特許第6606874号(P6606874)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606874
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】光学部材および光学部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20191111BHJP
   G02B 5/00 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   C23C14/34 N
   G02B5/00 B
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-114555(P2015-114555)
(22)【出願日】2015年6月5日
(65)【公開番号】特開2017-2338(P2017-2338A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2018年2月14日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮坂 浩司
(72)【発明者】
【氏名】大澤 光生
(72)【発明者】
【氏名】青木 浩祐
【審査官】 神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−215225(JP,A)
【文献】 特開2005−315802(JP,A)
【文献】 特開昭61−064873(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/005437(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
G02B 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視領域の波長の光を透過する基材と、
前記基材の表面に設けられた遮光膜と、
前記遮光膜の一部が欠損した開口部
を備えた光学部材であって、
前記遮光膜は、前記開口部側に薄膜部を備え、
前記薄膜部は、平均物理膜厚が50nm以下であり、かつ幅が1μm以上であり、
前記遮光膜は、前記基材側から金属窒化物膜、金属膜、金属窒化物膜が順に形成された3層構造、または前記基材側から金属酸化物膜、金属膜、金属酸化物膜が順に形成された3層構造、または前記基材側から金属酸窒化物膜、金属膜、金属酸窒化物膜が順に形成された3層構造のいずれかの構造を有することを特徴とする光学部材。
【請求項2】
前記遮光膜は、前記基材の該遮光膜が形成されていない側から測定した波長380nm〜780nmの光の反射率の最大値が、20%以下である、請求項1に記載の光学部材。
【請求項3】
前記遮光膜は、前記3層構造の各膜を構成する金属、金属窒化物、金属酸化物、金属酸窒化物における金属がクロムである、請求項1または2に記載の光学部材。
【請求項4】
前記遮光膜は、前記基材との平均熱膨張係数(0〜300℃の温度範囲)の差が、100×10−7/℃以下である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項5】
前記遮光膜は、前記開口部との境界において膜厚が漸減する遷移領域部を備える、請求項1ないしのいずれか1項に記載の光学部材。
【請求項6】
可視領域の波長の光を透過する基材上に粘着層を形成する工程と、
前記粘着層の上に該粘着層と同一または大きいサイズのマスク層を形成する工程と、
前記粘着層および前記マスク層が配置された基材上に遮光膜を形成する工程と、
前記粘着層および前記マスク層を除去し、開口部を形成する工程
を備えることを特徴とする光学部材の製造方法。
【請求項7】
前記マスク層の外周から前記粘着層の外周までの距離が25〜250μmである、請求項に記載の光学部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源として発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を有するバックライト装置を搭載した透過型の液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)や、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ等の表示装置の前面に用いられるガラスや、固体撮像装置の透光窓などの光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
透過型の液晶ディスプレイにおいては、背面側にバックライトを配置し、このバックライトにより液晶ディスプレイの背面を照明することで、画像を表示させている。また、有機ELディスプレイでは、自発光する素子を用いて画像を表示させている。
【0003】
