(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
坩堝から採取した試験体に対し、700℃から1600℃までの昇温と1600℃から700℃までの降温との組合せを1サイクルとして、室温から700℃まで昇温する第1過程と、複数回の前記サイクルを繰り返す第2過程とを、この順で行うヒートサイクルテストを行ったとき、前記第2過程の2回目以後の各サイクルの線膨張係数が8×10−6/K以下であり、前記第1過程の700℃における任意部位の寸法(X)と、前記第2過程の2回目以後の各サイクル後の700℃における前記任意部位の寸法(XH)とによる寸法変化率{(XH/X−1)×100}が−0.5〜0.5%である、坩堝。
請求項1又は2に記載の坩堝が底部と円筒形状の壁部とを有する内坩堝であって、前記内坩堝が底部と円筒形状の壁部とを有する外坩堝の内側に挿入され、前記内坩堝の前記底部が前記外坩堝の前記底部によって支持されている、重ね坩堝装置。
交換式の内坩堝と外坩堝とからなる重ね坩堝装置に用いられる内坩堝の使用回数を決める方法であって、前記内坩堝から採取した試験体に対し、700℃から1600℃までの昇温と1600℃から700℃までの降温との組合せを1サイクルとして、室温から700℃まで昇温する第1過程と、前記サイクルをn回(nは2以上)繰り返す第2過程とを、この順で行うヒートサイクルテストを行い、前記第2過程の2回目以後n回までの各サイクルの線膨張係数が8×10−6/K以下であり、かつ前記第1過程の700℃における任意部位の寸法(X)と、前記第2過程の2回目以後n回までの各サイクル後の700℃における前記任意部位の寸法(XH)とによる寸法変化率{(XH/X−1)×100}が−0.5〜0.5%であるとき、n回まで使用可能と判断する、内坩堝の使用回数を決める方法。
交換式の内坩堝と外坩堝とからなる重ね坩堝装置に用いられる内坩堝の使用回数を決める方法であって、前記内坩堝から採取した試験体に対し、700℃から1600℃までの昇温と1600℃から700℃までの降温との組合せを1サイクルとして、室温から700℃まで昇温する第1過程と、前記サイクルを複数回繰り返す第2過程とを、この順で行うヒートサイクルテストを行い、前記第2過程の2回目以後の各サイクルの線膨張係数と、前記第1過程の700℃における任意部位の寸法(X)と前記第2過程の2回目以後の各サイクル後の700℃における前記任意部位の寸法(XH)とによる寸法変化率{(XH/X−1)×100}と、を前記第2回目以降各サイクル毎に計測し、前記線膨張係数が8×10−6/Kを越えたとき又は前記寸法変化率が−0.5〜0.5%の範囲を外れたときの回数をm回としたとき、m回未満の回数を使用可能と判断する、内坩堝の使用回数を決める方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような内坩堝およびそれを用いた重ね坩堝装置では、内坩堝の内面は金属材料と接し、外面は外坩堝と接している。高周波誘導加熱により加熱されるのは内坩堝に装入された金属材料であり、内坩堝自体は加熱されないため、その温度が溶湯と接すると同時に急激に上昇することとなる。そして、内坩堝には、溶湯と接し高温に曝された内面と、外坩堝と接し低温のままの外面との間に熱膨張差が発生し、これに起因して割れが発生しやすい。また、溶湯を鋳型に注湯した後の内坩堝は、内面の温度が急激に低下して内面と外面の間に熱収縮差が発生し、これに起因して割れが発生しやすい。そのため、内坩堝を複数回使用する場合、内坩堝が割れて溶湯が外坩堝へと漏れる不具合(湯漏れ)が発生することがある。そのような湯漏れが生じると、重ね坩堝装置を取り外し、新たに築炉しなおさなければならないといった問題があった。また、坩堝は一般に耐火材料の粉末を焼成して製造されており、このような坩堝が溶湯と接することで焼成温度以上の高温に曝されると、さらに焼結が進行し、坩堝内に焼結収縮や相変態による寸法変化に伴う応力が発生し、これに起因して割れが発生しやすい。また、外坩堝よりも熱膨張係数の大きい内坩堝を使用して、外坩堝から内坩堝に応力を加える方法では、内坩堝と外坩堝の隙間を厳密に管理する必要があり、その隙間が小さすぎると内坩堝を挿入する際に擦って傷を付けたり、溶解時の加熱によって内坩堝が変形したときに内坩堝が取り出せなくなるといった問題がある。さらに、充填部材を内坩堝と外坩堝の間隙に充填する方法では、内坩堝を交換するたびに充填部材の除去および充填を行う必要があり、真空鋳造炉で使用する場合には、内坩堝を交換するたびに炉を大気開放する必要がある。
