(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ターゲットに対向し、ターゲット表面に磁場を発生させるための、直線部及びコーナー部からなるレーストラック形状のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置であって、
磁性体からなるベース上に、
(a)前記直線部に、磁化方向が前記ターゲット表面に垂直になるように直線状に配置された中央部永久磁石と、
(b)前記中央部永久磁石を取り囲むように、磁化方向が前記ターゲット表面に垂直で、かつ前記ターゲットに対向する磁極が前記中央部永久磁石と逆になるように配置された、前記レーストラック形状の外周を形成する外周部永久磁石と、
(c)前記直線部の前記中央部永久磁石を挟んだ両側に、前記中央部永久磁石と平行に、前記外周部永久磁石に向けて順に、直線状に設けられた第一の中間部永久磁石、第二の中間部永久磁石及び第三の中間部永久磁石と、
(d)前記コーナー部に、前記中央部永久磁石の両端部から長手方向に離間して、磁化方向が前記ターゲット表面に垂直で、かつ前記ターゲットに対向する磁極が前記中央部永久磁石と逆になるように配置された第四の中間部永久磁石とを有し、
前記第一の中間部永久磁石は、磁化方向が前記ターゲット表面に垂直で、かつ前記ターゲットに対向する磁極が前記中央部永久磁石と逆になるように配置され、
前記第二の中間部永久磁石は、磁化方向が前記ターゲット表面に平行で、一方の磁極が前記第一の中間部永久磁石のターゲット寄り側面と対向し、前記側面と対向する磁極が前記中央部永久磁石の前記ターゲットに対向する磁極と逆になるように磁気空隙を介してベース上に配置され、
前記第三の中間部永久磁石は、磁化方向が前記ターゲット表面に垂直で、かつ前記ターゲットに対向する磁極が前記中央部永久磁石と同じなるように配置されることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置。
請求項1〜3のいずれかに記載のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置において、前記ターゲット表面に対して垂直な方向の磁束密度がゼロとなる位置における、前記ターゲット表面に対して平行な方向の磁束密度が10 mT以上であることを特徴とするマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置。
【背景技術】
【0002】
スパッタリングとは、Ar等の不活性物質を高速で衝突させることによりターゲットを構成する原子や分子がたたき出される現象をいい、このたたき出された原子や分子を基板上に付着させることで、薄膜を形成することができる。マグネトロンスパッタリング法は、陰極内部に磁場を組み込むことにより、基板へのターゲット物質の堆積速度を向上させることができ、しかも基板への電子の衝突が起こらないため低温で成膜が可能な手法である。従って、半導体IC、フラットパネルディスプレー、太陽電池等の電子部品や、反射膜等の製造プロセスにおいては、基板表面に薄膜を形成するためにマグネトロンスパッタリング法が多く用いられている。
【0003】
マグネトロンスパッタリング装置は、真空チャンバー内に陽極側の基板と、基板と相対するように配置したターゲット(陰極)と、ターゲットの下方に配置した磁場発生装置とを具備する。陽極と陰極との間に電圧を印加することによりグロー放電を起こし、真空チャンバー内の不活性ガス(0.1 Pa程度のArガス等)をイオン化させ、一方でターゲットから放出された二次電子を磁場発生装置により形成した磁場により捕獲し、ターゲット表面でサイクロイド運動を行わせる。電子のサイクロイド運動によりガス分子のイオン化が促進されるため、膜の生成速度は磁場を用いない場合に比べ格段に大きくなり、膜の付着強度が大きくなる。
【0004】
マグネトロンスパッタリング装置に具備される磁場発生装置は、円状又はレーストラック状に磁場を発生させることができる装置であり、例えば
図10(a)〜
図10(c)に示すように、直線状の中央磁極部材と、前記中央磁極部材を取り囲むように配置された外周磁極部材と、前記中央磁極部材と前記外周磁極部材との間に磁化方向が水平になるように、かつ同極性の磁極が前記中央磁極部材に対向するように設置された複数の永久磁石とを有するものが従来から使用されている。このような構成の磁場発生装置を用いてマグネトロンスパッタを行うと、ターゲッ卜のエロージョンの断面形状は、
