特許第6607009号(P6607009)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6607009テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、硬化物及び半導体封止材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607009
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂、エポキシ樹脂組成物、硬化物及び半導体封止材
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/24 20060101AFI20191111BHJP
   H01L 23/29 20060101ALI20191111BHJP
   H01L 23/31 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   C08G59/24
   H01L23/30 R
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-235746(P2015-235746)
(22)【出願日】2015年12月2日
(65)【公開番号】特開2016-108562(P2016-108562A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2018年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-246000(P2014-246000)
(32)【優先日】2014年12月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】太田 員正
【審査官】 佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−086171(JP,A)
【文献】 特開平05−086170(JP,A)
【文献】 特開2002−104857(JP,A)
【文献】 特開2013−087174(JP,A)
【文献】 特開2002−212268(JP,A)
【文献】 特開2002−128861(JP,A)
【文献】 特開2004−315831(JP,A)
【文献】 特開2002−201255(JP,A)
【文献】 特開2004−331988(JP,A)
【文献】 特開2004−315832(JP,A)
【文献】 特開2011−207932(JP,A)
【文献】 特開平03−124758(JP,A)
【文献】 特開平04−055422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00− 59/72
H01L 23/28− 23/30
C07D301/00−305/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂、硬化剤およびリン系硬化促進剤を含有するエポキシ樹脂組成物であって、以下の測定方法で求めたナトリウムイオンの含有量が0.6〜12ppmであり、かつ、該リン系硬化促進剤の含有量が、エポキシ樹脂組成物中の以下の測定方法で求めたナトリウムイオンに対して、リン原子換算量としてP/Naモル比が146以上、900未満であるエポキシ樹脂組成物。
(測定方法)試料をN−メチルピロリドンに溶解した溶液を用い原子吸光法によって測定する。
【請求項2】
前記テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量が174〜300g/当量の範囲にある請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂を、150℃に調整したコーンプレート粘度計の熱板の上に溶融させ、回転速度750rpmで測定した溶融粘度が0.001〜10Pa・sの範囲にある請求項1又は2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂が、4,4’−ビスヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルのジグリシジルエーテルを含む請求項1から3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂がナトリウムイオンを以下の方法で求めた含有量として1〜12ppm含む請求項1から4に記載のエポキシ樹脂組成物。
(測定方法)試料をN−メチルピロリドンに溶解した溶液を用い原子吸光法によって測定する。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物を含む半導体封止材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定量のナトリウムイオンを含むテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂に関する。また、所定量のナトリウムイオンを含むエポキシ樹脂組成物と、該エポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物に関する。更に、本発明は、該エポキシ樹脂組成物を含む半導体封止材に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、その優れた硬化物性および取り扱いの容易さから、幅広い用途で使用されている。また、エポキシ樹脂には、様々な種類があり、その硬化物性も大きく変わるため、各用途の目的に応じて使い分けられている。例えば、エポキシ樹脂は半導体封止用に用いられているが、近年の電子産業の目ざましい発展に伴い、電子デバイスに要求される耐熱性及び絶縁信頼性に対する要求は益々厳しくなっている。
【0003】
例えば、半導体装置の高集積化のため、半導体素子の大型化とパッケージの小型化、薄型化が進み、また、実装方式も表面実装へと移行している。この場合、実装時には半導体装置全体がハンダの溶融温度近くの高温に曝されるため、耐熱性が要求される。耐熱性の要求は、ハンダの鉛フリー化に伴う融点の上昇により、近年、さらに厳しくなってきている。
【0004】
また、エポキシ樹脂中の不純物量についても要求が厳しくなっており、特にナトリウムイオンや塩化物イオン等は金属の腐食等の問題を引き起こし信頼性を損なうことから、それらの含有量をできるだけ低減することが一般的である。(特許文献1〜3)
【0005】
一方、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂は、結晶性に優れ、高いガラス転移温度(Tg)を有し、しかも低粘度であるため、トランスファー成形に適しており、特に半導体封止材用途において広く用いられている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−29694号公報
【特許文献2】特開2007−246671号公報
【特許文献3】特開2012−224774号公報
【特許文献4】特開昭58−39677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、電子デバイスに求められる耐熱性、信頼性の要求は益々厳しくなっており、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂についてもさらなる耐熱性向上が求められている。このため僅か数℃の耐熱性向上であっても、電子デバイスとしての信頼性向上には大きな意味を持つ状況にある。
【0008】
したがって、本発明は、耐熱性に優れたテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂の耐熱性向上について鋭意検討を行った結果、一般的には含有しない方がよいと考えられているナトリウムイオンでも、特定の測定方法で測定されるナトリウムイオンを特定割合で含有すると、意外にも絶縁信頼性を損なわずに耐熱性を向上できることを見出した。
【0010】
テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂についてのこの知見は、各種物性や信頼性向上のために、ナトリウムイオン等のイオン性不純物の含有量を極力低減するという従来の技術思想とはむしろ相反するものである。
【0011】
一般に、半導体封止材用途の場合、ナトリウムイオンを多く含むと絶縁性が悪化し、望ましくない。電子デバイスに用いられるエポキシ樹脂に不純物としてナトリウムイオンや塩素イオンを含むと、それらが吸湿した水分に溶出して金属部を腐食し、電子デバイスの電気信頼性に影響を及ぼすからである[「総説エポキシ樹脂」第3巻(エポキシ樹脂技術協会出版、2003年発行、137頁参照]。そのため、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂においても、これまでイオン性不純物の含有量を極力低減させていた。