これらの表示装置においては、照明光等が表示装置の周囲から漏出するのを抑制するため、表示装置の周縁部に遮光膜が設けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、携帯電話機器においては、表示装置の裏面側に固体撮像装置(デジタルスチルカメラ)を備えているものが多い。固体撮像装置は、装置内部に設けられた固体撮像素子(典型的には、CMOSやCCD)が受光できるように、装置の最表面に円形の透光窓があり、透光窓の周囲は余計な光が入り込まないように遮光膜が設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−145655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した固体撮像装置の透光窓周囲の遮光膜は、被写体側に設けられることがある。被写体側に遮光膜を設けると、固体撮像装置の最表面側に遮光膜が位置する場合があり、装置の使用時に他の物体との接触による遮光膜の剥がれが懸念される。また、遮光膜を透光窓の固体撮像素子側に設けた場合であっても、遮光膜の上にさらに他の機能膜を形成した場合には、機能膜の膜応力に起因して遮光膜の剥がれが懸念される。これら遮光膜の剥がれの懸念は、表示装置でも同様に起こりうる。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、遮光膜が設けられた光学部材において、遮光膜が剥がれにくい光学部材および光学部材の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、遮光膜の開口部側に薄膜部を設けることで、遮光膜が剥がれにくい光学部材が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明の光学部材は、可視領域の波長の光を透過する基材と、前記基材の表面に設けられた遮光膜と、前記遮光膜の一部が欠損した開口部を備えた光学部材であって、前記遮光膜は、前記開口部側に薄膜部を備え、前記薄膜部は、平均物理膜厚が50nm以下であり、かつ幅が1μm以上であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の光学部材において、前記遮光膜は、前記基材の該遮光膜が形成されていない側から測定した波長380nm〜780nmの光の反射率の最大値が、20%以下であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の光学部材において、前記遮光膜は、前記基材側から金属窒化物膜、金属膜、金属窒化物膜が順に形成された3層構造、または前記基材側から金属酸化物膜、金属膜、金属酸化物膜が順に形成された3層構造、または前記基材側から金属酸窒化物膜、金属膜、金属酸窒化物膜が順に形成された3層構造のいずれかの構造を有することが好ましい。そして、この遮光膜は、前記3層構造の各膜を構成する金属、金属窒化物、金属酸化物、金属酸窒化物における金属がクロムであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の光学部材において、前記遮光膜は、前記基材との平均熱膨張係数(0〜300℃の温度範囲)の差が、100×10−7/℃以下であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の光学部材において、前記遮光膜は、前記開口部との境界において膜厚が漸減する遷移領域部を備えてもよい。
【0015】
本発明の光学部材の製造方法は、可視領域の波長の光を透過する基材上に粘着層を形成する工程と、前記粘着層の上に該粘着層と同一もしくは大きいサイズのマスク層を形成する工程と、前記粘着層および前記マスク層が配置された基材上に遮光膜を形成する工程と、前記粘着層および前記マスク層を除去し、開口部を形成する工程を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明の光学部材の製造方法において、前記マスク層の外周から前記粘着層の外周までの距離が25〜250μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、遮光膜が剥がれにくい光学部材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1の実施形態の光学部材の構成を概略的に示す断面図である。
図2】薄膜部を備えない光学部材の構成を概略的に示す断面図である。
図3】本発明の第2の実施形態の光学部材の構成を概略的に示す断面図である。
図4】本発明の光学部材の製造方法を説明するためのフローチャートである。
図5】本発明の光学部材の製造方法を説明するため断面図である。
図6】本発明の光学部材(実施例1)において、粘着層およびマスク層を剥離する前の断面を示す電子顕微鏡写真である。
図7】本発明の光学部材(実施例1)の遮光膜形成面(成膜面)および反対面(基板面)から測定した反射率を示すグラフである。
図8】本発明の光学部材(実施例1)の断面の電子顕微鏡写真である。
図9】本発明の光学部材(実施例2)の断面の電子顕微鏡写真である。
図10】本発明の光学部材(実施例2)の遮光膜の膜厚を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る光学部材の好適な実施形態について説明する。なお、以下の各実施形態に係る光学部材は、代表的な例示であって、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0020】
[第1の実施形態]
図1は、本発明の第1の実施形態の光学部材の構成を概略的に示す断面図である。
【0021】
図1に示すように、第1の実施形態の光学部材1は、基材11と、基材11表面に設けられた遮光膜12を備える。遮光膜12は、開口部15以外の基材11表面に設けられ、遮光膜12の本体部(開口部15との境界部分以外をいう。)から連続して開口部15との境界に設けられた薄膜部13と、開口部15に向けて物理膜厚が漸減する遷移領域部14を含む。