図11に示すように、V字状になってしまい、ターゲットの利用効率が必ずしも十分とは言えない。
【0005】
従来のマグネトロンスパッタリングにおいて、ターゲットの利用効率を高めるため、ターゲットのエロージョン領域をより均一にする方法、すなわちエロージョンの断面形状をV字状からU字状にする方法が考えられてきた。ターゲットのエロージョン領域をより均一にする方法としては、例えば、ターゲット、又は磁気回路を機械的に揺動する方法、磁気回路内の磁石の一部を移動、回転させる方法等が挙げられる。しかしながら、ターゲッ卜のエロージョンを均一にするためにターゲット又は磁気回路を機械的に揺動する方法は、装置の大型化、大幅なコストアップとなってしまうため、現実的には実用化が難しいのが現状である。
【0006】
特開2004-83974号は、ターゲット面に対して基板側に、磁束密度の垂直成分がゼロとなる位置が、ターゲットから垂直方向に離れるに従いターゲットの中心部から外側に広がる磁力線形状を有する磁場を形成し、前記磁力線形状を有する磁場によって前記基板側へのプラズマの拡散を抑制することにより膜厚分布及び膜質分布の均一化を図ったスパッタ成膜方法を開示しており、具体的には、特開2004-83974号の
図1及び
図2に示すような磁場発生装置を開示している。特開2004-83974号は、ターゲット表面近傍の磁力線形状をターゲット表面とほぼ平行に形成することで、ターゲットの中心部からターゲットの外縁部にわたる広い範囲にエロージョン領域を形成でき、ターゲットの材料の利用効率を高めることができると記載している。
【0007】
しかしながら、特開2004-83974号に記載の磁場発生装置は、ターゲット表面において前記ターゲットの中心部から外縁部の間に磁気トンネルを形成し、前記ターゲット表面の中心部近傍において磁束密度の水平成分がゼロとなる位置における磁束密度の垂直成分の絶対値B1と、前記ターゲット表面の外縁部近傍において磁束密度の垂直成分の絶対値の最大値B2との比(B1/B2)が2.5以上となる磁力線形状、すなわち、前記中心部近傍における磁束密度の垂直成分(B1)が、前記外縁部近傍(B2)よりも2.5倍以上大きいことを特徴としているため、エロージョン領域の均一化が十分ではなく、さらなる改良が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、ターゲット上の磁束密度の分布を平均化し、ターゲットの利用効率を向上させることのできるマグトロンスパッタリング用磁場発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、
本発明者は、レーストラック形状のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置であって、ターゲット表面に垂直に磁化された(以下、垂直磁化という。)直線状の中央部永久磁石と、それを取り囲むように配置された外周部永久磁石(垂直磁化)とを設け、前記レーストラック形状の直線部に、前記中央部永久磁石と平行に、第一の中間部永久磁石(垂直磁化)及び第三の中間部永久磁石(垂直磁化)を設け、第一の中間部永久磁石及び第三の中間部永久磁石の間にターゲット表面に対して水平方向に磁化された第二の中間部永久磁石を設け、さらに前記レーストラック形状のコーナー部に第四の中間部永久磁石(垂直磁化)を設けてなる磁場発生装置は、磁束密度の垂直成分がゼロとなる箇所が3箇所存在することにより、従来の磁場発生装置に比べてエロージョン領域がU字状に広がり、その結果、ターゲットの利用効率を著しく高めることができることを見出し、本発明に想到した。
【0010】
すなわち、ターゲットに対向し、ターゲット表面に磁場を発生させるための直線部及びコーナー部からなる、本発明のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置は、
磁性体からなるベース上に、
(a)前記直線部に、磁化方向が前記ターゲット表面に垂直になるように直線状に配置された中央部永久磁石と、
(b)前記中央部永久磁石を取り囲むように、磁化方向が前記ターゲット表面に垂直で、かつ前記ターゲットに対向する磁極が前記中央部永久磁石と逆になるように配置された、前記レーストラック形状の外周を形成する外周部永久磁石と、
(c)前記直線部の前記中央部永久磁石を挟んだ両側に、前記中央部永久磁石と平行に、前記外周部永久磁石に向けて順に、直線状に設けられた第一の中間部永久磁石、第二の中間部永久磁石及び第三の中間部永久磁石と、
