(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記平均昇温速度が、60℃/秒〜760℃/秒であり、前記平均降温速度が、190℃/秒〜500℃/秒である、請求項1に記載のアモルファス合金リボンの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示のアモルファス合金リボン及びその製造方法について、詳細に説明する。
【0019】
本明細書において、「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
また、本明細書において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本明細書において、「アモルファス合金リボン」とは、長尺の合金リボンを意味する。
【0020】
本開示のアモルファス合金リボンの製造方法は、Fe、Si、B、C、及び不可避的不純物からなる組成を有するアモルファス合金リボン(以下、単に「合金リボン」ともいう。)を準備する工程(以下、「合金リボン準備工程」ともいう。)と、アモルファス合金リボンを20MPa〜80MPaの引張応力で張架し、平均昇温速度を50℃/秒以上800℃/秒未満として410℃〜480℃の範囲の最高到達温度までアモルファス合金リボンを昇温させる工程(以下、「昇温工程」ともいう。)と、前記アモルファス合金リボンを20MPa〜80MPaの引張応力で張架した状態で、昇温されたアモルファス合金リボンを、平均降温速度を120℃/秒以上600℃/秒未満として前記最高到達温度から降温伝熱媒体の温度まで降温させる工程(以下、「降温工程」ともいう。)と、を有し、下記組成式(A)で表される組成を有するアモルファス合金リボンを製造するものである。
【0021】
Fe
100−a−bB
aSi
bC
c … 組成式(A)
組成式(A)において、a及びbは、組成中の原子比を表し、それぞれ下記範囲を満たす。cは、Fe、Si及びBの合計量100.0原子%に対するCの原子比を表し、下記範囲を満たす。
13.0原子%≦a≦16.0原子%
2.5原子%≦b≦5.0原子%
0.20原子%≦c≦0.35原子%
79.0原子%≦100−a−b≦83.0原子%
組成式(A)で表される組成を有するアモルファス合金リボンの詳細については、以下において詳述する。
【0022】
<合金リボン準備工程>
本開示のアモルファス合金リボンの製造方法は、Fe、Si、B、C、及び不可避的不純物からなる組成を有するアモルファス合金リボンを準備する工程を有する。
アモルファス合金リボンは、軸回転する冷却ロールに合金溶湯を噴出する液体急冷法等の公知の方法によって製造することができる。但し、アモルファス合金リボンを準備する工程は、必ずしもアモルファス合金リボンを製造する工程である必要はなく、予め製造されたアモルファス合金リボンを単に準備する工程であってもよい。
【0023】
アモルファス合金リボンを準備する工程は、アモルファス合金リボンの巻回体を準備することを含んでいてもよい。
【0024】
アモルファス合金リボンの製造は、例えば、液体急冷法(単ロール法、双ロール法、遠心法等)等の公知の方法により行うことができる。中でも、単ロール法は、製造設備が比較的単純で、かつ安定製造が可能な製造法であって、優れた工業生産性を有する。
【0025】
<昇温工程>
本開示のアモルファス合金リボンの製造方法は、アモルファス合金リボンを20MPa〜80MPaの引張応力で張架した状態で、平均昇温速度を50℃/秒以上800℃/秒未満として410℃〜480℃の範囲の最高到達温度まで昇温させる工程を有する。
【0026】
本工程では、一定の金属組成を選択した上で、最高到達温度を410℃〜480℃としつつ、アモルファス合金リボンの平均昇温速度を800℃/秒未満に抑え、かつ、張架した状態で加熱することで、平坦度を向上できる。
【0027】
本工程では、アモルファス合金リボンを上記の平均昇温速度に調節し、上記最高到達温度まで昇温できる方法であれば、いずれの方法で熱処理してもよい。熱処理する場合、アモルファス合金リボンを張架した状態で走行させながら伝熱媒体(本工程では昇温伝熱媒体)に接触させることにより、アモルファス合金リボンを昇温してもよい。
「張架した状態で走行」とは、アモルファス合金リボンが、引張応力が加えられた状態で連続走行することをいう。降温工程においても同様である。
【0028】
アモルファス合金リボンに加えられる引張応力は、20MPa〜80MPaの範囲とされる。引張応力が上記範囲内であると、合金リボンが伝熱媒体に接して昇温される際、合金リボンの平坦度が改善される。
引張応力が20MPa未満であると、アモルファス合金リボンの平坦度の改善効果が顕在化しにくい。また、引張応力が80MPaより大きくなると、熱処理時にアモルファス合金リボンが破断するおそれが生じ、安定生産が困難となりやすい。
引張応力としては、アモルファス合金リボンの平坦度の改善効果をより高める観点から、40MPa以上が好ましく、45MPa以上がより好ましい。また、引張応力は、熱処理時のアモルファス合金リボンの破断のおそれをより低減する観点から、70MPa以下が好ましく、60MPa以下がより好ましい。
【0029】
張架されたアモルファス合金リボンの引張応力は、合金リボンを連続走行させる装置(例えば、後述のインラインアニール装置)での走行制御機構で制御され、走行制御機構で制御される張力を合金リボンの断面積(幅×厚さ)で除した数値として求められる。
【0030】
