【文献】
Journal of the Japan Institute of Energy,2011年,Vol.90,No.9,853−858
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
高炉で使用するコークスは、鉄鉱石の還元材や熱源としての機能のほかに、高炉内の通気性を確保するスペーサとしての役割を担っている。特に、銑鉄の製造効率向上やCO
2削減の観点から、近年、低還元材比での操業が求められており、コークス投入量を低減しても高炉内通気性を十分に確保できる高強度と、低還元材比を実現できる高反応性とを有するコークスが求められている。
【0003】
高炉用の高強度コークスを製造するため、従来から強粘結炭が必要とされてきている。しかしながら、高炉用コークスを製造するために不可欠な強粘結炭は資源的な制約から世界的に不足してきており、価格も高くなっている。
【0004】
一方、溶融性が低い微粘結炭や溶融性が無い非粘結炭は、従来、コークスの原料として使えないとされていたが、強粘結炭より資源的に豊富で価格が安い。そのため、コークス製造業界では、コークス製造コストの削減を課題として、粘結性の低い非粘結炭や微粘結炭を強粘結炭の一部の代わりに使用することが検討、試行されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、非粘結炭や微粘結炭(以下、「非・微粘結炭」ということがある。)をコークス原料として粘結炭に配合して使用した場合には、配合炭の流動性や粘結性の不足によりコークスの強度の低下が大きく、配合量が低く制限されたり、高性能粘結材の添加が必要となったりしている。また、原料炭の煩雑な事前処理やブリケット化等の成形を行うことが必要となったりしている。
【0005】
そこで、粘結性の低い非・微粘結炭を強粘結炭の一部(1〜10wt%程度)の代わりに使用しても、コークス強度の高く維持できるコークス製造法の技術開発が進められている。
そのような高強度コークスの製造に関連して、無灰炭(ハイパーコール、HPC)乃至溶剤抽出炭(石炭の溶剤抽出物)の製造に関する技術も開発され(特許文献2,非特許文献1参照)、高強度コークスの製造や高反応性コークスの製造に応用することが検討されている(特許文献3〜6、非特許文献2参照)。
【0006】
例えば、特許文献3には、原料炭100質量%中、高品位炭である高石炭化度炭16質量%以上と、低品位炭である低石炭化度低流動性炭25質量%以上と、灰分を実質的に含有しない石炭である溶剤抽出炭とを含有するものを乾留して高強度のコークスが製造できた旨が記載されている。
【0007】
非特許文献2には、強粘結炭C、強粘結炭D、準強粘結炭E、非・微粘結炭Fの配合比率を15:26:34:25としたコークスや、準強粘結炭Eに代えて溶剤抽出炭としてのハイパーコール(HPC)を10wt%まで添加したコークスを製造し、HPCを添加することで強度が増加したコークスが製造できた旨が記載されている。
【0008】
特許文献5には、高い強度を有する製鉄用コークスを製造することを課題として、石炭抽出物のうち、溶剤可溶成分である溶剤抽出炭成分と、溶剤不溶成分中の浮揚成分の一部とを石炭抽出物として強粘結炭等の原料炭と混合し、該混合物を成形した後に乾留して製鉄用コークスを製造する旨が記載されている。
【0009】
特許文献6には、高い還元性能を有する高反応性の製鉄用コークスを製造することを課題として、溶剤で石炭から可溶成分を抽出することにより得られる溶剤不溶成分から溶剤を除去した非溶剤抽出炭と、強粘結炭等の原料炭とを混合した混合物を乾留して高反応性コークスを製造する旨が記載されている。
【0010】
これら特許文献3、5、6、非特許文献2には、溶剤抽出炭(石炭の溶剤抽出物)としての無灰炭やHPC、石炭の溶剤不溶成分を配合することにより、高強度のコークスが得られたり、高反応性としたりする旨が示されているが、いずれにしても強粘結炭等の高品位炭を所定量以上用いることが必須とされている。
そして、現在のところ、高炉等に使用する高強度のコークス製造には、強粘結炭は実際上欠かせないものとなっている。
【0011】
