特許第6604651号(P6604651)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000002
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000003
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000004
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000005
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000006
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000007
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000008
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000009
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000010
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000011
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000012
  • 特許6604651-ペリクル収納容器 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6604651
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】ペリクル収納容器
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/66 20120101AFI20191031BHJP
   B65D 85/30 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   G03F1/66
   B65D85/30
【請求項の数】1
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-30677(P2016-30677)
(22)【出願日】2016年2月22日
(65)【公開番号】特開2017-151130(P2017-151130A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2017年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100159433
【弁理士】
【氏名又は名称】沼澤 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】関原 一敏
【審査官】 今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−128635(JP,A)
【文献】 特開2008−129453(JP,A)
【文献】 特開2005−326634(JP,A)
【文献】 特開平11−052553(JP,A)
【文献】 特開2014−190998(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3023612(JP,U)
【文献】 特開2006−184442(JP,A)
【文献】 特開2014−085433(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
G03F 1/00−1/86
B65D 85/30−85/48、85/86、85/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペリクル収納容器本体と、該ペリクル収納容器本体に嵌合して密閉する蓋体とから構成され、セパレータの無いペリクルを収納するペリクル収納容器であって、前記ペリクル収納容器本体上には、マスク粘着層塗布領域及び未塗布領域を有するペリクルフレームを支持するペリクルフレーム支持手段と固定具保持手段が設置され、前記ペリクルフレーム支持手段は、前記ペリクルフレームのマスク粘着層未塗布領域を支持するとともに、前記固定具保持手段は、前記ペリクルフレームの外側面に設けられた溝に挿入される板状のフレーム固定具と嵌合する溝又は孔を有し、該フレーム固定具を略水平方向に移動可能に保持するとともに、前記フレーム固定具は、前記固定具保持手段を通過した後端側の一部が前記蓋体の内側に取り付けられた弾性体により上方向から押圧されてその位置が固定されるか、または前記固定具保持手段を通過した後端が前記蓋体の内面に取り付けられた弾性体に接触して、水平方向への移動が規制されることを特徴とするペリクル収納容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス、プリント基板、液晶ディスプレイあるいは有機ELディスプレイ等を製造する際のゴミよけとして使用されるペリクルを収納するペリクル収納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