本工程では、アモルファス合金リボンの平坦性の改善効果と熱処理時における合金リボンの破断回避との観点から、最高到達温度が420℃〜470℃の範囲であり、かつ、引張応力が40MPa〜70MPaである場合が好ましく、更には、最高到達温度が430℃〜470℃であり、かつ、引張応力が45MPa〜60MPaである場合がより好ましい。
【0031】
平均昇温速度は、50℃/秒以上800℃/秒未満に調整され、中でも、60℃/秒〜760℃/秒が好ましく、300℃/秒〜500℃/秒がより好ましい。
【0032】
平均昇温速度とは、昇温前(例えば、後述のように伝熱媒体に接触させる前)のアモルファス合金リボンの温度と、アモルファス合金リボンの最高到達温度(=昇温伝熱媒体の温度)と、の温度差を、アモルファス合金リボンが伝熱媒体に接触している時間(秒)で除した値を意味する。
具体的には、例えば
図4に示すインラインアニール装置の場合、アモルファス合金リボンの走行方向における、加熱室20の進入口より10mm上流の地点で放射温度計により測定されたリボン温度(加熱前のアモルファス合金リボンの温度、一般に室温(20℃〜30℃)である。)と、昇温伝熱媒体の温度(=最高到達温度、例えば460℃)と、の温度差を、昇温伝熱媒体に接触している時間(秒)で除して求められる。なお、前記加熱室入口より10mm上流の地点で放射温度計での測定が困難である場合、又は室温が不明の場合は、25℃と設定できる。
【0033】
インラインアニール装置とは、例えば、
図4〜
図7に示すように、巻出しロールから巻取りロールに亘って、長尺のアモルファス合金リボンに対して昇温工程〜降温(冷却)工程を含む連続した熱処理工程を施すインラインアニール工程を行う装置を指す。
【0034】
昇温伝熱媒体の温度は、410℃〜480℃に調整されることが好ましい。
昇温工程では、アモルファス合金リボンを410℃〜480℃の最高到達温度まで昇温させる。張架により、アモルファス合金リボンの平坦度の改善に寄与する。
ここで、最高到達温度は、昇温工程での昇温伝熱媒体の温度と同一温度である。
「昇温伝熱媒体の温度」及び「最高到達温度」は、合金リボンが接触する昇温伝熱媒体の表面に熱電対を設置して測定される温度である。
【0035】
伝熱媒体の温度が410℃以上であると、引張応力を印加することによる平坦度の改善効果が得られやすい。伝熱媒体の温度が480℃以下であると、アモルファス合金リボンの脆化促進を抑えることができる。
伝熱媒体の温度としては、平坦度の改善効果を高める観点から、420℃以上がより好ましく、430℃以上が更に好ましく、440℃以上が特に好ましい。また、伝熱媒体の温度の上限値は、アモルファス合金リボンの脆化抑制の観点から、470℃以下がより好ましい。
【0036】
昇温工程において、アモルファス合金リボンを伝熱媒体側から吸引して、アモルファス合金リボンと伝熱媒体との接触面積の低下を抑制する態様が好ましい。具体的には、伝熱媒体のアモルファス合金リボンの接触面に吸引孔を有し、吸引孔でアモルファス合金リボンを減圧吸引することで、アモルファス合金リボンを伝熱媒体の表面に密着させることができる。これにより、アモルファス合金リボンがより平坦な形状に矯正され、アモルファス合金リボンの平坦性の向上効果が顕著となる。
【0037】
また、本工程では、昇温後、伝熱媒体上にて、アモルファス合金リボンの温度を一定時間保持してもよい。
【0038】
なお、伝熱媒体、伝熱媒体への接触及びその条件、加熱時の引張応力等の詳細については後述する。
【0039】
<降温工程>
次に、本開示のアモルファス合金リボンの製造方法は、上記の昇温工程で昇温されたアモルファス合金リボンを、平均降温速度を120℃/秒以上600℃/秒未満として上記の最高到達温度から降温伝熱媒体温度まで降温させる工程を有する。
【0040】
本工程では、アモルファス合金リボンを上記の平均降温速度に調節し、上記降温伝熱媒体温度まで降温できる方法であれば、いずれの方法で行われてもよい。
降温処理は、アモルファス合金リボンを張架した状態で走行させながら伝熱媒体(本工程では降温伝熱媒体)に接触させることにより、アモルファス合金リボンを降温してもよい。
【0041】
アモルファス合金リボンに加えられる引張応力は、昇温工程と同様に、20MPa〜80MPaの範囲とされる。引張応力が上記範囲内であると、合金リボンが降温される際、昇温時に改善された合金リボンの平坦度を著しく損なわず、合金リボンの平坦度を良好に維持することができる。
引張応力が20MPa未満であると、アモルファス合金リボンの平坦度の改善効果が顕在化しにくい。また、引張応力が80MPaより大きくなると、アモルファス合金リボンが破断するおそれが生じ、安定生産が困難となりやすい。
引張応力としては、アモルファス合金リボンの平坦度の改善効果をより高める観点から、40MPa以上が好ましく、45MPa以上がより好ましい。また、引張応力は、熱処理時のアモルファス合金リボンの破断のおそれをより低減する観点から、70MPa以下が好ましく、60MPa以下がより好ましい。
張架されたアモルファス合金リボンの引張応力は、上記の通り、合金リボンを連続走行させる装置(例えば、後述のインラインアニール装置)での走行制御機構で制御され、走行制御機構で制御される張力を合金リボンの断面積(幅×厚さ)で除した数値として求められる。
【0042】
降温伝熱媒体の温度は、200℃以下の温度域が好ましい。
ここで、降温伝熱媒体温度とは、本工程で降温させた際の到達温度を指し、200℃、150℃、100℃、又は室温(例えば20℃)等の温度であってもよく、適宜設定することができる。
「降温伝熱媒体温度」は、合金リボンが接触する昇温伝熱媒体の表面に熱電対を設置して測定される温度である。
【0043】
