【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、国立研究開発法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/革新的光ファイバの実用化に向けた研究開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
シリカガラス粒子と金属化合物からなる不純物粒子とを含むシリカガラス粉末と、前記シリカガラス粒子を結合させる結合剤と、を液相中で攪拌し、シリカガラススラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記シリカガラススラリーを乾燥雰囲気中に噴霧してシリカガラス造粒粉を作製する造粒粉作製工程と、
篩を用いて前記シリカガラス造粒粉を分級し、所定粒径以下のシリカガラス造粒粉を得る分級工程と、
前記分級により得たシリカガラス造粒粉を用いて、粉末成形法によりシリカガラス多孔質体を作製する多孔質体作製工程と、
前記シリカガラス多孔質体を焼結する焼結工程と、
を含み、
前記スラリー作製工程において、前記シリカガラススラリーのpH値が、前記シリカガラス粒子の等電位点pHの値と前記不純物粒子の等電位点pHの値との間の値になるようにシリカガラススラリーを作製することを特徴とするガラスロッドの製造方法。
前記多孔質体作製工程において、成形型内に配置した軸ガラスロッドの周囲に前記分級により得たシリカガラス造粒粉を充填し、加圧成形して前記シリカガラス多孔質体を作製することを特徴とする請求項1に記載のガラスロッドの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、図面を参照して本発明に係るガラスロッドの製造方法および光ファイバの製造方法の実施形態を詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一または対応する要素には適宜同一の符号を付している。
【0014】
図1は、実施形態に係るガラスロッドの製造方法のフローチャートである。実施形態に係るガラスロッドの製造方法は、光ファイバを製造するためのガラスロッド(光ファイバ母材)を製造する方法であって、
図1に示すように、はじめに、ステップS101として、シリカガラススラリーを作製する(スラリー作製工程)。つづいて、ステップS102として、シリカガラススラリーからシリカガラス造粒粉を作製する(造粒粉作製工程)。つづいて、ステップS103として、シリカガラス造粒粉を分級し、所定粒径以下のシリカガラス造粒粉を得る(分級工程)。つづいて、ステップS104として、分級により得たシリカガラス造粒粉を用いて、粉末成形法によりシリカガラス多孔質体を作製する(多孔質体作製工程)。つづいて、ステップS105として、シリカガラス多孔質体を焼結する(焼結工程)。これにより、ガラスロッドが完成する。
【0015】
以下、各工程について具体的に説明する。まず、ステップS101のスラリー作製工程では、シリカガラス粒子含むシリカガラス粉末と、シリカガラス粒子を結合させる結合剤と、を液相中で攪拌し、シリカガラススラリーを作製する。
【0016】
シリカガラス粒子は、SiO
2からなるガラス粒子、またはSiO
2からなるガラス粒子に、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、チタン(Ti)等の屈折率制御用元素、またはエルビウム(Er)、ネオジウム(Nd)等の機能性付与用元素を添加物として含むものを用いることができる。
【0017】
不純物粒子は、たとえば上述したZrO
2、Cr
2O
3などの金属化合物からなる粒子である。これらの不純物粒子は、シリカガラス粒子を含むシリカガラス粉末の製造工程や搬送工程において、シリカガラス粉末に意図しない不純物として含まれるものである。