LSI、超LSIなどの半導体製造或は液晶ディスプレイ等の製造においては、半導体ウエハーあるいは液晶用原板に光を照射してパターンを作製するが、この時に用いるフォトマスクあるいはレチクル(以下、単に「フォトマスク」と記述)にゴミが付着していると、このゴミが光を吸収したり光を曲げてしまうために、転写したパターンが変形したり、エッジががさついたものとなるほか、下地が黒く汚れたりするなど、寸法、品質、外観などが損なわれるという問題があった。
【0003】
そのため、これらの作業は、通常、クリーンルームで行われているが、それでもフォトマスクを常に清浄に保つことが難しいので、フォトマスク表面にゴミよけとしてペリクルを貼り付けした後に露光を行っている。この場合、異物はフォトマスクの表面には直接付着せずにペリクル上に付着するため、リソグラフィー時に焦点をフォトマスクのパターン上に合わせておけば、ペリクル上の異物は転写に無関係となる。
【0004】
このようなペリクルは、一般に、光を良く透過させるニトロセルロース、酢酸セルロースあるいはフッ素樹脂などからなる透明なペリクル膜を、アルミニウム、鉄鋼、ステンレス鋼、エンジニアリングプラスチックなどからなるペリクルフレームの上端面に貼り付けるか又は接着して構成されている。また、ペリクルフレームの下端には、フォトマスクに装着するためのポリブデン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂等からなる粘着層及び粘着層の保護を目的とした離型層(セパレータ)が設けられている。
【0005】
このセパレータは、通常、PET樹脂などの100〜200μm程度の薄いフィルム上に離型剤を塗布し、所望の形状に切断加工して使用されているが、そのフィルムの薄さに加え、その形状がフレームの外形とほぼ同じ枠状の形状をしているため、紐のようになって清浄に洗浄することが困難であるという問題がある。また、マスク粘着層への貼り付け等の作業上においても、その取り扱いが極めて不便であるという問題もある。さらに、ペリクルを容器から自動装置で取り出す際には、セパレータを剥がす工程が必要となるが、セパレータが薄いフィルム状であるために、その形状や挙動が不安定であり、自動装置で取り扱うには不向きであるという問題もある。
【0006】
このような問題のあるセパレータは、粘着剤を保護するだけのものであり、ペリクル使用時にはこれを剥がして廃棄される類のものであるため、セパレータ自体を使用しなければこのような問題は生じないことになる。
【0007】
そこで、本発明者らは、従来から、セパレータを使用しないペリクル及びこのペリクルを収納する収納容器を提案してきた(例えば、特許文献1、2参照)。これら特許文献1、2に記載のペリクル収納容器は、ペリクルフレームの外側にマスク粘着層が塗布されない未塗布領域を形成し、その未塗布領域をペリクル収納容器本体上に設けたペリクルフレーム支持手段で支持するとともに、ペリクルフレームの外側面に設けた非貫通孔にピンを挿入することでペリクルを固定するというものである(後述する比較例を参照)。そして、これらペリクル収納容器に収納するペリクルにはセパレータが使用されていないから、セパレータの剥離が不要であり、セパレータ剥離時にペリクル膜に接触するような懸念もなく、自動装置でペリクルを取り出すことが容易であるといった多大な利点がある。
【0008】
しかしながら、このようなペリクル収納容器であっても、その管理・運用の面で若干の問題があることが明らかになった。すなわち、例えば特許文献1のペリクル収納容器では、ペリクルは、その垂直方向がペリクルフレーム支持手段で支持され、その水平方向がフレーム外側面の孔に挿入されたピンにより規制されてペリクル収納容器上に固定されているため、ピンとフレーム外側面の孔が正確に対向していなかったり、ピンの軸方向の距離が設計通りになっていないと、ピンを孔に挿入することができず、ペリクルをしっかりと固定することができないという問題がある。
【0009】
