特許第6606041号(P6606041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606041
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】高圧型水素化物二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/24 20060101AFI20191031BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20191031BHJP
   H01M 4/52 20100101ALI20191031BHJP
   C22C 19/00 20060101ALI20191031BHJP
   H01M 10/30 20060101ALN20191031BHJP
【FI】
   H01M10/24
   H01M4/38 Z
   H01M4/38 A
   H01M4/52
   C22C19/00 F
   !H01M10/30 Z
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-181602(P2016-181602)
(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公開番号】特開2018-45942(P2018-45942A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2018年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 治通
(72)【発明者】
【氏名】小島 由継
(72)【発明者】
【氏名】市川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】宮岡 裕樹
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/118892(WO,A1)
【文献】 国際公開第02/021626(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/24−10/30
H01M 4/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器、
前記圧力容器内に配置されている正極、
前記圧力容器内に配置されている負極、および
前記圧力容器内に充填されている水素ガス
を備え、
前記負極は、水素吸蔵合金を含み、
圧力−組成等温線図において、前記水素吸蔵合金の25℃の放出線は、0.15MPa以上10MPa以下のプラトー圧を有し、
前記水素ガスは、25℃において前記水素吸蔵合金の前記プラトー圧以上の圧力を有
前記水素吸蔵合金および前記水素ガスのそれぞれが負極活物質として機能する、
高圧型水素化物二次電池。
【請求項2】
前記水素吸蔵合金は、
下記式(1):
MmNi5-x1x1 (1)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、BはFe、Cr、MnおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種を示し、x1は0以上0.6以下である。)
で表されるAB5型合金、
下記式(2):
MmNi5-x2Cox2 (2)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、x2は0より大きく1.0以下である。)
で表されるAB5型合金、および
LaNi5
からなる群より選択される少なくとも1種である、
請求項1に記載の高圧型水素化物二次電池。
【請求項3】
前記水素吸蔵合金は、1.3質量%以上1.5質量%以下の水素吸蔵量を有する、
請求項2に記載の高圧型水素化物二次電池。
【請求項4】
前記水素ガスは、25℃において10MPa以上70MPa以下の圧力を有する、
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の高圧型水素化物二次電池。
【請求項5】
前記正極は、オキシ水酸化ニッケルおよび水酸化ニッケルの少なくとも一方を含む、
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の高圧型水素化物二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高圧型水素化物二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
