特許第6606076号(P6606076)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6606076めっき液およびその製造方法、並びに、複合材料、銅複合材料およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606076
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】めっき液およびその製造方法、並びに、複合材料、銅複合材料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 15/02 20060101AFI20191031BHJP
   C25D 3/38 20060101ALI20191031BHJP
   C23C 18/52 20060101ALI20191031BHJP
【FI】
   C25D15/02 F
   C25D3/38
   C23C18/52 A
【請求項の数】8
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2016-535798(P2016-535798)
(86)(22)【出願日】2015年7月22日
(86)【国際出願番号】JP2015003679
(87)【国際公開番号】WO2016013219
(87)【国際公開日】20160128
【審査請求日】2018年5月17日
(31)【優先権主張番号】特願2014-149926(P2014-149926)
(32)【優先日】2014年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-149931(P2014-149931)
(32)【優先日】2014年7月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】新井 進
(72)【発明者】
【氏名】上島 貢
【審査官】 坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−057129(JP,A)
【文献】 特開2011−058061(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/091345(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/043431(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/091139(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/32,18/52
C25D 3/38,15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素ナノ繊維を、イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤の存在下で、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理によって溶媒に分散させる分散工程と、
前記分散工程で得られた炭素ナノ繊維分散液に対してめっき可能な金属イオンを与える金属化合物およびキレート剤を添加し、混合する工程と、
を含む、めっき液の製造方法。
【請求項2】
前記炭素ナノ繊維の平均直径が5nm以下である、請求項1に記載のめっき液の製造方法
【請求項3】
前記めっき可能な金属イオンが銅イオンである、請求項1または2に記載のめっき液の製造方法
【請求項4】
めっき液がアルカリ性である、請求項1〜3の何れかに記載のめっき液の製造方法
【請求項5】
前記炭素ナノ繊維がカーボンナノチューブである、請求項1〜4の何れかに記載のめっき液の製造方法
【請求項6】
前記カーボンナノチューブは、平均直径(Av)と直径の標準偏差(σ)とが、関係式:0.20<(3σ/Av)<0.60を満たす、請求項5に記載のめっき液の製造方法
【請求項7】
炭素ナノ構造体を、分散剤の存在下分散媒中で、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理に供することによって、炭素ナノ構造体を分散媒に分散させて、炭素ナノ構造体分散液を得る分散工程(A)と、
前記炭素ナノ構造体分散液と銅めっき液の材料とを混合して、炭素ナノ構造体分散銅めっき液を得る混合工程(B)と、
前記炭素ナノ構造体分散銅めっき液を用いて基板表面にめっき処理を行うめっき工程(C)と、
を含むことを特徴とする、銅複合材料の製造方法。
【請求項8】
前記めっき処理は、電解めっき処理である、請求項7に記載の銅複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき液およびその製造方法に関し、特には、炭素ナノ繊維を含有するめっき液、および、当該めっき液の製造方法に関するものである。また、本発明は、炭素ナノ繊維を含有するめっき液を用いて形成した複合材料に関するものである。
また、本発明は、銅と炭素ナノ構造体とが複合化された銅複合材料、および、当該銅複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属、なかでも銅は、導電性が高く、圧延性にも優れるため、配線材料、電線等の導電材料として広く活用されている。
一方、カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)などの炭素ナノ構造体は、導電性、熱伝導性、摺動特性、機械特性等に優れるため、幅広い用途への応用が検討されている。
そこで、近年、炭素ナノ構造体の優れた特性を活かし、銅をはじめとした金属と炭素ナノ構造体とを複合化することで、導電性および熱伝導性をより一層向上させた複合材料を提供する技術の開発が進められている。
【0003】
しかしながら、金属と炭素ナノ構造体とでは、材料間の比重差が大きいため、上記複合材料の調製には、複合化が非常に難しいという点に問題があった。
【0004】
そこで、上記問題を解決するための方法として、例えば、特許文献1には、CNT等の微細炭素繊維をめっき液中に混入させ、そのめっき液によりめっき皮膜を形成することで、金属と微細炭素繊維とを良好に複合化させる技術が提案されている。具体的には、特許文献1には、めっき可能な金属イオンと、分散剤としてのポリアクリル酸と、CNTとを含有する電解めっき液を使用することで、金属とCNTとが良好に複合化されためっき皮膜を有する電子部品などを製造する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−156074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の電解めっき液では、めっき液中でCNTが十分に分散していなかった。そのため、CNTなどの炭素ナノ繊維を良好に分散させためっき液が求められていた。
【0007】
また、特許文献1に記載の複合材料には、複合材料の性能(例えば、導電性および熱伝導性)を更に向上させるという点において改善の余地があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。そして、本発明者らは、イオン性界面活性剤と高分子系界面活性剤とをめっき液中に配合することで、めっき液中で炭素ナノ繊維を良好に分散させることができることを見出し、本発明を完成させた。更に、本発明者らは、炭素ナノ繊維を良好に分散させためっき液を用いれば、導電性および熱伝導性に優れる複合材料が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のめっき液は、めっき可能な金属イオンと、キレート剤と、イオン性界面活性剤と、高分子系界面活性剤と、炭素ナノ繊維とを含むことを特徴の一つとする。このように、イオン性界面活性剤と高分子系界面活性剤とを配合すれば、炭素ナノ繊維をめっき液中に良好に分散させることができる。
なお、本発明において、「繊維」とは、アスペクト比が10以上のものを指す。
【0010】
ここで、本発明のめっき液は、前記炭素ナノ繊維の平均直径が5nm以下であることが好ましい。平均直径が5nm以下の炭素ナノ繊維は、炭素ナノ繊維間に強い相互作用が働くため、通常、めっき液中で良好に分散させることが困難である。しかし、イオン性界面活性剤と高分子系界面活性剤とを配合すれば、平均直径が5nm以下の炭素ナノ繊維であっても、めっき液中に良好に分散させることができる。
なお、本発明において、「炭素ナノ繊維の平均直径」は、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択した炭素ナノ繊維100本の直径(外径)を測定して求めることができる。
【0011】
そして、本発明のめっき液は、前記めっき可能な金属イオンが銅イオンであることが好ましい。銅は、導電性が高く、圧延性にも優れているため、炭素ナノ繊維と複合化させれば、優れた性能(例えば、導電性および熱伝導性)を有する複合材料を得ることができる。
