(54)【発明の名称】細孔性高分子化合物、分離対象化合物の分離方法、単結晶、結晶構造解析用試料の作製方法、解析対象化合物の分子構造決定方法、及びキラル化合物の絶対配置の決定方法
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(ACCEL)「自己組織化技術に立脚した革新的分子構造解析」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
高橋麻奈ら,2 PA-193 水溶性M12L24球状錯体の内面官能基化,日本化学会第92春季年会(2012) 講演予稿集IV,公益財団法人 日本化学会,2012年 3月 9日,p. 1661,ISSN: 0285-7626
【文献】
佐藤宗太ら,1 S5-12特別企画講演 錯体ナノ空間の生体分子を使った自在修飾,日本化学会第93春季年会(2013) 講演予稿集I,公益財団法人 日本化学会,2013年 3月 8日,p. 133,ISSN: 0285-7626
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、1)新規細孔性高分子化合物、2)分離対象化合物の分離方法、並びに3)細孔性高分子化合物の単結晶、結晶構造解析用試料の作製方法、解析対象化合物の分子構造決定方法、及びキラル化合物の絶対配置の決定方法、に項分けして詳細に説明する。
なお、本明細書において、細孔性高分子化合物が有する細孔や中空を、「細孔性高分子化合物の細孔、中空」と表したり、「結晶の細孔、中空」と表したりすることがある。
【0017】
1)新規細孔性高分子化合物
本発明の細孔性高分子化合物は、三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、細孔及び/又は中空を有する細孔性高分子化合物であって、前記三次元骨格が、複数の、前記式(1)で示される糖誘導体(以下、「糖誘導体(α)」ということがある。)と、糖誘導体(α)の水酸基及び/又はエーテル結合と相互作用する、複数の陽イオンとを含み、かつ、前記陽イオンが、それぞれ、2以上の糖誘導体と相互作用して形成されたものであることを特徴とする。
【0018】
本発明の細孔性高分子化合物に含まれる三次元骨格は、結晶内部において、三次元的な広がりを有する骨格状の構造体であって、複数の糖誘導体(α)と、糖誘導体(α)の水酸基及び/又はエーテル結合と相互作用する、複数の陽イオンとを含み、かつ、前記陽イオンが、それぞれ、2以上の糖誘導体と相互作用して形成されたものである。
本発明の細孔性高分子化合物に含まれる糖誘導体(α)と陽イオンの数は、細孔性高分子化合物が結晶として存在している限り特に限定されない。
「細孔」、「中空」は結晶内における内部空間を表す。筒状に伸びている内部空間を「細孔」といい、それ以外の内部空間を「中空」という。
【0019】
本発明の細孔性高分子化合物の三次元骨格を構成する糖誘導体(α)は、下記式(1)で示される化合物である。
【0021】
式(1)中、Aは、炭素数5〜30、好ましくは5〜15の糖残基を表す。糖残基とは、糖分子のいずれかの水酸基を除いた残りの部分からなる基をいい、糖誘導体(α)の合成が容易であることから、ヘミアセタール構造中の水酸基を除いた部分からなる基が好ましい。
Aの糖残基としては、単糖類又は多糖類の糖残基が挙げられる。多糖類としては、二糖類、三糖類、四糖類等が挙げられるが、入手容易性、取り扱い性の観点から、単糖類、二糖類が好ましい。また、前記単糖類及び多糖類には、光学異性体が存在し得るが、いずれかの光学異性体のみからなるものであっても、光学異性体混合物であってもよいが、いずれかの光学異性体のみからなるものが好ましい。
【0022】
単糖類の糖残基としては、アロース残基、アルトロース残基、ガラクトース残基、グルコース残基、グロース残基、イドース残基、マンノース残基、タロース残基、アラビノース残基、アベクォース残基、フコース残基、リキソース残基、ミカロース残基、キノボース残基、ラムノース残基、リボース残基、パラトース残基、キシロース残基等が挙げられる。
二糖類の糖残基としては、セロビオース残基、ラクトース残基、マルトース残基、メリビオース残基、マルチトール残基等が挙げられる。
三糖類以上のオリゴ糖の糖残基としては、ニゲロトリオース残基、マルトトリオース残基、メレジトース残基、マルトトリウロース残基、マルトトリウロース残基、ケストース残基、ラフィノース残基、ニストース残基、ニゲロテトラオース残基、スタキオース残基等が挙げられる。
これらの中でも、二糖類、単糖類の糖残基が好ましく、単糖類の糖残基がより好ましく、マンノース残基又はグルコース残基がさらに好ましい。
【0023】
式(1)中、Xは、酸素原子又は硫黄原子を表す。これらの中でも、糖誘導体(α)の合成が容易であることから、酸素原子が好ましい。
【0024】
式(1)中、Qは、Xを介してAと結合を形成する炭素数2〜40、好ましくは2〜20のn価の有機基を表す。
Qの有機基としては、より安定な細孔性高分子化合物が得られ易いことから、芳香環を有するものが好ましい。また、一般的に、Qが大きくなるにつれて、Aの糖残基が互いに離れて存在するため、相対的に細孔や中空が大きい細孔性高分子化合物が得られ易くなる。
【0025】
Qの有機基としては、下記式(2)で示される2価の基、又は下記式(3)で示される3価の基等が挙げられる。式(2)、(3)中、「*」は、Xとの結合位置を表す。
【0027】
式(2)中、Ar
1は2価の芳香族基を表す。
Ar
1を構成する炭素原子の数は、通常3〜22、好ましくは3〜13、より好ましくは3〜6である。
Ar
1としては、単環構造を有する2価の芳香族基や、芳香環が2個以上縮合してなる縮合環構造を有する2価の芳香族基が挙げられる。
【0028】
単環構造を有する2価の芳香族基としては、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、ピリジン−2,5−ジイル基、ピラジン−2,5−ジイル基、等が挙げられる。
【0029】
