均粒子径を意味する。本発明のリポソーム組成物中に含まれるリポソームの平均粒子径は動的光散乱法を用いて測定する。動的光散乱を用いた市販の測定装置としては、濃厚系粒子アナライザーFPAR−1000(大塚電子社製)、ナノトラックUPA(日機装社製)およびナノサイザー(マルバーン社製)等が挙げられる。
「対象」とは、その予防若しくは治療を必要とするヒト、マウス、サル、家畜等の哺乳動物であり、好ましくは、その予防若しくは治療を必要とするヒトである。
「腫瘍」としては、例えば、乳癌、子宮体癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、胃(胃腺)癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、頭頚部扁平上皮癌、食道癌、膀胱癌、メラノーマ、大腸癌、腎細胞癌、非ホジキンリンパ腫および尿路上皮癌等が挙げられる。
【0019】
(タキサン系抗腫瘍剤)
タキサン系抗腫瘍剤としては、タキサン環またはその類縁構造を有する化合物を有効成分とする医薬組成物が挙げられる。
タキサン系抗腫瘍剤としては、具体的には、パクリタキセル、ドセタキセル、カバジタキセル、テセタキセルおよびオルタタキセル等ならびにそれらの塩または誘導体が挙げられる。
塩としては、通常知られているアミノ基などの塩基性基、ヒドロキシル基およびカルボキシル基などの酸性基における塩を挙げることができる。
塩基性基における塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸および硫酸などの鉱酸との塩;ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸との塩;ならびにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸などのスルホン酸との塩が挙げられる。
酸性基における塩としては、例えば、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;ならびにトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N、N−ジメチルアニリン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N−ベンジル−β−フェネチルアミン、1−エフェナミンおよびN、N'−ジベンジルエチレンジアミンなどの含窒素有機塩基との塩などが挙げられる。
パクリタキセルの誘導体としては、例えば、ナブパクリタキセル(アルブミン結合パクリタキセル)等が挙げられる。
タキサン系抗腫瘍剤としては、パクリタキセルもしくはその塩またはナブパクリタキセルが好ましく、ナブパクリタキセルがより好ましい。
【0020】
タキサン系抗腫瘍剤は、通常、製剤化に使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤および吸収促進剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0021】
タキサン系抗腫瘍剤の投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、直腸内、腹腔内、筋肉内、腫瘍内または膀胱内注射する方法、経口投与、経皮投与および坐剤などの方法が挙げられる。投与量および投与回数は、例えば、成人に対しては、経口または非経口(例えば、注射、点滴および直腸部位への投与など)投与により、1日あたり例えば、0.01〜1000mg/kgを1回から数回に分割して投与することができる。剤形の例としては、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、粉体製剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、貼付剤、軟膏剤および注射剤が挙げられる。
【0022】
(リポソーム)
リポソームとは、脂質を用いた脂質二重膜で形成される閉鎖小胞体であり、その閉鎖小胞の空間内に水相(内水相)を有する。内水相には、水等が含まれる。リポソームは通常、閉鎖小胞外の水溶液(外水相)に分散した状態で存在する。リポソームはシングルラメラ(単層ラメラまたはユニラメラとも呼ばれ、二重層膜が一重の構造である。)であっても、多層ラメラ(マルチラメラとも呼ばれ、タマネギ状の形状の多数の二重層膜の構造である。個々の層は水様の層で仕切られている。)であってもよいが、本発明では、医薬用途での安全性および安定性の観点から、シングルラメラのリポソームであることが好ましい。
【0023】
リポソームは、薬物を内包することのできるリポソームであれば、その形態は特に限定されない。「内包」とは、リポソームに対して薬物が内水相および膜自体に含まれる形態をとることを意味する。例えば、膜で形成された閉鎖空間内に薬物を封入する形態、膜自体に内包する形態等が挙げられ、これらの組合せでもよい。
【0024】
リポソームの平均粒子径は特に限定されないが、好ましくは2nm〜200nmであり、より好ましくは5nm〜150nmであり、さらに好ましくは5nm〜120nmであり、最も好ましくは5nm〜100nmである。
【0025】
リポソームは球状またはそれに近い形態をとることが好ましい。
【0026】
リポソームの脂質二重層を構成する成分は、脂質から選ばれる。脂質として、水溶性有機溶媒およびエステル系有機溶媒の混合溶媒に溶解するものを任意に使用することができる。脂質として、脂質としては、例えば、リン脂質、リン脂質以外の脂質、コレステロール類およびそれらの誘導体等が挙げられる。これらの成分は、単一種または複数種の成分から構成されてよい。