(d)前記コーナー部に、前記中央部永久磁石の両端部から長手方向に離間して、磁化方向が前記ターゲット表面に垂直で、かつ前記ターゲットに対向する磁極が前記中央部永久磁石と逆になるように配置された第四の中間部永久磁石とを有し、
前記第一の中間部永久磁石は、磁化方向が前記ターゲット表面に垂直で、かつ前記ターゲットに対向する磁極が前記中央部永久磁石と逆になるように配置され、
前記第二の中間部永久磁石は、磁化方向が前記ターゲット表面に平行で、一方の磁極が前記第一の中間部永久磁石のターゲット寄り側面と対向し、前記側面と対向する磁極が前記中央部永久磁石の前記ターゲットに対向する磁極と逆になるように磁気空隙を介してベース上に配置され、
前記第三の中間部永久磁石は、磁化方向が前記ターゲット表面に垂直で、かつ前記ターゲットに対向する磁極が前記中央部永久磁石と同じなるように配置されることを特徴とする。
【0011】
本発明のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置を用いた場合、前記ターゲット表面において、前記中央部永久磁石の長手方向中心に対向する位置から前記長手方向と直交する方向に向かって、磁束密度の垂直成分がゼロとなる箇所が3箇所存在するのが好ましい。
【0012】
前記中央部永久磁石、前記第一の中間部永久磁石及び前記外周部永久磁石がネオジム磁石からなり、
前記第二の中間部永久磁石、前記第三の中間部永久磁石及び前記第四の中間部永久磁石がフェライト磁石からなり、
前記中央部永久磁石の残留磁束密度が、前記第一の中間部永久磁石の残留磁束密度よりも小さいのが好ましい。
【0013】
前記ターゲット表面に対して垂直な方向の磁束密度がゼロとなる位置における、前記ターゲット表面に対して平行な方向の磁束密度が10 mT以上であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の磁場発生装置を用いることにより、ターゲット上の磁束密度の垂直成分がゼロとなる箇所が3箇所に増え、従来の磁場発生装置に比べてエロージョン領域がU字状に広がるので、ターゲットのエロージョン進行をより均一にし、ターゲットの利用効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1(a)】本発明のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置の一例を示す平面図である。
【
図2】本発明のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置の他の一例を示す平面図である。
【
図3】本発明のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置の直線部のみを抜き出して磁場解析を行った時の磁界の様子を磁束線によって示す模式図である。
【
図4(a)】実施例1のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置を示す平面図である。
【
図5(a)】比較例1のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置を示す平面図である。
【
図6(a)】実施例1の磁場発生装置によってターゲット面上に発生する磁束密度の平行成分及び垂直成分を直線部においてY方向にプロットしたグラフである。
【
図6(b)】実施例1の磁場発生装置によってターゲット面上に発生する磁束密度の平行成分及び垂直成分をコーナー部においてX方向にプロットしたグラフである。
【
図7(a)】比較例1の磁場発生装置によってターゲット面上に発生する磁束密度の平行成分及び垂直成分を直線部においてY方向にプロットしたグラフである。
【
図7(b)】比較例1の磁場発生装置によってターゲット面上に発生する磁束密度の平行成分及び垂直成分をコーナー部においてX方向にプロットしたグラフである。
【
図8(a)】本発明1の磁場発生装置において、磁束密度垂直成分がゼロとなる点を点線で結んで示す模式図である。
【
図8(b)】比較例1の磁場発生装置において、磁束密度垂直成分がゼロとなる点を点線で結んで示す模式図である。
【
図9】本発明のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置を用いてマグネトロンスパッタを行ったときのターゲッ卜のエロージョン断面形状を示す模式図である。
