(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606514
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】金属粒子及び導電性材料の粒子を用いた導電性接合材料並びに導電性接合構造
(51)【国際特許分類】
B22F 9/00 20060101AFI20191031BHJP
B22F 1/00 20060101ALI20191031BHJP
B22F 7/08 20060101ALI20191031BHJP
B23K 20/00 20060101ALI20191031BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20191031BHJP
【FI】
B22F9/00 B
B22F1/00 K
B22F1/00 L
B22F1/00 M
B22F7/08 C
B23K20/00 310M
B82Y30/00
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-572065(P2016-572065)
(86)(22)【出願日】2016年1月26日
(86)【国際出願番号】JP2016052203
(87)【国際公開番号】WO2016121764
(87)【国際公開日】20160804
【審査請求日】2017年7月24日
(31)【優先権主張番号】特願2015-12399(P2015-12399)
(32)【優先日】2015年1月26日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】石川 信二
(72)【発明者】
【氏名】萩原 快朗
(72)【発明者】
【氏名】松原 典恵
(72)【発明者】
【氏名】宇野 智裕
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆之
【審査官】
川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−041683(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/125604(WO,A1)
【文献】
特開2015−012187(JP,A)
【文献】
特開2001−358286(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 1/02
B23K 20/00
B82Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子、導電性材料のミクロン粒子、及び溶媒を含む接合材料であって、前記ミクロン粒子を構成する導電性材料の線熱膨張係数が、前記ナノ粒子を構成する金属の線熱膨張係数よりも5×10−6/K以上小さく、かつ、導電性材料のミクロン粒子の平均粒子径が0.5〜10μmであり、前記導電性接合材料中に含まれる金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子の合計に対する10〜80体積%が前記導電性材料のミクロン粒子であること、および
前記導電性材料のミクロン粒子が、W、Mo、Cr、TiB2、及びZrB2のいずれか1種又は2種以上であること、
を特徴とする導電性接合材料。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子が、Ag、Au、Cu、Niのいずれか1種であることを特徴とする請求項1に記載の導電性接合材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性接合材料を、第1被接合体と第2被接合体との間に配し、450℃以下に加熱して、前記第1被接合体と前記第2被接合体とを接合することを特徴とする導電性接合材料による接合方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の導電性接合材料で第1被接合体と第2被接合体とを接合する導電性接合構造であって、前記接合方向断面における前記ミクロン粒子由来の導電性材料と前記金属ナノ粒子由来の金属の合計に対する2〜90質量%が前記導電性材料であることを特徴とする導電性接合構造。
【請求項5】
前記金属と前記導電性材料との線熱膨張係数差が5×10−6/K以上であることを特徴とする請求項4に記載の導電性接合構造。
【請求項6】
前記金属が、Ag、Au、Cu、及びNiのいずれか1種であることを特徴とする請求項4又は5に記載の導電性接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子及び導電性材料の粒子を用いた導電性接合材料並びに導電性接合構造であり、特に、接合部に熱応力が負荷されても高い接合能力を保持する導電性接合材料並びに導電性接合構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属粒子であって、平均粒径が1μm未満、特に1〜100nmである金属粒子は金属ナノ粒子と呼ばれている。金属ナノ粒子は、微細な粒子径からもたらされる高い結合性を有し、この金属ナノ粒子を構成する金属の融点よりもはるかに低い温度で粒子間の結合が生じることが確認されている。また、得られる結合体の構造的強度は、その金属の融点付近まで保たれることが期待される。金属ナノ粒子を構成する金属としては、Agが代表であり、その他にAu、Cu、Ni等が挙げられる(例えば、特許文献1)。