本開示のアモルファス合金リボンの製造方法では、既述のように一定の組成を選択し、昇温工程を経た後、更に、平均降温速度を600℃未満に抑えてアモルファス合金リボンを降温させる。これにより、昇温工程で改善された合金リボンの平坦性を維持することができる。
【0044】
平均降温速度は、最高到達温度から降温熱媒体温度まで降温される平均速度である。平均降温速度としては、上記と同様の理由から、600℃/秒未満であり、より好ましい上限値は500℃/秒であり、さらに好ましい上限値は400℃/秒であり、さらに好ましい上限値は300℃/秒である。一方、下限側の平均降温速度は好ましくは190℃/秒以上であり、より好ましい下限値は200℃/秒である。
中でも、平均降温速度は、190℃/秒〜500℃/秒であることが好ましい。
【0045】
平均降温速度とは、例えば最高到達温度から降温伝熱媒体の温度まで降温した場合、アモルファス合金リボンの最高到達温度(=昇温伝熱媒体の温度)と降温伝熱媒体の温度との温度差を、アモルファス合金リボンが昇温伝熱媒体を離れた時点から降温伝熱媒体を離れた時点までの時間(秒)で除した値を意味する。具体的には、例えば
図4に示すインラインアニール装置の場合、アモルファス合金リボンの走行方向における昇温伝熱媒体(
図4中の加熱プレート22)の温度(=最高到達温度)と、降温伝熱媒体(
図4中の冷却プレート32)の温度と、の温度差を、昇温伝熱媒体を離れた時点から降温伝熱媒体を離れた時点までの時間(秒)で除して求められる。
ここでは、冷却室が1つであるが、複数の冷却室を連結して備えている場合(最上流の冷却室を第1の冷却室、第1の冷却室より下流の冷却室を第2の冷却室、等ということがある。)には、アモルファス合金リボンの走行方向最上流の(第1の)冷却室での平均降温速度(最高到達温度と第1の降温伝熱媒体温度との温度差を、アモルファス合金リボンが昇温伝熱媒体を離れた時点から第1の降温伝熱媒体を離れた時点までの時間(秒)で除した値)とする。
【0046】
上記の昇温工程及び降温工程で用いられる伝熱媒体としては、プレート、ツインロール、等が挙げられる。
伝熱媒体の材質としては、銅、銅合金(青銅、真鍮、等)、アルミニウム、鉄、鉄合金(ステンレス等)、などが挙げられる。このうち、銅、銅合金、又はアルミニウムは熱電率(熱伝達率)が高く好ましい。
伝熱媒体は、Niめっき、Agめっき等のめっき処理が施されていてもよい。
【0047】
冷却方法としては、昇温用の伝熱媒体から合金リボンを離した後に大気に曝して冷却する方法でもよいが、冷却速度を制御するため、冷却器を使用して合金リボンを強制冷却することが好ましい。冷却器としては、リボンに冷風を送って冷却する非接触型の冷却器でもよく、上記の伝熱媒体の温度を例えば200℃以下として合金リボンを接触させて冷却する接触型の冷却器でもよい。伝熱媒体が合金リボンとの接触面に吸引孔を有し、吸引孔において減圧吸引することにより、合金リボンを伝熱媒体の吸引孔を有する面に吸引吸着させてもよい。
これにより、昇温工程において平坦度を改善したアモルファス合金リボンの平坦度を、降温工程において維持するのに効果的である。
【0048】
降温に際して伝熱媒体を用いる場合、昇温工程で加熱された合金リボンを昇温工程の伝熱媒体から離し、合金リボンを降温することが好ましい。この場合、冷却器としてリボンに冷風を送って降温する非接触型の冷却器でもよい。合金リボンの降温速度の観点からは、降温伝熱媒体の温度を100℃以下として合金リボンを接触させて降温する接触型の冷却器を用いた態様が好ましい。伝熱媒体としては、昇温工程で使用可能なものと同様の伝熱媒体を使用することができる。
【0049】
降温に伝熱媒体を用い、降温伝熱媒体温度まで合金リボンを接触させて降温する態様は、昇温工程からの降温が連続的に行いやすい。合金リボンの伝熱媒体への接触は、昇温工程での最高到達温度から降温伝熱媒体温度まで降温した際の平均降温速度を120℃/秒以上600℃/秒未満として行われる。
【0050】
また、合金リボンと昇温伝熱媒体(例えば加熱プレート)の接触面は、平面であることが好ましい。また、合金リボンと降温伝熱媒体(例えば冷却プレート)の接触面は、平面であることが好ましい。
より好ましくは、合金リボンと昇温伝熱媒体(例えば加熱プレート)及び降温伝熱媒体(例えば冷却プレート)の接触面は、同一平面内に配置される。これにより、昇温工程からの降温がより一層連続的に行いやすくなるため、効果的に合金リボンの平坦度向上及びその維持が可能となる。
【0051】
本開示のアモルファス合金リボンの製造方法は、
図4〜
図7に示す、加熱室及び冷却室を備えたインラインアニール装置を用いて実施されることが好ましい。
【0052】
図4に示されるように、インラインアニール装置100は、合金リボンの巻回体11から合金リボン10を巻き出す巻き出しローラー12(巻き出し装置)と、巻き出しローラー12から巻き出された合金リボン10を加熱する加熱プレート(伝熱媒体)22と、加熱プレート22によって加熱された合金リボン10を冷却する冷却プレート(伝熱媒体)32と、冷却プレート32によって冷却された合金リボン10を巻き取る巻き取りローラー14(巻き取り装置)と、を備える。
図4では、合金リボン10の走行方向を、矢印Rで示している。
【0053】
巻き出しローラー12には、合金リボンの巻回体11がセットされている。
巻き出しローラー12が矢印Uの方向に軸回転することにより、合金リボンの巻回体11から合金リボン10が巻き出される。
この一例では、巻き出しローラー12自体が回転機構(例えばモーター)を備えていてもよいし、巻き出しローラー12自体は回転機構を備えていなくてもよい。
