(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本明細書において、「所定量の薬物を含む」とは、体表に穿刺する際に、薬効が発揮される量の薬物を含むことを意味する。「所定の量の薬物を含まない」とは、薬効が発揮される量の薬物を含んでいないことを意味し、薬物の量の範囲が、薬物を全く含まない場合から、薬効が発揮されない量までの範囲を含む。以下、「所定量の薬物を含む」を「薬物を含む」と、「所定量の薬物を含まない」を「薬物を含まない」と称する。
【0015】
本発明によれば、マイクロニードルアレイの製造において、ゼータ電位が−10mV以下であるリポソームを使用し、かつ針部のうちリポソームを含有する部分の塩の含有量を2.5mmol/g以下とすることによって、あるいはリポソームを構成するアニオン性化合物として特定の脂質を使用することによって、水溶性高分子とリポソームとの混合の際にリポソームが凝集することを抑制し、これにより水溶性高分子とリポソームとを含む液を滅菌ろ過することが可能になった。また、上記した本発明の構成により、薬物を針部の先端に充填することも可能になった。上記した本発明の効果は、従来からは全く予想できない効果である。また、リポソームの中でも、表面が負電荷であるアニオンリポソームは、体内での薬物動態制御や、毒性低減の観点からも好ましい。
【0016】
[マイクロニードルアレイの特徴]
本発明においては、リポソームをリン酸水溶液10mmol/L(pH7)で0.1mg/mLに希釈した液のゼータ電位は−10mV以下であり、好ましくは−12mV以下であり、より好ましくは−15mV以下であり、さらに好ましくは−20mV以下であり、特に好ましくは−30mV以下である。ゼータ電位はレーザードップラー法(大塚電子株式会社製ELS-Zなど)で測定することができる。ゼータ電位の下限値は特に限定されないが、一般的には、−100mV程度である。
【0017】
本発明のマイクロニードルアレイにおいては、針部のうちリポソームを含有する部分の塩の含有量が2.5mmol/g以下であり、好ましくは2.0mmol/g以下であり、より好ましくは1.2mmol/g以下であり、さらに好ましくは0.8mmol/g以下であり、特に好ましくは0.6mmol/g以下である。塩の含有量の下限は特に限定されず、0mmol/gでもよいが、一般的には0.01mmol/g以上である。
【0018】
塩の具体例としては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオン、リチウムイオン、及び銀イオンからなる群より選ばれる少なくとも1つを含む塩を挙げることができる。複数の種類の塩が存在する場合には、合計の塩の含有量が上記範囲内にある。
【0019】
針部のうちリポソームを含有する部分の塩の含有量は、以下の通り測定することができる。
1.針部の先端部をカッターなどで切り取り、回収する。
2.上記1.で回収した針を注射用水に溶解させる。
3.上記2.で溶解した液をイオンクロマト(DIONEX製DX-320など)で測定する。
【0020】
[リポソーム]
リポソームとは、脂質を用いた脂質二重膜で形成される閉鎖小胞体であり、その閉鎖小胞の空間内に水相(内水相)を有する。内水相には、水等が含まれる。リポソームは通常、閉鎖小胞外の水溶液(外水相)に分散した状態で存在する。リポソームはシングルラメラ(単層ラメラ又はユニラメラとも呼ばれ、二重層膜が一重の構造である。)であっても、多層ラメラ(マルチラメラとも呼ばれ、タマネギ状の形状の多数の二重層膜の構造である。個々の層は水様の層で仕切られている。)であってもよいが、本発明では、医薬用途での安全性及び安定性の観点から、シングルラメラのリポソームであることが好ましい。
【0021】
リポソームは、その形態は特に限定されない。リポソームは、薬物を内包していてもよい。「内包」とは、リポソームに対して薬物が内水相及び膜自体に含まれる形態をとることを意味する。例えば、膜で形成された閉鎖空間内に薬物を封入する形態、膜自体に内包する形態等が挙げられ、これらの組合せでもよい。
【0022】
リポソームの平均粒子径は、10nm〜150nmが好ましく、20nm〜110nmがより好ましく、30nm〜90nmがさらに好ましい。
リポソームは球状又はそれに近い形態をとることが好ましい。
リポソームの平均粒子径は、動的光散乱法(大塚電子株式会社製ELS-Z2など)で測定することができる。
【0023】
リポソームの脂質二重膜を構成する成分は、脂質およびアニオン性化合物から選ばれる。脂質として、水溶性有機溶媒及びエステル系有機溶媒の混合溶媒に溶解するものを任意に使用することができる。脂質としては、例えば、リン脂質、リン脂質以外の脂質、コレステロール類、リゾリン脂質及びそれらの誘導体等が挙げられる。これらの成分は、単一種又は複数種の成分から構成されてよい。
【0024】
リン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン(レシチン)、ホスファジルグリセロール、ホスファチジン酸、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、スフィンゴミエリン、カルジオリピン等の天然もしくは合成のリン脂質、又はこれらに水素添加したもの(例えば、水素添加大豆ホスファチジルコリン(HSPC))等が挙げられる。これらのなかでも、水素添加大豆ホスファチジルコリン等の水素添加されたリン脂質又はスフィンゴミエリンが好ましく、水素添加大豆ホスファチジルコリンがより好ましい。なお、本発明において、「リン脂質」とはリン脂質に修飾を加えたリン脂質誘導体も包含する。
【0025】
リン脂質以外の脂質としては、リン酸を含まない脂質が挙げられ、例えば、リン酸部分をその分子内に有しないグリセロ脂質、リン酸部分をその分子内に有しないスフィンゴ脂質等が挙げられる。なお、本発明において、「リン脂質以外の脂質」とはリン脂質以外の脂質に修飾を加えたリン脂質以外の脂質の誘導体も包含する。
【0026】
本発明では、リポソームの構成成分として、アニオン性化合物を一定量以上含むことが好ましい。負電荷の帯電強度は、リポソームの構成成分におけるアニオン性化合物が占める割合に依存すると推測されるため、リポソームにおいては、アニオン性化合物含量が高いものであることが好ましい。アニオン性化合物含量としては、具体的には、リポソーム脂質二重膜を構成する化合物全量のmol数に対して、好ましくは2mol%以上、より好ましくは3mol%以上、特に好ましくは5mol%以上である。アニオン性化合物含量の上限としては特に限定されないが、一般的には50mol%程度である。
【0027】
負電荷の帯電強度は、アニオン性化合物の種類にも依存することがある。アニオン性化合物としては、電荷に帯電している化合物であれば限定されないが、例えば、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ポリオキシエチレン鎖を含有する脂質、界面活性剤及びサポニンを用いることができる。
【0028】
コレステロール類としては、シクロペンタヒドロフェナントレンを基本骨格とし、その一部あるいはすべての炭素が水素化されているコレステロール及びその誘導体を挙げることができる。例えば、コレステロールが挙げられる。平均粒子径を100nm以下に微細化していくと脂質膜の曲率が高くなる。リポソームにおいて配列した膜のひずみも大きくなるため、水溶性薬物はさらに漏出しやすくなる。漏出性を抑制する手段として、脂質による膜のひずみを埋める(膜安定化効果)ために、コレステロール等を添加することが有効である。
