特許第6607207号(P6607207)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607207
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】貼り合わせSOIウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/02 20060101AFI20191111BHJP
   H01L 27/12 20060101ALI20191111BHJP
【FI】
   H01L27/12 B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-11563(P2017-11563)
(22)【出願日】2017年1月25日
(65)【公開番号】特開2018-120965(P2018-120965A)
(43)【公開日】2018年8月2日
【審査請求日】2019年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】石塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】大木 好
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正弘
【審査官】 宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−089720(JP,A)
【文献】 特開2004−311526(JP,A)
【文献】 特開2004−214399(JP,A)
【文献】 国際公開第01/048825(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/02
H01L 27/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン単結晶からなるボンドウェーハの表面から水素及び希ガスのうち少なくとも1種類のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成し、前記ボンドウェーハのイオン注入した表面と、シリコン単結晶からなるベースウェーハの表面とを絶縁膜を介して貼り合わせた後、剥離熱処理を行って前記イオン注入層で前記ボンドウェーハを剥離することにより貼り合わせSOIウェーハを作製する方法において、
前記絶縁膜を前記ベースウェーハにのみ形成し、前記ベースウェーハの絶縁膜を形成した表面と前記ボンドウェーハのイオン注入した表面とを貼り合わせた状態で酸化性雰囲気下での熱処理を含む方法で前記剥離熱処理を行うことにより、前記イオン注入層で前記ボンドウェーハを剥離して前記貼り合わせSOIウェーハを作製すると同時に、剥離面とは反対の裏面に酸化膜が形成された剥離ウェーハを作製し、
前記剥離面には酸化膜が形成されておらず、かつ前記裏面には酸化膜が形成されている前記剥離ウェーハを両面研磨機で研磨することによって前記剥離ウェーハの前記剥離面の再生研磨を行い、
前記再生研磨を行った剥離ウェーハを新たなボンドウェーハとして使用して新たな貼り合わせSOIウェーハを作製することを特徴とする貼り合わせSOIウェーハの製造方法。
【請求項2】
前記酸化性雰囲気下での熱処理により、前記剥離ウェーハの裏面に膜厚20nm以上の酸化膜を形成することを特徴とする請求項1に記載の貼り合わせSOIウェーハの製造方法。
【請求項3】
前記酸化性雰囲気下での熱処理を、800〜900℃で20〜40分間ウェット酸化することで行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の貼り合わせSOIウェーハの製造方法。
【請求項4】
前記剥離ウェーハの再生研磨を、前記剥離ウェーハの前記裏面の酸化膜以外の酸化膜を除去した後で行うことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の貼り合わせSOIウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン注入剥離法により貼り合わせSOI(Silicon On Insulator)ウェーハを製造する方法に関し、特に、剥離熱処理を行って剥離されたボンドウェーハを再生研磨して、新たにボンドウェーハとして再利用して他の貼り合わせSOIウェーハを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