【0027】
リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、カルジオリピン等の天然もしくは合成のリン脂質、またはこれらに水素添加したもの(例えば、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC))等が挙げられる。これらのなかでも、水素添加大豆ホスファチジルコリン等の水素添加されたリン脂質またはスフィンゴミエリンが好ましく、水素添加大豆ホスファチジルコリンがより好ましい。なお、本発明において、「リン脂質」とはリン脂質に修飾を加えたリン脂質誘導体も包含する。
【0028】
リン脂質以外の脂質としては、リン酸を含まない脂質が挙げられ、例えば、リン酸部分をその分子内に有しないグリセロ脂質、リン酸部分をその分子内に有しないスフィンゴ脂質等が挙げられる。なお、本発明において、「リン脂質以外の脂質」とはリン脂質以外の脂質に修飾を加えたリン脂質以外の脂質の誘導体も包含する。
【0029】
脂質に塩基性官能基を有する化合物が結合した物質である場合、脂質はカチオン化脂質と呼ばれる。カチオン化脂質は、例えば、リポソームの膜を修飾することが可能となり、標的部位である細胞との接着性等を高めることができる。
【0030】
コレステロール類としては、シクロペンタヒドロフェナントレンを基本骨格とし、その一部あるいはすべての炭素が水素化されているコレステロールおよびその誘導体を挙げることができる。例えば、コレステロールが挙げられる。平均粒子径を100nm以下に微細化していくと脂質膜の曲率が高くなる。リポソームにおいて配列した膜のひずみも大きくなるため、水溶性薬物は更に漏出しやすくなる。漏出性を抑制する手段として、脂質による膜のひずみを埋める(膜安定化効果)ために、コレステロール等を添加することが有効である。
【0031】
リポソームにおいて、コレステロール類の添加は、リポソームの膜のすきまを埋めること等により、リポソームの膜の流動性を下げることが期待される。一般には、リポソームにおいて、コレステロール類の量は、脂質成分の合計(総脂質)mol中、通常50mol%程度までの量で含むことが望ましいとされている。しかし、内水相の浸透圧が高いリポソームにおいて、コレステロール類の量の最適な範囲は知られていなかった。
本発明に係るリポソームを構成する脂質の合計量に対するコレステロール類の含有率は10mol%〜35mol%であり、好ましくは15mol%〜25mol%、より好ましくは17mol%〜21mol%である。リポソームを構成する脂質の合計量に対するコレステロール類の含有率を10mol%〜35mol%とすることにより、薬物の放出し易さと保管安定性とを両立できるリポソーム組成物を得ることができる。
【0032】
リポソームには、上記の成分の他に、血中滞留性の改善のために親水性高分子等、膜構造の安定剤として脂肪酸またはジアセチルホスフェート等、抗酸化剤としてα−トコフェロール等を加えてもよい。本発明では、医薬用途において静脈注射用途での使用が認められていない分散助剤等の添加剤、例えば、界面活性剤等を用いないことが好ましい。
【0033】
本発明に係るリポソームには、リン脂質、リン脂質以外の脂質、コレステロール類およびそれらの誘導体として、リン脂質、リン脂質以外の脂質またはコレステロール類を親水性高分子で修飾することが好ましい。
【0034】
親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール類、ポリグリセリン類、ポリプロピレングリコール類、ポリビニルアルコール、スチレン−無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン、合成ポリアミノ酸等が挙げられる。上記の親水性高分子は、それぞれ単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
これらの中でも、製剤の血中滞留性の観点から、ポリエチレングリコール類、ポリグリセリン類およびポリプロピレングリコール類が好ましく、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリセリン(PG)およびポリプロピレングリコール(PPG)がより好ましい。汎用性および血中滞留性の観点から、ポリエチレングリコール(PEG)がさらに好ましい。
【0035】
PEGの分子量は、特に限定されないが、500ダルトン〜10、000ダルトンであり、好ましくは1、000ダルトン〜7、000ダルトンであり、より好ましくは2、000ダルトン〜5、000ダルトンである。
【0036】
本発明に係るリポソームでは、リポソームに含まれる主たる脂質とともに、PEGによって修飾された脂質(PEG修飾脂質)を用いることが好ましい。PEG修飾脂質としては、例えば、1、2−ジステアロイル−3−ホスファチジルエタノールアミン−PEG2000(日本油脂社製)、1、2−ジステアロイル−3−ホスファチジルエタノールアミン−PEG5000(日本油脂社製)およびジステアロイルグリセロール−PEG2000(日本油脂社製)等の1、2−ジステアロイル−3−ホスファチジルエタノールアミン−ポリエチレングリコールが挙げられる。これらのPEG修飾脂質は、全脂質量に対して0.3〜50質量%、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%含有するように添加すればよい。
【0037】
