(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の背景技術に鑑みてなされたものであり、pHが低いにも関わらず、風味のバランスに優れ、酢酸由来の酸味を抑制した酸性液状調味料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は鋭意検討した結果、驚くべきことに、少なくとも、酢酸、麹熟成卵黄、及び水を含有する酸性液状調味料において酢酸と麹熟成卵黄の含有量の比を調節することで、上記の技術的課題を解決できることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の一態様によれば、
少なくとも、酢酸、麹熟成卵黄、及び水を含有し、pHが3.0以上4.6以下である酸性液状調味料であって、
前記酢酸の含有量が、前記酸性液状調味料全体に対して0.05質量%以上1.50質量%以下であり、
食用油脂の含有量が、前記酸性液状調味料全体に対して0質量%以上50質量%以下であり、
前記麹熟成卵黄の含有量が、生換算で前記酢酸1質量部に対して0.07質量部以上10質量部以下であることを特徴とする、
酸性液状調味料が提供される。
【0008】
本発明の態様においては、前記酸性液状調味料の25℃における粘度が、0.1Pa・s以上100.0Pa・s以下であることが好ましい。
【0009】
本発明の態様においては、前記麹熟成卵黄が、卵麹熟成卵黄であることが好ましい。
【0010】
本発明の態様においては、前記麹熟成卵黄が、麹と卵黄と食塩とを含む混合物を熟成させた麹熟成卵黄であることが好ましい。
【0011】
また、本発明の別の態様によれば、
少なくとも、酢酸、麹熟成卵黄、及び水を含有し、pHが3.0以上4.6以下である酸性液状調味料の製造方法であって、
前記酢酸の含有量が、前記酸性液状調味料全体に対して0.05質量%以上1.5質量%以下であり、
食用油脂の含有量が、前記酸性液状調味料全体に対して0質量%以上50質量%以下であり、
前記製造方法が、
麹と、卵黄と、食塩とを混合して、混合物を得る工程と、
前記混合物を加熱しながら熟成させて、麹熟成卵黄を得る工程と、
前記熟成卵黄を、前記酢酸1質量部に対して0.07質量部以上10質量部以下で配合する工程と、
を含む、酸性液状調味料の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、pHが低いにも関わらず、風味のバランスに優れ、酢酸由来の酸味を抑制した酸性液状調味料を提供することができる。また、本発明によれば、このような酸性液状調味料の製造方法を提供することができる。このような酸性液状調味料は消費者の食欲を惹起することができ、酸性液状調味料のさらなる市場拡大が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<酸性液状調味料>
本発明による酸性液状調味料は、少なくとも、酢酸、麹熟成卵黄、及び水を含有するものであり、食用油脂、麹熟成卵黄以外の卵黄、食塩、増粘剤、及び他の原料等をさらに含んでもよい。
【0014】
酸性液状調味料は、食用油脂を含んでもよいし、含まなくもよい。酸性液状調味料は、食用油脂を含む場合、乳化状であってもよく、分離状であってもよい。酸性液状調味料は、乳化状の場合、水中油型(O/W型)エマルションやW/O/W型複合エマルションの構成を有してもよく、水中油型(O/W型)エマルションの構成がより好ましい。酸性液状調味料は、食用油脂を含まない場合、いわゆるノンオイルタイプの調味料とすることができる。
【0015】
(酸性液状調味料の水分含量)
酸性液状調味料の水分含量は、特に限定されずに他の成分の含有量に応じて適宜設定することができる。酸性液状調味料の水分含量は、例えば、好ましくは30質量%以上であり、より好ましくは35質量%以上であり、さらに好ましくは40質量%以上であり、また、好ましくは90質量%以下であり、より好ましくは80質量%以下である。
【0016】
(酸性液状調味料のpH)
