(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記エポキシ樹脂が、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびナフトールノボラック型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のSm系ボンド磁石用樹脂コンパウンド。
溶媒に溶解したエポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)および硬化促進剤(C)を混合して樹脂組成物を調製する第1の工程、Smを含む希土類磁石用粉末(D)を前記樹脂組成物と混合および乾燥してSm系樹脂コンパウンドを作製する第2の工程、前記Sm系樹脂コンパウンドを圧縮成形して、圧縮成形体を作製する第3の工程、および前記圧縮成形体を熱処理する第4の工程を含み、前記硬化促進剤(C)が下記一般式(1)で表されるボレート塩および下記一般式(2)で表されるボラン化合物の少なくとも1種である、Sm系ボンド磁石の製造方法。
X+ B−(R)4 (1)
(式(1)中、Bはホウ素を示し、Xはアルキルホスホニウム塩、アリールホスホニウム塩、イミダゾールまたはイミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩および4級アンモニウム塩の少なくとも1種を示し、Rはアルキル基、アリール基およびフルオロ基からなる群から選択される1種を示す。)
Y・B(R)3 (2)
(式(2)中、Bはホウ素を示し、Yはアルキルホスフィン、アリールホスフィン、イミダゾールまたはイミダゾール誘導体および3級アミンの少なくとも1種を示し、Rはアルキル基、アリール基およびフルオロ基からなる群から選択される1種を示す。)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明者らは、特許文献1〜3に記載されているバインダー材を検討したが、検討したバインダー材はいずれも保存安定性に劣っており、特許文献1〜3に記載されているバインダー材の中から、高温における機械的強度と保存安定性との両方を満足するバインダー材は見出されなかった。
【0008】
一般に加熱硬化型の硬化剤を使用するエポキシ樹脂の硬化系において、その硬化反応が比較的容易に進行するのは稀(例えば、芳香族ポリアミンを選択した場合)であり、ほとんどの場合には、硬化反応の速度を速めて樹脂組成物の硬さや強度を高めるために硬化促進剤を併用する。発明者らが、検討した結果、アミン系やトリフェニルホスフィン等のリン系触媒、スルホニウム塩のような一般的な硬化促進剤では、ボンド磁石に必要とされる硬化特性を満足することができても、
コンパウンド中の樹脂組成物のポットライフ(長期保存安定性)が不十分あることになることが分かった。特に、夏場のような高温・高湿環境下で保管されたコンパウンドを使用すると、コンパウンドが希土類磁石用粉末の表面に付着しているコンパウンド粒子間のブロッキングによって粉体の流れ性が低下して成形不良を起こしたり、樹脂組成物の所望の硬化特性やボンド磁石の所望の機械的強度が得られなかったりすることが分かった。
【0009】
そこで、本発明は、高温高湿の環境下における保存安定性が良好であるボンド磁石用樹脂コンパウンド、およびそのボンド磁石用樹脂コンパウンドを用いて作製したボンド磁石、並びにその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)および硬化促進剤(C)を配合してなる樹脂組成物と、Smを含む希土類磁石用粉末(D)とを含むSm系ボンド磁石用樹脂コンパウンドにおいて、所定の硬化促進剤を用いることによって、ボンド磁石用樹脂コンパウンドの高温高湿の環境下における保存安定性が飛躍的に改善されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下のとおりである。
【0011】
[1]エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)および硬化促進剤(C)を配合してなる樹脂組成物と、Smを含む希土類磁石用粉末(D)とを含み、硬化促進剤(C)が、ボレート塩およびボラン化合物の少なくとも1種であるSm系希土類ボンド磁石用樹脂コンパウンド。
【0012】
[2]硬化促進剤(C)のボレート塩が、下記一般式(1)で表されるボレート塩である上記[1]に記載のSm系希土類ボンド磁石用樹脂コンパウンド。
【0013】
X
+ B
−(R)
4 (1)
(式(1)中、Bはホウ素を示し、Xはアルキルホスホニウム塩、アリールホスホニウム塩、イミダゾールまたはイミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩および4級アンモニウム塩の少なくとも1種を示し、Rはアルキル基、アリール基およびフルオロ基からなる群から選択される1種を示す。)
[3]硬化促進剤(C)のボラン化合物が、下記一般式(2)で表されるボラン化合物である上記[1]に記載のSm系希土類ボンド磁石用樹脂コンパウンド。
【0014】
Y・B(R)
3 (2)
(式(2)中、Bはホウ素を示し、Yはアルキルホスフィン、アリールホスフィン、イミダゾールまたはイミダゾール誘導体および3級アミンの少なくとも1種を示し、Rはアルキル基、アリール基およびフルオロ基からなる群から選択される1種を示す。)
[4]硬化促進剤(C)の含有量が、Smを含む希土類磁石用粉末(D)100質量部に対し、0.000001質量部以上0.6質量部以下である上記[1]〜[3]のいずれか1つに記載のSm系希土類ボンド磁石用樹脂コンパウンド。
【0015】
[5]エポキシ樹脂が、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびナフトールノボラック型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載のSm系希土類ボンド磁石用樹脂コンパウンド。
【0016】
[6]エポキシ樹脂が、サリチルアルデヒドノボラック型構造を有する上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載のSm系希土類ボンド磁石用樹脂コンパウンド。
【0017】
[7]硬化剤(B)がフェノール樹脂であり、エポキシ樹脂(A)のエポキシ基1当量に対するエポキシ樹脂(A)のエポキシ基と反応する硬化剤(B)中の活性基の比率が0.5以上1.5以下である上記[1]〜[6]のいずれか1つに記載のSm系希土類ボンド磁石用樹脂コンパウンド。
【0018】
[8]上記[1]〜[7]のいずれか1つに記載のSm系希土類ボンド磁石用樹脂コンパウンドを用いてなるSm系希土類ボンド磁石。
【0019】