【0006】
本発明の目的は、例えば精密鋳造に際して単体でも使用可能であり、また内坩堝として重ね坩堝装置にも使用可能な坩堝であって、上述した熱膨張差、熱収縮差、焼結収縮、および相変態などに起因する割れが容易に発生しない坩堝を提供することであり、また、その坩堝を内坩堝として用いた重ね坩堝装置を提供することである。また、本発明の別の目的は、交換式の内坩堝と外坩堝とからなる重ね坩堝装置に用いられる内坩堝の使用回数を決める方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述した熱膨張差、熱収縮差、焼結収縮、および相変態などに起因する坩堝(内坩堝)の割れの現象を検討する過程で、溶解・鋳造に使用する前の坩堝に対してヒートサイクルテストを行った。そして、その2サイクル目以後の結果に基づく特定の温度範囲の線膨張係数および寸法変化率が適切な範囲であると、上記の課題が解決できることを見出し、本発明に想到した。
【0008】
すなわち、本発明の坩堝は、その坩堝から採取した試験体に対し、700℃から1600℃までの昇温と1600℃から700℃までの降温との組合せを1サイクルとして、室温から700℃まで昇温する第1過程と、前記サイクルを複数回繰り返す第2過程とを、この順で行うヒートサイクルテストを行ったとき、前記第2過程の2回目以後の各サイクルの線膨張係数が8×10
−6/K以下であり、前記第1過程の700℃における任意部位の寸法(X)と、前記第2過程の2回目以後の各サイクル後の700℃における前記任意部位の寸法(X
H)とによる寸法変化率{(X
H/X−1)×100}が−0.5〜0.5%である。
前記第2過程の前記サイクル数を4回以下とすることが好ましい。
【0009】
上記の本発明の坩堝を用いて、重ね坩堝装置を構成することができる。
すなわち、本発明の重ね坩堝装置は、上記した本発明の坩堝が底部と円筒形状の壁部とを有する内坩堝であって、その内坩堝が底部と円筒形状の壁部とを有する外坩堝の内側に挿入され、前記内坩堝の前記底部が前記外坩堝の前記底部によって支持されている。
【0010】
また本発明は、交換式の内坩堝と外坩堝とからなる重ね坩堝装置に用いられる内坩堝の使用回数を決める方法であって、使用回数を決める内坩堝から試験体を採取し、その試験体に対し、700℃から1600℃までの昇温と1600℃から700℃までの降温との組合せを1サイクルとして、室温から700℃まで昇温する第1過程と、前記サイクルをn回(nは2以上)繰り返す第2過程とを、この順で行うヒートサイクルテストを行い、前記第2過程の2回目以後n回までの各サイクルの線膨張係数が8×10
−6/K以下であり、かつ前記第1過程の700℃における任意部位の寸法(X)と、前記第2過程の2回目以後n回までの各サイクル後の700℃における前記任意部位の寸法(X
H)とによる寸法変化率{(X
H/X−1)×100}が−0.5〜0.5%であるとき、n回まで使用可能と判断する、内坩堝の使用回数を決める方法である。
【0011】
また本発明は、交換式の内坩堝と外坩堝とからなる重ね坩堝装置に用いられる内坩堝の使用回数を決める方法であって、使用回数を決める内坩堝から試験体を採取し、その試験体に対し、700℃から1600℃までの昇温と1600℃から700℃までの降温との組合せを1サイクルとして、室温から700℃まで昇温する第1過程と、前記サイクルを複数回繰り返す第2過程とを、この順で行うヒートサイクルテストを行い、前記第2過程の2回目以後の各サイクルの線膨張係数と、前記第1過程の700℃における任意部位の寸法(X)と前記第2過程の2回目以後の各サイクル後の700℃における前記任意部位の寸法(X
