(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
先ず、センター材として用いられるチョコレート(以下「センターチョコレート」という場合がある)について説明する。センターチョコレートに用いられるチョコレートは、規約等によって限定されるものではなく、カカオマス、ココアパウダー、ココアケーキおよびココアバターからなる群より選択される1以上の原料(以下、「カカオマス等」という)を含む油脂加工食品である。例えば純チョコレート生地、純ミルクチョコレート生地、チョコレート生地、ミルクチョコレート生地、準チョコレート生地、準ミルクチョコレート生地(ホワイトチョコレートは準ミルクチョコレート生地に該当)を採用することができる。
【0011】
チョコレートは、後述する澱粉を含有する中間層よりも食感が良好であるため、センター材に用いることで良好な食感を実現することができる。
【0012】
なお、チョコレートには、長期保存すると油脂分(ココアバター等)が外層に移行して、油脂分が低下するため食感が低下するという課題があるが、本発明では、中間層を設けることで、油脂分の減少を抑制できるため、食感低下も抑制することができる。
【0013】
センターチョコレートの含水率は、4%以下であり、3%以下であることが好ましい。含水率が高い場合にはチョコレート中の糖質が溶解し、粒子表面で粘着が生じてしまう。この結果、チョコレートが非常に高粘度となり、良好な食感を実現することができない。
【0014】
センターチョコレートには、カカオマス等の他に、糖質、油脂および水が含まれており、粉乳、乳化剤、香料等を必要に応じて加えても良い。
【0015】
センターチョコレートに用いられる糖質としては、フルクトース、グルコース等の単糖、スクロース、トレハロース、マルトース等の二糖、オリゴ糖等の多糖、ソルビトール、還元水飴等の糖アルコールなどを適宜選択して用いることができる。
【0016】
センターチョコレートの油脂としては、ココアバターの他、テンパリング型ハードバターやノーテンパリング型ハードバター等のココアバター代替油脂を用いることができる。また、油脂の含有量は、30%以上、48%以下が好ましく、35%以上、43%以下がより好ましい。この範囲であれば、油脂が食感向上に寄与し、好適な食感を実現することができる。
【0017】
粉乳としては、全脂粉乳、脱脂粉乳、調製粉乳等を用いることができる。
【0018】
乳化剤としては、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル等を用いることができる。
【0019】
次に中間層について説明する。中間層は、糊化澱粉を含むためセンターチョコレートと比べると食感が劣るが、含水率が高く、緻密であるため、長期保存した際に、センターチョコレートの油脂分が中間層に移行することを抑制できる。また、一部油脂が中間層に移行しても、その分、中間層に含まれる油脂がセンターチョコレートに移行する(油脂の置換)ため、センターチョコレートの油脂分低下を抑制できる。したがって、中間層は、センターチョコレートの食感低下を抑制するのに有効である。
【0020】
中間層は、油脂を含むことが必要である。前記の通り中間層の油脂は、センターチョコレートの油脂と置換して、センターチョコレートの食感低下を抑制するのに有効である。油脂としては、ココアバターの他、テンパリング型ハードバターやノーテンパリング型ハードバター等のココアバター代替油脂を用いることができる。
【0021】
中間層の油脂含有量について説明する。中間層の油脂含有量は、20%以上、48%以下が好ましく、25%以上、43%以下がより好ましい。中間層の油脂含有量が48%を超える場合には、中間層からセンターチョコレートへの油脂移行が起こり、センターチョコレートの好ましい油脂含有量を維持できなくなってしまう。
【0022】
また、中間層の油脂含有量が20%を下回る場合には、センターチョコレートから中間層への油脂移行が起こり、センターチョコレートの食感低下が顕著になる。また、中間層自体の食感も低下してしまう。
【0023】
次に、中間層の含水率について説明する。中間層の含水率は、6%以上、18%以下であることが必要である。含水率が低すぎる場合には、中間層にパサつきが生じ、食感も著しく悪化する。このため、中間層の含水率は6%以上であることが必要であり、8%以上であることがより好ましい。
【0024】
一方、含水率が高すぎる場合には、中間層の水がセンターチョコレートに移行しやすくなる。この状態で長期保存すると、水が中間層からセンターチョコレートへ移行する量が多く、センターチョコレートの食感が悪化してしまう。したがって、中間層の含水率は18%以下であることが必要であり、15%以下であることがより好ましい。
【0025】
中間層は、糊化澱粉を含むことが必要である。上記の通り、中間層には、センターチョコレートの食感低下を抑制するために油脂、水および後述の糖質(以下「油脂等」という)が含まれている。ところが、油脂等は保形性が低いため、センターチョコレートを長期間包んで保持することができない。したがって、中間層には保形性を高める成分として、糊化澱粉を配合する必要がある。