【0029】
リポソームにおいて、コレステロール類の添加は、リポソームの膜のすきまを埋めること等により、リポソームの膜の流動性を下げることが期待される。一般には、リポソームにおいて、コレステロール類の量は、脂質成分の合計(総脂質)mol中、通常50mol%程度までの量で含むことが望ましいとされている。
【0030】
リポソームを構成する脂質の合計量に対するコレステロール類の含有率は10mol%〜35mol%が好ましく、15mol%〜25mol%がより好ましく、17mol%〜21mol%がさらに好ましい。
【0031】
(リポソームの製造方法)
リポソームの製造方法は特に限定されない。リポソームは、例えば、有機溶媒に溶解した脂質を乳化することによって製造することができる。
【0032】
乳化工程では、少なくとも1種の脂質が有機溶媒に溶解している油相と水相とを混合して脂質を含む水溶液を攪拌して乳化することができる。脂質が有機溶媒に溶解している油相及び水相を混合し撹拌し、乳化することで、油相及び水相がO/W型(水中油型: oil in water型)に乳化した乳化液が調製される。混合後、油相由来の有機溶媒の一部又は全部を蒸発工程によって除去することにより、リポソームが形成される。あるいは、油相中の有機溶媒の一部又は全部が撹拌・乳化の過程で蒸発して、リポソームが形成される。
【0033】
撹拌する方法としては、粒子微細化のために、超音波又は機械的せん断力が用いられる。また、粒子径の均一化のためには、一定の孔径のフィルターを通すエクストルーダー処理又はマイクロフルイザイザー処理を行うことができる。エクストルーダー等を用いれば、副次的に形成された多胞リポソームをばらして単胞リポソームにすることができる。空のリポソームを、エクストリュージョン処理せずに次の工程に用いることが、製造工程の簡略化の観点から好ましい。
【0034】
乳化工程は、特に限定されないが、好ましくは高せん断をかけ、有機溶媒を含む乳化工程で微粒子化する工程である。必要に応じて、乳化工程で用いた有機溶媒を蒸発させる(脱溶媒する)ことでリポソームを形成することができる。
【0035】
リポソームを製造する際の乳化工程の液温は、適宜調整することが可能であるが、油相と水相との混合時の液温を使用する脂質の相転移温度以上とすることが好ましく、例えば、相転移温度が35〜40℃の脂質を使用する場合、35℃〜70℃とすることが好ましい。
【0036】
油相として用いられる有機溶媒としては、アルコール、エステル、クロロホルム、塩化メチレン、ヘキサン又はロヘキサン等を使用することができるが特に限定されない。
【0037】
本発明で使用されるアルコールとしては、特に限定されないが、炭素数1〜6のアルコールを用いることが好ましい。具体的には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−メチル−1−ブタノールなどが挙げられる。本発明で使用されるアルコールとしては、極性の観点から、エタノールを用いることがより好ましい。
本発明で使用されるエステルとしては、特に限定されないが、酢酸エステルを用いることが好ましい。具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどが挙げられる。本発明で使用されるエステルとしては、極性又は親油性の観点から、酢酸エチルを用いることがより好ましい。
【0038】
(水相)
水相とは、外水相及び内水相を意味する。
外水相とは、リポソームを分散する水溶液を意味する。例えば注射剤の場合においては、バイアル瓶又はプレフィルドシリンジ包装されて保管されたリポソームの分散液のリポソームの外側を占める溶液が外水相となる。また、添付された分散用液又はその他溶解液により投与時に用時分散した液についても同様に、リポソームの分散液のリポソームの外側を占める溶液が外水相となる。
【0039】
内水相とは、リポソームの脂質二重膜を隔てた閉鎖小胞内の水相を意味する。
リポソームを製造する際に、リポソームを分散する水溶液(外水相)としては、水(蒸留水、注射用水等)、生理食塩水、各種緩衝液又は糖類の水溶液及びこれらの混合物(水性溶媒)が好ましく用いられる。緩衝液としては、有機系、無機系に限定されることはないが、体液に近い水素イオン濃度付近に緩衝作用を有する緩衝液が好適に用いられ、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、クエン酸緩衝液、酢酸緩衝液及びグッドバッファー等があげられる。水相のpHは、例えば、5〜9とすることができ、7〜8であることが好ましい。リポソームを分散する水溶液(外水相)としては、リン酸緩衝液(例えば、pH=7.4)を用いることが好ましい。リポソームの内水相は、リポソームを製造する際に、リポソームを分散する水溶液でもよいし、新たに添加される、水、生理食塩水、各種緩衝液又は糖類の水溶液及びこれらの混合物でもよい。外水相又は内水相として用いる水は、不純物(埃、化学物質等)を含まないことが好ましい。
【0040】
生理食塩水とは、人体と等張になるように調整された無機塩溶液を意味し、さらに緩衝機能を持っていてもよい。生理食塩水としては、塩化ナトリウムを0.9w/v%(weight/volume%)含有する食塩水、リン酸緩衝生理食塩水(以下、PBSともいう)及びトリス緩衝生理食塩水等が挙げられる。
【0041】
乳化工程を経て調製されたリポソームを含む水溶液は、リポソームに含まれなかった成分の除去、又は濃度もしくは浸透圧の調整のために、遠心分離、限外ろ過、透析、ゲルろ過又は凍結乾燥等の方法で後処理をしてもよい。
【0042】
(エクストリュージョン処理)
得られたリポソームは、透析法、ろ過法又はエクストリュージョン処理等を用いて粒径を均一にすることができる。
エクストリュージョン処理とは、細孔を有するフィルターにリポソームを通過させることで、物理的なせん断力を施し、微粒化する工程を意味する。リポソームを通過させる際、リポソーム分散液及びフィルターを、リポソームを構成する膜の相転移温度以上の温度に保温することで、速やかに微粒化することができる。
【0043】
リポソームは、無菌ろ過を行うことが好ましい。ろ過の方法としては、中空糸膜、逆浸透膜又はメンブレンフィルター等を用いて、リポソームを含む水溶液から不要な物を除去することができる。滅菌できる孔径をもつフィルター(好ましくは0.2μmのろ過滅菌フィルター)によってろ過することが好ましい。
【0044】
[マイクロニードルアレイの構成]
本発明のマイクロニードルアレイは、シート部、及び、シート部の上面に存在する複数の針部、を有している。
【0045】
本発明において複数とは、1つ以上のことを意味する。
本発明のマイクロニードルアレイは、薬物を効率的に皮膚中に投与するために、シート部及び針部を少なくとも含み、針部に薬物を担持させている。
【0046】
本発明のマイクロニードルアレイとは、シート部の上面側に、複数の針部がアレイ状に配置されているデバイスである。針部は、シート部の上面に直接配置されていてもよいし、あるいは針部は、シート部の上面に配置された錐台部の上面に配置されていてもよい。
【0047】
シート部は、針部を支持するための土台であり、
図1〜