【0003】
金属ナノ粒子は、一般に、有機物質からなる有機殻で金属ナノ粒子を被覆した構造を有する有機−金属複合ナノ粒子として用いられる。室温下においては、有機殻が金属ナノ粒子の自己凝集を防止し、金属ナノ粒子は独立分散した形態を維持している。また、この金属ナノ粒子は、有機−金属複合ナノ粒子として被接合体表面に供給され、所定の温度に加熱されて焼成されると、その有機殻が分解・除去され、金属ナノ粒子の活性な表面が露出して低温焼結機能が発現し、金属ナノ粒子同士が互いに接合すると同時に被接合体の表面とも接合する(非特許文献1)。
【0004】
ところで、パワー半導体等の技術分野においては、半導体デバイス等を絶縁回路基板に接合し、更にベースプレートや端子等を加えたパワー半導体モジュールが様々な電子機器等で使用されており、この半導体デバイスと絶縁回路基板との間の接合に用いられる一体化技術としては、従来、主としてはんだ接合技術が用いられていた。
【0005】
一方で、近年のパワー半導体分野での技術進展に伴い、デバイスをより高温(例えば、300℃程度)で使用可能にすることによって省エネパワーデバイスの実現化が期待されるようになり、これに伴ってパワー半導体モジュールの接合部についてもより高温での耐熱性が求められている。しかしながら、従来のはんだ接合技術では、高温における接合強度を確保できないという問題がある。
【0006】
そこで、従来においても、このようなはんだ接合技術における問題を解決するために、金属ナノ粒子の高い結合性を活用し、半導体デバイス等の接合材料として利用する技術が提案されている。しかしながら、パワー半導体等の技術分野においては、接合層を介して2つの被接合体が互いに接合された接合構造において、この接合構造が昇温する際や降温する際に、あるいは、接合構造を構成する2つの被接合体が異なった温度に加熱される際に、接合層に熱応力が負荷され、半導体デバイスの接合界面近傍でき裂等の欠陥が発生し、接合強度が低下する場合がある。
【0007】
すなわち、従来の金属ナノ粒子を用いた接合構造の場合、
図1に示すように、第1被接合体1の被接合面(第1被接合面)1aと第2被接合体2の被接合面(第2被接合面)2aとの間に金属ナノ粒子を焼結させて得られた金属焼結体からなる接合層3が形成されている。ところが、このような接合構造を構成する第1被接合体1と第2被接合体2とが異なる線熱膨張係数を有する材料で形成されている場合や、これら第1被接合体1と第2被接合体2とが異なる温度に加熱されたような場合には、半導体デバイスの動作のオン・オフ等により接合構造を有する部品が昇温し、あるいは、降温すると、これら2つの第1被接合体1と第2被接合体2との間に不可避的に熱膨張量の差が発生し、これらの間を接合する接合層3には熱変形に起因する熱応力が発生する。
【0008】
例えば、
図1に示す接合構造において、第1被接合体1がSi半導体デバイスであって第2被接合体2がCu回路層の場合には、特にAg、Au、Cu、Ni等の金属ナノ粒子を焼結させて得られた接合層3と第1被接合体1のSi半導体デバイスとの間の熱膨張差が、第2被接合体2のCu回路層と接合層3との間の熱膨張差に比べて大きく、熱変形に伴う熱応力を緩和しきれず、第1被接合体1のSi半導体デバイスの接合界面(第1被接合面1a)近傍でき裂等の欠陥が発生し、接合強度が低下することがあった。また、
図1に示すような第1被接合体1がSi半導体デバイスであって第2被接合体2がCu回路層からなる接合構造を作製する際にも、金属ナノ粒子を350℃程度の熱処理で焼結させた際に、第1被接合体1のSi半導体デバイスと第2被接合体2のCu回路層はそれぞれ350℃に対応する熱膨張量だけ長さが伸長した状態にあり、この状態で焼結が進行し、接合層3が形成され、その後に常温まで降温すると、第1被接合体1と第2被接合体2の熱収縮量の差に起因して、形成された接合層3内で熱変形に起因する熱応力が生じる。一般に焼成温度は半導体デバイスの動作のオン・オフによる昇温よりも高いため、接合構造作製時の1回の熱応力でも接合層3にき裂が生じ、金属ナノ粒子を用いた接合層3のせん断強度が不十分な値となる場合があった。
【0009】
更に、2つの被接合体が互いに異なる温度に加熱された場合にも、接合層に熱応力が発生する。接合材料としてはんだを用いた場合には、通常はんだが高い延性を有していることから、この接合層におけるはんだの延性によりその両側の被接合体の熱膨張量の差を吸収し、熱応力を緩和することができるが、接合材料として金属ナノ粒子を用いた場合には、金属ナノ粒子の金属焼結体からなる接合層の延性がはんだに比較して低いため、2つの被接合体の熱膨張量の差を吸収しきれず、熱変形に伴う熱応力を緩和できず、接合層に欠陥が発生して接合強度が低下することがある。
