【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の特許文献1に記載されるようにNi基金属間化合物合金にNbを添加しても、上昇させることが可能な強度等には上限がある。これは、固溶限を超えてNbを添加しても、該固溶限を超えた分のNbは、Ni
3Nb相として存在するようになり、強度等の向上には寄与しないためである。
【0007】
上記の上限を超えて強度等を上昇させるべく、Nbとともに、例えば、特許文献2記載のTaを併せて添加することが考えられる。しかしながら、この場合、同族元素であるNbとTaを同時添加することになるため、個々の元素のもつ固溶限の合算値に応じて重畳的にNi基金属間化合物合金の強度を上昇させることはできない。つまり、NbとTaを同時添加しても、Ni基金属間化合物合金の強度は、何れかの元素のもつ固溶限に応じた強度に留まる。
【0008】
このため、Nb添加による強度上昇の効果と、Taの添加による強度上昇の効果を重畳的に得ること、換言すると、個々の元素添加による固溶強化の効果を加算して得ることは期待できない。また、上記の何れかの元素のもつ固溶限を超えて添加された元素が、Ni基金属間化合物合金の強度上昇を阻害する相を形成する可能性がある。従って、結局、上記の上限を超えてNi基金属間化合物合金の強度を向上させることは困難である。
【0009】
また、TaやRe等は、基本構成元素であるNi、Al、Vに比して、原子量が大きい。このため、特許文献2、3に記載されるように、Ni基金属間化合物合金にTaやRe等を添加すると密度の増大を招く懸念があり、重量の増加を抑えたいという観点からは好ましくない。
【0010】
本発明は上記した問題を解決するためになされたもので、重量の増加を抑制しつつ、硬さ及び強度を向上させることが可能なMo添加Ni基金属間化合物合金及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の目的を達成するために、本発明は、Mo添加Ni基金属間化合物合金であって、初析L1
2相と(L1
2+D0
22)共析組織とからなる2重複相組織を有し、且つ前記2重複相組織を形成する組成域のNi、Al、Vを基本構成元素として含み、
前記2重複相組織を形成する組成域として、Ni:75.0at%、Al:10.0at%、V:15.0at%である前記基本構成元素の少なくとも何れか一つの元素の含有量が
、3.0〜4.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbの添加量分減じら
れることで、
Ni:71.0〜75.0at%、Al:6.0〜10.0at%、V:8.0〜15.0at%、Mo:3.0〜4.0at%、Nb:0.0〜3.0at%とからなる組成の合計が100.0at%となることを特徴とする。なお、本明細書において「at%」は原子パーセントを示している。
【0012】
本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金は、初析L1
2相と(L1
2+D0
22)共析組織とからなる2重複相組織を有している。ここで、L1
2相はNi
3Alであり、D0
22相はNi
3Vである。
【0013】
換言すると、このMo添加Ni基金属間化合物合金は、基本構成元素であるNi、Al、Vを、上記の2重複相組織を形成することが可能な組成域となるように含んでいる。このような組成域としては、例えば、Al:5.0〜13.0at%、V:10.0〜18.0at%、Ni:60.0at%以上(残部)であることが挙げられる。
【0014】
また、本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金は、基本構成元素のうちの少なくとも何れか一つの元素の含有量が減じられてMoが添加されている。すなわち、この組成では、Ni、Al、Vのうちの少なくとも何れか一つの元素がMoに置き換えられることで、基本構成元素とMoとを少なくとも含む組成の合計が100.0at%となっている。
【0015】
このようにMoが添加された本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金では、例えば、基本構成元素にNbのみが添加されたNi基金属間化合物合金等に比して、硬さや強度(引張強度)を効果的に向上させることができる。また、Moの原子量は95.94であるため、Taの原子量(180.95)や、Reの原子量(186.21)に比して著しく小さい。このため、本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金では、例えば、TaやRe等が添加されたNi基金属間化合物合金のように、密度が増大してしまうことを回避できる。
【0016】
以上から、本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金は、重量が増加すること、つまり密度増を抑えつつ、硬さ及び強度を向上させることができる。
【0017】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、Nbをさらに含む前記組成の合計が100.0at%となることが好ましい。このように、Ni基金属間化合物合金にMoとNbとを併せて添加しても、MoとNbとは互いに同族ではないため、相互干渉(相互作用)が生じることを回避できる。
【0018】
従って、Mo及びNbの個々の固溶強化の効果を加算して得ること、換言すると、Mo添加による硬さや強度の上昇の効果と、Nb添加による硬さや強度の上昇の効果とを重畳的に得ることができる。すなわち、Nb添加により上昇させることが可能な上限を超えて、Mo添加Ni基金属間化合物合金の硬さや強度を上昇させることができる。このため、上記の通り軽量であり、且つ一層効果的に硬さや強度を向上させたMo添加Ni基金属間化合物合金を得ることができる。
【0019】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうち、Niの含有量、又は、Ni及びNi以外の基本構成元素の含有量が減じられて、Moが添加されることが好ましい。このように、基本構成元素のうち、少なくともNiを減じてMoを添加することで、本発明に係るNi基金属間化合物合金の強度や延性を効果的に向上させることができる。また、Niとともに減じられる他の基本構成元素の種類に応じて、異なる特性の向上がもたらされ、それにより多様な強度と延性を有するMo添加Ni基金属間化合物合金を得ることができる。
【0020】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、Moの含有量が0.5at%〜4.0at%であることが好ましい。Moの含有量を、上記の範囲内であり、且つ固溶限以下とした場合、効果的に固溶強化をもたらすことができる。一方、Moの含有量を、上記の範囲内であり、且つ固溶限以上とした場合、該固溶強化に加えて第3相(析出物)による析出強化をさらに重畳してもたらすことができる。
