【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(チーム型研究CREST)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
データの読み出し動作時、前記書き込み電流とは異なる読み出し電流が前記メモリ素子に供給され、前記読み出し電流の変化に基づいて前記メモリ素子の抵抗値が特定される
ことを特徴とする請求項1に記載のメモリ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下図面に基づいて本発明の実施の形態を詳述する。
【0013】
(1)本発明のメモリに用いる酸化チタンの概要
本発明のメモリに用いる酸化チタンは、アナターゼ型の酸化チタンおよびルチル型の酸化チタンのいずれを原材料とするものであってもよいが、以下においては、アナターゼ型の酸化チタンを原材料とした場合を例に挙げて説明する。なお、本発明のメモリに用いる酸化チタンの製造方法については、「(2)本発明のメモリに用いる酸化チタンの製造方法」にて後述する。本発明のメモリに用いる酸化チタンは、Ti
30
5の組成を有し、所定の電流(0.2〜0.4[A・mm
-2])により結晶構造が変わり抵抗値が変化する点に特徴を有している。ここで、
図1に示すように、酸化チタンは、460[K]以下の温度領域において、Ti
30
5が常磁性金属の状態を保った単斜晶系の結晶相(以下、これをλ相、或いはλ‐Ti
30
5とも呼ぶ)となり得る。また、この酸化チタンは、λ相にあるとき温度を上げてゆき、約460[K]を超えると常磁性金属状態の斜方晶系のα相(α‐Ti
30
5)に相転移する。
【0014】
因みに、一般的に知られているTi
30
5の組成を有した従来の酸化チタンは、温度が約460[K]よりも高いと、結晶構造がα相になるものの、約460[K]よりも低いと、結晶構造が非磁性半導体の特性を有するβ相(β‐Ti
30
5)になることが確認されている(例えば特許第5398025号の
図5参照)。実際上、約460[K]よりも低い温度領域においてβ相となった従来の酸化チタンは、単斜晶系の結晶構造を有しており、0[K]付近で格子欠陥によるキュリー常磁性により僅かな磁化があるものの、非磁性半導体となり得るものである。
【0015】
一方、本発明のメモリに用いる酸化チタンは、結晶構造がα相となった後、温度を下げてゆくと、460[K]未満になっても、従来の酸化チタンのように非磁性半導体の特性を有するβ相に相転移することなく、常磁性金属状態のλ相に相転移する。これに加えて、この酸化チタンは、460[K]以下において、λ相に所定波長の光を照射するか、または所定の圧力を与えると、λ相からβ相に相転移し、さらに460[K]以下において、β相に0.2〜0.4[A・mm
-2]の電流を流すと、β相からλ相に相転移し得る。そして、この酸化チタンは、非磁性半導体のβ相になっているときの抵抗率の値が30[Ω cm]であり、一方、常磁性金属状態のλ相になっているときの抵抗率の値が3×10
-2[Ω cm]であることから、β相とλ相との違いによって抵抗値が異なったものとなる。なお、ここでのλ相とβ相の各抵抗率の値は、それぞれ原子間力顕微鏡(AFM)のコンタクトモード測定およびインピーダンス測定により調べた結果である。
【0016】
このように、本発明のメモリに用いる酸化チタンは、460[K]以下において、外部刺激(光や圧力)によりλ相からβ相へと相転移し得、さらに、β相に対して所定の電流を流すことによりβ相からλ相へと相転移し得、外部刺激と、電流供給とにより結晶相が変わることで抵抗値が変化し得る。また、この酸化チタンは、460[K]以下において、β相に対し所定波長の光(例えば532[nm]、6[ns]のパルスレーザ光(以下、パスル光とも呼ぶ)を用いた場合、光強度が3×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以上7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以下の光)を照射することによってもβ相からλ相に相転移させることができる。
【0017】
ここで、
図2Aは、大気圧下(0.1[MPa])における室温での酸化チタンのSR-XRPDパターンを示す。この場合、
図2Aは、酸化チタンがλ相にあるときの結晶構造を示す。
図2AのSR-XRPDパターンを解析した結果、λ相は、単斜晶系で空間群C2/mに属しており、格子定数が、a=9.8330(2)Å、b=3.78509(6)Å、c=9.9667(3)Å、単位格子の体積が370.859(12)Å
3、Rwp=2.404[%]、Rexp=0.863[%](Rwp、Rexpは、結晶構造モデルの妥当性を表す信頼度因子を示す)であることが分かった。ここで、格子定数が、a=9.8330(2)±0.1Å、b=3.78509(6)±0.1Å、c=9.9667(3)±0.3Åであれば、λ相の結晶構造といえる。
【0018】
また、
図2Bはb軸方向から見たλ相の結晶構造の概略図であり、
図2Cはλ相の電子密度分布を示す概略図である。λ相は、対称性が等価ではない3つのTiサイト(Ti1,Ti2,Ti3)と、5つの0サイト(01,02,03,04,05)とを有し、Tiは歪んだ6配位八面体構造を形成していた。
【0019】
一方、λ相の酸化チタンに対して、室温で5.1[GPa]の圧力を与えたり、または室温で波長532[nm]の光を照射したところ、
図3Aに示すように、λ相のSR-XRPDパターン(
図2A)とは異なるSR-XRPDパターンとなり、β相に相転移していることが確認できた。
図3AのSR-XRPDパターンを解析した結果、β相は、単斜晶系で空間群C2/mに属しており、格子定数が、a=9.6416(4)Å、b=3.78376(9)Å、c=9.3584(4)Å、単位格子の体積が341.33(2)Å
3、Rwp=2.231[%]、Rexp=0.935[%]であることが分かった。
【0020】
また、
図3Bはb軸方向から見たβ相の結晶構造の概略図であり、
図3Cはβ相の電子密度分布を示す概略図である。β相も、対称性が等価ではない3つのTiサイト(Ti1,Ti2,Ti3)と、5つの0サイト(01,02,03,04,05)とを有し、Tiは6配位八面体構造を形成していた。
【0021】
このようなβ相とλ相との主な違いは、Ti3の配位構造にあり、λ相では、Ti3が2つの01,1つの03、3つの05と結合しているが、β相では、Ti3が2つの01,1つの03、1つの04、2つの05と結合している。従って、β相では、λ相のTi3-05結合の1つが、1つのTi3-04結合に置き換わる。このように、本発明のメモリに用いる酸化チタンは、λ相とβ相とでは異なる結晶構造を有している。
【0022】
ここで、上述した実施の形態においては、アナターゼ型の酸化チタンを原材料とした材料について述べたが、このような特性は、ルチル型の酸化チタンを原材料としても同様に発現する。そして、本発明のメモリに用いるアナターゼ型の酸化チタンおよびルチル型の酸化チタンは、0.2〜0.4[A・mm
-2]の電流を流すことによってβ相からλ相に相転移し、抵抗値が変化し得る。
【0023】
ここでは、ルチル型酸化チタンを原料としたβ相でなる酸化チタンに電流を流すと、当該酸化チタンがλ相に相転移する現象について以下説明する。
図4Aの(i)は、圧力を与えた後の酸化チタンであり電流を流す前の状態を示す写真である。また、
図4Aの(ii)は、0.4[A・mm
-2]の電流を流した後の酸化チタンの状態を示す写真である。電流を流す前の酸化チタンは、茶系色となっており、その後、電流を流すと黒青色になることが目視確認できた。
【0024】
そして、
図4Aの(i)の茶系色のときのXRPDパターンを調べたところ、
図4Bの(i)に示すように、結晶構造がβ相の結晶構造であることが確認でき、一方、
図4Aの(ii)の黒青色のときのXRPDパターンを調べたところ、
図4Bの(ii)に示すように、結晶構造がλ相に変化していることが確認できた。これにより、電流を流す前は、茶系色のβ相となり、電流を流した後は、黒青色のλ相になることが確認できた。
【0025】
このような相転移について結晶学的に考察すると、