【
図10(a)】従来のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置の一例を示す平面図である。
【
図11】
図10(a)に示す従来のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置を用いてマグネトロンスパッタを行ったときのターゲッ卜のエロージョン断面形状を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[1] マグネトロンスパッタリング用磁場発生装置
(1)構成
本発明のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置は、ターゲット表面にレーストラック状の磁場を発生させるための装置であり、例えば
図1(a)及び
図1(b)に示すように、ターゲット9に対向し、直線部1a及び2つのコーナー部1b,1bからなるレーストラック形状を有している。
【0017】
マグネトロンスパッタリング用磁場発生装置1は、磁性体からなるベース8上に、(a)前記直線部1aに、磁化方向が前記ターゲット表面9aに垂直になるように直線状に配置された中央部永久磁石2と、
(b)前記中央部永久磁石2を取り囲むように、磁化方向が前記ターゲット表面9aに垂直で、かつ前記ターゲット9に対向する磁極が前記中央部永久磁石2と逆になるように配置された、前記レーストラック形状の外周を形成する外周部永久磁石3と、
(c)前記直線部1aの前記中央部永久磁石2を挟んだ両側に、前記中央部永久磁石2と平行に、前記外周部永久磁石3に向けて順に、直線状に設けられた第一の中間部永久磁石4、第二の中間部永久磁石5及び第三の中間部永久磁石6と、
(d)前記中央部永久磁石2と前記外周部永久磁石3との間の前記コーナー部1b、1bに、前記中央部永久磁石2の両端部から長手方向に離間して、磁化方向が前記ターゲット表面9aに垂直で、かつ前記ターゲット9に対向する磁極が前記中央部永久磁石2と逆になるように配置された第四の中間部永久磁石7とを有する。
【0018】
前記第一の中間部永久磁石4は、磁化方向が前記ターゲット表面9aに垂直で、かつ前記ターゲット9に対向する磁極が前記中央部永久磁石2と逆になるように前記直線部1aに配置され、前記第二の中間部永久磁石5は、磁化方向が前記ターゲット表面9aに平行で、一方の磁極が前記第一の中間部永久磁石4のターゲット寄り側面4aと対向し、前記側面4aと対向する磁極が前記中央部永久磁石2の前記ターゲット9に対向する磁極と逆になるように磁気空隙を介してベース8上に配置され、前記第三の中間部永久磁石6は、磁化方向が前記ターゲット表面9aに垂直で、かつ前記ターゲット9に対向する磁極が前記中央部永久磁石2と同じなるように配置される。
【0019】
中央部永久磁石2と第一の中間部永久磁石4との間、第一の中間部永久磁石4と第二の中間部永久磁石5との間、第二の中間部永久磁石5と第三の中間部永久磁石6との間、第三の中間部永久磁石6と外周部永久磁石3との間には、それぞれ磁気空隙10a、10b、10c、10dを有し、第二の中間部永久磁石5とベース8との間には磁気空隙11を有するのが好ましい。また中央部永久磁石2と第四の中間部永久磁石7との間、第四の中間部永久磁石7と外周部永久磁石3との間には、それぞれ磁気空隙12a、12bを有するのが好ましい。これらの磁気空隙10a、10b、10c、10d、11、12a、12bは、空間であってもよいし、非磁性のスペーサで充填されていてもよい。
【0020】
中央部永久磁石2、外周部永久磁石3、第一の中間部永久磁石4及び第四の中間部永久磁石7の、ターゲット表面9aに垂直な方向の長さはほぼ同じであるのが好ましい。第三の中間部永久磁石6のターゲット表面9aに垂直な方向の長さは、中央部永久磁石2のターゲット表面9aに垂直な方向の長さよりも短いのが好ましい。
【0021】
中央部永久磁石2、外周部永久磁石3、第一の中間部永久磁石4、第二の中間部永久磁石5及び第四の中間部永久磁石7のターゲット9側の面は同一平面S上にあるのが好ましい。第三の中間部永久磁石6のターゲット9側の面は、前記同一平面Sよりもベース8側にあるのが好ましい。
【0022】
中央部永久磁石2、第一の中間部永久磁石4、第二の中間部永久磁石5、第三の中間部永久磁石6及び第四の中間部永久磁石7は、それぞれ一体的に形成しても良いし、