【0018】
結合剤は、たとえばポリビニルアルコール(PVA)であるが、シリカガラス粒子を結合させることができる結合剤であれば特に限定はされない。
【0019】
これらのシリカガラス粉末と結合剤とを液相中で攪拌してシリカガラススラリーを作製する。液相としてはたとえば水にpH調整剤を混合したものを用いることができるが、シリカガラス粒子や結合剤と、これらの機能を損なう程著しく反応しないものであれば特に限定はされない。また、必要に応じてグリセリンなどの可塑剤をシリカガラススラリーに添加してもよい。
【0020】
ここで、このスラリー作製工程では、シリカガラススラリーのpH値が、シリカガラス粒子の等電位点pHの値と不純物粒子の等電位点pHの値との間の値になるようにシリカガラススラリーを作製する。シリカガラス粒子または不純物粒子の等電位点pHの値とは、液相中でのシリカガラス粒子または不純物粒子のゼータ電位がゼロとなるときの液相のpH値のことである。すると、不純物粒子のゼータ電位とシリカガラス粒子のゼータ電位とが逆符号となり、不純物粒子の周りをシリカガラス粒子が取り囲んで、不純物粒子単体よりも大きい凝集体が形成される。なお、シリカガラススラリーのpH値は、たとえばpH調整剤として塩酸やアンモニアなどを用いることにより自由に調整できる。
【0021】
図2は、SiO
2、ZrO
2、Cr
2O
3におけるpHとゼータ電位との関係を模式的に示す図である。なお、横軸のpHは左に行くほど値が小さくなって酸性となり、右に行くほど値が大きくなってアルカリ性となる。ここで、pH1はSiO
2の等電位点pHの値であり、pH2はZrO
2の等電位点pHの値であり、pH3はCr
2O
3の等電位点pHの値である。たとえば電気泳動法で測定した値は、pH1が2.0であり、pH3が7.0である。pH2の値は7.6である。液相のpHが等電位点pHより大きいとゼータ電位はマイナスになり、等電位点pHより小さいとプラスになる。
なお、液相中に存在するイオンの影響等から若干の変動幅を有する。例えばpH1は1.7〜3.5、pH3は6.2〜8.2の値をとり得る。
【0022】
本実施形態では、シリカガラススラリーを、pH値がpH1とpH3との間の値であるスラリーとする。これにより、SiO
2はゼータ電位がマイナスすなわち電荷がマイナスとなり、Cr
2O
3はゼータ電位がプラス、すなわち電荷がプラスとなる。したがって、シリカガラススラリーの液相中で、Cr
2O
3粒子の周りをSiO
2粒子が取り囲んで凝集体(以下、単に凝集体と記載する場合がある)が形成される。なお、Cr
2O
3のゼータ電位とSiO
2のゼータ電位との電位差が大きいほど凝集体は大きくなりやすいので、シリカガラススラリーのpH値を、この電位差が大きくなるようなpH値とすることがより好ましい。
【0023】
つづいて、ステップS102の造粒粉作製工程では、ステップS101で作製したシリカガラススラリーを乾燥雰囲気中に噴霧してシリカガラス造粒粉を作製する。この工程は周知のスプレードライヤー装置を用いて実施することができる。ステップS101で作製したシリカガラススラリーは凝集体を含むので、このシリカガラススラリーを噴霧すると、凝集体を含む液滴は、凝集体を含まない液滴と比較して、大きなシリカガラス造粒粉となりやすい。特に、Cr
2O
3のゼータ電位とSiO
2のゼータ電位との電位差が大きくなるようにシリカガラススラリーのpH値を調整すると、凝集体がより大きくなるので、凝集体を含む液滴はより大きなシリカガラス造粒粉となりやすい。
【0024】
図3は、ステップS102で作製されるシリカガラス造粒粉の粒径の分布の一例を模式的に示す図である。なお、横軸はシリカガラス造粒粉の粒径を示し、縦軸は体積率を示している。線L1は、不純物粒子を含まずSiO
2粒子からなるシリカガラス造粒粉の粒径分布を示している。また、線L2は、SiO
