(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、エネルギー密度が高いことから、携帯情報端末などの小型電源として広く普及している。近年、電気自動車やハイブリッド型電気自動車、あるいは電力貯蔵用の大型電源としても用いられている。
【0003】
大型電源として用いる場合、多数のリチウムイオン二次電池を、場合により多直列で使用する。よって、よりエネルギー密度の高い電池として、あるいは電池の直列数を低減する目的で、従来のリチウムイオン二次電池より高電圧のリチウムイオン二次電池が求められている。そのためには金属リチウム基準で4.5V以上の高電位を安定して発現する正極活物質が必要である。
【0004】
このような正極活物質として、一般式LiMn
2−xM
xO
4(MはNi、Co、Cr、Fe、Cuなど)で表記されるMnの一部を特定の遷移金属で置換したスピネル型複合酸化物が知られている。
【0005】
特に、MがNiであるスピネル型複合酸化物(以下、「5Vスピネル」と称する。)は、Niの価数変化により4.7V前後の高電位を安定して発現する。高電位の容量は、上記一般式における置換量xにおおよそ比例し、理論組成のLiMn
1.5Ni
0.5O
4で、理論的にはその放電電位が全て4.7Vとなることが知られている。
【0006】
特許文献1には、充放電サイクル特性、特に高温雰囲気におけるサイクル特性の向上の観点から、フッ素を構成元素として含むマンガン系のスピネル型複合酸化物である正極活物質が開示されている。
【0007】
特許文献2には、立方構造を有するスピネルLi
1+a[Ni
0.5Mn
1.5−xM
x]O
4−bF
bで表される正極活物質(Mは、Co、Ni、Cr、Mg、Al、Zn、Mo及びWからなる群から選択される少なくとも一つの金属)並びにこの正極活物質の表面にフッ素化合物を被覆したものが開示されている。
【0008】
特許文献3には、高容量で、Liに対して4.5V以上の高電圧を有する正極活物質として、Li(Ni
xMn
2−x)O
4(0.4≦x≦0.6)において、Mnの一部をMnより軽い元素でかつ1価から3価を取りうる金属元素で置換し、さらにOをFまたはClで置換した構成を有するものが開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明者は、5Vスピネルに特定の元素を所定の組成範囲で反応もしくは置換をすることにより、高温寿命に関して更に高い効果が得られることを見出した。具体的には、5VスピネルのMn又はNiをTi、Ge、Mg、Co、Fe、Cu又はAlに置換することが有効である。
【0020】
Niの組成xは、5Vスピネルの全容量に対する4.7V前後の高電位容量の比率に影響する。xの範囲は、0.4≦x<0.5である。発現する高電位容量の値に限定は無いが、全容量の8割は高電位容量であることが好ましく、そのためには、xは0.4以上が望ましい。一方、xが増えると、調製の際に酸化ニッケルなどの異相が生成するおそれが高まり、異相のない理論組成のLiMn
1.5Ni
0.5O
4の調製は、技術的にもプロセスの点でも困難である。従って、異相生成の抑制の観点から、xは0.5未満であることが望ましい。
【0021】
フッ素は、金属元素の溶出及び劣化を抑制する作用を有する。その機構は、フッ素が酸素に比べ電気陰性度が高く、それにより遷移金属とアニオンとの結合力が強くなり、溶出が抑制されると推定される。その組成は0<δ≦0.2が望ましい。0.2を超えると、高電位容量の減少や不純物生成のおそれがある。
【0022】
Mは、Ti、Ge、Mg、Co、Fe、Cu及びAlから選ばれた1種以上であり、5VスピネルのMnあるいはNiと置換するものである。その作用及び機構は、元素により若干異なるが、スピネル構造を強固にし、溶出及び劣化を抑制する作用、あるいは活物質の導電率を高める性能面での作用が考えられる。
【0023】
適切な置換量zのMと、適切な量δのフッ素とが共存することで、金属元素の溶出及び劣化の抑制に対し著しく高い効果が得られる。適切な置換量zはMの種類により異なるが、置換量が多すぎると、異相の形成、高電位容量の低下、あるいは劣化抑制に対する効果の低下のおそれがある。