H)とによる寸法変化率{(X
H/X−1)×100}と、を前記第2回目以降各サイクル毎に計測し、前記線膨張係数が8×10
−6/Kを越えたとき又は前記寸法変化率が−0.5〜0.5%の範囲を外れたときの回数をm回としたとき、m回未満の回数を使用可能と判断する、内坩堝の使用回数を決める方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の坩堝は、上述した熱膨張差、熱収縮差、焼結収縮、および相変態などに起因する割れが容易に発生しないため、例えば精密鋳造に際して単体での使用にも好ましく、重ね坩堝装置の内坩堝での使用も好ましいものとなる。また、交換式の内坩堝と外坩堝とからなる重ね坩堝装置に用いられる内坩堝に対しヒートサイクルテストを行い、その内坩堝の使用回数を決めることができ、湯漏れが生じる前に複数回使用した内坩堝の交換を行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の坩堝における重要な特徴は、溶解・鋳造に使用する前の坩堝に対して、特定の温度範囲の昇温と降温との組合せであるサイクルを複数回繰り返す特定のヒートサイクルテストを行ったときに、そのテスト中の2サイクル目以後の各サイクル毎の結果に基づいて求められる線膨張係数および寸法変化率を適切な範囲に規定することにある。
以下、本発明について、適宜図面を参照して、詳しく説明する。
【0015】
本発明の坩堝は、例えば、
図1や
図2に示す構成であってよい。坩堝1は、内面2aおよび外面2bとで円筒形状に構成された壁部2と、図中に一点鎖線で示す円筒軸6の一方側に壁部2から隅部5を介して設けられた底部3と、円筒軸6の他方側に設けられた開口部4とを有している。また、
図2に示す坩堝1(変形構成例)は、開口部4側の内面2aから隅部5に向かって円筒形状の直径(内径)が徐々に小さくなるように構成された、テーパ状の底部側内面2cを有する。このようなテーパ状の底部側内面2cを有する坩堝1は、上記の割れが発生しやすい部位である外壁2と隅部5との間の機械的強さが高くなるので好ましい。
【0016】
上述した壁部2や底部3の厚さ、壁部2と底部3とを繋ぐ隅部5の厚さや形状、開口部4の大きさ(開口径)、坩堝1の全高などは、必要に応じて設計することができる。また、本発明の坩堝は、
図1や
図2に示す坩堝1のような円筒形状の他、壁部をなす円筒軸に垂直な断面形状が、例えば楕円状や多角状の形状であってもよい。
【0017】
本発明では、溶解・鋳造に使用する前の坩堝に対して、特定のヒートサイクルテストを行ったときの結果が重要である。特定のヒートサイクルテストとは、具体的には、700℃から1600℃までの昇温と1600℃から700℃までの降温との組合せを1サイクルとして、室温から700℃まで昇温する第1過程と、複数回の前記サイクルを繰り返す第2過程とを、この順で行うテストである。なお、前記第2過程の最後のサイクルの降温において700℃に達した後は、その700℃から室温まで降温してよい(以下、「第3過程」ということがある。)。
【0018】
上記のヒートサイクルテストにおいて、本発明の坩堝から採取した試験体であれば、前記第2過程の2回目以後の各サイクルの線膨張係数が8×10
−6/K以下であり、前記第1過程の700℃における任意部位の寸法(X)と、前記第2過程の2回目以後の各サイクル後の700℃における前記任意部位の寸法(X
H)とによる寸法変化率{(X
H/X−1)×100}が−0.5〜0.5%となる。
【0019】
上記のヒートサイクルテストによる熱膨張係数および寸法変化率がそれぞれ上記の範囲となる本発明の坩堝は、加熱溶解時に発生する内面と外面の熱膨張差や、注湯後に発生する熱収縮差や、高温暴露時の焼結収縮や相変態による寸法変化などに起因する割れの発生が抑制される。その理由について、以下、ヒートサイクルテストの詳細とともに、詳しく説明する。
