(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.電気化学的酸素還元用触媒
本発明の電気化学的酸素還元用触媒は、電気化学的に酸素還元するために用いられる触媒であり、一般式(1):
【0016】
[式中、R
1及びR
8は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又は電子求引性基;R
2、R
7、R
9及びR
14は同じか又は異なり、それぞれ水素原子又はアルキル基;R
3〜R
6、及びR
10〜R
13は同じか又は異なり、それぞれ水素原子、ハロゲン原子又はアルキル基である。]
で示される鉄テトラアザアヌレン錯体を含有する。本発明の電気化学的酸素還元用触媒は、当該鉄テトラアザアヌレン錯体を1種類単独で含んでいてもよいし、2種類以上含んでいてもよい。
【0017】
一般式(1)において、R
1及びR
8で示される電子求引性基としては、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)、ニトロ基、カルボキシ基、カルボニル基、スルホ基、シアノ基等が挙げられる。
【0018】
一般式(1)において、R
1及びR
8としては、酸素還元活性をより向上させる(過電圧をより小さくする)観点から、いずれも電子求引性基(特にニトロ基、スルホ基、シアノ基等)であることが好ましい。
【0019】
なお、R
1及びR
8は、同一でもよいし異なっていてもよい。
【0020】
一般式(1)において、R
2、R
7、R
9及びR
14で示されるアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の低級アルキル基(特に炭素数1〜10、特に1〜6程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基)が挙げられる。また、このアルキル基は、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)等の1〜6個(特に1〜3個)で置換されていてもよい。
【0021】
なお、R
2、R
7、R
9及びR
14は、同一でもよいし異なっていてもよい。
【0022】
一般式(1)において、R
3〜R
6、及びR
10〜R
13で示されるハロゲン原子としては、特に制限されないが、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられる。
【0023】
一般式(1)において、R
3〜R
6、及びR
10〜R
13で示されるアルキル基としては、特に制限されないが、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の低級アルキル基(特に炭素数1〜10、特に1〜6程度の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基)が挙げられる。また、このアルキル基は、例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等)等の1〜6個(特に1〜3個)で置換されていてもよい。
【0024】
なお、R
3〜R
6、及びR
10〜R
13は、同一でもよいし異なっていてもよい。
【0025】
上記のような条件を満たす鉄テトラアザアヌレン錯体としては、例えば、
【0028】
上記一般式(1)で表される鉄テトラアザアヌレン錯体は、一般式(2):
【0030】
[式中、R
1〜R
14は前記に同じである。]
で表されるテトラアザアヌレン化合物と、鉄原子とでキレートを形成することによって得ることができる。
【0031】
具体的には、例えば、Inorg. Chem. 2007, 46, 11416-11430に記載されている方法等に準じて合成することができる。即ち、有機溶媒中で、一般式(2)で表されるテトラアザアヌレン化合物と鉄の塩、錯体等とを反応させることで目的とする鉄テトラアザアヌレン錯体を得ることができる。具体的には、有機溶媒中で、一般式(2)で表されるテトラアザアヌレン化合物と鉄の塩、錯体等とを溶解又は分散させ、その後、加熱処理を施し、必要に応じて精製処理を施すことにより、目的とする鉄テトラアザアヌレン錯体を得ることができる。
【0032】
なお、テトラアザアヌレン(TAA)は、既報(Chemistry of Heterocyclic Compounds. 1987, 23, 316-320)に従って合成した。テトラアザアヌレンのニトロ化合物は既報(J. Org. Chem. 2004, 69, 8382-8386)にしたがい、例えば、一般式(3):