【0024】
適切な置換量zは、Tiが主たる元素であれば0<z≦0.3である。Geが主たる元素であれば0<z≦0.2である。CoもしくはFeが主たる元素であれば0<z≦0.15である。Mg又はCuが主たる元素であれば0<z≦0.1である。Alが主たる元素であれば0<z≦0.05である。
【0025】
Li組成におけるaは、理論組成からの過剰量を示すもので、過剰なLiの多くはMnあるいはNiと置換すると考えられる。
【0026】
本発明の正極活物質は、立方晶スピネル構造であることが好ましいことから、Ni、Mn、元素MおよびLi組成におけるaの組成比率の和(a+x+y+z)と酸素との比率は3:4となる。本発明の正極活物質に含まれるフッ素が、上記のスピネル中の酸素原子と置換しているか否かは、特定に高度な分析技術を要し、また、その作用及び効果に対する影響は明らかではない。フッ素がスピネル中の酸素原子と置換しているとすると、その組成式では、フッ素の組成δに対し、酸素の組成は4−δとなる。
【0027】
また、本発明の組成範囲にある5Vスピネル粒子の表面に、特定の被覆やコーティングを設けることは、金属元素の溶出及び劣化の抑制を更に高める効果がある。これは、充放電による正極活物質の体積変化により被覆層が部分的に劣化しても、活物質粒子の劣化抑制効果が高いためで、被覆により活物質と電解液不純物の直接の接触を防ぐ物理的な補完的効果が発現すると考えられる。被覆層としては、例えば、金属酸化物や金属フッ化物などがあげられるが、特にアルミニウム酸化物が望ましい。これは酸化物としての安定性が高いとともに、電解液中のフッ素イオンと反応したアルミニウムフッ化物の安定性も高いことによると考えられる。
【0028】
図3は、正極活物質の表面に被覆層を設けた本発明の正極材料を示す模式断面図である。
【0029】
本図においては、正極材料30(被覆正極活物質)は、核材31である正極活物質の表面が金属酸化物層32で覆われている。金属酸化物層32は、酸化アルミニウムで形成されていることが望ましい。
【0030】
本図においては、金属酸化物層32が核材31の全体を覆う構成であるが、本発明は、これに限定されるものではなく、核材31の表面の一部に金属酸化物層32が付着した構成であってもよい。言い換えると、金属酸化物層32がまだらに付着した構成であってもよい。なお、核材31である正極活物質については後述する。
【0031】
本発明の正極活物質は、例えば、以下のようにして得ることができる。
【0032】
一般的な無機化合物の合成と同様の方法で調製できる。所望する元素の比率となるよう原料を秤量し、均質に混合し、熱処理することで得られる。解砕あるいは造粒の工程を入れてもよい。
【0033】
原料となる化合物は、それぞれの元素の好適な酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、炭酸塩などを用いることができる。また、2つ以上の元素を含む化合物を原料として用いることもできる。例えば、MnやNiなどの遷移金属元素が溶解した溶液を弱アルカリ性として、複合水酸化物として沈殿させて得ることもできる。あるいは、原料となる金属元素を含む溶液を噴霧乾燥して得ることもできる。
【0034】
本発明のような、多くの金属元素を有する正極活物質を固相法で調製する際は、リチウムを除くカチオンを予め複合化合物原料とすることにより、異相の形成が抑制されるため、好ましい。
【0035】
フッ素を反応させる手段に限定は無い。原料にフッ化リチウムなどフッ化物原料を用いることもできる。あるいは、フッ素を除くスピネル複合酸化物とした後、フッ化アンモニウムや酸性フッ化アンモニウムとの熱処理で調製できる。
【0036】
また、原料の混合と熱処理は、必要に応じて繰り返す工程としてもよい。その際は、混合条件、熱処理条件は適宜に選択できる。また、混合及び熱処理を繰り返す際に原料を適宜追加し、最終の熱処理において目的とする組成比になるようにしてもよい。例えば、Mn及びNiの原料を混合し、熱処理して酸化物とし、これにリチウム原料を加えてより低い温度の熱処理をし、所望の組成の複合酸化物を得ることもできる。