図4Cに示すように、β相のときには、Ti3-05の結合が壊れて、Ti3-04の結合ができており、次に、電流を流すことにより生じるβ相からλ相への相転移では、Ti3-04の結合が壊れて、Ti3-05の結合ができる。このような相転移は、電流によるTi3の結合状態の変化によるものである。
【0026】
また、このような電流供給で起こるβ相からλ相への相転移を熱力学的に解析し、まとめると、
図4Dの(i)に示すように、ギブスの自由エネルギーG、対、電荷非局在ユニットの割合xの曲線は、局部的なエネルギー最小部箇所が現れており、その後、酸化チタンに電流を流すと、
図4Dの(ii)に示すように、エネルギー障壁を越えてβ相からλ相への逆相転移を誘起する。
【0027】
因みに、酸化チタンがβ相からλ相へと相転移する際の電流数値を調べるため、後述する「(2)本発明のメモリに用いる酸化チタンの製造方法」にて作成したβ相の酸化チタンを用いてペレットを作製し、当該ペレットの表面にPtを堆積させた後、当該Pt上にAgペーストでステンレス電極を設け、複数のサンプルペレットを作製した。そして、各サンプルペレットに対して温度298[K]下で異なる電流を流した後、各サンプルペレットの結晶相について調べた。なお、ここでは、サンプルペレット毎に、0.05[A・mm
-2]、0.10[A・mm
-2]、0.15[A・mm
-2]、0.20[A・mm
-2]、また0.30[A・mm
-2]の異なる電流をそれぞれ流し、電流を流した後の各サンプルペレットを粉砕してXRPDにて観測した。その結果、
図5のような結果が得られた。
図5から、0.20[A・mm
-2]以上の電流を酸化チタンに流すことでβ相をλ相に相転移させることができ、一方、0.15[A・mm
-2]以下の電流を酸化チタンに流すことで、β相のまま維持させることができることが確認できた。
【0028】
(1−1)光照射によるλ相からβ相への光誘起相転移(光照射を利用したデータ消去の原理)
次に、本発明のメモリに用いる酸化チタンについて、光照射によるλ相からβ相への光誘起相転移について説明する。ここで、後述する「(2)本発明のメモリに用いる酸化チタンの製造方法」にて作製した黒青色の試料を用意し、この試料についてXRPDにて観測したところ、λ相の結晶構造を有していた。そして、この黒青系色の試料に対し532[nm]のパルスレーザ光(Nd
3+ YAG レーザー)を照射したところ、パルスレーザ光により所定の光強度を与えた箇所は茶系色に変色し、さらに茶系色に変色した箇所をXRPDにて観測したところβ相の結晶構造を有していた。
【0029】
このように本発明のメモリに用いる酸化チタンは、
図6Aに示すように、460[K]以下において、パルス光によって結晶構造をλ相からβ相に相転移させることができる。なお、この酸化チタンは、CW(Continuous Wave)光によってβ相からα相に相転移し、温度が低下することでα相から再びλ相に相転移することも確認されている。このことから酸化チタンは、例えば初期状態としてβ相にあるとき、電流が供給されることでλ相に相転移してデータを書き込んだ後、さらにλ相に対してパスル光を照射することで再びβ相に相転移させてデータを消去することが可能となる。
【0030】
かくして、上述した酸化チタンは、メモリに用いることにより、光照射によるメモリの初期化、電流供給によるデータの書き込み、および光照射によるデータの消去といった3段階を実行し得る。なお、λ相に対してパスル光を照射することでβ相に相転移させる際の光は、紫外光から赤外光(355[nm]〜1064[nm])で、かつ後述する所定の光強度でなる光であればよい。因みに、このような酸化チタンのλ相からβ相への光誘起相転移については、特許第5398025号にて詳細に述べている。
【0031】
ここで、
図6Bは、λ相からβ相に相転移するのに必要な光強度を示している。460[K]以下において、例えば532[nm]、6[ns]のパルスレーザ光を用いてλ相の酸化チタンをβ相の酸化チタンへと相転移させるには、
図6Bに示すように、パルスレーザ光の光強度を、7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]を超えた値にすることが望ましいことが確認されている。なお、上述した酸化チタンは、460[K]以下において、パルスレーザ光を用いて、β相の酸化チタンをλ相の酸化チタンへと相転移させることもでき、この場合、例えば532[nm]、6[ns]のパルスレーザ光を用いると、パルスレーザ光の光強度を、3×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以上7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以下にすることが望ましいことが確認されている。この点については、後述の「(1−3)光照射によるβ相からλ相への光誘起相転移(圧力印加状態でデータを書き込む手法に用いる光誘起相転移)」にて説明する。
【0032】
(1−2)圧力印加によるλ相からβ相への相転移(圧力印加を利用したデータ消去の原理)
次に、本発明のメモリに用いる酸化チタンについて、460[K]以下において、圧力を加えたときのλ相とβ相との割合について調べたところ、
図7A、
図7Bおよび
図7Cに示すような結果が得られた。
図7Aは、酸化チタンに0.1[MPa]、0.6[GPa]、1.1[GPa]、1.9[GPa]、3.0[GPa]、または4.6[GPa]の圧力を順に与えたときのSR-XRPDパターンである。
図7Aから、圧力が大きくなるにつれてλ相の結晶構造を示すピーク強度が次第に減少してゆき、その一方で、β相の結晶構造を示すピーク強度が次第に増加してゆくことが確認できた。
【0033】
ここで、
図7Aに示すSR-XRPDパターンをリートベルト法により解析したところ、λ相については、
図7Bに示すような結果が得られ、一方、β相については、
図7Cに示すような結果が得られた。
図7Bに示すように、λ相は、0.4[GPa]の圧力が与えられると減少し始め、結晶構造のβ相への相転移が始まり、1.1[GPa]の圧力が与えられると、λ相の割合が初めの約0.8から0.5まで減少し、最終的に3.7[GPa]以上の圧力が与えられると、結晶構造中のλ相の割合がほぼ0となる。
【0034】
β相は、
図7Cに示すように、0.4[GPa]の圧力が与えられると増加し始め、λ相からの結晶構造の相転移が始まり、1.1[GPa]の圧力が与えられると、β相の割合が初めの約0.2から0.5まで増加し、最終的に3.7[GPa]以上の圧力が与えられると、ほぼ全ての結晶構造がβ相となる。従って、本発明のメモリに用いる酸化チタンについて、圧力を与えることによりλ相からβ相へ相転移させるには、0.4[GPa]以上、好ましくは1.1[GPa]以上、さらに好ましくは3.7[GPa]以上の圧力を与えることが望ましい。
【0035】
図8Aは、圧力を増加させていったときに、計算により求めたギブスの自由エネルギーG、対、電荷非局在ユニットの割合xの曲線を示している。圧力0[GPa]の計算には、試料をDSC測定して実測値として得られた転移エンタルピー△H、転移エントロピー△Sを用い、また、これらの転移エンタルピー△Hと転移エントロピー△Sの値を用いて、実測の磁化率の温度依存性にフィッティングすることにより求めた相互作用パラメータγの値を用いた。圧力をかけたときの転移エンタルピー△Hと転移エントロピー△Sの変化については第一原理フォノンモード計算により見積もられた値を用いた。本発明のメモリに用いる酸化チタンは、外部から圧力がかかると、転移エンタルピー△Hが増加し、転移エントロピー△Sが減少するためギブスの自由エネルギーGは
図8Aに示すように増加する。
【0036】
λ相での転移エントロピー△Sの減少は、β相のときより大きいので、λ相のギブスの自由エネルギーGの増加はβ相より大きくなる。このことから、相転移圧力(P
λ→β)での圧力による相転移は、
図8Aに示すモデルで再現されていると言える。
図8Aおよび
図8Bに示すように、与える圧力を大きくしてゆくと、エネルギー障壁が消えて、λ相はβ相へ相転移してゆく。その一方、圧力を与えたことによって生じたβ相は、
図8Cに示すように、圧力を取り去ったとしても、熱力学的に安定な相であることから、そのままβ相に留まっている。
【0037】