埋め込み酸化膜(絶縁膜)の厚い貼り合わせSOIウェーハをイオン注入剥離法で作製する場合には、剥離できる膜厚がイオン注入機の加速電圧により制限されるため、イオン注入するボンドウェーハには酸化膜を形成せずにベースウェーハにのみ酸化膜を形成して、これらを貼り合わせる方法が用いられる。
【0003】
ボンドウェーハ側にも薄い酸化膜を形成し、酸化膜同士を貼り合わせることで厚い埋め込み酸化膜を形成することもできるが、その場合、十分な結合強度を得るためには、シリコンと酸化膜の結合に比べて高温の結合熱処理が必要とされるため、スリップ転位が発生しやすくなる等の問題がある。
【0004】
また、イオン注入剥離法を用いて貼り合わせSOIウェーハを作製する際、剥離されたボンドウェーハ(剥離ウェーハ)を再生研磨して、新たに貼り合わせSOIウェーハを製造する際のボンドウェーハとして再利用することが行われている。副生された剥離ウェーハの再生研磨を行う際には、特許文献1に記載されているように、剥離ウェーハの裏面にのみ酸化膜が形成された状態で両面研磨を行えば、両面研磨による高い平坦性を保ちつつ、研磨の取り代(研磨代)を低減できるため、剥離ウェーハの再生使用回数を増やすことができることが知られている。
【0005】
しかしながら、ボンドウェーハに酸化膜を形成せずにベースウェーハと貼り合わせて剥離熱処理が行われると、剥離熱処理は、通常、500℃程度の低温で非酸化性雰囲気下(例えばArガスやNガス雰囲気下)で行われることが一般的であるため、剥離ウェーハの裏面には酸化膜が形成されない。従って、この剥離ウェーハにそのまま両面研磨を行うと、通常の両面研磨と同様に、剥離面と裏面が同等の取り代で研磨されてしまい、研磨代を低減でき、再生使用回数を増やすことができるという前述の利点が得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−089720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、ボンドウェーハに絶縁膜を形成せずにベースウェーハとの貼り合わせを行った場合であっても、両面研磨機での剥離ウェーハの再生研磨時の研磨代を低減し、剥離ウェーハの再生使用回数を増やすことができる貼り合わせSOIウェーハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、本発明では、シリコン単結晶からなるボンドウェーハの表面から水素及び希ガスのうち少なくとも1種類のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成し、前記ボンドウェーハのイオン注入した表面と、シリコン単結晶からなるベースウェーハの表面とを絶縁膜を介して貼り合わせた後、剥離熱処理を行って前記イオン注入層で前記ボンドウェーハを剥離することにより貼り合わせSOIウェーハを作製する方法において、前記絶縁膜を前記ベースウェーハにのみ形成し、前記ベースウェーハの絶縁膜を形成した表面と前記ボンドウェーハのイオン注入した表面とを貼り合わせた状態で酸化性雰囲気下での熱処理を含む方法で前記剥離熱処理を行うことにより、前記イオン注入層で前記ボンドウェーハを剥離して前記貼り合わせSOIウェーハを作製すると同時に、剥離面とは反対の裏面に酸化膜が形成された剥離ウェーハを作製し、前記剥離面には酸化膜が形成されておらず、かつ前記裏面には酸化膜が形成されている前記剥離ウェーハを両面研磨機で研磨することによって前記剥離ウェーハの前記剥離面の再生研磨を行い、前記再生研磨を行った剥離ウェーハを新たなボンドウェーハとして使用して新たな貼り合わせSOIウェーハを作製する貼り合わせSOIウェーハの製造方法を提供する。
【0009】