【0020】
本発明におけるヒートサイクルテストは、例えば被検体となる坩堝から切り出した所定のサイズの小片を試験体とし、一般的な市販の熱機械分析装置(TMA:Thermo Mechanical Analyzer)を使用して実施することができる。
【0021】
本発明では、上記のヒートサイクルテストにおいて、上述したように700℃から1600℃までの昇温と1600℃から700℃までの降温との組合せを1サイクルとする。この特定の温度範囲の昇温と降温の組合せによる1サイクルのヒートパターンは、坩堝を鋳造に1回使用した際の熱履歴に近似すると考えられる。したがって、上記のサイクルを複数回繰り返した場合は、坩堝を鋳造に複数回使用した際の熱履歴に近似すると考えられる。
【0022】
なお、昇温の上限を1600℃とした理由は、ロストワックス鋳造法が適用される例えばNi基超合金やCo基超合金などの高融点金属材料の溶解を想定し、これらの金属材料の溶湯が鋳造時に1600℃程度まで加熱されることがあるため、1600℃の溶湯と接することになる坩堝の内面もまた1600℃程度までの温度に曝されるからである。また、降温の下限を700℃とした理由は、上記の溶湯を坩堝から鋳型へ注湯した後、次の金属材料が空になった坩堝に挿入されて加熱が開始されるまでの間に、坩堝の内面の温度が700℃程度まで低下するからである。
【0023】
上記のヒートサイクルテストでは、例えば
図3に示すヒートパターンを使用することができる。このヒートパターンは、室温RT(例えば20℃)から昇温を開始して最初に降温限LT
n(n=1)に達するまでの第1過程と、第1過程終了時の降温限LT
n(n=1)から開始して4回(n=1〜4)のヒートサイクルを繰り返す第2過程と、第2過程終了時の降温限LT
n+1(n=4)から降温を開始して室温RT(例えば20℃)に達するまでの第3過程とが、この順で構成されている。なお、n回目のヒートサイクルC
nとは、n回目の降温限LT
n(700℃)から昇温限HT
n(1600℃)までの昇温と、その昇温限HT
n(1600℃)からn+1回目の降温限LT
n+1(700℃)までの降温との組合せであり、例えばn=2のときは2サイクル目ということがある。また、一般的な坩堝の材質や形状は多様であるため、その坩堝から採取した試験体の寸法変化の安定性を見極めるために少なくとも4回のサイクルを行うことが好ましい。
【0024】
また、基準物質(例えばアルミナ)を準備し、被検体となる坩堝から切り出した所定のサイズの小片(試験体)と同時に上記のヒートサイクルテストを行い、基準物質に対する試験体(坩堝の小片)の寸法変化を連続的に測定することにより、坩堝の熱膨張および熱収縮に関する情報を得ることができる。
【0025】
本発明では、上記のヒートサイクルテストを行ったときの2回目(n=2)のヒートサイクル以後において、坩堝から採取した試験体の線膨張係数が適切な範囲になることが重要である。例えば、1つの坩堝を1回の溶解・鋳造に使用する場合は、温度が700℃まで低下する前に鋳造後の坩堝を取り出すことできれば、その坩堝の割れを危惧しなくてもよい。しかし、1つの坩堝を複数回の溶解・鋳造に使用する場合は、1回の溶解・鋳造を経た坩堝が2回目以後の溶解・鋳造で曝される熱履歴が問題となる。上記のヒートサイクルテストに当て嵌めてみれば、1回目のサイクルを経た被検体が2回目以後のサイクルで曝される熱履歴が問題となる。
【0026】
坩堝の割れは、上述したように坩堝の内面および外面の熱膨張差および熱収縮差によって発生する寸法変化に起因すると考えられる。その場合の寸法変化の大小は、坩堝の線膨張係数の違いによって変化する。したがって、坩堝が適切な線膨張係数を有することが重要である。そこで、本発明では、坩堝から採取した試験体を用いて上記のヒートサイクルテストを行ったときの2回目のサイクル以後の各サイクルにおける線膨張係数を特に重視する。
【0027】
上記の観点から、本発明では、坩堝から採取した試験体を用いて上記のヒートサイクルテストを行ったときに、2回目のサイクル以後の各サイクルにおける試験体の線膨張係数の適切な範囲を8×10