このことから酸化チタンは、例えば初期状態としてβ相にあるとき、電流が供給されてλ相に相転移してデータが書き込まれた後、さらにλ相に対して圧力を与えることで再びβ相に相転移してデータを消去することが可能となる。かくして、上述した酸化チタンは、メモリに用いることにより、圧力印加によるメモリの初期化、電流供給によるデータの書き込み、および圧力印加によるデータの消去といった3段階を実行し得る。
【0038】
なお、ここでは、酸化チタンのλ相からβ相への相転移する際の圧力数値は、アナターゼ型の酸化チタンを原材料として用いた場合の数値を示している。ルチル型の酸化チタンを用いた場合、λ相からβ相へ相転移させる際の圧力は、60[MPa]以上の圧力を与えることが望ましい。
【0039】
(1−3)光照射によるβ相からλ相への光誘起相転移(圧力印加状態でデータを書き込む手法に用いる光誘起相転移)
ところで、上述した実施の形態においては、β相からλ相への相転移を電流供給により行っている場合について述べているが、本発明のメモリに用いる酸化チタンは、β相にあるときに所定の光を照射することでβ相からλ相へと相転移することから、光照射によってもデータの書き込みを行うことができる。ここで、
図9Aの(i)は、圧力を与える前の酸化チタンの状態を示し、
図9Aの(ii)は、2.5[GPa]の圧力Pを与えた後の酸化チタンの状態を示し、
図9Aの(iii)は、波長532[nm]のパルスレーザ光(パルス幅6[ns]、光強度3.0[mJ μm
-2pulse
-1])hνを、書き込み光として照射した後の酸化チタンの状態を示す写真である。圧力を与える前、黒青色になっていた酸化チタンは、圧力を与えると茶系色となり、その後、書き込み光が照射されると、圧力を与える前と同じ黒青色になることが目視確認できた。
【0040】
そして、
図9Aの(ii)の茶系色のときから(i)の黒青色のときを引いた差分XRDパターンを調べたところ、
図9Bの(i)に示すように、結晶構造がβ相に変化していることが確認でき、一方、
図9Aの(iii)の黒青色のときから(ii)の茶系色のときを引いた差分XRDパターンを調べたところ、
図9Bの(ii)に示すように、結晶構造がλ相に変化していることが確認できた。これにより、圧力を与える前は、黒青色のλ相であり、圧力Pを与えた後は、茶系色のβ相となり、パルスレーザ光hνを照射した後は、圧力を与える前と同じ黒青色となりλ相になることが確認できた。なお、さらに圧力印加と、書き込み光照射とを繰り返し行ったところ、
図9Aの(i)〜(iii)と同様に酸化チタンの表面が変色し、λ相からβ相、β相からλ相、さらにはλ相からβ相への相転移を繰り返すことが確認できた。
【0041】
このような相転移について結晶学的に考察すると、
図9Cに示すように、圧力Pが与えられると、λ相からβ相への相転移では、Ti3-05の結合が壊れて、Ti3-04の結合ができ、次に、書き込み光が照射されると、β相からλ相への逆の相転移では、Ti3-04の結合が壊れて、Ti3-05の結合が再びできる。このように可逆的な相転移は、圧力や光照射のような外部刺激によるTi3の結合状態の変化によるものである。
【0042】
また、このような圧力印加と書き込み光照射とを交互に行うことで起こるλ相とβ相との間の可逆的相転移を熱力学的に解析し、まとめると、
図9Dの(i)に示すように、圧力を与える前、λ相は準安定な相であるが、圧力を与えると、
図9Dの(ii)に示すように、ギブスの自由エネルギーG、対、電荷非局在ユニットの割合xの曲線形状が変わり、λ相の局部的なエネルギー最小箇所が消える。
【0043】
酸化チタンに対する圧力をなくした後、パルスレーザ光が書き込み光として酸化チタンに照射されると、
図9Dの(iii)に示すように、エネルギー障壁を越えてβ相からλ相への逆相転移を誘起する。なお、λ相の光学吸収は金属吸収であることから、書き込み光として、紫外光から赤外光(355[nm]〜1064[nm]のレーザ光)がこの金属−半導体転移に有効であることが分かる。また、
図6Bに示したように、460[K]以下において、β相の酸化チタンを、パルスレーザ光を用いてλ相の酸化チタンへと相転移させるには、例えば532[nm]、6[ns]のパルスレーザ光を用いた場合、パルスレーザ光の光強度を、3×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以上7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以下とすることが必要である。
【0044】
また、この酸化チタンは、例えば初期状態として圧力が与えられてβ相になり、そのまま当該圧力が与えられた状態で、書き込み光が照射されると、βからλ相へと相転移してデータを書き込むことが可能である。そして、この酸化チタンは、圧力が与えられた状態のままλ相に相転移した後に、さらに別の圧力が新たに与えられることで、λ相からβ相に再び相転移し得、データを消去することできる。かくして、上述した酸化チタンは、圧力印加によるメモリの初期化、圧力印加状態のままでの電流供給や光照射によるデータの書き込み、および新たな圧力印加によるデータの消去といった3段階を実行し得る。
【0045】
(2)本発明のメモリに用いる酸化チタンの製造方法
次に、上述した酸化チタンの製造方法の一例について以下説明する。この場合、ナノサイズのTi0
2粒子からなる粉末体を所定量用意する。ここで、例えば、粉末体を構成するTi0
2粒子としては、粒子径が約7[nm]程度のアナターゼ型Ti0
2粒子が用いられ、これらTi0
2粒子を約3〜9[g]用意する。因みに、この際、ルチル型Ti0
2粒子を用いても良い。
【0046】
次いで、これらTi0
2粒子からなる粉末体を水素雰囲気下(0.3〜1.0[L/min])において約1200[℃]で1〜5時間の間、焼成処理する。これにより、Ti0
2粒子の還元反応によって、Ti
3+を含んだ酸化物(Ti
30
5)の組成でなる粉末状の酸化チタンが生成され得る。得られる酸化チタンは、一次粒径の直径が約25nm程度の寸法のナノ粒子が焼結した、二次粒径のサイズが約2〜3μm程度の粉末である。こうした構造は、SEMおよびTEMにより確認することができる。
【0047】
因みに、この際、水素雰囲気が0.1[L/min]以上、焼成時の温度が1100[℃]〜1400[℃]、焼成時間が1時間以上であれば、生成された粉末内に、λ相の酸化チタンを約50[%]以上含ませることができる。
【0048】
ここで、例えば、粒子径が約500[nm]程度のルチル型Ti0
2粒子を用いた場合には、一次粒径が約200[nm]×30[nm]程度の寸法のストライプタイプのナノ粒子が焼結した、二次粒径のサイズが約4×1[μm]程度の粉末形状の酸化チタンが得られる。こうした構造は、SEMおよびTEMにより確認することができる。ルチル型Ti0
2粒子を原材料とした酸化チタンは、60[MPa]の圧力でλ相からβ相へ相転移することが確認された。アナターゼ型の酸化チタンを原材料とした酸化チタンに対して、ルチル型の酸化チタンを原材料とした酸化チタンの一次粒子の形状はストライプタイプである。こうした形状の違いに起因して界面への応力のかかり方が異なることが、特性の向上を引き起こした原因の一つとして推測される。
【0049】
なお、上述した酸化チタンは、例えばゾルゲル法および焼結処理によっても生成できる。この場合、塩化チタン水溶液とアンモニア水溶液を混合して作製したゾル状の混合溶液に、シラン化合物の溶液を適宜添加することにより、ゲル状になった混合溶液を生成する。このゲル状の混合溶液内には、水酸化チタン化合物粒子の表面がシリカで被覆されたシリカ被覆水酸化チタン化合物粒子が作製され得る。次いで、これらシリカ被覆水酸化チタン化合物粒子を混合溶液から分離した後、洗浄、乾燥、焼成することにより、シリカ内に酸化チタンを生成し得る。因みに、この際、酸化チタンを被覆しているシリカを水酸化テトラメチルアンモニウム等のアルカリ溶液等により除去し、シリカを除去した酸化チタンとしてもよい。
【0050】
最後に、このようにして生成した酸化チタン(シリカにより被覆された酸化チタンも含む)を、例えばPVA溶液等に分散させて分散液を生成した後、板状の電極基板の表面や、同じく板状の圧電素子の表面に、分散液をスピンコート法により層状に固化させることでメモリ素子を形成し得る。次に、このようにして生成した酸化チタンをメモリ素子として用いたメモリ装置や、揮発性記録媒体について順番に説明する。
