【実施例】
【0024】
次に、本発明の実施例について説明する。
図2は、本発明に係る誤差測定装置の一実施例の構成図を示す。
図1の本発明に係る誤差測定装置は基本的な実施形態の構成を示しているが、実際には例えば
図2の実施例の構成で測定する。
図2において、誤差測定装置20は、2台の信号発生器21及び22と、それら2台の信号発生器21及び22の各出力信号を位相同期させるための参照信号を出力する信号発生器23と、評価対象機器24と、微小信号測定器25とを備え、各機器の間の信号線はすべて同軸ケーブル26が使用され、周波数による影響を抑えている。
【0025】
ここで、信号発生器21、22、23は
図1の信号発生器11、12、13に対応し、評価対象機器24及び微小信号測定器25は
図1の評価対象機器14及び微小信号測定器15に対応する。なお、
図2では、微小信号測定器25はロックインアンプで構成されているため、信号発生器22は微小信号測定器25に対し、評価対象機器24の出力信号の公称値と同じ値の信号V2
ref・e
jωtを出力すると同時に、微小信号測定器25に高精度測定を可能とするための参照周波数信号を出力する。
【0026】
次に、本実施例の動作について説明する。
図2において、信号発生器21及び22の両出力信号は、信号発生器23から供給される参照信号と同一周波数、同一位相となるように制御されているが、実際は周波数は同じであるが、位相は若干異なり位相差φが存在する。このため、信号発生器21及び22の両出力信号の位相差φをできるだけ小さくするように、信号発生器23は位相の異なる第1及び第2の2種類の参照信号を発生し、信号発生器21に対して第1の参照信号V・e
j(ωt+α)を供給し、信号発生器22に対して第2の参照信号V・e
j(ωt+β)を供給する。
【0027】
信号発生器21は、信号発生器23から供給される第1の参照信号V・e
j(ωt+α)に基づいて第1の信号V1・e
j(ωt+φ)を発生して評価対象機器24に供給する。一方、信号発生器22は、信号発生器23から供給される第2の参照信号V・e
j(ωt+β)に基づいて評価対象機器24の出力信号の公称値と同じ値で、かつ、信号発生器21の出力信号V1・e
j(ωt+φ)と位相同期した第2の信号V2
ref・e
jωtと参照周波数信号とを発生して微小信号測定器25にそれぞれ供給する。
【0028】
なお、微小信号測定器25の詳細な説明は後述するが、微小信号測定器25により高精度測定を行うには参照周波数信号が必要である。参照周波数信号は微小信号測定器25が検出可能な電圧レベルであり、通常、数V程度の電圧である。参照周波数信号として、信号発生器21及び22の出力信号のどちらも利用できるが、ここでは上述のように信号発生器22の出力信号を利用するものとする。このため、信号発生器21の出力信号をV1・e
j(ωt+φ)とし、信号発生器22の出力信号をV2
ref・e
jωtとした。
【0029】
公称入出力比V2
ref/V1である評価対象機器24は、信号発生器21から供給される信号V1・e
j(ωt+φ)に基づき、信号V2・e
j(ωt+φ+γ)を出力したものとする。V2は実際に評価対象機器24から出力される電圧振幅である。ここで、評価対象機器24の入出力比は、その同相誤差εと直角相誤差θとを用いて、{V2
ref(1+ε+j・θ)/V1}で表すことができるが、実際には上述した信号が入出力されるので、次式が成立する。
【数2】
【0030】
微小信号測定器25は、評価対象機器24から供給される信号V2・e
j(ωt+φ+γ)と、信号発生器22から供給される信号V2
ref・e
jωtとの差分信号である微小信号の同相成分及び直角相成分を測定する。すなわち、微小信号測定器25は、一般的にロックインアンプと呼ばれるヘテロダイン技術を応用した計測器であり、入力信号と参照周波数信号との周波数変換により参照周波数信号の位相と一致した信号と90°位相をずらした信号の2つを生成し、それら2つの信号を、評価対象機器24から供給される信号V2・e