【0010】
そして、従来においても、このような半導体デバイス等の接合材料として金属ナノ粒子を利用する技術において、種々の問題を解決しようとする試みも行われている。例えば、特許文献2においては、金属ナノ粒子を用いて形成された接合層で発生する熱応力を、この接合層の厚さを厚くすることにより解消することが提案されており、実施例においては接合層の厚さを100μm以上としている。しかしながら、接合層の厚さを厚くすると、金属ナノ粒子としてAg、Au、Cu、又はNiのナノ粒子を用いた場合には、これを焼結させて形成された接合層そのものの熱膨張が大きくなり過ぎるという別の問題が発生する。
【0011】
すなわち、パワー半導体モジュールの最も一般的な構成において、半導体デバイスはSi(線熱膨張係数=約3×10
−6/K)あるいはSiC(線熱膨張係数=約5×10
−6/K)であり、また、絶縁回路基板の回路層はCu(線熱膨張係数=約17×10
−6/K)である。そして、これらの間をAg(線熱膨張係数=約19×10
−6/K)、Au(線熱膨張係数=約14×10
−6/K)、Cu(前記のとおり)、Ni(線熱膨張係数=約13×10−6/K)等の金属から成るナノ粒子材料で接合する場合、Cu回路層と金属ナノ粒子材料との間には線熱膨張係数にあまり大きな差はないが、半導体デバイスと金属ナノ粒子材料との間には線熱膨張係数に大きな差がある。このため、金属ナノ粒子の金属焼結体からなる接合層により半導体デバイスと絶縁回路基板とが強固に接合されると、特に接合層と半導体デバイスとの接合界面で、熱膨張量の差による大きな熱応力が発生し、接合界面の剥離や半導体デバイスの破壊に至る虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013-012,693号公報
【特許文献2】特開2011-041,955号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】「金属ナノ粒子を用いた接合技術」表面技術 Vol.59, No.7, 2008,pp443〜447
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、金属ナノ粒子を用いた接合層によって2つの被接合体間を接合するに際し、これら2つの被接合体の間に線熱膨張係数の違いに基づく熱膨張量の差が存在し、しかも、高温(例えば、300℃程度)での使用が求められるような場合であっても、前記接合層の熱膨張量を2つの被接合体の間の好適な値に調整してこの接合層に生じる熱応力を緩和することができ、これら2つの被接合体の間の接合強度を十分に保持することが可能な金属接合材料及び金属接合構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
即ち、本発明の要旨とするところは以下の通りである。
(1) 金属ナノ粒子、導電性材料のミクロン粒子、及び溶媒を含む接合材料であって、前記ミクロン粒子を構成する導電性材料の熱膨張係数が、前記ナノ粒子を構成する金属の線熱膨張係数よりも小さく、かつ、導電性材料のミクロン粒子の平均粒子径が0.5〜10μmであることを特徴とする導電性接合材料。
(2) 前記ナノ粒子を構成する金属とミクロン粒子を構成する導電性材料との線熱膨張係数差が5×10
−6/K以上であることを特徴とする前記(1)に記載の導電性接合材料。
(3) 前記金属ナノ粒子が、Ag、Au、Cu、Niのいずれか1種であることを特徴とする前記(1)又は(2) に記載の金属接合材料。
(4) 前記導電性材料のミクロン粒子が、金属あるいは金属ホウ化物のいずれか1種あるいは2種以上であることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の導電性接合材料。
(5) 前記導電性材料のミクロン粒子が、W、Mo、Cr、TiB
2、ZrB
2のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)〜前記(4)に記載の導電性接合材料。
(6) 前記導電性接合材料中に含まれる金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子の合計に対する10〜80体積%が前記導電性材料のミクロン粒子であることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の導電性接合材料。
(7) 前記(1)〜(6)のいずれかに記載の導電性接合材料を、第1被接合体と第2被接合体との間に配し、450℃以下に加熱して、前記第1被接合体と前記第2被接合体とを接合することを特徴とする導電性接合材料による接合方法。
(8) 前記(1)〜(6)のいずれかに記載の導電性接合材料で第1被接合体と第2被接合体とを接合する導電性接合構造であって、前記接合方向断面における前記ミクロン粒子由来の導電性材料と前記金属ナノ粒子由来の金属の合計に対する2〜90質量%が前記導電性材料であることを特徴とする導電性接合構造。