【0012】
しかし意外にも、本発明者は、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂がイオン性不純物として含まれるナトリウムイオンの影響を受けにくく、微量であれば信頼性への影響は小さいとの新規知見を得た。これは、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂が4つのメチル構造を有することでエーテル部位の吸水が阻害されることにより耐吸湿性に優れるためと考えられる。かつ、本発明者の検討の結果、むしろ特定の測定方法で測定されるナトリウムイオンを特定割合で含有することにより耐熱性が向上するという驚くべき効果が得られた。
【0013】
即ち、本発明の要旨は以下の[1]〜[12]に存する。
[1]以下の測定方法で求めたナトリウムイオンの含有量が1〜12ppmであるテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂。
(測定方法)試料をN−メチルピロリドンに溶解した溶液を用い原子吸光法によって測定する。
[2]エポキシ当量が174〜300g/当量の範囲にある[1]に記載のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂。
[3]150℃の溶融粘度が0.001〜10Pa・sの範囲にある[1]又は[2]に記載のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂。
[4]テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂が、4,4’−ビスヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルのジグリシジルエーテルを含む[1]から[3]のいずれか1に記載のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂。
[5]テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂および硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物であって、以下の測定方法で求めたナトリウムイオンの含有量が0.6〜12ppmであるエポキシ樹脂組成物。
(測定方法)試料をN−メチルピロリドンに溶解した溶液を用い原子吸光法によって測定する。
[6]テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量が174〜300g/当量の範囲にある[5]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[7]テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂の150℃の溶融粘度が0.001〜10Pa・sの範囲にある[5]又は[6]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[8]テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂が、4,4’−ビスヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルのジグリシジルエーテルを含む[5]から[7]のいずれか1に記載のエポキシ樹脂組成物。
[9]さらに硬化促進剤を含む[5]から[8]のいずれか1に記載のエポキシ樹脂組成物。
[10]硬化促進剤がリン系硬化促進剤である[9]に記載のエポキシ樹脂組成物。
[11]リン系硬化促進剤の含有量が、エポキシ樹脂組成物中の以下の測定方法で求めたナトリウムイオンに対して、リン原子換算量としてP/Naモル比が50以上、900未満である[10]に記載のエポキシ樹脂組成物。
(測定方法)試料をN−メチルピロリドンに溶解した溶液を用い原子吸光法によって測定する。
[12][5]から[11]のいずれか1に記載のエポキシ樹脂組成物を硬化させた硬化物。
[13][5]から[11]のいずれか1に記載のエポキシ樹脂組成物を含む半導体封止材。
【発明の効果】
【0014】
本発明のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂は、結晶性に優れ、高いガラス転移温度(Tg)を有し、しかも低粘度であって、耐熱性や信頼性にも優れる。また、本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記の効果を有するため、半導体封止材の分野に特に有効に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下の説明は本発明の実施の形態の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0016】
[本発明のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂]
本発明のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂(以下、「本発明のエポキシ樹脂」と称すことがある。)は、以下の測定方法で求めたナトリウムイオンの含有量が1〜12ppmであるテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂である。
(測定方法)試料をN-メチルピロリドンに溶解した溶液を用い原子吸光法によって測定する。
【0017】
本発明のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂は、通常、下記一般式(I)で表される。
【0018】
【化1】
【0019】
[式(I)中、nは0〜10の整数を表す。]
【0020】
前記一般式(I)中、nは通常0〜10、好ましくは0〜5である。nの値が大きすぎると、溶融粘度が高くなり組成物にした際の成形性が悪化するので好ましくない傾向がある。一般に樹脂といえば比較的高分子量のものを指すが、エポキシ樹脂の場合には低分子量のものもエポキシ樹脂と呼ぶのが通例であり、本発明のエポキシ樹脂も、一般式(I)においてn=0のような場合、すなわち、テトラメチルビフェノール型エポキシの単一化合物をも含む。
【0021】
なお、本発明のエポキシ樹脂は、一般式(I)においてnの値が異なる複数の化合物の混合物であってもよい。また、このような混合物である場合は、一般式(I)におけるnの値が10を超えるエポキシ樹脂が含有することを排除するものではない。
【0022】
テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂は、他のエポキシ樹脂に比して、結晶性に優れ、高いガラス転移温度(Tg)を有し、しかも低粘度であって、低吸水性および低吸湿性であり、耐熱性や信頼性に優れ、特に封止材用途に適する。
【0023】
本発明のエポキシ樹脂の構造は限定されないが、ビフェノール構造としては4,4’−ビスヒドロキシ構造であることが好ましく、フェニレン基を置換するメチル基の位置としては、エーテル結合位に対してオルソ位であることが好ましい。
【0024】
すなわち、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂の中でも、4,4’−ビスヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルのジグリシジルエーテルを含むものが好ましい。中でも、この化合物を50重量%以上含むものがより好ましく、80重量%以上含むものがさらに好ましい。
【0025】
フェニレン基を置換するメチル基の位置が、エーテル結合位に対してオルソ位であることにより、エポキシ樹脂としての疎水性が向上し、更にビフェノール構造が4,4’−ビスヒドロキシ構造であることにより、エポキシ樹脂の構造が剛直となるため、高いガラス転移温度(Tg)と低粘度という特性を併せ持つことが可能となるためである。
【0026】
本発明のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂は、ナトリウムイオンを1ppm以上、12ppm以下の割合で含む。ナトリウムイオンを1〜12ppm含有することで、耐熱性に特に優れた硬化物を与えるという効果を奏する。
【0027】
本発明のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂は、ナトリウムイオンを1.5ppm以上の割合で含むことが好ましく、2.0ppm以上の割合で含むことがより好ましく、一方、8.0ppm以下の割合で含むことが好ましく、6.0ppm以下の割合で含むことがより好ましく、4.0ppm以下の割合で含むことが更に好ましい。エポキシ樹脂に含まれるナトリウムイオンの量が少なすぎると本発明の効果が得られにくく、ナトリウムイオンの量が多すぎると電気的な信頼性を損ないやすい。