このような方法であれば、ボンドウェーハに絶縁膜を形成せずにベースウェーハとの貼り合わせを行った場合であっても、両面研磨機での剥離ウェーハの再生研磨時の研磨代を低減し、剥離ウェーハの再生使用回数を増やすことができる貼り合わせSOIウェーハの製造方法となる。
【0010】
また、前記酸化性雰囲気下での熱処理により、前記剥離ウェーハの裏面に膜厚20nm以上の酸化膜を形成することが好ましい。
【0011】
このような膜厚の酸化膜を形成することで、再生研磨における剥離ウェーハの裏面側の研磨の取り代をより効果的に低減することができる。
【0012】
また、前記酸化性雰囲気下での熱処理を、800〜900℃で20〜40分間ウェット酸化することで行うことが好ましい。
【0013】
このような方法であれば、剥離熱処理において、剥離ウェーハの裏面に容易に膜厚20nm以上の酸化膜を形成することができる。また、一旦剥離した面が再付着したうえに結合強度が高まり、剥離が困難になる恐れがない。
【0014】
また、前記剥離ウェーハの再生研磨を、前記剥離ウェーハの前記裏面の酸化膜以外の酸化膜を除去した後で行うことが好ましい。
【0015】
剥離ウェーハの剥離面や周辺段差部の表面部分に薄い酸化膜が形成された場合には、このように再生研磨の前に裏面の酸化膜以外の酸化膜を除去することで、より効率良く再生研磨を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法であれば、ベース酸化品(即ち、SOI層及び剥離ウェーハとなるボンドウェーハには絶縁膜を形成しない製品)であっても、酸化性雰囲気下での熱処理を含む剥離熱処理によって剥離ウェーハの裏面に酸化膜を形成することで、再生研磨時の剥離ウェーハの裏面の研磨代を大幅に低減することができる。このように、剥離ウェーハの裏面に研磨されにくい酸化膜を形成することで、両面研磨機を使用して実質的に剥離面のみを片面研磨することが可能であるため、両面研磨による高い平坦性を保ちつつ、研磨代を低減して剥離ウェーハの再生使用回数を増やすことができる。また、このような方法であれば、剥離ウェーハの裏面に酸化膜を形成する工程を別途設ける必要がないため、工程を増やすことなく、簡便な方法で、再生研磨時の剥離ウェーハの裏面の研磨代を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法の一例のフローを示す概略断面図である。
図2】剥離熱処理を酸化性雰囲気下での熱処理だけの1ステップで行う場合の熱処理条件の一例を示す図である。
図3】剥離熱処理を非酸化性雰囲気下での熱処理と酸化性雰囲気下での熱処理の2ステップで行う場合の熱処理条件の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上述のように、埋め込み酸化膜の厚い貼り合わせSOIウェーハを作製するために、ボンドウェーハには絶縁膜を形成せずにベースウェーハにのみ酸化膜を形成して、これらを貼り合わせた後、通常の非酸化性雰囲気下での剥離熱処理を行った場合には、剥離ウェーハの裏面に酸化膜が形成されないため、副生された剥離ウェーハを特許文献1に記載されているような方法で再生研磨しても、剥離面だけでなく裏面も同時に研磨されてしまい、再生研磨時の研磨代を低減し、再生使用回数を増やすことができるという特許文献1の効果を享受できないという問題があった。
【0019】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、ボンドウェーハに絶縁膜を形成せずにベースウェーハとの貼り合わせを行った場合であっても、酸化性雰囲気下での熱処理を含む方法で剥離熱処理を行うことで、剥離ウェーハの裏面に酸化膜を形成することができ、これにより、両面研磨機での剥離ウェーハの再生研磨時の研磨代を低減し、剥離ウェーハの再生使用回数を増やすことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