芳香環が2個以上縮合してなる縮合環構造を有する2価の芳香族基としては、下記式(2a)〜(2d)で示される基が挙げられる。式(2a)〜(2d)において、「*」は、それぞれ、Y
1、Y
2との結合位置を表す。
【0031】
Ar
1は、これらの芳香族基の任意の位置に置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、t−ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。
Ar
1としては、p−フェニレン基が特に好ましい。
【0032】
式(3)中、Ar
2は3価の芳香族基を表す。
Ar
2を構成する炭素原子の数は、通常3〜22、好ましくは3〜13、より好ましくは3〜6である。
【0033】
Ar
2としては、6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する3価の芳香族基が挙げられる。
【0034】
6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する3価の芳香族基としては、下記式(3a)〜式(3d)で示される基が挙げられる。なお、式(3a)〜式(3d)において、「*」は、それぞれ、Y
3〜Y
5との結合位置を表す。
【0036】
Ar
2は、これらの芳香族基の任意の位置に置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n−プロピル基、t−ブチル基等のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;等が挙げられる。
Ar
2としては、式(3a)で示される基が好ましい。
【0037】
式(2)、(3)中、Y
1〜Y
5は、それぞれ独立に、2価の有機基、又は単結合を表す。
2価の有機基は、Ar
1又はAr
2とともに、π電子共役系を構成し得るものが好ましい。Y
1〜Y
5で表される2価の有機基がπ電子共役系を構成することで、糖誘導体(α)の平面性が向上し、より強固な三次元骨格が形成され易くなる。
2価の有機基を構成する炭素原子の数は、2〜18が好ましく、2〜12がより好ましく、2〜6がさらに好ましい。
【0038】
2価の有機基としては、炭素数2〜10の2価の不飽和脂肪族基、6員芳香環1つからなる単環構造を有する2価の有機基、6員芳香環が2〜4個縮合してなる縮合環構造を有する2価の有機基、アミド基〔−C(=O)−NH−〕、エステル基〔−C(=O)−O−〕、これらの2価の有機基の2以上の組み合わせ等が挙げられる。
【0039】
炭素数2〜10の2価の不飽和脂肪族基としては、ビニレン基、アセチレン基(エチニレン基)等が挙げられる。
6員環の芳香環1つからなる単環構造を有する2価の有機基、6員環の芳香環が2〜4個縮合してなる縮合環構造を有する2価の有機基としては、Ar
1で示したものと同様のものが挙げられる。
これらの2価の有機基の2以上の組み合わせとしては、下記のものが挙げられる。
【0041】
これらの芳香環は、環内に、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。
また、2価の有機基は、置換基を有するものであってもよい。かかる置換基としては、Ar
1、Ar
2の置換基として先に示したものと同じものが挙げられる。
【0042】
式(2)、式(3)で示される基中の、Ar
1、Ar
2、Y
1〜Y
5を適宜選択することで、細孔性高分子化合物の細孔や中空の大きさを調節することができる。この方法を利用することで、対象化合物の分子を包接し得る大きさの細孔や中空を有する細孔性高分子化合物を効率よく得ることができる。
【0043】
式(1)中、nは2〜4の整数、好ましくは2または3である。複数のA、X同士は、それぞれ互いに同一であってもよいし、相異なっていてもよい。
【0044】
糖誘導体(α)としては、下記式で示される化合物が好ましい。
【0046】
式中、A
1は、糖類の糖残基を表し、単糖類の糖残基が好ましく、マンノース残基又はグルコース残基がより好ましい。
【0047】
糖誘導体(α)は、絶対配置が既知のキラル化合物であってもよい。後述するように、絶対配置が既知のキラル化合物である糖誘導体(α)を用いて得られる細孔性高分子化合物の単結晶を用いることで、キラル化合物(対象化合物)の絶対配置を決定することができる。
【0048】
糖誘導体(α)は、例えば、Qに相当する水酸基を含有する化合物と、糖のアセチル化物とを触媒の存在下で反応させることにより合成することができる。
【0049】
陽イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等の周期表第1族の金属イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン等の周期表第2族の金属イオン;鉄イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン、銀イオン、パラジウムイオン、ルテニウムイオン、ロジウムイオン、白金イオン等の周期表第8〜12族の金属のイオン;テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等のアンモニウムイオン;テトラメチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム等のホスホニウムイオン;等が挙げられる。
これらの中でも、周期表第1族の金属イオン(アルカリ金属イオン)が好ましい。
【0050】
本発明の細孔性高分子化合物には、多数の糖誘導体(α)及び多数の陽イオンが含まれる。陽イオンは、糖誘導体(α)の水酸基及び/又はエーテル結合と相互作用して、細孔性高分子化合物の三次元骨格を形成する。1の陽イオンは周囲の2以上の糖誘導体(α)と相互作用する。このような相互作用により、糖誘導体(α)は特定のコンフォメーションに固定され、三次元骨格が形成される。
【0051】
