(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例について詳細に説明する。ただし、本実施形態は単なる例示であり、本発明は当該実施形態に何ら限定されない。
【0014】
高分子ゲルは、第2の重合体及び/又は第2の網目構造が第1の網目構造に侵入して絡み付いた構造を有し、前記第1の網目構造は、第1の重合体どうしの架橋によって形成され、前記架橋は前記第1の重合体どうしの疎水性相互作用によって形成されている。本明細書では、第2の重合体及び/又は第2の網目構造が第1の網目構造に、侵入して絡み付いた構造を「多重網目構造」と称することがある。
【0015】
一般的に高分子ゲルは架橋構造を有して形成されるが、この架橋構造の形成のされ方によって、化学架橋ゲルと物理架橋ゲルに分類される。化学架橋ゲルは、重合体である高分子鎖どうしが共有結合を介して形成された網目構造(化学架橋網目構造という)を有する。これに対し物理架橋ゲルは、重合体である高分子鎖どうしが疎水性相互作用等の非共有結合を介して形成された網目構造(物理架橋網目構造という)を有する。物理架橋ゲルの架橋点は、環境の変化に応じて可逆的となることがあり、この点において物理架橋網目構造と化学架橋網目構造とは特徴が異なる。
【0016】
上記の多重網目構造は、ベースとなる網目構造に対して、一種以上の直鎖状ポリマー又は他の網目構造あるいはこれらの両方が高分子ゲル全体にわたって均一に絡みついて形成され得る。本実施形態では、上記ベースとなる網目構造、一種以上の直鎖状ポリマー及び他の網目構造がそれぞれ、第1の網目構造に、第2の重合体及び第2の網目構造に相当する。
【0017】
第1の網目構造に直鎖状ポリマーである第2の重合体が絡みついて形成される多重網目構造では、複数の架橋点を有する第1の網目構造に直鎖状ポリマーが侵入して、互いに物理的に絡み付いてダブルネットワークを形成している。このような構造をセミ相互侵入網目構造と呼ぶ。
【0018】
図1は、セミ相互侵入網目構造を有する高分子ゲルの模式図を示している。
図1では一例として、第1の重合体がポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体、第2の重合体がポリアクリルアミドである場合の高分子ゲルである。第1の重合体はポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体の疎水性部位となるポリn−ブチルメタクリレート部位の疎水性相互作用によって架橋が生じ、第1の網目構造を形成する。そして、第2の重合体のポリアクリルアミドが第1の網目構造の網目を侵入しつつ、第1の網目構造に絡み付くことで、セミ相互侵入網目構造を有する高分子ゲルが形成される。
【0019】
他方、第1の網目構造と第2の網目構造とを有してダブルネットワーク型を形成する多重網目構造の場合、複数の架橋点を有する第1の網目構造に複数の架橋点を有する第2の網目構造が侵入し、互いの網目を包摂しつつ物理的に絡み合っている。このようなダブルネットワーク型の構造を相互侵入網目構造と呼ぶ。
【0020】
なお、多重網目構造は、上記のようなダブルネットワーク型に限定されず、三重又は四重以上の網目構造、3又は4以上の架橋重合体や直鎖状ポリマーにより形成される網目構造も含まれる。
【0021】
本実施形態の高分子ゲルでは、第1の重合体どうしの疎水性相互作用による架橋によって形成される第1の網目構造を必須の構成としている。第1の網目構造が疎水性相互作用による架橋によって形成されていることによって、高分子ゲルが水等の親水性溶媒によって過剰に膨潤するのを抑制することができる。これにより、高分子ゲルの機械的強度等の物性の低下が起こりにくくなり、結果として優れた力学物性を有する高分子ゲルとなる。
【0022】
さらに、第1の網目構造は、第1の重合体どうしの疎水性相互作用による架橋によって形成される、いわゆる物理架橋ゲルとなるので、仮に物理架橋ゲルの架橋が切断されたとしても、再度の結合が生じ得る。そのため、高分子ゲルに応力等が加わって損傷や切断されたとしても、切断面どうしを貼り合わせる等すれば、再度元の状態に戻り得るものであるので、自己回復性及び自己修復性を兼ね備えた高分子ゲルである。
【0023】
以上のように、本実施形態の高分子ゲルは、優れた力学物性及び自己回復特性を有している。
【0024】
以下、本実施形態の高分子ゲルを構成する第1の網目構造、第2の重合体、第2の網目構造及び高分子ゲルの製造方法について詳述する。
【0025】
<第1の網目構造>
第1の網目構造は、第1の重合体どうしの架橋によって形成される架橋ポリマーである。この第1の重合体どうしの架橋は、疎水性相互作用によって形成される。より具体的には、第1の重合体どうしが疎水性相互作用によって凝集、いわゆる疎水性凝集が起こり、この凝集によって第1の重合体どうしが物理架橋網目構造を形成する。その結果、第1の網目構造が形成される。
【0026】
第1の重合体は、上記の疎水性相互作用によって物理架橋網目構造を形成することができればその種類は特に限定されないが、疎水性部位(疎水性セグメント)及び親水性部位(親水性セグメント)を有して形成されていることが好ましい。第1の重合体が疎水性部位及び親水性部位を有して形成されていれば、水等の水系溶媒の存在下で疎水性相互作用が生じやすくなり、第1の重合体による物理架橋網目構造が形成されやすく、物理架橋網目構造もより安定となる。
【0027】
特に、第1の重合体は、疎水性部位を含むAブロックと、親水性部位を含むBブロックとを含んで形成されるブロック共重合体であり、Bブロックを構成する繰り返し構成単位の側鎖は水素結合可能な官能基を有していることが好ましい。この場合、第1の重合体による物理架橋網目構造がさらに形成されやすくなり、物理架橋網目構造の安定性も向上する。
【0028】
Aブロックは、重合性ビニル単量体に由来する構造単位を繰り返し構成単位として含むセグメントであるが、特にAブロックは、疎水性セグメントで構成されるものである。本明細書でいう重合性ビニル単量体に由来する構造単位とは、重合性ビニル単量体が重合して形成される構造単位のことをいい、具体的には、重合性ビニル単量体のラジカル重合可能な炭素−炭素二重結合が炭素−炭素単結合になった構造単位をいう。よって、このようなAブロックは、重合性ビニル単量体をラジカル重合等によって重合する等して得ることができるセグメントである。
【0029】
Aブロックの繰り返し構成単位を形成するための重合性ビニル単量体としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸s−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−ノニル、(メタ)アクリル酸イソノニル、(メタ)アクリル酸n−デシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸n−ドデシル、(メタ)アクリル酸n−ステリアル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等の(メタ)アクリル酸脂環式アルキルエステル;(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の(メタ)アクリル酸アリールエステル;(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、4−メトキシスチレン、2−ヒドロキシメチルスチレン、1−ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー;等が例示される。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」は「アクリル及びメタクリルの少なくとも一方」を意味する。例えば「(メタ)アクリル酸」は「アクリル酸及びメタクリル酸の少なくとも一方」を意味する。