【0022】
基材11は、可視領域の波長の光を透過するもので、ガラスや樹脂からなる。ガラスとしては、ソーダライムガラス、ボロシリケートガラス、アルミノシリケートガラス、無アルカリガラス、フツリン酸ガラス、リン酸ガラス、透明結晶化ガラス等の、適宜の組成のものを用いることができる。光学部材1が用いられる用途で、高い強度が要求される場合は、ガラスに強化処理(物理強化処理や化学強化処理)を行った強化ガラスを用いてもよい。樹脂としては、ポリカーボネート、アクリル樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、COP(シクロオレフィンポリマー)樹脂等の適宜のものを用いることができる。
また、基材11は、典型的には板状であるが、曲面形状や表面に凹凸を備えるものであってもよい。
【0023】
遮光膜12は、基材11の表面に設けられる。基材11が例えば板状である場合、一方の表面(主面)または両方の表面に遮光膜12が設けられる。開口部15は、遮光膜12の一部が欠損したものであって、これにより可視領域の波長の光が透過する。遮光膜12と開口部15は、基材11の同一の表面に設けられる。
【0024】
遮光膜12は、それが形成された箇所の可視光の透過を抑制する層である。そのため、遮光膜12は、波長380nm〜780nmの光の平均透過率が5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。なお、遮光膜12の透過率は、基材11の遮光膜12を形成した側から測定した直線透過率をいう。
【0025】
光学部材1を機器の最表面に用いた場合、遮光膜12は、特定の色を呈しない、いわゆる漆黒であることが好ましい。そのため、遮光膜12は、基材11の遮光膜12が形成されていない側から測定した波長380nm〜780nmの光の反射率の最大値が、20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。
【0026】
遮光膜12は、基材11側から金属窒化物膜、金属膜、金属窒化物膜がこの順で形成された3層構造(以下、第1の構造という。)、または基材11側から金属酸化物膜、金属膜、金属酸化物膜がこの順で形成された3層構造(以下、第2の構造という。)、または基材側から金属酸窒化物膜、金属膜、金属酸窒化物膜がこの順で形成された3層構造(以下、第3の構造という。)のいずれかであることが好ましい。また、これらの3層構造の各膜を構成する材料である金属、金属窒化物、金属酸化物、金属酸窒化物において、金属はクロムであることが好ましい。すなわち、第1の構造は、窒化クロム膜、クロム膜、窒化クロム膜が順に形成された3層構造であり、第2の構造は、酸化クロム膜、クロム膜、酸化クロム膜が順に形成された3層構造であり、第3の構造は、酸窒化クロム膜、クロム膜、酸窒化クロム膜が順に形成された3層構造であることが好ましい。このような膜構成とすることで、物理膜厚が薄く可視光の遮蔽性が高い遮光膜12を得ることができる。
【0027】
遮光膜12の成膜方法としては、加熱蒸着法、スパッタリング法、イオンアシスト蒸着法などの公知の成膜方法を用いることができる。遮光膜12の好ましい成膜方法については後述する。
【0028】
遮光膜12は、該遮光膜12の一部が欠損した開口部15の側に、平均物理膜厚が50nm以下で幅が1μm以上の薄膜部13を備える。ここで、遮光膜12と開口部15との境界部分において、物理膜厚が急激に変化する(例えば、図2に示すように、遮光膜12の形状が、基材11に対して垂直に切り立った状態である)と、光学部材1の使用時に遮光膜12が外力を受けた場合、この遮光膜12が開口部15との境界部分から剥がれるおそれがある。
これに対して、開口部15側に、遮光膜12の本体部と連続した薄膜部13を備えることで、遮光膜12と基材11との密着面積が大きくなり、遮光膜12に応力が発生した場合でも、遮光膜12が開口部15との境界部分から剥がれることを抑制することができる。
【0029】
薄膜部13は、遮光膜12と開口部15との境界部分に位置する。薄膜部13は、平均物理膜厚が50nm以下であるため、膜自体の透過率が高く、開口部15における可視光の透過率を大きく低下させることがない。薄膜部13の物理膜厚は、50nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。また、薄膜部13は、幅が1μm以上であり、基材11と密着する面積が一定量確保されるため、基材11からの剥がれを抑制することができ、これにより薄膜部13と連続する遮光膜12(本体部)の基材11からの剥がれを抑制することができる。薄膜部13の幅は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましい。また、3μm以上であることが好ましい。
【0030】
遮光膜12は、開口部15との境界において膜厚が漸減する遷移領域部14を備えてもよい。遷移領域部14は、遮光膜12と開口部15との境界部分であって薄膜部13以外の膜厚が漸減する部分をいう。遮光膜12は、開口部15との境界において遷移領域部14を備えない場合、回折により開口部15を透過した光により形成される像にサイドローブが発生することがある。サイドローブとは、開口部15が円形の透穴であった場合、透過像に同心円上の濃淡が認識される現象である。遷移領域部14を備えることで、サイドローブを抑制することができる。