酸性液状調味料のpHは、3.0以上4.6以下であり、上限値は好ましくは4.3以下であり、より好ましくは4.0以下であり、さらに好ましくは3.7以下である。酸性液状調味料のpHが上記範囲内であれば、酸性液状調味料の微生物発生を制御して保存性を高めながら、酸性液状調味料の風味を良好にすることができる。なお、酸性液状調味料のpHの値は、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF−72)を用いて測定した値である。
【0017】
(酸性液状調味料の粘度)
酸性液状調味料の粘度は、好ましくは0.1Pa・s以上100.0Pa・s以下であり、好ましくは0.5Pa・s以上80.0Pa・s以下であり、より好ましくは1.0Pa・s以上60.0Pa・s以下である。酸性液状調味料に上記範囲内の粘度を付与することで、酸性液状調味料の風味をより感じることができる。
なお、粘度の測定方法は、BH形粘度計を使用し、品温25℃、回転数10rpmの条件で、粘度が0.1Pa・s以上9.0Pa・s未満のとき:ローターNo.3、9.0Pa・s以上15.0Pa・s未満のとき:ローターNo.4、15.0Pa・s以上35.0Pa・s未満のとき:ローターNo.5、35.0Pa・s以上100Pa・s以下のとき:ローターNo.6を使用し、測定開始後ローターが2回転した時の示度により算出した値である。
【0018】
(酢酸の含有量)
酸性液状調味料には、酢酸を配合することで、上記の好適な数値範囲のpHに調整することができる。酢酸の含有量は、0.05質量%以上1.50質量%以下であり、好ましくは0.10質量%以上1.30質量%以下であり、より好ましくは0.30質量%以上1.20質量%以下であり、さらに好ましくは0.40質量%以上1.10質量%以下であり、さらにより好ましくは0.50質量%以上1.00質量%以下である。酢酸の含有量が上記範囲内であれば、酸性液状調味料の微生物発生を制御して保存性を高めながら、酸性液状調味料の風味を良好にすることができる。
【0019】
(酸材)
酸性液状調味料には、上記の酢酸以外にも、酸材をさらに配合してもよい。酸材としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、ソルビン酸、安息香酸、アジピン酸、フマル酸、コハク酸等の有機酸及びそれらの塩、燐酸、塩酸等の無機酸及びそれらの塩、レモン果汁、リンゴ果汁、オレンジ果汁、乳酸発酵乳等を用いることができる。これらの酸材を配合することで、酸性液状調味料のpHを調整したり、酸性液状調味料の風味を良好にしたりすることができる。酸材の含有量は、目的とするpHや酢酸の含有量に応じて適宜調節することができる。
【0020】
(麹熟成卵黄)
本発明において、麹熟成卵黄とは、麹菌により卵黄を熟成させたものをいう。卵黄を熟成させることで、卵黄成分の分解物が豊富に得られる。このため、本発明の麹熟成卵黄は、卵黄成分の分解物として遊離アミノ酸を含み、卵黄特有の風味に加えてこれらに由来する旨味とコクを有する。これにより、卵黄の風味や分解物由来の旨味やコクが混ざり合った良好な味わいを有する。本発明においては、酸性液状調味料に麹熟成卵黄を配合することで、酸性液状調味料の風味やコクを向上するだけでなく、酢酸由来の酸味を抑制することができる。
また、本発明において、麹熟成卵黄は、例えば、生卵黄又は半生卵黄のような滑らかさを有し、黄色から黄褐色の色味を有する。麹熟成卵黄は、本発明の効果を損なわない範囲で、凍結後解凍されたもの、麹菌由来の酵素を失活するために加熱されたもの(例えば75℃以上)、麹菌を殺菌し死菌とするために加熱されたもの等を含むものとする。
【0021】
(麹熟成卵黄の食塩含有量)