図2に示すように、複数の永久磁石を組み合わせて構成しても良い。外周部永久磁石3は、
図2に示すように、複数の永久磁石を組み合わせて構成するのが好ましい。中央部永久磁石2、外周部永久磁石3、第一の中間部永久磁石4、第三の中間部永久磁石6及び第四の中間部永久磁石7は、複数の永久磁石を組み合わせて構成する場合、個々の永久磁石をベース8上に接着剤等で貼りつけて構成してもよいし、あらかじめいくつかの永久磁石を貼り合わせて一体に形成した永久磁石ユニットをベース8上に貼りつけて構成しても良い。第二の中間部永久磁石5は、非磁性体からなるスペーサ等を介して永久磁石をベース8上に接着剤等で貼りつけるのが好ましい。
【0023】
なお
図1(a)、
図1(b)及び
図1(c)は、中央部永久磁石2のターゲット側磁極がS極である例を示したが、この磁極がN極であってもかまわない。その場合は、他の永久磁石の磁極も全て逆に構成されることになる。
【0024】
(2)中央部永久磁石
中央部永久磁石2は、レーストラックの直線部1aに設けられ、磁性体からなるベース8上に、複数個の直方体の永久磁石を、磁化方向が前記ターゲット表面9aに垂直になるように連接して並べ、直線状に配置して構成するのが好ましい。中央部永久磁石2を構成する各直方体の永久磁石の大きさ、使用する数は特に限定されず、磁石の製造のしやすさ、磁場発生装置の組み立てやすさ等の理由で適宜設定すればよい。各永久磁石は、同じ形状でなくてもかまわない。
【0025】
中央部永久磁石2の長手方向長さ、幅(平面視で長軸方向に垂直な方向の長さ)及び前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さは、磁場発生装置1の全体の形状、発生させる磁場の強度等により任意に設定することができる。
【0026】
一般的なマグネトロンスパッタリング装置において、矩形ターゲットを使用する場合、磁場発生装置の大きさは、その固定方法や冷却方法からの要求から、ターゲットとほぼ同じ大きさ又は若干小さくなるように構成する。ここで、矩形ターゲットと磁場発生装置との大きさが等しいとして考えたとき、ターゲット(又は磁場発生装置)の長手方向長さをW1、短手方向長さをW2とすると、中央部永久磁石2の長手方向長さL2は、W1とW2との差以上とするのが好ましい。
【0027】
(3)外周部永久磁石
外周部永久磁石3は、前記中央部永久磁石2、第一の中間部永久磁石4、第二の中間部永久磁石5、第三の中間部永久磁石6及び第四の中間部永久磁石7を取り囲むように、前記ターゲット9に対向する磁極(図ではN極)が前記中央部永久磁石2の前記ターゲット9側磁極(図ではS極)と逆になるように配置する。すなわち、外周部永久磁石3は、レーストラック形状の外周を形成するように設けられる。外周部永久磁石3は、複数個の直方体の永久磁石から構成されるのが好ましく、各直方体の永久磁石の大きさ、使用する数は特に限定されず、磁石の製造のしやすさ、磁場発生装置の組み立てやすさ等の理由で適宜設定すればよい。各永久磁石は、同じ形状でなくてもかまわない。
【0028】
外周部永久磁石3の幅及び前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さは、磁場発生装置1の全体の形状、発生させる磁場の強度等により任意に設定することができる。ただし前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さは、中央部永久磁石2の前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さと同じであるのが好ましい。
【0029】
(4)第一の中間部永久磁石
第一の中間部永久磁石4は、前記中央部永久磁石2の両側に、前記中央部永久磁石2と平行に、前記中央部永久磁石2から所定の距離をおいて配置する。第一の中間部永久磁石4は、磁化方向が前記ターゲット表面9aに垂直で、かつ前記ターゲット9に対向する磁極(図ではN極)が前記中央部永久磁石2の前記ターゲット9側磁極(図ではS極)と逆になるように配置する。中央部永久磁石2と第一の中間部永久磁石4との間には磁気空隙10aを設ける。
【0030】
第一の中間部永久磁石4は、レーストラックの直線部1aに設けられ、前記中央部永久磁石2の場合と同様、複数個の直方体の永久磁石を連接して構成するのが好ましい。第一の中間部永久磁石4を構成する各種形状の永久磁石の大きさ、使用する数等は特に限定されず、磁石の製造のしやすさ、磁場発生装置の組み立てやすさ等の理由で適宜設定すればよい。