国際公開第2009/037806号(特許文献1)は、AB5型の水素吸蔵合金を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2009/037806号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水素吸蔵合金が負極活物質とされ、オキシ水酸化ニッケルが正極活物質とされるニッケル水素化物二次電池(Nickel−Metal Hydride secondary battery,Ni−MH)が実用化されている。ニッケル水素化物二次電池は、民生機器の電源として広く使用されている。さらに近年では、たとえば、ハイブリッド車両(HV)等の電動車両の電源としても、ニッケル水素化物二次電池が使用されるようになっている。
【0005】
電動車両の電源をはじめとする移動体の動力用途では、二次電池の質量容量密度(単位質量あたりの容量)が重要となる。動力用途の拡大を受け、二次電池の質量容量密度の益々の向上が望まれている。
【0006】
そこで本開示は、高い質量容量密度を有する二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
〔1〕本開示の高圧型水素化物二次電池は、圧力容器、該圧力容器内に配置されている正極、該圧力容器内に配置されている負極、および該圧力容器内に充填されている水素ガスを備える。負極は、水素吸蔵合金を含む。圧力−組成等温線図において、水素吸蔵合金の25℃の放出線は、0.15MPa以上10MPa以下のプラトー圧を有する。水素ガスは、25℃において水素吸蔵合金のプラトー圧以上の圧力を有する。
【0008】
圧力−組成等温線図(Pressure−Composition−Temperature diagram,以下「PCT線図」とも記される)には、水素吸蔵合金の基本的な特性が現れる。図1は、水素吸蔵合金のPCT線図の一例である。図1には、25℃の放出線が示されている。
【0009】
放出線とは、水素吸蔵合金が水素を放出する際の圧力が、水素吸蔵合金の水素組成(金属原子数に対する水素原子数の比(H/M))に対して、プロットされることにより、作成される線である。水素吸蔵合金が水素を放出する際の圧力は「解離圧」と称される。放出線が直線状になる領域は、「プラトー領域」と称される。プラトー領域における解離圧は「プラトー圧」と称される。
【0010】
プラトー領域では、水素の放出に伴う、圧力変化が小さい。したがって、プラトー領域では、圧力変化が小さい環境下(たとえば、密閉された電池内等)であっても、水素吸蔵合金が可逆的に水素を放出することができる。ニッケル水素化物二次電池において、水素吸蔵合金における水素の吸蔵および放出は、負極の充電および放電に相当する。
【0011】
図2は、水素吸蔵合金のPCT線図の他の一例である。従来のニッケル水素化物二次電池では、図2に示されるように、25℃で、大気圧(≒0.1MPa)以下のプラトー圧を有する水素吸蔵合金が使用されている。以下、このような水素吸蔵合金は、「低圧型水素吸蔵合金」と称される。
【0012】
通常、密閉型電池の内圧は大気圧程度と考えてよい。水素吸蔵合金のプラトー圧が大気圧よりも高いと、電池内で、水素の自然放出が起こり易い。すなわち、電池の自己放電が起こり易い。また水素の放出により、電池の内圧が上がるため、電池の密閉が困難になるという事情もある。そのため、図1に示されるような非常に高いプラトー圧を有する「高圧型水素吸蔵合金」は、これまで注目されてこなかった。
【0013】
本開示の高圧型水素化物二次電池では、25℃のプラトー圧が0.15MPa以上10MPa以下である高圧型水素吸蔵合金が使用される。低圧型水素吸蔵合金は、可逆的な水素吸蔵量が1.0〜1.1質量%程度である。これに対して、本開示で使用される高圧型水素吸蔵合金は、たとえば、1.3質量%以上の水素吸蔵量を有し得る。すなわち、高圧型水素吸蔵合金は、低圧型水素吸蔵合金よりも高容量な負極活物質となり得る。
【0014】
しかしながら高圧型水素吸蔵合金は、大気圧付近においては、高容量な負極活物質として機能しない。すなわち、大気圧付近では、高圧型水素吸蔵合金を満充電することができない。そこで、本開示の高圧型水素化物二次電池は、圧力容器および水素ガス(H2)を備える。水素ガスは、高圧型水素吸蔵合金のプラトー圧以上の圧力を有する。これにより、本開示の高圧型水素化物二次電池では、高圧型水素吸蔵合金が高容量な負極活物質として機能することができる。これにより、電池の質量容量密度が向上する。
【0015】
ここで、Nernstの式に、水素吸蔵合金のプラトー圧が代入されることにより、本開示の高圧型水素化物二次電池の平衡負極電位(放電電位)が見積もられる。平衡負極電位は、下記式:
E=−0.93−0.03logPH2
(式中、Eは平衡負極電位を示し、PH2はプラトー圧を示す。)
により算出される。
【0016】
この式から、プラトー圧が高くなることにより、平衡負極電位が低下すると考えられる。すなわち、電池の作動電圧が高くなると考えられる。したがって、本開示の高圧型水素化物二次電池では、質量エネルギー密度(単位質量あたりのエネルギー)の向上も期待できる。なおここでの「エネルギー」は、電池の平均作動電圧と電池容量との積を示す。
