【実施例1】
【0036】
以下に、本発明で使用した試験方法、実施例及び比較例を挙げて実施形態を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、以下の例において単に%のみ記載されている場合は、重量%を示すものとする。
【0037】
本発明では、実験的検討を行うために実施例、比較例の各サンプルを作製した。このサンプルの作製は、石油系溶剤抽出油を180℃程度の温度で溶融した状態で上述したSEBSを所定量添加し、更に、上述した石油樹脂、ダイマー酸、EEAを上述した配合比率となるように添加した。混合はホモミキサーを用いて行い、回転数を1500〜5000回転/分として3〜5時間程度、混合並びに攪拌した。混合終了時のバインダー組成物の温度は190〜200℃に調整した。また製造量はいずれも1.8kgとした。
【0038】
得られた実施例、比較例の各サンプルにつき、表1に示すように、針入度(25℃)、軟化点、粘度(180℃)、DS、糸引き発生の有無からなる性能試験を行う。以下、詳細な試験方法について説明をする。
【0039】
【表1】
【0040】
針入度(25℃)は、JIS K 2207「石油アスファルト−針入度試験方法」で測定こした。この値は40(0.1mm)以上、70以下(0.1mm)が好ましい。
【0041】
軟化点は、JIS K 2207「石油アスファルト−軟化点試験方法」で測定した。この値は56(℃)以上が好ましい。
【0042】
粘度(180℃)は、JPI−5S−54−99「アスファルト−回転粘度計による粘度試験方法」の条件の下、測定温度180℃、使用スピンドルSC4−27、スピンドル回転数20回転/分で測定した。
【0043】
この粘度(180℃)は施工時のアスファルト混合物の硬さに関係し粘度が高くなると施工性が悪化し、所定の舗装を作ることができなくなる。そのため800mPa・s以下が好ましい。
【0044】
このアスファルトバインダー組成物の強度は、舗装調査・試験法便覧(公益社団法人 日本道路協会編)に記載されている「B003ホイールトラッキング試験方法」に基づいて、DSから判断する。このDSは、道路舗装体の強度を測定する指標として専ら使用されるものである。しかし、バインダー組成物を防水材、粘着材の用途等に適用する際においても、同様に強度の向上が求められる場合があり、結果的にDSを介してこれを評価することも十分に考えられる。このため本発明では、DSを評価指標としつつも、道路舗装のみならず、防水材、粘着材を始めとしたいかなる用途に適用するようにしてもよい。
【0045】
以下、このDSを測定する方法について説明をする。DSは、高温時のバインダー組成物の耐流動性(轍掘れしにくさ)を評価する指標であり、ホイールトラッキング試験機を用いて測定を行う。ホイールトラッキング試験は、夏場の路面を想定して60℃で実施する。バインダー組成物を後述する表2に記載する所定の粒度に調整した骨材(岩石を砕いた石)と混合した供試体を60℃で5時間以上養生し、車輪を1時間走行させる。実施例、比較例では、例えば
図2に示すように、30×30×5cmからなる供試体5を養生した。
【0046】
【表2】
【0047】
次に、この供試体5に対して、車輪11により686Nの下向きの荷重を負荷しつつ、図中矢印方向に向けて42回/分のペースで往復走行させる。ちなみに、この車輪11による走行位置は、ずらすことなく同一の走行路とする。
【0048】
図3は、DSの測定試験開始時刻を起点としたときの試験時間(分)に対する沈下量(mm)の例を示している。試験開始時刻を起点として試験時間が増加するにつれて、車輪11の往復走行による沈下量が増加する。この沈下量は、供試体5の表面から深さ方向への沈下深さ(mm)である。
【0049】
DSを測定する際には、最初の試験開始時点から45分経過前までの沈下量は考慮に入れない。その理由として、最初の試験開始時点から45分経過前までは、添加した骨材との噛み合わせ等の要因に基づいて沈下量が決まるため、本来的な意味での耐流動性を評価することができなくなるためである。
【0050】
DSを測定する際には、あくまで試験開始時刻を起点とし、45分経過後から60分経過後までの、15分間におけるアスファルトバインダー組成物の変形量d(mm)に着目する。このdは、試験開始時刻を起点として60分経過時における沈下量と、試験開始時刻を起点として45分経過時における沈下量との差を求めることにより算出することができる。DSは、下記の式(2)から求めることができる。
【0051】
DS(回/mm)=45分経過時〜60分経過時までのタイヤ走行回数(回)/d(mm)・・・・・・・・・・(2)
から求めることができる。車輪11による往復頻度が、42(回/分)である場合、(2)式を変形すると以下の(2)´式に書き換えることができる。
DS(回/mm)=630(回)/d(mm)・・・・・・・・・・(2)´
【0052】
この(2)´式の分子は、42(回/分)×15(分)=630(回)を意味する。即ち、このDSは、d(mm)に対する、15分間のタイヤ走行回数で求めることが可能となる。このDSが高いほど、バインダー組成物自体の変形量が少なく、轍掘れに強い材料となり、強度が高いことを意味している。
