特許第6607680号(P6607680)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6607680Mo添加Ni基金属間化合物合金及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6607680
(24)【登録日】2019年11月1日
(45)【発行日】2019年11月20日
(54)【発明の名称】Mo添加Ni基金属間化合物合金及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/03 20060101AFI20191111BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20191111BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20191111BHJP
【FI】
   C22C19/03 P
   C22F1/10 K
   !C22F1/00 602
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630B
   !C22F1/00 630C
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 650A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 691B
【請求項の数】10
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-41102(P2015-41102)
(22)【出願日】2015年3月3日
(65)【公開番号】特開2016-160495(P2016-160495A)
(43)【公開日】2016年9月5日
【審査請求日】2018年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100077665
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 剛宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116676
【弁理士】
【氏名又は名称】宮寺 利幸
(74)【代理人】
【識別番号】100149261
【弁理士】
【氏名又は名称】大内 秀治
(74)【代理人】
【識別番号】100136548
【弁理士】
【氏名又は名称】仲宗根 康晴
(74)【代理人】
【識別番号】100136641
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 志郎
(72)【発明者】
【氏名】菊池 雄介
(72)【発明者】
【氏名】林 祐宏
(72)【発明者】
【氏名】高杉 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】金野 泰幸
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/041592(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/058338(WO,A1)
【文献】 特開昭62−274041(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/03
C22F 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有し、且つ前記2重複相組織を形成する組成域のNi、Al、Vを基本構成元素として含み、
前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:75.0at%、Al:10.0at%、V:15.0at%である前記基本構成元素の少なくとも何れか一つの元素の含有量が、3.0〜4.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbの添加量分減じられることで、Ni:71.0〜75.0at%、Al:6.0〜10.0at%、V:8.0〜15.0at%、Mo:3.0〜4.0at%、Nb:0.0〜3.0at%とからなる組成の合計が100.0at%となることを特徴とするMo添加Ni基金属間化合物合金。
【請求項2】
請求項1記載のMo添加Ni基金属間化合物合金において、
前記基本構成元素のうち、Niの含有量又はNi及びNi以外の基本構成元素の含有量が減じられて、3.0〜4.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbが添加されることを特徴とするMo添加Ni基金属間化合物合金。
【請求項3】
請求項1又は2記載のMo添加Ni基金属間化合物合金において、
前記基本構成元素のうち、Niの含有量又はNi及びVの含有量が減じられて、3.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbが添加されることを特徴とするMo添加Ni基金属間化合物合金。
【請求項4】
請求項1記載のMo添加Ni基金属間化合物合金において、
前記基本構成元素のうち、Alの含有量又はVの含有量が減じられて、3.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbが添加されることを特徴とするMo添加Ni基金属間化合物合金。