【0017】
さらに、本開示の高圧型水素化物二次電池において、高圧型水素吸蔵合金は、それ自身が負極活物質として機能するだけでなく、水素ガスが第2の負極活物質となるための触媒としても機能する。これにより、本開示の高圧型水素化物二次電池では、放電時、下記の反応式で表される2つの負極反応が進行する。なお充電時は、これとは逆反応が進行する。
【0018】
高圧型水素吸蔵合金:MH+OH-→M+H2O+e-
水素ガス :1/2H2+OH-→e-+H2
(式中、Mは水素吸蔵合金を示し、MHは水素吸蔵合金の水素化物を示す。)
【0019】
すなわち、本開示の高圧型水素化物二次電池は、固体負極活物質(高圧型水素吸蔵合金)および気体負極活物質(水素ガス)を含むハイブリッド負極を備える。気体負極活物質は、固体負極活物質よりも軽量である。したがって、ハイブリッド負極により、電池の質量容量密度が更に向上することになる。
以上より、本開示の高圧型水素化物二次電池は、高い質量容量密度を有する。
【0020】
〔2〕水素吸蔵合金は、好ましくは
(i)下記式(1):
MmNi5-x1x1 (1)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、BはFe、Cr、MnおよびAlからなる群より選択される少なくとも1種を示し、x1は0以上0.6以下である。)
で表されるAB5型合金、
(ii)下記式(2):
MmNi5-x2Cox2 (2)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、x2は0より大きく1.0以下である。)
で表されるAB5型合金、および
(iii)LaNi5
からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0021】
上記のAB5型合金では、AサイトがMmまたはランタン(La)である。AサイトがLaの場合、Bサイトはニッケル(Ni)で占められている。AサイトがMmの場合、BサイトはNiで占められていてもよいし、Niの一部が鉄(Fe)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、アルミニウム(Al)、コバルト(Co)で置換されていてもよい。このようなAB5型合金は、プラトー圧が0.15MPa以上10MPa以下であり、かつ水素吸蔵量が多い傾向にある。すなわち、水素吸蔵合金がこれらのAB5型合金であることにより、質量容量密度のいっそうの向上が期待される。
【0022】
〔3〕上記〔2〕のAB5型合金は、たとえば、1.3質量%以上1.5質量%以下の水素吸蔵量を有することができる。
【0023】
〔4〕水素ガスは、好ましくは25℃において10MPa以上70MPa以下の圧力を有する。
【0024】
高圧型水素吸蔵合金が高容量な負極活物質として機能するために、水素ガスは、高圧型水素吸蔵合金のプラトー圧以上の圧力を有すればよい。ここでは、水素ガスの密封が可能である限り、水素ガスの圧力は高い程好ましい。気体負極活物質である水素ガスが、高圧で圧縮されることにより、電池の体積エネルギー密度(単位体積あたりのエネルギー)の向上が期待されるためである。たとえば、水素ガスが25℃において20MPaの圧力を有する場合、本開示の高圧型水素化物二次電池は、180Wh/kgの質量エネルギー密度、および500Wh/lの体積エネルギー密度を示すと試算される。なお、燃料電池用の高圧水素タンクとして、70MPa級の圧力容器も開発されている。
【0025】
〔5〕正極は、オキシ水酸化ニッケルおよび水酸化ニッケルの少なくとも一方を含んでもよい。すなわち、正極は、従来のニッケル正極であってもよい。正極がニッケル正極である場合、高圧型水素化物二次電池では、放電時、以下の反応式で表される反応が進行することになる(充電時は、この逆反応が進行することになる)。
【0026】
(+) NiOOH+H2O+e-→Ni(OH)2+OH-
(−) MH+OH-→M+H2O+e-
(−) 1/2H2+OH-→e-+H2
(式中、(+)は正極反応であることを示し、(−)は負極反応であることを示す。)
【0027】
上記反応式に示されるように、充電状態のニッケル正極では、正極活物質がオキシ水酸化ニッケル(NiOOH)であり、放電状態のニッケル正極では、正極活物質が水酸化ニッケル(Ni(OH)2)である。したがって、いずれの充電状態であっても、ニッケル正極には、オキシ水酸化ニッケルおよび水酸化ニッケルの少なくとも一方が含まれている。
【0028】
