特許第6607446号(P6607446)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607446
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】誤差測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/28 20060101AFI20191111BHJP
【FI】
   G01R27/28 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-47935(P2016-47935)
(22)【出願日】2016年3月11日
(65)【公開番号】特開2017-161440(P2017-161440A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2018年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】山田 達司
【審査官】 小川 浩史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−155870(JP,A)
【文献】 特開2013−53855(JP,A)
【文献】 特開2008−292192(JP,A)
【文献】 J. J. Hill, T. A. Deacon,“Voltage-Ratio Measurement with a Precision of Parts in 109 and Performance of Inductive Voltage Dividers”,IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement,1968年12月,Vol.17, No.4,pp.269-278,DOI: 10.1109/TIM.1968.4313718
【文献】 坂本憲彦、山田達司、中村安宏,「誘導分圧器標準の高周波化」,平成20年電気学会全国大会講演論文集[CD−ROM](第1分冊),2008年 3月19日,pp.136-137
【文献】 T. Yamada, S. Kon, N. Sakamoto,“Evaluations of a wideband inductive voltage divider and non-sinusoidal power measurement system”,2010 Conference on Precision Electromagnetic Measurements,2010年 6月13日,pp.239-240,DOI: 10.1109/CPEM.2010.5545068
【文献】 Seitaro Kon, Tatsuji Yamada,“Method for Automatic Compensation of the Loading Effect for High-Precision Buffer Amplifiers and Voltage Dividers”,ransactions of The Japan Institute of Electronics Packaging,2015年,Vol.8, No.1, 2015,pp.156-161,DOI: 10.5104/jiepeng.8.156
【文献】 T. Yamada, S. Kon, N. Sakamoto, H. Fujiki,“An evaluation method for wideband voltage dividers using two phase-locked signal generators”,2016 Conference on Precision Electromagnetic Measurements,2016年 7月10日,DOI: 10.1109/CPEM.2016.7540529
【文献】 Tatsuji Yamada, Seitaro Kon, Norihiko Sakamoto,“Evaluation of Atypical-Ratio Wideband Voltage Dividers With Consideration for Impedance Mismatches”,IEEE Transactions on Instrumentation and Measurement,2017年 6月,Vol.66, No.6,pp.1524-1530,DOI: 10.1109/TIM.2017.2668758
