(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
常態における引張強度が400MPa以上780MPa以下であり、220℃で2時間加熱後に常温で測定した引張強度が300MPa以上である請求項1〜3のいずれか一項に記載の表面処理銅箔。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0014】
本発明者らは、鋭意検討の結果、銅箔の微細配線加工性に対して、銅箔中の結晶粒径が0.5μm以上の結晶粒の分布状態の影響が高いことを見出した。一般に、微細配線のエッチング加工においては、結晶粒内よりも結晶粒の粒界で優先的に溶解が進行することが知られている。結晶粒界は面方位の異なる結晶粒の境界にあたり、原子配列の不整合や欠陥が多く存在するためにエネルギー的に活性な状態にあることから、エッチングで溶解し易い。したがって、銅箔中の結晶粒が微細になるほど結晶粒界が増えて、溶解速度が速くなると考えられる。
【0015】
銅箔の微細配線加工性の向上に影響する因子を調査した結果、200℃で2時間加熱された後において0.5μm以上1.0μm未満の結晶粒径の結晶粒が一定の割合にある場合には、エッチング時の縦方向の溶解速度が速まりエッチングファクターが上昇することが分かった。しかし、一方で、このサイズの結晶粒の割合が多すぎると、逆に配線パターン断面のトップ側(以下、パターン上部をトップ、パターン下部をボトムとする。)での横方向の溶解が優先して進行して、エッチングファクターが減少することを見出した。
【0016】
具体的には、200℃で2時間加熱後に電子線後方散乱回折法により断面を解析した場合に、結晶粒径が0.5μm以上の結晶粒のうち、結晶粒径が0.5μm以上1.0μm未満の結晶粒の個数の割合R1が0.51以上0.97以下であるとエッチングファクターが増加する。しかし、割合R1が0.97より大きいと、トップ側のエッチングが優先して進行して微細配線加工性が低下し、割合R1が0.51より小さいと、銅箔の厚さ方向のエッチング速度が遅くなり微細配線加工が低下する。
【0017】
また、結晶粒径が3.0μm以上のサイズとなると、結晶粒の体積に対して粒界の面積が少なく溶け残りし易いために、エッチング速度の低下により配線パターンが裾引きしやすくなる。具体的には、200℃で2時間加熱後に電子線後方散乱回折法により断面を解析した場合に、結晶粒径が0.5μm以上の結晶粒のうち、結晶粒径が3.0μm以上の結晶粒の個数の割合R3が0であるか、又は、0超過0.07以下の範囲においては微細配線加工性が向上するが、割合R3が0.07より大きいと、サイズの大きな結晶粒の溶け残りの影響が増加し微細配線加工性が低下する。
【0018】
詳細は後述するが、上記のような結晶粒の分布は、電解銅箔を製造する際に電解液に付与する電流密度を均一化することにより制御することができる。
さらに、微細配線加工性に寄与する因子を調査する中で、銅箔の粗化粒子の頂上近傍部分における曲率の算術平均(粗化面の頂点曲率算術平均)Sscの影響が強いことを見出した。具体的には、頂点曲率算術平均Sscが0.7μm
-1以上3.8μm
-1以下であるときにエッチングファクターが増加する。頂点曲率算術平均Sscは、様々な山構造の平均サミット曲率であり、下記式で表される。下記式において、z(x,y)はx,y座標における高さ方向の座標であり、Nは粗化粒子の頂点個数である。
【0020】
この範囲に頂点曲率算術平均Sscがある場合には、銅箔の粗化面の粗化粒子の頂点の曲がり具合が適度な状態にあるため、エッチング時に根残り(粗化粒子の先端が溶け残る状態)せずに容易に溶け、銅箔の裾引きが抑制されてエッチングファクターが上昇すると考えられる。
【0021】
頂点曲率算術平均Sscが3.8μm
-1よりも大きい場合は、粗化粒子の頂点の曲がり具合が強いために、樹脂製基板に粗化粒子が深く刺さる状態となってエッチング時に根残りが生じ、銅箔の裾引きが長くなってエッチングファクターが低下する。頂点曲率算術平均Sscが0.7μm