即ち、本発明は、シリコン単結晶からなるボンドウェーハの表面から水素及び希ガスのうち少なくとも1種類のガスイオンをイオン注入してイオン注入層を形成し、前記ボンドウェーハのイオン注入した表面と、シリコン単結晶からなるベースウェーハの表面とを絶縁膜を介して貼り合わせた後、剥離熱処理を行って前記イオン注入層で前記ボンドウェーハを剥離することにより貼り合わせSOIウェーハを作製する方法において、前記絶縁膜を前記ベースウェーハにのみ形成し、前記ベースウェーハの絶縁膜を形成した表面と前記ボンドウェーハのイオン注入した表面とを貼り合わせた状態で酸化性雰囲気下での熱処理を含む方法で前記剥離熱処理を行うことにより、前記イオン注入層で前記ボンドウェーハを剥離して前記貼り合わせSOIウェーハを作製すると同時に、剥離面とは反対の裏面に酸化膜が形成された剥離ウェーハを作製し、前記剥離面には酸化膜が形成されておらず、かつ前記裏面には酸化膜が形成されている前記剥離ウェーハを両面研磨機で研磨することによって前記剥離ウェーハの前記剥離面の再生研磨を行い、前記再生研磨を行った剥離ウェーハを新たなボンドウェーハとして使用して新たな貼り合わせSOIウェーハを作製する貼り合わせSOIウェーハの製造方法である。
【0021】
なお、特開2007−149723号公報には、剥離開始から剥離終了までの熱処理を、酸化性雰囲気下で行うことが記載されている。しかしながら、その目的は、剥離時に生じたパーティクルを除去することであり、その具体的な実施例としては、ボンドウェーハに埋め込み酸化膜を形成する場合(ボンド酸化)のみしか開示されていない。また、特開2007−149723号公報には、剥離後のボンドウェーハを再生研磨し、ボンドウェーハとして再利用することも記載されていない。
【0022】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書において、特に説明がない場合、「酸化膜」は「自然酸化膜」ではなく、「熱酸化膜」を意味する。
【0023】
図1は、本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法の一例のフローを示す概略断面図である。図1の製造方法では、まず、シリコン単結晶からなるボンドウェーハ1を用意し、ボンドウェーハ1の表面から水素及び希ガスのうち少なくとも1種類のガスイオンをイオン注入して、ボンドウェーハ内部にイオン注入層2を形成する(図1の(a)工程)。一方で、シリコン単結晶からなるベースウェーハ3を用意し、ベースウェーハ3に絶縁膜4を形成する(図1の(b)工程)。次に、ベースウェーハ3の絶縁膜4を形成した表面とボンドウェーハ1のイオン注入した表面とを貼り合わせる(図1の(c)工程)。次に、このようにして貼り合わせたウェーハに対して、酸化性雰囲気下での熱処理を含む方法で剥離熱処理を行うことにより、イオン注入層2でボンドウェーハ1を剥離して貼り合わせSOIウェーハ5を作製すると同時に、剥離面とは反対の裏面に酸化膜(裏面の酸化膜6a)が形成された剥離ウェーハ7を作製する。なお、このとき、裏面の酸化膜6aの形成と同時に裏面以外の酸化膜6bも形成される場合がある(図1の(d)工程)。次に、剥離ウェーハ7の裏面の酸化膜6a以外の酸化膜(裏面以外の酸化膜6b)を除去する(図1の(e)工程)。次に、剥離面には酸化膜が形成されておらず、かつ裏面には酸化膜(裏面の酸化膜6a)が形成されている剥離ウェーハ7を両面研磨機で研磨することによって剥離ウェーハ7の剥離面の再生研磨を行う(図1の(f)工程)。そして、このようにして再生研磨を行った剥離ウェーハ8を新たなボンドウェーハとして使用して新たな貼り合わせSOIウェーハを作製する(図1の(g)工程)。
【0024】
以下、本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法の各工程について、更に詳しく説明する。
【0025】
[ボンドウェーハの準備]
本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法では、まず、シリコン単結晶からなるボンドウェーハを用意し、ボンドウェーハの表面から水素及び希ガスのうち少なくとも1種類のガスイオンをイオン注入して、ボンドウェーハ内部にイオン注入層を形成する。なお、イオン注入は、公知の方法で行うことができる。また、本発明では、ベースウェーハにのみ絶縁膜を形成し、ボンドウェーハには絶縁膜を形成しない。
【0026】
[ベースウェーハの準備]
