(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604313
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】砥粒の評価方法並びにウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
B24B 27/06 20060101AFI20191031BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20191031BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
B24B27/06 D
H01L21/304 611W
C09K3/14 550C
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-219393(P2016-219393)
(22)【出願日】2016年11月10日
(65)【公開番号】特開2018-75668(P2018-75668A)
(43)【公開日】2018年5月17日
【審査請求日】2018年12月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100115738
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲頭 光宏
(74)【代理人】
【識別番号】100121681
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 和文
(74)【代理人】
【識別番号】100130982
【弁理士】
【氏名又は名称】黒瀬 泰之
(72)【発明者】
【氏名】舟山 誠
【審査官】
須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2016/117560(WO,A1)
【文献】
特開2005−039174(JP,A)
【文献】
特開2002−338952(JP,A)
【文献】
国際公開第2016/117559(WO,A1)
【文献】
特開2016−124055(JP,A)
【文献】
特開2015−223674(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B3/00−3/60
B24B21/00−39/06
C09K3/14
H01L21/304
B28D1/00−7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の砥粒サンプルを用意し、
前記砥粒サンプル中の個々の砥粒の粒径を測定すると共に、前記砥粒サンプル全体の個数をカウントし、
前記砥粒サンプルの平均粒径よりも小さい所定の基準粒径以下の粒径を有する砥粒を小粒子と定義して当該小粒子の個数をカウントし、
前記砥粒サンプル全体に対する前記小粒子の個数比である小粒子率を算出し、
前記小粒子率が所定の閾値以下であるかどうかを判断し、
前記小粒子率が前記閾値以下である場合には、ワイヤソーによるインゴットのスライス加工に前記砥粒サンプルを使用可能と判断し、
前記小粒子率が前記閾値よりも大きい場合には、前記スライス加工に前記砥粒サンプルを使用不可と判断することを特徴とする砥粒の評価方法。
【請求項2】
前記砥粒サンプル中の個々の砥粒の粒径から前記砥粒サンプルの体積カウントでの粒度分布を測定し、前記粒度分布から前記砥粒サンプルの平均粒径を算出し、前記平均粒径よりも小さい基準粒径以下の領域に分布する砥粒を前記小粒子と定義する、請求項1に記載の砥粒の評価方法。
【請求項3】
前記基準粒径は前記平均粒径の1/2である、請求項1又は2に記載の砥粒の評価方法。
【請求項4】
前記閾値は50%である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の砥粒の評価方法。
【請求項5】
砥粒の品質を検査する検査工程と、
前記検査をパスした砥粒を含むスラリーと共に遊離砥粒ワイヤソーを用いてインゴットをスライス加工するスライス工程とを備え、
前記検査工程は、前記砥粒の小粒子率を検査する小粒子率検査工程を含み、
前記小粒子率検査工程では、
所定量の砥粒サンプルを用意し、