また、大型のペリクル収納容器の場合は、ペリクル収納容器全体の製造誤差が大きく、それが樹脂製の場合には温度変化や吸湿による寸法変動も発生するため、ピンの取り付け位置を厳密に管理することが困難であるという問題がある。そのため、容器製作後の保管中にピンの位置の再調整が必要となったり、ペリクルの収納後の寸法変動によってピンとペリクルフレームとの間に齧りが出て発塵するという問題も生じることになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−128635
【特許文献2】特開2011−34020
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、前記のような問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、セパレータの無いペリクルの収納容器であって、その経時変化や製造起因による寸法誤差の影響が小さく、その管理・運用が容易なペリクル収納容器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ペリクル収納容器本体と、ペリクル収納容器本体に嵌合して密閉する蓋体とから構成され、セパレータの無いペリクルを収納するペリクル収納容器であって、ペリクル収納容器本体上には、マスク粘着層塗布領域及び未塗布領域を有するペリクルフレームを支持するペリクルフレーム支持手段と固定具保持手段が設置され、ペリクルフレーム支持手段は、ペリクルフレームのマスク粘着層未塗布領域を支持するとともに、固定具保持手段は、ペリクルフレームの外側面に設けられた溝に挿入される板状のフレーム固定具と嵌合する溝又は孔を有し、フレーム固定具を略水平方向に移動可能に保持するとともに、フレーム固定具は、前記固定具保持手段を通過した後端側の一部が蓋体の内側に取り付けられた弾性体により上方向から押圧されてその位置が固定されるか、または前記固定具保持手段を通過した後端が蓋体の内面に取り付けられた弾性体に接触して、水平方向への移動が規制されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ペリクルフレームの外側面に設けられた溝に板状のフレーム固定具を挿入してペリクルを固定する他に、蓋体の内面又は内面に取り付けた弾性体によってフレーム固定具を押圧して固定するので、寸法誤差に対する許容範囲が大きく、したがって、容器の経時変化や製造起因による寸法誤差の影響を受けにくく、管理・運用が容易であるというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のペリクル収納容器の一実施形態を示す平面図である。
図2】本発明の一実施形態を示す図1のA-A断面図である。
図3】本発明の一実施形態を示す図1のB-B断面図である。
図4】本発明の一実施形態を示す図2のC部拡大図である。
図5】本発明の一実施形態を示す図3のD部拡大図である。
図6】本発明のペリクル収納容器全体を示す斜視図である。
図7】フレーム固定具を固定具保持手段の溝に挿入して保持する状態を示す斜視図である。
図8】フレーム固定具を固定具保持手段の角孔に挿入して保持する状態を示す斜視図である。
図9】フレーム固定具を固定具保持手段に粘着テープで保持する状態を示す斜視図である。
図10】フレーム固定具を蓋体内部の弾性体で押圧して固定する状態を示す断面図である。
図11】比較例のピンを用いたペリクル収納容器の平面図である。
図12】比較例のピンをピン保持手段で保持する状態を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて詳細に説明するが、本発明は、これに何ら限定されるものではない。また、本発明は、辺長が500mmを超えるような大型のペリクルに適用した際に特に効果が大きいが、ペリクルの大きさや用途で限定されるものではない。
【0019】
図1図10は、本発明の一実施形態を示すものである。図1では、説明のためにペリクル収納容器本体11と周縁部で嵌合係止する蓋体12は省略されている。本発明のペリクル収納容器本体11上には、図1に示すように、ペリクルフレーム支持手段13、フレーム固定具14、固定具保持手段15が設置されている。一方、収納されるペリクル20には、図4に示すように、ペリクルフレーム21の枠状を成す下面内周に沿ってマスク粘着層22が設けられており、外周部にはマスク粘着層未塗布領域23がある。そして、その対面にはペリクル膜接着層24を介してペリクル膜25が張設されている。
【0020】
収納するペリクル20は、ペリクルフレーム21のマスク粘着層22が設けられる面の外周に少なくとも1mmの幅を有するマスク粘着層未塗布領域23があれば良く、このほかの仕様に制限はない。
【0021】
ペリクルフレーム支持手段13は、ペリクルフレーム21の各辺に少なくとも1箇所、好ましくは2箇所以上設けることが良い。位置や個数は、ペリクルフレーム21の下方向への自重撓み及び輸送中の振動による振れを考慮して決定すればよい。