(9) 前記金属と前記導電性材料との線熱膨張係数差が5×10
−6/K以上であることを特徴とする前記(8)に記載の導電性接合構造。
(10) 前記金属が、Ag、Au、Cu、及びNiのいずれか1種であることを特徴とする前記(8)又は前記(9)に記載の導電性接合構造。
(11) 前記導電性材料が、W、Mo、Cr、TiB
2、及びZrB
2のいずれか1種又は2種以上であることを特徴とする前記(8)〜前記(11)に記載の導電性接合構造。
【発明の効果】
【0016】
本発明の導電性接合構造によれば、第1被接合体と第2被接合体との間に形成された接合層が、金属ナノ粒子由来の金属分と、この金属の線熱膨張係数よりも小さい線熱膨張係数の導電性材料からなるミクロン粒子由来の導電性材料分とを含む導電性焼結体で形成されており、加熱温度が450℃以下の低温であっても金属ナノ粒子由来の金属焼結体により十分な接合強度が得られると共に、導電性ミクロン粒子由来の導電性焼結体により接合層の熱膨張特性を第1被接合体と第2被接合体の熱膨張特性の間の好適な状態に調整可能であり、当該導電性接合構造が所定の温度に加熱された際に、第1被接合体と接合層との間及び接合層と第2被接合体との間に発生する熱膨張量の差を可及的に小さくすることができ、結果として熱履歴による接合強度の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、従来の金属接合構造の一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の金属接合構造の一例を示す断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の金属接合構造の他の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、第1被接合体と第2被接合体との間に、導電性材料のミクロン粒子を含有し、金属ナノ粒子を焼結させて形成された導電性焼結体からなる接合層を有する導電性接合構造であって、前記ミクロン粒子を構成する導電性材料が前記ナノ粒子を構成する金属の線熱膨張係数よりも小さい線熱膨張係数の導電性材料からなり、かつ、平均粒子径が0.5〜10μmであることにその特徴を有するものである。
【0019】
本発明において、金属ナノ粒子とは、平均粒径が1μm未満、好ましくは500nm以下、好ましくは5nm以上、より好ましくは100nm以下の金属微粒子をいう。このような金属微粒子が焼結した金属焼結体を接合構造の接合層として用いることにより、金属ナノ粒子を構成する金属(バルク金属)の融点よりもはるかに低い温度で金属微粒子間が焼結し、第1被接合体と第2被接合体との間を接合させることができ、得られた接合構造における接合強度をその金属の融点付近まで保つことができる。この金属ナノ粒子は、その平均粒径が500nm以下であると、粒子の流動性が増す点で好ましく、100nm以下であると低温での焼結性が増すので更に好ましく、反対に、5nmよりも小さくなると、金属ナノ粒子の表面の酸化物、有機殻の割合が大きくなり、焼結性が悪くなって接合性が低下する虞が生じる。なお、金属ナノ粒子の平均粒径については、次の方法で測定することが可能である。
〔金属ナノ粒子の粒径の測定方法〕
粒子をエタノールや水等の溶媒中に高分散させたスラリーを観察試料台に塗布し、真空乾燥等の方法によって十分に乾かし、高分解能SEM(Scanning Electron Microscope)あるいはTEM(Transmission Electron Microscope)観察用サンプルを調製する。このようにして調製された観察用サンプルについて、粒子の直径×約10倍の視野範囲(例えば、視野角1270nm×950nmのSEM画像)で観察し、SEM画像あるいはTEM画像を取得する。取得した画像を紙に印刷し、画像中のスケールバーの長さとそれぞれの粒子の直径を定規で測定する。スケールバーより粒径を実際の大きさに換算し、算術平均により粒子の平均粒径を算出する。
【0020】
本発明で用いる金属ナノ粒子の元素としては、接合層によって互いに接合される2つの被接合体の材質に応じて適宜選択し得るものであるが、パワー半導体モジュールの作製に際しては、Ag、Au、Cu、Niのいずれか一種が好適である。これらは、半導体デバイスの接合層には必須の良好な電気伝導性及び熱伝導性の他、半導体デバイスの裏面の電極構造との相関からよく用いられるものである。従って、半導体デバイスの裏面の電極構造によっては、これら以外の元素であっても用いることができる。また、Ag、Au、Cu、Niの金属ナノ粒子は、当該元素以外に合金成分を含有していてもよい。
【0021】
本発明においては、
図2に示すように、第1被接合体1の被接合面(第1被接合面)1aと第2被接合体2の被接合面(第2被接合面)2aとの間に、導電性材料のミクロン粒子5を含み、金属ナノ粒子を焼結させて得られた金属ナノ粒子相4からなる接合層3を形成し、前記ミクロン粒子5を構成する導電性材料を前記ナノ粒子を構成する金属よりも線熱膨張係数の小さい材料にすることにより、上記問題を解決することに成功したものである。