このとき、糖誘導体(α)は、電気的に中性の化合物であってもよいし、脱プロトン化してアニオンになっていてもよい。この状態は、例えば、陽イオンのルイス酸性度等の影響を受けると考えられるが、通常は、糖誘導体(α)は電気的に中性の化合物である。
陽イオンとの相互作用における糖誘導体(α)の役割としては、水素結合ドナー、水素結合アクセプター、ルイス塩基等が挙げられる。
例えば、ナトリウムイオンは、糖誘導体(α)の水酸基及び/又はエーテル結合の酸素原子と相互作用することができる。
【0052】
糖誘導体(α)が電気的に中性の化合物である場合、本発明の細孔性高分子化合物には通常、陰イオンが含まれる。この陰イオンは、前記陽イオンの対イオンであり、これにより電気的なバランスが保たれる。
【0053】
陰イオンとしては、水酸化物イオン(OH
−)、塩化物イオン(Cl
−)、臭化物イオン(Br
−)、ヨウ化物イオン(I
−)、チオシアン酸イオン(SCN
−)等の1価の陰イオン;酸化物イオン(O
2−)等の2価の陰イオン;ケギン型POM(ポリオキソメタレート)〔[PMo
12O
40]
3−等〕等の多核クラスター;等が挙げられる。
【0054】
陰イオンは、糖誘導体(α)の水酸基の水素原子、酸素原子やエーテル結合の酸素原子と相互作用することができる。例えば、水酸化ナトリウム中の水酸化物イオンは、その酸素原子、水素原子が、それぞれ、糖誘導体(α)の水酸基の水素原子、酸素原子と相互作用することができる。
【0055】
また、本発明の細孔性高分子化合物は、前記陽イオン及び陰イオンの他に、電気的に中性の化合物を含んでいてもよい。電気的に中性の化合物としては、水、アンモニア、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、エチレンジアミン等の配位性化合物が挙げられる。
【0056】
陽イオン、陰イオン、又は電気的に中性の化合物が、かさ高いものである場合、相対的に細孔や中空が大きい細孔性高分子化合物が得られ易くなる。
【0057】
本発明の細孔性高分子化合物は、その細孔及び/又は中空にゲスト分子が包含されたものであってもよい。かかるゲスト分子は、例えば、合成時に用いた溶媒分子が挙げられる。なお、このゲスト分子は、他の分子と交換可能なものであり、例えば、このゲスト分子と親和性の高い溶媒に細孔性高分子化合物を浸漬させると、ゲスト分子が、細孔及び/又は中空から放出される。
【0058】
細孔性高分子化合物の合成方法は特に限定されず、公知の方法を利用することができる。
例えば、2012年9月発行のシグマアルドリッチ社パンフレット(材料科学の基礎 第7号−多孔性配位高分子(PCP)/金属有機構造体(MOF)の基礎)には、多座配位子等を含有する溶液と、金属イオン等を含有する溶液を混合する溶液法;耐圧容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、耐圧容器を密封した後、溶媒の沸点以上に加熱して水熱反応を行う水熱法;容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、マイクロ波を照射するマイクロ波法;容器内に、溶媒、多座配位子、金属イオン等を入れ、超音波を照射する超音波法;溶媒を用いることなく、多座配位子、金属イオン等を機械的に混合する固相合成法;等が記載されており、これらの方法を用いて、細孔性高分子化合物を得ることができる。
【0059】
これらの中でも、特別の装置等を要しないことから、溶液法が好ましく用いられる。
溶液法としては、例えば、糖誘導体(α)の溶液に、陽イオンを生じる原料化合物(以下、単に「原料化合物」ということがある。)の溶液を加え、このまま、0〜70℃で、数時間から数日間、静置する方法が挙げられる。
糖誘導体(α)と原料化合物の使用割合は、(糖誘導体(α):原料化合物)のモル比で、通常、1:1〜1:1000、好ましくは1:1〜1:50である。
糖誘導体(α)の溶液の濃度は特に限定されないが、通常、0.0001〜10モル/L、好ましくは0.001〜0.1モル/Lである。
原料化合物の溶液の濃度は特に限定されないが、通常、0.0001〜10モル/L、好ましくは0.001〜0.1モル/Lである。
【0060】
原料化合物は、溶解することで陽イオンを生じさせるものであれば、特に制限されない。例えば、式:M
X’mで示される化合物が挙げられる。ここで、Mは金属イオン等の陽イオンを表し、
X’は陰イオンを表し、mはMの価数を表す。
【0061】
前記Mの具体例としては、特に限定されないが、例えば、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+等の周期表第1族の金属のイオン;Be
2+、Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+、Ba
2+等の周期表第2族の金属のイオン;Fe
2+、Fe
3+、Co
2+、Co
3+、Ni
2+、Cu
2+、Zn
2+、Ag
+、Pd
2+、Ru
2+、Ru
3+、Rh
2+、Rh
3+、Pt
2+等の周期表第8〜12族の金属のイオン;テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム等のアンモニウムイオン;テトラメチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム等のホスホニウムイオン;等が挙げられる。
【0062】
前記
X’の具体例としては、特に限定されないが、例えば、OH
−、F
−、Cl
−、Br
−、I
−、SCN
−、NO
3−、ClO
4−、BF
4−、SbF
4−、PF
6−、AsF
6−、CH
3CO
2−等が挙げられる。
【0063】