前記砥粒サンプル中の個々の砥粒の粒径を測定すると共に、前記砥粒サンプル全体の個数をカウントし、
前記砥粒サンプルの平均粒径よりも小さい所定の基準粒径以下の粒径を有する砥粒を小粒子として定義して当該小粒子の個数をカウントし、
前記砥粒サンプル全体に対する前記小粒子の個数比である前記小粒子率を算出し、
前記小粒子率が所定の閾値以下であるかどうかを判断することを特徴とするウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記砥粒サンプル中の個々の砥粒の粒径から前記砥粒サンプルの体積カウントでの粒度分布を測定し、前記粒度分布から前記砥粒サンプルの平均粒径を算出し、前記平均粒径よりも小さい基準粒径以下の領域に分布する砥粒を前記小粒子と定義する、請求項5に記載のウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記基準粒径は前記平均粒径の1/2である、請求項5又は6に記載のウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記閾値は50%である、請求項5乃至7のいずれか一項に記載のウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥粒及びその評価方法に関し、特に、遊離砥粒ワイヤソーによるスライス工程で用いられる砥粒及びその評価方法に関する。また本発明は、そのような砥粒を含むスラリーを用いてインゴットをスライス加工する工程を含むウェーハの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの基板材料であるシリコンウェーハの製造工程の一つにスライス工程がある。スライス工程ではワイヤソーが用いられ、例えばCZ法により育成されたシリコン単結晶インゴットを遊離砥粒ワイヤソーでスライスすることにより、一定の厚さを有する多数枚のシリコンウェーハが作製される。
【0003】
遊離砥粒ワイヤソーを用いたスライス加工に関して、例えば特許文献1には、平均円形度を0.900以上の砥粒とクーラントとを混合したスラリーを用いることが記載されている。また特許文献2には、使用済みスラリーから有効砥粒を回収し、磨滅した砥粒を除去すると共に、除去した砥粒に相当する量の新品砥粒を加えることによりスラリーを再生する方法において、新品砥粒の平均円形度を0.855〜0.875の範囲とし、新品砥粒の重量比を約20%とし、再生スラリーに含まれる砥粒の平均円形度を0.870〜0.885の範囲にすることが記載されている。
【0004】
また、特許文献3には、追加砥粒群を用意し、切断処理に使用した砥粒群に、追加砥粒群を所定量加えて混合し、混合した砥粒群について砥粒の大きさが第1砥粒径以上かつ第2砥粒径以下となるように分級処理を行うことが記載されている。この方法によれば、廃棄する砥粒の量を低減できるとともに、新品砥粒群と同様な質の研磨処理を施すことができる。また特許文献4には、砥粒が凝集することなくクーラントに均一に分散させることが可能なスラリータンクが記載されている。このスラリータンクを用いた場合には、砥粒の凝集物がないスラリーがワイヤソーに供給されるためスライシング作業が安定化し、品質安定性に優れたウェーハを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−91141号公報
【特許文献2】特開2004−255534号公報
【特許文献3】特開2011−218516号公報
【特許文献4】特開2000−61843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ワイヤソーを用いたインゴットのスライス加工では、加工品質の安定化のため、砥粒の粒度分布や円形度などの所定の品質評価項目を検査し、品質基準を満たす砥粒だけを使用する運用が行われている。
【0007】