本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法では、一方で、シリコン単結晶からなるベースウェーハを用意し、ベースウェーハに絶縁膜を形成する。絶縁膜としては、例えば、熱酸化膜を挙げることができる。なお、絶縁膜は、少なくともボンドウェーハとの貼り合わせ面に形成されていればよい。つまり、絶縁膜は、ボンドウェーハとの貼り合わせ面のみに形成されていてもよく、ベースウェーハの全面に形成されていてもよい。また、絶縁膜の形成は、公知の方法で行うことができる。
【0027】
[ウェーハの貼り合わせ]
本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法では、次に、上記のようにして準備したベースウェーハの絶縁膜を形成した表面と上記のようにして準備したボンドウェーハのイオン注入した表面とを貼り合わせる。なお、ウェーハの貼り合わせは、公知の方法で行うことができる。
【0028】
[剥離熱処理]
本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法では、次に、上記のようにして貼り合わせたウェーハに対して、剥離熱処理を行ってイオン注入層でボンドウェーハを剥離することにより、貼り合わせSOIウェーハを作製する。このとき、剥離熱処理は、ベースウェーハの絶縁膜を形成した表面とボンドウェーハのイオン注入した表面とを貼り合わせた状態で、酸化性雰囲気下での熱処理を含む方法で行う。これにより、イオン注入層でボンドウェーハを剥離して貼り合わせSOIウェーハを作製すると同時に、剥離面とは反対の裏面に酸化性雰囲気下での熱処理により酸化膜(熱酸化膜)が形成された剥離ウェーハを作製する。
【0029】
酸化性雰囲気下での熱処理により剥離ウェーハの裏面にわずかでも熱酸化膜が形成されれば、両面研磨を行った際に、剥離面の研磨速度に対する裏面の研磨速度が低下するので、剥離ウェーハの裏面側の研磨の取り代を低減する効果が得られる。
【0030】
酸化性雰囲気下での熱処理により剥離ウェーハの裏面に形成する酸化膜の膜厚は、20nm以上とすることが好ましい。このような膜厚とすることで、再生研磨における剥離ウェーハの裏面側の研磨の取り代をより効果的に低減することができる。また、剥離ウェーハの裏面に形成する酸化膜の膜厚は、特に限定されないが、例えば、200nm以下とすることが好ましい。
【0031】
酸化性雰囲気下での熱処理は、500℃、30分程度の通常の剥離熱処理の非酸化性雰囲気を単に酸化性雰囲気に変更するだけでなく、800℃で20分間以上ウェット酸化することで行うことが好ましく、800〜900℃で20〜40分間ウェット酸化することで行うことがより好ましい。このような方法であれば、剥離熱処理において、剥離ウェーハの裏面に容易に膜厚20nm以上の酸化膜を形成することができる。また、熱処理温度が900℃以下であれば、一旦剥離した面が再付着したうえに結合強度が高まり、剥離が困難になる恐れがない。
【0032】
本発明における剥離熱処理は、酸化性雰囲気下での熱処理を含む方法で行えばよい。つまり、剥離熱処理としては、剥離と酸化膜形成を兼ねた酸化性雰囲気下での熱処理だけを行ってもよいし、剥離のための非酸化性雰囲気下での通常の熱処理と酸化膜形成のための酸化性雰囲気下での熱処理を組み合わせて行ってもよい。
【0033】
剥離熱処理を酸化性雰囲気下での熱処理だけの1ステップで行う場合、図2に示されるように、貼り合わせたウェーハを、500℃以下(例えば、200〜400℃、特には300℃程度)で非酸化性雰囲気(例えば、N雰囲気)の熱処理炉に投入後、wetO雰囲気に切り替えて、800〜900℃まで昇温し、その温度で所定時間(例えば、20〜40分間)保持することでウェット酸化を行い、その後降温し、非酸化性雰囲気(例えば、N雰囲気)に切り替えてウェーハを取り出す方法で剥離熱処理を行うことができる。
【0034】