用いる反応溶媒(糖誘導体(α)の溶液の溶媒及び原料化合物の溶液の溶媒)としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N−ジメチルホルムアミド、n−メチルピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチルセロソルブ等のセロソルブ類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;水;等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、水、エタノール、メタノール、ジエチルエーテル、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフランが好ましい。
【0064】
後述するように、本発明の細孔性高分子化合物は、分離対象化合物を分離する際の吸収体や、結晶構造解析用試料を作製する際に用いる結晶スポンジとして利用することができる。
【0065】
2)分離対象化合物の分離方法
本発明の方法は、前記細孔性高分子化合物を、分離対象化合物を含む混合物と接触させ、分離対象化合物の分子を細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に取り込ませることを特徴とする。
【0066】
細孔性高分子化合物を、分離対象化合物を含む混合物と接触させ、分離対象化合物の分子を細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に取り込ませる方法としては、後述する結晶構造解析用試料の作製方法におけるものと同様のものを利用することができる。
すなわち、本発明の方法においては、単結晶を使用する必要が無く、また、分離対象化合物が、細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に規則性をもって収容される必要が無い点を除き、本発明の方法と、結晶構造解析用試料の作製方法においては、同様の操作により細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に対象化合物の分子を取り込ませる。
したがって、本発明の方法における、細孔性高分子化合物と混合物との接触条件は、後述する結晶構造解析用試料の作製方法における接触条件を利用することができる。また、本発明の方法においては、高濃度の分離対象化合物の溶液を用いたり、接触時間を短くしたりして、分離対象化合物の分子を、細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に乱雑に収容してもよい。
【0067】
本発明の方法においては、細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に分離対象化合物の分子を取り込ませた後、細孔性高分子化合物を、分離対象化合物と親和性のある溶媒に浸漬することで、取り込まれた分離対象化合物の分子が溶媒中に放出される。したがって、例えば、分離対象化合物の分子を溶媒中に放出させた後、細孔性高分子化合物を濾別し、得られた濾液から溶媒を揮発させることにより、高純度の分離対象化合物を得ることができる。
【0068】
3)細孔性高分子化合物の単結晶、結晶構造解析用試料の作製方法、解析対象化合物の分子構造決定方法、及びキラル化合物の絶対配置の決定方法
【0069】
〔細孔性高分子化合物の単結晶〕
本発明の単結晶は、前記細孔性高分子化合物からなるものである。
細孔性高分子化合物の単結晶とは、前記三次元骨格と、該三次元骨格によって仕切られて形成された、三次元的に規則正しく整列した細孔及び/又は中空を有するものをいう。
「三次元的に規則正しく整列した、細孔及び/又は中空」とは、結晶構造解析によって、細孔や中空を確認することができる程度に乱れなく、規則的に整列している細孔や中空をいう。
【0070】
本発明の単結晶は、従来の細孔性高分子化合物の単結晶の調製方法と同様の方法を利用して合成することができる。例えば、先に示した細孔性高分子化合物の合成方法において、糖誘導体(α)の溶液の溶媒と、原料化合物の溶液の溶媒として、互いに相溶性を有さない(すなわち、2層分離する)ものを用いたり、これらの溶液を層状にして静置したり、より低濃度の条件を用いて合成したりすることにより得ることができる。
【0071】
細孔の大きさは、細孔が延在する方向に対して、最も垂直に近い結晶面と平行な面(以下、平行面ということがある。)における細孔の内接円(以下、単に「細孔の内接円」ということがある。)の直径と相関がある。内接円が大きければ、細孔も大きくなり、内接円が小さければ、細孔も小さくなる。
【0072】
「細孔が延在する方向」は、以下の方法により決定することができる。
すなわち、まず、対象の細孔を横切る適当な方向の結晶面X(A面、B面、C面かそれぞれの対角面など)を選ぶ。そして、結晶面X上に存在し、かつ、三次元骨格を構成する原子を、ファンデルワールス半径を用いて表すことで、結晶面Xを切断面とする細孔の断面図を描く。同様に、当該結晶面Xと一単位胞ずれた結晶面Yを切断面とする細孔の断面図を描く。次に、それぞれの結晶面における細孔の断面形状の中心間を、立体図において直線(一点鎖線)で結ぶ(
図1参照)。このとき得られる直線の方向が、細孔が延在する方向である。
【0073】
また、「細孔の内接円の直径」は、以下の方法により求めることができる。
すなわち、まず、上記と同様の方法により、前記平行面を切断面とする細孔の断面図を描く。次に、その断面図において細孔の内接円を描き、その直径を測定した後、得られた測定値を実際のスケールに換算することで、実際の細孔の内接円の直径を求めることができる。
さらに、前記平行面を、一単位胞分、徐々に平行移動させながら、各平行面における細孔の内接円の直径を測定することで、最も狭い部分の内接円の直径と、最も広い部分の内接円の直径が求められる。
単結晶の細孔の内接円の直径は、2〜30Åが好ましく、3〜10Åがより好ましい。
【0074】
また、細孔の形状が真円とは大きく異なる場合、上記平行面における細孔の内接楕円の短径及び長径から、単結晶の包接能を予測することが好ましい。
単結晶の細孔の内接楕円の長径は、2〜30Åが好ましく、3〜10Åがより好ましい。また、単結晶の細孔の内接楕円の短径は、2〜30Åが好ましく、3〜10Åがより好ましい。
【0075】