しかしながら、品質基準をクリアした従来の砥粒を用いてスライス加工を行った場合に、ウェーハの平坦度が良好なこともあれば悪いこともあり、ウェーハの加工品質が安定しないという問題がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、遊離砥粒ワイヤソーによってスライス加工されたウェーハの平坦度の向上と加工品質の安定化を図ることが可能な砥粒及びその評価方法を提供することにある。また、本発明の目的は、そのような砥粒を含むスラリーを用いてウェーハをスライスする工程を含むウェーハの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明による砥粒の評価方法は、所定量の砥粒サンプルを用意し、前記砥粒サンプル中の個々の砥粒の粒径を測定すると共に、前記砥粒サンプル全体の個数をカウントし、前記砥粒サンプルの平均粒径よりも小さい所定の基準粒径以下の粒径を有する砥粒を小粒子と定義して当該小粒子の個数をカウントし、前記砥粒サンプル全体に対する前記小粒子の個数比である小粒子率を算出し、前記小粒子率が所定の閾値以下であるかどうかを判断することを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、砥粒全体に含まれる小粒子の量を個数比で評価することでウェーハの平坦度を悪化させる原因を排除することができ、これによりウェーハのスライス加工の品質の向上と安定化を図ることができる。
【0011】
本発明による砥粒の評価方法は、前記砥粒サンプル中の個々の砥粒の粒径から前記砥粒サンプルの体積カウントでの粒度分布を測定し、前記粒度分布から前記砥粒サンプルの平均粒径を算出し、前記平均粒径よりも小さい基準粒径以下の領域に分布する砥粒を前記小粒子と定義することが好ましい。さらに、前記基準粒径は前記平均粒径の1/2であることが好ましい。これによれば、小粒子を明確かつ容易に定義することができる。
【0012】
本発明において、前記閾値は50%であることが好ましい。砥粒の小粒子率が50%以下であれば、平坦度が良好なウェーハを製造することができ、ウェーハの加工品質の安定化を図ることができる。
【0013】
本発明において、前記小粒子率が前記閾値以下である場合には、ワイヤソーによるインゴットのスライス加工に前記砥粒サンプルを使用可能と判断し、前記小粒子率が前記閾値よりも大きい場合には、前記スライス加工に前記砥粒サンプルを使用不可と判断することが好ましい。小粒子率が閾値よりも高い砥粒の使用を禁止することにより、ウェーハの平坦度と共に加工品質の向上を図ることができる。
【0014】
また本発明による砥粒は、砥粒サンプル中の個々の砥粒の粒径を測定すると共に、前記砥粒サンプル全体の個数をカウントし、前記砥粒サンプルの平均粒径よりも小さい所定の基準粒径以下の粒径を有する砥粒を小粒子と定義して当該小粒子の個数をカウントしたとき、前記砥粒サンプル全体に対する前記小粒子の個数比である小粒子率が50%以下であることを特徴とする。本発明によれば、ワイヤソーを用いたインゴットのスライス加工において平坦度が良好なウェーハを製造することができ、ウェーハの加工品質の安定化を図ることができる。
【0015】
さらに本発明によるウェーハの製造方法は、上記の特徴を有する本発明の砥粒を含むスラリーと共に遊離砥粒ワイヤソーを用いてインゴットをスライス加工するスライス工程を含むことを特徴とする。本発明によれば、平坦度が良好なウェーハを製造することができ、ウェーハの加工品質の安定化を図ることができる。
【0016】
さらにまた、本発明によるウェーハの製造方法は、砥粒の品質を検査する検査工程と、前記検査をパスした砥粒を含むスラリーと共に遊離砥粒ワイヤソーを用いてインゴットをスライス加工するスライス工程とを備え、前記検査工程は、前記砥粒の小粒子率を検査する小粒子率検査工程を含み、前記小粒子率検査工程では、所定量の砥粒サンプルを用意し、前記砥粒サンプル中の個々の砥粒の粒径を測定すると共に、前記砥粒サンプル全体の個数をカウントし、前記砥粒サンプルの平均粒径よりも小さい所定の基準粒径以下の粒径を有する砥粒を前記小粒子として定義して当該小粒子の個数をカウントし、前記砥粒サンプル全体に対する前記小粒子の個数比である前記小粒子率を算出し、前記小粒子率が所定の閾値以下であるかどうかを判断することを特徴とする。本発明によれば、平坦度が良好なウェーハを製造することができ、ウェーハの加工品質の安定化を図ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、遊離砥粒ワイヤソーによってスライス加工されたウェーハの平坦度の向上と加工品質の安定化を図ることが可能な砥粒及びその評価方法を提供することができる。また、本発明によれば、そのような砥粒を含むスラリーを用いてウェーハをスライスする工程を含むウェーハの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、シリコンウェーハの製造方法を説明するフローチャートである。