【0034】
[式中、R
3〜R
6は前記に同じである。]
で示される化合物と、一般式(4):
【0036】
[式中、R
7〜R
9は前記に同じである。]
で示される化合物とを反応させることにより得ることができる。この場合、有機溶媒(メタノール等のアルコール溶媒等)中で一般式(4)で示される化合物を、一般式(3)で示される化合物1モルに対して、0.2〜5モル(特に0.5〜2モル)添加し、加熱(特に還流下)して1〜96時間(特に2〜64時間)反応させることができる。
【0037】
鉄の塩、錯体としては特に制限されないが、有機溶媒に溶解する塩が好ましく、収率等の観点から、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、過塩素酸鉄(II)、過塩素酸鉄(III)、硝酸鉄(III)、酢酸鉄(II)等がより好ましく、塩化鉄(II)がさらに好ましい。この鉄の塩、錯体としては、水和物(塩化鉄(II)・四水和物等)を使用してもよい。
【0038】
キレートを形成する際に用いる有機溶媒は、テトラアザアヌレン化合物と鉄の塩、錯体等が両方溶解すれば特に制限はないが、収率等の観点から、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、アセトニトリル、ジクロロメタン、トルエン等が好ましい。有機溶媒は、1種類単独で用いてもよいし、2種類以上を用いてもよい。
【0039】
加熱温度は有機溶媒の沸点より低ければ特に制限はないが、収率等の観点から、例えば、30〜150℃が好ましく、40〜120℃がより好ましい。
【0040】
加熱時間は反応が十分に進行する時間とすればよく、特に制限はないが、例えば、5分〜24時間が好ましく、10分〜12時間がより好ましい。
【0041】
本発明の一般式(1)で表される鉄テトラアザアヌレン錯体は、導電性担体に担持させることにより、触媒に導電性が付与される。また錯体が担体に分散されることで、錯体を有効に用いることができ、結果として酸素還元活性を向上させることができる。これは、該鉄テトラアザアヌレン錯体が、導電性担体との相互作用によって強固に吸着担持されるためと思われる。
【0042】
導電性担体としては、従来から酸素を電気化学的に還元するための触媒の導電性担体に使用されるものであれば特に制限はなく、例えば、カーボンブラック(ケッチェンブラック、ファーネスブラック、アセチレンブラック等)、活性炭、黒鉛等の炭素質材料を挙げることができる。これらの内で、カーボンブラック(特にケッチェンブラック)は、上記一般式(1)で表される鉄テトラアザアヌレン錯体との相互作用が大きく鉄テトラアザアヌレン錯体を安定化させる働きが強く、更に、導電性に優れ、比表面積も大きいために、導電性担体として特に好ましい物質である。
【0043】
導電性担体の形状等については特に限定はないが、例えば、平均粒子径が0.1〜100μm程度が好ましく、1〜10μm程度がより好ましい。なお、導電性担体としてカーボンブラックを用いる場合には、例えば、BET法による比表面積が50〜1600m
2/g程度が好ましく、100〜1200m
2/g程度がより好ましい。この様なカーボンブラックの具体例としては、例えば、Vulcan XC-72R(Cabot社製)等を用いることができる。
【0044】
導電性担体に鉄テトラアザアヌレン錯体を担持する方法としては、例えば、溶解乾燥法、気相法等の公知の方法を採用できる。
【0045】
例えば、溶解乾燥法では、鉄テトラアザアヌレン錯体を有機溶媒に溶解させ、この溶液に導電性担体を加えて、必要に応じて撹拌することにより、該導電性担体に鉄テトラアザアヌレン錯体を吸着させた後、必要に応じて有機溶媒を乾燥させることが挙げられる。また、有機溶媒中に鉄テトラアザアヌレン錯体が多量に含まれる場合でも、平衡に達するまで鉄テトラアザアヌレン錯体を導電性担体に吸着させた後、ろ過することによって、導電性担体に吸着していない鉄テトラアザアヌレン錯体を除去して、該導電性担体と相互作用している鉄テトラアザアヌレン錯体のみを該導電性担体の表面に残すことができる。
【0046】
この方法では、有機溶媒としては、鉄テトラアザアヌレン錯体を溶解できるものであれば、特に限定なく使用できる。例えば、アセトン、トルエン、エタノール、メタノール、ジクロロメタン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、1−プロパノール、2−プロパノール等を好適に用いることができる。
【0047】