巻き出しローラー12自体は回転機構を備えていない場合でも、後述の巻き取りローラー14による合金リボン10の巻き取り動作に連動し、巻き出しローラー12にセットされた合金リボンの巻回体11から合金リボン10が巻き出される。
【0054】
図4中、丸で囲った拡大部分に示すように、加熱プレート22は、巻き出しローラー12から巻き出された合金リボン10が接触しながら走行する第1平面22Sを含む。この加熱プレート22は、第1平面22Sに接触しながら第1平面22S上を走行している合金リボン10を、第1平面22Sを介して加熱する。これにより、走行中の合金リボン10が、安定的に急速加熱される。
【0055】
加熱プレート22は、不図示の熱源に接続されており、この熱源から供給された熱によって所望とする温度に加熱されている。加熱プレート22は、熱源に接続されることに代えて、又は、熱源に接続されることに加えて、加熱プレート22自身の内部に熱源を備えていてもよい。
加熱プレート22の材質としては、ステンレス、Cu、Cu合金、Al合金、等が挙げられる。
【0056】
加熱プレート22は、加熱室20に収容されている。
加熱室20は、加熱プレート22に対する熱源とは別に、加熱室の温度を制御するための熱源を備えていてもよい。
加熱室20は、合金リボン10の走行方向(矢印R)の上流側及び下流側のそれぞれに、合金リボンが進入又は退出する開口部(不図示)を有している。合金リボン10は、上流側の開口部である進入口を通って加熱室20内に進入し、下流側の開口部である退出口を通って加熱室20内から退出する。
【0057】
また、
図4中、丸で囲った拡大部分に示すように、冷却プレート32は、合金リボン10が接触しながら走行する第2平面32Sを含む。この冷却プレート32は、第2平面32Sに接触しながら第2平面32S上を走行している合金リボン10を、第2平面32Sを介して降温する。
【0058】
冷却プレート32は、冷却機構(例えば水冷機構)を有していてもよいし、特段の冷却機構を有していなくてもよい。
冷却プレート32の材質としては、ステンレス、Cu、Cu合金、Al合金、等が挙げられる。
【0059】
冷却プレート32は、冷却室30に収容されている。
冷却室30は、冷却機構(例えば水冷機構)を有していてもよいが、特段の冷却機構を有していなくてもよい。即ち、冷却室30による冷却の態様は、水冷であってもよいし、空冷であってもよい。
冷却室30は、合金リボン10の走行方向(矢印R)の上流側及び下流側のそれぞれに、合金リボンが進入又は退出する開口部(不図示)を有している。合金リボン10は、上流側の開口部である進入口を通って冷却室30内に進入し、下流側の開口部である退出口を通って冷却室30内から退出する。
【0060】
巻き取りローラー14は、矢印Wの方向に軸回転する回転機構(例えばモーター)を備えている。巻き取りローラー14の回転により、合金リボン10が所望とする速度で巻き取られる。
【0061】
インラインアニール装置100は、巻き出しローラー12と加熱室20との間に、合金リボン10の走行経路に沿って、ガイドローラー41、ダンサーローラー60(引張応力調整装置の一つ)、ガイドローラー42、並びに、一対のガイドローラー43A及び43Bを備えている。引張応力の調整は、巻き出しローラー12及び巻き取りローラー14の動作制御によっても行われる。
ダンサーローラー60は、鉛直方向(
図7中の両側矢印の方向)に移動可能に設けられている。このダンサーローラー60の鉛直方向の位置を調整することにより、合金リボン10の引張応力を調整できる。ダンサーローラー62についても同様である。
巻き出しローラー12から巻き出された合金リボン10は、これらのガイドローラー及びダンサーローラーを経由して、加熱室20内に導かれる。
【0062】
インラインアニール装置100は、加熱室20と冷却室30との間に、一対のガイドローラー44A及び44B、並びに、一対のガイドローラー45A及び45Bを備えている。
加熱室20から退出した合金リボン10は、これらのガイドローラーを経由して冷却室30内に導かれる。
【0063】
インラインアニール装置100は、冷却室30と巻き取りローラー14との間に、合金リボン10の走行経路に沿って、一対のガイドローラー46A及び46B、ガイドローラー47、ダンサーローラー62、ガイドローラー48、ガイドローラー49、並びに、ガイドローラー50を備えている。
ダンサーローラー62は、鉛直方向(
図7中の両側矢印の方向)に移動可能に設けられている。このダンサーローラー62の鉛直方向の位置を調節することにより、合金リボン10の引張応力を調整できる。
冷却室30から退出した合金リボン10は、これらのガイドローラー及びダンサーローラーを経由して、巻き取りローラー14に導かれる。
【0064】
インラインアニール装置100において、加熱室20の上流側及び下流側に配置されたガイドローラーは、合金リボン10と加熱プレート22の第1平面とを全面的に接触させるために、合金リボン10の位置を調整する機能を有する。
インラインアニール装置100において、冷却室30の上流側及び下流側に配置されたガイドローラーは、合金リボン10と冷却プレート32の第2平面とを全面的に接触させるために、合金リボン10の位置を調整する機能を有する。
【0065】
図5は、
図4に示すインラインアニール装置100の加熱プレート22を示す概略平面図であり、
図6は、
図5のIII−III線断面図である。
図5及び
図6に示すように、加熱プレート22の第1平面(即ち、合金リボン10との接触面)には、複数の開口部24(吸引構造)が設けられている。各開口部24は、それぞれ、加熱プレート22を貫通する貫通孔25の一端を構成している。
【0066】
この一例では、複数の開口部24が、合金リボン10との接触領域全体に渡り、二次元状に配置されている。