【0028】
なお、本発明におけるエポキシ樹脂に含まれるナトリウムイオンの含有量とは、試料をN−メチルピロリドンに溶解し、試料に含まれるナトリウムイオンを原子化した後に原子吸光法[例えば、原子吸光光度計(株式会社 日立ハイテクサイエンス社製 Z−2710)を用いる]によって測定して求めた質量基準の値である。前記測定方法(以下、これを「本測定方法」と称することがある。)によって検出されないナトリウムについては、本発明におけるナトリウムイオンの含有量には含まれない。
【0029】
本発明のエポキシ樹脂に含まれるナトリウムイオンの含有量を前記の範囲とする手段は限定されるものではないが、例えば、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂に所定の含有量になるようにナトリウムイオンを含む化合物を添加することで調整してもよいし、後述するように、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂を製造する過程でナトリウムイオンを含む化合物を使用する場合には、反応で得られたエポキシ樹脂の洗浄や精製等の後処理の程度を調整してもよい。
【0030】
前述の通り、従来は電気的な信頼性を十分に確保するために、エポキシ樹脂中に含有するナトリウムイオン量を可能な限り低減することが行われてきた。これに対し本発明は、ナトリウムイオン量を極力低減させるのではなく、前記に例示したような手段を用いることで極めて狭い範囲の特定の含有量に制御することに特徴を有する。更には、エポキシ樹脂中に含有するナトリウムを、(1)イオンであるか否か、(2)特定の溶媒に溶解するものであるか否かという観点から、エポキシ樹脂中に存在する状態にも着目し、特定の方法で測定した値によって規定したことにも特徴を有する。
【0031】
本発明では、このようにエポキシ樹脂に含まれるナトリウムイオンの含有量を制御することにより、従来よりも一層耐熱性が向上するという特異な効果を奏することを見出したものであるが、この効果は、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂という特定構造のエポキシ樹脂を用いたことによる相乗的効果と考えることができる。すなわち、本発明においては、当該エポキシ樹脂を採用することについても、耐熱性を更に向上させるための達成手段の一つと位置付けることができる。
【0032】
[エポキシ樹脂のエポキシ当量]
本発明のエポキシ樹脂は、封止材用エポキシ樹脂としての取り扱い性の観点から、エポキシ当量が174g/当量以上であり、300g/当量以下であることが好ましい。より取り扱い性を良好なものとする観点から、エポキシ当量は174g/当量以上であり、200g/当量以下であることがより好ましい。この中でも特に180g/当量以上、190g/当量以下であることが更に好ましい。
なお、本発明において「エポキシ当量」とは、「1当量のエポキシ基を含むエポキシ樹脂の質量」と定義され、JIS K7236(2001年)に準じて測定することができる。
【0033】
[エポキシ樹脂の溶融粘度]
本発明のエポキシ樹脂は、封止材用エポキシ樹脂としての取り扱い性の観点から、150℃の溶融粘度が0.001Pa・s以上であり、10Pa・s以下であることが好ましく、より取り扱い性を良好なものとする観点から、この溶融粘度は、0.001Pa・s以上であり、3Pa・s以下であることがより好ましい。
【0034】
なお、本発明において「溶融粘度」とは、150℃に調整したコーンプレート粘度計[東海八神(株)製]の熱板の上にエポキシ樹脂を溶融させ、回転速度750rpmで測定した粘度である。
【0035】
[テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂の製造方法]
本発明のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂の製造方法については特に制限はないが、例えば、以下に説明する一段法による製造方法等が挙げられる。
【0036】
一段法によるエポキシ樹脂の製造方法では、例えば、以下の方法でテトラメチルビフェノールをエピハロヒドリンと反応させて製造される。
【0037】
本発明のエポキシ樹脂の原料となるテトラメチルビフェノールを、その水酸基1当量当たり、通常0.8〜20当量、好ましくは0.9〜15当量、より好ましくは1.0〜10当量に相当する量のエピハロヒドリンに溶解させて均一な溶液とする。エピハロヒドリンの量が前記下限以上であると高分子量化反応を制御しやすく、適切な溶融粘度とすることができるために好ましい。一方、エピハロヒドリンの量が前記上限以下であると生産効率が向上する傾向にあるために好ましい。なお、この反応におけるエピハロヒドリンとしては、通常、エピクロルヒドリン又はエピブロモヒドリンが用いられる。
【0038】
次いで、その溶液を撹拌しながら、これに原料テトラメチルビフェノールの水酸基1当量当たり通常0.5〜2.0当量、より好ましくは0.7〜1.8当量、更に好ましくは0.9〜1.6当量に相当する量のアルカリ金属水酸化物を固体又は水溶液で加えて反応させる。アルカリ金属水酸化物の量が前記下限以上であると、未反応の水酸基と生成したエポキシ樹脂が反応しにくく、高分子量化反応を制御しやすいために好ましい。また、アルカリ金属水酸化物の量が前記上限値以下であると、副反応による不純物が生成しにくいために好ましい。ここで用いられるアルカリ金属水酸化物としては、通常水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが用いられるが、所定量のナトリウムイオンを含有するエポキシ樹脂は、好ましくは、アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウムを用いて製造される。
【0039】
前記反応は、常圧下又は減圧下で行うことができ、反応温度は好ましくは40〜150℃、より好ましくは40〜100℃、更に好ましくは40〜80℃である。反応温度が前記下限以上であると反応を進行させやすく、且つ反応を制御しやすいために好ましい。また、反応温度が前記上限以下であると副反応が進行しにくく、特に塩素不純物を低減しやすいために好ましい。
【0040】
反応は必要に応じて所定の温度を保持しながら反応液を共沸させ、揮発する蒸気を冷却して得られた凝縮液を油/水分離し、水分を除いた油分を反応系へ戻す方法により脱水しながら行われる。アルカリ金属水酸化物は、急激な反応を抑えるために、好ましくは0.1〜8時間、より好ましくは0.1〜7時間、更に好ましくは0.5〜6時間かけて少量ずつを断続的又は連続的に添加する。アルカリ金属水酸化物の添加時間が前記下限以上であると急激に反応が進行するのを防ぐことができ、反応温度の制御がしやすくなるために好ましい。添加時間が前記上限以下であると塩素不純物が生成しにくくなるために好ましく、また、経済性の観点からも好ましい。全反応時間は通常1〜15時間である。
【0041】
反応終了後、不溶性の副生塩を濾別して除くか、水洗により除去した後、未反応のエピハロヒドリンを減圧留去して除くことによりテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂を得ることができる。前記アルカリ金属水酸化物として水酸化ナトリウムを用いた場合には、この水洗条件を調整することによりエポキシ樹脂のナトリウムイオン含有量を調整する事が出来る。
【0042】
また、前記反応においては、テトラメチルアンモニウムクロリドまたはテトラエチルアンモニウムブロミド等の第四級アンモニウム塩;ベンジルジメチルアミンまたは2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の第三級アミン;2−エチル−4−メチルイミダゾールまたは2−フェニルイミダゾール等のイミダゾール類;エチルトリフェニルホスホニウムアイオダイド等のホスホニウム塩;トリフェニルホスフィン等のホスフィン類等の触媒を用いてもよい。
【0043】
更に、この反応においては、エタノールまたはイソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトンまたはメチルエチルケトン等のケトン類;ジオキサンまたはエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;メトキシプロパノール等のグリコールエーテル類;ジメチルスルホキシドまたはジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒等の不活性な有機溶媒を使用してもよい。
【0044】
なお、上記のようにして得られたエポキシ樹脂の全塩素含有量を低減する必要がある場合には、再処理して十分に全塩素含有量を低下させた精製エポキシ樹脂を得ることができる。この場合は、まず、粗製エポキシ樹脂を、イソプロピルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、キシレン、ジオキサン、メトキシプロパノールまたはジメチルスルホキシド等の不活性な有機溶媒に再溶解し、アルカリ金属水酸化物を固体又は水溶液で加えて脱塩素反応を行う。
