特許第6606069号(P6606069)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本ゼオン株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人九州大学の特許一覧

特許6606069酸化還元触媒、電極材料、電極、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池
<>
  • 特許6606069-酸化還元触媒、電極材料、電極、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池 図000003
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606069
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】酸化還元触媒、電極材料、電極、燃料電池用膜電極接合体、及び燃料電池
(51)【国際特許分類】
   B01J 33/00 20060101AFI20191031BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20191031BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20191031BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20191031BHJP
   C01B 32/152 20170101ALI20191031BHJP
   C01B 32/174 20170101ALI20191031BHJP
   H01M 8/10 20160101ALN20191031BHJP
【FI】
   B01J33/00 B
   H01M4/96 M
   H01M4/90 M
   B01J23/42 M
   C01B32/152
   C01B32/174
   !H01M8/10 101
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-523154(P2016-523154)
(86)(22)【出願日】2015年5月27日
(86)【国際出願番号】JP2015002690
(87)【国際公開番号】WO2015182138
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2018年4月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-113168(P2014-113168)
(32)【優先日】2014年5月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【弁理士】
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】岸田 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】竹中 壮
(72)【発明者】
【氏名】吉原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】児島 清茂
【審査官】 松本 陶子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−004541(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/080912(WO,A1)
【文献】 特開2014−154459(JP,A)
【文献】 特開2006−178265(JP,A)
【文献】 特開2006−156029(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/055739(WO,A1)
【文献】 特開2006−179515(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/011655(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 33/00
B01J 23/42
C01B 32/152
C01B 32/174
H01M 4/90
H01M 4/96
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均直径(Av)と直径の標準偏差(σ)が、関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たす、酸化処理されてなるカーボンナノチューブに、金属ナノ粒子である触媒活性成分が担持されており、該触媒活性成分が担持されている部分を含む、前記カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部が、多孔性無機材料により被覆されてなる酸化還元触媒であり、
前記カーボンナノチューブは、昇温脱離法における150〜950℃での、一酸化炭素の脱離量が1000〜20000μmol/gであり、かつ二酸化炭素の脱離量が500〜10000μmol/gである、
酸化還元触媒。
【請求項2】
請求項に記載の酸化還元触媒を含有する電極材料。
【請求項3】
請求項に記載の電極材料を用いてなる電極。
【請求項4】
請求項に記載の電極と、電解質膜とを具える燃料電池用膜電極接合体。
【請求項5】
請求項に記載の燃料電池用膜電極接合体を具える燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元触媒、該酸化還元触媒を含有する電極材料、該電極材料を用いた電極、該電極を具える燃料電池用膜電極接合体、並びに、該燃料電池用膜電極接合体を具える燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池の電極等に、炭素系の触媒担体の表面に金属を担持してなる酸化還元触媒を使用することが提案されている。また、かかる酸化還元触媒の触媒担体として、カーボンナノチューブを使用することも提案されている。ここで、金属担持カーボンナノチューブは、通常、金属前駆体をカーボンナノチューブ表面に付着させ、該金属前駆体を還元して金属とし、焼成して該金属を固定化することで調製される。しかしながら、かかる調製方法では、焼成時にカーボンナノチューブが凝集してしまうという問題がある。
【0003】
一方、カーボンナノチューブの表面に金属が露出していると、例えば、かかる金属担持カーボンナノチューブを酸化還元触媒として燃料電池の電極に使用した場合、電解質との接触で金属が溶出してしまうという問題がある。そして、かかる問題を解消するため、金属担持カーボンナノチューブをシリカ等の無機材料からなる保護膜で覆う技術が知られている。しかしながら、上述のように、カーボンナノチューブが凝集した状態では、無機材料からなる保護膜で金属担持カーボンナノチューブを上手く被覆できないという問題がある。