複数の開口部24の具体的な配置は、
図5に示される配置には限定されない。複数の開口部24は、
図5に示されるように、合金リボン10との接触領域全体に渡り、二次元状に配置されていることが好ましい。
また、開口部24の形状は、平行部(平行な2辺)を有する長尺形状となっている。開口部24の長さ方向は、合金リボン10の進行方向に対して直角な方向となっている。
開口部24の形状は、
図5に示される形状には限定されず、
図5に示される形状以外の長尺形状、楕円形状(円形状を含む)、多角形状(例えば長方形)、等のあらゆる形状を適用できる。
また、前述のとおり、開口部に代えて、又は、開口部に加えて、吸引構造としての溝が設けられていてもよい。
【0067】
インラインアニール装置100では、不図示の吸引装置(例えば、真空ポンプ)によって貫通孔25の内部空間を排気することにより(矢印S参照)、走行中の合金リボン10を加熱プレート22の開口部24が設けられた第1平面22Sに吸引することができる。これにより、走行中の合金リボン10を、より安定的に加熱プレート22の第1平面22Sに接触させることができる。
なお、この一例では、貫通孔25が、加熱プレート22の、第1平面22Sから第1平面22Sとは反対側の平面までを貫通している。貫通孔は、第1平面22Sから加熱プレート22の側面までを貫通していてもよい。
【0068】
図7は、本実施形態における加熱プレートの変形例(加熱プレート122)を示す概略平面図である。
図7に示されるように、この変形例では、加熱プレート122が、合金リボン10の走行方向(矢印R)について、3つの領域(領域122A〜122C)に分割されている。
領域122A〜122Cには、
図5に示す加熱プレート22と同様に、それぞれ複数の開口部124A、124B、124Cが、合金リボン10との接触領域全体に渡り、二次元状に配置されている。開口部124A、124B、124Cの各々は、加熱プレート122を貫通する貫通孔の一端を構成し、各領域における複数の貫通孔には、それぞれ複数の貫通孔と連通する排気管126A、126B及び126Cが取り付けられている。そして、排気管126A、126B及び126Cを通じて不図示の吸引装置(例えば、真空ポンプ)によって貫通孔の内部空間を排気することにより(矢印S参照)、走行中の合金リボン10を加熱プレート122の開口部124A、124B及び124Cが設けられた第1平面に吸引することができる。
【0069】
〜昇温工程及び降温工程の好ましい態様〜
昇温工程及び降温工程の好ましい一態様として、伝熱媒体を備えたインラインアニール装置を用い、合金リボンを、合金リボンとの接触面が互いに同一平面内に位置する昇温伝熱媒体及び降温伝熱媒体に接触させて張力を加えながら熱処理することにより、アモルファス合金リボンを作製する態様(以下、「態様X」という。)が挙げられる。
【0070】
本開示のアモルファス合金リボンの製造方法では、上記の昇温工程及び降温工程を経て下記組成式(A)で表される組成を有するアモルファス合金リボンを製造する。
Fe
100−a−bB
aSi
bC
c … 組成式(A)
組成式(A)において、a及びbは、組成中の原子比を表し、それぞれ下記範囲を満たす。cは、Fe、Si及びBの合計量100.0原子%に対するCの原子比を表し、下記範囲を満たす。
13.0原子%≦a≦16.0原子%
2.5原子%≦b≦5.0原子%
0.20原子%≦c≦0.35原子%
79.0原子%≦100−a−b≦83.0原子%
【0071】
本開示におけるアモルファス合金リボンは、上記の通り、昇温及び降温時に特定の引張応力が加えられるので、合金リボン表面(主面)の平坦度が優れている。また、本開示におけるアモルファス合金リボンは、組成式(A)で表される組成を有していることにより、平坦度の改善効果に優れる。
【0072】
以下、上記組成式(A)についてより詳細に説明する。
組成式(A)中のFeの原子比(原子%)は、「100−a−b」で求められる。Feは、アモルファス合金リボンの主成分であり、磁気特性を決定する主元素である。
なお、Feの含有比を表す「100−a−b」には、例えば、Nb、Mo、V、W、Mn、Cr、Cu、P、及びSからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む不可避不純物も含まれてもよい。この不可避不純物の含有量としては、1原子%以下の範囲であることが好ましい。
【0073】
本開示のアモルファス合金リボンは、79.0〔=(100−a−b)=(100−16.0−5.0)〕原子%以上のFe(不可避不純物を含む)を含有するFe基アモルファス合金リボンである。合金組成中のFeの含有比率を比較的高くすることにより、より平坦度改善効果を得ることができる。
上記の「100−a−b」は、79.0以上であり、80.5以上がより好ましく、81.0以上が更に好ましい。
「100−a−b」(原子%)の上限は、a、bに応じて決定され、83.0以下である。
上記のうち、「100−a−b」は、特に下記範囲を満たすことが好ましい。
80.5原子%≦100−a−b≦83.0原子%
【0074】
組成式(A)におけるBの原子比aは、13.0原子%以上16.0原子%以下である。Bは、アモルファス合金リボンにおいて、アモルファス状態を安定的に維持する機能を有する。
本開示では、aが13.0原子%以上であることで、Bの上記機能が効果的に発現する。また、aが16.0原子%以下であることで、Feの含有量が確保されるので、アモルファス合金リボン及びアモルファス合金リボン片の飽和磁束密度B
sが向上し、B
80を高くすることができる。