【0030】
Aブロックの繰り返し構成単位を形成するための重合性ビニル単量体は、第1の重合体どうしが疎水性相互作用により架橋して物理架橋網目構造を形成し得る限りは、1種のみが選択されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。上記例示列挙したAブロックを構成する重合性ビニル単量体の中でも、含水時における高分子ゲルの強度が高いという点で、(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましい。特に、疎水性相互作用により架橋して物理架橋網目構造を形成しやすくなるという点で、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの側鎖アルキル基の炭素数は1以上、10以下であることが好ましい。
【0031】
Aブロックは、上述した重合性ビニル単量体由来の繰り返し構成単位のみで形成されていてもよいが、第1の重合体が疎水性相互作用により架橋して物理架橋網目構造を形成する限りは、その他の繰り返し構成単位が含まれていてもよい。例えば、後述するBブロックを構成するための繰り返し構成単位が含まれていてもよいし、それ以外の繰り返し構成単位が含まれていてもよい。これらの繰り返し構成単位がAブロック中に含まれる場合は、Aブロック中を構成する繰り返し構成単位の全モル数に対して20モル%以下にすることが好ましく、この場合、得られる高分子ゲルの含水時(膨潤時)における強度の低下を起こりにくくすることができる。
【0032】
Aブロックは、1種のみの繰り返し構成単位で形成されるセグメントであってもよいし、2種以上の繰り返し構成単位で形成されるセグメントであってもよい。2種以上の繰り返し構成単位で形成されるセグメントの場合は、各繰り返し構成単位はランダム配列の態様でもよいし、ブロック配列の態様でもよい。
【0033】
Bブロックも、重合性ビニル単量体に由来する構造単位を繰り返し構成単位として含むセグメントである。Bブロックは、重合性ビニル単量体をラジカル重合等によって重合する等して得ることができる親水性セグメントである。
【0034】
特に、Bブロックの繰り返し構成単位を形成するための重合性ビニル単量体は、水素結合を形成することが可能な官能基を有する化合物である。水素結合を形成することが可能な官能基とは、水分子と容易に水素結合を形成し得る官能基をいう。このような官能基としては、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、アミノ基、アミド基、ポリエチレングリコール残基等が例示される。
【0035】
Bブロックを構成するための重合性ビニル単量体の具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル等の水酸基を有するビニルモノマー;(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基を有するビニルモノマー; 2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有するビニルモノマー;N,N−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−メチル−N−エチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のアミノ基を有するビニルモノマー;(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル−N−エチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−エチルメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等のアミド基を有するビニルモノマー;ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート等のポリエチレングリコール構造単位を有する(メタ)アクリレート類等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリ」とは、「メタクリ」及び「アクリ」の少なくとも一方を意味する。
【0036】
Bブロックを構成するための重合性ビニル単量体は、第1の重合体どうしが疎水性相互作用により架橋して物理架橋網目構造を形成し得る限りは、1種のみが選択されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。上記例示列挙したBブロックを構成する重合性ビニル単量体の中でも、含水率を高くすることができるという点で、カルボキシル基を有する重合性ビニル単量体が好ましい。
【0037】
Bブロックは、上述した重合性ビニル単量体由来の繰り返し構成単位のみで形成されていてもよいが、第1の重合体が疎水性相互作用により架橋して物理架橋網目構造を形成する限りは、その他の繰り返し構成単位が含まれていてもよい。例えば、上述のAブロックを構成するための繰り返し構成単位が含まれていてもよいし、それ以外の繰り返し構成単位が含まれていてもよい。これらの繰り返し構成単位がBブロック中に含まれる場合は、Bブロック中を構成する繰り返し構成単位の全モル数に対して20モル%以下にすることが好ましく、この場合、より含水率の高い高分子ゲルを得ることができる。
【0038】
Bブロックは、1種のみの繰り返し構成単位で形成されるセグメントであってもよいし、2種以上の繰り返し構成単位で形成されるセグメントであってもよい。2種以上の繰り返し構成単位で形成されるセグメントの場合は、各繰り返し構成単位はランダム配列の態様でもよいし、ブロック配列の態様でもよい。
【0039】
第1の重合体は、上記のAブロックとBブロックとが互いに化学結合して形成されるブロック共重合体、いわゆるジブロックポリマーとして形成され得る。
【0040】
あるいは、より好ましい第1の重合体としては、Bブロックの両端にAブロックが結合して形成されるトリブロック共重合体である。このトリブロック共重合体は、3つのセグメントで構成されており、末端側からAブロック、Bブロック、Aブロックの順に互いに化学結合を介して形成されてABA型ブロック共重合体となる。第1の重合体がこのようなトリブロック共重合体であれば、第1の重合体どうしの疎水性相互作用(疎水性凝集)がより容易に起こりやすくなり、その結果、物理架橋網目構造が形成されやすく、安定な第1の網目構造が形成されやすくなるという点で有利である。
【0041】
なお、