[9]溶媒に溶解したエポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)および硬化促進剤(C)を混合して樹脂組成物を調製する第1の工程、Smを含む希土類磁石用粉末(D)を樹脂組成物と混合および乾燥して樹脂コンパウンドを作製する第2の工程、樹脂コンパウンドを圧縮成形して、圧縮成形体を作製する第3の工程、および圧縮成形体を熱処理する第4の工程を含み、硬化促進剤(C)がボレート塩およびボラン化合物の少なくとも1種である、Sm系希土類ボンド磁石の製造方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、高温高湿の環境下における保存安定性が良好であるSm系ボンド磁石用樹脂コンパウンド、そのSm系ボンド磁石用樹脂コンパウンドを用いて作製したSm系ボンド磁石、およびそのSm系ボンド磁石の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドは、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、硬化促進剤(C)およびSmを含む希土類磁石用粉末(D)を必須成分とし、硬化促進剤(C)がボレート塩およびボラン化合物の少なくとも1種である。
【0023】
以下、本発明のボンド磁石用コンパウンドの構成要素、製造方法、およびボンド磁石としての必要項目等について順に説明する。
【0024】
[樹脂組成物]
本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドに用いる樹脂組成物は、上述したように、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)および硬化促進剤(C)を配合してなるものである。樹脂組成物は、ボンド磁石を構成するSmを含む希土類磁石用粉末(D)を結合させるバインダー材としての機能を有し、機械的強度の源となる。樹脂組成物とSmを含む希土類磁石用粉末(D)とを混合することでSmを含む希土類磁石用粉末(D)表面を樹脂組成物で被覆する。なお、樹脂組成物は、希土類磁石用粉末表面全体を被覆していてもよいし、部分的に被覆してもよい。希土類磁石用粉末表面を被覆している樹脂組成物は、ボンド磁石用樹脂コンパウンドを金型中で圧縮成形しているとき、粉末間の隙間に充填し、磁粉同士が結着する。そして、その後の加熱工程を経ることで強固な結合を生み出す。
【0025】
(エポキシ樹脂(A))
本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドの樹脂組成物に使用するエポキシ樹脂(A)は、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であれば特に限定されない。エポキシ樹脂(A)の具体例としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ジフェニルメタン型エポキシ樹脂、硫黄原子含有型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂およびナフトールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂等のサリチルアルデヒド型エポキシ樹脂、ナフトール類とフェノール類との共重合型エポキシ樹脂、アラルキル型フェノール樹脂のエポキシ化物、ビスフェノール型エポキシ樹脂、アルコール類のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、パラキシリレンおよび/またはメタキシリレン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、テルペン変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、シクロペンタジエン型エポキシ樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ナフタレン環含有フェノール樹脂のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジル型またはメチルグリシジル型のエポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、ハロゲン化フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、トリメチロールプロパン型エポキシ樹脂およびオレフィン結合を過酢酸等の過酸で酸化して得られる線状脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
エポキシ樹脂(A)は、耐水性、耐溶剤性および耐オイル性の観点から、好ましくはビフェニル型エポキシ樹脂である。市販されているビフェニル型エポキシ樹脂としては、例えば、ジャパンエポキシレジン(株)製のYX−4000、YX−4000H、YL−6121H、YX7399等が挙げられる。
【0027】
また、エポキシ樹脂(A)は、高温機械的強度の観点から、好ましくはフェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、およびナフトールノボラック型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種である。これらのエポキシ樹脂(A)の中で市販されているものでは、例えば、住友化学(株)製のESCN−190、ESCN−195等や、DIC(株)製のフェノールノボラック型エポキシ樹脂(N−730A、N−740、N−770、N−775、N−740−80M、N−770−70M、N−865、N−865−80M)、三菱化学(株)製のフェノールノボラック型エポキシ樹脂(152、154、157S70)、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(N−660、N−665、N−670、N−673、N−680、N−690、N−695、N−665−EXP、N−672−EXP、N−655−EXP−S、N−662−EXP−S、N−665−EXP−S、N−670−EXP−S、N−685−EXP−S、N−673−80M、N−680−75M、N−690−75M)等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0028】
ボンド磁石用樹脂コンパウンドにおける必要特性の一つとして、ボンド磁石用樹脂コンパウンド(粉体)の良好な流れ性が挙げられる。このボンド磁石用樹脂コンパウンドの良好な流れ性と優れた硬化特性との両立という観点からは、エポキシ樹脂(A)は、好ましくはサリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂である。サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂とは、例えば、下記一般式(3)で示されるエポキシ樹脂である。下記一般式(3)で示されるエポキシ樹脂の中で市販されているものには、例えば、日本化薬(株)製の商品名「EPPN−5001H」(エポキシ当量162グラム/eq.以上172グラム/eq.以下、軟化点51℃以上57℃以下)、EPPN−501HY(エポキシ当量163グラム/eq.以上175グラム/eq.以下、軟化点57℃以上63℃以下)、EPPN−502H(エポキシ当量158グラム/eq.以上178グラム/eq.以下、軟化点60℃以上72℃以下)、EPPN−503(エポキシ当量170グラム/eq.以上190g/eq.以下、軟化点80℃以上100℃以下)三菱化学(株)製の1032H60等が挙げられる。