麹熟成卵黄の食塩含有量は、好ましくは1質量%以上12質量%以下であり、より好ましくは2質量%以上10質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以上8質量%以下である。食塩含有量が12質量%以下であることで、塩味が抑えられ、卵黄本来の風味や、卵黄タンパク質分解物由来の旨味、コク等を引き立たせることができる。また、酸性液状調味料中の総食塩含有量を調整しやすくなる。食塩含有量が1質量%以上であることで、保存性に優れた麹熟成卵黄が得られ、流通の観点からも好ましい。また、熟成に際し上記含有量となるように食塩を添加することで、卵黄タンパク質の酵素分解が促進され、比較的短い熟成期間で所望の麹熟成卵黄を得ることができる。なお、本発明の麹熟成卵黄の食塩含有量の値は、モール法を用いて測定した値である。
【0022】
(麹熟成卵黄のpH)
麹熟成卵黄のpHは、好ましくは4.5以上7.0以下であり、より好ましくは5.0以上6.5以下である。麹熟成卵黄のpHを4.5以上7.0以下とすることで、酸味が抑えられ、卵黄特有のまろやかな風味を感じやすくなる。さらに、pHを5.0以上6.5以下とすることで、麹熟成卵黄のpHを通常の卵黄のpH(6〜7程度)により近づけることができ、卵黄本来のまろやかな風味の麹熟成卵黄が特に得られやすくなる。麹熟成卵黄のpHの値は、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF−72)を用いて測定した値である。
【0023】
(麹熟成卵黄の粘度)
麹熟成卵黄の粘度は、好ましくは1Pa・s以上500Pa・s以下であり、より好ましくは1.5Pa・s以上400Pa・s以下であり、さらに好ましくは1.5Pa・s以上100Pa・s以下であり、さらにより好ましくは1.5Pa・s以上30Pa・s以下である。麹熟成卵黄の粘度が上記範囲内であれば、他の原料と混合し易く、酸性液状調味料の製造が容易となる。
なお、粘度の測定方法は、BH形粘度計を使用し、品温20℃、回転数20rpmの条件で、粘度が1Pa・s以上20Pa・s未満の時にローターNo.5、粘度が20Pa・s以上50Pa・s未満の時にローターNo.6、回転数2rpmの条件で、粘度が50Pa・s以上100Pa・s未満の時にローターNo.4、粘度が100Pa・s以上200Pa・s未満の時にローターNo.5、粘度が200Pa・s以上500Pa・s未満の時にローターNo.6を使用し、測定開始後ローターが2回転した時の示度により算出した値である。
【0024】
(麹熟成卵黄の含有量)
酸性液状調味料中の麹熟成卵黄の含有量は、生換算で酢酸1質量部に対して0.07質量部以上10質量部以下であり、下限値は好ましくは0.10質量部以上であり、より好ましくは0.15質量部以上であり、また、上限値は好ましくは7質量部以下であり、より好ましくは5質量部以下であり、さらに好ましくは3質量部以下であり、さらにより好ましくは2質量部以下である。酸性液状調味料中の麹熟成卵黄の含有量が上記範囲内であれば、酸性液状調味料の風味のバランスを保ちながら、酢酸由来の酸味を抑制することができる。一方、酸性液状調味料中の麹熟成卵黄の含有量が酢酸1質量部に対して10質量部を超え、特に15質量部を超えると、麹熟成卵黄由来の発酵臭を強く感じ、風味のバランスが崩れる恐れがあるため、好ましくない。なお、本発明において、「麹熟成卵黄の含有量」は、麹熟成卵黄全体の質量から麹熟成卵黄中の食塩含有量を引いた値を基にして算出する。
【0025】
(卵黄)
上記の麹熟成卵黄の原料として用いる卵黄や酸性液状調味料に配合する卵黄は、一般的に流通している卵黄であればいずれのものでもよく、生卵黄(液卵黄)又は生卵黄に所定の処理を行ったもの等が挙げられる。所定の処理の例としては、食塩や糖分等の添加、低温殺菌等の殺菌処理、冷凍及び解凍、乾燥及び水戻し、脱糖処理等が挙げられる。これらの処理は、一種のみ行ってもよいし、二種以上を組み合わせて行ってもよい。なお、液卵黄とは、鶏等の鳥類の卵を割卵し卵白を分離したものをいい、割卵及び分離後、所定期間冷蔵保存したもの並びに凍結後解凍させたものを含むものとする。
【0026】
(卵黄の含有量)