【0045】
脱塩素反応の温度としては好ましくは30〜120℃、より好ましくは40〜110℃、更に好ましくは50〜100℃であり、反応時間としては好ましくは0.1〜15時間、より好ましくは0.3〜12時間、更に好ましくは0.5〜10時間である。脱塩素反応の反応温度が前記下限以上であり、また、反応時間が前記下限以上であると脱塩素反応が進行しやすいために好ましい。また、反応温度が前記上限以下であり、また、反応時間が前記上限以下であると反応を制御しやすいために好ましい。
【0046】
脱塩素反応後は、水洗等の方法で過剰のアルカリ金属水酸化物や副性塩を除去し、更に有機溶媒の減圧留去及び/又は水蒸気蒸留を行うと、加水分解性ハロゲン量が低減されたエポキシ樹脂を得ることができる。この時、用いる水洗水量、水洗回数等の水洗条件等を調整することで、得られるエポキシ樹脂のナトリウムイオン含有量を調整することができる。
【0047】
[本発明のエポキシ樹脂組成物]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂及び硬化剤を含有するエポキシ樹脂組成物であって、以下の測定方法で求めたナトリウムイオンの含有量が0.6〜12ppmである。
(測定方法)試料をN−メチルピロリドンに溶解した溶液を用い原子吸光法によって測定する。
【0048】
本発明のエポキシ樹脂組成物は耐熱性に優れ、各種用途に要求される諸物性を十分に満たす硬化物を与えるものである。
【0049】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、ナトリウムイオンを0.6ppm以上、12ppm以下の割合で含む。ナトリウムイオンを0.6〜12ppm含有することで、耐熱性に特に優れた硬化物を与えるという効果を奏する。また、ナトリウムイオンを1ppm以上の割合で含むことが好ましく、一方、8.0ppm以下の割合で含むことが好ましく、6.0ppm以下の割合で含むことがより好ましく、4.0ppm以下の割合で含むことが更に好ましい。ナトリウムイオン量が少なすぎると本発明の効果が得られにくく、ナトリウムイオン量が多すぎると電気的な信頼性を損ないやすい。
【0050】
なお、本発明におけるエポキシ樹脂組成物に含まれるナトリウムイオンの含有量とは、試料をN−メチルピロリドンに溶解し、試料に含まれるナトリウムイオンを原子化した後に原子吸光法[例えば、原子吸光光度計(株式会社 日立ハイテクサイエンス社製 Z−2710)を用いる]によって測定して求めた質量基準の値である。前記測定方法によって検出されないナトリウムについては、本発明におけるナトリウムイオンの含有量には含まれない。
【0051】
本発明におけるエポキシ樹脂組成物に含まれるナトリウムイオンの含有量の測定にあたっては、本発明のエポキシ樹脂組成物をそのまま試料として測定すればよい。また、本発明のエポキシ樹脂組成物に含有される各成分(例えば、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂、硬化剤または硬化促進剤等)をそれぞれ予め試料として測定しておき、ここで得られた各成分のナトリウムイオン含有量と、当該組成物中における各成分の配合比から、当該組成物中のナトリウムイオンの含有量を求めてもよい。
【0052】
本発明のエポキシ樹脂組成物に含まれるナトリウムイオンの含有量を前記の範囲とする手段は限定されるものではないが、例えば、組成物中に所定の含有量になるようにナトリウムイオンを含む化合物を添加することで調整してもよいし、組成物中に含まれるテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂、硬化剤または硬化促進剤等として適当量のナトリウムイオンを含むものを用いることにより調整してもよい。
【0053】
本発明のエポキシ樹脂組成物に含有されるテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂の種類、物性等の詳細な説明は、前記本発明のエポキシ樹脂の項におけるテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂の説明と同じである。
【0054】
本発明のエポキシ樹脂組成物においては、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂以外の他のエポキシ樹脂(以下、「その他のエポキシ樹脂」と称す場合がある。)を更に含むことができる。これにより、本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化物の耐熱性、耐応力性、耐吸湿性および難燃性等をさらに向上させることができる場合がある。
【0055】
前記その他のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、メチルハイドロキノン型エポキシ樹脂、ジブチルハイドロキノン型エポキシ樹脂、レゾルシン型エポキシ樹脂、メチルレゾルシン型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ジヒドロキシジフェニルエーテル型エポキシ樹脂、チオジフェノール類から誘導されるエポキシ樹脂、ジヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシアントラセン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシジヒドロアントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジヒドロキシスチルベン類から誘導されるエポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、テルペンフェノール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、フェノール・ヒドロキシベンズアルデヒドの縮合物から誘導されるエポキシ樹脂、フェノール・クロトンアルデヒドの縮合物から誘導されるエポキシ樹脂、フェノール・グリオキザールの縮合物から誘導されるエポキシ樹脂、重質油又はピッチ類とフェノール類とホルムアルデヒド類との共縮合樹脂から誘導されるエポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタンから誘導されるエポキシ樹脂、アミノフェノールから誘導されるエポキシ樹脂、キシレンジアミンから誘導されるエポキシ樹脂、メチルヘキサヒドロフタル酸から誘導されるエポキシ樹脂およびダイマー酸から誘導されるエポキシ樹脂等が挙げられる。これらは1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び配合比率で用いてもよい。
【0056】
本発明のエポキシ樹脂組成物の流動性、更には、当該組成物の硬化物の耐熱性、耐吸湿性、難燃性等の観点から、前記その他のエポキシ樹脂の中で、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ジヒドロキシアントラセン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂またはオルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
【0057】
本発明のエポキシ樹脂組成物が、前記その他のエポキシ樹脂を含む場合、その含有量はエポキシ樹脂組成物中に含まれる固形分としてのエポキシ樹脂(以下、「全エポキシ樹脂成分」と称す場合がある。)100重量部に対して好ましくは0.01〜60重量部であり、より好ましくは40重量部以下、更に好ましくは30重量部以下、特に好ましくは20重量部以下、一方、より好ましくは1重量部以上である。即ち、本発明のテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂は、全エポキシ樹脂成分100重量部中に、少なくとも40重量部含まれることが好ましい。
【0058】
ここで、「全エポキシ樹脂成分」とは、本発明のエポキシ樹脂組成物に含まれるエポキシ樹脂の量に相当し、本発明のエポキシ樹脂組成物がテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂のみを含む場合はテトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂の量が該当し、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂とその他のエポキシ樹脂を含む場合はこれらの量の合計に相当する。
【0059】
[硬化剤]