【0037】
また、被覆層を設ける手段は限定されない。液相法であれば、原料を溶解した水溶液中に5Vスピネル粒子を投入した後、pHを調整して複合酸化物を析出してもよく、あるいは噴霧乾燥してもよい。あるいは、金属アルコキシドを溶解した有機溶液中に5Vスピネル粒子を投入し、撹拌し、溶媒を蒸発除去することにより得ることもできる。一方、気相法であれば、5Vスピネル粒子を投入した流動床の反応容器に気体原料を導入し、反応・析出させてもよい。いずれの手段でも、反応が完結していない表面酸化物を設けた状態から、酸化処理、あるいは所定の雰囲気化での熱処理をしてもよい。
【0038】
本発明の正極活物質の形態は、正極活物質もしくはそれを用いた正極に対し、適切な前処理を施し機器分析で知ることができる。
【0039】
調製した正極活物質の異相あるいは不純物相の有無は、粉末X線回折(XRD)などで知ることができる。
【0040】
電池内の正極活物質については、電池を不活性雰囲気内で解体して正極を取り出し、適切な前処理を施し同様の機器分析により知ることができる。電池から取り出した正極を電解液と同成分の有機溶媒やアセトンなどで洗浄することで、分析用の正極が得られる。さらに、正極から活物質を含む合剤部をサンプリングし、バインダーや正極活物質表面の電解質由来成分をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの有機溶媒で除去し、固体粉末分を取り出す。導電剤と正極活物質とは、走査型電子顕微鏡(SEM)による形態観察、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)による組成分析などの手段により、容易に区別できる。
【0041】
正極活物質の組成や表面部の組成は、ICP発光分光分析(ICP−AES)、X線光電子分光(XPS)オージェ電子分光法(AES)、蛍光X線(XRF)分析、二次イオン質量分析(SIMS)、グロー放電質量分析(GD−MS)などの手段により知ることもできる。
【0042】
次に、本発明のリチウムイオン二次電池の構成例を記載する。
【0043】
本発明の正極は、本発明の正極活物質を用い、例えば、以下の手順で作製する。
【0044】
正極活物質、カーボンブラック(CB)などの導電剤などの粒子を混合し、これに結着剤としてのバインダーを溶解した溶液を加え、混合し、撹拌し、正極合剤スラリーを調製する。スラリーをアルミニウム箔などの正極集電体に塗布し、乾燥した後、プレスなどの成型や所望の大きさにする裁断を行い、正極を作製する。
【0045】
バインダーに特に限定はない。ポリビニリデンフロライドなどのフッ素系樹脂、セルロース系高分子、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂など公知のバインダーを用いることができる。バインダーの種類に応じ、水やNMPなどの溶媒に溶解し、溶液として用いることができる。
【0046】
本発明のリチウムイオン二次電池に用いる負極活物質は、特に限定されない。金属リチウム、各種の炭素材料、金属リチウム、チタン酸リチウムや、スズ、シリコンなどの酸化物、スズ、シリコンなどのリチウムと合金化する金属、およびこれらの材料の複合材料を用いることができる。
【0047】
粉状の負極活物質を用いる場合、負極は、例えば、以下のようにして作製する。
【0048】
所望の合剤組成となるよう負極活物質、バインダーを溶解した溶液、および必要に応じてCBなどの導電剤を秤量して混合し、負極合剤スラリーを調製する。このスラリーを銅箔などの負極集電体に塗工し乾燥後、プレスなどの成型や所望の大きさにする裁断を行い、負極を作製する。
【0049】
電解質も、特に限定はされず、従来のリチウムイオン二次電池に用いられているリチウム塩を非水溶媒に溶解した非水電解液を用いることができる。
【0050】
リチウム塩としては、LiClO
4、LiCF
3SO
3、LiPF
6、LiBF
4、LiAsF
6などを用いることができ、これらを単独で又は2種類以上を混合して用いることができる。
【0051】