第1被接合体1と第2被接合体2の熱膨張量に差が生じた場合、接合層3の熱膨張量を金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子5の合計に対する前記導電性ミクロン粒子5の体積分の比率で調整することができ、第1被接合体1と第2被接合体2との間の熱膨張量の差を緩和することができ、これによってこれら第1被接合体1と第2被接合体2との間の接合強度の低下を未然に防止することができる。
また、接合層3の熱膨張量を第1被接合体1と第2被接合体2の熱膨張量の間の適切な値に調整できるので、金属ナノ粒子の金属焼結体からなる延性の低い接合層3の熱変形の程度であっても、第1被接合体1と第2被接合体2との間の熱膨張量の差を緩和することができ、第1接合層と第2接合層の初期接合強度の低下を防止することができる。
【0022】
本発明において、導電性材料のミクロン粒子とは、平均粒径が0.5μm以上10μm以下、好ましくは1μm以上3μm以下の導電性粒子をいう。このような導電性材料のミクロン粒子を金属ナノ粒子焼結体からなる接合構造の接合層中に分散させることにより、金属ナノ粒子のみを焼結させて得られた接合層に比べ熱膨張・収縮を低減させることができ、接合構造の接合強度を十分信頼性が得られる強度に保つことができる。導電性材料のミクロン粒子の平均粒径が10μmを超えると粒子の流動性が劣化するという問題があり、また、3μm以下とすると緻密化し焼結性が増すので更に好ましい。一方、導電性材料のミクロン粒子の平均粒径が0.5μmより小さくなると熱膨張・収縮の低減効果が小さくなり、また、熱伝導特性や電気伝導特性が低下する虞がある。また、本発明で用いる導電性材料のミクロン粒子は、熱伝導や電気伝導の均一性を確保するため、さらに、粒子の充填率を向上させるために制御しやすいため、その粒径分布が狭い方がよい。具体的には、粒度分布は、下記の〔導電性ミクロン粒子の粒径の測定方法〕の方法で測定した全ての粒径から算出する標準偏差が「5μm以下」であるのが好ましい。そして、この導電性ミクロン粒子の平均粒径については、SEMあるいはTEMにより金属ミクロン粒子を直接観察し、求めることができる。また、導電性ミクロン粒子の形状については、球状以外にも、角型、扁平、楕円状等の形状でもよい。これらの場合、最も長い辺を粒径と定義する。
〔導電性ミクロン粒子の粒径の測定方法〕
導電性ミクロン粒子をエタノールや水等の溶媒中に高分散させたスラリーを観察試料台に塗布し、真空乾燥等の方法によって十分に乾かし、SEMあるいはTEM観察用サンプルを調製する。このようにして調製された観察用サンプルについて、粒子の直径×約10倍の視野範囲(例えば、視野角16.5μm×12.4μmのSEM画像)で観察し、SEM画像あるいはTEM画像を取得する。取得した画像を紙に印刷し、画像中のスケールバーの長さとそれぞれの粒子の直径を定規で測定する。スケールバーより粒径を実際の大きさに換算し、算術平均により粒子の平均粒径を算出する。
【0023】
本発明に用いる導電性材料のミクロン粒子のを構成する導電性材料としては、金属ナノ粒子の種類や接合層によって互いに接合される2つの被接合体の材質等に応じて、ナノ粒子を構成する金属の線熱膨張係数よりも小さい線熱膨張係数を有する導電性材料から適宜選択し得るものであるが、接合層に発生する熱応力を効果的に緩和するために、好ましくはナノ粒子を構成する金属の線熱膨張係数との差が5×10
−6/K以上、より好ましくは8×10
−6/K以上の金属であるのがよい。例えば、パワー半導体モジュールの作製に際しては、W(線熱膨張係数=約4.5×10
−6/K、電気抵抗(20℃)=約5.5×10
−8Ω・m)、Mo(線熱膨張係数=約4.8×10
−6/K、電気抵抗(20℃)=約5.7×10
−8Ω・m)、Cr(線熱膨張係数=約4.9×10
−6/K、電気抵抗(20℃)=約13×10
−8Ω・m)といった金属や、TiB
2(線熱膨張係数=約(6.2〜7.2)×10
−6/K、電気抵抗(20℃)=約9×10
−8Ω・m)、及び、ZrB
2(線熱膨張係数=約(6.8〜7.9)×10
−6/K、電気抵抗(20℃)=約10×10
−8Ω・m)といった金属性ホウ化物から選ばれたいずれか1種又は2種以上であることが好適である。これらは、室温から焼成温度である450℃までの温度範囲で前記金属より線熱膨張係数が小さい材料である。また、これらの導電性材料のミクロン粒子は、それぞれの線熱膨張係数と平均粒径、配合割合を勘案して制御したい接合層の熱膨張量になるよう適宜組み合わせて用いてもよいし、単独で用いてもよい。なお、これら以外の元素であってもナノ粒子を構成する金属に比べ線熱膨張係数が小さい材料からなる粒子であれば熱膨張・収縮の低減効果が期待できる。また、導電性材料のミクロン粒子を構成するW、Mo、Crとは、粒子中の各元素の含有量(純度)が99.5質量%以上のものを意味し、0.5質量%未満であれば不特定の不可避的不純物等が存在してもよい。また、導電性材料のミクロン粒子を構成するTiB