図8に示すシート部116のような平面状の形状を有する。このとき、シート部の上面とは、面上に複数の針部がアレイ状に配置された面を指す。
シート部の面積は、特に限定されないが、0.005〜1000mm
2であることが好ましく、0.05〜500mm
2であることがより好ましく、0.1〜400mm
2であることがさらに好ましい。
【0048】
シート部の厚さは、錐台部又は針部と接している面と、反対側の面の間の距離で表す。シート部の厚さとしては、1μm以上2000μm以下であることが好ましく、3μm以上1500μm以下であることがより好ましく、5μm以上1000μm以下であることがさらに好ましい。
シート部は、水溶性高分子を含む。シート部は、水溶性高分子から構成されていてもよいし、それ以外の添加物(例えば、二糖類など)を含んでいてもよい。なお、シート部には薬物を含まないことが好ましい。
【0049】
シート部に含まれる水溶性高分子としては、特に限定されないが、多糖類、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、タンパク質(例えば、ゼラチンなど)を挙げることができる。上記の多糖類としては、例えば、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、プルラン、デキストラン、デキストリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの、セルロースを部分的に変性した水溶性セルロース誘導体)、ヒドロキシエチルスターチ、アラビアゴム等が挙げられる。上記の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0050】
上記の中でも、ヒドロキシエチルスターチ、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、プルラン、デキストラン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールがさらに好ましく、デキストランが特に好ましい。
【0051】
シート部には、二糖類を添加してもよく、二糖類としては、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハース又はセロビオースなどが挙げられ、特にスクロース、マルトース、トレハロースが好ましい。
【0052】
マイクロニードルアレイは、シート部の上面側に、アレイ状に配置された複数の針部から構成される。針部は、先端を有する凸状構造物であって、鋭い先端を有する針形状に限定されるものではなく、先の尖っていない形状でもよい。
【0053】
針部の形状の例としては、円錐状、多角錐状(四角錐状など)、又は紡錘状などが挙げられる。例えば、
図1〜8に示す針部112のような形状を有し、針部の全体の形状が、円錐状又は多角錐状(四角錐状など)であってもよいし、針部側面の傾き(角度)を連続的に変化させた構造であってもよい。また、針部側面の傾き(角度)が非連続的に変化する、二層又はそれ以上の多層構造をとることもできる。
【0054】
本発明のマイクロニードルアレイを皮膚に適用した場合、針部が皮膚に挿入され、シート部の上面又はその一部が皮膚に接するようになることが好ましい。
【0055】
針部の高さ(長さ)は、針部の先端から、錐台部又はシート部(錐台部が存在しない場合)へ下ろした垂線の長さで表す。針部の高さ(長さ)は特に限定されないが、好ましくは50μm以上3000μm以下であり、より好ましくは100μm以上1500μm以下であり、さらに好ましくは100μm以上1000μm以下である。針部の長さが50μm以上であれば、薬物の経皮投与を行うことができ、また針部の長さが3000μm以下とすることで、針部が神経に接触することによる痛みの発生を防止し、また出血を回避できるため、好ましい。
【0056】
錐台部(ただし、錐台部が存在しない場合には針部)とシート部の界面を基底部と呼ぶ。1つの針部の基底における最も遠い点間の距離が、50μm以上2000μm以下であることが好ましく、100μm以上1500μm以下であることがより好ましく、200μm以上1000μm以下であることがさらに好ましい。
【0057】
針部は、1つのマイクロニードルアレイにあたり1〜2000本配置されることが好ましく、3〜1000本配置されることがより好ましく、5〜500本配置されることがさらに好ましい。1つのマイクロニードルアレイあたり2本の針部を含む場合、針部の間隔は、針部の先端から錐台部又はシート部(錐台部が存在しない場合)へ下ろした垂線の足の間の距離で表す。1つのマイクロニードルあたり3本以上の針部を含む場合、配列される針部の間隔は、全ての針部においてそれぞれ最も近接した針部に対して先端から錐台部又はシート部(錐台部が存在しない場合)へ下ろした垂線の足の間の距離を求め、その平均値で表す。針部の間隔は、0.1mm以上10mm以下であることが好ましく、0.2mm以上5mm以下であることがより好ましく、0.3mm以上3mm以下であることがさらに好ましい。
【0058】
針部は、水溶性高分子、薬物、リポソーム、及び塩を含む。
針部が皮膚中に残留しても人体に支障が生じないように、水溶性高分子は生体溶解性物質であることが好ましい。
【0059】
針部に含まれる水溶性高分子としては、特に限定されないが、多糖類、ポリビニルピロリドン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、タンパク質(例えば、ゼラチンなど)を挙げることができる。上記の多糖類としては、例えば、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、プルラン、デキストラン、デキストリン、コンドロイチン硫酸ナトリウム、セルロース誘導体(例えば、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの、セルロースを部分的に変性した水溶性セルロース誘導体)、ヒドロキシエチルスターチ、アラビアゴム等が挙げられる。上記の成分は、1種単独で用いてもよいし、2種以上の混合物として用いてもよい。
【0060】
上記の中でも、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、デキストラン、デキストリン、ヒドロキシエチルスターチ、セルロース誘導体、及びポリビニルアルコールからなる群から選ばれる少なくとも1つが好ましく、ヒドロキシエチルスターチが特に好ましい。さらに、薬物との混合時に凝集しにくくするため、電気的に中性である水溶性高分子が好ましい。電気的に中性である水溶性高分子とは、電荷を持たない水溶性高分子であり、より具体的には、荷電を有する基を有さない水溶性高分子である。針部に含まれる水溶性高分子は、シート部に含まれる水溶性高分子と同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0061】
針部には、二糖類を添加してもよく、二糖類としては、スクロース、ラクツロース、ラクトース、マルトース、トレハース又はセロビオースなどが挙げられ、特にスクロース、マルトース、トレハロースが好ましい。
【0062】
薬物とは、人体に対して作用を及ぼす効能を有する物質である。薬物は、ペプチド(ペプチドホルモンなどを含む)又はその誘導体、タンパク質、核酸、多糖類、ワクチン、アジュバント、水溶性低分子化合物に属する医薬化合物、又は化粧品成分から選択することが好ましい。薬物の分子量は特には限定されないが、タンパク質の場合には分子量500以上のものが好ましい。