【0051】
(3)第1の実施の形態によるメモリ装置
(3−1)メモリ装置の構成
図10において、1は本発明のメモリ装置を示し、複数のビット線BLa,BLbと複数のワード線WLa,WLbとの各交差位置に、例えばメモリセル2a,2b,2c,2dが配置された構成を有しており、各メモリセル2a,2b,2c,2dにそれぞれ1bitの情報を記憶し得るように構成されている。メモリ装置1は、これらメモリセル2a,2b,2c,2dのうち、一方向(この場合、列方向)に並ぶメモリセル2a,2b(2c,2d)で1本のビット線BLa(BLb)を共有しており、ビット線電圧印加回路(図示せず)によって各ビット線BLa,BLb毎にそれぞれ所定の電圧を印加し得る。また、メモリ装置1は、一方向と交差する他方向(この場合、行方向)に配置されたメモリセル2a,2c(2b,2d)で1本のワード線WLa(WLb)を共有しており、ワード線電圧印加回路(図示せず)によって各ワード線WLa,WLb毎にぞれぞれ所定の電圧を印加し得る。
【0052】
さらに、この実施の形態の場合、メモリ装置1では、一方向(列方向)に並ぶメモリセル2a,2b(2c,2d)で1本のソース線SLa(SLb)を共有している。なお、この実施の形態においては、列方向に並ぶメモリセル2a,2b(2c,2d)で1本のソース線SLa(SLb)を共有する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、1本のソース線を全てのメモリセル2a,2b,2c,2dで共有するようにしてもよい。
【0053】
ここで、これらメモリセル2a,2b,2c,2dは全て同一構成を有していることから、1行1列目のメモリセル2aに着目して以下説明する。この場合、メモリセル2aは、選択トランジスタ3とメモリ4とで構成されており、選択トランジスタ3がオン動作することによりビット線BLaの電圧が当該選択トランジスタ3を介してメモリ4に印加され得る。
【0054】
選択トランジスタ3は、例えばMOS(Metal-Oxide-Semiconductor)トランジスタ構成でなり、ゲートにワード線WLaが接続され、ドレインにビット線BLaが接続され、ソースにメモリ4が接続されている。選択トランジスタ3は、ワード線WLaの電圧と、ビット線BLaの電圧との差によりオンオフし得、オン動作することによりビット線BLaからの電圧をメモリ4に印加し得る。これによりメモリセル2aには、ビット線BLaの電圧に基づいた電流が、選択トランジスタ3からメモリ4を介してソース線SLaに流れ得る。
【0055】
一方、選択トランジスタ3がオフ動作した場合、メモリセル2aは、ビット線BLaからの電圧を当該選択トランジスタ3で遮断し、メモリ4に電流が流れることを防止し得る。このようなメモリ装置1は、ワード線WLa,WLbとビット線BLa,BLbの電圧を調整することにより、行列状に配置された複数のメモリセル2a,2b,2c,2dのうち、例えば所望のメモリセル2aのメモリ4にだけ所定の電流を流し得る。
【0056】
(3−2)メモリ素子の構成
メモリセル2a,2b,2c,2dに設けられた各メモリ4は、
図11に示すように、電極基板5上に板状のメモリ素子6が積層形成されており、当該メモリ素子6上にフィルム状の透明電極7が貼着された構成を有する。メモリ4は、選択トランジスタ3(
図10)から透明電極7に電圧が印加されることで、当該電圧に基づいた電流が透明電極7、メモリ素子6および電極基板5に流れ得る。
【0057】
ここで、本発明は、Ti
30
5の組成を有し、所定の電流(0.2〜0.4[A・mm
-2])によりβ相からλ相へと相転移して抵抗値が変化する上述した酸化チタンによってメモリ素子6が形成されている。メモリ素子6を形成する酸化チタンは、
図3に示したように、460[K]以下において、Ti
30
5が常磁性金属の状態を保った単斜晶系の結晶相(λ相、或いはλ‐Ti
30
5)となり、460[K]以下において、所定波長でなり所定の光強度(7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]を超えた値)の光がλ相に照射されることにより非磁性半導体のβ相に相転移し、さらに460[K]以下において、β相に0.2〜0.4[A・mm
-2]の電流が流れることにより再びλ相に相転移し得る。
【0058】
この実施の形態の場合、メモリ4は、光照射によるメモリ素子6のλ相からβ相への相転移と、電流供給によるメモリ素子6のβ相からλ相への相転移とを利用して、データの初期化と、データの書き込みと、データの消去とが行い得るようになされている。
【0059】
そして、メモリ4は、メモリ素子6が非磁性半導体のβ相になっているときと、常磁性金属状態のλ相になっているときとで抵抗値が異なったものとなっていることから、選択トランジスタ3からメモリ素子6に所定の電圧が印加され、当該電圧に基づいてメモリ素子6に流れる読み出し電流から当該メモリ素子6の抵抗値を測定し、メモリ素子6にデータが書き込まれているか否かを判断し得る。以下、メモリ装置1におけるデータの初期化動作、データの書き込み動作、およびデータの消去動作について順に説明する。
【0060】
(3−3)データの初期化動作
この場合、本発明のメモリ装置1は、データを書き込む前準備として、当該メモリ装置1のメモリセル2a,2b,2c,2d全体又はその一部を初期化する。ここでは、例えば、メモリ装置1の初期化光源(図示せず)からの初期化光(紫外光から赤外光(355[nm]〜1064[nm])で、かつ光強度が7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]を超えた光)を、各メモリ4のメモリ素子6に対して透明電極7側から一律に照射し、各メモリ素子6の初期化を一括して行う。これにより、メモリ装置1では、初期化光が照射された全てのメモリ4において、メモリ素子6がβ相となり抵抗値が一様になる。
【0061】
また、このようなデータの初期化はメモリセル2a,2b,2c,2dに対して個別に行うこともできる。このようなメモリセル2a,2b,2c,2dに対する選択的な初期化を行う場合には、先ず始めに、例えば、後述する「(3−5)データの読み出し動作」に従って、メモリセル2a,2b,2c,2dにおける各メモリ素子6の抵抗値を測定し、例えばメモリ素子6がλ相となっているメモリセル2a等を特定する。その後、メモリ装置1は、初期化光源(図示せず)からの初期化光(紫外光から赤外光(355[nm]〜1064[nm])で、かつ光強度が7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]を超えた光)を、特定したメモリセル2a等におけるλ相の酸化チタンでなるメモリ素子6に対し、透明電極7側から照射することにより、メモリセル2a等だけ初期化を行う。
【0062】
このようにして、メモリ装置1では、初期化光の一括照射や、初期化光の選択的な照射を利用して、全てのメモリ4のメモリ素子6をβ相として抵抗値を一様にさせる。この場合、メモリ装置1は、例えばメモリ素子6がβ相の抵抗値にあるときと、符号「0」又は「1」とを対応付ける。これにより、この段階ではメモリ装置1のいずれのメモリ4においても一様の符号「0」(又は符号「1」)となるため、データが一切書き込まれていないことになる。
【0063】
(3−4)データの書き込み動作
メモリ装置1において、例えばメモリセル2aにだけデータを書き込む際には、ビット線BLa,BLbおよびワード線WLa,WLbの電圧を調整することによりメモリセル2aの選択トランジスタ3のみをオン動作させる。例えば、データを書き込むメモリセル2aが接続されたビット線BLaおよびワード線WLaにはHigh電圧を印加し、一方、データを書き込まないメモリセル2b,2c,3dだけが接続されたビット線BLbおよびワード線WLbにはLow電圧を印加する。
【0064】
これによりメモリ装置1は、メモリセル2aにおける選択トランジスタ3がオン動作し、メモリセル2aを介してビット線BLaおよびソース線SLaが電気的に接続され、ビット線BLaに印加した電圧に基づいて、メモリセル2aのメモリ4に、0.2〜0.4[A・mm
-2]の書き込み電流が流れ得る。かくして、メモリセル2aのメモリ4には、0.2〜0.4[A・mm