ろ過によって得られた分散物を、さらに有機溶媒を用いて洗浄液が透明になるまで洗浄すれば、導電性担体との相互作用の弱い鉄テトラアザアヌレン錯体を洗い流すことができ、導電性担体に強固に吸着している鉄テトラアザアヌレン錯体のみを含む高活性な触媒を得ることができる。
【0048】
気相法で担持させる場合には、例えば、プラズマ蒸着法、CVD法、加熱蒸着法等公知の方法を採用できる。
【0049】
導電性担体上に担持させる鉄テトラアザアヌレン錯体の量については、特に限定はないが、例えば、導電性担体1gに対して、鉄テトラアザアヌレン錯体を1mg〜1000mg、特に5mg〜600mg担持させることが好ましい。
【0050】
本発明の電気化学的酸素還元用触媒の形状は特に制限はなく、粉末状、粒子状、繊維状、板状等種々多様な形状を採用することができる。
【0051】
本発明の電気化学的酸素還元用触媒の比表面積は、特に制限されないが、酸素還元活性の観点から、50〜1600m
2/gが好ましく、100〜1200m
2/gがより好ましい。比表面積は、BET法により測定する。
【0052】
このような本発明の電気化学的酸素還元用触媒は、酸素を水酸化物イオンに還元する酸素還元活性を有するため、酸素を活物質として使用する電池の電極用触媒として好適に使用され得る。具体的には、燃料電池(特にアルカリ形燃料電池、固体高分子形燃料電池、リン酸形燃料電池等)又は金属空気電池の空気極触媒として好適に使用され得る。
【0053】
2.空気極及び電池
本発明の空気極は、上記した本発明の電気化学的酸素還元用触媒を用いた燃料電池(特にアルカリ形燃料電池、固体高分子形燃料電池、リン酸形燃料電池等)又は金属空気電池用空気極である。
【0054】
このような空気極は、触媒として本発明の電気化学的酸素還元用触媒を用いること以外は従来の空気極と同様とすることができるが、例えば、本発明の空気極は、空気極触媒層を有し得る。
【0055】
空気極触媒層の厚さについては特に限定的ではないが、通常、0.1〜100μm程度とすることができる。また、触媒量としても特に制限はないが、例えば、0.01〜20mg/cm
2程度とすることができる。
【0056】
このような空気極触媒層の形成方法としては、特に制限されないが、ガス拡散層、集電体等に、本発明の電気化学的酸素還元用触媒と樹脂溶液とを混合して作製した触媒インクを塗布及び乾燥する方法等によって空気極触媒層を作製し得る。
【0057】
その他の空気極の構成については公知の空気極と同様にし得る。例えば、空気極の触媒層側にカーボンペーパー、カーボンクロス、金属メッシュ、金属焼結体、発泡金属板、金属多孔体等の集電材を配置し、撥水性膜、拡散膜、空気分配層等を配置した構造ともし得る。
【0058】
空気極の上には、電解液であるアルカリ水溶液、カチオンもしくはアニオン交換膜、リン酸水溶液を介して、燃料電池(特にアルカリ形燃料電池、固体高分子形燃料電池、リン酸形燃料電池等)においては燃料極が設置され、金属空気電池においては金属負極が設置され得る。
【0059】
アルカリ水溶液を電解液として用いる場合、アルカリ水溶液としては、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリを含む水溶液を用い得る。アルカリ水溶液の濃度については特に限定的ではないが、例えば、アルカリ水溶液の総重量を100重量%として、アルカリ金属水酸化物を0.1〜40重量%程度とすることができる。
【0060】
リン酸水溶液を電解液として用いる場合、リン酸水溶液の濃度については特に限定的ではないが、例えば、リン酸水溶液の総重量を100重量%として、リン酸を0.1〜40重量%程度とすることができる。
【0061】
燃料電池(特にアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池等)における燃料極の構造については特に限定はなく、公知の燃料電池(特にアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池等)の構造と同様とすることができる。燃料極用の触媒としても、従来から知られている種々の金属、金属合金、金属錯体等を使用することができる。使用できる金属種としては、従来の固体高分子形燃料電池(PEFC)で使用される白金、パラジウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、金等の貴金属の他、ニッケル、銀、コバルト、鉄、銅、亜鉛等の卑金属等も挙げられる。これらの金属のなかから選ばれた単一の金属触媒や金属錯体、二種以上の金属の任意の組合せからなる合金や金属錯体の複合体を使用し得る。また、上記から選ばれる金属触媒と別の金属酸化物との複合触媒、触媒微粒子をカーボン、金属酸化物等の担体上に分散させた担持触媒として使用することもできる。