前述のように、本開示の高圧型水素化物二次電池では、高圧型水素吸蔵合金のプラトー圧に応じて、作動電圧の向上が期待できる。本開示の高圧型水素化物二次電池がニッケル正極を備える場合、従来のニッケル水素化物二次電池よりも0.01〜0.04V程度高い作動電圧が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、水素吸蔵合金のPCT線図の一例である。
図2図2は、水素吸蔵合金のPCT線図の他の一例である。
図3図3は、本開示の実施形態に係る高圧型水素化物二次電池を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と記される)が説明される。ただし、以下の説明は、本開示の発明の範囲を限定するものではない。
【0031】
<高圧型水素化物二次電池>
本実施形態の高圧型水素化物二次電池は、高い質量容量密度を有する。そのため、本実施形態の高圧型水素化物二次電池は、たとえば、HV、電気車両(EV)等の動力電源として好適である。ただし、本実施形態の高圧型水素化物二次電池の適用用途は、こうした車載用途に限られない。本実施形態の高圧型水素化物二次電池は、あらゆる用途に適用可能である。
【0032】
以下では、高圧型水素化物二次電池が「電池」と略記される場合がある。
図3は、本実施形態に係る高圧型水素化物二次電池を示す概念図である。電池100は、圧力容器50を備える。圧力容器50内には、正極10および負極20が配置されている。正極10および負極20は、リード線により外部に導出されている。正極10と負極20との間には、セパレータ30が配置されている。図示されていないが、正極10、負極20およびセパレータ30には、電解液が含浸されている。圧力容器50内の空間には、高圧の水素ガスが封入されている。
【0033】
すなわち、電池100は、圧力容器50、圧力容器50内に配置されている正極10、圧力容器50内に配置されている負極20、および圧力容器50内に充填されている水素ガスを備える。正極10および負極20は、それらの間にセパレータ30を挟んで、巻回されていてもよい。電池100は、正極10および負極20を複数備えていてもよい。たとえば、正極10および負極20は、それらの間にセパレータ30を挟みながら、交互に積層されていてもよい。
【0034】
《圧力容器》
圧力容器50は、水素ガスの圧力に耐え得る限り、その構造は特に限定されない。たとえば、圧力容器50の壁は、多層構造を有してもよい。多層構造は、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics,CFRP)層を含んでもよい。CFRP層には、耐圧強度が期待される。多層構造は、金属ライナーおよび樹脂ライナーの少なくとも一方を含んでもよい。金属ライナーおよび樹脂ライナーには、水素ガスを封じ込める作用が期待される。金属ライナーは、水素ガスの影響を受け難い素材から構成されることが望ましい。金属ライナーは、たとえば、Al合金(A6061等)、ステンレス(SUS316L等)等により構成される。樹脂ライナーは、たとえば、ポリアミド(PA)等から構成される。
【0035】
《負極》
負極20は、水素吸蔵合金を含む。負極20の形状は、特に限定されない。負極20は、たとえば、板状の部材であり得る。負極20の平面形状は、矩形状、帯状等であり得る。負極20は、たとえば、水素吸蔵合金の成形体であってもよい。負極20は、たとえば、粉末状の水素吸蔵合金、導電材およびバインダを含有する負極合材が、集電体に塗着されたものであってもよい。すなわち、負極20は、水素吸蔵合金を含む限り、導電材、バインダ、集電体等を含んでいてもよい。
【0036】
導電材は、たとえば、銅(Cu)およびNi等の金属粉末;炭素繊維;カーボンブラック等の炭素粉末等でよい。バインダは、たとえば、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレン(PE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等でよい。集電体は、たとえば、パンチングメタル、エキスパンドメタル、発泡金属等でよい。集電体の素材は、たとえば、Ni、あるいはNiメッキが施されたFe等でよい。負極合材は、たとえば、70〜98質量%の水素吸蔵合金、1〜20質量%の導電材、および1〜10質量%のバインダを含有してもよい。
【0037】
(高圧型水素吸蔵合金)
本実施形態では、負極20が高圧型水素吸蔵合金を含む。すなわち、PCT線図において、水素吸蔵合金の25℃の放出線は、0.15MPa以上10MPa以下のプラトー圧を有する。プラトー圧は、水素吸蔵合金の合金組成によって変化する。プラトー圧が高い程、電池の作動電圧の向上が期待できる。プラトー圧は、たとえば、0.15MPa以上5MPa以下であってもよいし、0.15MPa以上2.3MPa以下であってもよいし、0.2MPa以上2.3MPa以下であってもよいし、0.3MPa以上2.3MPa以下であってもよいし、0.57MPa以上2.3MPa以下であってもよいし、1.6MPa以上2.3MPa以下であってもよい。