2、ZrB
2とは、粒子中の各金属ホウ化物の含有量が95質量%以上のものを意味し、5質量%未満であれば不特定の不可避的不純物や他元素等が存在してもよい。
【0024】
本発明において、例えば、接合層の熱膨張・収縮性を低減し半導体デバイスのそれ(熱膨張・収縮性)に近づけるためには、金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子を含む本発明の導電性接合材料中に含まれる金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子の合計体積分における導電性材料のミクロン粒子の体積割合を高くすればよい。また、前記導電性接合材料を焼結させて得られ、接合層となる導電性焼結体中の金属ナノ粒子由来の金属分に対する導電性材料のミクロン粒子由来の導電性材料の体積分の配合割合、言い換えれば接合層を構成する金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子の合計体積分における導電性材料のミクロン粒子の体積割合を高くすればよい。ここで、焼成によって金属ナノ粒子と金属ナノ粒子との間あるいは金属ナノ粒子と導電性ミクロン粒子との間では結合、特に金属結合が生じて優れた接合強度を発現するが、導電性材料のミクロン粒子と導電性材料のミクロン粒子との間では一般に金属ナノ粒子の焼成温度に用いられる450℃以下では結合が生じない。それ故、導電性接合材料中に含まれる金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子の合計体積分における導電性材料のミクロン粒子の割合は十分な接合強度と信頼性を得るために80体積%以下である必要があり、反対に、導電性接合材料中の導電性材料のミクロン粒子の割合が10体積%未満であると接合層の熱膨張・収縮が十分に低減されない虞がある。従って、導電性接合材料中に含まれる導電性材料のミクロン粒子のミクロン粒子については、導電性接合材料中に含まれる金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子の合計体積分に対して、通常10体積%以上80体積%以下、好ましくは30体積%以上、好ましくは70体積%以下のとき、高温環境で使用される材料、高温と低温との間の温度サイクルを繰り返す環境で使用される材料であっても、好適な接合強度を維持することが可能となる。なお、この導電性接合材料中の前記ミクロン粒子の体積%については、次の方法で求めることができる。
〔導電性接合材料中に含まれる金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子の合計に対する導電性材料のミクロン粒子の体積%の測定方法〕
ナノ粒子を構成する金属の密度ρn、ミクロン粒子を構成する導電性材料の密度ρm、および、溶媒の密度ρyは既知である。ここで、ナノ粒子を被覆する有機殻は微量であるため無視する。導電性材料中に含まれるナノ粒子の合計質量Mn、ミクロン粒子の合計質量Mm、溶媒の質量Myとすると、ナノ粒子の体積Vn=質量Mn÷密度ρn、マイクロ粒子の体積Vm=質量Mm÷密度ρm、溶媒の体積Vy=質量My÷密度ρyで計算される。金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子の合計体積はVn+Vmであり、この合計体積に対する導電性材料のミクロン粒子の割合はVm÷(Vn+Vm)で定義される。
また、接合層(接合構造)を構成する金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子の合計体積分における導電性材料のミクロン粒子の体積割合は直接測定することができないため、代替として、接合方向の断面を出し、その断面における導電性材料と金属材料の合計に対する導電性材料の質量%を測定する。
〔接合方向断面における導電性材料と金属材料の合計に対する導電性材料の質量%の測定方法〕
先ず、導電性接合構造体を硬化性エポキシ樹脂等の樹脂中に埋め込み、樹脂を硬化させた後、第1被接合体から接合層を介して第2被接合体に至る積層方向に垂直に切断した試料片の切断面を研磨して、必要に応じてCP(Cross Section Polisher)加工を行い、切断面観察用のSEM観察試料片を作製する。
次に、作製された観察試料片をSEM観察試料台にセットし、その切断面を5000倍で観察し、その切断面画像を取得するとともに、SEM装置付随のEDX(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)により元素定量分析を行う。定量分析により得られる金属元素Aの質量%をM
a、および、導電性材料の金属元素B(例えば、TiB
2の場合、Tiを指す)の質量%をM
b、導電性材料の金属以外の元素C(例えば、TiB
2の場合、Bを指す)の質量%をM