【0062】
一方、固体高分子形燃料電池用として、電解質としてアルカリ電解液、リン酸水溶液等ではなく電解質膜を使用する場合には、本発明の電気化学的酸素還元用触媒と高分子電解質膜とを公知の方法により一体化させて使用することができる。本発明の電気化学的酸素還元用触媒と電解質材料、炭素材料等を水や溶剤等で分散させたものを、電解質膜に塗布したり、基材に塗布した触媒層を電解質膜に転写させたり等により電解質膜に触媒層を形成してもよい。その他成分は上記したものを採用することができる。
【0063】
高分子電解質膜としては、パーフルオロカーボン系、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体系、ポリベンズイミダゾール系、第四級アンモニウム系をはじめとする各種イオン交換樹脂膜、無機高分子イオン交換膜、有機−無機複合体高分子イオン交換膜等を使用することができる。
【0064】
得られた膜−電極接合体の両面をカーボンペーパー、カーボンクロス等の集電体で挟んでセルに組み込むことによって、アルカリ形燃料電池セル、リン酸形燃料電池セル等を作製することも可能である。
【0065】
一方、金属空気電池における金属負極としては、亜鉛、アルミニウム、マグネシウム、鉄等の金属を使用し得る。具体的な金属負極の構造は、公知の金属空気電池と同様とすることができる。
【0066】
上記した構造の電池では、いずれの場合においても、空気極側には酸素又は空気を供給又は自然拡散させ得る。また、燃料電池(特にアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池等)には、燃料極側に燃料となる物質を供給し得る。燃料物質としては、水素ガスの他、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール類、ギ酸、水素化ホウ素塩、ヒドラジン、糖等の溶液を使用し得る。
【0067】
なお、本発明の電池が燃料電池(特にアルカリ形燃料電池、リン酸形燃料電池等)である場合の作動温度は、使用する電解質によって異なるが、通常0〜250℃程度であり、好ましくは10〜80℃程度である。
【実施例】
【0068】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。また、配位子のうち、ジヒドロジベンゾテトラアザアヌレンは、既報(Chemistry of Heterocyclic Compounds 1987, vol 23, pp316-320)にしたがって合成した。
【0069】
合成により得られた固体のASAP-MS(大気圧固体試料分析プローブ質量分析)やESI-MS(エレクトロスプレーイオン化質量分析)を測定し、観測されたピークと、原料の構造と行った化学反応から予想される生成物を照合して、目的物の合成を確認した。
【0070】
合成例1:ジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレン(TAA-NO2:C18H14N6O4, 分子量378)
【0071】
【化7】
【0072】
以下の式:
【0073】
【化8】
【0074】
で示されるニトロ前駆体(1−メチル−5−ニトロピリミジン−2(1H)−オン;232 mg, 1.5 mmol)とオルトフェニレンジアミン(162mg, 1.5 mmol)とを20 mLのメタノールに溶解し、40時間撹拌及び還流した。生じた赤橙色固体を濾過し、メタノールでよく洗浄した後、真空デシケーター中で一昼夜乾燥して目的物であるジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレン(TAA-NO
2)を得た。ASAP-MSを測定すると、目的物分子+Hのイオンであるm/z 379のピークが観測され、目的物の合成が確認された。
【0075】
比較例1:コバルトジベンゾテトラアザ[14]アヌレンの合成(CoTAA:C18H14CoN4,分子量345)
【0076】
【化9】
【0077】
テトラヒドロフラン(THF; 20 mL)に、以下の式:
【0078】
【化10】
【0079】
で示されるジヒドロジベンゾテトラアザ[14]アヌレン(28.8 mg, 0.1 mmol)と塩化コバルト六水和物(CoCl
2・6H
2O; 23.8 mg, 0.1 mmol)を加え、70℃で4時間溶液を攪拌及び還流した。溶媒を留去した後、水及びTHFで洗浄した。得られた黒色固体のESI-MSを測定すると、分子イオンであるm/z 345のピークが観測され、目的物の合成が確認された。