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/00−27/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入出力比が既知の評価対象機器の入出力評価のために、前記評価対象機器に既知の信号が入力されたときに出力される出力信号の公称値に対する誤差を測定する誤差測定装置で
あって、
第1の信号を発生して前記評価対象機器に入力信号として供給する第1の信号発生器と、
前記評価対象機器に前記第1の信号が入力されたときに、前記評価対象機器から本来出力される出力信号の公称値に相当する第2の信号を発生する第2の信号発生器と、
前記第1の信号発生器から出力される前記第1の信号と、前記第2の信号発生器から出力される前記第2の信号とを位相同期させるための参照信号を発生して、前記第1及び第2の信号発生器供給する第3の信号発生器と、
前記評価対象機器が前記第1の信号が入力されたときに実際に出力する第の信号と、前記第2の信号発生器から出力される前記第2の信号とが供給され、前記第の信号と前記第2の信号との差分信号である微小信号の同相成分及び直角相成分を測定する微小信号測定器と、
前記微小信号測定器で測定された前記微小信号の同相成分及び直角相成分に基づいて、前記評価対象機器の入出力比の誤差を算出する算出手段と
を有することを特徴とする誤差測定装置。
【請求項2】
前記参照信号は、前記第1の信号と前記第2の信号との間の位相差を小さくするための、同一周波数で互いに異なる位相を有する第1及び第2の参照信号を含み、
前記第3の信号発生器は、記第1の信号発生器に前記第1の参照信号を供給すると共に前記第2の信号発生器に前記第2の参照信号を供給することを特徴とする請求項1記載の誤差測定装置。
【請求項3】
前記第1の信号発生器から出力される前記第1の信号と、前記第2の信号発生器から出力される前記第2の信号との位相差を検出する位相差検出手段を更に有し、
前記算出手段は、前記位相差検出手段により検出された前記位相差を用いて前記入出力比の誤差を算出することを特徴とする請求項1又は2記載の誤差測定装置。
【請求項4】
前記位相差検出手段は、前記第1の信号発生器から第1のインピーダンス整合器を介して第1の同軸ケーブルへ出力された前記第1の信号が入力される第1の入力端子と、前記第2の信号発生器から第2のインピーダンス整合器を介して第2の同軸ケーブルへ出力された前記第2の信号が入力される第2の入力端子とを有し、入力された前記第1の信号と前記第2の信号との位相差を検出する位相計を備え、
前記第1のインピーダンス整合器のインピーダンス値は前記第1の信号発生器の出力インピーダンス値との合計値が前記第1の同軸ケーブルの特性インピーダンスと等しく、前記第2のインピーダンス整合器のインピーダンス値は前記第2の信号発生器の出力インピーダンス値との合計値が前記第2の同軸ケーブルの特性インピーダンスと等しく設定されていることを特徴とする請求項3記載の誤差測定装置。
【請求項5】
前記第1の参照信号に応じて、振幅が前記第2の参照信号が供給される前記第2の信号発生器から出力される前記第2の信号の振幅に比し一定値大なる値の第の信号出力する信号発生手段をさらに備え、
前記微小信号測定器は、前記第の信号と前記第2の信号とが供給されて、前記第の信号と前記第2の信号との差分信号の同相成分及び直角相成分を補正用同相成分及び補正用直角相成分として測定し、当該補正用同相成分及び補正用直角相成分を用いて、前記第の信号と前記第2の信号との差分信号から測定した同相成分及び直角相成分を補正する補正手段を備えることを特徴とする請求項2記載の誤差測定装置。
【請求項6】
前記微小信号測定器は、前記第の信号を(V2ref+Δ)ej(ωt+φ)、前記第2の信号をV2ref・ejωtとしたとき(ただし、V2refは電圧の振幅、Δは前記一定値、jは虚数単位、ωは角周波数、tは時間、φは前記第の信号と第2の信号との位相差)、次式で表される補正用同相成分m及び補正用直角相成分nを測定し、
m∝{(V2ref+Δ)・cosφ−V2ref} 、n∝(V2ref+Δ)sinφ
前記補正手段は、前記第の信号と前記第2の信号との差分信号から測定した前記同相成分をM、前記直角相成分をNとしたとき、次式により