【請求項5】
請求項1〜の何れか1項に記載のMo添加Ni基金属間化合物合金において、
前記組成の合計重量に対して10.0〜1000.0重量ppmの範囲内でBをさらに含むことを特徴とするMo添加Ni基金属間化合物合金。
【請求項6】
Ni、Al、Vを基本構成元素とし、初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を形成する組成域として、Ni:75.0at%、Al:10.0at%、V:15.0at%である前記基本構成元素のうち、少なくとも何れか一つの元素の含有量を減じて3.0〜4.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbを添加することで、Ni:71.0〜75.0at%、Al:6.0〜10.0at%、V:8.0〜15.0at%、Mo:3.0〜4.0at%、Nb:0.0〜3.0at%とからなる組成の合計を100.0at%とした合金を得て、前記合金に第1熱処理を行ってA1(fcc)相の単相とする工程と、
前記単相とした前記合金に初析L12相を析出させることで、初析L12相とA1(fcc)相との共存相とした後、A1(fcc)相を(L12+D022)共析組織に変化させるように第2熱処理を行うことで、前記2重複相組織を有するNi基金属間化合物合金を得る工程と、
を有することを特徴とするMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法。
【請求項7】
請求項記載のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、
前記基本構成元素のうち、Niの含有量又はNi及びNi以外の基本構成元素の含有量を減じて、3.0〜4.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbを添加することで前記合金を得ることを特徴とするMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法。
【請求項8】
請求項6又は7記載のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、
前記基本構成元素のうち、Niの含有量又はNi及びVの含有量を減じて、3.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbを添加することで前記合金を得ることを特徴とするMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法。
【請求項9】
請求項記載のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、
前記基本構成元素のうち、Alの含有量又はVの含有量減じて、3.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbを添加ることで前記合金を得ることを特徴とするMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法。
【請求項10】
請求項の何れか1項に記載のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、
前記組成の合計重量に対して10.0〜1000.0重量ppmの範囲内となるようにBをさらに加えて前記合金を得ることを特徴とするMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2重複相組織を有するMo添加Ni基金属間化合物合金及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造材の硬さや強度等の特性を向上させることや、軽量化を図ること等が可能な構造材料として、Ni3Al(L12)相とNi3V(D022)相とを有する2重複相組織からなるNi基金属間化合物合金の開発が進められている。具体的には、2重複相組織は、初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなり、最密充填構造の金属間化合物相から構成される。このため、2重複相組織を有するNi基金属間化合物合金は、単相の金属間化合物材料に比して著しく優れた延性や靱性を備え、且つ高温環境下でも良好な硬さや強度を示す。
【0003】
また、Ni基金属間化合物合金は、Niを主構成元素とし、そこにNiよりも軽量な(原子量が小さい)AlやVを含んで構成されるため、他のNi合金等に比しても軽量である。なお、以降の説明では、Ni、Al、VをNi基金属間化合物合金の基本構成元素ともいう。
【0004】
このようなNi基金属間化合物合金では、その実用化に向けてさらなる特性の向上が望まれている。そこで、例えば、特許文献1には、特に、高温環境下での強度を向上させるべく、基本構成元素にNbを添加したNi基金属間化合物合金が提案されている。また、特許文献2、3には、特に、硬さを良好に向上させるべく、基本構成元素にTaやRe等の元素を添加したNi基金属間化合物合金が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表WO2007/086185号