本発明に係るリポソームでは、水素添加大豆ホスファチジルコリン(リポソームに含まれる主たる脂質)、1、2−ジステアロイル−3−ホスファチジルエタノールアミン−ポリエチレングリコール(主たる脂質と併用する脂質)、およびコレステロールの脂質の組合せが好ましい。
【0038】
本発明に係るリポソームでは、アニオンポリマー(ポリアニオン)を含まないことが好ましい。
【0039】
(薬物)
本発明に係るリポソームは、薬物として少なくともゲムシタビンまたはその塩を内包する。
ゲムシタビンの塩としては、通常知られているアミノ基などの塩基性基、ヒドロキシル基およびカルボキシル基などの酸性基における塩を挙げることができる。
塩基性基における塩としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸および硫酸などの鉱酸との塩;ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸との塩;ならびにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸などのスルホン酸との塩が挙げられる。
酸性基における塩としては、例えば、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;ならびにトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N、N−ジメチルアニリン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N−ベンジル−β−フェネチルアミン、1−エフェナミンおよびN、N'−ジベンジルエチレンジアミンなどの含窒素有機塩基との塩などが挙げられる。
ゲムシタビンの塩としては、塩酸塩が好ましい。
ゲムシタビンの含有量は、リポソーム組成物に対して0.1〜2.0mg/mlであることが好ましく、0.2〜1.0mg/mlであることがより好ましい。
【0040】
(溶解状態で内包した薬物)
本発明に係るリポソームに内包された薬物(ゲムシタビンまたはその塩)は、リポソームの内水相に溶解状態で存在している。ここで、溶解状態とは、リポソームの体積に対して充填した薬物の量が、その内水相の組成液での薬物の飽和溶解度以下の場合、溶解状態で内包されたものとみなす。また、飽和溶解度以上においても、Cryo−TEMで薬物結晶が観察されない、またはXRD測定で結晶格子に起因する回折パターンが観察されない場合、リポソームに内包された薬物の大部分が溶解し、溶解状態で内包されたものとみなす。この場合、脂質膜が作る物理化学的な環境による溶解促進、または一部薬物が脂質膜に取り込み等が起きていると推測する。
【0041】
(リポソーム組成物)
本発明に係るリポソーム組成物は、ゲムシタビンまたはその塩を内包するリポソームおよびそのリポソームを分散する水溶液を含むことができる。
【0042】
本発明に係るリポソームは、リポソームの内水相の浸透圧がリポソームの外水相の浸透圧に対して、好ましくは2倍〜8倍であり、より好ましくは2.5倍〜6倍であり、さらに好ましくは3倍〜5倍である。内水相の浸透圧が外水相の浸透圧に対して2倍〜8倍であるように設定することで、薬物の放出し易さと保管安定性とを両立することができる。
【0043】
リポソーム組成物には、適宜、水性溶媒、添加剤等を加えることができる。リポソーム組成物は、投与経路に関連して、医薬的に許容される等張化剤、安定化剤、酸化防止剤、およびpH調整剤の少なくとも一種を含んでもよい。
【0044】
等張化剤としては、特に限定されないが、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムのような無機塩類、グリセロール、マンニトール、ソルビトールのようなポリオール類、グルコース、フルクトース、ラクトース、またはスクロースのような糖類が挙げられる。
【0045】
安定化剤としては、特に限定されないが、例えば、グリセロール、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、またはスロースのような糖類が挙げられる。
【0046】
酸化防止剤としては、特に限定されないが、例えば、アスコルビン酸、尿酸、トコフェロール同族体(例えば、ビタミンE、トコフェロールα、β、γ、δの4つの異性体)システイン、EDTA(エチレンジアミン四酢酸)等が挙げられる。安定化剤および酸化防止剤は、それぞれ単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0047】
pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、クエン酸、酢酸、トリエタノールアミン、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸ニ水素カリウム等が挙げられる。
【0048】
リポソーム組成物は、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA)、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、PBS、塩化ナトリウム、糖類、生体内分解性ポリマー、無血清培地、医薬添加物として許容される添加物を含有してもよい。
【0049】
特に、本発明に係るリポソーム組成物は、硫酸アンモニウム、L−ヒスチジン、精製白糖、水酸化ナトリウムまたは塩酸等を含有することが好ましい。
【0050】
