(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長尺の木質素材を押出し用ダイス型を用いて、長手方向に押出しながら、木質素材の全周から向心方向に連続的に圧縮しつつ絞り変形を与えることで、グリップ部の平均密度が、前記グリップ部以外の部分の平均密度よりも高くなるようにすることを特徴とする木質成形バットの製造方法。
【背景技術】
【0003】
バットは、野球やソフトボール、クリケットなどのスポーツにおいて、打者が投手の投球を打つために用いられる棒状の用具のことであるが、その素材には、木材や竹、アルミ合金などの金属材料、繊維強化樹脂などの高分子材料が用いられている。
【0004】
野球の発祥からバット素材として木材が用いられてきたが、破損や耐久性、質量が重い(使いやすさ)などの問題で、軽量で高強度・高耐久性のジュラルミン製金属バットが開発され、更には反発係数(打球の飛距離を伸ばす)を上げる目的で炭素繊維強化樹脂やウレタン被覆材などを併用したバットが開発・使用されている。
【0005】
このうち、日本のプロ野球では、1本の木材から削り出した木製バットのみが、高校野球では木製バット、木片の接合バット、竹の接合バット、金属製バットが、社会人野球では、木製バット、接合バット、テーパ部樹脂加工バット、場合によって金属バットの使用が認められている。
【0006】
木製バットには、1本の木材からバット形状へ削り出しを行うもの、小片を張り合わせて接合したのちバット形状へ削り出しを行うもの、その小片には木材だけでなく竹を用いるものなどがある。
【0007】
1本の木材を使用するのが原則であるプロ野球用の木製バットは、アッシュ、ハードメープル、ヒッコリー、ホワイト・アッシュ、ヤチダモ、アオダモなどの硬質かつ欠点の少ない希少材が用いられている。
これらの木材は、今後も継続的に供給できるわけでないため、良質なものはバットメーカーがストックしているのが現状である。
【0008】
後者の接合バットは、木製バットの課題である耐久性並びにコスト高の問題を解決しつつ、木製バットの使用感を維持するものであり、プロ野球を除く他の公式戦やプロ選手を始めとする打者の練習用木製バットとしても利用されている。
【0009】
ところで、打撃による折損や剥離などの木製バットの破壊を抑える目的で提案されている、木製バットの高強度・高耐久化技術のほとんどは、1本の木材を全体に圧縮・高密度化することによって曲げ強度の向上を図り、最終的には削り出しによってバット形状を付与している(特許文献1参照。)。
【0010】
また、多数の小さなエレメントの木材・竹などを接着もしくは樹脂含浸し集成化して得た材料を削り出して、バットを作製することも提案されている(特許文献2参照。)。
【0011】
これらの方法で得られるバットは、木材本来が有する高強度・高たわみを持つ木材繊維を最終の削り工程で分断しているため、打撃における破壊起点であるバット表面近傍の「目切れ」の存在を解消できていない。
また、必要以上に重たくなるため、ヘッド部に重心のある削り出しバットでは、スイングなど取扱が困難になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の中で、本発明者は、上記従来技術に鑑みて、上記従来技術の諸問題を確実に解決し得るとともに、1本の木質素材(樹種は問わない、杉・ヒノキなどの軟質針葉樹材を含む。)を用いた、長手方向に連続した繊維(木目)を持ちつつ、重量及びそのバランスがコントロールされた高強度・高耐久な木質成形バットとその製造方法について鋭意研究を積み重ねた結果、実現するに至った。
【0014】
本発明は、高強度・高耐久な木質成形バットの製造方法及びそのバットを提供することを目的とするものである。
本発明によって、製造工程において、強度・耐久性を著しく低下させる表層木目の不連続部分(目切れ)の発生をなくし、かつ、木質素材特有の晩材・早材間で生じる密度の差を緻密化することで低減させたバットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の木質成形バットは、密度が0.10〜0.55g/cm