中でも、Bの原子比aは、下記範囲を満たすことが好ましい。
14.0原子%≦a≦16.0原子%
【0075】
組成式(A)におけるSiの原子比bは、2.5原子%以上5.0原子%以下である。
Siは、アモルファス合金リボンの結晶化温度を上昇させ、かつ、表面酸化膜を形成させる機能を有する。
本開示では、bが2.5原子%以上であることで、Siの上記機能が効果的に発現する。したがって、より高温での熱処理が可能となる。また、bが5.0原子%以下であることで、Feの含有量が確保されるので、アモルファス合金リボンの飽和磁束密度B
sが向上する。
Siの原子比bとしては、下記範囲を満たすことが好ましい。
3.0原子%≦b≦4.5原子%
【0076】
組成式(A)におけるCの原子比cは、0.20原子%以上0.35原子%以下である。Fe−B−Si系アモルファス合金リボンの組成に前記範囲のC(炭素)を加えることで、合金リボンの占積率が向上する。この理由は、前記範囲のCを加えることで、合金リボン表面の平坦性の向上効果が促進されるためと考えられる。cが0.20原子%未満では、合金リボン表面の平坦性向上が不十分となる。また、cが0.35原子%を超えると、熱処理での合金リボンの脆化傾向が顕著となるおそれがある。
Cの原子比cの好ましい範囲は、0.23原子%以上0.30原子%以下である。
【0077】
本開示のアモルファス合金リボンは、磁気特性として高い磁束密度及び低い保磁力を有している。
本開示のアモルファス合金リボンは、高い磁束密度(B
80及びB
800)を有する。なお、B
80は、80A/mの磁場で磁化した際の磁束密度であり、B
800は、800A/mの磁場で磁化した際の磁束密度である。
アモルファス合金リボンの磁束密度B
80は、1.45T以上が好ましい。特に、B
80が1.50T以上であると、アモルファス合金リボンから作製されるコアにおいて、様々な軟磁性応用部品を得ることができる。
【0078】
また、本開示のアモルファス合金リボンは、保磁力(Hc)が低く抑えられている。
保磁力は、1.0A/m以下が好ましく、0.8A/m以下がより好ましい。保磁力が1.0A/m以下であると、低いヒステリシス損失により、アモルファス合金リボンから作製されるコアにおいて、より低鉄損のコアが得られる。
【0079】
磁束密度(B
80,B
800)と保磁力(H
c)は、直流磁化測定装置SK110(メトロン技研株式会社製)を用いて求められる値である。
B
80は、直流磁化測定装置SK110を用いて磁場強度80A/mにて求められる値であり、B
800は、直流磁化測定装置SK110を用いて磁場強度800A/mにて求められる値である。
保磁力(H
c)は、磁場強度800A/mで測定したヒステリシス曲線より求められる値である。
【0080】
<アモルファス合金リボン>
本開示のアモルファス合金リボンは、裁断性を有し、かつ、幅方向の一端側に存在する起伏の、幅方向の一端から面内方向に10mmの位置における起伏頂部の高さ、及び幅方向の他端側に存在する起伏部の、幅方向の他端から面内方向に10mmの位置における起伏頂部の高さを含む複数の高さの平均値である高さhと、前記起伏部の幅長の平均値である幅wと、が下記式1を満たすものである。
0.1≦100×h/w≦1.5 式1
【0081】
本開示の巻磁心は、裁断性を備えるものである。裁断性を備えるとは、合金リボンをハサミで裁断することができることを指す。
裁断性は、アモルファス合金リボンの脆化の程度を表す第1の脆性指標となるものである。具体的には、合金リボンを二つの刃で挟んで裁断する裁断具(例えばハサミ)で裁断した際、ほぼ直線的に分割され、直線では無い破断部分が全裁断寸法の5%以下であることにより評価される。
【0082】
本開示のアモルファス合金リボンは、合金リボンの幅方向端部に現れる波形状(側波もしくは耳波)の起伏部の発生が少なく、波形状の起伏の大きさを表す平坦度が式1の範囲とされている。即ち、アモルファス合金リボンの平坦度は、「100×h/w」で求められる。
0.1≦100×h/w≦1.5 式1
本開示のアモルファス合金リボンにおいて、平坦度(=100×h/w)が1.5を超えると、合金リボンの幅方向端部での波形状が大きくなりすぎ、占積率が低くなる点で支障を来たす。平坦度(=100×h/w)は、一様な平面になる点で0(ゼロ)に近いほどよい。現実的な範囲として、平坦度は0.1以上としてもよい。
コア作製時の形状再現性、及び占積率をより高める観点から、平坦度は、0.1〜1.2が好ましく、0.1〜1.0がより好ましい。
【0083】
平坦度は、既述のように、アモルファス合金リボンの作製にあたり、昇温工程及び降温工程において特定の引張応力で張架した状態で昇温又は降温させる操作を設けて合金リボンの端部近傍に発生する起伏の程度を制御することにより調整することが可能である。
【0084】
式1の高さh及び幅wについて説明する。
高さhは、アモルファス合金リボンの、幅方向の一端の側に存在する波形状(側波)の起伏部と幅方向の他端の側に存在する波形状の起伏部との双方に着目し、幅方向両端に存在する起伏部の頂部高さの平均値として求められる。
具体的には、高さhは、アモルファス合金リボンの幅方向の一端から面内方向に10mmの位置に、幅方向と直交する長手方向に存在する複数の波形状の起伏部の各起伏頂部の高さと、アモルファス合金リボンの幅方向の他端から面内方向に10mmの位置に、前記長手方向に存在する複数の波形状の起伏部の各起伏頂部の高さと、を含めた複数の高さの平均値で表される。
図2及び
図3を参照して更に説明する。
【0085】
アモルファス合金リボンは、