2粒子とCr
2O
3粒子とを含み、pH値が6.1であるシリカガラススラリーから作製したシリカガラス造粒粉の粒径分布を示している。また、線L3は、SiO
2粒子とCr
2O
3粒子とを含み、pH値が4.5であるシリカガラススラリーから作製したシリカガラス造粒粉の粒径分布を示している。
図3に示すように、線L1で示すシリカガラス造粒粉は、体積率の最大値となる粒径は90μm程度であるが、線L2で示すシリカガラス造粒粉は、体積率の最大値となる粒径が190μm程度に大きくなる。さらに、線L3で示すシリカガラス造粒粉は、体積率の最大値となる粒径が200μm程度にさらに大きくなる。
【0025】
つづいて、ステップS103の分級工程では、ステップS102において作製したシリカガラス造粒粉を、篩を用いて分級し、所定粒径以下のシリカガラス造粒粉を得る。上述したように、Cr
2O
3粒子を含む造粒粉は粒径が大きくなりやすいので、篩を用いてシリカガラス造粒粉を分級し、所定粒径以下のシリカガラス造粒粉を得ることで、得られたシリカガラス造粒粉はCr
2O
3粒子の混入が低減されたものとなる。このとき、篩には、所定粒径より大きく、Cr
2O
3粒子の混入したシリカガラス造粒粉が多く残ることとなる。
【0026】
ここで、得るべきシリカガラス造粒粉の所定粒径は、使用する篩の目の細かさ(篩の目開き)によって調整することができる。また、所定粒径については、様々な観点から設定することができる。たとえば、作製したシリカガラス造粒粉が
図3に示す粒径分布を有する場合、所定粒径を125μmとすれば、Cr
2O
3粒子の混入が少ないシリカガラス造粒粉を得ることができる。なお、所定粒径を125μmとするには、篩の目開きを125μmとすればよい。また、所定粒径を90μmとすれば、Cr
2O
3粒子の混入がきわめて少ないシリカガラス造粒粉を得ることができるものの、得られるシリカガラス造粒粉の量は少なくなり、製造歩留まりは低下する。また、所定粒径を180μmとすれば、得られるシリカガラス造粒粉の量は多くなり、製造歩留まりが向上するものの、Cr
2O
3粒子の混入は多くなる。所定粒径を180μmとする場合でも、シリカガラススラリーのpH値を5.0とすれば、シリカガラススラリーのpH値を6.0とするときよりもCr
2O
3粒子の混入は少なくなる。このように、所定粒径については、シリカガラス造粒粉に許容される不純物の量や、製造歩留まりや、シリカガラススラリーのpH値等を勘案して設定することができる。所定粒径は、一例として、シリカガラス造粒粉の粒径の体積平均(
図3の場合約90μm)を含む範囲45μm〜200μmから選択し、より好ましくは53μm〜125μmの範囲から選択する。
【0027】
つづいて、ステップS104の多孔質体作製工程では、ステップS103において分級により得たシリカガラス造粒粉を用いて、粉末成形法によりシリカガラス多孔質体を作製する。ここで、粉末成形法としては、上述した押出成形法、加圧成形法、鋳込成形法、MSP法、遠心分離法、およびダブルプロセス法等を用いることができるが、本実施形態では加圧成形法によりシリカガラス多孔質体を作製する。さらには、本実施形態では、成形型内に配置した軸ガラスロッドの周囲に、分級により得たシリカガラス造粒粉を投入、充填し、加圧成形してシリカガラス多孔質体を作製する。
【0028】
以下に
図4を参照して具体的に説明する。まず、合成ゴム材料や合成樹脂材料などの弾性および収縮性を有する材料からなる加圧成形用の成形型1内に、ダミーガラスロッド2、支持用ガラスロッド3を両端にガラス溶接した軸ガラスロッド4を配置する。この軸ガラスロッド4は、光ファイバのコア部となるコア形成部の外周にクラッド部の一部となるクラッド形成部が形成された、石英系ガラスからなるガラスロッドである。ダミーガラスロッド2、支持用ガラスロッド3を両端にガラス溶接した軸ガラスロッド4はコアロッドとも呼ばれる。