3の木質素材からなる木製バットであって、グリップ部の平均密度が、前記グリップ部以外の部分の平均密度よりも高く、かつ、前記グリップ部の一横断面内の密度は、木質素材の全周から向心方向に圧縮されてなることで、全周に亘って、外縁部の方が、前記外縁部よりも内側の内側部よりも高いことを特徴とする。
【0017】
また、長手方向の前記グリップ部寄りの位置に重心を有することができる。
【0018】
また、木質素材に予め形成された長手方向に延びる形態の穴に由来する空間が形成されているようにすることができる。
【0019】
また、前記空間には、前記木質素材とは異なる材質の異種材料が挿入されているようにすることができる。
【0020】
また、表面に熱硬化性樹脂が含浸されているようにすることができる。
【0021】
また、本発明の木質成形バットの製造方法は、長尺の木質素材を押出し用ダイス型を用いて、長手方向に押出しながら、木質素材の全周から向心方向に連続的に圧縮しつつ絞り変形を与えることで、グリップ部の平均密度が、前記グリップ部以外の部分の平均密度よりも高くなるようにすることを特徴とする。
【0022】
この場合において、前記木質素材に、無垢材又は集成材を用いることができる。
【0023】
また、前記木質素材に、長手方向に延びる形態の穴を形成することができる。
【0024】
また、前記穴に、前記木質素材とは異なる材質の異種材料を挿入することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の木質成形バット及びその製造方法によれば、次のような効果が奏される。
(1)木質素材を簡便な手法で効率よく高密度化成形する方法及びその成形体を提供することができる。
(2)成形前の木質素材が、単一であっても複数に分割、分離していても成形過程で一体化させることができる。
(3)成形前の木質素材の断面等の細工により、軸方向の密度分布・強度分布などの機械的性質を制御することができる。
(4)木質素材を原料に用いて成形された、その木質素材の繊維細胞の連続性を維持し、賦形による目切れの発生のないバット状成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の木質成形バット及びその製造方法の実施の形態を、図面に基づいて説明する。
【0028】
本発明は、長尺の木質素材を圧縮応力場にてせん断力を加えることにより成形してバットを製造する方法であって、木質素材を所定の押出し比(断面減少率)並びにダイス角度を持つダイス型に押し込み、ダイス型内で構成細胞を向心方向に圧縮・せん断変形させて絞り(断面減少させ)ながら押出し、ダイス出口に所要のバット形状の内表面を持つベアリング(長尺材料を所定寸法に仕上げるために、ダイス型に設けられた断面寸法が一定(本明細書において、ダイス型と組み合わせて漸次変化するようにしたものを含む。)の領域を有する部材をいう。)などの治具を配置することで、軸方向に任意の断面形状並びにかさ密度分布を持つ所望のバット状木質成形体を得ることを特徴とするものである(
図1)。
【0029】
本発明では、成形前の木質素材が、単一又は複数のバルク体としてダイス型に供給されること、成形前の木質素材に樹脂等を含浸することにより成形性を制御し、得られるバットの機械的特性、物理的特性を制御することを好ましい実施の態様としている。
【0030】
また、本発明では、使用するダイス型の押出し比、ダイス角度を適宜選択することにより、成形時の素材の圧縮・絞り変形状態を制御し、ベアリング内で成形されるバットの表面付近での細胞・組織の連続性を確保しつつ全体かさ密度並びに断面かさ密度分布を制御すること、成形前に樹脂を含浸させた木質素材を加熱状態のダイス型で成形すること、ダイス型温度、成形速度及び原料含水率、樹脂の種類、樹脂濃度及び分布を調整することにより、バットの機械的性質及び物理的性質を改良すること、を好ましい実施の態様としている。