【0004】
これに対して、下記特許文献1には、金属前駆体をカーボンナノチューブ表面に付着させ、金属前駆体を還元し、更に、無機材料からなる保護膜で被覆した後、焼成して金属を固定化する技術が開示されている。この場合、保護膜による被覆の前に金属の焼成・固定化を行わないため、カーボンナノチューブが凝集することなく、金属担持カーボンナノチューブを保護膜により十分に被覆することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−004541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上記特許文献1に開示のような、無機材料からなる保護膜で被覆した金属担持カーボンナノチューブであっても、耐久性及び触媒活性に改善の余地があることが分かった。
【0007】
そこで、本発明の課題は、電極用触媒として有用な、耐久性が高く、触媒活性に優れた酸化還元触媒、該酸化還元触媒を含有する電極材料、該電極材料を用いた電極、該電極を具える燃料電池用膜電極接合体、並びに、該燃料電池用膜電極接合体を具える燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、平均直径(Av)と直径の標準偏差(σ)とが特定の関係にあるカーボンナノチューブに触媒活性成分を担持し、該触媒活性成分が担持されている部分を含む、前記カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部を、多孔性無機材料により被覆してなる酸化還元触媒が、高い耐久性と、優れた触媒活性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明の酸化還元触媒は、平均直径(Av)と直径の標準偏差(σ)が、関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たすカーボンナノチューブに触媒活性成分が担持されており、該触媒活性成分が担持されている部分を含む、前記カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部が、多孔性無機材料により被覆されてなることを特徴とする。かかる本発明の酸化還元触媒は、高い耐久性と、優れた触媒活性を有し、電極用触媒として有用である。
【0010】
ここで、本発明の酸化還元触媒において、前記カーボンナノチューブは、昇温脱離法における150〜950℃での、一酸化炭素の脱離量が1000〜20000μmol/gであり、かつ二酸化炭素の脱離量が500〜10000μmol/gであることが好ましい。この場合、触媒活性成分がカーボンナノチューブ上に強固に担持されるため、カーボンナノチューブと触媒活性成分(又はその前駆体)との分散液の調製において、触媒活性成分(又はその前駆体)のカーボンナノチューブからの脱落を抑制でき、また、分散液中におけるカーボンナノチューブの分散性が高いため、触媒活性成分をカーボンナノチューブ上に均一に担持でき、酸化還元触媒の触媒活性が更に向上する。
【0011】
また、本発明の酸化還元触媒の好適例においては、前記触媒活性成分が金属ナノ粒子である。この場合、触媒活性成分の表面積が広いため、酸化還元触媒の触媒活性が高い。
【0012】
また、本発明の電極材料は、上記の酸化還元触媒を含有することを特徴とする。本発明の電極材料は、上記酸化還元触媒を含有するため、耐久性が高く且つ電極反応における触媒活性にも優れる電極の作製に有用である。
【0013】
また、本発明の電極は、上記の電極材料を用いてなることを特徴とする。本発明の電極は、上記電極材料を用いてなるため、耐久性が高く、また、電極としての活性にも優れる。
【0014】
また、本発明の燃料電池用膜電極接合体は、上記の電極と、電解質膜とを具えることを特徴とする。本発明の燃料電池用膜電極接合体は、上記電極を具えるため、耐久性が高く、また、電極における触媒活性にも優れる。また、本発明の燃料電池用膜電極接合体においては、電極の触媒層と電解質膜との界面における、触媒活性成分の溶出を防止できる。
【0015】
また、本発明の燃料電池は、上記の燃料電池用膜電極接合体を具えることを特徴とする。本発明の燃料電池は、上記燃料電池用膜電極接合体を具えるため、耐久性が高く、また、発電効率も優れる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電極用触媒として有用な、耐久性が高く、触媒活性に優れた酸化還元触媒を提供できる。また、本発明によれば、かかる酸化還元触媒を含有する電極材料、該電極材料を用いた電極、該電極を具える燃料電池用膜電極接合体、並びに、該燃料電池用膜電極接合体を具える燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明に従う燃料電池の一実施態様の部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[酸化還元触媒]
以下に、本発明の酸化還元触媒を詳細に説明する。
本発明の酸化還元触媒は、後述するカーボンナノチューブと、該カーボンナノチューブ上に担持された触媒活性成分と、該触媒活性成分が担持されている部分を含む、前記カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部を被覆する多孔性無機材料とを含む。かかる本発明の酸化還元触媒は、高い耐久性と、優れた触媒活性を有し、電極用触媒として有用である。
【0019】
<カーボンナノチューブ>
本発明の酸化還元触媒に用いるカーボンナノチューブ(以下、CNTと略記することがある)は、平均直径(Av)と直径の標準偏差(σ)が、関係式:0.60>3σ/Av>0.20を満たし、好ましくは0.60>3σ/Av>0.50を満たす。3σ/Avを上記範囲内とすれば、高い耐久性と優れた触媒活性を備える酸化還元触媒を得ることができる。
【0020】
前記平均直径の「直径」とはCNTの外径を指し、「3σ」とは、CNTの直径の標本標準偏差(σ)に3を乗じたものであり、直径分布を示す(以下、直径分布(3σ)と略記することもある)。
なお、「CNTの平均直径(Av)」及び「CNTの直径の標本標準偏差(σ)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡での観察下、無作為に選択したCNT100本の直径(外径)を測定することによって求められた値を指す。また、CNTとしては、上記のように測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0021】
前記CNTの平均直径(Av)は、通常、0.5nm以上、15nm以下が好ましく、1nm以上、10nm以下がより好ましい。CNTの平均直径(Av)が上記範囲内にあると、酸化還元触媒の耐久性と触媒活性が向上する。