一方、特許文献4には、十分な強度を有する鉄鉱石含有コークスを、より低コストで製造することを課題として、低品位炭としての褐炭と、鉄鉱石と、石炭の溶剤抽出物と、必要により瀝青炭を混合、成形して成形物を得た後、該成形物を乾留する鉄鉱石含有コークスの製造方法が記載されている。
しかしながら、このコークス製造方法は、鉄鉱石の含有を前提とするもので、しかも、ダブルロール型成形機、短軸プレス等により、予め混合物をブリケット状に成形することが必要であり、鉄鉱石を含まず、成形することなく乾留する通常のコークス製造に適用することはできないものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、強粘結炭を一切使用することなく、また、乾留前に予め石炭を煩雑な事前処理やブリケット化等の成形を行うことなく、従来の標準コークスと同等か、それ以上の強度やガス化反応性を有するコークスを製造することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、強粘結炭を一切使用することなく、従来の標準コークスと同等か、それ以上の強度やガス化反応性を有するコークスを製造することについて、数多くの試験研究や試行錯誤を繰り返した結果、特定量の石炭の溶剤抽出物を添加した場合に意外にも前記課題が達成されることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、この出願は、以下の発明を提供するものである。
(1)石炭の溶剤抽出物25〜40wt%、非・微粘結炭60〜75wt%、バインダー0〜10wt%からなる混合物を乾留する、コークスの製造方法。
(2)前記非・微粘結炭は、無煙炭、亜瀝青炭、褐炭から選択される1種又は2種以上である、(1)に記載のコークスの製造方法。
(3)前記溶剤抽出物を抽出する石炭は、無煙炭以外の非粘結炭及び微粘結炭から選択される1種又は2種以上である、(1)又は(2)に記載のコークスの製造方法。
(4)前記バインダーは、石炭又は石油由来のタール、ピッチ、それらの重質留分、高分子凝集剤、糖蜜、澱粉から選択される1種又は2種以上である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
(5)乾留温度800〜1300℃で保持する乾留時間が5分間〜24時間である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
【0017】
本発明のコークス製造方法は、次のような実施態様を含むことができる。
(6)前記混合物は、成形することなく炉床上に載置又は堆積した状態で乾留される、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
(7)溶剤抽出物が28〜38wt%であり、非・微粘結炭が62〜72wt%であり、バインダーが0〜8wt%である、(1)〜(6)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
(8)溶剤抽出物が30〜35wt%であり、非・微粘結炭が65〜70wt%であり、バインダーが0〜5wt%である、(1)〜(7)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
(9)前記溶剤抽出物は、100メッシュでの篩下である、(1)〜(8)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
(10)前記非・微粘結炭は、30メッシュでの篩上である、(1)〜(9)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
(11)前記溶剤抽出物を抽出する石炭は、マウントオーウェン炭、エクストラータ炭、グニュンバヤン炭から選択される1種又は2種以上である、(1)〜(10)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
(12)前記非・微粘結炭は、ムリア炭、アダロ炭、無煙炭から選択される1種又は2種以上である、(1)〜(11)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