酸性液状調味料は、上記の麹熟成卵黄以外の卵黄をさらに含んでもよい。酸性液状調味料中の麹熟成卵黄以外の卵黄の含有量は、固形分換算で、酸性液状調味料全体に対して、好ましくは0.025質量%以上であり、より好ましくは0.2質量%以上であり、さらに好ましくは0.45質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下であり、より好ましくは4質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下である。また、生換算で、好ましくは0.05質量%以上であり、より好ましくは0.4質量%以上であり、さらに好ましくは0.9質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは6質量%以下である。酸性液状調味料中の卵黄の含有量が上記数値範囲内であれば、卵黄由来のコクを十分に感じることができる。また、酸性液状調味料全体の味のバランスに優れ、良好な乳化状態を維持することもできる。
【0027】
(食用油脂)
酸性液状調味料に配合する食用油脂は、特に限定されず従来公知の食用油脂を用いることができる。具体的には、食用油脂として、例えば、菜種油、大豆油、コーン油、パーム油、綿実油、ひまわり油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル等の植物油脂、魚油、牛脂、豚脂、鶏脂、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等のような化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂等を用いることができる。これらの中でも植物油脂を用いることが好ましく、菜種油、大豆油、コーン油、パーム油、またはこれらの混合油を用いることがより好ましい。
【0028】
(食用油脂の含有量)
酸性液状調味料中の食用油脂の含有量は、酸性液状調味料全体に対して0質量%以上50質量%以下であり、好ましくは3質量%以上40質量%以下であり、より好ましくは5質量%以上35質量%以下である。酸性液状調味料中の油脂の含有量が3質量%以上であれば、油由来のコク味を十分に感じることができる。
【0029】
(他の原料)
本発明の酸性液状調味料は、上述した原料以外に、本発明の効果を損なわない範囲で酸性液状調味料に通常用いられている各種原料を適宜選択し含有させることができる。例えば、アミノ酸等の調味料、はちみつ、香辛料抽出物、たん白加水分解物、着色料および着香料、レモン汁、タマネギ、ピーマン、刻んだ茹で卵、パセリ、ケッパー、チャイブ、きゅうり等のピクルス、キサンタンガム、カラギーナン、グアーガム、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、およびアラビアガム等の増粘剤、マスタード、からし粉、胡椒等の香辛料、レシチン、リゾレシチン、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等乳化剤、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、静菌剤等が挙げられる。
【0030】
<酸性液状調味料の製造方法>
本発明による酸性液状調味料の製造方法は、麹熟成卵黄を得る工程と、麹熟成卵黄を酢酸に対して特定の割合で配合する工程とを含むものである。酸性液状調味料の製造方法は、例えば、少なくとも、酢酸(食酢)、食塩、増粘剤、調味料等及び水を混合し、ミキサー等で均一に混合して水相原料混合液を調製する。その後、酸性液状調味料中の麹熟成卵黄と酢酸の含有量の比が特定範囲内となるように、当該水相原料混合液に下記の製造方法により得られた麹熟成卵黄および必要に応じて麹熟成卵黄以外の卵黄を加え、ホモミキサー等で均一に混合して、水相を得る。酸性液状調味料が食用油脂を含まないノンオイルタイプの場合には、得られた水相をそのまま酸性液状調味料とすることができる。
【0031】
続いて、上記で得られた水相に、必要に応じて食用油脂を徐々に注加して乳化し、水相中に食用油相を乳化分散させた酸性液状調味料を得ることができる。また、上記で得られた水相に食用油脂を積載して、分離状の酸性液状調味料を得ることもできる。