cとすると、導電性材料と金属材料の合計に対する導電性材料の質量%は、(M
b+M
c)/(M
a+M
b+M
c)で定義される。これらの動作を3〜10個の切断面において実施し、算術平均により前記質量%を求める。
【0025】
本発明において、接合層は特に金属同士の結合によって全体の接合力を形成しているので、接合層中に金属以外の成分を含有させることは必須ではない。後述するように、本発明の接合層を形成するに際しては、例えば本発明の導電性接合材料である導電性粒子ペーストを第1被接合体及び/又は第2被接合体の被接合面に塗布して重ね合わせ、その後200℃以上で焼成して金属ナノ粒子を焼結させて接合を実現する。この導電性粒子ペーストは、エーテル系等の溶媒中に金属ナノ粒子と導電性材料のミクロン粒子を分散させたものであり、一般に、金属ナノ粒子は有機物質からなる有機殻によって被覆されている。従って、焼成前の接合層には導電性粒子ペースト中の溶媒成分及び有機殻の成分が含まれており、200℃以上で焼成された際にこれら溶媒成分と有機殻の成分が分解し、一部は揮発して接合層から離脱し、残部は炭化して接合層中に残存するが、これら炭化して残存した成分は、接合層の接合力には寄与しない。そこで、仮に接合層中に金属分以外の成分が含有される場合、接合層中に含まれる金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子に由来する合計体積分が、接合層の50体積%(空洞又はボイドがある場合にはこれらの部分を除く)以上、好ましくは70体積%以上であるのがよく、これによって本発明の効果を十分に発揮することができる。なお、本発明の接合層の厚みは焼成後の導電性焼結体において、好ましくは10μm以上、好ましくは300μm以下、より好ましくは20μm以上、より好ましくは150μm以下である。
【0026】
本発明の導電性接合構造は、例えばパワー半導体モジュールを構成する場合、第1被接合体として半導体デバイスを配置し、また、第2被接合体として金属基板、樹脂基板、又はセラミックス基板を配置し、これら第1被接合体及び/又は第2被接合体の各被接合面に本発明の導電性接合材料を塗布して重ね合わせ、これら第1被接合体及び/又は第2被接合体と導電性接合材料とを一体に加熱して導電性接合材料を焼成し、焼結させて接合層とすることによって得ることができる。第2被接合体の金属基板としては、アルミニウム基板、鉄基板、銅ベース基板、ステンレス基板等が挙げられ、第2被接合体の樹脂基板としては、エポキシ樹脂基板、フェノール樹脂基板等が挙げられ、第2被接合体のセラミックス基板としてはアルミナ基板、炭化ケイ素基板、窒化物系基板等が挙げられる。セラミックス基板には、銅やアルミニウム配線からなる回路が形成されていてもよい。
【0027】
なお、例えば第2被接合体がCuで、金属ナノ粒子がAuあるいはNiの場合、線熱膨張係数はCuよりもAuあるいはNiの方が小さいので、導電性材料のミクロン粒子を配合することにより接合層の熱膨張・収縮を低減すると、第2被接合面と接合層の間の熱膨張差が逆に大きくなる。そのため、例えば
図3に示すように、第2被接合体2の被接合面(第2被接合面)2aに金属ナノ粒子のみを含む接合材料を塗布し、焼結させて金属焼結体からなる接合層3aを形成し、この接合層3a及び/又は第1被接合体1の被接合面(第1被接合面)1aに金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子を含む本発明の導電性接合材料を塗布し、重ね合わせて焼成し、導電性焼結体からなる本発明の接合層3を形成することにより、これら第1被接合体1と第2接合体2とを接合層3a及び接合層3で接合してもよく、これによって、
図3に示すように、接合層3の第1被接合体1側の熱膨張を主に低減することもできる。
【0028】
本発明において、第1被接合体と第2接合体との間に接合層を形成するための導電性接合材料は、上記の金属ナノ粒子と、上記の導電性材料のミクロン粒子と、これら金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子を分散する溶剤と、前記金属ナノ粒子の表面に有機殻を形成してこの金属ナノ粒子の凝集を防止する保護剤とを含むものであり、そして、金属ナノ粒子の種類に合わせて、溶剤としてはアルコール系あるいはエーテル系の中から選択され、また、保護剤としてはアミン系、カルボン酸系、高分子系の中から選択され、更に必要により、分散剤としてはアミン系、カルボン酸系、アルコール系の中から適当なものが選択される。また、必要により、この導電性接合材料中には、従来公知の各種のアニオン系、カチオン系、ノニオン系等の中から分散助剤を選択して添加してもよく、導電性接合材料に所望の流動性等を付与することができる。この導電性接合材料中の溶媒含有量は、通常30体積%以上、90体積%以下、好ましくは50体積%以上、好ましくは70体積%以下である。
【0029】