【0012】
また、本発明のめっき液は、アルカリ性であることが好ましい。アルカリ性のめっき液を用いれば、無電解めっき処理により複合材料を良好に調製することができる。
【0013】
更に、本発明のめっき液は、前記炭素ナノ繊維がカーボンナノチューブであることが好ましい。炭素ナノ繊維としてカーボンナノチューブを使用すれば、めっき液を用いて得られる複合材料の性能(例えば、導電性および熱伝導性)を更に向上させることができる。
そして、前記カーボンナノチューブは、平均直径(Av)と直径の標準偏差(σ)とが、関係式:0.20<(3σ/Av)<0.60を満たすことが好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のカーボンナノチューブを使用すれば、配合量が少量であっても、複合材料の導電性や熱伝導性を十分に向上させることができる。
なお、本発明において、「カーボンナノチューブの平均直径(Av)」および「カーボンナノチューブの直径の標準偏差(σ:標本標準偏差)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択したカーボンナノチューブ100本の直径(外径)を測定して求めることができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のめっき液の製造方法は、上述しためっき液の何れかの製造方法であって、炭素ナノ繊維を、イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤の存在下で、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理によって溶媒に分散させる分散工程を含むことを特徴の一つとする。このように、イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤の存在下で分散処理を実施すれば、液中に炭素ナノ繊維が良好に分散しためっき液が得られる。また、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理によって炭素ナノ繊維を分散させれば、分散処理中に炭素ナノ繊維が損傷するのを抑制し、めっき液を用いて調製した複合材料に所望の性能を発揮させることができる。
【0015】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の複合材料は、上述しためっき液の何れかを用いて基材表面に電解めっき処理または無電解めっき処理を行って得られるものであることを特徴の一つとする。このように、上述しためっき液を用いて複合材料を調製すれば、導電性および熱伝導性に優れる複合材料が得られる。
【0016】
また、本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。そして、本発明者らは、複合材料の中でも金属として銅を用いた銅複合材料について、従来の銅複合材料には、未酸化の銅の電気抵抗と比較してはるかに大きい電気抵抗を有する亜酸化銅が含まれている場合があり、これにより、銅複合材料の導電性および熱伝導性が十分に優れたものとならないことを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の銅複合材料は、銅と炭素ナノ構造体とが複合化された銅複合材料であって、前記銅複合材料は、X線回折分析において、亜酸化銅に帰属されるX線回折ピークの回折強度が検出限界以下であることを特徴の一つとする。このように、亜酸化銅に帰属されるX線回折ピークの回折強度が検出限界以下であれば、優れた導電性および熱伝導性を発揮することができる。
なお、本発明において、「亜酸化銅に帰属されるX線回折ピーク」とは、銅複合材料についてX線回折分析(XRD)を行った場合に得られる回折線プロファイルにおいて、入射角2θ=37°±1°の領域に観察されるX線回折ピークを指す。また、「X線回折ピークの回折強度が検出限界以下である」とは、そのX線回折分析の分析条件において明瞭なピークが観察されないこと指す。
【0018】
ここで、本発明の銅複合材料では、前記炭素ナノ構造体は、比表面積600m2/g以上の単層カーボンナノチューブを含むことが好ましい。比表面積600m2/g以上の単層カーボンナノチューブを含有させれば、銅複合材料の導電性や熱伝導性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、「比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0019】
また、本発明の銅複合材料では、前記単層カーボンナノチューブの平均直径(Av)と直径分布(3σ)とは、0.20<(3σ/Av)<0.60を満たすことが好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満の単層カーボンナノチューブを使用すれば、配合量が少量であっても、銅複合材料の導電性や熱伝導性を十分に向上させることができる。
なお、本発明において、「直径分布(3σ)」とは、単層カーボンナノチューブの直径の標本標準偏差(σ)に3を乗じたものを指す。また、「単層カーボンナノチューブの平均直径(Av)」および「単層カーボンナノチューブの直径の標本標準偏差(σ)」は、それぞれ、透過型電子顕微鏡を用いて無作為に選択したカーボンナノチューブ100本の直径(外径)を測定して求めることができる。
【0020】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の銅複合材料の製造方法は、炭素ナノ構造体を、分散剤の存在下分散媒中で、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理に供することによって、炭素ナノ構造体を分散媒に分散させて、炭素ナノ構造体分散液を得る分散工程(A)と、前記炭素ナノ構造体分散液と銅めっき液の材料とを混合して、炭素ナノ構造体分散銅めっき液を得る混合工程(B)と、前記炭素ナノ構造体分散銅めっき液を用いて基板表面にめっき処理を行うめっき工程(C)とを含むことを特徴とする。このように、炭素ナノ構造体分散液と銅めっき液の材料とを混合して炭素ナノ構造体分散銅めっき液を調製すれば、炭素ナノ構造体分散銅めっき液を用いためっき処理により得られる銅複合材料中に発生する亜酸化銅の量を著しく低減することができる。従って、導電性および熱伝導性に優れる銅複合材料を得ることができる。
【0021】
ここで、本発明の銅複合材料の製造方法では、前記めっき処理は、電解めっき処理であることが好ましい。電解めっき処理を用いれば、亜酸化銅の発生を更に抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、液中に炭素ナノ繊維が良好に分散しためっき液を提供することができる。
また、本発明によれば、導電性および熱伝導性に優れる複合材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1−1で得られた銅めっき液1について、スライドグラスに滴下したときの様子を示す写真である。
図2】(A)は、実施例2−1の銅複合材料を、走査型電子顕微鏡を用いて撮影したときの写真であり、(B)は、(A)に示す写真を拡大したものである。
図3】実施例2−1の銅複合材料を、X線回折装置を用いて分析したときの結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のめっき液は、金属と炭素ナノ繊維とを含む複合材料の製造に好適に用いることができる。また、本発明のめっき液は、例えば、本発明のめっき液の製造方法を用いて調製することができる。
そして、本発明の第一の複合材料は、本発明のめっき液を用いて基材表面に電解めっき処理または無電解めっき処理、好ましくは無電解めっき処理を施すことにより得られる。
また、本発明の第二の複合材料は、めっき処理が可能であり、且つ、優れた導電性および熱伝導性を有する金属である銅(Cu)と、炭素ナノ構造体とが複合化された銅複合材料である。そして、本発明の第二の複合材料は、例えば、本発明の銅複合材料の製造方法を用いて調製することができる。
【0025】
(めっき液)
本発明のめっき液は、めっき可能な金属イオンと、キレート剤と、イオン性界面活性剤と、高分子系界面活性剤と、炭素ナノ繊維とを含み、任意に、めっき液に一般に添加されるその他の添加剤を更に含む。そして、本発明のめっき液は、イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤の双方を含んでいるので、炭素ナノ繊維を液中に良好に分散させることができる。
【0026】