また、CNTの平均長さは、好ましくは0.1μm〜1cm、より好ましくは0.1μm〜1mmである。CNTの平均長さが上記範囲内にあると、高い耐久性と優れた触媒活性を備える酸化還元触媒を形成し易くなる。CNTの平均長さは、透過型電子顕微鏡での観察下、無作為に選択したCNT100本の長さを測定することにより求めることができる。
【0022】
前記CNTは、昇温脱離法における150〜950℃での、一酸化炭素(CO)の脱離量が1000〜20000μmol/gであり、かつ二酸化炭素(CO2)の脱離量が500〜10000μmol/gであることが好ましい。この場合、触媒活性成分がカーボンナノチューブ上に強固に担持されるため、カーボンナノチューブと触媒活性成分(又はその前駆体)との分散液の調製において、触媒活性成分(又はその前駆体)のカーボンナノチューブからの脱落を抑制でき、また、分散液中におけるカーボンナノチューブの分散性が高いため、触媒活性成分をカーボンナノチューブ上に均一に担持でき、酸化還元触媒の触媒活性が更に向上する。
【0023】
昇温脱離法(Temperature Programmed Desorption)において発生するガス中のCOとCO2は、CNT表面に結合している、水酸基、カルボキシル基、ケトン基、ラクトン基、アルデヒド基及びメチル基などの種々の官能基に由来する。上記の通りのCOとCO2の脱離量を有する場合、CNTの表面には、特に水酸基とカルボキシル基が多く存在しているものと推定される。かかるCNTであれば、CNT分散液中での分散性が高く、また、CNTから触媒活性成分が脱落し難くなる。COの脱離量としては、好ましくは1200〜15000μmol/g、より好ましくは1500〜10000μmol/g、より一層好ましくは2000〜7000μmol/gであり、CO2の脱離量としては、好ましくは600〜10000μmol/g、より好ましくは800〜8000μmol/g、より一層好ましくは1000〜6000μmol/gである。
【0024】
昇温脱離法におけるCOとCO2の脱離量は、公知の方法により求めることができる。すなわち、まず、所定の昇温脱離装置内において、CNTに熱処理を施すことにより、当該CNTの表面から吸着水を脱離させる。次いで、この熱処理が施されたCNTをヘリウムガス等の不活性ガス中で所定の温度まで加熱していき当該CNTの表面からの官能基(含酸素原子化合物など)の脱離に伴って発生するCOとCO2とをそれぞれ定量する。
昇温脱離法における150〜950℃での、COの脱離量又はCO2の脱離量は、CNTを150℃まで加熱し、その後、当該CNTをさらに加熱して、その温度が950℃に上昇するまでの間に脱離した、COの総量又はCO2の総量として求められる。
【0025】
前記CNTは、窒素吸着によるBET比表面積が600〜2800m2/gであることが好ましく、より好ましくは800〜2500m2/g、より一層好ましくは1000〜2300m2/g、特に好ましくは1200〜2000m2/gである。CNTの比表面積を上記範囲内とすれば、種々の溶媒へのCNTの分散性が良好となる。
【0026】
前記BET比表面積は、77Kにおける窒素吸着等温線を測定し、BET法により求めることができる。前記BET比表面積の測定は、例えば、「BELSORP(登録商標)−max」(日本ベル(株)製)を用いて行うことができる。
【0027】
前記CNTは、複数の微小孔を有するのが好ましい。中でも、孔径が2nmよりも小さいマイクロ孔を有するのが好ましく、その存在量は、下記の方法で求めたマイクロ孔容積で、好ましくは0.4mL/g以上、より好ましくは0.43mL/g以上、更に好ましくは0.45mL/g以上であり、上限としては、通常、0.65mL/g程度である。CNTが上記のようなマイクロ孔を有することは、CNTの分散性を高める観点から好ましい。なお、マイクロ孔容積は、例えば、CNTの調製方法及び調製条件を適宜変更することで調整することができる。
ここで、「マイクロ孔容積(Vp)」は、CNTの液体窒素温度(77K)での窒素吸着等温線を測定し、相対圧P/P0=0.19における窒素吸着量をVとして、式(I):Vp=(V/22414)×(M/ρ)より、算出することができる。なお、Pは吸着平衡時の測定圧力、P0は測定時の液体窒素の飽和蒸気圧であり、式(I)中、Mは吸着質(窒素)の分子量28.010、ρは吸着質(窒素)の77Kにおける密度0.808g/cm3である。マイクロ孔容積は、例えば、「BELSORP(登録商標)−mini」(日本ベル(株)製)を使用して求めることができる。
【0028】
前記CNTの製造方法としては、平均直径(Av)と直径の標準偏差(σ)とが上記関係式を満たすCNTを生成する限り、特に限定されるものではないが、特には、スーパーグロース法が好ましい。スーパーグロース法とは、表面にCNT製造用触媒層を有する基材(以下、「CNT製造用基材」ということがある)上に、原料化合物及びキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤を存在させることで、CNT製造用触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させる方法である(国際公開第2006/011655号参照)。より詳細には、この方法では、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行い、原料ガスとしてアセチレンを主成分とするガス(例えば、アセチレンを50体積%以上含むガス)を用いることによって、上記特性を有するCNTを効率的に製造することができる。
【0029】
前記CNTは、前記COとCO2の脱離量や、窒素吸着によるBET比表面積を調整するために、通常、その表面に、公知の酸化処理、例えば、オゾン処理や、硝酸などの液体の酸化剤を用いた処理を施すのが好適である。
【0030】
オゾン処理は、原料CNTを容器に入れ、原料CNTの温度を、通常、0〜100℃、好ましくは20〜50℃の範囲になるように調整しながら、オゾン発生装置より、通常、常圧の圧力で該容器にオゾン含有ガスを導き、通常、1〜720分間、好ましくは30〜600分間反応させることで行うことができる。
ここで、オゾン含有ガスは、空気又は窒素で希釈され、オゾン濃度が好ましくは0.01〜100g/Nm3、より好ましくは1〜70g/Nm3、より一層好ましくは10〜50g/Nm3である。湿度は、特に限定されないが20〜90%RHの通常範囲である。
以上により、原料CNTの表面がオゾン処理されるが、オゾン処理は、ガスで行うことができるため、反応終了後、得られたCNTは、直ちに乾燥固体として使用することができる。
【0031】