【0029】
つづいて、成形型1内に配置した軸ガラスロッド4の周囲に、漏斗5により、ステップS103において得たシリカガラス造粒粉6を投入、充填し、成形型1を蓋1aにて密封し、密封した成形型1を加圧成形装置7内に設置する。
【0030】
つづいて、加圧成形装置7内で液媒8を用いて成形型1を等方加圧する。これにより、成形型1が加圧収縮することで、シリカガラス造粒粉6も、成形型1の内形状に応じた形状に圧縮成形される。その結果、軸ガラスロッド4の周囲にシリカガラス多孔質体9が成形される。成形が終了したら、液媒8を排出する。これにより、成形型1は加圧前の形状に戻る。その後、成形型1を加圧成形装置7から取り出し、蓋1aを開けて、多孔質母材10を成形型1から取り出す。多孔質母材10は、ダミーガラスロッド2、支持用ガラスロッド3が溶接された軸ガラスロッド4の周囲にシリカガラス多孔質体9が成形されたものである。その後、多孔質母材10を乾燥雰囲気中で所定の温度、たとえば500℃程度にて所定の時間、たとえば5時間程度だけ加熱することで、シリカガラス多孔質体9に含まれる水分、結合剤および可塑剤を除去する脱脂工程を行う。
【0031】
つづいて、ステップS105の焼結工程では、周知の焼結炉を用いた周知の方法にて多孔質母材10のシリカガラス多孔質体9を焼結する。これによりシリカガラス多孔質体9はガラス化し、軸ガラスロッド4のクラッド形成部と一体化したクラッド形成部となる。これにより、不純物粒子の混入が低減された、光ファイバ母材としてのガラスロッドが完成する。
【0032】
その後、この光ファイバ母材から周知の線引炉を用いた周知の方法にて光ファイバを線引きすることにより、不純物粒子の混入が低減された、高い強度を有する光ファイバを製造することができる。
【0033】
以下、本発明の実施例と比較例とにより本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
まず、気相合成法により製造された平均1次粒径10μmのシリカガラス粉末を純水に投入した後に攪拌して濃度50%シリカガラススラリーを作製した。このシリカガラススラリーには結合剤として1%相当量のPVAを投入した。PVAを投入したシリカガラスラリーのpHを確認したところpH5.6であった。このようにして作製したシリカガラススラリーを液滴噴霧して200℃の乾燥雰囲気中で溶媒(水分)揮発させ、シリカカガラス造粒粉(以下、単に造粒粉と記載する)を作製した。造粒粉の粒径は、体積平均で粒径90μmであり、およそ30〜200μmの範囲で分布していた。
【0034】
この造粒粉を、目開きが53、150μmの篩を用いて分級し、粒径が53〜180μmの造粒粉を得た。この粒径が53〜150μmの造粒粉は、篩にかけたシリカガラス造粒粉全体に対して94%の重量歩留りであった。篩上に残った粒径の大きい造粒粉を確認したところ、若干量の灰色造粒粉が見受けられた。この灰色造粒粉の一部に対して定性分析を行ったところ、Siに加えてCrの金属異物と極僅かのZrの存在が確認された。
【0035】
つづいて、VAD(Vapor Axial Deposition)法で作製した、コア形成部の直径に対するクラッド形成部の外径の比(クラッド/コア比)が4であり、クラッド形成部に対するコア形成部の比屈折率差が約0.35%である石英系ガラスからなるガラスロッドを用意した。そして、このガラスロッドの一方の端部に、石英ガラスからなるダミーガラスロッドをガラス溶接し、他方の端部に、石英ガラスからなる支持用ガラスロッドをガラス溶接し、コアロッドを作製した。このコアロッドを、ゴム製の成形型内に設置し、コアロッドの周囲に分級により得た粒径が53〜150μmの造粒粉を投入、充填して、1000kgf/cm
2の圧力で静水圧プレス成形を行うという加圧成形を行い、外径が約60mmの光ファイバ用多孔質母材を作製した。