単結晶の細孔容積は、論文(A):Acta Crystallogr.A 46,194−201(1990)に記載の手法により求めることができる。すなわち、計算プログラム(PLATON SQUEEZE PROGRAM)により算出したSolvent Accessible Void(単位格子内の空隙体積)をもとに「単結晶の体積×単位胞における空隙率」を用いて計算することができる。
単結晶の細孔容積(一粒の単結晶中のすべての細孔の容積)は、1×10
−7〜0.1mm
3が好ましく、1×10
−5〜1×10
−3mm
3がより好ましい。
【0076】
また、単結晶が中空を有する場合、その中空の大きさも、細孔容積と同様に、上記論文(A)に記載の手法により求めることができる。
【0077】
単結晶は、立方体または直方体形状を有するものが好ましい。その一辺は、好ましくは10〜1000μm、より好ましくは、60〜200μmである。このような形状、大きさの単結晶を用いることで、良質の結晶構造解析用試料が得られ易くなる。
【0078】
単結晶は、三次元骨格(いわゆるホスト分子)のみからなるものであってもよいし、三次元骨格と、細孔及び/又は中空内に、交換可能な分子(いわゆるゲスト分子)とを有するものであってもよい。
【0079】
単結晶は、管電圧が24kV、管電流が50mAで発生させたMoKα線(波長:0.71Å)を照射し、回折X線をCCD検出器で検出したときに、少なくとも1.5Åの分解能で分子構造を決定できるものが好ましい。かかる特性を有する単結晶を用いることで、良質の結晶構造解析用試料が得られ易くなる。
【0080】
単結晶は、絶対配置が既知のキラル化合物である糖誘導体(α)を用いて得られたものであってもよい。後述するように、そのような単結晶を用いることで、キラル化合物(対象化合物)の絶対配置を決定することができる。
【0081】
〔結晶構造解析用試料の作製方法〕
本発明の結晶構造解析用試料の作製方法は、前記単結晶を解析対象化合物と接触させ、解析対象化合物の分子を、細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に規則的に配列させることを特徴とする。
【0082】
解析対象化合物の大きさは、解析対象化合物が単結晶の細孔及び/又は中空に入り得る大きさのものである限り、特に限定されない。解析対象化合物の分子量は、通常、20〜3,000、好ましくは100〜2,000である。
【0083】
本発明においては、あらかじめ、核磁気共鳴分光法、質量分析法、元素分析等により、解析対象化合物の分子の大きさをある程度把握し、適した大きさの細孔や中空を有する単結晶を適宜選択して用いることも好ましい。
【0084】
単結晶と、前記解析対象化合物を接触させる方法は特に限定されない。例えば、解析対象化合物の溶液を調製し、単結晶をこの溶液と接触させる方法や、解析対象化合物が液体又は気体である場合は、直接、単結晶を解析対象化合物と接触させる方法、により解析対象化合物の分子を細孔性高分子化合物の細孔及び/又は中空内に取り込ませることができる。なかでも、より良質の結晶構造解析用試料が得られ易いことから、解析対象化合物の溶液を調製し、単結晶をこの溶液と接触させる方法が好ましい。
また、解析対象化合物を含む溶液を用いる場合や、解析対象化合物が液体である場合は、前記単結晶を解析対象化合物を含む溶液等に浸漬させる方法、前記単結晶をキャピラリーの中に詰めた後、解析対象化合物を含む溶液等を、そのキャピラリー内を通過させる方法等により、接触操作を行うことができる。
【0085】
解析対象化合物を含む溶液の溶媒は、用いる単結晶を溶解せず、かつ、解析対象化合物を溶解するもののなかから適宜選択される。
用いる溶媒の具体例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン等の芳香族炭化水素類;n−ブタン、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素類;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;ジメチルスルホキシド(DMSO)等のスルホキシド類;N,N−ジメチルホルムアミド、n−メチルピロリドン等のアミド類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;エチルセロソルブ等のセロソルブ類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類;水;等が挙げられる。これらの溶媒は一種単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0086】
用いる解析対象化合物の量は特に限定されないが、通常、1ngから100g、好ましくは1μg〜1gである。
接触させる時間は特に限定されないが、通常、1分から50日、好ましくは6時間から7日間である。
接触時の温度は特に限定されないが、通常、−20〜150℃、好ましくは0〜50℃である。
【0087】
本発明の方法により得られる結晶構造解析用試料は、前記単結晶の細孔及び/又は中空内に、解析対象化合物の分子が規則的に配列されてなるものである。
「解析対象化合物の分子が、規則的に配列される」とは、解析対象化合物の分子が、結晶構造解析によって構造を決定することができる程度に乱れなく、単結晶の細孔及び中空内に規則正しく収容されていることをいう。
解析対象化合物の分子を単結晶の細孔及び中空内に規則正しく収容する方法は特に限定されないが、例えば、比較的低濃度の解析対象化合物の溶液を用いたり、接触時間を十分に長くしたりすることにより、解析対象化合物の分子が規則的に配列されてなる結晶構造解析用試料が得られ易くなる。
【0088】
結晶構造解析用試料は、管電圧が24kV、管電流が50mAで発生させたMoKα線(波長:0.71Å)を照射し、回折X線をCCD検出器で検出したときに、少なくとも1.5Åの分解能で分子構造を決定できるものが好ましい。
【0089】