【数1】
補正した同相成分Mcomp及び補正した直角相成分Ncompを算出することを特徴とする請求項5記載の誤差測定装置。
【請求項7】
前記微小信号測定器は、予め前記第1の信号及び第2の信号が同一振幅で供給されたときのオフセットキャンセル用測定値を取得しておき、前記補正用同相成分m及び補正用直角相成分nから前記オフセットキャンセル用測定値を差し引くことによりオフセットキャンセルを行うことを特徴とする請求項6記載の誤差測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誤差測定装置に係り、特に評価対象機器の入出力を評価するために、評価対象機器にアナログ信号を入力したときに出力されるアナログ信号の所定の公称値(設計により決められた値)に対する誤差を測定する誤差測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や電気機器等で、入力信号に応じて予め設定された公称値の出力信号を出力する機器は数多く存在する。それらの機器の中には、入力信号に対する出力信号の比の誤差(比誤差)の評価が必要な機器がある。また、入出力信号が交流の機器の場合、入力信号の位相に対する出力信号の位相のズレ(位相誤差)の評価が必要な機器がある。これらの比誤差及び位相誤差は、機器の性能評価指標において重要なパラメータとなる。上記のような評価が必要な機器(評価対象機器)では、比誤差及び位相誤差を測定し、その測定結果に基づいて入出力を評価することが多い。評価対象機器としては、例えば、電力分野で使用されている変圧器、分圧器、増幅器等がある。
【0003】
従来、このような比誤差や位相誤差を測定するには、電圧計、位相計、ネットワークアナライザ、あるいは交流ブリッジ装置等を用いて測定することが多い。単純な方法としては、電圧計で評価対象機器の入出力信号の電圧を測定して比誤差を算出し、位相計で入出力信号の位相誤差を測定する方法がある。例えば、標準分圧器の出力端子と、電気的に浮遊する参照電圧源からの参照電圧源電圧との間の電圧降下(比誤差)を電圧計で比較測定する方法が従来知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、ネットワークアナライザを用いた誤差測定方法では、ネットワークアナライザから評価対象機器である例えば4端子回路網の被測定高周波回路に対して既知の高周波信号を供給したとき、入力端子対で観測される反射電力(S11)及び出力端子対で観測される通過電力(S21)を測定すると共に、それらの電力の位相差も測定し、得られた測定結果を測定前の校正計測結果と比較することで、被測定高周波回路の反射電力及び通過電力の誤差及び位相差を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3632074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、電圧計及び位相計を用いて比誤差及び位相誤差を測定する方法は、数kHz以下の低周波信号に対しては高い精度の測定が可能であるが、数十kHz以上の高周波帯域の電圧計や位相計の精度が良くないため、高周波信号については高精度の測定が困難である。また、ネットワークアナライザを用いた誤差測定方法は、前述したSパラメータによる測定により数kHzから数GHzまでの広帯域で入出力信号の比誤差や位相誤差の算出が可能であるが、数kHz以下の低周波信号に対してはSパラメータによる測定が困難であるため比誤差や位相誤差の算出が困難であり、また数十V以上の高電圧での誤差測定が困難であるという問題がある。更に、交流ブリッジ技術を利用した誤差測定方法では、測定可能な比誤差の範囲が限られているため、生産現場での応用が利かないという欠点がある。
【0007】