【0031】
本発明は、上述のように、長尺の木質素材を圧縮応力場にてせん断力を加えることにより変形せしめてバット状成形体を製造する方法であって、木質素材を所定の押出し比(断面減少率)並びにダイス角度を持つダイス型に押し込み、ダイス型内で構成細胞を向心方向に圧縮・せん断変形させて絞り(断面減少させ)ながら押出し、高密度化、高強度化された木質成形体を得ることを特徴とするバットの製造方法であって、更には、ダイス出口にバット外形形状の内表面を持つベアリングなどの加熱治具を配置することで、軸方向に前記バット断面形状並びにかさ密度分布を持つ所望の高密度化、高強度のバットを得ることを特徴とするものである。
【0032】
本発明では、木質素材を押出し圧縮・絞り成形して軸方向に任意の断面形状並びにかさ密度のバットを得る方法であるが、この場合、成形法としては、材料を型に押し込む成形法であれば全て適用可能であり、例えば、材料を加圧方向と反対の方向へと変形させて成形する後方押出し成形法、材料を加圧方向と同一方向へ移動させて成形する前方押出し成形法が例示されるが、これに制限されるものではなく、これらと同等乃至類似の成形法や、その他押出し成形等が可能な成形法であれば同様に使用することができる。
【0033】
本発明において、木質素材とは、特に限定されることはなく、具体的には、例えば、針葉樹、広葉樹、竹が特に好適な材料として例示される。
【0034】
本発明のバットの製造方法によると、長尺の木質素材を圧縮応力場にてせん断力を加えることにより変形してバット状成形体を製造する方法であって、木質素材を所定の押出し比(断面減少率)並びにダイス角度を持つダイス型に押し込み、ダイス型内で構成細胞を向心方向に圧縮・せん断変形させて絞り(断面減少させ)ながら押出すため、材料の変形は主にダイス近傍にて優勢に進行する。
【0035】
このため、成形前の木質素材の横断面(木口面)、すなわち、木質素材の長手方向に穴などを形成し、その径・長さ・形状を調整することにより、成形時の長手方向への断面減少率(押出し比)を調整し、成形後の長手方向へのかさ密度の分布を生じせしめ、得られる成形体の重量とそのバランスを制御することも可能である。
【0036】
また、成形前の木質素材が、複数に分割、分離していても、上述の穴などに連結用部材などを挿入した状態で成形することで、成形後には一体化するため、成形前の木材は、単一又は複数のバルク体としてダイス型及びベアリングに供給することが可能であり、該木質素材が単一である場合も複数に分割、分離している場合も、本発明のバットの製造方法では同様に適用可能である。
【0037】
成形前の木質素材の横断面(木口面)、すなわち、木質素材の長手方向に形成した穴などを利用して、マンドレルなどの押出し用工具を併用することで、中空のバットを得ることも可能である。
【0038】
本発明のバットの製造方法を、繊維構造を持つ木質素材に適用した場合、成形過程で繊維がほとんど破壊することがないため、バット表面に元来の繊維構造を持たせることが可能である。
また、バット表面の繊維構造は緻密化され型表面性状と同等程度に平滑化されているために、バットの強度的な欠陥となる密度の疎密状態を改善し強度的信頼性の向上を図ることができる。
【0039】
エンドグリップの作製において、テーパ部と同様に木質素材の繊維の連続性を維持させるために、ベアリングから押出された高密度化木材の弾性回復を利用して形成することも可能である。
この場合は、成形された木材の離型を考慮して、金型のエンドグリップ部並びにテーパ部分に割型構造を採用することになる。
【0040】
次に、本発明における木質成形バットの製造方法について説明する。
本発明では、木質素材を所定の押出し比(断面減少率)並びにダイス角度を持つダイス型に押し込み、ダイス型内で構成細胞を向心方向に圧縮・せん断変形させて絞り(断面減少させ)ながら押出すことにより所望の形状のバットとすることを最大の特徴としている。