-1よりも小さい場合は、粗化粒子の頂点の曲がり具合が緩いために、樹脂製基板に対する粗化粒子の食い込み具合が悪く(アンカー効果が弱く)、樹脂製基板と銅箔の密着性が低下する。
【0022】
詳細は後述するが、粗化粒子の頂点を溶解させることにより頂点曲率算術平均Sscを低下させることができるので、パルスメッキや、粗化処理の後に銅箔を硫酸銅水溶液に浸漬する方法によって粗化粒子の頂点を溶解させれば、頂点曲率算術平均Sscを制御することができる。
【0023】
すなわち、本発明の一実施形態に係る表面処理銅箔は、粗化処理による粗化面を表面に有する表面処理銅箔であって、箔厚が10μm以下であり、粗化面の頂点曲率算術平均Sscが0.7μm
-1以上3.8μm
-1以下である。そして、200℃で2時間加熱後に電子線後方散乱回折法により断面を解析した場合に、結晶粒径が0.5μm以上の結晶粒のうち、結晶粒径が0.5μm以上1.0μm未満の結晶粒の個数の割合R1が0.51以上0.97以下であり、結晶粒径が1.0μm以上3.0μm未満の結晶粒の個数の割合R2が0.03以上0.42以下であり、結晶粒径が3.0μm以上の結晶粒の個数の割合R3が0.07以下である。すなわち、結晶粒径が3.0μm以上の結晶粒は任意成分であり、割合R3は0であるか、又は、0超過0.07以下である。
【0024】
本発明の一実施形態に係る表面処理銅箔においては、さらに、粗化面の頂点曲率算術平均Sscは1.0μm
-1以上2.5μm
-1以下であることが好ましい。また、200℃で2時間加熱後に電子線後方散乱回折法により断面を解析した場合に、結晶粒径が0.5μm以上の結晶粒のうち、結晶粒径が0.5μm以上1.0μm未満の結晶粒の個数の割合R1は0.59以上0.96以下、結晶粒径が1.0μm以上3.0μm未満の結晶粒の個数の割合R2は0.04以上0.41以下、結晶粒径が3.0μm以上の結晶粒の個数の割合R3は0であることが好ましい。
【0025】
上記の本実施形態に係る表面処理銅箔は、プロセスコストに優れるサブトラクティブ工法でL&Sが例えば30/30μm以下の微細配線を形成することが可能な微細配線加工性を有し、且つ、樹脂製基板との密着性に優れる。よって、本実施形態に係る表面処理銅箔は、銅張積層板やプリント配線板の製造に対して好適に使用することができ、高密度極微細配線を有するプリント配線板を製造することができる。
【0026】
本実施形態に係る表面処理銅箔においては、箔厚は10μm以下である。表面処理銅箔の箔厚が10μmを超えると、銅箔の溶解時間が長くなりエッチングファクターが低下するという不都合が生じるおそれがある。
また、本実施形態に係る表面処理銅箔においては、粗化面のRpm(粗さ曲線の最大山高さの10点平均)は0.5μm以上3.5μm以下としてもよい。粗化面のRpmが0.5μm未満であると、樹脂製基板との密着性が低下するという不都合が生じるおそれがある。一方、粗化面のRpmが3.5μmを超えると、エッチングファクターが低下するという不都合が生じるおそれがある。
【0027】
さらに、本実施形態に係る表面処理銅箔においては、常態における引張強度は400MPa以上780MPa以下、220℃で2時間加熱後に常温で測定した引張強度は300MPa以上としてもよい。
常態における引張強度が400MPa以上780MPa以下であると、表面処理銅箔のハンドリング性とエッチング性が良好である。220℃で2時間加熱後に常温で測定した引張強度が300MPa以上である場合は、エッチング性が良好である。
【0028】
なお、本発明において「結晶粒径」とは、円相当直径を意味する。また、本発明において「常態」とは、表面処理銅箔が熱処理等の熱履歴を受けずに常温(すなわち、およそ25℃)におかれた状態のことを意味する。常態における引張強度は、IPC−TM−650に準拠する方法により常温において測定することができる。また、加熱後の引張強度は、表面処理銅箔を220℃に加熱して2時間保持した後に常温まで自然冷却し、常態における引張強度と同様の方法により常温において測定することができる。