【0038】
本明細書の「25℃の放出線」は、「JIS H 7201」に準拠した方法により測定される。測定には、公知のジーベルツ装置が使用される。測定時、試料室(恒温槽)内に配置された温度計が「25℃±1℃」を示していれば、25℃の放出線が測定されたものとみなす。
【0039】
図1に示されるように、PCT線図では、縦軸が解離圧であり、横軸が水素組成(H/M)である。縦軸は常用対数目盛を有する。前述のように水素組成(H/M)は、金属原子数に対する水素原子数の比(無次元数)を示す。25℃の放出線は、少なくとも10点、好ましくは20点の測定点が結ばれることにより作成されるものとする。
【0040】
本明細書の「プラトー圧」は、次のようにして算出される。まず、放出線の中で連続する3点を通る直線が描かれる。直線の傾きが求められる。3点が一つの直線に載らない場合は、最小二乗法により、直線の傾きが求められる。傾きが最も小さくなる3点の組み合わせが決定される。この3点の解離圧の算術平均値が「プラトー圧」とされる。
【0041】
なお通常、放出線が測定される場合、吸蔵線も測定されることになる。吸蔵線とは、水素吸蔵合金が水素を吸蔵する際の圧力(吸蔵圧)が、水素組成に対してプロットされることにより、作成される線である。一般に吸蔵線は、放出線よりも高圧側にシフトしている。したがって、25℃の放出線が0.15MPa以上のプラトー圧を有することは、25℃の放出線および吸蔵線の両方が0.15MPa以上のプラトー圧を有することを意味する。
【0042】
25℃以外における放出線およびプラトー圧が、併せて測定されてもよい。25℃のプラトー圧と、その他の温度のプラトー圧とから、水素吸蔵合金が水素を放出する際の標準エンタルピー変化、および標準エントロピー変化が求められる。プラトー圧、標準エンタルピー変化、および標準エントロピー変化は、下記関係式:
lnPH2=ΔH/RT−ΔS/R
(式中、PH2はプラトー圧を示し、ΔHは標準エンタルピー変化を示し、ΔSは標準エントロピー変化を示し、Rは気体定数を示し、Tは放出線が測定された温度を示す。)
を満たすと考えられる。したがって、温度の逆数(1/T)に対して、プラトー圧(PH2)の自然対数がプロットされることにより、直線の傾きからΔHが、直線の切片からΔSがそれぞれ求められる。
【0043】
(合金組成)
水素吸蔵合金としては、AB型合金(CsCl型結晶構造を有する合金)、A2B型合金(Mg2Ni型結晶構造を有する合金)、AB5型合金(CaCu5型結晶構造を有する合金)等が知られている。これらのうち、AB5型合金は、高圧型水素吸蔵合金となり得る。さらに上記式(1)で表されるAB5型合金、上記式(2)で表されるAB5型合金、およびLaNi5は、高圧型水素吸蔵合金であり、かつ水素吸蔵量が多い傾向にある。負極20は、1種の水素吸蔵合金を単独で含んでもよいし、2種以上の水素吸蔵合金を含んでもよい。したがって、水素吸蔵合金は、好ましくは(i)上記式(1)で表されるAB5型合金、(ii)上記式(2)で表されるAB5型合金、および(iii)LaNi5からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0044】
「ミッシュメタル(Mm)」は、セリウム(Ce)およびLaが主成分である希土類元素の混合物を示す。「CeおよびLaが主成分である」とは、CeおよびLaの合計が混合物全体の50質量%以上を占めることを示す。Mmは、CeおよびLaの他、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、マグネシウム(Mg)、Al、Fe等を含有していてもよい。
Mmは、たとえば、40〜60質量%のCe、10〜35質量%のLa、ならびに残部のNd、PrおよびSm等を含有する。具体例としては、たとえば、53.7質量%のCe、24.1質量%のLa、および16.5質量%のNd、5.8質量%のPrを含有するMmが挙げられる。
Laの含有量が多いMm(いわゆる「ランタンリッチミッシュメタル」)が使用されてもよい。ランタンリッチミッシュメタルは、たとえば、10〜30質量%のCe、40〜70質量%のLa、ならびに残部のNd、PrおよびSm等を含有する。具体例としては、たとえば、25.8質量%のCe、63.8質量%のLa、7.9質量%のNd、および2.4質量%のPrを含有するMmが挙げられる。
【0045】
水素吸蔵合金は、下記式(3):
MmNi5-x3Fex3 (3)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、x3は0.2以上0.4以下である。)
で表されるAB5型合金であってもよい。上記式(3)で表されるAB5型合金としては、たとえば、MmNi4.7Fe0.3等が挙げられる。
【0046】
水素吸蔵合金は、下記式(4):