本発明において硬化剤とは、エポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質を示す。なお、本発明においては通常、「硬化促進剤」と呼ばれるものであってもエポキシ樹脂のエポキシ基間の架橋反応及び/又は鎖長延長反応に寄与する物質であれば、硬化剤とみなすこととする。
【0060】
硬化剤は、本発明のエポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂成分100重量部に対して0.01〜1000重量部の範囲で作用させることが好ましい。より好ましい量は、硬化剤の種類に応じてそれぞれ以下に記載する通りである。
【0061】
硬化剤としては、特に制限はなく一般的にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものはすべて使用できる。例えば、フェノール系硬化剤、脂肪族アミン、ポリエーテルアミン、脂環式アミン、芳香族アミンおよび第3級アミンなどのアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、アミド系硬化剤、並びにイミダゾール類等が挙げられる。
【0062】
このうち、フェノール系硬化剤を含むことにより、本発明のエポキシ樹脂組成物は、優れた耐熱性、低線膨張性および接着性を有する硬化物を与えることができる。硬化剤としてはフェノール系硬化剤を含むことが好ましい。また、耐熱性等の観点からは、酸無水物系硬化剤、アミド系硬化剤を含むことが好ましい。また、イミダゾール類を用いることも、硬化反応を十分に進行させ、耐熱性を向上させる観点から好ましい。
【0063】
硬化剤は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び配合比率で用いてもよい。硬化剤の2種以上を併用する場合、これらをあらかじめ混合して混合硬化剤を調製してから使用してもよいし、エポキシ樹脂組成物の各成分を混合する際に硬化剤の各成分をそれぞれ別々に添加して同時に混合してもよい。
【0064】
<フェノール系硬化剤>
フェノール系硬化剤としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビスフェノールAD、ハイドロキノン、レゾルシン、メチルレゾルシン、ビフェノール、テトラメチルビフェノール、ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシジフェニルエーテル、チオジフェノール類、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、フェノールアラルキル樹脂、ビフェニルアラルキル樹脂、ナフトールアラルキル樹脂、テルペンフェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール樹脂、ビスフェノールAノボラック樹脂、トリスフェノールメタン型樹脂、ナフトールノボラック樹脂、臭素化ビスフェノールA、および臭素化フェノールノボラック樹脂等の種々の多価フェノール類、種々のフェノール類とベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、およびグリオキザール等の種々のアルデヒド類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂類、キシレン樹脂とフェノール類との縮合反応で得られる多価フェノール樹脂類、重質油又はピッチ類とフェノール類とホルムアルデヒド類との共縮合樹脂、並びに、フェノール・ベンズアルデヒド・キシリレンジメトキサイド重縮合物、フェノール・ベンズアルデヒド・キシリレンジハライド重縮合物、フェノール・ベンズアルデヒド・4,4’−ジメトキサイドビフェニル重縮合物およびフェノール・ベンズアルデヒド・4,4’−ジハライドビフェニル重縮合物等の各種のフェノール樹脂類等が挙げられる。これらのフェノール系硬化剤は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び配合比率で用いてもよい。
【0065】
組成物の硬化後の耐熱性、硬化性等の観点から、前記フェノール系硬化剤の中でも、フェノールノボラック樹脂[例えば、下記式(1)で表される化合物]、フェノールアラルキル樹脂[例えば、下記式(2)で表される化合物]、ビフェニルアラルキル樹脂[例えば、下記式(3)で表される化合物]、ナフトールノボラック樹脂[例えば、下記式(4)で表される化合物]、ナフトールアラルキル樹脂[例えば、下記式(5)で表される化合物]、トリスフェノールメタン型樹脂[例えば、下記式(6)で表される化合物]、フェノール・ベンズアルデヒド・キシリレンジメトキサイド重縮合物[例えば、下記式(7)で表される化合物]、フェノール・ベンズアルデヒド・キシリレンジハライド重縮合物[例えば、下記式(7)で表される化合物]、フェノール・ベンズアルデヒド・4,4’−ジメトキサイドビフェニル重縮合物[例えば、下記式(8)で表される化合物]、またはフェノール・ベンズアルデヒド・4,4’−ジハライドビフェニル重縮合物[例えば、下記式(8)で表される化合物]等が好ましく、特にフェノールノボラック樹脂[例えば、下記式(1)で表される化合物]、フェノールアラルキル樹脂[例えば、下記式(2)で表される化合物]、ビフェニルアラルキル樹脂[例えば、下記式(3)で表される化合物]フェノール・ベンズアルデヒド・キシリレンジメトキサイド重縮合物[例えば、下記式(7)で表される化合物]、フェノール・ベンズアルデヒド・キシリレンジハライド重縮合物[例えば、下記式(7)で表される化合物]、フェノール・ベンズアルデヒド・4,4’−ジメトキサイドビフェニル重縮合物[例えば、下記式(8)で表される化合物]、またはフェノール・ベンズアルデヒド・4,4’−ジハライドビフェニル重縮合物[例えば、下記式(8)で表される化合物]が好ましい。
【0066】
【化2】
【0067】
[ただし、前記式(1)〜(6)において、k〜kはそれぞれ0以上の数を示す。]
【0068】
【化3】
【0069】
[ただし、前記式(7)、(8)においてk、k、l、lはそれぞれ1以上の数を示す。]
【0070】
フェノール系硬化剤の配合量は、エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂成分100重量部に対して好ましくは0.1〜100重量部であり、より好ましくは80重量部以下、更に好ましくは60重量部以下である。
【0071】
<アミン系硬化剤>
アミン系硬化剤としては、例えば、脂肪族アミン類、ポリエーテルアミン類、脂環式アミン類、芳香族アミン類および第3級アミン等が挙げられる。
【0072】
脂肪族アミン類としては、例えば、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノプロパン、ヘキサメチレンジアミン、2,5−ジメチルヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジエチレントリアミン、イミノビスプロピルアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−ヒドロキシエチルエチレンジアミンおよびテトラ(ヒドロキシエチル)エチレンジアミン等が挙げられる。
【0073】
ポリエーテルアミン類としては、例えば、トリエチレングリコールジアミン、テトラエチレングリコールジアミン、ジエチレングリコールビス(プロピルアミン)、ポリオキシプロピレンジアミンおよびポリオキシプロピレントリアミン類等が挙げられる。
【0074】
脂環式アミン類としては、例えば、イソホロンジアミン、メタセンジアミン、N−アミノエチルピペラジン、ビス(4−アミノ−3−メチルジシクロヘキシル)メタン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、3,9−ビス(3−アミノプロピル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカンおよびノルボルネンジアミン等が挙げられる。
【0075】
芳香族アミン類としては、例えば、テトラクロロ−p−キシレンジアミン、m−キシレンジアミン、p−キシレンジアミン、m−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノアニソール、2,4−トルエンジアミン、2,4−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−1,2−ジフェニルエタン、2,4−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、m−アミノフェノール、m−アミノベンジルアミン、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエタノールアミン、メチルベンジルアミン、α−(m−アミノフェニル)エチルアミン、α−(p−アミノフェニル)エチルアミン、ジアミノジエチルジメチルジフェニルメタンおよびα,α’−ビス(4−アミノフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン等が挙げられる。