【0029】
以下に、本実施形態に係る表面処理銅箔について、さらに詳細に説明する。まず、表面処理銅箔の製造方法について説明する。
(1)電解銅箔の製造方法について
電解銅箔は、例えば
図1に示すような電解析出装置を用いて製造することができる。
図1の電解析出装置は、白金族元素又はその酸化物を被覆したチタンからなる不溶性アノード104と、不溶性アノード104に対向して設けられたチタン製のカソードドラム102と、カソードドラム102を研磨してカソードドラム102の表面に生じる酸化膜を除去するバフ103と、を備えている。
【0030】
カソードドラム102と不溶性アノード104との間に電解液105(硫酸−硫酸銅水溶液)を供給し、カソードドラム102を一定速度で回転させながら、カソードドラム102と不溶性アノード104との間に直流電流を通電する。これにより、カソードドラム102の表面上に銅が析出する。析出した銅をカソードドラム102の表面から引き剥がし、連続的に巻き取ることにより、電解銅箔101が得られる。
【0031】
本発明者らが鋭意検討した結果、ポンプにより電解液を撹拌する従来の方法に対して、電解液105に強い乱流を生じさせる方法により、カソードドラム102と不溶性アノード104との間の電流密度が一般的な電解製箔よりも均一化され、銅箔の結晶粒の分布を制御できることを見出した。電解液105に強い乱流を生じさせる方法の一例としては、空気等の気体のバブリングが挙げられる。電解析出装置に気体のバブリング装置を設け、流量を調整しつつ電解液105に気体を供給してバブリングさせると、電解液105中で気泡がランダムに動き強い乱流が生じる。
【0032】
具体的には、気体の流量を2L/min以上8L/min以下とすれば、電流密度が均一化され、200℃で2時間加熱後に電子線後方散乱回折法により断面を解析した場合の結晶粒の分布が、前述した本実施形態に係る表面処理銅箔と同様な電解銅箔が得られやすい。気体の流量が2L/min未満であると、局所的に電流密度が低い領域が生じ、粗大な結晶粒が形成されやすいため、エッチングファクターが低下するおそれがある。一方、気体の流量が8L/min超過であると、割合R1が大きくなりサイドエッチが優勢となるために、エッチングファクターが低下するおそれがある。
【0033】
また、別の実施形態として、不溶性アノードの表面に連続する凹凸を形成してもよい。凹凸の近傍においては電解液の流速が遅く、一方で不溶性アノードとカソードの中間では電解液の流速が速くなり、速度差が生じる。この速度差によって強い乱流が発生し、従来の電解製箔よりも電流密度分布が均一化され、銅箔の結晶粒の分布を制御できることを見出した。
【0034】
具体的には、高さが0.5〜1.5mm、幅が10〜70mmの凸部を、アノードの円周方向に沿って60mmの間隔を置いて連続して形成することによって、乱流が発生し、200℃で2時間加熱後に電子線後方散乱回折法によって断面を解析した場合の結晶粒の分布が、前述した本実施形態に係る表面処理銅箔と同様の電解銅箔が得られやすい。
【0035】
電解銅箔の製造においては、電解液105に添加剤を添加してもよい。添加剤の種類は特に限定されるものではないが、エチレンチオ尿素、ポリエチレングリコール、テトラメチルチオ尿素、ポリアクリルアミド等があげられる。ここで、エチレンチオ尿素、テトラメチルチオ尿素の添加量を増加することにより、常態における引張強度、及び、220℃で2時間加熱後に常温で測定した引張強度を向上させることができる。
【0036】
常態における引張強度が400MPa以上780MPa以下であると、表面処理銅箔のハンドリング性とエッチング性が良好である。常態における引張強度が400MPa未満であると、表面処理銅箔が薄箔シート品であるため、搬送時にシワが発生することでハンドリング性が悪くなるおそれがある。一方、常態における引張強度が780MPaよりも大きいと、電解析出装置を用いて銅箔を製造する際に、ドラムに析出した銅箔が箔切れを起こし易く製造に不適となるおそれがある。