MmNi5-x4Crx4 (4)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、x4は0.4以上0.6以下である。)
で表されるAB5型合金であってもよい。上記式(4)で表されるAB5型合金としては、たとえば、MmNi4.5Cr0.5等が挙げられる。
【0047】
水素吸蔵合金は、下記式(5):
MmNi5-x5Cox5 (5)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、x5は0.7以上0.9以下である。)
で表されるAB5型合金であってもよい。上記式(5)で表されるAB5型合金としては、たとえば、MmNi4.2Co0.8等が挙げられる。
【0048】
水素吸蔵合金は、下記式(6):
MmNi5-x6Mnx6 (6)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、x6は0.4以上0.6以下である。)
で表されるAB5型合金であってもよい。上記式(6)で表されるAB5型合金としては、たとえば、MmNi4.5Mn0.5等が挙げられる。
【0049】
水素吸蔵合金は、下記式(7):
MmNi5-x7Alx7 (7)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、x7は0.4以上0.6以下である。)
で表されるAB5型合金であってもよい。上記式(7)で表されるAB5型合金としては、たとえば、MmNi4.5Al0.5等が挙げられる。
【0050】
水素吸蔵合金は、下記式(8):
MmNi5-x8-y8Crx8Mny8 (8)
(式中、Mmはミッシュメタルを示し、x8は0.25以上0.45以下であり、y8は0.05以上0.25以下であり、x8とy8との和は0.5である。)
で表されるAB5型合金であってもよい。上記式(8)で表されるAB5型合金としては、たとえば、MmNi4.5Cr0.45Mn0.05、MmNi4.5Cr0.25Mn0.25等が挙げられる。
【0051】
したがって、水素吸蔵合金は、(i)MmNi5、(ii)上記式(3)〜(8)で表されるAB5型合金、および(iii)LaNi5からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0052】
あるいは水素吸蔵合金は、MmNi5、MmNi4.7Fe0.3、MmNi4.5Cr0.5、MmNi4.2Co0.8、MmNi4.5Mn0.5、MmNi4.5Al0.5、MmNi4.5Cr0.45Mn0.05、MmNi4.5Cr0.25Mn0.25、およびLaNi5からなる群より選択される少なくとも1種であってもよい。
【0053】
水素吸蔵合金の水素吸蔵量が多い程、電池100の質量容量密度の向上が期待できる。「水素吸蔵量」は、合金がすべて水素化された状態において、合金の質量に対する水素の質量の割合を示す。上記の高圧型水素吸蔵合金は、たとえば、1.3質量%以上1.5質量%以下の水素吸蔵量を有することができる。さらに高圧型水素吸蔵合金は、1.4質量%以上1.5質量%以下の水素吸蔵量を有することもできる。
【0054】
《水素ガス》
水素ガスは、圧力容器50に充填されている。水素ガスは、25℃において高圧型水素吸蔵合金のプラトー圧以上の圧力を有する。これにより、高圧型水素吸蔵合金が高容量な負極活物質として機能することができる。水素ガスの圧力は、圧力計により測定される。圧力計は、水素ガスの圧力および圧力容器50の形態等に応じて、適切な物が選択されるべきである。たとえば、70MPa級の高圧水素ガス用の圧力計も市場から入手可能である。圧力計は、圧力容器50に常設されていてもよい。
【0055】
本実施形態の水素ガスは負極活物質として機能することにより、電池100の質量容量密度の向上に寄与する。水素ガスは、好ましくは25℃において10MPa以上70MPa以下の圧力を有する。水素ガス(負極活物質)が圧縮されることにより、電池100の体積エネルギー密度の向上が期待される。水素ガスは、25℃において、より好ましくは20MPa以上70MPa以下の圧力を有し、よりいっそう好ましくは40MPa以上70MPa以下の圧力を有し、最も好ましくは60MPa以上70MPa以下の圧力を有する。
【0056】
《正極》
正極10は、正極活物質を含む。正極10の形状も特に限定されない。正極10も、たとえば、板状の部材であり得る。正極10の平面形状も、矩形状、帯状等であり得る。正極活物質は、たとえば、NiOOHおよびNi(OH)2の少なくとも一方でもよい。すなわち、正極10は、ニッケル正極であってもよい。ニッケル正極は、従来公知の焼結式ニッケル正極であってもよいし、ペースト式ニッケル正極であってもよい。たとえば、正極10は、正極活物質、導電材およびバインダを含有する正極合材が、発泡Ni等の基材に充填されたものであってもよい。導電材は、たとえば、酸化コバルト(CoO)、水酸化コバルト(Co(OH)2)等でよい。バインダは、たとえば、PVA、CMC、SBR、PTFE、FEP等でよい。正極合材は、たとえば、80〜98質量%の正極活物質、1〜10質量%の導電材、および1〜10質量%のバインダを含有する。