図2に示すように、アモルファス合金リボンの幅方向端部近傍に合金リボンの厚さ方向(合金リボン主面鉛直方向)に起伏する複数の波形状(凹凸形状)が発生する場合がある。ここでの合金リボンの幅は、142.2mmとされている。
図2は、アモルファス合金リボンの幅方向両端近傍に形成された波形状の一例を斜視して示す概略斜視図であり、アモルファス合金リボン120が平坦な台(平面)110の上に置かれた状態を示している。
図2に示すアモルファス合金リボン120は、合金リボンの長手方向Pに直交する幅方向Qにおける両端部には、平坦な台(平面)110の鉛直方向(合金リボン主面鉛直方向)に長手方向Pに沿って連続的に起伏する凹凸形状が形成されている。
本明細書において、連続する複数の凹凸形状を、複数の振幅(形状)、複数の波形状、又は複数の側波形状ということもある。
図2及び
図3に示すように、合金リボンの幅方向Qにおける中央付近には、大きな起伏はみられず、幅方向端部の起伏の影響も少ない。したがって、合金リボンの幅方向における中央部と端部において、長手方向の合金リボンの長さは、幅方向における端部と中央部とで異なっており、合金リボンの端部における長さが中央部における長さより長いと考えられる。
【0086】
高さhは、例えば、アモルファス合金リボン120の幅方向Qの一端から面内方向に10mmの位置、即ち
図2中の二点鎖線A上の位置に、幅方向Qと直交する長手方向Pに沿って存在する複数の起伏部(側波)122の各起伏頂部C1、C2、C3・・・の高さh(
図2ではh
C1、h
C2、h
C3・・・h
Cm)と、アモルファス合金リボン120の幅方向Qの他端から面内方向に10mmの位置、即ち
図2中の二点鎖線B上の位置に、前記長手方向Pに沿って存在する複数の起伏部122の各起伏頂部D1、D2、D3・・・の高さh(
図2ではh
D1、h
D2、h
D3・・・h
Dn)と、を含めたm+n個の高さの平均値で表され、下記式により求めることができる。
高さh={(h
C1+h
C2+h
C3+・・・h
Cm)+(h
D1+h
D2+h
D3+・・・h
Dn)}/(m+n)
【0087】
各起伏部における起伏頂部の高さhは、合金リボンの端部から内側10mmにおける高さをレーザー変位計で連続測定し、各周期の最大値hを測定することによって測定できる。
【0088】
起伏部の幅wは、起伏部の各周期の幅長の平均値として表される。
幅wは、例えば
図3に示すように、起伏部122の起伏頂部の高さhを有する凸部(山部)を挟む凹部(底部)間の距離である。
幅wは、合金リボンの端部をレーザー変位計で測定し、その測定値から、長手方向に並ぶ起伏頂部の間に形成される凹部と凹部との間の距離(即ち、高さhが最も低い部分間の距離)を算出することで求められる値である。
【0089】
起伏部の幅wは、例えば、アモルファス合金リボン120の起伏部のうち、起伏頂部の高さhが測定された起伏部の幅長(
図2ではw
C1、w
C2、w
C3・・・w
Cm、w
D1、w
D2、w
D3・・・w
Dn)を測定し、m+n個の起伏部の幅長の平均値で表され、下記式により求めることができる。
ここで、幅wは、起伏頂部C1、C2、C3・・・及びD1、D2、D3・・・を含む
図2の二点鎖線A又は二点鎖線Bの位置での起伏部の幅の長さを指す。
幅w={(w
C1+w
C2+w
C3+・・・w
Cm)+(w
D1+w
D2+w
D3+・・・w
Dn)}/(m+n)
【0090】
なお、
図2では、模式的にいずれの起伏部も幅長l(一定)とされており、起伏部間の凹部には平坦部分が存在するが、模式的に表した一例であってこれに限られず、幅長は一定でない場合があり、また、凹部には平坦部分が存在せず、高さhが最も低い部分が存在するのみの場合がある。
【0091】
アモルファス合金リボンは、厚さが20μm〜30μmであることが好ましい。
厚さが20μm以上であると、アモルファス合金リボンの機械的強度が確保され、アモルファス合金リボン片の破断が抑制される。アモルファス合金リボンの厚さは、22μm以上であることがより好ましい。また、厚さが30μm以下であると、鋳造後のアモルファス合金リボンにおいて、安定したアモルファス状態が得られる。
【0092】
アモルファス合金リボンの各々は、長手方向と直交する幅長が20mm以上であることが好ましく、220mm以下であることが好ましい。
アモルファス合金リボンの幅長が20mm以上であると、生産性良くコア作製が可能である。また、アモルファス合金リボンの幅長が220mm以下であると、幅方向の厚さや磁気特性のバラツキを抑制でき、安定生産性を確保し易い。
【実施例】
【0093】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はその主旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0094】
<アモルファス合金リボンの作製>
軸回転する冷却ロールに合金溶湯を噴出する液体急冷法により、Fe
81.3Si
4.0B
14.7C
0.25(原子%)の組成を有する、幅142mm、厚さ25μmのアモルファス合金リボンを製造した。
【0095】
次に、加熱室に伝熱媒体を備えた
図4と同様に構成されたインラインアニール装置を用い、アモルファス合金リボンを張架した状態で、上記のアモルファス合金リボンを加熱室に進入させ、進入したアモルファス合金リボンを上述した態様Xにて伝熱媒体に接触させて熱処理した。熱処理は、伝熱媒体の温度を下記の範囲で変えて行った。続いて、冷却室に進入させてアモルファス合金リボンを、昇温時の最高到達温度から25℃まで降温した。その後、熱処理が施されたアモルファス合金リボンを冷却室から退出させた。その後、アモルファス合金リボンを巻き取って巻回体とした。
【0096】