【0032】
(麹熟成卵黄の製造方法)
上記の麹熟成卵黄の製造方法は、特に限定されるものではないが、一実施態様では、麹と、卵黄と、食塩とを混合して混合物を得る工程と、得られた混合物を40℃以上65℃以下で加熱しながら熟成させて、麹熟成卵黄を得る工程とを含むものであることが好ましい。以下、各工程を具体的に説明する。
【0033】
(混合物を得る工程)
本工程では、少なくとも、麹と、卵黄と、食塩と、を常法にしたがって均一に混合し、混合物を得ることができる。混合物中の各材料の割合は、上記麹熟成卵黄を得ることができれば特に限定されない。例えば、卵黄の含有量は、好ましくは50質量%以上95質量%以下であり、より好ましくは80質量%以上90質量%以下である。食塩の含有量は、麹熟成卵黄が上記食塩含有量となるように適宜調整され、例えば、混合物全体に対して好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上6質量%以下である。また、混合物には、上記各材料に加え、所定量の水が加えられてもよい。本発明の混合物は、例えば、ニーダー、ミキサー等の一般の攪拌機を用いて攪拌してもよい。これにより、各材料が均一に混ざり合い、熟成を進行させることができる。
【0034】
(麹)
麹熟成卵黄の製造に用いる麹とは、卵や豆などのタンパク質原料や、米などの炭水化物原料等の培地に下記麹菌を接種して、培養することで得られたものをいう。麹熟成卵黄の製造に用いる麹として、例えば、麹菌を卵で培養した卵麹や、麹菌を米で培養した米麹、麹菌を大豆で培養した大豆麹、麹菌を麦で培養した麦麹等を用いることができる。麹菌は、培地の種類や培養条件に応じた酵素を選択的に生成する。このため、各麹が異なる酵素群を含有することとなり、異なる麹を用いることで、風味や味わいの異なる麹熟成卵黄を得ることができる。
【0035】
(麹菌)
麹熟成卵黄の製造に用いる麹菌としては、アスペルギルス・オリーゼ(Aspergillus oryzae)やアスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)等に代表される黄麹菌、アスペルギルス・リューチュウエンシス(Aspergillus luchuensis)等に代表される黒麹菌及びその変異種が挙げられる。
【0036】
本発明では、卵黄由来の旨味とコクを有する麹熟成卵黄が得られやすいことから、卵麹や米麹を用いることが好ましく、卵麹を用いることがより好ましい。卵麹に含まれる麹菌は、卵黄タンパク質を分解するのに適したタンパク質分解酵素を多く生成することができる。すなわち、卵麹を用いることで、卵黄タンパク質が効率よく分解され、熟成を進行させることができる。麹の含有量は、例えば卵麹を用いる場合、麹熟成卵黄全体に対して、好ましくは1質量%以上10質量%以下であり、より好ましくは1質量%以上5質量%以下である。
【0037】
(麹熟成卵黄を得る工程)
本工程では、上記混合物を得る工程に続いて、上記混合物を加熱しながら熟成させて、麹熟成卵黄を得ることができる。
【0038】
(熟成)
本発明において熟成とは、麹菌により生成される酵素の作用により、卵黄が腐敗することなく、卵黄タンパク質等の卵黄成分が分解され、卵黄タンパク質分解物等が生成されることをいう。これにより、麹菌の種類に応じた多種多様な卵黄タンパク質分解物等が生成され、複雑な味わいを有する麹熟成卵黄が得られる。本発明における熟成は、麹菌が死滅した状態で行われてもよいが、少なくとも一部が生存したままの状態が好ましい。これにより、特有の旨味とコクを強めることができる。
【0039】
(熟成温度)