−6/K以下と規定した。上記の条件下において、坩堝から採取した試験体の線膨張係数が8×10
−6/K以下であることにより、坩堝の内面と外面の間における昇温時の熱膨張差および降温時の熱収縮差が抑制される。したがって、上記の熱膨張差および熱収縮差に起因して発生する寸法変化が小さく抑制されるため、坩堝の割れを抑制することができる。なお、本発明では、n回目のサイクルにおける寸法変化量をそのサイクル中の温度差(900℃=1600℃−700℃)で除して求まる値を、n回目のサイクルの線膨張係数と定義する。
【0028】
また、本発明では、坩堝から採取した試験体を用いて上記のヒートサイクルテストを行ったとき、その試験体の寸法変化率が適切な範囲になることも重要である。従来使用されている坩堝は、例えば酸化物粉末などの耐火材料を成形した後に焼成され、その焼成温度は溶解・鋳造の所要温度よりも低いことが一般的である。そのため、溶湯に接して焼成温度以上の高温に曝された坩堝には、自身を構成する耐火材料の焼結収縮が起こり、これに伴う内部応力が発生する。また、溶解・鋳造の使用温度範囲において相変態のある耐火材料が用いられた坩堝では、その相変態に伴って寸法変化が発生するため、その寸法変化に起因して坩堝に割れが発生することがある。したがって、坩堝が適切な寸法変化率を有することも重要になる。そこで、本発明では、坩堝から採取した試験体を用いて上記のヒートサイクルテストを行ったとき、その試験体の寸法変化率もまた重視する。
【0029】
上記の観点から、本発明では、坩堝から採取した試験体を用いた上記のヒートサイクルテストにおいて、1回目のサイクルの降温限LT
n(n=1、700℃)における試験体の任意部位の寸法(X)と、2回目以後の各サイクル後の降温限LT
n+1(n=2、700℃)における試験体の前記任意部位の寸法(X
H)とを求め、それらの値を用いて{(X
H/X−1)×100}で求まる値を寸法変化率と定義し、その寸法変化率の適切な範囲を−0.5〜0.5%と規定する。上記の条件下において、坩堝から採取した試験体の寸法変化率が−0.5〜0.5%であることにより、焼結の進行や相変態に伴う寸法変化の影響が抑制され、坩堝に発生する内部応力を抑制もしくは緩和することができるため、坩堝の割れが抑制される。
【0030】
上述した本発明の坩堝を内坩堝に用いて、重ね坩堝装置を構成することができる。
本発明の重ね坩堝装置は、例えば、
図4に示す構成であってよい。重ね坩堝装置10は、底部11aを有して壁部11bが円筒形状の内坩堝11として、例えば
図1に示す構成を有する本発明の坩堝1を用いたものである。内坩堝11は、底部12bを有して壁部12aが円筒形状の外坩堝12の内側に挿入されている。そして、内坩堝11の壁部11aと外坩堝12の壁部12aの間には、加熱による坩堝の膨張などを考慮した隙間13が設けられている。また、外坩堝12は、その外周側に金属材料15を溶解するための加熱装置14を備えている。なお、重ね坩堝装置10は、図示は略すが、外坩堝12や加熱装置14を支持するための支持構造を有している。こうした構成の重ね坩堝装置10は、内坩堝11の内部に金属材料15を装入し、溶解に際しては金属材料15を加熱装置14によって溶解し、鋳造に際しては重ね坩堝装置10の全体を傾動することによって溶融金属材料(溶湯)を内坩堝11から鋳型(図示略)へ注入することができる。
【0031】
本発明では、上記で説明したとおり、上記のヒートサイクルテストを行うことにより、内坩堝の使用回数を特定することができる。
つまり、本発明によれば、交換式の内坩堝と外坩堝とからなる重ね坩堝装置に用いられる内坩堝の使用回数を決める方法として、使用回数を決める内坩堝から試験体を採取し、その試験体に対し、700℃から1600℃までの昇温と1600℃から700℃までの降温との組合せを1サイクルとして、室温から700℃まで昇温する第1過程と、前記サイクルをn回(nは2以上)繰り返す第2過程とを、この順で行うヒートサイクルテストを行い、前記第2過程の2回目以後n回までの各サイクルの線膨張係数が8×10