【0030】
(式(3)中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、炭素数1以上18以下の1価の有機基を示し、それぞれ全てが同一でも異なっていてもよく、iは0以上3以下の整数、kは0以上4以下の整数、nは0以上20以下の整数、小数または帯小数を示し、iおよびkはそれぞれ全て同一でも異なっていてもよい。)
【0031】
(硬化剤(B))
耐熱性の観点から、本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドの樹脂組成物に用いる硬化剤(B)は、好ましくはフェノール樹脂である。硬化剤(B)は、脂肪族ポリアミンやポリアミノアミド、ポリメルカプタンのような低温〜室温で硬化するタイプと、芳香族ポリアミンや酸無水物、フェノールノボラック樹脂、ジシアンジアミド(DICY)のように加熱しないと硬化しない加熱硬化タイプとに分類される。一般的には、低温〜室温硬化タイプの硬化剤で硬化させたエポキシ樹脂は、ガラス転移点が低く、軟らかい硬化物となるため、本発明の用途には好ましくない。そのため、硬化剤(B)は、好ましくは加熱硬化タイプの硬化剤であり、より好ましくはフェノールノボラック樹脂である。フェノールノボラック樹脂を硬化剤(B)として用いることでガラス転移点が高い樹脂硬化物が得られるため、耐熱性や機械的強度に優れたボンド磁石を製造することができる。
【0032】
フェノール樹脂硬化剤には、例えば、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物、アラルキル型フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型フェノール樹脂、サリチルアルデヒド型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ベンズアルデヒド型フェノールとアラルキル型フェノールとの共重合型フェノール樹脂、パラキシリレンおよび/またはメタキシリレン変性フェノール樹脂、メラミン変性フェノール樹脂、テルペン変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエン型ナフトール樹脂、シクロペンタジエン変性フェノール樹脂、多環芳香環変性フェノール樹脂、ビフェニル型フェノール樹脂、トリフェニルメタン型フェノール樹脂、並びにこれらの2種以上を共重合して得たフェノール樹脂等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、1分子中に2個のフェノール性水酸基を有する化合物には、例えば、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールFおよび置換または非置換のビフェノール等が挙げられる
【0033】
フェノールノボラック樹脂には、例えば、フェノール、クレゾール、キシレノール、レゾルシン、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、フェニルフェノールおよびアミノフェノール等のフェノール類および/またはα−ナフトール、β−ナフトールおよびジヒドロキシナフタレン等のナフトール類とホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ベンズアルデヒドおよびサリチルアルデヒド等のアルデヒド類とを酸性触媒下で縮合または共縮合させて得られるものなどが挙げられる。フェノールノボラック樹脂の中で市販されているものには、例えば、荒川化学工業(株)製のタマノル758、759や、日立化成(株)製のHP−850N等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドの樹脂組成物において、エポキシ樹脂(A)中のエポキシ基1当量に対して、当該エポキシ基と反応する硬化剤(B)中の活性基(例えば、フェノール性水酸基)の比率は、好ましくは0.5以上1.5以下であり、より好ましくは0.7以上1.0以下である。上記活性基の比率が0.5以上1.5以下であると、樹脂組成物の硬化速度を大きくしたり、得られる硬化体のガラス転移温度を高くしたり、充分な弾性率が得られるようになるとともに、硬化後の樹脂成形品の強度が低下することを抑制できる。
【0035】
(硬化促進剤(C))
本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドの樹脂組成物に用いる硬化促進剤(C)はボレート塩およびボラン化合物の少なくとも1種である。これにより、高温高湿の環境下における保存安定性が良好であるボンド磁石用樹脂コンパウンドを得ることができる。ここで、高温高湿の環境下とは、例えば、温度が40℃であり、相対湿度が90%の環境下である。硬化促進剤(C)はボレート塩およびボラン化合物であってもよいし、硬化促進剤(C)はボレート塩またはボラン化合物であってもよい。
【0036】
高温高湿の環境下における保存安定性がより良好になるという観点から、本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドの樹脂組成物に用いる硬化促進剤(C)ボレート塩は、好ましくは下記一般式(1)で表されるボレート塩である。
【0037】
X
+ B
−(R)
4 (1)
(式(1)中、Bはホウ素を示し、Xはアルキルホスホニウム塩、アリールホスホニウム塩、イミダゾールまたはイミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩および4級アンモニウム塩の少なくとも1種を示し、Rはアルキル基、アリール基およびフルオロ基からなる群から選択される1種を示す。)
【0038】
上記一般式(1)のボレート塩を硬化促進剤(C)として用いることにより、ボンド磁石の機械的強度をさらに改善するとともに、本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドの高温高湿の環境下における保存安定性がさらに良好になる。
【0039】
一般にイミダゾール系の硬化促進剤を用いた場合、エポキシ樹脂が単独で硬化反応を引き起こしやすい。また、ホスフィン系の硬化促進剤を用いた場合、エポキシ樹脂の単独硬化は引き起こさないものの、エポキシ樹脂とホスフィンとが反応してクライゼン転位反応が進行する前に触媒活性が低下または失活することがある。これに対し、本発明の硬化促進剤(C)として用いたボレート塩は、エポキシ樹脂の単独硬化の触媒活性が低く、かつ、クライゼン転位反応が進行する200℃付近まで触媒活性を失わない。このために、上記一般式(1)で表されるボレート塩を硬化促進剤(C)として好適に使用することができる。