【0041】
本発明のバットの製造方法による場合、木質素材の変形は、ダイスの拘束によってダイス直下の材料が圧縮応力場に保持されるため、破壊の要因となる引張応力の発生を防ぎ、細胞のせん断・圧縮変形を与えて形状付与するため、従来、通常の板状木材、棒状木材で行われている、一軸圧縮を利用した成形法に比べ、良好な高密度化変形が可能となる。
一軸圧縮による場合では、圧縮過程において圧縮方向に対して垂直方向に引張応力が生じるため、それが亀裂などの欠陥の発生を誘発すること、材料の供給量が適正でない場合は未充填による成形不良、供給量が過剰な場合はバリなどの発生により良好な成形が不可能である。
【0042】
木質素材として、例えば、針葉樹である杉を用いて当該成形を行うには、
図2に示されるバット成形を想定したダイス金型(押出し比:2.6、ダイス角度 5.45°、ダイス型アール15mm)を100℃以上に加熱し、そこに含水率を調整した杉を押し込む方法が例示される。
ここで、ダイス金型の材質としては、本実施例で使用したSKD11等のSKD(合金工具鋼(ダイス鋼))のほか、ダイス金型の材料として用いられるステンレス鋼等の硬質の金属材料や無機材料等を用いることができる。
軸(繊維)方向に荷重を受けた杉は、ダイス型に押し込まれることで型接触面から向心方向に圧縮力を受けながら断面減少する変形を受けて成形される。
最終的に、直径50mmの杉が直径31mmに絞り成形された高密度化丸棒としてバット状成形体が得られる(
図2)。
【0043】
図2では、外観として素材から成形品にかけて、矢印で示すように木目の連続性が確認され、長手方向に対して横断面変化を与えつつ長手方向の繊維の連続性を維持した状態で、円断面形状への賦形が完了している。
また、成形前の素材断面Aにおいて確認される木目が、成形品の断面Bでは、成形工程での向心方向への圧縮によって間隔が狭くなっており、高密度化されている(特に、成形表面付近でより圧縮度合いの高い状態になっている。)ことがわかる。
【0044】
本発明の成形体の製造方法は、型温度、型表面仕上げ状態、押出し速度、原料含水率、原料樹脂含浸等を設定することにより、バット成形体の性状等を任意に制御することができる。
例えば、熱硬化性樹脂の表面含浸素材を使用し、ダイス出口の型表面を鏡面仕上げ状態にした加熱絞り成形では、樹脂硬化が完了した成形体の表面は、植物系材料の持つ原材料の本来の木目の連続性を反映させつつ、非常に硬質で滑らかな光沢のある成形品が得られる。
更に、同様のダイス条件でも、型温度及び押出し速度を上げることで、成形体表面の高密度化層の厚さを変化させたり、成形に必要な荷重を低減することも適宜可能である。
【0045】
従来のバットの製造方法では、主に、削り出しによる形状付与を行うため、木質素材のかさ密度は賦形によって不変である。
この場合、
図3(従来技術)に示すように、バットの重心位置は、バットのヘッド(太い箇所)になる。
これに対し、本発明は、成形によって形状付与を行うため、木質素材の加工状態によって、得られるバットの重量と重心位置を任意に制御できる。
これを利用することによって、バットの重心位置をグリップ方向に近くし、スイングしやすい木製バットを提供することも可能である。
更に、予め木質素材の内部などに破壊しにくい別の素材を配置することによって、成形されたバットの破損や破片の飛散を防止する処置も可能である。
【0046】
本発明では、木質素材を圧縮・絞り成形により、例えば、バット形状を付与するため、好適には、
図1に示されるダイス型に押し込んで材料を加圧するための任意の成形用のダイス角度と押出し比を有するダイス金型と形状固定用のベアリング部で構成される成形手段と、これに付属する加圧手段及び加熱手段を配設した装置が用いられるが、これらの大きさ、具体的な形状、構造及び成形用の横断面の形状等は、要求されるバットの形状・重さ・重心位置に応じて任意に設計することができる。