【0053】
なおDSは、バインダー組成物のみを用いて試験するのではなく、実際の道路舗装と同様に、表2に示す粒度に調整した骨材(砕石、石灰岩粉など)と、バインダー組成物を後述する所定の条件で混合し、成型した供試体を用いて測定する。
【0054】
このDSが高いほど、アスファルトの強度が高く、轍掘れに強い舗装材料を提供できることを意味している。本発明において望ましいDSは800回/mm以上であり、更に好ましくは1500回/mm以上とした。
【0055】
本発明バインダー組成物を用いてDSを測定するための、供試体の具体的な作製方法について以下に示す。
【0056】
骨材としては、硬質砂岩からなる砕石を使用し、細粒分(粒子径の小さい構成成分)の配合調製には石灰岩を粉砕した石粉を使用し、供試体を作製する。なお海砂や回収ダストなど、前記の砕石および石粉以外の材料は、DSの変動要因となるので使用しない。
【0057】
骨材の粒度を調整するために使用する石灰岩を粉砕した石粉は、JIS A 5008「舗装用石灰石粉」に適合する、通過質量百分率がふるい目600μmで100%、150μmで90〜100%、75μmで70〜100%であり、水分が1%以下であるものを使用する。
【0058】
石粉以外の骨材は硬質砂岩からなる砕石を使用し、以下(1)〜(6)に示す性状を満足するものを使用する。
【0059】
(1)吸水率1.5%未満、望ましくは1.0%未満。(JIS A 1110)
ここでは吸水率0.64%の砕石を使用している。骨材の吸水率が高いと、被覆されたアスファルトバインダーを骨材が吸収し、結果的に混合物中のアスファルトバインダー量が少ない配合となる。また吸水率の高い骨材は、使用時の湿度や表面の湿潤状態によってアスファルトバインダーの吸収量が大きく変化し、結果として混合物中のアスファルトバインダー量が変動することになる。 従って、混合物中のアスファルトバインダー量を一定に保つために、吸水率は1.5%未満、望ましくは1.0%未満とする必要がある。
【0060】
(2)見掛密度2.60g/cm
3以上、2.70g/cm
3以下(JIS A 1110)
ここでは見掛密度2.66g/cm
3の砕石を使用した。
【0061】
(3)安定性6%以下、望ましくは3%以下(JIS A 1122)
ここでは安定性2.4%の砕石を使用した。ここでいう安定性とは、凍結融解に対する安定性を規定したものである。この安定性の数値が小さいほど、凍結融解時の骨材破壊が少ない。舗装設計施工指針では12%以下と規定しているが、骨材の性状のばらつきを抑制するために、当該指針の規定の半分としている。
【0062】
(4)すり減り減量20%以下、望ましくは15%以下(JIS A 1121)
ここではすり減り減量12.6%の砕石を使用した。すり減り減量試験は、骨材の硬さおよびすり減りに対する抵抗、すなわち骨材の耐久性を評価する試験である。すり減り減量が20%を越えるとわだち掘れが大きくなるので、ここではすり減り減量を20%以下、望ましくは15%以下とした。
【0063】
(5)軟石量5.0%以下、望ましくは3.0%以下(JIS A 1126)
ここでは軟石量2.5%の砕石を使用した。軟石量は、黄銅の棒(モース硬度3〜4)によりひっかき跡が付くかを判定する試験で、骨材が黄銅よりも硬いか、軟らかいかを判定する試験である。軟石量はすり減り減量試験と同様に、骨材の硬さおよびすり減りに対する抵抗、すなわち骨材の耐久性を評価する試験である。軟石量は一般的に5%以下である必要がある。(舗装調査・試験法便覧A008参照。)
【0064】
(6)細長,あるいは扁平な石片の含有量10.0%以下、望ましくは5.0%以下(舗装設計施工指針(規制値)および舗装調査・試験法便覧A008(試験法))
ここでは細長、あるいは扁平な石片の含有量2.8%の砕石を使用した。ここでいう石片は、一般には長軸/短軸比が3以上のものを細長、あるいは扁平な石片として使用する。細長,あるいは扁平な石片が混入すると、舗装もしくは試験用の供試体が、ある方向からの荷重に対して、変形しやすくなる可能性がある。すなわち細長,あるいは扁平な石片が多く混入していると、それらが向きを揃えて配向し、その向きと平行な荷重に対しては、垂直な荷重に対するよりも変形しやすくなる。
【0065】
従って、耐わだち掘れ性能(DS)を測定する際には、細長あるいは扁平な石片の混入量を制限しないと、得られる値が大きく変動することとなる。
【0066】
これらの性状を満足する砕石、および石粉を骨材として使用し、また表2に示す骨材配合を調整し、表3に示す条件で供試体を作製した。
【0067】
実際に供試体の作製は、大きく分類してバインダー組成物と骨材との混合、転圧の2段階からなる。混合に関しては、175℃に加熱されているバインダー組成物を567g、185℃に加熱されてなるとともに上述した粒度に合成した(以下、その調整した粒度を合成粒度という。)骨材を10176g準備する。
【0068】
先ず骨材をミキサーに入れ、骨材のみを60秒間混合し、均一にした。混合を一時止め、567gのバインダー組成物をミキサーに投入した後、これらバインダー組成物と骨材とを120秒に亘って混合した。