図1の実施形態における第1の重合体もABA型ブロック共重合体の例であり、この例では、第1の重合体の両端のAブロックがいずれもポリn−ブチルメタクリレート、両Aブロック間のBブロックがポリメタクリル酸である。
【0042】
上記のように第1の重合体がABA型トリブロック共重合体である場合、両端に位置する2つのAブロックは互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0043】
第1の重合体が、上記AブロックとBブロックとを有して形成されている場合、Aブロックを構成する繰り返し構成単位とBブロックを構成する繰り返し構成単位とのモル比(単に「A:B」と表記する)は特に限定的ではないが、A:B=10:90〜90:10とすることができる。A:Bの値が上記範囲であれば、疎水性相互作用(疎水性凝集)によって、物理架橋網目構造が形成されやすく、安定な第1の網目構造が形成されやすくなるという点で有利である。より好ましいA:Bの値は、30:70〜70:30ある。
【0044】
第1の重合体の重量平均分子量(Mw)は特に制限されないが、下限値は5,000であることが好ましく、上限値は1,000,000であることが好ましい。上記下限値は10,000であることがより好ましく、50,000であることが特に好ましい。また、上記上限値は300,000であることがより好ましく、100,000であることが特に好ましい。なお、ここでいう重量平均分子量(Mw)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によって測定された値をいう。
【0045】
第1の重合体の分子量分布(PDI)が3以下であることが好ましく、2以下であることがより好ましく、1.5以下であることが特に好ましい。なお、ここでいうPDIとは、(ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw))/(ブロック共重合体の数平均分子量(Mn))によって求められるものであり、PDIが小さいほど分子量分布の幅が狭い、すなわち、分子量のそろった重合体であることを指す。PDIの値が1のとき最も分子量分布の幅が狭い。反対にPDIが大きいほど、設計した第1の重合体の分子量に比べて、分子量が小さいものが多数存在していることを意味する。なお、ここでのMw及びMnも上記GPCによって測定された値をいう。
【0046】
第1の重合体の製造方法は特に限定されず、例えば、公知の製造方法によって製造することができる。例えば、リビングラジカル重合法等を用いたブロック重合により、重合性単量体(モノマー)を順次重合反応させることによって第1の重合体を製造することが可能である。特に、第1の重合体が上述した疎水性部位であるAブロックと親水性部位であるBブロックを有するブロック共重合体であれば、所望の構造に制御しやすいという点で、リビングラジカル重合法を採用することが好ましい。
【0047】
上記リビングラジカル重合法とは、ラジカル重合の簡便性と汎用性を保ちつつ、分子構造の精密制御を可能にする重合法である。リビングラジカル重合法には、重合成長末端を安定化させる手法の違いにより、遷移金属触媒を用いる方法(ATRP法)、硫黄系の可逆的連鎖移動剤を用いる方法(RAFT法)、有機テルル化合物を用いる方法(TERP法)等の方法がある。これらの方法のなかでも、使用できるモノマーの多様性、高分子領域での分子量制御の観点から、有機テルル化合物を用いる方法(TERP法)を用いることが好ましい。
【0048】
TERP法とは、有機テルル化合物を重合開始剤として用い、ラジカル重合性化合物を重合させる方法であり、例えば、国際公開2004/14848号及び国際公開2004/14962号に記載された方法である。
【0049】
具体的には、下記の(a)〜(d)
(a)一般式(1)で表される有機テルル化合物、
(b)一般式(1)で表される有機テルル化合物とアゾ系重合開始剤との混合物、
(c)一般式(1)で表される有機テルル化合物と一般式(2)で表される有機ジテルル化合物との混合物、または
(d)一般式(1)で表される有機テルル化合物、アゾ系重合開始剤及び一般式(2)で表される有機ジテルル化合物の混合物、
のいずれかを用いて重合する。
【0051】
(1)
(式中、R
1は、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基又は芳香族ヘテロ環基を示す。R
2及びR
3は、各々水素原子又は炭素数1〜8のアルキル基を示す。R
4は炭素数1〜8のアルキル基、アリール基、芳香族ヘテロ環基、アシル基、アミド基、オキシカルボニル基又はシアノ基を示す。)
【0053】
(式中、R
1は、炭素数1〜8のアルキル基、アリール基又は芳香族ヘテロ環基を示す。)
一般式(1)で示される有機テルル化合物は、具体的には(メチルテラニルメチル)ベンゼン、(メチルテラニルメチル)ナフタレン、エチル−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピオネート、エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート、(2−トリメチルシロキシエチル)−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピネート、(2−ヒドロキシエチル)−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピネート、(3−トリメチルシリルプロパルギル)−2−メチル−2−メチルテラニル−プロピネート等を例示することができる。
【0054】
一般式(2)で示される有機ジテルル化合物は、具体的にはジメチルジテルリド、ジエチルジテルリド、ジ−n−プロピルジテルリド、ジイソプロピルジテルリド、ジシクロプロピルジテルリド、ジ−n−ブチルジテルリド、ジ−s−ブチルジテルリド、ジ−t−ブチルジテルリド、ジシクロブチルジテルリド、ジフェニルジテルリド、ビス−(p−メトキシフェニル)ジテルリド、ビス−(p−アミノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−ニトロフェニル)ジテルリド、ビス−(p−シアノフェニル)ジテルリド、ビス−(p−スルホニルフェニル)ジテルリド、ジナフチルジテルリド、ジピリジルジテルリド等を例示することができる。
【0055】
アゾ系重合開始剤は、通常のラジカル重合で使用するアゾ系重合開始剤であれば特に制限なく使用することができる。2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(AMBN)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(ADVN)、1,1’−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)(ACHN)、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート(MAIB)、4,4’−アゾビス(4−シアノバレリアン酸)(ACVA)、1,1’−アゾビス(1−アセトキシ−1−フェニルエタン)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチルアミド)、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(V−70)、2,2’−アゾビス(2−メチルアミジノプロパン)二塩酸塩、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、2−シアノ−2−プロピルアゾホルムアミド、2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)、2,2’−アゾビス(N−シクロヘキシル−2−メチルプロピオンアミド)等を例示することができる。