本発明は以上の点に鑑みなされたもので、入出力評価のために広帯域で、かつ、広い入出力比範囲で更に高電圧な信号において入出力信号の所定の公称値に対する誤差の測定が可能な誤差測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の目的を達成するため、入出力比が既知の評価対象機器の入出力評価のために、前記評価対象機器に既知の信号が入力されたときに出力される出力信号の公称値に対する誤差を測定する誤差測定装置であって、第1の信号を発生して前記評価対象機器に入力信号として供給する第1の信号発生器と、前記評価対象機器に前記第1の信号が入力されたときに、前記評価対象機器から本来出力される出力信号の公称値に相当する第2の信号を発生する第2の信号発生器と、前記第1の信号発生器から出力される前記第1の信号と、前記第2の信号発生器から出力される前記第2の信号とを位相同期させるための第3の信号を発生して、前記第1及び第2の信号発生器に参照信号として供給する第3の信号発生器と、前記評価対象機器が前記第1の信号が入力されたときに実際に出力する第4の信号と、前記第2の信号発生器から出力される前記第2の信号とが供給され、前記第4の信号と前記第2の信号との差分信号である微小信号の同相成分及び直角相成分を測定する微小信号測定器と、前記微小信号測定器で測定された前記微小信号の同相成分及び直角相成分に基づいて、前記評価対象機器の入出力比の誤差を算出する算出手段とを有することを特徴とする。
【0009】
ここで、上記の第3の信号発生器は、前記第1の信号と前記第2の信号との間の位相差を小さくするために前記第3の信号として2種類の第1及び第2の参照信号を発生して、前記第1の信号発生器に前記第1の参照信号を供給すると共に前記第2の信号発生器に前記第2の参照信号を供給する構成であってもよい。
【0010】
また、本発明は、前記第1の信号発生器から出力される前記第1の信号と、前記第2の信号発生器から出力される前記第2の信号との位相差を検出する位相差検出手段を更に有し、前記算出手段は、前記位相差検出手段により検出された前記位相差を用いて前記入出力比の誤差を算出することを特徴とする。
【0011】
ここで、上記の位相差検出手段は、前記第1の信号発生器から第1のインピーダンス整合器を介して第1の同軸ケーブルへ出力された前記第1の信号が入力される第1の入力端子と、前記第2の信号発生器から第2のインピーダンス整合器を介して第2の同軸ケーブルへ出力された前記第2の信号が入力される第2の入力端子とを有し、入力された前記第1の信号と前記第2の信号との位相差を検出する位相計を備え、前記第1のインピーダンス整合器のインピーダンス値は前記第1の信号発生器の出力インピーダンス値との合計値が前記第1の同軸ケーブルの特性インピーダンスと等しく、前記第2のインピーダンス整合器のインピーダンス値は前記第2の信号発生器の出力インピーダンス値との合計値が前記第2の同軸ケーブルの特性インピーダンスと等しく設定されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、前記第1の参照信号に応じて、振幅が前記第2の参照信号が供給される前記第2の信号発生器から出力される前記第2の信号の振幅に比し一定値大なる値の第5の信号出力する信号発生手段をさらに備え、前記微小信号測定器は、前記第5の信号と前記第2の信号とが供給されて、前記第5の信号と前記第2の信号との差分信号の同相成分及び直角相成分を補正用同相成分及び補正用直角相成分として測定し、その補正用同相成分及び補正用直角相成分を用いて、前記第4の信号と前記第2の信号との差分信号から測定した同相成分及び直角相成分を補正する補正手段を備えることを特徴とする。
【0013】
ここで、上記の微小信号測定器は、前記第5の信号を(V2ref+Δ)ej(ωt+φ)、前記第2の信号をV2ref・ejωtとしたとき(ただし、V2refは電圧の振幅、Δは前記一定値、jは虚数単位、ωは角周波数、tは時間、φは前記第5の信号と第2の信号との位相差)、次式で表される補正用同相成分m及び補正用直角相成分nを測定し、
m∝{(V2ref+Δ)・cosφ−V2ref} 、n∝(V2ref+Δ)sinφ
前記補正手段は、前記第4の信号と前記第2の信号との差分信号から測定した前記同相成分をM、前記直角相成分をNとしたとき、次式により
【数1】
補正した同相成分Mcomp及び補正した直角相成分Ncompを算出するようにしてもよい。
【0014】
また、本発明は前記微小信号測定器が、予め前記第1の信号及び第2の信号が同一振幅で供給されたときのオフセットキャンセル用測定値を取得しておき、前記補正用同相成分m及び補正用直角相成分nから前記オフセットキャンセル用測定値を差し引くことによりオフセットキャンセルを行うようにしてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、従来は実現できなかった、数十Hz以上の広周波数帯域で、また数十Vや数百V以上の電圧範囲で、更には限定されない入出力比範囲にわたって入出力比の評価ができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る誤差測定装置の一実施形態のブロック図である。