-2]の書き込み電流がメモリ素子6に流れることで、当該メモリ素子6の酸化チタンがβ相からλ相へと相転移する。このようにして、メモリセル2aは、メモリ素子6の酸化チタンがβ相からλ相に相転移することで抵抗値が変化し、データが書き込まれた状態となり得る。
【0065】
なお、この際、データが書き込まれるメモリセル2aとワード線WLaを共有する、データを書き込まないメモリセル2cでは、選択トランジスタ3がオン動作するものの、ビット線BLbにLow電圧が印加されていることから、メモリ4に0.2〜0.4[A・mm
-2]の書き込み電流が流れることがなく、データの書き込みが禁止され得る。また、Low電圧が印加されるワード線WLbに接続され、データを書き込まないメモリセル2b,2dでは、いずれも選択トランジスタ3がオフ動作し、メモリ4に電流が流れることがなく、データの書き込みが禁止され得る。
【0066】
(3−5)データの読み出し動作
メモリ装置1において、例えばメモリセル2aのデータを読み出す際には、ビット線BLa,BLbおよびワード線WLa,WLbの電圧を調整することによりメモリセル2aの選択トランジスタ3のみをオン動作させる。これにより、メモリセル2aでは、選択トランジスタ3およびメモリ4を介して、ビット線BLaおよびソース線SLaが電気的に接続し、ビット線BLaおよびソース線SLa間に読み出し電流が流れる。ここで、読み出し電流は、データの書き込み動作時に発生する書き込み電流とは異なる0.01〜0.15[A・mm
-2]に選定されている。これにより、メモリセル2aのメモリ4は、データが書き込まれておらずメモリ素子6の酸化チタンがβ相となっている場合でも、読み出し電流によって当該メモリ素子6の酸化チタンがλ相へと相転移することなく、メモリ素子6における酸化チタンの結晶状態をそのまま維持し得る。
【0067】
このとき、ビット線BLaおよびソース線SLa間のメモリセル2aのメモリ4を流れる読み出し電流は、メモリ4におけるメモリ素子6の酸化チタンがβ相かλ相かで相違する抵抗値に応じて、電流値が変化する。従って、メモリ装置1は、メモリセル2aのメモリ4に流れる読み出し電流を、ビット線BLaまたはソース線SLaを介して測定し、当該読み出し電流の電流値に基づいてメモリセル2aのメモリ4にデータが書き込まれているか否かを判断することができる。
【0068】
(3−6)データの消去動作
ここでは、例えば、メモリ装置1の初期化光源(図示せず)からの初期化光(紫外光から赤外光(355[nm]〜1064[nm])で、かつ光強度が7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]を超えた光)を、消去用の光LTとして各メモリセル2a,2b,2c,2dに対し一律に照射する。これにより、各メモリセル2a,2b,2c,2dは、それぞれメモリ素子6の酸化チタンがλ相またはβ相のいずれにあっても、一括してβ相に光誘起相転移する。かくして、メモリ装置1では、消去用の光LTが照射された全てのメモリ4において、メモリ素子6がβ相となり抵抗値が一様になり、データが消去された状態となり得る。
【0069】
また、このようなデータの消去動作はメモリセル2a,2b,2c,2dに対して個別に行うこともできる。このようなメモリセル2a,2b,2c,2dに対するデータの消去を選択的に行う場合には、先ず始めに、例えば、上述した「(3−5)データの読み出し動作」に従って、メモリセル2a,2b,2c,2dにおける各メモリ素子6の抵抗値を測定し、メモリ素子6がλ相となっているメモリセル2a等を特定する。そして、メモリ装置1は、初期化光源(図示せず)からの初期化光(紫外光から赤外光(355[nm]〜1064[nm])で、かつ光強度が7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]を超えた光)を、消去用の光LTとして、特定したメモリセル2a等におけるλ相のメモリ素子6に照射する。これにより、メモリセル2aは、メモリ素子6の酸化チタンがλ相からβ相に光誘起相転移する。かくして、メモリ装置1は、特定したメモリセル2a等にだけ消去用の光LTを照射することにより、当該メモリセル2a等のメモリ素子6をλ相からβ相の酸化チタンに相転移させ、メモリセル2a等におけるメモリ素子6をβ相の抵抗値とし、メモリセル2a等のデータを選択的に消去し得る。
【0070】
(3−7)作用および効果
以上の構成において、メモリ装置1は、Ti
30
5の組成でなり、かつ460[K]以下で0.2〜0.4[A・mm
-2]の書き込み電流が供給されると、非磁性半導体のβ相から、当該β相とは抵抗値が異なる常磁性金属状態のλ相に相転移する酸化チタンにより、各メモリセル2a,2b,2c,2dのメモリ素子6を形成するようにした。これによりメモリ装置1では、例えばメモリセル2aにデータを書き込む際、当該メモリセル2aにのみ書き込み電流を流すことにより、当該メモリセル2aのメモリ素子6をβ相の酸化チタンからλ相の酸化チタンに相転移させ、メモリ素子6の抵抗値を変えることでデータを書き込むことができる。
【0071】
また、メモリ装置1では、例えばメモリセル2aのデータを読み出す際、0.01〜0.15[A・mm
-2]の読み出し電流をメモリセル2aのメモリ4に流すことで、当該メモリ4のメモリ素子6が仮にβ相であってもλ相に相転移させずに、メモリ素子6の酸化チタンの結晶状態を維持させたまま、読み出し電流を流すことができる。これにより、メモリ装置1では、メモリセル2aを流れた読み出し電流からメモリ素子6の抵抗値を計測することにより、当該メモリセル2aのメモリ素子6がβ相であるかλ相であるかの結晶状態を特定でき、メモリセル2aにデータが書き込まれているか否かを判断できる。
【0072】
さらに、このメモリ装置1では、紫外光から赤外光(355[nm]〜1064[nm])で、かつ光強度が7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]を超えた光を消去用の光として、例えばメモリ素子6がλ相の酸化チタンでなるメモリセル2a等に照射することにより、当該メモリセル2a等のメモリ素子6の酸化チタンをλ相からβ相に相転移させることができるので、消去用の光を一律または選択的に照射することにより、メモリセル2a,2b,2c,2dの各メモリ素子6を全てβ相に揃え、メモリセル2a,2b,2c,2dのデータを消去できる。なお、消去用の光を選択的に照射する場合には、例えば、当該光を照射したメモリセル2aだけデータを消去し、残りの他のメモリセル2b,2c,2dでデータを保持させた状態にもできる。
【0073】
(4)第2の実施の形態によるメモリ装置
(4−1)メモリ装置の構成
図10との対応部分に同一符号を付して示す
図12において、11は本発明のメモリ装置を示し、上述した第1の実施の形態とは、メモリセル12a,12b,12c,12dのメモリ14の構成が異なっており、メモリ14に設けた圧電素子16によりデータを消去し得るようになされている。この場合、メモリ装置11は、例えばメモリセル12a,12b,12c,12dが行列状に配置されており、一方向(この場合、列方向)に並ぶメモリセル12a,12b(12c,12d)で1本のビット線BLa(BLb)を共有し、ビット線電圧印加回路(図示せず)によって各ビット線BLa,BLb毎にそれぞれ所定の電圧を印加し得る。
【0074】
また、メモリ装置11は、一方向と交差する他方向(この場合、行方向)に配置されたメモリセル12a,12c(12b,12d)で、1本のワード線WLa(WLb)と1本のソース線SLa(SLb)とを共有しており、ワード線電圧印加回路(図示せず)によって各ワード線WLa,WLb毎にそれぞれ所定の電圧を印加し得る。なお、この実施の形態においても、列方向に並ぶメモリセル12a,12b(12c,12d)で1本のソース線SLa(SLb)を共有する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、1本のソース線を全てのメモリセル12a,12b,12c,12dで共有するようにしてもよい。
【0075】