【0036】
つづいて、この光ファイバ用多孔質母材に空気中で500℃、5時間の脱脂処理を施し、続けてHe、Cl
2雰囲気中で1200℃の脱水精製処理およびHe雰囲気中で1600℃の焼結処理(透明ガラス化処理)を施して光ファイバ母材を作製した。この光ファイバ母材を周知の加熱延伸法により線引きして、外径が125μmのシングルモード光ファイバを得た。
【0037】
このシングルモード光ファイバ全長に対して、1.0%伸び歪の条件でスクリーニング試験を行ったところ、破断部のクラッド部内部部分にCrの異物の存在が確認された光ファイバの破断は10回/1,000kmであった。
【0038】
(実施例2)
実施例1と同様の方法でシリカガラススラリーを作製した。ただし、実施例2では、PVAを投入した後に塩酸を加えてシリカガラスラリーのpHを4.5に調整した。さらに、実施例1と同様の方法で造粒粉を作製した。造粒粉の粒径は、体積平均値で粒径90μmであり、およそ30〜200μmの範囲で分布していた。
【0039】
この造粒粉を、目開きが53、150μmの篩を用いて分級し、粒径が53〜180μmの造粒粉を得た。この粒径が53〜150μmの造粒粉は、篩にかけたシリカガラス造粒粉全体に対して94%の重量歩留りであった。篩上に残った粒径の大きい造粒粉を確認したところ、若干量の灰色造粒粉が見受けられた。この灰色造粒粉の一部に対して定性分析を行ったところ、Siに加えてCrの金属異物と極僅かのZrの存在が確認された。
【0040】
つづいて、実施例1で用いたものと同様に作製したコアロッドを、ゴム製の成形型内に設置し、コアロッドの周囲に分級により得た粒径が53〜150μmの造粒粉を投入、充填して、1000kgf/cm
2の圧力で静水圧プレス成形を行うという加圧成形を行い、外径が約60mmの光ファイバ用多孔質母材を作製した。
【0041】
つづいて、この光ファイバ用多孔質母材に実施例1と同様の条件で脱脂処理、脱水精製処理および焼結処理を施して光ファイバ母材を作製した。この光ファイバ母材を周知の加熱延伸法により線引きして、外径が125μmのシングルモード光ファイバを得た。
【0042】
このシングルモード光ファイバ全長に対して、1.0%伸び歪の条件でスクリーニング試験を行ったところ、破断部のクラッド部内部部分にCrの異物の存在が確認された光ファイバの破断は4回/1,000kmであった。
【0043】
(実施例3)
実施例1と同様の方法でシリカガラススラリーを作製した。さらに、実施例1と同様の方法で造粒粉を作製した。造粒粉の粒径は、体積平均値で粒径90μmであり、およそ30〜200μmの範囲で分布していた。
【0044】
この造粒粉を、目開きが53、150μmの篩を用いて分級し、粒径が53〜180μmの造粒粉を得た。この粒径が53〜150μmの造粒粉は、篩にかけたシリカガラス造粒粉全体の98%であった。篩上に残った粒径の大きい造粒粉を確認したところ、若干量の灰色造粒粉が見受けられた。この灰色造粒粉の一部に対して定性分析を行ったところ、Siに加えてCrの金属異物と極僅かのZrの存在が確認された。
【0045】
つづいて、ゴム製の成形型内に分級により得た粒径が50〜150μmの造粒粉を投入、充填して、1000kgf/cm
2の圧力で静水圧プレス成形を行うという加圧成形を行い、外径が約60mmの多孔質円柱体を作製した。
【0046】
つづいて、この多孔質円柱体に実施例1と同様の条件で脱脂処理、脱水精製処理および焼結処理を施してシリカガラス円柱体を作製した。つづいて、このシリカガラス円柱体中央にドリルで内径15.5mmの孔を開けてガラスパイプを作製し、その後フッ酸(HF)を用いて孔内面をエッチング処理した後に純水洗浄を行った。つづいて、洗浄後の孔部に実施例1と同様に作製したコアロッドを挿入し、シリカガラス円柱体を加熱しながらコアロッドと一体化して光ファイバ母材を作製した。さらに、この光ファイバ母材を周知の加熱延伸法により線引きして、外径が125μmのシングルモード光ファイバを得た。