非水溶媒としては、各種の環状カーボネート、鎖状カーボネートなどを用いることができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどを用いることができる。あるいは、より耐酸化性を有するとされる、カーボネートの水素の一部をフッ素などで置換した誘導体を用いることもできる。さらに、本発明の目的を妨げない範囲で、非水電解液に各種の添加剤を加えることもでき、例えば、電池寿命向上を目的としたビニレンカーボネートや、難燃性を付与するためにリン酸エステルなどを添加することもできる。
【0052】
あるいは、イミゾダゾリウム/フルオロスルホニルイミドなどの、常温で液体の塩であるイオン性液体を用いることもできる。
【0053】
さらには、各種の硫黄系、チタンやゲルマニウムのリン酸塩系、ランタン−ジルコニウム酸化物系などの固体電解質を用いることもできる。
【0054】
本発明のリチウムイオン二次電池の一実施形態であるボタン型、円筒型、角型、ラミネート型などの形状を有する電池は、上記の正極、負極及び電解質を用いて作製する。
【0055】
円筒型二次電池は、以下のようにして作製する。
【0056】
帯状に裁断し電流を取り出すための端子を未塗工部に設けた正極と負極とを用いる。正極と負極との間にセパレータを挟み、これを円筒状に捲回して電極群を作製し、SUS鋼やアルミニウム製の容器に収納する。この電極群を収納した容器に、乾燥空気中または不活性ガス雰囲気で非水電解液を注入し、容器を封止して円筒型リチウムイオン二次電池を作製する。
【0057】
セパレータには、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミドなどの樹脂製の多孔質絶縁物フィルムや、それらにアルミナなどの無機化合物層を設けたものなどを用いることができる。
【0058】
図4は、円筒型のリチウムイオン二次電池の例を示したものである。
【0059】
本図において、リチウムイオン二次電池100は、正極板101(正極)及び負極板102(負極)がセパレータ103を介して捲回された電極群120並びにニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池缶104を備えている。電極群120は、電池缶104に収容されている。
【0060】
電極群120の上側には、捲回中心のほぼ延長線上に正極板101からの電位を集電するためのアルミニウム製の正極集電リード部7が配されている。正極集電リード部107には、正極板101から導出された正極集電リード片105の端部が超音波接合されている。正極集電リード部107の上方には、正極外部端子となる円盤状の電池蓋109が配置されている。
【0061】
電池蓋109は、スチール製の円盤状で中央部が上方に向けて突出した端子板と、アルミニウム製の円環状で中央部にガス排出用の開口が形成された平板とで構成されている。端子板の突出部と平板との間には、円環状の正極端子部111が配されている。正極端子部111は上面および下面がそれぞれ端子板の下面および平板の上面に接触している。正極端子部111の内径は、平板に形成された開口の内径より大きく形成されている。平板の開口の上側には、電池内圧の上昇時に開裂する破裂弁110が開口を塞ぐように配されている。破裂弁110の周縁部は、正極端子部111の内縁部下面と平板とで挟まれている。端子板の周縁部と、平板の周縁部とが固定されている。平板の下面、すなわち、電池蓋109の底面(電極群120側の面)には、正極集電リード部107の上面が抵抗溶接で接合されている。
【0062】
一方、電極群120の下側には負極板102からの電位を集電するためのニッケル製の負極集電リード部108が配置されている。負極集電リード部108には、負極板102から導出された負極集電リード片106の端部が超音波接合されている。負極集電リード部108は、負極外部端子を兼ねる電池缶104の内底部に抵抗溶接で接合されている。
【0063】
