【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕本開示の高圧型水素化物二次電池は、圧力容器、該圧力容器内に配置されている正極、該圧力容器内に配置されている負極、および該圧力容器内に充填されている水素ガスを備える。負極は、水素吸蔵合金を含む。圧力−組成等温線図において、水素吸蔵合金の25℃の放出線は、0.15MPa以上10MPa以下のプラトー圧を有する。水素ガスは、25℃において水素吸蔵合金のプラトー圧以上の圧力を有する。
【0008】
圧力−組成等温線図(Pressure−Composition−Temperature diagram,以下「PCT線図」とも記される)には、水素吸蔵合金の基本的な特性が現れる。
図1は、水素吸蔵合金のPCT線図の一例である。
図1には、25℃の放出線が示されている。
【0009】
放出線とは、水素吸蔵合金が水素を放出する際の圧力が、水素吸蔵合金の水素組成(金属原子数に対する水素原子数の比(H/M))に対して、プロットされることにより、作成される線である。水素吸蔵合金が水素を放出する際の圧力は「解離圧」と称される。放出線が直線状になる領域は、「プラトー領域」と称される。プラトー領域における解離圧は「プラトー圧」と称される。
【0010】
プラトー領域では、水素の放出に伴う、圧力変化が小さい。したがって、プラトー領域では、圧力変化が小さい環境下(たとえば、密閉された電池内等)であっても、水素吸蔵合金が可逆的に水素を放出することができる。ニッケル水素化物二次電池において、水素吸蔵合金における水素の吸蔵および放出は、負極の充電および放電に相当する。
【0011】
図2は、水素吸蔵合金のPCT線図の他の一例である。従来のニッケル水素化物二次電池では、
図2に示されるように、25℃で、大気圧(≒0.1MPa)以下のプラトー圧を有する水素吸蔵合金が使用されている。以下、このような水素吸蔵合金は、「低圧型水素吸蔵合金」と称される。
【0012】
通常、密閉型電池の内圧は大気圧程度と考えてよい。水素吸蔵合金のプラトー圧が大気圧よりも高いと、電池内で、水素の自然放出が起こり易い。すなわち、電池の自己放電が起こり易い。また水素の放出により、電池の内圧が上がるため、電池の密閉が困難になるという事情もある。そのため、
図1に示されるような非常に高いプラトー圧を有する「高圧型水素吸蔵合金」は、これまで注目されてこなかった。
【0013】
本開示の高圧型水素化物二次電池では、25℃のプラトー圧が0.15MPa以上10MPa以下である高圧型水素吸蔵合金が使用される。低圧型水素吸蔵合金は、可逆的な水素吸蔵量が1.0〜1.1質量%程度である。これに対して、本開示で使用される高圧型水素吸蔵合金は、たとえば、1.3質量%以上の水素吸蔵量を有し得る。すなわち、高圧型水素吸蔵合金は、低圧型水素吸蔵合金よりも高容量な負極活物質となり得る。
【0014】
しかしながら高圧型水素吸蔵合金は、大気圧付近においては、高容量な負極活物質として機能しない。すなわち、大気圧付近では、高圧型水素吸蔵合金を満充電することができない。そこで、本開示の高圧型水素化物二次電池は、圧力容器および水素ガス(H
2)を備える。水素ガスは、高圧型水素吸蔵合金のプラトー圧以上の圧力を有する。これにより、本開示の高圧型水素化物二次電池では、高圧型水素吸蔵合金が高容量な負極活物質として機能することができる。これにより、電池の質量容量密度が向上する。
【0015】
ここで、Nernstの式に、水素吸蔵合金のプラトー圧が代入されることにより、本開示の高圧型水素化物二次電池の平衡負極電位(放電電位)が見積もられる。平衡負極電位は、下記式:
E=−0.93−0.03logPH
2
(式中、Eは平衡負極電位を示し、PH
2はプラトー圧を示す。)
により算出される。
【0016】
この式から、プラトー圧が高くなることにより、平衡負極電位が低下すると考えられる。すなわち、電池の作動電圧が高くなると考えられる。したがって、本開示の高圧型水素化物二次電池では、質量エネルギー密度(単位質量あたりのエネルギー)の向上も期待できる。なおここでの「エネルギー」は、電池の平均作動電圧と電池容量との積を示す。
【0017】
さらに、本開示の高圧型水素化物二次電池において、高圧型水素吸蔵合金は、それ自身が負極活物質として機能するだけでなく、水素ガスが第2の負極活物質となるための触媒としても機能する。これにより、本開示の高圧型水素化物二次電池では、放電時、下記の反応式で表される2つの負極反応が進行する。なお充電時は、これとは逆反応が進行する。
【0018】
高圧型水素吸蔵合金:MH+OH