結晶構造解析用試料は、解析対象化合物の分子構造を決定することができるものであれば、前記単結晶中のすべての細孔及び中空内に解析対象化合物の分子が取り込まれている必要はない。例えば、前記単結晶中の細孔及び中空内の一部に、解析対象化合物を含む溶液に用いた溶媒が取り込まれたものであってもよい。
【0090】
結晶構造解析用試料は、解析対象化合物の分子の占有率が10%以上のものであることが好ましい。
占有率は、結晶構造解析により得られる値であり、理想的な包接状態におけるゲスト分子〔解析対象化合物の分子〕の量を100%としたときの、単結晶中に実際に存在するゲスト分子の量を表すものである。
【0091】
また、解析対象化合物が、キラル化合物である場合、絶対配置が既知のキラル化合物である糖誘導体(α)を用いて得られた単結晶を用いることで、キラル化合物の絶対配置を決定するための結晶構造解析用試料を作製することができる。
【0092】
〔解析対象化合物の分子構造決定方法〕
本発明の解析対象化合物の分子構造決定方法は、前記方法で得られる結晶構造解析用試料を用いて、解析対象化合物の結晶構造解析を行うことを特徴とする。
本発明の方法においては、X線回折、中性子線回折のいずれの方法も利用することができる。
本発明の方法により解析対象化合物の分子構造を決定する際は、従来の単結晶の代わりに、前記方法で得られた結晶構造解析用試料をマウントする点を除き、従来と同様の方法を用いることができる。
【0093】
〔キラル化合物の絶対配置の決定方法〕
本発明のキラル化合物の絶対配置の決定方法は、前記分子構造決定方法と同様の操作を行うものであるが、解析対象化合物がキラル化合物であり、用いる単結晶が絶対配置が既知のキラル化合物である糖誘導体(α)を用いて得られたものである点で相違する。
【0094】
一般に、X線結晶構造解析法によれば、各原子間の相対的な位置関係及び各原子間の距離などは把握できるが、キラル化合物の絶対配置を決定するのは困難である。
一方、本発明の決定方法によれば、糖誘導体(α)の絶対配置が既知であるため、糖誘導体(α)との相対的な位置関係に基いて、目的のキラル化合物の絶対配置を容易に決定することができる。
すなわち、従来行われてきた、不斉補助基を利用する絶対配置の決定方法(絶対配置が既知の不斉補助基をキラル化合物の分子に導入し、この不斉補助基との相対的な位置関係から目的のキラル化合物の絶対配置を決定する方法)と同様にして、キラル化合物の絶対配置を決定することができる。
【0095】
本発明の方法によれば、キラル化合物の絶対配置を効率よく決定することができる。
特に、本発明の方法は、キラル化合物が微量の場合であっても、利用することができるため、農医薬品及びその原料に含まれる微量の不純物や各種代謝物の絶対配置を効率よく決定することができる。
【実施例】
【0096】
以下、実施例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。以下においては、「糖誘導体」を「配位子」ということがある。
【0097】
(機器類)
(1)単結晶X線構造解析
Bruker社製 APEX II/CCD diffractometer〔線源:Mo−Kα線(波長0.71Å)、出力:50mA、24kV〕を用いて行った。
(2)元素分析
YANACO社製 MT−6を用いて行った。
(3)NMR測定
Bruker社製DRX−500を用いて行った。
(4)ESI−mass測定
Bruker社製maXisを用いて行った。
【0098】
〔製造例1〕配位子1の合成
【0099】
【化8】
【0100】
ペンタ−O−アセチル−D−マンノース(1.95g,5.00mmol)、ハイドロキノン(275mg,2.50mmol)を、50mlナスフラスコ内で、ジクロロメタン20mlに溶解させ、得られた溶液に、三フッ化ホウ素−ジエチルエーテル錯体(0.63mL)を加え、20℃で24時間攪拌した。反応溶液を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(40mL)および水(20mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、その溶媒をロータリーエバポレーターで留去した。
粗生成物をリサイクル式サイズ排除クロマトグラフィーで精製し、配位子1のデカ−O−アセチル体を得た(収量1.0g、収率52%)。
【0101】
次に、配位子1のデカ−O−アセチル体(200mg,0.26mmol)とナトリウムメトキシド(1.5mg,0.026mmol)を10mlのメタノールに溶解させ、20℃で1時間攪拌した。得られた溶液をイオン交換樹脂Dowex 50x2−200を通して中和した後、不溶分を濾別し、濾液中の揮発成分をロータリーエバポレーターで留去して、配位子1を得た(収量110mg、収率98%)。
配位子1の物性値を以下に示す。
【0102】
1H−NMR(500MHz,MeOD):δ(ppm)7.05(s,4H,Ar−H),5.37(d,J=1.5Hz,2H,H
1),3.99(dd,J
1−2=1.5Hz,J
2−3=3.5Hz,2H,H
2),3.88(dd,J
3−2=3.5Hz,J
3−4=9.5Hz,2H,H
3),3.79−3.70(m,6H,H
4、H
6),3.62(ddd,J
5−6=2.5Hz,J
5−6=4.5Hz,J
5−4=7Hz,2H,H
5)
13C−NMR(125MHz,MeOD):δ(ppm)153.3,119.0,100.9,75.3,72.4,72.1,68.4,62.7
IR(cm
−1)3327(br),1505(s),1434(m),1210(s),1117(s),1049(m),1005(s),975(s),883(m),824(m),776(m),721(m),676(m)
ESI mass m/z calcd for C
18H
26O
12:457.1316 [M+Na]
+;found:457.1319
Elemental analysis(%):calcd for C
18H
26O
12・H
2O:C47.79,H6.24,N0.00;found:C47.89,H6.29,N0.00.