j(ωt+φ+γ)と信号発生器22から供給される信号V2
ref・e
jωtとの差分信号である微小信号と掛け合わせてフィルタを通すことで、微小信号中の参照周波数信号の位相と同相な直流成分(同相成分)と、参照周波数信号の位相と90°位相が異なる直流成分(直角相成分)とに分割する。
【0031】
ここでは、微小信号測定器25は、信号発生器22から供給される信号V2
ref・e
jωtを基準にして、信号V2・e
j(ωt+φ+γ)と信号V2
ref・e
jωtとの差分信号である上記微小信号の同相成分である同相誤差Mと直角相成分である直角相誤差Nを測定する。ここで、微小信号測定器25における入出力の関係は、次式で表される。
M+j・N=V2・e
j(φ+γ)−V2
ref・e
j・0 (2)
【0032】
図示しない算出手段は、上記(1)式及び(2)式により、評価対象機器24の入出力比の同相誤差εと直角相誤差θとを、次式により算出する。
【数3】
【0033】
このようにして、本実施形態の誤差測定装置20では、微小信号測定器25が測定した信号V2・e
j(ωt+φ+γ)と信号V2
ref・e
jωtとの差分の同相誤差Mと直角相誤差Nとを用いて、(3a)式及び(3b)式に基づいて、評価対象機器24の入出力比の同相誤差εと直角相誤差θとを算出する。そして、算出した同相誤差ε及び直角相誤差θに基づいて、評価対象機器24の入出力評価が行われる。
【0034】
ここで、(3a)式及び(3b)式中の信号発生器21及び22の両出力信号間の位相差φは、信号発生器23が出力する位相の異なる2種類の参照信号の位相α及びβを調整することで限りなく小さくしているが、この位相差φは予め
図3に示す位相差測定回路により計測されており、この位相差φを(3a)式及び(3b)式に代入することで、同相誤差εと直角相誤差θとをより高精度に算出することができる。
【0035】
図3は、位相差測定回路の一例の回路系統図を示す。同図中、
図2と同一構成部分には同一符号を付し、その説明を省略する。
図3において、位相差測定回路30は、信号発生器21の出力端子にインピーダンス整合器31が接続され、信号発生器22の出力端子にインピーダンス整合器32が接続されており、更にインピーダンス整合器31、32が同軸ケーブル27を介して位相計33に接続されている。位相差測定回路30では、周波数が高くなるほど反射の効果が大きくなるため、インピーダンス整合器31及び32を信号発生器21及び22の出力端子に取り付け、同軸ケーブル27とのインピーダンス整合を行うことで、反射効果を抑えている。
【0036】
インピーダンス整合器31及び32としては、同軸ケーブル27が特性インピーダンス50Ωの同軸ケーブルであれば、例えば、信号発生器21及び22の各出力インピーダンス値がどちらも0Ωであれば、50Ωの抵抗器が使用される。つまり、信号発生器21,22の出力インピーダンス値とインピーダンス整合器のインピーダンス値が合計50Ωになるように、インピーダンス整合器31,32のインピーダンス値を設定することが望ましい。
【0037】
また、位相計33の入力インピーダンスはインピーダンス整合を行わない。その理由は、信号発生器21及び22からの出力電圧が大きい時、位相計33の入力部をインピーダンス整合すると、過大電流が流れるか、あるいは信号発生器21及び22が正常な信号を発生しないためである。そのため、位相計33の入力部でインピーダンス不整合による反射が発生するが、信号発生器21及び22の出力部でインピーダンス整合しているため、多重反射はしない。つまり、入射と反射のみからなる安定な定在波となる。
【0038】
位相計33は、2つの入力端子に供給される信号発生器21及び22の両出力信号間の位相差φを測定する。このとき、位相計33の2つの入力信号が位相計33の入力部で反射し、位相ズレが発生しても、両入力信号の位相ズレは同じであるため、キャンセルでき、位相差φには影響がない。ただし、位相計33の2つの入力端子のインピーダンスは実際には完全に一致しないため、各入力インピーダンスを測定し、2つの入力端子の各入力信号の位相ズレを算出し、補正することが望ましい。