【0031】
前記中央部永久磁石2と同様に、矩形ターゲットと磁場発生装置との大きさが等しいとして考えたとき、ターゲット(磁場発生装置)の長手方向長さをW1、短手方向長さをW2とすると、第一の中間部永久磁石4の長手方向長さは、W1とW2との差以上で構成するのが好ましい。第一の中間部永久磁石4の幅(平面視で長軸方向に垂直な方向の長さ)及び前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さは、特に限定されず磁場発生装置の全体の形状、発生させる磁場の強度等により任意に設定することができる。ただし前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さは、中央部永久磁石2の前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さと同じであるのが好ましい。
【0032】
(5)第二の中間部永久磁石
第二の中間部永久磁石5は、第一の中間部永久磁石4と第三の中間部永久磁石6との間に、前記中央部永久磁石2と平行に配置する。第二の中間部永久磁石5は、磁化方向が前記ターゲット表面9aに平行で、一方の磁極が前記第一の中間部永久磁石4のターゲット寄り側面4aと対向し、他方の磁極が前記第三の中間部永久磁石6側を向くように設置する。第二の中間部永久磁石5の、前記第一の中間部永久磁石4のターゲット寄り側面4aと対向する側の磁極(図ではN極)は、前記中央部永久磁石2のターゲット側磁極(図ではS極)と逆になるように構成する。第二の中間部永久磁石5は、レーストラックの直線部1aに設けられ、複数個の直方体の永久磁石を長手方向及び/又は幅方向に連接して構成するのが好ましい。第二の中間部永久磁石5を構成する各種形状の永久磁石の大きさ、使用する数等は特に限定されず、磁石の製造のしやすさ、磁場発生装置の組み立てやすさ等の理由で適宜設定すればよい。
【0033】
第一の中間部永久磁石4と第二の中間部永久磁石5との間には磁気空隙10bを設け、第二の中間部永久磁石5と前記ベース8との間には磁気空隙11を設ける。この磁気空隙10b、11は、磁気的に空隙となっていれば良く、例えば空間であっても良いし、非磁性体からなるスペーサで充填されていても良い。特に、第二の中間部永久磁石5と前記ベース8との間の磁気空隙11は、非磁性体からなるスペーサで充填するのが好ましい。
【0034】
第二の中間部永久磁石5の長手方向長さは、第一の中間部永久磁石4の長手方向長さと同じにするのが好ましい。第二の中間部永久磁石5の前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さは、特に限定されず磁場発生装置の全体の形状、発生させる磁場の強度等により任意に設定することができる。ただし、第二の中間部永久磁石5の幅(平面視で長軸方向に垂直な方向の長さ)は、中央部永久磁石2の前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さの5〜200%であるのが好ましく、50〜150%であるのがより好ましい。
【0035】
(6)第三の中間部永久磁石
第三の中間部永久磁石6は、前記第二の中間部永久磁石5と外周部永久磁石3との間に、前記第二の中間部永久磁石5から所定の距離をおいて、前記中央部永久磁石2と平行に、前記ターゲット9に対向する磁極(図ではS極)が前記中央部永久磁石2の前記ターゲット9側磁極(図ではS極)と同じになるように配置する。第三の中間部永久磁石6は、レーストラックの直線部1aに設けられ、前記中央部永久磁石2の場合と同様、複数個の直方体の永久磁石を連接して構成するのが好ましい。第三の中間部永久磁石6を構成する各種形状の永久磁石の大きさ、使用する数等は特に限定されず、磁石の製造のしやすさ、磁場発生装置の組み立てやすさ等の理由で適宜設定すればよい。
【0036】
第三の中間部永久磁石6と外周部永久磁石3との間には、磁気空隙10dを設ける。この磁気空隙10は、磁気的に空隙となっていれば良く、空間であってもよいし、非磁性体からなるスペーサで充填されていても良い。
【0037】