【0103】
〔製造例2〕配位子2の合成
【0104】
【化9】
【0105】
ペンタ−O−アセチル−D−マンノース(3.96g,10.15mmol)、1,3,5−トリ(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン(1.2g,3.36mmol)を、200mlナスフラスコ内で、ジクロロメタン120mlに溶解させ、得られた溶液に、三フッ化ホウ素−ジエチルエーテル錯体(16.8mL)とトリエチルアミン510mgを加え、60℃で38時間攪拌した。反応溶液を5%炭酸水素ナトリウム水溶液(40mL)および水(20mL)で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した後、その溶媒をロータリーエバポレーターで留去した。
粗生成物をリサイクル式サイズ排除クロマトグラフィーで精製し、配位子2のペンタデカ−O−アセチル体を得た(収量3.0g、収率67%)。
【0106】
次に配位子2のペンタデカ−O−アセチル体(800mg,0.595mmol)とナトリウムメトキシド(6.7mg,0.12mmol)を100mlのメタノールに溶解させ、20℃で3時間攪拌した。得られた溶液をイオン交換樹脂Dowex 50を通し中和した後、不溶分を濾別し、濾液中の揮発成分をロータリーエバポレーターで留去して、配位子2を得た(収量490mg、収率98%)
配位子2の物性値を以下に示す。
【0107】
1H−NMR(500MHz,MeOD):δ(ppm)7.66(s,3H,Ar−H),7.64(d,J=8.5Hz,6H,Ar−H),7.23(d,J=8.5Hz,6H,Ar−H),5.52(dd,J
1−2=1.5Hz,3H,H
1),4.04(dd,J
2−1=1.5Hz,J
2−3=3.5Hz,3H,H
2),3.94(dd,J
3−2=3.5Hz,J
3−4=9Hz,3H,H
3)3.81−3.72(m,9H,H
4andH
6),3.66−3.63(m,3H,H
5)
13C−NMR(125MHz,CDCl
3):δ(ppm)157.6,143.1,136.6,129.4,124.8,118.2,75.4,72.4,72.0,68.4,62.7
IR(cm
−1)3332(br),2906(m),1607(m),1507(s),1444(m),1224(s),1181(m),1097(m),1000(s),986(s),883(m),825(m),782(m),670(m)
ESI mass m/z calcd for C
42H
48O
18:863.27[M+Na]
+;found:863.70.
【0108】
〔製造例3〕配位子3の合成
【0109】
【化10】
【0110】
以下の文献に記載の方法に従って、配位子3を合成した。
Xu,Z.;Lee,S.;Lobkovsky,E.B.;Kiang,Y.−H.J.Am.Chem.Soc.2002,124,121−135
【0111】
〔実施例1〕
内径1cm、高さ10cmの試験管に、配位子1(8.7mg,0.02mmol)の水1mL/エタノール4mL溶液を入れ、その上に1mLのジエチルエーテルを静かに流し、さらにその上に水酸化ナトリウム水溶液(4.8mg/1mL)を静かに流し入れた。試験管にキャップをして20℃で1週間静置したところ、試験管の壁面に結晶が析出した。これを濾取し(収量14mg、収率85%)、各種測定を行った。
【0112】
【化11】
【0113】
物性値を以下に示す。
IR(cm
−1):3390(br),1507(s),1355(m),1208(s),1115(m),1020(m),1067(m),1047(m),1015(s),950(s),923(m),880(m),823(m),779(m),720(m),683(m)
Elemental analysis:calcd for [(C
18H
26O
12)(NaOH)(EtOH)
0.5(H
2O)
3]
n:C41.38,H6.58,N0.00;found:C41.52,H6.40,N0.00
【0114】
結晶構造解析結果を第1表及び
図2に示す。なお、
図2から後述する
図8は、別途カラー図面を物件提出書により提出する
【0115】
【表1】
【0116】
〔実施例2〕
内径1cm、高さ10cmの試験管に、配位子1(8.7mg,0.02mmol)の水1mL/エタノール4mL溶液を入れ、その上に1mLのジエチルエーテルを静かに流し、さらにその上に水酸化カリウム水溶液(6.7mg/1mL)を静かに流し入れた。試験管にキャップをして20℃で1週間静置したところ、試験管の壁面に結晶が析出した。これを濾取し(収率84%)、各種測定を行った。
【0117】
【化12】
【0118】
物性値を以下に示す。
IR(cm
−1):3212(br),2921(m),1507(s),1225(s),1116(s),1020(s),976(s),822(s),669(m),625(m)
Elemental analysis:calcd for [(C
18H
26O
12)(KOH)(EtOH)(H
2O)
3]
n:C41.38,H6.58,N0.00;found:C41.52,H6.40,N0.00.