【0037】
また、220℃で2時間加熱後に常温で測定した引張強度が300MPa以上である場合は、表面処理銅箔と樹脂製基板を積層して銅張積層板を製造する工程において加熱された後も結晶粒が細かく、エッチング性が良好である。220℃で2時間加熱後に常温で測定した引張強度が300MPa未満であると、表面処理銅箔と樹脂製基板を積層して銅張積層板を製造する工程における加熱によって結晶粒が大きくなりエッチングで溶け難くなるため、エッチング性が低下するおそれがある。
【0038】
なお、電解液105には、モリブデンを添加してもよい。モリブデンを添加することにより、銅箔のエッチング性を高めることができる。通常、電解析出において、電解液105の銅濃度(硫酸銅のうち硫酸分は考慮しない銅のみの濃度)は13〜72g/L、電解液105の硫酸濃度は26〜133g/L、電解液105の液温は18〜67℃、電流密度は3〜67A/dm
2、処理時間は1秒以上1分55秒以下である。
【0039】
(2)電解銅箔の表面処理について
<粗化処理>
樹脂製基板との密着性を向上させる目的で、電解銅箔の表面に粗化処理を施して粗化面とするが、一般的に、密着性の高い粗化処理だとエッチング時に根残りが生じやすく、エッチングファクターが低下しやすいことが知られている。本発明者らが鋭意検討した結果、粗化粒子の頂点をわずかに溶解させることで頂点の曲がり具合の強さが低減し(粗化面の頂点曲率算術平均Sscが低下し)、エッチング時に根残りしにくくなりエッチングファクターが向上することを見出した。
粗化粒子の頂点を溶解させる方法は特に限定されるものではないが、適度な逆電流を用いたパルスメッキにより溶解させる方法や、粗化処理の後に銅箔を硫酸銅水溶液に浸漬し優先的に先端を溶解させる方法があげられる。
【0040】
また、粗化面の頂点曲率算術平均Sscが0.7μm
-1以上3.8μm
-1以下であり、且つ、200℃で2時間加熱後に電子線後方散乱回折法により断面を解析した場合の結晶粒の分布が上記の通り(すなわち、200℃で2時間加熱後に電子線後方散乱回折法により断面を解析した場合に、結晶粒径が0.5μm以上の結晶粒のうち、結晶粒径が0.5μm以上1.0μm未満の結晶粒の個数の割合R1が0.51以上0.97以下であり、結晶粒径が1.0μm以上3.0μm未満の結晶粒の個数の割合R2が0.03以上0.42以下であり、結晶粒径が3.0μm以上の結晶粒の個数の割合R3が0であるか、又は、200℃で2時間加熱後に電子線後方散乱回折法により断面を解析した場合に、結晶粒径が0.5μm以上の結晶粒のうち、結晶粒径が0.5μm以上1.0μm未満の結晶粒の個数の割合R1が0.51以上0.97以下であり、結晶粒径が1.0μm以上3.0μm未満の結晶粒の個数の割合R2が0.03以上0.42以下であり、結晶粒径が3.0μm以上の結晶粒の個数の割合R3が0超過0.07以下である)であると、銅箔のエッチングファクターが特異的に上昇することを見出した。
【0041】
これは、銅箔における縦方向(配線のトップ側からボトム側に向かう方向)の溶解速度と粗化面における溶解速度(横方向、すなわち配線の幅方向)のバランスが良いためにもたらされた効果だと考えられる。例えば、銅箔の溶解速度(縦方向の溶解)よりも粗化面の溶解速度(横方向の溶解)の方が速すぎる場合は、アンダーカット(横方向で粗化面の溶解が銅箔よりも進んだ状態)の問題が生じる。
【0042】
<ニッケル層、亜鉛層、クロメート処理層の形成>
本実施形態に係る表面処理銅箔においては、粗化処理により形成した粗化面の上に、さらにニッケル層、亜鉛層をこの順で形成してもよい。