【0040】
上記一般式(1)のXのアルキルホスホニウム塩は、好ましくは3つまたは4つのアルキル基を有するホスホニウム塩である。 それぞれのアルキル基は、独立に、好ましくはC
2〜C
20のアルキル基であり、より好ましくはC
4〜C
16のアルキル基である。また、アリールホスホニウム塩は、好ましくは3つまたは4つの、置換してもよいフェニル基を有するホスホニウム塩である。
【0041】
上記一般式(1)のRのアルキル基は、好ましくはC
2〜C
20のアルキル基であり、より好ましくはC
4〜C
16のアルキル基である。また、上記一般式(1)のRのアリール基は、好ましくは置換してもよいフェニル基である。
【0042】
硬化促進剤(C)として用いられる、一般式(1)で示されるボレート塩のうち、Xがアルキルホスホニウム塩またはアリールホスホニウム塩であるものの具体例としては、例えば、テトラフェニルホスホニウムテトラ―p―トリルボレート、テトラ−n−ブチルホスホニウムテトラフルオロボレート、n−ヘキサドデシルトリ−n−ブチルホスホニウムテトラフルオロボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフルオロボレート、テトラ−n−ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ−4−メチルフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ−4−フルオロフェニルボレート、トリ−tert−ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、およびトリ−tert−ブチルホスホニウムテトラフルオロボレート等が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して使用することもできる。ただし、これらのボレート塩の中には、保存安定性に優れるが、樹脂への溶解性に乏しく、例えば硬化剤(B)等と予め反応させてから用いる必要があるものもある。また、これらのボレート塩の中には、200℃以上に加熱された場合、熱分解によりベンゼンガスが発生するものもある。環境面や溶解性の観点からは、硬化促進剤(C)として用いる一般式(1)で示されるボレート塩は、好ましくはテトラフェニルホスホニウムテトラ―p―トリルボレート、テトラ−n−ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートおよびトリ−tert−ブチルホスホニウムテトラフルオロボレートからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0043】
硬化促進剤(C)として用いられる、一般式(1)で示されるボレート塩のうち、Xがイミダゾール若しくはイミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩または4級アンモニウム塩であるものの具体例としては、例えば、(a)2−エチル−4−メチル−イミダゾールテトラフェニルボレート、(b)1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7−テトラフェニルボレート、(c)1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5−テトラフェニルボレート、(d)テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート等が例示できる。上記テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートと同等の硬化促進作用を示すだけでなく、Xがイミダゾール若しくはイミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩または4級アンモニウム塩である上記ボレート塩の中で、溶解性や熱安定性に特に優れるという観点から、Xがイミダゾール若しくはイミダゾール誘導体の塩、3級アミン塩または4級アンモニウム塩である硬化促進剤(C)として用いられる、一般式(1)で示されるボレート塩は、好ましくは(c)1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5−テトラフェニルボレートおよび(d)テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレートからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0045】
なお、上記式(a)の「Me−」はメチル基を示し、「Et−」はエチル基を示し、上記式(d)の「Bu−」はブチル基(CH
3(CH
2)
3−)を示す。
【0046】
また、高温高湿の環境下における保存安定性がより良好になるという観点から、本発明の希土類ボンド磁石用樹脂コンパウンドの樹脂組成物に用いる硬化促進剤(C)のボラン化合物は、好ましくは下記一般式(2)で表されるボラン化合物である。
【0047】
Y・B(R)
3 (2)
(式(2)中、Bはホウ素を示し、Yはアルキルホスフィン、アリールホスフィン、イミダゾールまたはイミダゾール誘導体および3級アミンの少なくとも1種を示し、Rはアルキル基、アリール基およびフルオロ基からなる群から選択される1種を示す。)
【0048】
上記一般式(2)のYのアルキルホスフィンは、好ましくは3つのアルキル基を有するホスフィンである。それぞれのアルキル基は、独立に、好ましくはC
2〜C
20のアルキル基であり、より好ましくはC
4〜C
16のアルキル基である。また、アリールホスフィンは、好ましくは3つの、置換してもよいフェニル基を有するホスフィンである。
【0049】
上記一般式(2)のRのアルキル基は、好ましくはC
2〜C
20のアルキル基であり、より好ましくはC
4〜C
16のアルキル基である。また、上記一般式(2)のRのアリール基は、好ましくは置換してもよいフェニル基である。
【0050】