【特許文献2】再公表WO2012/039189号
【特許文献3】特開2009−215649号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されるようにNi基金属間化合物合金にNbを添加しても、上昇させることが可能な強度等には上限がある。これは、固溶限を超えてNbを添加しても、該固溶限を超えた分のNbは、Ni3Nb相として存在するようになり、強度等の向上には寄与しないためである。
【0007】
上記の上限を超えて強度等を上昇させるべく、Nbとともに、例えば、特許文献2記載のTaを併せて添加することが考えられる。しかしながら、この場合、同族元素であるNbとTaを同時添加することになるため、個々の元素のもつ固溶限の合算値に応じて重畳的にNi基金属間化合物合金の強度を上昇させることはできない。つまり、NbとTaを同時添加しても、Ni基金属間化合物合金の強度は、何れかの元素のもつ固溶限に応じた強度に留まる。
【0008】
このため、Nb添加による強度上昇の効果と、Taの添加による強度上昇の効果を重畳的に得ること、換言すると、個々の元素添加による固溶強化の効果を加算して得ることは期待できない。また、上記の何れかの元素のもつ固溶限を超えて添加された元素が、Ni基金属間化合物合金の強度上昇を阻害する相を形成する可能性がある。従って、結局、上記の上限を超えてNi基金属間化合物合金の強度を向上させることは困難である。
【0009】
また、TaやRe等は、基本構成元素であるNi、Al、Vに比して、原子量が大きい。このため、特許文献2、3に記載されるように、Ni基金属間化合物合金にTaやRe等を添加すると密度の増大を招く懸念があり、重量の増加を抑えたいという観点からは好ましくない。
【0010】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、重量の増加を抑制しつつ、硬さ及び強度を向上させることが可能なMo添加Ni基金属間化合物合金及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、Mo添加Ni基金属間化合物合金であって、初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有し、且つ前記2重複相組織を形成する組成域のNi、Al、Vを基本構成元素として含み、前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:75.0at%、Al:10.0at%、V:15.0at%である前記基本構成元素の少なくとも何れか一つの元素の含有量が、3.0〜4.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbの添加量分減じられることで、Ni:71.0〜75.0at%、Al:6.0〜10.0at%、V:8.0〜15.0at%、Mo:3.0〜4.0at%、Nb:0.0〜3.0at%とからなる組成の合計が100.0at%となることを特徴とする。なお、本明細書において「at%」は原子パーセントを示している。
【0012】
本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金は、初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を有している。ここで、L12相はNi3Alであり、D022相はNi3Vである。
【0013】
換言すると、このMo添加Ni基金属間化合物合金は、基本構成元素であるNi、Al、Vを、上記の2重複相組織を形成することが可能な組成域となるように含んでいる。このような組成域としては、例えば、Al:5.0〜13.0at%、V:10.0〜18.0at%、Ni:60.0at%以上(残部)であることが挙げられる。
【0014】
また、本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金は、基本構成元素のうちの少なくとも何れか一つの元素の含有量が減じられてMoが添加されている。すなわち、この組成では、Ni、Al、Vのうちの少なくとも何れか一つの元素がMoに置き換えられることで、基本構成元素とMoとを少なくとも含む組成の合計が100.0at%となっている。
【0015】
このようにMoが添加された本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金では、例えば、基本構成元素にNbのみが添加されたNi基金属間化合物合金等に比して、硬さや強度(引張強度)を効果的に向上させることができる。また、Moの原子量は95.94であるため、Taの原子量(180.95)や、Reの原子量(186.21)に比して著しく小さい。このため、本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金では、例えば、TaやRe等が添加されたNi基金属間化合物合金のように、密度が増大してしまうことを回避できる。
【0016】
以上から、本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金は、重量が増加すること、つまり密度増を抑えつつ、硬さ及び強度を向上させることができる。