【0022】
ペリクルフレーム支持手段13は、図4に示すように、階段状を成しており、その段差部13aにはペリクルフレーム21のマスク粘着層未塗布領域23が載置されている。この階段形状は、ペリクルフレーム21の高さの20%以上の高さのある垂直面13bを有することが良く、その上部は5〜45°の角度で外側に開いたテーパ面13cとすることが良い。また、ペリクルフレーム支持手段13の頂部の高さは、自動装置、あるいは取り出し治具によるペリクル20の取り出し作業において、その装置との干渉を避けるために、ペリクル膜25の面よりも低くなっていることが好ましい。
【0023】
このペリクルフレーム支持手段13の形状は、図4に示す形状に限定されるものではなく、ペリクルフレーム21の形状に合わせて適宜変更が可能である。また、別の方法でペリクル20の水平方向への移動を規制することができれば、段差がない平面形状でも良い。
【0024】
ペリクルフレーム支持手段13は、樹脂、エラストマー等の軟質でかつペリクルフレーム21との接触において発塵しにくい材質を用いることが良く、射出成形、注型成形、光造形等の一括成形できる手法により製作されることが好ましい。具体的な材質としては、スチレン系、ポリエステル系、オレフィン系、ポリアミド系、ウレタン系などの熱可塑性エラストマー、ゴムとしては、ニトリルゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。この中でも、スチレン系、ポリエステル系エラストマーは、表面タックが小さく、載置したペリクルフレーム21が貼り付きにくい利点があり、特に好ましい。
【0025】
ペリクルフレーム支持手段13の大きさは、ペリクルフレーム21に沿った長さで10〜50mm程度とすることが良く、接着など公知の方法によってペリクル収納容器本体11に取り付けることができる。より好ましくは、図4にその断面が示されているように、ペリクルフレーム支持手段13の下面に雌ねじを加工した金属製部材、例えば板ナット17をインサート成形し、ボルト16によりペリクル収納容器本体11の外側から締結固定することが良い。
【0026】
ペリクルフレーム21の外側面に設けられた溝26には、図5に示すように、板状を成すフレーム固定具14が挿入されている。このフレーム固定具14は、図7及び図8に示すように、さらにペリクル収納容器本体11上に設けられた固定具保持手段15の水平方向の溝15aもしくは角孔15bに保持されている。図7は、固定具保持手段15に溝15aを設けた実施形態であり、図8は、固定具保持手段15に角孔15bを設けた実施形態である。これらの溝15a又は角孔15bは、フレーム固定具14と嵌合した際に、スムーズに抜き差し可能な公差とすることが良い。溝15aの方が角孔15bよりも寸法管理のしやすさ、成形性や洗浄性等の点で利点がある。
【0027】
また、ペリクル固定具14は、その先端が段差14aを有する形状となっているが、先端がR状、テーパ―状又は幾つかの組み合わせ形状となっていても良く、その他全体的な形状についても適宜変更を加えることができる。
【0028】
フレーム固定具14及び固定具保持手段15は、ABS、PPS、POM、PEEKなどの樹脂で製作することが良く、必要に応じてフィラー強化されたものを用いることも良い。製造方法としては、射出成型、トランスファー成形などの溶融成形又は機械切削加工などが挙げられる。
【0029】
ペリクル収納容器本体11へ取り付ける場合は、接着の他にペリクル収納容器外側からボルト(図示しない)で締結することが良い。固定具保持手段15は、量産性、作業性、発塵防止の点から、雌ねじを有する金属部品をインサートして射出成形で製作することが最も好ましい。
【0030】
フレーム固定具14は、図1に示すように、この実施形態では、長辺の角部近傍の4箇所に設けられているが、この設置位置や個数は、フレームの固定しやすさ、ペリクル取り出し治具あるいは自動装置との干渉を考慮して、適宜決定することができる。例えば、短辺の角部近傍の4箇所でも構わないし、また、短辺と長辺の両方に配置されていても良い。好ましい設置位置としては、フレームの剛性が高く、膜張力によるフレーム撓みが小さく、寸法が安定しているフレームの角近傍を挙げることができるが、フレームの剛性が高ければ比較的内側に配置しても問題はない。
【0031】
ペリクル20は、ペリクルフレーム側面の溝26に挿入されたフレーム固定具14が輸送中に抜けてしまうと、ペリクル収納容器10内で移動してマスク粘着層22が容器に接着したり、汚損又は破損する恐れがある。そのため、フレーム固定具14を固定具保持手段15上でしっかりと固定するために、蓋体12の内面をフレーム固定具14の上面に接触又は押圧させてフレーム固定具14を固定する構造とすることが良い。例えば、図5に示すように、蓋体12の内側に樹脂、ゴム、エラストマー等からなる弾性体51を取り付けるとともに、この弾性体51を介してフレーム固定具14を押圧固定することが好ましい。この実施態様では、弾性体51を介することでより寸法誤差の影響を排除することができる。