−6/K以下であり、かつ前記第1過程の700℃における任意部位の寸法(X)と、前記第2過程の2回目以後n回までの各サイクル後の700℃における前記任意部位の寸法(X
H)とによる寸法変化率{(X
H/X−1)×100}が−0.5〜0.5%であるとき、そのn回まで使用可能と判断することができる。
【0032】
また本発明によれば、交換式の内坩堝と外坩堝とからなる重ね坩堝装置に用いられる内坩堝の使用回数を決める方法として、使用回数を決める内坩堝から試験体を採取し、その試験体に対し、700℃から1600℃までの昇温と1600℃から700℃までの降温との組合せを1サイクルとして、室温から700℃まで昇温する第1過程と、前記サイクルを複数回繰り返す第2過程とを、この順で行うヒートサイクルテストを行い、前記第2過程の2回目以後の各サイクルの線膨張係数と、前記第1過程の700℃における任意部位の寸法(X)と前記第2過程の2回目以後の各サイクル後の700℃における前記任意部位の寸法(X
H)とによる寸法変化率{(X
H/X−1)×100}と、を前記第2回目以降各サイクル毎に計測し、前記線膨張係数が8×10
−6/Kを越えたとき又は前記寸法変化率が−0.5〜0.5%の範囲を外れたときの回数がm回であったとき、そのm回未満の回数を使用可能と判断することができる。
このm回未満の回数としては、m−1回とすれば良いが、より安全面を考慮してm−2回としても良い。
【実施例】
【0033】
表1に示す各々の組成を有する各々の坩堝を作製した。具体的には、まず、アルミナ、ムライト、溶融シリカ、およびクリストバライトの各種の粉末を準備し、各坩堝の組成に合うように各種の粉末を配合し、十分に混練し、各坩堝用の素材料を作製した。次いで、その素材料を用いて所定の形状を有する坩堝素材を形成して焼成し、底部を有して壁部が円筒形状である各々の坩堝を作製した。なお、各々の坩堝は、内径が155±15mm、外径が175±15mm、高さ(全高)が295±10mmとなるように作製した。
【0034】
【表1】
【0035】
上述した方法で作製した各々の坩堝を内坩堝に使用し、重ね坩堝装置を構成した。具体的には、底部を有して壁部が円筒形状である前記内坩堝を、底部を有して壁部が円筒形状である外坩堝の内側に挿入し、前記内坩堝の底部が前記外坩堝の底部によって支持されるように構成した。この重ね坩堝装置を使用し、Alloy713Cを用いた溶解・鋳造を前記内坩堝が割れて湯漏れを起こすまで繰り返し行った。具体的には、20kgのAlloy713Cのインゴットを内坩堝に挿入し、そのインゴットを高周波誘導加熱によって溶解して溶湯とし、その溶湯を1600℃で保持しながら鋳型に流し込んだ(鋳造)。そして、空になった内坩堝の割れの有無と、外坩堝への湯漏れの有無を確認した。続いて、湯漏れが発生しなかった場合は、同等の新しいインゴットを空になって700℃に降温した内坩堝に再挿入し、上記と同様な手順で溶解・鋳造を行った。上記の溶解・鋳造を、内坩堝が割れて湯漏れを起こすまで繰り返し行った。
【0036】
次に、上記で作製した坩堝と同様に作製した各々の坩堝から個片(断面が5mm角、長さが20mm)を切り出し、その個片の表面を研磨することにより、各々の試験体を作製した。そして、各々の試験体を用いて
図3に示すヒートパターンを適用したヒートサイクルテストを開始し、熱機械分析装置を用いてJIS−R2207−3に準拠する方法で、その試験体の予め決めた部位についての線膨張係数および寸法変化の測定を行った。具体的には、試験体を所定の位置にセットし、室温(約20℃)から加熱して700℃まで昇温し(第1過程)、続いて700℃から1600℃まで昇温した後に速やかに700℃まで降温し(第2過程の1回目のサイクル)、再び1600℃まで昇温する2回目のサイクルへ移行した。こうして第2過程での4回目のサイクルが700℃に達して終了した後は速やかに室温(約20℃)まで降温し(第3過程)、終了した。なお、ヒートサイクルテスト中は、毎分5℃で昇温および降温を行った。