【0017】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、Nbをさらに含む前記組成の合計が100.0at%となることが好ましい。このように、Ni基金属間化合物合金にMoとNbとを併せて添加しても、MoとNbとは互いに同族ではないため、相互干渉(相互作用)が生じることを回避できる。
【0018】
従って、Mo及びNbの個々の固溶強化の効果を加算して得ること、換言すると、Mo添加による硬さや強度の上昇の効果と、Nb添加による硬さや強度の上昇の効果とを重畳的に得ることができる。すなわち、Nb添加により上昇させることが可能な上限を超えて、Mo添加Ni基金属間化合物合金の硬さや強度を上昇させることができる。このため、上記の通り軽量であり、且つ一層効果的に硬さや強度を向上させたMo添加Ni基金属間化合物合金を得ることができる。
【0019】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうち、Niの含有量、又は、Ni及びNi以外の基本構成元素の含有量が減じられて、Moが添加されることが好ましい。このように、基本構成元素のうち、少なくともNiを減じてMoを添加することで、本発明に係るNi基金属間化合物合金の強度や延性を効果的に向上させることができる。また、Niとともに減じられる他の基本構成元素の種類に応じて、異なる特性の向上がもたらされ、それにより多様な強度と延性を有するMo添加Ni基金属間化合物合金を得ることができる。
【0020】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、Moの含有量が0.5at%〜4.0at%であることが好ましい。Moの含有量を、上記の範囲内であり、且つ固溶限以下とした場合、効果的に固溶強化をもたらすことができる。一方、Moの含有量を、上記の範囲内であり、且つ固溶限以上とした場合、該固溶強化に加えて第3相(析出物)による析出強化をさらに重畳してもたらすことができる。
【0021】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうち、Niの含有量又はNi及びVの含有量が減じられて、3.0at%のMoが添加されることが好ましい。
【0022】
ここで、Mo添加Ni基金属間化合物合金中の初析L12相は略立方体形状であり、該初析L12相同士の間隙であるチャンネル部に、(L12+D022)共析組織が形成されている。上記の通り、Ni、又はNi及びVの含有量が減じられて、3.0at%のMoが添加された組成からなるMo添加Ni基金属間化合物合金では、チャンネル部に第3相を析出させることができる。この第3相は、L12相やD022相とは異なる相であって、硬さや強度の向上に寄与する。従って、上記の組成として第3相を析出させることにより、Mo添加Ni基金属間化合物合金の硬さや強度を一層効果的に上昇させることが可能になる。
【0023】
なお、以降の説明では、初析L12相とチャンネル部とからなる組織を上部複相組織ともいい、(L12+D022)共析組織を下部複相組織ともいう。
【0024】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうち、Alの含有量又はVの含有量が減じられて、Moが添加されることも好ましい。
【0025】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、前記組成の合計重量に対して10.0〜1000.0重量ppmの範囲内でBをさらに含むことが好ましい。この場合、粒界割れを抑制することにより延性を向上させることが可能になり、Mo添加Ni基金属間化合物合金の特性を一層良好に向上させることができる。
【0026】
上記したMo添加Ni基金属間化合物合金を得るための製造方法もこの発明に含まれる。
【0027】
すなわち、本発明は、Mo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法であって、Ni、Al、Vを基本構成元素とし、初析L12相と(L12+D022)共析組織とからなる2重複相組織を形成する組成域として、Ni:75.0at%、Al:10.0at%、V:15.0at%である前記基本構成元素のうち、少なくとも何れか一つの元素の含有量を減じて3.0〜4.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbを添加することで、Ni:71.0〜75.0at%、Al:6.0〜10.0at%、V:8.0〜15.0at%、Mo:3.0〜4.0at%、Nb:0.0〜3.0at%とからなる組成の合計を100.0at%とした合金を得て、前記合金に第1熱処理を行ってA1(fcc)相の単相とする工程と、前記単相とした前記合金に初析L12相を析出させることで、初析L12相とA1(fcc)相との共存相とした後、A1(fcc)相を(L12+D022)共析組織に変化させるように第2熱処理を行うことで、前記2重複相組織を有するMo添加Ni基金属間化合物合金を得る工程と、を有することを特徴とする。
【0028】
本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法では、先ず、2重複相組織を形成することが可能な組成域とした基本構成元素Ni、Al、Vのうち、少なくとも何れか一つの元素をMoに置き換えた組成の合金を得る。そして、この合金を、第1熱処理によって、A1(fcc)相(Ni固溶体相)の単相とする。次に、第2熱処理によって、A1(fcc)相から初析L12相を析出させて上部複相組織を形成し、さらに、該初析L12相の間隙(チャンネル部)に残留したA1(fcc)相をD022相とL12相に共析変態させて下部複相組織を形成する。