図2】本発明に係る誤差測定装置の一実施例の構成図である。
図3図2中の誤差測定時に用いる位相差を測定する位相差測定回路の一例の回路系統図である。
図4】既知の入力信号から微小信号測定器の入出力比を算出する一例の算出回路のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る誤差測定装置の一実施形態のブロック図を示す。同図において、誤差測定装置10は、2台の信号発生器11及び12と、それら2台の信号発生器11及び12の各アナログ出力信号を位相同期させるための参照信号を出力する信号発生器13と、評価対象機器14と、微小信号測定器15とを備え、評価対象機器14のアナログ入力信号に応じたアナログ出力信号の公称値に対する誤差を測定する。
【0018】
第1の信号発生器11は、評価対象機器14の既知のアナログ入力信号V1・ejωtを発生する。第2の信号発生器12は、評価対象機器14に既知のアナログ入力信号V1・ejωtが入力されたときに、評価対象機器14から本来出力される既知の公称値と同じ値のアナログ信号V2ref・ejωtを発生する。信号発生器13は、信号発生器11及び12の各出力信号を位相同期させるための参照信号V・ejωtを発生して信号発生器11及び12にそれぞれ供給する。ここで、V、V1、V2refはそれぞれ電圧の振幅、jは虚数単位、ωは角周波数、tは時間である。
【0019】
信号発生器11及び12は信号発生器13から参照信号を受信すると、それぞれの内部ではその位相と一致するようにそれぞれの信号の位相を調整した後に出力する。なお、実際は、位相は完全に一致しないため、位相ズレ(位相差)を考慮しなくてはならないが、それに対する配慮は後述する。
【0020】
評価対象機器14は、公称入出力比V2ref/V1であり、信号発生器11からアナログ信号V1・ejωtが入力されたときは、本来は既知の公称値のアナログ信号V2ref・ejωtを出力するが、実際には既知の公称値とは異なるアナログ信号を出力する。ここでは信号V2 ej(ωt+γ)を出力するものとする。ここで、γは評価対象機器14の入力信号と出力信号との位相差である。また、微小信号測定器15は、評価対象機器14からの信号V2 ej(ωt+γ)と信号発生器12からの信号V2ref ejωtとの位相差の同相成分と直角相成分とを測定する測定器で、例えばロックインアンプで構成されている。
【0021】
次に、本実施形態の動作について説明する。以下の説明では、信号周波数は一例として100kHzであるものとして説明する。信号発生器11は、信号V1・ejωtを発生して評価対象機器14に供給する。公称入出力比V2ref/V1である評価対象機器14は、信号発生器11から供給される信号V1・ejωtに基づき、実際には信号V2・e(jωt+γ)を出力したものとする。ここで、V2は実際に評価対象機器14から出力される電圧振幅である。一方、信号発生器12は、信号V1・ejωtが入力されたときの評価対象機器14の出力信号の公称値と同じ値で、かつ、信号発生器11の出力信号V1・ejωtと位相同期した信号V2ref・ejωtを発生する。
【0022】
微小信号測定器15は、評価対象機器14から出力された信号V2・e(jωt+γ)と、信号発生器12から出力された評価対象機器14の出力信号の公称値と同じ値の信号V2ref・ejωtとの差分信号である微小信号の同相成分及び直角相成分を測定する。この同相成分及び直角相成分は、参照信号として微小信号測定器15に供給される信号発生器12の出力信号が高精度な参照信号であるならば、評価対象機器14の同相誤差及び直角相誤差とみなすことができる。これにより、本実施形態の誤差測定装置10によれば、同相誤差と直角相誤差とに基づいて、簡単な計算により、比誤差(V2−V2ref)/V2refと位相差γが算出できる。
【0023】
このようにして、本実施形態の誤差測定装置10によれば、位相同期させた2台の信号発生器11及び12を、それぞれ評価対象機器14の入力用と出力評価用に利用するため、電圧範囲や入出力比範囲が限定されず、周波数への影響がない構成により評価対象機器14の比誤差及び位相差を測定・算出できるため、従来は実現できなかった、数十Hz以上の広周波数帯域で、また数十Vや数百V以上の電圧範囲で、更には限定されない入出力比範囲にわたって入出力比の評価ができる。