熟成温度は、上記麹熟成卵黄を得る工程において混合物を加熱する温度のことであり、好ましくは40℃以上65℃以下であり、より好ましくは45℃以上62℃以下であり、さらに好ましくは50℃以上60℃以下である。40℃以上とすることで、酵素を活性化させることができる。また、加熱により香ばしい風味を有する麹熟成卵黄が得られる。さらに、麹菌以外の雑菌に対してもある程度の殺菌効果が得られるため、加工製造時の汚染リスクが低減される。65℃以下とすることで、卵黄タンパク質の加熱変性を抑制でき、生卵黄に近い粘性を有し、他の原料と混合し易く、酸性液状調味料の製造が容易となる。また、卵黄脂質酸化物の生成を抑制し、収斂味を抑えることができる。上記の熟成温度は、後述する熟成時間の間ほぼ一定に維持される温度であるが、上記範囲内で上昇及び下降してもよい。また、上記熟成温度で混合物を加熱しながら熟成させることで、酵素の至適温度となり分解速度を向上させることができるため、熟成期間を短縮することができる。さらに、熟成期間が短縮されることで、保存性の観点から食塩の添加量を低減できるため、過剰な塩味により旨味やコクが損なわれることを防止することができる。
【0040】
(熟成時間)
熟成時間は、好ましくは24時間以上300時間以下であり、より好ましくは24時間以上240時間以下であり、さらに好ましくは48時間以上192時間以下である。熟成時間を上記範囲内とすることで、十分に熟成させて卵黄タンパク質を分解し、コク味を増すことができ、また、卵黄脂質酸化物の生成を抑制し、収斂味を抑えることができる。
【0041】
(製造装置)
本発明の酸性液状調味料の製造には、通常の酸性液状調味料の製造に使われる装置を用いることができる。このような装置としては、例えば、一般的な攪拌機、スティックミキサー、スタンドミキサー、ホモミキサー、ホモディスパー等が挙げられる。攪拌機の攪拌羽形状としては、例えばプロペラ翼、タービン翼、パドル翼、アンカー翼等が挙げられる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例と比較例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例の内容に限定して解釈されるものではない。
【0043】
<麹熟成卵黄の製造>
まず、ゆで卵をすり潰して乾燥させた乾燥全卵(製品名:凍結クックドエッグパウダー、キユーピー株式会社製、以下CEPと称する)を水で溶き、水分含量30%としたものに、黒麹菌Aspergillus luchuensis(株式会社樋口松之助商店製)を接種し、32℃〜34℃で約42時間培養を行い、卵麹を得た。
続いて、液卵黄86質量部に対し、食塩4質量部と上記で得られた卵麹10質量部を混合し、55℃の恒温器中で3日間熟成させ、−30℃の冷凍庫で一旦凍結した後に解凍し、液状の卵麹熟成卵黄を得た。得られた卵麹熟成卵黄の食塩含有量は4質量%であり、pHは5.8であり、20℃で測定した粘度は16Pa・sであった。これらのpHおよび粘度の値は、前述の卵麹熟成卵黄のpHおよび粘度の欄で記載した方法に基づいて測定した値である。
なお、得られた卵麹熟成卵黄を4℃の低温室で保管していたものを、後述する酸性液状調味料の製造に用いた。
【0044】
<酸性液状調味料の製造>
[実施例1〜17、比較例1〜4]
表1および2に記載の配合割合に準じて、酸性液状調味料を製造した。具体的には、まず、食酢、食塩、キサンタンガム、及び清水を均一になるように混合して、水相を調整した。その後、酸性液状調味料中の麹熟成卵黄と酢酸の含有量の比が表1及び表2の値になるように、調整した水相に上記で製造した麹熟成卵黄及び/又は卵黄を加えた。続いて、食用植物油脂を注加し、乳化処理を行って、酸性液状調味料を調整した。なお、表1および2に記載の食塩の値は、水相を調整する際に添加した食塩量だけでなく、麹熟成卵黄中の食塩量も含むものである。これは、下記の実施例18および19においても同様である。
【0045】
[実施例18]
表2に記載の配合割合に準じて、酸性液状調味料を製造した。具体的には、まず、食酢、食塩、キサンタンガム、及び清水を均一になるように混合して、水相を調整した。その後、酸性液状調味料中の麹熟成卵黄と酢酸の含有量の比が表2の値になるように、調整した水相に上記で製造した麹熟成卵黄及び卵黄を加えた。続いて、別途調整した食用植物油脂を積載して、酸性液状調味料を調整した。