ここで、イオン性界面活性剤と高分子系界面活性剤とを併用することでめっき液中に炭素ナノ繊維を良好に分散させることができる理由は、明らかではないが、上述の2種の界面活性剤を併用した際の作用は、以下の通りであると推察される。即ち、炭素ナノ繊維は、炭素ナノ繊維間の相互作用が強く、めっき液中で凝集し易い。しかし、イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤の何れか一方のみを用いた場合には、イオン性界面活性剤または高分子系界面活性剤を大量に配合した場合であっても、炭素ナノ繊維が十分に良好には分散しない。また、イオン性界面活性剤または高分子系界面活性剤を大量に配合した場合には、大量に配合されたイオン性界面活性剤または高分子系界面活性剤の影響により、めっき液の安定性(例えば、めっき可能な金属イオンの溶解性)が低下する虞もある。これに対し、イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤を併用した場合には、性状の異なる界面活性剤の相乗効果により、炭素ナノ繊維を十分に良好に分散させることができると推察される。そして、その結果、めっき液の安定性に影響しない程度の配合量で炭素ナノ繊維を十分に良好に分散させ、めっき液としての安定性を確保しつつ、炭素ナノ繊維が良好に分散しためっき液を得ることができると推察される。
【0027】
<めっき可能な金属イオン>
めっき可能な金属イオンとしては、特に限定されることなく、めっき処理可能な金属のイオン、例えば、銅、ニッケル、錫、白金、クロム、亜鉛のイオンなどが挙げられる。これらの中でも、めっき可能な金属イオンとしては、銅イオンが好ましい。銅は、導電性、熱伝導性および圧延性などに優れており、炭素ナノ繊維と複合化させれば、優れた性能(例えば、導電性および熱伝導性)を有する複合材料を得ることができるからである。
なお、めっき可能な金属イオンは、特に限定されることなく、例えば硫酸銅五水和物や硫酸ニッケル六水和物などの既知の金属化合物を溶解させることによりめっき液中に導入することができる。また、めっき液中におけるめっき可能な金属イオンの濃度は、特に限定されない。
【0028】
<キレート剤>
キレート剤としては、上記めっき可能な金属イオンとキレート錯体を形成し得る既知のキレート剤を用いることができる。具体的には、キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、チオ尿素、ロッシェル塩、酒石酸などを使用することができる。
【0029】
<イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤>
イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤は、めっき液中で炭素ナノ繊維の分散を補助する分散剤として機能し得るものである。そして、本発明のめっき液では、炭素ナノ繊維を良好に分散させるために、イオン性界面活性剤と高分子系界面活性剤とを併用することを必要とする。なお、本発明のめっき液は、イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤以外の既知の分散剤を含有していてもよい。
【0030】
[イオン性界面活性剤]
ここで、イオン性界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤およびアニオン性界面活性剤の何れも用いることができる。中でも、めっき液を用いて電解めっきを行う場合には、カチオン性界面活性剤を用いることが好ましく、めっき液を用いて無電解めっき処理を行う場合には、アニオン性界面活性剤を用いることが好ましい。
そして、カチオン性界面活性剤としては、例えば、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩などが挙げられる。
また、アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルオキシドジスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。これらの中でも、炭素ナノ繊維の分散性に優れる観点からは、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムが好ましい。
【0031】
[高分子系界面活性剤]
高分子系界面活性剤としては、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリスチレンスルホン酸、および、それらの塩などが挙げられる。これらの中でも、炭素ナノ繊維の分散性に優れる観点からは、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0032】
[配合量]
なお、イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤の合計配合量は、少なくとも臨界ミセル濃度となる量であればよい。具体的には、めっき液中のイオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤の合計配合量は、例えば、めっき液中の炭素ナノ繊維の量の1倍以上20倍以下とすることができる。
そして、イオン性界面活性剤の配合量に対する高分子系界面活性剤の配合量の比(高分子系界面活性剤/イオン性界面活性剤)は、0.05以上5以下とすることが好ましい。イオン性界面活性剤の配合量に対する高分子系界面活性剤の配合量の比を上記範囲内とすれば、イオン性界面活性剤と高分子系界面活性剤とを併用することにより得られる効果を十分に高くすることができるからである。
【0033】
<炭素ナノ繊維>
めっき液に含有させる炭素ナノ繊維としては、カーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバーなどを用いることができる。中でも、優れた性能(例えば、導電性および熱伝導性)を有する複合材料を得る観点からは、カーボンナノチューブを用いることが好ましく、平均直径が5nm以下のカーボンナノチューブを用いることがより好ましい。
【0034】
なお、めっき液に含有させる炭素ナノ繊維の平均直径は、特に限定されない。但し、めっき液を用いて得られる複合材料の性能を向上させる観点からは、炭素ナノ繊維の平均直径は、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることがより好ましく、5nm以下であることが更に好ましい。ここで、平均直径が小さい炭素ナノ繊維、特に平均直径が5nm以下の炭素ナノ繊維は、炭素ナノ繊維間に強い相互作用が働くため、通常、めっき液中で良好に分散させることが困難である。しかし、イオン性界面活性剤と高分子系界面活性剤とを併用すれば、平均直径が小さい炭素ナノ繊維であっても、めっき液中に良好に分散させることができる。
【0035】
[カーボンナノチューブ]
ここで、めっき液に含有させるCNTとしては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができる。但し、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。単層カーボンナノチューブを使用すれば、多層カーボンナノチューブを使用した場合と比較し、複合材料の導電性や熱伝導性を良好に向上させることができるからである。
【0036】
また、CNTとしては、平均直径(Av)に対する、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)の比(3σ/Av)が0.20超0.60未満のCNTを用いることが好ましく、3σ/Avが0.25超のCNTを用いることがより好ましく、3σ/Avが0.50超のCNTを用いることが更に好ましい。3σ/Avが0.20超0.60未満のCNTを使用すれば、CNTの配合量が少量であっても、複合材料の導電性や熱伝導性を十分に向上させることができるからである。
なお、CNTの平均直径(Av)および標準偏差(σ)は、CNTの製造方法や製造条件を変更することにより調整してもよいし、異なる製法で得られたCNTを複数種類組み合わせることにより調整してもよい。
【0037】
そして、CNTとしては、透過型電子顕微鏡を用いて100本のカーボンナノチューブの直径を測定し、測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0038】
更に、CNTは、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、三層以上の多層カーボンナノチューブのラマンスペクトルには、RBMが存在しない。
【0039】
また、CNTは、ラマンスペクトルにおけるDバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)が1以上20以下であることが好ましい。G/D比が1以上20以下であれば、CNTの配合量が少量であっても、複合材料の導電性や熱伝導性を十分に向上させることができるからである。
【0040】