また、硝酸処理において用いる硝酸は、硝酸を含めば特に限定されず、発煙硝酸や硫酸と混合した混酸も包含する。硝酸としては、通常、純度5%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上のものが用いられる。原料CNT100質量部に対し、通常、硝酸を200〜10000質量部添加し、その際、得られた混合物を超音波処理し、原料CNTを分散させてもよい。次いで、得られた混合物を加熱してもよい。加熱方法は、通常用いられる方法なら特に限定されないが、オイルバスやマントルヒーターでの加熱、マイクロ波を照射して加熱する方法などを適時選択すればよい。また、加熱は、常圧またはオートクレーブ中など加圧下で実施してもよい。加熱は、通常、常圧の場合、30〜120℃で0.1〜50時間、加圧の場合、30〜200℃で0.1〜50時間程度行う。一方、マイクロ波照射による加熱は、通常、常圧の場合、30〜120℃で、加圧の場合、30〜200℃で、前記混合物が加熱されるようにマイクロ波の出力を設定して、0.01〜24時間程度行う。いずれの場合も、加熱は一段階で行っても二段階以上で行ってもよい。また、加熱時には、前記混合物を任意の撹拌手段により撹拌するのが好ましい。
以上により、原料CNTの表面が硝酸処理されるが、当該処理終了後の混合物は非常に高温であるため、室温まで冷却する。次いで、硝酸を、例えば、デカンテーションにより除去し、処理後のCNTを、例えば、水で洗浄する。洗浄は、通常、洗浄排水が中性になるまで行う。
CNTの表面を硝酸処理することで、前記官能基の他、ニトロ基(−NO2)がCNTの表面に結合すると推定され、当該ニトロ基の存在は、CNTの導電性及び分散性の向上に大きく寄与する。
【0032】
前記CNTの構造としては、特に限定されることなく、例えば、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)が挙げられ、特に、導電性及び機械的特性を高める観点から、単層から5層のカーボンナノチューブが好ましく、単層カーボンナノチューブが更に好ましい。
【0033】
<触媒活性成分>
本発明の酸化還元触媒に用いる触媒活性成分は、上述したカーボンナノチューブに担持されており、また、当該触媒活性成分が担持されている部分を含む、カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部は、後述する多孔性無機材料により被覆されている。
前記触媒活性成分は、金属ナノ粒子であることが好ましい。該金属ナノ粒子は、ナノメートルオーダーの粒子径を有する粒子であり、その平均粒径は、好ましくは0.5〜15nmであり、粒径の標準偏差は、好ましくは1.5nm以下である。金属ナノ粒子の平均粒径と粒径の標準偏差は、透過型電子顕微鏡で観察し、無作為に選択された100個の金属ナノ粒子の画像に基づいてその粒径を測定し、求めることができる。触媒活性成分が金属ナノ粒子の場合、触媒活性成分の表面積が広いため、酸化還元触媒の触媒活性が高くなる。
金属ナノ粒子としては、目的とする触媒活性により適宜選択されるが、周期律表第4族〜第14族の金属のナノ粒子が好ましい。ここで、周期律表第4族〜第14族の金属としては、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、テクネチウム、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、及び水銀等が挙げられる。なかでも、汎用性の高い酸化還元触媒が得られることから、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、オスミウム、イリジウム、白金、及び金が好ましく、白金が特に好ましい。これらの金属は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明の酸化還元触媒において、カーボンナノチューブに対する触媒活性成分の担持量は特に限定されるものではないが、触媒活性成分とカーボンナノチューブとの質量比率〔触媒活性成分/(カーボンナノチューブ+触媒活性成分)〕で表すと、通常、0.1〜99質量%、好ましくは5〜90質量%、より好ましくは10〜80質量%、更に好ましくは10〜30質量%である。触媒活性成分の担持量が、上記比率で0.1質量%以上であると、より優れた触媒活性を有する酸化還元触媒が得られる。一方、触媒活性成分の担持量は多ければ多いほど触媒活性は高くなると考えられるが、カーボンナノチューブの担持能や経済性を考慮すれば、触媒活性成分の担持量の上限は、上記比率で99質量%以下である。
【0035】
<多孔性無機材料>
本発明の酸化還元触媒に用いる多孔性無機材料は、上述した触媒活性成分が担持されている部分を含む、カーボンナノチューブの表面の少なくとも一部を被覆し、酸化還元触媒から触媒活性成分が溶出するのを防止する。
多孔性無機材料としては、目的の電極反応に対して不活性な材料が好ましく、例えば、シリカ、酸化ジルコニウム、酸化チタン等が挙げられるが、これらの中でも、シリカが好ましい。
【0036】
前記多孔性無機材料は、細孔径が、好ましくは1〜5nm、より好ましくは2〜3nmの範囲である。多孔性無機材料の細孔径が上記範囲内であれば、ガスの拡散と触媒活性成分の溶出防止を両立することができる。
【0037】
本発明の酸化還元触媒において、触媒活性成分担持カーボンナノチューブ表面の多孔性無機材料による被覆量は、本発明の所望の効果が得られる限り、特に限定されるものではない。本発明の酸化還元触媒中、多孔性無機材料による被覆量としては、触媒活性成分担持カーボンナノチューブに対し、質量比で、通常、0.01〜9倍量(酸化還元触媒中の多孔性無機材料の含有量で表すと概ね1〜90質量%に相当)であり、0.1〜6倍量(酸化還元触媒中の多孔性無機材料の含有量で表すと概ね10〜85質量%に相当)であるのが好ましく、0.3〜3倍量(酸化還元触媒中の多孔性無機材料の含有量で現すと概ね23〜75質量%に相当)であるのがより好ましく、0.5〜1.5倍量(酸化還元触媒中の多孔性無機材料の含有量で現すと概ね33〜60質量%に相当)であるのがさらに好ましい。該被覆量が0.01倍量以上であれば、本発明の酸化還元触媒の耐久性が向上する。一方、9倍量以下であれば、本発明の酸化還元触媒の触媒活性を高く維持でき、また、経済性に優れる。多孔性無機材料が、例えば、シリカからなる場合、シリカによる被覆量は、酸化還元触媒中、触媒活性成分担持カーボンナノチューブに対するSiO2の質量比として求めることができる。
【0038】
<酸化還元触媒の製造方法>
本発明の酸化還元触媒は、例えば、触媒活性成分が金属ナノ粒子からなる場合、後述するような金属前駆体をカーボンナノチューブ表面に付着させ、多孔性無機材料からなる保護膜で被覆した後、還元性雰囲気下で焼成し、金属をナノ粒子として固定化することで、製造することができる。かかる製造方法は、保護膜による被覆の前に触媒活性成分の焼成・固定化を行わないため、カーボンナノチューブが凝集することがなく、触媒活性成分担持カーボンナノチューブを多孔性無機材料からなる保護膜により十分に被覆することができ、好ましい。
【0039】
前記触媒活性成分が金属ナノ粒子の場合、具体的には、水、カーボンナノチューブ及び分散剤を含有する分散液を調製し、次いで金属前駆体を添加後、溶媒を留去したり、pHを調整したり、遠心分離したりする等して、金属前駆体を沈降させることで、金属前駆体がカーボンナノチューブに担持されてなる金属前駆体担持カーボンナノチューブを効率よく得ることができる。