リポソーム組成物を充填する容器は、特に限定されないが、酸素透過性が低い材質であることが好ましい。例えば、プラスチック容器、ガラス容器、アルミニウム箔、アルミ蒸着フィルム、酸化アルミ蒸着フィルム、酸化珪素蒸着フィルム、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ塩化ビニリデン、等をガスバリア層として有するラミネートフィルムによるバック等が挙げられ、必要に応じて、着色ガラス、アルミニウム箔やアルミ蒸着フィルム等を使用したバック等を採用することで遮光することもできる。
【0051】
リポソーム組成物を充填する容器において、容器内の空間部に存在する酸素による酸化を防ぐために、容器空間部および薬液中のガスを窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。例えば、注射液を窒素バブリングし、容器への充填を窒素雰囲気下行うことが挙げられる。
【0052】
(放出速度)
本発明に係るリポソーム組成物において、薬物(ゲムシタビンまたはその塩)の放出速度は10質量%/24hr〜70質量%/24hrが好ましく、20質量%/24hr〜60質量%/24hrがより好ましく、20質量%/24hr〜50質量%/24hrがさらに好ましい。
【0053】
放出速度は、温度に依存するため、定温条件で測定することが好ましい。例えば、ヒトの場合、温度は特に限定されることはないが、体温(35℃〜38℃)の範囲内で測定することが好ましい。
【0054】
薬物(ゲムシタビンまたはその塩)の放出速度が15質量%/24hr未満であると、充分な体内での曝露時間を得ることができず、期待される薬効が得られない場合が多く、また、場合によっては薬物を含むリポソームが不要に長い時間体内に残留することで、皮膚等の本来分布しにくい組織に集積することで予想外の毒性が発現する場合がある。また、70質量%/24hrより大きいと、単位時間あたりの曝露する薬物量が多くなるため、最高血中濃度が高くなることで毒性が大きくなり、また、漏出した薬物が腫瘍部以外の組織に分布あるいは速やかな代謝を受け血中滞留性が低下するために好ましくない。
【0055】
薬物の放出速度の測定方法は、特に限定されないが、対象となる哺乳動物、モデル系等に投与した後、哺乳動物またはモデル系から、血液または血漿等を単位時間毎に採取して、必要に応じて前処理等を行う。そして、目的の薬物を液体高速クロマトグラフ、マススペクトル等の方法によって測定することができる。
【0056】
(リポソーム組成物の製造方法)
本発明に係るリポソーム組成物は、
乾燥固化工程を経ずに、有機溶媒に溶解した脂質を乳化してリポソームを形成する乳化工程、
乳化工程で得られたリポソームにゲムシタビンまたはその塩を内包させる薬物ローディング工程、および
リポソームの内水相の浸透圧をリポソームの外水相の浸透圧に対して2倍〜8倍に調整する浸透圧調整工程
を含む方法により製造することができる。
リポソーム組成物の製造方法は、必要に応じて、乳化工程で用いた有機溶媒を蒸発させる蒸発工程、無菌ろ過、無菌充填等の他の工程を含んでもよい。
【0057】
(乳化工程)
乳化工程では、少なくとも1種の脂質が有機溶媒に溶解している油相と水相とを混合して脂質を含む水溶液を攪拌して乳化することができる。脂質が有機溶媒に溶解している油相および水相を混合し撹拌し、乳化することで、油相および水相がO/W型に乳化した乳化液が調製される。混合後、油相由来の有機溶媒の一部または全部を後述する蒸発工程によって除去することにより、リポソームが形成される。または、油相中の有機溶媒の一部または全部が撹拌・乳化の過程で蒸発して、リポソームが形成される。
【0058】
撹拌する方法としては、粒子微細化のために、超音波または機械的せん断力が用いられる。また、粒子径の均一化のためには、一定の孔径のフィルターを通すエクストルーダー処理またはマイクロフルイザイザー処理を行うことができる。エクストルーダー等を用いれば、副次的に形成された多胞リポソームをばらして単胞リポソームにすることができる。本発明では、薬物をローディングしない状態のリポソームを、エクストリュージョン処理せずに次の工程に用いることが、製造工程の簡略化の観点から好ましい。
【0059】
本発明では、撹拌の速度および時間を任意に選択することで、調製するリポソームの平均粒子径を制御することができる。安全性および安定性を有するリポソームを得る観点において、脂質を含む水溶液に周速20m/sec以上のせん断を与えることが好ましい。せん断としては、限定されないが、具体的には、周速20m/sec〜35m/secのせん断を与えることが好ましく、周速23m/sec〜30m/secのせん断を与えることがより好ましい。
【0060】
乳化工程は、乳化する工程であれば限定されることはないが、好ましくは高せん断をかけ、有機溶剤を含む乳化工程で微粒子化する工程である。必要に応じて、乳化工程で用いた有機溶媒を蒸発させる(脱溶媒する)ことでリポソームを形成することができる。
【0061】
リポソームを製造する際の乳化工程の液温は、適宜調整することが可能であるが、油相と水相との混合時の液温を使用する脂質の相転移温度以上とすることが好ましく、例えば、相転移温度が35〜40℃の脂質を使用する場合、35℃〜70℃とすることが好ましい。
【0062】
(油相)
油相として用いられる有機溶媒として、水溶性有機溶媒およびエステル系有機溶媒の混合溶媒を用いる。本発明では、有機溶媒として、クロロホルム、塩化メチレン、ヘキサン、およびシクロヘキサン等の有機溶剤を実質的に用いないことが好ましく、これらの有機溶剤をまったく用いないことがより好ましい。
【0063】