【0039】
なお、評価対象機器24の入出力比の比誤差ε'及び位相角θ’は、同相誤差ε及び直角相誤差θと次式の関係があることが知られている。
【数4】
【0040】
更に、本実施例において、同相誤差ε及び直角相誤差θをより一層高精度に測定するには、微小信号測定器25の測定誤差も補正することが望ましい。微小信号測定器25の測定誤差を補正するためには、
図4と共に説明するように既知の電圧信号を微小信号測定器25に入力したときの測定値から入出力比を算出し、誤差補正に利用する。また、評価したい電圧レベルで微小信号測定器25の入出力比を算出する。
【0041】
図4は、既知の入力信号から微小信号測定器の入出力比を算出する一例の算出回路のブロック図を示す。同図中、
図2と同一構成部分には同一符号を付してある。
図4において、信号発生器41及び22の両出力信号の位相差φをできるだけ小さくするように、信号発生器23は信号発生器41に対して参照信号V・e
j(ωt+α)を供給し、信号発生器22に対して参照信号V・e
j(ωt+β)を供給する。
【0042】
信号発生器41は、参照信号V・e
j(ωt+α)が供給されると、信号(V2
ref+Δ)・e
j(ωt+φ)を発生して、微小信号測定器25に供給する。一方、信号発生器22は、参照信号V・e
j(ωt+β)が供給されると、信号V2
ref・e
jωtを発生して、微小信号測定器25に比較信号及び参照周波数信号を供給する。つまり、信号発生器41は、信号発生器22の出力信号に対して電圧振幅がΔだけ高い既知の信号を出力する。
【0043】
微小信号測定器25は、前述したようにロックインアンプで構成されており、供給される上記の2信号(V2
ref+Δ)・e
j(ωt+φ)及びV2
ref・e
jωtの差分信号中の参照周波数信号の位相と同相な直流成分(同相成分)と、参照周波数信号の位相と90°位相が異なる直流成分(直角相成分)とからなる測定値(m+j・n)を計測する。ここで、測定値(m+j・n)は次式で表される。
(m+j・n)∝{(V2
ref+Δ)・e
j・φ−V2
ref・e
j・0} (5)
【0044】
(5)式は次式に書き改めることができる。
m∝{(V2
ref+Δ)・cosφ−V2
ref} (6a)
n∝(V2
ref+Δ)sinφ (6b)
【0045】
前述した
図2の構成図中の微小信号測定器25は、(6a)式及び(6b)式を利用することで測定値MとNを次式で示す誤差補正した測定値M
compとN
compを得ることができる。
【数5】
【0046】
この実施例では、微小信号測定器25の測定値MとNは直接使用せず、(7a)式及び(7b)式で表される微小信号測定器25の測定誤差を補正した測定値M
compとN
compを用いるため、微小信号測定器25の測定誤差が大きい場合に好適である。このようにして、本実施例の誤差測定装置20では、(3a)式及び(3b)式で表される同相誤差M及び直角相誤差Nと、別途測定した(6a)式及び(6b)式の測定値(m+j・n)とに基づいて、(7a)式及び(7b)式から、上記の誤差補正した測定値M
compとN
compを算出することができる。これにより、本実施例によれば、評価対象機器24の入出力比の同相誤差εと直角相誤差θとをより一層高精度に算出することができ、精度の高い入出力評価ができる。
【0047】
なお、上記の測定と共に、信号発生器21の出力電圧振幅を信号発生器22の出力電圧振幅と同一にした場合での微小信号測定器25の測定値を予め測定しておき、その測定値を前記測定値(m+j・n)から差し引くことにより、微小信号測定器25のオフセットをキャンセルしてもよい。
【0048】
また、上記実施例では微小信号測定器25の測定誤差の補正のため、微小信号測定器25への参照周波数信号は信号発生器22の出力信号を利用しているが、信号発生器22の出力信号以外の信号を利用することもでき、その場合は上記と同様の考え方に応じた補正式が必要となる。