第三の中間部永久磁石6の長手方向長さは、第一の中間部永久磁石4の長手方向長さと同じにするのが好ましい。また第一の中間部永久磁石4の長手方向の長さより長くても良い。第三の中間部永久磁石6の幅(平面視で長軸方向に垂直な方向の長さ)は、特に限定されず磁場発生装置の全体の形状、発生させる磁場の強度等により任意に設定することができる。第三の中間部永久磁石6のターゲット9側の面は、中央部永久磁石2のターゲット9側の面よりもベース8側にあるのが好ましい。ターゲット表面9aに垂直な方向の長さは、中央部永久磁石2の前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さの5〜70%であるのが好ましい。
【0038】
(7)第四の中間部永久磁石
第四の中間部永久磁石7は、前記コーナー部1bに、その長手方向が中央部永久磁石2の長手方向と直交するように、前記中央部永久磁石2の両端部から長手方向に離間して設ける。第四の中間部永久磁石7は、磁化方向が前記ターゲット表面9aに垂直で、かつ前記ターゲット9に対向する磁極(図ではN極)が、前記中央部永久磁石2の前記ターゲット9側磁極(図ではS極)と逆になるように配置する。中央部永久磁石2と第四の中間部永久磁石7との間、第四の中間部永久磁石7と外周部永久磁石3との間には、それぞれ磁気空隙12a、12bを設ける。
【0039】
第四の中間部永久磁石7の長手方向長さは、中央部永久磁石2を挟んで平行に位置する2つの第一の中間部永久磁石4、4の間の幅(4,4間の距離)よりも短く設定し、第一の中間部永久磁石4、4と第四の中間部永久磁石7、7とでレーストラックの内壁を構成するように配置するのが好ましい。平面視で、第四の中間部永久磁石7の幅及び前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さは、特に限定されず磁場発生装置の全体の形状、発生させる磁場の強度等により任意に設定することができる。ただし前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さは、中央部永久磁石2の前記ターゲット表面9aに垂直な方向の長さと同じであるのが好ましい。
【0040】
(8)永久磁石
マグネトロンスパッタリング用磁場発生装置を構成する永久磁石は、公知の永久磁石材料で形成することができる。使用する永久磁石の材質は設備の構成(磁場発生装置からターゲットまでの距離)や必要な磁場強度によって適宜設定すれば良いが、R(Nd等の希土類元素のうちの少なくとも一種)、T(Fe又はFe及びCo)及びBを必須成分とする希土類鉄ボロン系異方性焼結磁石(ネオジム磁石)等の希土類系焼結磁石(耐食性の点から各種の表面処理を施したもの)又はフェライト磁石が好ましい。希土類系焼結磁石としては、特にネオジム磁石が好ましい。
【0041】
特に前記中央部永久磁石2、前記外周部永久磁石3及び前記第一の中間部永久磁石4は、希土類系焼結磁石(特にネオジム磁石)からなるのが好ましく、前記中央部永久磁石2の残留磁束密度は、前記第一の中間部永久磁石4の残留磁束密度よりも小さいのが好ましい。また前記第二の中間部永久磁石5、前記第三の中間部永久磁石6及び前記第四の中間部永久磁石7はフェライト磁石からなるのが好ましい。なお前記第二の中間部永久磁石5、第三の中間部永久磁石6及び前記第四の中間部永久磁石7は磁石の大きさやターゲットからの距離あるいはベースとの間に非磁性のスペーサを配置する等の方法で調整すれば希土類系焼結磁石も使用可能である。
【0042】
直線部とコーナー部との磁束密度分布を変えたい場合には、それぞれに必要な磁束密度にあわせ、直線部用永久磁石とコーナー部用永久磁石との材質を変えても良い。
【0043】
マグネトロンスパッタリング用磁場発生装置1において、ターゲット表面9aにおいて、磁束密度垂直成分がゼロとなる位置における磁束密度の平行成分が10 mT以上となるように永久磁石及び磁性部材を構成するのが好ましい。
【0044】
前記ターゲット表面9aにおいて、前記中央部永久磁石2の長手方向中心に対向する位置から前記長手方向と直交する方向に向かって、磁場発生装置の端部までの範囲に、磁束密度の垂直成分がゼロとなる箇所が3箇所存在するのが好ましい。例えば、
図3は、本発明のマグネトロンスパッタリング用磁場発生装置1の直線部のみを抜き出して磁場解析を行った時の磁界の様子を磁束線によって模式的に示す。ターゲット表面(図中、点線で示す)において、磁束密度の垂直成分がゼロになる点が、第一の中間部永久磁石4に対向する箇所P1、第二の中間部永久磁石5に対向する箇所P2、及び第三の中間部永久磁石6に対向する箇所P3に存在する。
【実施例】
【0045】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0046】
実施例1