【0032】
弾性体51の好適な材質としては、具体的には、スチレン系、ポリエステル系、オレフィン系、ポリアミド系、ウレタン系などの熱可塑性エラストマー、ゴムとしては、ニトリルゴム、フッ素ゴム、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、ウレタンゴム等が挙げられる。この中でも、低硬度のものが入手しやすく、低発塵、低発ガスであることから、シリコーンゴム、ウレタンゴムが特に好ましい。
【0033】
また、フレーム固定具14を固定するための他の実施形態としては、図9に示すように、固定具保持手段91の形状を平面部のある形状とし、フレーム固定具14を粘着テープ92により固定具保持手段91に貼り付け固定する形態も挙げられる。この実施形態では、粘着テープ92の取り付け、取り外しの際に作業者の手等からペリクル20に異物が付着する恐れはあるが、操作が簡便であり、設計や運用において、フレーム固定具14の固定に関して蓋体12との位置関係を考慮しなくても良いという利点がある。
【0034】
さらに、他の実施形態としては、フレーム固定具14の後端を蓋体12の内面に接触させて水平方向(溝から抜ける方向)への移動を規制するような形態も挙げられる。この実施形態では、図10に示すように、蓋体12内面に弾性体101を取り付けてこれに接触させることが好ましい。この実施形態では、弾性体101を介してフレーム固定手段14を規制することで各部材の寸法誤差をより吸収しやすくなるため、寸法誤差による不具合を解消することができる。
【0035】
ペリクル収納容器本体11及び蓋体12は、厚さ2〜8mm程度のアクリル、ABS、PVC、PCなどの樹脂板を用いて真空成型又は圧空成形で製作することが好ましい。一辺が200mm以下の小型のものは射出成型で製作しても良く、この場合、剛性や平面度の向上を目的として適宜リブ等を設けることができる。
【0036】
ペリクル収納容器本体11は、付着した異物の視認性の向上のために黒色であることが好ましい。蓋体12は、収納したペリクル20を視認することができるように透明又は有色半透明であることが好ましいが、耐候性等の理由から時には黒色であってもよい。また、ペリクル収納容器本体11及び蓋体12は、共に樹脂自体に帯電防止性能を付与するか又はその表面に帯電防止塗装を施すことも異物の付着防止の観点から好適である。さらに、樹脂自体に難燃材を添加するか又は難燃性樹脂を使用するなどによって難燃性が付与されていれば、安全性の点からより好ましい。
【0037】
ペリクル収納容器本体11は、その辺長が1000mmを超えるような特に大型の場合は、樹脂成形品の外側に金属や繊維強化樹脂からなる補強材を取り付けるか又は収納容器自体を金属で製作することが好ましい。収納容器自体を金属とした際に使用する材料としては、アルミニウム合金、マグネシウム合金等の軽合金が好適であるが、ステンレス鋼や炭素鋼の薄板を使用しても良い。成形方法としては、鋳造等の一体成形が好ましいが、プレス成型等で各構成部材を製作した後に、溶接や接着、ネジ締結等の手法により各構成部材を接合して構成しても良い。また軽量化のためにはその内部を空洞にしても良い。
【0038】
また、ペリクル収納容器本体11及び蓋体12は、共に使用時の利便性を考慮して、ハンドルや蓋体を固定するためのバックルを設けることができる(図示しない)。さらに、ペリクル収納容器本体11には、フォークリフト等での搬送を考慮した脚部等を設けることもできる(図示しない)。
【実施例】
【0039】
以下、本発明の実施例について図面に基づいて詳細に説明する。
最初に、図1〜6に示すようなペリクル収納容器10を製作した。ペリクル収納容器本体11は、厚さ5mmの黒色難燃帯電防止ABS樹脂板を真空成形して製作した。一方、ペリクル収納容器本体11と周縁部で嵌合する蓋体12は、厚さ5mmの透明ポリカーボネート樹脂板を真空成形して製作したもので、成形加工後にその全面に帯電防止剤(信越ポリマー(株)製、商品名セプルジーダ)を塗装した。組み合わせた後の外寸は、1350x1535x120mmである。
【0040】
ペリクルフレーム支持手段13は、材質としてポリエステル系エラストマー(東レ・デュポン(株)製、商品名;ハイトレル)を用い、内部にステンレス鋼で製作した板ナット17を挿入し、射出成型により製作した。そして、このように製作したペリクルフレーム支持手段13をペリクル収納容器本体11上に配置し、裏面から各2本のボルト16で取り付けた。
【0041】