剥離熱処理を非酸化性雰囲気下での熱処理と酸化性雰囲気下での熱処理の2ステップで行う場合、図3に示されるように、貼り合わせたウェーハを、500℃以下(例えば、200〜400℃、特には300℃程度)で非酸化性雰囲気(例えば、N雰囲気)の熱処理炉に投入後、非酸化性雰囲気のまま500℃程度まで昇温し、その温度で所定時間(例えば、30分間程度)保持することで通常の剥離熱処理を行い、その後、熱処理炉からウェーハを取り出すことなく、wetO雰囲気に切り替えて、800〜900℃まで昇温し、その温度で所定時間(例えば、20〜40分間)保持することでウェット酸化を行い、その後降温し、非酸化性雰囲気(例えば、N雰囲気)に切り替えてウェーハを取り出す方法で剥離熱処理を行うことができる。
【0035】
[研磨前処理]
本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法では、次に、必要に応じて、再生研磨の前処理を行うことができる。剥離熱処理を、上記のように酸化性雰囲気下での熱処理を含む方法で行うと、剥離ウェーハの裏面だけでなく、剥離面や周辺段差部の表面部分にも薄い酸化膜が形成される場合がある。このような場合には、再生研磨の前処理として、剥離ウェーハの裏面の酸化膜以外の酸化膜を除去することで、より効率良く再生研磨を行うことができる。
【0036】
剥離ウェーハの裏面の酸化膜以外の酸化膜を除去する方法としては、特に限定されないが、例えば、特許文献1の図2及び[0028]段落に記載のリング状のゴム(Oリング)を用いて裏面酸化膜を保護した状態でHF(フッ化水素)水溶液に浸漬する方法などがある。
【0037】
[再生研磨]
本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法では、次に、剥離面には酸化膜が形成されておらず、かつ裏面には酸化膜が形成されている剥離ウェーハを両面研磨機で研磨することによって剥離ウェーハの剥離面の再生研磨を行う。なお、再生研磨は、例えば、特許文献1に記載の方法で行うことができる。
【0038】
本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法において副生される剥離ウェーハは、上述のように、裏面に酸化性雰囲気下での熱処理により酸化膜が形成されたものである。従って、両面研磨機を用いて再生研磨を行った際に、剥離ウェーハの裏面は酸化膜により保護されて、剥離面に比べて研磨されにくくなり、裏面の研磨代は低減される。これにより、両面研磨機を使用して実質的に剥離面のみを片面研磨することが可能となる。
【0039】
[剥離ウェーハの再利用]
本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法では、このようにして再生研磨を行った剥離ウェーハを新たなボンドウェーハとして使用して(即ち、再利用して)、新たな貼り合わせSOIウェーハを作製する。
【0040】
以上のように、本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法であれば、ベース酸化品(即ち、SOI層及び剥離ウェーハとなるボンドウェーハには絶縁膜を形成しない製品)であっても、酸化性雰囲気下での熱処理を含む剥離熱処理によって剥離ウェーハの裏面に酸化膜を形成することで、再生研磨時の剥離ウェーハの裏面の研磨代を大幅に低減することができる。このように、剥離ウェーハの裏面に研磨されにくい酸化膜を形成することで、両面研磨機を使用して実質的に剥離面のみを片面研磨することが可能であるため、両面研磨による高い平坦性を保ちつつ、研磨代を低減して剥離ウェーハの再生使用回数を増やすことができる。また、このような方法であれば、剥離ウェーハの裏面に酸化膜を形成する工程を別途設ける必要がないため、工程を増やすことなく、簡便な方法で、再生研磨時の剥離ウェーハの裏面の研磨代を低減することができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
実施例及び比較例では、以下のようなボンドウェーハ及びベースウェーハを使用した。
(ボンドウェーハ)
直径300mm、結晶方位<100>、酸化膜なし、水素イオン注入層あり
(ベースウェーハ)
直径300mm、結晶方位<100>、全面に膜厚400nmの熱酸化膜あり
【0043】
[実施例1]