更に、CNTの平均直径(Av)は、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましい。CNTの平均直径(Av)が0.5nm以上であれば、CNTの凝集を抑制して、めっき液中でのCNTの分散性を更に高めることができるからである。
【0041】
また、CNTは、合成時における構造体の平均長さが100μm以上5000μm以下であることが好ましく、300μm以上2000μm以下であることがより好ましい。合成時の構造体の平均長さが100μm以上であれば、複合材料の導電性および熱伝導性が向上するからである。なお、合成時の構造体の長さが長いほど、分散時にCNTに破断や切断などの損傷が発生し易い。従って、合成時の構造体の平均長さは5000μm以下であることが好ましい。
【0042】
更に、CNTのBET比表面積は、未開口の状態で600m2/g以上であることが好ましく、800m2/g以上であることが更に好ましく、2500m2/g以下であることが好ましく、1200m2/g以下であることが更に好ましい。更に、CNTが主として開口したものにあっては、BET比表面積が1300m2/g以上であることが好ましい。CNTのBET比表面積が600m2/g以上であれば、複合材料の導電性や熱伝導性を良好に向上させることができるからである。また、CNTのBET比表面積が2500m2/g以下であれば、CNTの凝集を抑制してめっき液中でのCNTの分散性を高めることができるからである。
なお、本発明において、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0043】
更に、CNTは、後述のスーパーグロース法によれば、カーボンナノチューブ成長用の触媒層を表面に有する基材上に、基材に略垂直な方向に配向した集合体(CNT配向集合体)として得られるが、当該集合体としての、CNTの質量密度は、0.002g/cm3以上0.2g/cm3以下であることが好ましい。質量密度が0.2g/cm3以下であれば、CNT同士の結びつきが弱くなるので、CNTを均質に分散させることができる。また、質量密度が0.002g/cm3以上であれば、CNTの一体性を向上させ、バラけることを抑制できるため取り扱いが容易になる。
【0044】
更に、CNTは、複数の微小孔を有することが好ましい。CNTは、中でも、孔径が2nmよりも小さいマイクロ孔を有するのが好ましく、その存在量は、下記の方法で求めたマイクロ孔容積で、好ましくは0.40mL/g以上、より好ましくは0.43mL/g以上、更に好ましくは0.45mL/g以上であり、上限としては、通常、0.65mL/g程度である。CNTが上記のようなマイクロ孔を有することで、CNTの凝集が抑制され、CNTの分散性が高まり、CNTが高度に分散しためっき液を非常に効率的に得ることができる。なお、マイクロ孔容積は、例えば、CNTの調製方法および調製条件を適宜変更することで調整することができる。
ここで、「マイクロ孔容積(Vp)」は、CNTの液体窒素温度(77K)での窒素吸着等温線を測定し、相対圧P/P0=0.19における窒素吸着量をVとして、式(I):Vp=(V/22414)×(M/ρ)より、算出することができる。なお、Pは吸着平衡時の測定圧力、P0は測定時の液体窒素の飽和蒸気圧であり、式(I)中、Mは吸着質(窒素)の分子量28.010、ρは吸着質(窒素)の77Kにおける密度0.808g/cm3である。マイクロ孔容積は、例えば、「BELSORP(登録商標)−mini」(日本ベル(株)製)を使用して求めることができる。
【0045】
なお、上述した性状を有するCNTは、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に、原料化合物およびキャリアガスを供給して、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)において、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行い、アセチレンを主成分とする原料ガス(例えば、アセチレンを50体積%以上含むガス)を用いることにより、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
【0046】
[炭素ナノ繊維の配合量]
めっき液中における炭素ナノ繊維の配合量は、特に限定されることなく、用途に応じためっき皮膜の特性に従って適宜調整することができる。
【0047】
<その他の添加剤>
なお、本発明のめっき液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した成分以外に、pH調整剤や光沢剤などの既知の添加剤を含有していてもよい。
【0048】
<めっき液の性状>
そして、上記成分を含有するめっき液のpHは、無電解めっき処理による複合材料の調製に用いられる場合には特に、水酸化カリウム等のpH調整剤を用いて、アルカリ性、好ましくはpH9以上に調整されていることが好ましい。
【0049】
(めっき液の製造方法)
本発明のめっき液は、上述した成分を水などの既知の溶媒中に溶解または分散させることにより調製することができる。
【0050】
ここで、めっき液は、上述した成分を溶媒中に全て同時に投入し、分散処理を施すことにより調製してもよいが、炭素ナノ繊維の分散性を高める観点からは、イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤の存在下で炭素ナノ繊維を溶媒中に分散させた後に、当該炭素ナノ繊維分散液に対してめっき可能な金属イオンを与える金属化合物およびキレート剤を添加することにより調製することが好ましい。具体的には、めっき液は、炭素ナノ繊維と、イオン性界面活性剤と、高分子系界面活性剤と、溶媒とを含む粗分散液に対して分散処理を施した後に、得られた炭素ナノ繊維分散液に対して金属化合物およびキレート剤を添加し、混合することにより調製することが好ましい。なお、炭素ナノ繊維分散液と、金属化合物およびキレート剤との混合は、既知の撹拌装置などを用いて行うことができる。
【0051】
また、炭素ナノ繊維を溶媒中で分散させる際の分散処理としては、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理を用いることが好ましい。キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理を用いれば、分散処理中に炭素ナノ繊維が損傷するのを抑制し、めっき液を用いて調製した複合材料に所望の性能を発揮させることができるからである。なお、ボールミル等による通常の分散処理では、炭素ナノ繊維がダメージを受けて複合材料中で所望の特性を発現できず、複合材料の導電性および熱伝導性を十分に向上させることができない虞がある。
以下、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理について、説明する。
【0052】
[キャビテーション効果が得られる分散処理]
キャビテーション効果が得られる分散処理は、液体に高エネルギーを付与した際に、水に生じた真空の気泡が破裂することにより生じた衝撃波を利用した分散方法である。そして、当該分散処理方法を用いることにより、炭素ナノ繊維をめっき液中に均一に分散させることができ、ひいてはめっき皮膜として形成される複合材料の導電性や熱伝導性を向上させることが可能になる。
【0053】
ここで、キャビテーション効果が得られる分散処理の具体例としては、超音波による分散処理、ジェットミルによる分散処理および高せん断撹拌による分散処理が挙げられる。これらの分散処理は一つのみを行なってもよく、複数を組み合わせて行なってもよい。より具体的には、分散処理には、例えば超音波ホモジナイザー、ジェットミル、および高せん断撹拌装置が好適に用いられる。これらの装置は従来公知のものを使用すればよい。
【0054】
炭素ナノ繊維の分散に超音波ホモジナイザーを用いる場合には、イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤を添加した溶媒に炭素ナノ繊維を加えた後、得られた粗分散液に対して超音波ホモジナイザーにより超音波を照射すればよい。照射する時間は、炭素ナノ繊維の量などにより適宜設定すればよく、例えば、3分以上が好ましく、30分以上がより好ましく、また、5時間以下が好ましく、2時間以下がより好ましい。また、例えば、出力は100W以上500W以下、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
【0055】
また、ジェットミルを用いる場合、処理回数は、炭素ナノ繊維の量などにより適宜設定すればよく、例えば、2回以上が好ましく、5回以上がより好ましく、100回以下が好ましく、50回以下がより好ましい。また、例えば、圧力は20MPa〜250MPa、温度は15℃〜50℃が好ましい。
【0056】
さらに、高せん断撹拌を用いる場合には、高せん断撹拌装置により粗分散液を処理すればよい。旋回速度は速ければ速いほどよい。例えば、運転時間(機械が回転動作をしている時間)は3分以上4時間以下、周速は5m/s以上50m/s以下、温度は15℃以上50℃以下が好ましい。