かかる構成に加えて、このメモリ装置11は、一方向(列方向)に並ぶメモリセル12a,12b(12c,12d)で1本の圧電素子制御線PL1a(PL1b)を共有しており、圧電素子制御線PL1a(PL1b)からメモリセル12a,12b(12c,12d)の各圧電素子16に所定の電圧が印加され得る。これにより、メモリ装置11は、圧電素子制御線PL1a,PL1bからの電圧により、メモリセル12a,12b,12c,12dの各圧電素子16を変形させ、当該圧力素子16上に設けたメモリ素子6に圧力を与え得るようになされている。
【0076】
なお、この実施の形態においては、列方向に並ぶメモリセル12a,12b(12c,12d)で1本の圧電素子制御線PL1a(PL1b)を共有する場合について述べたが、本発明はこれに限らず、1本の圧電素子制御線を全てのメモリセル12a,12b,12c,12dで共有するようにしてもよい。
【0077】
ここで、これらメモリセル12a,12b,12c,12dは全て同一構成を有していることから、1行1列目のメモリセル12aに着目して以下説明する。この場合、メモリセル12aは、選択トランジスタ3とメモリ14とで構成されており、選択トランジスタ3がオン動作することによりビット線BLaの電圧が当該選択トランジスタ3を介してメモリ14に印加され得る。
【0078】
選択トランジスタ3は、ワード線WLaの電圧と、ビット線BLaの電圧との差によりオン動作することにより、ビット線BLaからの電圧をメモリ14のメモリ素子6に印加し得る。これによりメモリセル12aには、ビット線BLaの電圧に基づいた電流が、選択トランジスタ3からメモリ4を介してソース線SLaに流れ得る。
【0079】
一方、選択トランジスタ3は、オフ動作することにより、ビット線BLaからメモリ素子6への電圧印加を遮断し、メモリ4に電流が流れることを防止し得る。メモリ装置11は、ワード線WLa,WLbとビット線BLa,BLbとの電圧を調整することにより、行列状に配置された複数のメモリセル12a,12b,12c,12dのうち、例えば所望のメモリセル12aのメモリ4にだけ所定の電流を流し得る。
【0080】
(4−2)メモリ素子の構成
図11との対応部分に同一符号を付して示す
図13のように、メモリセル2a,2b,2c,2dに設けられた各メモリ14は、板状の圧電素子16上に、同じく板状のメモリ素子6が積層形成されている。メモリ素子6は、上述したように、Ti
30
5の組成を有し、所定の電流(0.2〜0.4[[A・mm
-2])によりβ相からλ相へと相転移して抵抗値が変化する酸化チタンによって形成されている。この場合、メモリ素子6には、平面状の一面が圧電素子16の設置面に密着するように形成されており、対向する側面に、対となる電極15a,15bが設けられている。また、メモリ素子6には、一方の電極15aに選択トランジスタ3のソースが接続され、他方の電極15bにソース線SLaが接続されており、一方の電極15aから他方の電極15bに向けて所定の電流が流れ得る。
【0081】
メモリ素子6が設けられる圧電素子16は、例えばPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)等により平板状に形成されており、電圧が印加されることにより伸縮等して形状が変形し得るようになされている。この実施の形態の場合、圧電素子16は、例えば1[V/μm]以上の電圧が印加されることで変形し、当該変形によってメモリ素子6に圧力を与え、当該メモリ素子6の酸化チタンをλ相からβ相に相転移させ得るようにされている。
【0082】
かくして、この実施の形態の場合、メモリ14は、圧力印加によるメモリ素子6のλ相からβ相への相転移と、電流供給によるメモリ素子6のβ相からλ相への相転移とを利用して、データの初期化と、データの書き込みと、データの消去とが行い得るようになされている。なお、メモリ14に対するデータの書き込み手法については、上述した「(3−4)データの書き込み動作」と同じであり、またメモリ14に対するデータの読み出し手法についても、上述した「(3−5)データの読み出し動作」と同じであるため、ここでは、上述した第1の実施の形態とは異なる、データの初期化動作と、データの消去動作とについて以下順番に説明する。
【0083】
(4−3)データの初期化動作
この場合、本発明のメモリ装置11は、データを書き込む前準備として、当該メモリ装置11のメモリセル12a,12b,12c,12d全体又はその一部を初期化する。ここでは、例えば、メモリ装置11の圧電素子制御線PL1a,PL1bからメモリセル12a,12b,12c,12dの各圧電素子16に所定の電圧を印加して各圧電素子16を変形させる。これにより、メモリセル12a,12b,12c,12dは、圧電素子16の変形によって所定の圧力がメモリ素子6に与えられ、各メモリ素子6の初期化を行う。その後、メモリ装置11は、圧電素子制御線PL1a,PL1bへの電圧印加を停止し、各圧電素子16を元の状態へと戻し、データの書き込み動作へと移行する。
【0084】
この際、メモリ装置11では、全てのメモリ14において、圧電素子16の変形により与えられた圧力によってメモリ素子6がβ相となり抵抗値が一様になる。この場合、メモリ装置11は、例えばメモリ素子6がβ相の抵抗値にあるときと、符号「0」又は「1」とを対応付ける。これにより、この段階ではメモリ装置11のいずれのメモリ14においても一様の符号「0」(又は符号「1」)となるため、データが一切書き込まれていないことになる。
【0085】
(4−4)データの消去動作
この場合、メモリ装置11では、上述した「(4−3)データの初期化動作」と同様に、圧電素子制御線PL1a,PL1bからメモリセル12a,12b,12c,12dの各圧電素子16に所定の電圧を印加する。これにより、各メモリセル12a,12b,12c,12dは、それぞれメモリ素子6の酸化チタンがλ相またはβ相のいずれかにあっても、圧電素子16による変形によって与えられる圧力によりメモリ素子6をβ相に相転移させることができる。かくして、メモリ装置11では、圧電素子16からメモリ素子6への圧力印加によって全てのメモリ14において、メモリ素子6がβ相となり抵抗値が一様になり、データが消去された状態となり得る。
【0086】
因みに、この実施の形態の場合、このようなデータの消去は、圧電素子制御線PL1a,PL1bにデータ消去用の電圧を一律に印加することで、メモリセル12a,12b,12c,12dに書き込まれている各データを一括で消去させることができる。また、例えば圧電素子制御線PL1aにのみデータ消去用の電圧を印加すれば、当該圧電素子制御線PL1aに沿って設けられたメモリセル2a,2bのデータだけを消去させることもできる。
【0087】
(4−5)作用および効果
以上の構成において、メモリ装置11は、Ti
30
5の組成でなり、かつ460[K]以下で0.2〜0.4[A・mm
-2]の書き込み電流が供給されると、非磁性半導体のβ相から、当該β相とは抵抗値が異なる常磁性金属状態のλ相に相転移する酸化チタンにより、各メモリセル12a,12b,12c,12dのメモリ素子6を形成するようにした。これにより、メモリ装置11では、例えばメモリセル12aにデータを書き込む際、当該メモリセル12aにのみ書き込み電流を流すことにより、当該メモリセル12aのメモリ素子6をβ相の酸化チタンからλ相の酸化チタンに相転移させ、メモリ素子6の抵抗値を変えることでデータを書き込むことができる。
【0088】
また、メモリ装置11では、例えばメモリセル12aのデータを読み出す際、0.01〜0.15[A・mm
-2]の読み出し電流をメモリセル12aに流すことで、当該メモリセル12aのメモリ素子6が仮にβ相であってもλ相に相転移させずに、メモリ素子6の酸化チタンの結晶状態を維持させたまま、読み出し電流を流すことができる。これにより、メモリ装置11では、メモリセル12aを流れた読み出し電流からメモリ素子6の抵抗値を測定することにより、当該メモリセル12aのメモリ素子6がβ相であるかλ相であるかの結晶状態を特定でき、メモリセル12aにデータが書き込まれているか否かを判断できる。
【0089】
さらに、このメモリ装置11では、圧電素子16に所定の電圧を印加することにより圧電素子16を変形させ、当該圧電素子16の変形によりメモリ素子6に圧力を与えるようにしたことにより、メモリセル12a,12b,12c,12dの各メモリ素子6の酸化チタンがλ相であってもβ相に相転移させ、メモリセル12a,12b,12c,12dの各メモリ素子6を全てβ相に揃えることができ、かくして、メモリセル12a,12b,12c,12dのデータを消去できる。
【0090】