上記のベースウェーハの熱酸化膜を形成した表面と、上記のボンドウェーハの水素イオン注入層を形成した表面とを貼り合わせた。この状態で、ウェーハを350℃、N雰囲気の熱処理炉に投入し、wetO雰囲気に切り替えて800℃まで昇温し、その温度で20分間保持し、その後降温した(剥離熱処理:1ステップ、酸化性雰囲気下での熱処理あり)。その結果、ボンドウェーハは昇温中に水素イオン注入層で剥離して、貼り合わせSOIウェーハ及び裏面に酸化膜が形成された剥離ウェーハが得られた。得られた剥離ウェーハの裏面酸化膜の厚さを測定したところ、20nmであった。次に、この剥離ウェーハを、両面研磨機を用いて研磨した(再生研磨)。再生研磨における剥離面と裏面の研磨代を測定した結果を表1に示す。
【0044】
[実施例2]
上記のベースウェーハの熱酸化膜を形成した表面と、上記のボンドウェーハの水素イオン注入層を形成した表面とを貼り合わせた。この状態で、ウェーハを350℃、N雰囲気の熱処理炉に投入し、N雰囲気のまま500℃まで昇温し、その温度で30分間保持し、次いで、wetO雰囲気に切り替えて900℃まで昇温し、その温度で30分間保持し、その後降温した(剥離熱処理:2ステップ、酸化性雰囲気下での熱処理あり)。その結果、ボンドウェーハはN雰囲気、500℃、30分間の熱処理により水素イオン注入層で剥離して、貼り合わせSOIウェーハ及び裏面に酸化膜が形成された剥離ウェーハが得られた。得られた剥離ウェーハの裏面酸化膜の厚さを測定したところ、150nmであった。次に、Oリングを使用して裏面酸化膜を保護した状態で剥離ウェーハをHF水溶液に浸漬し、裏面酸化膜以外の酸化膜を除去した(研磨前処理)。そして、研磨前処理を行った剥離ウェーハを、両面研磨機を用いて研磨した(再生研磨)。再生研磨における剥離面と裏面の研磨代を測定した結果を表1に示す。
【0045】
[比較例1]
上記のベースウェーハの熱酸化膜を形成した表面と、上記のボンドウェーハの水素イオン注入層を形成した表面とを貼り合わせた。この状態で、ウェーハを350℃、N雰囲気の熱処理炉に投入し、N雰囲気のまま500℃まで昇温し、その温度で30分間保持し、その後降温した(剥離熱処理:1ステップ、酸化性雰囲気下での熱処理なし)。その結果、ボンドウェーハは熱処理により水素イオン注入層で剥離して、貼り合わせSOIウェーハ及び裏面に酸化膜がない剥離ウェーハが得られた。次に、この剥離ウェーハを、両面研磨機を用いて研磨した(再生研磨)。再生研磨における剥離面と裏面の研磨代を測定した結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1に示されるように、酸化性雰囲気下での剥離熱処理を行い、剥離ウェーハの裏面に膜厚20nmの酸化膜を形成した実施例1では、再生研磨における研磨代は、剥離面で3μm、裏面で0.1μmであり、剥離ウェーハの裏面の研磨代を剥離面に比べて大幅に低減することができていた。また、酸化性雰囲気下での熱処理を含む剥離熱処理を行い、剥離ウェーハの裏面に膜厚150nmの酸化膜を形成した実施例2では、再生研磨における研磨代は、剥離面で3μm、裏面で0μmであり、剥離ウェーハの裏面の研磨代を実施例1よりも更に低減することができていた。
【0048】
一方、非酸化性雰囲気下での剥離熱処理しか行わなかったために剥離ウェーハの裏面に酸化膜が形成されなかった比較例1では、再生研磨における研磨代は、剥離面で3μm、裏面で3μmであり、剥離ウェーハの裏面が剥離面と同等の研磨代で研磨されてしまっていた。
【0049】
以上のことから、本発明の貼り合わせSOIウェーハの製造方法であれば、ボンドウェーハに絶縁膜を形成せずにベースウェーハとの貼り合わせを行った場合であっても、両面研磨機での剥離ウェーハの再生研磨時の研磨代を低減することができることが明らかとなり、これにより剥離ウェーハの再生使用回数を増やすことができることが明らかとなった。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0051】
1…ボンドウェーハ、 2…イオン注入層、 3…ベースウェーハ、 4…絶縁膜、
5…貼り合わせSOIウェーハ、 6a…裏面の酸化膜、 6b…裏面以外の酸化膜、
7…剥離ウェーハ、 8…再生研磨を行った剥離ウェーハ。
図1
図2
図3