硬化促進剤(C)として用いられる、一般式(2)で示されるボラン化合物のうち、Yがアルキルホスフィンまたはアリールホスフィンあるものの具体例としては、例えば、トリフェニルホスフィントリ―p―トリルボラン、トリ−n−ブチルホスフィントリフルオロボラン、n−ヘキサドデシルジ−n−ブチルホスフィントリフルオロボラン、トリフェニルホスフィントリフルオロボラン、トリ−n−ブチルホスフィントリフェニルボラン、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、トリフェニルホスフィントリ−4−メチルフェニルボラン、トリフェニルホスフィントリ−4−フルオロフェニルボラン、トリ−tert−ブチルホスフィントリフェニルボラン、トリ−tert−ブチルホスフィントリフルオロボラン等が挙げられる。これらは単独または2種以上を混合して使用することもできる。ただし、これらのボラン化合物の中には、保存安定性に優れるが、樹脂への溶解性に乏しく、例えば硬化剤(B)等と予め反応させてから用いる必要があるものもある。また、これらのボラン化合物の中には、200℃以上に加熱された場合、熱分解によりベンゼンガスが発生するものもある。環境面や溶解性の観点からは、硬化促進剤(C)として用いる一般式(2)で示されるボラン化合物は、好ましくはトリフェニルホスフィントリ―p―トリルボラン、トリ−n−ブチルホスフィントリフェニルボラン、トリフェニルホスフィントリフェニルボランおよびトリ−tert−ブチルホスフィントリフルオロボランからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0051】
硬化促進剤(C)として用いられる、一般式(4)で示されるボラン化合物のうち、Yがイミダゾール若しくはイミダゾール誘導体または3級アミン塩であるものの具体例としては、例えば、(e)2−エチル−4−メチル−イミダゾールトリフェニルボラン、(f)1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7−トリフェニルボラン、(g)1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5−トリフェニルボラン等が例示できる。上記テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレートと同等の硬化促進作用を示すだけでなく、Yがイミダゾール若しくはイミダゾール誘導体または3級アミンである上記ボラン化合物の中で、溶解性や熱安定性に特に優れるという観点から、Yがイミダゾール若しくはイミダゾール誘導体または3級アミンである硬化促進剤(C)として用いられる、一般式(2)で示されるボラン化合物は、好ましくは(g)1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5−トリフェニルボランである。
【0053】
本発明のボンド磁石樹脂用コンパウンドにおける硬化促進剤(C)の配合量は、硬化促進効果が達成できれば特に制限はない。しかし、樹脂組成物の吸湿時の硬化性および流動性における改善の観点からは、ボンド磁石用粉末(D)100質量部に対し、硬化促進剤(C)の配合量は、好ましくは0.000001質量部以上0.6質量部以下であり、より好ましくは0.001質量部以上0.3質量部以下である。なお、上述の列挙された硬化促進剤(C)を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、上述の列挙された硬化促進剤(C)以外の硬化促進剤を上述の列挙された硬化促進剤(C)と一緒に使用してもよい。
【0054】
本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドには、硬化促進剤(C)由来のホウ素(またはホウ素化合物)が存在する。本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドにおけるホウ素の含有量は以下のようにして測定できる。本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドを酸素雰囲気下にて高温で燃焼させる。そして、燃焼ガスを水の中に通過させて、燃焼ガス中のホウ素を水にトラップさせる。水中のトラップされたホウ素は、水中でホウ酸イオンとして存在する。水中のホウ酸の濃度は、ホウ酸イオンを吸着するキレート樹脂を用いて測定することができる。また、ICP発光分光分析法によっても水中のホウ酸の濃度を測定できる。そして、測定した水中のホウ酸の濃度に基づいて、本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドにおけるホウ素の含有量を算出できる。また、ボンド磁石用樹脂コンパウンドにおける硬化促進剤由来のホウ素を定量する手法としては、王水等の強酸でボンド磁石用樹脂コンパウンド中の希土類磁石用粉末を溶解させ、回収した(ホウ素含有の)不溶物を固体NMR分析にて分析することでホウ素成分を分析する方法もある。
【0055】
(Smを含む希土類磁石用粉末(D))
本発明のSm系ボンド磁石用樹脂コンパウンドに用いる希土類磁石用粉末(D)は、Smを含む希土類磁石用粉末であればいかなるものも使用できる。具体的には、Sm−Fe−N系磁石粉(Sm
2Fe
17N
3やSm
1Fe
7N
x等)、Sm−Fe−B系磁石粉、Sm−Co系磁石粉(SmCo
5等の1−5系やSm
2Co
17等の2−17系)、Sm−Co−N系磁石粉、Sm−Co−B系磁石粉などが挙げられる。その中でも特に保磁力と磁束密度のバランスに優れるSm−Fe―N系磁石粉が好適である。
【0056】
Sm(サマリウム)系磁石は、Nd(ネオジウム)系磁石には磁力で及ばないものの、磁性がなくなる温度であるキュリー温度が700〜800℃と非常に高い。これにより最大で350℃程度までの環境でも使用できるため、高温となる使用環境下での用途に適している。また、耐食性にも優れるためNd系磁石のような表面コーティングが不要である。
【0057】
Smを含む希土類磁石用粉末(D)の平均粒子径(D
50)は、好ましくは1μm以上100μm以下であり、より好ましくは1μm以上50μm以下、更に好ましくは、1μm以上20μm以下である。希土類磁石用粉末(D)の粒度分布は、例えば、ふるい分けによる重量測定やレーザー回折等の粒度分布測定装置(機器分析)によって測定できる。
【0058】
(保存安定性)
本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドは、上記硬化促進剤(C)を用いることにより優れた保存安定性を有する。本明細書に記載のボンド磁石用樹脂コンパウンドの保存安定性は、所定時間保管されたボンド磁石用樹脂コンパウンドを用いて作製したボンド磁石(熱処理後の圧粉成形体)の圧壊強度や抗折強度と、保管時間が非常に短いボンド磁石用樹脂コンパウンド(例えば、作製直後のボンド磁石用樹脂コンパウンド)を用いて作製したボンド磁石(熱処理後の圧粉成形体)の圧壊強度や抗折強度とを比較することにより評価することができる。ボンド磁石用樹脂コンパウンドを所定時間保管しても、そのボンド磁石用樹脂コンパウンドを用いて作製したボンド磁石の圧壊強度や抗折強度が低下しない場合、保管される環境が苛酷であればあるほど、また、保管時間が長くなればなるほど、保存安定性がそれだけ高いといえる。実用上の環境を想定した場合、例えば、40℃/90%RHの高温高湿環境でボンド磁石用樹脂コンパウンドを5日ほど保存しても、ボンド磁石の圧壊強度や抗折強度が変わらなければ、高温多湿の日本の夏の環境下にボンド磁石用樹脂コンパウンドを長期間保存しても実用上問題が生じないと予測される。さらに、40℃/90%RHの高温高湿環境でボンド磁石用樹脂コンパウンドを2週間ほど保存しても、ボンド磁石の圧壊強度や抗折強度が変わらなければ、ボンド磁石用樹脂コンパウンドを大量に生産して長期間保存する量産工程でも問題が生じないと予測される。