【0031】
遮光膜12は、基材11との平均熱膨張係数(0〜300℃の温度範囲)の差が、100×10−7/℃以下であることが好ましい。遮光膜12と基材11との平均熱膨張係数の差が、100×10−7/℃超であると、光学部材1が高温に曝された場合、熱膨張係数の差に起因して遮光膜12と基材11との界面に応力が生じ、基材11から遮光膜12が剥がれるおそれがある。遮光膜12は、基材11との平均熱膨張係数の差を100×10−7/℃以下とすることで、光学部材1が製造工程で高温に曝される場合であっても、基材11から遮光膜12が剥がれることを抑制することができる。遮光膜12と基材11との平均熱膨張係数の差は、50×10−7/℃以下とすることがより好ましい。
【0032】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る光学部材2について、図3を用いて説明する。
図3は、本発明の第2の実施形態の光学部材2の構成を概略的に示す断面図である。なお、本実施形態は、第1の実施形態の変形例であって、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して重複説明を省略する。
【0033】
第2の実施形態は、遮光膜12が遷移領域部を備えない点で、第1の実施形態と相違する。本実施形態においても、遮光膜12は開口部15側に薄膜部13を備えるため、遮光膜12に外力が加えられたとしても、基材11から遮光膜12が剥がれるのを抑制することができる。
【0034】
次に、本発明の光学部材の製造方法について説明する。
【0035】
本発明の光学部材の製造方法は、図4に示すように、基材上に開口部を形成するための粘着層を形成する工程と、粘着層の上にマスク層を形成する工程と、粘着層およびマスク層が配置された基材上に、薄膜部を含む遮光膜を形成する工程と、前記粘着層および前記マスク層を除去する工程とを備える。この製造方法により、基材から遮光膜が剥がれにくい光学部材を得ることができる。
【0036】
開口部を形成するための粘着層を作成する工程においては、図5(a)に示すように、基材11の表面に、所望の開口部と略同一形状の粘着層21を形成する。粘着層21としては、基材11との密着性が得られるものであれば、公知の材料を用いることができる。また、粘着層21として、粘着シートを所望の形状に打ち抜いたものを貼り付けてもよいし、粘着剤を印刷手段を用いて基材11上に塗布し、次いで固化させることで、複数個の粘着層21を同時に設けてもよい。粘着層21を構成する材料としては、シリコーンやアクリル樹脂等を用いることができる。粘着層21の厚さは、遮光膜の厚さによって適宜調整される。所定の形状に作成された粘着層21は、それだけを基材11に貼り付けてもよいし、後述するマスク層と一体化したうえで、基材11に貼り付けてもよい。
【0037】
マスク層を形成する工程においては、図5(b)に示すように、粘着層21の上に、該粘着層21と同一サイズまたは大きいサイズのマスク層22を形成する。この工程は、所望の形状およびサイズのマスク層22を作成し、粘着層21と一体化する工程を含む。粘着層21の上にその粘着層21と同一サイズのマスク層22を設けた場合には、後述する図6に示すように、粘着層21の外周がめくれ上がり、粘着層21と基材11との間に空間23が形成される。また、粘着層21の上にその粘着層21よりも大きいサイズのマスク層22を設けた場合には、図5(b)に示すように、マスク層22の一部(外周部)が粘着層21から飛び出るような位置関係となり、マスク層22と基材11との間に粘着層21がない空間23が形成される。
【0038】
マスク層22としては、シート状の樹脂や金属等を用いることができる。また、マスク層22は、次工程の遮光膜12を形成する工程で、粘着層21から飛び出した部分が変形しないものであることが好ましい。所定の形状に作成されたマスク層22を、基材11上に設けられた粘着層21の上に貼り付けてもよいし、前述のとおり、マスク層22と粘着層21を一体化したものを基材11に貼り付けてもよい。
【0039】
粘着層21よりも大きいサイズのマスク層22を設けた場合に形成される、前記粘着層21がない空間23について、マスク層22の外周から粘着層21の外周までの距離(マスク層22の外周部の粘着層21からの飛び出し長さ)が、25〜250μmであることが好ましい。この距離が25μm未満であると、次工程の遮光膜を形成する工程で得られる薄膜部の面積が小さく、遮光膜の剥がれを抑制する効果が小さい。また、この距離が250μm超であると、得られる薄膜部の面積が大きく遮光膜の剥がれを抑制する効果は大きいものの、マスク層22の粘着層21から飛び出した部分が、遮光膜を形成する工程で変形し、所望の薄膜部が得られないおそれがある。マスク層22の外周から粘着層21の外周までの距離は、30〜200μmであることがより好ましい。
【0040】
次いで、遮光膜を形成する工程において、図5(c)に示すように、粘着層21およびマスク層22が形成された基材11上に、加熱蒸着法、スパッタリング法、イオンアシスト蒸着法等の公知の成膜方法を用いて遮光膜12を形成する。この工程においては、マスク層22と基材11との間の粘着層21がない空間23にも、遮光膜12を構成する膜物質が回り込むことになる。そのため、マスク層22と基材11との間の粘着層21がない空間23の直下にある基材11には、マスク層22がない箇所と比べて物理膜厚が非常に薄い薄膜部13が、遮光膜12と連続して形成される。薄膜部13は、物理膜厚が非常に薄いため、開口部の可視光の透過への影響が限定的であり、かつ遮光膜12の剥がれを抑制することができる。