【0040】
前記金属前駆体としては、通常、還元反応により金属を生成し得る化合物が用いられる。ここで、金属前駆体は、所望の金属が得られるものであれば特に限定されない。カーボンナノチューブの表面に均一に金属を担持する観点からは、用いる溶媒に溶解するものを選択して用いるのが好ましい。かかる金属前駆体としては、周期律表第4族〜第14族の金属の塩(溶媒和物を含む)や錯体が挙げられ、その具体例としては、Mn(NO32、Co(NO32、Co(NO33、Ni(NO32、FeCl2、FeCl3、Pt(NH32(NO22、(NH42[RuCl6]、(NH42[RuCl5(H2O)]、H2PtCl4、H2PtCl6、K2PtCl4、K2PtCl6、H2[AuCl4]、(NH42[AuCl4]、H[Au(NO34]H2O等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらは、1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
前記分散剤としては、カーボンナノチューブの分散能があれば、低分子でも、高分子でもよいが、カーボンナノチューブの分散性や分散安定性に優れることから高分子であることが好ましい。高分子の種類としては、合成高分子であっても天然高分子であってもよい。カーボンナノチューブの分散性に優れることから、イオン性高分子が好ましい。該イオン性高分子としては、スルホン酸やカルボン酸などのイオン性官能基を持つものが好ましく、中でも、ポリスチレンスルホン酸、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロースおよびそれらの誘導体がより好ましく、カルボキシメチルセルロースおよびその誘導体が特に好ましい。なお、カーボンナノチューブとして、前記所定のCO脱離量及びCO2脱離量を有するものを用いる場合、かかるカーボンナノチューブは分散性に優れるため、通常、分散剤は不要である。
【0042】
上述のようにして、金属前駆体をカーボンナノチューブ上に担持した後、多孔性無機材料で、金属前駆体担持カーボンナノチューブの表面を被覆する。
なお、カーボンナノチューブは、表面が疎水性であるため、Si−OH基のような親水性の官能基を有する多孔性無機材料の原料を弾きやすい。そのため、予め親水化処理を行うのが好ましく、かかる親水化処理としては、例えば、上述したような、オゾン処理、硝酸処理などが挙げられる。
【0043】
前記多孔性無機材料による被覆では、まず、金属前駆体が担持されたカーボンナノチューブを分散媒に分散させる。ここで、分散媒としては、脱水エタノールなどが挙げられるが、これに限定されるものではなく、水、親水性溶媒、疎水性溶媒、それらの混合液を用いてもよい。なお、上述のようにして金属前駆体が担持されたカーボンナノチューブを調製し、得られた当該カーボンナノチューブの分散液をそのまま用いてもよい。
【0044】
前記多孔性無機材料による被覆は、金属前駆体が担持されたカーボンナノチューブに直接行ってもよいが、本発明の酸化還元触媒の耐久性を向上させ、触媒活性を高く維持する観点から、金属前駆体が担持されたカーボンナノチューブの表面を、後述の下地前駆体を用いて予め下地層により被覆した後、多孔性無機材料による被覆を行うのが好ましい。下地層は、カーボンナノチューブに担持された触媒活性成分と多孔性無機材料との濡れ性や密着性を高める機能を有する。なお、下地層および多孔性無機材料による被覆はそれぞれ、一段階で行っても、または二段階以上の複数段階で行ってもよい。
【0045】
具体的には、多孔性無機材料による被覆に先立って、下地前駆体で金属前駆体担持カーボンナノチューブを被覆しておく。これにより、後工程で、金属前駆体と多孔性無機材料との濡れ性や密着性を高めることができ、該金属前駆体上に多孔性無機材料を確実に被覆させることができる。ここで、下地前駆体による被覆は、例えば、金属前駆体が担持されたカーボンナノチューブの分散液に、下地前駆体を滴下し、所定時間撹拌し、下地前駆体を、金属前駆体担持カーボンナノチューブの表面に吸着させることで実施できる。
【0046】
本発明に用いられる下地前駆体としては、例えば、窒素含有極性基を持つシランカップリング剤や、分子末端にアミノ基を少なくとも一つ持つ化合物が挙げられる。
前記窒素含有極性基を持つシランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩などの、アミノ基を持つシランカップリング剤;トリス−(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどの、イソシアヌレート環を持つシランカップリング剤;3−ウレイドプロピルトリエトキシシランなどの、ウレイド基を持つシランカップリング剤;3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどの、イソシアネート基を持つシランカップリング剤;などが挙げられる。
前記分子末端にアミノ基を少なくとも一つ持つ化合物としては、例えば、アセドアミド、マロナミド、グリシンアミン、アラニアミド、オキサミド、尿素、1,1−ジアミノメタン、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、2,2−ジメチル−1,2−プロパンジアミン、2−メチル−1,3−プロパンジアミン、3,3−ジアミノ−N−メチルジプロピルアミン、3,3−ジアミノジプロピルアミン、1,3−ジアミノ−2−プロパノール、1,2−シクロヘキサンジアミン、p−キシレンジアミン、4−アミノカルボニルベンジルアミン、3−アミノカルボニルベンジルアミン、テトラフルオロ−p−キシレンジアミン、トリス(3−アミノプロピル)アミン、3,3,3−ニトリロチトリス(プロピノアミン)などや、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、グルタミン酸、グルタミン酸ナトリウム、リシンなどのアミノ酸など、が挙げられる。
これらの下地前駆体は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0047】
下地前駆体の使用量は、特に限定されるものではないが、使用するカーボンナノチューブ100質量部あたり、通常、10質量部以上1000質量部以下である。この範囲であれば、金属前駆体と多孔性無機材料との濡れ性や密着性を高めることができ、該金属前駆体上に多孔性無機材料を確実に被覆させることができる。上記範囲未満では、所望の効果に劣り、上記範囲を超えると触媒活性、信頼性および経済性のバランスが低下する。
【0048】
続いて、多孔性無機材料前駆体で金属前駆体担持カーボンナノチューブを被覆する。下地前駆体としてシランカップリング剤を用いる場合、多孔性無機材料前駆体としては、後述のシラン化合物を用いるのが好ましい。かかる態様では、前記金属前駆体担持カーボンナノチューブの分散液に、多孔性無機材料前駆体としてシラン化合物、水およびpH調整液を加え、所定時間撹拌することで、シラン化合物の加水分解・縮合反応を行い、金属前駆体担持カーボンナノチューブを多孔性無機材料により被覆することができる。