(13)乾留温度900〜1200℃で保持する乾留時間が10分間〜16時間である、(5)〜(12)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
(14)乾留温度950〜1150℃で保持する乾留時間が20分間〜10時間である、(5)〜(13)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
(15)乾留温度1000〜1100℃で保持する乾留時間が30分間〜7時間である、(5)〜(14)のいずれか1項に記載のコークスの製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の製造方法によれば、標準コークスと同等かそれ以上の破壊強度やガス化反応性を有するコークスを製造することができる。そのため、本発明により製造された高強度・高反応性コークスは、高炉製鉄用等に効果的に使用することができる。
本発明の製造方法では、強粘結炭を一切使用しないので、製造される高強度・高反応性コークスのコストを低減することが可能である。
本発明の製造方法では、乾留前に予め石炭を煩雑な事前処理やブリケット化等の成形を行う必要がないので、コークス製造コストを低減することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図7に、本発明に基づく実施例のコークス製造プロセスの概念図を示す。
石炭〔例えば、マウントオーエン炭(以下、「Mount Owen」又は「MO」ということがある。) は、まず、溶剤処理され、処理された石炭から溶剤抽出物を得る。次に、該溶剤抽出物を非・微粘結炭(例えば、無煙炭、Adaro等の亜瀝青炭、Mulia等の褐炭)と混合する。最後に、該混合物を乾留して、強度の高いコークスを得る。
【0021】
前記混合物は、石炭の溶剤抽出物25〜40wt%、非・微粘結炭60〜75wt%、バインダー0〜10wt%からなる。ただし、石炭の溶剤抽出物は、コークス製造過程においてバインダーとしての機能を有するが、本発明におけるバインダーは、該溶剤抽出物を含まないもの(すなわち、「溶剤抽出物」を除外したバインダー)であり、必ずしも添加する必要はない(添加量0wt%でも良い)。
【0022】
本発明における石炭の溶剤抽出物は、石炭から調製されるどのような溶剤抽出物でも良く、その調製方法は限定されず、公知の溶剤抽出による調製方法(例えば、特許文献2、非特許文献1の外、特開2009−13320号公報等参照)のいずれをも採用することができる。
【0023】
本発明における石炭の溶剤抽出物を得る調製方法は、例えば、次の(1)〜(4)の工程〔必要により(5)の工程〕を含むものとすることができる。
(1)溶剤と石炭とを混合してスラリーを調製するスラリー調製工程
(2)前記スラリー調製工程で得られたスラリーを、300〜420℃(好ましくは350〜400℃)の温度に加熱し、10分間〜1時間程度(好ましくは20〜50分間程度)抽出した後、所定温度以下に冷却する抽出工程
(3)前記抽出工程で得られたスラリーを、濾過、遠心分離、重力沈降等の任意の分離操作により液部(溶剤可溶成分)と非液部(溶剤不溶成分)とに分離する固液分離工程
(4)前記分離工程で分離された液部(溶剤可溶成分)から前記溶剤を分離して無灰炭としての溶剤抽出物を得る工程
(5)分離された溶剤を、再利用のために回収する工程
【0024】
抽出用の溶剤としては、例えば、N−メチルピロリドン、ピリジン等の極性溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の1環芳香族化合物、ナフタレン、メチルナフタレン(1−メチルナフタレン、粗メチルナフタレン油など)、ジメチルナフタレン、トリメチルナフタレン、テトラヒドロナフタレン等の2環芳香族化合物、アントラセンなどの3環芳香族化合物などの1種又は2種以上を挙げることができ、好適には、1−メチルナフタレン、粗メチルナフタレン油等の2環芳香族化合物を用いることができる。
【0025】