【0059】
(その他の配合成分)
本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドは、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)、硬化促進剤(C)およびSmを含む希土類磁石用粉末(D)以外の配合成分を含むことができる。例えば、本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドは、カップリング剤、流動助材(金属酸化物)、難燃剤および内部潤滑剤からなる群から選択される少なくとも1種の配合成分をさらに含むことができる。
【0060】
(カップリング剤)
本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドはカップリング剤を含むことで樹脂組成物と希土類磁石用粉末表面との間の密着性をさらに高めることでき、ボンド磁石の強度をさらに高めることができる。カップリング剤には、例えば、エポキシシラン、メルカプトシラン、アミノシラン、アルキルシラン、ウレイドシランおよびビニルシラン等のシラン系化合物のカップリング剤、チタン系化合物のカップリング剤、アルミニウムキレート類のカップリング剤並びにアルミニウム/ジルコニウム系化合物のカップリング剤等が挙げられる。
【0061】
(流動助剤)
本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドは、流動助剤をさらに含むことにより、ボンド磁石用樹脂コンパウンドの流動性をさらに改善することができる。流動助剤には、例えば安価なシリカ(例えばアエロジル)、シリカよりも熱伝導性に優れるアルミナ等が挙げられる。また、これ以外にも、流動助剤には、炭酸カルシウム、カオリンクレー、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、タルクおよびマイカ等の無機微粒子が挙げられる。ボンド磁石の強度の低下を抑制するという観点からは、流動助剤の平均粒子径(D
50)は、好ましくは100nm以下であり、より好ましくは10nm以下である。
【0062】
(難燃剤)
本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドは、難燃剤をさらに含むことにより、ボンド磁石用樹脂コンパウンドの耐火性を向上させることができる。環境安全性、リサイクル性、成形加工性および低コストの観点から、難燃剤は、好ましくは臭素系難燃剤、リン系難燃剤、水和金属化合物系難燃剤、シリコーン系難燃剤、窒素含有化合物、ヒンダードアミン化合物、有機金属化合物および芳香族エンプラからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0063】
(内部潤滑剤)
本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドは、内部潤滑剤をさらに含むことにより、ボンド磁石用樹脂コンパウンドの圧縮成形における金型の損傷を低減することができる。内部潤滑剤は、粉末冶金において使用される潤滑剤であれば特に限定されない。内部潤滑剤には、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸カルシウム等の金属石鹸、長鎖炭化水素やEBS(エチレンビスステアリン酸アミド)、ポリエチレン等のワックス系潤滑剤などが挙げられる。また、本発明のボンド磁石用樹脂コンパウンドに配合する代わりに、または配合するとともに、内部潤滑剤の分散液を金型ダイス内壁面(パンチと接触する壁面)に塗布してもよい。
【0064】
(樹脂組成物の含有量)
本発明のSm系ボンド磁石用樹脂コンパウンドにおける樹脂組成物の含有量は、樹脂組成物およびSmを含む希土類磁石用粉末(D)の総量に対して、好ましくは0.2質量%以上5.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上3.0質量%以下である。このような含有量とすることでボンド磁石の高強度化と磁気特性を両立させることができる。
【0065】
(硬化後の樹脂組成物のガラス転移温度)
高温で過酷な環境下においても強度の低下が少ない優れたボンド磁石を得られるという観点からは、硬化後の樹脂組成物のガラス転移温度は、好ましくは150℃以上であり、より好ましくは200℃以上である。なお、本明細書においてガラス転移温度とは、動的粘弾性測定において、tanδがピークになる温度である。
【0066】
[ボンド磁石]
本発明のボンド磁石は、本発明のSm系ボンド磁石用樹脂コンパウンドを用いてなる。
【0067】
(ボンド磁石の弾性率の維持率)
耐熱性が優れたボンド磁石を得ることができるという観点からは、50℃における本発明のボンド磁石の弾性率に対する、150℃における本発明のボンド磁石の弾性率の維持率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。なお、弾性率を測定する方法には、三点曲げ試験を50℃および150℃の温度で測定する方法および動的粘弾性測定による50℃および150℃の弾性率を測定する方法等が挙げられる。また、ボンド磁石の弾性率の維持率は、150℃における本発明のボンド磁石の弾性率を50℃における本発明のボンド磁石の弾性率で割り算して算出した値をパーセントで表したものである
【0068】
(ボンド磁石の相対密度)
優れた磁気特性を有するボンド磁石を得ることができるという観点から、本発明のボンド磁石の相対密度は、磁粉の真密度に対して、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
【0069】
(ボンド磁石の圧壊強度)
高温において機械的強度の高いボンド磁石を得ることができるという観点から、本発明のボンド磁石の150℃の温度における圧壊強度は、好ましくは100MPa以上であり、より好ましくは150MPa以上であり、さらに好ましくは200MPa以上である。
【0070】
[ボンド磁石の製造方法]
本発明の希土類ボンド磁石の製造方法は、溶媒に溶解したエポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)および硬化促進剤(C)を混合して樹脂組成物を調製する第1の工程、Smを含む希土類磁石用粉末(D)を樹脂組成物と混合および乾燥してボンド磁石用樹脂コンパウンドを作製する第2の工程、ボンド磁石用樹脂コンパウンドを圧縮成形して、圧縮成形体を作製する第3の工程、および圧縮成形体を熱処理する第4の工程を含む。そして、第1の工程で使用する硬化促進剤(C)はボレート塩およびボラン化合物の少なくとも1種である。