【0029】
すなわち、第2熱処理では、初析L12相とA1(fcc)相とが共存する領域、及び初析L12相とA1(fcc)相とD022相とが共存する領域の両方又は何れか一方を経てから、共析温度以下に達するように合金を冷却する。これによって、上部複相組織と下部複相組織とからなる2重複相組織を有するMo添加Ni基金属間化合物合金を形成することができる。
【0030】
上記のようにしてMoが添加された本発明に係るNi基金属間化合物合金では、例えば、基本構成元素にNbのみが添加されたNi基金属間化合物合金等に比して、硬さや強度を効果的に向上させることができる。また、例えば、TaやRe等が添加されたNi基金属間化合物合金に比して、密度を小さくすることができる。従って、本発明に係る製造方法によって、重量の増加を抑えながら、優れた硬さ及び強度を示すMo添加Ni基金属間化合物合金を得ることができる。
【0031】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、Niの含有量又はNi及びNi以外の基本構成元素の含有量を減じて、Moを添加することで前記合金を得ることが好ましい。
【0032】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、Moの含有量を0.5at%〜4.0at%とすることが好ましい。
【0033】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、少なくとも何れか一つの元素の含有量を減じてMo及びNbを添加することで、前記組成の合計を100.0at%とした前記合金を得ることが好ましい。この合金から得られるMo添加Ni基金属間化合物合金では、Mo添加による硬さや強度上昇の効果と、Nb添加による強度上昇の効果とを重畳的に得ることができる。このため、重量の増加を抑えながら、且つ一層効果的に硬さや強度を向上させたMo添加Ni基金属間化合物合金を得ることができる。
【0034】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、Niの含有量又はNi及びVの含有量を減じて、3.0at%のMoを添加することで前記合金を得ることが好ましい。この合金から得られるMo添加Ni基金属間化合物合金では、チャンネル部に上記の第3相を析出させることができるため、硬さや強度を一層効果的に上昇させることが可能になる。
【0035】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、Alの含有量又はVの含有量が減じて、Moが添加されることで前記合金を得ることも好ましい。
【0036】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、前記組成の合計重量に対して10.0〜1000.0重量ppmの範囲内となるようにBをさらに加えて前記合金を得ることが好ましい。この合金から得られるMo添加Ni基金属間化合物合金では、粒界割れを抑制することにより延性を向上させることが可能になり、一層良好に特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0037】
本発明では、2重複相組織を形成する組成域のNi、Al、Vのうち、少なくとも何れか一つの元素をMoに置き換えることで、重量の増加を抑えながら、硬さ及び強度に優れたMo添加Ni基金属間化合物合金を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の実施形態に係るMo添加Ni基金属間化合物合金の2重複相組織を説明するための模式図である。
図2】本発明の実施形態に係るMo添加Ni基金属間化合物合金の基本となる組成系合金の一具体例について、Nb含有量3.0at%における温度とAl含有量に関する縦断面状態図である。
図3】試料a1のSEM観察結果である。
図4】試料b1のSEM観察結果である。
図5】試料c1のSEM観察結果である。
図6】試料a2のSEM観察結果である。
図7】試料b2のSEM観察結果である。
図8】試料c2のSEM観察結果である。
図9】試料dのSEM観察結果である。
図10】比較例1のSEM観察結果である。
図11】試料a1、a2、b1、b2、c1、c2、d及び比較例1のそれぞれのビッカース硬さ試験の結果を示すグラフである。
図12】試料a3、b3、c3及び比較例2のそれぞれのビッカース硬さ試験の結果を示すグラフである。
図13】試料a2、b2、c2、d及び比較例1のそれぞれの引張強度測定の結果を示すグラフである。
図14】試料a2、c2及び比較例1のX線回折結果である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金及びその製造方法につき好適な実施形態を挙げ、添付の図面を参照して詳細に説明する。
【0040】
先ず、図1を参照しつつ、本実施形態に係るMo添加Ni基金属間化合物合金10の2重複相組織16について説明する。なお、図1は、2重複相組織16の模式図であり、一部を拡大して示すものである。
【0041】