【0076】
第3級アミンとしては、例えば、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、トリエチレンジアミン、ベンジルジメチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルアミノエタノールおよびトリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等が挙げられる。
【0077】
以上で挙げたアミン系硬化剤は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び配合比率で用いてもよい。
【0078】
前記のアミン系硬化剤は、エポキシ樹脂組成物中に含まれる全エポキシ樹脂成分中のエポキシ基に対する硬化剤中の官能基の当量比で0.8〜1.5の範囲となるように用いることが好ましい。この範囲内であると未反応のエポキシ基や硬化剤の官能基が残留しにくくなるために好ましい。
【0079】
<酸無水物系硬化剤>
酸無水物系硬化剤としては、例えば、酸無水物、および酸無水物の変性物等が挙げられる。
【0080】
酸無水物としては、例えば、フタル酸無水物、トリメリット酸無水物、ピロメリット酸無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、ポリアジピン酸無水物、ポリアゼライン酸無水物、ポリセバシン酸無水物、ポリ(エチルオクタデカン二酸)無水物、ポリ(フェニルヘキサデカン二酸)無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルハイミック酸無水物、トリアルキルテトラヒドロフタル酸無水物、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、メチルシクロヘキセンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメリテート二無水物、ヘット酸無水物、ナジック酸無水物、メチルナジック酸無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロ−3−フラニル)−3−メチル−3−シクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸無水物、3,4−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物および1−メチル−ジカルボキシ−1,2,3,4−テトラヒドロ−1−ナフタレンコハク酸二無水物等が挙げられる。
【0081】
酸無水物の変性物としては、例えば、上述した酸無水物をグリコールで変性したもの等が挙げられる。ここで、変性に用いることのできるグリコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールおよびネオペンチルグリコール等のアルキレングリコール類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポチテトラメチレンエーテルグリコール等のポリエーテルグリコール類等が挙げられる。更には、これらのうちの2種類以上のグリコール及び/又はポリエーテルグリコールの共重合ポリエーテルグリコールを用いることもできる。
【0082】
酸無水物の変性物においては、酸無水物1モルに対してグリコール0.4モル以下で変性させることが好ましい。変性量が前記上限値以下であると、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎず、作業性が良好となる傾向にあり、また、エポキシ樹脂との硬化反応の速度も良好となる傾向にある。
【0083】
以上で挙げた酸無水物硬化剤は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び配合比率で用いてもよい。酸無水物系硬化剤を用いる場合、エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂成分中のエポキシ基に対する硬化剤中の官能基の当量比で0.8〜1.5の範囲となるように用いることが好ましい。この範囲内であると未反応のエポキシ基や硬化剤の官能基が残留しにくくなるために好ましい。
【0084】
<アミド系硬化剤>
アミド系硬化剤としては、例えば、ジシアンジアミド及びその誘導体、並びにポリアミド化合物等が挙げられる。アミド系硬化剤は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び配合比率で用いてもよい。前記のアミド系硬化剤は、エポキシ化合物エポキシ樹脂組成物中に含まれる全エポキシ化合物エポキシ樹脂成分中のエポキシ基に対する硬化剤中の官能基の当量比で0.8〜1.5の範囲となるように用いることが好ましい。この範囲内であると未反応のエポキシ基や硬化剤の官能基が残留しにくくなるために好ましい。
【0085】
<イミダゾール類>
イミダゾール類としては、例えば、2−フェニルイミダゾール、2−エチル−4(5)−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノ−2−フェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾールトリメリテイト、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾリウムトリメリテイト、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−エチル−4’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジン、2,4−ジアミノ−6−[2’−メチルイミダゾリル−(1’)]−エチル−s−トリアジンイソシアヌル酸付加体、2−フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加体、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、及びエポキシ樹脂と前記イミダゾール類との付加体等が挙げられる。なお、イミダゾール類は触媒能を有するため、一般的には硬化促進剤にも分類されうるが、本発明においては硬化剤として分類するものとする。
【0086】
以上に挙げたイミダゾール類は1種のみで用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び配合比率で用いてもよい。前記のイミダゾール系硬化剤は、エポキシ化合物エポキシ樹脂組成物中に含まれる全エポキシ化合物エポキシ樹脂成分中のエポキシ基に対する硬化剤中の官能基の当量比で0.8〜1.5の範囲となるように用いることが好ましい。この範囲内であると未反応のエポキシ基や硬化剤の官能基が残留しにくくなるために好ましい。
【0087】
<他の硬化剤>
本発明のエポキシ樹脂組成物においては前記硬化剤以外にその他の硬化剤を用いることができる。本発明のエポキシ樹脂組成物に使用することのできるその他の硬化剤は特に制限はなく、一般的にエポキシ樹脂の硬化剤として知られているものはすべて使用できる。これらの他の硬化剤は1種のみで用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0088】
[硬化促進剤]
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化促進剤を含有していてもよい。
本発明のエポキシ樹脂組成物に含有される硬化促進剤としては、リン系硬化促進剤、テトラフェニルボロン塩、有機酸ジヒドラジド、およびハロゲン化ホウ素アミン錯体等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、1種のみで用いても2種以上を任意の組み合わせ及び配合比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、リン系硬化促進剤を用いたエポキシ樹脂組成物が特に耐熱性に優れるため好ましい。
【0089】
<リン系硬化促進剤>
本発明のエポキシ樹脂組成物の硬化促進剤としてリン系硬化促進剤を用いたものが特に耐熱性に優れる理由の詳細は定かではないが、リン系硬化促進剤のうち、硬化に寄与しない酸化したリン系硬化促進剤が、エポキシ樹脂組成物中のナトリウムイオンをトラップして安定な複合体を形成し、この複合体が耐熱性の向上に寄与することにより、得られる硬化物の耐熱性が向上するためと考えられる。
【0090】