【0057】
なお、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理は、50℃以下の温度で行なうことがより好ましい。溶媒の揮発による濃度変化が抑制されるからである。
【0058】
[解砕効果が得られる分散処理]
また、本発明のめっき液の製造方法では、以下に示す解砕効果が得られる分散処理を適用することもできる。この解砕効果が得られる分散処理は、炭素ナノ繊維を溶媒中に均一に分散できることは勿論、上記したキャビテーション効果が得られる分散処理に比べ、気泡が消滅する際の衝撃波による炭素ナノ繊維の損傷を抑制することができるので、この点で一層有利である。
【0059】
この解砕効果が得られる分散処理では、上記した粗分散液にせん断力を与えて粗分散液中の炭素ナノ繊維の凝集体を解砕・分散させ、さらに得られた分散液に背圧を負荷し、また所望により、分散液を冷却することで、キャビテーションの発生を抑制しつつ、炭素ナノ繊維を溶媒中に均一に分散させることができる。
なお、分散液に背圧を負荷する場合、分散液に負荷した背圧は、大気圧まで一気に降圧させてもよいが、多段階で降圧することが好ましい。
【0060】
ここに、粗分散液にせん断力を与えて粗分散液中の炭素ナノ繊維をさらに分散させるには、例えば、以下のような構造の分散器を有する分散システムを用いればよい。
すなわち、分散器は、粗分散液の流入側から流出側に向かって、内径がd1の分散器オリフィスと、内径がd2の分散空間と、内径がd3の終端部と(但し、d2>d3>d1である。)、を順次備える。
そして、この分散器では、流入する高圧(通常、10〜400MPa、好ましくは50〜250MPa)の粗分散液が、分散器オリフィスを通過することで、圧力の低下を伴いつつ、高流速の流体となって分散空間に流入する。その後、分散空間に流入した高流速の粗分散液は、分散空間内を高速で流動し、その際にせん断力を受ける。その結果、粗分散液の流速が低下すると共に、粗分散液中の炭素ナノ繊維が良好に分散する。そして、終端部から、流入した粗分散液の圧力よりも低い圧力(背圧)の流体が、分散液として流出することになる。
【0061】
なお、分散液の背圧は、分散液の流れに負荷をかけることで負荷することができ、例えば、後述する多段降圧器を分散器の下流側に配設することにより、分散液に所望の背圧を負荷することができる。
この多段降圧器により分散液の背圧を多段階で降圧することで、最終的に分散液を大気圧に開放した際に、分散液中に気泡が発生するのを抑制できる。
【0062】
また、この分散器は、分散液を冷却するための熱交換器や冷却液供給機構を備えていてもよい。というのは、分散器でせん断力を与えられて高温になった分散液を冷却することにより、分散液中で気泡が発生するのをさらに抑制できるからである。
なお、熱交換器等の配設に替えて、粗分散液を予め冷却しておくことでも、分散液中で気泡が発生することを抑制できる。
【0063】
上記したように、この解砕効果が得られる分散処理では、キャビテーションの発生を抑制できるので、時として懸念されるキャビテーションに起因した炭素ナノ繊維の損傷、特に、気泡が消滅する際の衝撃波に起因した炭素ナノ繊維の損傷を抑制することができる。加えて、炭素ナノ繊維への気泡の付着や、気泡の発生によるエネルギーロスを抑制して、比表面積が大きい炭素ナノ繊維であっても、均一かつ効率的に分散させることができる。
なお、炭素ナノ繊維への気泡の付着の抑制による分散性の向上効果は、BET比表面積が大きい炭素ナノ繊維、特に、BET比表面積が600m2/g以上の炭素ナノ繊維において非常に大きい。炭素ナノ繊維の比表面積が大きく、表面に気泡が付着し易い炭素ナノ繊維であるほど、気泡が発生して付着した際に分散性が低下し易いからである。
【0064】
以上のような構成を有する分散システムとしては、例えば、製品名「BERYU SYSTEM PRO」(株式会社美粒製)に多段降圧器を組み合わせてなる分散システムなどがある。このような分散システムを用い、分散条件を適切に制御することで、分散処理を実施することができる。
【0065】
(第一の複合材料)
本発明の第一の複合材料は、上述しためっき液を用いて基材表面にめっき処理を施すことにより、めっき皮膜として得られる。そして、このようにして得られた本発明の第一の複合材料は、炭素ナノ繊維が良好に分散しており、金属と炭素ナノ繊維とが良好に複合化しているので、導電性および熱伝導性などに優れている。
【0066】
ここで、めっき処理方法としては、電解めっきに限らず、無電解めっきを適用することもできる。また、電解めっきの場合、直流めっき法に限定されることはなく、電流反転めっき法やパルスめっき法も採用することができる。また、めっき処理条件は、特に限定されず、常法に従えばよい。なお、めっき処理中、めっき液の分散状態を維持するため、例えばスターラー等でめっき液を撹拌することが好ましい。
また、基材の材料についても特に限定されるものではなく、通常の電解めっき、無電解めっきで使用される材料を用いることができる。
【0067】
以上、本発明の第一の複合材料について説明したが、本発明の第一の複合材料は、めっき液中に炭素ナノ繊維を分散させて、めっき処理を行うことにより得られるものである。従って、本発明の第一の複合材料は、例えば、基材上にCNTを形成し、その後基材に対して垂直配向のCNTを倒伏・圧縮して水平配向にしてから、CNTを銅などのめっき液中に浸漬し、電解めっきする方法で得られる複合材料とは異なるものである。
【0068】
(第二の複合材料)
本発明の第二の複合材料は、銅と炭素ナノ構造体とが複合化された銅複合材料であり、X線回折分析において、亜酸化銅に帰属されるX線回折ピークの回折強度が検出限界以下であることを必要とする。即ち、本発明の第二の複合材料としての銅複合材料は、亜酸化銅を実質的に含んでおらず、亜酸化銅の存在に由来する問題を実用上有しない。そのため、当該銅複合材料は、優れた導電性および熱伝導性を発揮することができる。
【0069】
<炭素ナノ構造体>
「炭素ナノ構造体」とは、炭素原子から構成されるナノサイズの物質の総称である。
炭素ナノ構造体の具体例としては、例えば、単層または多層のカーボンナノチューブ、コイル状のカーボンナノコイル、カーボンナノチューブに捩れを与えたカーボンナノツイスト、カーボンナノチューブ上にビーズが形成されたビーズ付カーボンナノチューブ、幅が数nm程度のカーボンナノリボン、カーボンナノチューブが多数林立されたカーボンナノブラシ、球殻状のフラーレン、ナノサイズの炭素繊維である微細炭素繊維等が挙げられる。これらの炭素ナノ構造体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、これらの炭素ナノ構造体は、例えば、国際公開第2005/118473号に開示される、原料ガスを用いた触媒化学気相成長法等により、製造することができる。
【0070】
銅複合材料に含まれる炭素ナノ構造体の割合は、所望の効果を十分に得る観点から、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることが更に好ましい。また、銅複合材料の曲げ特性等の機械的特性の悪化を抑制する観点から、炭素ナノ構造体の割合は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。
【0071】
[単層カーボンナノチューブ(SWCNT)]
本発明の第二の複合材料としての銅複合材料は、炭素ナノ構造体として、単層カーボンナノチューブ(以下、「SWCNT」ともいう。)を含むことが好ましい。
SWCNTは、多層カーボンナノチューブ等の他の炭素ナノ構造体と比較して、径が小さく比表面積が大きいため、銅と複合化するために必要な量を低減することができると共に、均質な複合化を実現することができる。これにより、銅複合材料の導電性および熱伝導性を向上させることが可能となる。
【0072】
炭素ナノ構造体中のSWCNTの割合は、得られる銅複合材料の性能の観点から、1質量%以上とすることが好ましく、10質量%以上とすることが更に好ましい。なお、炭素ナノ構造体全量をSWCNTとしてもよい。
【0073】
以下、第二の複合材料としての銅複合材料において用いられる単層カーボンナノチューブ(SWCNT)の特性について記載する。
【0074】
SWCNTの比表面積(BET比表面積)は、銅複合材料の導電性や熱伝導性を良好に向上させる観点、および、後述の解砕効果が得られる分散処理時におけるSWCNTの分散性を向上させると共にSWCNTの損傷を十分に防止する観点から、未開口状態で600m2/g以上とすることが好ましく、800m2/g以上とすることが更に好ましく、また、1200m2/g以下とすることが好ましい。
【0075】
また、SWCNTは、ラマン分光法を用いて評価した際に、Radial Breathing Mode(RBM)のピークを有することが好ましい。なお、3層以上の多層カーボンナノチューブのラマンスペクトルにはRBMが存在しない。