【0026】
ここで、保形性を高める成分としては、不溶性食物繊維や糊化されていない澱粉なども考えられる。しかし、不溶性食物繊維等を用いる場合には、不溶性食物繊維等の配合量が多くなり、大きな粒子のまま残ってしまうので、中間層がザラついた食感となってしまう。また、糊化澱粉と比較すると、保水性が低く、長期保存に不向きである。
【0027】
一方、糊化澱粉は、糊化していない澱粉と比較して粘度が高いため、油脂等を添加しても中間層として充分な保形性を実現できる。さらに、糊化澱粉自体が、高い保水性を有している。したがって、長期保存の観点でも、糊化澱粉を含むことが好ましい。
【0028】
糊化澱粉の糊化度は、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましい。糊化度が30%以上であれば、充分な保形性を実現でき、水の吸収力も高く、且つザラついた食感も抑制できる。糊化度は、BAP法(βアミラーゼ・プルラナーゼ法)によるものである。測定に際しては、貝沼圭二らの方法(澱粉科学 第28巻 第4号 p235〜240、1981)を参考にした。
【0029】
澱粉としては、小麦粉澱粉、コーンスターチ(トウモロコシ澱粉)、タピオカ澱粉、米澱粉、ジャガイモ澱粉等の澱粉を特に限定なく利用できる。また、小麦粉、米等の澱粉の原料をそのまま利用することもできる。なお、糊化澱粉の風味を考慮すると、小麦粉澱粉又は小麦粉が好ましい。
【0030】
中間層は、糖質を含むことが必要である。中間層の含水率は8%以上、18%以下であり、センターチョコレートと比較して含水率が高い。このため、長期保存するためには、糖質を配合して水分活性を抑える必要がある。
【0031】
糖質は、単糖または糖アルコールを含むことが必要である。単糖や糖アルコールは、水分活性を抑える機能に優れるため、中間層の水分活性を抑制することができる。水は、水分活性が高い部位から、水分活性が低い部位に移行する傾向があるため、中間層の水分活性を下げることで、センターチョコレートに水が移行することを抑制できる。
【0032】
また、中間層全量中、単糖および/または糖アルコールを10%以上含有することが好ましい。この範囲であれば、中間層の水分活性が充分に下がり、焼成菓子の長期保存を実現することができる。
【0033】
中間層には、その他糖質(二糖、オリゴ糖等)、油脂、粉乳、乳化剤、香料等を別途加えても良い。
【0034】
本発明では、中間層の周りを覆う外層が必要である。外層は、澱粉と、糖質と、油脂とを有するビスケット生地である。外層に用いる糖質としては、フルクトース、グルコース等の単糖、スクロース、トレハロース、マルトース等の二糖、オリゴ糖等の多糖、ソルビトール、還元水飴等の糖アルコールなどを適宜選択して用いることができる。
【0035】
焼成菓子を長期間保存するには、長期間静置しても形状が変化しにくいこと必要である。この点、中間層は、緻密な層を形成するために比較的高い水分を含有しており、中間層としての保形性(チョコレートの包餡状態を維持する水準の保形性)は有している。しかし、喫食時や28℃以上の温度条件で、包装容器や指に付着しない水準の保形性は持ち合わせていない。このため、焼き固められ保形性を高めた外層が必要である。
【実施例】
【0036】
(チョコレートの製造)
ココアパウダー(大東カカオ社製「ココアパウダーKV」)15部、スクロース39.9部、レシチン0.1部、植物油脂35部、全粉乳10部を混合し、ロール掛けとコンチングを行い、チョコレート1を製造した。含水率は1%だった。
【0037】
ココアパウダー(大東カカオ社製「ココアパウダーKV」)15部、スクロース39.9部、レシチン0.1部、植物油脂35部、全粉乳10部、水2部を混合し、ロール掛けとコンチングを行い、チョコレート2を製造した。含水率は3%だった。
【0038】
ココアパウダー(大東カカオ社製「ココアパウダーKV」)15部、スクロース39.9部、レシチン0.1部、植物油脂35部、全粉乳10部、水6部を混合し、ロール掛けとコンチングを行い、チョコレート3を製造した。含水率は7%だった。
【0039】
(製造例1)
還元水飴20部(糖質70%、含水率30%)、液全卵15部、マーガリン(不二製油社製「メサージュ500」)10部、薄力粉(日東富士製粉「ホワイトフェザー」)5部および水5部加えて混合した。次に、混合物を90℃で10分間煮詰め、40℃に冷却した後、チョコレート(不二製油「スイートチョコE」)50部加えて、中間層生地1(製造例1)を製造した。中間層生地1の糊化度は58%、含水率は14%だった。
【0040】
(製造例2)
還元水飴20部、液全卵15部、マーガリン10部、薄力粉5部および水5部を加えて混合した。次いで、混合物に、チョコレート50部加えて、中間層生地2(製造例2)を製造した。中間層生地2の糊化度は3%、含水率は24%だった。