【0071】
(第1の工程)
上述したように、第1の工程では、溶媒に溶解したエポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)および硬化促進剤(C)を混合して樹脂組成物を調製する。例えば、これらの混合にはミキサーが使用される。エポキシ樹脂(A)を溶媒に溶解することにより、後述の第2の工程で、Smを含む希土類磁石用粉末(D)の表面を樹脂組成物で均一に被覆することができる。なお、第1の工程で使用する硬化促進剤(C)はボレート塩およびボラン化合物の少なくとも1種である。
【0072】
(溶媒)
本発明のボンド磁石の製造方法の第1の工程で使用する溶媒は、エポキシ樹脂(A)、硬化剤(B)および硬化促進剤(C)を溶解することができれば、特に限定されない。例えば、溶媒には、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等が挙げられる。作業性を考慮した場合、溶媒は、好ましくは、常温では液体であり、沸点が60℃以上150℃以下であるものである。
【0073】
(第2の工程)
上述したように、第2の工程では、希土類磁石用粉末を樹脂組成物と混合および乾燥してボンド磁石用樹脂コンパウンドを作製する。混合および乾燥には、例えば、ミキシングシェーカー、タンブラーミキサー、V型混合機、ダブルコーン型混合機、リボン型混合機、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサーおよびスーパーミキサー等を用いることができる。
【0074】
(第3の工程)
上述したように、第3の工程では、ボンド磁石用樹脂コンパウンドを圧縮成形して、圧縮成形体を作製する。圧縮成形するときの圧力は高ければ高いほど、高磁束密度および高強度のボンド磁石を得ることができる。例えば、圧縮成形するときの成形圧は、好ましくは500MPa以上2500MPa以下である。また、量産性や金型寿命の観点から、圧縮成形するときの成形圧は、好ましくは1400MPa以上2000MPa以下である。磁気特性が良好で、機械的強度が高いボンド磁石を製造することができるという観点から、圧縮成形体の密度は、希土類磁石用粉末の真密度に対して、好ましくは75%以上90%以下であり、より好ましくは80%以上86%以下である。
【0075】
(第4の工程)
上述したように、第4の工程では、圧縮成形体を熱処理する。これにより、圧縮成形体中の樹脂組成物を完全に硬化させることができる。したがって、熱処理温度は、熱硬化性樹脂を充分に硬化させることができる温度であれば特に限定されない。例えば、熱処理温度は、好ましくは150℃以上300℃以下であり、より好ましくは175℃以上250℃以下である。また、希土類磁石用粉末の酸化を抑制するために、熱処理は不活性雰囲気下で行うことができる。なお、熱処理温度が300℃よりも高温の場合、製造上不可避の微量酸素によって希土類磁石用粉末の酸化が生じたり、樹脂組成物の硬化物の劣化が生じたりすることがある。このような観点から、熱処理温度は、好ましくは300℃以下である。また、上記観点から、熱処理温度の保持時間は、好ましくは1分以上4時間以下であり、より好ましくは5分以上1時間以下である。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を、意味するものとする。
【0077】
[樹脂組成物]
ボンド磁石の評価を行う前に、コンパウンドに用いる樹脂組成物の熱分析およびその硬化物の耐熱性評価を実施した。試験に使用した樹脂組成物の組成および評価結果を表1に示す。なお、表1中の各成分の配合量の単位は、質量部である。
【0078】
(熱分析および耐熱性評価)
得られた樹脂組成物の熱的特性は、示差走査熱量計(PERKIN ELMER社製、商品名:DSC7)を用いて評価した。分析は、N
2雰囲気下、昇温速度10℃/分で行い、各樹脂組成物の発熱ピーク温度と発熱量を測定した。これらの測定は、配合直後の樹脂組成物と、40℃/90%RHの高温高湿環境で5日間保存した樹脂組成物とについて実施した。そして、配合直後の樹脂組成物の発熱量から40℃/90%RHの高温高湿環境で5日間保存した樹脂組成物の発熱量を引き算して算出した値を配合直後の樹脂組成物の発熱量で割り算して、発熱量低下率を算出した。
【0079】
また、示差熱熱重量同時測定装置(TG−DTA、EXSTAR6000、(株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて高温時の重量減少を測定し、耐熱性の指標を得た。測定は、Alパンに試料(10mg以上20mg以下程度)を詰めてN2雰囲気下、25℃から500℃まで昇温速度10℃/分で昇温させた際の重量変化を測定し、25℃のときの試料の質量を基準として重量低下率を算出した。これらの熱分析の結果を表1にまとめた。
【0080】
(樹脂組成物の作製)
上述の熱特性の評価に用いる樹脂組成物は以下のように作製した。
【0081】
サリチルアルデヒド型エポキシ樹脂(エポキシ当量168グラム/eq.、軟化点64℃の、日本化薬(株)製、商品名EPPN−502H)をエポキシ樹脂(A)として用いた。また、フェノールノボラック樹脂(水酸基当量106グラム/eq.、日立化成(株)製、商品名HP−850N)を硬化剤(B)として用いた。下記の硬化促進剤(C−1〜10)を硬化促進剤(C)として用いた。さらに、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して800質量部の2−ブタノンを、エポキシ樹脂(A)を溶解する溶剤として使用した。これらの原料をプラスチック容器内で表1記載の配合比にて混合し、ミックスロータにて回転数40min−
1にて攪拌した。1時間攪拌した後、得られた樹脂溶液を濃縮し、真空ポンプを用いて減圧(到達圧力:約6.7×10
−2Pa)することで溶媒を十分に除去した。このようにして樹脂組成物1〜10を作製した。
【0082】
(1)硬化促進剤C−1:テトラフェニルホスホニウムテトラ―p―トリルボレート(北興化学工業(株)製、製品名TPP−MK、融点247−250℃)
(2)硬化促進剤C−2:テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート(北興化学工業(株)製、製品名TPP−K、融点304−306℃)
(3)硬化促進剤C−3:トリフェニルホスフィントリフェニルボラン(北興化学工業(株)製、製品名TPP−S、融点210−213℃)
(4)硬化促進剤C−4:テトラ―n―ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート(日本化学工業(株)製、製品名PX−4PB 融点230℃)を使用した。
(5)硬化促進剤C−5:トリ−tert−ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート(東京化成(株)製、融点239℃)