また、電池缶104内には、非水電解液が注液されている。非水電解液には、本例では、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との体積比1:2の混合有機溶媒中に六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1モル/リットルの濃度になるように溶解させたものが用いられている。電池缶104の上部には、電池蓋109がガスケット112を介してカシメ固定されている。このため、リチウムイオン二次電池100の内部は密封されている。
【0064】
電池缶104内に収容された電極群120は、正極板101と負極板102とが、例えばポリエチレン製等の微多孔性のセパレータ103を介して正極板101、負極板102が互いに接触しないように捲回されている。正極集電リード片105と負極集電リード片106とはそれぞれ、電極群120の互いに反対側の両端面に配されている。電極群120の外周面全周には、電池缶104との電気的接触を防止するために絶縁被覆が施されている。
【0065】
また、角形の電池とするためには、例えば、以下のようにして作製する。
【0066】
上記の捲回において捲回軸を二軸とし、楕円形の電極群を作製する。円筒型と同様に、角型容器にこれを収納し、電解液を注入した後、密封する。
【0067】
また、捲回の代わりに、セパレータ、正極、セパレータ、負極、セパレータの順に積層した電極群を用いることもできる。
【0068】
また、ラミネート型の電池とするためには、例えば、以下のようにして作製する。
【0069】
上記の積層型の電極群を、ポリエチレンやポリプロピレンなどの絶縁性シートで内張りした袋状のアルミラミネートシートに収納する。開口部から電極の端子が突き出た状態とし、電解液を注入した後、開口部を封止する。
【0070】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の用途は特に限定されない。例えば、電気自動車やハイブリッド型電気自動車などの動力用電源や、運動エネルギーの少なくとも一部を回収するシステムを有するエレベータなどの産業用機器、各種業務用や家庭用の蓄電システム用の電源、さらには太陽光や風力などの自然エネルギー発電システム用電源など、各種大型電源として用いることができる。
【0071】
また、各種携帯型機器や情報機器、家庭用電気機器、電動工具などの各種小型電源としても用いることができる。
【0072】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池の詳細な実施例を示し、具体的に説明する。但し、本発明は以下に述べる実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0073】
正極活物質を固相法により調製した。
【0074】
原料には、以下のものを用いた。二酸化マンガン(MnO
2)、酸化ニッケル(NiO)、酸化チタン(TiO
2)、酸化ゲルマニウム(GeO
2)、四酸化三コバルト(Co
3O
4)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化銅(CuO)、水酸化アルミニウム(Al(OH)
3)、炭酸リチウム(Li
2CO
3)およびフッ化リチウム(LiF)である。
【0075】
目標組成となるよう各原料を秤量した後、炭酸リチウム及びフッ化リチウムを除く全ての原料を遊星型粉砕機に入れ、純水を用いて湿式混合した。乾燥後、アルミナるつぼに入れ、電気炉により1050℃で15時間、空気雰囲気で焼成し、複合酸化物粉を得た。複合酸化物と残りの原料(Li
2CO
3およびLiF)とを同様に混合し、乾燥した後、アルミナるつぼに入れ、780℃で20時間、つづいて600℃で12時間、空気雰囲気で焼成した。これを所望の粒度となるように粉砕して、正極活物質を得た。
【0076】
得られた正極活物質については、粉末X線回折(CuKα線、管電圧40kV、管電流40mA)により、スピネル相と異相の確認をした。
【0077】
(正極の作製)
正極活物質90質量%に導電剤としてのCBを6質量%混合した後、結着剤としてのアクリル系バインダー4質量%のNMP溶液を添加し、混合し、正極スラリーを調製し、アルミニウム箔の片面に塗布した。
【0078】