(5)第3の実施の形態によるメモリ装置
上述した第2の実施の形態においては、圧電素子制御線PL1a,PL1bから各圧電素子16に所定の電圧を印加し、各メモリセル12a,12b,12c,12dに当該電圧を一律に印加させる場合について述べたが、本発明はこれに限らず、
図14に示すように、圧電素子16に対して選択的に電圧を印加する圧電素子側選択トランジスタ23を設けたメモリセル22を適用してもよい。この場合、メモリ装置は、
図14に示すようなメモリセル22が行列状に配置された構成となり、例えば一方向(列方向)に並ぶ複数のメモリセル22で圧電素子制御ビット線PBLaおよび圧電素子制御ソース線PSLaを共有し、一方向と交差する他方向(この場合、行方向)に配置された複数のメモリセル22でワード線WLaを共有し得る。
【0091】
また、メモリセル22は、圧電素子側選択トランジスタ23と、選択トランジスタ3とでワード線WLaを共有している。圧電素子側選択トランジスタ23は、例えばMOSトランジスタ構成でなり、ゲートにワード線WLaが接続され、ドレインに圧電素子制御ビット線PBLaが接続され、ソースに圧電素子16が接続されている。なお、圧電素子16には、圧電素子側選択トランジスタ23のソースが接続されている他、圧電素子制御ソース線PSLaも接続されている。
【0092】
圧電素子側選択トランジスタ23は、ワード線WLaの電圧と、圧電素子制御ビット線PBLaの電圧との差によりオンオフし得、オン動作することにより圧電素子制御ビット線PBLaからの電圧を圧電素子16に印加し得る。これにより圧電素子16は、圧電素子制御ビット線PBLaからの電圧に基づいて変形し、メモリ素子6に圧力を与えることで、当該メモリ素子6の酸化チタンをλ相からβ相に相転移させ得る。一方、圧電素子側選択トランジスタ23がオフ動作した場合、メモリセル22は、圧電素子制御ビット線PBLaからの電圧を圧電素子側選択トランジスタ23で遮断し、圧電素子16が変形することなくメモリ素子6への圧力印加を防止し得る。
【0093】
このようなメモリセル22が行列状に配置されたメモリ装置では、データを消去する際、複数のワード線の電圧と、複数の圧電素子制御ビット線の電圧とを調整することにより、行列状に配置された複数のメモリセル22のうち、例えば所望のメモリセル22の圧電素子16にだけ電圧を印加してメモリ素子6に圧力を与え、ある特定のメモリセル22だけメモリ素子6の酸化チタンをβ相に相転移させ、データを消去させることができる。
【0094】
(6)第4の実施の形態によるメモリ装置
次に、
図12に示したメモリ装置11において、他の実施の形態によるデータの書き込み手法について説明する。ここでは、メモリ装置11に対する電源がオフにされると、各メモリセル12a,12b,12c,12dのデータが自動的に消去される揮発性のメモリ14を実現している。以下、データの初期化動作、データの書き込み動作、データの読み出し動作、およびデータの消去の順に説明する。
【0095】
(6−1)データの初期化動作
この場合、メモリ装置11では、データを書き込む前準備として、当該メモリ装置11のメモリセル12a,12b,12c,12d全体又はその一部を初期化するが、ここでは、例えば、メモリ装置11の圧電素子制御線PL1a,PL1bからメモリセル12a,12b,12c,12dの各圧電素子16に電圧を印加し続け、圧電素子16を変形させた状態を維持させる。これにより、メモリセル12a,12b,12c,12dは、圧電素子16の変形によって所定の圧力がメモリ素子6に与えられた状態が続き、各メモリ素子6の初期化が行われる。
【0096】
この際、メモリ装置11では、全てのメモリ14において、圧電素子16の変形により与えられる一定の圧力によってメモリ素子6がβ相となり抵抗値が一様になる。そして、メモリ装置11は、例えばメモリ素子6がβ相の抵抗値にあるときと、符号「0」又は「1」とを対応付ける。これにより、この段階ではメモリ装置11のいずれのメモリ14においても一様の符号「0」(又は符号「1」)となるため、データが一切書き込まれていないことになる。
【0097】
(6−2)データの書き込み動作
メモリ装置11において、例えばメモリセル12aにだけデータを書き込む際には、ビット線BLa,BLbおよびワード線WLa,WLbの電圧を調整することによりメモリセル12aの選択トランジスタ3のみをオン動作させる。例えば、データを書き込む選択メモリセルとなるメモリセル12aが接続されたビット線BLaおよびワード線WLaにはHigh電圧を印加し、一方、データを書き込まないメモリセル12b,12c,12dだけが接続されたビット線BLbおよびワード線WLbにはLow電圧を印加する。
【0098】
これによりメモリ装置11は、メモリセル12aにおける選択トランジスタ3がオン動作し、メモリセル12aを介してビット線BLaおよびソース線SLaが電気的に接続し、ビット線BLaに印加した電圧に基づいて、メモリセル12aのメモリ14に、0.2〜0.4[A・mm
-2]の書き込み電流が流れ得る。この際、メモリセル12aのメモリ14には、圧電素子16によってメモリ素子6に一定の圧力が与えられた状態が続いているものの、0.2〜0.4[A・mm
-2]の書き込み電流がメモリ素子6に流れることで、当該メモリ素子6の酸化チタンがβ相からλ相へと相転移する。このようにして、メモリセル2aは、圧電素子16からメモリ素子6に一定の圧力が印加された状態のまま、当該メモリ素子6の酸化チタンがβ相からλ相に相転移して抵抗値が変化し、データが書き込まれた状態となり得る。
【0099】
(6−3)データの読み出し動作
メモリ装置11において、例えばメモリセル12aのデータを読み出す際には、ビット線BLa,BLbおよびワード線WLa,WLbの電圧を調整することによりメモリセル12aの選択トランジスタ3のみをオン動作させ、メモリセル12aを介して、ビット線BLaおよびソース線SLaを電気的に接続させて、ビット線BLaからメモリセル12aを介してソース線SLaに、0.01〜0.15[A・mm
-2]の読み出し電流を流す。なお、この際、メモリセル12aのメモリ14には、圧電素子16によってメモリ素子6に一定の圧力が与えられた状態が続いている。
【0100】
ここで、この実施の形態の場合でも、メモリセル12aのメモリ14は、読み出し電流が0.01〜0.15[A・mm
-2]に選定されていることから、例えばデータが書き込まれておらずメモリ素子6の酸化チタンがβ相となっている場合でも、読み出し電流によって当該メモリ素子6の酸化チタンがλ相へと相転移することなく、メモリ素子6における酸化チタンの結晶状態を維持し得る。
【0101】
このとき、ビット線BLaおよびソース線SLa間のメモリセル12aのメモリ14を流れる読み出し電流は、メモリ14におけるメモリ素子6の酸化チタンがβ相かλ相かで相違する抵抗値に応じて、電流値が変化する。従って、メモリ装置11は、圧電素子16によってメモリ素子6に圧力が与えられた状態のまま、メモリセル12aに流れる読み出し電流を、ソース線SLaを介して測定し、当該読み出し電流の電流値に基づいてメモリセル12aのメモリ14にデータが書き込まれているか否かを判断できる。
【0102】
(6−4)データの消去動作
この場合、メモリ装置11では、電源がオフにされると、圧電素子制御線PL1a,PL1bに印加されている電圧印加が停止し、これに応じてメモリセル12a,12b,12c,12dの各圧電素子16への電圧印加も停止する。これにより、メモリセル12a,12b,12c,12dの各圧電素子16は、電圧が印加されていないときの元の状態へと変形し、設置面に設けられたメモリ素子6に対して変形による圧力を与える。
【0103】
その結果、メモリセル12a,12b,12c,12dでは、メモリ素子6の酸化チタンがλ相またはβ相のいずれにあっても、圧電素子16が元の形状へと変形することによって与えられる圧力によりメモリ素子6をβ相に相転移させることができる。かくして、メモリ装置11では、電源がオフにされると、圧電素子16からメモリ素子6へ圧力が自動的に印加され、全てのメモリ14でメモリ素子6がβ相となり抵抗値が一様になって、データが消去された状態となり得る。
【0104】