【
図2】
図2は、遊離砥粒ワイヤソーの構成を概略的に示す斜視図である。
【
図3】
図3は、砥粒の検査工程を概略的に示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、小粒子率の算出方法を説明するための図である。
【
図5】
図5は、砥粒サンプルA,Bの体積カウントでの粒度分布を示すグラフである。
【
図6】
図6は、砥粒サンプルA,Bの個数カウントでの粒度分布を示すグラフである。
【
図7】
図7は、砥粒サンプルC1〜C5を用いてスライス加工したウェーハの平坦度を示すグラフ(箱ひげ図)である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
図1は、シリコンウェーハの製造方法を説明するフローチャートである。
【0021】
図1に示すように、シリコンウェーハは、シリコン単結晶インゴットに外周研削S11、スライスS12、ラッピングS13、エッチングS14、両面研磨(粗研磨)S15、片面研磨(鏡面研磨)S16、洗浄S17等の工程を順次行うことにより製造される。このうち、スライス工程S12は遊離砥粒ワイヤソーを用いてシリコン単結晶インゴットをスライスする工程であり、これにより一定の厚さを有する多数枚のシリコンウェーハが作製される。
【0022】
図2は、遊離砥粒ワイヤソーの構成を概略的に示す斜視図である。
【0023】
図2に示すように、遊離砥粒ワイヤソー1はいわゆるマルチワイヤソーであって、互いに平行な3本のメインローラ10A,10B,10Cと、各メインローラ10A,10B,10C間に一本のワイヤ11をらせん状に巻き掛けることによりメインローラ10A,10B間に一定ピッチで形成されたワイヤ列11Rと、ワイヤ列11Rにスラリーを供給するスラリーノズル20A、20Bと、シリコン単結晶インゴット2の昇降装置18とを備えている。メインローラ10A,10B,10Cの外周面には多数の環状の溝が一定ピッチで形成されており、ワイヤ11を溝に嵌合させながら多重に巻き掛けることによりワイヤ列11Rが形成される。メインローラ10A,10B,10Cの回転によってワイヤ列11Rはメインローラ10A,10B間を往復走行しており、このワイヤ列11Rにインゴット2を押し当てることによってインゴット2が切断される。
【0024】
一方のリール12Aは新線が巻かれたワイヤ供給用のリールであり、他方のリール12Bは使用済みワイヤを巻き取るワイヤ回収用のリールである。ワイヤ11は、一方のリール12Aから送り出された後、複数のガイドローラ13を経由してメインローラ10A,10B,10Cにこの順で繰り返し巻き掛けられ、複数のガイドローラ13を再び経由して他方のリール12Bに巻き取られる。
【0025】
一方のリール12Aとメインローラ10Aとの間のワイヤ11の走行経路上には張力調整機構14Aが設けられており、他方のリール12Bとメインローラ10Cとの間のワイヤ11の走行経路上には張力調整機構14Bが設けられている。張力調整機構14A,14Bの各々は、ワイヤ11が巻き掛けられたダンサーローラ15と、ダンサーローラ15を回転自在に支持するダンサーアーム16と、ダンサーアーム16を支持するアクチュエータ17とで構成されており、アクチュエータ17の駆動力を利用してワイヤ11に適切な張力が付与される。
【0026】
ワイヤ11は、一方のリール12Aから他方のリール12Bに向かう方向又はその逆方向に往復走行するが、リール12Aからのワイヤ11の送り出し量をリール12Bからのワイヤ11の送り出し量よりも多くすることによって、芯線を徐々に供給し続けることができる。リール12A,12Bは不図示のトルクモータによって駆動される。
【0027】
切断加工中のワイヤ列11Rにはスラリーノズル20A,20Bからスラリーが供給される。スラリーは不図示のスラリータンクから配管を通ってスラリーノズル20A,20Bに供給される。スラリーノズル20A,20Bはワイヤ列11Rの各ワイヤ11の上方に位置する多数のノズル孔を有しており、ノズル孔から吐出されたスラリーはカーテン状に流れ落ちて走行状態のワイヤ列11Rの各ワイヤにかけられる。ワイヤ11に付着したスラリーは走行するワイヤ11と共にインゴットの加工点に到達し、これによりインゴットが切削される。