図4(a)〜
図4(c)に示すように、鋼板(SS400)製のベース108上に、希土類系焼結磁石(日立金属製NMX-48BH、残留磁束密度:約1,360 mT)からなる中央部永久磁石102、外周部永久磁石103及び第一の中間部永久磁石104、並びにフェライト焼結磁石(日立金属製NMF-12F、残留磁束密度:約460 mT)からなる第二の中間部永久磁石105、第三の中間部永久磁石106及び第四の中間部永久磁石107を配置した磁場発生装置101(w1=298 mm、w2=198 mm、a=5 mm、b=6 mm、c=25 mm、d=8 mm、e=10 mm、f=5 mm、h=5 mm、i=8 mm、j=14 mm、k=20 mm、L=30 mm、g1=15 mm、g2=4 mm、g3=10 mm、g4=10 mm、g5=10 mm及びg6=34 mm)を作製した。直線部101aの構成を
図4(b)に断面図で示し、コーナー部101bの構成を
図4(c)に断面図で示す。なお図示はしていないが、第一の中間部永久磁石104、第二の中間部永久磁石105、第三の中間部永久磁石106及びベース108によって囲まれた磁気空隙110b、110c、111は、非磁性(アルミニウム製)のスペーサで充填した。
【0047】
比較例1
図5(a)〜
図5(c)に示すように、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS304)製のベース208上に、フェライト系ステンレス(SUS430)製の中央磁極部材202及び外周磁極部材203、並びにフェライト焼結磁石(日立金属製NMX-5D、残留磁束密度:約360 mT)からなる直線部用永久磁石204及びコーナー部用永久磁石205を、磁化方向がターゲット面に平行でかつ同極性の磁極が前記中央磁極部材202に対向するように配置し、磁場発生装置201(W1=298 mm、W2=198 mm、A=10 mm、B=10 mm、C=10 mm、D=35 mm、G1=84 mm及びG2=84 mm)を作製した。
【0048】
実施例1の磁場発生装置の表面(ターゲットと対向する面)から20 mmの位置[ターゲット表面(図示せず)の位置に相当]における磁束密度を磁場解析により求め、直線部101a及びコーナー部101bにおける磁束密度のターゲット表面に対して平行な成分(磁束密度平行成分)及び垂直な成分(磁束密度垂直成分)を、中央部永久磁石102の中心から外周部永久磁石103方向(
図4に記載したY方向及びX方向)にプロットし磁束密度分布を求めた。直線部101a(Y方向)の磁束密度分布を
図6(a)に示し、コーナー部101b(X方向)の磁束密度分布を
図6(b)に示す。なお横軸は、中央部永久磁石102の中心からの距離である。なお磁束密度垂直成分を点線、磁束密度平行成分を実線で示した。
【0049】
同様にして、比較例1の磁場発生装置の表面(ターゲットと対向する面)から20 mmの位置[ターゲット表面(図示せず)の位置に相当]における磁束密度を磁場解析により求め、直線部201a及びコーナー部201bにおける磁束密度のターゲット表面に対して平行な成分(磁束密度平行成分)及び垂直な成分(磁束密度垂直成分)を、中央磁極部材202の中心から外周磁極部材203方向(
図5(a)に記載したY方向及びX方向)にプロットし磁束密度分布を求めた。直線部201a(Y方向)の磁束密度分布を
図7(a)に示し、コーナー部201b(X方向)の磁束密度分布を
図7(b)に示す。なお横軸は、中央磁極部材202の中心からの距離である。
【0050】
図6(a)、
図6(b)、
図7(a)及び
図7(b)から、比較例1の磁場発生装置201は、直線部201a(Y方向)の磁束密度分布において、磁束密度垂直成分がゼロとなる点が1箇所(P1)しかないのに対して、本発明の磁場発生装置101(実施例1)は、直線部101a(Y方向)の磁束密度分布において、磁束密度垂直成分がゼロとなる点が3箇所(P1、P2及びP3)有ることが分かる。
図8(a)及び
図8(b)に、それぞれ本発明1及び比較例1の磁場発生装置において磁束密度垂直成分がゼロとなる点を結んだ線(点線)を示す。磁束密度の垂直成分がゼロとなる点が3箇所存在するため、本発明の磁場発生装置101(実施例1)は、比較例1の磁場発生装置201に比べてエロージョン領域が
図11に示すようなV字状から
図9に示すようなU字状に広がると予想され、ターゲットのエロージョン進行をより均一にし、ターゲットの利用効率を向上させることができる。