【0063】
ペプチド又はその誘導体及びタンパク質としては、例えば、カルシトニン、副腎皮質刺激ホルモン、副甲状腺ホルモン(PTH)、ヒトPTH(1→34)、インスリン、エキセンディン、セクレチン、オキシトシン、アンギオテンシン、β−エンドルフィン、グルカゴン、バソプレッシン、ソマトスタチン、ガストリン、黄体形成ホルモン放出ホルモン、エンケファリン、ニューロテンシン、心房性ナトリウム利尿ペプチド、成長ホルモン、成長ホルモン放出ホルモン、ブラジキニン、サブスタンスP、ダイノルフィン、甲状腺刺激ホルモン、プロラクチン、インターフェロン、インターロイキン、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、グルタチオンパーオキシダーゼ、スーパーオキシドディスムターゼ、デスモプレシン、ソマトメジン、エンドセリン、及びこれらの塩等が挙げられる。
【0064】
ワクチンとしては、インフルエンザ抗原(インフルエンザワクチン)、HBs抗原(B型肝炎ウイルス表面抗原)、HBe抗原(Hepatitis Be抗原)、BCG(Bacille de Calmette et Guerin)抗原、麻疹抗原、風疹抗原、水痘抗原、黄熱抗原、帯状疱疹抗原、ロタウイルス抗原、Hib(インフルエンザ桿菌b型)抗原、狂犬病抗原、コレラ抗原、ジフテリア抗原、百日咳抗原、破傷風抗原、不活化ポリオ抗原、日本脳炎抗原、ヒトパピローマ抗原、あるいはこれらの2〜4種の混合抗原等が挙げられる。
【0065】
アジュバントとしては、リン酸アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム塩、MF59(登録商標)、AS03(Adjuvant System 03)などのエマルジョン、並びに、リポソーム、植物由来成分、核酸、バイオポリマー、サイトカイン、ペプチド、タンパク質及び糖鎖等があげられる。
【0066】
上記の中でも、薬物としては、ペプチドホルモン、ワクチン及びアジュバントからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。ペプチドホルモンとしては成長ホルモンまたはインスリンが特に好ましく、ワクチンとしてはインフルエンザワクチンが特に好ましい。
【0067】
針部全体における薬物の含有量は、特に限定されないが、針部の固形分質量に対して、好ましくは1〜60質量%であり、より好ましくは1〜50質量%であり、特に好ましくは1〜45質量%である。
【0068】
以下、添付の図面に従って、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0069】
図1〜
図8は、マイクロニードルアレイの一部拡大図であるマイクロニードル110を示している。本発明のマイクロニードルアレイは、シート部116の表面に複数個の針部112が形成されることで、構成される(図においては、シート部116上に1つの針部112のみ、あるいは1つの錘台部113と1つの針部112を表示し、これをマイクロニードル110と称する)。
【0070】
図1Aにおいて、針部112は円錐状の形状を有し、
図1Bにおいて、針部112は四角錐状の形状を有している。
図1Cにおいて、Hは針部112の高さを、Wは針部112の直径(幅)を、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
【0071】
図2及び
図3は、シート部116の表面に、錐台部113及び針部112が形成された別の形状を有するマイクロニードル110を示している。
図2において、錐台部113は、円錐台の形状を有し、針部112は円錐の形状を有している。また、
図3において、錐台部113は、四角錐台の形状を有し、針部112は四角錐の形状を有している。ただし、針部の形状は、これらの形状に限定されるものではない。
【0072】
図4は、
図2及び
図3に示されるマイクロニードル110の断面図である。
図4において、Hは針部112の高さを、Wは基底部の直径(幅)を、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
【0073】
本発明のマイクロニードルアレイは、
図1Cのマイクロニードル110の形状より、
図4のマイクロニードル110の形状とすることが好ましい。このような構造をとることで、針部全体の体積が大きくなり、マイクロニードルアレイの製造時において、より多くの薬物を針部の上端に集中させることができる。
【0074】
図5及び
図6は、さらに別の形状を有するマイクロニードル110を示している。
【0075】
図5に示される針部第1層112Aは円錐状の形状を有し、針部第2層112Bは円柱状の形状を有している。
図6に示される針部第1層112Aは四角錐状の形状を有し、針部第2層112Bは四角柱状の形状を有している。ただし、針部の形状は、これらの形状に限定されるものではない。
【0076】
図7は、
図5及び
図6に示されるマイクロニードル110の断面図である。
図7において、Hは針部112の高さを、Wは基底部の直径(幅)を、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
【0077】
図8は、針部112の側面の傾き(角度)が連続的に変化した別の形状のマイクロニードルの断面図である。
図8において、Hは針部112の高さを、Tはシート部116の高さ(厚み)を示す。
【0078】
本発明のマイクロニードルアレイにおいて、針部は、横列について1mm当たり約0.1〜10本の間隔で配置されていることが好ましい。マイクロニードルアレイは、1cm
2当たり1〜10000本のマイクロニードルを有することがより好ましい。マイクロニードルの密度を1本/cm
2以上とすることにより効率良く皮膚を穿孔することができ、またマイクロニードルの密度を10000本/cm
2以下とすることにより、マイクロニードルアレイが十分に穿刺することが可能になる。針部の密度は、好ましくは10〜5000本/cm
2であり、さらに好ましくは25〜1000本/cm
2であり、特に好ましくは25〜400本/cm
2である。
【0079】
本発明のマイクロニードルアレイは、乾燥剤と一緒に密閉保存されている形態で供給することができる。乾燥剤としては、公知の乾燥剤(例えば、シリカゲル、生石灰、塩化カルシウム、シリカアルミナ、シート状乾燥剤など)を使用することができる。
【0080】
[マイクロニードルアレイの製造方法]
本発明のマイクロニードルアレイは、例えば、特開2013−153866号公報又は国際公開WO2014/077242号公報に記載の方法に準じて以下の方法により製造することができる。
【0081】
(モールドの作製)
図9Aから9Cは、モールド(型)の作製の工程図である。
図9Aに示すように、モールドを作製するための原版を先ず作製する。この原版11の作製方法は2種類ある。
【0082】
1番目の方法は、Si基板上にフォトレジストを塗布した後、露光、現像を行う。そして、RIE(リアクティブイオンエッチング)等によるエッチングを行うことにより、原版11の表面に円錐の形状部(凸部)12のアレイを作製する。尚、原版11の表面に円錐の形状部を形成するようにRIE等のエッチングを行う際には、Si基板を回転させながら斜め方向からのエッチングを行うことにより、円錐の形状を形成することが可能である。2番目の方法は、Ni等の金属基板に、ダイヤモンドバイト等の切削工具を用いた加工により、原版11の表面に四角錘などの形状部12のアレイを形成する方法がある。