【実施例】
【0024】
次に、本発明の実施例について説明する。図2は、本発明に係る誤差測定装置の一実施例の構成図を示す。図1の本発明に係る誤差測定装置は基本的な実施形態の構成を示しているが、実際には例えば図2の実施例の構成で測定する。
図2において、誤差測定装置20は、2台の信号発生器21及び22と、それら2台の信号発生器21及び22の各出力信号を位相同期させるための参照信号を出力する信号発生器23と、評価対象機器24と、微小信号測定器25とを備え、各機器の間の信号線はすべて同軸ケーブル26が使用され、周波数による影響を抑えている。
【0025】
ここで、信号発生器21、22、23は図1の信号発生器11、12、13に対応し、評価対象機器24及び微小信号測定器25は図1の評価対象機器14及び微小信号測定器15に対応する。なお、図2では、微小信号測定器25はロックインアンプで構成されているため、信号発生器22は微小信号測定器25に対し、評価対象機器24の出力信号の公称値と同じ値の信号V2ref・ejωtを出力すると同時に、微小信号測定器25に高精度測定を可能とするための参照周波数信号を出力する。
【0026】
次に、本実施例の動作について説明する。図2において、信号発生器21及び22の両出力信号は、信号発生器23から供給される参照信号と同一周波数、同一位相となるように制御されているが、実際は周波数は同じであるが、位相は若干異なり位相差φが存在する。このため、信号発生器21及び22の両出力信号の位相差φをできるだけ小さくするように、信号発生器23は位相の異なる第1及び第2の2種類の参照信号を発生し、信号発生器21に対して第1の参照信号V・ej(ωt+α)を供給し、信号発生器22に対して第2の参照信号V・ej(ωt+β)を供給する。
【0027】
信号発生器21は、信号発生器23から供給される第1の参照信号V・ej(ωt+α)に基づいて第1の信号V1・ej(ωt+φ)を発生して評価対象機器24に供給する。一方、信号発生器22は、信号発生器23から供給される第2の参照信号V・ej(ωt+β)に基づいて評価対象機器24の出力信号の公称値と同じ値で、かつ、信号発生器21の出力信号V1・ej(ωt+φ)と位相同期した第2の信号V2ref・ejωtと参照周波数信号とを発生して微小信号測定器25にそれぞれ供給する。
【0028】
なお、微小信号測定器25の詳細な説明は後述するが、微小信号測定器25により高精度測定を行うには参照周波数信号が必要である。参照周波数信号は微小信号測定器25が検出可能な電圧レベルであり、通常、数V程度の電圧である。参照周波数信号として、信号発生器21及び22の出力信号のどちらも利用できるが、ここでは上述のように信号発生器22の出力信号を利用するものとする。このため、信号発生器21の出力信号をV1・ej(ωt+φ)とし、信号発生器22の出力信号をV2ref・ejωtとした。
【0029】
公称入出力比V2ref/V1である評価対象機器24は、信号発生器21から供給される信号V1・ej(ωt+φ)に基づき、信号V2・ej(ωt+φ+γ)を出力したものとする。V2は実際に評価対象機器24から出力される電圧振幅である。ここで、評価対象機器24の入出力比は、その同相誤差εと直角相誤差θとを用いて、{V2ref(1+ε+j・θ)/V1}で表すことができるが、実際には上述した信号が入出力されるので、次式が成立する。
【数2】
【0030】
微小信号測定器25は、評価対象機器24から供給される信号V2・ej(ωt+φ+γ)と、信号発生器22から供給される信号V2ref・ejωtとの差分信号である微小信号の同相成分及び直角相成分を測定する。すなわち、微小信号測定器25は、一般的にロックインアンプと呼ばれるヘテロダイン技術を応用した計測器であり、入力信号と参照周波数信号との周波数変換により参照周波数信号の位相と一致した信号と90°位相をずらした信号の2つを生成し、それら2つの信号を、評価対象機器24から供給される信号V2・ej(ωt+φ+γ)と信号発生器22から供給される信号V2ref・ejωtとの差分信号である微小信号と掛け合わせてフィルタを通すことで、微小信号中の参照周波数信号の位相と同相な直流成分(同相成分)と、参照周波数信号の位相と90°位相が異なる直流成分(直角相成分)とに分割する。