Mo添加Ni基金属間化合物合金10は、初析L12相12と、(L12+D022)共析組織14とからなる2重複相組織16を有している。L12相はNi3Alであり、D022相はNi3Vである。このように、Mo添加Ni基金属間化合物合金10は、2重複相組織16として、最密充填構造からなる二つの金属間化合物を複相とすることで、単相の金属間化合物材料に比して優れた延性や靱性を備え、且つ高温環境下でも良好な強度や硬さを示すことができる。
【0042】
また、初析L12相12は略立方体形状であり、該初析L12相12同士の間隙であるチャンネル部に(L12+D022)共析組織14が形成されている。すなわち、2重複相組織16は、初析L12相12とチャンネル部とからなる上部複相組織と、(L12+D022)共析組織14からなる下部複相組織とを備えて構成されているともいえる。
【0043】
このMo添加Ni基金属間化合物合金10は、2重複相組織16を出現させることが可能な組成域のNi、Al、Vを基本的な構成元素(基本構成元素)として含んでいる。ここで、2重複相組織16を出現させることが可能な組成域としては、例えば、Al:5.0〜13.0at%、V:10.0〜18.0at%、Ni:60.0at%以上(残部)であることが挙げられる。
【0044】
そして、上記の組成域の基本構成元素のうち、少なくとも何れか一つが減じられてMoが添加されることで、該基本構成元素とMoとを少なくとも含む組成の合計が100.0at%となっている。すなわち、Ni、Al、Vの少なくとも何れか一つがMoに置き換えられた組成を有している。なお、Moの添加量は、例えば、1.5at%以上とすることが好ましい。
【0045】
上記の組成としては、基本構成元素とMoのみから構成されてもよく、基本構成元素及びMoの他にNbを含んでいてもよい。この場合、Nbによる固溶強化によりMo添加Ni基金属間化合物合金10の強度を一層良好に向上させることが可能になる。また、Mo添加Ni基金属間化合物合金10は、上記の組成の他に、粒界割れを抑制することにより延性を向上させる効果を有するBをさらに含んでいてもよい。
【0046】
NbやBの含有量は、Mo添加Ni基金属間化合物合金10の強度や延性等を効果的に向上させることが可能な範囲であればよい。例えば、Nbの場合、上記の組成の合計が100となるように、基本構成元素の少なくとも何れか一つが減じられて、0.0〜5.0at%の範囲内、一層好適には、1.0〜4.0at%の範囲内のNbが添加されればよい。また、Bの場合、上記の組成の合計重量に対して10.0〜1000.0重量ppmの範囲内、一層好適には、30.0〜300.0重量ppmの範囲内のBが添加されればよい。
【0047】
なお、基本構成元素及びMoを除く成分は必須の構成ではなく、必要に応じて添加すればよい。さらに、Mo添加Ni基金属間化合物合金10には、Nb及びB以外の添加元素や、不純物元素が含まれていてもよい。
【0048】
上記のように構成されるMo添加Ni基金属間化合物合金10の製造方法としては、例えば、溶解鋳造法や粉末冶金法等を採用することができる。以下、図2を参照しつつ、Mo添加Ni基金属間化合物合金10の製造方法について説明する。なお、図2は、Mo添加Ni基金属間化合物合金10の基本となる組成系合金の一具体例について、Nb含有量3.0at%における温度とAl含有量に関する縦断面状態図であり、横軸がAl含有量(%)を示し、縦軸が温度(K)を示す。
【0049】
先ず、上記の組成に調整した合金に第1熱処理を行って、A1(fcc)相の単相とする。なお、A1(fcc)相は、規則構造を有しない(不規則構造の)fcc構造のNi固溶体相である。
【0050】
次に、第2熱処理を行って、A1(fcc)相から初析L12相12を析出させ、さらに、初析L12相12の間隙(チャンネル部)に残ったA1(fcc)相をD022相とL12相に共析変態させる。これによって、初析L12相12及びチャンネル部からなる上部複相組織と、(L12+D022)共析組織14からなる下部複相組織とを形成する。
【0051】
すなわち、第2熱処理では、初析L12相12とA1(fcc)相とが共存する領域、及び初析L12相12とA1(fcc)相とD022相とが共存する領域の両方又は何れか一方を経てから、共析温度以下に達するように合金を冷却する。これによって、上部複相組織と下部複相組織とからなる2重複相組織16を有するMo添加Ni基金属間化合物合金10を得ることができる。
【0052】
なお、図2からも、例えば、Alの含有量が5.0at%〜13.0at%の範囲内(V:10.0〜18.0at%、残部のNi:60.0at%以上)であれば、上記の第1熱処理及び第2熱処理を行うことで、比較的容易に2重複相組織16を形成できることが分かる。
【0053】
Mo添加Ni基金属間化合物合金10の製造方法として、例えば、小型アーク炉等を用いる場合では、合金を溶解して溶湯にした後の冷却速度(凝固速度)が比較的大きい。このため、図1に例示される組織と異なる可能性がある。また、第1熱処理として、凝固後の合金を加熱することで、A1(fcc)相の単相を得ることができる。この第1熱処理では、上記の通り、A1単相組織を得る溶体化熱処理を目的とするとともに、合金を均質化する均質化熱処理を目的とすることができる。従って、第1熱処理では、加熱温度や該加熱温度での保持時間が上記目的を達成するために適した範囲となるように設定されればよい。
【0054】