【0083】
次に、モールドの作製を行う。具体的には、
図9Bに示すように、原版11よりモールド13を作製する。方法としては以下の4つの方法が考えられる。
1番目の方法は、原版11にPDMS(ポリジメチルシロキサン、例えば、ダウコーニング社製のシルガード184(登録商標))に硬化剤を添加したシリコーン樹脂を流し込み、100℃で加熱処理し硬化した後に、原版11より剥離する方法である。2番目の方法は、紫外線を照射することにより硬化するUV(Ultraviolet)硬化樹脂を原版11に流し込み、窒素雰囲気中で紫外線を照射した後に、原版11より剥離する方法である。3番目の方法は、ポリスチレンやPMMA(ポリメチルメタクリレート)等のプラスチック樹脂を有機溶媒に溶解させた溶液を剥離剤の塗布された原版11に流し込み、乾燥させることにより有機溶媒を揮発させて硬化させた後に、原版11より剥離する方法である。4番目の方法は、Ni電鋳により反転品を作製する方法である。
【0084】
これにより、原版11の円錐形又は角錐形の反転形状である針状凹部15が2次元配列で配列されたモールド13が作製される。このようにして作製されたモールド13を
図9Cに示す。
【0085】
図10は他の好ましいモールド13の態様を示したものである。針状凹部15は、モールド13の表面から深さ方向に狭くなるテーパ状の入口部15Aと、深さ方向に先細りの先端凹部15Bとを備えている。入口部15Aをテーパ形状とすることで、水溶性高分子溶解液を針状凹部15に充填しやすくなる。
【0086】
図11は、マイクロニードルアレイの製造を行う上で、より好ましいモールド複合体18の態様を示したものである。
図11中、(A)部はモールド複合体18を示す。
図11中、(B)部は、(A)部のうち、円で囲まれた部分の拡大図である。
【0087】
図11の(A)部に示すように、モールド複合体18は、針状凹部15の先端(底)に空気抜き孔15Cが形成されたモールド13、及び、モールド13の裏面に貼り合わされ、気体は透過するが液体は透過しない材料で形成された気体透過シート19と、を備える。空気抜き孔15Cは、モールド13の裏面を貫通する貫通孔として形成される。ここで、モールド13の裏面とは、空気抜き孔15Cが形成された側の面を言う。これにより、針状凹部15の先端は空気抜き孔15C、及び気体透過シート19を介して大気と連通する。
【0088】
このようなモールド複合体18を使用することで、針状凹部15に充填される高分子溶解液は透過せず、針状凹部15に存在する空気のみを針状凹部15から追い出すことができる。これにより、針状凹部15の形状を高分子に転写する転写性が良くなり、よりシャープな針部を形成することができる。
【0089】
空気抜き孔15Cの径D(直径)としては、1〜50μmの範囲が好ましい。空気抜き孔15Cの径Dが1μm未満の場合、空気抜き孔としての役目を十分に果たせない。また、空気抜き孔15Cの径Dが50μmを超える場合、成形されたマイクロニードルの先端部のシャープ性が損なわれる。
【0090】
気体は透過するが液体は透過しない材料で形成された気体透過シート19としては、例えば気体透過性フィルム(住友電気工業社製、ポアフロン(登録商標)、FP−010)を好適に使用できる。
【0091】
モールド13に用いる材料としては、弾性素材又は金属製素材を用いることができ、弾性素材が好ましく、気体透過性の高い素材がさらに好ましい。気体透過性の代表である酸素透過性は、1×10
-12(mL/s・m
2・Pa)以上が好ましく、1×10
-10(mL/s・m
2・Pa)以上がさらに好ましい。なお、1mLは、10
-6 m
3である。気体透過性を上記範囲とすることにより、モールド13の凹部に存在する空気を型側から追い出すことができ、欠陥の少ないマイクロニードルアレイを製造することができる。このような材料として、具体的には、シリコーン樹脂(例えば、ダウコーニング社製のシルガード184(登録商標)、信越化学工業株式会社のKE−1310ST(品番))、紫外線硬化樹脂、プラスチック樹脂(例えば、ポリスチレン、PMMA(ポリメチルメタクリレート))を溶融、又は溶媒に溶解させたものなどを挙げることができる。これらの中でもシリコーンゴム系の素材は、繰り返し加圧による転写に耐久性があり、かつ素材との剥離性がよいため好ましい。また、金属製素材としては、Ni、Cu、Cr、Mo、W、Ir、Tr、Fe、Co、MgO、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、α−酸化アルミニウム,酸化ジルコニウム、ステンレス(例えば、ボーラー・ウッデホルム社(Bohler-Uddeholm KK)のスタバックス材(STAVAX)(商標))などやその合金を挙げることができる。枠14の材質としては、モールド13の材質と同様の材質のものを用いることができる。
【0092】
(水溶性高分子溶解液)
本発明においては、針部の少なくとも一部を形成するための、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液、及び、シート部を形成するための水溶性高分子溶解液、を準備することが好ましい。
水溶性高分子の種類は、本明細書上記した通りである。
水溶性高分子溶解液中の水溶性高分子の濃度は、使用する水溶性高分子の種類によっても異なるが、一般的には1〜50質量%であることが好ましい。また、溶解に用いる溶媒は、水(温水)以外であっても揮発性を有するものであればよく、メチルエチルケトン(MEK)、アルコールなどを用いることができる。
【0093】
(針部の形成)
図12Aに示すように、2次元配列された針状凹部15を有するモールド13が、基台20の上に配置される。モールド13には、5×5の2次元配列された、2組の複数の針状凹部15が形成されている。薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を収容するタンク30、タンクに接続される配管32、及び、配管32の先端に接続されたノズル34、を有する液供給装置36が準備される。なお、本例では、針状凹部15が5×5で2次元配列されている場合を例示しているが、針状凹部15の個数は5×5に限定されるものではなく、M×N(M及びNはそれぞれ独立に1以上の任意の整数を示し、好ましくは2〜30、より好ましくは3〜25、さらに好ましくは3〜20である)で2次元配列されていればよい。
【0094】
図13はノズルの先端部の概略斜視図を示している。
図12に示すように、ノズル34の先端には平坦面であるリップ部34A及びスリット形状の開口部34Bを備えている。スリット形状の開口部34Bにより、例えば、1列を構成する複数の針状凹部15に同時に、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を充填することが可能となる。開口部34Bの大きさ(長さと幅)は、一度に充填すべき針状凹部15の数に応じて適宜選択される。開口部34Bの長さを長くすることで、より多くの針状凹部15に一度に、薬物、リポソーム及び塩を含む高分子溶解液22を充填することができる。これにより、生産性を向上させることが可能となる。