また、ダイス後方から成形体を引き抜くことによって成形前の植物系材料の座屈の発生を防止するとともに、押出し荷重を低減させることも可能である。
長手方向に分割できるベアリングを使用すれば、グリップ部に凹凸を持たせた成形も可能である。
【0047】
更に、本発明では、木質素材の種類、ダイス金型に供給する木質素材の形状及び大きさ、その含水率、押出し荷重、温度時間等の成形条件は、木質素材の種類、バットの断面形状及び長さ、密度の分布、要求される重量等に応じて任意に設定することができる。
【0048】
本発明の方法は、成形手法としては、従来、金属材料の塑性変形を利用した押出し成形方法として知られている手法であるが、該方法は、例えば、アルミ合金などの塑性加工性の高い材料に適用される成形手法であって、竹や木材のような木質素材に対しては適用し得ないと考えられていた成形手法であり、本発明者らは、成形の圧力、温度、原料含水率、処理時間等の条件を種々検討した結果、これらの材料であっても、原材料の風合いや繊維構造を維持した形で任意の断面形態に成形体を製造できることを見出し、バットの成形技術として確立されるに至ったものである。
【0049】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明の木製バットの成形方法で重要な押出し・絞り成形は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0050】
杉(針葉樹)から、ダイス金型に挿入可能な大きさ直径50mm以下程度に荒加工した素材を切り出し、それを水浸漬し表面含水状態として押出し実験に供した。
成形には所定のダイス角度、押出し比、ベアリング長さを持つダイス金型による前方押出し成形法を用いた(
図2)。
150℃に加熱したダイス金型に素材1個を挿入し、プレスにより直接素材を押し込んで加圧し変形させた。
その後、金型を冷却せずに加圧素材を取り出して断面形状が50mmから31mmに絞られた絞り・圧縮成形体(
図2)を得た。
なお、成形に要した時間は約10秒程度であった。
また、得られた成形品部は、
図2C、Dのように、ほとんど変色せず、木目の連続性を保っていた。
なお、ダイス金型出口後方にベアリングを増設することで形状保持部の長さを容易に変化できる(
図2)。
成形に伴うかさ密度、ブリネル硬さの変化を
図4に示す。
素材から成形体へ絞り・圧縮を施すことで、かさ密度は、0.28g/cm
3→0.69g/cm
3となり、杉のような軟質材も一般に野球用木製バットして使用される樹種(メープル、アッシュ、アオダモなど)に相当する。
特に、表面付近の密度はより高くなり、ブリネル硬さについてもバット素材に匹敵・凌駕する値となった。
【実施例2】
【0051】
杉(針葉樹)から、ダイス金型に挿入可能な大きさ直径50mm以下程度に荒加工した素材を切り出し、それにフェノール樹脂を38%程度含浸して押出し実験に供した。
押出し成形には所定のダイス角度、押出し比、ベアリング長さを持つダイス金型による前方押出し成形法を用いた。
180℃に加熱したダイス金型に素材1個を挿入し、プレスにより直接素材を押し込んで加圧し変形させた。
その後、金型を冷却して加圧素材を取り出して断面形状が50mmから31mmに絞られた絞り・圧縮成形体を得た。
成形品部は、滑らかな表面で光沢を持ち、硬質化されており、木目の連続性を保っていた。
図4に示したように、素材から成形体へと絞り・圧縮成形を施すことで、成形部のかさ密度・ブリネル硬さは、大幅に向上し、杉のような軟質材も一般に野球用木製バットして使用される樹種(メープル、アッシュ、アオダモなど)に相当する。
このとき、得られた成形体について重心位置の変化を見るため、
図5のように絞り成形部の開始位置が中心となるように材の両端を切断し、その位置に紐をくくりつけてバランスを観察した。