亜鉛層は、表面処理銅箔と樹脂製基板を熱圧着したときに、表面処理銅箔と樹脂製基板との反応による樹脂製基板の劣化や表面処理銅箔の表面酸化が生じることを防止して、表面処理銅箔と樹脂製基板との密着性を高める働きをする。また、ニッケル層は、表面処理銅箔と樹脂製基板を熱圧着したときに、亜鉛層の亜鉛が表面処理銅箔中へ熱拡散することを防止する。すなわち、ニッケル層は、亜鉛層の上記機能を有効に発揮させるための亜鉛層の下地層としての働きをする。
【0043】
なお、これらのニッケル層や亜鉛層は、公知の電解メッキ法や無電解メッキ法を適用して形成することができる。また、ニッケル層は純ニッケルで形成してもよいし、含リンニッケル合金で形成してもよい。
また、亜鉛層の上にさらにクロメート処理を行うと、表面処理銅箔の表面に酸化防止層が形成されることとなるので好ましい。適用するクロメート処理としては、公知の方法を用いることができ、例えば、特開昭60−86894号公報に開示されている方法をあげることができる。クロム量に換算して0.01〜0.3mg/dm
2程度のクロム酸化物とその水和物などを付着させることにより、表面処理銅箔に優れた酸化防止機能を付与することができる。
【0044】
<シラン処理>
クロメート処理した表面に対し、さらにシランカップリング剤を用いた表面処理(シラン処理)を行ってもよい。シランカップリング剤を用いた表面処理により、表面処理銅箔の表面(樹脂製基板との接合側の表面)に接着剤との親和力の強い官能基が付与されるので、表面処理銅箔と樹脂製基板との密着性は一層向上し、表面処理銅箔の防錆性や吸湿耐熱性もさらに向上する。
【0045】
シランカップリング剤の種類は特に限定されるものではないが、ビニル系シラン、エポキシ系シラン、スチリル系シラン、メタクリロキシ系シラン、アクリロキシ系シラン、アミノ系シラン、ウレイド系シラン、クロロプロピル系シラン、メルカプト系シラン、スルフィド系シラン、イソシアネート系シラン等のシランカップリング剤をあげることができる。これらのシランカップリング剤は、通常は0.001質量%以上5質量%以下の濃度の水溶液にして使用される。この水溶液を表面処理銅箔の表面に塗布した後に加熱乾燥することにより、シラン処理を行うことができる。なお、シランカップリング剤に代えて、チタネート系、ジルコネート系等のカップリング剤を用いても、同様の効果を得ることができる。
【0046】
(3)銅張積層板、プリント配線板の製造方法について
まず、ガラスエポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等からなる電気絶縁性の樹脂製基板の一方又は両方の表面に、表面処理銅箔を重ねて置く。その際には、表面処理銅箔の粗化面を樹脂製基板に対向させる。そして、重ねられた樹脂製基板及び表面処理銅箔を加熱しながら、積層方向の圧力を加えて、樹脂製基板及び表面処理銅箔を接合すると、キャリア付き又はキャリア無しの銅張積層板が得られる。本実施形態に係る表面処理銅箔は、常態及び加熱後の引張強度が高いため、キャリア無しでも十分対応することができる。
【0047】
次に、銅張積層板の銅箔表面に例えばCO
2ガスレーザーを照射して、孔あけを行う。すなわち、銅箔のレーザー吸収層が形成されている面にCO
2ガスレーザーを照射して、表面処理銅箔及び樹脂製基板を貫通する貫通孔を形成する孔あけ加工を行う。そして、常法により表面処理銅箔に高密度配線回路等の回路を形成すれば、プリント配線板を得ることができる。
【0048】
〔実施例〕
以下に実施例及び比較例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
(A)電解銅箔の製造
図1に示す電解析出装置を用い、硫酸−硫酸銅水溶液を電解液として、以下のような操作により電解銅箔を製造した。すなわち、アノードと、アノードに対向して設けられたカソードドラムとの間に電解液を供給し、電解液に空気をバブリングしつつ、カソードドラムを一定速度で回転させながらアノードとカソードドラムとの間に直流電流を通電することにより、カソードドラムの表面上に銅を析出させた。そして、析出した銅をカソードドラムの表面から引き剥がし、連続的に巻き取ることにより、電解銅箔を製造した。