なお、下地前駆体としてシランカップリング剤を、多孔性無機材料前駆体としてシラン化合物を、それぞれ用いる場合、形成される下地層は、シロキサン結合により多孔性無機材料を形成するシリカと結合すると考えられ、多孔性無機材料の機能発現に直接寄与するものと推察される。従って、この場合、本発明の酸化還元触媒中、多孔性無機材料による被覆量には下地層による被覆量も含めるものとする。前記の通り、多孔性無機材料がシリカからなる場合、シリカによる被覆量は、酸化還元触媒中、触媒活性成分担持カーボンナノチューブに対するSiO2の質量比として求められるが、当該被覆量には下地層による寄与分も含まれる。
【0049】
前記多孔性無機材料前駆体としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、ペンチルトリメトキシシラン、ペンチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ペンチルメチルジメトキシシラン、ペンチルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジエトキシシラン、ジペンチルジメトキシシラン、ジペンチルジエトキシシラン、ジヘキシルジメトキシシラン、ジヘキシルジエトキシシラン、ジヘプチルジメトキシシラン、ジヘプチルジエトキシシラン、ジオクチルジメトキシシラン、ジオクチルジエトキシシラン、ジシクロヘキシルジメトキシシラン、ジシクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ジメチルジフェノキシシラン等のシラン化合物などが挙げられる。これらの多孔性無機材料前駆体は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
多孔性無機材料前駆体の使用量は、特に限定されるものではないが、前記下地前駆体との合計使用量で、使用するカーボンナノチューブ100質量部あたり、通常、50質量部以上3000質量部以下、好ましくは100質量部以上2500質量部以下、より好ましくは200質量部以上2000質量部以下、さらに好ましくは300質量部以上1800質量部以下、最も好ましくは600質量部以上1500質量部以下である。また、前記触媒活性成分100質量部あたりでは、好ましくは10質量部以上3000質量部以下である。
多孔性無機材料前駆体に対する下地前駆体の使用量の比率(下地前駆体/多孔性無機材料前駆体)としては質量基準で、通常、0.01〜40である。
多孔性無機材料前駆体の使用量が上記範囲であれば、本発明の酸化還元触媒の耐久性が向上し、触媒活性が高く維持される。
【0051】
また、前記pH調整液としては、特に制限されるものではなく、例えば、HNO3などが挙げられる。なお、上述の、前記金属前駆体担持カーボンナノチューブの分散液に、多孔性無機材料前駆体としてシラン化合物、水およびpH調整液を加えた溶液のpHは、シラン化合物の加水分解・縮合反応を好適に行う観点から、1〜6の範囲が好ましく、2〜4の範囲が更に好ましい。
【0052】
なお、下地前駆体としてシランカップリング剤を、多孔性無機材料前駆体としてシラン化合物を、それぞれ用いる場合、それらを混合し、一段階で金属前駆体担持カーボンナノチューブの被覆を行ってもよい。
【0053】
その後、適宜、洗浄、分離および乾燥することにより、金属前駆体担持カーボンナノチューブの多孔性無機材料による被覆を固定化する。
洗浄方法としては、例えば、アルコール洗浄などを用いることができる。
分離方法としては、例えば、遠心分離などを用いることができる。
乾燥方法としては、例えば、真空乾燥、自然乾燥、蒸発乾固法、ロータリーエバポレーター、噴霧乾燥機、ドラムドライヤーによる乾燥などを用いることができる。乾燥時間は、使用する方法に応じて適宜選択すればよい。また、乾燥を行わずに、後述の焼成工程において乾燥させてもよい。乾燥温度としては、好ましくは30〜800℃、より好ましくは50〜500℃である。乾燥は、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガス(非酸化性)雰囲気下において行ってもよい。なお、乾燥後、所望により、多孔性無機材料により被覆された、金属前駆体が担持されたカーボンナノチューブを公知の方法により微粉化してもよい。
【0054】
更に、多孔性無機材料による被覆を固定化した後に、多孔性無機材料で被覆された、金属前駆体が担持されたカーボンナノチューブに対して、焼成・固定化を行うことにより、触媒活性成分として金属ナノ粒子が担持されたカーボンナノチューブの表面が多孔性無機材料により被覆されてなる、本発明の酸化還元触媒が得られる。
ここで、焼成・固定化は、触媒活性成分が金属ナノ粒子の場合、通常、水素気流下等の還元性雰囲気下で行う。なお、還元性雰囲気下での焼成・固定化は、好ましくは200〜800℃、より好ましくは200〜500℃で行う。これにより、カーボンナノチューブ上に担持されている金属前駆体が還元されて金属ナノ粒子となり、多孔性無機材料で被覆された、触媒活性成分として金属ナノ粒子が担持されたカーボンナノチューブからなる、本発明の酸化還元触媒が得られる。なお、焼成・固定化は、カーボンナノチューブの酸化が進行しないように、アルゴン、窒素、ヘリウム等の不活性ガス(非酸化性)雰囲気下において行うのが好ましい。
【0055】
[電極材料]
次に、本発明の電極材料を詳細に説明する。
本発明の電極材料は、上述した酸化還元触媒を含有することを特徴とする。本発明の電極材料としては、例えば、上述した酸化還元触媒の分散液や、かかる分散液から得られる導電膜が挙げられる。また、本発明の電極材料は、通常は、酸化還元触媒を電極用触媒として含有するものであり、本発明の電極材料は、通常、電極の触媒層の形成に用いられる。
また、本発明の電極材料は、その効果を阻害しない範囲で、酸化還元触媒の他に、結着剤、導電助剤等を含有してもよい。
なお、本発明の電極材料は、例えば、単離した酸化還元触媒と他の成分とを混合することで得ることができる。ここで、本発明の電極材料中の酸化還元触媒の含有量は、通常、1〜100質量%である。
【0056】
本発明の電極材料が酸化還元触媒の分散液の場合、分散液の調製に用いる溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジグライム等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等のアミド類;ジメチルスルホキサイド、スルホラン等の含イオウ系溶媒;等が挙げられる。これらの溶媒は1種単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
前記分散液は、本発明の効果を阻害しない範囲で、さらに、分散剤、界面活性剤等を含有してもよい。これらは公知のものを適宜使用すればよい。