抽出工程では、溶剤が沸騰しないように0.8〜2.5MPa(好ましくは1.5〜2MPa)程度の加圧下で行うことが好ましい。また、加熱抽出の際に溶剤が酸素と反応しないように、不活性ガス(例えば、窒素)雰囲気とするのが好ましい。
【0026】
溶剤抽出物を抽出する石炭は、無煙炭以外のものであればどのようなものでも良く、瀝青炭(例えば、グニエラ炭)等の強粘結炭や弱粘結炭も使用できるが、好ましくは、低価格の非・微粘結炭であり、無煙炭以外の褐炭、亜瀝青炭が含まれる。溶剤抽出物を抽出する石炭としての非・微粘結炭としては、具体的には、マウントオーウェン炭、エクストラータ炭、グニュンバヤン炭、ムリア炭(Mulia)、アダロ炭(Adaro)、ロイヤング炭、ビューローザップ炭、ヤルーン炭、ベラウ炭、パシール炭、ワイオミング炭、MTBU炭、キタディン炭、ビニュンガン炭、ワイオダック炭、ロンコウ炭、K-プリマ炭、タニトハルム炭、マリナウ炭、太平洋炭等の亜瀝青炭、褐炭を使用することができる。
なお、本発明における非粘結炭、微粘結炭、褐炭、亜瀝青炭、無煙炭等の石炭の種類についての用語は、JIS M0104とJIS M 1002-1978の規定によるものである。
【0027】
本発明における溶剤抽出物は、後述のように、溶剤除去後において他の成分である非・微粘結炭等と混合される場合、その粒径や粒子は、限定するものではないが、100メッシュや119メッシュの篩下とすると、コークスの高い破壊強度を得る上で望ましい。
【0028】
本発明において、乾留される混合物の成分として使用される非・微粘結炭としては、上記の溶剤抽出物の元となる非・微粘結炭と同じものを用いることができるほか、無煙炭も用いることができる。
乾留される混合物における非・微粘結炭の添加量は、60〜75wt%、好ましくは62〜72wt%、より好ましくは65〜70wt%である。
前記混合物の成分として使用される非・微粘結炭の粒径は、限定するものではないが、30メッシュや26メッシュの篩上とすると、コークスの高い破壊強度を得る上で望ましい。
【0029】
乾留される混合物における溶剤抽出物の添加量は25〜40wt%、好ましくは28〜38wt%、より好ましくは30〜35wt%である。
溶剤抽出物の添加量は、25wt%未満であると、製造されるコークスの破壊強度が十分でなく、40wt%よりも大幅に添加量が超過すると、コークスに大きな孔が存在し、却って破壊強度は低下する。溶剤抽出物の添加量が40wt%超、45wt%以下程度の範囲では、比較的高い破壊強度を示すが、溶剤抽出物の添加量が40wt%超となると、その材料コストが大きくなるのであまり望ましくない。
【0030】
なお、該溶剤抽出物の添加量の値は、溶剤抽出物から抽出用の溶剤を除去した後の数値である。溶剤抽出物は、抽出用の溶剤を含んだ状態で非・微粘結炭(又は非・微粘結炭及びバインダー)と混合した後、乾留前又は乾留中に溶剤を除去しても良いし、また、溶剤除去後の溶剤抽出物を非・微粘結炭(又は非・微粘結炭及びバインダー)と混合しても良い。
【0031】
本発明で使用するバインダーは、溶剤抽出物を含まないものであり、例えば、石炭又は石油由来のタール、ピッチ、それらの重質留分、高分子凝集剤、糖蜜、澱粉から成る群から選択される1種又は2種以上とすることができる。
このバインダーは、乾留される混合物に用いなくても良いが(バインダー配合量0wt%)、バインダーを用いる場合は、該混合物の10wt%以下の範囲で使用することができる。
乾留される混合物におけるバインダーの添加量は0〜10wt%、好ましくは0〜8wt%、より好ましくは0〜5wt%である。
【0032】
石炭の溶剤抽出物、非・微粘結炭、必要によりバインダーの混合物は、通常のコークス用石炭と同様に、成形されることなくコークス炉の炉床上に載置、堆積され、乾留される。それ故、乾留前に、大きな外力(例えば、0.1MPa以上)を加えて、ブリケット化、造粒等の成形をする必要はない。
本発明における乾留条件は、特に限定されるものではなく、コークス炉を使用するコークス製造における公知の乾留条件を採用することができる。
例えば、乾留する際の乾留温度(炉温)は、800〜1300℃、好ましくは900〜1200℃、より好ましくは950〜1150℃、さらに好ましくは1000℃〜1100℃に設定することができる。