水溶性有機溶媒は、水と任意に混じりあう性質をもつ有機溶媒であることが好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールおよびt−ブタノール等のアルコール類、グリセリン、エチレングリコールおよびプロピレングリコール等のグリコール類、ポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール類等が挙げられる。これらのなかでも、アルコール類が好ましい。アルコール類としては、エタノール、メタノール、2−プロパノールおよびt−ブタノールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、エタノール、2−プロパノールおよびt−ブタノールから選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、エタノールであることがさらに好ましい。
【0064】
エステル系有機溶媒は、有機酸およびアルコールの反応から得られるエステルであることが好ましい。エステル系有機溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸イソプロピル、酢酸t−ブチルおよびプロピオン酸メチル等が挙げられ、酢酸エチル、酢酸イソプロピルおよびプロピオン酸メチルから選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、酢酸エチルであることがより好ましい。
【0065】
水溶性有機溶媒およびエステル系有機溶媒の混合比率は、例えば、質量比で、90:10〜30:70とすることができ、好ましくは80:20〜40:60であり、より好ましくは80:20〜70:30である。水溶性有機溶媒およびエステル系有機溶媒の混合溶媒は、さらに水または緩衝液等の水性溶媒を含んでいてもよい。水性溶媒は、例えば、1〜30質量%の範囲で加えることができる。混合溶媒のpHは、例えば、3〜10とすることができ、4〜9であることが好ましい。エステル系有機溶媒にはこれら溶媒に可溶な各種薬剤等の生理活性物質等を含んでいてもよい。
【0066】
水溶性有機溶媒としてエタノールを用い、エステル系有機溶媒として酢酸エチルを用いる場合、エタノールと酢酸エチルの混合比率は、例えば、質量比で、80:20〜70:30とすることができる。
【0067】
脂質の濃度は、特に限定されず、適宜調整することが可能であるが、水溶性有機溶媒とエステル系有機溶媒の混合液を溶媒とする溶液として、40g/L〜250g/Lとすることができ、100g/L〜200g/Lであることが好ましい。
【0068】
(水相)
水相とは、外水相および内水相を意味する。
本発明における外水相とは、リポソームを分散する水溶液を意味する。例えば注射剤の場合においては、バイアル瓶またはプレフィルドシリンジ包装されて保管されたリポソームの分散液のリポソームの外側を占める溶液が外水相となる。また、添付された分散用液またはその他溶解液により投与時に用時分散した液についても同様に、リポソームの分散液のリポソームの外側を占める溶液が外水相となる。
本発明における内水相とは、リポソームの脂質二重膜を隔てた閉鎖小胞内の水相を意味する。
リポソームを製造する際に、リポソームを分散する水溶液(外水相)としては、水(蒸留水、注射用水等)、生理食塩水、各種緩衝液または糖類の水溶液およびこれらの混合物(水性溶媒)が好ましく用いられる。緩衝液としては、有機系、無機系に限定されることはないが、体液に近い水素イオン濃度付近に緩衝作用を有する緩衝液が好適に用いられ、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液およびグッドバッファー等があげられる。水相のpHは、例えば、5〜9とすることができ、7〜8であることが好ましい。リポソームを分散する水溶液(外水相)としては、リン酸緩衝液(例えば、pH=7.4)を用いることが好ましい。リポソームの内水相は、リポソームを製造する際に、リポソームを分散する水溶液であってもよいし、新たに添加される、水、生理食塩水、各種緩衝液または糖類の水溶液およびこれらの混合物をあってもよい。外水相または内水相として用いる水は、不純物(埃、化学物質等)を含まないことが好ましい。
生理食塩水とは、人体と等張になるように調整された無機塩溶液を意味し、さらに緩衝機能を持っていてもよい。生理食塩水としては、塩化ナトリウムを0.9w/v%含有する食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSともいう)およびトリス緩衝生理食塩水等が挙げられる。
【0069】
乳化工程を経て調製されたリポソームを含む水溶液は、リポソームに含まれなかった成分の除去、または濃度もしくは浸透圧の調整のために、遠心分離、限外ろ過、透析、ゲルろ過または凍結乾燥等の方法で後処理をしてもよい。
【0070】
(エクストリュージョン処理)
エクストリュージョン処理とは、細孔を有するフィルターにリポソームを通過させることで、物理的なせん断力を施し、微粒化する工程を意味する。リポソームを通過させる際、リポソーム分散液およびフィルターを、リポソームを構成する膜の相転移温度以上の温度に保温することで、速やかに微粒化することができる。
【0071】
(蒸発工程)
リポソーム組成物の製造方法においては、必要に応じて蒸発工程を設けてもよい。蒸発工程では、乳化工程で得られたリポソームを含む水溶液から有機溶媒を蒸発させる。本発明において、蒸発工程とは、油相由来の有機溶媒の一部または全部を蒸発工程として強制的に除去する工程、および油相中の有機溶媒の一部または全部が撹拌・乳化の過程で自然に蒸発する工程の少なくとも一つを含む。
【0072】
蒸発工程における有機溶剤を蒸発させる方法は、特に限定されないが、例えば、有機溶媒を加熱することにより蒸発させる工程、乳化後に静置または緩やかな撹拌を継続する工程、および真空脱気を行う工程の少なくとも一つを行えばよい。