【0076】
更に、SWCNTのラマンスペクトルにおける、Dバンドピーク強度に対するGバンドピーク強度の比(G/D比)は、SWCNTの分散性の観点、および、SWCNTの配合量が少量の場合でも銅複合材料の導電性や熱伝導性を十分に向上させる観点から、1以上20以下であることが好ましい。
【0077】
更に、SWCNTの平均直径(Av)に対する直径分布(3σ)の比(3σ/Av)は、SWCNTの配合量が少量の場合でも銅複合材料の導電性や熱伝導性を十分に向上させる観点から、0.20超であることが好ましく、0.25超であることが更に好ましく、0.50超であることが特に好ましく、また、0.60未満であることが好ましい。即ち、SWCNTは、平均直径(Av)と直径分布(3σ)とが、関係式:0.20<(3σ/Av)<0.60を満たすことが好ましい。
そして、SWCNTとしては、測定した直径を横軸に、その頻度を縦軸に取ってプロットし、ガウシアンで近似した際に、正規分布を取るものが通常使用される。
【0078】
ここで、SWCNTの平均直径(Av)としては、SWCNTの凝集を抑制して、めっき液中における分散性を高める観点から、0.5nm以上であることが好ましく、1nm以上であることが更に好ましい。また、銅複合材料の導電性および熱伝導性を向上させる観点からは、SWCNTの平均直径(Av)は、15nm以下であることが好ましく、10nm以下であることが更に好ましい。
【0079】
SWCNTの平均長さは、銅複合材料の導電性および熱伝導性を向上させる観点から、50μm〜2000μmであることが好ましく、100μm〜1000μmであることが更に好ましい。
【0080】
SWCNTは、複数の微小孔を有することが好ましく、孔径が2nmよりも小さいマイクロ孔を有することが好ましい。
マイクロ孔の存在量は、下記の方法で求めたマイクロ孔容積(Vp)で、下限は好適には0.4mL/g以上、更に好適には0.43mL/g以上、特に好適には0.45mL/g以上であり、上限は0.65mL/g以下とすることができる。SWCNTが上記のマイクロ孔を有すれば、SWCNTの分散性を高めることができる。
なお、マイクロ孔容積は、例えば、SWCNTの調製方法および調製条件を適宜変更することによって調整することができる。
ここで、「マイクロ孔容積(Vp)」は、SWCNTの液体窒素温度(77K)での窒素吸着等温線を測定し、相対圧P/P0=0.19における窒素吸着量をVとして、式(I):Vp=(V/22414)×(M/ρ)より、算出することができる。ここで、Pは吸着平衡時の測定圧力、P0は測定時の液体窒素の飽和蒸気圧であり、式(I)中、Mは吸着質(窒素)の分子量28.010、ρは吸着質(窒素)の77Kにおける密度0.808g/cm3である。
【0081】
また、SWCNTは、開口処理されておらず(すなわち未開口であり)、吸着等温線から得られるt−プロットが上に凸な形状を示すのが好ましい。当該t−プロットは、SWCNTについて窒素ガス吸着法で測定された吸着等温線において、相対圧を窒素ガス吸着層の平均厚みt(nm)に変換することによって得られる(de Boerらによるt−プロット法)。t−プロットが上に凸な形状であることは、SWCNTの全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きく、SWCNTの側壁に多数の開口が形成されていることを示す。
【0082】
更に、SWCNTは、前述のt−プロットにおいて、その屈曲点が、0.2≦t(nm)≦1.5の範囲にあることが好ましく、0.45≦t(nm)≦1.5の範囲にあることが更に好ましく、0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあることが特に好ましい。
【0083】
前述の通り、t−プロットが上に凸な形状を示すSWCNTは、全比表面積に対する内部比表面積の割合が大きいものとなる。全比表面積S1に対する内部比表面積S2の割合(S2/S1)は、0.05≦S2/S1≦0.30を満たすのが好ましい。
ここで、全比表面積S1は、600〜1800m2/gであることが好ましく、800〜1500m2/gであることが更に好ましい。また、内部比表面積S2は、30〜540m2/gであることが好ましい。なお、全比表面積S1および内部比表面積S2は、前述のt−プロットから求めることができる。
【0084】
前述のSWCNTの、マイクロ孔容積の測定、吸着等温線やt−プロットの作成、並びに、t−プロット解析に基づく全比表面積S1および内部比表面積S2の算出は、例えば、市販の測定装置である「BELSORP(登録商標)−mini」(日本ベル(株)社製)を用いて行うことができる。
【0085】
SWCNTの製造方法としては、特に限定されることなく、化学気相成長法(CVD法)、アーク放電法、レーザーアブレーション法等が挙げられ、特に、前述したスーパーグロース法が好ましい。
【0086】
[SWCNTの平均直径よりも大きい平均直径を有する繊維状炭素ナノ構造体]
また、本発明の第二の複合材料としての銅複合材料は、炭素ナノ構造体として、上記単層カーボンナノチューブ(SWCNT)と、SWCNTの平均直径よりも大きい平均直径を有する繊維状炭素ナノ構造体(以下、「大径炭素ナノ構造体」ともいう。)とを併用してもよい。
大径炭素ナノ構造体を用いることによって、フォノンの移動が容易となるため、銅複合材料の熱伝導性を一層高めることが可能となる。
【0087】
なお、炭素ナノ構造体中の大径炭素ナノ構造体の割合は、所望の効果を十分に得る観点から、1質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることが更に好ましい。また、銅複合材料の曲げ特性等の機械的特性の悪化を抑制する観点から、大径炭素ナノ構造体の割合は、60質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることが更に好ましい。
【0088】
大径炭素ナノ構造体は、ナノサイズの炭素繊維である。大径炭素ナノ構造体としては、例えば、多層カーボンナノチューブや微細炭素繊維等が挙げられる。
大径炭素ナノ構造体の平均直径は、SWCNTの平均直径よりも大きければ特に限定されないが、例えば、10nm以上200nm以下とすることができる。
【0089】
大径炭素ナノ構造体は、特に限定されることなく、例えば、前述の国際公開第2005/118473号に記載の方法に従って製造することができる。
【0090】
(銅複合材料の製造方法)
本発明の第二の複合材料としての銅複合材料は、例えば、炭素ナノ構造体を、分散剤の存在下において分散媒中で、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理に供することによって、炭素ナノ構造体を分散媒に分散させて、炭素ナノ構造体分散液を得る分散工程(A)と、前記炭素ナノ構造体分散液と銅めっき液の材料とを混合して、炭素ナノ構造体分散銅めっき液を得る混合工程(B)と、前記炭素ナノ構造体分散銅めっき液を用いて基板表面にめっき処理を行うめっき工程(C)とを含む、本発明の銅複合材料の製造方法により、効率的に製造することができる。
なお、第二の複合材料としての銅複合材料の製造においては、前述した第一の複合材料を製造する場合とは異なり、分散剤としてイオン性界面活性剤と高分子系界面活性剤とを併用しなくてもよい。
【0091】
ここで、炭素ナノ構造体をめっき液中で分散させて炭素ナノ構造体が分散しためっき液を調製する、従来の銅複合材料の製造方法では、用いる炭素ナノ構造体内部には通常、酸素が存在するため、得られる銅複合材料内に亜酸化銅が生じてしまう。ここで、亜酸化銅の電気抵抗は、未酸化の銅の電気抵抗と比較してはるかに大きい。従って、銅複合材料中に亜酸化銅が生じた場合、銅複合材料の導電性が著しく低下し、また、銅複合材料の熱伝導性も低下する。
【0092】
一方、本発明の銅複合材料の製造方法では、先に炭素ナノ構造体を分散させて分散液(炭素ナノ構造体分散液)を調製し、その後、炭素ナノ構造体分散液とめっき液とを混合するため、炭素ナノ構造体に含まれる酸素とめっき液中の銅成分との接触を効果的に抑制することができる。従って、銅複合材料中で発生する亜酸化銅を著しく低減し、これにより、亜酸化銅を含まない銅複合材料を得ることができる。
【0093】
以下、本発明の銅複合材料の製造方法の各工程について記載する。
<分散工程(A)>
本発明の銅複合材料の製造方法では、まず、炭素ナノ構造体を、分散剤の存在下、分散媒中で、キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理に供することによって、炭素ナノ構造体を分散媒に分散させて、炭素ナノ構造体分散液を得る(分散工程(A))。
【0094】
[分散剤]
分散工程(A)で用いる分散剤としては、特に限定されることなく、炭素ナノ構造体の分散を補助し得る既知の分散剤を用いることができる。分散剤としては、例えば、イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、多糖類等が挙げられ、特に、界面活性剤が好ましい。