【0028】
スラリーは水溶性又は油性クーラントに砥粒を分散させたものであり、砥粒の材料はSiCやAl
2O
3などが好ましく、クーラントはグリコール系を用いることが好ましい。スライス工程S12においてウェーハの加工品質を確保するためには、砥粒が一定の品質基準を満たす必要がある。そのため、スライス工程S12で砥粒を実際に使用する前に砥粒の品質検査が行われる。
【0029】
図3は、砥粒の検査工程を概略的に示すフローチャートである。
【0030】
図3に示すように、砥粒の検査工程では、まず砥粒のロットから抜き出した所定量の砥粒サンプルを用意し(ステップS21)、砥粒サンプルの品質を検査する(ステップS22)。品質評価項目としては、砥粒の「粒度分布」、「円形度」、「小粒子率」などを挙げることができる。砥粒サンプルの品質を検査した結果、すべての品質評価項目が品質基準を満たしている場合には当該砥粒をスライス工程で使用可能と判断し(ステップS23Y,S24)、少なくとも一つの品質評価項目が品質基準を満たさない場合には使用不可と判断する(ステップS23N,S25)。
【0031】
品質評価項目の一つである「小粒子率」は、砥粒サンプル中に占める小粒子(微細粒子)の割合(個数比)を示す指標であり、これまで定量的な指標としては検査されていなかった項目である。小粒子はインゴットの切削に寄与しないばかりか、切削に寄与する主に中径の砥粒の切削の阻害要因となるため、砥粒全体に占める小粒子の量が多い場合にはスライス加工後のウェーハの平坦度を悪化させる要因となる。しかし、小粒子率を一定以下に抑えた場合には、スライス加工後のウェーハの平坦度を良好にでき、ウェーハの加工品質の安定化を図ることができる。
【0032】
本実施形態において、小粒子の粒径は、砥粒サンプルの体積カウントでの粒度分布の平均粒径の1/2以下であることが好ましい。この粒径の範囲内の砥粒を監視することにより、砥粒の品質を安定させてウェーハの加工品質を高めることができる。また小粒子か否かを判断する基準粒径を粒度分布の平均粒径の1/2以下とした場合には、小粒子の定義が明確になり、粒度分布に基づいて基準粒径を簡単に設定することができ、ウェーハの加工品質に影響を与える小粒子を容易に特定することができる。
【0033】
砥粒の小粒子率は50%以下であることが好ましい。小粒子率が50%以下であればスライス加工後のウェーハの平坦度を概ね良好にでき、ウェーハの加工品質の安定化を図ることができるが、50%を超えるとウェーハの平坦度が悪化し、ウェーハが所定の品質基準を満たさなくなるからである。
【0034】
図4は、小粒子率の算出方法を説明するための砥粒の粒度分布図である。
【0035】
小粒子率の算出では、まず砥粒サンプルの個々の砥粒の粒径を測定し、
図4(a)に示すような砥粒サンプル全体の体積カウントでの粒度分布D
1を求める。砥粒サンプルの個々の粒径を測定する方法は特に限定されないが、例えば砥粒を含む液体を細いガラスのセルの間の流路に流しながら砥粒をカメラで一粒ずつ撮影して画像処理することにより一個一個の砥粒の粒径を測定することができる。
【0036】
次に、砥粒サンプルの体積カウントでの粒度分布D
1の平均粒径R
1を求めると共に、平均粒径の1/2の粒径(=0.5R
1)を小粒子の基準粒径R
2として設定する。これにより、小粒子は基準粒径R
2=R
1/2以下の粒径を有する砥粒として定義される。
【0037】
次に、
図4(b)に示すような砥粒サンプルの個数カウントでの粒度分布D
2に基づいて、平均粒径R
1の1/2以下の粒径を有する小粒子の個数をカウントし、砥粒サンプル全体に対する小粒子の個数比である小粒子率を算出する。
【0038】
そして、小粒子率が所定の閾値以下である場合には、当該砥粒サンプルがスライス工程で使用可能と判断する。逆に、小粒子率が閾値よりも大きい場合にはスライス工程で使用不可と判断される。小粒子率の閾値は50%以下であることが好ましい。小粒子率が50%を超えるとGBIR(Global Backside Ideal focal plane Range)、Warp、ナノトポグラフィなどのシリコンウェーハの平坦度指標が悪化し、所定の品質基準を満たさなくなるからである。
【0039】
以上説明したように、本実施形態による砥粒の評価方法は、砥粒サンプル全体の体積基準での粒度分布D
1を測定し、この粒度分布D