【0056】
一般式(1)の化合物の使用量は、第1の重合体に求められる物性により適宜調節すればよいが、リビングラジカル重合させるモノマー1molに対して、一般式(1)の化合物の使用量を通常0.05〜50mmolとするのがよい。
【0057】
一般式(1)の化合物とアゾ系重合開始剤とを併用する場合、一般式(1)の化合物1molに対して、アゾ系重合開始剤の使用量を通常0.01〜10molとするのがよい。
【0058】
一般式(1)の化合物と一般式(2)の化合物とを併用する場合、一般式(1)の化合物1molに対して、一般式(2)の化合物の使用量を通常0.01〜100molとするのがよい。
【0059】
一般式(1)の化合物、一般式(2)の化合物及びアゾ系重合開始剤を併用する場合、一般式(1)及び(2)の化合物の合計1molに対して、アゾ系重合開始剤の使用量を通常0.01〜100molとするのがよい。
【0060】
上記の重合反応は、無溶剤でも行うことができるが、ラジカル重合で一般に使用される有機溶媒又は水性溶媒を使用し、上記混合物を撹拌して行われる。使用できる有機溶媒は、ベンゼン、トルエン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、ジオキサン、ヘキサフルオロイソプロパオール、クロロホルム、四塩化炭素、テトラヒドロフラン(THF)、酢酸エチル、トリフルオロメチルベンゼン等を例示することができる。また、水性溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノール、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、1−メトキシ−2−プロパノール、ジアセトンアルコール等を例示することができる。
【0061】
反応温度及び反応時間は、目的とする第1の重合体の分子量や分子量分布により適宜調節すればよいが、通常、0〜150℃で、1分〜100時間撹拌すればよい。TERP法は、低い重合温度及び短い重合時間であっても高い収率で精密な分子量分布を有する重合体を得ることができる。
【0062】
重合反応の終了後、得られた反応混合物から、通常の分離精製手段により、目的とする共重合体を分離することができる。
【0063】
第1の重合体は、疎水性相互作用(疎水性凝集)によって架橋が形成されて第1の網目構造が形成され、いわゆる物理架橋ゲルの形態となる。
【0064】
第1の重合体から第1の網目構造を形成する方法は特に限定されないが、例えば、(1)第1の重合体を溶媒に溶かした第1の重合体溶液を用い、所定の形状の鋳型に入れた状態で物理架橋させる方法、(2)前記第1の重合体溶液を用い、重合体を物理架橋させながら、糸状あるいはフィルム状の形状に連続的に賦形する方法、(3)前記第1の重合体溶液を用い、重合体を物理架橋させた後、糸状あるいはフィルム状の形状に連続的に賦形する方法等を用いれば、第1の網目構造が形成される。
【0065】
上記物理架橋させる具体的な手段としては、例えば、第1の重合体を良溶媒に溶かした溶液を第1の重合体の貧溶媒に浸漬する方法、第1の重合体を良溶媒に溶かした溶液に、第1の重合体の貧溶媒の蒸気を噴霧する方法、又は、前記蒸気噴霧後にさらに貧溶媒に浸漬する等の方法で溶媒交換する方法、を採用することができる。これらの方法により、第1の重合体間で疎水性部位の凝集が起こり、第1の網目構造が形成されて物理架橋ゲルが得られる。
【0066】
前記良溶媒の種類は、第1の重合体の良溶媒であれば特に制限はないが、水混和性の有機溶媒を用いることが好ましい。具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、テトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。この中でもDMFが好ましい。前記貧溶媒の種類も、第1の重合体の貧溶媒であれば制限はないが、水であることが好ましい。
【0067】
前記第1の重合体の溶液におけるポリマーの固形分濃度は、上述したセミ相互侵入網目構造又は相互侵入網目構造を有する高分子ゲルの力学物性を向上させることができる観点から、5〜50質量%とすることが好ましい。特に、上記固形分濃度が10〜30質量%であれば、優れた力学物性の高分子ゲルを得ることができる。
【0068】
<第2の重合体>
第2の重合体は、非架橋の重合体、すなわち直鎖状ポリマーを使用することができるが、特に、水素結合を形成することが可能な官能基を有していることが好ましい。この場合、第1の網目構造と第2の重合体との相互作用がより強くなり、高分子ゲルの力学物性がより優れたものになる。
【0069】
水素結合を形成することが可能な官能基としては、水酸基、カルボキシル基、アミド基等の官能基を挙げることができる。これらの中でも、第1の網目構造との相互作用がより強くなるという観点から、第2の重合体は、その繰り返し構成単位中にアミド基を有していること、特に側鎖にアミド基を有していることが好ましい。
【0070】
第2の重合体は、重合性ビニル単量体、特には単官能の重合性ビニル単量体をラジカル重合させる方法等によって製造されたものを使用することができる。第2の重合体を形成するための重合性ビニル単量体が、水素結合を形成することが可能な官能基を有する化合物であれば、第2の重合体は、上述のように水素結合を形成することが可能な官能基を有するものとして得られる。
【0071】
第2の重合体を形成するための重合性ビニル単量体としては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシスチレン等の水酸基を有するビニルモノマー;(メタ)アクリル酸、6−((メタ)アクリロイルオキシ)ヘキサン酸、ビニル安息香酸等のカルボキシル基を有するビニルモノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−ビニルホルムアミド等のアミド基を有するビニルモノマー;等が挙げられる。
【0072】
上記例示列挙した重合性ビニル単量体の中でも、得られる第2の重合体にアミド基を導入できるという点では、アミド基を有する重合性ビニル単量体が好ましい。
【0073】
第2の重合体は、1種のみの繰り返し構成単位で形成されるホモポリマーであってもよいし、2種以上の繰り返し構成単位で形成されるコポリマーであってもよい。コポリマーの場合は、ランダム共重合体、ブロック共重合体等の何れの態様であってもよい。また、第2の重合体は、第1の網目構造に対してセミ相互侵入網目構造を形成できる程度であれば、分岐鎖を有していてもよい。
【0074】
<第2の網目構造>
第2の網目構造は、上記第2の重合体が架橋されて形成される架橋ポリマーにより構成されることが適している。このような第2の網目構造は、第2の重合体を重合性ビニル単量体の重合によって製造する際に架橋剤を併用することで得ることができる。