【0095】
ノズル34に用いる材料としては、弾性素材又は金属製素材を用いることができる。例えば、テフロン(登録商標)、ステンレス鋼(SUS(Steel Special Use Stainless))、チタン等が挙げられる。
【0096】
図12Bに示すように、ノズル34の開口部34Bが針状凹部15の上に位置調整される。ノズル34のリップ部34Aとモールド13の表面とは接触している。液供給装置36から、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22がモールド13に供給され、ノズル34の開口部34Bから、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22が針状凹部15に充填される。本実施形態では、1列を構成する複数の針状凹部15に、薬物、リポソーム及び塩を含む高分子溶解液22が同時に充填される。ただし、これに限定されず、針状凹部15に一つずつ充填するようにすることもできる。
【0097】
モールド13が気体透過性を有する素材で構成される場合、モールド13の裏面から吸引することで、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を吸引でき、針状凹部15内への、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22の充填を促進させることができる。
【0098】
図12Bに示す充填工程に次いで、
図12Cに示すように、ノズル34のリップ部34Aとモールド13の表面とを接触させながら、開口部34Bの長さ方向と垂直方向に液供給装置36を相対的に移動し、ノズル34を、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22が充填されていない針状凹部15に移動する。ノズル34の開口部34Bが針状凹部15の上に位置調整される。本実施の形態では、ノズル34を移動させる例で説明したが、モールド13を移動させてもよい。
【0099】
ノズル34のリップ部34Aとモールド13の表面とを接触させて移動しているので、ノズル34がモールド13の針状凹部15以外の表面に残る、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を掻き取ることができる。薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22をモールド13の針状凹部15以外に残らないようにすることができる。
【0100】
モールド13へのダメージを減らすことと、モールド13の圧縮による変形をできるだけ抑制するため、移動する際のノズル34のモールド13への押付け圧はできる限り小さい方が好ましい。また、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22がモールド13の針状凹部15以外に残らないようにするため、モールド13もしくはノズル34の少なくとも一方がフレキシブルな弾性変形する素材であることが望ましい。
【0101】
図12Bの充填工程と、
図12Cの移動工程とを繰り返すことで、5×5の2次元配列された針状凹部15に、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22が充填される。5×5の2次元配列された針状凹部15に、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22が充填されると、隣接する5×5の2次元配列された針状凹部15に液供給装置36を移動し、
図12Bの充填工程と、
図12Cの移動工程とを繰り返す。隣接する5×5の2次元配列された針状凹部15にも、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22が充填される。
【0102】
上述の充填工程と移動工程について、(1)ノズル34を移動しながら、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を針状凹部15に充填する態様でもよいし、(2)ノズル34の移動中に針状凹部15の上でノズル34を一旦静止して、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を充填し、充填後にノズル34を再度移動させる態様でもよい。充填工程と移動工程との間、ノズル34のリップ部34Aがモールド13の表面に接触している。
【0103】
図14は、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を針状凹部15に充填中におけるノズル34の先端とモールド13との部分拡大図である。
図14に示すように、ノズル34内に加圧力P1を加えることで、針状凹部15内へ、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を充填するのを促進することができる。さらに、針状凹部15内へ、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を充填する際、ノズル34をモールド13の表面に接触させる押付け力P2を、ノズル34内の加圧力P1以上とすることが好ましい。押付け力P2≧加圧力P1とすることにより、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22が針状凹部15からモールド13の表面に漏れ出すのを抑制することができる。
【0104】
図15は、ノズル34の移動中における、ノズル34の先端とモールド13との部分拡大図である。ノズル34をモールド13に対して相対的に移動する際、ノズル34をモールド13の表面に接触させる押付け力P3を、充填中のノズル34をモールド13の表面に接触させる押付け力P2より小さくすることが好ましい。モールド13へのダメージを減らし、モールド13の圧縮による変形を抑制するためである。
【0105】
5×5で構成される複数の針状凹部15への充填が完了すると、ノズル34は、隣接する5×5で構成される複数の針状凹部15へ移動される。液供給に関して、隣接する5×5で構成される複数の針状凹部15へ移動する際、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22の供給を停止するのが好ましい。5列目の針状凹部15から次の1列目の針状凹部15までは距離がある。その間をノズル34が移動する間、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を供給し続けると、ノズル34内の液圧が高くなりすぎる場合がある。その結果、ノズル34から、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22がモールド13の針状凹部15以外に流れ出る場合があり、これを抑制するため、ノズル34内の液圧を検出し、液圧が高くなりすぎると判定した際には、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22の供給を停止するのが好ましい。
【0106】
上記においてはノズルを有するディスペンサーを用いて、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液を供給する方法を説明したが、ディスペンサーによる塗布に加えて、バー塗布、スピン塗布、スプレーなどによる塗布などを適用することもできる。