【0069】
混合を終了した、これらバインダー組成物と骨材を、ホイールトラッキング試験用型枠(内寸 縦30.0cm,横30.0cm、深さ5.0cm)に入れ、転圧した。
【0070】
転圧に関しては、下記表3の転圧温度の下で、半径460mmの円柱状ローラを転がすことにより、混合後のバインダーに転圧を負荷する。この転圧に関しては、一次転圧、二次転圧の2段階に亘り行う。その後8時間に亘り乾燥させる。
【0071】
【表3】
【0072】
糸引き発生の有無の試験については特にJIS等において規定されていないため、軍手を好ましくは2重となるように両手に嵌めた上で、得られた実施例及び比較例のアスファルトバインダー組成物のサンプルを130℃程度まで加熱し、3〜5g程度左又は右の手のひらに取り、両手を合わせた状態で接触させる。その後、両手を徐々に5cm以上離間させたときに、糸引きが発生するか否かを目視観察により確認をした。その結果、糸引きが1本以上確認された場合には、「有り」、糸引きが1本も確認されなかった場合には、「無し」とした。
【0073】
(実施例1〜15、比較例1〜9について)
【0074】
以下、実施例、比較例について、詳細に説明をする。
【0075】
本検証で使用した石油系溶剤抽出油の性状は、代表的な性状が、60℃における動粘度が512mm
2/s、引火点が338℃で、芳香族含有量が65.9%であるものである。。石油樹脂の性状は、代表的な性状が軟化点が140℃ 、JIS K0070で規定されている酸価が0.1mgKOH 、JIS K2543で規定されている臭素価が25g、GPC法で測定したポリエチレン換算の平均分子量が約1000であるものである。
【0076】
本検証で使用したSEBSは、25℃における10%トルエン溶液粘度が1800mPa・s、スチレン含有率が30%であるSEBSである。
【0077】
EEAについては、EEA1〜EEA5の5種類について検証を行った。実施例13にはMFR0.5g/10
min、EA配合率10重量%のEEA1を、実施例1〜12、比較例1〜8にはMFR0.5g/10
min、EA配合率16重量%のEEA2を、実施例14にはMFR0.5g/10
min、EA配合率25重量%のEEA3を、実施例15にはMFR1.5g/10
min、EA配合率20重量%のEEA4を、比較例9にはMFR3.0g/10
min、EA配合率30重量%のEEA5を使用した。なお、これらEEAのうち、EEA1〜EEA4は、MFR、EA配合率ともに本発明において規定した範囲内に入っているが、EEA5は、MFR、EA配合率ともに本発明において規定した範囲から逸脱していた。
【0078】
本検証で使用した剥離防止剤としては、骨材との間での剥離防止性及び相溶化性を発揮させるために、ダイマー酸(炭素数36、酸価190〜210のトール油脂肪酸二量体化物)を使用している。
【0079】
実施例1〜15の成分の含有比率は、何れも上述した本発明において規定した範囲内となっている。このような実施例1〜15は、何れも上述した評価項目について基準を満たすものとなった。すなわち、実施例1〜15に係る明色舗装用バインダー組成物は、何れも針入度(25℃)が40〜70(0.1mm)、軟化点が56℃以上、粘度(180℃)が800mPa・s以下、DSが800回/mm以上であり、糸引きは何れも確認されず「無し」であった。
【0080】
中でも、実施例1〜3、5〜6、13、14は、何れもEEA2が2.5〜5.0%であり、SEBSが2.0〜2.5%であるが、DSが何れも1500回/mm以上であり、粘度(180℃)が600mPa・s以下であり、強度面と施工性の面において極めて優れた性状を示していた。
【0081】
比較例1はSEBSが2.8%を超えており、本発明において規定したSEBSの含有量の上限を上回っている。このため、比較例1では糸引きが発生した。
【0082】
比較例2〜5は、EEAの含有量x、SEBSの含有量yが何れもy<−0.6x+3.1となっており、本発明において規定した範囲から逸脱していた。このため、比較例2〜5は、何れもDSが800回/mm未満であり、強度が低くなり、舗装時における耐久性が低下していた。
【0083】
比較例6〜8は、EEAの含有量x、SEBSの含有量yが何れもy>−0.5x+6.1の範囲にあり、本発明において規定した範囲から逸脱していた。このため、比較例6〜8は、180℃粘度の上限を超えており、施工性が悪化してしまう結果となっていた。
【0084】
比較例9は、EEA5を使用しているため、DSの下限を下回る結果となっていた。
【0085】
また
図4は、
図1に示すSEBSとEEAの含有量の関係において、上述した実施例、比較例のSEBS、EEA各含有量をプロットした状態を示す図である。各プロットにおいて、実施例は、「実」とし、比較例は、「比」で表している。ちょうどy=−0.6x+3.1の線分が、比較例1、3、4、5と、実施例1、13−15、4、7、8のプロットの境界に位置していることが示されている。また、y=−0.5x+6.1の線分が、比較例6〜8と、実施例10〜12のプロットの境界に位置していることが示されている。