【0119】
結晶構造解析結果を第2表及び
図3に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
〔実施例3〕
内径1cm、高さ10cmの試験管内で、配位子2(16.8mg,0.02mmol)と水酸化ルビジウム(3.1mg,0.03mmol)を、水1mL/エタノール1mL/ジメチルスルホキシド1mLの混合溶媒に溶解させた。得られた溶液の上に、1mLのジエチルエーテルを静かに流し、さらにその上に3mlのメタノールを静かに流し入れた。試験管にキャップをして20℃で1週間静置したところ、試験管の壁面に結晶が析出した。これを濾取し、各種測定を行った。
【0122】
物性値を以下に示す。
IR(cm
−1):3344(br),2900(m),1607(s),1508(s),1396(m),1227(s),1181(m),1112(m),1067(m),1045(m),1009(s),976(s),885(m),826(s),784(m),684(m)
【0123】
結晶構造解析結果を第3表及び
図4に示す。
【0124】
【表3】
【0125】
〔実施例4〕
内径1cm、高さ10cmの試験管内で、配位子3(21.9mg,0.05mmol)と水酸化ナトリウム(80mg,2mmol)を1mLの水に溶解させた。得られた溶液の上に0.5mLのジエチルエーテルを静かに流し、さらにその上に4mLのエタノールを静かに流し入れた。試験管にキャップをして20℃で1週間静置したところ、試験管の壁面に結晶が析出した。これを濾取し(収量27mg、収率93%)、各種測定を行った。
【0126】
【化13】
【0127】
物性値を以下に示す。
IR(cm
−1):3410(br),1611(m),1506(s),1379(m),1348(m),1309(m),1222(m),1156(m),1112(m),1092(m),1062(s),1007(s),909(m),826(m),794(m),675(m),637(m),623(m),576 (m)
Elemental analysis:calcd for [(C
18H
26O
12)(NaOH)
2(H
2O)
3]
n:C38.03,H6.03,N0.00;found:C38.02,H6.03,N0.00.
【0128】
結晶構造解析結果を第4表及び
図5に示す。
【0129】
【表4】
【0130】
〔実施例5〕
試験管に10mLのクロロホルムを入れ、ここに、実施例1で得られた細孔性高分子化合物の結晶70mgを浸漬させた後、試験管にキャップをして50℃で10日間静置した。この間、一日ごとに上澄み溶液の95%(体積比)をスポイトで除き、除いた溶液と同体積の純粋なクロロホルムを加えるという操作を繰り返し行った。
結晶を濾取した後、元素分析及び結晶構造解析を行った結果、細孔内の分子がクロロホルム分子に置換されていることが分かった。結晶構造解析の結果を第5表及び
図6に示す。
【0131】
Elemental analysis: calculated for [(C
18H
26O
12)
2(NaOH)
2(CHCl
3)・(H
2O)
3]
n:C40.92,H5.29,N0.00;found:C41.05,H5.23,N 0.00
【0132】
【表5】
【0133】
〔実施例6〕
【0134】
【化1】
【0135】
内径1cm、高さ10cmの試験管内で、配位子1(8.68mg,0.02mmol)を水1mLとエタノール4mLに溶解させた。得られた溶液の上に、1mLのジエチルエーテルを静かに流し、さらにその上に120mM水酸化セシウム水溶液1.0mLを静かに流し入れた。試験管にキャップをして20℃で1週間静置したところ、試験管の壁面に結晶が析出した。これを取り出し、単結晶X線構造解析を行った。この結果を第6表及び
図7に示す。
【0136】
【表6】
【0137】
〔実施例7〕
試験管に0.5mLの(R)−プロピレンオキシドを入れ、ここに、実施例1で得られた細孔性高分子化合物の結晶約5mgを浸漬させた後、試験管にキャップをして50℃で5日間静置した。この間、約30時間ごとに上澄み溶液の95%(体積比)をスポイトで除き、除いた溶液と同体積の純粋な(R)−プロピレンオキシドを加えるという操作を繰り返し行った。結晶を取り出し、その単結晶X線構造解析を行った。解析結果を第7表及び
図8に示す。
【0138】
【表7】
【0139】
なお、得られた(R)−プロピレンオキシドを包接した結晶を、重水/メタノール−d
4(体積比1:9)に溶解させ、配位子1と(R)−プロピレンオキシドのモル比を求めたところ、1/0.8であった。
また、実施例1で得られた細孔性高分子化合物においては、配位子1の絶対構造がD−マンノースと同じく既知であるため、実施例7において結晶構造中のプロピレンオキシドと配位子1の相対立体配置を比較することにより、取り込まれたプロピレンオキシドが(R)体であることを確認することができる。