ペリクルフレーム支持手段13の取り付け位置は、図1に示すように、長辺、短辺とも4箇所である。このような位置は、ペリクル取り出しの際に、ペリクルを把持するハンドリング治具又は自動装置のペリクル把持機構と干渉しないように考慮して決定される。
【0042】
また、ペリクル収納容器本体11上には、ABS樹脂を射出成型して製作した固定具保持手段15が裏面からボルト(図示しない)にて固定されている。この固定具保持手段15を固定する場合、固定具保持手段15に挿入されるペリクル固定具14がペリクルフレーム21外側面に設けた図5に示す溝26に嵌合するようにその位置の調整を行った。
【0043】
そして、このペリクル収納容器10をクラス10のクリーンルームに搬入し、界面活性剤と純水で良く洗浄し、完全に乾燥させた。
【0044】
次に、このペリクル収納容器10を評価するために、ペリクル20を製作した。最初に、外寸1366x1136mm、フレーム幅12mm、フレーム高さ5.8mmのA5052アルミニウム合金製フレームを機械切削加工してペリクルフレーム21を製作した。また、このペリクルフレーム21の各長辺には、通気孔として直径1.5mmの貫通孔(図示しない)を4箇所設けるとともに、長辺の角部近傍には、高さ3mm、深さ2.3mm、長さ40mmの溝26を設けた。そして、その表面をRa0.6程度にサンドブラスト処理した後に黒色アルマイト処理を施した。
【0045】
また、このペリクルフレーム21の枠状を成す一面には、トルエンで希釈したシリコーン粘着剤(信越化学工業(株)製)をエア加圧式ディスペンサで塗布し、その内周に沿って高さ1.2mm、幅5mmのマスク粘着層22の塗布領域を形成した。そのため、フレーム幅が12mmのペリクルフレーム21には、その外周に幅7mmのマスク粘着層が塗布されていない未塗布領域23が形成されている。
【0046】
さらに、ペリクルフレーム21のマスク粘着層22を形成した面の対面には、トルエンで希釈したシリコーン粘着剤(信越化学工業(株)製)をエア加圧式ディスペンサで塗布し、ペリクル膜接着層24を形成した。そして、このペリクル膜接着層24上にペリクル膜25としてフッ素系樹脂(旭硝子(株)製、商品名サイトップ)からなる厚さ4.1μmのものを張設するとともに、各長辺に設けた通気孔をPTFE膜からなるフィルタで覆って(図示しない)、ペリクル20を完成させた。
【0047】
次に、このように製作したペリクル20を暗室内で異物検査の上、洗浄したペリクル収納容器本体11上のペリクルフレーム支持手段13上に載置し、図5に示すように、フレーム固定具14を固定具保持手段15上でスライドさせてペリクルフレーム21の外側面の溝26に挿入した。そして、その後に、蓋体12をペリクル収納容器本体11に被せて密閉するとともに、その周縁部を粘着テープ(図示しない)で密封して、ペリクル20をペリクル収納容器10に収納した。
【0048】
このペリクル20の収納に際し、4箇所のフレーム固定具14近傍の蓋体12の内側には、図5に示すように、硬度50(ショアA)のシリコーンゴム製の弾性体51を取り付けておいた。この弾性体51は、蓋体12をペリクル収納容器本体11上に載置した際に、フレーム固定具14の上部に接触して、0.2〜1mmの変形しろで潰れるように調整されているため、フレーム固定具14は、この弾性体51により、固定具保持手段15上で押圧固定されている状態となる。
【0049】
最後に、本発明のペリクル収納容器10の評価として、従来のセパレータを使用しないペリクル20が収納されたペリクル収納容器10を作業者2名でおよそ腰の高さまで持ち上げて、水平から略垂直に傾ける動作を各辺(4方向)について5回の合計20回行った。その後、クリーンルーム内にて開梱し、暗室でペリクル20の損傷や異物の付着状況を検査したところ、ペリクル20は、ペリクル収納容器本体11上で全く動いておらず、ペリクル20に付着している異物の増加も全く見られなかった。
【0050】
また、ペリクルフレーム21についても検査したところ、ペリクルフレーム支持手段13に接触していた部分の異物付着や擦れなどの痕跡は見られず、マスク粘着層22についても接触跡などの欠陥は全く見られなかった。
【0051】
次に、この使用したペリクル収納容器10を湿度40〜70%、温度20〜30℃の環境で1年間保管し、1年後にこのペリクル収納容器10を再び開梱し、同じペリクル20を1年前の試験と同様に収納したところ、ペリクルフレーム支持手段13上にペリクルフレーム21を載置して溝26にペリクル固定具14を挿入することができたので、経時的な変化もなく運用上及び管理上の問題は何ら見られなかった。
【比較例】
【0052】