【0080】
比較例2:コバルトジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレンの合成(CoTAA-NO2:C18H12Co N6O4, 分子量435)
【0081】
【化11】
【0082】
ジメチルホルムアミド(DMF; 85 mL)に、合成例1で得たジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレン(37.8 mg, 0.1 mmol)と塩化コバルト六水和物(CoCl
2・6H
2O; 23.8 mg, 0.1 mmol)を加え、80℃で8時間溶液を攪拌した。溶媒を留去した後、水で洗浄し、濾過した。得られた固体をTHFで溶解し、再び濾過した後、濾液の溶媒を留去した。得られた黒色固体のESI-MSを測定すると、分子イオンであるm/z 435のピークが観測され、目的物の合成が確認された。
【0083】
実施例1:鉄ジベンゾテトラアザ[14]アヌレンの合成(FeTAA:C18H14FeN4, 分子量342)
【0084】
【化12】
【0085】
アルゴン雰囲気中で、THF(5 mL)に塩化鉄(II)四水和物(FeCl
2・4H
2O; 54 mg, 0.27 mmol)とトリフェニルアミン(195 mg, 0.80 mmol)を溶解し、室温で3時間撹拌した。同じくアルゴン雰囲気中で、以下の式:
【0086】
【化13】
【0087】
で示されるジヒドロジベンゾテトラアザ[14]アヌレン(75 mg, 0.26 mmol)をTHF(10 mL)に加え、60℃に温めて溶解した。配位子の溶液に上記の塩化鉄溶液を加え、60℃で30分溶液を攪拌及び還流した後、常温に戻して大気に開放し、15時間撹拌した。反応液を濾過し、濾過物をTHFで洗浄して、目的の黒色固体を得た。得られた固体のESI-MSを測定すると、二分子が会合した分子+Hのイオンであるm/z 685のピークが観測され、目的物の合成が確認された。
【0088】
実施例2:鉄ジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレンの合成(FeTAA-NO2:C18H12Fe N6O4, 分子量432)
【0089】
【化14】
【0090】
アルゴン雰囲気中で、ジメチルスルホキシド(DMSO; 80 mL)に、合成例1で得たジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレン(37.8 mg, 0.1 mmol)を加え、80℃に温めて溶解した。同じくアルゴン雰囲気中で、DMSO(10 mL)に塩化鉄(II)四水和物(FeCl
2・4H
2O; 22.0 mg, 0.11 mmol)とトリフェニルアミン(74.0 mg, 0.3 mmol)を溶解した。上記鉄溶液をジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレン溶液に加え、アルゴン雰囲気下、80℃で1時間溶液を攪拌した。その後常温に戻し大気中に開放した後、終夜反応を続けた。溶媒を留去した後、水で洗浄し、濾過した。得られた固体をアセトンで溶解し、この濾液の溶媒を留去した。得られた固体をジエチルエーテルで洗浄した。得られた固体のESI-MSを測定すると、分子イオンであるm/z 432のピークが観測され、目的物の合成が確認された。
【0091】
比較例3:コバルトジベンゾテトラアザ[14]アヌレン錯体担持カーボン触媒の作製
比較例1で得たコバルトジベンゾテトラアザ[14]アヌレン錯体の0.6 mMアセトン溶液20 mLにカーボンブラック(ケッチェンブラック、比表面積:800 m
2/g)を40 mg加え、超音波洗浄器で5分間分散させた。このケッチェンブラックを懸濁させた溶液を、マグネティックスターラーで3時間攪拌したのち、溶媒を留去した。真空デシケーター中で一昼夜乾燥させた後、カーボンブラックを回収してコバルトジベンゾテトラアザ[14]アヌレン錯体担持カーボン触媒を得た。
【0092】
比較例4:コバルトジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレン錯体担持カーボン触媒の作製
比較例1で得たコバルトジベンゾテトラアザ[14]アヌレン錯体の代わりに、比較例2で得たコバルトジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレン錯体を用いること以外は比較例3と同様に、コバルトジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレン錯体担持カーボン触媒を得た。