常温等から乾留温度まで昇温する際の速度(平均昇温速度)は、1〜200℃/分、好ましくは2〜100℃/、より好ましくは3〜50℃/分、さらに好ましくは4〜30℃/分に設定することができる。
前記乾留温度で保持する時間(乾留時間)は、5分間〜24時間程度、好ましくは10分間〜16時間程度、より好ましくは20分間〜10時間程度、さらに好ましくは30分間〜7時間程度とすることができる。
乾留温度での保持時や、昇温、降温の際の高温時(例えば、300℃以上、500℃以上等)における雰囲気は、特に非酸化性ガスを流す必要はなく、炉内が密閉されていれば酸素は消費され、石炭の揮発雰囲気になるが、必要であれば、石炭の酸化による劣化を防止するため、非酸化性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、炭酸ガス雰囲気)とすればよい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で材料変更や各種の設定調整などを適宜行うことができる。
【0034】
(実験例1)<溶剤抽出物MOSXF、XSTRATASXF、GNSXFの調製>
非・微粘結炭の1種であるマウントオーウェン炭(MO)から、特開2009−13320号公報に記載されたと同様の方法により、MOの溶剤抽出物(以下、「MOSXF」ということがある。)を調製した。具体的には、マウントオーウェン炭に溶剤として1−メチルナフタレンを混合した後、抽出セルに詰めた。予熱部で360〜400℃に加熱された予熱溶剤を送液ポンプで一定流量1時間、抽出セルに流すことにより、石炭の可溶成分を溶剤に溶解した。次いで、平均孔径0.8μmの焼結フィルターで固液分離し、石炭の抽出物が抽出液として回収され、その後、抽出液から溶剤を蒸散することで、溶剤抽出物を得た。
MOSXFの調製方法と同様にして、エクストラータ炭(以下、「XSTRATA」ということがある。)、グニュンバヤン炭(以下、「GN」ということがある。)から、それぞれ、溶剤抽出物XSTRATASXF、GNSXFを調製した。
【0035】
表1に、溶剤抽出物MOSXF、XSTRATASXF、GNSXFの元素分析結果と、熱的可塑性を示す。なお、表中、ST(℃)、MFT(℃)、RT(℃)、MF(ddpm)は、それぞれ、ギーセラープラストメータ試験(JIS M8801)で得た軟化温度(Softening Temperature)、最高流動温度(Maximum fluidity temperature)、再固化温度(Re-solidification temperature)、最大流動度(Maximum fluidity)を意味し、また、dafは、灰を除いたドライベース(dry,ash free)であることを、dbは、ドライベース(dry basis)であることを、diffは100からC、H、N、S元素割合を差し引いたものであることを、それぞれ意味する。
【0036】
【表1】
【0037】
(実験例2)<アダロ炭の乾留実験>
非・微粘結炭の1種であるアダロ炭(以下、「Adaro」ということがある。)を、通常のコークス炉における乾留とほぼ同様の載置、堆積状態となるように、大きな外力を加えることなく、ステンレス製の配管を用いた容器(φ20mm)に充填し(嵩密度800kg/m
3)、窒素雰囲気の炉中に入れ、室温から1000℃まで3℃/分で昇温、1000℃で30分間保持、常温まで自然冷却の炉温条件で乾留した。乾留後のアダロ炭試料は、
図1の写真に示すとおり、固形化せず粒子状のままであった。
【0038】
(実験例3)<MOSXFの乾留実験>
上記実験例1で調製したMOSXFを、上記実験例2と同じ状態、条件で乾留した。乾留後のMOSXF試料は、
図2の写真に示すとおり、固形化したものの、大きな孔が多く存在する多孔状で、強度が低かった。このことから、MOSXFは、高温での溶融性が高すぎて、多孔状になったものと考えられる。
【0039】
(実施例1)<Adaro+MOSXF混合物の乾留実験(実施例コークス製造実験I)>