【0075】
上記架橋剤は、多官能性の重合性ビニル単量体であれば特に限定されず、公知の架橋を使用することができる。架橋剤は、重合性ビニル単量体の種類に応じて適宜選択され得るが、例えば、N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N,N’−エチレンビス(メタ)アクリルアミド、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6―ビス((メタ)アクリロイルオキシ)ヘキサン等のジビニル化合物を挙げることができる。
【0076】
<高分子ゲルの製造方法>
本実施形態の高分子ゲルを製造する方法は特に限定されないが、簡便に本実施形態の高分子ゲルを製造できるという観点から、物理架橋網目構造に形成されたゲル(物理架橋ゲル)中に重合性ビニル単量体を導入し、この状態で当該単量体を重合する方法によって製造することが好ましい。
【0077】
具体的には、以下の第1の工程と第2の工程を備える方法によって高分子ゲルを製造することができる。
第1の工程:第1の重合体どうしを架橋させることで第1の網目構造を形成する第1の工程。
第2の工程:第1の網目構造の存在下で重合性ビニル単量体を重合して第2の重合体を形成させる工程a及び第1の網目構造の存在下で架橋剤を含む重合性ビニル単量体を重合して第2の網目構造を形成させる工程bの少なくとも一方の工程を含む。
【0078】
第1の工程では、第1の重合体どうしを架橋させることで第1の網目構造を形成する。第1の重合体は、上述したように公知のラジカル重合等の方法によって製造することができる。特に、第1の重合体が疎水性部位となるAブロックと、親水性部位となるBブロックとを有するブロック共重合体であれば、上述したリビングラジカル重合法を採用することが好ましい。リビングラジカル重合法において使用する原料、重合条件等は上述したとおりである。また、得られた第1の重合体から第1の網目構造を形成する方法も上述した方法と同様である。
【0079】
第2の工程は、上記の工程aの工程bいずれか一方又は両方を含む工程である。
【0080】
工程aでは、上記の第1の工程で形成された第1の網目構造の存在下で重合性ビニル単量体を重合して第2の重合体及び第2の網目構造の少なくとも一方を形成させる。
【0081】
この工程aではまず、第1の網目構造に形成されている物理架橋ゲル中に重合性ビニル単量体を導入する。この導入にあたっては、物理架橋ゲル中に含まれる溶媒に重合性ビニル単量体を均一に拡散させることが好ましい。
【0082】
工程aで重合性ビニル単量体を導入するにあたっては、例えば、重合性ビニル単量体を含む溶液をあらかじめ調製し、この溶液中に、第1工程で形成させた第1の網目構造(物理架橋ゲル)を浸漬させる方法が簡便であるので好ましい。このようにすることで、第1の網目構造が膨潤していく過程で重合性ビニル単量体も第1の網目構造の内部に取り込まれる。
【0083】
工程aで使用する重合性ビニル単量体の種類は、上述した第2の重合体を形成するための重合性ビニル単量体と同じである。特に、工程aで使用する重合性ビニル単量体は、水素結合を形成することが可能な官能基を有していることが好ましい。この場合、第1の網目構造(物理架橋ゲル)中への重合性ビニル単量体の侵入が生じ易くなり、また、重合により得られた第2の重合体と第1の網目構造との相互作用も高まりやすいので、高分子ゲルの力学物性をより向上させることが可能となる。
【0084】
工程aで使用する重合性ビニル単量体は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用することも可能である。
【0085】
上記の重合性ビニル単量体を含む溶液は、第2の重合体を形成するための重合性ビニル単量体の他、重合開始剤及び溶媒を含んで構成される。
【0086】
重合開始剤は特に限定されず、モノマーや溶媒の種類及び重合方法に応じて公知のものを適宜用いることができる。例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化ベンゾイル、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル等の熱開始剤、α−ケトグルタル酸、ベンゾフェノン、アセトフェノン等のUV開始剤等が使用可能である。
【0087】
溶媒の種類は特に限定されないが、好ましくは水である。
【0088】
他方、工程bでは、第1の網目構造の存在下で架橋剤を含む重合性ビニル単量体を重合して第2の網目構造を形成させる。このように重合性ビニル単量体に架橋剤が含まれることにより、工程bでの重合によって架橋構造を有する第2の重合体が生成し、これにより第2の網目構造が形成されることになる。ここで使用できる架橋剤の種類は、上述した架橋剤と同じ種類である。なお、工程bで使用する重合性ビニル単量体は、工程aの重合性単量体と同じでよい。
【0089】
第2の工程では、上記工程aのみで構成されていてもよいし、上記工程bのみで構成されていてもよく、また、工程a及び工程bの両方を有していてもよい。ただし、高分子ゲル力学物性及び自己回復特性を向上させやすいという点では、第2の工程aのみで構成されていることが好ましい。
【0090】
工程a,bにおいて、重合性ビニル単量体を含む溶液の全量に対する重合性ビニル単量体の含有量は、0.1〜8mol/Lの範囲であることが好ましい。この範囲であれば、最終的に得られる高分子ゲルが柔軟になったり脆くなったりするのを抑制しやすくなる。より好ましい重合性ビニル単量体の上記含有量は、1〜4mol/Lである。
【0091】
また工程a,bにおいて、上記重合性ビニル単量体を含む溶液における重合開始剤の含有量は、重合性ビニル単量体の全量に対して0.001〜10mol%であることが好ましい。重合開始剤の含有量が0.001mol%以上であれば重合を十分に進行させることができ、重合開始剤の含有量が10mol%以下であれば高分子ゲルの分子量が小さくなり過ぎることを抑制でき、高分子ゲルの強度低下を防止しやすい。より好ましい重合開始剤の含有量は、0.01〜2mol%である。
【0092】
工程bのように重合性ビニル単量体を含む溶液が架橋剤を含有する場合、架橋剤の含有量は、重合性ビニル単量体の全量に対して10mol%以下とすることが好ましく、この含有量であれば高分子ゲルが脆くなるのを抑制しやすい。
【0093】
第2の工程で行う重合の方法は、公知の重合方法を採用することができる。例えば、熱開始剤によるラジカル重合、光開始剤による光重合等が挙げられるが、中でも光重合が好ましい。ただし、原料の混合物が不透明であるために充分に光が透過されない場合には、熱による重合を行うことが好ましい。また、温度によって挙動が変化する重合性ビニル単量体を用いる場合等は光による重合を行うことが好ましい場合もある。
【0094】
なお、高分子ゲルを製造するにあたっては、必要に応じて公知の着色剤、可塑剤、安定剤、強化剤、無機フィラー、耐衝撃性改質剤、難燃剤等の添加剤が含有されてもよい。これらの添加剤を高分子ゲルに含有させる方法としては、特に限定されず、各工程において必要量を添加する方法を採用できる。例えば、高分子量の添加剤であれば、工程2における重合時の溶液に添加することが好ましい。低分子量の添加剤であれば最終的に得られた高分子ゲルに自由拡散で含有させるようにしてもよい。上記のような添加剤を製造時に使用することによって、添加剤を含有する高分子ゲルが製造され、その添加剤の機能に応じた性能が高分子ゲルに付与され得る。