有機溶剤を蒸発させる工程において、リポソームを含む水溶液に含まれる有機溶媒の濃度を、有機溶剤を蒸発させる工程の開始後から30分以内に、15質量%以下にすることが好ましい。
【0073】
(薬物ローディング工程)
薬物ローディング工程では、リポソームに薬物(ゲムシタビンまたはその塩)を内包させる場合、水和・膨潤させる水性媒体に薬物を溶解し、相転移温度以上の加熱、超音波処理またはエクストルージョン等の方法により薬物をリポソームの内水相に内包させることができる。また、脂質乳化時の水相に薬物を溶解させ内水相に内包させることもできる。
【0074】
(浸透圧調整工程)
浸透圧調整工程とは、リポソームの内水相および外水相の浸透圧を調整する工程を意味する。リポソームの内水相および外水相の浸透圧を調整することにより、放出速度を制御することができる。浸透圧調整工程としては、特に限定されないが、透析等が挙げられる。本発明の製造方法では、核酸アナログ抗癌剤をリポソームに内包させる工程および浸透圧調整工程を同時に行うことが、生産効率の観点から好ましい。
【0075】
薬物ローディング工程後に得られた液は、外水相と内水相の溶質が均一化されており、そのときの浸透圧を、完成するリポソームの内水相の浸透圧と定義できる。ただし、その後の外水相の透析による置換・浸透圧調整工程において、加熱操作は脂質の相転移以下に抑える等により内水相の溶質が充分に保持されている場合に限る。また外水相の浸透圧は、最終的な透析工程に用いる透析液の浸透圧で定義できる。ただし、透析液にて充分に置換できた場合に限る。また、リポソーム組成物の完成液について、遠心分離または限外ろ過を利用し、外水相の溶質の組成濃度と内水相の溶質の組成濃度を定量し、その組成液の浸透圧を計測することでも、内水相および外水相の浸透圧を得ることができる。
リポソームの内水相の浸透圧をリポソームの外水相の浸透圧に対して2倍〜8倍に調整することが好ましく、2.5倍〜6倍に調整することがより好ましく、3倍〜5倍に調整することがさらに好ましい。
【0076】
浸透圧の計測は第十六改正日本薬局方記載の浸透圧測定法に従えばよい。具体的には水の凝固点(氷点)降下度測定により、オスモル濃度を求めることができる。また、水の凝固点降下度は溶質モル濃度で定義されるものであり、溶質モル濃度からもオスモル濃度を求めることができる。
【0077】
外水相の浸透圧は、投与に際して重要な影響を生体に及ぼす。体液の浸透圧から大きく離れる場合は、各組織での水分の移動を原因とした溶血や痛みが発生する。したがって、外水相の浸透圧は、好ましくは200mOsmol/L〜400mOsmol/Lであり、より好ましくは250mOsmol/L〜350mOsmol/Lであり、さらに好ましくは体液と等張である。
【0078】
(無菌ろ過)
リポソーム組成物は、無菌ろ過を行うことが好ましい。ろ過の方法としては、中空糸膜、逆浸透膜またはメンブレンフィルター等を用いて、リポソームを含む水溶液から不要な物を除去することができる。本発明では、滅菌できる孔径をもつフィルター(好ましくは0.2μmのろ過滅菌フィルター)によってろ過することが好ましい。
【0079】
リポソームの変形による平均粒子径への影響を防ぐために、無菌ろ過工程および後述する無菌充填工程は、リポソームを構成する脂質の相転移温度以下で行うことが好ましい。例えば、脂質の相転移温度が50℃付近である場合、0℃〜40℃程度が好ましく、より具体的には5℃〜30℃程度で製造されることが好ましい。
【0080】
(無菌充填)
無菌ろ過の後に得られたリポソーム組成物は、医療用途として無菌充填することが好ましい。無菌充填の方法は公知のものが適用できる。容器に無菌的に充填することで医療用として好適なリポソーム組成物が調製できる。
【0081】
(腫瘍治療剤)
本発明の腫瘍治療剤は、通常、製剤化に使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤および吸収促進剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0082】
本発明の腫瘍治療剤は、リポソームにゲムシタビンまたはその塩を内包したリポソーム組成物およびタキサン系抗腫瘍剤を含んだ1剤型の製剤であっても、リポソームにゲムシタビンまたはその塩を内包したリポソーム組成物とタキサン系抗腫瘍剤との2剤型の製剤であってもよい。好ましくは、リポソームにゲムシタビンまたはその塩を内包したリポソーム組成物とタキサン系抗腫瘍剤とを別個の製剤とする2剤型の製剤である。
リポソームにゲムシタビンまたはその塩を内包したリポソーム組成物とタキサン系抗腫瘍剤とが別個の製剤からなる腫瘍治療剤を用いる場合には、各製剤は、同時に、別々に、連続して、あるいは間隔をあけて対象に投与することができる。
【0083】
本発明の腫瘍治療剤の投与経路としては、例えば、静脈内、動脈内、直腸内、腹腔内、筋肉内、腫瘍内または膀胱内注射する方法、経口投与、経皮投与および坐剤などの方法が挙げられる。
リポソーム組成物の投与経路としては、非経口投与が好ましい。例えば、点滴等の静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、眼内注射および髄腔内注射を挙げることができる。投与方法としては、シリンジまたは点滴による投与が挙げられる。
タキサン系抗腫瘍剤の投与経路としては、経口投与が好ましい。
本発明の腫瘍治療剤においては、例えば、リポソームにゲムシタビンまたはその塩を内包したリポソーム組成物を非経口投与し、タキサン系抗腫瘍剤を経口投与することができる。