【0095】
イオン性(カチオン性、アニオン性)界面活性剤および非イオン性(ノニオン性)界面活性剤としては、特に、炭素ナノ構造体の充分な分散性を確保する観点から、アニオン性界面活性剤が好ましい。
カチオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、セチルトリメチルアンモニウムブロミド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロライド等の第四級アンモニウム塩;塩化テトラブチルホスホニウム、塩化テトラペンチルホスホニウム、塩化トリオクチルメチルホスホニウム、塩化ペンチルトリフェニルホスホニウム等の第四級ホスホニウム塩;等が挙げられる。
アニオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルジフェニルオキシドジスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等のエーテル型非イオン性界面活性剤;グリセリンエステルのポリオキシエチレンエーテル等のエーテルエステル型非イオン性界面活性剤;ポリエチレングリコール脂肪酸エステル;グリセリンエステル;等が挙げられる。
【0096】
多糖類としては、ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、カルボキシメチルセルロースアンモニウム塩、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。
【0097】
[分散媒]
分散工程(A)で用いる分散媒としては、分散剤によりミセルを形成させる観点から、通常、水が用いられる。なお、分散媒としては、ミセル形成を阻害しない限り、例えば、エーテル系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒およびケトン系溶媒等を水と併用することができる。
【0098】
なお、分散媒中における分散剤の濃度は、臨界ミセル濃度以上であれば、特に限定されない。
分散媒に分散させる炭素ナノ構造体の量は、充分な特性を有する銅複合材料を得る観点から、0.01g/L以上であることが好ましく、0.1g/L以上であることが更に好ましい。また、分散媒中での分散性を向上させる観点から、分散媒に分散させる炭素ナノ構造体の量は、20g/L以下であることが好ましく、10g/L以下であることが更に好ましい。
【0099】
[分散処理]
分散工程(A)で用いる分散処理(キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理)は、上述した分散媒に上述した分散剤および炭素ナノ構造体を添加して得た粗分散液に対して行うこと以外は、前述した第一の複合材料の調製に使用するめっき液の製造方法において用い得る「キャビテーション効果または解砕効果が得られる分散処理」と同様にして行うことができる。即ち、分散工程(A)のキャビテーション効果が得られる分散処理は、上記[キャビテーション効果が得られる分散処理]の項目に記載されている内容を、「溶媒」を「分散媒」と、「イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤」を「分散剤」と、「炭素ナノ繊維」を「炭素ナノ構造体」と読み替えて実施することができる。また、分散工程(A)の解砕効果が得られる分散処理は、上記[解砕効果が得られる分散処理]の項目に記載されている内容を、「溶媒」を「分散媒」と、「イオン性界面活性剤および高分子系界面活性剤」を「分散剤」と、「炭素ナノ繊維」を「炭素ナノ構造体」と読み替えて実施することができる。
【0100】
なお、分散工程(A)において分散処理にジェットミルを用いる場合には、多糖類の分散剤に比べて粘性が低く、装置への負荷を軽減できることから、分散剤として界面活性剤(イオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤)を用いることが好ましい。
【0101】
また、分散工程(A)において分散剤としてノニオン性界面活性剤を用いる場合には、分散剤の機能をより良好に発揮させるため、分散剤が凍らない若しくはノニオン性界面活性剤の曇点を下回らない程度の低温で、分散処理を行うことが好ましい。
【0102】
<混合工程(B)>
次いで、本発明の銅複合材料の製造方法では、炭素ナノ構造体分散液と銅めっき液の材料とを混合して、炭素ナノ構造体分散銅めっき液を得る(混合工程(B))。
なお、炭素ナノ構造体分散液と銅めっき液の材料との混合に関しては、所望の炭素ナノ構造体分散銅めっき液が得られれば、(i)炭素ナノ構造体分散液と、予め調製しておいた銅めっき液(銅めっき液の材料を含む溶液)とを混合することによって行ってもよいし、(ii)炭素ナノ構造体分散液に対して銅めっき液の材料を個別にまたは同時に添加して、これらを混合することによって行ってもよいし、(iii)上記(i)と上記(ii)とを併用することによって行ってもよい。
【0103】
[銅めっき液の材料]
銅めっき液の材料としては、銅イオン源、キレート剤、pH調整剤等のめっき液中で通常用いられるものが挙げられる。
具体的には、銅イオン源としては、例えば、硫酸銅五水和物等が挙げられる。キレート剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、チオ尿素、ロッシェル塩、酒石酸等が挙げられる。pH調整剤としては、例えば、水酸化カリウム等が挙げられる。
そして、これらの銅めっき液の材料を水などの溶媒に溶解させることにより、上記(i)の銅めっき液を得ることができる。
【0104】
炭素ナノ構造体分散銅めっき液中における銅イオン源の濃度は、充分な特性を有する銅複合材料を得る観点から、0.01mol/L以上であることが好ましく、0.05mol/L以上であることが更に好ましい。また、銅イオン源の濃度は、炭素ナノ構造体の充分な分散性を確保する観点から、1.0mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以下であることが更に好ましい。
【0105】
なお、炭素ナノ構造体分散液と銅めっき液との混合は、炭素ナノ構造体の充分な分散性を確保する観点から、得られる炭素ナノ構造体分散銅めっき液の温度が90℃以下となるように適宜温度調整して行うことが好ましい。
また、炭素ナノ構造体分散銅めっき液のpHは、所望の銅複合材料を効率的に得る観点から、8以上とすることが好ましい。
【0106】
<めっき工程(C)>
更に、本発明の銅複合材料の製造方法では、炭素ナノ構造体分散銅めっき液を用いて基板表面にめっき処理を行う(めっき工程(C))。そして、めっき工程(C)では、第二の複合材料としての銅複合材料がめっき皮膜として得られる。
【0107】
[めっき処理]
ここで、めっき処理方法としては、電解めっきや無電解めっきが挙げられ、特に、亜酸化銅の発生を抑制する観点から、電解めっきが好ましい。
電解めっきの場合、直流めっき法に限定されることはなく、電流反転めっき法やパルスめっき法も用いることができる。めっき処理条件は、特に限定されることなく、常法に従うものとしてよい。
なお、めっき処理の間、炭素ナノ構造体分散銅めっき液の分散状態を維持するため、当該炭素ナノ構造体分散銅めっき液を、スターラー等を用いて撹拌することが好ましい。
【0108】
なお、めっき工程(C)において電解めっきを用いる場合、電流密度は、銅複合材料を効率的に製造する観点から、0.1Adm-2以上であることが好ましく、0.5Adm-2以上であることが更に好ましい。また、電流密度は、充分な特性を有する銅複合材料を得る観点から、6Adm-2以下であることが好ましく、4Adm-2以下であることが更に好ましい。
【実施例】
【0109】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0110】
なお、以下の実施例1−1〜実施例1−3において使用したカーボンナノチューブは、以下の方法で合成した。また、調製しためっき液の評価は、以下の方法を使用して行った。
【0111】
(カーボンナノチューブの合成)
国際公開第2006/011655号の記載に従い、スーパーグロース法によりCNT(SGCNT−1)を調製した。なお、SGCNT−1の調製時には、基材表面への触媒層の形成をウェットプロセスにより行い、アセチレンを主成分とする原料ガスを用いた。
得られたSGCNT−1は、BET比表面積が1050m2/g(未開口)、マイクロ孔容積が0.44mL/gであり、ラマン分光光度計での測定において、単層CNTに特長的な100〜300cm-1の低波数領域にラジアルブリージングモード(RBM)のスペクトルが観察された。また、透過型電子顕微鏡を用い、無作為に100本のSGCNT−1の直径を測定した結果、平均直径(Av)が3.3nm、直径の標準偏差(σ)に3を乗じた値(3σ)が1.9nm、それらの比(3σ/Av)が0.58であった。