【0107】
本発明においては、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液を針状凹部に供給した後、乾燥処理を実施することが好ましい。
【0108】
(シート部の形成)
シート部を形成する工程について、いくつかの態様を説明する。
シート部を形成する工程について、第1の態様について
図16Aから16Dを参照して説明する。モールド13の針状凹部15に、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22をノズル34から充填する。次いで、
図16Bに示すように、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を乾燥固化させることで、針状凹部15内に薬物を含む層120が形成される。次いで、
図16Cに示すように、薬物を含む層120が形成されたモールド13に、水溶性高分子溶解液24をディスペンサーにより塗布する。ディスペンサーによる塗布に加えて、バー塗布、スピン塗布、スプレーなどによる塗布などを適用することができる。薬物を含む層120は固化されているので、薬物が、水溶性高分子溶解液24に拡散するのを抑制することができる。次いで、
図16Dに示すように、水溶性高分子溶解液24を乾燥固化させることで、複数の針部112、錐台部113及び、シート部116から構成されるマイクロニードルアレイ1が形成される。
【0109】
第1の態様において、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22、及び水溶性高分子溶解液24の針状凹部15内への充填を促進させるために、モールド13の表面からの加圧、及び、モールド13の裏面からの減圧吸引を行うことも好ましい。
【0110】
次に、第2の態様について
図17Aから17Cを参照して説明する。
図17Aに示すように、モールド13の針状凹部15に、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22をノズル34から充填する。次いで、
図16Bと同様に、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22を乾燥固化させることで、薬物を含む層120が針状凹部15内に形成される。次に、
図17Bに示すように、別の支持体29の上に、水溶性高分子溶解液24を塗布する。支持体29は限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリプロピレン、アクリル樹脂、トリアセチルセルロース、ガラス等を使用することができる。次に、
図17Cに示すように、針状凹部15に薬物を含む層120が形成されたモールド13に、支持体29の上に形成された水溶性高分子溶解液24を重ねる。これにより、水溶性高分子溶解液24を針状凹部15の内部に充填させる。薬物を含む層は固化されているので、薬物が、水溶性高分子溶解液24に拡散するのを抑制することができる。次に、水溶性高分子溶解液24、を乾燥固化させることで、複数の針部112、錐台部113及びシート部116から構成されるマイクロニードルアレイ1が形成される。
【0111】
第2の態様において、水溶性高分子溶解液24の針状凹部15内への充填を促進させるために、モールド13の表面からの加圧及びモールド13の裏面からの減圧吸引を行うことも好ましい。
【0112】
水溶性高分子溶解液24を乾燥させる方法として、高分子溶解液中の溶媒を揮発させる工程であればよい。その方法は特に限定するものではなく、例えば加熱、送風、減圧等の方法が用いられる。乾燥処理は、1〜50℃で1〜72時間の条件で行うことができる。送風の場合には、0.1〜10m/秒の温風を吹き付ける方法が挙げられる。乾燥温度は、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液22内の薬物を熱劣化させない温度であることが好ましい。
【0113】
(剥離)
マイクロニードルアレイをモールド13から剥離する方法は特に限定されない。剥離の際に針状凸部が曲がったり折れたりしないことが好ましい。具体的には、
図18に示すように、マイクロニードルアレイの上に、粘着性の粘着層が形成されているシート状の基材40を付着させた後、端部から基材40をめくるように剥離を行うことができる。ただし、この方法では針状凸部が曲がる可能性がある。そのため、
図19に示すように、マイクロニードルアレイの上の基材40に吸盤(図示せず)を設置し、エアーで吸引しながら垂直に引き上げる方法を適用することができる。なお、基材40として支持体29を使用してもよい。
【0114】
図20はモールド13から剥離されたマイクロニードルアレイ2を示している。マイクロニードルアレイ2は、基材40、基材40の上に形成された針部112、錐台部113及びシート部116で構成される。針部112は、円錐形状又は多角錐形状を少なくとも先端に有しているが、針部112はこの形状に限定されるものではない
【0115】
以下に、本発明の実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の実施例に示される材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【実施例】
【0116】
実施例における略号は以下を意味する。
PC:ホスファチジルコリン[実施例6以外の実施例、及び比較例7以外の比較例では、COATSOME(登録商標) NC-21E(日油株式会社)を使用し、実施例6及び比較例7では、COATSOME(登録商標) NC-20(日油株式会社)を使用した]
Chol:コレステロール
DSPG:ジステアロイルホスファチジルグリセロール
HES:ヒドロキシエチルスターチ
DEX:デキストラン
CS:コンドロイチン硫酸ナトリウム
【0117】
<水溶液高分子とリポソームとを含む液のろ過性の評価>
(リン酸水溶液10mmol/L(pH7)の作製)
リン酸二水素ナトリウム・二水和物(メルク株式会社)159mgとリン酸水素二ナトリウム・二水和物(メルク株式会社)174mgを注射用水200mLに溶解し、リン酸水溶液10mmol/L(pH7)を作製した。
(リポソームの作製)
下記表1に示す脂質を表1に示す質量比で、クロロホルムに溶解し、薄膜化した。次いで、リン酸水溶液10mmol/L(pH7)を添加し、水和した。
【0118】
得られた混合物を超音波を照射して、粒子径100nmにサイジングした。得られた生成物を0.22μmのポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride、PDVF)フィルターでろ過することによって、リポソームを作製した。
【0119】
(ゼータ電位の測定)
上記で作製したリポソームをリン酸水溶液10mmol/L(pH7)で0.1mg/mLに希釈し、得られた液のゼータ電位を測定した。ゼータ電位の測定は、大塚電子株式会社製ELS-Z2で実施した。
【0120】
(リポソームと水溶性高分子との混合及びろ過性の評価)