比較例では、最初に、実施例のペリクル収納容器10のフレーム固定具14、固定具保持手段15に替えて、図11の平面図に示すような、ピン112とピン保持手段113からなる固定手段を用いたペリクル収納容器110を製作した。図12は、ピン112とピン保持手段113を組み合わせた状態を示す斜視図である。図11では、ペリクル収納容器本体の説明のために、蓋体についての記載を省略しているが、蓋体の構造は、基本的に実施例と同一である。
【0053】
比較例のピン112とピン保持手段113の材質は、何れもABS樹脂とし、射出成型にて製作した。ピン112は、ピン軸112a、突起112b、一段太くなった操作部112cから構成されるとともに、ピン保持手段113に支持されている。また、ピン112は、抜き差し可能な間隙で嵌合するとともに、旋回操作により突起112bがピン保持手段の凹部113aに噛みあい、挿入した位置で固定されるようになっている。そして、ピン軸112aの先端には、ペリクルフレーム121との擦れによる発塵防止を目的として、フッ素ゴムからなる弾性体114が取り付けられている。
【0054】
次に、比較例でも、実施例と同寸のペリクルフレーム121を製作し、その長辺外側面には、直径2mm、深さ2.5mmの非貫通の丸孔122をフレーム角部から30mmの位置に合計4箇所設けた。そして、ペリクルフレーム121をペリクル収納容器本体111上のペリクルフレーム支持手段13上に載置した際に、ピン112がペリクルフレーム121の外側面の孔122に挿入できるように、ピン保持手段113はその位置が調整されるとともに、ボルト(図示しない)にてペリクル収納容器本体111上に固定されている。
【0055】
そして、実施例と同様に、このペリクル収納容器110をクラス10のクリーンルームに搬入し、界面活性剤と純水で洗浄して、完全に乾燥させた。
【0056】
次に、比較例でも、このペリクル収納容器110を評価するために、ペリクルフレーム121を用いた点以外は実施例と全く同じ材料と製作工程でペリクル120を製作したので、比較例のペリクルフレーム121にも、マスク粘着層が塗布された領域とその外周にはマスク粘着層が塗布されていない未塗布領域が形成されている。したがって、比較例のペリクル120と実施例のペリクル20とは、実施例のペリクルフレーム21の外側面では溝26を有していたのに対して、ペリクルフレーム121の外側面では非貫通の丸孔122を有している点以外は全く同じ構成である。
【0057】
このようなペリクル120を暗室内で異物検査の上、ペリクル収納容器110内に収納し、周縁部を粘着テープにて密封して(図示しない)、ペリクル収納容器110を完成させた。
【0058】
最後に、比較例のペリクル収納容器110の評価として、実施例と同様に、ペリクル120の収納されたペリクル収納容器110を作業者2名でおよそ腰の高さまで持ち上げて、水平から略垂直に傾ける動作を各辺(4方向)について5回の合計20回行った。その後、クリーンルーム内にて開梱し、暗室でペリクル120の損傷や異物の付着状況を検査したところ、ペリクル120は、ペリクル収納容器本体111上で全く動いておらず、ペリクル120に付着している異物の増加も全く見られなかった。
【0059】
また、ペリクルフレーム121についても検査したところ、ペリクルフレーム支持手段13に接触していた部分の異物付着や擦れなどの痕跡は全く見られなかった。
【0060】
しかしながら、次に、この使用したペリクル収納容器110を実施例と同じく湿度50%、温度20〜30℃の環境で1年間保管し、1年後にこのペリクル収納容器110を再び開梱し、同じペリクル120を収納しようとしたところ、ペリクルフレーム121の孔122とピン112の位置が正対しておらず、水平方向におよそ1.5mmのずれが生じていたため、ピン112を挿入することができなかった。この理由としては、ペリクル収納容器本体111の経時寸法変化によりピン112の位置がずれてしまったためと考えられ、ペリクル120の収納にはピン位置の再調整が必要であった。
【符号の説明】
【0061】
10 ペリクル収納容器
11 ペリクル収納容器本体
12 蓋体
13 ペリクルフレーム支持手段
13a 段差部
13b 垂直面
13c テーパ面
14 フレーム固定具
14a 先端段差部
15 固定具保持手段
15a 溝
15b 角孔
16 ボルト
17 板ナット
20 ペリクル
21 ペリクルフレーム
22 マスク粘着層
23 マスク粘着層未塗布領域
24 ペリクル膜接着層
25 ペリクル膜
26 溝
51 弾性体
91 固定具保持手段
92 粘着テープ
101 弾性体
110 ペリクル収納容器
111 ペリクル収納容器本体
112 ピン
112a ピン軸
112b 突起
112c 操作部
113 ピン保持手段
113a 凹部
114 弾性体
120 ペリクル
121 ペリクルフレーム(比較例)
122 孔

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12