【0095】
工程aにおける重合性ビニル単量体は、第1の網目構造に取り込まれた状態で重合が進行する。そのため、この重合性ビニル単量体の重合によって生成する第2の重合体は、第1の網目構造中でその鎖長を延長させながら生成していくので、第1の網目構造の網目を貫通しながら生長反応が起こり得る。その結果、最終的に製造される高分子ゲルは、第1の網目構造に第2の重合体が侵入して絡み付いた構造を有し、セミ相互侵入網目構造として形成される。
【0096】
一方、工程bのように架橋剤が存在する場合についても、第1の網目構造に取り込まれた状態で重合が進行する。この場合も、第1の網目構造中で重合が進行するので、第1の網目構造の網目を貫通しながら生長反応が起こり得る。さらに架橋剤が存在することで生長中の高分子鎖どうしの架橋が起こる。これにより、第2の網目構造が、第1の網目構造に絡み付いた状態で形成される。このように第2の網目構造を形成する高分子鎖(ポリマーマトリックス)が第1の網目構造の網目を貫通しつつ架橋が形成され得ることによって、相互侵入網目構造の高分子ゲルが形成される。
【0097】
したがって、上記第1の工程及び第2の工程を備える製造方法によれば、第2の重合体の架橋度を調節することで、高分子ゲルの多重網目構造、すなわち、セミ相互侵入網目構造の高分子ゲルとするか相互侵入網目構造の高分子ゲルとするかを制御することができる。高分子ゲル力学物性及び自己回復特性を向上させやすいという点では、第1の網目構造と第2の重合体とで構成されるセミ相互侵入網目構造であることが好ましい。
【0098】
上記製造方法では、最終的に高分子ゲルが製造されるまでの製造工程において、中間体の取扱い性が良いため、大きい形状の高分子ゲルや複雑な形状の高分子ゲルに成形することも可能であり、連続生産プロセスにも適用できる。
【0099】
したがって、本発明に係る高分子ゲルの製造方法によれば、上記高分子ゲルを製造するのに適しており、特に、優れた力学物性及び自己回復特性を有する高分子ゲルを簡易な工程で製造することができる。
【実施例】
【0100】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0101】
まず、以下の合成例1〜6のそれぞれの手順によって共重合体(第1の重合体)を合成した。また、各合成例で得た共重合体、各実施例及び比較例で製造した高分子ゲルの各種物性測定は、以下の方法により評価した。
【0102】
(重合率)
NMR(500MHz)にて
1H−NMRを測定し、重合に使用したモノマーのビニル基とポリマーピークの積分比から重合率を算出した。
【0103】
(組成比)
NMR(500MHz)にて
1H−NMRを測定し、各ポリマー成分それぞれのピークの積分比から組成比(共重合体中の各構成単位数の比)を算出した。
【0104】
(重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(PDI))
GPCにより、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定した。具体的には、カラムとしてTSKgel SuperMultipore HZ−H(Φ4.6×150,TOSOH Co.Tokyo,Japan)×2(東ソー社製)、移動相としてテトラヒドロフラン、標準物質としてポリスチレン(東ソーTSK Standard)を使用して検量線を作成し、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定した。また、これらの測定値から分子量分布(PDI)を算出した。
【0105】
(含水率)
溶媒(水)で平衡膨潤させたゲルの重量(Ww)と乾燥させたゲルの重量(Wd)をそれぞれ電子天秤で測定し、以下の式
含水率=(Ww−Wd)/Ww×100(%)
により算出した。
【0106】
(引張試験)
シート状のゲルを、JIS K6251で規定されたダンベル7号型(測定部の長さ:12mm、幅:2mm)に打ち抜き、専用のチャックでORIENTEC社製万能試験機 TENSILON RTC−1310Aに固定し、速度100mm/minで引張試験を行った。引張破断応力を「引張破断時の力/元の断面積」という式により、また、引張破断歪を「(引張破断時の長さ−元の長さ)/元の長さ」という式により求めた。また、引張歪が0から0.1までの領域における引張応力―歪曲線の傾きを初期弾性率とした。
【0107】
(引裂試験)
シート状のゲルを、JIS K6252で規定されたトラウザ型の半分のサイズ(長さ:50mm、幅:7.5mm、切れ込みの長さ:20mm)に打ち抜き、専用のチャックでORIENTEC社製万能試験機 TENSILON RTC−1310Aに固定し、速度500mm/minで引裂試験を行った。破壊エネルギーを「亀裂進行時の力の平均/ゲルの厚さ」という式により求めた。
【0108】
(合成例1)
窒素置換した反応容器に、n−ブチルメタクリレート(以下「BMA」とする)を227.5g(1600mmol)、エチル−2−メチル−2−n−ブチルテラニル−プロピオネート(以下「BTEE」とする)を2.98ml(13.0mmol)、ジ−n−ブチルジテルリド(以下「DBDT」とする)を1.33ml(6.5mmol)、2,2‘−アゾビス(イソブチロニトリル)(以下「AIBN」とする)を0.43g(2.6mmol)及び1−メトキシ−2−プロパノール(以下「MP」とする)を227.5g加え、60℃で22時間反応させることで重合1段目の反応を行った。反応終了後の重合率は96%、Mwは23,300、PDIは1.31であった。
【0109】
得られた溶液に、メタクリル酸(以下「MAA」とする)を195.0g(2265mmol)、AIBNを0.43g(2.6mmol)及びMPを557g加え、60℃で23時間反応させることで重合2段目の反応を行った。反応終了後の重合率は99%であった。Mwは43,360、PDIは1.25であった。
【0110】
得られた溶液に、BMAを227.5g(1600mmol)、AIBNを0.43g(2.6mmol)及びMPを310g加え、60℃で32時間反応させることで重合3段目の反応を行った。反応終了後の重合率は96%であった。
【0111】
その後、ヘプタンで再沈殿させた後、乾燥することによりポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体450gを得た。このMwは62,000、PDIは1.25、組成比はポリn−ブチルメタクリレート/ポリメタクリル酸比で58/42であった。
【0112】
(合成例2)
窒素置換した反応容器に、BMAを77.0g(541.5mmol)、BTEEを0.672ml(2.93mmol)、DBDTを0.301ml(1.47mmol)、AIBNを0.096g(0.59mmol)及びMPを77.0g加え、60℃で26時間反応させることで重合1段目の反応を行った。反応終了後の重合率は93%、Mwは30,240、PDIは1.39であった。
【0113】