水溶性高分子(種類は表1に記載)と塩(種類は表1に記載)をリン酸水溶液10mmol/L(pH7)に溶解した。続いて、上記で作製したリポソーム(種類は表1に記載)と水溶性高分子(種類は表1に記載)と塩(種類は表1に記載)とを、リポソーム濃度が1質量%、水溶性高分子濃度が4質量%、塩は表1に記載した量になるように混合した。得られた混合物を0.22μmのポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルターでろ過した。上記のフィルターろ過前後でのリポソーム濃度比を、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で定量した。結果の判定基準としては、フィルターを90%以上通過した場合はA、粗大物あるものの90%以上通過した場合はB、90%未満の場合はCとした。結果を表1に示す。
【0121】
(塩の含有量)
塩の含有量は、無機塩の含有量を足し合わせて算出した。例えば、リン酸10mmol/L(pH7)はNa
+が15mmol/L、PO
43-が10mmol/Lとなるため、合計25mmol/Lとなる。150mmol/L NaClであれば、Na+、Cl−とも150mmol/Lずつとなるため、合計300mmol/Lとなる。マイクロニードルに成型することを鑑み、塩の含有量は混合液の固形分量に対する比率「塩/固形分」として算出した。混合液の固形分濃度はリポソームが1質量%、水溶性高分子が4質量%であるため、合計5質量%となる。混合液の密度は1.0g/cm
3であるので、固形分濃度は50g/Lとなる。このため、たとえば表1の比較例1は塩:325mmol/L、固形分量:50g/Lとなるため、塩/固形分=325÷50=6.5mol/gとなる。算出結果を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
<マイクロニードルアレイの製造及び評価>
(モールドの製造)
一辺40mmの平滑なNi板の表面に、
図21に示すような、底面が500μmの直径D1で、150μmの高さH1の円錐台50上に、300μmの直径D2で、500μmの高さH2の円錐52が形成された針状構造の形状部12を、1000μmのピッチL1にて四角形状に100本の針を2次元正方配列に研削加工することで、原版11を作製した。この原版11の上に、シリコンゴム(ダウ・コーニング社製SILASTIC MDX4-4210)を0.6mmの厚みで膜を形成し、膜面から原版11の円錐先端部50μmを突出させた状態で熱硬化させ、剥離した。これにより、約30μmの直径の貫通孔を有するシリコンゴムの反転品を作製した。このシリコンゴム反転品の、中央部に10列×10行の2次元配列された針状凹部が形成された、一辺30mmの平面部外を切り落としたものをモールドとして用いた。針状凹部の開口部が広い方をモールドの表面とし、30μmの直径の貫通孔(空気抜き孔)を有する面をモールドの裏面とした。
【0124】
(リポソーム)
表1に記載した各比較例及び各実施例と同様の組成のリポソームを調製した。
【0125】
(薬物、リポソーム及び塩を含む高分子溶解液の調製)
表1に記載した各リポソーム、表1に記載した各水溶性高分子(ヒドロキシエチルスターチ(HES) (Fresenius Kabi社製)、DEX又はCS)及びエバンスブルー(色素:モデル薬物)をそれぞれ1:4:0.1の質量比で混合した水溶液を調製し、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液とした。得られた水溶液におけるリポソーム、ヒドロキシエチルスターチ及びエバンスブルーの濃度はそれぞれ、1質量%、4質量%及び0.1質量%である。
【0126】
(シート部を形成する水溶性高分子溶解液の調製)
デキストランを40質量%になるように水に溶解して、デキストランの40質量%水溶液を調製した。
【0127】
(薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液の充填及び乾燥)
円錐形状の凹部を持つモールドの孔パターン配列上に、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液を0.3mL滴下した後、耐圧容器の中に入れた。コンプレッサーから耐圧容器内に圧縮空気を注入し、耐圧容器内を0.35MPaの圧力で5分間保持した。このように圧力をかけることにより、気泡を除去し、型のニードル部の先端まで、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液を充填することが可能になる。充填後、モールドの針孔開口部パターン上に残った余分な薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液は回収し、25℃で1時間乾燥した。
【0128】
(シート部の形成及び乾燥)
薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液を充填及び乾燥したモールドの針孔開口部パターン上に、シート部を形成する水溶性高分子溶解液0.1gを滴下した後、耐圧容器の中に入れた。コンプレッサーから耐圧容器内に圧縮空気を注入し、耐圧容器内を0.35MPaの圧力で5分間保持した。このように圧力をかけることにより、気泡を除去し、型のニードル部に予め充填された、薬物、リポソーム及び塩を含む水溶性高分子溶解液の層と密着させることが可能となり、針部とシート部で構成された二層型マイクロニードルアレイを形成することが可能になる。また、モールドは堤防を有していることから、加圧時に、シート部を形成する水溶性高分子溶解液がモールドからはみ出すことがない。モールドを耐圧容器から取りだし、オーブンに投入して、35℃、18時間の乾燥処理を行った。
【0129】
(剥離工程)
乾燥固化したマイクロニードルアレイをモールドから慎重に剥離することで、針部とシート部とで構成されるマイクロニードルアレイが形成された。
【0130】
上記の通り、表1に記載した各リポソーム、表1に記載した各水溶性高分子及びエバンスブルーを用いて作製した各マイクロニードルアレイについて、リポソームのゼータ電位は表1に記載した通りであり、また針部のうちリポソームを含有する部分の塩の含有量は、表1に記載した通りである。
【0131】
(評価)
比較例7の処方で製造したマイクロニードルアレイの外観を
図22Aに示し、実施例1の処方で製造したマイクロニードルアレイの外観を
図22Bに示す。
リポソームを含有する針部の先端部における塩の含有量が2.5mmol/gより大きい比較例のマイクロニードルアレイ(
図22A)においては、色素が針部の下部まで拡散していた。一方、リポソームを含有する針部の先端部における塩の含有量が2.5mmol/g以下である本発明のマイクロニードルアレイ(
図22B)においては、色素が針の先端に集中しており、針部の下部への拡散は認められなかった。上記により、本発明の構成により、薬物(色素)を針部の先端に充填できることが示された。
【0132】
表1のろ過評価がA(90%以上通過)及びB(粗大物あるものの90%以上通過)について、各比較例及び各実施例の処方で製造したマイクロニードルアレイの外観についても、上記と同様に色素が錐台部113まで拡散しているかどうかについて評価した。
図22Aに示す比較例7と同様に色素が錐台部113まで拡散している場合の評価をBとし、
図22Bに示す実施例1と同様に色素が針部112に集中しており、錐台部113への拡散は認められない場合の評価をAとする。上記の評価の結果を表2に示す。
【0133】
【表2】