【0049】
電解液中の銅濃度、硫酸濃度、塩素濃度は、表1に示す通りである。実施例1〜14及び比較例1〜5のうちの一部においては、表1に示す通り、電解液に添加剤としてエチレンチオ尿素、ポリエチレングリコール、テトラメチルチオ尿素、及び膠(分子量20000)のうちの2種が添加されており、これらの添加剤の濃度は、表1に示す通りである。また、電解銅箔の製造時の電解液の温度、電流密度、空気のバブリング流量は、表1に示す通りである。さらに、実施例13、14では、高さが1.0mm、幅が60mmの凸部を、アノードの円周方向に沿って60mmの間隔を置いて連続して形成させた。
【0051】
(B)粗化処理
次に、表面を粗化面とする粗化処理を電解銅箔のS面又はM面(表2を参照)に施して、表面処理銅箔を製造した。具体的には、電解銅箔の表面に微細な銅粒子を電析する電気メッキ(パルスメッキ)を粗化処理として施すことにより、銅粒子によって微細な凹凸が形成された粗化面とした。電気メッキに用いるメッキ液は、銅、硫酸、モリブデン、ニッケルを含有しており、銅濃度、硫酸濃度、モリブデン濃度、ニッケル濃度は、表2に示す通りである。
【0052】
また、粗化処理、すなわちパルスメッキの条件(粗化処理を施した面(処理面)、電解条件、メッキ処理時間、メッキ液の温度)を、表2に示す。表2中の電解条件において、Ion1は1段階目のパルス電流密度を表し、Ion2は2段階目のパルス電流密度を表し、ton1は1段階目のパルス電流印加時間を表し、ton2は2段階目のパルス電流印加時間を表し、toffは2段階のパルス電流と1段階目のパルス電流の間の電流を0とする時間を表している。
【0053】
なお、実施例11、12及び比較例1については、パルスメッキではなく、通常の電気メッキを施した。表2中の電解条件においてIは、実施例11、12及び比較例1で施した電気メッキの電流密度である。
さらに、実施例11、12については、得られた表面処理銅箔をさらに硫酸銅浴(硫酸銅水溶液)に浸漬することにより、電解銅箔の表面に形成された微細な凸部の頂点を溶解し丸くして、粗化面の頂点曲率算術平均Sscを調整した。硫酸銅浴の銅濃度、硫酸濃度、浸漬時間は、表2に示す通りである。
【0055】
(C)ニッケル層(下地層)の形成
次に、表面処理銅箔の粗化面に対して下記に示すNiメッキ条件で電解メッキすることにより、ニッケル層(Niの付着量0.06mg/dm
2)を形成した。ニッケルメッキに用いるメッキ液は、硫酸ニッケル、過硫酸アンモニウム((NH
4)
2S
2O
8)、ホウ酸(H
3BO
3)を含有しており、ニッケル濃度は5.0g/L、過硫酸アンモニウム濃度は40.0g/L、ホウ酸濃度は28.5g/Lである。また、メッキ液の温度は28.5℃、pHは3.8であり、電流密度は1.5A/dm
2、メッキ処理時間は1秒間〜2分間である。
【0056】
(D)亜鉛層(耐熱処理層)の形成
さらに、ニッケル層の上に下記に示すZnメッキ条件で電解メッキすることにより、亜鉛層(Znの付着量0.05mg/dm
2)を形成した。亜鉛メッキに用いるメッキ液は、硫酸亜鉛七水和物、水酸化ナトリウムを含有しており、亜鉛濃度は1〜30g/L、水酸化ナトリウム濃度は10〜300g/Lである。また、メッキ液の温度は5〜60℃であり、電流密度は0.1〜10A/dm
2、メッキ処理時間は1秒間〜2分間である。
【0057】
(E)クロメート処理層(防錆処理層)の形成
さらに、亜鉛層の上に下記に示すCrメッキ条件で電解メッキすることにより、クロメート処理層(Crの付着量0.02mg/dm
2)を形成した。クロムメッキに用いるメッキ液は、無水クロム酸(CrO
3)を含有しており、クロム濃度は2.5g/Lである。また、メッキ液の温度は15〜45℃、pHは2.5であり、電流密度は0.5A/dm
2、メッキ処理時間は1秒間〜2分間である。
【0058】
(F)シランカップリング剤層の形成