乾燥後、裁断し、圧縮成形し、未塗布部にアルミニウム製の端子を溶接し、電池評価用の正極を作製した。
【0079】
これとは別に、容量測定用の正極については、20mm径に打ち抜いた後、圧縮成形することにより作製した。
【0080】
(負極の作製)
負極材料としてのチタン酸リチウム(Li
4Ti
5O
12:LTO)88質量%と、CB6質量%とを混合した後、結着剤としてのポリビニリデンフロライド6質量%をNMPに溶解した溶液を混合し、負極合剤スラリーを調製した。負極合剤スラリーを銅箔(負極集電体)の片面に塗布し、乾燥した。裁断後、プレス機により圧縮成形し、未塗工部にニッケル製の負極端子を溶接することにより、負極を作製した。
【0081】
(正極活物質の容量測定)
図1は、正極活物質の容量測定に用いたラミネートセルを模式的に示したものである。
【0082】
本図に示すように、アルミニウム製集電箔11の上に、容量測定用の正極12、厚さ30μmのポリプロピレン製の多孔質セパレータ13、金属リチウム箔14、銅製集電箔15の順で積層した。この積層体をポリプロピレンで内張りしたラミネートシート16で挟み、集電箔11および15が突き出るように、ラミネートシート16の3辺を封止した。
【0083】
非水電解液を注液後、底辺を封止し、セルを作製した。非水電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比3:7で混合した非水混合溶媒に、リチウム塩として六フッ化リン酸リチウム1mol/dm
3を溶解したものを用いた。
【0084】
このセルについて、充放電電流を時間率0.2CAで、充電上限電圧4.9Vで総充電時間6時間の定電流定電圧充電、放電下限電圧3.5Vの定電流放電を3回繰り返した。3回目の放電における電気量と4.5V以上の電気量を測定し、正極中の活物質の質量(g)当たりの全容量および高電位容量(mAh/g)を求めた。
【0085】
(電池の作製)
図2は、作製したラミネート型リチウムイオン二次電池を模式的に示したものである。
【0086】
本図に示すように、正極12、多孔質セパレータ13、負極17の順で積層した。この積層体をラミネートシート16で挟み、ニッケル製負極端子18、アルミニウム製正極端子19が突き出るように、ラミネートシートの底辺(端子の反対側)を除く3辺を封止した。非水電解液を注液した後、底辺を封止することにより、電池を作製した。
【0087】
非水電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを体積比3:7で混合した非水混合溶媒に、リチウム塩として六フッ化リン酸リチウム1mol/dm
3を溶解したものを用いた。
【0088】
(充放電試験と高温寿命試験)
作製した電池について充放電試験及び高温寿命試験を行った。
【0089】
充電条件は、充電電流を時間率0.2CAで充電上限電圧3.4V、総充電時間6時間の定電流定電圧充電とした。放電は、0.2CAの放電電流で放電下限電圧2Vの定電流放電とした。この充放電サイクルを5サイクル行い、5サイクル目の放電容量を電池容量とした。
【0090】
ついで、高温試験を行った。同条件の充電をした後、50℃環境で30日間保存した。その後、室温で0.2CA、2Vの定電流放電をした後、電池容量測定と同様の充放電1サイクルを行い、その際の放電容量を保存試験後の容量とし、保存前の電池容量との比率(維持率)を求めた。
【0091】
表1は、調製した正極活物質の名称、組成及び異相の有無を示したものである。
【0092】
また、表2は、調製した正極活物質の全容量及び高電位容量並びにその比率、並びに30日間保存後の容量維持率を示したものである。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
調製した正極活物質は、全て立方晶スピネル構造に帰属されたが、比較例の一部には異相が認められた。
【0096】
比較例Nの比較活物質NA及び比較活物質N5は、フッ素及び置換元素Mをともに有さない活物質である。Ni置換量xが0.5である比較活物質N5(x=0.5)には、NiOと考えられる異相が認められた。比較活物質NFは、フッ素は有するが、置換元素Mは有さない活物質である。