【0047】
このシングルモード光ファイバ全長に対して、1.0%伸び歪の条件でスクリーニング試験を行ったところ、破断部のクラッド部内部部分にCrの異物の存在が確認された光ファイバの破断は11回/1,000kmであった。
【0048】
(実施例4)
実施例1と同様の方法でシリカガラススラリーを作製した。さらに、実施例1と同様の方法で造粒粉を作製した。造粒粉の粒径は、体積平均値で粒径90μmであり、およそ30〜200μmの範囲で分布していた。
【0049】
この造粒粉を、目開きがそれぞれ53μm、90μm、150μmの篩を用いて分級し、粒径が53〜90μmおよび90〜150μmの造粒粉を得た。この粒径が53〜90μmの造粒粉は、篩にかけたシリカガラス造粒粉全体の48%重量歩留りであった。150μmの篩上に残った粒径の大きい造粒粉を確認したところ、若干量の灰色造粒粉が見受けられた。この灰色造粒粉の一部に対して定性分析を行ったところ、Siに加えてCrの金属異物と極僅かのZrの存在が確認された。
【0050】
つづいて、実施例1と同様に作製したコアロッドを、ゴム製の成形型内に設置し、コアロッドの周囲に分級により得た粒径が53〜90μmの造粒粉を投入、充填して、1000kgf/cm
2の圧力で静水圧プレス成形を行うという加圧成形を行い、外径が約60mmの光ファイバ用多孔質母材を作製した。
【0051】
つづいて、この光ファイバ用多孔質母材に実施例1と同様の条件で脱脂処理、脱水精製処理および焼結処理を施して光ファイバ母材を作製した。この光ファイバ母材を周知の加熱延伸法により線引きして、外径が125μmのシングルモード光ファイバを得た。
【0052】
このシングルモード光ファイバ全長に対して、1.0%伸び歪の条件でスクリーニング試験を行ったところ、破断部のクラッド部内部部分にCrの異物の存在が確認された光ファイバの破断は3回/1,000kmであった。
【0053】
(比較例1)
実施例1と同様の方法でシリカガラススラリーを作製した。ただし、比較例1では、PVAを投入した後にアンモニアを加えてシリカガラスラリーのpHを8.0の若干のアルカリに調整した。さらに、実施例1と同様の方法で造粒粉を作製した。造粒粉の粒径は、体積平均値で粒径90μmであり、およそ30〜200μmの範囲で分布していた。
【0054】
この造粒粉を、目開きが53、150μmの篩を用いて分級し、粒径が53〜150μmの造粒粉を得た。この粒径が53〜150μmの造粒粉は、篩にかけたシリカガラス造粒粉全体の94%重量歩留りであった。篩上に残った粒径の大きい造粒粉を確認したところ、白色であり、粒径が53〜150μmの造粒粉と同等であり、違いは認められなかった。この白色造粒粉の定性分析を行ったところ、金属異物の存在は認められなかった。
【0055】
つづいて、実施例1と同様に作製したコアロッドを、ゴム製の成形型内に設置し、コアロッドの周囲に分級により得た粒径が53〜150μmの造粒粉を投入、充填して、1000kgf/cm
2の圧力で静水圧プレス成形を行うという加圧成形を行い、外径が約60mmの光ファイバ用多孔質母材を作製した。
【0056】
つづいて、この光ファイバ用多孔質母材に実施例1と同様の条件で脱脂処理、脱水精製処理および焼結処理を施して光ファイバ母材を作製した。この光ファイバ母材を周知の加熱延伸法により線引きして、外径が125μmのシングルモード光ファイバを得た。
【0057】