【0057】
《セパレータ》
セパレータ30は、正極10と負極20との間に配置されている。セパレータ30は、たとえば、ポリプロピレン(PP)製の不織布、ポリアミド(PA)製の不織布等でよい。不織布には、繊維の表面に親水性を付与する処理が施されていてもよい。親水性を付与する処理としては、たとえば、スルホン化処理、プラズマ処理等が挙げられる。不織布は、たとえば、50〜500μm程度の厚さを有する。不織布は、たとえば、50〜100g/m2程度の目付量を有する。
【0058】
《電解液》
電解液は、正極10、負極20およびセパレータ30内の空隙に含浸されている。電解液は、たとえば、水酸化カリウム(KOH)水溶液等でよい。電解液は、KOHの他、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化リチウム(LiOH)等も含有していてもよい。電解液の水酸化物イオン(OH-)濃度は、たとえば、1〜20mоl/l程度でよい。
【0059】
従来のニッケル水素化物二次電池では、充電時、電解液に含まれる水が電気分解され、水素ガスが発生することがある。本実施形態の高圧型水素化物二次電池では、圧力容器50内が高圧の水素ガスで充たされている。そのため、ルシャトリエの原理により、水の電気分解反応が進行し難いと予想される。
【実施例】
【0060】
以下、実施例が説明される。ただし、以下の例は、本開示の発明の範囲を限定するものではない。
【0061】
<水素吸蔵合金の調製>
以下のようにして、各種の水素吸蔵合金が調製された。
【0062】
《試料No.1》
Mm粉末およびNi粉末が準備された。Mm粉末およびNi粉末が、モル比で「Mm:Ni=1:5」の割合となるように混合された。これにより混合粉末が調製された。アーク溶解炉により、アルゴン雰囲気下、混合粉末が溶解された。これにより合金溶湯が調製された。ストリップキャスト法により、合金溶湯が冷却された。これにより水素吸蔵合金(MmNi5)の鋳片が得られた。ボールミルにより、鋳片が粉砕された。これにより水素吸蔵合金(AB5型合金)の粉末が調製された。粉末は、20〜100μmの粒径を有していた。
【0063】
《試料No.2〜13》
下記表1に示されるように、合金組成が変更されることを除いては、試料No.1と同じ手順により、試料No.2〜13に係る水素吸蔵合金の粉末が調製された。
【0064】
【表1】
【0065】
<試験セルの作製>
「JIS H 7205」に準拠した手順により、水素吸蔵合金の粉末を含む試験電極、および試験電極を備える試験セル(水素化物二次電池)が作製された。ただし、試験セルの容器には、水素吸蔵合金のプラトー圧と同程度の圧力に耐え得る圧力容器が使用され、かつ圧力容器の内圧がプラトー圧以上となるように、圧力容器に水素ガスが充填された。試験セルのその他の構成は以下のとおりである。
【0066】
(試験セル)
対極:水酸化ニッケル
電解液:KOH水溶液(6mоl/l)
セパレータ:PP製の不織布
【0067】
<評価>
前述の方法により、25℃の放出線が測定された。さらにPCT線図が作成された。測定には、鈴木商館社製のジーベルツ装置が使用された。プラトー圧、水素吸蔵量、ΔHおよびΔSが算出された。結果は、上記表1に示されている。
【0068】
上記表1に示されるように、試料No.1〜9はプラトー圧が0.15MPa以上10MPa以下である高圧型水素吸蔵合金であった。試料No.10〜13は、プラトー圧が0.15MPa未満である低圧型水素吸蔵合金であった。
【0069】
「JIS H 7205」に準拠した手順により、試験セルの放電特性および電圧が測定された。これにより、水素吸蔵合金の質量容量密度が求められた。結果は、上記表1に示されている。
【0070】
上記表1に示されるように、高圧型水素吸蔵合金(試料No.1〜9)を備える試験セル(すなわち高圧型水素化物二次電池)は、低圧型水素吸蔵合金(試料No.10〜13)を備える試験セルよりも、高い質量容量密度を示した。
【0071】
今回開示された実施形態および実施例は、すべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の発明の範囲は、上記された実施形態および実施例ではなくて、特許請求の範囲によって示されるべきである。本開示の発明の範囲には、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0072】
10 正極、20 負極、30 セパレータ、50 圧力容器、100 電池(高圧型水素化物二次電池)。
図1
図2
図3