【0084】
リポソーム組成物に含まれるゲムシタビンまたはその塩の投与量および投与回数は、1日あたり、1〜4mg/kgを1回から数回に分割して投与することができる。例えば、注射剤では、ヒト(患者;体重60kgとして)においては、1日あたり60mg〜240mg、好ましくは120mg〜240mg、より好ましくは180mg〜240mgを静脈注射により投与するのが好ましい。しかし、これらの投与量および投与回数に制限されるものではない。
タキサン系抗腫瘍剤の投与量および投与回数は、例えば、成人に対しては、1日あたり、0.01mg/kg〜1000mg/kgを1回から数回に分割して投与することができる。
【0085】
本発明の腫瘍治療剤の剤形の例としては、錠剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、液剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤および注射剤等が挙げられる。
【0086】
本発明の腫瘍治療剤を有効に使用できる腫瘍は、癌腫および肉腫であれば特に限定されないが、例えば、乳癌、子宮体癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、胃(胃腺)癌、非小細胞肺癌、膵臓癌および頭頚部扁平上皮癌が挙げられ、膵臓癌が好ましい。
【0087】
(キット)
本発明のキットは、(a)ゲムシタビンまたはその塩を内包したリポソーム組成物および(b)タキサン系抗腫瘍剤の組み合わせからなるキットである。
本発明のキットでは、(a)ゲムシタビンまたはその塩を内包したリポソーム組成物および(b)タキサン系抗腫瘍剤は各々公知の各種の製剤形態とすることができ、その製剤形態に応じて、通常用いられる各種の容器に収容される。
本発明のキットでは、(a)ゲムシタビンまたはその塩を内包したリポソーム組成物および(b)タキサン系抗腫瘍剤は各々別の容器に収容されてもよいし、混合されて同じ容器に収容されてもよい。(a)ゲムシタビンまたはその塩を内包したリポソーム組成物および(b)タキサン系抗腫瘍剤が各々別の容器に収容されていることが好ましい。
【0088】
(抗腫瘍効果増強剤)
本発明の抗腫瘍効果増強剤は、通常、製剤化に使用される賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤および吸収促進剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0089】
本発明の抗腫瘍効果増強剤は、タキサン系抗腫瘍剤と同時に、別々に、連続して、あるいは間隔をあけて対象に投与することができる。
【0090】
本発明の抗腫瘍効果増強剤の投与経路としては、非経口投与が好ましい。例えば、点滴等の静脈内注射(静注)、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、眼内注射および髄腔内注射を挙げることができる。投与方法としては、シリンジまたは点滴による投与が挙げられる。
【0091】
本発明の抗腫瘍効果増強剤に含まれるゲムシタビンまたはその塩の投与量および投与回数は、1日あたり、1mg/kg〜4mg/kgを1回から数回に分割して投与することができる。例えば、注射剤では、ヒト(患者;体重60kgとして)においては、1日あたり60〜240mg、好ましくは120mg〜240mg、より好ましくは180mg〜240mgを静脈注射により投与するのが好ましい。しかし、本発明の抗腫瘍効果増強剤はこれらの投与量および投与回数に制限されるものではない。
【0092】
本発明の抗腫瘍効果増強剤を有効に使用できる腫瘍は、タキサン系抗腫瘍剤が用いられている癌腫および肉腫であれば特に限定されないが、例えば、乳癌、子宮体癌、卵巣癌、前立腺癌、肺癌、胃(胃腺)癌、非小細胞肺癌、膵臓癌、頭頚部扁平上皮癌、食道癌、膀胱癌、メラノーマ、大腸癌、腎細胞癌、非ホジキンリンパ腫および尿路上皮癌等が挙げられ、膵臓癌が好ましい。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例にて詳細に説明する。しかし、本発明は実施例に限定されるものではない。
平均粒子径は、試料を1×PBS(ニッポンジーン社製)で1000倍質量に希釈し、ナノトラックUPA−UT(日機装社製)を用い、動的光散乱法で体積平均粒子径を測定した。
腫瘍体積は、腫瘍長径(a)および短径(b)をノギスで測定し、以下の式で算出した。
式:(a×b
2)×0.5(式中、“a”は長径であり、“b”は短径である。)
【0094】
(参考例1)
a)油相の調製
水素添加大豆ホスファチジルコリン、コレステロールおよびN−(カルボニル−メトキシポリエチレングリコール2000)−1、2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンナトリウム塩(以下、DSPE−PEGともいう)を76/19/5のモル比となるようにそれぞれ16.6g、2.0g、4.3g取り、次いで有機溶媒(エタノール/酢酸エチル=3/1)405mlを加えて70℃に加温して脂質を溶解し油相とした。
【0095】
b)水相の調製
4mMリン酸緩衝液(pH7.78)を調製し水相とした。
【0096】
c)薬物未内包リポソームの調製
水相を70℃に加温し、水相/油相=8/3の容積比となるように油相を添加した後、回転かき混ぜ式乳化機にて、周速20m/s、13000rpmにて30分間混合した。その後、相転位温度以上に加温しながら窒素を送気することで有機溶剤と水とを蒸発させ、乳化前の容積に対して約1/10の体積になるまで濃縮し、薬物未内包リポソームを得た。このときの平均粒子径は68.0nmであった。