さらに、下記に示す処理を行い、クロメート処理層の上にシランカップリング剤層を形成した。すなわち、シランカップリング剤水溶液にメタノール又はエタノールを添加し、所定のpHに調整して、処理液を得た。この処理液を表面処理銅箔のクロメート処理層に塗布し、所定の時間保持してから温風で乾燥させることにより、シランカップリング剤層を形成した。
【0059】
(G)評価
上記のようにして、実施例1〜14及び比較例1〜5の表面処理銅箔をそれぞれ製造した。これらの表面処理銅箔の箔厚は、表3に記載の通りである。得られた各表面処理銅箔について、各種評価を行った。
【0060】
〔引張強度〕
上記のようにして得られた実施例1〜14及び比較例1〜5の表面処理銅箔を、幅12.7mm、長さ130mmの短冊状に切り出し、引張試験片とした。IPC−TM−650に準拠する方法により、常態における引張試験片の引張強度を測定した。測定装置としてはインストロン社の1122型引張試験機を用い、測定温度は常温とした。
また、引張試験片を220℃で2時間加熱した後に、常温まで自然冷却した。このような熱履歴を付与した引張試験片について、常態における引張強度と同様にして引張強度を測定した。結果を表3に示す。
【0061】
〔エッチングファクター〕
サブトラクティブ工法により、実施例1〜14及び比較例1〜5の表面処理銅箔上に、L&Sが30/30μmのレジストパターンを形成した。そして、エッチングを行って配線パターンを形成した。レジストとしてはドライレジストフィルムを使用し、エッチング液としては塩化銅と塩酸を含有する混合液を使用した。そして、得られた配線パターンのエッチングファクター(Ef)を測定した。エッチングファクターとは、銅箔の箔厚をH、形成された配線パターンのボトム幅をB、形成された配線パターンのトップ幅をTとするときに、次式で示される値である。
Ef=2H/(B−T)
本実施例及び比較例では、エッチングファクターが2.5以上であるものは良品とし、2.5未満であるものは不良品とした。
【0062】
エッチングファクターが小さいと、配線パターンにおける側壁の垂直性が崩れ、線幅が狭い微細な配線パターンの場合には、隣接する配線パターンの間で銅箔の溶け残りが生じ短絡する危険性や断線に結び付く危険性がある。本試験においては、ジャストエッチ位置(レジストの端部の位置と配線パターンのボトムの位置が揃う)となったときの配線パターンについて、マイクロスコープでボトム幅Bとトップ幅Tを測定し、エッチングファクターを算出した。結果を表3に示す。
【0063】
〔密着性〕
銅箔の粗化面に樹脂製基板を接合し、測定用サンプルを作製した。樹脂製基板としては、市販のポリフェニレンエーテル系樹脂(パナソニック株式会社製の超低伝送損失多層基板材料 MEGTRON6)を用い、接合時の硬化温度は210℃とし、硬化時間は2時間とした。
【0064】
作製した測定用サンプルの銅箔をエッチング加工して幅10mmの回路配線を形成した後に、樹脂製基板側を両面テープによりステンレス板に固定し、回路配線を90度方向に50mm/分の速度で引っ張って剥離し、密着性(kN/m)を測定した。密着性の測定は、万能材料試験機(株式会社エー・アンド・デイ製のテンシロン)を用いて行った。
本実施例及び比較例では、密着性が0.4kN/m以上である場合を良品とし、0.4kN/m未満である場合を不良品とした。
【0065】
〔ハンドリング性:シワ不良数〕
実施例1〜14及び比較例1〜5の表面処理銅箔を、一辺200mmの正方形状に切り出し、基板FR4に加圧接合して、銅張積層板を作製した。接合の条件は、温度170℃、圧力1.5MPa、加圧時間1時間である。各表面処理銅箔についてそれぞれ30枚の銅張積層板を作製して、銅箔のシワを目視で確認し、銅箔にシワが生じていた銅張積層板の数(シワ不良数)をカウントした。このシワ不良数により、表面処理銅箔のハンドリング性を評価した。シワ不良数が3枚以下であった場合は合格、4枚以上であった場合は不合格とした。結果を表3に示す。
【0066】