得られた溶液に、MAAを66.0g(766.6mmol)、AIBNを0.096g(0.59mmol)及びMPを227g加え、60℃で22時間反応させることで重合2段目の反応を行った。反応終了後の重合率は98%であった。Mwは59,070、PDIは1.33であった。
【0114】
得られた溶液に、BMAを77.0g(541.5mmol)、AIBNを0.096g(0.59mmol)及びMPを205g加え、60℃で60時間反応させることで重合3段目の反応を行った。反応終了後の重合率は96%であった。
【0115】
反応終了後、ヘプタンで再沈殿させた後、乾燥することによりポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体170gを得た。Mwは74,220、PDIは1.42、組成比はポリn−ブチルメタクリレート/ポリメタクリル酸=58/42であった。
【0116】
(合成例3)
窒素置換した反応容器に、BMAを77.0g(541.5mmol)、BTEEを0.504ml(2.20mmol)、DBDTを0.226ml(1.10mmol)、AIBNを0.072g(0.44mmol)及びMPを77.0g加え、60℃で26時間反応させることで重合1段目の反応を行った。反応終了後の重合率は90%、Mwは37,100、PDIは1.40であった。
【0117】
得られた溶液に、MAAを66.0g(766.6mmol)、AIBNを0.072g(0.44mmol)及びMPを227g加え、60℃で17時間反応させることで重合2段目の反応を行った。反応終了後の重合率は90%であった。Mwは59,410、PDIは1.57であった。
【0118】
得られた溶液に、BMAを77.0g(541.5mmol)、AIBNを0.072g(0.44mmol)及びMPを205g加え、60℃で49時間反応させることで重合3段目の反応を行った。反応終了後の重合率は95%であった。
【0119】
反応終了後、ヘプタンで再沈殿させた後、乾燥することによりポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体160gを得た。Mwは94,370、PDIは1.46、組成比はポリn−ブチルメタクリレート/ポリメタクリル酸=58/42であった。
【0120】
(合成例4)
窒素置換した反応容器に、BMAを201.5g(1417mmol)、BTEEを2.98ml(13.0mmol)、DBDTを1.33ml(6.5mmol)、AIBNを0.43g(2.6mmol)及びMPを201.5g加え、60℃で22時間反応させることで重合1段目の反応を行った。反応終了後の重合率は96%、Mwは23,640、PDIは1.36であった。
【0121】
得られた溶液に、MAAを247.0g(2869mmol)、AIBNを0.43g(2.6mmol)及びMPを709g加え、60℃で23時間反応させることで重合2段目の反応を行った。反応終了後の重合率は92%であった。Mwは52,590、PDIは1.31であった。
【0122】
得られた溶液に、BMAを201.5g(1417mmol)、AIBNを0.43g(2.6mmol)及びMPを536g加え、60℃で47時間反応させることで重合3段目の反応を行った。反応終了後の重合率は99%であった。
【0123】
反応終了後、ヘプタンで再沈殿させた後、乾燥することによりポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体440gを得た。Mwは60,800、PDIは1.34、組成比はポリn−ブチルメタクリレート/ポリメタクリル酸=49/51であった。
【0124】
(合成例5)
窒素置換した反応容器に、BMAを67.0g(470.9mmol)、BTEEを0.876ml(3.83mmol)、DBDTを0.393ml(1.91mmol)、AIBNを0.13g(0.77mmol)及びMPを67.0g加え、60℃で23時間反応させることで重合1段目の反応を行った。反応終了後の重合率は94%、Mwは20,870、PDIは1.43であった。
【0125】
得られた溶液に、MAAを86.1g(1000.0mmol)、AIBNを0.13g(0.77mmol)及びMPを285g加え、60℃で26時間反応させることで重合2段目の反応を行った。反応終了後の重合率は99%であった。Mwは51,710、PDIは1.34であった。
【0126】
得られた溶液に、BMAを67.0g(470.9mmol)、AIBNを0.13g(0.77mmol)及びMPを170g加え、60℃で67時間反応させることで重合3段目の反応を行った。反応終了後の重合率は98%であった。
【0127】
反応終了後、ヘプタンで再沈殿させた後、乾燥することによりポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体206gを得た。Mwは62,860、PDIは1.38、組成比はポリn−ブチルメタクリレート/ポリメタクリル酸=47/53であった。
【0128】
(合成例6)
窒素置換した反応容器に、BMAを59.2g(416.5mmol)、BTEEを0.775ml(3.38mmol)、DBDTを0.347ml(1.69mmol)、AIBNを0.11g(0.68mmol)及びMPを59.2g加え、60℃で23時間反応させることで重合1段目の反応を行った。反応終了後の重合率は95%、Mwは21,470、PDIは1.41であった。
【0129】
得られた溶液に、MAAを101.5g(1178.9mmol)、AIBNを0.11g(0.68mmol)及びMPを310g加え、60℃で26時間反応させることで重合2段目の反応を行った。反応終了後の重合率は99%であった。Mwは64,270、PDIは1.35であった。
【0130】
得られた溶液共重合体に、BMAを59.2g(416.5mmol)、AIBNを0.11g(0.68mmol)及びMPを160g加え、60℃で67時間反応させることで重合3段目の反応を行った。重合率は97%であった。
【0131】
反応終了後、ヘプタンで再沈殿させた後、乾燥することによりポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体187gを得た。Mwは73,660、PDIは1.43、組成比はポリn−ブチルメタクリレート/ポリメタクリル酸=42/58であった。
【0132】
上記合成例1〜6で得られた共重合体を用いて、下記の物理架橋ゲルの形成例1〜6のように物理架橋ゲルを形成させた(第1の工程)。
【0133】
(物理架橋ゲルの形成例1)
ガラス容器に、合成例1に従って合成されたポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体20.0g及びN,N−ジメチルホルムアミドを加えて総量を100gとし、撹拌して均一な溶液を得た。得られた溶液を、大過剰量の純水に3日間浸漬させることにより、物理架橋ゲル1(第1の網目構造)を得た。得られた物理架橋ゲルの大きさは8x8x0.1cmであった。
【0134】
(物理架橋ゲルの形成例2)
ガラス容器に、合成例2に従って合成されたポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体5.0g及びN,N−ジメチルホルムアミドを加えて総量を25gとし、撹拌して均一な溶液を得た。得られた溶液を、大量の純水に3日間浸漬させることにより、物理架橋ゲル2(第1の網目構造)を得た。