【0031】
ここでは、微小信号測定器25は、信号発生器22から供給される信号V2ref・ejωtを基準にして、信号V2・ej(ωt+φ+γ)と信号V2ref・ejωtとの差分信号である上記微小信号の同相成分である同相誤差Mと直角相成分である直角相誤差Nを測定する。ここで、微小信号測定器25における入出力の関係は、次式で表される。
M+j・N=V2・ej(φ+γ)−V2ref・ej・0 (2)
【0032】
図示しない算出手段は、上記(1)式及び(2)式により、評価対象機器24の入出力比の同相誤差εと直角相誤差θとを、次式により算出する。
【数3】
【0033】
このようにして、本実施形態の誤差測定装置20では、微小信号測定器25が測定した信号V2・ej(ωt+φ+γ)と信号V2ref・ejωtとの差分の同相誤差Mと直角相誤差Nとを用いて、(3a)式及び(3b)式に基づいて、評価対象機器24の入出力比の同相誤差εと直角相誤差θとを算出する。そして、算出した同相誤差ε及び直角相誤差θに基づいて、評価対象機器24の入出力評価が行われる。
【0034】
ここで、(3a)式及び(3b)式中の信号発生器21及び22の両出力信号間の位相差φは、信号発生器23が出力する位相の異なる2種類の参照信号の位相α及びβを調整することで限りなく小さくしているが、この位相差φは予め図3に示す位相差測定回路により計測されており、この位相差φを(3a)式及び(3b)式に代入することで、同相誤差εと直角相誤差θとをより高精度に算出することができる。
【0035】
図3は、位相差測定回路の一例の回路系統図を示す。同図中、図2と同一構成部分には同一符号を付し、その説明を省略する。図3において、位相差測定回路30は、信号発生器21の出力端子にインピーダンス整合器31が接続され、信号発生器22の出力端子にインピーダンス整合器32が接続されており、更にインピーダンス整合器31、32が同軸ケーブル27を介して位相計33に接続されている。位相差測定回路30では、周波数が高くなるほど反射の効果が大きくなるため、インピーダンス整合器31及び32を信号発生器21及び22の出力端子に取り付け、同軸ケーブル27とのインピーダンス整合を行うことで、反射効果を抑えている。
【0036】
インピーダンス整合器31及び32としては、同軸ケーブル27が特性インピーダンス50Ωの同軸ケーブルであれば、例えば、信号発生器21及び22の各出力インピーダンス値がどちらも0Ωであれば、50Ωの抵抗器が使用される。つまり、信号発生器21,22の出力インピーダンス値とインピーダンス整合器のインピーダンス値が合計50Ωになるように、インピーダンス整合器31,32のインピーダンス値を設定することが望ましい。
【0037】
また、位相計33の入力インピーダンスはインピーダンス整合を行わない。その理由は、信号発生器21及び22からの出力電圧が大きい時、位相計33の入力部をインピーダンス整合すると、過大電流が流れるか、あるいは信号発生器21及び22が正常な信号を発生しないためである。そのため、位相計33の入力部でインピーダンス不整合による反射が発生するが、信号発生器21及び22の出力部でインピーダンス整合しているため、多重反射はしない。つまり、入射と反射のみからなる安定な定在波となる。
【0038】
位相計33は、2つの入力端子に供給される信号発生器21及び22の両出力信号間の位相差φを測定する。このとき、位相計33の2つの入力信号が位相計33の入力部で反射し、位相ズレが発生しても、両入力信号の位相ズレは同じであるため、キャンセルでき、位相差φには影響がない。ただし、位相計33の2つの入力端子のインピーダンスは実際には完全に一致しないため、各入力インピーダンスを測定し、2つの入力端子の各入力信号の位相ズレを算出し、補正することが望ましい。
【0039】
なお、評価対象機器24の入出力比の比誤差ε'及び位相角θ’は、同相誤差ε及び直角相誤差θと次式の関係があることが知られている。
【数4】
【0040】
更に、本実施例において、同相誤差ε及び直角相誤差θをより一層高精度に測定するには、微小信号測定器25の測定誤差も補正することが望ましい。微小信号測定器25の測定誤差を補正するためには、図4と共に説明するように既知の電圧信号を微小信号測定器25に入力したときの測定値から入出力比を算出し、誤差補正に利用する。また、評価したい電圧レベルで微小信号測定器25の入出力比を算出する。