このシングルモード光ファイバ全長に対して、1.0%伸び歪の条件でスクリーニング試験を行ったところ、光ファイバの破断が多数発生した。具体的には、光ファイバの長さ概ね1回/1.5kmの破断が発生する頻度であった。光ファイバの破断部を確認すると、クラッド部の内部のうち、造粒粉から形成した領域に、異物の存在が顕微鏡観察で認められ、分析を行ったところ元素としてCrの存在が確認された。この結果から、主原料であるシリカガラス粉末に、光ファイバを破断に至らしめるCr不純物粒子が多数存在しており、製造工程においてそれが除去されなかった為、光ファイバにもCr不純物粒子が多数残存してしまい、このような多数の破断が発生したものと考えられる。
また、僅かではあるが破断部の一部からはZrも検出され、ZrO
2も破断原因となっていると考えられる。
実施例5、6として実施例1のシリカガラススラリーにHCl或いはNH
3を加えてpHを調整してシリカガラススラリーを作製し、これを実施例1と同様の方法で造粒し、分級し、加圧成形を行って光ファイバ用多孔質母材を作製し、焼結して光ファイバ母材を作製し、これを用いた光ファイバを作製した。その光ファイバに対して行った1%伸び歪の条件でのスクリーニング試験結果を表1に記載する。表1に示すように、pH4.0〜6.1の範囲において、破断率の低減の効果が得られ、特にpH4.5程度が好適であることが確認された。
【表1】
【0058】
上記実施例1〜6に示すように、本発明の実施例によれば、シリカガラス粉末に含まれるCr
2O
3不純物は、実施例の方法によりpHを調整したシリカガラススラリーを作製し、造粒することにより大きな造粒粉を形成し、分級によって取り除かれることが分かる。
図3に示すように、Cr
2O
3不純物を含む造粒粉の粒径は、含まない造粒粉の粒径よりも大きい側に分布し、その分布中心は、シリカガラススラリーのpHにも依存していると考えられる。また、実施例4に示すように造粒粉の製造歩留りの低下が許容できる範囲で小さめの造粒粉を、多孔質体の作製に使うことは、不純物粒子の混入がより低減されたガラスロッドおよびより高い強度を有する光ファイバを実現する上で効果的である。
更に上記実施例1〜4においては、造粒後分級した際に目開きの大きい篩上に残った粒径の大きい造粒粉から僅かにZrが検出されたことと、これに対して比較例においては、破断部の一部からZrが検出され、これが破断原因となっていると考えられることとから、実施例1〜4はZr不純物の除去に対しても効果があることが分かる。
【0059】
また、実施例で用いたシリカガラス粉末に含まれる不純物粒子は、Cr
2O
3粒子がほぼ大半であったのでその必要がなかったが、例えばZrO
2の不純物粒子を除去したいときには、
図2から明らかなように、シリカガラススラリーを、pH値がpH1とpH2との間の値であるスラリーとして造粒すればよい。
また本実施例では造粒粒子(造粒粉)の粒径分布が30〜200μmとなるようにしたが、本発明における造粒粒子はこの粒径のものに限定されない。造粒粒子は、流動性が良好な範囲でその粒径を小さくする事も可能であり、設備的対応が可能であれば大きな造粒粒子としても本発明の効果が得られる。
【0060】
さらに、本発明によれば、Cr
2O
3やZrO
2に限らず、等電位点pHがシリカガラス粒子の等電位点pHの近傍にない不純物の除去が可能となる。具体的には、シリカガラススラリーのpH値を、シリカガラス粒子の等電位点pHの値と、除去したい不純物粒子の等電位点pHの値との間の値になるようにすればよい。特に、脱水精製処理での除去速度が遅く除去困難な組成の不純物、あるいは体積に比べて表面積が小さい大径不純物は、脱水精製処理に時間を要し十分に精製除去されにくいので、本発明の方法により除去することが効果的である。
なお、不純物は1種類ではなく、複数種が混在している場合もあるが、その場合もシリカガラス粒子の等電位点pHの値と、除去したいそれぞれの不純物粒子の等電位点pHの値との間の値になるようにすればよく、不純物は複数種を同時に除去してもよい。
【0061】
また、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。