【0135】
(物理架橋ゲルの形成例3)
ガラス容器に、合成例3に従って合成されたポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体5.0g及びN,N−ジメチルホルムアミドを加えて総量を25gとし、撹拌して均一な溶液を得た。得られた溶液を、大量の純水に3日間浸漬させることにより、物理架橋ゲル3(第1の網目構造)を得た。
【0136】
(物理架橋ゲルの形成例4)
ガラス容器に、合成例4に従って合成されたポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体5.0g及びN,N−ジメチルホルムアミドを加えて総量を25gとし、撹拌して均一な溶液を得た。得られた溶液を、大量の純水に3日間浸漬させることにより、物理架橋ゲル4(第1の網目構造)を得た。
【0137】
(物理架橋ゲルの形成例5)
ガラス容器に、合成例5に従って合成されたポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体5.0g及びN,N−ジメチルホルムアミドを加えて総量を25gとし、撹拌して均一な溶液を得た。得られた溶液を、大量の純水に3日間浸漬させることにより、物理架橋ゲル5(第1の網目構造)を得た。
【0138】
(物理架橋ゲルの形成例6)
ガラス容器に、合成例6に従って合成されたポリn−ブチルメタクリレート−ポリメタクリル酸−ポリn−ブチルメタクリレート共重合体5.0g及びN,N−ジメチルホルムアミドを加えて総量を25gとし、撹拌して均一な溶液を得た。得られた溶液を、大量の純水に3日間浸漬させることにより、物理架橋ゲル6(第1の網目構造)を得た。
【0139】
上記のように得られた物理架橋ゲルを用いて実施例1〜10及び比較例1〜6の高分子ゲルを調製し、各種物性を評価した。
【0140】
後掲の表1には、各実施例で使用した物理架橋ゲルの構成、アクリルアミド使用量及び含水率を示している。
【0141】
(比較例1〜6)
実施例の比較対照の高分子ゲルとして、物理架橋ゲルの形成例1〜6で得られた物理架橋ゲル1〜6を用意し、それぞれの各種物性を評価した(それぞれ比較例1〜6とした)。すなわち、比較例1〜6では、第1の網目構造のみで形成される高分子ゲルの各種物性を評価した。
【0142】
(実施例1)
アクリルアミドが0.5mol/L、2−オキソグルタル酸が0.05mol%の濃度となるように、アクリルアミド及び2−オキソグルタル酸を純水に溶かしてアクリルアミド水溶液を調製した。
【0143】
次に、上記物理架橋ゲル1を大過剰量の前記アクリルアミド水溶液に2日間浸漬することで、物理架橋ゲル内部に溶質を浸透させた。その後、物理架橋ゲルを厚さ3mmのガラス板で挟み、アルゴン雰囲気下で上部からブラックライト(波長:365nm、強度:4mW/cm
2)を8時間照射し、ポリアクリルアミドの重合反応を行った(第2の工程)。得られた生成物を純水に4日間以上浸漬した後、未反応物質を取り除くことで高分子ゲルを得た。
【0144】
(実施例2)
アクリルアミドが1mol/Lとなるようにアクリルアミド水溶液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で高分子ゲルを得た。
【0145】
(実施例3)
アクリルアミドが2mol/Lとなるようにアクリルアミド水溶液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で高分子ゲルを得た。
【0146】
(実施例4)
アクリルアミドが3mol/Lとなるようにアクリルアミド水溶液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で高分子ゲルを得た。
【0147】
(実施例5)
アクリルアミドが4mol/Lとなるようにアクリルアミド水溶液を調製したこと以外は実施例1と同様の方法で高分子ゲルを得た。
【0148】
(実施例6)
物理架橋ゲル1を、物理架橋ゲル2に変更したこと以外は、実施例4と同様の方法で高分子ゲルを得た。
【0149】
(実施例7)
物理架橋ゲル2を、物理架橋ゲル3に変更したこと以外は、実施例4と同様の方法で高分子ゲルを得た。
【0150】
(実施例8)
物理架橋ゲル2を、物理架橋ゲル4に変更したこと以外は、実施例4と同様の方法で高分子ゲルを得た。
【0151】
(実施例9)
物理架橋ゲル2を、物理架橋ゲル5に変更したこと以外は、実施例4と同様の方法で高分子ゲルを得た。
【0152】
(実施例10)
物理架橋ゲル2を、物理架橋ゲル6に変更したこと以外は、実施例4と同様の方法で高分子ゲルを得た。
【0153】
【表1】
【0154】
(力学物性評価)
表1に、各実施例及び比較例で得られた高分子ゲルの物性評価の結果を示す。表1より、実施例1〜10の高分子ゲルでは、比較例1〜6の高分子ゲルよりも優れた力学物性を有していることが明らかである。各実施例の高分子ゲルは、第1の網目構造としての物理架橋ゲル5と、第2の重合体としてのポリアクリルアミドとで構成される高分子ゲルであり、第1の網目構造に、第2の重合体が侵入して絡み付いた構造を有しているためである。
【0155】
(自己回復性試験)
実施例8で得られた高分子ゲルのヒステリシスの回復試験を次の方法で行った。得られた高分子ゲルをJIS K6201−7に規定のダンベル型に打ち抜き、速度100mm/minで歪1まで延伸した後、直ちに同速度で歪0まで戻した。
【0156】
図2は、この際に得られた応力−歪曲線を実線で示す。
図2中の実線によって囲まれた面積S1は、本プロセスにおけるエネルギー散逸量に相当する。50分経過後、本ゲルを同速度で再度歪1まで延伸した後、直ちに同速度で歪0まで戻した。この際に得られた応力−歪曲線を
図2の点線で示す。
図2中の点線によって囲まれた面積S2は、本プロセスにおけるエネルギー散逸量に相当する。S2とS1の比(S2/S1)は、最初の延伸によって散逸されたエネルギーの回復率を示し、本試験においては63%であった。このことから、この高分子ゲルは高い自己回復性を有していることが明らかである。
【0157】
(自己修復性試験1)
実施例9で得られた高分子ゲルの自己修復試験を以下の方法で行った。
【0158】
実施例9で得られた高分子ゲルをJIS K6201−7に規定のダンベル型に打ち抜き、カッターナイフで2つに切断した。次いで、切断面の両側に少量のN,N−ジメチルホルムアミドを垂らした後、切断面を再度接触させて室温で24時間放置した後、純水に浸漬したところ、切断面の再結合が起こった。再結合した高分子ゲルを切断面と垂直に引張試験したところ、破断応力0.27MPa、破断歪0.3であった。
【0159】
(自己修復性試験2)
実施例9で得られた高分子ゲルをJIS K6201−7に規定のダンベル型に打ち抜き、カッターナイフで2つに切断した。次いで、切断面の両側に少量のN,N−ジメチルホルムアミドFを垂らした後、切断面を再度接触させて60℃で1時間放置した後、純水に浸漬したところ、切断面の再結合が起こった。再結合した高分子ゲルを切断面と垂直に引張試験したところ、破断応力1.3MPa、破断歪1.0であった。