因みに、メモリ装置11は、その後、電源がオンにされると、再び、圧電素子制御線PL1a,PL1bから全メモリセル12a,12b,12c,12dの圧電素子16に電圧が印加され、当該圧電素子16によってメモリ素子6に圧力が与えられた状態となり、各メモリ14にデータを書き込める状態となり得る。
【0105】
(6−5)作用および効果
以上の構成において、メモリ装置11は、Ti
30
5の組成でなり、かつ460[K]以下で圧力が印加されると、常磁性金属状態のλ相から非磁性半導体のβ相へ相転移し、さらに0.2〜0.4[A・mm
-2]の書き込み電流が供給されると、β相からλ相に相転移する酸化チタンにより、各メモリセル12a,12b,12c,12dのメモリ素子6を形成するようにした。
【0106】
このようなメモリ装置11では、データを書き込む際、メモリセル12a,12b,12c,12dの各圧電素子16に電圧を印加し、当該圧電素子16を変形させることによりメモリ素子6に一定の圧力を与え続けて、メモリ素子6の酸化チタンをβ相にさせる。そして、メモリ装置11では、例えばメモリセル12aにデータを書き込む際、当該メモリセル12aにのみ書き込み電流を流すことにより、当該メモリセル12aのメモリ素子6をβ相の酸化チタンからλ相の酸化チタンに相転移させ、メモリ素子6の抵抗値を変えることでデータを書き込むことができる。
【0107】
また、この実施の形態の場合、メモリ装置11は、電源がオフにされると、圧電素子制御線PL1a,PL1bからメモリセル12a,12b,12c,12dの各圧電素子16への電圧印加が停止し、当該圧電素子16が元の形状へと変形することによって与えられる圧力により各メモリ素子6をβ相に相転移させることができ、かくして、電源がオフにされる同時に自動的に全てのメモリ14のデータを消去させることができる。
【0108】
(7)第5の実施の形態によるメモリ装置
なお、上述した第4の実施の形態においては、データを書き込む際、メモリ14の圧電素子16によってメモリ素子6に圧力が与えられた状態で、当該メモリ素子6に0.2〜0.4[A・mm
-2]の書き込み電流を流し、メモリ素子6の酸化チタンをβ相からλ相へと相転移させてデータを書き込むようにした。
【0109】
しかしながら、本発明はこれに限らず、
図15に示すように、メモリ31の圧電素子16によってメモリ素子6に圧力が与えられた状態で、上述した「(1−3)光照射によるβ相からλ相への光誘起相転移(圧力印加状態でデータを書き込む手法に用いる光誘起相転移)」の原理を利用し、書き込み光LT1を照射することによってメモリ素子6の酸化チタンをβ相からλ相へと相転移させてデータを書き込むようにしてもよい。
【0110】
この場合、メモリ31では、圧電素子16からメモリ素子6に一定の圧力が印加された状態のまま、紫外光から赤外光(355[nm]〜1064[nm])で、かつ3×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以上7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以下の光強度でなる光が書き込み光LT1としてメモリ素子6に照射されることで、当該メモリ素子6の酸化チタンがβ相からλ相に相転移して抵抗値が変化し、データが書き込まれた状態となり得る。
【0111】
また、このメモリ31では、メモリ装置の電源がオフにされると、圧電素子16への電圧印加が停止し、当該圧電素子16が元の形状へと変形することによって与えられる圧力によりメモリ素子6をβ相の酸化チタンに相転移させることができ、かくして、電源がオフにされると同時に自動的にデータを消去させることができる。
【0112】
なお、この際、データの読み出し手法としては、上述した「(3−5)データの読み出し動作」に従って、メモリ31に流れる読み出し電流の電流値に基づいて当該メモリ31にデータが書き込まれているか否かを読み出すことができる。
【0113】
また、その他のデータの読み出し手法として、メモリ装置11は、所定の光強度でなる読出用の光をメモリ素子6に照射し、メモリ素子6から戻ってくる戻り光を、受光素子により検出し、酸化チタンの結晶構造の相違(データの書き込み有無)により生じる反射率の違いから、メモリ素子6にデータが書き込まれた否かを判断するようにしてもよい。
【0114】
なお、ここで用いる読出用の光は、例えば波長355[nm]〜1064[nm]であり、メモリ素子6に照射した際に、当該メモリ素子6の酸化チタンがλ相からβ相、β相からλ相に相転移されない程度の光強度を有している。因みに、このように読出用の光によりメモリ素子6にデータが書き込まれているか否かを判断する場合、メモリ素子6の側面に設けた電極15a,15bは不要となり、またメモリ装置11におけるビット線BLa,BLbやワード線WLa,WLbも不要となる。
【0115】
(8)揮発性記録媒体
次に、上述した「(1−3)光照射によるβ相からλ相への光誘起相転移(圧力印加状態でデータを書き込む手法に用いる光誘起相転移)」の原理を利用した揮発性記録媒体について説明する。この場合、揮発性記録媒体は、Ti
30
5の組成でなり、かつ460[K]以下で圧力が印加されると、常磁性金属状態のλ相から非磁性半導体のβ相へ相転移し、さらに光照射(光強度が3×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以上7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以下の光照射)によりβ相からλ相に相転移する酸化チタンにより形成されたメモリ素子を有する。揮発性記録媒体は、例えば板状でなる圧電素子上にメモリ素子が形成された構成を有し、圧電素子によってメモリ素子に圧力が与えられた状態で、上述した「(1−3)光照射によるβ相からλ相への光誘起相転移(圧力印加状態でデータを書き込む手法に用いる光誘起相転移)」の原理を利用し、光強度が3×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以上7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以下の光が書き込み光として照射されることによってメモリ素子の酸化チタンをβ相からλ相へと相転移させてデータが書き込まれる。
【0116】
因みに、この揮発性記録媒体の形状に特に制限はなく、例えばBD(Blu-ray Disc、登録商標)やDVD(Digital Versatile Disc、登録商標)等の一般的な光ディスクのように円盤状に形成し、中央部分にチャッキング用の孔を形成するようにしてもよい。このようなディスク状の揮発性記録媒体とした場合には、記録再生装置に当該揮発性記録媒体を設置したとき、揮発性記録媒体の圧電素子に記録再生装置の電極が接触し、記録再生装置から圧電素子に電圧が印加され得る。
【0117】
この揮発性記録媒体は、データを書き込む際、記録再生装置から圧電素子に所定の電圧が印加され続けることで、圧電素子からメモリ素子に一定の圧力が印加され続け、この状態のまま紫外光から赤外光(355[nm]〜1064[nm])で、光強度が3×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以上7×10
-6[mJ μm
-2 pulse
-1]以下の光が書き込み光としてメモリ素子に照射される。これにより、揮発性記録媒体では、光照射によってメモリ素子の酸化チタンがβ相からλ相に相転移して、データが書き込まれた状態となり得る。
【0118】
なお、この際、データの読み出し手法としては、例えば所定の光強度でなる読出用の光をメモリ素子に照射し、当該メモリ素子から戻ってくる戻り光を、受光素子により検出し、酸化チタンの結晶構造の相違(データの書き込み有無)により生じる反射率の違いから、メモリ素子にデータが書き込まれた否かを判断し得る。
【0119】
また、この揮発性記録媒体では、記録再生装置の電源がオフにされると、圧電素子への電圧印加が停止し、当該圧電素子が元の形状へと変形することによって与えられる圧力によりメモリ素子をβ相の酸化チタンに相転移させることができ、かくして、電源がオフにされる同時に自動的にデータを消去させることができる。
【0120】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能であり、第1の実施の形態から第5の実施の形態や、揮発性記録媒体の各構成を適宜組み合わせても良い。