削り出しにより賦形された杉では、直径の太い方に大きく傾くのに対して、絞り・圧縮成形による賦形では、中心付近に重心を与えられることがわかる。
【実施例3】
【0052】
桐(広葉樹)から、ダイス金型に挿入可能な大きさ直径50mm以下程度に荒加工した材料を切り出し、それにフェノール樹脂を22%程度含浸して押出し実験に供した。
押出し成形には所定のダイス角度、押出し比、ベアリング長さを持つダイス金型による前方押出し成形法を用いた(
図6)。
180℃に加熱したダイス金型に素材1個を挿入し、プレスにより直接素材を押し込んで加圧し変形させた。
その後、金型を冷却して成形体を取り出して断面形状が50mmから31mmに絞られた絞り・圧縮成形体を得た。
成形体は、滑らかな表面で光沢を持ち、硬質化されており、木目の連続性を保っていた。
【実施例4】
【0053】
杉(針葉樹)から、ダイス金型に挿入可能な大きさ直径50mm以下程度に荒加工した素材を切り出し、横断面中心付近に長手方向に貫通穴をあけ、その素材にフェノール樹脂を38%程度含浸して押出し実験に供した(
図7)。
押出し成形には所定のダイス角度、押出し比、ベアリング長さを持つダイス金型による前方押出し成形法を用いた。
180℃に加熱したダイス金型に素材1個を挿入し、プレスにより直接素材を押し込んで加圧し変形させた。
その後、金型を冷却して成形体を取り出して断面形状が50mmから31mmに絞られると同時に、初期に設けた穴が絞り圧縮とともに閉塞する成形体を得た。
この穴の大きさ、長手方向深さを調整すれば、同一直径の成形品部表面は、滑らかな表面で光沢を持ち、硬質化されており、木目の連続性を保ちつつ、長手方向に密度分布(単位体積あたりの重量)が異なる木質成形バットが得られる。
【実施例5】
【0054】
杉(針葉樹)から、ダイス金型に挿入可能な大きさ直径50mm以下程度に荒加工した素材を切り出し、横断面中心付近に長手方向に貫通穴をあけ、その素材にフェノール樹脂を38%程度含浸して押出し実験に供した。
押出し成形には所定のダイス角度、押出し比、ベアリング長さを持つダイス金型による前方押出し成形法を用いた。
180℃に加熱したダイス金型に素材2個(50mm長さの素材を貫通穴に竹を挿入した状態)を挿入し、プレスにより直接素材を押し込んで加圧し変形させた(
図8)。
その後、金型を冷却して加圧素材を取り出して断面形状が50mmから31mmに絞られると同時に、2個の素材が長手方向に接合された絞り・加圧成形体を得た。
成形品部の横断面には、竹と杉が良好に接触しており、竹のしなやかさを絞り・圧縮杉に付与しつつ、成形品部表面は、滑らかな表面で光沢を持ち、硬質化されており、杉木目の連続性を保っていた。
このような方式を繰り返すことにより、複数の樹種から構成される木質成形バットが得られる。
【実施例6】
【0055】
杉(かさ密度0.37g/cm
3)及び桐(かさ密度0.29g/cm
3)の丸棒に対して、
図1に示す構造を採用した実大バットサイズの金型を用いて木質成形バットを製造した。
金型は、大同特殊鋼社製のNAK55を用いた2つ割の割型であり、内部に設置されたヒーターによって175℃までの加熱を行うことができる。
図9に得られた木質成形バット(杉及び桐)と、比較例としてメープル(かさ密度0.75g/cm
3)から従来どおり削り出しによって作製された木製バットを示す。
杉及び桐には、成形前にフェノール樹脂を含浸した材料を用いた(重量増加率:杉10%、桐5%)。
なお、素材丸棒長軸方向の形状は、押出し荷重の増大を防ぐため、予め押出し比が1.15(断面減少率15%)程度になるように調整した。
本方法によって得られた木製成形バットの表面は、高密度化されて滑らかであり光沢を生じた。また、バット打撃時の破損に対して多大なる影響を及ぼす密度差(目切れ)を低減できた。更に、目切れのない素材を用いて本押出し・絞り成形にてテーパ部を形成することで、桐ではテーパ部の目切れの発生を防止できた。また、実用レベルのバット重量の調整が、素材寸法と樹脂含浸率によって制御できることを確認した。