1の平均粒径R
1の1/2以下の領域に分布する小粒子の個数をカウントし、砥粒サンプル全体の個数に対する小粒子の個数の比である小粒子率が50%以下であるかどうかを判断し、50%以下であれば当該砥粒を含むスラリーを使用してインゴットのスライス加工を行うので、遊離砥粒ワイヤソーによって切断されたウェーハの平坦度を高めると共にウェーハの加工品質の安定化を図ることができる。
【0040】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【0041】
例えば、上記実施形態においては、砥粒サンプルの体積カウントでの粒度分布の平均粒径の1/2の値を基準粒径として設定しているが、必ずしも1/2に限定されるものではなく、また砥粒サンプルの個数カウントでの粒度分布の平均粒径の1/2の値を基準粒径として設定することも可能である。
【0042】
また上記実施形態ではシリコン単結晶インゴットをスライス加工する場合を例に挙げたが、本発明はこれに限定されるものではなく、任意の材質のインゴットを加工対象とすることができる。
【実施例】
【0043】
互いに異なるロットからそれぞれ抜き出された2種類の砥粒サンプルA,Bを用意し、これらの砥粒サンプルの体積カウントでの粒度分布と個数カウントでの粒度分布とをそれぞれ測定した。粒度分布の測定方法は、砥粒サンプル中の個々の砥粒の粒径の測定にはシスメックス社製の粒子径・形状分析装置FPIA-3000を利用した。
【0044】
図5は、砥粒サンプルA,Bの体積カウントでの粒度分布を示すグラフであり、横軸は砥粒サイズ(μm)、縦軸は度数(体積比)をそれぞれ示している。この
図5のグラフから明らかなように、体積カウントした場合における砥粒サンプルA,Bの粒度分布にはほとんど違いが見られなかった。
【0045】
図6は、砥粒サンプルA,Bの個数カウントでの粒度分布を示すグラフであり、横軸は砥粒サイズ(μm)、縦軸は度数(個数比)をそれぞれ示している。この
図6のグラフから明らかなように、砥粒サンプルAよりも砥粒サンプルBのほうが微細な粒子を非常に多く含んでいることが分かった。また体積カウントでの粒度分布(
図5)ではほとんど見えてこない小粒子の存在を個数カウントでの粒度分布(
図6)で容易に確認できることが分かった。また、砥粒サンプルA,Bの小粒子率を測定したところ、砥粒サンプルAの小粒子率は10%であり、砥粒サンプルBの小粒子率は70%であった。
【0046】
次に、小粒子率が異なる5種類の砥粒サンプルC1〜C5を用意した。砥粒サンプルC1〜C5の小粒子率はそれぞれ、10%、30%、50%、70%、90%とした。次にこれらの砥粒サンプルC1〜C5を用いてワイヤソーによるシリコン単結晶インゴットのスライス加工を行った。その後、得られたウェーハの平坦度指標であるGBIRを測定した。GBIRは裏面基準のグローバルフラットネス指標であり、ウェーハの裏面を基準面としたときの当該基準面に対するウェーハの表面の最大の厚さと最小の厚さとの偏差と定義される。
【0047】
図7は、砥粒サンプルC1〜C5を用いてスライス加工したウェーハのGBIRを示すグラフ(箱ひげ図)であり、横軸は小粒子率(%)、縦軸はGBIR(規格値)である。同図に示すように、小粒子率が10%の砥粒サンプルC1及び30%の砥粒サンプルC2のGBIRは低かったが、小粒子率が50%の砥粒サンプルC3のGBIRは少し高くなった。小粒子率が70%の砥粒サンプルC4及び90%の砥粒サンプルC5のGBIRはさらに高くなり、切削不良の症状が確認された。以上の結果から、小粒子率が50%以下の砥粒であればウェーハの平坦度を良好にできることができることが分かった。
【符号の説明】
【0048】
1 遊離砥粒ワイヤソー
2 シリコン単結晶インゴット
10A,10B,10C メインローラ
11 ワイヤ
11R ワイヤ列
12A,12B リール
13 ガイドローラ
14A,14B 張力調整機構
15 ダンサーローラ
16 ダンサーアーム
17 アクチュエータ
18 昇降装置
20A,20B スラリーノズル
D
1 砥粒サンプルの粒度分布(体積カウント)
D
2 砥粒サンプルの粒度分布(個数カウント)
R
1 粒度分布D
1の平均粒径
R
2 基準粒径(R
1/2)
S11 外周研削
S12 スライス
S13 ラッピング
S14 エッチング
S15 両面研磨
S16 片面研磨
S17 洗浄