〔頂点曲率算術平均Ssc、Rpm〕
BRUKER社の3次元白色光干渉型顕微鏡Wyko ContourGT−Kを用いて、実施例1〜14及び比較例1〜5の表面処理銅箔の粗化面の表面形状を測定し、形状解析を行って、頂点曲率算術平均Ssc及びRpmを求めた。形状解析は、ハイレゾCCDカメラを使用してVSI測定方式で行った。条件は、光源が白色光、測定倍率が10倍、測定範囲が477μm×357.8μm、Lateral Samplingが0.38μm、speedが1、Backscanが10μm、Lengthが10μm、Thresholdが3%とし、Terms Removal(Cylinder and Tilt)、Data Restore(Method:legacy、iterations 5)、Statistic Filter(Filter Size:3、Filter Type:Median)のフィルタ処理をした後にデータ処理を行なった。結果を表3に示す。
【0067】
〔結晶粒の分布〕
株式会社TSLソリューションズのEBSD(Electron Back Scatter Diffraction)カメラHikari/DC5.2/A5.2及び日本電子株式会社(JEOL)の走査電子顕微鏡JSM−7001FAを用い、倍率5000倍、ビームステップ0.05の条件で、表面処理銅箔の粗化面の結晶粒を測定した。EBSDによる結晶粒の測定では、方位差15°以上の結晶粒界とし、結晶粒界で囲まれた領域を結晶粒とした。
【0068】
その際には、表面処理銅箔の切断面をCP(クロスセクションポリッシャー)研磨し、その研磨面のうち、
図2に示す範囲の部分についてEBSDの測定を行った。すなわち、表面処理銅箔の箔厚をtとした場合、
図2のように、粗化面の反対側の面に接する縦(厚さ方向の長さ)0.8t、横(厚さ方向に直交する方向の長さ)1.6tの矩形の範囲についてEBSDの測定を行った。例えば、箔厚tが10μmである場合は、縦8.0μm、横16.0μmの矩形の範囲、箔厚tが6μmである場合は、縦4.8μm、横9.6μmの矩形の範囲、箔厚tが4μmである場合は、縦3.2μm、横6.4μmの矩形の範囲となる。
EBSD(電子線後方散乱回折法)のGRAIN SIZEのデータを基に、前述した結晶粒の割合R1、R2、R3を算出した。結果を表3に示す。
【0070】
比較例1は、既知の製箔条件(特許第4583149号公報の実施例2)で製造した銅箔であるが、結晶粒の個数の割合R3が大きいため、エッチングファクター(Ef)が小さく、L&Sを細くすることができなかった。
比較例2は、実施例3と比較してバブリング流量が小さいため、結晶粒の個数の割合R2、R3が大きくなり、L&Sを細くすることができなかった。
【0071】
比較例3は、バブリング流量が大きすぎるため、結晶粒の個数の割合R1が大きくなり、L&Sを細くすることができなかった。
比較例4は、実施例1と比較して、粗化処理のパルス電流で逆電流をかけておらず粗化粒子の溶解がないため、エッチングファクターが低下した。
比較例5は、粗化処理の電流が大きいため、粗化粒子が粗大になることでエッチング時に根残りし易くなり、エッチングファクターが低下した。
プロセスコストに優れるサブトラクティブ工法でL&Sが例えば30/30μm以下の微細配線を形成することが可能な微細配線加工性を有し、且つ、樹脂製基板との密着性に優れる表面処理銅箔を提供する。粗化処理による粗化面を表面に有する表面処理銅箔であって、箔厚が10μm以下であり、粗化面の頂点曲率算術平均Sscが0.7μm
以下である。そして、200℃で2時間加熱後に電子線後方散乱回折法により断面を解析した場合に、結晶粒径が0.5μm以上の結晶粒のうち、結晶粒径が0.5μm以上1.0μm未満の結晶粒の個数の割合R1が0.51以上0.97以下であり、結晶粒径が1.0μm以上3.0μm未満の結晶粒の個数の割合R2が0.03以上0.42以下であり、結晶粒径が3.0μm以上の結晶粒の個数の割合R3が0.07以下である。