【0037】
上記のヒートサイクルテストで取得した情報に基づいて作成した、本発明例1の寸法変化率の一例を
図5に、比較例1の寸法変化率の一例を
図6に示す。詳しくは、各図中、(a)は第1過程、(b)は第2過程の1回目のサイクル、(c)は2回目のサイクル、(d)は3回目のサイクル、(e)は4回目のサイクル、並びに(f)は第3過程である。なお、(a)〜(f)の各プロセスにおける変化を実線で示し、全プロセスにおける変化を点線で示す。
図5に示す本発明例1の場合は、(b)に示す1回目のサイクルで比較的大きな変化が認められたが、(c)に示す2回目のサイクル以後の変化は小さく抑制され、(d)および(e)で示す3回目および4回目のサイクルでは十分に小さく抑制されていた。これに対し、
図6に示す比較例1の場合は、(b)に示す1回目のサイクルで、本発明例1よりもかなり大きな変化が認められ、その後はサイクルを重ねる毎に変化が小さくなっているが、本発明例1のように変化が小さく抑制されることがなかった。
【0038】
また、上記のヒートサイクルテストで取得した情報に基づいて、個々の試験体の線膨張係数および寸法変化率を求めた。具体的に、各サイクルにおける線膨張係数は、各サイクル中の寸法変化量を温度差900℃で除して求め、このヒートサイクルテストにおける寸法変化率は、最初に700℃に達したとき、つまり、1回目のサイクルの開始時の降温限LT
n(n=1、700℃)で測定した試験体の予め決めた部位の寸法(X)と、2回目以後の各サイクル後の降温限LT
n+1(n=2〜4、700℃)で測定した試験体の予め決めた部位の寸法(X
H)とを求め、それらの値を用いて{(X
H/X−1)×100}によって求めた。
【0039】
上述した方法で確認した、各々の坩堝が湯漏れするまでの回数(使用可能回数)と、各々の坩堝と実質的に同等に作製した各々の別の坩堝から採取した各々の試験体の線膨張係数および寸法変化率を、表2に示す。
【0040】
【表2】
【0041】
本発明例1の坩堝は少なくとも5回、本発明例2の坩堝は少なくとも4回の溶解・鋳造を、湯漏れなく行うことができた。つまり、本発明例1、2の坩堝は、4回のヒートサイクルを経た後も線膨張係数が8×10
−6/K以下かつ寸法変化率が−0.5〜0.5%の範囲内である特性を有することにより、複数回の溶解・鋳造に耐えることができる優れた坩堝であることが確認された。これに対し、比較例1〜3の坩堝は、1回の溶解・鋳造で湯漏れが発生したため、繰り返し使用することができなかった。比較例1、3の坩堝は、線膨張係数が4回のサイクルを経たときも8×10
−6/K以下であったが、寸法変化率が2回のサイクルを経たときに−0.5〜0.5%の範囲を逸脱する特性を有することにより、寸法変化に耐えられなかったと考えられる。また、比較例2の坩堝は、寸法変化率が4回のサイクルを経たときも−0.5〜0.5%の範囲内であったが、線膨張係数が2回のサイクルを経たときに8×10
−6/Kを超える特性を有することにより、寸法変化に耐えられなかったと考えられる。
【0042】
以上述べたように、700℃から1600℃までの昇温と1600℃から700℃まで降温の組合せを1サイクルとして、室温から700℃まで昇温する第1過程と、複数回の前記サイクルを繰り返す第2過程とを、この順で行うヒートサイクルテストにおいて、前記第2過程の2回目以後の各サイクルの線膨張係数が8×10
−6/K以下であり、前記第1過程の700℃における任意部位の寸法(X)と、前記第2過程の2回目以後の各サイクル後の700℃における前記任意部位の寸法(X
H)とによる寸法変化率{(X
H/X−1)×100}が−0.5〜0.5%である、本発明の坩堝は、上述した熱膨張差、熱収縮差、焼結収縮、および相変態などに起因する割れが容易に発生しないため、例えば精密鋳造に際して単体での使用にも好ましく、重ね坩堝装置の内坩堝での使用も好ましいものとなることが確認できた。
また、このヒートサイクルテストを行うことにより、内坩堝の使用回数を特定できることが分かった。