また、上記のようにして第1熱処理を行った後の合金を、所定の速度で共析温度まで連続的に炉冷を行う工程を第2熱処理とすることができる。すなわち、第2熱処理によって、合金に初析L12相12を析出させる工程と、該初析L12相12と共存するA1(fcc)相を(L12+D022)共析組織14に変化させる工程とを連続的に行って、2重複相組織16を形成することができる。
【0055】
この第2熱処理では、連続的に炉冷を行うことに代えて、合金の炉冷を2段階で行ってもよい。すなわち、第2熱処理として、先ず、合金を共析温度よりも高い温度で保持して上部複相組織を形成し、その後、合金を共析温度よりも低い温度で保持して下部複相組織を形成するようにしてもよい。
【0056】
また、Mo添加Ni基金属間化合物合金10の製造方法として、例えば、真空誘導溶解・鋳造法等を用いることもできる。この場合、冷却速度が比較的小さいため、溶湯から凝固させた固相の冷却過程(工程)を第1熱処理として、A1(fcc)相の単相を得ることができる。
【0057】
その後、合金を連続的に冷却して共析温度以下とする過程を第2熱処理として、上部複相組織及び下部複相組織のそれぞれを形成することができる。その結果、2重複相組織16を有するMo添加Ni基金属間化合物合金10を得ることができる。
【0058】
なお、この場合の第2熱処理においても、合金の冷却を2段階で行ってもよい。すなわち、第2熱処理として、先ず、合金を共析温度よりも高い温度で保持して上部複相組織を形成し、その後、合金を共析温度よりも低い温度で保持して下部複相組織を形成するようにしてもよい。
【0059】
ここで、上記の小型アーク炉等を用いた製造方法により、互いに組成が異なるMo添加Ni基金属間化合物合金10を作製して、実施例に係る試料a1〜a3、b1〜b3、c1〜c3、d(以下、これらを総称して、実施例に係る試料ともいう)とした。また、Moを添加しないこと以外は実施例と同様の方法により、比較用のNi基金属間化合物合金を作製して、比較例1、2とした。
【0060】
具体的には、実施例に係る試料及び比較例1、2のそれぞれでは、2重複相組織16を出現させることが可能な組成域としてNi:75.0at%、Al:10.0at%、V:15.0at%を採用した。実施例に係る試料及び比較例1、2のそれぞれの組成と、該組成の合計重量に対するBの添加量(wt%)は表1に示す通りである。
【0061】
【表1】
【0062】
すなわち、試料a1では、上記の組成域の基本構成元素のうちのNiを減じて1.5at%のMoを添加し、且つVを減じて3.0at%のNbを添加することで、基本構成元素とMoとNbとからなる組成の合計を100.0at%とした。そして、この組成の合計重量に対して50.0重量ppm(0.005wt%)となるようにBを添加して合金を得た。
【0063】
試料a2では、Moの添加量を3.0at%とした以外は、試料a1と同様にして合金を得た。試料b1では、Niに代えてAlを減じてMoを添加した以外は、試料a1と同様にして合金を得た。試料b2では、Moの添加量を3.0at%とした以外は、試料b1と同様にして合金を得た。試料c1では、Niに代えてVを減じてMoを添加した以外は、試料a1と同様にして合金を得た。試料c2では、Moの添加量を3.0at%とした以外は、試料c1と同様にして合金を得た。試料dは、Ni及びVを1.5at%ずつ減じて、3.0at%のMoを添加した以外は、試料a1と同様にして合金を得た。
【0064】
また、試料a3では、上記の組成域の基本構成元素のうちのNiを減じて3.0at%のMoを添加することで、基本構成元素と、Moとからなる組成の合計を100.0at%とした。すなわち、この組成にはNbが含まれない。そして、この組成の合計重量に対して50.0重量ppmとなるようにBを添加して合金を得た。試料b3では、Niに代えてAlを減じてMoを添加した以外は、試料a3と同様にして合金を得た。試料c3では、Niに代えてVを減じてMoを添加した以外は、試料a3と同様にして合金を得た。
【0065】
上記のようにして得られた合金のそれぞれに対して、第1熱処理として、真空中において、合金を1280℃の加熱温度で5時間保持した後、第2熱処理として、10℃/分の降温速度で連続的に炉冷を行った。これによって、実施例に係る試料及び比較例1、2に係るNi基金属間化合物合金をそれぞれ作製した。
【0066】
これらのNi基金属間化合物合金のうち、試料a1、b1、c1のSEM観察結果をそれぞれ図3図5に示し、試料a2、b2、c2、dのSEM観察結果をそれぞれ図6図9に示し、比較例1のSEM観察結果を図10に示す。なお、図6では、一部を拡大して示している。
【0067】
先ず、図3図10等から、上記の組成域となるように合金の組成を調整して得たNi基金属間化合物合金の何れも、初析L12相12と(L12+D022)共析組織14とからなる2重複相組織16を有していることが確認された。
【0068】
また、図6及び図9から、Niの含有量が減じられて3.0at%のMoが添加された試料a2と、Ni及びVの含有量が減じられて3.0at%のMoが添加された試料dとでは、チャンネル部にL12相やD022相とは異なる第3相18が析出していることが確認された。
【0069】