【0093】
実施例3:鉄ジベンゾテトラアザ[14]アヌレン錯体担持カーボン触媒の作製
比較例1で得たコバルトジベンゾテトラアザ[14]アヌレン錯体の代わりに、実施例1で得た鉄ジベンゾテトラアザ[14]アヌレン錯体を用いること以外は比較例3と同様に、鉄ジベンゾテトラアザ[14]アヌレン錯体担持カーボン触媒を得た。
【0094】
実施例4:鉄ジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレン錯体担持カーボン触媒の作製
比較例1で得たコバルトジベンゾテトラアザ[14]アヌレン錯体の代わりに、実施例2で得た鉄ジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレン錯体を用いること以外は比較例3と同様に、鉄ジベンゾジニトロテトラアザ[14]アヌレン錯体担持カーボン触媒を得た。
【0095】
試験例1:0.1 M NaOH中での触媒活性の評価
比較例3〜4及び実施例3〜4で得たコバルトテトラアザアヌレン錯体担持カーボン触媒又は鉄テトラアザアヌレン錯体担持カーボン触媒5 mgを0.98 mLの混合溶媒(水:エタノール=1: 1)に懸濁させたのち、20μLの5重量%のアニオン交換膜樹脂溶液(AS−4、(株)トクヤマ製)を加えた。この懸濁液を5分間超音波洗浄器に掛けることで、よく分散させた後、回転ディスク電極(表面積0.1256 cm
2)の上に6.3μLのせて乾燥させた。
【0096】
触媒の酸素還元活性評価はエー・エル・エス製のポテンショスタット(ALS model 760E)を用いて行った。回転数の制御はビー・エー・エス(株)製の回転数制御装置(BAS RRDE-3A)を用いて行った。触媒を塗布したグラッシーカーボンの回転ディスク電極を作用電極とし、白金電極を対極、可逆水素電極を参照電極として用いた。電解液としては0.1 M NaOHを用いた。測定は25℃で行った。
【0097】
酸素を電解セル中に15分間吹き込んだ後、電極を1600 rpmで回転させながらサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。このCVの結果を
図1(比較例4:CoTAA-NO
2、比較例3:CoTAA、実施例3:FeTAA、実施例4:FeTAA-NO
2)に示す。酸素還元電流が観測され、金属アヌレン錯体の触媒作用で電気化学的に酸素が還元されていることがわかる。
【0098】
特にコバルト錯体(比較例3〜4)よりも鉄錯体(実施例3〜4)の方が高い電位から酸素還元電流が観測される(過電圧が小さい)ことが分かった。また鉄錯体の中では、ニトロ基を導入したFeTAA-NO
2担持カーボン(実施例4)が最も過電圧が小さいことが分かった。ニトロ基を導入したほうが過電圧を小さくできることは、コバルト錯体とは異なる結果である。鉄錯体のいずれの曲線においても、電流値が0.2 mA/cm
2となる電位は、可逆水素電極基準で約0.94 V以上(特に実施例4の場合は約0.97 V)であり、本発明の触媒は、過電圧を著しく低減することができ、酸素還元活性が著しく改善されていることが理解できる。
【0099】
試験例2:0.1 M H2SO4中での触媒活性の評価
実施例3で得た鉄ジベンゾテトラアザ[14]アヌレン錯体担持カーボン触媒5 mgを0.98 mLの混合溶媒(水:エタノール=1: 1)に懸濁させたのち、20μLの5重量% Nafion溶液(Aldrich製)を加えた。この懸濁液を5分間超音波洗浄器に掛けることで、よく分散させた後、回転ディスク電極(表面積0.1256 cm
2)の上に6.3μLをのせて乾燥させた。
【0100】
触媒の酸素還元活性評価はエー・エル・エス製のポテンショスタット(ALS model 760E)を用いて行った。回転数の制御はビー・エー・エス(株)製の回転数制御装置(BAS RRDE-3A)を用いて行った。触媒を塗布したグラッシーカーボンの回転ディスク電極を作用電極とし、白金電極を対極、可逆水素電極を参照電極として用いた。電解液としては0.1 M H
2SO
4を用いた。測定は25℃で行った。
【0101】
酸素を電解セル中に15分間吹き込んだ後、電極を1600 rpmで回転させながらサイクリックボルタモグラム(CV)を測定した。このCVの結果を
図2(実施例3:FeTAA)に示す。酸素還元電流が観測され、金属アヌレン錯体の触媒作用で電気化学的に酸素が還元されていることがわかる。酸性中では、電流値が0.2 mA/cm
2となる電位は、可逆水素電極基準で約0.6 Vとなり、FeTAAは酸性中でも高い酸素還元活性を示すことがわかった。