-→M+H
2O+e
-
水素ガス :1/2H
2+OH
-→e
-+H
2O
(式中、Mは水素吸蔵合金を示し、MHは水素吸蔵合金の水素化物を示す。)
【0019】
すなわち、本開示の高圧型水素化物二次電池は、固体負極活物質(高圧型水素吸蔵合金)および気体負極活物質(水素ガス)を含むハイブリッド負極を備える。気体負極活物質は、固体負極活物質よりも軽量である。したがって、ハイブリッド負極により、電池の質量容量密度が更に向上することになる。
以上より、本開示の高圧型水素化物二次電池は、高い質量容量密度を有する。
【0020】
〔2〕水素吸蔵合金は、好ましくは
(i)下記式(1):
MmNi
5-x1B
x1 (1)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、BはFe、Cr、MnおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種を示し、x1は0以上0.6以下である。)
で表されるAB
5型合金、
(ii)下記式(2):
MmNi
5-x2Co
x2 (2)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、x2は0より大きく1.0以下である。)
で表されるAB
5型合金、および
(iii)LaNi
5
からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0021】
上記のAB
5型合金では、AサイトがMmまたはランタン(La)である。AサイトがLaの場合、Bサイトはニッケル(Ni)で占められている。AサイトがMmの場合、BサイトはNiで占められていてもよいし、Niの一部が鉄(Fe)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)で置換されていてもよい。このようなAB
5型合金は、プラトー圧が0.15MPa以上10MPa以下であり、かつ水素吸蔵量が多い傾向にある。すなわち、水素吸蔵合金がこれらのAB
5型合金であることにより、質量容量密度のいっそうの向上が期待される。
【0022】
〔3〕上記〔2〕のAB
5型合金は、たとえば、1.3質量%以上1.5質量%以下の水素吸蔵量を有することができる。
【0023】
〔4〕水素ガスは、好ましくは25℃において10MPa以上70MPa以下の圧力を有する。
【0024】
高圧型水素吸蔵合金が高容量な負極活物質として機能するために、水素ガスは、高圧型水素吸蔵合金のプラトー圧以上の圧力を有すればよい。ここでは、水素ガスの密封が可能である限り、水素ガスの圧力は高い程好ましい。気体負極活物質である水素ガスが、高圧で圧縮されることにより、電池の体積エネルギー密度(単位体積あたりのエネルギー)の向上が期待されるためである。たとえば、水素ガスが25℃において20MPaの圧力を有する場合、本開示の高圧型水素化物二次電池は、180Wh/kgの質量エネルギー密度、および500Wh/lの体積エネルギー密度を示すと試算される。なお、燃料電池用の高圧水素タンクとして、70MPa級の圧力容器も開発されている。
【0025】
〔5〕正極は、オキシ水酸化ニッケルおよび水酸化ニッケルの少なくとも一方を含んでもよい。すなわち、正極は、従来のニッケル正極であってもよい。正極がニッケル正極である場合、高圧型水素化物二次電池では、放電時、以下の反応式で表される反応が進行することになる(充電時は、この逆反応が進行することになる)。
【0026】
(+) NiOOH+H
2O+e
-→Ni(OH)
2+OH
-
(−) MH+OH
-→M+H
2O+e
-
(−) 1/2H
2+OH
-→e
-+H
2O
(式中、(+)は正極反応であることを示し、(−)は負極反応であることを示す。)
【0027】
上記反応式に示されるように、充電状態のニッケル正極では、正極活物質がオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)であり、放電状態のニッケル正極では、正極活物質が水酸化ニッケル(Ni(OH)
2)である。したがって、いずれの充電状態であっても、ニッケル正極には、オキシ水酸化ニッケルおよび水酸化ニッケルの少なくとも一方が含まれている。
【0028】
前述のように、本開示の高圧型水素化物二次電池では、高圧型水素吸蔵合金のプラトー圧に応じて、作動電圧の向上が期待できる。本開示の高圧型水素化物二次電池がニッケル正極を備える場合、従来のニッケル水素化物二次電池よりも0.01〜0.04V程度高い作動電圧が期待できる。