分散液中の酸化還元触媒の含有量は、特に限定されないが、分散液全体中、好ましくは0.001〜10質量%である。
【0057】
また、本発明の電極材料が導電膜の場合、該導電膜の厚みは特に限定されないが、通常、50nmから1mmである。
導電膜の膜厚が上記範囲内であることで、電極等の導電層や触媒層としてより有用な導電膜を得ることができる。
【0058】
[電極]
次に、本発明の電極を詳細に説明する。
本発明の電極は、上述した電極材料を用いてなることを特徴とする。本発明の電極は、例えば、本発明の電極材料(酸化還元触媒の分散液)を所定の導電性基材や多孔質基板上に塗布し、得られた塗膜を乾燥させて触媒層を形成することで製造することができる。
ここで、触媒層の厚さは、特に限定されるものではないが、0.005〜100μmの範囲が好ましい。また触媒層中の本発明の酸化還元触媒の量は、0.1mg/m2〜2×104mg/m2の範囲が好ましい
【0059】
本発明の電極としては、例えば、燃料電池、特には、固体高分子型燃料電池の電極(空気極、燃料極)等が挙げられる。
【0060】
[燃料電池用膜電極接合体]
次に、本発明の燃料電池用膜電極接合体を詳細に説明する。
本発明の燃料電池用膜電極接合体(MEA)は、上述した電極と、電解質膜とを具えることを特徴とし、通常は、電解質膜の両側にそれぞれ空気極と燃料極を配置して構成される。ここで、本発明の燃料電池用膜電極接合体においては、上述した本発明の電極を空気極として用いてもよいし、燃料極として用いてもよい。
また、本発明の燃料電池用膜電極接合体の電極は、通常、電解質膜に隣接する触媒層と、該触媒層に隣接するガス拡散層とからなり、本発明の酸化還元触媒及び電極材料は、触媒層として使用するができる。ここで、本発明の燃料電池用膜電極接合体においては、触媒活性成分が多孔性無機材料で被覆されているため、電極の触媒層と電解質層との界面における、触媒活性成分の溶出を防止できる。
【0061】
前記電解質膜としては、公知のものを利用することができる。例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸樹脂膜等のフッ素系電解質膜や、ポリ(トリフルオロスチレン)スルホン酸樹脂膜等の炭化水素系電解質膜が挙げられる。また、電解質膜の厚みは、特に限定されないが、通常、50nmから10mmである。
【0062】
本発明の酸化還元触媒や電極材料を用いれば、前記電極や前記燃料電池用膜電極接合体が得られるが、該酸化還元触媒や該電極材料は一般に、製造直後から使用開始後一定時間までの特性(初期特性)が不安定であるため、前記電極等は、前記酸化還元触媒等の特性を安定化させた後に実使用するのが好ましい。前記酸化還元触媒等の特性の安定化には、それらを酸化還元反応に供するのが好適であることから、通常、本発明の電極や燃料電池用膜電極接合体を実使用するにあたっては、例えば、当該電極等の通常の使用態様で連続的にまたは断続的に製造直後から一定時間通電して当該電極等を構成する酸化還元触媒等を酸化還元反応に供し、当該酸化還元触媒等の特性を安定化させればよい。前記通電時間としては、特に限定はないが、通常、0.1〜72時間、好ましくは0.5〜48時間である。本発明の電極および燃料電池用膜電極接合体としては、安定した特性を発揮しうることから、製造直後から0.5〜48時間通電してなる電極および燃料電池用膜電極接合体が特に好適である。
【0063】
[燃料電池]
次に、本発明の燃料電池を詳細に説明する。
本発明の燃料電池は、上述した燃料電池用膜電極接合体を具えることを特徴とする。
本発明の燃料電池の具体例としては、例えば、上述の膜電極接合体(MEA)と、その両側に位置するセパレータとを具える固体高分子型燃料電池が挙げられる。
本発明の燃料電池は、本発明の酸化還元触媒を電極触媒として含有する電極材料を用いて得られる電極を具えるものであるため、発電効率が高く、耐久性に優れる。中でも、安定した特性を発揮しうることから、本発明の燃料電池としては、製造直後から0.5〜48時間通電してなる燃料電池用膜電極接合体を具えるものが特に好適である。
【0064】
次に、本発明の燃料電池用膜電極接合体(MEA)及び燃料電池を図1を参照しながら、詳細に説明する。図1は、本発明に従う燃料電池の一実施態様の部分断面図である。図1に示す燃料電池100は、膜電極接合体(MEA)110と、その両側に位置するカソード側セパレータ120、アノード側セパレータ130とを具える。また、膜電極接合体110は、電解質膜111とその両側に位置する空気極112及び燃料極113とからなる。
空気極112は、電解質膜111に隣接する側にカソード側触媒層112Aを有し、また、電解質膜111に隣接しない側にカソード側ガス拡散層112Bを有し、即ち、カソード側ガス拡散層112Bはカソード側触媒層112Aとカソード側セパレータ120との間に位置する。
また、燃料極113は、電解質膜111に隣接する側にアノード側触媒層113Aを有し、また、電解質膜111に隣接しない側にアノード側ガス拡散層113Bを有し、即ち、アノード側ガス拡散層113Bはアノード側触媒層113Aとアノード側セパレータ130との間に位置する。
【0065】
電解質膜111としては、上述の通り、公知のものを利用することができ、また、カソード側触媒層112A、アノード側触媒層113Aは、本発明の電極材料を用いて形成することができる。ここで、カソード側触媒層112A、アノード側触媒層113Aの厚みは、好ましくは0.005〜100μmである。また、カソード側触媒層112A、アノード側触媒層113Aに含まれる本発明の酸化還元触媒の量は、好ましくは0.1mg/m2〜2×105mg/m2である。
また、カソード側ガス拡散層112B、アノード側ガス拡散層113Bとしては、カーボンペーパー、カーボンクロス、カーボン不織布等の導電性多孔質基材を使用できる。ここで、カソード側ガス拡散層112B及びアノード側ガス拡散層113Bの厚みは、特に限定されないが、通常、100nmから10mmである。
【0066】
なお、膜電極接合体110は、例えば、カソード側触媒層112Aとカソード側ガス拡散層112Bとを有する積層体(空気極112)と、アノード側触媒層113Aとアノード側ガス拡散層113Bとを有する積層体(燃料極113)を形成し、次いで、積層体(空気極112)と積層体(燃料極113)を用いて、それぞれの触媒層112A,113Aが対向するように電解質膜111を挟み、これらを圧着させることで製造することができる。
【0067】
また、カソード側セパレータ120及びアノード側セパレータ130としては、表面に燃料、空気及び生成した水等の流路(図示せず)が形成された通常のセパレータを用いることができる。かかるセパレータとしては、例えば、鉄、チタン、アルミニウム、これらの合金などの金属材料;カーボングラファイト、炭素板等の炭素系材料;各種金属材料や炭素系材料で導電性を付与した高分子材料(導電性プラスチック);等の材料で構成されたセパレータが挙げられる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