(6)硬化促進剤C−6:テトラブチルアンモニウムテトラフェニルボレート(東京化成(株)製 融点235℃)
(7)硬化促進剤C−7:1,5−ジアザビシクロ[4.3.0]ノネン−5−テトラフェニルボレート(北興化学工業(株)製、製品名DBNK、融点130℃)
(8)硬化促進剤C´−8:トリフェニルホスフィン(北興化学工業(株)製、製品名TPP、融点80℃)
(9)硬化促進剤C´−9:2−シアノエチルー4−メチルイミダゾール(四国化成(株)製、製品名2PZ−CN、融点57℃)を使用した。
(10)硬化促進剤C´−10:1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ−7−エン(サンアプロ(株)製、製品名DBU)
【0083】
【表1】
【0084】
[樹脂組成物の評価結果]
表1より、硬化促進剤(C)としてボレート塩またはボラン化合物を使用した樹脂組成物1〜7は、硬化促進剤(C)としてボレート塩またはボラン化合物を使用していない樹脂組成物8〜10に比べて、いずれも40℃/90%RHの高温高湿環境で5日間保存した樹脂組成物の発熱量の低下が少なかった。これより、40℃/90%RHの高温高湿環境で樹脂組成物1〜7を5日間保存しても、樹脂組成物1〜7の硬化はほとんど進まないが、樹脂組成物8〜10は、40℃/90%RHの高温高湿環境で樹脂組成物8〜10を5日間保存すると硬化が徐々に進むものと考えられる。
【0085】
また、樹脂組成物1〜7では、樹脂組成物を200℃、250℃と高温に加熱しても重量低下率は小さかった。一方、樹脂組成物8〜10では、200℃、250℃と樹脂組成物を高温に加熱した場合、重量低下率が非常に大きかった。200℃、250℃の段階では、樹脂組成物1〜10は硬化しているので、これより、樹脂組成物1〜7の硬化物の耐熱性は、樹脂組成物8〜10の硬化物の耐熱性よりも優れていることが伺える。
【0086】
樹脂組成物1〜10のエポキシ樹脂(A)および硬化剤(B)が同一であることから、樹脂組成物1〜7と樹脂組成物8〜10のこれらの違いは、硬化促進剤(C)がボレート塩またはボラン化合物であるか否かによると考えられる。したがって、ボレート塩またはボラン化合物を硬化促進剤(C)として用いることにより、樹脂組成物の保存安定性が向上するとともに、樹脂組成物の硬化物の耐熱性も向上することがわかった。
【0087】
[ボンド磁石の特性評価]
実施例1〜7および比較例1〜3のSm−Fe−N系ボンド磁石を作製し、得られたボンド磁石の密度および圧壊強度を測定した。
【0088】
(ボンド磁石用樹脂コンパウンドの作製)
サリチルアルデヒドノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量168グラム/eq.、軟化点64℃、日本化薬(株)製、商品名EPPN−502H)をエポキシ樹脂(A)として用いた。また、フェノールノボラック樹脂(水酸基当量106グラム/eq.、日立化成(株)製、商品名HP−850N)を硬化剤(B)として用いた。さらに、上記の硬化促進剤(C−1〜10)を硬化促進剤(C)として用いた。ボンド磁石用粉末(D)としては、Sm−Fe−N粉末(住友金属鉱山(株)製、平均粒径:2.3μm)を用いた。なお、ボンド磁石用粉末100質量部に対して30質量部の2−ブタノンを、エポキシ樹脂(A)を溶解する溶剤として使用した。これらの原料を表2記載の配合比にて容積300mLのナス型フラスコに投入し、25℃にてエバポレータ内で30分ほど撹拌した。続いて、エバポレータ内を減圧し、凝集状態のボンド磁石用樹脂コンパウンドをナス型フラスコから取り出して真空ポンプを用いて減圧(到達圧力:約6.7×10−2Pa)することで溶媒を十分に除去した。溶媒除去後、凝集状態のボンド磁石用樹脂コンパウンドを粗粉砕し、100メッシュのふるいにて粗大粉を除去して粒度を整えた。作製したSm系ボンド磁石用コンパウンドの電子顕微鏡画像を
図1に示す。
【0089】
(Sm−Fe−N系ボンド磁石の作製)
次に、作製直後のSm−Fe−N系ボンド磁石用樹脂コンパウンド(以下、単にコンパウンドと称す)100質量部に対し、内部潤滑剤として0.3質量部のステアリン酸カルシウムを混合し、V型混合機で1時間ほど撹拌した。得られた内部潤滑材含有のコンパウンドは、油圧プレス機を用いて外径11.3mm×高さ8mmの円柱形状の圧縮成形体に成形した(最大で2000MPaの成形圧力)。得られた円柱形状の圧縮成形体を窒素ガス(N2)雰囲気下、200℃の温度にて10分間の加熱をすることでSm−Fe−N系ボンド磁石(以下、単にボンド磁石と称す)の試験片を作製した。なお、得られた成形体の密度は、いずれも5.8g/cm
3となるように調整した。同様にして、40℃/90%RH(相対湿度)の環境下にて5日間保存したコンパウンドについてもボンド磁石の試験片を作製した。
【0090】
(圧壊強度試験)
万能圧縮試験機((株)島津製作所製、商品名:AG−10TBR)を使用して上記試験片を高さ方向から圧縮圧力をそれぞれ印加して、圧縮圧力により試験片が破壊されたときの圧縮圧力の最大値から圧壊強度(MPa)を算出した。ボンド磁石の圧壊強度の結果を表2にまとめる。また、<1>作製直後のコンパウンドを用いて作製したボンド磁石の圧壊強度と、<2>40℃/90%RH(相対湿度)の環境下にて5日間保存したコンパウンドを用いて作製したボンド磁石の圧壊強度の関係から強度低下率を算出し、コンパウンドの保存安定性を調べた。強度低下率が大きいほど、コンパウンドの保存安定性が悪いことを示す。なお、強度低下率がマイナスの値の場合は、40℃/90%RH(相対湿度)の環境下にてコンパウンドを5日間保存すると、ボンド磁石の圧壊強度が高くなる場合である。
【0091】
ボンド磁石用樹脂コンパウンドの配合および得られたSm−Fe−N系ボンド磁石の密度および圧壊強度試験の結果を次の表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
実施例1〜7のボンド磁石は、いずれも、40℃/90%RHの環境下にてコンパウンドを5日間保存しても圧壊強度の低下幅は少なかった。特にテトラ―n―ブチルホスホニウムテトラフェニルボレートを硬化促進剤(C)として使用した実施例4は、コンパウンドを40℃/90%RHの環境下にて5日間保存することで圧壊強度が逆に高くなった。さらに実施例1〜7を比べると、五員複素環式化合物からなる実施例7は、やや強度低下が大きい。一方、ボラン化合物(トリフェニルホスフィントリフェニルボラン)を用いた実施例3は、強度低下は少ないものの、圧壊強度の絶対値も低いことがわかった。これらの結果は、表1のDSC測定の結果とも一致している。
【0094】
一方、比較例1〜3のボンド磁石は、圧壊強度の低下幅が大きく、コンパウンドの保存安定性が悪かった。これは、表1の結果を考慮すると、樹脂組成物の保存安定性が乏しいため、コンパウンドの保存安定性が悪かったものと推測される。このような保存安定性に乏しいコンパウンドでは、日本の夏場のような高温高湿な環境下でのボンド磁石の製造が困難となる。