【0041】
次いで、粘着層21およびマスク層22を除去する工程において、遮光膜12が形成された基材11から粘着層21およびマスク層22が除去され、図5(d)に示す光学部材1が得られる。こうして、遮光膜12の剥がれが抑制された光学部材1を得ることができる。
【0042】
本発明の光学部材は、固体撮像装置の被写体側のカバー部材として好適に用いることができる。このようなカバー部材は、携帯型電子機器の筺体の一部に嵌め込まれて用いられる。携帯型電子機器としては、携帯電話、PHS(Personal Handy-phone System)、スマートフォン、PDA(Personal Data Assistance)、PND(Portable Navigation Device、携帯型カーナビゲーションシステム)等が挙げられる。
【0043】
また、本発明の光学部材は、表示装置付き機器の表示装置の前面部材として用いることもできる。表示装置付き機器としては、前述の携帯型電子機器の他、携帯ラジオ、携帯テレビ、ワンセグ受信機、デジタルカメラ、ビデオカメラ、携帯音楽プレーヤー、サウンドレコーダー、ポータブルDVDプレーヤー、携帯ゲーム機、ノートパソコン、タブレットPC、電子辞書、電子手帳、電子書籍リーダー、携帯プリンター、携帯スキャナ等が挙げられる。また、据え置き型電子機器や自動車に内装される電子機器にも利用できる。なお、表示装置付き機器はこれら例示の機器に限定されるものではない。
【0044】
以上本発明の実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。本発明の趣旨に反しない限度において、また必要に応じて適宜構成を変更することができる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例に基づいて本発明を説明する。
【0046】
(実施例1)
まず、ガラス基板(ソーダライムガラス、板厚:5mm)を用意した。このガラス基板上に、PETフィルム(マスク層、直径:5mm、厚さ:0.1mm)と粘着剤(粘着層、直径:5mm、厚さ:0.03mm)からなる円形のマスクシール(粘着剤付きマスクシール)を貼り付けた。
次いで、マスクシールが貼り付けられたガラス基板側から酸窒化クロム(45nm)、クロム(130nm)、酸窒化クロム(55nm)の順で、スパッタリング法により括弧内に示す厚さで成膜し、遮光膜を形成した。こうして遮光膜が形成されたガラス基板の断面を、電子顕微鏡で観察したところ、図6に示すように、粘着層21の下に高さ16μm、幅66μmの空間23が形成されていた。図6において、符号11は基材(ガラス基板)、符号12は遮光膜、符号22はマスク層をそれぞれ示す。
【0047】
次に、マスクシールをガラス基板から除去した。そして、ガラス基板の遮光膜形成面(成膜面ともいう。)、および遮光膜形成面と反対面(基板面ともいう。)から反射率を測定した。測定結果を図7に示す。また、ガラス基板上の遮光膜の断面を電子顕微鏡によって観察したところ、図8に示すように、遷移領域部14と幅1μm以上の薄膜部13が観察された。
【0048】
(実施例2)
ガラス基板(旭硝子社製、商品名:EN−A1、板厚:0.2mm)を用意した。このガラス基板上に、マスク層と粘着層が一体となった樹脂体を形成した。
次いで、ガラス基板側から酸窒化クロム(45nm)、クロム(130nm)、酸窒化クロム(55nm)の順で、スパッタリング法により括弧内に示す厚さで成膜し、前記マスク層と粘着層が形成されたガラス基板上に遮光膜を形成した。
【0049】
次に、粘着層およびマスク層をガラス基板から除去した。
次いで、ガラス基板上の遮光膜の断面を電子顕微鏡によって観察したところ、図9に示すように、遷移領域部14と幅1μm以上の薄膜部13が観察された。また、この電子顕微鏡写真から遮光膜の膜厚を求めたところ、図10に示すグラフを得た。図10のグラフから求められた薄膜部の幅は、3μm以上であった。
【0050】
次に、実施例1および実施例2で得られた遮光膜付きガラス基板の膜密着性を、以下の方法で評価した。
<遮光膜の密着性試験>
ガラス基板の遮光膜が形成された面に、開口部を含むように粘着テープ(JIS Z1522で規定された、幅18mmの粘着テープ)を貼り付けた後、この粘着テープを遮光膜の膜面と垂直方向に強く引っ張り、瞬間的に引き剥がした。そして、遮光膜の剥がれの有無を確認した。
【0051】
実施例1および実施例2で得られた遮光膜付きガラス基板について、上記膜密着性試験を行ったが、遮光膜の剥がれは観察されなかった。
これらの評価結果より、実施例1および実施例2の遮光膜は、ガラス基板との膜密着性が高く、開口部との境界において膜剥がれが発生しにくいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明によれば、遮光膜が剥がれにくい光学部材を得ることができる。
【符号の説明】
【0053】
1,2…光学部材、11…基材、12…遮光膜、13…薄膜部、14…遷移領域部、15…開口部、21…粘着層、22…マスク層、23…空間。
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