<評価方法>
(1)ECSAによる評価
CV(サイクリックボルタンメトリー)測定を以下のように行い、作製したシリカ被覆したPt担持CNTのPt触媒の水素脱離によるピーク面積からECSA(電気化学的表面活性)を算出し評価した。
具体的には、作用電極を0.1MのHClO4電解質中に浸漬し、N2でパージ後、作用電極の走査範囲0.05〜1.20V、走査速度20mV/sで1サイクル電位変動させて100回繰り返してCV測定を行い、平均値として初期のECSAを求めた。また、走査速度を100mV/sとして600サイクル電位変動させた後、同様にしてCV測定を行い、平均値としてECSAを求めた。使用した装置及び条件を以下に示す。
【0070】
装置:三電極式電気化学セル(北斗電工社製ポテンシオスタットHZ5000A)
電解質:0.1MのHClO4
作用電極:グラッシーカーボンロッド上に、実施例、比較例で作製した
シリカ被覆Pt担持CNTを塗布したもの。
参照電極:可逆水素電極
対極:白金メッシュ
【0071】
(2)分散性評価
TEM(透過型電子顕微鏡)で水/エタノールで分散したシリカ被覆したPt担持CNTを観察し、該CNTの状態を評価した。
【0072】
(評価基準)
・シリカ被覆したPt担持CNTの分散性
100nm以上のバンドル凝集構造が全体の50%未満みられる: ○
100nm以上のバンドル凝集構造が全体の50%以上みられる: ×
【0073】
(3)シリカ、Pt担持量
ICPによりシリカ被覆したPt担持CNTを分析して、各質量を求めた。
【0074】
(SGCNTの調製)
国際公開第2006/011655号の記載に従い、スーパーグロース法によりCNTを調製した(SGCNT)。なお、SGCNTの調製時には、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行い、アセチレンを主成分とする原料ガスを用いた。
得られたSGCNTは、主に単層CNTから構成され、窒素ガス吸着によるBET比表面積が804m2/g、CO脱離量が797μmol/g、CO2脱離量が292μmol/g、マイクロ孔容積が0.44mL/gであった。また、平均直径(Av)が3.3nm、直径分布(3σ)が1.9nm、(3σ/Av)が0.58であり、平均長さが500μmであった。
【0075】
(酸化処理SGCNTの調製)
容積500mLのナスフラスコに、上記のSGCNTを1g入れ、エバポレーターに接続した。エバポレーターのガス流路に、オゾン発生装置からオゾンと空気の混合ガスを常圧で、オゾン濃度20g/Nm3で流量600mL/分にて流し、室温で6時間、エバポレーターによりナスフラスコを回転させながら、反応させ、酸化処理SGCNTを得た。得られた酸化処理SGCNTのCO脱離量は5511μmol/g、CO2脱離量は1440μmol/gであった。
【0076】
(実施例1)
酸化処理SGCNT 50mgを50mlのガラスサンプル容器に入れた。ここに、11mlの蒸留水と11mlのエタノールとを加え、超音波バス(BRUNSON社製)にて1時間室温で超音波照射して、酸化処理SGCNTを分散させた。さらに塩化白金酸水溶液139.9mg(Pt含有量 15.3質量%)を加え、超音波バスで30分間超音波照射した(この時のpHは2.0であった)。10倍希釈したアンモニア水(濃度:28質量%)を用いて、溶液のpHを10.9に調整した。次いで、遠心分離機(KUBOTA社製)で遠心分離を3000rpm、20分間行い、上ずみ液を捨てた。ここに、11mlの蒸留水と11mlのエタノールを再び加え、pHがアルカリ性(10.10〜10.35の範囲)であることを確認した。磁気撹拌子をサンプル容器に入れた後、サンプル容器を60℃の温浴に入れ、マグネチックスターラ―で30分間撹拌した。
3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES;東京化成社製、純度98%以上)72mgを下地前駆体として上記サンプル容器に加え、30分間撹拌した。さらにテトラエトキシシラン(TEOS;関東化学社製、純度99.9%以上)286mgを多孔性無機材料前駆体として加え、2時間撹拌した。その後、容器ごと遠心分離(3000rpm、20分)し、上ずみ液をpHが10以上であることを確認してから捨てた。
続いて、サンプル容器を60℃の恒温槽に入れて、一晩乾燥させ、乾燥した試料(焼成前のシリカ被覆Pt前駆体担持SGCNT)をめのう乳鉢ですりつぶし、石英ウールを充填した石英管(内径30mm)に入れ、水素(20ml/m)−窒素(80ml/m)の混合ガスを流通させながら、350℃で2時間、電気炉〔(有)本間理研製〕で還元した。室温まで冷却し、得られた粉末(シリカ被覆Pt担持SGCNT)をTEMやICPで各種物性を評価した。また得られたシリカ被覆Pt担持SGCNTをエタノール中に分散させ、研磨・洗浄したグラッシーカーボン上に滴下して乾燥させた。その後、5質量%のナフィオン溶液とメタノールの混合溶液を滴下し、乾燥させたものを作用電極とした。
評価結果を表1に示す。なお、担持されたPt粒子の粒子径は2nmであった。
【0077】
(実施例2)
3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)の量を143mg、テトラエトキシシラン(TEOS)の量を574mgに変えた以外は、実施例1と同様に実験を行った。
【0078】
(実施例3)
3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)の量を36mg、テトラエトキシシラン(TEOS)の量を50mgに変えた以外は、実施例1と同様に実験を行った。
【0079】
(比較例1)
シリカ被覆を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に実験を行った。結果を表1に示す。なお、担持されたPt粒子の粒子径は2nmであった。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示す結果から、3σ/Avが0.20超0.60未満のカーボンナノチューブにPtを担持し、更に、シリカで被覆した実施例の触媒は、初期と600サイクル後のECSA(電気化学的表面活性)が高く、耐久性及び触媒活性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明の酸化還元触媒は、燃料電池の電極の電極材料として使用でき、また、本発明によれば、かかる酸化還元触媒を含有する電極材料、該電極材料を用いた電極及び燃料電池用膜電極接合体、並びに、該燃料電池用膜電極接合体を具える燃料電池を提供することができる。
【符号の説明】
【0083】
100 燃料電池
110 膜電極接合体
111 電解質膜
112 空気極
112A カソード側触媒層
112B カソード側ガス拡散層
113 燃料極
113A アノード側触媒層
113B アノード側ガス拡散層
120 カソード側セパレータ
130 アノード側セパレータ
図1