【0046】
[実施例19]
表2に記載の配合割合に準じて、酸性液状調味料を製造した。具体的には、まず、食酢、食塩、キサンタンガム、及び清水を均一になるように混合して、水相を調整した。その後、酸性液状調味料中の麹熟成卵黄と酢酸の含有量の比が表2の値になるように、調整した水相に上記で製造した麹熟成卵黄及び卵黄を加え、均一になるように混合して、酸性液状調味料を調整した。
【0047】
<pH測定>
上記で得られた実施例1〜19及び比較例1〜4の酸性液状調味料について、1気圧、品温20℃とした時に、pH測定器(株式会社堀場製作所製卓上型pHメータF−72)を用いてpHを測定した。測定結果を表1および2に示した。
【0048】
<粘度測定>
上記で得られた実施例1〜19及び比較例1〜4の酸性液状調味料について、BH形粘度計を使用し、品温25℃、回転数10rpmの条件で、粘度が0.1Pa・s以上9.0Pa・s未満のとき:ローターNo.3、9.0Pa・s以上15.0Pa・s未満のとき:ローターNo.4、15.0Pa・s以上35.0Pa・s未満のとき:ローターNo.5、35.0Pa・s以上100Pa・s以下のとき:ローターNo.6を使用し、測定開始後ローターが2回転した時の示度により算出した。なお、実施例18の酸性液状調味料は、水相部の粘度を測定した。測定結果を表1および2に示した。
【0049】
<官能味評価>
上記で得られた実施例1〜19及び比較例1〜4の酸性液状調味料について、訓練されたパネラーにより、下記の基準で発酵臭および酸味を官能評価した。実施例18については、全体が均一になるように簡単に混合したのち、官能評価を行った。
評価結果を表1および2に示した。なお、評価が2点以上であれば、良好な結果であると言える。
[発酵臭の評価基準]
4:麹熟成卵黄由来の発酵臭をほとんど感じず、風味のバランスが非常に良かった。
3:麹熟成卵黄由来の発酵臭を多少感じたが、風味のバランスは良かった。
2:麹熟成卵黄由来の発酵臭を感じたが、風味のバランスに問題は無かった。
1:麹熟成卵黄由来の発酵臭を非常に強く感じ、風味のバランスが悪かった。
[酸味の評価基準]
4:後を引くような酢酸由来の酸味を僅かに感じたが、十分に抑制されていた。
3:後を引くような酢酸由来の酸味を多少感じたが、抑制されていた。
2:後を引くような酢酸由来の酸味を感じたが、多少抑制されていた。
1:後を引くような酢酸由来の酸味を非常に強く感じ、ほとんど抑制されていなかった。
【0050】
実施例1〜19の酸性液状調味料は、いずれも、pHが低いにも関わらず、発酵臭の評価基準で2点以上であり、かつ、酸味の評価基準で2点以上であり、発酵臭および酸味の両方で問題が無く、良好であった。 比較例2の酸性液状調味料は、麹熟成卵黄の含有量が、生換算で酢酸1質量部に対して0.05質量部と低かったため、後を引くような酢酸由来の酸味を非常に強く感じ、ほとんど抑制されていなかった。
比較例1の酸性液状調味料は、麹熟成卵黄を全く配合していないため、比較例2よりも若干酸味が強かった。
比較例3の酸性液状調味料は、麹熟成卵黄の含有量が、生換算で酢酸1質量部に対して15.15質量部と高かったため、麹熟成卵黄由来の発酵臭を非常に強く感じ、風味のバランスが悪かった。
比較例4の酸性液状調味料は、酢酸の含有量が、酸性液状調味料全体に対して1.65質量%と高かったため、後を引くような酢酸由来の酸味を非常に強く感じ、ほとんど抑制されていなかった。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【解決手段】少なくとも、酢酸、麹熟成卵黄、及び水を含有し、pHが3.0以上4.6以下である酸性液状調味料であって、前記酢酸の含有量が、前記酸性液状調味料全体に対して0.05質量%以上1.50質量%以下であり、食用油脂の含有量が、前記酸性液状調味料全体に対して0質量%以上50質量%以下であり、前記麹熟成卵黄の含有量が、生換算で前記酢酸1質量部に対して0.07質量部以上10質量部以下である、酸性液状調味料。