上記Adaroが60wt%、上記実施例1で調製したMOSXFが40wt%となるように混合し、該混合物を、上記実験例2と同じ状態、条件で、すなわち、大きな外力を加えることなく、ステンレス製の配管を用いた容器(φ20mm)に充填し(嵩密度800kg/m
3)、窒素雰囲気の炉中に入れ、室温から1000℃まで3℃/分で昇温、1000℃で30分間保持、常温まで自然冷却の炉温条件で乾留した。乾留後のAdaro+MOSXF混合物は、
図3の写真に示すとおり固形化しており、しかも、大きな孔が存在しない硬い形態となっていた。
【0040】
(実施例2)<各種実施例コークスの製造実験II>
各種非・微粘結炭として、無煙炭(以下、「Anth」ということがある。)、アダロ炭(以下、「Adaro」ということがある。)、ムリア炭(以下、「Mulia」ということがある。)の3種類を準備した。
上記実験例1で調製した溶剤抽出物(MOSXF、XSTRATASXF、GNSXF)25〜40wt%と、上記非・微粘結炭60〜75wt%を物理的に混合し、5種類の混合物の試料(4g〜5g)、Adaro+MOSXF40、Mulia+MOSXF40、Anth+MOSFXF25、Adaro+XSTRATASXF30、Adaro+GNSXF30を作製した〔各試料末尾の2桁の数字は、混合物における溶剤抽出物の配合量(wt%)を示す〕。なお、非・微粘結炭は、30メッシュの篩上の粒子を、溶剤抽出物は、100メッシュの篩下の粒子をそれぞれ使用した。これら5種類の混合物の試料を、上記実施例1と同じ状態、条件で乾留し、5種類の実施例のコークス、Adaro+MOSXF40、Mulia+MOSXF40、Anth+MOSFXF25、Adaro+XSTRATASXF30、Adaro+GNSXF30を得た。
【0041】
製造されたコークスの密度と破壊強度を測定した。密度は
図3の写真に示すとおり固形化したものの重量を外形状から求めた体積で割って得られた見掛け密度である。破壊強度は万能試験機(島津製作所 オートグラフ AG-IS 5kN)により円柱コークスの直径方向から、5mm/minのクロスヘッド速度一定条件下で荷重をかけ、圧壊荷重を調べた。破壊強度は、コンクリート間接引張り試験(JIS A 1113)で用いられる次の(1)式により推算した。
【数1】
その結果を、
図4に示す。なお、
図4には、比較のため、コークス製造の標準炭である強粘結炭グニエラ炭を上記実施例1と同じ状態、条件で乾留し、製造したグニエラコークス(GON)をも示す。
標準コークスとしてのグニエラコークス(GON)の破壊強度3.01MPaに対して、Adaro+GNSXF30は、やや低かったものの、グニエラコークスとほぼ同等であった。Adaro+GNSXF30以外の他の実施例のコークスについては、Adaro+MOSXF40が4.18MPa、Mulia+MOSXF40が4.66MPa、Anth+MOSXF25が3.58MPa、Adaro+XSTRATASXF30が4.25MPaと、標準コークスより高い強度を持っていることが分かった。
【0042】
(実施例3)<コークス製造実験III(コークス破壊強度に及ぼす溶剤抽出物添加量の影響)>
溶剤抽出物添加量が種々異なるAdaro+MOSXF混合物、Mulia+MOSXF混合物を調製し、それら混合物を上記実施例1と同じ状態、条件で乾留してコークスとした。
図5にその結果を示す。Adaro+MOSXFとMulia+MOSXFのどちらも、溶剤抽出物の添加量が25〜45wt%程度の範囲(特に30〜40wt%の範囲)にある場合に高い破壊強度を示した。
【0043】
(実施例4)<実施例コークスのガス化反応実験>
上記実施例2で製造したAdaro+MOSXF40、Mulia+MOSXF40、Anth+MOSFXF25と、標準コークスとしてのグニエラコークス(GON)をそれぞれ別個に熱重量測定装置に投入し、1100℃でCO
2ガス化反応を行った。その結果を
図6に示す(横軸はガス化時間、縦軸はガス化転換率)。Adaro+MOSXF40とMulia+MOSXF40は、標準コークスであるグニエラコークス(GON)よりも格段にガス化反応性が良好であった。Anth+MOSFXF25についても、GONと同等以上のガス化反応性を示した。