リン系硬化促進剤としては、例えば、トリフェニルホスフィン、ジフェニル(p−トリル)ホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(アルキル・アルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルキルフェニル)ホスフィン、トリス(ジアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(トリアルコキシフェニル)ホスフィン、トリス(テトラアルコキシフェニル)ホスフィン、トリアルキルホスフィン、ジアルキルアリールホスフィンおよびアルキルジアリールホスフィン等の有機ホスフィン類、並びにこれら有機ホスフィン類と有機ボロン類との錯体、およびこれら有機ホスフィン類に無水マレイン酸、1,4−ベンゾキノン、2,5−トルキノン、1,4−ナフトキノン、2,3−ジメチルベンゾキノン、2,6−ジメチルベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−5−メチル−1,4−ベンゾキノン、2,3−ジメトキシ−1,4−ベンゾキノン若しくはフェニル−1,4−ベンゾキノン等のキノン化合物、またはジアゾフェニルメタン等の化合物を付加してなる化合物等が挙げられる。リン系硬化促進剤は、上記に挙げたもののうち、1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0091】
リン系硬化促進剤は、本発明のエポキシ樹脂組成物中に含まれる全エポキシ樹脂成分100重量部に対して0.1重量部以上20重量部以下の範囲で用いることが好ましい。より好ましくは0.5重量部以上、更に好ましくは1重量部以上であり、一方、より好ましくは15重量部以下、更に好ましくは10重量部以下である。リン系硬化促進剤の含有量が前記下限値以上であると、ナトリウムイオンを含むエポキシ樹脂組成物にリン系硬化促進剤を含有させることによる耐熱性の向上効果と硬化促進効果を得るために好ましく、一方、前記上限値以下であると、所望の硬化物性が得られやすいために好ましい。
【0092】
特に、リン系硬化促進剤をナトリウムイオンを含むエポキシ樹脂組成物に含有させることによる耐熱性の向上効果を有効に得る上で、リン系硬化促進剤は、組成物中に含まれる、本測定方法で求めたナトリウムイオンに対して、リン原子換算量としてP/Naモル比が好ましくは50以上900未満、特に好ましくは70以上200未満となるように配合することが好ましい。
【0093】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、硬化促進剤として機能するリン系硬化促進剤及び硬化剤を用いて硬化させることができる。ここで、硬化剤及びリン系硬化促進剤は、通常、ナトリウムイオンを含むものではないが、ナトリウムイオンが検出限界以下の硬化剤及びリン系硬化促進剤を用いるのが好ましい。
【0094】
リン系硬化促進剤等の硬化促進剤を含むことにより、硬化時間の短縮、硬化温度の低温化が可能となり、所望の硬化物を得やすくすることができる。
【0095】
<リン系硬化促進剤以外の硬化促進剤>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前述のリン系硬化促進剤以外の硬化促進剤を更に含有していてもよい。リン系硬化促進剤以外の硬化促進剤としては、例えば、テトラフェニルボロン塩、有機酸ジヒドラジドおよびハロゲン化ホウ素アミン錯体等が挙げられる。これらの硬化促進剤は、1種のみで用いても2種以上を任意の組み合わせ及び配合比率で組み合わせて用いてもよい。
【0096】
リン系硬化促進剤以外の硬化促進剤を用いる場合、リン系硬化促進剤以外の硬化促進剤は、リン系硬化促進剤とリン系硬化促進剤以外の硬化促進剤との合計に対して好ましくは80重量%以下、特に好ましくは50重量%以下用いることが好ましい。
【0097】
[その他の配合成分]
本発明のエポキシ樹脂組成物には、必要に応じ、無機充填材、離型剤、カップリング剤等を適宜配合することができる。
【0098】
<無機充填材>
本発明のエポキシ樹脂組成物には無機充填材を配合することができる。無機充填材としては、例えば、溶融シリカ、結晶性シリカ、ガラス粉、アルミナ、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、タルクおよびチッ化ホウ素等が挙げられる。これらの中でも半導体封止の用途に用いる場合には、破砕型及び/又は球状の、溶融及び/又は結晶性シリカ粉末充填材が好ましい。
【0099】
無機充填材を使用することにより、エポキシ樹脂組成物を半導体封止材として用いたときに、半導体封止材の熱膨張係数を内部のシリコンチップやリードフレームに近づけることができ、また、半導体封止材全体の吸湿量を減らすことができるため、耐ハンダクラック性を向上させることができる。
【0100】
無機充填材の平均粒子径は、通常1〜50μm、好ましくは1.5〜40μm、より好ましくは2〜30μmである。平均粒子径が前記下限値以上であると溶融粘度が高くなり過ぎず、流動性が低下しにくいために好ましく、また、平均粒子径が前記上限値以下であると成形時に金型の狭い隙間に充填材が目詰まりしにくく、材料の充填性が向上しやすくなるために好ましい。
【0101】
本発明のエポキシ樹脂組成物に無機充填材を用いる場合、無機充填材はエポキシ樹脂組成物全体の60〜95重量%の範囲で配合することが好ましい。
【0102】
なお、一般に、無機充填材にはナトリウムイオンが不純物として含まれる場合がある。従って、本発明のエポキシ樹脂組成物に無機充填材を用いる場合には、このようなナトリウムイオン量も考慮する必要がある。
【0103】
<離型剤>
本発明のエポキシ樹脂組成物には離型剤を配合することができる。離型剤としては例えば、カルナバワックス等の天然ワックス;ポリエチレンワックス等の合成ワックス;ステアリン酸やステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸類及びその金属塩類;パラフィン等の炭化水素系離型剤を用いることができる。これらは、1種のみで用いても2種以上を任意の組み合わせ及び配合比率で組み合わせて用いてもよい。
【0104】
本発明のエポキシ樹脂組成物に離型剤を配合する場合、離型剤の配合量は、エポキシ樹脂組成物中の全エポキシ樹脂成分100重量部に対して、好ましくは0.1〜5.0重量部、より好ましくは0.5〜3.0重量部である。離型剤の配合量が前記範囲内であると、エポキシ樹脂組成物の硬化特性を維持しつつ、良好な離型性を発現することができるために好ましい。
【0105】
<カップリング剤>
本発明のエポキシ樹脂組成物には、カップリング剤を配合することが好ましい。カップリング剤は無機充填材と併用することが好ましく、カップリング剤を配合することにより、マトリックスであるエポキシ樹脂と無機充填材との接着性を向上させることができる。カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤およびチタネートカップリング剤等が挙げられる。
【0106】
シランカップリング剤としては、例えば、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランおよびβ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシランおよびγ−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランおよびγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等のビニルシラン、並びにエポキシ系、アミノ系およびビニル系の高分子タイプのシラン等が挙げられる。
【0107】
チタネートカップリング剤としては、例えば、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ(N−アミノエチル・アミノエチル)チタネート、ジイソプロピルビス(ジオクチルホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジトリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネートおよびビス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネート等が挙げられる。
【0108】
これらのカップリング剤は、いずれも1種のみで用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で混合して用いてもよい。
【0109】
本発明のエポキシ樹脂組成物にカップリング剤を用いる場合、その配合量は、全エポキシ樹脂成分100重量部に対し、好ましくは0.1〜3.0重量部である。カップリング剤の配合量が前記下限値以上であると、カップリング剤を配合したことによるマトリックスであるエポキシ樹脂と無機充填材との密着性の向上効果が向上する傾向にあり、一方、カップリング剤の配合量が前記上限値以下であると、得られる硬化物からカップリング剤がブリードアウトしにくくなるために好ましい。
【0110】
<その他の成分>