製造条件は、以下に示す通りである。
<製造条件>
昇温伝熱媒体及び降温伝熱媒体:ブロンズ製プレート
最高到達温度(昇温伝熱媒体の温度):350℃〜500℃(下記表1参照)
アモルファス合金リボンに加える引張応力:50MPa
アモルファス合金リボンと昇温伝熱媒体との接触距離:1.2m
アモルファス合金リボンと昇温伝熱媒体との接触時間:1.2秒
アモルファス合金リボンが昇温伝熱媒体を離れた時点から降温伝熱媒体を離れた時点までの時間:1.6秒
平均昇温速度及び平均降温速度:下記表1参照
【0097】
昇温伝熱媒体及び降温伝熱媒体の温度は、合金リボンが接触する伝熱媒体の表面に設置された熱電対により測定し、平均昇温速度及び平均降温速度を算出した。
平均昇温速度は、アモルファス合金リボンの走行方向における、加熱室20の進入口より10mm上流の地点で放射温度計により測定されたリボン温度(加熱前のアモルファス合金リボンの温度=通常は室温であり、本実施例では25℃である。)と、昇温伝熱媒体(
図4中の加熱プレート22)の温度と、の温度差を、昇温伝熱媒体に接触している時間(秒)で除して求めた。
平均降温速度は、アモルファス合金リボンの走行方向における昇温伝熱媒体(
図4中の加熱プレート22)の温度(=最高到達温度)と、25℃の降温伝熱媒体(
図4中の冷却プレート32)の温度と、の温度差を、昇温伝熱媒体を離れた時点から降温伝熱媒体を離れた時点までの時間(秒)で除して求めた。
【0098】
ここで、インラインアニールにおいて、アモルファス合金リボンの走行速度が一定の場合(例えば、1.0m/秒の場合)、伝熱媒体の温度を変えることによって、アモルファス合金リボンの最高到達温度の制御が可能であり、平均昇温速度と平均降温速度とを制御することができる。昇温伝熱媒体の温度(アモルファス合金リボンの到達温度と同じ)を350℃〜500℃の間で変化させると、平均昇温速度は271℃/秒〜396℃/秒の間で制御することができ、平均降温速度は204℃/秒〜298℃/秒の間で制御することができる。
【0099】
<アモルファス合金リボン片の作製>
次に、アモルファス合金リボンの巻回体からアモルファス合金リボンを巻き出し、巻き出されたアモルファス合金リボンを裁断することにより、長手方向長さが1000mm(1m)であるアモルファス合金リボン片を切り出した。アモルファス合金リボンの裁断は、シャーリングにより行った。
【0100】
<測定及び評価>
−1.平坦度−
熱処理を行ったアモルファス合金リボンから長手方向の長さを1mとしてサンプリングし、長さ1m、幅142mmのアモルファス合金リボンを定盤上に置き、アモルファス合金リボンの幅方向において、一端から面内方向に10mmの位置及び他端から面内方向に10mmの位置(即ち、幅方向両端から面内方向にそれぞれ10mmの位置にある2つの直線上)の高さ(各起伏部における起伏頂部の高さ)を、レーザー式変位センサLB−300と多機能デジタルメータリレーRV3−55R(キーエンス社製)を用い、分解能0.1mmにて連続測定した。測定された値(起伏頂部の高さ)の平均値を算出し、高さhとした。なお、分解能は0.1mmのため、合金リボンの厚さバラツキは無視できる。
また、上記と同様の方法で、長手方向に並ぶ起伏部の起伏頂部間に形成される凹部と凹部との間の距離(即ち、高さhが最も低い部分間の距離)を算出し、幅wとした。
以上のように求めた高さh及び幅wを下記式に代入して平坦度として算出した。
平坦度=100×h/w
【0101】
−2.裁断性−
伝熱媒体の温度によって平均昇温速度もしくは平均降温速度及び最高到達温度を変えて作製された複数のアモルファス合金リボンを用い、アモルファス合金リボンをステンレス製ハサミ(Westcott社製、製品名:Westcott 8" All Purpose Preferred Stainless Steel Scissors)で裁断した。この際の裁断性の有無を以下の評価基準にしたがって評価した。
<評価基準>
有り:ほぼ直線的に分割され、直線では無い破断部分が全裁断寸法の5%以下である。
無し:直線では無い破断部分が全裁断寸法の5%を超える。
【0102】
【表1】
【0103】
表1に示すように、熱処理前の合金リボン及び異なる最高到達温度で熱処理した合金リボンを評価したところ、熱処理時の最高到達温度を410℃〜480℃とした実施例では、平坦度は1.2〜1.0と小さく、合金リボンの幅方向端部に連続的に現れる波形状が少なく抑えられていた。実施例の合金リボンは、
図1に示す非平坦形状を有する熱処理前のアモルファス合金リボン2に比べ、
図1のアモルファス合金リボン1のように、波形状(凹凸形状)が矯正され、平坦度が改善されていた。前記アモルファス合金リボン1は、表1の最高到達温度を460℃とした合金リボンであり、波形状の発生が目視で観察できない程度であり、平坦性に優れていることがわかる。
なお、
図1は、上記各アモルファス合金リボンの合金リボン主面鉛直方向から観た外観写真である。
具体的には、熱処理前の合金リボンは、平坦度が2.5と大きく、合金リボンの幅方向端部近傍における波形状が確認された。また、最高到達温度を350℃又は380℃とした比較例でも、平坦度がそれぞれ1.9、1.7と大きく、熱処理による形状に対する矯正効果は小さいことが分かる。
また、熱処理時の最高到達温度を500℃とした比較例では、平坦度が1.1と低いが、裁断時に割れ及び欠けが生じやすく、直線状に裁断できない部分が20%を超えており、裁断性に劣るものであった。
【0104】
2017年7月4日に出願された米国仮出願62/528,451の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。