【0112】
(評価方法)
得られためっき液を、温度60℃の条件下にて1週間スターラーを用いて撹拌した。その後、めっき液を超遠心分離機により処理(遠心分離条件:8000G、20℃、4時間)し、処理後のめっき液中のCNT凝集物の有無を目視により観察して、CNTの分散性を評価した。
【0113】
(実施例1−1)
炭素ナノ繊維としてのSGCNT−1の濃度が0.2g/L、イオン性界面活性剤としてのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)および高分子系界面活性剤としてのヒドロキシプロピルセルロースの濃度がそれぞれ1g/Lの水溶液を調製し、30分間スターラーを用いて撹拌して粗分散液を得た。この粗分散液に対し、キャビテーション効果を利用した分散装置であるジェットミル(常光社製、製品名「JN−20」)を用いて、50MPaの条件にて20回分散処理を行うことにより、SGCNT−1を含む分散液を得た。次いで、SGCNT−1を含む分散液を撹拌しながら、めっき可能な金属イオンを与える金属化合物としての硫酸銅五水和物0.1モル/L、および、キレート剤としてのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.2モル/Lを加えた後、水酸化カリウム水溶液を用いて溶液のpHを約12に調整することにより、SGCNT−1を含む銅めっき液1を得た。得られた銅めっき液1を1mLとり、スライドグラスに滴下したときの様子を図1に示す。
そして、上述した方法に従って銅めっき液1中のCNTの分散性を評価したところ、CNT凝集物は全く観察されず、分散安定性に優れていることが確認された。
【0114】
(実施例1−2)
イオン性界面活性剤としてドデシル硫酸ナトリウム(SDS)に替えてデオキシコール酸ナトリウム(DOC)を用いた以外は実施例1−1と同様にして、SGCNT−1を含む銅めっき液2を得た。
得られた銅めっき液2中のCNTの分散性を評価したところ、CNT凝集物は全く観察されず、分散安定性に優れていることが確認された。
【0115】
(実施例1−3)
高分子系界面活性剤としてヒドロキシプロピルセルロースに替えてポリビニルピロリドンを用いた以外は実施例1−1と同様にして、SGCNT−1を含む銅めっき液3を得た。
得られた銅めっき液3中のCNTの分散性を評価したところ、CNT凝集物は全く観察されず、分散安定性に優れていることが確認された。
【0116】
また、以下の実施例2−1〜実施例2−3において使用した単層カーボンナノチューブは、以下の方法で合成した。
【0117】
(単層カーボンナノチューブの合成)
<SWCNT−1の合成>
炭素ナノ構造体としての単層カーボンナノチューブ(SWCNT−1)を、国際公開第2006/011655号の記載に従って、スーパーグロース法により調製した。なお、触媒層としての鉄薄膜層の厚さは2nmとした。
得られたSWCNT−1は、BET比表面積が1050m2/g(未開口状態)、マイクロ孔容積が0.45mL/gであった。また、SWCNT−1は、ラマン分光光度計での測定において、単層CNTに特長的な100〜300cm-1の低波数領域にラジアルブリージングモード(RBM)のスペクトルが観察された。更に、透過型電子顕微鏡を用いて、無作為に100本のSWCNT−1の直径を測定した結果、平均直径(Av)が3.3nm、直径分布(3σ)が1.9nm、(3σ/Av)が0.58であった。また、未開口状態におけるt−プロットは上に凸な形状を示し、その屈曲点は0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあり、全比表面積S1と内部比表面積S2との比は0.05≦S2/S1≦0.30を満たしていた。
【0118】
触媒層としての鉄薄膜層の厚さを4nmに変更した点以外はSWCNT−1の場合と同様にして、単層カーボンナノチューブ(SWCNT−2)を調製した。
得られたSWCNT−2は、BET比表面積が820m2/g(未開口状態)、マイクロ孔容積が0.41mL/gであった。また、SWCNT−2は、ラマン分光光度計での測定において、単層CNTに特長的な100〜300cm-1の低波数領域にラジアルブリージングモード(RBM)のスペクトルが観察された。更に、透過型電子顕微鏡を用いて、無作為に100本のSWCNT−2の直径を測定した結果、平均直径(Av)は5.9nm、直径分布(3σ)は3.2nm、(3σ/Av)は0.54であった。また、未開口状態におけるt−プロットは上に凸な形状を示し、その屈曲点は0.55≦t(nm)≦1.0の範囲にあり、全比表面積S1と内部比表面積S2との比は0.05≦S2/S1≦0.30を満たしていた。
【0119】
(実施例2−1)
炭素ナノ構造体としてのSWCNT−1の濃度が0.2g/L、分散剤としてのドデシル硫酸ナトリウム(SDS)およびヒドロキシプロピルセルロースの濃度がいずれも1g/Lとなるように溶液を調製し、この溶液をスターラーを用いて30分間撹拌した。この溶液(粗分散液)に対して、キャビテーション効果が得られる分散装置であるジェットミル(常光社製、製品名:JN−20)を用いて、50MPaの条件で20回分散処理を行うことによって、SWCNT−1を分散させ、SWCNT−1を含む分散液(炭素ナノ構造体分散液)を得た(分散工程(A))。
次いで、撹拌中の炭素ナノ構造体分散液に対して、0.1mol/Lの硫酸銅五水和物水溶液、0.2mol/Lのエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩水溶液を加え、その後、溶液のpHを、水酸化カリウム水溶液を用いて約12に調整することによって、SWCNT−1を含む銅めっき液(炭素ナノ構造体分散銅めっき液)を得た(混合工程(B))。なお、得られた炭素ナノ構造体分散銅めっき液の温度は約50℃であった。
更に、表面を活性化処理した銅基板をめっき槽のアノード側に取り付け、50℃に保持し、スターラーを用いて撹拌速度450rpmで撹拌された炭素ナノ構造体分散銅めっき液中に浸漬した。そして、電流密度1Adm-2の条件下、通電量136.4Cになるように電解めっき処理を行った(めっき工程(C))。
上記方法により、銅とSWCNT−1とからなる銅複合材料1を得た。
【0120】
得られた銅複合材料1の表面を、走査型電子顕微鏡(日立製作所製、製品名:SU8000)を用いて観察した。図2(A)に、銅複合材料1の表面の写真を示し、図2(B)に、拡大写真を示す。走査型電子顕微鏡観察の結果から、作製した銅複合材料1では、マトリックスである銅とSWCNT−1とがナノレベルで複合化されている様子が観察された。
また、得られた銅複合材料1の表面元素分析を、X線回析装置(島津製作所製、製品名:XRD−6000)を用いて行った。図3に、結果を示す。X線回析装置を用いた分析では、亜酸化銅由来のピークが全く観察されなかった。この結果から、銅複合材料1は、亜酸化銅を含まないことが確認された。
【0121】
(実施例2−2)
用いる炭素ナノ構造体をSWCNT−2に代えた点、および、炭素ナノ構造体の分散を、解砕効果が得られる分散処理により行った点以外は実施例2−1と同様にして、銅とSWCNT−2とからなる銅複合材料2を得た。ここで、分散処理は、多段降圧器を有する高圧ホモジナイザー(株式会社美粒製、製品名:BERYU SYSTEM PRO)を用いて、100MPaの条件で4回行った。
得られた銅複合材料2を、実施例2−1と同様にして観察および分析したところ、走査型電子顕微鏡を用いた観察の結果から、銅複合材料2では、マトリックスである銅とSWCNT−2とがナノレベルで複合化されている様子が観察された。また、X線回析装置を用いた分析では、亜酸化銅由来のピークが全く観察されず、その結果、銅複合材料2は、亜酸化銅を含まないことが確認された。
【0122】
(実施例2−3)
炭素ナノ構造体として、SWCNT−1に加えて、大径炭素ナノ構造体であるVGCF−H(昭和電工製、平均直径150nm)(微細炭素繊維)を用いた点以外は実施例1と同様にして、銅とSWCNT−1およびVGCF−Hとからなる銅複合材料3を得た。ここで、SWCNT−1およびVGCF−Hの分散液(炭素ナノ構造体分散液)中における濃度は、それぞれ0.5g/Lおよび0.5g/Lとした。
得られた銅複合材料3を、実施例1と同様にして観察および分析した。走査型電子顕微鏡を用いた観察の結果から、銅複合材料3では、マトリックスである銅と、SWCNT−1およびVGCF−Hとがナノレベルで高度なネットワークを形成しながら複合化されている様子が観察された。また、X線回析装置を用いた分析の結果から、銅複合材料3では、亜酸化銅由来のピークが全く観察されず、銅複合材料3は亜酸化銅を含まないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明によれば、液中に炭素ナノ繊維が良好に分散しためっき液を提供することができる。
また、本発明によれば、導電性および熱伝導性に優れる複合材料を提供することができる。
図1
図2
図3