本発明のエポキシ樹脂組成物には、前記した以外の成分(本発明において、「その他の成分」と称することがある。)を配合することができる。その他の成分としては、例えば、難燃剤、可塑剤、反応性希釈剤および顔料等が挙げられ、必要に応じて適宜に配合することができる。ただし、本発明のエポキシ樹脂組成物は上記で挙げた成分以外のものを配合することを何ら妨げるものではない。
【0111】
本発明のエポキシ樹脂組成物に用いる難燃剤としては、例えば、臭素化エポキシ樹脂および臭素化フェノール樹脂等のハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモン等のアンチモン化合物、赤燐、リン酸エステル類およびホスフィン類等のリン系難燃剤、メラミン誘導体等の窒素系難燃剤並びに水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウム等の無機系難燃剤等が挙げられる。
【0112】
[硬化物]
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させることにより、本発明の硬化物を得ることができる。本発明の硬化物は、特に耐熱性において優れた特性を有するものである。
【0113】
本発明のエポキシ樹脂組成物を硬化させる方法については特に限定されないが、通常、加熱による熱硬化反応により硬化物を得ることができる。熱硬化反応時には、用いた硬化剤の種類によって硬化温度を適宜選択することが好ましい。
【0114】
例えば、フェノール系硬化剤を用いた場合、硬化温度は通常130〜200℃である。またこれらの硬化剤に促進剤を添加することで、その硬化温度を下げることも可能である。反応時間は、1〜20時間が好ましく、より好ましくは2〜18時間、さらに好ましくは3〜15時間である。反応時間が前記下限値以上であると硬化反応が十分に進行しやすくなる傾向にあるために好ましい。一方、反応時間が前記上限値以下であると加熱による劣化、加熱時のエネルギーロスを低減しやすいために好ましい。
【0115】
[用途]
本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂組成物は、耐熱性に優れた硬化物を与えるものであるため、これらの物性が求められる用途であれば、いかなる用途にも有効に用いることができる。
【0116】
このため、自動車用電着塗料、船舶・橋梁用重防食塗料、飲料用缶の内面塗装用塗料等の塗料分野、積層板、半導体封止材、レジスト材、絶縁粉体塗料、コイル含浸用等の電気電子分野、橋梁の耐震補強、コンクリート補強、建築物の床材、水道施設のライニング、排水・透水舗装または車両・航空機用接着剤といった土木・建築・接着剤分野等の用途にいずれにも好適に用いることができる。
【0117】
これらの中でも特に耐熱性と絶縁信頼性を強く求められる積層板、半導体封止材またはレジスト材の用途に有用である。これらの中でも更に、100℃〜250℃の耐熱性を要求する用途や絶縁信頼性を求められる半導体封止材用途において特に有用である。
【0118】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、前記用途に対し硬化後に使用してもよく、前記用途の製造工程にて硬化させてもよい。
【実施例】
【0119】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0120】
〔4,4’−ビスヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルのジグリシジルエーテルを含むエポキシ樹脂の製造〕
温度計、撹拌装置、冷却管を備えた内容量2Lの四口フラスコにテトラメチルビフェノール[三菱化学(株)製]137g、エピクロルヒドリン627g、イソプロピルアルコール244g、水87gを仕込み、65℃に昇温して均一に溶解させた後、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液108gを90分かけて滴下した。
【0121】
滴下終了後、65℃で30分保持し反応を完了させ、3Lの分液ロートに反応液を移し65℃の状態で1時間静置後、分離した油層と水層から水層を抜き出し、副生塩及び過剰の水酸化ナトリウムを除去した。ついで、生成物から減圧下で過剰のエピクロルヒドリンとイソプロピルアルコールを留去して、粗製エポキシ樹脂を得た。
【0122】
この粗製エポキシ樹脂をメチルイソブチルケトン300gに溶解させ、48.5重量%の水酸化ナトリウム水溶液4gを加え、65℃の温度で1時間再び反応させた。その後、メチルイソブチルケトン167gを加えた後、水130gを加えて3Lの分液ロートに移し65℃の状態で1時間静置後、分離した油層と水層から水層を抜き出し、エポキシ樹脂1の溶液を得た。
【0123】
このエポキシ樹脂1の溶液に、リン酸二水素ナトリウム2gと水160gを加えて65℃の状態で1時間静置後、分離した油層と水層から水層を抜き出し、エポキシ樹脂2の溶液を得た。
【0124】
このエポキシ樹脂2の溶液に水30gを加えて水洗し、65℃の状態で1時間静置後、分離した油層と水層から水層を抜き出し、エポキシ樹脂3の溶液を得た。
【0125】
このエポキシ樹脂3の溶液を水500gで更に水洗して65℃の状態で1時間静置後、分離した油層と水層から水層を抜き出し、エポキシ樹脂4の溶液を得た。
【0126】
得られたエポキシ樹脂1、2、3および4溶液を、それぞれナスフラスコに仕込み、150℃減圧下でメチルイソブチルケトンを完全に除去してエポキシ樹脂1、2、3および4を得た。
【0127】
得られたエポキシ樹脂1、2、3および4のナトリウムイオン含有量、エポキシ当量、150℃の溶融粘度を、それぞれ以下の方法で測定した結果を表1に示す。
【0128】
なお、得られたエポキシ樹脂1、2、3および4は、いずれも、4,4’−ビスヒドロキシ−3,3’,5,5’−テトラメチルビフェニルのジグリシジルエーテルを含むエポキシ樹脂であり、前記一般式(I)におけるnは、平均値で0.05であった。
【0129】
<ナトリウムイオン含有量>
装置:原子吸光光度計(株式会社 日立ハイテクサイエンス社製 Z−2710)
試料0.2gをN−メチル−2−ピロリドン10mlに溶解し、原子吸光光度計にて測定。
【0130】
<エポキシ当量>
JIS K7236(2001年)に準じて測定。
【0131】
<150℃の溶融粘度>
装置:コーンプレート粘度計[東海八神(株)製]
150℃に調整した装置の熱板の上にエポキシ樹脂を溶融させ、回転速度750rpmで粘度を測定。
【0132】
【表1】
【0133】
〔エポキシ樹脂組成物の製造及び評価〕
参考例1、実施例〜5及び比較例1]
表2に示す割合でエポキシ樹脂と硬化剤を配合し、アルミ皿にて120℃で5分間溶融混練した。その後、リン系硬化促進剤を表2に示す量入れて均一に分散させ、エポキシ樹脂組成物を得た。これを120℃で2時間、次いで175℃で6時間加熱して硬化させ、硬化物を得た。なお、表2中、「部」は「重量部」を表す。
【0134】
用いた硬化剤及びリン系硬化促進剤は以下の通りである。
硬化剤:フェノ−ルノボラック樹脂(群栄化学工業社製 商品名 レヂトップ
PSM6200(水酸基当量:103g/当量、軟化点:85℃))
リン系硬化促進剤:トリフェニルホスフィン
(東京化成工業株式会社製 商品名 トリフェニルホスフィン)
【0135】
なお、前記硬化剤及びリン系硬化促進剤はいずれもナトリウムイオンを含まない(検出限界1ppm未満)のものである。得られた硬化物について、耐熱性の評価として以下の方法で0.5%熱重量減少温度を試験した結果を表2に示す。
【0136】
<耐熱性:0.5%熱重量減少温度(℃)>
硬化物を100mg削り取り、そこから10mgを計量し、分取してサンプルとした。このサンプルについて、熱分析装置(TG/DTA:セイコーインスツルメント社製 EXSTAR7200)を用いて、熱分析を行った(昇温速度:5℃/分、測定温度範囲:30℃から350℃、空気:流量200mL/分)。硬化物の重量が0.5%減少した時点の温度を測定し0.5%重量減少温度とした。0.5%重量減少温度が高いほど耐熱性に優れるものと評価される。
【0137】
【表2】
【0138】
〔結果の評価〕
表1,2に示すように、ナトリウムイオンを所定の割合で含むエポキシ樹脂組成物を用いた実施例〜5の硬化物は、比較例1の硬化物に対し、耐熱性に優れたものであることがわかった。
【0139】
[比較例2〜4]
表3に記載のナトリウム化合物を予め表3記載の添加量になるように前記エポキシ樹脂4に混合した他は、前記比較例1と同様にして、エポキシ樹脂組成物を得た。参考例1、実施例〜5と同様の方法によって、これらのエポキシ樹脂組成物を硬化し、得られた硬化物の0.5%熱重量減少温度を試験した結果を表3に示す。なお、表3に記載のナトリウム化合物はいずれもN−メチルピロリドンに溶解しなかった。
【0140】
【表3】
【0141】
〔結果の評価〕
表3に示すように、エポキシ樹脂組成物にナトリウムを含有させた場合であっても、本測定方法で測定した場合のナトリウムイオン含有量が所定範囲内に入らない場合は、本発明の効果が得られないことがわかった。