次に、試料a1、a2、b1、b2、c1、c2、d及び比較例1のそれぞれについて、室温でビッカース硬さ測定を行った結果を図11に示す。同様に、試料a3、b3、c3及び比較例2のそれぞれについて、室温でビッカース硬さの測定を行った結果を図12に示す。なお、ビッカース硬さ測定は、具体的には、上記試料のそれぞれに対して、10箇所で試験を行い、これから最大値及び最小値を除いた8点の測定値の平均値を算出し硬さとした。マイクロビッカース硬さ計の測定条件は、荷重1kg、保持時間10秒とした。
【0070】
図11及び図12から、実施例に係る試料の何れも、比較例1、2に比して、ビッカース硬さが上昇していることが分かる。また、Nbを含有しない比較例2に比して、Nbを含有する比較例1ではビッカース硬さが上昇しているが、このNb添加によるビッカース硬さの上昇分を超えて、実施例に係る試料のビッカース硬さが上昇していることが分かる。
【0071】
また、MoとともにNbを併せて添加した試料a1、a2、b1、b2、c1、c2、dでは、Mo添加による硬さ上昇の効果と、Nb添加による硬さ上昇の効果とを重畳的に得ることができる。すなわち、Moを併せて含有することで、Nb添加により上昇させることが可能な大きさの上限を超えてビッカース硬さを上昇させることができる。
【0072】
さらに、図11から、Ni及びAlをMoと置き換えた実施例に係る試料のうち、Moの含有量が3.0at%である試料a2、b2では、Moの含有量が1.5at%である試料a1、b1に比して、ビッカース硬さの上昇分が大きいことが分かった。一方、VをMoと置き換えた実施例に係る試料のうち、Moの含有量が1.5at%である試料c1では、Moの含有量が3.0at%である試料c2に比して、ビッカース硬さの上昇分が大きいことが分かった。
【0073】
次に、試料a2、b2、c2、d及び比較例1のそれぞれに対して、引張試験を行った。引張試験に用いた試験片の大きさは、ゲージ部が2×10×1.2mm3であった。引張試験は、室温、真空中で歪み速度1.7×10-4-1の条件で行った。その結果を図13に示す。なお、図13は、引張試験の結果を示したグラフであり、各測定試料の引張強度と0.2%耐力との関係を示す。
【0074】
図13から、実施例に係る測定試料の何れも、比較例1に比して、引張強度が上昇していることが分かる。また、上記の通り、特に、チャンネル部に第3相18が析出している試料a2、dでは、顕著に引張強度が上昇している傾向にある。なお、図13において、試料a2は弾性域で破断したため引張強度のみの値が示されている。
【0075】
次に、第3相18が析出していない試料c2及び比較例1と、第3相18が析出している試料a2とに対してX線回折を行った結果を図14に示す。図14から、試料c2及び比較例1では、Ni3Al(L12)相及びNi3V(D022)相に由来する回折ピークのみが観察された。これに対して、試料a2では、L12相及びD022相に由来する回折ピークの他に、該回折ピークとは異なる第3相18に由来する回折ピークが観察された。また、このX線回折結果から、第3相18は、A2(bcc)構造のV−Mo系固溶体、及び/又は正方構造のNi4Moであると同定された。
【0076】
試料a2と同じく、試料dもNi(とV)を減じてMoが添加されており、図9には図6と同様に、チャンネル部にV−Mo系固溶体と思われる第3相18が析出している。従って、試料a2、dでは、そのチャンネル部の第3相18が析出することによって、上記のMoの固溶強化に加え、第3相18による析出硬化が生じる。その結果、上記の通り、試料a2、dでは、顕著に強度や硬さを上昇させることができたといえる。
【0077】
以上から、本実施形態に係るMo添加Ni基金属間化合物合金10では、例えば、基本構成元素にNbのみが添加されたNi基金属間化合物合金等に比して、優れた硬さや強度を示す。また、TaやRe等に比して原子量が著しく小さいMoが添加されたMo添加Ni基金属間化合物合金10では、TaやRe等が添加されたNi基金属間化合物合金のように、密度が増大してしまうことを回避できる。従って、Mo添加Ni基金属間化合物合金10は、重量が増加すること、つまり密度が高くなることを抑えながら、優れた硬さ及び強度を示す。
【0078】
また、Mo添加Ni基金属間化合物合金10では、MoとともにNbを含有した場合、Mo添加による硬さや強度の上昇の効果と、Nb添加による硬さや強度の上昇の効果とを重畳的に得ることができる。すなわち、Nb添加により上昇させることが可能な上限を超えてMo添加Ni基金属間化合物合金10の硬さや強度を上昇させることができる。
【0079】
さらに、基本構成元素のうち、Niの含有量又はNi及びVの含有量が減じられて、3.0at%のMoが添加されたMo添加Ni基金属間化合物合金10では、チャンネル部に硬さや強度の向上に寄与する第3相18を析出させることができる。従って、硬さや強度を一層効果的に上昇させることが可能になる。
【0080】
本発明は、上記した実施形態に特に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
10…Mo添加Ni基金属間化合物合金 12…初析L12
14…(L12+D022)共析組織 16…2重複相組織
18…第3相
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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図13
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