【0097】
d)薬物未内包リポソームのバッチ混合
上記c)で調製した薬物未内包リポソーム2バッチを混合した。
【0098】
e)薬物内包リポソームの調製
薬物として、ゲムシタビン塩酸塩を用いた。ゲムシタビン塩酸塩はTEVA社から購入した。塩化ナトリウム81.63g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物29.01g、リン酸二水素ナトリウム二水和物2.29gを注射用水948gで溶解し、PBSとした。二つの容器にそれぞれゲムシタビン塩酸塩12.98g、PBS54.01g、日局注射用水75.74g、8M水酸化ナトリウム2.71mLを混合し、薬物溶液とした。それぞれの薬物溶液に、薬物未封入リポソーム141.4mL、8M水酸化ナトリウム2.71mLを加え、混合した。この液の浸透圧は1039mOsm/Lであり、これが完成するリポソーム組成物の内水相の浸透圧となる。次にこの液を70℃で10分間加熱した後40℃まで冷却し、1016mMスクロース/37mMヒスチジン溶液で希釈した。希釈後、一つにまとめ、薬物ローディング液とした。透析によるリポソーム組成物の完成透析液として275mMスクロース/10mMヒスチジン水溶液を調製した。この液の溶質モル濃度より求めた浸透圧は285mOsm/Lであった。この透析液を用いて室温にて透析を行い、薬物ローディング液の外水相に存在する未封入のゲムシタビン塩酸塩と各溶質を除去し、透析液で外水相を置換した。以上の工程により、ゲムシタビン塩酸塩濃度0.81mg/mL、平均粒子径74.9nm、内水相浸透圧1039mOsm/L、外水相浸透圧285mOsm/L、内水相の外水相に対する浸透圧が3.6倍のゲムシタビン内包リポソーム組成物を得た。リポソームを構成する脂質の合計量に対するコレステロール類の含有率は19.3mol%であった。
なお、浸透圧は、溶質モル濃度から算出した。
【0099】
(参考例2)
血漿中の放出速度の測定
リポソーム組成物50μLをマウス血漿で20倍希釈(体積)し、37℃で24時間インキュベートし、24時間の時点で100μL採取した。続いて、限外ろ過フィルター(アミコンウルトラ−0.5 10kDa、ミリポア社製)を用い7400×g、30分、4℃の条件で遠心ろ過を行った。回収したろ液に含まれる薬物量をHPLCにて定量し、放出速度を次の式により算出した。
式:放出速度(%/24hr)=(インキュベーション24時間後のろ液中の薬物量)×20÷リポソーム組成物の全相に含まれる薬量×100
結果は24%/24hrであった。
【0100】
(実施例1)
Capan−1皮下移植担がんモデルマウスでの薬効試験
被験物質として、ゲムシタビン(以下、Gemともいう)、アブラキサン(以下、Abxともいう)およびゲムシタビン内包リポソーム組成物(以下、組成物Aともいう)を用いた。
Gemは、ゲムシタビン塩酸塩(TEVA社製)を生理食塩水に溶解させたものを用いた。Abxは、アブラキサン(Celgene社製)を生理食塩水に溶解させたものを用いた。ゲムシタビン内包リポソーム組成物は、参考例1で作製したものを用いた。
ヒト膵臓癌細胞株であるCapan−1細胞1×10
7個を雌性ヌードマウスの脇腹部皮下に移植し皮下腫瘍を形成させた。腫瘍体積を指標としてAbxおよび組成物Aの併用投与における皮下腫瘍の抑制効果を評価した。被験物質として、群1はスクロース溶液、群2はGem、群3は組成物A、群4および群5はAbxおよびGem、群6および群7はAbxおよび組成物Aを用いた。群1〜5が比較例、群6および群7が実施例である。被験物質はいずれも移植後17日目から週1回、計3週間、尾静脈投与した。
なお、各薬剤の投与量は、体重減少率が20%を超えない量をMTD(最大耐用量)回復が認められないような重篤な最低体重に達しないと思われる用量として設定した。
群構成および投与量を表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
腫瘍体積の推移を
図1に示す。
【0103】
移植後38日目の腫瘍体積平均値、移植後38日目の腫瘍体積標準偏差、投薬開始時からの腫瘍退縮率および腫瘍体積平均値2000mm
3までの到達日数を表2に示す。
統計学的解析として、Tukeyの多重比較検定(Tukey's multiple comparisons test)を実施し、群間でP値5%未満を統計学的有意差ありと判定した。データ処理にはGraphpad Prism version 5.03を用いた。
表2において、aは群1との比較によりP<0.001であったものを、bは群2との比較によりP<0.001であったものを、cは群4との比較によりP<0.05であったものを示し、N.R.は退縮なしを示す。
【0104】
【表2】
【0105】
群6または群7では、群4または群5に比べて移植後38日目で腫瘍体積が小さく、群6では群4に対して統計学的に有意な差を示した(P<0.05)。また、投薬開始時からの腫瘍退縮率については、群4での腫瘍退縮は見られず、群5での腫瘍退縮率は31%であったのに対し、群6での腫瘍退縮率は47%、群7での腫瘍退縮率は86%であり、群6および群7は優れた腫瘍退縮効果を示した。さらに、腫瘍体積平均2000mm
3までの到達日数は、群4では移植後69日目、群5では移植後80日目であるのに対し、群6および群7では>87日であり、遅延していた。
以上の結果から、組成物AはAbxとの併用においてヌードマウスの皮下に移植したCapan−1腫瘍細胞の増殖抑制効果を有し、その増殖抑制効果はGemとAbxとの併用よりも上回ることが示された。