【0097】
実施例G及び比較例Gは、元素Mが主としてGeである正極活物質である。本発明の実施例Gは、異相が認められず、80%以上の高電位容量を有し、フッ素を有さない比較活物質GA及び比較例Nに比べ高い容量維持率が得られる効果があった。置換量zが0.2を越える比較活物質GB(z>0.2)からは異相が認められた。
【0098】
実施例T及び比較例Tは、元素Mが主としてTiである正極活物質である。本発明の実施例Tは、異相が認められず、80%以上の高電位容量を有し、フッ素を有さない比較活物質TAおよび比較例Nに比べ高い容量維持率が得られる効果があった。置換量zが0.3を越える比較活物質TB(z>0.3)、及びNi置換量xが0.5である比較活物質T5(x=0.5)からは異相が認められた。
【0099】
実施例CO及び比較例COは、元素Mが主としてCoである正極活物質である。本発明の実施例COは、異相が認められず、80%以上の高電位容量を有し、フッ素を有さない比較活物質COAおよび比較例Nに比べ高い容量維持率が得られる効果があった。置換量zが0.15を越える比較活物質COB(z>0.15)は、異相は認められなかったものの、高電位容量の比率が80%未満であった。
【0100】
実施例F及び比較例Fは、元素Mが主としてFeである正極活物質である。本発明の実施例Fは、異相が認められず、80%以上の高電位容量を有し、フッ素を有さない比較活物質FAおよび比較例Nに比べ高い容量維持率が得られる効果があった。置換量zが0.15を越える比較活物質FB(z>0.15)は異相が認められた。
【0101】
実施例M及び比較例Mは、元素Mが主としてMgである正極活物質である。本発明の実施例Mは、異相が認められず、80%以上の高電位容量を有し、フッ素を有さない比較活物質MAおよび比較例Nに比べ高い容量維持率が得られる効果があった。置換量zが0.1を越える比較活物質MB(z>0.1)、及びNi置換量xが0.5である比較活物質M5(x=0.5)からは異相が認められた。
【0102】
実施例CU及び比較例CUは、元素Mが主としてCuである正極活物質である。本発明の実施例CUは、異相が認められず、80%以上の高電位容量を有し、フッ素を有さない比較活物質CUAおよび比較例Nに比べ高い容量維持率が得られる効果があった。置換量zが0.1を越える比較活物質CUB(z>0.1)は、容量維持率が比較例を僅かに上回る程度の効果しか得られなかった。
【0103】
実施例A及び比較例Aは、元素Mが主としてAlである正極活物質である。本発明の実施例Aは、異相が認められず、80%以上の高電位容量を有し、フッ素を有さない比較活物質AAおよび比較例Nに比べ高い容量維持率が得られる効果があった。置換量zが0.05を越える比較活物質AB(z>0.05)、及びNi置換量xが0.5である比較活物質A5(x=0.5)からは異相が認められた。
【実施例2】
【0104】
アルミニウム酸化物で被覆した被覆正極活物質は、以下のようにして調製した。
【0105】
アルミニウムイソプロポキシドをイソプロピルアルコール(IPA)に投入し、60℃温浴で撹拌した後、室温で一昼夜静置し、上澄み液100gと20gの正極活物質(核材)をフラスコに投入した。60℃温浴で撹拌しつつ、IPA:蒸留水の体積比10:1の溶液を投入し、撹拌した。その後、減圧し、溶媒を蒸発させ、乾燥した。得られた粉末を80℃の空気中で乾燥し、さらに600℃で5時間、空気雰囲気で熱処理し、被覆正極活物質(酸化アルミニウム層を有する正極活物質)を得た。
【0106】
表3は、調製した被覆正極活物質の名称及び核材、並びに全容量及び高電位容量並びにその比率、並びに30日間保存後の容量維持率を示したものである。
【0107】
【表3】
【0108】
本表から、実施例の被覆活物質は、80%以上の高電位容量を有し、比較例の被覆活物質に比べ高い容量維持率が得られる効果があることがわかる。さらに、各々の核材の容量維持率に比べても、高い容量維持率を示すことがわかる。
【0109】
比較例の被覆活物質は、その核材に比べ高い容量維持率であったが、表1及び表2に記載の全ての実施例に比べて容量維持率が低かった。