【0021】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうち、Niの含有量又はNi及びVの含有量が減じられて、3.0at%のMoが添加されることが好ましい。
【0022】
ここで、Mo添加Ni基金属間化合物合金中の初析L1
2相は略立方体形状であり、該初析L1
2相同士の間隙であるチャンネル部に、(L1
2+D0
22)共析組織が形成されている。上記の通り、Ni、又はNi及びVの含有量が減じられて、3.0at%のMoが添加された組成からなるMo添加Ni基金属間化合物合金では、チャンネル部に第3相を析出させることができる。この第3相は、L1
2相やD0
22相とは異なる相であって、硬さや強度の向上に寄与する。従って、上記の組成として第3相を析出させることにより、Mo添加Ni基金属間化合物合金の硬さや強度を一層効果的に上昇させることが可能になる。
【0023】
なお、以降の説明では、初析L1
2相とチャンネル部とからなる組織を上部複相組織ともいい、(L1
2+D0
22)共析組織を下部複相組織ともいう。
【0024】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、前記基本構成元素のうち、Alの含有量又はVの含有量が減じられて、Moが添加されることも好ましい。
【0025】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金において、前記組成の合計重量に対して10.0〜1000.0重量ppmの範囲内でBをさらに含むことが好ましい。この場合、粒界割れを抑制することにより延性を向上させることが可能になり、Mo添加Ni基金属間化合物合金の特性を一層良好に向上させることができる。
【0026】
上記したMo添加Ni基金属間化合物合金を得るための製造方法もこの発明に含まれる。
【0027】
すなわち、本発明は、Mo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法であって、
Ni、Al、Vを基本構成元素とし、初析L1
2相と(L1
2+D0
22)共析組織とからなる2重複相組織を形成する組成域
として、Ni:75.0at%、Al:10.0at%、V:15.0at%である前記基本構成元素のうち、少なくとも何れか一つの元素の含有量を減じて
3.0〜4.0at%のMo及び0.0〜3.0at%のNbを添加することで、
Ni:71.0〜75.0at%、Al:6.0〜10.0at%、V:8.0〜15.0at%、Mo:3.0〜4.0at%、Nb:0.0〜3.0at%とからなる組成の合計を100.0at%とした合金を得て、前記合金に第1熱処理を行ってA1(fcc)相の単相とする工程と、前記単相とした前記合金に初析L1
2相を析出させることで、初析L1
2相とA1(fcc)相との共存相とした後、A1(fcc)相を(L1
2+D0
22)共析組織に変化させるように第2熱処理を行うことで、前記2重複相組織を有するMo添加Ni基金属間化合物合金を得る工程と、を有することを特徴とする。
【0028】
本発明に係るMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法では、先ず、2重複相組織を形成することが可能な組成域とした基本構成元素Ni、Al、Vのうち、少なくとも何れか一つの元素をMoに置き換えた組成の合金を得る。そして、この合金を、第1熱処理によって、A1(fcc)相(Ni固溶体相)の単相とする。次に、第2熱処理によって、A1(fcc)相から初析L1
2相を析出させて上部複相組織を形成し、さらに、該初析L1
2相の間隙(チャンネル部)に残留したA1(fcc)相をD0
22相とL1
2相に共析変態させて下部複相組織を形成する。
【0029】
すなわち、第2熱処理では、初析L1
2相とA1(fcc)相とが共存する領域、及び初析L1
2相とA1(fcc)相とD0
22相とが共存する領域の両方又は何れか一方を経てから、共析温度以下に達するように合金を冷却する。これによって、上部複相組織と下部複相組織とからなる2重複相組織を有するMo添加Ni基金属間化合物合金を形成することができる。
【0030】
上記のようにしてMoが添加された本発明に係るNi基金属間化合物合金では、例えば、基本構成元素にNbのみが添加されたNi基金属間化合物合金等に比して、硬さや強度を効果的に向上させることができる。また、例えば、TaやRe等が添加されたNi基金属間化合物合金に比して、密度を小さくすることができる。従って、本発明に係る製造方法によって、重量の増加を抑えながら、優れた硬さ及び強度を示すMo添加Ni基金属間化合物合金を得ることができる。
【0031】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、Niの含有量又はNi及びNi以外の基本構成元素の含有量を減じて、Moを添加することで前記合金を得ることが好ましい。
【0032】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、Moの含有量を0.5at%〜4.0at%とすることが好ましい。
【0033】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、少なくとも何れか一つの元素の含有量を減じてMo及びNbを添加することで、前記組成の合計を100.0at%とした前記合金を得ることが好ましい。この合金から得られるMo添加Ni基金属間化合物合金では、Mo添加による硬さや強度上昇の効果と、Nb添加による強度上昇の効果とを重畳的に得ることができる。このため、重量の増加を抑えながら、且つ一層効果的に硬さや強度を向上させたMo添加Ni基金属間化合物合金を得ることができる。
【0034】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、Niの含有量又はNi及びVの含有量を減じて、3.0at%のMoを添加することで前記合金を得ることが好ましい。この合金から得られるMo添加Ni基金属間化合物合金では、チャンネル部に上記の第3相を析出させることができるため、硬さや強度を一層効果的に上昇させることが可能になる。
【0035】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、前記基本構成元素のうち、Alの含有量又はVの含有量が減じて、Moが添加されることで前記合金を得ることも好ましい。
【0036】
上記のMo添加Ni基金属間化合物合金の製造方法において、前記組成の合計重量に対して10.0〜1000.0重量ppmの範囲内となるようにBをさらに加えて前記合金を得ることが好ましい。この合金から得られるMo添加Ni基金属間化合物合金では、粒界割れを抑制することにより延性を向上させることが可能になり、一層良好に特性を向上させることができる。