【0041】
(製造例3)
中間層生地1と、中間層生地2とを、2:8(重量比)の割合で混合し、中間層生地3(製造例3)を製造した。中間層生地3の糊化度は12%、含水率は22%だった。
【0042】
(製造例4)
中間層生地1と、中間層生地2とを、5;5(重量比)の割合で混合し、中間層生地4(製造例4)を製造した。中間層生地4の糊化度は30%、含水率は19%だった。
【0043】
(製造例5)
ソルビトール14部、液全卵15部、マーガリン10部、薄力粉5部および水11部を加えて混合した。次いで、混合物を90℃で10分間煮詰め、40℃に冷却した後、チョコレート50部加えて、中間層生地5(製造例5)を製造した。中間層生地5の糊化度は58%、含水率は14%だった。
【0044】
(製造例6)
グラニュー糖(主成分は「スクロース(二糖)」)14部、液全卵15部、マーガリン10部、薄力粉5部および水11部を加えて混合した。次いで、混合物を90℃で10分間煮詰め、40℃に冷却した後、チョコレート50部加えて、中間層生地6(製造例6)を製造した。中間層生地6の糊化度は59%、含水率は14%だった。
【0045】
【表1】
【0046】
(外層生地の製造)
スクロース25部、マーガリン(不二製油社製「メサージュ500」)22部、チョコレート(不二製油「スイートチョコE」)5部、液全卵2部、食塩0.5部、膨張剤0.5部をキッチンエイドミキサーで6分間撹拌し、ここに薄力粉(日東富士製粉「ホワイトフェザー」)45部を加えて2分撹拌することで外層生地を製造した。
【0047】
(焼成菓子の製造)
(実施例1)
チョコレート1(4g)を、中間層生地1(10g)で包餡し、さらに外層生地(6g)で包餡することで略球状の包餡物を製造した。この包餡物を160℃の電気オーブンで10分間焼成して焼成菓子1(実施例1)を製造した。焼成直後(約2時間)に含水率を測定した結果、焼成菓子全体の含水率は8%、チョコレート、中間層および外層の含水率は、それぞれ1%、11 %、9%であり、中間層の糊化度(焼成後)は60%だった。
【0048】
(実施例2〜5、比較例2、3)
チョコレートと中間層生地を表2のとおり変更して、焼成菓子2〜8(実施例2〜5、比較例1〜3)を製造した。焼成時間については、焼成菓子全体の含水率が8%となるように焼成菓子ごとに時間を調整した。焼成直後の含水率、糊化度は表2のとおりである。
【0049】
(実施例6)
実施例1で用いた略球状の包餡物を製造した。この包餡物を、焼成菓子全体の含水率が11%となるように160℃の電気オーブンで焼成して焼成菓子6(実施例6)を製造した。チョコレート、中間層および含水率は、それぞれ1%、16%、11%であり、糊化度は59%だった。
【0050】
なお、比較例1については、中間層生地2の保形性が低く、包餡することができなかったため、その後の実験を中止した。
【0051】
以下の基準に従って、熟練したパネラー10名が、焼成菓子の評価を行った。評価結果は表2に記載した。
【0052】
【表2】
【0053】
(食感評価:センターチョコレート)
焼成菓子を密閉容器に収納して8週間静置した後、センターチョコレートのみを喫食して、食感を評価した。評価に際しては、実施例1を標準として、以下の基準で評価を行った。
〇:実施例1と同等以上の食感と評価したパネラーが8名以上である。
〇△:実施例1と同等以上の食感と評価したパネラーが4名以上、7名以下である。
△:実施例1と同等以上の食感と評価したパネラーが1名以上、3名以下である。
×:実施例1と同等以上の食感と評価したパネラーが居ない。
【0054】
(食感評価:菓子全体)
焼成菓子を密閉容器に収納して8週間静置した後、焼成菓子をそのまま喫食して、食感を評価した。評価に際しては、実施例1を標準として、以下の基準で評価を行った。
〇:実施例1と同等以上の食感と評価したパネラーが8名以上である。
〇△:実施例1と同等以上の食感と評価したパネラーが4名以上、7名以下である。
△:実施例1と同等以上の食感と評価したパネラーが1名以上、3名以下である。
×:実施例1と同等以上の食感と評価したパネラーが居ない。
【0055】
焼成直後の中間層の含水率が低いほど食感が良好な傾向だった(良:実施例1>実施例6:悪)。中間層の含水率を低くすることで、センターチョコレートへの水分移行を抑制できた。
【0056】
水分活性を下げやすい糖アルコール(還元水飴、ソルビトール)を用いることで、食感の低下を抑制することができた。一方、水分活性を下げにくいグラニュー糖を用いた場合には食感低下した(良:実施例1=実施例4>比較例2:悪)。
【0057】
中間層に含まれる澱粉の糊化度が高い場合には、菓子全体の食感が良好だった。中間層の澱粉が充分に糊化されることで、食感が滑らかになり、菓子全体の食感が向上した(良:実施例1>実施例3>実施例2:悪)
【0058】
チョコレートの含水率が高い場合には、焼成直後から食感が悪く、静置後に食感が良化することもなかった。(良:実施例1>実施例5>比較例3:悪)