【0041】
図4は、既知の入力信号から微小信号測定器の入出力比を算出する一例の算出回路のブロック図を示す。同図中、図2と同一構成部分には同一符号を付してある。図4において、信号発生器41及び22の両出力信号の位相差φをできるだけ小さくするように、信号発生器23は信号発生器41に対して参照信号V・ej(ωt+α)を供給し、信号発生器22に対して参照信号V・ej(ωt+β)を供給する。
【0042】
信号発生器41は、参照信号V・ej(ωt+α)が供給されると、信号(V2ref+Δ)・ej(ωt+φ)を発生して、微小信号測定器25に供給する。一方、信号発生器22は、参照信号V・ej(ωt+β)が供給されると、信号V2ref・ejωtを発生して、微小信号測定器25に比較信号及び参照周波数信号を供給する。つまり、信号発生器41は、信号発生器22の出力信号に対して電圧振幅がΔだけ高い既知の信号を出力する。
【0043】
微小信号測定器25は、前述したようにロックインアンプで構成されており、供給される上記の2信号(V2ref+Δ)・ej(ωt+φ)及びV2ref・ejωtの差分信号中の参照周波数信号の位相と同相な直流成分(同相成分)と、参照周波数信号の位相と90°位相が異なる直流成分(直角相成分)とからなる測定値(m+j・n)を計測する。ここで、測定値(m+j・n)は次式で表される。
(m+j・n)∝{(V2ref+Δ)・ej・φ−V2ref・ej・0} (5)
【0044】
(5)式は次式に書き改めることができる。
m∝{(V2ref+Δ)・cosφ−V2ref} (6a)
n∝(V2ref+Δ)sinφ (6b)
【0045】
前述した図2の構成図中の微小信号測定器25は、(6a)式及び(6b)式を利用することで測定値MとNを次式で示す誤差補正した測定値McompとNcompを得ることができる。
【数5】
【0046】
この実施例では、微小信号測定器25の測定値MとNは直接使用せず、(7a)式及び(7b)式で表される微小信号測定器25の測定誤差を補正した測定値McompとNcompを用いるため、微小信号測定器25の測定誤差が大きい場合に好適である。このようにして、本実施例の誤差測定装置20では、(3a)式及び(3b)式で表される同相誤差M及び直角相誤差Nと、別途測定した(6a)式及び(6b)式の測定値(m+j・n)とに基づいて、(7a)式及び(7b)式から、上記の誤差補正した測定値McompとNcompを算出することができる。これにより、本実施例によれば、評価対象機器24の入出力比の同相誤差εと直角相誤差θとをより一層高精度に算出することができ、精度の高い入出力評価ができる。
【0047】
なお、上記の測定と共に、信号発生器21の出力電圧振幅を信号発生器22の出力電圧振幅と同一にした場合での微小信号測定器25の測定値を予め測定しておき、その測定値を前記測定値(m+j・n)から差し引くことにより、微小信号測定器25のオフセットをキャンセルしてもよい。
【0048】
また、上記実施例では微小信号測定器25の測定誤差の補正のため、微小信号測定器25への参照周波数信号は信号発生器22の出力信号を利用しているが、信号発生器22の出力信号以外の信号を利用することもでき、その場合は上記と同様の考え方に応じた補正式が必要となる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、従来は実現できなかった、数十Hz以上の広周波数帯域で、また数十Vや数百V以上の電圧範囲で、更には限定されない入出力比範囲にわたって入出力比の評価ができるため、アナログ入力信号に応じてアナログ信号を出力する機器であって、入出力評価を必要とする機器全般(例えば、電力分野で使用されている変圧器、分圧器、増幅器等)に利用することができる。また、それらの機器はこれまで50Hz又は60Hzで使用されてきたが、より高い周波数帯域で使用される機器を開発する場合にも本発明を利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
10、20 誤差測定装置
11、12、13、21、22、23、41 信号発生器
14、24 評価対象機器
15、25 微小信号測定器
26、27 同軸ケーブル
30 位相差測定回路
31、32 インピーダンス整合器
33 位相計
40 微小信号測定器の入出力比を算出する算出回路
図1
図2
図3
図4