このようにして調製された本発明の導電性接合材料は、スラリー状、ペースト状、グリース状、又はワックス状等であって、例えば、エアースプレーコーター、ロールコーター、静電スプレーコーター、スキージ法、マスク印刷法等により第1被接合体及び/又は第2被接合体の被接合面上に層状に塗布され、その後焼成されて導電性接合材料中の溶媒等が除去され、また、金属ナノ粒子が焼結し、接合方向断面におけるミクロン粒子由来の導電性材料と金属ナノ粒子由来の金属の合計に対する2〜90質量%が前記導電性材料である接合層が形成される。
【0030】
ここで、導電性接合材料は、例えば、エアースプレーコーター、ロールコーター、静電スプレーコーター、スキージ法、マスク印刷法等により第1被接合体及び/又は第2被接合体の被接合面上に層状に塗布され、また、第1被接合体及び/又は第2被接合体の被接合面に塗布された導電性接合材料は、通常200℃以上450℃以下、好ましくは250℃以上400℃以下に加熱されて焼成される。この焼成時の加熱温度が200℃より低いと十分な接合強度が得られない場合があり、反対に、加熱温度が450℃超では、半導体素子や樹脂基板等の損傷が懸念される。また、この導電性接合材料を焼成し焼結させて接合層を形成する際に、第1被接合体、導電性接合材料及び第2被接合体の間に、加熱と同時に適当な圧力、好ましくは0.1MPa以上50MPa以下、より好ましくは2MPa以上10MPa以下の圧力を加えることができる。
【実施例】
【0031】
〔実施例1〜8及び比較例1〜3〕
表1に示す平均粒径の金属ナノ粒子と表1に示す平均粒径の導電性材料のミクロン粒子とを用い、また、溶媒としてテルペン系アルコールを用い、金属ナノ粒子と導電性材料のミクロン粒子とが表1に示す割合で配合されていると共に、これら金属ナノ粒子と導電性材料のミクロン粒子の合計割合が50体積%である導電性接合材料を調製した。なお、表1において、金属ナノ粒子及び導電性材料のミクロン粒子以外の成分は、上記の溶媒及び金属ナノ粒子を被覆する有機殻である。
【0032】
次に、第1被接合体として、厚み0.45mm×縦3mm×横3mmの大きさのSi半導体デバイスを用い、その一方の面にスパッタ法により合計厚みが1.1μmのTi/Ni/Au膜を形成し、第1被接合面とした。また、第2被接合体として厚み0.32mm×縦20mm×横20mmの大きさのアルミナセラミックス基板の上に厚み0.25mmの銅回路層を有する回路基板を用い、この銅回路層上に合計厚み5μmのNi/Auめっきを施して第2被接合面とした。
【0033】
上記の第1被接合体の被接合面(第1被接合面)に表1に示す導電性接合材料をスキージ法により塗布し、次いで、この第1被接合体の第1被接合面上に塗布された導電性接合材料を挟み込むように第2被接合体の被接合面(第2被接合面)を重ね合わせ、表1に示す温度、圧力、保持時間、及び焼成時雰囲気の条件下に加熱し、導電性接合材料中の金属ナノ粒子を焼成して焼結させ、第1被接合体と第2被接合体との間に接合層を形成させて各実施例及び比較例の導電性接合構造体を形成した。各実施例の導電性接合構造体は
図2に示す通りであり、また、各比較例の導電性接合構造体は
図1に示す通りである。
【0034】
以上のようにして作製された各実施例及び比較例の導電性接合構造体の接合層において、前記金属材料及び前記導電性材料以外の大部分は、溶媒と金属ナノ粒子の有機殻が加熱によって炭化した残滓であるか、埋め込んだ樹脂であった。
【0035】
〔せん断強度の測定〕
接合を完了して作製された直後の各実施例及び比較例の導電性接合構造体について、常温まで冷却した後、ボンドテスター(デイジ社製シリーズ4000)を用い、ダイ・シェアモードにてSi半導体デバイスのせん断強度(n=10)を測定した。結果を表1に示す。本発明の各実施例においては、いずれも10MPa以上であった。これに対して、各比較例においては、せん断強度が10MPa以下と低い値であった。この結果、本発明の各実施例の導電性接合構造体においては、接合層の熱膨張係数が低減されており、接合後に良好なせん断強度が発現することが判明した。
【0036】
〔温度サイクル試験〕
上記接合を完了して作製された直後の各実施例及び比較例の導電性接合構造体について、気相式冷熱衝撃試験機(エスペック社製TSA-ES72-W)を使用し、−40℃と250℃で各々30分間ずつ保持する温度サイクル試験を行った。この温度サイクル試験の間、100サイクル経過ごとに導電性接合構造体を取り出し、超音波映像装置(日立パワーソリューションズ社製FineSAT)により、第1被接合体と接合層との間及び接合層と第2被接合体との間における剥離状態を調査し、1000サイクル後に剥離面積の増加率が初期状態を基準にして20%未満の場合を〇、また、この剥離面積の増加率が20%以上の場合を×として評価した。結果を表1に示す。
【表1】
各比較例では400サイクルまでにSiチップと接合層の界面近傍で完全に剥離したのに対し、本発明の各実施例においては、初期状態と比べ1000サイクルまで剥離の増加が認められなかった。
【符号の説明】
【0037】
1…第1被接合体、1a…第1被接合面、2…第2被接合体、2a…第2被接合面、3,3a…接合層、4…金属ナノ粒子相、5…金属ミクロン粒子。